(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用の粉末状リチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240226BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20240226BHJP
C01D 15/06 20060101ALI20240226BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G51/00 A
C01D15/06
H01M4/36 B
(21)【出願番号】P 2022537738
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2020084040
(87)【国際公開番号】W WO2021121950
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-17
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】キョンセ・ソン
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0179479(US,A1)
【文献】特表2017-506805(JP,A)
【文献】特表2017-536654(JP,A)
【文献】特開平09-245787(JP,A)
【文献】特開2004-006229(JP,A)
【文献】特開2001-297768(JP,A)
【文献】特開2001-273898(JP,A)
【文献】国際公開第2018/162165(WO,A1)
【文献】特開2017-021942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-10/0587
10/36-10/39
C01G 25/00-47/00
49/10-99/00
C01D 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末であって、
Li、Co、及びOを含む一次相と、
LiNaSO
4を含む二次相と、を有し、
前記粉末中の前記LiNaSO
4二次相の含有量が、前記カソード活物質粉末の総重量に対して少なくとも0.4重量%及び1.1重量%以下であり、前記カソード活物質粉末が、0.80以上1.20以下のS/Na原子比を有することを特徴とする、リチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末。
【請求項2】
前記LiNaSO
4二次相の含有量が、0.50重量%以上、最大0.65重量%である、請求項1に記載のリチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末。
【請求項3】
前記S/Na原子比が0.95以上1.05以下である、請求項1又は2に記載のリチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末。
【請求項4】
Al及びMgからなる群の少なくとも1つの元素を含む、請求項1に記載のリチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末。
【請求項5】
Li/Co原子比が、0.98以上1.02以下である、請求項1に記載のリチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末。
【請求項6】
4.6V(Li
+/Li)で少なくとも210mAh/
gの初回放電容量を有する、請求項1に記載のリチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末。
【請求項7】
4.6V(Li
+/Li)で0.60%/サイクル未満の容量低下率を有する、請求項1又は6に記載のリチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のカソード活物質粉末を製造するための方法であって、
前駆体粉末の総重量に対して0.05重量%超0.30重量%未満のNa含有量を有するCo系前駆体粉末を準備する工程と、
