IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-等速ジョイント用グリース組成物 図1
  • 特許-等速ジョイント用グリース組成物 図2
  • 特許-等速ジョイント用グリース組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】等速ジョイント用グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20240226BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20240226BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240226BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240226BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M115/08
C10M137/10 A
C10M139/00 Z
C10N10:12
C10N10:04
C10N40:04
C10N30:06
C10N50:10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020546074
(86)(22)【出願日】2019-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2019035906
(87)【国際公開番号】W WO2020054802
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2018172916
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 麻未
(72)【発明者】
【氏名】宍倉 昭弘
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-335876(JP,A)
【文献】特開2011-063659(JP,A)
【文献】特開2003-155491(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/12
C10N 10/04
C10N 40/04
C10N 30/06
C10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、下記一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)と、有機モリブデン系化合物(C)と、ジチオリン酸亜鉛(D)と、を含み、
-NHCONH-R-NHCONH-R (B1)
[上記一般式(B1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数6~24の1価の炭化水素基を示す。R及びRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Rは、炭素数6~18の2価の芳香族炭化水素基を示す。
前記1価の炭化水素基は、脂環式炭化水素基及び鎖式炭化水素基を含むと共に、芳香族炭化水素基を含んでもよい。但し、前記一般式(B1)中のR及びRにおける、前記脂環式炭化水素基の含有量をXモル当量、前記鎖式炭化水素基の含有量をYモル当量、及び前記芳香族炭化水素基の含有量をZモル当量とした際に、下記要件(a)及び(b)を満たす。
・要件(a):{(X+Y)/(X+Y+Z)}×100の値が90以上である。
・要件(b):X/Y比が、10/90~75/25である。]
前記ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の光散乱粒子径測定による体積基準での粒子径分布曲線において、最大頻度となるピークが、下記要件(I)及び(II)を満たす、グリース組成物。
・要件(I):前記ピークの最大頻度となる粒子径が1.0μm以下である。
・要件(II):前記ピークの半値幅が1.0μm以下である。
【請求項2】
25℃における混和ちょう度が220~385である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記有機モリブデン系化合物(C)と前記ジチオリン酸亜鉛(D)との含有量比[前記有機モリブデン系化合物(C)/前記ジチオリン酸亜鉛(D)]が、質量比で、1/5~4である、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイント用グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントとは、回転運動の伝達に使用する部品であり、入力軸と出力軸との間に角度があっても、双方の軸を等速回転させて、滑らかにトルクを伝達することができる継手の総称である。
等速ジョイントの用途は、自動車の前輪駆動軸、後輪駆動軸、推進軸、及び操舵軸、並びに、各種一般産業機械等、広範囲に及ぶ。
【0003】
ところで、等速ジョイントは、回転時に高い面圧がかかると共に、複雑な転がり滑り作用を受ける。そのため、等速ジョイントの転がり滑り部分は高荷重がかかりやすく、摩耗しやすい。そこで、等速ジョイントを効率よく潤滑し、且つ等速ジョイントの耐久性を向上させるべく、耐摩耗性に優れる等速ジョイント用グリース組成物が各種提案されている。
例えば、特許文献1には、基油、ウレア系増ちょう剤、モリブデンジチオカーバメート、カルシウム塩、チオホスフェート、及びチオホスフェート以外の硫黄-リン系極圧剤を含む等速ジョイント用グリース組成物が記載されている。
また、特許文献2には、基油、ジウレア化合物からなるウレア系増ちょう剤、硫化ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、二硫化モリブデン、ジチオリン酸亜鉛化合物、及びリン分を含まない硫黄系極圧添加剤を含む等速ジョイント用グリース組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-172276号公報
【文献】特開平10-273691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の高性能化、静粛化、及び乗り心地の追求等、並びに一般産業機械の高性能化、静粛化、及び高精度化等に向けて、等速ジョイントの低振動化や長寿命化に対する要求が更に厳しいものとなりつつある。
しかしながら、特許文献1及び2に記載されている等速ジョイント用グリース組成物は、耐摩耗性が十分なものとはいえなかった。
【0006】
そこで、本発明は、優れた耐摩耗性を有する等速ジョイント用グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定の構造を有するジウレア化合物をウレア系増ちょう剤として用いることによって、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、下記[1]に関する。
[1] 基油(A)と、下記一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)とを含む、等速ジョイント用グリース組成物。
-NHCONH-R-NHCONH-R (B1)
[上記一般式(B1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数6~24の1価の炭化水素基を示す。R及びRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Rは、炭素数6~18の2価の芳香族炭化水素基を示す。
前記1価の炭化水素基は、脂環式炭化水素基及び鎖式炭化水素基を含むと共に、芳香族炭化水素基を含んでもよい。但し、前記一般式(B1)中のR及びRにおける、前記脂環式炭化水素基の含有量をXモル当量、前記鎖式炭化水素基の含有量をYモル当量、及び前記芳香族炭化水素基の含有量をZモル当量とした際に、下記要件(a)及び(b)を満たす。
・要件(a):{(X+Y)/(X+Y+Z)}×100の値が90以上である。
・要件(b):X/Y比が、10/90~75/25である。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた耐摩耗性を有する等速ジョイント用グリース組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一態様で使用し得る、グリース製造装置の断面模式図である。
図2図1のグリース製造装置の撹拌部の水平方向の断面模式図である。
図3】グリース組成物中のウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子について、光散乱粒子径測定による体積基準での粒子径分布曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以降の説明では、「等速ジョイント用グリース組成物」を、単に「グリース組成物」ともいう。
また、以降の説明では、「基油(A)」、「ウレア系増ちょう剤(B)」、「有機モリブデン系化合物(C)」、及び「ジチオリン酸亜鉛(D)」を、単に「成分(A)」、「成分(B)」、「成分(C)」、及び「成分(D)」ともいう。
【0012】
[等速ジョイント用グリース組成物]
本発明の等速ジョイント用グリース組成物は、基油(A)と、下記一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)とを含む。
-NHCONH-R-NHCONH-R (B1)
[上記一般式(B1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数6~24の1価の炭化水素基を示す。R及びRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Rは、炭素数6~18の2価の芳香族炭化水素基を示す。
