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特許7442878新規結晶構造を備える複合酸化物と、この複合酸化物を固体電解質とする全固体リチウムイオン二次電池
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  • 特許-新規結晶構造を備える複合酸化物と、この複合酸化物を固体電解質とする全固体リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】新規結晶構造を備える複合酸化物と、この複合酸化物を固体電解質とする全固体リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/22 20060101AFI20240227BHJP
   C30B 13/00 20060101ALI20240227BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20240227BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240227BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240227BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240227BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C30B29/22 Z
C30B13/00
C01G25/00
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/08
H01B1/06 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022555299
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2021031700
(87)【国際公開番号】W WO2022074959
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2020171286
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】片岡 邦光
(72)【発明者】
【氏名】秋本 順二
(72)【発明者】
【氏名】若原 園子
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106145931(CN,A)
【文献】国際公開第2019/194290(WO,A1)
【文献】特開2012-099287(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017769(WO,A1)
【文献】PANTYUKHINA,M.I. et al.,Ionic Conductivity of Li8-2xSrZrO6,INORGANIC MATERIALS,2012年,Vol.48, No.4,p.382-385
【文献】片岡邦光 他,単結晶固体電解質を利用した小型全固体リチウム二次電池の開発-酸化物系全固体リチウム二次電池の実現を目,Synthesiology,2019年,Vol.12, No.1,p.28-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/22
C30B 13/00
C01G 25/00
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01B 1/08
H01B 1/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成がLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)で表され、単斜晶系で空間群P2/nに属する複合酸化物。
【請求項2】
請求項1において、
リチウムイオン伝導率が6.0×10-4S/cm以上である複合酸化物。
【請求項3】
請求項1または2において、
活性化エネルギーが0.20eV以上0.30eV以下である複合酸化物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、
格子定数aが0.57nm±0.02nm、bが0.62nm±0.02nm、cが0.84nm±0.02nm、β角が97.0°±0.2°である複合酸化物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかにおいて、
結晶構造内の2種類の4e席をリチウムイオンが占有し、1つの4e席をストロンチウムが占有、またはストロンチウムとランタンが固溶占有しており、2c席をジルコニウムが占有し、3種類の4e席を酸素が占有していている複合酸化物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかにおいて、
