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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】メタクリル共重合体および成形品
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/04 20060101AFI20240226BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20240226BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20240226BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240226BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
G02B1/04
C08F220/18
C08L33/12
C08L51/04
C08L53/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021522896
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021319
(87)【国際公開番号】W WO2020241822
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019100340
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】平岡 伸崇
(72)【発明者】
【氏名】松橋 広大
(72)【発明者】
【氏名】田村 英孝
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/167292(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146169(WO,A1)
【文献】特開2017-178975(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076398(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/073216(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/185508(WO,A1)
【文献】特開2015-157876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/04
C08F 220/18
C08L 33/12
C08L 51/04
C08L 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチルに由来する単量体単位88.9~93.5質量%とアクリル酸エステルに由来する単量体単位6.5~11.1質量%とを含んで成り、
メタクリル酸メチルに由来する単量体単位およびアクリル酸エステルに由来する単量体単位の合計が100質量%であり、
重量平均分子量Mwが49000~53000で、
数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.1以下で、
230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRが35~58g/10分で、且つ
230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが1.7~3.0℃・10分/gである、メタクリル共重合体
を含有して成る、光学部材。
【請求項2】
メタクリル共重合体は、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位に対する結合硫黄原子の量が0.4mol%以下である、請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
メタクリル酸メチルに由来する単量体単位88.9~93.5質量%とアクリル酸エステルに由来する単量体単位6.5~11.1質量%とを含んで成り、
メタクリル酸メチルに由来する単量体単位およびアクリル酸エステルに由来する単量体単位の合計が100質量%であり、
重量平均分子量Mwが49000~53000で、 数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.1以下で、 230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRが35~58g/10分で、且つ 230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが1.7~3.0℃・10分/gである、メタクリル共重合体。
【請求項4】
メタクリル酸メチルに由来する単量体単位に対する結合硫黄原子の量が0.4mol%以下である、請求項3に記載のメタクリル共重合体。
【請求項5】
請求項3または4に記載のメタクリル共重合体と、アクリル系ゴム粒子とを含有して成る、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
アクリル系ブロック共重合体をさらに含有してなる、請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン不溶分は、その量が59質量%以下であり、且つ
熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分は、230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが6.0~1.5℃・10分/gである、請求項またはに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
メタクリル酸メチル81.0~91.9質量%およびアクリル酸エステル8.1~19.0質量%を少なくとも含む単量体100質量部、連鎖移動剤0.42~0.52質量部、ならびに重合開始剤を連続流通式反応器に平均滞留時間1.5~3時間で供給して温度110~140℃にて溶媒を用いずに、重合転化率35~65%で重合し、 次いで220~260℃にて加熱脱揮して未反応単量体を除去することを含む、 メタクリル酸メチルに由来する構造単位88.9~93.5質量%およびアクリル酸エステルに由来する構造単位6.5~11.1質量%を含んで成り、
メタクリル酸メチルに由来する単量体単位およびアクリル酸エステルに由来する単量体単位の合計が100質量%であり、
重量平均分子量Mwが49000~53000で、 数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.1以下で、 230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRが35~58g/10分で、且つ 230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが1.7~3.0℃・10分/gであるメタクリル共重合体を
製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタクリル共重合体および成形品に関する。より詳細に、本発明は、加熱成形時における流動性に優れ且つ金型汚れの少ないメタクリル共重合体、および耐熱性が高く且つ力学強度が高い成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル樹脂は、高い透明性を有し、光学部材、照明部材、看板部材、装飾部材等に用いる成形品の材料として有用である。メタクリル樹脂の成形品が用いられているいくつかの分野では、成形品の軽量化または薄肉化が要望されている。
薄肉の成形品を得るためには、メタクリル樹脂が溶融時に高い流動性を有することが必要である。樹脂の流動性を高める方策としては、軟化温度またはガラス転移温度を下げること、分子量を下げること、分子量分布を広くすることなどが、一般に知られている。しかし、これらの方策をメタクリル樹脂に適用すると、耐熱性の低下、力学強度の低下などを引き起こす。このようなことを考慮して、引用文献1~3は、様々なメタクリル樹脂および、その製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO 2013/161265 A1
