(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】薬物送達デバイス用の組立体、および薬物送達デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 5/32 20060101AFI20240226BHJP
A61M 5/20 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
A61M5/32 502
A61M5/20 550
(21)【出願番号】P 2021570345
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2020064718
(87)【国際公開番号】W WO2020239844
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-05
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・ダスバッハ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・マーク・ケンプ
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・デンヤー
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535041(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0371684(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/32
A61M 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物送達デバイス用の組立体であって:
薬物リザーバを受けるためのハウジング(11)を含むハウジングユニットと、
キャップ(12)とを含み、ここで
該キャップ(12)は、ハウジング(11)に対して解放可能に固定可能であり、
組立体は、少なくとも2つの異なる状態、すなわちキャップ(12)がハウジング(11)に対して固定されているキャップ装着状態と、キャップ(12)がハウジング(11)から解放されている、たとえばハウジング(11)から分離している、キャップ脱離状態とを有しており、
キャップ(12)は、ハウジング(11)からキャップ(12)を解放するため、たとえば分離するために、ユーザによって把持されるように構成された外側部材(21)を含み、
該外側部材(21)は、ハウジング(11)からキャップ(12)を解放するためにハウジング(11)に対して回転可能であり、
組立体は、キャップ装着状態からキャップ脱離状態に切り替わるときに、ハウジング(11)に対する外側部材(21)の回転運動を、ハウジング(11)に対する外側部材(21)の軸方向運動に変換するように構成された機械的インターフェースを含み、
該機械的インターフェースは、組立体がキャップ装着状態からキャップ脱離状態に切り替えられるときに、ハウジング(11)に対する外側部材(21)の動きを案内するように構成された少なくとも1つの案内トラック(30)を含むか、それによって形成されており、
該案内トラック(30)は、少なくとも第1の傾き領域(30A)および第2の傾き領域(30B)を有しており、
組立体がキャップ装着状態からキャップ脱離状態に切り替えられるときに、第2の傾き領域(30B)が外側部材(21)の動きを案内する前に、第1の傾き領域(30A)が外側部材(21)の動きを案内し、
第1の傾き領域(30A)が動きを案内し、外側部材(21)が角度Aだけ回転するとき、外側部材(21)が第1の距離だけハウジング(11)から離れるように軸方向に変位し、
第2の傾き領域(30B)が動きを案内し、外側部材(21)が角度Aだけ回転すると
き、外側部材(21)が第2の距離だけハウジング(11)から離れるように軸方向に変位するように、第1の傾き領域(30A)と第2の傾き領域(30B)とは互いに調整されており、
第2の距離は第1の距離より短く、
機械的インターフェースは、少なくとも1つの相互作用機能を含み、該相互作用機能は、案内トラック(30)と機械的に協働する、前記組立体。
【請求項2】
第1の傾き領域(30A)の全体を通るための、たとえば組立体の長手方向軸を中心とした、外側部材(21)の回転運動は、第1の傾き領域(30A)の角度範囲αを画成し、
第2の傾き領域(30B)の全体を通るための、たとえば組立体の長手方向軸を中心とした、外側部材(21)の回転運動は、第2の傾き領域(30B)の角度範囲βを画成し、
角度範囲αは、角度範囲βより小さい、請求項1に記載の組立体。
【請求項3】
角度Aは、角度範囲α以下であり、かつ/または0.5α以上である、請求項2に記載の組立体。
【請求項4】
第1の傾き領域(30A)は、第2の傾き領域(30B)よりも急である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項5】
案内トラック(30)は、第3の傾き領域(30C)を有しており、
組立体がキャップ装着状態からキャップ脱離状態に切り替えられるときに、第3の傾き領域(30C)は、第2の傾き領域(30B)の後に外側部材(21)の動きを案内し、
第3の傾き領域(30C)が動きを案内し、外側部材(21)が角度Aだけ回転するとき、外側部材(21)は第3の距離だけハウジング(11)から離れるように軸方向に変位するように、第1の傾き領域(30A)、第2の傾き領域(30B)、および第3の傾き領域(30C)は互いに調整されており、
第2の距離は第3の距離より短い、請求項2に依存するとき請求項1~4のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項6】
第3の傾き領域30Cの全体を通るための、たとえば組立体の長手方向軸を中心とした、外側部材(21)の回転運動は、第3の傾き領域(30C)に関連した角度範囲γを画成し、
角度範囲γは、角度範囲βより小さく、かつ/または角度範囲αより大きい、請求項5に記載の組立体。
【請求項7】
第3の傾き領域(30C)は、第2の傾き領域(30B)よりも急である、請求項5または6に記載の組立体。
【請求項8】
第2の傾き領域(30B)における案内トラック(30)の傾きは一定である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項9】
第1の傾き領域(30A)における案内トラック(30)の傾きは一定である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項10】
キャップ(12)は、内側部材(24)を含み、ハウジングユニットは、放出開口部を有するリザーバを含み、
該リザーバにはシールド(1)が取外し可能に接続されており、
キャップ(12)がハウジング(11)に接続されているとき、内側部材(24)はシ
ールド(1)に接続されており、それによりキャップ(12)がハウジング(11)から取り外されるとき、内側部材(24)はリザーバからシールド(1)を取り外す、請求項1~9のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項11】
リザーバに対してシールド(1)を軸方向に動かすのに必要な力は、リザーバからのシールド(1)の取外し中に変化し、力は、リザーバからシールド(1)が取り外されている間に生じる最大値を有しており、ハウジング(11)からのキャップ(12)の取外し中に第2の傾き領域(30B)によって画成される動きの範囲内に最大値が含まれるように、案内トラック(30)は構成されている、請求項10に記載の組立体。
【請求項12】
シールド(1)は、剛性の外側区域(2B)と弾性の内側区域(2A)とを含み、
該剛性の外側区域(2B)は、内側部材(24)に面しており、該弾性の内側区域(2A)は、リザーバの放出開口部に面している、請求項10または11に記載の組立体。
【請求項13】
案内トラック(30)は、キャップ(12)の一部分に配置されている、請求項1~12のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項14】
組立体は自動注射器である、請求項1~13のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項15】
キャップ(12)は、中間部材(27)を含み、外側部材(21)と該中間部材(27)との間に機械的インターフェースが確立され、ここで:
-相互作用機能が、外側部材(21)に位置付けられ、案内トラック(30)が、該中間部材(27)に位置付けられる;または
-相互作用機能が、該中間部材(27)に位置付けられ、案内トラック(30)が、外側部材(21)に位置付けられる、
請求項1~14のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項16】
キャップ(12)は、中間部材(27)を含み、該キャップ(12)が、該中間部材(27)を介してハウジング(11)に接続される、請求項1~15のいずれか1項に記載の組立体。
【請求項17】
中間部材(27)とハウジング(11)との間の接続は、シールド(1)を軸方向に動かすのに必要な最大力よりも小さい解放するための力を必要とする、請求項16に記載の組立体。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の組立体と、薬物とを含む、薬物送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取外し可能なキャップを有する組立体、たとえば薬物送達デバイス用の組立体に関する。本発明はさらに、この組立体を含む薬物送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動注射器などの薬物送達デバイスは、患者の注射部位に薬剤を投薬することが、当技術分野では知られている。このような薬物送達デバイスは、通常、ハウジングユニットおよびキャップを含んでいる。ニードルシリンジが、ハウジングユニットのハウジング内に位置付けられており、場合によりニードルシールドによって覆われている。キャップおよびニードルシールドは、取外し可能にハウジングに取り付けられて、ニードルシリンジの針を保護する。薬剤を投薬するには、キャップおよびニードルシールドが最初にハウジングから取り外されて、針が露出される。次いで針が、注射部位において患者の身体に挿入されて、薬剤が注射される。特許文献1が、薬剤送達デバイスに関係しており、特許文献2および特許文献3が、それぞれ注射デバイスに関係しており、特許文献4が、薬剤注射デバイスに関係している。
【0003】
ハウジングからキャップを取り外すのに必要な力は比較的高いことがあり、これは、ニードルシールドとシリンジとの間の摩擦インターフェースが原因の場合がある。比較的大きな力が必要なことから、高齢者や身体障害者など虚弱な患者は、キャップの取外しが困難だと思うことがある。さらに、キャップを取り外すのに必要な力は、低温によってさらに大きくなることがあるが、薬剤したがって薬物送達デバイスの中には冷蔵庫内で低温で保管することが必要なものもある。これにより、ハウジングからのキャップの取外しがより困難になることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2013/135566A2
【文献】WO2017/089267A1
【文献】WO2013/085454A1