相対密度が100%である複合酸化物。
【請求項7】
化学組成がLi(4-x)ySr(2-x)zLaZrO(0≦x≦1.0、1<y、1<z)で表される原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成し、移動速度8mm/h以上で前記溶融部を移動して、化学組成がLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)で表され、相対密度が99%以上で、単斜晶系で空間群P2/nに属する複合酸化物を製造する複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記移動速度が8mm/h以上19mm/h以下である複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記原料が棒形状を備え、
回転速度20rpm以上で前記原料の長手方向と垂直な面で前記原料を回転させながら、前記原料を溶融して複合酸化物を育成する複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記回転速度が20rpm以上60rpm以下である複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
正極と、負極と、固体電解質とを有する全固体リチウムイオン二次電池であって、
前記固体電解質が請求項1から6のいずれかの複合酸化物から構成される全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、密度およびイオン伝導率が高い結晶構造を有する複合酸化物と、この複合酸化物の製造方法と、この複合酸化物を固体電解質材料として用いた全固体リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ニッカド電池およびニッケル水素電池などの二次電池と比較してエネルギー密度が高く、高電位で作動させることができる。このため、リチウムイオン二次電池は、携帯電話またはノートパソコンなどの小型情報機器に広く用いられている。また、リチウムイオン二次電池は、小型軽量化が図りやすいため、ハイブリット自動車用または電気自動車用の二次電池として需要が高まっている。
【0003】
さらに、安全性を考慮して、可燃性の電解液を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の研究開発が行われている。全固体リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質には、高いリチウムイオン伝導率が要求される。高いリチウムイオン導電率を有する酸化物系材料として、立方晶ガーネット型構造の材料が報告され(特許文献1)、この材料の研究開発が進められている。特に、化学組成Li7-xLaZr2-xTa12を有する材料は、x=0.5付近で高いイオン伝導率を有する。
【0004】
この立方晶ガーネット型構造を有する材料は、難焼結性であり、高密度の成型体の作製が困難であることが知られている。また、この立方晶ガーネット型構造を有する固体電解質は、室温で高いイオン伝導率を有するものの、活性化エネルギーが0.45ev付近であり、低温でイオン伝導率が低下する。高いイオン伝導率の実現には、粒界抵抗および界面抵抗を低減させる必要があるため、高密度な成型体である固体材料、特に単結晶材料が固体電解質として望ましい。単結晶材料は、粒界の影響を受けないため、高いリチウムイオン導電性が期待される。また、単結晶材料は、充放電過程で正負極間での短絡が防止でき、薄片化が可能であるため、全固体リチウムイオン二次電池の将来的な小型化に可能性を与える。
【0005】
これらの課題を踏まえ、溶融法を利用して、ガーネット型構造を有するLi7-xLaZr2-xTa12またはLi7-xLaZr2-xNb12の単結晶を育成する報告があった(特許文献2および特許文献3)。また、高いリチウムイオン導電率を示す他の酸化物系材料として、ペロブスカイト型構造を有する材料(非特許文献1)、またはポリアニオン系でナシコン型構造を有する材料(非特許文献2)が報告されている。このように、高いリチウムイオン導電性を有する立方晶ガーネット型固体電解質、ペロブスカイト型固体電解質、およびナシコン型固体電解質については多くの報告例があるが、その他の構造を有する材料については報告例が少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-195373号公報
【文献】国際公開第2016/068040号
【文献】国際公開第2017/130622号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Solid state communucasions、86、p.689-693、2018
