(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】レーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/04 20140101AFI20240226BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
B23K26/04
G05B19/404 J
(21)【出願番号】P 2020042973
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 浄
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-203375(JP,A)
【文献】特表2008-532766(JP,A)
【文献】特開2005-246392(JP,A)
【文献】国際公開第2013/140993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー加工装置であって、
被加工物を保持するチャックテーブルと、
該チャックテーブルに保持された被加工物をレーザー加工するレーザービーム照射ユニットと、
該チャックテーブルと該レーザービーム照射ユニットとを相対的に移動させる移動ユニットと、
該被加工物に対してレーザービームを照射したい領域である加工予定形状を座標位置で記憶する記憶ユニットと、
該記憶ユニットが記憶する該加工予定形状
の該座標位置の軌跡に従って該移動ユニット
で該レーザービーム照射ユニットに対して該チャックテーブルを移動させ
ている間、該チャックテーブルの実際の座標位置と
、該記憶ユニットが記憶する該座標位置との
間のズレ量である偏差を算出する算出ユニットと、を備え、
該レーザービーム照射ユニットは、
レーザービームを発振するレーザー発振器と、
該レーザー発振器から発振されたレーザービームを集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器と、
該レーザー発振器と該集光器との間に配設され、該レーザー発振器から発振されたレーザービームの進行方向を所望の方向に変更するレーザービーム走査ユニットと、を含み、
該レーザービーム走査ユニットを制御し
て、該記憶ユニットが記憶する座標位置の軌跡に従って該移動ユニットで該レーザービーム照射ユニットに対して該チャックテーブルを移動させている間、該算出ユニットで算出された該偏差を打ち消すように該レーザービームの進行方向を変更させる制御ユニットを更に備えることを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
該レーザービーム照射ユニットにおいて、
該レーザー発振器は、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザービームを発振し、
該集光器のNAは、0.3以上0.8以下であることを特徴とする、請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
該チャックテーブルの位置を検出する位置検出ユニットをさらに備え、
該算出ユニットは、該位置検出ユニットから取得した該チャックテーブルの実際の座標位置と、該記憶ユニットから取得した該チャックテーブルの加工予定形状の座標位置とに基づいて、該ズレ量である該偏差を算出し、
該制御ユニットは、該算出ユニットから該偏差が直接入力されて、該レーザービーム走査ユニットを制御する回路基板である請求項1又は請求項2に記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器のデザインの多様化に伴い、矩形以外の形状のディスプレイパネルや、曲面を有するディスプレイパネルが登場している。また、ディスプレイパネルの形状の多様化に合わせて、筐体に使用されるガラスの形状も多用化している。ガラスや石英等の硬くてもろい難加工材として知られる材料を所望の形状に加工するために、被加工物に対して透過性を有する波長のパルス状のレーザービームを照射してシールドトンネルを形成し、エッチングによりシールドトンネルを除去することで所望の形状を有する成形品を製造する加工方法が提案されている。
【0003】
