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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】レーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240227BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240227BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20240227BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240227BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
B23K26/03
B23K26/00 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019235949
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021106186
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】平田 和也
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133484(JP,A)
【文献】特表2019-500220(JP,A)
【文献】特開昭62-096400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
B23K 26/03
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCインゴットに剥離帯を形成するレーザー加工装置であって、
SiCインゴットを保持する保持手段と、
該保持手段に保持されたSiCインゴットの端面に対してc面が傾きSiCインゴットの端面とc面とでオフ角が形成される方向に直交する方向をX軸方向とし該X軸方向に直交する方向をY軸方向として、生成すべきウエーハの厚みに対応する深さにSiCインゴットに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を位置づけてSiCインゴットにレーザー光線を照射する集光器を備え、SiCがSiとCとに分離した部分からc面に沿ってクラックが伸張した帯状の剥離帯を形成するレーザー光線照射手段と、
該保持手段と該集光器とを該X軸方向に相対的に加工送りするX軸送り手段と、
該保持手段と該集光器とを該Y軸方向に相対的に割り出し送りするY軸送り手段と、
SiCインゴットの端面の電気抵抗値を計測する抵抗値計測手段と、
該抵抗値計測手段を昇降させる昇降手段と、
該抵抗値計測手段が計測した電気抵抗値に対応してレーザー光線の出力を調整する制御手段と、
から少なくとも構成されるレーザー加工装置。
【請求項2】
該抵抗値計測手段は接触式である請求項1記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
SiCインゴットの端面を研削して平坦面に形成する研削手段を備える請求項1記載のレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI、LED等のデバイスは、Si(シリコン)やAl(サファイア)等を素材としたウエーハの表面に機能層が積層され分割予定ラインによって区画されて形成される。また、パワーデバイス、LED等はSiC(炭化ケイ素)を素材としたウエーハの表面に機能層が積層され分割予定ラインによって区画されて形成される。デバイスが形成されたウエーハは、切削装置、レーザー加工装置によって分割予定ラインに加工が施されて個々のデバイスチップに分割され、分割された各デバイスチップは携帯電話やパソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
デバイスが形成されるウエーハは、一般的に円柱形状のインゴットをワイヤーソーで薄く切断することにより生成される。切断されたウエーハの表面および裏面は、研磨することにより鏡面に仕上げられる(たとえば特許文献1参照)。しかし、インゴットをワイヤーソーで切断し、切断したウエーハの表面および裏面を研磨すると、インゴットの大部分(70~80%)が捨てられることになり不経済であるという問題がある。特にSiCインゴットにおいては、硬度が高くワイヤーソーでの切断が困難であり相当の時間を要するため生産性が悪いと共に、インゴットの単価が高く効率よくウエーハを生成することに課題を有している。
【0004】
そこで本出願人は、SiCに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点をSiCインゴットの内部に位置づけてSiCインゴットにレーザー光線を照射して切断予定面に剥離帯を形成し、剥離帯が形成された切断予定面に沿ってSiCインゴットからウエーハを剥離する技術を提案した(たとえば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-94221号公報
