(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】電子銃、電子放出装置、及び電子銃の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20240226BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240226BHJP
H01J 9/18 20060101ALI20240226BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240226BHJP
H01J 3/02 20060101ALI20240226BHJP
H01J 1/148 20060101ALI20240226BHJP
H01J 1/46 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
H01J37/06 A
H01J37/06 Z
H01J37/305 B
H01J9/18 B
H01L21/30 541B
H01J3/02
H01J1/148
H01J1/46
(21)【出願番号】P 2019210713
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-10-06
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】317008610
【氏名又は名称】ニューフレアテクノロジー アメリカ,インク.
【氏名又は名称原語表記】NuFlare Technology America,Inc.
【住所又は居所原語表記】1294 Hammerwood Avenue,Sunnyvale,CA 94089,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクター カツァプ
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-015429(JP,A)
【文献】特開2011-146250(JP,A)
【文献】実開平03-109260(JP,U)
【文献】米国特許第04695773(US,A)
【文献】特開2014-216182(JP,A)
【文献】米国特許第06492647(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01J 9/18
H01L 21/027
H01J 3/02
H01J 1/148
H01J 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを供給するカソードと、
ボアが形成され、前記ボアが電子ビームを通すウェネルトと、
ボアが形成され、前記カソードの近傍に配置されるアノードと、
を備え、
前記ウェネルトのボアの直径と、前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセットとが所定の寸法関係を満たし、前記所定の寸法関係は、少なくとも前記アノードのボアの直径及び前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離の関係であり、
前記ウェネルトは、前記カソードと前記アノードとの間に配置され、
前記ウェネルトのボアの直径を用いて得られる値を、前記オフセットを用いて得られる値で割る第1の関数が、前記アノードのボアの直径
を用いた値と、前記ウェネルトと前記アノードとの
間の距離との加算値を用いる第2の関数よりも大き
く、
前記ウェネルトのボアの直径が1.4mm~2.5mmの範囲内であり、
前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセットが0.4mm~0.8mmの範囲内であり、
前記ウェネルトのアパーチャの厚さが0.15mm~0.30mmの範囲内であり、
前記所定の寸法関係は、
(D-A×Δ)
2
/S
a’
>B×(Ga+da/σ)
であり、
ここで、Dは前記ウェネルトのボアの直径、Sは前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセット、Aは0.6~1.2の範囲内の第1の所定の係数、Δは前記ウェネルトのアパーチャの厚さ、Bは0.028~0.068の範囲内の第2の所定の係数、Gaは前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離、daは前記アノードのボアの直径、σは11.5~12.5の範囲内の第3の係数、a’は1.05~1.115の範囲内の第4の係数であり、
前記ウェネルトに前記カソードの電位に対して負電位が印加される共に前記アノードに前記カソードの電位に対して正電位が印加され、
前記電子ビームのクロスオーバーを前記ウェネルトと前記アノードとの間に形成する、
ことを特徴とする電子銃。
【請求項2】