【文献】特開2017/178975号公報
【文献】WO 2017/146169 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、加熱成形時における流動性に優れ且つ金型汚れの少ないメタクリル共重合体、および耐熱性が高く且つ力学強度が高い成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために検討を重ねた結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0006】
〔1〕 メタクリル酸メチルに由来する単量体単位85.0~95.0質量%とアクリル酸エステルに由来する単量体単位5.0~15.0質量%とを含んで成り、
重量平均分子量Mwが48000~59000で、
数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.1以下で、且つ
230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが5.0~1.5℃・10分/gである、メタクリル共重合体。
〔2〕 メタクリル酸メチルに由来する単量体単位に対する結合硫黄原子の量が0.4mol%以下であり、且つメルトフローレートRが25g/10分以上である、〔1〕に記載のメタクリル共重合体。
【0007】
〔3〕 〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル共重合体と、アクリル系ゴム粒子とを含有して成る、熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕 アクリル系ブロック共重合体をさらに含有してなる、〔3〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔5〕 熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン不溶分は、その量が59質量%以下であり、且つ
熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分は、230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが6.0~1.5℃・10分/gである、〔3〕または〔4〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0008】
〔6〕 〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル共重合体を含む、ペレット状の成形材料
〔7〕 〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル共重合体を含有して成る、成形品。
〔8〕 厚さ0.5mm以下の板状である、〔7〕に記載の成形品。
〔9〕 〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル共重合体を含有、携帯電話端末用の筐体。
〔10〕 〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル共重合体を含有して成る、厚さ0.8mm以下の部分を有する、携帯電話端末用の筐体。
〔11〕 〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル共重合体を含有して成る、光学部材。
【0009】
〔12〕 メタクリル酸メチルとアクリル酸エステルとを含む単量体を塊状重合法で重合反応させることを含む、請求項1または2に記載のメタクリル共重合体の製造方法。
【0010】
〔13〕 メタクリル酸メチル81.0~94.2質量%およびアクリル酸エステル5.8~19.0質量%を少なくとも含む単量体100質量部、連鎖移動剤0.42~0.52質量部、ならびに重合開始剤を連続流通式反応器に平均滞留時間1.5~3時間で供給して温度110~140℃にて溶媒を用いずに、重合転化率35~65%で重合し、
次いで220~260℃にて加熱脱揮して未反応単量体を除去することを含む、
メタクリル酸メチルに由来する構造単位85~95.0質量%およびアクリル酸エステルに由来する構造単位5.0~15.0質量%を含んで成り、
重量平均分子量Mwが48000~59000で、
数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.1以下で、且つ
230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが5.0~1.5℃・10分/gであるメタクリル共重合体を
製造する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のメタクリル共重合体は、流動性に優れ、シルバーストリーク、クラック、ヒケ、フローマーク、樹脂焼け、ガス汚れ、着色等などの成形不良を生じ難い。本発明のメタクリル共重合体を含む成形材料は、射出成形に適する。本発明のメタクリル共重合体を含む成形材料は、薄肉の成形品、例えば厚さ0.5mm以下の板を得るのに適している。本発明のメタクリル共重合体を含む成形品は、耐熱性および力学強度が高く、着色などの外観不良が無い。本発明のメタクリル共重合体を含む成形材料は、せん断による発熱が低く、低い温度で且つ高い射出圧力においても外観良好な射出成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のメタクリル共重合体は、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位、およびアクリル酸エステルに由来する単量体単位を含んで成るものである。
メタクリル酸メチルに由来する単量体単位の含有量は、85.0~95.0質量%、好ましくは85.0~93.5質量%、より好ましくは87.5~93.5質量%、さらに好ましくは88~93.5質量%である。アクリル酸エステルに由来する単量体単位の含有量は、5.0~15.0質量%、好ましくは6.5~15.0質量%、より好ましくは6.5~12.5質量%、さらに好ましくは6.5~12質量%である。本発明のメタクリル共重合体においては、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位およびアクリル酸エステルに由来する単量体単位の合計は、99質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0013】
アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ミリスチルアクリレート、ドデシルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレートなどのアクリル酸直鎖アルキルエステル;イソプロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどのアクリル酸分岐アルキルエステル;シクロヘキシルアクリレートなどのアクリル酸環状アルキルエステル;フェニルアクリレートなどのアクリル酸アリールエステル;ベンジルアクリレートなどのアクリル酸アラルキルエステル;などを挙げることができる。これらのうちアクリル酸直鎖、分岐若しくは環状アルキルエステルが好ましく、アクリル酸直鎖アルキルエステルがより好ましい。アクリル酸アルキルエステル中のアルキル基は、その炭素数が、好ましくは1~18、より好ましく1または2、さらに好ましくは1である。
【0014】
本発明のメタクリル共重合体は、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位、およびアクリル酸エステルに由来する単量体単位以外の単量体単位を有していてもよく、そのような単量体としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸へキシル、メタクリル酸へプチルなどのメタクリル酸非環状C2以上アルキルエステル、好ましくはメタクリル酸非環状C2以上C7以下アルキルエステル;メタクリル酸ビシクロ[3.2.1]オクチル、メタクリル酸トリシクロ[3.2.1.02,7]オクチル、メタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル、メタクリル酸3,9:8,10-ジメタノトリシクロ[4.2.1.12,5]デシルなどのメタクリル酸環状アルキルエステル;スチレン、メチルスチレンなどの芳香族ビニル等を挙げることができる。これらの単量体単位の含有量は、1質量%以下であるのが好ましい。なお、「C2以上C7以下」とは、アルキル基を構成する炭素原子の数が2以上7以下のことである。
