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特許7442250レーザーダイレクトストラクチャリング用熱可塑性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】レーザーダイレクトストラクチャリング用熱可塑性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240226BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20240226BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20240226BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240226BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240226BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240226BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240226BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240226BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20240226BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L55/02
C08L25/12
C08L51/04
C08K3/22
C08J5/00 CET
C08J5/04 CFD
H05K1/03 610R
H05K3/00 W
H05K3/00 N
H05K3/18 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021521061
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2019044448
(87)【国際公開番号】W WO2020129472
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】18213902.2
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】菊地 達也
(72)【発明者】
【氏名】シュラウベン ベルナルドゥス アントニウス ヘラルドゥス
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-520775(JP,A)
【文献】特表2014-530263(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033955(WO,A1)
【文献】特開2015-108075(JP,A)
【文献】特開2016-097589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/00-5/24
H05K 1/00-3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)熱可塑性樹脂を20~75重量%、
b)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を0.1重量%以上、及び
c)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たず、該c)の少なくとも80重量%がTiO2であるセラミック充填材粒子を2070重量%
含む熱可塑性組成物であって、
40GHzで測定した誘電正接が最大0.014であり、
前記a)が、ポリカーボネート系樹脂、または、下記ブレンドであり、
前記a)、b)及びc)の総含有量が組成物全体に対して90~100重量%である、熱可塑性組成物:
-ポリカーボネートを45~75重量%、ABSを5~40重量%、及びMBSを0~10重量%含むブレンド(但し、含有量は該熱可塑性樹脂a)を基準とする)、又は
-ポリカーボネートを80~99重量%、及びSi含有エラストマー成分を含むグラフト共重合体を1~20重量%含むブレンド(但し、含有量は該熱可塑性樹脂a)を基準とする)。
【請求項2】
前記b)が、錫含有酸化物を含み、前記熱可塑性組成物中における該錫含有酸化物の含有量が組成物全体に対して少なくとも20重量%である、請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記b)及びc)の総含有量が、組成物全体に対して少なくとも25重量%である、請求項1又は2に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記b)はアンチモン錫酸化物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記b)は、コアと該コアを覆うシェルとから成る粒子を含み、該シェルはLDS添加剤機能を有する材料から成り、該コアはTiO2である、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性組成物は、1GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.5であり、及び/又は、前記熱可塑性組成物は1GHzで測定した誘電正接が最大0.014であり、及び/又は、前記熱可塑性組成物は40GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.5であり、及び/又は前記熱可塑性組成物は40GHzで測定した誘電正接が最大0.010である、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記b)は、光散乱法で求めた粒径d50が最大5μmである、請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物と、強化材とから成る強化組成物であって、該熱可塑性組成物と該強化材との重量比が20:1~1:1である、強化組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の熱可塑性組成物を含む成形品。
【請求項10】
請求項に記載の成形品を提供する工程と;
前記成形品を、導電経路の形成予定領域においてレーザー放射光で照射する工程と;
照射した前記領域に引き続きメタライゼーションを施す工程と、
を有する回路担体の製造プロセス。
【請求項11】
熱可塑性樹脂を20~90重量部、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を0.1~80重量部、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たないセラミック充填材粒子を10~80重量部、及び強化材を含む強化組成物であって、
前記セラミック充填材粒子の少なくとも80重量%がTiO2であり、
40GHzで測定した誘電正接が最大0.014であり、
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂とTiO 2 との重量比が1:0.5~1:2である、強化組成物。
【請求項12】
前記レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤とTiO2との重量比が1:5~1:10である、請求項又は11に記載の強化組成物。
【請求項13】
40GHzで測定した誘電正接が最大0.014である、請求項に記載の強化組成物。
【請求項14】
40GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.65である、請求項、及び1113のいずれか1項に記載の強化組成物。
【請求項15】
前記強化材がガラス充填材を含む、請求項、及び1114のいずれか1項に記載の強化組成物。
【請求項16】
前記強化組成物中の前記強化材の含有量が5重量%以上である、請求項、及び1115のいずれか1項に記載の強化組成物。
【請求項17】
請求項、及び1116のいずれか1項に記載の強化組成物を含む、成形品。
【請求項18】
回路担体の製造プロセスであって、請求項17に記載の成形品を提供する工程と; 前記成形品を、導電経路の形成予定領域においてレーザー放射光で照射する工程と;照射した前記領域に引き続きメタライゼーションを施す工程と、
を有する回路担体の製造プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーダイレクトストラクチャリングプロセスへの適用に適した熱可塑性組成物、及び強化組成物に関する。本発明はまた、上記熱可塑性組成物及び強化組成物を含む成形品に関する。本発明はまた、前記成形品にレーザー照射とそれに続くメタライゼーションを施すことにより導電経路を設ける、回路担体の製造プロセス、及び該プロセスにより得られる回路担体に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンを含む携帯電話の近年の発展に伴い、携帯電話の内部にアンテナを製造する方法について多くの研究がなされている。特に、携帯電話の内部に立体的にアンテナを作り込むことが求められている。レーザーダイレクトストラクチャリング(以下、「LDS」と称する場合がある)は、この様な立体アンテナを形成する公知技術の一つである。LDSとは例えば、LDS添加剤を含む樹脂成形品の表面にレーザーを照射することによりレーザー照射部位のみを活性化し、この活性化部位に金属を適用する手法である。この手法の特色は、アンテナ等の金属構造物を樹脂基材の表面に、接着剤等を用いることなく直接形成できることである。