上記したシールドトンネルの形成及び除去による方法では、X軸およびY軸上に載置されたチャックテーブルで被加工物を保持し、X軸およびY軸を同期させてチャックテーブルを移動させながら被加工物にレーザービームを照射することで所望の形状での加工を実現している。これらのX軸およびY軸は、モータにより動作しており、モータ自体で偏差の制御が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、上記したシールドトンネルの形成及び除去による方法のような微細加工では、軸動作による偏差をゼロに近付けるのは非常に困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸動作による偏差を限りなくゼロに近付け、高精度な加工を実現できるレーザー加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のレーザー加工装置は、レーザー加工装置であって、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物をレーザー加工するレーザービーム照射ユニットと、該チャックテーブルと該レーザービーム照射ユニットとを相対的に移動させる移動ユニットと、該被加工物に対してレーザービームを照射したい領域である加工予定形状を座標位置で記憶する記憶ユニットと、該記憶ユニットが記憶する該加工予定形状の該座標位置の軌跡に従って該移動ユニットで該レーザービーム照射ユニットに対して該チャックテーブルを移動させている間、該チャックテーブルの実際の座標位置と、該記憶ユニットが記憶する該座標位置との間のズレ量である偏差を算出する算出ユニットと、を備え、該レーザービーム照射ユニットは、レーザービームを発振するレーザー発振器と、該レーザー発振器から発振されたレーザービームを集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器と、該レーザー発振器と該集光器との間に配設され、該レーザー発振器から発振されたレーザービームの進行方向を所望の方向に変更するレーザービーム走査ユニットと、を含み、該レーザービーム走査ユニットを制御して、該記憶ユニットが記憶する座標位置の軌跡に従って該移動ユニットで該レーザービーム照射ユニットに対して該チャックテーブルを移動させている間、該算出ユニットで算出された該偏差を打ち消すように該レーザービームの進行方向を変更させる制御ユニットを更に備えることを特徴とする。
【0008】
該レーザービーム照射ユニットにおいて、該レーザー発振器は、被加工物に対して透過性を有する波長のレーザービームを発振し、該集光器のNAは、0.3以上0.8以下であるとしてもよい。また、該チャックテーブルの位置を検出する位置検出ユニットをさらに備え、該算出ユニットは、該位置検出ユニットから取得した該チャックテーブルの実際の座標位置と、該記憶ユニットから取得した該チャックテーブルの加工予定形状の座標位置とに基づいて、該ズレ量である該偏差を算出し、該制御ユニットは、該算出ユニットから該偏差が直接入力されて、該レーザービーム走査ユニットを制御する回路基板であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、軸動作による偏差を限りなくゼロに近付け、高精度な加工を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態に係るレーザー加工装置の構成例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のレーザー加工装置の要部の機能構成の一例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、
図2のレーザービーム走査ユニットの構成例を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係るレーザー加工装置の作用効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0012】
〔実施形態〕
本発明の実施形態に係るレーザー加工装置1を図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態に係るレーザー加工装置1の構成例を示す斜視図である。
図2は、
図1のレーザー加工装置1の要部の機能構成の一例を模式的に示す図である。実施形態に係るレーザー加工装置1は、
図1に示すように、チャックテーブル10と、レーザービーム照射ユニット20と、移動ユニット30と、記憶ユニット40と、算出ユニット50と、制御ユニット60と、装置制御部70と、を備える。レーザー加工装置1は、チャックテーブル10に保持された被加工物100に、レーザービーム照射ユニット20によりレーザービーム25(
図2参照)を照射してレーザー加工して、被加工物100にシールドトンネルを形成する装置である。レーザー加工装置1は、本実施形態では、内径が1μm程度の細孔と、細孔を囲繞する外径が5μm程度の非晶質とを有するシールドトンネルを、互いに隣接するシールドトンネルの中心同士の間隔を10μm程度開けて、形成する。なお、レーザー加工装置1は、本発明ではこれに限定されず、被加工物100の内部に改質層を形成する装置でもよいし、被加工物100の表面をアブレーション加工して加工溝を形成する装置でもよい。