【文献】WO2017/089284A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、薬物送達デバイス用の改善された組立体を提供することである。この目的は、独立請求項の主題によって達成され、開示される他の主題によっても達成可能である。さらなる有利な実施形態および改善形態は、従属請求項および以下の開示の対象である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、薬物送達デバイス用の組立体であって、薬物リザーバを受けるためのハウジングを含むハウジングユニットと、キャップとを含み、ここでキャップは、ハウジングに対して解放可能に固定可能であり、組立体は、少なくとも2つの異なる状態、すなわちキャップがハウジングに対して固定されているキャップ装着状態と、キャップがハウジングから解放されている、たとえばハウジングから分離している、キャップ脱離状態とを有しており、キャップは、ハウジングからキャップを解放するため、たとえば分離するために、ユーザによって把持されるように構成された外側部材を含み、外側部材は、ハウジングからキャップを解放するためにハウジングに対して回転可能であり、組立体は、キャップ装着状態からキャップ脱離状態に切り替わるときに、ハウジングに対する外側部材の回転運動を、ハウジングに対する外側部材の軸方向運動に変換するように構成された機械的インターフェースを含み、機械的インターフェースは、組立体がキャップ装着状態からキャップ脱離状態に切り替えられるときに、ハウジングに対する外側部材の動きを案内するように構成された少なくとも1つの案内トラックを含むか、それによって形成されており、案内トラックは、少なくとも第1の傾き領域および第2の傾き領域を有しており、組立体がキャップ装着状態からキャップ脱離状態に切り替えられるときに、第2の傾き領域が外側部材の動きを案内する前に、第1の傾き領域が外側部材の動きを案内し、第1の傾き領域が動きを案内し、外側部材が角度Aだけ回転するとき、外側部材は第1の距離だけハウジングから離れるように軸方向に変位し、第2の傾き領域が動きを案内し、外側部材が角度Aだけ回転するとき、外側部材は第2の距離だけハウジングから離れるように軸方向に変位するように、第1の傾き領域と第2の傾き領域は互いに調整されており、第2の距離は第1の距離より短い、組立体が提供される。
【0007】
案内トラックの、異なる傾きの2つの領域に起因して、ユーザから外側部材またはキャップの内部に伝達される力の割合は変化する。第2の傾き領域では、軸方向の変位が少ないことから、たとえばハウジングユニットの内部の要素を外側部材と一緒に動かすための力が、外側部材またはキャップの内側で第1の傾き領域よりも多く利用可能である。したがって、キャップ取外しプロセス中の必要性に合わせて案内トラックを調整することができる。第1の傾き領域が動きを案内する初期段階では、キャップ取外しの動きに対抗するハウジングユニットの内部の力、たとえば摩擦力は、第2の傾き領域における力よりも小さいことがある。したがって、有利には、第1の傾き領域は、組立体内でより急であってよく、かつ/またはそれほどの空間を必要としなくてよい。しかし、より大きな力が必要な場合には、内部に伝達されるユーザの力の割合を増やすために、傾きを減らすことができる。キャップを取り外すときの機械的なインターフェースに傾き領域を設けることは、ユーザがキャップを軸方向に引っ張ろうとする状況に比べて、機械的利益を提供することができる。キャップの取外し中には大きな力を加えなくてはならないので、キャップを取り外すためにユーザが発生させなくてはならない力を低減するための改善された伝達部を有することは、有利である。軸方向だけに引っ張る動きによってキャップを取り外す間に加えられるべき力は、15N、20N、25N、30N、31N、32N、33N、34N、35Nのうちの1つの値以上とすることができる。
【0008】
驚くべきことに、キャップまたはその外側部材を動かすのに必要な最小力は、最初最大ではないが、動きの最中に必要な力が増大する可能性があることが調査時に見いだされている。ここに提案する解決策は、最初の動きがすでに実施された後に、外側部材を介してより大きな力を伝達することができる特定の用途になるよう、機械的インターフェースを調整することができる。
【0009】
実施形態では、第1の傾き領域全体を通るための、たとえば組立体またはハウジングの長手方向軸を中心とした、外側部材の回転運動は、第1の領域の角度範囲αを画成してよい。言い換えれば、角度範囲αは、第1の傾き領域の始めと終わりとの間の角度距離であってよい。
【0010】
実施形態では、第2の傾き領域全体を通るための、たとえば組立体またはハウジングの長手方向軸を中心とした、外側部材の回転運動は、第2の傾き領域の角度範囲βを画成してよい。言い換えれば、角度範囲βは、第2の傾き領域の始めと終わりとの間の角度距離であってよい。
【0011】
実施形態では、角度範囲αは、角度範囲βより小さいか、または大きい。したがって、角度範囲は異なっていてよい。キャップの取外しに対抗する力は、最初の方がその後よりも小さいことがあるが、最大の力は始まってすぐに生じることがあるので、第1の傾き領域の範囲を第2の傾き領域よりも少なくすることが好都合なことがあり、第2の傾き領域がハウジングに対する外側部材の動きを案内している間に、キャップ取外しプロセス全体にわたる力の最大値、すなわち局所的または大域的な最大値が生じ、好都合である。
【0012】
実施形態では、角度Aは、角度範囲α、βの最小値(Min(α,β)とも呼ぶ)以下であってよい。代替的または付加的に、角度Aは、K*Min(α,β)以上であってもよく、ここでKは、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9のうちの1つの値以上である。
【0013】
実施形態では、角度範囲αは、10°、15°、または20°以上であってよい。
【0014】
実施形態では、角度範囲βは、20°、25°、または30°以上であってよい。
【0015】
実施形態では、角度範囲αとβとの合計は、30°以上であってよい。
【0016】
実施形態では、角度範囲αとβとの合計は、90°、95°、100°、105°、110°、115°、120°、125°、130°、140°、150°、180°、240°、300°、360°のうちの1つの値以下であってよい。
【0017】
上述した角度範囲の制限は、結果的に、外側部材またはキャップ全体を動かしかつ/または取り外すために必要な回転運動を制限することになる。したがって、デバイスの開放がより早く、より使いやすいものになり、外側部材を介したユーザから組立体の内部への力伝達は、案内トラックの領域の傾きを適切に選択することにより、適宜、特定の必要性に合わせて調整されることが可能になる。
【0018】
実施形態では、第1の傾き領域は、第2の傾き領域より急であってよい。言い換えれば、第1の傾き領域の傾きは、第2の傾き領域の傾きより大きくてよい。それぞれの領域の傾きは、この場合一定であってよい。傾きが変わっている場合には、2つの傾き領域間で、最小、最大、または平均の傾きを比較することができる。
【0019】
案内トラックの急な(大きな)傾きは、外側部材を動かすのに必要な力が小さい領域、たとえば、キャップ取外しプロセス中の他の段階よりも小さい領域において有利である。したがって、キャップを取り外すのに必要な力に応じて、案内トラックの傾きを選択することが可能である。こうして、上述した実施形態は、キャップの取外し中に必要な力が増大する場合に、特に有利である。傾きが急なほど、所与の回転角度におけるキャップの軸方向運動が結果的に大きくなるので、通るのに必要な力が少ない区域で、より急な傾きを使用することがさらに有利である。外側部材を動かすため、または外側部材を動かし続けるために必要な力が増大するとき、キャップの取外しまたは分離のプロセスの関連する段階において、傾きを低減することができる。したがって、キャップはより素早く取り外されることが可能であり、かつ/または案内トラックもしくは機械的インターフェースの空間消費量は比較的小さくなる。
【0020】
実施形態では、第1の傾き領域の全軸方向範囲は、たとえば回転軸に沿って見たとき、第2の傾き領域の全軸方向範囲より小さくてよい。
【0021】
実施形態では、第1の傾き領域の全軸方向範囲は、第2の傾き領域の全軸方向範囲より大きくてよい。
【0022】
実施形態では、第1の傾き領域の全軸方向範囲は、第2の領域の全軸方向範囲に等しくてよい。
【0023】
この文脈では、「全軸方向範囲」という用語は、組立体もしくはハウジングの長手方向軸または回転軸に沿って測定した、それぞれの傾き領域の長さを意味してよい。
【0024】
実施形態では、第1の傾き領域および/または第2の傾き領域における案内トラックの傾きは、一定であってよい。
【0025】
実施形態では、第1の傾き領域の傾きを画成する傾斜角度は、第2の傾き領域の傾きを画成する傾斜角度よりも大きくてよい。それぞれの傾斜角度は、ハウジングもしくは組立体の回転軸または長手方向軸に対して測定されることが可能である。
【0026】
実施形態では、第1の傾き領域の傾きを画成する傾斜角度は、30°以上であってよいしかつ/または60°以下であってよい。
【0027】
30°より大きく60°より小さい傾斜角度は、外側部材が案内トラックの第1の傾き領域を通っている間に、外側部材のかなりの軸方向変位と十分な伝達比とを実現する。特に、第1の傾き領域については、40°の傾斜角度が有利である。急な第1の傾斜角度により、外側部材が持ち上げられていること、すなわちキャップの取外しプロセスが意図した通りに進行していることを示す瞬時のフィードバック、たとえば触覚的および/または視覚的なフィードバックが、ユーザに提供される。
【0028】
実施形態では、第2の領域の傾きを画成する傾斜角度は、10°以上であってよいしかつ/または30°以下であってよい。
【0029】
10°より大きく、30°より小さい傾斜角度は、外側部材が案内トラックの第2の傾き領域を通っている間に、伝達されるユーザの力の割合を増大させるための外側部材の十分な軸方向変位と最適な伝達比とを実現する。特に、第2の傾き領域については、25°の傾斜角度が有利である。取外しプロセス中に外側部材を動かすか外側部材を動かし続けるために加えられるべき力の最大値は、ハウジングユニットからのキャップの取外し中に、第2の傾き領域によって画成された動きの範囲内に含まれてよい。したがって、第2の傾き領域がより小さい傾きを有してより大きいギア比が得られるならば、有利である。
【0030】
実施形態では、第1の傾き領域および/または第2の傾き領域の傾きは、変化していてよい。
【0031】
第1の傾き領域および第2の傾き領域の傾きは一定である必要はない。複数の領域のうちの1つの領域内で傾きが変化している場合には、傾き領域の始まりに近い第1のセクションにおいて、傾きが、その傾き領域の終わりに近いその後のセクションよりも小さいことが好ましい。
【0032】
実施形態では、第1の傾き領域は、第2の傾き領域に直接つながっていてよい。
【0033】
したがって、ハウジングから離れる方へのキャップの軸方向運動は、キャップの回転運動中に妨げられることはない。
【0034】
実施形態では、案内トラックは、第3の傾き領域を有していてよい。組立体がキャップ装着状態からキャップ脱離状態に切り替えられるときに、第3の傾き領域は、第2の傾き領域の後に外側部材の動きを案内してよい。第3の傾き領域が動きを案内し、外側部材が角度Aだけ回転するとき、外側部材が第3の距離だけハウジングから離れるように軸方向に変位するように、第1の傾き領域、第2の傾き領域、および第3の傾き領域は互いに調整されることが可能である。第2の距離は第3の距離より短くてよい。第1の距離は、第3の距離より大きくても、それより小さくても、それに等しくてもよい。
【0035】
外側部材を回転させるために加えられるべき最大力がキャップ取外しプロセス中にすでに発生した後に、増大した伝達を第3の傾き領域が提供できることから、第3の傾き領域を加えることにより、キャップの取外しがさらに容易になる。案内トラックは、4つ以上の傾き領域を有することも可能であることに留意すべきである。しかし、中間の領域(ここでは第2の傾き領域)が外側部材から組立体の内部への最適な力伝達を行うように構成されている3つの傾き領域は、空間消費の観点からなお有利でありうる。