前記Co系前駆体粉末を、Li源、S源、及び任意にM’源と混合し、0.98以上1.02以下のLi/Co原子比、及び0.80以上1.20以下のS/Na原子比を有する混合物を調製する工程と、
前記混合物を、空気などの酸素含有雰囲気中で、少なくとも5時間、少なくとも850℃、1200℃以下の温度で焼結し、焼結された凝集粉末を得る工程と、
前記焼結された凝集粉末をミル粉砕して、前記カソード活物質を得る工程と、を含み、
M’が、Mg、Al、Ni、Mn、Nb、Ti、W、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む、方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載のカソード活物質粉末を製造するための方法であって、
前駆体粉末の総重量に対して0.05重量%超0.30重量%未満のS含有量、及び前記前駆体粉末の総重量に対して0.05重量%超0.30重量%未満のNa含有量を有するCo系前駆体粉末を準備する工程と、
前記Co系前駆体粉末を、Li源、及び任意にM’源と混合し、0.98以上1.02以下のLi/Co原子比、及び0.80以上1.20以下のS/Na原子比を有する混合物を調製する工程と、
前記混合物を、空気などの酸素含有雰囲気中で、少なくとも5時間、少なくとも850℃、1200℃以下の温度で焼結し、焼結された凝集粉末を得る工程と、
前記焼結された凝集粉末をミル粉砕して、前記カソード活物質を得る工程と、を含み、
M’が、Mg、Al、Ni、Mn、Nb、Ti、W、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む、方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載のカソード活物質粉末を製造するための方法であって、
Co系前駆体粉末を準備する工程と、
前記Co系前駆体粉末を、Li源、S源及びNa源、並びに任意にM’源と混合し、0.98以上1.02以下のLi/Co原子比、及び0.80以上1.20以下のS/Na原子比を有する混合物を調製する工程と、
前記混合物を、空気などの酸素含有雰囲気中で、少なくとも5時間、少なくとも850℃、1200℃以下の温度で焼結し、焼結された凝集粉末を得る工程と、
前記焼結された凝集粉末をミル粉砕して、前記カソード活物質を得る工程と、を含み、
M’が、Mg、Al、Ni、Mn、Nb、Ti、W、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む、方法。
【請求項11】
リチウムイオン二次電池におけるカソード活物質として、請求項1~7のいずれか一項に記載の物質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、(携帯型)電子デバイス用途に適したリチウムイオン二次電池(LIB)用のリチウムコバルト系酸化物(LCO)カソード活物質粉末であって、
Li、Co、及びOを含む一次相と、
LiNaSO4を含む二次相と、を有する粒子を含む、LCOカソード活物質粉末に関するものである。
【0002】
LCOカソード活物質によって、このような物質は、当該粉末中の遷移金属に対するCoの原子比が少なくとも85モル%であることが本発明の文脈において理解される。
【0003】
本発明の枠組みにおいて、LCO物質の粒子が当該一次相及び二次相を有する場合、LCO粉末はこれらの当該一次相及び二次相を有することを意味すると理解する必要がある。
【0004】
このようなカソード活物質粉末は、例えば、一次相LiCoO2を含むコアと、二次相LiNaSO4を含むコアの上のコーティング層と、を有する物質を開示する文書である米国特許出願公開第2017/0179479(A1)号から既に知られている。カソード活物質粉末中のこの二次相の含有量は、カソード活物質粉末の総重量に対して0.5重量%~5重量%において規定された範囲で変化する。米国特許出願公開第2017/0179479(A1)号のカソード活物質粉末は、本発明の分析方法によって得られた、217.6mAh/gの初回放電容量(DQ1)、及び0.79%/サイクルの容量低下率(QF)を示す。1サイクルあたりの容量低下率(QF)を改善する必要がある。
【0005】