前記1価の炭化水素基は、脂環式炭化水素基及び鎖式炭化水素基を含むと共に、芳香族炭化水素基を含んでもよい。但し、前記一般式(B1)中のR及びRにおける、前記脂環式炭化水素基の含有量をXモル当量、前記鎖式炭化水素基の含有量をYモル当量、及び前記芳香族炭化水素基の含有量をZモル当量とした際に、下記要件(a)及び(b)を満たす。
・要件(a):{(X+Y)/(X+Y+Z)}×100の値が90以上である。
・要件(b):X/Y比が、10/90~75/25である。]
【0013】
ここで、本発明のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)及び成分(B)以外の他の成分を含有してもよい。
但し、本発明の一態様のグリース組成物において、上述の成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、更になお好ましくは85質量%以上、一層好ましくは90質量%以上である。
また、本発明の一態様のグリース組成物において、上述の成分(A)及び成分(B)の合計含有量の上限値は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、100質量%であってもよいが、通常98質量%以下、好ましくは97質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。
【0014】
ここで、本発明の一態様のグリース組成物は、上述の成分(A)及び(B)に加えて、さらに、有機モリブデン系化合物(C)及びジチオリン酸亜鉛(D)から選択される1種以上の添加剤を含有することが好ましい。グリース組成物が、有機モリブデン系化合物(C)及びジチオリン酸亜鉛(D)から選択される1種以上の添加剤を含有することで、当該グリースが適用された等速ジョイントの転がり滑り部における摩擦係数をより小さくすることができると共に、耐摩耗性により優れるグリース組成物とすることができる。
【0015】
本発明の一態様のグリース組成物において、成分(A)及び成分(B)、並びに、成分(C)及び成分(D)から選択される1種以上の添加剤の合計含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上、更になお好ましくは90質量%以上、一層好ましくは95質量%以上である。
また、本発明の一態様のグリース組成物において、上述の成分(A)及び成分(B)、並びに、成分(C)及び成分(D)から選択される1種以上の添加剤の合計含有量の上限値は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、100質量%であってもよいが、通常99質量%以下、好ましくは98質量%以下である。
【0016】
なお、本発明の一態様のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(C)及び成分(D)以外のグリース用添加剤を含有していてもよい。
以降の説明では、当該グリース用添加剤を、「その他のグリース用添加剤」ともいう。
【0017】
以下、基油(A)、ウレア系増ちょう剤(B)、有機モリブデン系化合物(C)、ジチオリン酸亜鉛(D)、及びその他のグリース用添加剤について詳述した後、グリース組成物の製造方法、グリース組成物の物性、及びグリース組成物の使用方法について、詳述する。
【0018】
<基油(A)>
本発明のグリース組成物は、基油(A)を含有する。
基油(A)は、特に限定されず、グリース組成物に用いられる一般的な基油を用いることができる。例えば、鉱油及び合成油から選択される1種以上を用いることができる。
【0019】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、又はナフテン系原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油;等が挙げられる。
精製油を得るための精製方法としては、例えば、水素化改質処理、溶剤抽出処理、溶剤脱ろう処理、白土処理、水素化異性化脱ろう処理、及び水素化仕上げ処理等から選択される1種以上が挙げられる。 鉱油は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
合成油としては、例えば、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油、及び天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックスを異性化することで得られるGTL(Gas To Liquids)基油等が挙げられる。
炭化水素系油としては、例えば、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、及び1-デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリ-α-オレフィン(PAO)及びこれらの水素化物等が挙げられる。
芳香族系油としては、例えば、モノアルキルベンゼン及びジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン;モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、及びポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン;等が挙げられる。
エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、及びメチルアセチルリシノレート等のジエステル系油;トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、及びテトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル系油;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル系油;多価アルコールと二塩基酸及び一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステル等のコンプレックスエステル系油;等が挙げられる。
エーテル系油としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、及びポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール;モノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、及びジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル系油;等が挙げられる。
合成油は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明の一態様で用いる基油(A)の40℃における動粘度は、好ましくは30~1000mm/s、より好ましくは40~700mm/s、更に好ましくは50~500mm/sである。
当該動粘度が上記範囲にあることで、グリース組成物の油分離性が適切となって、等速ジョイントの転がり部分と滑り部分との接触部に基油(A)を供給しやすくできる。また、基油(A)による二部材間における油膜保持性も優れたものとし易い。したがって、グリース組成物を長期に亘り使用しやすいものとできる。
なお、本発明の一態様で用いる基油(A)は、グリース組成物の耐摩耗性をより向上させる観点から、高粘度基油(A1)と、低粘度基油(A2)とを組み合わせて、40℃における動粘度を上記範囲に調製した混合基油を用いてもよい。
【0022】
本発明の一態様で用いる基油(A)の粘度指数は、好ましくは60以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは80以上、より更に好ましくは90以上、更になお好ましくは100以上である。
【0023】
なお、本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した値を意味する。
【0024】
本発明の一態様のグリース組成物において、基油(A)の含有量は、当該グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上である。また、好ましくは98質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは96質量%以下である。
【0025】
<ウレア系増ちょう剤(B)>
本発明のグリース組成物は、ウレア系増ちょう剤(B)を含有する。
本発明のグリース組成物に用いられるウレア系増ちょう剤(B)は、下記一般式(B1)で表されるジウレア化合物である。
-NHCONH-R-NHCONH-R (B1)
【0026】
上記一般式(B1)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数6~24の1価の炭化水素基を示す。R及びRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。Rは、炭素数6~18の2価の芳香族炭化水素基を示す。
前記1価の炭化水素基は、脂環式炭化水素基及び鎖式炭化水素基を含むと共に、芳香族炭化水素基を含んでもよい。
脂環式炭化水素基及び鎖式炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよい。
及びRとして選択し得る1価の炭化水素基の炭素数は6~24であるが、より優れた耐摩耗性を有するグリース組成物とする観点から、好ましくは6~20、より好ましくは6~18である。
【0027】
及びRとして選択し得る1価の飽和鎖式炭化水素基としては、炭素数6~24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、具体的には、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ノナデシル基、及びイコシル基等が挙げられる。
これらの中でも、オクタデシル基(ステアリル基)が好ましい。
及びRとして選択し得る1価の不飽和鎖式炭化水素基としては、炭素数6~24の直鎖又は分岐鎖のアルケニル基が挙げられ、具体的には、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、オレイル基、ゲラニル基、ファルネシル基、及びリノレイル基等が挙げられる。