【文献】特開2016-111143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SiCインゴットの成長過程において窒素原子(N)のドーピング量がコントロールされており、SiCインゴットの電気抵抗値は許容値の範囲内に収められている。しかし、許容値の範囲内であってもSiCインゴットの電気抵抗値にはバラツキが存在する。そして、SiCインゴットにレーザー光線を照射して剥離帯を形成する際に、SiCインゴットの電気抵抗値のバラツキに起因して適正な剥離帯を形成することができないという問題がある。
【0007】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、SiCインゴットに適正な剥離帯を形成することができるレーザー加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために以下のレーザー加工装置を提供する。すなわち、
SiCインゴットに剥離帯を形成するレーザー加工装置であって、
SiCインゴットを保持する保持手段と、
該保持手段に保持されたSiCインゴットの端面に対してc面が傾きSiCインゴットの端面とc面とでオフ角が形成される方向に直交する方向をX軸方向とし該X軸方向に直交する方向をY軸方向として、生成すべきウエーハの厚みに対応する深さにSiCインゴットに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を位置づけてSiCインゴットにレーザー光線を照射する集光器を備え、SiCがSiとCとに分離した部分からc面に沿ってクラックが伸張した帯状の剥離帯を形成するレーザー光線照射手段と、
該保持手段と該集光器とを該X軸方向に相対的に加工送りするX軸送り手段と、
該保持手段と該集光器とを該Y軸方向に相対的に割り出し送りするY軸送り手段と、
SiCインゴットの端面の電気抵抗値を計測する抵抗値計測手段と、
該抵抗値計測手段を昇降させる昇降手段と、
該抵抗値計測手段が計測した電気抵抗値に対応してレーザー光線の出力を調整する制御手段と、
から少なくとも構成されるレーザー加工装置を本発明は提供する。
【0011】
該抵抗値計測手段は接触式であるのが好ましい。SiCインゴットの端面を研削して平坦面に形成する研削手段を備えるのが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレーザー加工装置は、
SiCインゴットを保持する保持手段と、
該保持手段に保持されたSiCインゴットの端面に対してc面が傾きSiCインゴットの端面とc面とでオフ角が形成される方向に直交する方向をX軸方向とし該X軸方向に直交する方向をY軸方向として、生成すべきウエーハの厚みに対応する深さにSiCインゴットに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を位置づけてSiCインゴットにレーザー光線を照射する集光器を備え、SiCがSiとCとに分離した部分からc面に沿ってクラックが伸張した帯状の剥離帯を形成するレーザー光線照射手段と、
該保持手段と該集光器とを該X軸方向に相対的に加工送りするX軸送り手段と、
該保持手段と該集光器とを該Y軸方向に相対的に割り出し送りするY軸送り手段と、
SiCインゴットの端面の電気抵抗値を計測する抵抗値計測手段と、
該抵抗値計測手段を昇降させる昇降手段と、
該抵抗値計測手段が計測した電気抵抗値に対応してレーザー光線の出力を調整する制御手段と、
から少なくとも構成されているので、SiCインゴットに適正な剥離帯を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
図2図1に示すレーザー加工装置の構成の一部を示すブロック図。
図3】SiCインゴットに適正な剥離帯を形成するための、SiCインゴットの電気抵抗率とレーザー光線のパルスエネルギーとの関係を示すグラフ。
図4】(a)SiCインゴットの正面図、(b)SiCインゴットの平面図。
図5】平坦面形成工程を実施している状態を示す斜視図。
図6】抵抗値計測工程を実施している状態を示す正面図。
図7】(a)剥離帯形成工程を実施している状態を示す斜視図、(b)剥離帯形成工程を実施している状態を示す断面図。
図8】剥離工程を実施している状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のレーザー加工装置の好適実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