また、国際公開第2018/162165号には、1.26重量%のLiNaSO4を含み、DQ1が204.6mAh/g、QFが0.69%/サイクルを示すLCOカソード活物質が開示されている。国際公開第2018/162165号では、当該LCOカソード活物質を洗浄することを教示している。この文書による水洗LCO物質は、0.05重量%のLiNaSO4を含み、サイクル寿命が短くなっている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、本発明の分析方法によって得られる、少なくとも210mAh/gの改善されたDQ1及び0.60%/サイクル未満の改善されたQFを有する、リチウムイオン二次電池用LCOカソード活物質粉末を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
この目的は、粒子が、0.80以上1.20以下のS/Na原子比を有する、請求項1に記載のリチウムコバルト系酸化物カソード活物質粉末を提供することにより達成される。
【0008】
表2に提供される結果に例示されるように、210mAh/gより高い改善されたDQ1及び0.60%/サイクルより低い改善されたQFが、以下の特徴を有するEX1.1によるLCOカソード活物質粉末を用いるLIBにおいて達成されていることが実際に観察された。
カソード活物質粉末の総重量に対して0.54重量%のLiNaSO4化合物の量、及び
1.01のS/Na原子比。
【0009】
本発明の枠組みにおいて、LCO物質の粒子が、当該LiNaSO4化合物の量(重量%)の特許請求された範囲及びS/Na原子比の特許請求された範囲を有する場合、LCO粉末は、当該LiNaSO4化合物の量(重量%)及びS/Na原子比のこれらの特許請求された範囲を有することを意味することを理解する必要がある。
【0010】
カソード活物質粉末は、カソード活物質粉末の総重量に対して、0.4重量%以上1.1重量%以下のLiNaSO4化合物を含む。LiNaSO4化合物の量が0.4重量%未満又は1.1重量%を超えると、DQ1が低下し、サイクル寿命が低下する。
【0011】
本発明の枠組みにおいて、一次相は、Li、Co、Oを含む。一次相は、一次相自体の結晶構造(単結晶又は多結晶)を有する。
【0012】
二次相は、LiNaSO4を含む。二次相は、二次相自体の結晶構造(単結晶又は多結晶)を有する。
【0013】
第2の化合物は、第1の化合物とは異なるものである。
【0014】
本発明は、以下の実施形態に関する。
【0015】
実施形態1
第1の態様において、本発明は、(携帯型)電子デバイス用途に適したリチウムイオン二次電池(LIB)用のリチウムコバルト系酸化物(LCO)カソード活物質粉末であって、
Li、Co、及びOを含む一次相と、
LiNaSO4を含む二次相と、を含み、
好ましくは、当該物質が、当該粉末中のCoの遷移金属に対する原子比が少なくとも85モル%である、LCOカソード活物質粉末に関するものである。
【0016】
当該粉末中の当該LiNaSO4二次相の含有量は、カソード活物質粉末粒子の総重量に対して少なくとも0.4重量%及び1.1重量%以下であり、S/Na原子比が0.80以上1.20以下である。
【0017】
好ましくは、実施形態1において、LiNaSO4二次相の含有量は、カソード活物質粉末の総重量に対して、0.50重量%以上であり、最大0.65重量%である。
【0018】
より好ましくは、実施形態1において、当該カソード活物質粉末のS/Na原子比は、0.95以上であり、1.05以下である。
【0019】
任意に、実施形態1において、当該一次相は、Al及びMgを含む。
【0020】
好ましくは、一次相がR-3m結晶構造を有するのに対し、二次相は、より好ましくはP31c結晶構造を有する。
【0021】
任意に、実施形態1によるカソード活物質粉末は、Li/Co原子比が0.98以上1.02以下、好ましくは1.000以上1.016以下の粒子を含む。
【0022】
本発明の枠組みにおいて、LCO物質の粒子が特許請求された範囲のLi/Co原子比を有する場合、LCO粉末はこれらの特許請求された範囲のLi/Co原子比を有することを意味することを理解する必要がある。
【0023】
Li/Co原子比が0.98未満の場合、4.50Vなどのより高い電圧でCoの溶解が起こり、カソード活物質粉末の容量が減少する。Li/Co原子比が1.02を超える場合、カソード活物質粉末のサイクル寿命が低下する。