【0013】
レーザー加工装置1のレーザー加工対象である被加工物100は、例えば、ガラスや石英、セラミックス等の硬くてもろい難加工材で構成された円板状の材料である。被加工物100は、少なくとも一方の面が平坦に形成されている。また、本発明では、被加工物100は、シリコン、サファイア、ガリウムヒ素などを母材とする円板状の半導体ウエーハや光デバイスウエーハなどのウエーハでも良い。
【0014】
チャックテーブル10は、保持面11で被加工物100の平坦な面を保持する。チャックテーブル10は、被加工物100を保持する平坦な保持面11が上面に形成されかつ多数のポーラス孔を備えたポーラスセラミック等から構成された円盤形状の吸着部と、吸着部を上面に固定する固定部とを備えた円盤形状である。保持面11は、水平面であるXY平面に平行に形成されている。チャックテーブル10は、吸着部が、図示しない真空吸引経路を介して図示しない真空吸引源と接続され、保持面11全体で、被加工物100を吸引保持する。
【0015】
レーザービーム照射ユニット20は、
図1に示すように、レーザー加工装置1の本体2に固定して設けられている。レーザービーム照射ユニット20は、
図2に示すように、レーザー発振器21と、集光器22と、レーザービーム走査ユニット23と、を備える。レーザー発振器21は、所定の波長のレーザービーム25を発振する。レーザー発振器21は、本実施形態では、被加工物100に対して透過性を有する波長のレーザービーム25を発振する。また、レーザー発振器21は、本実施形態では、パルス状のレーザービーム25を発振する。
【0016】
集光器22は、レーザー発振器21から発振されたレーザービーム25を集光して、チャックテーブル10に保持された被加工物100に向けて照射する。集光器22は、本実施形態では、例えば集光レンズである。集光器22の開口数(Numerical Aperture、NA)は、本実施形態では、0.3以上0.8以下である。本実施形態では、集光器22のNAが0.3以上であるので、レーザービーム25で被加工物100を改質して形成したシールドトンネルが十分にエッチングされやすい。また、本実施形態では、集光器22のNAが0.8以下であるので、レーザービーム25により被加工物100にクラックが発生して抗折強度が低下してしまう可能性が十分に抑制される。
【0017】
レーザービーム走査ユニット23は、レーザービーム25の光路上において、レーザー発振器21と集光器22との間に配設され、制御ユニット60の制御を受けて、レーザー発振器21から発振されたレーザービーム25の進行方向を所望の方向に変更する。レーザービーム走査ユニット23は、本実施形態では、レゾナントスキャナ、ガルバノスキャナや音響光学素子(Acousto-Optic Deflector、AOD)である。レーザービーム走査ユニット23の具体的な構成例は、後述する。
【0018】
レーザービーム照射ユニット20は、レーザー発振器21で発振し、レーザービーム走査ユニット23で進行方向を所望の方向に変更したレーザービーム25を集光器22で集光し、チャックテーブル10に保持された被加工物100に向けて照射することで、被加工物100をレーザー加工して、被加工物100にシールドトンネルを形成する。
【0019】
図3は、
図2のレーザービーム走査ユニット23の構成例を示す斜視図である。レーザービーム走査ユニット23は、本実施形態では、
図3に示すような構成を有する。具体的には、レーザービーム走査ユニット23は、
図3に示すように、ベース部231と、このベース部231に固定されるシャフト232と、このシャフト232の先端部に台座233を介して支持される走査用ミラー234と、を備える。レーザービーム走査ユニット23は、一般的に共振スキャナと呼ばれるものであり、走査用ミラー234をシャフト232の軸周りに共振運動させることにより走査を行う。
【0020】
ベース部231は、シャフト232及び走査用ミラー234を保持するものであり、レーザービーム照射ユニット20の内部の所定の設置箇所に固定可能に構成されている。シャフト232は、ベース部231に立てた状態で固着されている。シャフト232は、シャフト232の軸心241に直交する方向に延びる腕部235を備える。この腕部235は、軸心241を挟んで一直線上に位置する先端部235-1,235-2を備え、各先端部235-1,235-2は、それぞれ軸心241から等距離の位置に設けられている。
【0021】