なお、1価の飽和鎖式炭化水素基及び1価の不飽和鎖式炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
【0028】
及びRとして選択し得る1価の飽和脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基等のシクロアルキル基;メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基、イソプロピルシクロヘキシル基、1-メチル-プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ペンチルシクロヘキシル基、ペンチル-メチルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘキシル基等の炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロアルキル基(好ましくは、炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロヘキシル基);等が挙げられる。
これらの中でも、シクロヘキシル基が好ましい。
及びRとして選択し得る1価の不飽和脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、及びシクロオクテニル基等のシクロアルケニル基;メチルシクロヘキセニル基、ジメチルシクロヘキセニル基、エチルシクロヘキセニル基、ジエチルシクロヘキセニル基、及びプロピルシクロヘキセニル基等の炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロアルケニル基(好ましくは、炭素数1~6のアルキル基で置換されたシクロヘキセニル基);等が挙げられる。
【0029】
及びRとして選択し得る1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、ジフェニルメチル基、ジフェニルエチル基、ジフェニルプロピル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、及びプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0030】
なお、前記一般式(B1)中のRとして選択し得る2価の芳香族炭化水素基の炭素数は6~18であるが、好ましくは6~15、より好ましくは6~13である。
として選択し得る2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニレン基、ジフェニルメチレン基、ジフェニルエチレン基、ジフェニルプロピレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、及びエチルフェニレン基等が挙げられる。
これらの中でも、フェニレン基、ジフェニルメチレン基、ジフェニルエチレン基、又はジフェニルプロピレン基が好ましく、ジフェニルメチレン基がより好ましい。
【0031】
上記のとおり、前記1価の炭化水素基は、脂環式炭化水素基及び鎖式炭化水素基を含むと共に、芳香族炭化水素基を含んでもよい。但し、前記一般式(B1)中のR及びRにおける、脂環式炭化水素基の含有量をXモル当量、鎖式炭化水素基の含有量をYモル当量、及び芳香族炭化水素基の含有量をZモル当量とした際に、下記要件(a)及び(b)を満たす必要がある。
・要件(a):{(X+Y)/(X+Y+Z)}×100の値が90以上である。
・要件(b):X/Y比が、10/90~75/25である。
なお、前記脂環式炭化水素基、前記鎖式炭化水素基、及び前記芳香族炭化水素基は、上記一般式(B1)中のR及びRとして選択される基であることから、X、Y、及びZの値の総和は、上記一般式(B1)で示される化合物1モルに対して、2モル当量である。また、上記要件(a)及び(b)の値は、グリース組成物中に含まれる、上記一般式(B1)で示される化合物群全量に対する平均値を意味する。
上記要件(a)及び(b)を満たす、上記一般式(B1)で表される化合物を用いることで、優れた耐摩耗性を有するグリース組成物とすることができる。
上記要件(a)及び(b)を満たさない、上記一般式(B1)で表される化合物を用いた場合、グリース組成物の耐摩耗性が劣るため、等速ジョイント用グリース組成物として適さない。
なお、X、Y、及びZの値は、上記一般式(B1)で表されるジウレア化合物を合成するための原料として使用する各アミンのモル当量から算出することができる。
【0032】
ここで、より優れた耐摩耗性を有するグリース組成物とする観点から、上記要件(a)は、好ましくは95以上、より好ましくは98以上、更に好ましくは100である。
また、同様の観点から、上記要件(b)は、好ましくは30/70~72/28、より好ましくは35/65~70/30、更に好ましくは40/60~70/30、より更に好ましくは55/45~65/35である。
【0033】
(要件(I)及び(II))
本発明の一態様のグリース組成物は、ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の光散乱粒子径測定による体積基準での粒子径分布曲線において、最大頻度となるピークが下記要件(I)及び(II)を満たすことが好ましい。
・要件(I):前記ピークの最大頻度となる粒子径が1.0μm以下である。
・要件(II):前記ピークの半値幅が1.0μm以下である。
なお、本明細書において、上記要件(I)及び(II)で規定する値は、後述する実施例の光散乱粒子径測定により測定された粒子径分布曲線から算出された値である。
図3にウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の光散乱粒子径測定による体積基準での粒子径分布曲線の一例を示す。図3に示す粒子径分布曲線において、最大頻度yとなるピークPの粒子径rが1.0μm以下であることで、要件(I)を満たす。また、ピークPの半値幅xが1.0μm以下であることで、要件(II)を満たす。
【0034】
要件(I)及び(II)は、グリース組成物中におけるウレア系増ちょう剤(B)の凝集の状態を示したパラメータである。
なお、ここで測定対象となる「ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子」とは、ウレア系増ちょう剤(B)が凝集してなる粒子を指すが、ウレア系増ちょう剤(B)と共に、成分(C)、成分(D)、及びその他のグリース用添加剤から選択される1種以上の添加剤も凝集して組み込まれた粒子も含まれる。
一方で、ウレア系増ちょう剤(B)は含まず、成分(C)、成分(D)、及びその他のグリース用添加剤から選択される1種以上の添加剤のみからなる凝集体は、「ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子」からは除外される。ここで、「除外される」とは、成分(C)、成分(D)、及びその他のグリース用添加剤から選択される1種以上の添加剤のみからなる凝集体が、「ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子」と比較して非常に少ないため、光散乱粒子径測定ではほとんど検出されず、仮に検出されたとしても無視できるレベルであることを意味する。
【0035】
要件(I)では、前記ピークの最大頻度となる粒子径が1.0μm以下である旨を規定している。当該粒子径は、ウレア系増ちょう剤(B)の凝集の程度を示した指標といえる。
当該粒子径が1.0μm以下であれば、ウレア系増ちょう剤(B)の凝集が適度に抑制され、摩擦特性に優れ、耐摩耗性により優れるグリース組成物としやすい。ここで、摩擦特性により優れ、耐摩耗性にさらに優れるグリース組成物とする観点から、要件(I)で規定する、前記ピークの最大頻度となる粒子径は、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.8μm以下、更に好ましくは0.6μm以下であり、また、通常0.01μm以上である。
なお、前記ピークの最大頻度となる粒子径とは、前記ピークの頂点における粒子径の値を意味する。
【0036】
一方、要件(II)では、前記ピークの半値幅が1.0μm以下である旨を規定している。当該半値幅は、要件(I)で規定する最大頻度となる粒子径よりも大きなウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の分布状況を示した指標といえる。
ここで、要件(II)で規定するピークの半値幅とは、当該粒子の光散乱粒子径測定による体積基準での粒子径分布曲線において、要件(I)の最大頻度の50%における粒子径の広がり幅を表す。
つまり、当該半値幅が1.0μm以下であれば、要件(I)で規定する粒子径よりも過剰に大きなウレア系増ちょう剤(B)のミセル粒子の存在割合が少なく抑制され、摩擦特性に優れ、耐摩耗性により優れるグリース組成物としやすい。ここで、摩擦特性により優れ、耐摩耗性にさらに優れるグリース組成物とする観点から、要件(II)で規定する、前記ピークの半値幅は、好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.8μm以下、更に好ましくは0.6μm以下であり、また、通常0.01μm以上である。
【0037】
なお、要件(I)及び(II)で規定する値は、ウレア系増ちょう剤(B)の製造条件や、成分(C)、成分(D)、及びその他のグリース用添加剤の配合条件による影響が比較的大きい。
要件(I)及び(II)で規定する値が得られるようにグリース組成物を調製するための具体的な手段の一例については、後述の「グリース組成物の製造方法」の項目に記載のとおりである。
【0038】
本発明の一態様のグリース組成物において、ウレア系増ちょう剤(B)の含有量は、等速ジョイント用のグリース組成物に求められる混和ちょう度に応じて決定することができる。
