(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】ペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリ
(51)【国際特許分類】
G03F 1/66 20120101AFI20240226BHJP
G03F 1/62 20120101ALI20240226BHJP
H01L 21/673 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
G03F1/66
G03F1/62
H01L21/68 U
(21)【出願番号】P 2019186037
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2021-10-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕一
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-128635(JP,A)
【文献】特開2007-304491(JP,A)
【文献】特開平10-133360(JP,A)
【文献】特開平10-048812(JP,A)
【文献】特開2003-107679(JP,A)
【文献】特開2008-129453(JP,A)
【文献】特開2005-326634(JP,A)
【文献】特開2017-151130(JP,A)
【文献】実開昭62-143950(JP,U)
【文献】特開2007-047546(JP,A)
【文献】米国特許第05305878(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリであって、前記ペリクルは矩形のペリクルフレームとその下端面に設けられた、露光原版への貼付け用の粘着剤層と
該粘着剤層を保護するセパレータとを含み、前記専用ペリクルケースは蓋部とトレイ部とを備え、
前記ペリクルフレームと前記トレイ部には、前記粘着剤層を前記専用ペリクルケースのトレイ部から浮かせた状態で保持するための構造手段がそれぞれ設けられていることを特徴とする、ペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリであって、
前記ペリクルフレームに設けられた前記構造手段が、前記ペリクルフレームの外側下端に設けられた段差による切り欠き部であり、前記トレイ部に設けられた前記構造手段が、前記切り欠き部を受けて前記ペリクルを支持する構造物である、ペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリ。
【請求項2】
前記ペリクルフレームに設けられた前記構造手段が、前記ペリクルフレームの4つのコーナー部に設けられている、請求項1に記載のペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリ。
【請求項3】
前記ペリクルフレームに設けられた前記構造手段が、前記ペリクルフレームの各々の長辺の中心部分から少なくとも60mm離れた位置で計4か所に設けられている、請求項1に記載のペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリ。
【請求項4】
前記ペリクルフレームの下端面に、前記粘着剤層を保護するためのセパレーターが設けられていない状態で前記ペリクルが前記専用ペリクルケースに収納される、請求項1に記載のペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリ。
【請求項5】
前記ペリクルフレーム及び前記トレイ部に設けられた前記構造手段が、ペリクルを上方に持ち上げる際、他の動作をすることなくスムーズに移動することができる、請求項1に記載のペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、超LSIなどの半導体装置又は液晶表示板を製造する際のリソグラフィ用マスクのゴミよけとして使用されるリソグラフィ用ペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体製造又は液晶表示板などの製造においては、半導体ウエハー又は液晶用原板に光を照射してパターン作製するが、この場合に用いる露光原版にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり、光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりして、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。なお、本発明において、「露光原版」とは、リソグラフィ用マスク及びレチクルの総称である(以下、「マスク」とも略称する。)。