また、レーザービーム走査ユニット23は、シャフト232を介して、走査用ミラー234を軸心241周りに共振運動させる駆動部238を備えている。駆動部238は、例えば、上記した腕部235にそれぞれ空間を空けて巻き付けられる不図示のコイルと、これらコイルに交流電力を印加する不図示の電源部と、腕部235の先端部235-1,235-2にそれぞれ配置される不図示の磁石とを備えて構成される。
【0022】
駆動部238は、これらコイルに所定の周波数(励振周波数)の交流電力を印加すると、腕部235の先端部235-1,235-2に生じた磁極と磁石の磁力とにより、シャフト232を軸心241を中心に周方向(矢印242方向)に共振(励振)させる。このため、シャフト232に固定されている走査用ミラー234は、
図3に示すように、走査用ミラー234の幅方向に延びる腕部235の方向が、軸心241を中心に共振(励振)する。
【0023】
移動ユニット30は、
図1に示すように、X軸移動ユニット31と、Y軸移動ユニット32とを備える。X軸移動ユニット31は、レーザービーム照射ユニット20に対してチャックテーブル10を相対的に水平方向の一方向であるX軸方向に移動させる。Y軸移動ユニット32は、レーザービーム照射ユニット20に対してチャックテーブル10を相対的に水平方向の別の一方向でありX軸方向に直交するY軸方向に移動させる。このように、移動ユニット30は、X軸移動ユニット31及びY軸移動ユニット32により、XY平面内で、チャックテーブル10とレーザービーム照射ユニット20とを相対的に移動させることで、チャックテーブル10上の被加工物100における、レーザービーム照射ユニット20によるレーザービーム25の照射位置を移動させる。
【0024】
X軸移動ユニット31及びY軸移動ユニット32は、軸心回りに回転自在に設けられた周知のボールねじ、ボールねじを軸心回りに回転させる周知のパルスモータ、及び、チャックテーブル10をX軸方向またはY軸方向に移動自在に支持する周知のガイドレールを備える。
【0025】
また、レーザー加工装置1は、
図2に示すように、チャックテーブル10のX軸方向の位置を検出するためのX軸方向位置検出ユニット33と、チャックテーブル10のY軸方向の位置を検出するためのY軸方向位置検出ユニット34と、を備える。X軸方向位置検出ユニット33及びY軸方向位置検出ユニット34は、X軸方向またはY軸方向と平行なリニアスケールと、X軸移動ユニット31またはY軸移動ユニット32によりX軸方向またはY軸方向に移動自在に設けられリニアスケールの目盛を読み取る読み取りヘッドと、により構成することができる。X軸方向位置検出ユニット33及びY軸方向位置検出ユニット34は、読み取りヘッドが読み取ったリニアスケールの目盛を示す情報を、チャックテーブル10のX軸方向の位置またはY軸方向の位置を示す情報として算出ユニット50に出力する。
【0026】
記憶ユニット40は、被加工物100に対してレーザービーム25を照射したい領域である加工予定形状を座標位置で記憶する。具体的には、記憶ユニット40は、本実施形態では、加工予定形状に沿ってレーザービーム照射ユニット20に対して被加工物100を保持するチャックテーブル10を移動させるときの、チャックテーブル10のX軸方向の位置の軌跡及びY軸方向の位置の軌跡を、それぞれX座標及びY座標で表される座標位置の軌跡として記憶する。記憶ユニット40は、算出ユニット50と情報通信可能に電気的に接続されている。
【0027】
記憶ユニット40は、本実施形態では、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリなどを含む。
【0028】
算出ユニット50は、加工予定形状で移動ユニット30を移動させたときの、移動ユニット30の実際の座標位置と加工予定形状の座標位置とのズレ量である偏差を算出する。具体的には、算出ユニット50は、本実施形態では、記憶ユニット40が記憶する座標位置の軌跡に従って移動ユニット30でレーザービーム照射ユニット20に対してチャックテーブル10を移動させている間、連続的にあるいは微小時間ごとに、チャックテーブル10の実際の座標位置と、記憶ユニット40が記憶する座標位置との間のズレ量である偏差を算出する。
【0029】
算出ユニット50は、本実施形態では、
図2に示すように、X軸方向モータコントローラ51と、Y軸方向モータコントローラ52と、を備えて構成される。X軸方向モータコントローラ51は、X軸方向位置検出ユニット33から取得したチャックテーブル10の実際のX軸方向の座標位置と、記憶ユニット40から取得したチャックテーブル10の設定上のX軸方向の座標位置とに基づいて、X軸方向のズレ量であるX軸方向の偏差を算出し、制御ユニット60に出力する。Y軸方向モータコントローラ52は、Y軸方向位置検出ユニット34から取得したチャックテーブル10の実際のY軸方向の座標位置と、記憶ユニット40から取得したチャックテーブル10の設定上のY軸方向の座標位置とに基づいて、Y軸方向のズレ量であるY軸方向の偏差を算出し、制御ユニット60に出力する。