まず、図1を参照して、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の好適実施形態について説明する。全体を符号2で示すレーザー加工装置は、SiCインゴットを保持する保持手段4と、生成すべきウエーハの厚みに対応する深さにSiCインゴットに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を位置づけてSiCインゴットにレーザー光線を照射する集光器6を備え、SiCがSi(シリコン)とC(炭素)とに分離した部分からc面に沿ってクラックが伸張した帯状の剥離帯を形成するレーザー光線照射手段8と、保持手段4と集光器6とをX軸方向に相対的に加工送りするX軸送り手段10と、保持手段4と集光器6とをY軸方向に相対的に割り出し送りするY軸送り手段12と、SiCインゴットの端面の電気抵抗値を計測する抵抗値計測手段14と、から少なくとも構成される。図示の実施形態のレーザー加工装置2は、さらに、抵抗値計測手段14が計測した電気抵抗値に対応してレーザー光線の出力を調整する制御手段16(図2参照)を備える。なお、X軸方向は図1に矢印Xで示す方向であり、Y軸方向は図1に矢印Yで示す方向であってX軸方向に直交する方向である。X軸方向およびY軸方向が規定する平面は実質上水平である。
【0017】
図1に示すとおり、保持手段4は、X軸方向に移動自在に基台18に搭載されたX軸可動板20と、Y軸方向に移動自在にX軸可動板20に搭載されたY軸可動板22と、Y軸可動板22の上面に回転自在に搭載された円形の保持テーブル24と、保持テーブル24を回転させる保持テーブル用モータ(図示していない。)とを含む。
【0018】
レーザー光線照射手段8は、基台18の上面から上方に延び次いで実質上水平に延びるハウジング26を含む。ハウジング26には、図2に示すとおり、SiCインゴットに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを発振する発振器28と、発振器28が発振したパルスレーザー光線LBの出力を調整するアッテネーター30と、アッテネーター30によって出力が調整されたパルスレーザー光線LBを反射して集光器6に導くミラー32とが内蔵されている。
【0019】
図1に示すとおり、レーザー光線照射手段8の集光器6はハウジング26の先端下面に装着されている。また、レーザー光線照射手段8は集光点位置調整手段(図示していない。)を含む。この集光点位置調整手段は、たとえば、集光器6に連結され上下方向に延びるボールねじと、このボールねじを回転させるモータとを有する構成でよく、発振器28が発振したパルスレーザー光線LBの集光点の上下方向位置を調整するようになっている。
【0020】
そして、集光器6は、保持手段4に保持されたSiCインゴットの端面に対してc面が傾きSiCインゴットの端面とc面とでオフ角が形成される方向に直交する方向をX軸方向としX軸方向に直交する方向をY軸方向として、生成すべきウエーハの厚みに対応する深さにSiCインゴットに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBの集光点を位置づけてSiCインゴットにパルスレーザー光線LBを照射するようになっている。
【0021】
図1に示すとおり、ハウジング26の先端下面には、保持手段4に保持されたSiCインゴットを撮像する撮像手段34が集光器6とX軸方向に間隔をおいて装着されている。また、ハウジング26の上面には、撮像手段34で撮像した画像を表示する表示手段36が配置されている。
【0022】
X軸送り手段10は、基台18の上面に沿ってX軸方向に延びるボールねじ38と、ボールねじ38を回転させるモータ40とを有する。ボールねじ38のナット部(図示していない。)はX軸可動板20に連結されている。そして、X軸送り手段10は、ボールねじ38によりモータ40の回転運動を直線運動に変換してX軸可動板20に伝達し、基台18上の案内レール18aに沿ってX軸可動板20を集光器6に対して相対的にX軸方向に加工送りする。
【0023】
Y軸送り手段12は、X軸可動板20の上面に沿ってY軸方向に延びるボールねじ42と、ボールねじ42を回転させるモータ44とを有する。ボールねじ42のナット部(図示していない。)はY軸可動板22に連結されている。そして、Y軸送り手段12は、ボールねじ42によりモータ44の回転運動を直線運動に変換してY軸可動板22に伝達し、X軸可動板20上の案内レール20aに沿ってY軸可動板22を集光器6に対して相対的にY軸方向に割り出し送りする。
【0024】
図1に示すとおり、抵抗値計測手段14は、撮像手段34とX軸方向に間隔をおいてハウジング26の先端下面に装着されている。抵抗値計測手段14としては、非接触式または接触式の公知の抵抗測定器(たとえば、ナプソン株式会社が販売している「CE-80P-PN渦電流抵抗測定器(非接触式))を用いることができる。抵抗値計測手段14で計測する値は電気抵抗(mΩ)でもよく、あるいは電気抵抗率(mΩ・cm)でもよい。なお、抵抗値計測手段14が接触式の場合には、抵抗値計測手段14を昇降させる昇降手段がハウジング26に付設される。
【0025】
コンピュータから構成されている制御手段16は、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)と、制御プログラム等を格納するリードオンリメモリ(ROM)と、演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)とを含む(いずれも図示していない。)。制御手段16のリードオンリメモリには、たとえば図3に示すようなSiCインゴットに適正な剥離帯を形成するための、SiCインゴットの電気抵抗率とレーザー光線のパルスエネルギーとの関係があらかじめ記憶されている。