ここで、本発明の一態様のグリース組成物は、ウレア系増ちょう剤(B)を上記一般式(B1)で表される特定の化合物とすることによって、他のウレア系増ちょう剤を用いた場合と比較して、混和ちょう度を調整する際の増ちょう剤の使用量を減らすことができる。すなわち、ウレア系増ちょう剤(B)を上記一般式(B1)で表される特定の化合物とすることによって、他のウレア系増ちょう剤を用いる場合よりも、より少ない増ちょう剤含有量で、より低い混和ちょう度を有するグリース組成物とすることができる。したがって、より低い混和ちょう度を有するグリース組成物を、より低コストに調製しやすい利点を有し、等速ジョイント用グリースに対して近年要求されているコストダウンの問題にも対応し得るグリース組成物とすることができる。
例えば、等速ジョイント用グリース組成物として適切な混和ちょう度、例えば、好ましくは220~385、より好ましくは250~355、更に好ましくは220~340に調整する観点から、ウレア系増ちょう剤(B)の含有量は、3.0~7.0質量%、より好ましくは3.5~6.5質量%、更に好ましくは4.0~6.0質量%である。
このように、本発明の一態様のグリース組成物は、ウレア系増ちょう剤(B)が少ない場合であっても、等速ジョイント用グリース組成物に求められる十分な混和ちょう度を確保しやすい。
【0039】
<有機モリブデン系化合物(C)>
本発明の一態様のグリース組成物は、有機モリブデン系化合物(C)を含有することが好ましい。
グリース組成物が、有機モリブデン系化合物(C)を含有することで、グリース組成物の摩擦特性を良好にできると共に、耐摩耗性をより優れたものとしやすい。
【0040】
本発明の一態様で用いる有機モリブデン系化合物(C)としては、モリブデン原子を有する有機化合物であれば用いることができるが、グリース組成物の摩擦特性をより良好なものとする観点から、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)が好ましく、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)がより好ましい。
なお、有機モリブデン系化合物(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
(ジチオリン酸モリブデン(MoDTP))
ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)としては、下記一般式(C1-1)で表される化合物、又は、下記一般式(C1-2)で表される化合物が好ましい。
【化1】
【0042】
上記一般式(C1-1)及び(C1-2)中、R11~R14は、それぞれ独立に、炭化水素基を示す。R11~R14は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
~Xは、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、式(C1-1)中のX~Xの少なくとも二つは硫黄原子である。
【0043】
なお、本発明の一態様においては、前記一般式(C1-1)中、X及びXが酸素原子であり、X~Xが硫黄原子であることが好ましい。
上記一般式(C1-1)において、基油(A)への溶解性を向上させる観点から、X~X中の硫黄原子と酸素原子とのモル比[硫黄原子/酸素原子]が、好ましくは1/4~4/1、より好ましくは1/3~3/1である。
【0044】
また、前記一般式(C1-2)中、X及びXが酸素原子であり、X及びXが硫黄原子であることが好ましい。
上記一般式(C1-2)において、上記と同様の観点から、X~X中の硫黄原子と酸素原子とのモル比[硫黄原子/酸素原子]が、好ましくは1/3~3/1、より好ましくは1.5/2.5~2.5/1.5である。
【0045】
11~R14として選択し得る炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは5~18、更に好ましくは5~16、より更に好ましくは5~12である。
11~R14として選択し得る具体的な当該炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基等のアルケニル基;シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、及びヘプチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、及びターフェニル基等のアリール基;トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、メチルベンジル基、及びジメチルナフチル基等のアルキルアリール基;フェニルメチル基、フェニルエチル基、及びジフェニルメチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0046】
(ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC))
ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)としては、一分子中に2つのモリブデン原子を含む二核のジチオカルバミン酸モリブデン、及び一分子中に3つのモリブデン原子を含む三核のジチオカルバミン酸モリブデンが挙げられ、二核のジチオカルバミン酸モリブデンが好ましい。
二核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、下記一般式(C2-1)で表される化合物、及び、下記一般式(C2-2)で表される化合物がより好ましい。
【0047】
【化2】
【0048】
上記一般式(C2-1)及び(C2-2)中、R21~R24は、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
11~X18は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
ただし、式(C2-1)中のX11~X18の少なくとも一つは硫黄原子である。
【0049】
なお、本発明の一態様においては、式(C2-1)中のX11及びX12が酸素原子であり、X13~X18が硫黄原子であることが好ましい。
上記一般式(C2-1)において、基油(A)との溶解性を向上させる観点から、X11~X18中の硫黄原子と酸素原子とのモル比[硫黄原子/酸素原子]が、好ましくは1/4~4/1、より好ましくは1/3~3/1である。
【0050】
また、式(C2-2)中のX11~X14が酸素原子であることが好ましい。
【0051】
上記一般式(C2-1)及び(C2-2)中、R21~R24として選択し得る炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは5~18、更に好ましくは5~16、より更に好ましくは5~13である。
21~R24として選択し得る具体的な当該炭化水素基としては、前記一般式(C1-1)及び(C1-2)中のR11~R14として選択し得る炭化水素基と同じものが挙げられる。
【0052】
<ジチオリン酸亜鉛(D)>
本発明の一態様のグリース組成物は、ジチオリン酸亜鉛(D)を含有することが好ましい。
グリース組成物が、ジチオリン酸亜鉛(D)を含有することで、グリース組成物の摩擦特性を良好なものとして、耐摩耗性をより優れたものとしやすい。
本発明の一態様のグリース組成物が含有するジチオリン酸亜鉛(D)としては、下記一般式(D1)で表されるものが好ましく挙げられる。
【0053】
【化3】
【0054】
上記一般式(D1)中、R31~R34は、それぞれ独立に炭化水素基を示す。炭化水素基としては、1価の炭化水素基であれば特に制限はないが、グリース組成物の摩擦特性をより良好なものとする観点から、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等が好ましく挙げられ、アルキル基、アリール基がより好ましく、アルキル基が更に好ましい。すなわち、本発明の一態様で用いられるジチオリン酸亜鉛(D)としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛がより好ましく、ジアルキルジチオリン酸亜鉛が更に好ましい。
【0055】
31~R34のアルキル基、アルケニル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよいが、グリース組成物の摩擦特性をさらに良好なものとする観点から、第一級、第二級のものが好ましく、中でも第一級アルキル基、第二級アルキル基が好ましく、第二級アルキル基がより好ましい。すなわち、本発明の一態様で用いられるジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、中でも第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましく、第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛がより好ましい。
31~R34のシクロアルキル基、アリール基は、例えばデカリル基、ナフチル基等の多環式の基であってもよい。
また、R31~R34として選択し得る1価の炭化水素基は、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基等の酸素原子及び/又は窒素原子を含む置換基を有するもの、また窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子等により一部が置換されたものであってもよく、1価の炭化水素基がシクロアルキル基、アリール基の場合は更にアルキル基、アルケニル基等の置換基を有していてもよい。
【0056】
グリース組成物の摩擦特性をさらに良好なものとする観点から、R31~R34の炭化水素基の炭素数としては、1価の炭化水素基がアルキル基の場合、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、上限として好ましくは24以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは12以下である。