【0030】
X軸方向モータコントローラ51及びY軸方向モータコントローラ52は、それぞれ、それら自体が、X軸方向及びY軸方向の偏差を自動で打ち消す機能を有している。X軸方向モータコントローラ51及びY軸方向モータコントローラ52は、それぞれ、それら自体が備えている偏差を打ち消す機能により打ち消せなかった分のX軸方向及びY軸方向の偏差を算出し、制御ユニット60に出力する。
【0031】
制御ユニット60は、レーザービーム走査ユニット23を制御し、算出ユニット50で算出された偏差を打ち消すようにレーザービーム25の進行方向を変更させる。制御ユニット60は、本実施形態では、駆動部238の電源部を制御して、駆動部238のコイルに交流電力を印加して、腕部235の方向を軸心241を中心に共振(励振)させて、走査用ミラー234をシャフト232の軸周りに共振運動させることにより、レーザービーム走査ユニット23の走査を制御する。制御ユニット60は、記憶ユニット40が記憶する座標位置の軌跡に従って移動ユニット30でレーザービーム照射ユニット20に対してチャックテーブル10を移動させている間、連続的にあるいは微小時間ごとに、算出ユニット50で算出された偏差を算出ユニット50より取得し、この偏差を打ち消すようにレーザービーム25の進行方向を変更させる。
【0032】
制御ユニット60は、本実施形態では、回路基板である。このため、制御ユニット60は、算出ユニット50を構成するX軸方向モータコントローラ51及びY軸方向モータコントローラ52から直接、X軸方向及びY軸方向の偏差が入力されるので、算出ユニット50による偏差の算出からレーザービーム走査ユニット23の制御までの処理時間が短くなり、偏差の発生に対するレーザービーム25の進行方向の変更までの応答性が向上する。これにより、制御ユニット60は、レーザー加工処理中にリアルタイムで、チャックテーブル10上の被加工物100におけるレーザービーム25の照射位置を補正することを可能にする。
【0033】
装置制御部70は、レーザー加工装置1を駆動する各機構を制御する。装置制御部70は、レーザー加工装置1の各部を制御し、レーザー加工装置1によるレーザー加工処理を実現する。装置制御部70は、例えばオペレータにより入力設定された加工予定形状に従って、移動ユニット30(X軸移動ユニット31及びY軸移動ユニット32)を制御し、チャックテーブル10とレーザービーム照射ユニット20とを相対的にX軸方向またはY軸方向に移動させることで、加工予定形状に沿った被加工物100のレーザー加工処理を実現する。
【0034】
装置制御部70は、コンピュータシステムを含む。装置制御部70は、CPU(central processing unit)のようなマイクロプロセッサを有する演算処理装置と、ROM又はRAMのようなメモリを有する記憶装置と、入出力インターフェース装置とを有する。演算処理装置は、記憶装置に記憶されているコンピュータプログラムに従って演算処理を実行して、レーザー加工装置1を制御するための制御信号を、入出力インターフェース装置を介してレーザー加工装置1の各構成要素に出力する。装置制御部70の機能は、演算処理装置が記憶装置に記憶されているコンピュータプログラムを実行することで実現される。
【0035】
以上のような構成を有する実施形態1に係るレーザー加工装置1の動作について、以下に説明する。レーザー加工装置1は、装置制御部70で制御した移動ユニット30により、チャックテーブル10とレーザービーム照射ユニット20とを相対的に加工予定形状に沿って移動させながら、レーザービーム照射ユニット20によりチャックテーブル10に保持された被加工物100にレーザービーム25を照射してレーザー加工することで、加工予定形状に沿って被加工物100にシールドトンネルを形成する。
【0036】
レーザー加工装置1は、移動ユニット30によりチャックテーブル10とレーザービーム照射ユニット20とを相対的に加工予定形状に沿って移動させている間、算出ユニット50により、連続的にあるいは微小時間ごとに、チャックテーブル10の実際の座標位置と、記憶ユニット40が記憶する座標位置との間のズレ量である偏差を算出する。レーザー加工装置1は、制御ユニット60で制御したレーザービーム走査ユニット23により、算出ユニット50で算出された偏差を打ち消すようにレーザービーム25の進行方向を変更させることで、軸動作による偏差を限りなくゼロに近付けて、チャックテーブル10上の被加工物100におけるレーザービーム25の照射位置を加工予定形状に沿った位置に限りなく近づける補正をする。レーザー加工装置1は、制御ユニット60で制御するレーザービーム走査ユニット23が、走査用ミラー234をシャフト232の軸周りに共振運動させるものであるので、より高精度にチャックテーブル10上の被加工物100におけるレーザービーム25の照射位置を補正できる。