【0015】
本発明のメタクリル共重合体は、靭性、表面硬度などの観点から、重量平均分子量Mwと、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnとの、両者が下記の範囲内である。すなわち、本発明のメタクリル共重合体は、重量平均分子量Mwが、48000~59000、好ましくは48000~55000、より好ましくは49000~53000であり、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが、2.1以下、好ましくは1.7以上2.0以下である。重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定されたチャートを標準ポリスチレンの分子量に換算して算出した値である。
【0016】
本発明のメタクリル共重合体は、230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが、5.0~1.5℃・10分/g、好ましくは4.0~1.5℃・10分/g、より好ましくは3.5~1.5℃・10分/g、さらに好ましくは3.3~1.5℃・10分/gである。
ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(島津製作所製、DSC-50(品番))を用いて、230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線に基づいて定まる中間点ガラス転移温度(Tmg)である。メルトフローレートは、JIS K7210に準拠して、230℃、3.8kg荷重、10分間の条件で測定した値である。
【0017】
本発明のメタクリル共重合体の、230℃、3.8kg荷重で測定したメルトフローレートRは、成形性、靭性などの観点から、下限が、好ましくは15g/10分、より好ましくは25g/10分であり、上限が、好ましくは60g/10分である。
【0018】
本発明のメタクリル共重合体は、メタクリル酸メチルに由来する単量体単位に対する結合硫黄原子の量が、好ましくは0.4mol%以下、より好ましくは0.3~0.38mol%、さらに好ましくは0.31~0.36mol%である。硫黄結合量は、メタクリル共重合体に、良好な成形性、少ない金型汚れ、および高い流動性を付与することに関係する。
結合硫黄原子の量は次のようにして決定される値Spである。
メタクリル共重合体をクロロホルムに溶解させて溶液を得る。この溶液をn-ヘキサンに添加して沈殿物を得る。該沈殿物を80℃で12時間以上真空下で乾燥させる。得られた乾燥品を適量精秤して、硫黄燃焼装置にセットし、温度400℃の反応炉で分解させ、生成したガスを温度900℃の炉に通し、次いで0.3%過酸化水素水で吸収する。得られた液(分解ガス水溶液)を純水で適宜希釈し、イオンクロマトグラフィ(DIONEX製ICS-1500,カラム:AS12A)により硫酸イオンを定量する。乾燥品の質量あたりの硫黄原子の質量Wp(質量%)からメタクリル酸メチルに由来する単量体単位に対する結合硫黄原子の量(モル%)を算出する。
【0019】
本発明のメタクリル共重合体の製造方法は特に制限されない。例えば、ラジカル重合反応、アニオン重合反応などの公知の重合反応によって製造することができる。本発明においてはラジカル重合反応が好ましい。重合反応は、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、または乳化重合法によって行うことができる。これらの重合方法のうち、不純物の混入が少ないことから塊状重合法が好ましい。塊状重合法においては重合転化率を35~65%にすることが好ましい。塊状重合法は連続流通式で行うことが好ましい。連続流通式塊状重合法においては反応器における平均滞留時間を1.5~3時間にすることが好ましい。
【0020】
本発明のメタクリル共重合体の好ましい製造方法は、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸エステルを含む単量体、好ましくはメタクリル酸メチル81.0~94.2質量%およびアクリル酸エステル5.8~19.0質量%を少なくとも含む単量体、より好ましくはメタクリル酸メチル81.0~91.9質量%およびアクリル酸エステル8.1~19.0質量%を含む単量体を塊状重合法で重合させることを含む。アクリル酸エステルは、メタクリル共重合体に、高い流動性、および高いメルトフローレートRを与えることに関係する。重合に供される単量体には、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸エステル以外に、メタクリル酸非環状C2以上アルキルエステル(好ましくはメタクリル酸非環状C2以上C7以下アルキルエステル)、メタクリル酸環状アルキルエステル;スチレン、メチルスチレンなどの芳香族ビニル等などが含まれていてもよい。メタクリル酸メチルおよびアクリル酸エステル以外のこれら単量体の含有量は、1質量%以下であるのが好ましい。本発明の製造方法においては、重合に供される単量体に含まれるメタクリル酸メチルおよびアクリル酸エステルの合計が、99質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0021】
重合反応は、重合開始剤と、所定の単量体と、必要に応じて連鎖移動剤などとを用いて行われる。重合時の温度は、好ましくは100~150℃、より好ましくは110~140℃、さらに好ましくは120~140℃である。重合温度を低くするほど、本発明のメタクリル共重合体の耐熱性が高くなる傾向がある。
【0022】
本発明に用いられる重合開始剤は特に限定されない。例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤;t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネートなどの過酸化物系重合開始剤などを挙げることができる。本発明に用いられる重合開始剤は重合時の温度における半減期が1秒間~1分間であるものが好ましい。重合開始剤の使用量を少なめにすると、本発明のメタクリル共重合体は金型汚れが小さくなる傾向がある。金型汚れを小さくすることの観点から、例えば、重合に供される単量体の合計100質量部に対し、アゾビスイソブチロニトリルを、好ましくは0.02質量部以下、より好ましくは0.002質量部以上0.01質量部以下で用いることができる。
【0023】
本発明に用いられる連鎖移動剤は特に限定されない。例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系連鎖移動剤;α-メチルスチレンダイマー; テルピノレンなどを挙げることができる。連鎖移動剤の使用量は、重合に供される単量体の合計100質量部に対し、好ましくは0.42~0.52質量部である。メルカプタン系連鎖移動剤の使用量を増やすほどメタクリル酸メチルに由来由来する単量体単位に対する結合硫黄原子の量が増える。射出成形性が良く、金型汚れが少なく、流動性を高くする観点から、例えば、重合に供される単量体の合計100質量部に対し、n-オクチルメルカプタンを、好ましくは0.3質量部以上0.6質量部以下、より好ましくは0.41質量部以上0.50質量部以下で用いることができる。
【0024】
重合反応後、反応生成物から未反応の単量体を除去することが好ましい。未反応の単量体の除去は、温度220~260℃にての加熱脱揮法にて行うことが好ましい。加脱揮法においては、反応器から排出された反応生成物を含む液を加熱するための装置、例えば、熱交換器と、加熱するため装置で所定の温度に加熱された液から揮発分を除去するためのベント付押し出し機とが、好ましく使用される。ベント付押し出し機は、通常、シリンダとスクリューからなる。シリンダには、ホッパ(反応生成物を含め液の導入口)、ホッパの上流側にリアベント、ホッパの下流側にフロントベント、最下流にポリマー排出口などが設置されている。そして、ホッパにおいて加熱された液がフラッシュ蒸発するようにホッパおよびシリンダ内の温度および圧力を設定することが好ましい。リアベントおよびフロントベントから、除去された揮発分が排出される。そして、リアベントおよび/またはフロントベントを通過して排出される揮発分にリアベントおよび/またはフロントベントにおいて窒素ガスなどの不活性ガスを添加することが好ましい。また、スクリューは、単軸式、二軸式のいずれでもよい。スクリューは、フロントベントに対応する部分において圧力を開放するように、例えば、その部分のスクリューの軸径を他の部分のそれよりも細くすることができる。また、フロントベントの直前にダイナミックバルブを設けるバルブ機構や、フロントベントの直前のスクリューに逆ねじ部分を設け且つフロントベントの直前と直後を繋ぐバイパスをシリンダに設けるバイパス機構を設けてもよい。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明のメタクリル共重合体と、アクリル系ゴム粒子とを含有する。