【0003】
これらの作業は、通常クリーンルームで行われているが、このクリーンルーム内でもマスクを常に清浄に保つことが難しいので、マスクの表面にゴミよけのための露光用の光をよく通過させるペリクルを貼着する方法が取られている。この場合、ゴミは、マスクの表面上には直接付着せず、ペリクル膜上に付着するために、リソグラフィ時に焦点をマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル膜上のゴミは転写に無関係となる。
【0004】
そして、このようなペリクルの基本的な構成は、ペリクルフレーム及びこれに張設されたペリクル膜からなる。このペリクル膜は、露光に用いる光(g線、i線、248nm、193nm等)をよく透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素系ポリマーなどからなり、ペリクルフレームは、黒色アルマイト処理等を施したA7075、A6061、A5052などのアルミニウム合金、ステンレス、ポリエチレンなどからなる。
【0005】
また、ペリクルフレームの上面(上端面)には、ペリクル膜の良溶媒が塗布され、ペリクル膜をこれに張りつけ、風乾して接着させるか、又は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂やフッ素樹脂などの接着剤を用いて接着される。さらに、ペリクルフレームの下面(下端面)には、マスクを装着するために、ポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂又はシリコーン樹脂等からなるマスク粘着剤層及びこの粘着剤層の保護を目的とした離型性ライナーよりなる保護シート(以下、「セパレーター」ともいう。)が設けられる。
【0006】
このように構成されたペリクルは、マスクの表面に形成されたパターン領域を囲むように設置され、マスク上にゴミが付着するのを防止するために設けられるから、このパターン領域とペリクル外部とはペリクル外部の塵埃がパターン面に付着しないように互いに隔離されている。
【0007】
ところで、近年、LSIのデザインルールは、サブクオーターミクロンへと微細化が進んでおり、それに伴い、露光光源の短波長化が進んでいる、即ち、これまで主流であったKrFエキシマレーザー(248nm)から、ArFエキシマレーザー(193nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)液浸露光などに移行しつつある。
【0008】
このように、露光の短波長化が進んで露光解像度が高くなると、これまで問題とならなかったパターンの変形や歪みまでもが歩留まりに影響を及ぼすことが懸念されている。このパターンの変形や歪みは、マスク自体の変形や歪みに拠るところが大きく、その不具合の主な原因として、マスクへのペリクル貼り付け時に伴う変形や歪みが挙げられており、ペリクル自体の変形や歪みがマスクに伝わって悪影響を与えることが分かっている。
【0009】
そこで、マスクに与える影響を少なくする試みがなされており、特許文献1、2には、ペリクルのマスク用粘着剤層の表面の平坦度を15μm以下とするリソグラフィ用ペリクルが記載されている。しかし、このようなペリクルの粘着剤層の平坦度で作成したペリクルでも、完成後に容器に収納することによって、ペリクル完成時の形状を安定して維持できない可能性があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5411200号公報
【文献】特許第5999843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、露光原版の変形や歪みを安定して低減することができる平坦度の高いリソグラフィ用ペリクルとその専用ペリクルケースからなるアセンブリを提供することである。
【0012】
従来から、矩形のペリクルフレーム(以下、単に「フレーム」ともいう。)の平坦度を管理して平坦度の高いリソグラフィペリクル(以下、単に「高平坦ペリクル」ともいう。)が製造されているが、本発明者は、ペリクル完成後に専用ペリクルケース(蓋部とトレイ部とを備える。)に収納した後、ペリクルを取り出してマスクに装着して実験を繰り返した結果、同じ条件で製造されたペリクルを貼り付けても、マスクに与える歪みの影響が異なることを見出した。