【0037】
レーザー加工装置1は、算出ユニット50により偏差を算出する度に、レーザービーム走査ユニット23によりレーザービーム25の進行方向を変更して、レーザービーム25の照射位置を加工予定形状に沿った位置に限りなく近づける補正をする。レーザー加工装置1は、移動ユニット30によりチャックテーブル10とレーザービーム照射ユニット20とを相対的に加工予定形状に沿って移動させている間、算出ユニット50による偏差の算出と、レーザービーム走査ユニット23によるレーザービーム25の照射位置の補正とを、連続的にあるいは微小時間ごとに繰り返す。
【0038】
次に、実施例及び従来例について説明する。実施例では、偏差を算出する算出ユニット50と、レーザービーム走査ユニット23を制御して偏差を打ち消すようにレーザービーム25の進行方向を変更させる制御ユニット60とを備える実施形態に係るレーザー加工装置1を使用して、加工予定形状を直径が10mmの円形状として、円板状の被加工物100をこの加工予定形状に沿ってレーザー加工をしてシールドトンネルを形成し、その時の実際のレーザービーム25の照射位置の軌跡を検出した。従来例では、算出ユニット50及び制御ユニット60を備えないレーザー加工装置を用いる点で、実施例とは異なり、その他の点では実施例と同様にして、実際のレーザービーム25の照射位置の軌跡を検出した。
【0039】
図4は、実施形態に係るレーザー加工装置1の作用効果を説明する図である。なお、
図4では、加工予定形状である直径が10mmの円形状からのズレ量である偏差の分を1000倍で拡大して示している。
図4に実線で示す曲線301は、実施例での実際のレーザービーム25の照射位置の軌跡を示している。
図4に破線で示す曲線302は、従来例での実際のレーザービーム25の照射位置の軌跡を示している。
【0040】
図4に示すように、実施例での実際のレーザービーム25の照射位置の軌跡を示す曲線301は、加工予定形状を示す直径が10mmの円と概ね重なっている。すなわち、実施例では、加工予定形状に沿って高精度でレーザー加工処理が実現できたことがわかる。一方で、従来例での実際のレーザービーム25の照射位置の軌跡を示す曲線302は、加工予定形状を示す直径が10mmの円に対し数μm程度の偏差が生じている。曲線302は、特に、X軸方向またはY軸方向に大きな偏差が生じている。すなわち、従来例では、加工予定形状に沿って数μm程度の偏差が生じた状態でレーザー加工処理が実現していたことがわかる。
【0041】
以上のような構成を有する実施形態に係るレーザー加工装置1は、算出ユニット50が、加工予定形状で移動ユニット30を移動させたときの、移動ユニット30の実際の座標位置と加工予定形状の座標位置とのズレ量である偏差を算出し、制御ユニット60が、レーザービーム走査ユニット23を制御し、算出ユニット50で算出された偏差を打ち消すようにレーザービーム25の進行方向を変更させる。このため、実施形態1に係るレーザー加工装置1は、軸動作による偏差を限りなくゼロに近付け、高精度な加工を実現し、被加工物100における加工形状の精度を向上することができるという作用効果を奏する。特に、実施形態1に係るレーザー加工装置1は、集光器22のNAが0.3以上と高く、レーザービーム25を走査できる間隔(スキャンレンジ)が限られる場合には、より有効に、上記した作用効果を発揮するものとなる。
【0042】
また、実施形態に係るレーザー加工装置1は、レーザー発振器21が、被加工物100に対して透過性を有する波長のレーザービーム25を発振し、集光器22のNAが、0.3以上0.8以下である。このため、実施形態に係るレーザー加工装置1は、レーザー加工処理により、被加工物100にクラックが発生して抗折強度が低下してしまう可能性を十分に抑制しつつ、十分にエッチングされやすいシールドトンネルを形成することができるという作用効果を奏する。
【0043】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 レーザー加工装置
10 チャックテーブル
20 レーザービーム照射ユニット
21 レーザー発振器
22 集光器
23 レーザービーム走査ユニット
25 レーザービーム
30 移動ユニット
40 記憶ユニット
50 算出ユニット
60 制御ユニット
100 被加工物