【文献】Applied materials and interfaces、10、p.10935-10944、2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願は、このような事情に鑑みてなされたものであり、密度およびリチウムイオン伝導率が高く、活性化エネルギーが低い新規固体電解質を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、Li(4-x)ySr(2-x)zLaZrO(0≦x≦1.0、y=1.2、z=1.2)となるように配合された混合原料を棒形状に成形した後、赤外集光加熱を用いたFZ法でこの成形体を溶融および急冷することで、Li4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)で表される高密度の複合酸化物単結晶のロッドが作製できることを見出した。すなわち、立方晶ガーネット型構造、ペロブスカイト型構造、およびナシコン型構造とは異なり、類縁結晶構造も報告されていない新規結晶構造を有する固体電解質の単結晶の育成に成功した。
【0010】
シリコン単結晶は、ワイヤソーを利用して研磨することで薄膜化できる。本願の高密度の複合酸化物単結晶のロッドも高強度である。このため、本願の高密度の複合酸化物単結晶は、ダイヤモンドカッターなどで容易に切断することができる。本願発明者は、Li4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)で表される複合酸化物単結晶の厚さ0.1mm程度の薄片が作製できることを併せて見出した。この複合酸化物単結晶は、厚さ0.03mm程度まで薄膜化が可能である。
【0011】
本願の複合酸化物は、化学組成がLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)で表され、単斜晶系で空間群P2/nに属する。
【0012】
本願の複合酸化物の製造方法は、化学組成がLi(4-x)ySr(2-x)zLaZrO(0≦x≦1.0、1<y、1<z)で表される原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成し、移動速度8mm/h以上で溶融部を移動して、化学組成がLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)で表され、相対密度が99%以上で、単斜晶系で空間群P2/nに属する複合酸化物を製造する。
【0013】
本願の全固体リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、固体電解質とを有し、固体電解質が本願の複合酸化物から構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本願によれば、密度とイオン伝導率が高く、活性化エネルギーが低いLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の複合酸化物と、この複合酸化物を固体電解質材料として用いた全固体リチウムイオン二次電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で得られたLi3.957Sr1.957La0.043ZrO単結晶の外観写真。
図2】実施例1で得られたLi3.957Sr1.957La0.043ZrO単結晶の単結晶X線回折パターン。
図3】実施例1で得られたLi3.957Sr1.957La0.043ZrO単結晶のエネルギー分散型X線分光スペクトル。
図4】実施例1で得られたLi3.957Sr1.957La0.043ZrO単結晶の結晶構造を示す模式図。
図5】実施例1で得られたLi3.957Sr1.957La0.043ZrO単結晶の交流インピーダンス法によるナイキストプロット。
図6】実施例1で得られたLi3.957Sr1.957La0.043ZrO単結晶の交流インピーダンス法により得られたリチウムイオン導電率と温度の関係を示すグラフ。
図7】実施例1で作製した全固体リチウムイオン二次電池の分解模式図。
図8】実施例2で得られたLiSrZrO単結晶の外観写真。
図9】実施例2で得られたLiSrZrO単結晶の単結晶X線回折パターン。
図10】実施例3で得られたLiSrLaZrO単結晶の外観写真。
図11】実施例3で得られたLiSrLaZrO単結晶の単結晶X線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明者らは、目的の複合酸化物の組成比よりリチウムとストロンチウムを過剰に含む混合原料を溶融および冷却する方法について鋭意検討した。その結果、この方法によって、単斜晶系に属するLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の複合酸化物単結晶が作製できることを、本願発明者らは見出した。また、この単結晶が機械的に薄片化できることを確認して、本願発明者らは本願で開示される発明を完成させた。本願の実施形態の複合酸化物は、化学組成がLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)で表され、単斜晶系で空間群P2/nに属する。