【0013】
そして、本発明者は、さらにその原因について考察を行ったところ、ペリクルを専用ペリクルケースに収納することで、保護シート(セパレーター)を貼り付けたマスク用粘着剤層(以下、単に「粘着剤層」ともいう。)が専用ペリクルケースのトレイ部に接触し、粘着剤層の平坦度が製造直後の平坦度より悪化していることを確認した。粘着剤層の平坦度悪化の度合いは個体差があり、平坦度の悪化が小さければ、ペリクル貼り付け時のマスクの歪みが小さくなることも確認した。これらの知見は本発明者が初めて見出したものであり、ペリクルを従来からある一般的なペリクルケースに収納することで、粘着剤層の平坦度が悪化し、このことがペリクル貼り付け時のマスクの変形や歪み、ひいてはパターンの変形や歪みをもたらしているという因果関係に着目し、かつ、それを明らかにしたケースは本発明者が最初である。
【0014】
さらに、本発明者は、ペリクル完成後に専用ペリクルケースに収納することなく、粘着剤層を専用ペリクルケースのトレイ部と非接触の状態で保持したペリクルは、マスクの歪みも小さいことを検証し、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明に係るリソグラフィ用ペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリは、粘着剤層の貼り付け面が前記専用ペリクルケースのトレイ部に接触しないようにトレイ部から浮かせた状態で保持して、前記専用ペリクルケース内に収納されることを特徴とするものであり、前記専用ペリクルケースのトレイ部から粘着剤層を浮かせた状態で保持する構造手段として、例えば、ペリクルフレーム外周部に切り欠き部(段差)又は突起物を設け、前記専用ペリクルケースのトレイ部にペリクルフレーム外周部の前記切り欠き部又は突起物をそれぞれ受けるような構造体を設置している。ペリクルの実用面を考慮し、現行のペリクル取出し装置(ペリクルオートマウンター)に対応させるため、長辺それぞれの2か所に設けられた既存の治具穴に干渉することなく、また、ペリクルを上方へ引き上げる際に抵抗にならないような構造体を設けることで、ペリクルオートマウンターにセッティングを変更する必要がなく、そのまま使用可能であって、従来の動作のまま、他の付加的な動作をすることなく、スムーズにペリクルを移動させて取り出すことができ、かつ、ペリクルの粘着剤層がトレイ部から非接触の浮かせた状態で収納可能な構造にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、完成したペリクルを専用ペリクルケースに収納する際、粘着剤層の保護シート(セパレーター)を貼り付けた貼り付け面が、専用ペリクルケースに接触しないように浮かせた状態で収納することで、粘着剤層のシート貼り付け面の平坦度を、ケース収納前と同じ状態に維持することができ、マスクにペリクルを貼り付けた際に、マスクの歪みへの影響を小さく抑えることができる高平坦リソグラフィ用ペリクルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリの1実施形態の概略断面図である。
【
図2】本発明に係るペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリの1実施形態の概略断面図である。
【
図3】粘着剤層の保護シート(セパレーター)を用いない場合の本発明に係るペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリの1実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。本発明によって収納されるリソグラフィ用ペリクルは、ペリクル完成後に専用ペリクルケースに収納しても、マスク貼り付け用粘着剤層の平坦度が悪化しないことを特徴とするものである。なお、
図1は、本発明に係るペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリ10の概略断面図であり、セパレーター3を設けている場合の実施形態、
図2は、本発明に係るペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリ10の概略断面図であり、ペリクルフレーム2の外側に出ない構造手段として切り欠き段差6を設けている場合の実施形態、
図3は、本発明に係るペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリ10の概略断面図であり、セパレーターを設けていない場合の実施形態を示している。