【0036】
実施形態では、第3の傾き領域全体を通るための、たとえば組立体またはハウジングの長手方向軸を中心とした、外側部材の回転運動は、第3の領域の角度範囲γを画成してよい。角度範囲γは、第2の傾き領域の角度範囲βより大きくてもよいし、または小さくてもよい。角度範囲γは、第1の傾き領域の角度範囲αより大きくてもよいし、または小さくてもよい。
【0037】
したがって、第3の傾き領域を通るための回転運動は、第2の傾き領域を通るために必要な回転運動よりも小さくてよい。
【0038】
実施形態では、角度Aは、α、βおよびγの最小値(Min(α,β,γ)とも呼ぶ)以下であってよい。代替的または付加的に、角度Aは、K*Min(α,β,γ)以上であってもよく、ここでKは、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9のうちの1つの値以上である。
【0039】
実施形態では、角度範囲γは、10°以上であってよく、たとえば15°以上であってよい。
【0040】
実施形態では、角度範囲αとβとγとの合計は、40°以上であってよい。
【0041】
実施形態では、角度範囲αとβとγとの合計は、90°、95°、100°、105°、110°、115°、120°、125°、130°、140°、150°、180°、240°、300°、360°のうちの1つの値以下であってよい。
【0042】
上に述べた角度範囲の制限は、結果的に、キャップを取り外すために必要な回転運動を制限することになる。したがって、デバイスの開放が、より速く、より使いやすいものになる。
【0043】
実施形態では、第3の傾き領域は、第2の傾き領域より急であってよい。
【0044】
上述したように、案内トラックの傾きがより大きいことは、たとえば組立体において必要な空間消費量または設置面積がより少なくなることから、キャップを取り外すのに必要な力がより小さい領域において有利である。したがって、外側部材を動かすのに必要な力に応じて、案内トラックの傾きを選択することが可能である。こうして、上述した実施形態は、第2の傾き領域を通った後に必要な力が低減する場合に、特に有利である。傾きが急なほど、所与の回転角度における外側部材の軸方向変位が結果的に大きくなるので、通るのに必要な力が比較的少ない区域で、より急な傾きを使用することがさらに有利である。したがって、キャップはより早く取り外される。さらに、ユーザは、第1の傾き領域を通る間に知覚したのと同様の経験を有することができ、それにより、キャップ取外しプロセスが予想通りに機能しているというユーザの確信が増大される。
【0045】
実施形態では、第3の傾き領域は、第1の傾き領域と同じくらい急であってよい。したがって、第1および第3の領域は、等しい傾きを有していてよい。
【0046】
第1および第3の傾き領域を通っている間に克服すべき力がより小さい場合には、このことは有利である。なぜなら、これらの区域では、所与の回転角度に対して、外側部材のより顕著な軸方向変位が達成されるからである。
【0047】
実施形態では、第3の傾き領域の全軸方向範囲は、第2の傾き領域の全軸方向範囲より小さくてよい。
【0048】
実施形態では、第3の傾き領域の全軸方向範囲は、第2の傾き領域の全軸方向範囲より大きくてよい。
【0049】
実施形態では、第3の傾き領域の全軸方向範囲は、第2の傾き領域の全軸方向範囲に等しくてよい。
【0050】
実施形態では、第3の傾き領域の全軸方向範囲は、第1の傾き領域の全軸方向範囲より大きくてよい。
【0051】
上述したように、この文脈において、「全軸方向範囲」という用語は、組立体の長手方向軸に沿って平行に測定された、複数の傾き領域のうちの1つの傾き領域の長さを表すものである。言い換えれば、全軸方向範囲は、その領域の両端間の軸方向オフセットに等しい。
【0052】
実施形態において、第1の傾き領域の全軸方向範囲は、0.1~1mmの範囲内にあってよく、第2の傾き領域の全軸方向範囲は、約4~6mmの範囲内にあってよく、第3の傾き領域の全軸方向範囲は、0.5~2mmの範囲内にあってよい。
【0053】
実施形態では、ひとつにまとめたときのすべての傾き領域の全軸方向範囲は、5mm以上かつ/または8mm以下である。
【0054】
キャップを取り外すための軸方向距離が短く、その結果キャップが素早く取り外されるので、これは有利である。
【0055】
実施形態では、第3の傾き領域の傾きは一定であってよい。
【0056】
実施形態では、第3の傾き領域の傾きを画成する傾斜角度は、第2の傾き領域の傾きを画成する傾斜角度よりも大きい。
【0057】
実施形態では、第3の領域の傾きを画成する傾斜角度は、30°より大きくてよいしかつ/または60°より小さくてよい。
【0058】
30°より大きく、60°より小さい傾斜角度は、外側部材が案内トラックの第3の傾き領域を通っている間に、外側部材のかなりの軸方向変位と十分な伝達比とを実現する。特に、第3の傾き領域については、40°の傾斜角度が有利である。
【0059】
実施形態では、第3の傾き領域の傾斜角度は、第1の傾き領域の傾斜角度と等しくてよい。
【0060】
第1および第3の傾き領域を通っている間に克服すべき力が小さい場合には、このことは有利である。なぜなら、これらの区域では、キャップを素早く軸方向に送ることが達成されるからである。
【0061】
実施形態では、第3の傾き領域の傾きは変化していてよい。
【0062】
第3の傾き領域の傾きは一定である必要はない。
【0063】
実施形態では、第3の傾き領域は、第2の傾き領域に直接つながっていてよい。
【0064】
実施形態では、第1の傾き領域は、第2の傾き領域に直接つながっていてよく、第2の傾き領域は、第3の傾き領域に直接つながっていてよい。
【0065】
実施形態では、キャップは内側部材、たとえばグラバーを有する保護具を含んでいてよい。ハウジングユニットは、放出開口部、たとえば針を有するリザーバを含んでいてよい。リザーバは、充填済みシリンジであってよい。シールドは、取外し可能にリザーバに接続可能である。接続されているときシールドは、リザーバの放出開口部、たとえば針の先端をカバーしてよい。キャップがハウジングに、たとえば押込み接続によって接続されるとき、内側部材はシールドに接続可能である。キャップがハウジングから取り外されるとき、内側部材はキャップとともに取り外されることが可能である。キャップがハウジングから取り外されるときに内側部材によってリザーバからシールドが取り外されるように、内側部材はシールドに接続されていてよい。内側部材は、外側部材に軸方向に固定されることが可能である。外側部材は、内側部材に対して回転可能であってよい。したがって、ハウジングに対する外側部材の軸方向変位を左右する軸方向の力は、内側部材に伝達され、内側部材を介してシールドに伝達されることが可能である。この構成により、改善されたシールド取外し機構を提供することができる。
【0066】
実施形態では、リザーバに対して軸方向に、たとえばリザーバに沿ってかつ/または針から離れるように、シールドを動かすのに必要な力は、変化してよい。この力は、リザーバからシールドが取り外されている間に生じる最大値を有していてよい。ハウジングからのキャップの取外し中に、第2の傾き領域によって画成された動きの範囲内に最大値が含まれるように、案内トラックは構成されていてよい。
【0067】
第2の傾き領域が案内トラックの最大の伝達比を含んでいることが好ましいので、これは有利である。
【0068】
実施形態では、シールドは、剛性の外側区域と弾性の内側区域とを含んでいてよく、ここで剛性の外側区域は、内側部材に面していてよく、弾性の内側区域は、リザーバの放出開口部に面していてよい。シールドは、いわゆる剛性のニードルシールド(略してRNS)であってよく、剛性の外側シェルと、針に接触する変形可能な内側部分とを有している。シールドをリザーバから引き抜くための力は、30Nよりも大きくてよい。
【0069】
剛性の外側区域は、内側部材との押込み接続を可能にする一方で、弾性の内側区域は、リザーバおよび/または針との摩擦接続および/または密接接続を可能にする。
【0070】
実施形態では、インターフェースは、少なくとも1つの相互作用機能を含むか、それによって形成されていてよい。たとえばボスを含む相互作用機能は、案内トラックと機械的に協働してよい。相互作用機能は、案内トラック内で案内されることが可能であり、ここで外側部材が回転するときに、相互作用機能は、傾き領域に沿って案内トラックの経路をたどるように押しやられて、回転運動が、ハウジングに対する、たとえばハウジングから離れる方への、外側部材および好ましくは内側部材の軸方向運動に変換される。
【0071】
実施形態では、案内トラックは溝または切欠き部であってよい。相互作用機能はボスであってよい。
【0072】
実施形態では、案内トラックは、隆起部または突出部であってよく、相互作用機能はボスまたはノッチであってよい。
【0073】
実施形態では、外側部材とハウジングとの間に機械的インターフェースが確立されることが可能であり、相互作用機能は外側部材に位置付けられることが可能であり、案内トラックはハウジングに位置付けられることが可能である。
【0074】
実施形態では、外側部材とハウジングとの間に機械的インターフェースが確立されることが可能であり、相互作用機能はハウジングに位置付けられることが可能であり、案内トラックは外側部材に位置付けられることが可能である。
【0075】
実施形態では、キャップは中間部材、たとえばカラーを含んでいてよい。機械的インターフェースは、外側部材と中間部材との間に確立されることが可能である。相互作用機能は外側部材に位置付けられることが可能であり、案内トラックは中間部材に位置付けられることが可能である。
【0076】
実施形態では、キャップは中間部材、たとえばカラーを含んでいてよい。機械的インターフェースは、外側部材と中間部材との間に確立されることが可能である。相互作用機能は中間部材に位置付けられることが可能であり、案内トラックは外側部材に位置付けられることが可能である。
【0077】
実施形態では、キャップは、中間部材を介してハウジングに接続されることが可能である。中間部材とハウジングとの接続を解放するために必要な力は、シールドを軸方向に動かすのに必要な最大力よりも小さくてよい。中間部材とハウジングとの接続を解放するための力は、5N、4N、3N、2N、1Nのうちの1つの値以下であってよい。
【0078】
実施形態では、ハウジングに接続されたとき、キャップは、ハウジングの遠位端を覆う。
【0079】
実施形態では、案内トラックは、キャップの一部分に配置されることが可能である。
【0080】
実施形態では、組立体は自動注射器であってよい。
【0081】
本発明の別の態様によれば、好ましくは上述したような組立体を含む薬物送達デバイスが提供される。組立体に加えて、デバイスは薬物を含んでいてよい。薬物は、好ましくは針を含んでいる容器、たとえばシリンジに保持されるか、または好ましくは針のないカートリッジに保持されることが可能である。デバイスは、上述したように自動注射器であってよい。
【0082】
2つ、3つ、またはそれを超える数の異なる傾きの領域を用いた案内トラックは、以下の利点をもたらす。キャップを持ち上げるのに必要な力が少ない領域での省スペース、キャップを持ち上げるのに必要な力が大きい領域での機械的利益の増大、およびキャップ取外しプロセスの始めに、キャップが持ち上げられていることを示す瞬時のフィードバックをユーザに提供すること、である。特に、異なる傾きの3つの領域を使用することにより、最適なキャップ取外しプロセスが提供される。しかし、異なる傾きを有する2つの傾き領域を使用することも、同じく有利である。