【0017】
単斜晶系に属し、これまでに類縁結晶構造が報告されていない結晶構造を有する本実施形態の高密度の単結晶は、試料棒を20rpm未満で回転させ、移動速度2mm/h程度で試料棒の溶融部を下降させる通常のFZ法では作製できない。Li4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)に空隙が入るからである。回転速度20rpm以上で棒形状の混合原料を回転させながら、移動速度8mm/h以上で混合原料の溶融部を下降させて、この溶融部を高速で冷却すると、空隙がない結晶が作製できる。
【0018】
得られた高密度のLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の複合酸化物のロッドは、ダイヤモンドカッターなどで任意の厚さに切断できる。また、本実施形態の複合酸化物原結晶は、高温でリチウムとストロンチウムが揮発することを考慮して、化学組成Li4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の各金属の化学量論比よりもリチウムとストロンチウムを増量した混合原料を溶融することによって製造できる。
【0019】
本実施形態の複合酸化物は、相対密度が99%以上であることが好ましく、100%であることが特に好ましい。相対密度は、作製した薄片の外形を測定して、見かけの体積を算出し、測定質量から計算した見かけの密度を、単結晶X線構造解析結果から得られる真密度で割ることによって算出する。本実施形態の複合酸化物は、高密度であるため、ダイヤモンドカッターなどで任意の厚さに容易に切断できる。
【0020】
また、本実施形態の複合酸化物は、イオン伝導率が高く(例えば6.0×10-4S/cm以上)、活性化エネルギーが低い(例えば0.20eV以上0.30eV以下)の固体電解質材料として利用できる。具体的には、Li3.957Sr1.957La0.043ZrOは、リチウムイオン伝導率6.0×10-4S/cm以上、活性化エネルギー0.24eVの固体電解質材料として利用できる。
【0021】
本実施形態の複合酸化物は、化学組成がLi(4-x)ySr(2-x)zLaZrO(0≦x≦1.0、1<y、1<z)で表される原料の少なくとも一部を溶融して溶融部を形成し、移動速度8mm/h以上で溶融部を移動して製造される。具体的には、FZ法、チョクラルスキー(Czochralski:Cz)法、ブリッジマン法、またはペデスタル法などによって、本実施形態の複合酸化物単結晶が育成される。製造したい複合酸化物の結晶の大きさおよび形状等に応じて、これらの中から適切な製法を選択すればよい。
【0022】
FZ法またはCz法によって、相対密度が100%であるLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の複合酸化物の結晶、すなわち本来のLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の複合酸化物の単結晶が製造できる。相対密度が100%であるLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の複合酸化物の単結晶は、リチウムイオン伝導性が高く、活性化エネルギーが低い特徴を持つ。FZ法によって本実施形態の複合酸化物を製造する場合、回転速度20rpm以上で棒形状の原料の長手方向と垂直な面で回転させながら原料を溶融し、溶融部を長手方向に移動することによって結晶を育成する。
【0023】
溶融部の移動速度を8mm/h以上と速くすることによって、リチウム揮発に伴う原料の分解が避けられる。この溶融部の移動速度は8mm/h以上19mm/h以下であることが好ましい。また、溶融部ではリチウムが揮発しようとして気泡が発生するが、棒形状の原料の回転速度を20rpm以上と速くすることによって、気泡を取り除くことができる。原料の回転速度は20rpm以上60rpm以下であることが好ましい。また、原料の溶融および溶融部の移動は乾燥空気雰囲気で行うことが好ましい。こうして、相対密度99%以上であるLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の結晶が製造できる。
【0024】