1価の炭化水素がアルケニル基の場合、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、上限として好ましくは24以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは12以下である。
また、1価の炭化水素がシクロアルキル基の場合、炭素数は好ましくは5以上、上限として好ましくは20以下である。
1価の炭化水素がアリール基の場合、炭素数は好ましくは6以上、上限として好ましくは20以下である。
【0057】
<有機モリブデン系化合物(C)とジチオリン酸亜鉛(D)の含有量及び含有比>
(有機モリブデン系化合物(C)の含有量)
本発明の一態様のグリース組成物において、有機モリブデン系化合物(C)の含有量は、グリース組成物の摩擦特性を良好なものとする観点から、グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~5.0質量%、より好ましくは0.1~5.0質量%、更に好ましくは0.2~3.0質量%、より更に好ましくは0.5~3.0質量%である。
【0058】
また、本発明の一態様のグリース組成物において、有機モリブデン系化合物(C)のモリブデン原子換算での含有量は、グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.0005~0.2000質量ppm、より好ましくは0.01~0.15質量ppm、更に好ましくは0.02~0.15質量ppmである。
なお、本明細書において、モリブデン原子の含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定した値を意味する。
【0059】
(ジチオリン酸亜鉛(D)の含有量)
本発明の一態様のグリース組成物において、ジチオリン酸亜鉛(D)の含有量は、グリース組成物の摩擦特性を良好なものとする観点から、グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.02~6.0質量%、より好ましくは0.2~5.0質量%、更に好ましくは0.4~4.0質量%、より更に好ましくは0.5~3.0質量%である。
【0060】
また、本発明の一態様のグリース組成物において、ジチオリン酸亜鉛(D)の亜鉛原子換算での含有量は、グリース組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1~3.0質量ppm、より好ましくは0.5~2.5質量ppm、更に好ましくは0.7~2.0質量ppmである。
なお、本明細書において、亜鉛原子の含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定した値を意味する。
【0061】
(有機モリブデン系化合物(C)とジチオリン酸亜鉛(D)の含有量比)
本発明の一態様のグリース組成物において、有機モリブデン系化合物(C)とジチオリン酸亜鉛(D)との含有量比[有機モリブデン系化合物(C)/ジチオリン酸亜鉛(D)]は、質量比で、好ましくは1/5~4、より好ましくは1/3~2、更に好ましくは1/3~1である。
【0062】
また、本発明の一態様のグリース組成物において、有機モリブデン系化合物(C)に由来するモリブデン原子(Mo)とジチオリン酸亜鉛(D)に由来する亜鉛原子(Zn)との含有量比[Mo/Zn]は、質量比で、好ましくは0.1~1.0、より好ましくは0.1~0.5、更に好ましくは0.15~0.30である。
【0063】
<その他のグリース用添加剤>
本発明の一態様のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、一般的なグリースに配合される、成分(C)及び(D)以外のグリース用添加剤を含有していてもよい。
このようなグリース用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、増粘剤、固体潤滑剤、清浄分散剤、腐食防止剤、金属不活性剤等が挙げられる。
これらのグリース用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及び硫黄系酸加防止剤等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、アルケニルコハク酸多価アルコールエステル等のカルボン酸系防錆剤、ステアリン酸亜鉛、チアジアゾール及びその誘導体、並びにベンゾトリアゾール及びその誘導体等が挙げられる。
極圧剤としては、例えば、無灰系ジチオカーバメートや亜鉛ジチオカーバメート等のチオカルバミン酸類;硫化油脂、硫化オレフィン、ポリサルファイド、チオリン酸類、チオテルペン類、ジアルキルチオジピロピオネート類等の硫黄化合物;トリクレジルホスフェート等のリン酸エステル;トリフェニルフォスファイト等の亜リン酸エステル;等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、ポリメタクリレート(PMA)、オレフィン共重合体(OCP)、ポリアルキルスチレン(PAS)、スチレン-ジエン共重合体(SCP)等が挙げられる。
固体潤滑剤としては、例えば、ポリイミド、PTFE、黒鉛、金属酸化物、窒化硼素、メラミンシアヌレート(MCA)、及び二硫化モリブデン等が挙げられる。
清浄分散剤としては、例えば、非ホウ素化コハク酸イミド、ホウ素化コハク酸イミド等の無灰分散剤が挙げられる。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、チアゾール系化合物等が挙げられる。
金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。
【0065】
本発明の一態様のグリース組成物において、これらのグリース用添加剤の含有量は、添加剤の種類に応じて適宜設定されるが、それぞれ独立に、グリース組成物の全量(100質量%)基準で、通常0~10質量%、好ましくは0~7質量%、より好ましくは0~5質量%、より更に好ましくは0~2質量%である。
【0066】
[グリース組成物の製造方法]
以降の説明では、基油(A)と上記一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)とを含み、成分(C)、成分(D)、及びその他のグリース用添加剤から選択される1種以上の添加剤を添加する前のグリース組成物を、「ベースグリース」ともいう。
本発明のグリース組成物を製造する方法は、特に制限されないが、例えば下記工程(1)を有する製造方法が挙げられる。
・工程(1):基油(A)に、上記一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)の原料を配合して、ウレア系増ちょう剤(B)を合成し、ベースグリースを得る工程。
なお、成分(C)、成分(D)、及びその他のグリース用添加剤から選択される1種以上の添加剤は、工程(1)でベースグリースを調製する際に添加してもよいし、工程(1)でベースグリースを調製した後に添加してもよい。
工程(1)は、詳細には、例えば以下の手順で実施される。
【0067】
<工程(1)>
上記一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)を用いる場合、基油(A)にイソシアネート化合物を溶解させて得られる加熱した溶液αに、基油(A)にモノアミンを溶解させた溶液βを添加して、イソシアネート化合物と、モノアミンとを反応させることで、上記一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)を合成することができ、これにより、ベースグリースが得られる。当該ベースグリースに、成分(C)、成分(D)、及びその他のグリース用添加剤から選択される1種以上の添加剤が添加されたグリース組成物は、冷却後に、コロイドミルやロールミル等を用いて、ミリング処理を施すことが好ましい。
なお、ウレア系増ちょう剤(B)を含む粒子の粒子径分布を上記要件(I)及び(II)を満たすようにグリース組成物を調製する方法として、以下の方法が挙げられる。
【0068】
<上記要件(I)及び(II)を満たすグリース組成物の製造方法>
(装置)
要件(I)及び(II)を満たすように、グリース組成物中にウレア系増ちょう剤(B)を分散させる観点から、下記[1]に示すようなグリース製造装置を用いてベースグリースを調製し、グリース組成物を製造することが好ましい。
[1]グリース原料が導入される導入部、及び外部にベースグリースを吐出させる吐出部を有する容器本体と、
前記容器本体の内周の軸方向に回転軸を有し、前記容器本体の内部に回転可能に設けられた回転子とを備え、
前記回転子は、
(i)前記回転子の表面に沿って、凹凸が交互に設けられて、当該凹凸が前記回転軸に対して傾斜し、
(ii)前記導入部から前記吐出部方向への送り能力を有する
第一凹凸部を備えている、グリース製造装置。
【0069】
以下、上記[1]に記載のグリース製造装置について説明するが、以下の記載の「好ましい」とされる規定は、特に断りが無い限り、要件(I)及び(II)を満たすように、グリース組成物中にウレア系増ちょう剤(B)を分散させる観点からの態様である。
【0070】
図1は、本発明の一態様で使用し得る、上記[1]のグリース製造装置の断面模式図である。
図1に示すグリース製造装置1は、グリース原料を内部に導入する容器本体2と、容器本体2の内周の中心軸線上に回転軸12を有し、回転軸12を中心軸として回転する回転子3とを備える。
回転子3は、回転軸12を中心軸として高速回転し、容器本体2の内部でグリース原料に高いせん断力を与える。これにより、ウレア系増ちょう剤(B)を含むベースグリースが製造される。
容器本体2は、図1に示すように、上流側から順にから、導入部4、滞留部5、第一内周面6、第二内周面7、及び吐出部8に区画されていることが好ましい。
容器本体2は、図1に示すように、導入部4から吐出部8に向かうにしたがって、次第に内径が拡径する円錐台状の内周面を有していることが好ましい。
容器本体2の一端となる導入部4は、容器本体2の外部からグリース原料を導入する複数の溶液導入管4A、4Bを備える。
【0071】