【0083】
結果的に、ハウジングからキャップを取り外すために必要な力、ならびにハウジングからキャップを取り外す困難さが低減される。
【0084】
上記その他の態様、利点、および利便性は、以下に記載の実施形態から明らかになろう。
【0085】
ここで添付図面を参照しながら、実施形態を単なる例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【
図1A】自動注射器のハウジングにキャップが取り付けられた状態の自動注射器を示す概略側面図である。
【
図1B】ハウジングからキャップが取り外された状態の、
図1Aの自動注射器を示す概略側面図である。
【
図2】自動注射器のニードルシールドの拡大された概略側方断面図である。
【
図3】キャップの内部構成要素を示す、キャップの拡大等角図である。
【
図4】
図3の中間部材の案内トラックを示す拡大側面図である。
【
図5】持ち上げ部分または相互作用機能を示す、
図3の外側部材の拡大断面図である。
【
図9】
図3の中間部材および内側部材の拡大された等角上方図である。
【
図10】
図1Aおよび
図1Bに記載のものなどの自動注射器でキャップが取り外される前の、
図3のキャップを示す図である。
【
図12】
図3のキャップを取り外す様々な段階における内部構成要素が見えるように、外側部材を透明なものとして示している側面図である。
【
図15】内部構成要素が見えるようにハウジングが透明なものとして示してある、
図14の第1の相互作用機能と案内トラックとの拡大図である。
【
図16】案内トラックがハウジングの外面にある状態の
図15の代替形態であって、アンキャップの前と後の両方で案内トラックが見える代替形態を示す図である。
【
図17】案内トラックがハウジングの外面にある状態の
図15の代替形態であって、アンキャップの前には案内トラックが見えない代替形態を示す図である。
【
図19】ニードルシールドをハブから取り外すのに必要な力を示す力変位の図である。
【発明を実施するための形態】
【0087】
本明細書に記載の薬物送達デバイス用の組立体は、患者に薬剤を注射するように構成可能である。たとえば、送達は、皮下、筋肉内、または静脈内とすることができる。このようなデバイスは、患者、または看護師もしくは医師などの医療従事者によって操作されることが可能であり、様々なタイプの安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器を含むことができる。このデバイスは、封止されたアンプルを使用前に穿孔する必要があるカートリッジベースのシステムを含むことができる。これらの様々なデバイスで送達される薬剤の容量は、約0.5ml~約2mlの範囲とすることができる。さらに別のデバイスは、ある期間(たとえば、約5分、15分、30分、60分、または120分)にわたり患者の皮膚に付着して、「大」容量の薬剤(通常約2ml~約10ml)を送達するように構成された大容量デバイス(「LVD」)またはパッチポンプを含むことができる。
【0088】
特定の薬物との組合せで、ここに説明するデバイスを、必要な仕様の範囲内で動作するようにカスタマイズしてもよい。たとえば、ある特定の期間内(たとえば、自動注射器については約3秒~約20秒、LVDについては約10分~約60分)で薬剤を注射するように、デバイスをカスタマイズしてもよい。他の仕様は、不快感を低レベルもしくは最小レベルに抑えること、または人的要因、保存期間、有効期限、生体適合性、環境的配慮などに関する特定の条件を含むことができる。このような変形形態は、たとえば、粘度約3cP~約50cPの範囲の薬物など、様々な要因に起因して生じることがある。その結果、薬物送達デバイスは多くの場合、サイズが約25ゲージ~約31ゲージの範囲にある中空針を含む。一般的なサイズは、27ゲージおよび29ゲージである。
【0089】
本明細書に記載の送達デバイスは、1つまたは複数の自動機能も含むことができる。たとえば、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの1つまたは複数を自動化することができる。1つまたは複数の自動ステップのためのエネルギーは、1つまたは複数のエネルギー源から提供することができる。エネルギー源は、たとえば機械的、空気的、化学的、または電気的なエネルギーを含むことができる。たとえば、機械的エネルギー源は、ばね、てこ、エラストマー、またはエネルギーを蓄積もしくは解放するための他の機械的機構を含むことができる。1つまたは複数のエネルギー源を組み合わせて、単一のデバイスにすることができる。デバイスはさらに、ギア、弁、またはエネルギーをデバイスの1つもしくは複数の構成要素の動きに変換するための他の機構を含むことができる。
【0090】
自動注射器の1つまたは複数の自動機能は、それぞれ起動機構により起動可能である。このような起動機構は、ボタン、レバー、針スリーブ、または他の起動構成要素のうちの1つまたは複数を含むことができる。自動機能の起動は、ワンステップのプロセスであってもよいし、マルチステップのプロセスであってもよい。つまり、ユーザは、自動機能を実行するために、1つまたは複数の起動構成要素を起動することが必要な場合がある。たとえば、ワンステップのプロセスでは、ユーザは針スリーブを自らの身体に押し付けて、薬剤の注射を行うことができる。他のデバイスは、自動機能のマルチステップ起動を必要としてもよい。たとえば、注射を行うために、ユーザは、ボタンを押し下げ、ニードルシールドを後退させることが必要な場合がある。
【0091】
さらに、1つの自動機能を起動することにより、その後の1つまたは複数の自動機能が起動され、それにより起動シーケンスが形成されることがある。たとえば、第1の自動機能の起動により、針挿入、薬剤注射、および針後退のうちの少なくとも2つを起動することができる。デバイスの中には、上記1つまたは複数の自動機能を行わせるためにステップの特定のシーケンスを必要とするものもある。独立したステップのシーケンスで動作可能なデバイスもある。
【0092】
送達デバイスの中には、安全シリンジ、ペン注射器、または自動注射器のうちの1つまたは複数の機能を含むことが可能なものもある。たとえば、送達デバイスは、薬剤を自動的に注射するように構成された機械的エネルギー源(通常は自動注射器にある)と、用量設定機構(通常はペン注射器にある)とを含むことができる。
【0093】
本開示のいくつかの実施形態によれば、薬物送達デバイス10の例示的な組立体が、
図1Aおよび
図1Bに示してある。上述したデバイス10は、患者の身体に薬剤を注射するように構成されている。デバイス10はハウジング11を含み、ハウジング11は通常、注射すべき薬剤を収容するリザーバ(たとえばシリンジ)と、送達プロセスの1つまたは複数の工程を容易にするために必要な構成要素とを収容している。また、デバイス10は、ハウジング11に取外し可能に取り付けることができるキャップ組立体またはキャップ12も含むことができる。通常ユーザは、ハウジング11からキャップ12を取り外してからでなくてはデバイス10を操作することができない。
【0094】
示してあるように、ハウジング11は、実質的に円筒形であり、長手方向軸A-Aに沿って実質的に一定の直径を有している。ハウジング11は、遠位領域Dおよび近位領域Pを有している。「遠位」という用語は、注射部位に相対的に近い位置を指し、「近位」という用語は、注射部位から相対的に遠く離れた位置を指す。
【0095】
またデバイス10は、ハウジング11に対するスリーブ19の動きを可能にするようにハウジング11に連結された針スリーブ19も含むことができる。たとえば、スリーブ19は、長手方向軸A-Aに対して平行な長手方向に動くことができる。具体的には、近位方向へのスリーブ19の動きにより、針17は、ハウジング11の遠位領域Dから延びることが可能になる。
【0096】
針17の挿入は、いくつかの機構によって行うことができる。たとえば、針17は、ハウジング11に対して固定して位置付けられて、最初は延びた針スリーブ19の中に位置付けられていてよい。スリーブ19の遠位端を患者の身体に押し付け、ハウジング11を遠位方向に動かすことにより、スリーブ19が近位に動き、針17の遠位端がむき出しになる。このような相対的な動きにより、針17の遠位端が、患者の身体内に延びることが可能になる。このような挿入は、スリーブ19に対してハウジング11を患者が手で動かすことにより針17が手動で挿入されるので、「手動」挿入と呼ばれる。
【0097】
別の形の挿入は「自動」であり、この場合には針17がハウジング11に対して動く。こうした挿入は、スリーブ19の動きによって、または別の形の、たとえばボタン13などの起動によって、トリガすることができる。
図1Aおよび
図1Bに示すように、ボタン13は、ハウジング11の近位端に位置付けられている。しかし他の実施形態では、ボタン13は、ハウジング11の側面に位置付けられることが可能である。
【0098】
他の手動または自動の機能は、薬物注射もしくは針後退、またはその両方を含むことができる。注射は、シリンジ18から針17へ薬剤を押しやるために、栓またはピストン14が、シリンジ18内の近位位置からシリンジ18内のより遠位の位置に動かされるプロセスである。いくつかの実施形態では、デバイス10が起動される前に、駆動ばね(図示せず)は圧縮されている。駆動ばねの近位端は、ハウジング11の近位領域P内に固定可能であり、駆動ばねの遠位端は、ピストン14の近位表面に圧縮力を加えるように構成可能である。起動後、駆動ばねに蓄えられたエネルギーの少なくとも一部を、ピストン14の近位表面に加えることができる。この圧縮力は、ピストン14に作用して、ピストン14を遠位方向に動かすことができる。このような遠位方向の動きは、シリンジ18内の液体薬剤を圧縮して、この液体薬剤を針17から外に押しやるように作用する。
【0099】
注射後、針17は、スリーブ19内またはハウジング11内で後退可能である。ユーザが患者の身体からデバイス10を取り外すにつれてスリーブ19が遠位方向に動くときに、後退を行うことが可能である。針17がハウジング11に対して固定して位置付けられたまま維持されるときに、この後退を行うことが可能になる。スリーブ19の遠位端が針17の遠位端を通りすぎ、針17が覆われると、スリーブ19をロックすることができる。このようなロックは、ハウジング11に対するスリーブ19の近位方向の動きをロックすることを含んでよい。
【0100】
針後退の別の形態は、針17がハウジング11に対して動く場合に行うことができる。ハウジング11内のシリンジ18が、ハウジング11に対して近位方向に動く場合に、このような動きを行うことができる。この近位方向の動きは、遠位領域Dに位置付けられた後退ばね(図示せず)を使用することにより、実現可能である。圧縮された後退ばねは、起動されると、シリンジ18を近位方向に動かすのに十分な力をこのシリンジ18に供給することができる。十分に後退した後、針17とハウジング11との間の相対的な動きを、ロッキング機構でロックすることができる。さらに、ボタン13またはデバイス10の他の構成要素を、必要に応じてロックすることができる。
【0101】
ここで
図2を参照すると、薬物送達デバイス10は、ニードルシールド1をさらに含んでいてよい。ニードルシールド1は、いわゆる剛性ニードルシールド(略してRNS)であり、本体2を有している。本体2は、不透過性の材料から作られ、本体2の近位端に凹部3を有している。針17が本体2によって保護されるように、凹部3は、ニードルハブ4および針17を受けるように構成されている。本体2は、剛性の外側シェル2Bと、変形可能な内側部分2Aとを含んでいる。本体2の変形可能な内側部分とニードルハブ4の外側表面とが摩擦係合して、凹部3を封止し、凹部3への空気の侵入を防止している。こうして、ハウジング11にキャップ12が取り付けられているとき、針17は滅菌状態に維持される。シールド1をリザーバから引き抜くための力は、30Nよりも大きい。