前記第1の所定の係数が0.9であり、前記第2の所定の係数が0.048であることを特徴とする請求項
1に記載の電子銃。
【請求項3】
前記カソードが六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶エミッタを含むことを特徴とする請求項1に記載の電子銃。
【請求項4】
前記六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶エミッタが(100)の結晶配向を有することを特徴とする請求項
3に記載の電子銃。
【請求項5】
前記カソードは、前記六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶エミッタの側面の外表面上に非放出性コーティングを更に備えることを特徴とする請求項
3に記載の電子銃。
【請求項6】
電子銃を備え、該電子銃は、
電子ビームを供給するように構成されるカソードと、
電子ビームを通すように構成されるボアが形成されたウェネルトと、
ボアが形成され、前記カソードの近傍に配置されるアノードと、
を含み、
前記ウェネルトのボアの直径及び前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセットが所定の寸法関係を満たし、前記所定の寸法関係は、少なくとも前記アノードのボアの直径及び前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離の関係であり、
前記ウェネルトは、前記カソードと前記アノードとの間に配置され、
前記ウェネルトのボアの直径を用いて得られる値を、前記オフセットを用いて得られる値で割る第1の関数が、前記アノードのボアの直径
を用いた値と、前記ウェネルトと前記アノードとの
間の距離との加算値を用いる第2の関数よりも大き
く、
前記ウェネルトのボアの直径が1.4mm~2.5mmの範囲内であり、
前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセットが0.4mm~0.8mmの範囲内であり、
前記ウェネルトのアパーチャの厚さが0.15mm~0.30mmの範囲内であり、
前記所定の寸法関係は、
(D-A×Δ)
2
/S
a’
>B×(Ga+da/σ)
であり、
ここで、Dは前記ウェネルトのボアの直径、Sは前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセット、Aは0.6~1.2の範囲内の第1の所定の係数、Δは前記ウェネルトのアパーチャの厚さ、Bは0.028~0.068の範囲内の第2の所定の係数、Gaは前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離、daは前記アノードのボアの直径、σは11.5~12.5の範囲内の第3の係数、a’は1.05~1.115の範囲内の第4の係数であり、
前記ウェネルトに前記カソードの電位に対して負電位が印加される共に前記アノードに前記カソードの電位に対して正電位が印加され、
前記電子ビームのクロスオーバーを前記ウェネルトと前記アノードとの間に形成する、
ことを特徴とする電子放出装置。
【請求項7】
前記第1の所定の係数が0.9であり、前記第2の所定の係数が0.048であることを特徴とする請求項
6に記載の電子放出装置。
【請求項8】
電子ビームを供給するカソードを用意するステップと、
前記カソードの近傍に、電子ビームを通すように構成されるボアが形成されたウェネルトを位置させるステップと、
前記カソードの近傍にボアが形成されたアノードを位置させるステップと、
を含み、
前記ウェネルトのボアの直径と、前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセットとが所定の寸法関係を満たし、前記所定の寸法関係は、少なくとも前記アノードのボアの直径及び前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離の関係であり、
前記ウェネルトは、前記カソードと前記アノードとの間に配置され、
前記ウェネルトのボアの直径を用いて得られる値を、前記オフセットを用いて得られる値で割る第1の関数が、前記アノードのボアの直径
を用いた値と、前記ウェネルトと前記アノードとの
間の距離との加算値を用いる第2の関数よりも大き
く、
前記ウェネルトのボアの直径が1.4mm~2.5mmの範囲内であり、
前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセットが0.4mm~0.8mmの範囲内であり、
前記ウェネルトのアパーチャの厚さが0.15mm~0.30mmの範囲内であり、
前記所定の寸法関係は、
(D-A×Δ)
2
/S
a’
>B×(Ga+da/σ)
であり、