【0024】
好ましくは、当該一次相は、モノリシック又は多結晶形態を有する。モノリシック形態は、走査型電子顕微鏡(SEM)のような適切な顕微鏡技術で観察される、単一粒子又は2つ若しくは3つの一次粒子からなる二次粒子の形態を表す。粉末は、SEMによって提供される少なくとも45μm×少なくとも60μm(すなわち、少なくとも2700μm2)、好ましくは:少なくとも100μm×少なくとも100μm(すなわち、少なくとも10000μm2)の視野内の粒子数の80%以上がモノリシック形態を有する場合、モノリシック粉末と呼ばれる。多結晶形態は、3超の一次粒子からなる二次粒子の形態を表す。
【0025】
カソード活物質は、カソードにおいて電気化学的に活性である物質として定義される。活物質とは、所定の時間にわたって電圧変化にさらされたときにLiイオンを捕捉及び放出することができる物質であると理解する必要がある。
【0026】
実施形態2
第2の実施形態において、実施形態1によるカソード活物質粉末は、4.6V(Li+/Li)で少なくとも210mAh/g、好ましくは最大240mAh/gの初回放電容量を有する。
【0027】
実施形態3
第3の実施形態において、実施形態1又は2に記載のカソード活物質粉末は、4.6V(Li+/Li)で最大0.6%/サイクルの容量低下率を有する。
【0028】
実施形態4
第4の実施形態において、本発明はまた、本発明によるカソード活物質粉末を製造するための第1の方法を含む。
【0029】
本発明による第1の方法は、
前駆体粉末の総重量に対して0.05重量%超0.30重量%未満のNa含有量を有し、任意にMを含む当該Co系前駆体粉末を準備する工程と、
当該Co系前駆体粉末を、Li源、S源、及び任意にM’源と混合し、0.98以上1.02以下のLi/Co原子比、及び0.80以上1.20以下のS/Na原子比を有する混合物を調製する工程と、
当該混合物を、空気などの酸素含有雰囲気中で、少なくとも5時間、少なくとも850℃、1200℃以下の温度で焼結し、焼結された凝集粉末を得る工程と、
当該焼結された凝集粉末をミル粉砕して、当該カソード活物質を得る工程と、を含み、
M及びM’が、Mg、Al、Ni、Mn、Nb、Ti、W、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む。
【0030】
実施形態5
第5の実施形態において、本発明はまた、本発明によるカソード活物質粉末を製造するための第2の方法を含む。
【0031】
本発明による第2の方法は、
前駆体粉末の総重量に対して0.05重量%超0.30重量%未満のS含有量、及び当該前駆体粉末の総重量に対して0.05重量%超0.30重量%未満のNa含有量を有し、任意にMを含む当該Co系前駆体粉末を準備する工程と、
当該Co系前駆体粉末を、Li源、及び任意にM’源と混合し、0.98以上1.02以下のLi/Co原子比及び0.80以上1.20以下のS/Na原子比を有する混合物を調製する工程と、
当該混合物を、空気などの酸素含有雰囲気中で、少なくとも5時間、少なくとも850℃、1200℃以下の温度で焼結し、焼結された凝集粉末を得る工程と、
当該焼結された凝集粉末をミル粉砕して、当該カソード活物質を得る工程と、を含み、
M’が、Mg、Al、Ni、Mn、Nb、Ti、W、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む。
【0032】
実施形態6
第6の実施形態において、本発明はまた、本発明によるカソード活物質粉末を製造するための第3の方法を含む。
【0033】
本発明による第3の方法は、
Co系前駆体粉末を準備する工程と、
当該Co系前駆体粉末を、Li源、S源及びNa源、並びに任意にM’源と混合し、0.98以上1.02以下のLi/Co原子比、及び0.80以上1.20以下のS/Na原子比を有する混合物を調製する工程と、
当該混合物を、空気などの酸素含有雰囲気中で、少なくとも5時間、少なくとも850℃、1200℃以下の温度で焼結し、焼結された凝集粉末を得る工程と、
当該焼結された凝集粉末をミル粉砕して、当該カソード活物質を得る工程と、を含み、