【0003】
スマートフォンの発展に伴い、アンテナを構成する材料に高い比誘電率(Dk)及び/又は低い誘電正接(損失係数Dfとも言う)が求められる様になっている。高Dk化によりアンテナを小型化できる一方、低Df化によりエネルギー損失(発熱)を最小化でき、及び/又は放射エネルギーを最大化できる。既存の材料は高Dk且つ低DfのLDS材料を提供するに至っていない。特に、高周波帯で使用できるアンテナに開発の焦点が当てられている。
【0004】
この問題は、例えば米国特許第2009/0292051号で言及されている。該米国特許第2009/0292051号には、熱可塑性ベース樹脂を10~90重量%、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を0.1~30重量%、及びセラミック充填材を10~80重量%含む熱可塑性組成物が開示されている。同米国特許によれば、上記LDS添加剤は比誘電率の増大に寄与しており、又、この様にセラミック充填材の含有量を少なくすることは、上記組成物の比誘電率を同様のレベルに揃える上で必要である。上記LDS添加剤は重金属の混合酸化物スピネル又は銅塩である。実施例で使用されているセラミック充填材は、BaTiOとTiOの39:21混合物である。
【0005】
そこで本発明は、高周波特性に優れたLDS組成物、特に高周波帯で低い誘電正接を有する組成物を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、TiOを用いることで、BaTiO等の他の種類のセラミック充填材材料を用いる場合に比べ、特に高周波帯で低い誘電正接を有する熱可塑性組成物及び強化組成物が得られることを驚きと共に見出した。BaTiOはその優れた高周波特性で知られており、優れた高周波特性を得るための材料として最も普通に使われている。TiOが高周波帯においてよく知られたBaTiOよりもかなり良い性能を示したことは驚きに値する。
【0007】
上記の諸問題は、具体的には下記の手段で解決される。
[1]a)熱可塑性樹脂を20~90重量%、
b)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を0.1~80重量%、及び
c)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たず、該c)の少なくとも80重量%がTiOであるセラミック充填材粒子を10~80重量%
含む熱可塑性組成物であって、
40GHzで測定した誘電正接が最大0.014である、熱可塑性組成物。
[2]上記a)が、ポリカーボネート、好ましくはポリカーボネート又はポリカーボネートとゴム性重合体とのブレンドであって、例えば
- ポリカーボネートを45~75重量%、ABSを5~40重量%、及びMBSを0~10重量%含むブレンド(但し、含有量は該熱可塑性樹脂a)を基準とする)、又は
- ポリカーボネートを80~99重量%、及びSi含有エラストマー成分を含むグラフト共重合体を1~20重量%含むブレンド(但し、含有量は該熱可塑性樹脂a)を基準とする)
である、[1]に記載の熱可塑性組成物。
[3]上記b)が、錫含有酸化物を含み、上記熱可塑性組成物中における該錫含有酸化物の含有量が組成物全体に対して少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも31重量%、少なくとも32重量%、少なくとも33重量%、少なくとも34重量%、又は少なくとも35重量%である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性組成物。
[4]上記c)の含有量が、組成物全体に対して少なくとも20重量%である、[1]~[3]のいずれかに係る熱可塑性組成物。
[5]上記b)及びc)の総含有量が、組成物全体に対して少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも33重量%、又は少なくとも35重量%である、[1]~[4]のいずれかに係る熱可塑性組成物。
[6]上記b)はアンチモン錫酸化物を含む、[1]~[5]のいずれかに係る熱可塑性組成物。
[7]上記b)は、コアと該コアを覆うシェルとから成る粒子を含み、該シェルはLDS添加剤機能を有する材料から成り、該コアはTiOである、[1]~[6]のいずれかに係る熱可塑性組成物。
[8]上記熱可塑性組成物は、1GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.5、好ましくは少なくとも4.0、より好ましくは少なくとも4.2、より好ましくは少なくとも4.5、より好ましくは少なくとも4.7、より好ましくは少なくとも5.0であり、及び/又は、上記熱可塑性組成物は1GHzで測定した誘電正接が最大0.014、より好ましくは最大0.010、より好ましくは最大0.007であり、及び/又は、上記熱可塑性組成物は40GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.5、好ましくは少なくとも4.0、より好ましくは少なくとも4.2、より好ましくは少なくとも4.5、より好ましくは少なくとも4.7、より好ましくは少なくとも5.0であり、及び/又は上記熱可塑性組成物は40GHzで測定した誘電正接が最大0.010、好ましくは最大0.007である、[1]~[7]のいずれかに係る熱可塑性組成物。
[9]上記b)は、光散乱法で求めた粒径d50が最大5μm、好ましくは最大4μm、より好ましくは最大2.5μmである、[1]~[8]のいずれかに係る熱可塑性組成物。
[10]上記a)、b)及びc)の総含有量が組成物全体に対して90~100重量%、例えば90~99.9重量%、92~99.0重量%、又は95~98重量%である、[1]~[9]のいずれかに係る熱可塑性組成物。
[11][1]~[10]のいずれかに記載の熱可塑性組成物と、及びガラス繊維等の強化材とから成る強化組成物であって、該熱可塑性組成物と該ガラス繊維等の強化材との重量比が20:1~1:1、好ましくは10:1~2:1である、強化組成物。
[12][1]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性組成物を含む成形品。
[13][12]に記載の成形品を提供する工程と;
上記成形品を、導電経路の形成予定領域においてレーザー放射光で照射する工程と;
照射した上記領域に引き続きメタライぜーションを施す工程と、
を有する回路担体の製造プロセス。
[14][13]に記載のプロセスによって得られる回路担体。
[15][14]に記載の回路担体を含むアンテナ。
[16]熱可塑性樹脂を20~90重量部、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を0.1~80重量部、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たないセラミック充填材粒子を10~80重量部、及び強化材を含む強化組成物であって、
上記セラミック充填材粒子の少なくとも80重量%がTiOである、強化組成物。
[17]上記レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤とTiOとの重量比が1:5~1:10である、[11]又は[16]に記載の強化組成物。
[18]上記熱可塑性樹脂とTiOとの重量比が1:0.5~1:2である、[11]、[16]及び[17]のいずれかに係る強化組成物。
[19]40GHzで測定した誘電正接が最大0.014である、[11]及び[16]~[18]のいずれかに係る強化組成物。
[20]40GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.65である、[11]及び[16]~[19]のいずれかに係る強化組成物。
[21]上記熱可塑性樹脂がポリカーボネートを含む、[11]及び[16]~[20]のいずれかに係る強化組成物。
[22]上記強化材を除く強化組成物の含有量と該強化材との重量比が20:1~1:1である、[11]及び[16]~[21]のいずれかに係る強化組成物。
[23]上記強化材がガラス充填材を含む、[11]及び[16]~[22]のいずれかに係る強化組成物。
[24]上記強化組成物中の上記強化材の含有量が5重量%以上である、[11]及び[16]~[23]のいずれかに係る強化組成物。
[25][16]及び[16]~[24]のいずれかに記載の強化組成物を含む、成形品。
[26]回路担体の製造プロセスであって、[25]に記載の成形品を提供する工程と; 上記成形品を、導電経路の形成予定領域においてレーザー放射光で照射する工程と;照射した上記領域に引き続きメタライぜーションを施す工程と、
を有する回路担体の製造プロセス。
[27][26]に記載のプロセスにより得られる、回路担体。
[28][27]に記載の回路担体を含む、アンテナ。
【発明の概要】
【0008】
a) 熱可塑性樹脂
上記熱可塑性樹脂はポリカーボネート等の樹脂を含んでよく、特に芳香族ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリフェニレンエーテル、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、環状オレフィン(コ)ポリマー(COP)又はこれらの組合せを含むことができる。この樹脂はホモポリマーでも、共重合体でも、或いはこれらの混合物でもよく、更には分枝していても分枝していなくてもよい。
【0009】