【0026】
アクリル系ゴム粒子としては、熱可塑性重合体(P)からなる外層と、該外層に接し且つ覆われた架橋弾性体からなる内層とからなるものを挙げることができ、内層と外層がコアとシェルを成していることが好ましい。内層は、芯と内殻とからなる。アクリル系ゴム粒子は、例えば、芯(内層)が架橋ゴム重合体(Q)-外殻(外層)が熱可塑性重合体(P)の2層重合体、芯(内層)が架橋重合体(R)-内殻(内層)が架橋ゴム重合体(Q)-外殻(外層)が熱可塑性重合体(P)の3層重合体、芯(内層)が架橋ゴム重合体(Q)-第一内殻(内層)が架橋重合体(R)-第二内殻(内層)が架橋ゴム重合体(Q)-外殻(外層)が熱可塑性重合体(P)の4層重合体などを挙げることができる。
【0027】
透明性の観点から、隣り合う層の屈折率の差が、好ましくは0.005未満、より好ましくは0.004未満、さらに好ましくは0.003未満になるように各層に含有される重合体を選択することが好ましい。
【0028】
アクリル系ゴム粒子における内層と外層との質量比は、好ましくは60/40~95/5、より好ましくは70/30~90/10である。内層において、架橋ゴム重合体(Q)を含有してなる層が占める割合は、好ましくは20~70質量%、より好ましくは30~50質量%である。
【0029】
アクリル系ゴム粒子は、平均粒子径が、好ましくは0.05~3μm、より好ましくは0.1~1μm、さらに好ましくは0.15~0.2μmである。このような範囲内の平均粒子径、特に0.15~0.2μmの平均粒子径を有することにより、少量の配合で、靭性を発現することができ、このため剛性や表面硬度を損なうことない。なお、本明細書における平均粒子径は、光散乱光法によって測定される、体積基準の粒径分布における平均値である。
【0030】
熱可塑性重合体(P)は、炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単位および必要に応じて該メタクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体単位からなる重合体である。熱可塑性重合体(P)は、多官能単量体単位を含まない方が好ましい。
【0031】
熱可塑性重合体(P)を構成する炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル単位の量は、熱可塑性重合体(P)の質量に対して、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~95質量%である。
【0032】
炭素数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル(以下、メタクリル酸C1-8アルキルエステルということがある。)としては、例えば、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0033】
熱可塑性重合体(P)を構成するメタクリル酸C1-8アルキルエステル以外の単官能単量体単位の量は、熱可塑性重合体(P)の質量に対して、好ましくは0~20質量%、より好ましくは5~15質量%である。
メタクリル酸C1-8アルキルエステル以外の単官能単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸プロルなどのアクリル酸エステル;スチレンなどの芳香族ビニル化合物を挙げることができる。
【0034】
熱可塑性重合体(P)の量は、アクリル系ゴム粒子に対して、好ましくは40~75質量%、より好ましくは45~70質量%、さらに好ましくは50~65質量%である。
【0035】
内層である架橋弾性体の層は、架橋ゴム重合体(Q)からなる中間層と、架橋重合体(R)からなり且つ前記中間層に接して覆われた内層とを有する。
【0036】
架橋重合体(R)は、メタクリル酸メチル単位、メタクリル酸メチル以外の単官能単量体単位、および多官能単量体単位からなる。
【0037】
架橋重合体(R)を構成するメタクリル酸メチル単位の量は、架橋重合体(R)の質量に対して、好ましくは40~98.5質量%、より好ましくは45~95質量%である。
【0038】
架橋重合体(R)を構成するメタクリル酸メチル以外の単官能単量体単位の量は、架橋重合体(R)の質量に対して、1~59.5質量%、好ましくは5~55質量%である。
メタクリル酸メチル以外の単官能単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸プロピルなどのアクリル酸エステル;スチレンなどの芳香族ビニル化合物を挙げることができる。
【0039】
架橋重合体(R)を構成する多官能単量体単位の量は、架橋重合体(R)の質量に対して、好ましくは0.05~0.4質量%、より好ましくは0.1~0.3質量%である。
多官能単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0040】
架橋重合体(R)の量は、アクリル系ゴム粒子に対して、好ましくは5~40質量%、より好ましくは7~35質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0041】
架橋ゴム重合体(Q)は、炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位および/または共役ジエン単位、および多官能単量体単位からなる。
【0042】
架橋ゴム重合体(Q)を構成する炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位および/または共役ジエン単位の量は、架橋ゴム重合体(Q)の質量に対して、好ましくは85~99質量%、より好ましくは95~98質量%である。
【0043】
炭素数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸プロピルなどを挙げることができる。
【0044】
架橋ゴム重合体(Q)を構成する多官能単量体単位の量は、架橋ゴム重合体(Q)の質量に対して、好ましくは1~1.7質量%、より好ましくは1.2~1.6質量%、さらに好ましくは1.3~1.5質量%である。
多官能単量体としては、架橋重合体(R)で挙げたものなどを挙げることができる。
【0045】
耐屈曲性の向上の観点から、架橋ゴム重合体(Q)中の多官能単量体単位の質量に対する、架橋重合体(R)中の多官能単量体単位の質量の比が、好ましくは0.05~0.25、より好ましくは0.1~0.2である。架橋ゴム重合体(Q)のガラス転移温度は、架橋重合体(R)のガラス転移温度より低いことが好ましい。
【0046】
架橋ゴム重合体(Q)の量は、アクリル系ゴム粒子の量に対して、好ましくは20~55質量%、より好ましくは25~45質量%、さらに好ましくは30~40質量%である。
【0047】
アクリル系ゴム粒子は、内層の平均直径が、好ましくは60~110nm、より好ましくは65~105nm、更に好ましくは70~100nmである。内層の平均直径は次のようにして決定できる。油圧式プレス成形機を用いて、金型サイズ50mm×120mm、プレス温度250℃、予熱時間3分、プレス圧力50kg/cm2、プレス時間30秒間、冷却温度20℃、冷却時の圧力50kg/cm2、冷却時間10分間の条件にて、アクリル系ゴム粒子を含む樹脂組成物を厚さ3mmの平板に成形する。ミクロトームを用いて、得られた平板を-100℃にて長辺に平行な方向に切削して、厚さ40nmの薄片を得、この薄片をルテニウムで染色処理する。染色処理された薄片を走査型透過電子顕微鏡(日本電子製JSM7600F)にて加速電圧25kVにて観察し写真を撮影する。ルテニウム染色された部分(架橋弾性体の層の切片露出部)の短径と長径を測定し、(短径+長径)/2を内層の直径とし、20個以上計測した後、その数平均値(平均直径)を算出する。
【0048】
アクリル系ゴム粒子は、その製造方法によって、特に限定されない。例えば、乳化重合などを挙げることができる。