【0102】
キャップ12およびニードルシールド1が同時に取り外されることが有利な場合があり、これによりキャップ12およびニードルシールド1の取外しがユーザにとってより容易になる。薬物送達デバイス10からのキャップ12の取外しに必要な力が比較的高い場合があり、それにより高齢のユーザまたは身体に障害をもつユーザは、キャップの取外しが困難であると思うことがある。この困難が生じうる1つの原因は、ニードルシールド1とニードルハブ4との摩擦係合である。しかし、必要な力は、変数のなかでもとりわけ構造材料、デバイスの設計、および周囲温度に基づき変化することは理解されよう。さらに、ニードルシールドおよびキャップを取り外すのに必要な力は、温度が低いことによってさらに大きくなることがある。一部の薬剤、したがって一部の薬物送達デバイスについては、デバイスを冷蔵庫内に、もしくは低温で保管するという要件または必要性がある。これにより、ハウジング11からのキャップ12の取外しがより困難になることがある。
【0103】
図3に示してあるように、外側部材21を有する取外し可能なキャップ12があり、この外側部材21は、外側部材21の把持特性を向上させるための構造部22を有している。しかし、外側部材21がより摩擦力の高い材料から作られてよいことや、さらなるコーティングを含んでいてよいことや、人間工学的に固有の形状であってよいことや、摩擦向上特性を全く有していなくてもよいことは理解されよう。外側部材21は蓋23に連結されており、圧入接続または代替的な既知の接続手段により、蓋が外側部材21に連結可能であり、また外側部材21と蓋23とを一体形成して、それにより外側部材21と蓋23とが互いに軸方向かつ回転不能に固定されているときには、これらは1つの構成要素であってもよい。外側部材21は相互作用機能20を含み、この例では、相互作用機能20は、内向きに突出したボス9である。外側部材21は、さらに環状部32を含んでいる。
【0104】
取外し可能なキャップ12は、アパーチャ25を有する内側部材24を有しており、蓋23は、中央アパーチャ25を介して内側部材24に係合するクリップ26を有している。この係合により、蓋23は内側部材24に軸方向に連結されるが、内側部材24に対する蓋23の回転は可能である。内側部材24は、外側部材21の環状部32にクリップ留めされるクリップ33をさらに含んでいる。これにより、外側部材21と内側部材24とが軸方向に連結されるが、互いに対する回転は可能である。内側部材24は、ニードルシールド1と相互作用可能であってもよいし、またはニードルシールド1に係合するように構成可能であってもよく、この内側部材24は、グリッパの形態、ニードルシールド1に食い込むもしくはニードルシールドに強く当接している返しの形態、または内側部材24とニードルシールド1との間での摩擦ロックの形態であってよいが、これに限定されない。内側部材24がニードルシールドに係合するように構成されているということは、上述した機構のいずれかをさらに含むことが可能な、内側部材24内に取付けまたは位置付けされたグラバー(図示せず)などの別個の構成要素が存在することを意味する場合がある。
【0105】
キャップ12は、実質的に内側部材24と外側部材21との間に位置付けられた中間部材27も含んでいる。中間部材27は、実質的に管状の本体28を有しており、この本体28の遠位端には内向きに突出した少なくとも1つの構造部29がある。この構造部29は、内側部材24の切欠き部41と係合するためのものであり、内向きに突出した構造部29と切欠き部41とが、止め具機構を実現する。中間部材27の第1の止め具部分(すなわち、内向きに突出した構造部29)が第2の止め具部分(すなわち、切欠き部41の最も近位の端部)に係合するまで、内側部材24は、中間部材27に対してハウジングから離れるように遠位方向に軸に沿って自由に動く。第1の止め具部分が第2の止め具部分に係合すると、内側部材24は、中間部材27に軸方向に固定される。また、止め具機構は、中間部材27を内側部材24に回転不能に連結する。この機能の利点は、止め具部分同士が係合するまで中間部材27が内側部材24に軸方向に固定されないことである。これにより、止め具部分同士が係合するまで、内側部材24は、中間部材27から独立してニードルシールド1を遠位方向に動かすことができ、次いで内側部材24と中間部材27とが軸方向に固定されて、最終的にハウジングからキャップ12が持ち上げられる。第1の止め具部分が切欠き部であり、第2の止め具部分が突出部であってよく、さらに当業者であれば、上述したような止め具機構を提供する第1および第2の止め具部分を得るための多数の代替的な既知の手段を企図できることは理解されよう。
【0106】
中間部材27は、中間部材の外側壁31に傾斜溝の形態の案内トラック30も含んでいる。この傾斜部は、外側壁31のくぼみであってもよいし、または中間部材27を完全に貫通した切欠き部であってもよい。傾斜部は傾斜しているが、傾斜部はいずれの方向に傾斜していてもよく、湾曲形状であっても、2つ以上の勾配を含んでいてもよいことは理解されよう。必要とされる傾斜部の傾斜は、キャップ12を取り外すのに必要な外側部材21の回転運動の方向に応じて決まる。また、中間部材27はハウジング11に対して回転不能に固定されており、これにより外側部材21が回転させられるか回転しても、中間部材27、したがって内側部材24の回転運動は防止される。
【0107】
2つの構成要素を互いに対して回転不能に軸方向に連結するための、当業者に知られている多数の方法が存在することは理解されよう。溝、クリップ、ボス、構造部、および突出部の任意の組合せを使用して、上述した各構成要素を連結し、上述した要件に応じて回転運動と軸方向運動をいずれも可能にしてもよいし、またはどちらも可能にしなくてもよい。また、相互作用機能20を中間部材27に位置付けてもよく、案内トラック30を外側部材21に位置付けてもよいことは理解されよう。第1の止め具部分を内側部材24に位置付けてもよく、第2の止め具部分を中間部材27に位置付けてもよい。止め具部分は、ある点までの相対的な軸方向運動を可能にし、次いでその点を超えると相対的な軸方向運動を防止する上述した任意の既知の機構とすることもできる。
【0108】
ハウジング11からキャップ12を取り外す機構を、以下で説明することができ、
図12に示してあるステップにおいて確認することができる。ユーザが外側部材21をねじるか回転させると、クリップ33を介して外側部材21から内側部材24に力が伝達される。内側部材24は、ハウジング11から離れるように遠位方向に動かされる。相互作用機能20は、第1の位置から第2の位置へ案内トラック30に沿って移動し、すなわち外側部材21が回転するときに、内向きに突出したボスは傾斜部に沿って移動する。第1の位置は、案内トラックの最も近位の端部であり、第2の位置は、案内トラックの最も遠位の端部である。傾斜の端部において、中間部材27および外側部材21は、たとえば案内トラックを画定している中間部材の端部止め具に相互作用機能20が当接することにより、互いに対して軸方向に固定される。次いで外側部材21が持ち上げられて、外側部材21をねじる前に必要であった力よりも弱い力で、かつ本明細書に記載の方法の勢いの蓄積に起因してより滑らかに、キャップが取り外される。薬物送達デバイス10は、ニードルシールド1をさらに含んでいてよく、キャップ12の取外しによって同時にニードルシールド1が取り外される。キャップの取外しプロセス中にニードルシールドを動かすのに必要な(最大の)力は高くてもよく、たとえば20Nより大きいか、25Nより大きいか、または30Nより大きくてよい。キャップとハウジングとの連結が解放されるときよりも、キャップ取外しプロセスを始めてすぐのときに、この力が必要とされることがある。ハウジングに対するキャップの連結、たとえば中間部材とハウジングとの連結を解放するための力は、はるかに小さくてよく、たとえば10N、5N、4N、3N、2N、1Nのうちの1つの値以下であってよい。したがって、ニードルシールドが動かされた後、または動きが開始された後に、ユーザが供給しなくてはならない力は、キャップ取外しプロセス中のより早い段階よりも小さくてよい。すでに上で説明したように、特にこのプロセスの最後に、ハウジングからキャップを取り外すために提供されなくてはならない力はかなり小さい。
【0109】
薬物送達デバイスのキャップ12を組み立てる方法は、以下の工程を含む。中間部材27および内側部材24が、組立器具の定位置に保持される。次いで外側部材21が内側部材24にクリップ留めされて、サブ組立体を形成することができる。いくつかの事例では、中間部材27が一次係合部分を組み込んでおり、この一次係合部分は、たとえばねじ山、突出部、または溝とすることができるが、これらに限定されない。次いで外側部材21が二次係合部分を含み、この二次係合部分は、一次係合部分に適合するたとえばねじ山、突出部、または溝とすることができるが、これらに限定されない。外側部材21は内側部材24にクリップ留めされており、外側部材21の二次係合部分が、中間部材27の一次係合部分にも係合する。サブ組立体がハウジング組立体に導入される。ハウジング組立体は予め組み立てられており、ハウジング11と、針17を覆うニードルシールド1とを含んでいる。薬物送達デバイスがプライミング動作を経てから、蓋23が内側部材24にクリップ留めされ、外側部材21と圧入接続によって係合する。
【0110】
別の態様が
図13に示してある。多数の構成は前の図と同じままであり、同じ構成要素は同じ参照符号を維持している。中間部材27は、一次突出ボス37の形態の第1の相互作用機能20と、二次突出ボス39の形態の第2の相互作用機能50とを有している。外側部材は、一次傾斜部34の形態の第1の案内トラック30を含み、内側部材は、二次傾斜部35の形態の第2の案内トラック40を含んでいる。傾斜部34、35は、内側部材または外側部材から突出していてもよいし、くぼみ、または溝、または内側部材もしくは外側部材を完全に貫通した切欠き部であってもよいことは理解されよう。傾斜部は傾斜しているが、傾斜部はいずれの方向に傾斜していても、湾曲状であっても、2つ以上の勾配を含んでいてもよいことは理解されよう。
【0111】
一次突出ボス37は、第1の位置から第2の位置に向かって、図示してある例では傾斜部の最も遠位の端部から傾斜部の最も近位の端部に向かって、一次傾斜部34に係合するように構成されている。中間部材27は、内側部材24に対して軸方向に固定されており、外側部材21には固定されていない。外側部材がハウジングから離れるように遠位方向に引っ張られると、中間部材27は内側部材24と係合しているので、軸方向運動に抵抗する。次いで中間部材27は、一次傾斜部34と一次ボス37との係合により回転させられる。上述したように、外側部材21が持ち上げられ、中間部材27が回転すると、二次ボス39が二次傾斜部35に係合する。内側部材は、ハウジング11に対して回転不能に固定されているので、中間部材27とともに回転することが制限され、したがって二次ボス39の二次傾斜部35との係合により、内側部材がハウジング11から離れるように遠位方向に引き上げられる。次いでキャップ12をハウジングから取り外すことができるようになる。
【0112】
図13に示してあるように、第1の案内トラック30の軸方向の勾配が、第2の案内トラック40の勾配よりも緩やかな場合には、遠位方向に引っ張られることによる外側部材21の軸方向運動は、内側部材の軸方向運動よりも大きくなる。この事例では、内側部材24に加えられる軸方向の力は、外側部材21に加えられる軸方向の力よりも大きい。これが反対であってもよく、第2の案内トラック40の軸方向の勾配が、第1の案内トラックの勾配より緩やかであってもよいことは理解されよう。このことは、上述したように外側部材21がハウジング11から引き出されるときに、外側部材21の軸方向運動によって内側部材の軸方向運動が生じ、この内側部材の軸方向運動は、外側部材の軸方向運動よりも大きくなることを意味する。