好適なポリアミド(PA)としては、PA6、PA46、PA66、PA6/66、PA 11、PA12等の、分枝していてもよい脂肪族ポリアミド;MXD6、PA6I/6T、PA66/6T、PA4T等の半芳香族ポリアミド;全芳香族ポリアミド;及びこれらのポリアミドの共重合体及びブレンドが挙げられる。好適なポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリエチレンナフタノエート(PEN)、ポリブチレンナフタノエート(PBN)が挙げられる。好適なポリエステルはポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートである。ポリフェニレンエーテルは典型的にはポリアミド又はポリスチレンと組み合わせて用いられる。好適なLCPの市販品としては、Vectra(登録商標)E845i LDS、E840i LDS、及びTECACOMP LCP LDS black 4107が例示される。好適なPEEKの市販品としては、TECACOMP PEEK LDSが例示される。好適なCOPとしてはZEONEX RS420-LDSシクロオレフィンポリマーが例示される。
【0010】
上記熱可塑性樹脂は更に、ゴム性重合体を含んでよい。ゴム性重合体の例は国際公開第WO2009/024496A号に記載されており、その内容を本明細書の一部として援用する。上記ゴム性重合体は、好ましくはTgが約10℃未満のエラストマー性(即ち、ゴム性)重合体であるか、若しくはこれを含む。Tgは、より具体的には約-10℃、さらに具体的には約-20℃~-80℃である。
【0011】
好適な実施態様において、上記熱可塑性樹脂はポリカーボネート系樹脂である。このポリカーボネート系樹脂はポリカーボネートであるか、又はポリカーボネートと、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム(ABS)及び/又はメチルメタクリレート-ブタジエン-スチレンゴム(MBS)等のゴム性重合体とのブレンドであってよい。上記ポリカーボネートはホモポリマーでも、共重合体でも、これらの混合物でもよく、又、分枝していても分枝していなくてもよい。好適なポリカーボネート系樹脂は例えば米国特許2009/0292048号に記載されており、その内容を本明細書の一部として援用する。
【0012】
芳香族カーボネート鎖ユニットを含むポリカーボネートは、次式(I)で表される構造単位を有する組成物を含む。
-R-O-CO-O- (I)
式中、Rは芳香族ラジカル、脂肪族ラジカル又は脂環式ラジカルを表す。好ましくは、Rは芳香族有機ラジカルを表し、或いは他の実施態様において次式(II)で表されるラジカルを表す。
-A-Y-A- (II)
式中、A及びAはそれぞれ単環式2価アリールラジカルを表し、Yは AとAとを隔てる原子数0、1又は2の架橋ラジカルを表す。例示的な実施形態では、1原子でAとAとが隔てられる。この種のラジカルとしては、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)-、-C(O)-、メチレン、シクロヘキシル-メチレン、2-[2.2.1]-ビシクロへプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、アダマンチリデン等が例示される。他の実施態様では、0原子でAとAとが隔てられ、ビスフェノ-ルが例示される。上記架橋ラジカルYは、メチレン、シクロヘキシリデン又はイソプロピリデン等の炭化水素基又は飽和炭化水素基であってよい。
【0013】
好適な芳香族ポリカーボネートには、少なくとも2価フェノ-ルとカーボネート前駆体とから、例えば公知の界面重合プロセスや溶融重合法で合成されるポリカーボネートが含まれる。ここで用いるに好適な2価フェノ-ルは、2個の水酸基を持つ1個又は2個以上の芳香環を有する化合物であり、その各々は或る芳香環の一部を形成する1個の炭素原子に直接結合している。かかる化合物としては、下記が例示される。
4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノ-ルA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス-(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,2-ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン、2,4-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、2,4-ビス-(3,5ージメチル-4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルブタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、ビス-(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-フェニル)-メタン、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-シクロヘキサン、1,1-ビス(3,5ージメチル-4-ヒドロキシフェニル)-シクロヘキサン、2,2-(3,5,3’,5’-テトラクロロ-4,4’-ジヒドロキシジフェニル)プロパン、2,2-(3,5,3’,5’-テトラブロモ-4,4’-ジヒドロキシジフェニル)プロパン、(3,3’-ジクロロ-4,4’-ジヒドロキシフェニル)メタン、ビス-(3,5ージメチル-4-ヒドロキシフェニル)-スルホン、ビス-4-ヒドロキシフェニルスルホン、ビス-4-ヒドロキシフェニルスルフィド。
【0014】
上記カーボネート前駆体は、ハロゲン化カルボニル、ハロゲンホルメート又はカーボネートエステルであってよい。ハロゲン化カルボニルとしては、塩化カルボニル及び臭化カルボニルが例示される。好適なハロゲンホルメートとしては、ヒドロキノン等の2価フェノ-ル類、又はエチレングリコール等のグリコール類のビス-ハロゲンホルメートが挙げられる。好適なカーボネートエステルとしては、ジフェニルカーボネート、ジ(クロロフェニル)カーボネート、ジ(ブロモフェニル)カーボネート、ジ(アルキルフェニル)カーボネート、フェニルトリルカーボネート等、並びにこれらの混合物が例示される。他のカーボネート前駆体も使用できるが、ハロゲン化カルボニル、特にホスゲンの名でも知られる塩化カルボニルを使用することが好ましい。
【0015】
本発明の組成物中の上記芳香族ポリカーボネートは、触媒、酸受容体、及び分子量調整用の化合物を用いて調製することができる。
【0016】
上記触媒としてはトリエチルアミン、トリプロピルアミン、N,N-ジメチルアニリン等の第3級アミン;臭化テトラエチルアンモニウム等の第4アンモニウム化合物;及び臭化メチルトリフェニルホスホニウム等の第4ホスホニウム化合物が例示される。
【0017】
有機酸受容体としてはピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン等が例示される。無機酸受容体としては、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩が例示される。
【0018】
上記分子量を調整する化合物としては、フェノ-ル、p-アルキルフェノ-ル及びパラブロモフェノ-ル等の1価フェノ-ル;及び2級アミンが例示される。
【0019】
上記ポリカーボネートの分子量は、粘度平均分子量(Mv)で表した場合、好ましくは10,000~50,000の範囲であることが好ましく、少なくとも12,000であることがより好ましく、45,000を超えないことがより好ましく、40,000を超えないことがより好ましく、35,000を超えないことがより一層好ましく、更には30,000を超えないことが好ましい。
【0020】
上記ポリカーボネートとして粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネートの混合物を用いてもよく、この場合、粘度平均分子量が上述の好ましい範囲外にあるポリカーボネートを混合してもよい。
【0021】
本発明において、上記ポリカーボーネトの粘度平均分子量[Mv]とはシュネルの粘度式、即ちη=1.23×10-4Mv0.83を用いて算出された値であり、ここで固有粘度[η](単位:dl/g)は温度20℃にて、塩化メチレンを溶媒とし、ウベローデ粘度計を用いて測定される。固有粘度[η]は、各濃度[C](g/dl)で測定された比粘度[ηsp]を用いて計算される。
【0022】
ゴム性重合体
ポリカーボネート等の樹脂と配合できるゴム性重合体の例は、国際公開第2009/024496A号に記載されており、その内容を本明細書の一部として援用する。上記ゴム性重合体は、好ましくはTgが約10℃未満のエラストマー性(即ち、ゴム性)重合体であるか、若しくはこれを含む。Tgは、より具体的には約-10℃、さらに具体的には約-20℃~-80℃である。
【0023】
好ましくは、上記熱可塑性樹脂a)中の上記ゴム性重合体の含有量は0~60重量%であり、例えば熱可塑性樹脂a)の分量の1~50重量%、5~40重量%又は10~30重量%である。
【0024】