M’が、Mg、Al、Ni、Mn、Nb、Ti、W、及びZrからなる群の少なくとも1つの元素を含む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1.1】EX1.1によるLCO物質の調製工程の図解である。
【
図1.2】CEX1.1によるLCO物質の調製工程の図解である。
【
図2.1】15°~40°の2θ範囲でのX線回折図スキャンであり、y軸は対数スケールでの強度である。
【
図2.2】15°~40°の2θ範囲でのX線回折図スキャンであり、y軸は対数スケールでの強度である。
【
図3】EX1.1、CEX1.1、CEX1.2、EX2、CEX2.1、及びCEX2.2の放電容量低下率の比較である。
【
図4】各実施例及び比較例のS/Na比(x軸)とLiNaSO
4含有量(重量%)(y軸)とを示す散布図である。斜線部分は、本発明による特許請求された範囲である。
【
図5】各実施例及び比較例のDQ1(x軸)とQF(y軸)とを示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0036】
1.分析方法の説明
1.1.誘導結合プラズマ
誘導結合プラズマ(ICP)法により、Agillent ICP 720-ESデバイスを用いて、Li、Co、Al、Mg、Na、Sなどの元素の含有量を測定する。
【0037】
LCOカソード活物質粉末試料2.0gを、三角フラスコ内で、10.0mLの塩酸溶液(溶液の総量に対して少なくとも37重量%のHCl)に溶解する。フラスコをガラスで覆い、粉末試料が完全に溶解するまでホットプレート上で加熱する。室温まで冷却後、溶液を100mLメスフラスコに移す。メスフラスコに脱イオン水を100mLの標線まで入れる。得られた溶液5mLを50mLメスフラスコに移し、2回目の希釈を行う。メスフラスコには、50mLの標線まで10%塩酸を入れ、均一化させる。最後に、この50mL溶液をICP測定に使用する。
【0038】
LiNaSO4の量は、NaとSのICP測定値から、限定試薬がどちらであるかに応じて、式(1)又は式(2)に従って、化学量論的に算出される。
【0039】
これは、ICPで測定したCoの総モル含有量に対するNaの原子含有量が、ICPで測定したCoの総モル含有量に対するSの原子含有量より少ない場合、Na元素が限定試薬であるとみなし、式(1)を用いて二次相LiNaSO4の重量含有量を計算することを意味している。
【0040】
逆に、ICPで測定したCoの総モル含有量に対するSの原子含有量が、ICPで測定したCoの総モル含有量に対するNaの原子含有量より少ない場合は、S元素を限定試薬とみなし、式(2)を用いて二次相LiNaSO4の重量含有量を計算する。
(1)LiNaSO4(重量%)=Na(原子%)×LiNaSO4の分子量、又は
(2)LiNaSO4(重量%)=S(原子%)×LiNaSO4の分子量。
【0041】
1.2.X線回折
カソード活物質粉末試料のX線回折パターンは、1.5418Åの波長で放射されるCu Kα線源(40kV、40mA)を使用して、RigakuX線回折計(Ultima IV)を使用して収集する。機器の構成は、1°のソーラースリット(Soller slit、SS)、10mmの発散高さ制限スリット(divergent height limiting slit、DHLS)、1°の発散スリット(divergence slit、DS)、及び0.3mmの受光スリット(reception slit、RS)に設定する。ゴニオメータの直径は、158mmである。スキャン速度0.1°/分、ステップサイズ0.02°/スキャンで、15°~40°の2θ範囲で回折パターンを得る。
【0042】
1.3.電気化学分析
1.3.1.コインセルの調製
コインセルは以下のプロトコルに従って組み立てられる。
【0043】
工程1)カソードの調製:
LCOカソード活物質粉末、導体(Super P、Timcal)及びバインダー(KF#9305、クレハ)を90:5:5の重量比で含有するスラリーと、溶媒(NMP、Sigma-Aldrich)とを高速ホモジナイザで混合し、均質化されたスラリーを得る。均質化されたスラリーを、230μmのギャップを有するドクターブレードコーターを用いてアルミニウム箔の片面に広げる。スラリーコーティングされたアルミニウム箔を、120℃のオーブンで乾燥した後、カレンダーツールを用いてプレスし、真空オーブンで再度乾燥して溶媒を完全に除去する。