【0019】
上記特徴を達成するために、ペリクルフレーム2の外側面及び専用ペリクルケースのトレイ部9にそれぞれ特徴的な形状を持たせる必要がある。具体例として、ペリクルフレームには、専用ペリクルケースに収納する際、フレーム下端面の粘着剤層5の貼り付け面(下端面)を中空に浮かせた状態で安定することができるよう、フレームの外側面にオプションとして任意の突起物又は切り欠き部(段差)を設けることができる。その場合、専用ペリクルケースには、ペリクルを支える構造手段4として、前記フレームの突起物又は段差を受ける形状の構造物(構造手段)が必要になる。なお、
図1~3に示すように、前記専用ペリクルケースは、蓋部8とトレイ部9を備える。また、
図1~3において、符号1はペリクル膜を示す。
【0020】
粘着剤層を専用ペリクルケース内で浮かせた状態で設置する方法として、ペリクルフレームの外側面に複数の穴を設けて、該穴と係合して前記ペリクルフレームを支持する前記穴と同数の突起物とこれを支持する構造体からなる構造手段、例えばピン状の突起体を有する構造手段を専用ペリクルケースのトレイ部に設け、該構造手段を前記穴に差し込んで把持させることもできる。しかし、この場合、専用ペリクルケースからペリクルを取り出す動作に、ピンを抜く動作を追加する必要がある。現在、ペリクルを専用ペリクルケースから取り出す際は、ペリクルオートマウンターと呼ばれる専用装置を用いているため、従来の動作のまま、ペリクルの取出しができるペリクルフレーム及び専用ペリクルケースの構造体であることが求められている。この実情を考えると、本実施形態は実施に到るまでには時間がかかり、ベストモードとは言えない。
【0021】
本発明では、前記のような構造を持つペリクルフレームとその専用ペリクルケースを組み合わせること、すなわち、アセンブリ(assembly)とすることで、ペリクル完成後に専用ペリクルケースに収納しマスクへ貼り付けるまでの間、マスク貼り付け用粘着剤層の貼り付け面をトレイ部から浮かせて非接触状態に維持できるため、ペリクル完成直後の平坦度を完全に維持することができ、ペリクル貼り付け時に発生するマスク平坦面への歪み転移(Pellicle-Induced Distortion)を著しく低減させることができる。
【0022】
本発明において、リソグラフィ用ペリクルフレームの外側面の構造は、外周部への張り出しをできるだけ小さくすることが好ましい。そのため、マスク貼り付け用粘着剤層の塗布端面を小さくし、ペリクルフレームの外側に段差を設けることも意義あるオプションである。
【0023】
マスク貼り付け用粘着剤層を専用ペリクルケース内で浮かせて収納するためのペリクルフレームと専用ペリクルケースのトレイ部に設けられる構造手段(突起物、切り欠き部等)の形状、設置個数は、ペリクルをケース内部で十分に安定して固持できるものでなくてはならない。
【0024】
また、本発明で作成したペリクルは、専用ペリクルケースに収納した際、マスク貼り付け用粘着剤層が宙に浮いた状態を維持できるため、一般的に用いられているマスク貼り付け用粘着剤層保護シート(セパレーター)を廃止することができる。
【0025】
セパレーターを廃止した場合、材料、製造工数の削減だけでなく、セパレーターの脱着をする必要がなくなるため、また、マスク貼り付け用粘着剤層の貼り付け端面がペリクル完成直後の状態から全く力を受けないため、ペリクルをマスク貼り付け時に発生するマスク平坦面の歪みはさらに減少、安定することが期待できる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明の実施例について具体的に説明するが、実施例及び比較例は、マスクの例であるが、その結果は、レチクルについても同様に適用できることはいうまでもない。
【0027】
本発明の効果の評価は、次のように行った。先ず、貼り付けに使用するマスク基板の平坦度をTropel社のFlatMasterで測定し、次に、評価を受ける高平坦ペリクルをこのマスク基板に貼り付けて、同様にマスク基板の平坦度を測定し、貼り付け前と貼り付け後のマスク歪みの差(平坦度の差)を測定し、この差(貼付によるマスク歪み増加量)をそれぞれのペリクルの成績とした。
【0028】
[基準例]
また、本発明の効果を確認するための比較対象として、ケース未収納ペリクルのマスク貼り付け挙動の確認も行った(基準例)。
【0029】