エラストマー性重合体の例としては、ポリイソプレン;ブタジエン系ゴム、例えばポリブタジエン、スチレン-ブタジエン系のランダム共重合体とブロック共重合体、該ブロック共重合体の水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ブタジエン-イソプレン共重合体等;アクリレート系ゴム、例えばエチレン-メタクリレート、エチレン-アクリル酸ブチル、アクリレートエステル-ブタジエン共重合体、例えばアクリル酸ブチル-ブタジエン共重合体等のアクリルエラストマー性重合体等;ポリオルガノシロキサン等のシロキサン系ゴム、例えばポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン及びジメチルージフェニルシロキサン共重合体等;及びその他のエラストマー性重合体、例えばエチレン-プロピレンランダム共重合体及びブロック共重合体、エチレンとα-オレフィンとの共重合体、エチレンと脂肪族ビニルとの共重合体、例えばエチレン-酢酸ビニル、及びエチレン-プロピレン非共役ジエンターポリマー、例えばエチレン-プロピレン-ヘキサジエン共重合体、ブチレン-イソプレン共重合体、及び塩素化ポリエチレンが挙げられる。これらの物質は単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0025】
特に好ましいエラストマー性重合体としては、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルエラストマー-スチレン共重合体)、及びMBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)が挙げられる。特に好ましいグラフト共重合体は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム(ABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレンゴム(MBS)又はこれらの共重合体の混合物である。その理由は、これら共重合体がポリカーボネート母材との相溶性に優れており、したがって該ポリカーボネート母材中に均一に分散できるからである。これにより、或る種の成分b)によって起こり得る熱可塑性樹脂の劣化を抑えることができる。
【0026】
経済的な観点からは、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)が一層好ましい。市販品のいずれのABSを用いてもよい。特に好ましいアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)はゴム成分を10~50重量部、好ましくは10~40重量部、より好ましくは10~30重量部含む。
特に好ましい実施態様では、上記熱可塑性樹脂a)はポリカーボネートを45~75重量%、ABSを5~40重量%、及びMBSを0~10重量%(但し、含有量は該熱可塑性樹脂a)を基準とする)含むブレンドである。
【0027】
他の特に好ましい実施態様において、上記熱可塑性樹脂a)は好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下、より一層好ましくは96重量%以下のポリカーボネートを含む(但し、含有量は該熱可塑性樹脂a)を基準とする)。上記熱可塑性樹脂a)中のポリカーボネート含有量の下限は好ましくは80重量%以上、より好ましくは82重量%以上、より一層好ましくは85重量%以上である。また、上記熱可塑性樹脂a)は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、より一層好ましくは4重量%以上のMBSを含む(但し、含有量は該熱可塑性樹脂a)を基準とする)。上記熱可塑性樹脂a)中のMBS含有量の上限は好ましくは20重量%以下、より好ましくは18重量%以下、より一層好ましくは16重量%以下である。
この実施態様において、熱可塑性樹脂a)中のポリカーボネートとMBSの総含有量は好ましくは95~100重量%、より好ましくは99~100重量%である。
【0028】
一部の実施態様において、上記ゴムはSi含有エラストマー性成分を含むグラフト共重合体である。これにより、組成物の難燃性が向上する。このグラフト共重合体は、Si含有エラストマー性成分をこれと共重合可能なモノマーとグラフト共重合させることで得られる。上記エラストマー性成分のガラス転移点は概ね最高0℃、好ましくは最高-20℃、より好ましくは-30℃である。
【0029】
上記グラフト共重合体は、コア/シェル型のグラフト共重合体であることが好ましく、このうち、コアがSi含有エラストマー性成分から成る。このSi含有エラストマー性成分は、好ましくはポリオルガノシロキサンである。
【0030】
上記グラフト共重合体は、好ましくはビニルモノマー(I)5~60重量部を、ポリオルガノシロキサン粒子(II)40~95重量部の存在下((I)と(II)の合計は100重量部)で重合させることで調製されるポリオルガノシロキサン含有グラフト共重合体であり、例えば米国特許第US2005/0143520号に記載されている。上記ビニルモノマー(I)の例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-ブチルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、グリシジルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;及びイタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシ基含有ビニルモノマーが挙げられる。ビニルモノマー(a-I)は必要に応じ、重合に寄与できる不飽和結合を1分子内に少なくとも2本有する多官能モノマーを含んでもよい。かかる多官能モノマーとして、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼンが例示される。上記ビニルモノマー(I)は単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。上記ポリオルガノシロキサン粒子(II)は、構成成分の乳化重合で調製される。グラフト共重合には通常のシード乳化重合を適用することができ、ポリオルガノシロキサン粒子(II)のラテックス中でビニルモノマー(I)をラジカル重合させることで達成できる。
【0031】
ポリオルガノシロキサンを含むこれらのグラフト共重合体は市販品を利用でき、例えば株式会社カネカ製のカネエースMR01及びカネエースMR02がある。
【0032】
Si含有エラストマー性成分を含む他の好適なグラフト共重合体には、三菱レイヨン株式会社製のメタブレンS-2001、メタブレンS-2200及びメタブレンSX-005がある。
【0033】
特に好ましい実施態様において、上記熱可塑性樹脂a)はポリカーボネート80~99重量%と、Si含有エラストマー性成分を含むグラフト共重合体1~20重量%(但し、含有量は該熱可塑性樹脂a)を基準とする)とのブレンドである。
【0034】
一部の実施態様において、上記熱可塑性樹脂a)はポリシロキサン-ポリカーボネート共重合体であるか、又はこれを含む。かかるポリシロキサン-ポリカーボネート共重合体の例は、例えば米国特許第5380795号及び国際公開第09040772号に記載されている。これらも、上記熱可塑性組成物の難燃性を向上させる効果がある。
【0035】
本発明の熱可塑性組成物中におけるa)の含有量は20~90重量%であり、例えば少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%であり、及び/又は、最大85重量%、最大80重量%、最大75重量%、最大70重量%、最大67重量%、最大65重量%、最大60重量%、又は最大58重量%である(但し、含有量は熱可塑性組成物の合計量を基準とする)。
【0036】
b)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤
一部の実施態様において、b)はLDS添加剤の粒子を含む。
【0037】
一部の実施態様において、b)はコア及び該コアを覆うシェルとから成る粒子を含み、このうちシェルがLDS添加剤機能を有する材料から成る。このコアは、好ましくは比誘電率の高い材料から成る。
【0038】
本明細書中では、「材料粒子」の用語を、その材料から成る粒子成分の意味で用い、形状(球状、ウィスカ、繊維等)は問わないものとする。この用語は、コア/シェル型粒子のコアとは区別して用いる。
【0039】
典型的には、b)はLDS添加剤の粒子、又はコア及び該コアを覆うシェルとから成る粒子のいずれかから成る。b)は又、LDS添加剤の粒子と、コア及び該コアを覆うシェルとから成る粒子とから成るものであってよい。
【0040】
「レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤」及び「レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を有する材料」の用語は、1)或るLDS添加剤の候補材料10重量部をポリカーボネート等の熱可塑性樹脂100重量部に添加して試験片を成形し、2)この試験片にレーザーを照射し、3)照射済みの試験片を無電解メッキに供して得られる物品の上に、メッキ層を形成出来る材料を意味するものする。工程2)では例えば、試験片を波長1064nm、出力13W、周波数20kHz、スキャン速度2m/sのYAGレーザーで照射することができる。又、工程3)では例えば、上記照射済みの試験片をMID Copper 100XB Strikeメッキ浴(マクダーミッド・パフォーマンス・ソリューションズ株式会社製)を用いた無電解めっきに供することができる。
【0041】
シェルに利用されるレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤又はレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を有する材料の例としては、
銅クロム酸化物スピネル、銅モリブデン 酸化物スピネル及び銅クロムマンガン酸化物スピネル等の銅含有スピネルをはじめとする重金属混合酸化物スピネル;
水酸化銅、リン酸銅、硫酸銅、チオシアン酸銅等の銅塩;
パラジウム/パラジウム含有重金属錯体等の有機金属錯体;