【0113】
2つの構成要素を互いに回転可能に軸方向に連結するための、当業者に知られている多数の方法が存在することは理解されよう。溝、クリップ、ボス、構造部、および突出部の任意の組合せを使用して、上述した各構成要素を連結し、上述した要件に応じて回転運動と軸方向運動をいずれも可能にしてもよいし、またはどちらも可能にしなくてもよい。また、持ち上げ部分または相互作用機能20、50を外側部材および内側部材に位置付けてもよく、案内トラック30、40を中間部材27に位置付けてもよく、またはこれらを任意に組み合わせてもよいことは理解されよう。外側部材21および内側部材24が傾斜部を含み、中間部材27が突出ボスを含み、この突出ボスが外側部材に向かってデバイスの中心軸から離れる外側を向いており、別のボスが、内側部材に向かってデバイスの中心軸に向かう方を向いているか、上述した機能を容易にする上記の任意の組合せであってもよいことが考えられる。
【0114】
薬物送達デバイス10は、案内トラック30または第2の案内トラック40の一つの端部に保持部分42を含み、この保持部分42を相互作用機能20または第2の相互作用機能50に係合させて、使用前にキャップ12とハウジング11との相対運動に抵抗してもよい。キャップを取り外す前に、キャップを近位方向に押して保持部分42から相互作用機能を解放することが必要であってよい。この利点は、キャップを早く取り外し過ぎることが防止されることであり、またこの機能は、保管中または輸送中にデバイスを損傷するおそれがあるデバイスの特定の構成要素の動きも防止することができる。
【0115】
別の態様が
図14および
図15に示してあり、多数の構成は前の図と同じままであり、同じ構成要素は同じ参照符号を維持している。この態様では、ハウジング11の内側壁15が案内トラック30を含み、この案内トラック30は、この態様では内部傾斜部45である。相互作用機能20は近位方向に突出したボス46であり、ボス46は、外側部材21の近位縁部から下向きに、外側部材21の近位方向に延びている。外側部材が回転すると、近位方向に突出したボス46は、内部傾斜部45に係合し、外側部材21を持ち上げ、内側部材24はニードルシールド1に対して回転不能に固定されているが、蓋23および外側部材21に対しては軸方向にロックされている。したがって、外側部材21および蓋23の回転により、キャップを持ち上げることが可能になり、したがってニードルシールド1、針スリーブ、または内側部材24を回転させることなくキャップが取り外されることが可能になる。内側部材24は2つの部材、すなわち内側管47と外側管48から作られることが可能であることは理解されよう。以下で説明するように、コアリングが問題にならない場合には、内側管47を、外側部材または蓋と一体にするか、それに対して固定連結することができる。さらに、外側管48が内側管47に対して回転可能であってもよいことを企図することができる。
【0116】
上述した案内トラック30を、
図17に示してあるように、ハウジングの外面16に配置してよいことは理解されよう。これにより、アンキャップ(薬物送達デバイスからのキャップの取外し)の前と後の両方で、案内トラック30が見えるようになる。さらに、案内トラック30はハウジングの外面16にあるが、
図16のように外側部材21の長さがより長く、他の態様よりも近位方向に、さらに延びていることによって隠されていてもよい。ここで案内トラック30は、薬物送達デバイスからキャップが取り外される前には隠されているが、薬物送達デバイスからキャップが取り外された後には見えるようになる。
【0117】
案内トラック30は、半月形、半円形、いずれかの方向に傾斜している線形、V字形、または代替的な傾斜形状であることは理解されよう。いずれの態様においても上述したように、外側部材21が回転するか持ち上げられるときに、相互作用機能を適切に有効化して案内トラックに係合させ、遠位方向への内側部材の持ち上げを引き起こす任意の形状を企図することができる。相互作用機能は、対応する案内トラックに応じて、ハウジングの中心軸に対して内向き、外向き、近位方向、または遠位方向に延びている突出部であってよい。相互作用機能および案内トラックは、ハウジングまたは外側部材の内側表面に配置されてもよいし外側表面に配置されてもよい。
【0118】
相互作用機能は、外側部材の近位縁部から近位方向に軸に沿って延びた、外側部材にある突出部であり、案内トラックは、ハウジングにある凹部または突出部である。
【0119】
相互作用機能は、ハウジングの遠位縁部から遠位方向に軸に沿って延びた、ハウジングにある突出部であってよく、案内トラックは、外側部材にある凹部または突出部であってよい。
【0120】
相互作用機能は、ハウジングの中心軸に向かって延びた、外側部材の内側表面にある内向きに突出したボスであってよく、案内トラックは、ハウジングにある凹部または突出部であってよい。かつ/または
【0121】
相互作用機能は、ハウジングの中心軸から離れる方向に延びた、ハウジングの外側表面にある外向きに突出したボスであってよく、案内トラックは、外側部材にある凹部または突出部であってよい。
【0122】
さらに、相互作用機能が、ハウジング11および外側部材21のうちの一方にあり、案内トラックが、ハウジング11および外側部材21のうちの他方にあることは理解されよう。
【0123】
上述した持ち上げ機構は、外側部材21とハウジング11とのインターフェースを有効にし、このインターフェースは非円形であり、たとえば楕円形、丸みのある正方形、または三角形であるがこれらに限定されない。これは、外側部材21がハウジング11に対して回転するときに、外側部材21がハウジング11から持ち上げられることによるものである。これにより、外側部材21とハウジング11と接点が、持ち上げ機構だけになる。
【0124】
本明細書に記載の勾配または案内トラックは一定でなくてよいことも、理解されよう。これにより、勾配によって実現されるギアリングが、ニードルシールドの取外し力(これも一定でない)に適合可能になり、すなわちいくつかの実施形態では、キャップが取り外されるときに、力が均一に蓄積し一気にピークに達するという利点が提供される。したがって、勾配の変化により、最初はユーザに対して弱い補助力を提供し、続いてユーザに対する補助力を高めて、ピークに必要なより高い力に適合するためのギアリングが実現される。
【0125】
本明細書に記載の相互作用機能は、たとえば溝、クリップ、ボス、構造部、突出部、カム、または従動部とすることができるが、これらに限定されないことは理解されよう。本明細書に記載の案内トラックは、たとえば突出部、くぼみもしくは溝、または切欠き部とすることができるが、これらに限定されないことは理解されよう。案内トラックは傾斜しているが、案内トラックはいずれの方向に傾斜していても、湾曲状であっても、2つ以上の勾配を含んでいてもよいことは理解されよう。相互作用機能は、回転から軸方向運動を作動させる、または軸方向運動から回転を作動させるように、案内トラックに係合可能でなくてはならない。
【0126】
本明細書に記載の実施形態の内側部材は、外側部材と一体であってもよいし、または内側管47と外側管48との2つの部材から形成されていて、コアリングが問題にならない場合には、内側管47が外側管21と一体であってもよいことは理解されよう。コアリングは、ニードルシールド1の回転により生じる針17の損傷である。ニードルシールド1が針17に対して回転するときに、針17の端部が、ニードルシールド1の内側表面の小さい一部分を切り離してしまう。次いでニードルシールド1がシリンジ18から取り外されるときに、切り取られた部分が針17内に残って、針17を塞ぎ、薬物送達デバイス10を損傷してしまうおそれがある。
【0127】
案内トラック30の好ましい実施形態が
図18に示してある。案内トラック30を形成する第1の傾き領域30A、第2の傾き領域30B、および第3の傾き領域30Cが、中間部材27の外側表面に位置付けられている。3つの傾き領域30A、30B、および30Cに加えて、中間部材27は、第1の傾き領域30Aの始めから、中間部材27の長手方向軸に対して平行にその遠位端まで延びている別の代替的な案内部分を有している。この代替的な案内部分の目的は、キャップ12を取り外すときに代替的な開放トラックを使用することであり、これは機械的利益を提供するものではない。中間部材27は、その遠位端に、内向きに突出した構造部29を含み、この構造部29は、キャップ12を取り外すときにハウジング11から中間部材27が確実に分離されるようにする。上述した代替的な案内部分、ならびに第3の傾き領域30Cは省略されることも可能であることに留意すべきである。しかし、それとは別に、4つ以上の傾き領域が考えられる。第1の傾き領域30A、第2の傾き領域30B、および第3の傾き領域30Cは、相互作用機能20(明示的に図示せず)とともに、機械的なインターフェースを確立する。
【0128】
好ましくは、相互作用機能20は外側部材21に設けられる。しかし、相互作用機能20が中間部材27に設けられ、案内トラック30とその3つの傾き領域30A、30B、および30Cが外側部材21に設けられることも可能である。
【0129】
それとは別に、案内トラック30がハウジング11に取り付けられることも可能であり、相互作用機能はキャップ12の一部分に取り付けられることが可能である。別の代替形態として、案内トラック30がキャップ12の一部分に取り付けられることが可能であり、相互作用機能20はハウジング11に取り付けられることが可能である。
【0130】
相互作用機能20は、第1の傾き領域30A、第2の傾き領域30B、および第3の傾き領域30Cと相互作用するように構成されており、この傾き領域は、溝、または切欠き部、または隆起部、または突出部であり、相互作用機能20は、ボスまたはノッチである。相互作用機能20は、傾き領域30A、30B、および30Cのうちの1つの中に実質的に位置付けられており、外側部材21が回転するときに、相互作用機能20は、3つの傾き領域30A、30B、および30Cの経路をたどるように押しやられて、その結果、たとえば、ハウジング11(明示的に図示せず)に対して、外側部材21の軸方向運動が生じる。
【0131】
示してあるように、第1の傾き領域30Aは第2の傾き領域30Bに直接つながっており、第2の傾き領域30Bは第3の傾き領域30Cに直接つながっている。したがって、キャップ12を軸方向に持ち上げる動きが、外側部材21の回転運動中に妨げられることはない。
【0132】
第1の傾き領域30Aおよび第3の傾き領域30Cは、第2の傾き領域30Bよりも急である。言い換えれば、第1および第3の傾き領域30A、30Cの傾きは、第2の傾き領域30の傾きより大きい。それぞれの領域の傾きは、この場合一定であってよい。傾きが変わる場合には、3つの傾き領域間で、最小、最大、または平均の傾きを比較してもよい。
【0133】
図18に示してあるように、第1の傾き領域30Aは、第3の傾き領域30Cと同程度に急であり、すなわちこれらの領域は同じ傾きを有している。しかし、第1の傾き領域30Aと第3の傾き領域30Cが、異なる傾きを有していてもよい。
【0134】
図18では、第1の傾き領域30A、第2の傾き領域30B、および第3の傾き領域30Cの傾きは、一定である。しかし、これらの傾きは一定である必要はない。第1の傾き領域30A、第2の傾き領域30B、および/または第3の傾き領域30Cの傾きは、変化していてもよい。複数の領域のうちの1つの領域内で傾きが変化している場合には、第1の傾き領域30Aの始まりに近い第1のセクションにおいて、傾きが、第1の傾き領域30Aの終わりに近いその後のセクションよりも小さいことが好ましい。
【0135】