滞留部5は、導入部4の下流部に配置され、導入部4から導入されたグリース原料を一時的に滞留させる空間である。この滞留部5にグリース原料が長時間滞留すると、滞留部5の内周面に付着したベースグリースが、大きなダマを形成してしまうので、なるべく短時間で下流側の第一内周面6に搬送するのが好ましい。さらに好ましくは、滞留部5を経ず、直接第一内周面6に搬送することが好ましい。
第一内周面6は、滞留部5に隣接した下流部に配置され、第二内周面7は、第一内周面6に隣接した下流部に配置される。詳しくは後述するが、第一内周面6に第一凹凸部9を設けること、および第二内周面7に第二凹凸部10を設けることが、第一内周面6及び第二内周面7をグリース原料またはベースグリースに高いせん断力を付与する高せん断部として機能させる上で好ましい。
容器本体2の他端となる吐出部8は、第一内周面6と第二内周面7で撹拌されたベースグリースを吐出する部分であり、ベースグリースを吐出する吐出口11を備える。吐出口11は、回転軸12に直交する方向又は略直行する方向に形成されている。これにより、ベースグリースが吐出口11から回転軸12に直行する方向又は略直行する方向に吐出される。但し、吐出口11は、必ずしも回転軸12に直行せずともよく、回転軸12と平行方向又は略平行方向に形成されていてもよい。
【0072】
回転子3は、容器本体2の円錐台状の内周面の中心軸線を回転軸12として回転可能に設けられ、図1に示すように容器本体2を上流部から下流部に向けてみたときに、反時計回りに回転する。
回転子3は、容器本体2の円錐台の内径の拡大に応じて拡大する外周面を有し、回転子3の外周面と、容器本体2の円錐台の内周面とは、一定の間隔が維持されている。
回転子3の外周面には、回転子3の表面に沿って凹凸が交互に設けられた回転子の第一凹凸部13が設けられている。
【0073】
回転子の第一凹凸部13は、導入部4から吐出部8方向に、回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8方向への送り能力を有する。すなわち、回転子の第一凹凸部13は、回転子3が図1に示された方向に回転する時に、溶液を下流側に押し出す方向に傾斜している。
【0074】
回転子の第一凹凸部13の凹部13Aと凸部13Bの段差は、回転子3の外周面の凹部13Aの直径を100とした際、好ましくは0.3~30、より好ましくは0.5~15、更に好ましくは2~7である。
円周方向における回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの数は、好ましくは2~1000個、より好ましくは6~500個、更に好ましくは12~200個である。
【0075】
回転子3の回転軸12に直交する断面における回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの幅と、凹部13Aの幅との比〔凸部の幅/凹部の幅〕は、好ましくは0.01~100、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2である。
回転軸12に対する、回転子の第一凹凸部13の傾斜角度は、好ましくは2~85度、より好ましくは3~45度、更に好ましくは5~20度である。
【0076】
容器本体2の第一内周面6には、内周面に沿って凹凸が複数形成された第一凹凸部9が備えられていることが好ましい。
また、容器本体側の第一凹凸部9の凹凸は、回転子の第一凹凸部13とは逆向きに傾斜していることが好ましい。
すなわち、容器本体側の第一凹凸部9の複数の凹凸は、回転子3の回転軸12が図1に示される方向に回転する時に、溶液を下流側に押し出す方向に傾斜していることが好ましい。容器本体2の第一内周面6に備えられた複数の凹凸を有する第一凹凸部9によって、撹拌能力と吐出能力が更に増強される。
【0077】
容器本体側の第一凹凸部9の凹凸の深さは、容器内径(直径)を100とした際、好ましくは0.2~30、より好ましくは0.5~15、更に好ましくは1~5である。
容器本体側の第一凹凸部9の凹凸の本数は、好ましくは2~1000本、より好ましくは6~500本、更に好ましくは12~200本である。
【0078】
容器本体側の第一凹凸部9の凹凸の凹部の幅と、溝間の凸部の幅との比〔凹部の幅/凸部の幅〕は、好ましくは0.01~100、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2以下である。
回転軸12に対する、容器本体側の第一凹凸部9の凹凸の傾斜角度は、好ましくは2~85度、より好ましくは3~45度、更に好ましくは5~20度である
なお、容器本体の第一内周面6に第一凹凸部9を備えることによって、第一内周面6をグリース原料またはベースグリースに高いせん断力を付与する高せん断部として機能させることができるが、第一凹凸部9は必ずしも設けずともよい。
【0079】
回転子の第一凹凸部13の下流部の外周面には、回転子3の表面に沿って、凹凸が交互に設けられた回転子の第二凹凸部14が設けられていることが好ましい。
回転子の第二凹凸部14は、回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8に向けて、溶液を上流側に押し戻す送り抑制能力を有する。
【0080】
回転子の第二凹凸部14の段差は、回転子3の外周面の凹部の直径を100として際、好ましくは0.3~30、より好ましくは0.5~15、更に好ましくは2~7である。
円周方向における回転子の第二凹凸部14の凸部の数は、好ましくは2~1000個、より好ましくは6~500個、更に好ましくは12~200個である。
【0081】
回転子3の回転軸に直交する断面における回転子の第二凹凸部14の凸部の幅と、凹部の幅との比〔凸部の幅/凹部の幅〕は、好ましくは0.01~100、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2である。
回転軸12に対する、回転子の第二凹凸部14の傾斜角度は、好ましくは2~85度、より好ましくは3~45度、更に好ましくは5~20度である。
【0082】
容器本体2の第二内周面7には、容器本体側の第一凹凸部9における凹凸の下流部に隣接して、複数の凹凸が形成された第二凹凸部10が備えられていることが好ましい。
容器本体側の第二凹凸部10の凹凸は、容器本体2の内周面に複数形成され、それぞれの凹凸は、回転子の第二凹凸部14の傾斜方向とは逆向きに傾斜していることが好ましい。
すなわち、容器本体側の第二凹凸部10の複数の凹凸は、回転子3の回転軸12が図1に示される方向に回転する時に、溶液を上流側に押し戻す方向に傾斜していることが好ましい。容器本体2の第二内周面7に備えられた第二凹凸部10の凹凸によって、撹拌能力が更に増強される。また、容器本体2の第二内周面7をグリース原料またはベースグリースに高いせん断力を付与する高せん断部として機能させ得る。
【0083】
容器本体側の第二凹凸部10の凹部の深さは、容器内径(直径)を100とした際、好ましくは0.2~30、より好ましくは0.5~15、更に好ましくは1~5である。
容器本体側の第二凹凸部10の凹部の本数は、好ましくは2~1000本、より好ましくは6~500本、更に好ましくは12~200本である。
【0084】
回転子3の回転軸12に直交する断面における容器本体側の第二凹凸部10の凹凸の凸部の幅と、凹部の幅との比〔凸部の幅/凹部の幅〕は、好ましくは0.01~100、より好ましくは0.1~10、更に好ましくは0.5~2以下である。
回転軸12に対する、容器本体側の第二凹凸部10の傾斜角度は、好ましくは2~85度、より好ましくは3~45度、更に好ましくは5~20度である。
容器本体側の第一凹凸部9の長さと、容器本体側の第二凹凸部10の長さとの比〔第一凹凸部の長さ/第二凹凸部の長さ〕は、好ましくは2/1~20/1である。
【0085】
図2は、グリース製造装置1の容器本体側の第一凹凸部9における水平方向断面図である。
図2に示す、第一凹凸部13には、第一凹凸部13の凸部13Bの突出方向先端よりも、先端が容器本体2の内周面側に突出したスクレーパー15が複数設けられている。また、図示省略するが、第二凹凸部14にも、第一凹凸部13と同様、凸部の先端が容器本体2の内周面側に突出したスクレーパーが複数設けられている。
スクレーパー15は、容器本体側の第一凹凸部9、及び、容器本体側の第二凹凸部10の内周面に付着したベースグリースを掻き取るものである。
回転子の第一凹凸部13の凸部13Bの突出量に対する、スクレーパー15の先端の突出量は、スクレーパー15の先端の半径(R2)と、凸部13Bの先端の半径(R1)との比〔R2/R1〕が、1.005を超え、2.0未満となるのが好ましい。
【0086】
スクレーパー15の数は、好ましくは2~500箇所、より好ましくは2~50箇所、更に好ましくは2~10箇所である。
なお、図2に示すグリース製造装置1では、スクレーパー15を設けているが、設けないものであってもよく、間欠的に設けたものであってもよい。
【0087】
グリース製造装置1により、ウレア系増ちょう剤(B)を含むベースグリースを製造するには、前述したグリース原料である、溶液αと溶液βとを、容器本体2の導入部4の溶液導入管4A、4Bからそれぞれ導入し、回転子3を高速回転させることにより、ウレア系増ちょう剤(B)を含むベースグリースを製造することができる。
そして、得られるベースグリースに成分(C)、成分(D)、及びその他のグリース用添加剤から選択される1種以上の添加剤を配合してグリース組成物を調製したとしても、上記要件(I)及び(II)を満たすように、グリース組成物中にウレア系増ちょう剤(B)を分散させることができる。
【0088】
回転子3の高速回転条件として、グリース原料に与えるせん断速度としては、好ましくは10-1以上、より好ましいは10-1以上、さらに好ましくは10-1以上であり、また、通常10-1以下である。
【0089】
また、回転子3の高速回転する際のせん断における、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは10以下である。
混合液に対するせん断速度ができるだけ均一であることにより、増ちょう剤やその前駆体の分散状態がよくなり、均一なグリース構造となる。
【0090】
ここで、最高せん断速度(Max)とは、混合液に対して付与される最高のせん断速度であり、最低せん断速度(Min)とは、混合液に対して付与される最低のせん断速度であって、下記のように定義されるものである。