【0044】
工程2)コインセルの組み立て:
コインセルは、不活性ガス(アルゴン)で満たしたグローブボックス内にて組み立てる。放電容量分析では、カソードと、アノードとして使用するリチウム箔片との間に、セパレータ(Celgard)を配置する。EC:DMC(体積で1:2)中の1M LiPF6を電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。次に、コインセルを完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0045】
1.3.2.試験方法
各コインセルを、Toscat-3100コンピュータ制御ガルバノスタティックサイクリングステーション(東洋システム製)を用いて25℃でサイクルする。試料を評価するために使用したコインセル試験スケジュールを表1に詳述する。このスケジュールでは、185mA/gの1C電流定義を使用する。初回放電容量DQ1を、定電流モード(CC)で測定する。容量低下率(QF)は、以下の式によって求められる。
【数1】
式中、DQ1は1サイクル目の放電容量であり、DQ25は25サイクル目の放電容量である。
【表1】
【0046】
1.4.粒径分布
体積での中央粒径(D50)などの粒径分布(psd)は、レーザーpsd測定法によって得られる。本発明では、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro MV湿式分散アクセサリを備えたMalvern Mastersizer 3000を用いてレーザーpsdを測定する。水性媒体中の粉末の分散を改善するために、十分な超音波照射及び撹拌を施し、適切な界面活性剤を投入する。
【0047】
2.実施例及び比較例
図1.1にEX1.1とCEX1.1の作製方法を、
図1.2にCEX1.2の作製方法を示す。
【0048】
実施例1.1
一般式Co
2(OH)
2CO
3を有する炭酸水酸化コバルト前駆体は、国際公開第2018/162165号第5頁第4行目から第6頁第14行目までに記載の方法によって調製される。この方法は、温度とpHを制御した沈殿反応器内で、CoSO
4とNa
2CO
3溶液を混合する工程で構成されている。Co
2(OH)
2CO
3の調製時にCOSO
4溶液をコバルト源として使用することにより、場合によっては次の化学反応に従って、副生成物としてNa
2SO
4も形成される:
【化1】
【0049】
上記の方法に従って調製される本発明における前駆体は、中央粒径が20μm、Na含有量が0.11重量%である。炭酸水酸化コバルトを600℃で10時間加熱し、酸化コバルトを調製する。酸化コバルトと、Li2CO3粉末及びLi2SO4粉末とを混合し、Li/Co原子比が1.00、S/Na原子比が1.00のブレンドを調製する。ブレンドを1020℃の炉で12時間焼成(又は焼結)し、焼結粉末を調製する。焼結粉末をミル粉砕機と篩機で脱凝集及び篩い分けし、EX1.1と表示されたLCOカソード活物質粉末を調製する。ICP分析によるEX1.1のS/Na原子比は1.04である。
【0050】
EX1.1は、本発明による。
【0051】
比較例1.1
脱イオン水600gの入っている1Lビーカーに25.0gのEX1.1を加えて、スラリーを調製する。スラリーを洗浄工程として磁気バーで10分間撹拌し、Na及びS元素の各含有量を0.05重量%未満に低減させる。洗浄粉末を濾過プロセスにより溶液から分離し、120℃で10時間乾燥させる。乾燥粉末にはCEX1.1と表示する。
【0052】
CEX1.1は、本発明によらない。
【0053】
比較例1.2
Li2SO4粉末を加えないことを除いて、EX1.1と同様の手順でCEX1.2を調製する。S元素の存在は、硫酸コバルト化合物を用いた共沈プロセスに由来する。ICP分析によるCEX1.2のS/Na原子比は0.60である。
【0054】
CEX1.2は、本発明によらない。
【0055】
比較例1.3
米国特許出願公開第2017/0179479(A1)号、第5頁の[0087]~[0091]におけるカソード活物質の調製に従って、CEX1.3を調製する。酸化コバルト粉末とLi2CO3粉末とを混合し、Li/Co原子比が1.03の混合物を調製する。混合物を空気雰囲気中1000℃で10時間か焼し、か焼粉末を得る。100gのか焼粉末を、0.5gのNa2SO4と混合し、空気雰囲気中800℃で10時間加熱する。加熱された生成物は、0.5重量%のLiNaSO4二次相を有するカソード活物質であり、CEX1.3と表示する。