アンチモン錫酸化物(アンチモンドープ酸化錫)、ビスマス錫酸化物(ビスマスドープ酸化錫)、アルミニウム錫酸化物(アルミニウムドープ酸化錫)、モリブデン錫酸化物(モリブデンドープ酸化錫)等の錫含有酸化物;
少なくとも2種類の金属を含み、抵抗率が5×10Ω・cm以下である、アルミニウム亜鉛酸化物(アルミニウムドープ酸化亜鉛)やZnNi1-XFe(但し、0.85>x>0.60)をはじめとする亜鉛含有金属酸化物等の導電性酸化物;
チタン酸カルシウム銅、及びこれらの組合せ、
が挙げられる。
【0042】
銅クロム酸化物スピネルの例としては、シェファード・テクノロジーズ社製の商品名LD5を冠した市販品が挙げられる。
【0043】
アンチモンドープ錫酸化物の例としては、国際公開第WO2012/126831に記載される如く、CIELab表色系の明度L*が少なくとも45である標品が挙げられる。アンチモンドープ錫酸化物の更なる具体例としては、少なくとも錫と、アンチモン、ビスマス、アルミニウム及びモリブデンから成る群から選択される第2の金属とを含む混合酸化物が例示され、この場合のLDS添加剤は国際公開第WO2013/076314号に記載される如く、少なくとも40重量%の錫を含み、上記第2の金属と錫との重量比は少なくとも0.02:1である。キーリング・アンド・ウォーカー社製のStanostat CP5Cや、フェロ社製の25-3511 PKが例示される。
【0044】
前述のように、b)はLDS添加剤の粒子を含んでよい。但し、b)がコアと該コアを覆うシェルとを有する粒子から成る、若しくは含む場合であって、該シェルがLDS添加剤機能を有する材料から成る場合には、該コアは本発明の熱可塑性組成物に期待される高周波特性を達成できる様に選択されることが好ましい。
【0045】
上記コアはセラミック材料から成ることが好ましく、金属酸化物、金属珪酸塩、金属ホウ化物、金属カーバイド及び金属窒化物から選択されることが好ましい。
【0046】
好適な金属酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化チタン(例えばTiO)、酸化亜鉛、酸化銅、酸化セリウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム(例えば、アルミナ及び/又はヒュームドアルミナ)、CaTiO、MgZrSrTiO、MgTiO、MgAl、BaZrO、BaSnO、BaNb、BaTa、WO、MnO、SrZrO、SnTiO、ZrTiO、CaZrO、CaSnO、CaWO、MgTa、MgZrO、La、CaZrO3、MgSnO、MgNb、SrNb、MgTa、Ta、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸バリウムストロンチウム、ストロンチウムドープマンガン酸ランタン、酸化ランタンアルミニウム(LaAlO)、チタン酸カルシウム銅(CaCuTi12)、チタン酸カドミウム銅(CdCuTi12)、Ca1-xLaMnO、(Li,Ti)ドープNiO、ランタンストロンチウム銅酸化物(LSCO)、イットリウムバリウム銅酸化物(YBaCu)、チタン酸ジルコン酸鉛、及びランタン変性チタン酸ジルコン酸鉛が例示される。
【0047】
珪酸塩としては、NaSiO、LiAlSiO、Li4SiO、BaTiSi、AlSi、ZrSiO、KAlSi、NaAlSi、CaAlSi、CaMgSi及びZnSiOが例示される。尚、雲母やタルクは期待される高周波特性の達成に寄与しないため、コアとしては好ましくない。
【0048】
ホウ化物としては、ホウ化ランタン(LaB)、ホウ化セリウム(CeB)、ホウ化ストロンチウム(SrB)、ホウ化アルミニウム、ホウ化カルシウム(CaB)、ホウ化チタン(TiB)、ホウ化ジルコニウム(ZrB)、ホウ化バナジウム(VB)、ホウ化タンタル(TaB)、ホウ化クロム(CrB及びCrB)、ホウ化モリブデン(MoB、Mo及びMoB)、及びホウ化タングステン(W)が例示される。
【0049】
カーバイドとしては、シリコンカーバイド、タングステンカーバイド、タンタルカーバイド、鉄カーバイド、及びチタンカーバイドが例示される。
【0050】
窒化物としては窒化シリコン、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化アルミニウム、及び窒化モリブデンが例示される。
【0051】
上記コアは金属酸化物、金属ホウ化物、金属カーバイド、及び金属窒化物から選択されるセラミック材料で構成されることが好ましい。
【0052】
上記コアは、金属酸化物で構成されることが好ましく、より好ましくは二酸化チタン及び/又はチタン酸バリウム、最も好ましくは二酸化チタンで構成される。
【0053】
一部の好適な実施態様において、上記コアは二酸化チタン及び/又はチタン酸バリウムで構成され、好ましくは二酸化チタンであり、一方のシェルはアンチモン錫酸化物で構成される。
【0054】
b)の含有量は、熱可塑性組成物全体を基準として0.1~80重量%である。一部の実施態様において、b)の含有量は熱可塑性組成物全体を基準として最大35重量%、最大34重量%、最大33重量%、最大32重量%、最大31重量%、最大30重量%、最大25重量%、最大20重量%(20重量%未満)、最大15重量%(15重量%未満)、又は最大10重量%(10重量%未満)である。他の実施態様において、b)の含有量は熱可塑性組成物全体を基準として1重量%超、3重量%超、4重量%超である。
c)の含有量も、組成物全体を基準として少なくとも20重量%であってよい。
【0055】
好適な実施態様において、b)はアンチモン錫酸化物等の錫含有酸化物を含み、上記熱可塑性組成物中の該錫含有酸化物の含有量は、該熱可塑性組成物の全体を基準として少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも3重量%、少なくとも4重量%である。上記熱可塑性組成物中の上記錫含有酸化物の含有量の上限は、該熱可塑性組成物の全体を基準として最大15重量%、最大10重量%、又は最大8重量%である。錫含有酸化物であるLDS添加剤は、所望の高周波特性を得る上で大きく影響する。
【0056】
上記LDS添加剤は光散乱法で求めた粒径d90が最大8μmであることが好ましく、より好ましくは最大5μm、更に好ましくは最大4μm、一層好ましくは最大2μmである。
【0057】
上記LDS添加剤は光散乱法で求めた粒径d50が最大5μmであることが好ましく、より好ましくは最大4μm、更に好ましくは最大2μmである。
【0058】
粒径の小さいLDS添加剤は、本発明の熱可塑性組成物の機械的強度を向上させることが解った。
【0059】
上記粒径は、例えばマルバーン社製Mastersizer粒度分布測定装置を用いて求めることができ、例えばISO13320-1:2009に準拠して測定することができる。
【0060】
c)レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たないセラミック充填材粒子
成分c)は、LDS添加剤機能を持たないセラミック材料の粒子である。本発明の熱可塑性組成物中、係る材料の少なくとも80重量%はTiOであり、これにより高周波帯において誘電正接の低い熱可塑性組成物が得られる。
【0061】
本発明の熱可塑性組成物中に存在し、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たないセラミック充填材粒子の少なくとも80重量%は、TiOである。好ましくは、本発明の熱可塑性組成物中に存在し、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たないセラミック充填材粒子を基準としたTiOの含有量は少なくとも90重量%であり、少なくとも95重量%、少なくとも99重量%、又は100重量%である。
【0062】
本発明の熱可塑性組成物は、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たない他のセラミック充填材粒子を追加的に含んでもよいが、その含有量は最大でもc)の20重量%である。
【0063】
上記熱可塑性組成物に含まれていてもよい、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たない追加的なセラミック充填材粒子は、好ましくはセラミック材料から成り、好ましくはLDS添加剤機能を持たない金属酸化物、金属珪酸塩、金属ホウ化物、金属カーバイド、及び金属窒化物から選択される。
【0064】
上記の追加的なセラミック充填材粒子は、金属酸化物から成ることが好ましい。一部の実施態様では、上記熱可塑性組成物はチタン酸バリウムを含まない。
【0065】
c)の含有量は、熱可塑性組成物の全体を基準として10~80重量%である。c)の含有量は好ましくは、熱可塑性組成物の全体を基準として少なくとも15重量%,少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、又は少なくとも35重量%であり、及び/又は、最大70重量%、最大60重量%、最大50重量%、又は最大40重量%である。
【0066】
b)とc)の総含有量は好ましくは、熱可塑性組成物の全体を基準として 少なくとも15重量%、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも33重量%、少なくとも34重量%、又は少なくとも35重量%であり、及び/又は、最大70重量%、最大60重量%、最大55重量%、最大53重量%、最大50重量%、又は最大40重量%である。
【0067】
尚、国際公開第WO2012/126831号は実施例7で、LDS添加剤を5重量%、TiOを10重量%含む組成物を開示している。このLDS添加剤は、アンチモンドープ錫酸化物でコーティングした雲母である。LDS添加剤に雲母を用いたために、得られた熱可塑性組成物の誘電正接は大きくなっており、実施例7の熱可塑性組成物は40GHzで測定した誘電正接が0.014より大きくなっている。