乳化重合による場合は、例えば、架橋重合体(R)を構成するための単量体(r)を乳化重合して架橋重合体(R)を含有するラテックスを得、これに架橋ゴム重合体(Q)を構成するための単量体(q)を添加して、単量体(q)をシード乳化重合して架橋重合体(R)と架橋ゴム重合体(q)を含有するラテックスを得、これに熱可塑性重合体(P)を構成するための単量体(p)を加えて、単量体(p)をシード乳化重合してアクリル系ゴム粒子を含有するラテックスを得ることができる。なお、乳化重合は重合体を含有するラテックスを得るために用いられる公知の方法である。シード乳化重合はシード粒子の表面で単量体の重合反応を行わせる方法である。シード乳化重合はコアシェル構造重合体粒子を得るために好ましく用いられる。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、アクリル系ブロック共重合体をさらに含有することができる。
【0050】
アクリル系ブロック共重合体は、メタクリル酸エステル単位を主に有する重合体ブロック(b1)と、アクリル酸エステル単位を主に有する重合体ブロック(b2)とからなるものが好ましい。アクリル系ブロック共重合体の一分子中に在る重合体ブロック(b1)の数は、1であってもよいし、2以上であってもよい。また、アクリル系ブロック共重合体の一分子中に在る重合体ブロック(b2)の数は、1であってもよいし、2以上であってもよい。
【0051】
重合体ブロック(b1)に含まれるメタクリル酸エステル単位の量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは98質量%以上である。メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチルが好ましい。メタクリル酸エステルは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて重合体ブロック(b1)に用いることができる。
【0052】
アクリル系ブロック共重合体に含まれる重合体ブロック(b1)の量は、透明性、可撓性、耐屈曲性、耐衝撃性、柔軟性、成形加工性、表面平滑性などの観点から、好ましくは40質量%以上90質量%以下、より好ましくは45質量%以上80質量%以下である。
【0053】
重合体ブロック(b2)のガラス転移温度は、好ましくは20℃以下、更に好ましくは-20℃以下である。
【0054】
重合体ブロック(b2)に含まれるアクリル酸エステル単位の量は、好ましくは90質量%以上である。アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ベンジルなどが挙げられる。これらアクリル酸エステルは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて重合体ブロック(b2)に用いることができる。
【0055】
重合体ブロック(b2)は、本発明の目的および効果の妨げにならない限りにおいて、アクリル酸エステル以外の単量体単位を含んでもよい。
【0056】
重合体ブロック(b2)は、透明性などの観点から、アクリル酸アルキルエステル単位と(メタ)アクリル酸芳香族エステル単位とからなることが好ましい。アクリル酸アルキルエステル単位/(メタ)アクリル酸芳香族エステルの質量比は、好ましくは50/50~90/10、より好ましくは60/40~80/20である。
【0057】
アクリル系ブロック共重合体に含まれる重合体ブロック(b1)と重合体ブロック(b2)との結合形態は特に限定されない。例えば、重合体ブロック(b1)の一末端に重合体ブロック(b2)の一末端が繋がったもの(b1-b2ジブロック共重合体);重合体ブロック(b2)の両末端のそれぞれに重合体ブロック(b1)の一末端が繋がったもの(b1-b2-b1トリブロック共重合体)が好ましい。
【0058】
アクリル系ブロック共重合体は、重量平均分子量が、好ましくは52,000以上400,000以下、より好ましくは60,000以上300,000以下である。また、アクリル系ブロック共重合体は、数平均分子量に対する重量平均分子量の比が、好ましくは1.01以上2.00以下、より好ましくは1.05以上1.60以下である。アクリル系ブロック共重合体の重量平均分子量および数平均分子量は、成形性、引張強度、外観などの観点から、適宜設定できる。重量平均分子量および数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0059】
アクリル系ブロック共重合体は、その製造方法によって特に限定されず、公知の手法にて得ることができる。例えば、各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合することを含む方法が一般に使用される。リビング重合法としては、有機アルカリ金属化合物と有機アルミニウム化合物との存在下でアニオン重合させることを含む方法が、分子量や組成比の制御のし易さ、製造コスト、得られるアクリル系ブロック共重合体の純度の観点から、好ましい。
【0060】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン不溶分の量は、好ましくは59質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%である。
【0061】
熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン不溶分の量は、次のようにして決定する。精秤された熱可塑性樹脂組成物2g(w0)をアセトン50mlに添加し室温で24時間撹拌する。得られた液を遠沈管に入れ、0℃、20000rpmにて遠心分離を180分間施す。次いで、上澄み液をデカンテーションにより取り除く。該遠沈管にアセトンを加え撹拌する。5℃、20000rpmにて遠心分離を120分間施す。次いで上澄み液をデカンテーションにより取り除く。遠沈管の底から遠沈物を取り出し、減圧下50℃で乾燥させて、その質量w1を測定する。
アセトン不溶分の量(百分率)は、式:100×w1/w0にて算出する。
アセトン可溶分の量(百分率)は、式:100×(w0-w1)/w0にて算出する。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分は、前記上澄み液を減圧下50℃で乾燥させることによって得ることができる。アセトン可溶分は、230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRに対するガラス転移温度Tgの比Tg/Rが、好ましくは6.0~1.5℃・10分/g、より好ましくは5.6~2.0℃・10分/gである。
【0063】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分は、そのガラス転移温度が、好ましくは90~115℃、より好ましくは95~110℃である。
【0064】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるアセトン可溶分は、230℃および3.8kg荷重の条件におけるメルトフローレートRが、好ましくは15~60g/10分、より好ましくは20~55g/10分である。
【0065】
本発明の成形材料は、本発明のメタクリル共重合体(または熱可塑性樹脂組成物)を含有するものである。本発明の成形材料は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、耐衝撃性改質剤、蛍光体などの添加剤をさらに含有していてもよい。
【0066】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単独で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などを挙げることができる。これらの中、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤/ヒンダードフェノール系酸化防止剤を質量比で0.2/1~2/1で使用するのが好ましく、0.5/1~1/1で使用するのがより好ましい。
【0067】
リン系酸化防止剤としては、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP-10)、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRUGAFOS168)、3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサー3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA社製;商品名:アデカスタブPEP-36)などを挙げることができる。