【0056】
CEX1.3は、本発明によらない。
【0057】
比較例1.4
Li2SO4粉末とNa2SO4粉末を、Li2CO3粉末と混合し、Li/Co原子比が1.00、S/Na原子比が1.46であるブレンドを調製することを除いて、EX1.1と同じ手順でCEX1.4を調製する。
【0058】
CEX1.4は、本発明によらない。
【0059】
実施例1.2
Li2SO4粉末とNa2SO4粉末を、Li2CO3粉末と混合し、Li/Co原子比が1.00、S/Na原子比が0.88であるブレンドを調製することを除いて、EX1.1と同じ手順でEX1.2を調製する。
【0060】
EX1.2は、本発明による。
【0061】
実施例2
一般式Co1.960Al0.03Mg0.01(OH)2.06CO3を有するドープ炭酸水酸化コバルト前駆体は、国際公開第2018/162165号第5頁第4行から第6頁第14行までに記載の方法によって調製される。この方法は、温度とpHを制御した沈殿反応器内で、Co源溶液、Mg源溶液、Al源溶液、及びNa2CO3溶液を混合する工程で構成されている。
【0062】
ドーパントとしてMgとAlが添加されている。
【0063】
ここでは、Co
2(OH)
2CO
3前駆体の調製時に金属源としてCOSO
4、MgSO
4、及びAl
2(SO
4)
3溶液を用いることにより、副生成物としてNa
2SO
4が合成され、場合により次の化学反応に従って形成される:
【化2】
【0064】
上記の方法に従って調製された前駆体は、20μmの中央粒径及び0.09重量%のNa含有量を有する。
【0065】
ドープ炭酸水酸化コバルトを600℃で10時間加熱し、ドープ酸化コバルトを調製する。ドープ酸化コバルトをLi2CO3粉末及びLi2SO4粉末と混合し、Li/(Co+AI+Mg)原子比が1.00、S/Na原子比が1.00であるブレンドを調製する。ブレンドを炉内にて1020℃で12時間焼成し、焼結粉末を作製する。焼結粉末をミル粉砕機と篩機で脱凝集及び篩い分けし、EX2と表示されたドープLCOカソード活物質粉末を調製する。ICP分析によるEX2のS/Na原子比は1.01である。
【0066】
EX2は、本発明による。
【0067】
比較例2.1
脱イオン水600gの入っている1Lビーカーに25gのEX2を加えて、スラリーを調製する。スラリーを洗浄工程として磁気バーで10分間撹拌し、Na及びS元素の各含有量を0.05重量%未満に低減させる。洗浄粉末を濾過プロセスにより溶液から分離し、120℃で10時間乾燥させる。乾燥粉末にはCEX2.1と表示する。
【0068】
CEX2.1は、本発明によらない。
【0069】
比較例2.2
ブレンド工程でLi2SO4粉末を添加しないことを除いて、EX2と同様の手順でCEX2.2を調製する。Sの存在は、共沈プロセスで硫酸コバルト塩を使用したことに起因する(EX1.1と同様)。ICP分析によるCEX2.2のS/Na原子比は0.60である。
【0070】
CEX2.2は、本発明によらない。
【0071】
比較例3.1
国際公開第2018/162165号のEX3-P-3によれば、同文書の第18頁第8行目から第20頁第8行目までに記載のように、25重量%のCoCo3と75重量%のCo2(OH)2CO3とを有する前駆体粉末を含むコバルトを調製することが可能である。前駆体は、ICP分析から得られたCoの総モル含有量に対して、1.21モル%のAlドーパントを含む。
【0072】
従来技術による前駆体は、22.9μmの中央粒径と0.23重量%のNa含有量を有する。国際公開第2018/16165号によれば、前駆体を、Li2CO3粉末及びLi2SO4粉末と混合し、Li/(Co+AI)原子比が1.03、S/Na原子比が1.00であるブレンドを調製する。ブレンドを炉内にて1000℃で12時間焼成(又は焼結)した後、粉砕及び篩いにかけて焼結粉末を調製する。焼結粉末を、Coの総モル含有量に対して0.5モル%のTiと混合する。Tiを含む粉末を、炉内にて750℃で6時間焼成した後、粉砕及び篩いにかけて、CEX3.1と表示したLCOカソード活物質粉末を調製する。