ここで、Dは前記ウェネルトのボアの直径、Sは前記ウェネルトと前記カソードとの間のオフセット、Aは0.6~1.2の範囲内の第1の所定の係数、Δは前記ウェネルトのアパーチャの厚さ、Bは0.028~0.068の範囲内の第2の所定の係数、Gaは前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離、daは前記アノードのボアの直径、σは11.5~12.5の範囲内の第3の係数、a’は1.05~1.115の範囲内の第4の係数であり、
前記ウェネルトに前記カソードの電位に対して負電位が印加される共に前記アノードに前記カソードの電位に対して正電位が印加され、
前記電子ビームのクロスオーバーを前記ウェネルトと前記アノードとの間に形成する、
ことを特徴とする電子銃の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施態様は、電子銃、電子放出装置、及び電子銃の製造方法に関する。特に、安定したクロスオーバーサイズ及び位置を有し、それにより、電子銃のカソードの耐用年数を延ばす電子銃を提供する。
【背景技術】
【0002】
既存の電子ビーム(e-ビーム)リソグラフィ器具(例えば、リソグラフィ器具、プローブ、自由電子レーザ、及び、電子・イオン銃)及び特性化器具(例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM))は、焼結形態又は結晶形態の六ホウ化ランタン(LaB6)、六ホウ化セリウム(CeB6)から主に形成されるカソードを使用する。従来のBa系及びショットキー型のカソードとは異なり、LaB6カソードでは、放出するLaB6結晶サイズが動作中に減少する。結果として、カソード放出領域が周囲の非放出材料中に沈み込む。これらの現象はLaB6結晶損失と称される。結晶損失は、電子銃のアノードへと向かう銃クロスオーバー変位又はドリフトを引き起こす。更に、結晶損失に伴ってクロスオーバーサイズが増大する。クロスオーバー変位及びサイズ増大は、SEM、X線源、及び、e-ビームリソグラフィ機械などのe-ビームシステムにおいて、より大きな最終電子スポットサイズ及びより大きなビームぼやけをもたらす。典型的な動作温度(1650K~1900K(ケルビン))では、LaB6結晶材料が数ミクロン/100時間の割合で蒸発し、それにより、カソードの耐用年数が制限される。
【0003】
電子銃のカソードは、電子銃のクロスオーバーに対する結晶損失の影響に起因して短い寿命を有する。したがって、本発明者により認識される必要とされるものは、カソードの結晶損失に対する感度が低い電子銃である。
【0004】
前述の「背景」の記載は、一般に本開示の文脈を与える目的のものである。この背景の欄において記載される範囲内での発明者の研究、並びに、出願日に従来技術と別段見なし得ない記載の態様は、本発明に対する従来技術として明示的にも暗黙的にも認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の一態様は、カソードの耐用期間を延ばすことが可能な電子銃を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の電子銃は、
電子ビームを供給するカソードと、
ボアが形成され、ボアが電子ビームを通すウェネルトと、
ボアが形成され、カソードの近傍に配置されるアノードと、
を備え、
ウェネルトのボアの直径と、ウェネルトとカソードとの間のオフセットとが所定の寸法関係を満たし、所定の寸法関係は、少なくともアノードのボアの直径及びウェネルトとアノードとの間の距離の関係であり、
前記ウェネルトは、前記カソードと前記アノードとの間に配置され、
前記ウェネルトのボアの直径を用いて得られる値を、前記オフセットを用いて得られる値で割る第1の関数が、前記アノードのボアの直径を用いた値と、前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離との加算値を用いる第2の関数よりも大きい、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様の電子放出装置は、
電子銃を備え、当該電子銃は、
電子ビームを供給するように構成されるカソードと、
電子ビームを通すように構成されるボアが形成されたウェネルトと、
ボアが形成され、カソードの近傍に配置されるアノードと、
を含み、
ウェネルトのボアの直径及びウェネルトとカソードとの間のオフセットが所定の寸法関係を満たし、所定の寸法関係は、少なくともアノードのボアの直径及びウェネルトとアノードとの間の距離の関係であり、
前記ウェネルトは、前記カソードと前記アノードとの間に配置され、
前記ウェネルトのボアの直径を用いて得られる値を、前記オフセットを用いて得られる値で割る第1の関数が、前記アノードのボアの直径を用いた値と、前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離との加算値を用いる第2の関数よりも大きい、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様の電子銃の製造方法は、