【0068】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)などが好ましい。
【0069】
熱劣化防止剤としては、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。
該熱劣化防止剤としては、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4-ジt-アミル-6-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などが好ましい。
【0070】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われるものである。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などを挙げることができる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、または波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmax が100dm3 ・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0071】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被曝による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いので、本発明の成形品を光学用途に適用する場合に用いる紫外線吸収剤として好ましい。ベンゾトリアゾール類としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2‘-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-オクチルフェノール](ADEKA社製;LA-31)などが好ましい。
【0072】
また、波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmax が1200dm3 ・mol-1 cm-1 以下である紫外線吸収剤は、得られる成形品の変色を抑制できる。このような紫外線吸収剤としては、2-エチル-2’-エトキシ-オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)などを挙げることができる。
これら紫外線吸収剤の中、紫外線被照による樹脂劣化が抑えられるという観点からベンゾトリアゾール類が好ましく用いられる。
【0073】
また、波長380nm以下の短波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(ADEKA社製;LA-F70)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;TINUVIN477やTINUVIN460)などを挙げることができる。
【0074】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値ε max は、次のようにして測定する。シクロヘキサン1Lに紫外線吸収剤10.00mgを添加し、目視による観察で未溶解物がないように溶解させる。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U-3410型分光光度計を用いて、波長380~450nm、光路長1cmでの吸光度を測定する。紫外線吸収剤の分子量(MUV )と、測定された吸光度の最大値(Amax )とから次式により計算し、モル吸光係数の最大値εmax を算出する。
εmax=[Amax/(10×10-3)]×MUV
【0075】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類を挙げることができる。
【0076】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などを挙げることができる。滑剤の使用量を増やすと、本発明の成形材料のメルトフローレートRを大きくし、流動性を高くする傾向がある。
【0077】
離型剤としては、成形品の金型からの分離を容易にする機能を有する化合物である。離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどを挙げることができる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、高級アルコール類/グリセリン脂肪酸モノエステルの質量比が、2.5/1~3.5/1の範囲で使用するのが好ましく、2.8/1~3.2/1の範囲で使用するのがより好ましい。
【0078】
高分子加工助剤としては、例えば、0.05~0.5μmの粒子径を有する重合体粒子を用いることができる。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。高分子加工助剤は、極限粘度が3~6dl/gであることが好ましい。具体的には、三菱レイヨン社製メタブレン-Pシリーズや、ダウケミカル社製のパラロイドシリーズが挙げられる。高分子加工助剤の使用量は、メタクリル共重合体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上5質量部以下である。高分子加工助剤の使用量が0.1質量部以上であると良好な加工特性が得られ、高分子加工助剤の使用量が5質量部以下であると表面平滑性が良好である。
【0079】
耐衝撃性改質剤としては、アクリル系ゴムもしくはジエン系ゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤;ゴム粒子を複数包含した改質剤などを挙げることができる。
有機色素としては、樹脂に対しては有害とされている紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどを挙げることができる。
蛍光体として、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などを挙げることができる。
【0080】
これらの添加剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの添加剤は、メタクリル共重合体を製造する際に添加してもよいし、製造されたメタクリル共重合体に添加してもよい。本発明のメタクリル共重合体に含有される添加剤の合計量は、成形品の外観不良を抑制する観点から、メタクリル共重合体樹脂に対して、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0081】
本発明のメタクリル共重合体または熱可塑性樹脂組成物は、輸送、貯蔵などの利便性などを高めるために、ペレット、顆粒、粉末などの任意の形態にして、成形材料として使用することができる。
【0082】
本発明の成形品は、本発明のメタクリル共重合体(または熱可塑性樹脂組成物若しくは成形材料)に成形を施すことによって得られる。成形は、射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、真空成形法、キャスト成形法などの公知の方法で行うことができる。これらのうち、射出成形法が好ましい。本発明のメタクリル共重合体は、低いシリンダ温度において高い射出圧力で射出成形した場合でも、残留歪みが少なく且つ着色が殆んどない薄肉且つ広面積の成形品を高い生産効率で提供することができる。本発明のメタクリル共重合体は、射出成形において使用可能な金型の、厚さに対する樹脂流動長の比の最大値が、好ましくは450以上である。厚さに対する樹脂流動長の比の最大値が上記のように大きいと、本発明のメタクリル共重合体は薄肉の成形品の製造に好適である。本発明の好ましい形態の成形品は、板状であり、その厚さが、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.45mm以下、さらに好ましくは0.4mm以下、さらにより好ましくは0.35mm以下である。
【0083】
本発明のメタクリル共重合体(または熱可塑性樹脂組成物若しくは成形材料)は、携帯電話端末の筐体を製造するために好適である。携帯電話端末は、移動しながらの通話が可能な電話サービス(すなわち携帯電話)に使用される端末である。携帯電話端末は、少なくとも、アンテナ、スピーカ、マイク、入出力装置、表示装置、電子回路および電源、ならびにそれらを収納する筐体から成る。携帯電話端末は、小型化および軽量化の要望が高い。そのため、携帯電話端末用の筐体は、実用レベルでの強度を確保した上での薄肉化が要望されている。