・最高せん断速度(Max)=(回転子の第一凹凸部13の凸部13B先端の線速度)/(回転子の第一凹凸部13の凸部13B先端と容器本体の第一内周面部6の第一凹凸部9の凸部のギャップA1)
・最低せん断速度(Min)=(回転子の第一凹凸部13の凹部13Aの線速度)/(回転子の第一凹凸部13の凹部13Aと容器本体の第一内周面部6の第一凹凸部9の凹部のギャップA2)
なお、ギャップA1とギャップA2は、図2に示されるとおりである。
【0091】
グリース製造装置1がスクレーパー15を備えていることにより、容器本体2の内周面に付着したベースグリースを掻き取ることができるため、混練中にダマが発生することを防止することができ、ウレア系増ちょう剤(B)を高分散化したベースグリースを連続して短時間で製造することができる。
また、スクレーパー15が、付着したベースグリースを掻き取ることにより、滞留ベースグリースが回転子3の回転の抵抗となるのを防止することができるため、回転子3の回転トルクを低減することができ、駆動源の消費電力を低減して、効率的にベースグリースの連続製造を行うことができる。
【0092】
容器本体2の内周面が、導入部4から吐出部8に向かうにしたがって、内径が拡大する円錐台状であるので、遠心力がベースグリースまたはグリース原料を下流方向に排出する効果を持ち、回転子3の回転トルクを低減して、ベースグリースの連続製造を行うことができる。
回転子3の外周面に、回転子の第一凹凸部13が設けられ、回転子の第一凹凸部13が回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8への送り能力を有し、回転子の第二凹凸部14が回転子3の回転軸12に対して傾斜し、導入部4から吐出部8への送り抑制能力を有しているため、溶液に高いせん断力を付与することができ、添加剤を配合後も、上記要件(I)及び(II)を満たすように、グリース組成物中にウレア系増ちょう剤(B)を分散させることができる。
【0093】
容器本体の第一内周面6に第一凹凸部9が形成され、回転子の第一凹凸部13とは逆向きに傾斜しているため、回転子の第一凹凸部13の効果に加え、さらに、ベースグリースまたはグリース原料を下流方向に押し出しながら、十分なグリース原料の撹拌を行うことができ、添加剤を配合後も、上記要件(I)及び(II)を満たすように、グリース組成物中にウレア系増ちょう剤(B)を分散させることができる。
また、容器本体の第二内周面7に第二凹凸部10が設けられると共に、回転子3の外周面に回転子の第二凹凸部14が設けられることにより、グリース原料が必要以上に容器本体の第一内周面6から流出することを防止できるので、溶液に高いせん断力を与えてグリース原料を高分散化して、添加剤を配合後も、上記要件(I)及び(II)を満たすように、グリース組成物中にウレア系増ちょう剤(B)を分散させることができる。
【0094】
[グリース組成物の物性]
<混和ちょう度>
本発明の一態様のグリース組成物の25℃における混和ちょう度は、耐摩耗性に優れるグリース組成物とする観点から、好ましくは220~385、より好ましくは250~355、更に好ましくは265~340である。
なお、混和ちょう度は、JIS K2220 7:2013に準拠して、25℃にて測定した値を意味する。
【0095】
<振動摩擦摩耗試験(SRV試験)により測定される摩耗痕径及び摩擦係数>
本発明の一態様のグリース組成物のSRV試験により測定される摩耗痕径は、好ましくは0.630mm以下、より好ましくは0.625mm以下、更に好ましくは0.620mm以下、より更に好ましくは0.615mm以下、更になお好ましくは0.610mm以下である。
本発明の一態様のグリース組成物のSRV試験により測定される摩擦係数(荷重35N)は、好ましくは0.150以下、より好ましくは0.130以下、更に好ましくは0.100以下、より更に好ましくは0.080以下、更になお好ましくは0.060以下である。
本発明の一態様のグリース組成物のSRV試験により測定される摩擦係数(荷重200N)は、好ましくは0.170以下、より好ましくは0.140以下、更に好ましくは0.100以下、より更に好ましくは0.080以下、更になお好ましくは0.060以下である。
摩耗痕径が小さく、摩擦係数が低いほど、摩擦特性が良好であり、耐摩耗性に優れるグリース組成物であるといえる。
しかも、SRV試験において、低荷重の場合と高荷重の場合とで、摩擦係数が大きく変動することがなく、高荷重がかかりやすい等速ジョイントの転がり滑り部分の潤滑に用いるグリース組成物として極めて適しているといえる。
なお、SRV試験は、ASTM D5706に準拠し、後述する実施例に記載の方法で実施することができる。
【0096】
[グリース組成物の使用方法(潤滑方法)]
本発明のグリース組成物は、等速ジョイントに用いられる。
等速ジョイントは、回転時に高い面圧がかかると共に、複雑な転がり滑り作用を受ける。そのため、等速ジョイントの転がり滑り部分に高荷重がかかりやすい。しかも、近年、自動車の高性能化、静粛化、及び乗り心地の追求等、並びに一般産業機械の高性能化、静粛化、及び高精度化等に向けて、等速ジョイントの低振動化や長寿命化に対する要求が更に厳しいものとなっており、等速ジョイントにおける摩耗がより起こりやすい状況にある。
本発明のグリース組成物は、耐摩耗性に優れるため、等速ジョイントのように、厳しい条件下で用いられる継手に対しても、効率よく潤滑して摩耗を抑え、等速ジョイントの耐久性を向上させることができる。
したがって、本発明の一態様では、本発明のグリース組成物を、等速ジョイントに使用する方法が提供される。
また、本発明の一態様では、本発明のグリース組成物を用いて、等速ジョイントを潤滑する方法が提供される。
【0097】
[等速ジョイント及び等速ジョイント構造物]
本発明のグリース組成物は、等速ジョイントに用いられる。
したがって、本発明の一態様では、本発明のグリース組成物が充填された、等速ジョイントが提供される。
また、本発明の一態様では、等速ジョイントが本発明のグリース組成物と共にブーツで密封されてなる等速ジョイント構造物が提供される。
【実施例
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
本実施例における、各種物性値の測定法を以下に説明する。
【0100】
[各種物性値の測定法]
(1)40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
【0101】
(2)混和ちょう度
JIS K2220 7:2013に準拠して、25℃にて測定した。
【0102】
(3)ウレア系増ちょう剤の粒子径分布
後述する製造例で得たグリース組成物を真空脱泡した後、1mLシリンジに充填し、当該シリンジから0.10~0.15mLのグリース組成物を押し出し、ペーストセル用固定治具の板状のセルの表面にグリース組成物を載せた。
次いで、グリース組成物上に、さらに別の板状のセルを重ねて、2枚のセルでグリース組成物を挟持した測定用セルを得た。
そして、光散乱粒子径測定装置として、レーザー回折型粒径測定機((株)堀場製作所製、商品名:LA-920)を用いて、測定用セルのグリース組成物中のウレア系増ちょう剤を含む粒子の体積基準での粒子径分布曲線を得た。
この粒子径分布曲線において、頻度が最大となるピークを特定し、前記要件(I)で規定する当該ピークの最大頻度となる粒子径の値、及び、前記要件(II)で規定する当該ピークの半値幅を算出した。
【0103】
[製造例]
実施例1及び比較例1~3のベースグリース、並びに実施例2~5のグリース組成物の製造方法を以下に示す。
【0104】
<製造例1>
基油(A)として、以下の基油1を597.8gと基油2を290.0gとを混合した混合基油を用いた。
・基油1:パラフィン系鉱油、40℃動粘度:90.51mm/s、100℃動粘度:10.89mm/s、粘度指数:107
・基油2:パラフィン系鉱油、40℃動粘度:408.80mm/s、100℃動粘度:30.86mm/s、粘度指数:105
1Lの金属容器の反応釜内に、基油(A)375.5gと、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)24.5g(0.098mmol)とを加え、加熱溶解し、溶液αを調製した。
また、別途用意した1Lの金属容器内に、基油(A)368.3gと、シクロヘキシルアミン(Cy)11.3g(0.114mmol)と、ステアリルアミン(C18)20.4g(0.076mmol)とを加え、溶液βを調製した。
そして、溶液αが入った反応釜内に、溶液βを加熱しながら加え、撹拌し均一化させた。さらに、溶液βが入っていた金属容器に、基油(A)200.0gを加えて十分に撹拌し、当該金属容器内に残存する溶液βを反応釜内に加えた後、反応釜内の反応液を撹拌した。
そして、反応液を90℃以上に昇温し、1時間保持して反応を完結後、上記一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)を合成し、三段ロールミルで処理してベースグリースX1(実施例1)を得た。
なお、ベースグリースX1中のウレア系増ちょう剤(B)は、上記一般式(B1)のR及びRがシクロヘキシル基及びステアリル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基であるジウレア化合物に該当する。
また、要件(a)で規定する{(X+Y)/(X+Y+Z)}×100の値は100であり、要件(b)で規定するX/Y比は60/40である。
【0105】
<製造例2>
基油(A)として、上記の基油1を549.0gと基油2を290.0gとを混合した混合基油を用いた。
1Lの金属容器の反応釜内に、基油(A)309.0gと、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)91g(0.364mmol)とを加え、加熱溶解し、溶液αを調製した。
また、別途用意した1Lの金属容器内に、基油(A)330.0gと、シクロヘキシルアミン(Cy)70.0g(0.706mmol)とを加え、溶液βを調製した。