電子ビームを供給するカソードを用意するステップと、
カソードの近傍に、電子ビームを通すように構成されるボアが形成されたウェネルトを位置させるステップと、
カソードの近傍にボアが形成されたアノードを位置させるステップと、
を含み、
ウェネルトのボアの直径と、ウェネルトとカソードとの間のオフセットとが所定の寸法関係を満たし、所定の寸法関係は、少なくともアノードのボアの直径及びウェネルトとアノードとの間の距離の関係であり、
前記ウェネルトは、前記カソードと前記アノードとの間に配置され、
前記ウェネルトのボアの直径を用いて得られる値を、前記オフセットを用いて得られる値で割る第1の関数が、前記アノードのボアの直径を用いた値と、前記ウェネルトと前記アノードとの間の距離との加算値を用いる第2の関数よりも大きい、
ことを特徴とする。
【0010】
また、上述したウェネルトのボアの直径は1.4mm~2.5mmの範囲内であると好適である。
【0011】
また、ウェネルトとカソードとの間のオフセットが0.4mm~0.8mmの範囲内であると好適である。
【0012】
また、ウェネルトのアパーチャの厚さが0.15mm~0.30mmの範囲内であると好適である。
【0013】
また、所定の寸法関係は、
(D-A×Δ)2/Sa’>B×(Ga+da/σ)
であり、
ここで、Dはウェネルトのボアの直径、Sはウェネルトとカソードとの間のオフセット、Aは0.6~1.2の範囲内の第1の所定の係数、Δはウェネルトのアパーチャの厚さ、Bは0.028~0.068の範囲内の第2の所定の係数、Gaはウェネルトとアノードとの間の距離、daはアノードのボアの直径、σは11.5~12.5の範囲内の第3の係数、a’は1.05~1.115の範囲内の第4の係数であると好適である。
また、前記ウェネルトに前記カソードの電位に対して負電位が印加される共に前記アノードに前記カソードの電位に対して正電位が印加され、
前記電子ビームのクロスオーバーを前記ウェネルトと前記アノードとの間に形成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、カソードの耐用期間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2A】実施の形態1に係るカソードの側断面図を示す概略図である。
【
図2B】実施の形態1に係る損傷したカソードの側断面図を示す概略図である。
【
図3A】実施の形態1に係るカソードの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す概略図である。
【
図3B】実施の形態1に係る損傷したカソードのSEM画像を示す概略図である。
【
図4A】実施の形態1に係る電子銃の電界及び電子ビームを示す概略図である。
【
図4B】実施の形態1に係る電子銃の加速空間の拡大図である。
【
図5】実施の形態1に係るe-ビームシステムを示す概略図である。
【
図6】実施の形態1に係る可変成形ビーム(VSB)リソグラフィシステムを示す概略図である。
【
図7】実施の形態1に係る電子銃のクロスオーバーの軸方向変位を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した課題を解決するための手段に記載した内容は、一般的な導入部として与えられるものであり、これにて発明の範囲を限定しようとするものではない。本願発明の実施形態は、更なる利点と共に、添付図面と併せて解釈される以下の詳細な説明を参照することによって最もよく理解され得る。
【0017】
本開示及びそれに付随する多くの利点のより完全な理解は、以下の詳細な説明を添付図面と関連して考慮して参照することによって得ることができる。
【0018】
実施の形態1.
ここで、幾つかの図の全体にわたって同様の参照数字が同一又は対応する部分を示す図面を参照すると、以下の説明は、電子銃、電子放出装置、及び、電子ビーム(e-ビーム)リソグラフィのための関連する方法に関する。本明細書中に記載される高輝度LaB6カソードを含む電子銃は、安定したクロスオーバーサイズ及び軸方向位置を有する。
【0019】
図1は、実施の形態1に係る電子銃100の概略図である。電子銃100は、カソード102と、ウェネルト104と、アノード106とを含む。カソード102は六ホウ化ランタン(LaB
6)結晶エミッタを含むと好適である。LaB
6結晶エミッタは(100)の結晶配向を有すると好適である。ウェネルト104は、電子ビームの放出軸に沿ってカソード102とアノード106との間に配置される。アノード106は接地される。ウェネルト104には電子ビームが通過するボア(ウェネルトボア:開口部)が形成される。アノード106には電子ビームが通過するボア(アノードボア:開口部)が形成される。電子銃100は電源に接続される。電子銃100は、ウェネルト104とカソード102との間のオフセット(ウェネルトカソードオフセット)S、ウェネルトボアが形成されたアパーチャ部分(ウェネルトアパーチャ)の厚さ(ウェネルトアパーチャ厚さ)Δ、ウェネルト104のボアの直径(ウェネルトボア直径)D、ウェネルト104とアノード106との間の距離(ウェネルトアノード距離)Ga、及び、アノードのボアの直径(アノードボア直径)daを有する。ウェネルトアパーチャ厚さΔは約0.15mm~約0.30mmの範囲内である。