相対密度99%以上で単斜晶系に属し、これまでに類縁結晶構造を含めて報告がないLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の結晶の育成を例に、本実施形態の複合酸化物の製造方法をより具体的に説明する。まず、棒形状の原料を以下のようにして作製する。はじめに、高温でリチウム塩とストロンチウム塩が揮発することを考慮して、リチウム化合物、ストロンチウム化合物、ランタン化合物、およびジルコニウム化合物をLi:Sr:La:Zrが(4-x)y:(2-x)z:x:1(0≦x≦1.0、1<y、1<z)の化学量論比(いわゆるモル比)となるように秤量する。yおよびzは、1.1以上であることが好ましく、1.15以上1.25以下であることがより好ましい。
【0025】
リチウム化合物としては、リチウムを含有するものであれば特に制限されず、LiOなどの酸化物およびLiCOなどの炭酸塩などが挙げられる。ストロンチウム化合物としては、ストロンチウムを含有するものであれば特に制限されず、SrOなどの酸化物、SrCOなどの炭酸塩、およびSrClなどの塩化物が挙げられる。ランタン化合物としては、ランタンを含有するものであれば特に制限されず、Laなどの酸化物およびLa(OH)などの水酸化物などが挙げられる。ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムを含有するものであれば特に制限されず、ZrOなどの酸化物およびZrClなどの塩化物などが挙げられる。
【0026】
また、リチウム、ストロンチウム、ランタン、およびジルコニウムの中から選択される二種類以上からなる化合物を用いて、Li:Sr:La:Zrが(4-x)y:(2-x)z:x:1(0≦x≦1.0、1<y、1<z)のモル比となるように秤量してもよい。このような二種類以上からなる化合物として、LiZrOなどのリチウムジルコニウム酸化物およびSrZrOなどのストロンチウムジルコニウム酸化物などが挙げられる。
【0027】
つぎに、秤量した各化合物を混合する。混合方法は、これらの各化合物を均一に混合できれば特に制限されず、例えばミキサー等の混合機を用いて湿式または乾式で混合すればよい。そして、得られた混合物をふた付きルツボに充填した後、600℃~900℃、好ましくは650℃で仮焼成し、ラバーチューブなどに充填して棒状にした後、静水圧プレスを行い成型することで原料となる粉末が得られる。なお、一度仮焼成した原料を、再度、粉砕、混合し、焼成することを繰り返すとさらに好ましい。
【0028】
つぎに、成型しやすくするために、得られた原料粉末を粉砕して粒子サイズを細かくする。粉砕方法は、粉末が微細化できる限り特に限定されず、例えば、遊星型ボールミル、ポットミル、ビーズミル等の粉砕装置を用いて湿式または乾式で粉砕すればよい。そして、得られた粉砕物をラバーチューブに充填した後、静水圧プレスを行って棒状に成型する。つぎに、得られた棒状の成型体を600℃~850℃程度、好ましくは700℃~850℃で4時間程度焼成して棒形状の原料が得られる。この時点では、原料の化学組成はLi(4-x)ySr(2-x)zLaZrO(0≦x≦1.0、1<y、1<z)である。
【0029】
そして、この棒形状の原料を赤外線集光加熱炉で溶融させた後に急冷することによって、相対密度99%以上で単斜晶系に属し、類縁結晶構造も知られてないLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)が製造される。この製法により、長さ2cm以上のLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の単結晶が得られる。このため、同一品質を有する薄片が切断によって容易に作製できる。
【0030】
CZ法によって高密度のLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の単結晶を製造する場合は、以下の手順で行う。まず、原料をルツボに入れて加熱し溶融する。つぎに、種結晶を原料の融液につけて回転しながら引き上げる。溶融部の移動速度、すなわち種結晶の引き上げ速度を8mm/h以上と速くすることによって、リチウムとストロンチウムの揮発が抑えられ、高密度のLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)結晶が得られると考えられる。
【0031】
また、本実施形態の高密度のLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の複合酸化物は、リチウムイオン伝導性に優れているため、全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質に使用できる。すなわち、本願の実施形態の全固体リチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、固体電解質とを有し、固体電解質が本実施形態の複合酸化物から構成されている。以下、実施例によって本願で開示される発明をさらに具体的に説明する。本願で開示される発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。
【0032】