すなわち、基準ペリクルフレームとして、フレーム外寸149mm×115mm×3.15mm(高さ)で、フレーム幅が2mmであり、その4つのコーナー部の形状が、外R5、内R3の曲線を描き、表面に黒色アルマイトを施し、フレーム平坦度9μmのフレームを用意した。このフレームを用いてペリクルを作成した。なお、粘着剤層を保護するセパレーターは設けなかった。
【0030】
次に、準備したマスクの平坦度をTropel社のFlatMasterで測定したところ、305nmであり、このマスク基板に上記の基準ペリクルを、重し5kg、30秒間の条件で貼り付けて再びマスク平坦度を測定したところ、340nmであった。すなわち、貼り付け前後のマスク基板の歪み差は35nmであった。
【0031】
[実施例1]
ペリクルフレームとして、フレーム外寸149mm×115mm×3.15mmで、フレーム幅が2mmであり、その4つのコーナー部の形状が外R5、内R3であり、表面に黒色アルマイトを施したフレーム2を準備した。このフレームの4つのコーナー部の外側面、下端面から1mmの部分に厚み1mm、R1となるような切り欠き段差(切り欠き部)6をそれぞれ設けた(
図2参照)。フレーム平坦度は8μmであった。このフレーム2を用いて、ペリクルを作成した。粘着剤層を保護するセパレーターは設けなかった(
図3参照)。完成したペリクルを専用のペリクルケースに収納した。該専用ペリクルケースのトレイ部9は、4つのコーナー部の外側面に設置された切り欠き段差6を受けて、粘着剤層を浮かせて収納できる、ペリクルを支える形状になっている構造体(ペリクルを支える構造手段)4を有している。
【0032】
次に、上記基準例で用いたのと同様の、準備したマスク(不図示)の平坦度をTropel社のFlatMasterで測定したところ、マスクの平坦度は301nmであった。前記専用ペリクルケースからペリクルを取り出し、このマスク基板に該ペリクルを、重し5kg、30秒間の条件で貼り付けて、再びマスク平坦度を測定したところ、337nmであった。すなわち、貼り付け前後のマスク基板の歪み差は36nmであった。
【0033】
[実施例2]
実施例1と同じ形状のフレーム2を準備し、このフレーム平坦度を測定したところ、7μmであった。実施例1と同じ要領でペリクルを作成し、最後に、セパレーター3を粘着剤層の貼り付け面に貼り付けた後、実施例1と同じ形状の専用ペリクルケースにペリクルを収納した。
次に、上記基準例で用いたのと同様の、準備したマスクの平坦度をTropel社のFlatMasterで測定したところ、マスクの平坦度は297nmであった。前記専用ペリクルケースからペリクルを取り出し、セパレーター3を剥離して、このマスク基板に該ペリクルを、重し5kg、30秒間の条件で貼り付けて再びマスク平坦度を測定したところ、336nmであった。すなわち、貼り付け前後のマスク基板の歪み差は39nmであった。
【0034】
[実施例3]
ペリクルフレームとして、フレーム外寸149mm×115mm×3.15mmで、フレーム幅が2mmであり、
図2にあるような切り欠き段差6をフレーム長辺中心部分からそれぞれ60mm付近の部分4か所に設け、4つのコーナー部の形状が外R5、内R3の黒色アルマイトを施したフレーム2を準備した。該フレームの平坦度を測定したところ、8μmであった。このフレーム2を用いて、ペリクルを作成した。粘着剤層5を保護するセパレーター3は設けなかった。完成したペリクルを専用ペリクルケースに収納した。該専用ペリクルケースのトレイ部9は、フレーム長辺に設けた4つの切欠き部分の段差6を受けることができ、粘着剤層を浮かせて収納できる構造手段4を有している。
次に、上記基準例で用いたのと同様の、準備したマスクの平坦度をTropel社のFlatMasterで測定したところ、マスクの平坦度は303nmであった。前記専用ペリクルケースからペリクルを取り出し、このマスク基板に該ペリクルを、重し5kg、30秒間の条件で貼り付けて、再びマスク平坦度を測定したところ、339nmであった。すなわち、貼り付け前後のマスク基板の歪み差は36nmであった。
【0035】
[実施例4]
実施例3と同じ形状のフレーム2を準備し、このフレーム平坦度を測定したところ、8μmであった。実施例3と同じ要領でペリクルを作成し、最後に、セパレーター3を粘着剤層の貼り付け面に貼り付けた後、実施例3と同じ形状の専用ペリクルケースにペリクルを収納した。