【0084】
本発明のメタクリル共重合体(または熱可塑性樹脂組成物若しくは成形材料)は、薄肉化しても実用レベルでの強度を確保できる。本発明の携帯電話端末用の筐体は、本発明のメタクリル共重合体(または熱可塑性樹脂組成物若しくは成形材料)を含有してなるものであり、例えば、厚さが、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.7mm以下、さらに好ましくは0.6mm以下の、部分が、本発明のメタクリル共重合体(または熱可塑性樹脂組成物若しくは成形材料)を含有してなるものである。
【0085】
本発明の成形品としては、例えば、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板などの看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイなどのディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリアなどの照明部品;ペンダント、ミラーなどのインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根などの建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバーなどの輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機などの電子機器部品;保育器、レントゲン部品などの医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓などの機器関係部品;液晶保護板、導光板、導光フィルム、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、各種ディスプレイの前面板、拡散板、偏光子保護フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、携帯電話用の筐体などの光学関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁などの交通関係部品;自動車内装用表面材、携帯電話の表面材、マーキングフィルムなどのフィルム部材;洗濯機の天蓋材やコントロールパネル、炊飯ジャーの天面パネルなどの家電製品用部材;その他、温室、大型水槽、箱水槽、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、熔接時の顔面保護用マスクなどが挙げられる。これらのうち、本発明のメタクリル共重合体は光学部材に好適であり、光学部材のなかでも、導光体、携帯電話用の筐体に好適である。
【0086】
導光体は、例えば、液晶表示素子のバックライトの一部材として用いられる。側面または背面にある光源からの光を導き、板面全体から均一に光を放射できるようにするものである。導光体の板面には光を均一に放射するためのミクロンサイズの凹凸を設けることがある。本発明のメタクリル共重合体を用いると、薄く(0.5mm以下)且つ広い面積の導光体を得ることができる。また、本発明のメタクリル共重合体を用いると、金型スタンパに刻まれたミクロンサイズの凹凸微細形状を成形品の表面に忠実に再現することができる。
【0087】
次に実施例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例によって制限されるものではない。
【0088】
実施例1~4、参考例57、ならびに比較例1~4
撹拌機付オートクレーブに、精製されたメタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸メチル(MA)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)およびn-オクチルメルカプタン(n-OM)を表1に記載の割合で仕込み、均一に溶解させて重合原料を得た。
重合原料を、オートクレーブから1.5kg/hrで、温度140℃に制御された槽型反応器に連続的に供給し、平均滞留時間120分間で塊状重合法によって重合反応させ、槽型反応器からメタクリル共重合体を含む液を連続的に排出した。重合転化率は57質量%であった。
次いで、反応器から排出された液を230℃に加温し、240℃に制御された二軸押出機に供給した。該二軸押出機において未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去して、メタクリル共重合体をストランドにして押し出した。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状のメタクリル共重合体を得た。
【0089】
メタクリル共重合体の物性等の測定は以下の方法によって実施した。その結果を表1に示す。なお、本実施例および比較例において、MMAに由来する単位の量は、MA単位以外の単位の量であるので、表への記載を省略した。
【0090】
(アクリル酸メチルに由来する単位(MA単位)の割合)
樹脂ペレット1gをジクロロメタン40mlに溶解させた。得られた溶液25μlを白金ボードに採取した。ジクロロメタンを除去し、熱分解ガスクロマトグラフ(島津製作所社製 GC-14A、熱分解炉温度:500℃、カラム:SGE BPX-5、温度条件:40℃で5分間保持→5℃/分で280℃まで昇温)により記録したクロマトグラムに基づいてMA単位の割合を算出した。
【0091】
(重合転化率、残存揮発分)
島津製作所社製ガスクロマトグラフGC-14Aに、カラムとしてGL Sciences Inc.製INERTCAP1(df=0.4μm、0.25mmI.D.×60m)を繋ぎ、下記の条件にて分析を行い、それに基づいて算出した。
injection温度=250℃
detector温度=250℃
温度条件:60℃で5分間保持→10℃/分で250℃まで昇温→250℃で10分間保持
【0092】
(分子量分布Mw/Mn)
GPC(ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー)により測定されたクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量に相当する値を共重合体の分子量とした。
装置:東ソー社製GPC装置HLC-8320
分離カラム:東ソー社製のTSKguardcoIumSuperHZ-HとTSKgeIHZM-MとTSKgeISuperHZ4000とを直列に連結
溶離剤:テトラヒドロフラン
溶離剤流量:0.35mI/分
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折率(RI)
【0093】
(結合硫黄原子(結合S)の量)
メタクリル共重合体の結合硫黄原子の量は次のようにして決定される値である。メタクリル共重合体をクロロホルムに溶解させて溶液を得る。この溶液をn-ヘキサンに添加して沈殿物を得る。該沈殿物を80℃で12時間以上真空下で乾燥させる。得られた乾燥品を適量精秤して、硫黄燃焼装置にセットし、温度400℃の反応炉で分解させ、生成したガスを温度900℃の炉に通し、次いで0.3%過酸化水素水で吸収する。得られた液(分解ガス水溶液)を純水で適宜希釈し、イオンクロマトグラフィ(DIONEX製ICS-1500,カラム:AS12A)により硫酸イオンを定量する。乾燥品の質量あたりの硫黄原子の質量W p (質量%)を算出する。メタクリル共重合体に対するメタクリル酸メチル由来の構造単位の質量W MMA (質量%)を用いて、次式にて、メタクリル酸メチル由来の構造単位に対する、結合硫黄原子の量S p (モル%)を算出する。
p=Wp×(100/32)/(WMMA/100)
【0094】
試験試料2gをアセトン50mLに入れ常温にて24時間撹拌した。得られた液全量を、遠心分離機(日立工機(株)製、CR20GIII)を用いて、回転数20000rpm、温度0℃、180分間の条件にて、遠心分離した。上澄み液と沈殿物を分け採り、それぞれを50℃にて8時間真空下で乾燥させて、アセトン不溶分(A)およびアセトン可溶分(B)を得た。
【0095】
(メルトフローレートR)
JIS K7210に準拠して、230℃、3.8kg荷重、10分間の条件で測定した。
【0096】
(ガラス転移温度Tg)