<実施例1>
(Li4.7484Sr2.3484La0.043ZrOの粉末混合原料の作製)
炭酸リチウムLiCO(レアメタリック製、純度99.99%(以下同じ))13.4461g、炭酸ストロンチウムSrCO(レアメタリック製、純度99.99%(以下同じ))26.5725g、酸化ランタンLa(レアメタリック製、純度99.99%(以下同じ))0.5369g、および酸化ジルコニウムZrO(レアメタリック製、純度99.99%(以下同じ))9.4445gをメノウ製乳鉢に入れて、エタノールを使用した湿式法によって均一に混合した。なお、酸化ランタンは、あらかじめ900℃で仮焼成したものを使用した。
【0033】
この混合物の金属のモル比Li:Sr:La:Zrは、目的物であるLi3.957Sr1.957La0.043ZrO(Li4-xSr(2-x)LaZrOでx=0.043)のモル比よりも、リチウムが20mol%、ストロンチウムが20mol%過剰である。すなわち、この混合物は、化学組成がLi4.7484Sr2.3484La0.043ZrO(Li(4-x)ySr(2-x)zLaZrOでx=0.043、y=1.2、z=1.2)に相当する。
【0034】
ふた付きのアルミナるつぼ(ニッカトー製、C3型)にこの混合物50.000gを充填した。これをボックス型電気炉(ヤマト科学製、FP100型)に入れて、650℃で6時間仮焼成して粉末を得た。得られた粉末50gと、直径5mmのジルコニアボール300gと、イソプロパノール100gを容量250mLのジルコニア製粉砕容器に充填し、遊星型ボールミル(ドイツ・フリッチュ製、型式P-6)を用いて、公転回転数200rpmで合計300分間回転させて、この粉末を粉砕した。粉砕後の粉末を100℃で24時間乾燥させ、250μm目開きのふるいを用いて分級して粉末混合原料を得た。
【0035】
(棒形状の原料の作製)
上記で得られた粉末混合原料を用いて、以下の手順で棒形状の原料を作製した。ゴム製の型にこの粉末混合原料15.127gを充填して脱気した。この型を密閉した状態で水中に入れて、40MPaで5分間維持した。水の圧力を下げた後、成形体を型から取り出した。成形体は、直径1.1cm、高さ8.0cmの円柱形状をしていた。箱型電気炉(デンケン製、型番KDF009)を用いて、この円柱状の成形体を850℃で4時間焼成した。取り出した成形体、すなわち棒形状の原料は、直径1.0cm、高さ7.7cmの円柱形状をしていた。
【0036】
(Li3.957Sr1.957La0.043ZrOの結晶の育成)
1kWのハロゲンランプを装備した四楕円型赤外線集光加熱炉(FZ炉)(Crystal System社製、FZ-T-10000H型)に、上記で得られた棒形状の原料を設置して、乾燥空気雰囲気にした。長手方向と垂直な面で、棒形状の原料を40rpmで回転させながら、出力21.3%で加熱した。しばらくすると、多結晶試料であるこの棒形状の原料の一部が溶融して溶融部を形成した。この棒形状の原料の設置台を10mm/hの移動速度で下降させて、高密度のLi3.957Sr1.957La0.043ZrOの複合酸化物(以下「試料1」と記載することがある)を育成した。なお、試料1の化学組成は単結晶X線結晶構造解析によって分析した。試料1の外観を図1に示す。図1に示すように、長さ7cmの高密度のLi3.957Sr1.957La0.043ZrOの結晶が作製できた。
【0037】
(Li3.957Sr1.957La0.043ZrOの結晶の評価)
二次元IP検出器を有する単結晶X線回折装置(リガク社製、R-AXIS RAPID-II)を用いて、試料1の構造を調べた。試料1のX線回折パターンを図2に示す。図2に示すように、明瞭な回折点が測定できた。回折点から最小二乗法により格子定数を算出すると、格子定数aが0.57506nm±0.00014nm、bが0.62968nm±0.00018nm、cが0.84906nm±0.00026nm、β角が97.048°±0.012°であった。
【0038】
試料1の回折強度データを収集し、チャージフリッピング法を備えたプログラムスーパーフリップで初期結晶構造のモデルを構築して結晶構造解析プログラムJana2006によって結晶構造を調べたところ、試料1は単斜晶系に属することがわかった。試料1をダイヤモンドカッターで切断して、厚さ0.1mmの薄片を4枚作製し、上述の方法でこれらの相対密度を算出した。その結果、これらの相対密度はそれぞれ99.5%、99.8%、99.9%、100%であった。このように、相対密度99.5%以上の複合酸化物が得られた。
【0039】
走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分光装置(日本電子製、JCM-6000)によって、試料1のエネルギー分散型X線分光測定を行った。その結果、図3に示すようなスペクトルデータが取得でき、単結晶に含まれている元素はSr、La、Zr、Oであることがわかった。炭素のスペクトルは、試料を貼り付けるための導電性テープの影響である。また、単結晶を利用した誘導結合プラズマ質量分析装置(Thermo Fisher SCIENTIFIC製、iCAP Qs)を用いて化学組成を分析した。その結果、試料1のモル比Li:Sr:La:Zrは3.96:1.96:0.04:1であった。