示してある例では、各傾き領域30A、30B、および30Cは、傾きを画成する傾斜角度を含んでいる。第1および第3の傾き領域30Aおよび30Cを画成する傾斜角度は、第2の傾き領域30Bの傾きを画成する傾斜角度よりも大きい。
図18に示してある例では、第1および第3の領域30A、30Cの傾きを画成する傾斜角度は40°であり、第2の傾き領域30Bの傾きを画成する傾斜角度は25°である。
【0136】
しかし、他の値も考えられる。たとえば、第1および第3の領域30Aおよび30Cの傾きを画成する傾斜角度は、30°超および/または60°以下であってよく、第2の領域30Bの傾きを画成する傾斜角度は、10°超および/または30°以下であってよい。
【0137】
異なる傾き領域30A、30B、および30Cの動作モードを、
図19に関して以下で述べる。
【0138】
図19は、ニードルシールドが針またはハブから離れるように軸方向に移動している間に、ニードルシールド1を、たとえばハブ4もしくは針17に対して、またはそれから離れるように動かすのに必要な力を示す力変位図を示している。したがって、これは、ニードルシールドの取外し中に、そのニードルシールドに軸方向に作用する必要がある力である。ハブ4からキャップ12をニードルシールド1と一緒に取り外すために、この力は、ニードルシールド/キャップのインターフェースに存在しなくてはならない。ニードルシールドの軸方向移動は、軸方向への、内側部材の軸方向移動に対応していてもよいし、外側部材21の軸方向移動に対応していてもよいし、またはたとえばキャップが単体であるか、キャップ/ニードルシールドの取外しプロセス中にキャップの構成要素全部が軸方向に一体となって動く場合には、キャップ全体の軸方向移動に対応していてよい(軸方向移動は、図では「垂直移動」と示されている)。
【0139】
上述したように、キャップ12は内側部材24、たとえばグラバーを有する保護具を含み、ハウジング11は、放出開口部、たとえば針17を有するハブ4を含み、ニードルシールド1はハブ4に接続されている。内側部材24は、ニードルシールド1に接続されている。キャップ12がハウジング11から取り外されるとき、キャップ12と一緒に内側部材24が取り外され、内側部材24はニードルシールド1に接続されており、それにより内側部材24は、キャップ12がハウジング11から取り外されるとき、ハブ4からニードルシールド1を取り外す。
【0140】
ニードルシールド1は、本体2と、剛性のその外側シェル2Bと、変形可能なその内側部分2Aとを含んでいる。剛性の外側シェル2Bは内側部材24に面しており、変形可能な内側部分2Aは、ハブ4の放出開口部に面している。剛性の外側シェル2Bは、内側部材24との押込み接続を可能にし、変形可能な内側部分2Aは、ハブ4との摩擦接続を可能にする。針は、ニードルシールドの内部に配置され、変形可能な内側部分2Aに接触していてもよい。
【0141】
ニードルシールド1を、ハブ4から離れるように軸方向に動かすのに必要な力は、変形可能な内側部分2Aとハブ4との摩擦接続におそらく起因して、変動することが見いだされている。案内トラックの傾き領域を介して軸方向運動に変換される、キャップ12の外側部材21の回転運動に起因して、内側部材24は、たとえば外側部材に軸方向に固定されていることから、ニードルシールド1を軸方向に引っ張る。
【0142】
図19に示してあるように、取外しプロセスの始めに、ニードルシールド1の軸方向運動に必要な力は、たとえば約3Nの値および/または0~0.8mmの範囲において、比較的低い。この理由は、変形可能な内側部分2Aの弾性または変形性に起因して、最初にニードルシールド1が外側部材21の動きを可能にするからである。しかし、変形可能な内側部分2Aとハブ4との摩擦接続はなお確立されていることが可能である。
【0143】
外側部材21のさらなる、たとえば約0.8mmより後の軸方向運動中には、変形可能な内側部分2Aの最大伸張限界に到達している可能性があり、それにより外側部材21のさらなる軸方向運動を行うためには、変形可能な内側部分2Aとハブ4との摩擦接続が解放されなくてはならない。この目的のために、力を大幅に増大させることが必要であり、これが、
図19において、たとえば0.8~約5.8mmの範囲に示してある。この特定の測定では最大の力は35Nに到達していないが、ニードルシールドを取り外すためには最大で35Nの力が必要な場合がある。
【0144】
摩擦接続が解放された後、必要な力は劇的に減少し、それにより残りの取外しプロセス中の外側部材21の軸方向運動のために、わずか約2~5Nという少ない力が、最後の約5.8~7.5mmの範囲で維持される。
【0145】
ユーザがキャップ12を取り外す労力を低減するために、ニードルシールド1を取り外すために必要な力が増大するにつれて、ギア比または機械的利益が増大するように、領域の傾きが選択される。これは、案内トラック30の傾きを関連領域において平らにすることにより、可能になる。
【0146】
したがって示してある例において、領域は、必要な力が最大のときに最も平らな傾きを有し、相互作用機能20がその上で動く。本明細書の例では、ハウジング11からのキャップ12の取外し中に、第2の傾き領域30Bによって画成された動きの範囲内に力の最大値が含まれるように、案内トラック30が構成されている。第2の傾き領域は動きを案内してよく、その間に、力-移動曲線の複数の局所的な最大値(好ましくはその大域的な最大値を含む)が生じる。
【0147】
図示してある実施形態では、第1の傾き領域30Aを通るのは、外側部材21が軸方向に0~0.8mm動かされるときであり、第2の傾き領域30Bを通るのは、外側部材21が軸方向に0.8~5.8mm動かされるときであり、第3の傾き領域30Cを通るのは、外側部材21が軸方向に5.8~7.5mm動かされるときである。
【0148】
図19に示している実施形態において、必要な力に対する傾きの適合は、以下の通りである。
【0149】
【0150】
第1の傾き領域30Aの全体を通るための、組立体の長手方向軸を中心とした外側部材21の回転運動は、角度範囲αを画成する。言い換えれば、角度範囲αは、第1の傾き領域30Aの始めと終わりとの間の角度距離である。外側部材21がαだけ回転すると、外側部材21は、約0.8mmだけ軸方向に変位する。
【0151】
第2の傾き領域30Bの全体を通るための、組立体の長手方向軸を中心とした外側部材21の回転運動は、角度範囲βを画成する。言い換えれば、角度範囲βは、第2の傾き領域30Bの始めと終わりとの間の角度距離である。外側部材21がβだけ回転すると、外側部材21は、約5mmだけ軸方向に変位する。したがって第1の変位と合わせて、約5.8mmの距離がカバーされる。
【0152】
第3の傾き領域30Cの全体を通るための、組立体の長手方向軸を中心とした外側部材21の回転運動は、角度範囲γを画成する。言い換えれば、角度範囲γは、第3の傾き領域30Cの始めと終わりとの間の角度距離である。外側部材21がγだけ回転すると、外側部材21は、約1.7mmだけ軸方向に変位する。第1および第2の変位と合わせて、約7.5mmの距離が、こうしてカバーされる。
【0153】
角度範囲αおよびγは、角度範囲βより小さい。したがって、第1の傾き領域30Aまたは第3の傾き領域30Cを通るためにユーザが生じさせるべき外側部材21の回転運動は、第2の傾き領域30Bを通るための回転運動よりも少ない。
【0154】
角度範囲αおよびγはそれぞれ、10°以上であり、角度範囲βは20°以上である。したがって、角度範囲αとβとγとの合計は、40°より大きい。角度範囲αとβとγとの合計は、90°以下であってよい。ユーザは、1回転のうちの最大で4分の1だけを回転させればよいので、この角度範囲はユーザにとって特に快適であることが証明されている。しかし、角度範囲αとβとγとの合計は、代替的に90°より大きくてもよく、たとえば95°、100°、105°、110°、115°、120°、125°、130°、140°、150°、180°、240°、300°、360°のうちの1つの値以下であってよい。
【0155】
第1の傾き領域30Aの全軸方向範囲は、約0.1~1mmの範囲内にあり、第2の傾き領域30Bの全軸方向範囲は、約4~6mmの範囲内にあり、第3の傾き領域30Cの全軸方向範囲は、0.5~2mmの範囲内にある。ひとつにまとめたときのすべての傾き領域の全軸方向範囲は、5mm以上かつ/または8mm以下である。これらの値は特に、使用されるニードルシールドに応じて異なってよいことを理解すべきである。全軸方向範囲は、特定のニードルシールドおよび伝達する必要がある力の要件に合わせて調整可能である。
【0156】
上記の文脈において、「全軸方向範囲」という用語は、組立体の長手方向軸に沿って平行に測定された、傾き領域30A、30B、および30Cのうちの1つ領域の範囲を表すものである。言い換えれば、全軸方向範囲は、その領域の両端間の軸方向オフセットに等しい。
【0157】
薬物送達デバイス1は、使い捨てであってもよいし、再使用可能であってもよい。
【0158】
薬物送達デバイス1は、固定用量を提供してもよいし、またはユーザ設定可能な用量を提供してもよい。
【0159】
「薬物」または「薬剤」という用語は、本明細書では同義的に用いられ、1つもしくはそれ以上の活性医薬成分またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、場合により薬学的に許容可能な担体と、を含む医薬製剤を記述する。活性医薬成分(「API」)とは、最広義には、ヒトまたは動物に対して生物学的効果を有する化学構造体のことである。薬理学では、薬剤または医薬は、疾患の治療、治癒、予防、または診断に使用されるか、さもなければ身体的または精神的なウェルビーイングを向上させるために使用される。薬物または薬剤は、限定された継続期間で、または慢性障害では定期的に使用可能である。
【0160】
以下に記載されるように、薬物または薬剤は、1つもしくはそれ以上の疾患の治療のために各種タイプの製剤中に少なくとも1つのAPIまたはその組合せを含みうる。APIの例としては、500Da以下の分子量を有する低分子、ポリペプチド、ペプチド、およびタンパク質(たとえば、ホルモン、成長因子、抗体、抗体フラグメント、および酵素)、炭水化物および多糖、ならびに核酸、二本鎖または一本鎖DNA(ネイキッドおよびcDNAを含む)、RNA、アンチセンス核酸たとえばアンチセンスDNAおよびRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、リボザイム、遺伝子、およびオリゴヌクレオチドが挙げられうる。核酸は、ベクター、プラスミド、またはリポソームなどの分子送達システムに取り込み可能である。1つまたはそれ以上の薬物の混合物も企図される。
【0161】
薬物または薬剤は、薬物送達デバイスでの使用に適合化された一次パッケージまたは「薬物容器」に包含可能である。薬物容器は、たとえば、1つもしくはそれ以上の薬物の収納(たとえば、短期または長期の収納)に好適なチャンバを提供するように構成されたカートリッジ、シリンジ、リザーバ、または他の硬性もしくは可撓性のベッセルでありうる。たとえば、いくつかの場合には、チャンバは、少なくとも1日間(たとえば、1日間~少なくとも30日間)にわたり薬物を収納するように設計可能である。いくつかの場合には、チャンバは、約1カ月~約2年間にわたり薬物を収納するように設計可能である。収納は、室温(たとえば、約20℃)または冷蔵温度(たとえば、約-4℃~約4℃)で行うことが可能である。いくつかの場合には、薬物容器は、投与される医薬製剤の2つ以上の成分(たとえば、APIと希釈剤、または2つの異なる薬物)を各チャンバに1つずつ個別に収納するように構成されたデュアルチャンバカートリッジでありうるか、またはそれを含みうる。かかる場合には、デュアルチャンバカートリッジの2つのチャンバは、人体もしくは動物体への投薬前および/または投薬中に2つ以上の成分間の混合が可能になるように構成可能である。たとえば、2つのチャンバは、互いに流体連通するように(たとえば、2つのチャンバ間の導管を介して)かつ所望により投薬前にユーザによる2つの成分の混合が可能になるように構成可能である。代替的または追加的に、2つのチャンバは、人体または動物体への成分の投薬時に混合が可能になるように構成可能である。