【0020】
図2Aは、実施の形態1に係るカソード102の側断面図を示す概略図である。カソード102はエミッタ200を含む。カソード102はホルダ202(すなわち、支持体、ベース、エミッタホルダ)に保持される。ホルダ202はエミッタ200を空間内で安定に保持する。カソード102は、例えば、その開示内容の全体が参照により本願に組み入れられる「高輝度長寿命熱電子カソード及びその製造方法」と題される米国特許第9,165,737号に開示されるカソードであってもよい。
【0021】
実施の形態1において、エミッタ200を構成するLaB6結晶の上部は、円錐面204(側斜面)と、上部の上端に設けられる電子放出面206とを有する。エミッタ200の円錐角は、約20度~約90度の範囲内、例えば約20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85又は90度であってもよい。
【0022】
実施の形態1において、エミッタ200を構成するLaB
6結晶の側壁には、より高い仕事関数のために電子を放出しない非放出材料がコーティングされると好適である。コーティングは任意の適した材料から形成されてもよく、そのような材料の例としては、黒鉛、コロイド黒鉛(例えばアクアダッグ)、DLC(ダイヤモンド状カーボン)、熱分解カーボンなどが挙げられるが、これらに限定されない。カーボンコーティングの選択は、カソード生産コスト、蒸着を行なうために利用できる設備などを含むがこれらに限定されない幾つかの因子に依存し得る。なお、
図2Aと
図2Bの例では、LaB
6結晶の上部の円錐面204と、非放出材料との間に隙間が形成されるように製造される場合を示している。
【0023】
図2Bは、実施の形態1に係る損傷したカソード102の側断面図を示す概略図である。動作温度において、LaB
6は、温度及び真空圧に依存する速度で、通常は約4ミクロン/100時間の速度で蒸発する。蒸発は、本体の形状を著しく変化させない。これは結晶の本体のサイズが約200μm~800μmだからである。しかしながら、より小さい直径を有するチップ(例えば、50μm)は、損失によってより大きく影響され、これが本明細書中で既に説明したようにカソード光学素子及び放出に悪影響を及ぼす。
【0024】
図3Aは、
図2Aの新品のカソード(動作時間がゼロ)のSEM画像を示す。
図3Bは、数百時間の動作後のカソードに対する損傷を示す。
図3Bのように、錐体の放出面の縁が部分的に損傷されている(例えば、凹んでいる及び/又は食刻されている)ように見える。放出面のこれらの領域は、損なわれており、もはや本明細書中で後述するような集束態様で電子を効率的に放出することができない。
【0025】
図4Aは、実施の形態1に係る電子ビーム400及び電界分布402を示す概略図である。カソード102が加熱されるときに電子がカソード102から放出され、カソード102に対してプラスの高電位がアノード106に印加され(例えば数キロボルト)、及び、カソード102に対してマイナスの電位がウェネルト104に印加される(例えば数百ボルト)。カソード102により放出される電子は、ウェネルト/アノード加速空間内へ引き込まれる。カソード102から放出される電子ビーム400の分布及びカソード102付近の電界分布402が
図4A及び
図4Bに示される。ウェネルトアノード加速空間の拡大図が
図4Bに示される。イマージョン対物レンズとして知られるカソードレンズは、
図4A及び
図4Bに示されるようにクロスオーバーXoを形成する。
【0026】
クロスオーバーXoの位置及びサイズは、カソード温度、放出電流、及び、アノード106及びウェネルト104に印加される電圧(具体的には、ウェネルト104に印加される電圧)の関数である。
【0027】
カソード102から放出される電子は、アノード106へ向けて進む電子ビーム400になるように加速電圧によって加速される。その後、電子ビーム400は、アノード106の開口(すなわち、ボア)を通過する。その後、電子ビーム400は電子銃100から放出される。
【0028】
SEM、X線機器、及び、ガウスe-ビームリソグラフィシステムなどのe-ビーム機器において、クロスオーバーXoは、レンズ系(例えば、静電レンズ及び/又は磁気レンズ)を使用して試料(標的)上に結像される。機器分解能はレンズ系によって規定される。
【0029】
図5は、実施の形態1に係るe-ビームシステム508を示す概略図である。クロスオーバー500は、レンズ系502を使用して標的506上へ結像される。クロスオーバー500の像がクロスオーバー像504である。