【0040】
図4は試料1の構造を模式的に示している。試料1は、これまでに類縁結晶構造も報告されていない結晶構造を有していた。Li3.957Sr1.957La0.043ZrOは、空間群P2/nに属し、結晶構造内の2種類の4e席をリチウムイオンが占有し、1つの4e席をストロンチウムとランタンが固溶占有し、2c席をジルコニウムが占有し、3種類の4e席を酸素が占有していた。この結晶構造解析の信頼度を示すR因子は1.78%であったため、結晶構造解析結果は妥当であると言える。
【0041】
また、この複合酸化物の結晶構造のリチウムイオンの配列は、三次元的なリチウムパスを有しており、特に一次元方向はリチウムイオン同士の距離が近く適度にリチウムイオン席が欠損している。このため、試料1は高いリチウムイオン伝導性を有しており、固体電解質材料に適用できると考えられる。試料1を切断して、直径約0.50cm、厚さ約0.10cmの薄片を作製した。この薄片の表側と裏側に、底面が一辺0.40cmの円形で、厚さが40nmの円柱形状を備える金をスパッタリングして電極を形成した。
【0042】
窒素雰囲気中25℃で、交流インピーダンス法(測定装置:Solarton、1260)により、この試料のリチウムイオン伝導率を測定したところ、図5に示すナイキストプロットが得られた。この試料のリチウムイオン伝導率は、トータルの抵抗値から算出すると、6.8×10-4S/cmであった。また、-20℃~40℃の温度範囲で、試料1のリチウムイオン導電率を測定した。アレニウス式に当てはめると、活性化エネルギーは0.24eVであった。図6に試料1のリチウムイオン導電率の温度変化を示す。-20℃では、試料1のリチウムイオン導電率(1.3×10-4S/cm)は、立方晶ガーネット型構造を有する固体電解質のリチウムイオン導電率(6.2×10-5S/cm)よりも高かった。
【0043】
(全固体リチウムイオン二次電池の作製)
酢酸リチウム2水和物(シグマアルドリッチ製)0.0105molと酢酸コバルト4水和物(和光純薬工業製)0.01molを、エチレングリコール(和光純薬工業製)100gに溶解した。これにポリビニルピロリドンK-30(和光純薬工業製)10gを加えて溶解させることで、0.1mol/kgのコバルト酸リチウム前駆体溶液を調製した。酢酸コバルト量よりも酢酸リチウム量をモル比で5%多くしたのは、焼成時のリチウム蒸発分を加味したためである。
【0044】
試料1を切断して、直径約0.6cm、厚さ約0.10cmの薄片を作製した。この薄片の片面に上記の前駆体溶液を10μL滴下して、400℃で20分間仮焼成を行った。その後、850℃で10分間焼成して、試料1の片面にコバルト酸リチウムの正極を形成した試料(以下「試料2」と記載することがある)を作製した。グローブボックス中で、市販の電池評価用HSセル(宝泉株式会社製)に、試料2と直径4mmに打ち抜いた金属リチウム板を入れ、図7に示すような全固体リチウムイオン二次電池を作製した。この全固体リチウムイオン二次電池は、開回路電圧2.7Vを示したことより、電池として機能していることが確認された。
【0045】
<実施例2>
(LiSrZrOの粉末混合原料の作製)
炭酸リチウムLiCO14.1793g、炭酸ストロンチウムSrCO25.9684g、および酸化ジルコニウムZrO9.8524gを用いた点を除いて、実施例1と同様にして粉末混合原料を得た。この粉末混合原料の金属のモル比Li:Sr:Zrは、目的物であるLiSrZrOのモル比よりも、リチウムが20mol%、ストロンチウムが20mol%過剰である。すなわち、この粉末混合原料は、化学組成がLi4.4Sr2.2ZrO(Li(4-x)ySr(2-x)zLaZrOでx=0、y=1.2、z=1.2)に相当する。
【0046】
(棒形状の原料の作製)
上記で得られた粉末混合原料14.111gを用いた点を除いて、実施例1と同様にして成形体を得た。この成形体は、直径1.2cm、高さ6.0cmの円柱形状をしていた。その後、実施例1と同じ条件で焼成して棒形状の原料を得た。得られた棒形状の原料は、直径1.1cm、高さ5.3cmの円柱形状をしていた。
【0047】
(LiSrZrOの結晶の育成)
出力19.8%で加熱した点を除いて、実施例1と同様にして、高密度のLiSrZrOの複合酸化物(以下「試料3」と記載することがある)を育成し、化学組成を分析した。試料3の外観を図8に示す。図8に示すように、長さ5cmの高密度のLi4ySr2zZrOの結晶が作製できた。
【0048】
(LiSrZrOの結晶の評価)