【0026】
図3に示す関係について説明すると、たとえば、SiCインゴットの端面の電気抵抗率が22mΩ・cmである場合、SiCインゴットに照射するレーザー光線のパルスエネルギーが20μJであるとSiCインゴットに適正な剥離帯が形成される。しかしながら、電気抵抗率が22mΩ・cmである場合にパルスエネルギーが20μJよりも小さいと、剥離帯のクラックが十分成長せず、SiCインゴットからウエーハを適切に剥離することができないおそれがある。一方、電気抵抗率が22mΩ・cmである場合にパルスエネルギーが20μJよりも大きいと、剥離帯を起点としてSiCインゴットからウエーハを適切に剥離することができるものの、剥離帯のクラックが所要以上に成長し、SiCインゴットからウエーハを剥離した後にSiCインゴットの剥離面およびウエーハの剥離面を研削して平坦にする際の研削量が多くなり素材のロスが増大することになる。
【0027】
図3に示すようなSiCインゴットに適正な剥離帯を形成するための、SiCインゴットの電気抵抗率とレーザー光線のパルスエネルギーとの関係については、剥離帯を起点としてSiCインゴットからウエーハを適切に剥離することができると共に素材ロスが比較的少ない関係として、あらかじめ実施される実験の結果等に基づいて適宜設定される。
【0028】
図2に示すとおり、制御手段16は抵抗値計測手段14に電気的に接続されており、抵抗値計測手段14で計測した電気抵抗値に関する信号が抵抗値計測手段14から制御手段16に送られるようになっている。また、制御手段16はレーザー光線照射手段8のアッテネーター30にも電気的に接続されている。そして、制御手段16は、抵抗値計測手段14から送られた電気抵抗値に対応してアッテネーター30を制御することにより、SiCインゴットに適正な剥離帯を形成することができるようにパルスレーザー光線LBの出力を調整する。
【0029】
図1に示すとおり、図示の実施形態のレーザー加工装置2は、さらに、SiCインゴットから剥離帯を起点としてウエーハを剥離する剥離手段50と、SiCインゴットの端面を研削して平坦面に形成する研削手段52とを備える。
【0030】
剥離手段50は、基台18上の案内レール18aの終端部に配置されたケーシング54と、ケーシング54に昇降自在に支持された基端からX軸方向に延びるアーム56と、アーム56を昇降させるアーム昇降手段(図示していない。)とを含む。アーム昇降手段は、アーム56に連結され上下方向に延びるボールねじと、このボールねじを回転させるモータとを有する構成でよい。アーム56の先端にはモータ58が付設され、モータ58の下面には上下方向に延びる軸線を中心として回転自在に吸着片60が連結されている。吸着片60の下面には複数の吸引孔(図示していない。)が形成され、吸着片60は吸引手段(図示していない。)に接続されている。また、吸着片60には、吸着片60の下面に対して超音波振動を付与する超音波振動付与手段(図示していない。)が内蔵されている。
【0031】
研削手段52は、ハウジング26に接続された装着壁62と、装着壁62の片面に昇降自在に装着された昇降板64と、昇降板64を昇降させる昇降手段66とを含む。昇降手段66は、装着壁62の片面に沿って上下方向に延びるボールねじ68と、ボールねじ68を回転させるモータ70とを有する。ボールねじ68のナット部(図示していない。)は昇降板64に連結されている。そして、昇降手段66においては、ボールねじ68によりモータ70の回転運動を直線運動に変換して昇降板64に伝達し、装着壁62の片面に付設された案内レール62aに沿って昇降板64を昇降させるようになっている。
【0032】
昇降板64の片面にはY軸方向に突出する支持壁72が固定されている。支持壁72には、上下方向に延びる軸線を中心として回転自在にスピンドル74が支持され、支持壁72の上面には、スピンドル74を回転させるスピンドル用モータ76が搭載されている。図1と共に図5を参照して説明すると、スピンドル74の下端には円板状のホイールマウント78が固定され、ホイールマウント78の下面にはボルト80によって環状の研削ホイール82が固定されている。研削ホイール82の下面の外周縁部には、周方向に間隔をおいて環状に配置された複数の研削砥石84が固定されている。
【0033】
図4には、SiCから形成された円柱状のSiCインゴット86が示されている。SiCインゴット86は、円形状の第一の端面88と、第一の端面88と反対側の円形状の第二の端面90と、第一の端面88および第二の端面90の間に位置する周面92と、第一の端面88から第二の端面90に至るc軸(<0001>方向)と、c軸に直交するc面({0001}面)とを有する。
【0034】