次に、上記基準例で用いたのと同様の、準備したマスクの平坦度をTropel社のFlatMasterで測定したところ、マスクの平坦度は299nmであった。前記専用ペリクルケースからペリクルを取り出し、セパレーターを剥離して、上記マスク基板に該ペリクルを、重し5kg、30秒間の条件で貼り付けて、再びマスク平坦度を測定したところ、337nmであった。すなわち、貼り付け前後のマスク基板の歪み差は、38nmであった。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同じ形状のフレームを準備し、このフレーム平坦度を測定したところ、7μmであった。実施例1と同じ要領でペリクルを作成し、最後に、セパレーターを粘着剤層の貼り付け面に貼り付けた後、一般的なペリクルケースに収納した。実施例1~4で使用したような専用ペリクルケースとは異なり、ペリクルトレイ部の載置台の部分にセパレーターで保護された粘着剤層が載る状態で収納された。
次に、上記基準例で用いたのと同様の、準備したマスクの平坦度をTropel社のFlatMasterで測定したところ、マスクの平坦度は305nmであった。前記ペリクルケースからペリクルを取り出し、セパレーターを剥離して、上記マスク基板に該ペリクルを、重し5kg、30秒間の条件で貼り付けて、再びマスク平坦度を測定したところ、367nmであった。すなわち、貼り付け前後のマスク基板の歪み差は62nmであった。
【0037】
表1は、以上の結果をまとめて示したものである。
【0038】
まず、「マスク粘着剤がトレイ部から浮いた状態」を採用した実施例群が、「マスク粘着剤層がトレイ部に載った状態」を採用した比較例1に比べ、ペリクル貼り付け時に発生するマスク平坦面への歪み転移量を大幅に低減したことは、本発明がもたらした顕著な進歩を示している。すなわち、マスク粘着剤層がトレイ部に接触することにより生じる粘着剤の平坦度の劣化が証明され、かつその有効な解決策が示された。
【0039】
次に、ケース収納をスキップした基準例に比べても、実施例1、3がほとんど同等の成績であったことは、本願発明の専用ペリクルケースとペリクルの組み合わせ(アセンブリ)が、セパレーターフリーのペリクルの収納を可能にする信頼性の高いケースの設計に成功したことを意味している。
【0040】
一方、実施例2と4は、セパレーターを装着した場合、すなわち、装着時の加圧により粘着剤層の平坦度に多少の劣化が生じた場合でも、「マスク粘着剤層がトレイ部から浮いた状態」にする専用ペリクルケースに収納するならば、それ以後の劣化はほとんど生じないことを証明している。
【0041】
また、実施例2と4は、セパレーターを装着することにより、セパレーターによる揮発防止と粉塵捕獲回避効果による粘着力保存効果を享受し、かつ粘着剤層がトレイ部に非接触であるので、トレイ部からの直接振動を回避することができ、以て高平坦度の維持を促進できるという優れた実施形態でもある。
【0042】
【0043】
上述したように、実施例1~4の結果から、ペリクルを専用ペリクルケースに収納する際、マスク粘着剤層の貼り付け端面を該ケースのトレイ部に接触させずに収納することで、粘着剤層の貼り付け端面が完成直後の優れた平坦度を維持したまま、マスクに貼り付けることができる。その結果、ペリクルをマスクに貼り付ける際のマスクの歪みを減少することができる。
【0044】
また、粘着剤層を保護する目的で使用されているセパレーターについても、使用しないことで、粘着剤層の貼り付け端面にかかる力を排除することができ、粘着剤層の貼り付け端面の平坦度をペリクル完成直後のフレーム平坦度のまま維持することができ、マスク貼り付け時の歪みの転移をさらに低減することができることを確認できた。
【0045】
本発明の実施例では、粘着剤層を浮かした状態で専用ペリクルケースに収納する構造手段として、ペリクルフレームにピンなどの突起体を差し込むような実施形態を実施しなかった。その理由は、現状使われているペリクルオートマウンターでの取り出し動作にそのまま対応できるように考慮した結果である。しかしながら、本願発明は、
図1や
図3で示されているような、ペリクルフレーム2をピン7などのように、フレーム外側面に設けた構造物を用いてペリクルを固定する実施形態もその範囲に含む。
【0046】
本発明の効果が得られるためには、ペリクルにおける必須要素と専用ペリクルケースにおける必須要素とが共存、協働することが求められるため、発明の主題をペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリとした。
【符号の説明】
【0047】
1 ペリクル膜
2 ペリクルフレーム
3 セパレーター
4 ペリクルを支える構造手段
5 粘着剤層
6 切り欠き段差(切り欠き部)
7 ペリクルを支える構造手段の一部としてのピン
8 専用ペリクルケースの蓋部
9 専用ペリクルケースのトレイ部
10 ペリクルとその専用ペリクルケースのアセンブリ