【0068】
又、国際公開第WO2013/076314号は実施例1で、アンチモン錫酸化物を5重量%、TiOを7重量%含む組成物を開示している。アンチモン錫酸化物とTiOとの総含有量を低く抑えた結果、該国際公開第WO2013/076314号の実施例1の熱可塑性組成物は40GHzで測定した誘電正接が0.014より大きくなっている。
【0069】
a)、b)及びc)の総含有量
上記各成分a)、b)及びc)の総含有量は、熱可塑性組成物の全体に対して90~100重量%であることが好ましく、例えば90~99.9重量%、92~99.0重量%又は95~98重量%である。
【0070】
上記熱可塑性組成物におけるレーザーダイレクトストラクチャリング添加剤とTiOとの重量比は1:5~1:10であることが好ましく、より好ましくは1:6~1:8である。
【0071】
上記熱可塑性組成物における熱可塑性樹脂とTiOとの重量比は1:0.5~1:2であることが好ましく、より好ましくは1:0.5~1:1.5である。
【0072】
特性
本発明の熱可塑性組成物は、1GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.5であることが好ましく、より好ましくは少なくとも4.0、より好ましくは少なくとも4.2、より好ましくは少なくとも4.5、より好ましくは少なくとも4.7、より好ましくは少なくとも5.0である。
【0073】
本発明の熱可塑性組成物は、1GHzで測定した誘電正接が最大0.014であることが好ましく、より好ましくは最大0.010、より好ましくは最大0.007である。
【0074】
本発明の熱可塑性組成物は、40GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.5であることが好ましく、より好ましくは少なくとも4.0、好ましくは少なくとも4.2、より好ましくは少なくとも4.5、より好ましくは少なくとも4.7、より好ましくは少なくとも5.0である。
【0075】
本発明の熱可塑性組成物は、40GHzで測定した誘電正接が最大0.014であることが好ましく、好ましくは最大0.010、より好ましくは最大0.007である。
【0076】
d)難燃剤
本発明の熱可塑性組成物は、更にd)難燃剤を含んでもよい。
【0077】
成分d)の含有量は、熱可塑性組成物の全体を基準として0~15重量%であることが好ましく、例えば0.1~10重量%である。上記成分d)の使用は随意であり、したがって本発明の熱可塑性組成物は基本的に成分d)を含まなくてよい。つまり、上記成分d)の含有量は、熱可塑性組成物の全体を基準として1重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、又は0重量%であってよい。
【0078】
上記難燃剤は、無機難燃剤又は有機難燃剤であってよい。
【0079】
無機難燃剤の例としてはパーフルオロブタンスルホン酸カリウム(ライマー塩)及びジフェニルスルホン酸カリウム等のスルホン酸塩;及び、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウムの塩)と、例えば無機酸の錯塩、具体的にはNaCO、KCO、MgCO、CaCO、BaCO及びBaCO等に代表されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩等のオキソアニオン、又は、LiAlF、BaSiF、KBF、KAlF、KAlF、KSiF、及び/又はNaAlF等に代表されるフッ素陰イオン錯塩との反応によって得られる塩が挙げられる。無機難燃剤はビカット軟化温度を維持する上で有利である。
【0080】
有機難燃剤の例としては、有機ホスフェート、及び/又は、リン-窒素結合を含む有機化合物が挙げられる。
【0081】
有機ホスフェートの一例として、式(GO)P=Oで表される芳香族ホスフェートが挙げられる。式中、各Gはそれぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルカリル基、又はアラルキル基を表すが、少なくとも1個のGは芳香族基を表す。うち2個のG基は互いに結合して環状基を形成し、例えばジフェニルペンタエリスリトールジホスファイトを形成してもよく、この化合物はAxelrodが米国特許第4,154,775号に記載している。他の好適な芳香族ホスフェートとしては、例えば、フェニルビス(ドデシル)ホスフェート、フェニルビス(ネオペンチル)ホスフェート、フェニル ビス(3,5,5’-トリメチルヘキシル)ホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジ(p-トリル)ホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)p-トリルホスフェート、トリトリルホスフェート、ビス(2-エチルヘキシル)フェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスフェート、ビス(ドデシル)p-トリルホスフェート、ジブチルフェニルホスフェート、2-クロロエチルジフェニルホスフェート、p-トリルビス(2,5,5’-トリメチルヘキシル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート等が挙げられる。芳香族ホスフェートの具体例として、各Gが芳香族基であるトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、イソプロピル化トリフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0082】
二官能又は多官能のリン含有芳香族化合物も有用である。例えば、下記の式で表される化合物が例示される。
【化1】
式中、各Gはそれぞれ独立に炭素数1~30の炭化水素基を表し、各Gはそれぞれ独立に炭素数1~30の炭化水素基又は炭化水素オキシ基を表し、各Xはそれぞれ独立に臭素原子又は塩素原子を表し、mは0~4、nは1~30である。好適な二官能又は多官能のリン含有芳香族化合物の例としては、レゾルシノールテトラフェニルジホスフェート(RDP)、ヒドロキノンのリン酸ビス(ジフェニル)化物、及びビスフェノ-ル-Aのリン酸ビス(ジフェニル)化物、これらの化合物のオリゴマー又はポリマー相当物等が挙げられる。上記二官能又は多官能芳香族化合物の各調整方法は、英国特許第2,043,083号に記載されている。
【0083】
本発明の熱可塑性組成物は基本的に塩素原子及び臭素原子を含まず、特に塩素フリー・臭素フリー難燃剤であり、臭素及び/又は塩素の含有量が熱可塑性組成物の全体を基準として100ppm未満、75ppm未満、又は50ppm未満と定義されるものである。
【0084】
上記熱可塑性組成物の成形品は、3.0mm厚(±10%)で測定した場合に少なくともUL94規格の難燃グレードV1(即ち、難燃グレードV1又はV0)を満足することが好ましい。
【0085】
上記熱可塑性組成物の成形品は、1.5mm厚(±10%)で測定した場合に少なくともUL94規格の難燃グレードV1又はV0を満足することがより好ましい。
【0086】
a)、b)、c)及びd)の総含有量
上記各成分a)、b)、c)及びd)の総含有量は熱可塑性組成物の全体の90~100重量%であることが好ましく、例えば熱可塑性組成物の全体を基準として90~99.9重量%、92~99.0重量%、又は95~98重量%である。
【0087】
成分e)滴下防止剤
本発明の熱可塑性組成物は、更にe)滴下防止剤を含んでもよい。
【0088】
上記成分e)の含有量は、熱可塑性組成物の全体を基準として0~2.0重量%又は0.05~2.0重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~1.5重量%、更に好ましくは0.2~1.0重量%である。上記成分e)の添加は随意であり、本発明の熱可塑性組成物は成分e)を殆ど、或いは全く含まなくてもよい。例えば、上記成分e)の含有量は、熱可塑性組成物の全体に対して0.05重量%未満であってもよく、0.01重量%未満であっても、又は0重量%であってもよい。
【0089】
滴下防止剤の好適な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフルオロポリマーが挙げられる。このフルオロポリマーは、フィブリル形成ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフィブリル形成フルオロポリマーであっても、或いは非フィブリル形成ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の非フィブリル形成フルオロポリマーであってもよい。
【0090】
上記滴下防止剤は、フルオロポリマーの(水系)分散液であってもよい。この場合の分散液は、十分量、例えば該分散液の少なくとも30重量%、又は少なくとも50重量%のフルオロポリマーを含有している。
【0091】
上記滴下防止剤は、フルオロポリマーと別のポリマーの混合物であってもよく、例えばカプセル化フルオロポリマーであってもよい。この場合の分散物は十分量、例えば該混合物の少なくとも30重量%又は少なくとも50重量%のフルオロポリマーを含有している。上記他のポリマーは、例えばアクリレート共重合体又はスチレン-アクリロニトリルであってよい。フルオロポリマーとアクリレートポリマーの混合物としては、三菱レイヨン株式会社製のMETABLEN A-3800が市販品として入手可能である。カプセル化フルオロポリマーは、該ポリマーをフルオロポリマーの存在下で重合させて得られる。