【0162】
本明細書に記載の薬物送達デバイスに含まれる薬物または薬剤は、多くの異なるタイプの医学的障害の治療および/または予防のために使用可能である。障害の例としては、たとえば、糖尿病または糖尿病に伴う合併症たとえば糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害たとえば深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症が挙げられる。障害のさらなる例は、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチである。APIおよび薬物の例は、ローテリステ2014年(Rote Liste 2014)(たとえば、限定されるものではないがメイングループ12(抗糖尿病薬剤)または86(オンコロジー薬剤))やメルク・インデックス第15版(Merck Index,15th edition)などのハンドブックに記載されているものである。
【0163】
1型もしくは2型糖尿病または1型もしくは2型糖尿病に伴う合併症の治療および/または予防のためのAPIの例としては、インスリン、たとえば、ヒトインスリン、もしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、GLP-1アナログもしくはGLP-1レセプターアゴニスト、はそのアナログもしくは誘導体、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、またはそれらの薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、またはそれらのいずれかの混合物が挙げられる。本明細書で用いられる場合、「アナログ」および「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドに存在する少なくとも1つのアミノ酸残基の欠失および/または交換によりおよび/または少なくとも1つのアミノ酸残基の付加により天然に存在するペプチドの構造たとえばヒトインスリンの構造から形式的に誘導可能な分子構造を有するポリペプチドを指す。付加および/または交換アミノ酸残基は、コード可能アミノ酸残基または他の天然に存在する残基または純合成アミノ酸残基のどれかでありうる。インスリンアナログは、「インスリンレセプターリガンド」とも呼ばれる。特に、「誘導体」という用語は、天然に存在するペプチドの構造から形式的に誘導可能な分子構造、たとえば、1つまたはそれ以上の有機置換基(たとえば脂肪酸)がアミノ酸の1つまたはそれ以上に結合したヒトインスリンの分子構造を有するポリペプチドを指す。場合により、天然に存在するペプチドに存在する1つまたはそれ以上のアミノ酸が、欠失し、および/または非コード可能アミノ酸を含めて他のアミノ酸によって置き換えられ、または天然に存在するペプチドに非コード可能なものを含めてアミノ酸が付加される。
【0164】
インスリンアナログの例は、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン(インスリングラルギン);Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン(インスリングルリジン);Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン(インスリンリスプロ);Asp(B28)ヒトインスリン(インスリンアスパルト);位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28~B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0165】
インスリン誘導体の例は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン、Lys(B29)(N-テトラデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデテミル、レベミル(Levemir)(登録商標));B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン、B29-N-オメガ-カルボキシペンタデカノイル-ガンマ-L-グルタミル-des(B30)ヒトインスリン(インスリンデグルデク、トレシーバ(Tresiba)(登録商標));B29-N-(N-リトコリル-ガンマ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0166】
GLP-1、GLP-1アナログおよびGLP-1レセプターアゴニストの例は、たとえば、リキシセナチド(リキスミア(Lyxumia)(登録商標))、エキセナチド(エキセンジン-4、バイエッタ(Byetta)(登録商標)、ビデュリオン(Bydureon)(登録商標)、ヒラモンスターの唾液腺により産生される39アミノ酸ペプチド)、リラグルチド(ビクトーザ(Victoza)(登録商標))、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド(シンクリア(Syncria)(登録商標))、デュラグルチド(トルリシティ(Trulicity)(登録商標))、rエキセンジン-4、CJC-1134-PC、PB-1023、TTP-054、ラングレナチド/HM-11260C、CM-3、GLP-1エリゲン、ORMD-0901、NN-9924、NN-9926、NN-9927、ノデキセン、ビアドール-GLP-1、CVX-096、ZYOG-1、ZYD-1、GSK-2374697、DA-3091、MAR-701、MAR709、ZP-2929、ZP-3022、TT-401、BHM-034、MOD-6030、CAM-2036、DA-15864、ARI-2651、ARI-2255、エキセナチド-XTENおよびグルカゴン-Xtenである。
【0167】
オリゴヌクレオチドの例は、たとえば、家族性高コレステロール血症の治療のためのコレステロール低下アンチセンス治療剤ミポメルセンナトリウム(キナムロ(Kynamro)(登録商標))である。
【0168】
DPP4阻害剤の例は、ビダグリプチン、シタグリプチン、デナグリプチン、サキサグリプチン、ベルベリンである。
【0169】
ホルモンの例としては、脳下垂体ホルモンもしくは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、およびゴセレリンが挙げられる。
【0170】
多糖の例としては、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化多糖たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩が挙げられる。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。ヒアルロン酸誘導体の例は、ハイランG-F20(シンビスク(Synvisc)(登録商標))、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0171】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、イムノグロブリン分子またはその抗原結合部分を指す。イムノグロブリン分子の抗原結合部分の例としては、抗原への結合能を保持するF(ab)およびF(ab’)2フラグメントが挙げられる。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、キメラ抗体、脱免疫化もしくはヒト化抗体、完全ヒト抗体、非ヒト(たとえばネズミ)抗体、または一本鎖抗体でありうる。いくつかの実施形態では、抗体は、エフェクター機能を有するとともに補体を固定可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fcレセプターへの結合能が低減されているか、または結合能がない。たとえば、抗体は、Fcレセプターへの結合を支援しない、たとえば、Fcレセプター結合領域の突然変異もしくは欠失を有するアイソタイプもしくはサブタイプ、抗体フラグメントまたは突然変異体でありうる。抗体という用語は、4価二重特異的タンデムイムノグロブリン(TBTI)および/またはクロスオーバー結合領域配向を有する二重可変領域抗体様結合タンパク質(CODV)に基づく抗原結合分子も含む。
【0172】
「フラグメント」または「抗体フラグメント」という用語は、完全長抗体ポリペプチドを含まないが依然として抗原に結合可能な完全長抗体ポリペプチドの少なくとも一部分を含む抗体ポリペプチド分子由来のポリペプチド(たとえば、抗体重鎖および/または軽鎖ポリペプチド)を指す。抗体フラグメントは、完全長抗体ポリペプチドの切断部分を含みうるが、この用語は、かかる切断フラグメントに限定されるものではない。本発明に有用な抗体フラグメントとしては、たとえば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、scFv(一本鎖Fv)フラグメント、線状抗体、単一特異的または多重特異的な抗体フラグメント、たとえば、二重特異的、三重特異的、四重特異的および多重特異的抗体(たとえば、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ)、1価または多価抗体フラグメント、たとえば、2価、3価、4価および多価の抗体、ミニボディ、キレート化組換え抗体、トリボディまたはビボディ、イントラボディ、ナノボディ、小モジュール免疫医薬(SMIP)、結合ドメインイムノグロブリン融合タンパク質、ラクダ化抗体、およびVHH含有抗体が挙げられる。抗原結合抗体フラグメントの追加の例は当技術分野で公知である。
【0173】
「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、特異的抗原認識を媒介する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内の短いポリペプチド配列を指す。「フレームワーク領域」という用語は、CDR配列でないかつ抗原結合が可能になるようにCDR配列の適正配置を維持する役割を主に担う、重鎖および軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内のアミノ酸配列を指す。フレームワーク領域自体は、典型的には抗原結合に直接関与しないが、当技術分野で公知のように、ある特定の抗体のフレームワーク領域内のある特定の残基は、抗原結合に直接関与しうるか、またはCDR内の1つもしくはそれ以上のアミノ酸と抗原との相互作用能に影響を及ぼしうる。
【0174】
抗体の例は、抗PCSK-9 mAb(たとえば、アリロクマブ)、抗IL-6 mAb(たとえば、サリルマブ)、および抗IL-4 mAb(たとえば、デュピルマブ)である。
【0175】
本明細書に記載のいずれのAPIの薬学的に許容可能な塩も、薬物送達デバイスで薬物または薬剤に使用することが企図される。薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。
【0176】
本明細書に記載のAPI、処方、装置、方法、システム、および実施形態の様々な構成要素の変更(追加および/または除去)は、本発明の全範囲および趣旨から逸脱することなく行うことができ、本発明の全範囲および趣旨は、そうした変更形態、およびあらゆるその均等物を包含することは、当業者には理解されよう。