実施例で得られたメタクリル共重合体、熱可塑性樹脂のアセトン可不溶分を、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(島津製作所製、DSC-50(品番))を用いて、250℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から200℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度とした。
【0097】
(曲げ強度)
実施例、比較例で得られたメタクリル共重合体の曲げ強度。この試験片を用いて、JIS K7171に準拠し、試験片厚さ4mmで測定した。
【0098】
(射出成形性)
射出成形機(住友重機械工業社製:SE-180DU-HP)を使用し、シリンダ温度280℃、金型温度75℃、成形サイクル1分間で射出成形して、長辺205mm、短辺160mm、厚さ0.4mmの平板Sを製造した。平板Sは、厚さに対するゲートからの樹脂流動長さの比が475(=190mm/0.4mm)である。
平板Sの外観を観察し以下の指標で評価した。
A : 割れおよびヒケがともに無い。
B : ヒケが有る。
C : 割れが有る。
【0099】
(金型汚れ)
名機製作所社製「M-100C」射出成形機を用いて、平板金型(成形品寸法:40mm×200mm×2mm)で、成形温度260℃、金型温度60℃、成形サイクル26秒および保圧無し(ショートショット)の条件で、40ショットの射出成形を行なった。金型表面の汚れ具合を調べ、以下の指標で評価した。
A : 金型汚れ無し。
C : 金型汚れ有り。
【0100】
(流動性)
住友重機社製SE-180DU-HP成形機において、金型温度50℃、成形温度300℃、射出速度100mm/秒、および充填圧力150MPaの条件で、スパイラルフロー金型(製品厚み0.4mm、幅10mm)に射出成形を行った。そのときのスパイラルフロー長さを測定し、流動性を以下の指標で評価した。
A : 125mm以上
B : 115mm以上125mm未満
C : 115mm未満
【0101】
【表1】
【0103】
【0104】
以上の結果が示すとおり、本発明のメタクリル共重合体は、流動性が高く、射出成形性に優れ、金型汚れを生じ難い。
【0105】
製造例1 (アクリル系ゴム粒子)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器に、イオン交換水1050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.44質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。次いで内温を80℃にした。そこに、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間攪拌した。これに、メタクリル酸メチル95.4質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびメタクリル酸アリル0.2質量%からなる単量体混合物245質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
次いで、同反応器に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間攪拌した。その後、アクリル酸ブチル80.5質量%、スチレン17.5質量%およびメタクリル酸アリル2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った。
次に、同反応器に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間攪拌した。その後、メタクリル酸メチル95.2質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびn-オクチルメルカプタン0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行った。
以上の操作によって、アクリル系ゴム粒子を含むラテックスを得た。該ラテックスを凍結して凝固させた。次いで水洗・乾燥してアクリル系ゴム粒子を得た。アクリル系ゴム粒子の平均粒子径は0.2μmであった。
【0106】
製造例2 (アクリル系ブロック共重合体)
[メチルメタクリレート(MMA)重合体ブロック(b1-1)]-[n-ブチルアクリレート(BA)重合体ブロック(b2)]-[メチルメタクリレート(MMA)重合体ブロック(b1-2)]からなり、重量平均分子量(Mw)が65,000であり、重合体ブロックの合計質量比(b1-1):(c2):(b1-2)が15:70:15、各単量体の質量比(MMA:BA)=(30:70)であるトリブロック共重合体を常法に従い製造した。
【0107】
実施例9、10、12および13、参考例8および11、ならびに比較例5~7
メタクリル共重合体とアクリル系ゴム粒子とアクリル系ブロック共重合体とを表2に記載の割合で混ぜ合わせ、軸径20mmの二軸押出機で250℃にて溶融混練し、押出して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0108】
熱可塑性樹脂組成物の物性等の測定は以下の方法によって実施した。その結果を表2に示す。
【0109】
(透明性)
射出成形機(株式会社名機製作所製、M-100C)を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度50℃、射出速度50mm/秒の条件で実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形して、厚さ3mm、一辺50mmの正方形の射出成形片を得た。
各試験片をJIS K7361-1に記載された方法に準拠して、分光色差計SE5000 日本電色工業株式会社製を使用し、全光線透過率TtおよびヘイズHを測定した、下記の指標で評価を行った。
A:Ttが90%以上かつHが5%以下
B:Ttが80%以上90%未満またはHが10%以下
C:Ttが80%未満またはHが10%より大きい
【0110】
(表面硬度)
射出成形機(株式会社名機製作所製、M-100C)を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度50℃、射出速度50mm/秒の条件で実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形して、厚さ3mm、一辺50mmの正方形の射出成形片を得た。
テーブル移動式鉛筆引掻き試験機(型式P)(東洋精機社製)を用い、射出成型片の片面の熱可塑性樹脂組成物面側の表面に対して角度45度、荷重750gで鉛筆の芯を押し付けながら引掻き傷の傷跡の有無を確認した。鉛筆の芯の硬度は順に増していき、傷跡を生じた時点よりも1段階軟らかい芯の硬度を鉛筆硬度とし、得られた鉛筆硬度から下記の指標で評価を行った。
A:鉛筆硬度が2H以上
B:鉛筆硬度がF以上2H未満
C:鉛筆硬度がF未満
【0111】
(耐衝撃性)
射出成形機(株式会社名機製作所製、M-100C)を用いて、シリンダ温度260℃、金型温度50℃、射出速度50mm/秒の条件で実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形して、厚さ4mm、長辺80mm、短辺10mmの短冊状の射出成形片を得た。
各試験片をISO179-1に記載された方法に準拠して、シャルピー衝撃試験を行って測定したフラットワイズ方式、ノッチ無しのシャルピー衝撃強さを、シャルピー衝撃強さとし、得られたシャルピー衝撃強さから下記の指標で評価を行った。
A:シャルピー衝撃強さが60kJ/m2以上
B:シャルピー衝撃強さが40kJ/m2以上60kJ/m2未満
C:シャルピー衝撃強さが40kJ/m2未満
【0112】
(流動性)
射出成形機(株式会社名機製作所製、M-100C)を用いて、金型温度50℃、成形温度250℃、射出速度100mm/秒、および充填圧力100MPaの条件で、スパイラルフロー金型(製品厚み1mm、幅10mm)に射出成形を行った。そのときのスパイラルフロー長さを測定し、流動性を以下の指標で評価した。
A:スパイラルフロー長さが350mm以上
B:スパイラルフロー長さが300mm以上350mm未満
C:スパイラルフロー長さが300mm未満
【0113】
【表2】
【0114】
以上の結果が示すとおり、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、表面硬度、耐衝撃性に優れる薄肉成形体を提供することができる。