SiCインゴット86においては、第一の端面88に対してc面が傾いており(第一の端面88の垂線94に対してc軸が傾いており)、第一の端面88とc面とでオフ角α(たとえばα=1、3、6度)が形成されている。オフ角αが形成される方向を図4に矢印Aで示す。また、SiCインゴット86の周面92には、いずれも結晶方位を示す矩形状の第一のオリエンテーションフラット96および第二のオリエンテーションフラット98が形成されている。第一のオリエンテーションフラット96は、オフ角αが形成される方向Aに平行であり、第二のオリエンテーションフラット98は、オフ角αが形成される方向Aに直交している。図4(b)に示すとおり、上方からみて、第二のオリエンテーションフラット98の長さL2は、第一のオリエンテーションフラット96の長さL1よりも短い(L2<L1)。
【0035】
次に、上述のレーザー加工装置2を用いたSiCインゴットの加工方法について説明する。図示の実施形態のSiCインゴットの加工方法では、まず、第二の端面90を下に向けて、適宜の接着剤(たとえばエポキシ樹脂系接着剤)を介してSiCインゴット86を保持テーブル24の上面に固定する。なお、保持テーブル24の上面に複数の吸引孔が形成され、保持テーブル24の上面に吸引力を生成してSiCインゴット86を吸引保持してもよい。
【0036】
SiCインゴット86を保持テーブル24に固定した後、SiCインゴット86の端面が既に平坦に形成されている場合を除き、SiCインゴット86の端面を研削して平坦面に形成する平坦面形成工程を実施する。
【0037】
平坦面形成工程では、まず、保持テーブル24を研削手段52の研削ホイール82の下方にX軸送り手段10で位置づける。次いで、図5に示すとおり、上方からみて反時計回りに所定の回転速度(たとえば300rpm)で保持テーブル用モータにより保持テーブル24を回転させる。また、上方からみて反時計回りに所定の回転速度(たとえば6000rpm)でスピンドル用モータ76によりスピンドル74を回転させる。次いで、昇降手段66でスピンドル74を下降させ、SiCインゴット86の第一の端面88に研削砥石84を接触させる。その後、所定の研削送り速度(たとえば0.1μm/s)でスピンドル74を下降させる。これによって、SiCインゴット86の第一の端面88を研削して、レーザー光線の入射を妨げない程度の平坦面に形成することができる。
【0038】
平坦面形成工程を実施した後、SiCインゴット86の第一の端面88の電気抵抗値を計測する抵抗値計測工程を実施する。抵抗値計測工程では、まず、保持テーブル24を抵抗値計測手段14の下方にX軸送り手段10で位置づけ、図6に示すとおり、SiCインゴット86の第一の端面88を抵抗値計測手段14に対面させる。次いで、SiCインゴット86の第一の端面88の電気抵抗値を抵抗値計測手段14で計測する。そして、抵抗値計測手段14で計測した電気抵抗値に関する信号が制御手段16に送られる。なお、抵抗値計測手段14が接触式の場合には、SiCインゴット86の第一の端面88を抵抗値計測手段14に対面させた後、抵抗値計測手段14を昇降手段により下降させてSiCインゴット86の第一の端面88に抵抗値計測手段14の計測プローブ(図示していない。)を接触させて、SiCインゴット86の第一の端面88の電気抵抗値を計測する。
【0039】
抵抗値計測工程を実施した後、抵抗値計測工程で計測した電気抵抗値に対応してレーザー光線LBの出力を調整するレーザー光線出力調整工程を実施する。レーザー光線出力調整工程では、SiCインゴット86の電気抵抗値とレーザー光線LBのパルスエネルギーとの関係(たとえば図3に示す関係)に基づき、抵抗値計測手段14から送られた電気抵抗値に対応してレーザー光線照射手段8のアッテネーター30を制御手段16により制御して、SiCインゴット86に照射するパルスレーザー光線LBの出力を調整する。
【0040】
レーザー光線出力調整工程を実施した後、SiCインゴット86の端面に対してc面が傾きSiCインゴット86の端面とc面とでオフ角αが形成される方向Aに直交する方向をX軸方向としX軸方向に直交する方向をY軸方向として、生成すべきウエーハの厚みに対応する深さにSiCインゴット86に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBの集光点を位置づけてSiCインゴット86にパルスレーザー光線LBを照射しながらSiCインゴット86と集光点とをX軸方向に相対的に加工送りしてSiCがSiとCとに分離した部分からc面に沿ってクラックが伸張した帯状の剥離帯を形成する剥離帯形成工程を実施する。
【0041】
剥離帯形成工程では、まず、SiCインゴット86の上方から撮像手段34によってSiCインゴット86を撮像する。次いで、撮像手段34で撮像したSiCインゴット86の画像に基づいて、X軸送り手段10、Y軸送り手段12および保持テーブル用モータで保持テーブル24を移動および回転させることにより、SiCインゴット86の向きを所定の向きに調整すると共にSiCインゴット86と集光器6とのXY平面における位置を調整する。SiCインゴット86の向きを所定の向きに調整する際は、図7(a)に示すとおり、第二のオリエンテーションフラット98をX軸方向に整合させることによって、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向をX軸方向に整合させると共に、オフ角αが形成される方向AをY軸方向に整合させる。