【0030】
図6は、実施の形態1に係る可変成形ビーム(VSB)リソグラフィシステム600を示す概略図である。VSBリソグラフィシステム600では、レンズ系606(例えば、静電レンズ、及び/又は磁気レンズ)を使用してクロスオーバー602のクロスオーバー像604が対物レンズ608(例えば、レンズ系)の後焦点面で形成される。リソグラフィシステム600におけるクロスオーバーXoのサイズは収束角を規定する。収束角は、標的610でのビームぼやけを規定する。
【0031】
LaB6結晶損失が経時的に蓄積するにつれて、結晶のサイズが減少し、本明細書中で既に説明したように放出面が周囲材料中に沈み込む。この寸法変化は、熱電子放出電流減少をもたらすカソード電界変化を引き起こす。
【0032】
熱電子放出電流が電子回路によって安定化されてもよい。バイアス電圧とも呼ばれるウェネルト電圧は、所望の放出レベルを維持するように減少される。より低いウェネルト電圧はイマージョン対物レンズを弱体化させ、その結果、クロスオーバーXoのサイズが増大する。更に、クロスオーバーXoがアノード106に更に近づくように移動する。クロスオーバー移動はクロスオーバー軸方向変位とも称される。
【0033】
図7は、実施の形態1に係るe-ビームシステム508におけるクロスオーバーXoのサイズ及び位置の変化を示す概略図である。クロスオーバーXoはアノード106(CL1)へ向けて(
図7では位置Aから位置Bへと)移動する。加えて、クロスオーバーXoの直径が増大する。
【0034】
レンズ(又は複数のレンズ)光学倍率Mが以下のように規定されてもよい。
M=b/a (1)
ここで、「b」は、レンズ系502と標的506との間の距離であり、「a」は、クロスオーバーXoの位置とレンズ系502との間の距離である。レンズ光学倍率Mは、クロスオーバーXoの位置がアノード106へ向けて移動する(すなわち、距離「a」が減少する)ときに増大する。レンズ光学倍率Mの増大は、クロスオーバーの像のサイズ(例えば、
図7では像X1のサイズ)の急激な増大を引き起こす。より大きな像X1は、e-ビーム機器の分解能の損失を意味する。同様に、より大きな像X1は、VSB器具において、より大きなビームぼやけをもたらす。レンズ光学倍率Mが閾値を超えた時点で、カソード102を交換しなければならない。
【0035】
本明細書中に記載される電子銃及び関連する方法は、安定したクロスオーバーを有する。クロスオーバーXoのサイズは、結晶損失によって殆ど影響されない。更に、クロスオーバー軸方向変位が低減される。したがって、カソード動作寿命が延びる。更に、ガウス器具/e-ビーム器具において分解能が向上され、VSB器具においてビームぼやけが減少される。
【0036】
電子銃100のウェネルトボア直径D及びウェネルトカソードオフセットSは所定の基準を満たす。第1に、ウェネルトボア直径Dは第1の所定の範囲から選択される。例えば、ウェネルトボア直径Dは約1.4mm~2.5mmの範囲内で選択されると好適である。第2に、ウェネルトカソードオフセットSは第2の所定の範囲から選択される。例えば、第2の所定の範囲は約0.4mm~約0.8mmの範囲内で選択されると好適である。更に、ウェネルトボア直径D及びウェネルトカソードオフセットSは所定の寸法関係を満たす。
【0037】
ウェネルトボア直径D及びウェネルトカソードオフセットSは、ウェネルトアノード距離Ga及びアノードボア直径daの関数である。
【0038】
実施の形態1において、所定の寸法関係は、
(D-A×Δ)2/Sa’>B×(Ga+da/σ) (2)
によって与えられる。
ここで、a’=1.05~1.115の範囲内、σ=11.5~12.5の範囲内、Δ=0.15~0.30mmの範囲内、Aは第1の所定の係数、Bは第2の所定の係数である。
【0039】
実施の形態1において、第1の所定の係数Aは、約0.6~約1.2の範囲内、約0.7~約1.1の範囲内、又は、約0.8~約1の範囲内、例えば、約0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1、1.05又は1である。
【0040】
実施の形態1において、第2の所定の係数Bは、約0.028~約0.068の範囲内、又は、約0.038~約0.058の範囲内、例えば、約0.038、0.040、0.042、0.044、0.046、0.048、0.050、0.052、0.054、0.056又は0.058である。
【0041】
実施の形態1では、第1の所定の係数Aが例えば0.9から約10%内を用いる。また、第2の所定の係数Bが例えば0.048から約10%内を用いる。
【0042】
実施の形態1では、第1の所定の係数Aが例えば0.9であり、第2の所定の係数Bが例えば0.048である。
【0043】
また、本開示は、本実施の形態1中に記載される電子銃を形成するための方法も提供する。
【0044】