実施例1と同様にして試料3の構造を調べた。試料3のX線回折パターンを図9に示す。図9に示すように、明瞭な回折点が測定できた。回折点から最小二乗法により格子定数を算出すると、格子定数aが0.573063nm±0.000024nm、bが0.609683nm±0.000025nm、cが0.847059nm±0.000034nm、β角が97.16628°±0.0129°であった。
【0049】
実施例1と同様にして試料3の結晶構造を調べたところ、試料3は単斜晶系に属することがわかった。さらに、実施例1と同様にして、厚さ0.1mmの試料3の薄片を4枚作製し、相対密度を算出した。その結果、これらの相対密度はそれぞれ99.8%、99.7%、99.9%、100%であった。このように、相対密度99.5%以上の複合酸化物が得られた。
【0050】
試料3は、これまでに類縁結晶構造も報告されていない図4に示す結晶構造を有していた。LiSrZrOは、空間群P2/nに属し、結晶構造内の2種類の4e席をリチウムイオンが占有し、1つの4e席をストロンチウムが占有し、2c席をジルコニウムが占有し、3種類の4e席を酸素が占有していた。この結晶構造解析の信頼度を示すR因子は3.72%であったため、結晶構造解析結果は妥当であると言える。
【0051】
<実施例3>
(LiSrLaZrOの粉末混合原料の作製)
炭酸リチウムLiCO11.1527g、炭酸ストロンチウムSrCO14.8549g、酸化ランタンLa13.6599g、および酸化ジルコニウムZrO10.3325gを用いた点を除いて、実施例1と同様にして粉末混合原料を得た。この粉末混合原料の金属のモル比Li:Sr:La:Zrは、目的物であるLiSrLaZrOのモル比よりも、リチウムが20mol%、ストロンチウムが20mol%過剰である。すなわち、この粉末混合原料は、化学組成がLi4.4Sr2.2ZrO(Li(4-x)ySr(2-x)zLaZrOでx=1、y=1.2、z=1.2)に相当する。
【0052】
(棒形状の原料の作製)
上記で得られた粉末混合原料18.427gを用いた点を除いて、実施例1と同様にして成形体を得た。この成形体は、直径1.1cm、高さ8.0cmの円柱形状をしていた。その後、実施例1と同じ条件で焼成して棒形状の原料を得た。得られた棒形状の原料は、直径1.0cm、高さ8.0cmの円柱形状をしていた。
【0053】
(LiSrLaZrOの結晶の育成)
実施例1と同様にして、高密度のLiSrLaZrOの複合酸化物(以下「試料4」と記載することがある)を育成し、化学組成を分析した。試料4の外観を図10に示す。図10に示すように、長さ6cmの高密度のLiSrLaZrOの結晶が作製できた。
【0054】
(LiSrLaZrOの結晶の評価)
実施例1と同様にして試料4の構造を調べた。試料4のX線回折パターンを図11に示す。図11に示すように、明瞭な回折点が測定できた。回折点から最小二乗法により格子定数を算出すると、格子定数aが0.585780nm±0.000220nm、bが0.639450nm±0.00250nm、cが0.85860nm±0.000300nm、β角が96.84870°±0.01210°であった。
【0055】
実施例1と同様にして試料4の結晶構造を調べたところ、試料4は単斜晶系に属することがわかった。さらに、実施例1と同様にして、厚さ0.1mmの試料4の薄片を4枚作製し、相対密度を算出した。その結果、これらの相対密度はそれぞれ99.9%、99.9%、100%、99.7%であった。このように、相対密度99.5%以上の複合酸化物が得られた。
【0056】
試料4は、これまでに類縁結晶構造も報告されていない図4に示す結晶構造を有していた。LiSrLaZrOは、空間群P2/nに属し、結晶構造内の2種類の4e席をリチウムイオンが占有し、1つの4e席をストロンチウムが占有し、2c席をジルコニウムが占有し、3種類の4e席を酸素が占有していた。この結晶構造解析の信頼度を示すR因子は3.12%であったため、結晶構造解析結果は妥当であると言える。
【0057】
実施例1から実施例3の結果を合わせると、Li4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の格子定数は、aが0.57nm±0.02nm、bが0.62nm±0.02nm、cが0.84nm±0.02nm、β角が97.0°±0.2°であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本願の高密度のLi4-xSr2-xLaZrO(0≦x≦1.0)の複合酸化物は、全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質材料などに利用できる。
図1
図2
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図4
図5
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図7
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図9
図10
図11