【0092】
上記滴下防止剤は、カプセル化フルオロポリマーの様な、フルオロポリマーと別のポリマーの混合物であることが好ましい。かかる滴下防止剤は、押出し成形機への投入が容易で、熱可塑性組成物からの水分除去も不要であることから、分散液型の滴下防止剤に比べて取扱い性に優れる。
【0093】
a)、b)、c)、d)及びe)の総含有量
上記各成分a)、b)、c)、d)及びe)の総含有量は、熱可塑性組成物の全体の90~100重量%であることが好ましく、例えば熱可塑性組成物の全体に対して90~99.9重量%、92~99.0重量%、又は95~98重量%である。
【0094】
他の添加剤f)
本発明の熱可塑性組成物は、1種類又は2種類以上の更に他の添加剤d)を、上記熱可塑性組成物の全体に対して0~10重量%含んでもよい。これらは、熱劣化又は熱酸化劣化に抗する安定剤;加水分解劣化に抗する安定剤;光、特に紫外光による劣化、及び/又は光酸化劣化に抗する安定剤;及び離型剤や潤滑剤等の加工助剤等、一般的な添加剤である。これら添加剤の好適な例と一般的な使用量については、前述のKunststoff Handbuch 3/1に記載されている。上記添加剤の総含有量は通常0~5重量%であり、例えば0.1~3重量%、又は0.3~1重量%である。
【0095】
a)、b)、c)、d)、e)及びf)の総含有量
上記各成分a)、b)、c)、d)、e)及びf)の総含有量は、熱可塑性組成物の全体の100重量%である。
【0096】
上述の各成分b)、c)及び随意の成分は、単軸又は二軸押出機等の適切な押出機、好ましくは二軸押出機を用いて上記熱可塑性樹脂a)へ導入することができる。熱可塑性樹脂ペレットを少なくとも成分b)及びc)と共に押出機に投入して押し出し、続いて水槽で急冷し、ペレット化する。したがって、本発明は更に、上述の如く各成分a)、b)、c)、及び随意の成分を溶融混合する、本発明の熱可塑性組成物の製造プロセスにも関する。
【0097】
強化組成物
本発明は又、強化組成物に関する。
【0098】
本発明の強化組成物の一実施形態は、上述の通り本発明の熱可塑性組成物と、ガラス繊維等の強化材を含む。より具体的には、本発明の強化組成物は上記熱可塑性組成物と、ガラス繊維等の強化材を含み、該熱可塑性組成物とガラス繊維等の該強化材との重量比は20:1~1:1、好ましくは10:1~2:1である。
【0099】
本発明の強化組成物の他の実施態様は、熱可塑性樹脂を20~90重量部、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤を0.1~80重量部、レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤機能を持たないセラミック充填材粒子を10~80重量部、及び強化材を含み、該セラミック充填材粒子の少なくとも80重量%はTiOである。かかる強化組成物中のガラス繊維等の強化材と本発明の熱可塑性組成物との重量比は、最大で例えば1:1又は1:2であってよく、少なくとも例えば1:20又は1:10である。上記熱可塑性樹脂は上述の熱可塑性樹脂a)と同じであり、その好ましい範囲も上述の熱可塑性樹脂a)と同じである。同様に、b)、c)、d)、e),及びf)等の他の成分も上述と同じであり、それらの好ましい範囲も上述の成分と同じである。上記熱可塑性組成物中のa)の含有量は、強化材を除いた上記強化組成物中のa)の含有量に対応することが好ましい。b)、c)、d)、e)及びf)等の他の成分の含有量も同様に考えてよい。
【0100】
かかる強化組成物は、上述の各成分 a)、b)及び随意の成分、並びに上記強化材を溶融混合して調整することができる。
【0101】
上記強化組成物において、上記レーザーダイレクトストラクチャリング添加剤とTiOとの重量比は1:5~1:10であることが好ましい。LDS添加剤:TiOの下限値は好ましくは1:5.5であり、より好ましくは1:6.0、更に好ましくは1:6.5、より一層好ましくは1:7.0である。LDS添加剤:TiOの上限値は好ましくは1:9.0であり、より好ましくは1:8.5、一層好ましくは1:8.0である。
【0102】
上記強化組成物において、上記熱可塑性樹脂とTiOとの重量比(熱可塑性樹脂a):TiO)は1:0.1~1:2.0であることが好ましい。熱可塑性樹脂a):TiOの下限は好ましくは1:0.2であり、より好ましくは1:0.3、一層好ましくは1:0.4である。熱可塑性樹脂a):TiOの上限値は好ましくは1:1.9であり、より好ましくは1:1.8、一層好ましくは1:1.7、より一層好ましくは1:1.6、より一層好ましくは1:1.6、更に一層好ましくは1:1.5である。
【0103】
上述の通り、上記強化材はガラス繊維を含むことが好ましい。このガラス繊維は、少なくともチョップドストランド、ミルドファイバー、フレーク、ビーズ及びバルーンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくはチョップドストランド、ミルドファイバー、フレークのいずれかである。
【0104】
上記チョップドストランドは長さ1~10mmに切断されたガラス繊維の一形態であり、一方、上記ミルドファイバーは長さ約10~500μmに粉砕されたガラス繊維の一形態である。上記ガラス繊維は例えば日本電気硝子株式会社から市販されており、容易に入手可能である。
【0105】
上記ガラスフレークは厚さ0.5μm~20μm、好ましくは厚さ1~20μm、及び1辺長さが0.05~1.0mmのフレーク品である。本品は日本板硝子株式会社から「フレカ」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。
【0106】
上記ガラスビーズは外径5~100μm、好ましくは10~100μmの球状体である。本品は例えば、東芝バロティーニ株式会社から「EGB731」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。
【0107】
上記バルーンは中空のガラスビーズである。本品は例えば東海工業株式会社から「PZ6000」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。
【0108】
原料ガラスは無アルカリガラスであることが好ましく、Eガラス、Cガラス、Sガラス、及びRガラスが例示される。本発明では、Eガラスが好ましく用いられる。
【0109】
上記ガラス繊維は、(γ-メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、(γ-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、及び(γ-アミノプロピル)トリエトキシシラン等のシランカップリング剤で表面処理されていてよい。その付着量は、ガラス繊維の重量に対して典型的には0.01~1重量%である。又、脂肪酸アミドやシリコーンオイル等の潤滑剤;第4アンモニウム塩等の静電防止剤;エポキシ樹脂やウレタン樹脂等の被膜形成樹脂;及び被膜形成樹脂に熱安定剤や難燃剤等を加えた混合物を用いることも随意である。
【0110】
ガラス繊維の含有量は強化組成物に含まれる強化剤を基準として90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上、一層好ましくは99重量%以上である。
【0111】
上述の熱可塑性組成物と強化材(好ましくはガラス繊維)の総含有量は、強化組成物の全体に対して90~100重量%であることが好ましく、例えば90~99.9重量%、92~99.0重量%、又は95~98重量%である。
【0112】
上記各成分a)、b)、c)、及び強化材(好ましくはガラス繊維)の総含有量は、強化組成物の全体に対して90~100重量%であることが好ましく、例えば90~99.9重量%、92~99.0重量%、又は95~98重量%である。
【0113】
上記各成分a)、b)、c)、d)及び強化材(好ましくはガラス繊維) の総含有量は、強化組成物の全体に対して90~100重量%であることが好ましく、例えば90~99.9重量%、92~99.0重量%、又は95~98重量%である。
【0114】
上記各成分a)、b)、c)、d)、e)及び強化材(好ましくはガラス繊維)の総含有量は、上記強化組成物の全体に対して90~100重量%であることが好ましく、例えば90~99.9重量%、92~99.0重量%、又は95~98重量%である。
【0115】
上記各成分a)、b)、c)、d)、e)、f)及び強化材(好ましくはガラス繊維)の総含有量は、上記熱可塑性組成物の全体に対して99~100重量%であることが好ましく、より好ましくは全体の100重量%である。
【0116】
上記強化組成物は、比誘電率を高く保ちながら、低い誘電正接を達成する。
【0117】
例えば、本発明の強化組成物は1GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.65であり、好ましくは少なくとも4.60、より好ましくは少なくとも4.70、更に好ましくは少なくとも5.00、一層好ましくは少なくとも5.10である。比誘電率の上限は特に定めないが、1GHzで測定した比誘電率の上限は8.00以下であってよく、更に7.00以下、特に6.60以下であってよい。
【0118】
本発明の強化組成物は又、1GHzで測定した誘電正接が0.010以下であってよく、好ましくは0.010を超えず、より好ましくは0.0098以下である。誘電正接の下限は特に定めないが、1GHzで測定した誘電正接の加減が0.001以上であってよく、更に0.005以上であってもよい。
【0119】