方法は、電子ビームを供給するように構成されるカソードを用意し、電子ビームを通すように構成されるボアが形成されたウェネルトを用意し、ウェネルトとカソードとの間のオフセットを特定し(例えば、方程式(2)を適用し)、特定されたオフセットでカソードの近傍にウェネルトを位置させ、カソードの近傍にアノードを位置させることを含む。ウェネルトのボアの直径及びウェネルトとカソードとの間のオフセットは所定の寸法関係を満たす。所定の寸法関係は、少なくともアノードのボアの直径及びウェネルトとアノードとの間の距離の関数である。
【0045】
本明細書中に記載されるウェネルトボア及びウェネルトカソードオフセットを選択するための方法は、より強力なイマーション対物レンズを形成することによってクロスオーバーXoのサイズ増大及び軸方向変位を大きく制限する。より強力なイマージョン対物レンズは、周囲材料中への結晶放出面の沈み込みの減少など、結晶損失(例えば、LaB6損失)及び関連する幾何学的変化に対する感度が低い。
【0046】
本実施の形態1中に記載される電子銃の能力を明らかにするために、典型的な結果が与えられる。
【0047】
ここでは、実験のために3つの電子銃が製造された。最初の電子銃は従来の形態(本実施の形態1中では形態1と称される)を有する。他の2つの電子銃(本実施の形態1中では形態2,3と称される)は、本実施の形態1中に記載される方法を使用して設計された。言い換えると、ウェネルトアノード距離Ga及びアノードボア直径daが本実施の形態1中に記載される基準を満たす。電子銃は、クロスオーバー直径及び軸方向変位に関して比較された。
【0048】
表1は、3つの電子銃に関する寿命期間中における電子銃クロスオーバー(Xo)、直径D、及び、軸方向位置移動を示す。55μmの直径を有するカソードが3つの全ての典型的な電子銃において使用される。カソードは、直径が45μmに達してカソードが10μmだけ沈み込むときに損傷したと見なされる。
【0049】
表1は、実験結果が本実施の形態1中に記載される数学モデルと良好に一致していることを示している。形態1(従来の形態)を有する電子銃に関しては、クロスオーバーサイズが25.6μmから29.3μmまで増大した。クロスオーバーXoの位置は27.9mm(新品のカソード)から48.6mm(損傷したカソード)へと変化した。既に説明したように、クロスオーバーのサイズ及び位置の変化は、システムにおいてクロスオーバー像の直径の増大をもたらす。そのような増大はカソードを使用できなくする。本実施の形態1中に記載される電子銃(形態2及び形態3)では、クロスオーバーのサイズ増大が従来の形態と比べて非常に小さいことがわかる。更に、軸方向変位が減少されることがわかる。本実施の形態1中に記載される電子銃は5.6mm未満の軸方向変位を有する。これに対し、従来の形態を有する電子銃は20mmの軸方向変位を有する。
【0050】
【0051】
本開示の特徴は、電子銃の分野で多くの改善をもたらす。特に、本明細書中に記載される電子銃は、e-ビーム機器の分解能を向上させてVSB器具のビームぼやけを減少させつつ、カソードの動作寿命を延ばす。
【0052】
明らかに、先の教示内容に照らして多くの変更及び変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、本明細書中に具体的に記載される方法以外の方法で本発明が実施されてもよいことが理解されるべきである。
【0053】
したがって、前述の議論は、本発明の単なる典型的な実施形態を開示して説明する。当業者であれば分かるように、本発明は、その思想又は本質的特徴から逸脱することなく他の特定の形態で具現化されてもよい。そのため、本発明の開示は、単なる例示であって、本発明の範囲及び他の特許請求項を限定しようとするものではない。本明細書中の教示内容の任意の容易に認識できる変形を含む本開示は、一部において、発明の主題が公にならないように、前述の特許請求項の用語の範囲を規定する。
【0054】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0055】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0056】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのカソード形成方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
100 電子銃
102 カソード
104 ウェネルト
106 アノード
200 エミッタ
204 円錐面
206 電子放出面
400 電子ビーム
402 電界分布
508 e-ビームシステム
500 クロスオーバー
502 レンズ系
504 クロスオーバー像
506 標的
600 可変成形ビーム(VSB)リソグラフィシステム
602 クロスオーバー
604 クロスオーバー像
606 レンズ系
608 対物レンズ