【0073】
比較例3.2
EX2の代わりにCEX3.1が使用されることを除いて、CEX2.1と同じ方法でCEX3.2を作成する。洗浄粉末を濾過プロセスにより溶液から分離し、120℃で10時間乾燥させる。乾燥粉末にはCEX3.2と表示する。
【0074】
3.考察
図2.1に、EX1.1、CEX1.1、及びCEX1.2のX線回折図の比較を示す。R-3m空間群を持つLCOの層状構造は、18.9°、37.4°、38.4°、及び39.1°の2θ角度にいくつかの回折ピークが存在することによって識別される。EX1.1では、2θ角16.1°、22.5°、23.2°、29.5°、30.4°、32.0°に追加の回折ピーク(LCOに属するもの以外)が観察され、これは、P31c空間群のLiNaSO
4二次相の三方晶構造に対応する。これにより、追加の回折ピークは、EX1.1でのLiNaSO
4二次相の形成を示している。
図2.2でも同様の観測が得られ、LiNaSO
4二次相に関連するピークがEX2に現れている。X線回折から、S/Na原子比が0.80以上1.20以下、好ましくは1.00に近いLCO化合物に対してLiNaSO
4二次相が形成されていることが確認される。
【0075】
DQ1~DQ25までの放電容量の低下傾向の比較を
図3に示す。実施例2及び比較例と比較して、EX1.1は最も高いDQ1を有することが観察される。EX1.1のDQ1がEX2に比べて高いのは、LCO粒子にAlとMgが存在していることと関連している。
【0076】
図3には、第1の交点(IS1)と第2の交点(IS2)という2つの交点が表示されている。IS1はEX1.1とEX2の低下傾向ラインの交点、IS2はCEX1.2とEX2の低下傾向ラインの交点である。
【0077】
19サイクル後(DQ19は198.6mAh/gの容量に相当)、EX2の放電容量はEX1.1より高くなっている。同様に、CEX1.2のDQ1はEX2より高い。しかし、CEX1.2の容量低下率は悪化している。IS2で12サイクル後、EX1.1の放電容量をEX2が上回っている。
【表2】
【0078】
実施例及び比較例の組成及び電気化学的特性の概要を表2に示す。S/Naの比率とLiNaSO4量は、ICP分析から算出した。この表に、EX1.1はCEX1.1及びCEX1.2に比べてサイクル安定性が良好であることが示されている。また、EX1.1はCEX1.1及びCEX1.2と比較して、DQ1及びDQ25が高い。より高い初回放電容量とより良好なサイクル安定性は、EX1.1の適切な量のLiNaSO4二次相が存在することに関連している。したがって、EX2もQFが低く、DQ1とDQ25が高く、良好なサイクル安定性を示しており、LiNaSO4二次相が容量を犠牲にすることなく、容量低下率を低くするために有益であると結論付けられる。LiNaSO4化合物を形成するためには、S/Na原子比が1前後であることが好ましい。
【0079】
CEX3.1及びCEX3.2は、従来技術の国際公開第2018/162165号に従って調製される。1.26重量%のLiNaSO4を含むCEX3.1は、204.6mAh/gのDQ1と0.69%/サイクルのQFを示す。このことから、本発明の方法で算出したLiNaSO4量が1.1重量%を超えると、本発明の目的、すなわちDQ1が210mAh/g超、QFが0.60%/サイクル未満を達成するのに適していないことが示される。CEX3.1を水で洗浄して得られるCEX3.2は、0.05重量%のLiNaSO4を含み、サイクル寿命が短くなっている。
【0080】
図4は、実施例と比較例のS/Na比とLiNaSO
4含有量をマッピングしたものである。EX1.1、EX1.2、及びEX2が範囲内に位置する斜線枠は、本発明による特許請求された範囲を示す。
【0081】
図5は、実施例と比較例の電気化学的特性DQ1、QFをマッピングしたもので、EX1.1、EX1.2、EX2は、比較例と比較して優れた電気化学的特性を示している。EX1.1、EX1.2、EX2は、リチウムイオン二次電池用LCOカソード活物質粉末を提供するという本発明の目的を満たしており、本発明の分析方法によって得られた、少なくとも210mAh/gの改善されたDQ1及び最大0.6%/サイクルの改善されたQFを引き続き有する。