本発明の強化組成物は、40GHzで測定した比誘電率が少なくとも3.65であってよく、好ましくは少なくとも4.60、より好ましくは少なくとも4.70、更に好ましくは少なくとも5.00、一層好ましくは少なくとも5.10である。比誘電率の上限は特に定めないが、40GHzで測定した比誘電率の上限は8.00以下であってよく、更には7.00以下、特に6.60以下でもよい。
【0120】
本発明の強化組成物は又、40GHzで測定した誘電正接が最大0.018であってよく、好ましくは最大0.015、より好ましくは最大0.014でよい。誘電正接の下限は特に定めないが、40GHzで測定した誘電正接は0.001以上であってよく、更に0.005以上であってよい。
【0121】
本発明の強化組成物は、上述の1GHzで測定した比誘電率と1GHzで測定した誘電正接の双方を満足することが好ましい。
【0122】
本発明の強化組成物は又、上述の40GHzで測定した比誘電率と40GHzで測定した誘電正接の双方を満足することが好ましい。
【0123】
本発明の強化組成物は更に、上述の1GHzと40GHzで測定した各比誘電率と、1GHzと40GHzで測定した各誘電正接との全てを満足することが好ましい。
【0124】
これら比誘電率と誘電正接は、実施例で後述する方法にしたがって測定される。
【0125】
本発明の強化組成物の一実施形態において、該強化組成物中の強化材の含有量は5重量%を下回らず、好ましくは8重量%以上、より好ましくは9重量%である。上記強化組成物中の強化剤の含有量の上限は30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは25重量%以下、一層好ましくは22重量%以下である。この様な範囲内であれば、本発明の強化組成物は比誘電率を高く保ちながら低い誘電正接を容易に達成できる。
【0126】
その他の側面
本発明は更に、本発明の熱可塑性組成物又は強化組成物を含む成形品に関する。本発明は特に、本発明の熱可塑性組成物又は強化組成物を射出成形して得られる成形品に関する。本発明は更に物品、特に、本発明の熱可塑性組成物又は強化組成物から製造される成形品と、その上に設けられる導電経路とを含む回路担体に関する。一実施態様において、かかる回路担体はアンテナの製造に用いられる。
【0127】
本発明は更に、かかる回路担体を製造するプロセスにも関し、該プロセスは本発明の熱可塑性組成物又は強化組成物から成る成形品を提供する工程と; 上記成形品を、導電経路の形成予定領域においてレーザー放射光で照射する工程と;照射した前記領域に引き続きメタライゼーションを施す工程とを有する。好ましい実施態様において、上記レーザー照射は、金属核の放出と成形品のアブレーションを同時に行って接着促進面を形成する目的で用いられる。この方法によれば、析出する金属導体経路の接着強度を簡単に高めることができる。上記レーザーの波長は248nm、308nm、355nm、532nm、1064nmが好適であるが、10600nmでもよい。レーザー照射により生成した金属核上への更なる金属の析出は、プランティング過程により進行することが好ましい。かかるメタライゼーションは、好ましくは上記成形品を少なくとも1種類の無電解めっき浴に浸漬し、成形品の照射部位に導電経路を形成する方法で行われることが好ましい。無電解めっき法は特に限定されず、銅めっき法、金めっき法、ニッケルめっき法、銀めっき、亜鉛めっき、錫めっきが例示される。最初のめっきは銅めっきであることが好ましい。上記導電経路は1層または2層以上の層を有してよい。第1の層は例えば銅層とすることができ、その厚さは8~16μm、より典型的には8~12μmである。第2の層を用いる場合、その層は例えばニッケル層であってよく、その厚さは2~4μmとすることができる。又、第3の層を用いる場合、その層は例えば金層であってよく、その厚さは0.05~0.2μmとすることができる。
【0128】
上記成形品の照射は、例えば出力2~15W、周波数20~100kHz及び/又は速度1~5m/sの条件で行うことができる。
【0129】
上記成形品の照射は、例えば波長100~400nmの紫外光、波長400~800nmの可視光、又は波長800~25000nmの赤外光を用いて行うことができる。
【0130】
上記成形品への照射を波長100~400nmの紫外光を用いて行う場合、メタライゼーションを施した成形品に熱処理を行い、剥離耐性を向上させることが好ましい。この熱処理は、例えば上記成形品を電子レンジに入れてマイクロ波を照射することで行うことができる。成形品への照射は、波長400~800nmの可視光、又は波長800~25000nmの赤外光を用いて行うことが好ましい。この種のレーザー照射は、めっき工程後の熱処理を要さずとも、照射領域上に形成される金属層の接着強度を比較的高くできる点で有利である。上記成形品への照射は、波長800~25000nmの赤外光、特に波長1064nmの赤外光を用いて行うことが最も好ましい。
【0131】
上記回路担体を製造するプロセスは、照射領域をメタライズする工程の後に熱処理工程を含まないことが好ましい。これは、プロセスを効率化する上で有利である。
【0132】
本発明の更なる側面は、レーザーダイレクトストラクチャリングプロセス用の熱可塑性組成物又は強化組成物に関する。
【0133】
本発明の更なる側面は、レーザーダイレクトストラクチャリングプロセスにおける、本発明の熱可塑性組成物又は強化組成物の利用に関する。
【0134】
尚、本発明は本明細書中で述べる特徴の可能な全ての組合せに関し、特に好ましくは特許請求の範囲に記載する特徴の組合せに関する。したがって、本発明の熱可塑性組成物又は強化組成物に関する特徴の全ての組合せ;本発明のプロセスに関する特徴の全ての組合せ;及び本発明の熱可塑性組成物又は強化組成物に関する特徴と、本発明のプロセスに関する特徴との全ての組合せが、本明細書中に記載されているものと解釈される。したがって、本発明のプロセスの成形工程、照射工程及びメタライゼーション工程に関する特徴と、本発明の熱可塑性組成物又は強化組成物に関する特徴との組合せは、本明細書中に記載されているものと解釈される。例えば、本明細書の記載は回路担体の製造プロセスであって、本発明の熱可塑性組成物から成る成形品を提供する工程と;前記成形品を、導電経路の形成予定領域においてレーザー放射光で照射する工程と;照射した前記領域に引き続きメタライゼーションを施す工程と、を有し、上記熱可塑性組成物又は強化組成物は成分d)を含み、該成形品の照射を波長800~25000nmの赤外光を用いて行うプロセスを開示している。
【0135】
又、「~から成る」という用語は、他の要素の存在を排除するものではない。但し、製品に関して何らかの複数の成分から成る、と記載される場合は、それらの成分のみからなる製品も開示されているものと解釈される。同様に、プロセスに関して何らかの複数の工程から成る、と記載される場合は、それらの工程のみからなるプロセスも開示されているものと解釈される。これらの構成要素のみから成る製品/組成物は、これらを調製するプロセスをより簡便で経済的なものにできる点で有利である。同様に、プロセスに関して何らかの複数の工程から成る、と記載される場合は、それらの工程のみからなるプロセスも開示されているものと解釈される。これらの工程のみから成るプロセスは、より簡便で経済的なプロセスを実現できる点で有利である。
【0136】
或るパラメータについて下限値と上限値とが言及されている場合、これら下限値と上限値との組合せで規定される範囲も開示されているものと解釈される。
【0137】
以下、本発明を実施例にもとづいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0138】
実験
比較実験(CEx)と実施例の組成物(Ex)を、表1に示す各成分から調製した。又、他の添加剤として、離型剤(コグニス社製、0.3% Loxiol P861/3.5)、安定剤(アデカパルマロール社製、0.05% アデカスタブ2112)及び滴下防止剤(デュポン社製、0.40% Dispersion 40)を添加した。曲げ弾性率はISO527-1に従い、23℃で測定した。
【0139】
サンプル組成物は全て、表2、3及び4に記載される分量にしたがって調製した。分量の単位は重量パーセントである。各実験では、上記サンプルを共回転二軸押出機を用いて280℃で押し出した。押出品は粒状化し、回収された粒子は110℃で4時間乾燥後、約290℃~300℃の溶融温度で射出成形して試験片を作成した。
【0140】
高周波特性、即ち比誘電率(DC)と損失係数(DF)は、ASTM D-2520、方法B-空洞共振摂動法の指針に従い1GHzと40GHzで測定した。試験片の公称寸法は、1GHz用では4.7×9.1×51mm、40GHz用では0.63×0.63×12.6mmとした。試験は室内環境条件(23℃、公称相対湿度51%)で行った。
【0141】
ノッチ付きアイゾッド衝撃強さはISO180/4Aに従い23℃で測定した。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
×は特性が測定できなかったことを示す。
【0144】
実験1と比較実験1との比較、比較実験2と比較実験3との比較、及び実験2と比較実験4との比較から、TiOを用いることで、BaTiOを用いた場合に比べて高い比誘電率と低い損失係数を達成できることが解る。40GHzで測定した損失係数の差が特に大きい。更に、TiOを用いることで衝撃強さも向上する。
【0145】
実験1と比較実験2との比較から、LDS添加剤の違いが高周波特性にかなりの違いをもたらすことが示される。5重量%のアンチモン錫酸化物を用いた実験1は、LDS添加剤の大部分が雲母である比較実験2に比べて良好な特性を示した。
【0146】
【表3】
【0147】
実験3と比較実験5との比較から、TiOを用いることで、TiOとBaTiOの混合物を用いた場合に比べて、40GHzで測定した損失係数がかなり下がることが示された。
【0148】
【表4】