【0042】
次いで、集光点位置調整手段で集光器6を昇降させ、SiCインゴット86の第一の端面88から、生成すべきウエーハの厚みに対応する深さにパルスレーザー光線LBの集光点FP(図7(b)参照)を位置づける。次いで、オフ角αが形成される方向Aと直交する方向に整合しているX軸方向にX軸送り手段10で保持テーブル24を所定の加工送り速度で加工送りしながら、SiCインゴット86に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器6からSiCインゴット86に照射する。これによって、図7(b)に示すとおり、パルスレーザー光線LBの照射によりSiCがSiとCとに分離し次に照射されるパルスレーザー光線LBが前に形成されたCに吸収されて連鎖的にSiCがSiとCとに分離すると共に、SiCがSiとCとに分離した部分100からc面に沿ってクラック102が伸張した剥離帯104がX軸方向に沿って形成される。
【0043】
このような剥離帯形成工程は、たとえば以下の条件で行うことができる。なお、下記デフォーカスは、SiCインゴット86の上面にパルスレーザー光線LBの集光点FPを位置づけた状態からSiCインゴット86の上面に向かって集光器6を移動させたときの移動量である。
SiCインゴットの電気抵抗率 :16~22mΩ・cm
レーザー光線のパルスエネルギー :20~180μJ
波長 :1064nm
平均出力 :0.6~5.4W
繰り返し周波数 :30kHz
パルス幅 :3ns
加工送り速度 :165mm/s
デフォーカス :188μm
SiCインゴットの上面からの剥離帯の位置 :500μm
【0044】
次いで、SiCインゴット86と集光点FPとをY軸方向に相対的に割り出し送りして剥離帯104をY軸方向に並設させる割り出し送り工程を実施する。割り出し送り工程では、Y軸送り手段12で保持テーブル24を移動させることにより、オフ角αが形成される方向Aに整合しているY軸方向に、所定割り出し送り量Liだけ集光点FPに対して相対的にSiCインゴット86を割り出し送りする。
【0045】
そして、上述の剥離帯形成工程と割り出し送りとを交互に繰り返すことにより、図7に示すとおり、X軸方向に延びる剥離帯104をY軸方向に所定割り出し送り量Liの間隔をおいて並設させる。なお、割り出し送り量Liをクラック102の幅を超えない範囲とし、Y軸方向において隣接する剥離帯104のクラック102同士を上下方向にみて重複させることにより、下記剥離工程におけるウエーハの剥離が容易になる。
【0046】
SiCインゴット86の内部(生成すべきウエーハの厚みに対応する深さ)に複数の剥離帯104を形成した後、SiCインゴット86から剥離帯104を起点としてウエーハを剥離する剥離工程を実施する。
【0047】
剥離工程では、まず、剥離手段50の吸着片60の下方に保持テーブル24をX軸送り手段10で位置づける。次いで、アーム昇降手段でアーム56を下降させ、図8に示すとおり、吸着片60の下面をSiCインゴット86の第一の端面88に密着させる。次いで、吸引手段を作動させ、吸着片60の下面をSiCインゴット86の第一の端面88に吸着させる。次いで、超音波振動付与手段を作動させ、吸着片60の下面に対して超音波振動を付与すると共に、モータ58で吸着片60を回転させる。これによって、剥離帯104を起点としてウエーハ106を剥離することができる。
【0048】
剥離工程を実施した後、上述したとおりの平坦面形成工程、抵抗値計測工程、レーザー光線出力調整工程、剥離帯形成工程、割り出し送り工程および剥離工程を繰り返すことにより、SiCインゴット86から複数のウエーハ106を生成することができる。
【0049】
以上のとおり図示の実施形態では、SiCインゴット86の端面の電気抵抗値を計測し、計測した電気抵抗値に対応してパルスレーザー光線LBの出力を調整するので、SiCインゴット86に適正な剥離帯104を形成することができる。
【0050】
なお、上述の説明においては、SiCインゴット86に剥離帯104を形成してSiCインゴット86からウエーハ106を生成する例を説明したが、本発明においては、SiCウエーハに剥離帯を形成して、たとえば厚み1mm程度の1枚のSiCウエーハを厚み0.5mm程度の2枚のSiCウエーハに分割してもよい。この場合における分割前の該1枚のSiCウエーハは本発明におけるSiCインゴットにあたる。
【符号の説明】
【0051】
2:レーザー加工装置
4:保持手段
6:集光器
8:レーザー光線照射手段
10:X軸送り手段
12:Y軸送り手段
14:抵抗値計測手段
16:制御手段
86:SiCインゴット
88:第一の端面
90:第二の端面
100:SiCがSiとCとに分離した部分
102:クラック
104:剥離帯
106:ウエーハ
LB:パルスレーザー光線
FP:パルスレーザー光線の集光点
α:オフ角
A:オフ角が形成される方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8