そして、溶液αが入った反応釜内に、溶液βを加熱しながら加え、撹拌し均一化させた。さらに、溶液βが入っていた金属容器に、基油(A)200.0gを加えて十分に撹拌し、当該金属容器内に残存する溶液βを反応釜内に加えた後、反応釜内の反応液を撹拌した。
そして、製造例1と同様の方法で、ウレア系増ちょう剤(B)を合成し、三段ロールミルで処理してベースグリースX2(比較例1)を得た。
なお、ベースグリースX2中のウレア系増ちょう剤(B)は、上記一般式(B1)のR及びRがシクロヘキシル基であり、Rがジフェニルメチレン基であるジウレア化合物に該当する。
また、要件(a)で規定する{(X+Y)/(X+Y+Z)}×100の値は100であり、要件(b)で規定するX/Y比は100/0である。
【0106】
<製造例3>
基油(A)として、上記の基油1を639.8gと基油2を290.0gとを混合した混合基油を用いた。
1Lの金属容器の反応釜内に、基油(A)365.0gと、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)35.0g(0.140mmol)とを加え、加熱溶解し、溶液αを調製した。
また、別途用意した1Lの金属容器内に、基油(A)363.9gと、シクロヘキシルアミン(Cy)21.5g(0.217mmol)と、ステアリルアミン(C18)14.6g(0.054mmol)とを加え、溶液βを調製した。
そして、溶液αが入った反応釜内に、溶液βを加熱しながら加え、撹拌し均一化させた。さらに、溶液βが入っていた金属容器に、基油(A)200.0gを加えて十分に撹拌し、当該金属容器内に残存する溶液βを反応釜内に加えた後、反応釜内の反応液を撹拌した。
そして、製造例1と同様の方法で、ウレア系増ちょう剤(B)を合成し、三段ロールミルで処理してベースグリースX3(比較例2)を得た。
なお、ベースグリースX3中のウレア系増ちょう剤(B)は、上記一般式(B1)のR及びRがシクロヘキシル基及びステアリル基から選択され、Rがジフェニルメチレン基であるジウレア化合物に該当する。
また、要件(a)で規定する{(X+Y)/(X+Y+Z)}×100の値は100であり、要件(b)で規定するX/Y比は80/20である。
【0107】
<製造例4>
基油(A)として、上記の基油1を562.1gと基油2を290.0gとを混合した混合基油を用いた。
1Lの金属容器の反応釜内に、基油(A)352.1gと、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)47.9g(0.191mmol)とを加え、加熱溶解し、溶液αを調製した。
また、別途用意した1Lの金属容器内に、基油(A)300.0gと、ステアリルアミン(C18)100.0g(0.371mmol)とを加え、溶液βを調製した。
そして、溶液αが入った反応釜内に、溶液βを加熱しながら加え、撹拌し均一化させた。さらに、溶液βが入っていた金属容器に、基油(A)200.0gを加えて十分に撹拌し、当該金属容器内に残存する溶液βを反応釜内に加えた後、反応釜内の反応液を撹拌した。
そして、製造例1と同様の方法で、ウレア系増ちょう剤(B)を合成し、三段ロールミルで処理してベースグリースX4(比較例4)を得た。
なお、ベースグリースX4中のウレア系増ちょう剤(B)は、上記一般式(B1)のR及びRがステアリル基であり、Rがジフェニルメチレン基であるジウレア化合物に該当する。
また、要件(a)で規定する{(X+Y)/(X+Y+Z)}×100の値は100であり、要件(b)で規定するX/Y比は0/100である。
【0108】
<製造例5>
製造例1で調製した溶液α及び溶液βを用い、以下の手順でベースグリースY1及びグリース組成物Y1-1(実施例2)を製造した。
まず、図1に示すグリース製造装置1を用いて、60~80℃に加熱した溶液αを溶液導入管4Aから流量100~200L/hで、60~80℃に加熱した溶液βを溶液導入管4Bから流量100~200L/hで、それぞれを同時に容器本体2内へ導入し、回転子3を回転させた状態で溶液αと溶液βを容器本体2内へ連続的に導入し続けた。なお、使用したグリース製造装置1の回転子3の回転数は7000~9000rpmとした。
また、この際の最高せん断速度(Max)は10,500s-1であり、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)との比〔Max/Min〕は3.5として、撹拌を行った。
そして、得られたベースグリースY1を120℃で撹拌しながら、有機モリブデン系化合物(C)であるMoDTC(アデカ社製、サクラルーブ525)、ジチオリン酸亜鉛(D)であるZnDTP(アフトンケミカル社製、HITEC7169)、並びに、その他のグリース用添加剤としてフェノール系酸化防止剤、硫化油脂、及びベンゾトリアゾールを、表2の実施例2に記載の含有量となるように添加し、0.5時間撹拌した後、自然放冷にて25℃まで冷却した後に、三段ロールミルで処理し、脱泡してグリース組成物Y1-1を得た。
【0109】
<製造例6>
製造例5において得られたベースグリースY1を120℃で撹拌しながら、その他のグリース用添加剤であるフェノール系酸化防止剤及びベンゾトリアゾールを、表2の実施例3に記載の含有量となるように添加し、0.5時間撹拌した後、自然放冷にて25℃まで冷却した後に、三段ロールミルで処理し、脱泡してグリース組成物Y1-2(実施例3)を得た。
【0110】
<製造例7>
製造例1で得られたベースグリースX1を120℃で撹拌しながら、有機モリブデン系化合物(C)であるMoDTC、ジチオリン酸亜鉛(D)であるZnDTP、並びに、その他のグリース用添加剤としてフェノール系酸化防止剤、硫化油脂、及びベンゾトリアゾールを、表2の実施例4に記載の含有量となるように添加し、0.5時間撹拌した後、自然放冷にて25℃まで冷却した後に、三段ロールミルで処理し、脱泡してグリース組成物X1-1(実施例4)を得た。
【0111】
<製造例8>
製造例1で得られたベースグリースX1を120℃で撹拌しながら、その他のグリース用添加剤であるフェノール系酸化防止剤及びベンゾトリアゾールを、表2の実施例5に記載の含有量となるように添加し、0.5時間撹拌した後、自然放冷にて25℃まで冷却した後に、三段ロールミルで処理し、脱泡してグリース組成物X1-2(実施例5)を得た。
【0112】
製造例1~4で製造したベースグリースについて、以下のSRV試験1を行い、摩耗痕径を測定した。結果を表1に示す。
また、製造例5~8で製造したグリース組成物について、以下のSRV試験2及び3を行い、低荷重における摩擦係数及び高荷重時における摩擦係数を測定した。結果を表2に示す。
なお、表1及び表2中、「Cy」はシクロヘキシルアミンを指し、「C18」はステアリルアミンを指す。
【0113】
[SRV試験1:摩耗痕径の測定]
ASTM D5706に準拠し、SRV試験機(Optimol社製)を用い、下記の条件にて、調製したベースグリースを使用した際のボールの摩耗痕径(mm)を測定した。
・ボール:AISI52100
・ディスク:AISI52100
・振動数:50Hz
・振幅:3.0mm
・荷重:200N
・温度:40℃
・試験時間:30分
【0114】
[SRV試験2:摩擦係数(低荷重)の測定]
ASTM D5706に準拠し、SRV試験機(Optimol社製)を用い、下記の条件にて、調製したグリース組成物を使用した際の摩擦係数を測定した。なお、試験開始20分後から試験終了までの10分間での摩擦係数の平均値を摩擦係数(低荷重)とした。
・ボール:AISI52100
・ディスク:AISI52100
・振動数:30Hz
・振幅:3.0mm
・荷重:35N
・温度:40℃
・試験時間:30分
【0115】
[SRV試験3:摩擦係数(高荷重)の測定]
ASTM D5706に準拠し、SRV試験機(Optimol社製)を用い、下記の条件にて、調製したグリース組成物を使用した際の摩擦係数を測定した。なお、試験開始20分後から試験終了までの10分間での摩擦係数の平均値を摩擦係数(高荷重)とした。
・ボール:AISI52100
・ディスク:AISI52100
・振動数:30Hz
・振幅:3.0mm
・荷重:200N
・温度:40℃
・試験時間:30分
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】

【0118】
表1から、以下のことがわかる。
一般式(B1)で表されるウレア系増ちょう剤(B)において規定される「要件(b):X/Y比が、10/90~75/25である。」を満たす実施例1のベースグリースX1は、摩耗痕径が小さく、優れた耐摩耗性を有する一方、要件(b)を満たさないウレア系増ちょう剤を含む、比較例1~3のベースグリースX2、X3、及びX4は、摩耗痕径が大きく、耐摩耗性に劣ることがわかる。
【0119】
また、表2から、以下のことがわかる。
実施例2~5のグリース組成物は、低荷重および高荷重のいずれの場合にも、SRV試験における摩擦係数が小さい。したがって、低荷重および高荷重のいずれの場合にも、摩擦特性に優れることがわかる。
特に、実施例2及び4のグリース組成物Y1-1及びX1-1のように、添加剤として、有機モリブデン系化合物(C)であるMoDTCとジチオリン酸亜鉛(D)であるZnDTPとを用いることで、SRV試験における摩擦係数が大きく低減し、摩擦特性に極めて優れることがわかる。
また、実施例2及び3のグリース組成物Y1-1及びY1-2のように、高分散法により得られたグリース組成物は、通常法により得られた実施例4及び5のグリース組成物X1-1及びX1-2と比較して、SRV試験における摩擦係数がより低減し、摩擦特性により優れることがわかる。
なお、実施例2及び3のグリース組成物Y1-1及びY1-2のように、高分散法により得られたグリース組成物は、粒子径分布曲線において、最大頻度となるピークが、下記要件(I)及び(II)を満たしていた。
・要件(I):前記ピークの最大頻度となる粒子径が1.0μm以下である。
・要件(II):前記ピークの半値幅が1.0μm以下である。
一方、通常法により得られた実施例4及び5のグリース組成物X1-1及びX1-2は、上記要件(I)及び(II)を満たしていなかった。
このように、上記要件(I)及び(II)を満たすことによって、SRV試験における摩擦係数がより低減し、摩擦特性により優れるグリース組成物となることがわかる。
図1
図2
図3