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  • 特許-反応方法および反応槽 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-26
(45)【発行日】2024-03-05
(54)【発明の名称】反応方法および反応槽
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240227BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C22B7/00 G
C22B3/10
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021069965
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164464
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100134511
【弁理士】
【氏名又は名称】八田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 敦
(72)【発明者】
【氏名】横田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】梶原 孝宏
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121399(JP,A)
【文献】米国特許第04047939(US,A)
【文献】特開2012-126952(JP,A)
【文献】特開2019-131838(JP,A)
【文献】特開2020-196921(JP,A)
【文献】特開2006-016679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属の電解殿物、または前記電解殿物を湿式処理した中間物を塩酸酸性水溶液中で発熱反応させる反応方法であって、
前記塩酸酸性水溶液が収容されている反応槽の側壁の外周に設置した複数の冷却ジャケットに冷却媒体を流入させることにより、前記塩酸酸性水溶液を冷却しながら前記発熱反応させ、
前記複数の冷却ジャケットは互いに分離して設けられ、
前記複数の冷却ジャケットの内部には、前記反応槽の外周の周方向に冷却媒体が流れる流路が設けられていることを特徴とする反応方法。
【請求項2】
前記電解殿物又は前記中間物は、貴金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の反応方法。
【請求項3】
前記発熱反応は、浸出反応であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の反応方法。
【請求項4】
前記電解殿物又は前記中間物は、SiOを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の反応方法。
【請求項5】
前記中間物は、銅電解殿物を湿式処理して得られる中間物であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の反応方法。
【請求項6】
前記中間物は、前記銅電解殿物を脱銅浸出した後に得られる浸出残渣であることを特徴とする請求項5に記載の反応方法。
【請求項7】
前記反応槽から前記塩酸酸性水溶液を抜き出した後に前記反応槽の内壁に付着した鋳付を、洗浄液の液圧により洗浄することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の反応方法。
【請求項8】
前記洗浄液の液圧を0.1MPa以上とすることを特徴とする請求項7に記載の反応方法。
【請求項9】
前記冷却ジャケットの材質にチタンを用いることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の反応方法。
【請求項10】
前記反応槽の材質にチタンを用いることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の反応方法。
【請求項11】
前記冷却ジャケットへ導入する冷却媒体の温度を20℃以上、前記塩酸酸性水溶液の温度以下の温度範囲とすることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の反応方法。
【請求項12】
非鉄金属の電解殿物、または前記電解殿物を湿式処理した中間物を塩酸酸性水溶液中で発熱反応させる反応方法であって、
前記塩酸酸性水溶液が収容されている反応槽の外周に設置した冷却ジャケットに冷却媒体を流入させることにより、前記塩酸酸性水溶液を冷却しながら前記発熱反応させ、
前記反応槽から前記塩酸酸性水溶液を抜き出した後に前記反応槽の内壁に付着した鋳付を、洗浄液の液圧により洗浄し、
前記洗浄する際に、上下方向にロッドで吊り下げられかつ該ロッドに反応槽外周方向に噴霧する複数のスプレーを用い、前記ロッドを上下方向に移動させつつ噴霧を行なうことを特徴とする反応方法。
【請求項13】
前記ロッドを水平方向に回転させ、鋳付付着部の単位面積当たりの洗浄水量を10L/cm以上とすることを特徴とする請求項12に記載の反応方法。
【請求項14】
非鉄金属の電解殿物、または前記電解殿物を湿式処理した中間物を塩酸酸性水溶液中で発熱反応させる反応槽であって、
前記反応槽の側壁の外周に冷却媒体を通液する複数の冷却ジャケットを備え、
前記複数の冷却ジャケットは互いに分離して設けられ、
前記複数の冷却ジャケットの内部には、前記反応槽の外周の周方向に冷却媒体が流れる流路が設けられていることを特徴とする反応槽。
【請求項15】
前記反応槽から前記塩酸酸性水溶液を抜き出した後に前記反応槽の内壁に付着した鋳付を洗浄液の液圧により洗浄するための洗浄設備を有することを特徴とする請求項14に記載の反応槽。
【請求項16】
前記洗浄液の液圧は、0.1MPa以上であることを特徴とする請求項15に記載の反応槽。
【請求項17】
前記冷却ジャケットの材質は、チタンであることを特徴とする請求項14から請求項16のいずれか一項に記載の反応槽。
【請求項18】
前記反応槽の材質は、チタンであることを特徴とする請求項14から請求項17のいずれか一項に記載の反応槽。
【請求項19】
非鉄金属の電解殿物、または前記電解殿物を湿式処理した中間物を塩酸酸性水溶液中で発熱反応させる反応槽であって、
前記反応槽の外周に冷却媒体を通液する冷却ジャケットを備え、
前記反応槽から前記塩酸酸性水溶液を抜き出した後に前記反応槽の内壁に付着した鋳付を洗浄液の液圧により洗浄するための洗浄設備を有し、
前記洗浄設備は、上下方向にロッドで吊り下げられかつ該ロッドに反応槽外周方向に噴霧するスプレーが複数取り付けられ、
前記ロッドが上下方向に稼働できるように設置されていることを特徴とする反応槽。
【請求項20】
前記洗浄設備は、前記ロッドを水平方向に回転させ、鋳付付着部の単位面積当たりの洗浄水量を10L/cm以上とすることを特徴とする請求項19に記載の反応槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応方法および反応槽に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬工程においては主に銅精鉱を含む原料を乾式製錬し約99%の品位の粗銅を製造した後に電解精製により製品電気銅を製造する。その電解精製の際に得られる電解殿物から有価金属を回収する際に塩酸や酸化剤を用いて電解殿物または、その中間物を浸出処理する工程がある。そのような浸出工程においては反応熱が発生するため冷却しながら実施する必要があるが、塩酸のような腐食性の高い酸を用いることや、浸出液の温度が比較的高温となることから、例えば、反応槽内に耐腐食性の高い樹脂製の冷却管を反応槽内に設置して冷却していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-215094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、反応槽内に冷却管を設置して直接的に浸出液を冷却しようとすると、浸出液の冷却状態が不均一となり、局所的に過冷却となった箇所に鋳付が発生しやすいという欠点が有る。鋳付が発生すると徐々に成長し、本来浸出により回収すべき有価金属の回収が遅れるという問題が有る。また、鋳付が成長して液流れを阻害し反応槽内の攪拌状態が悪化することにより、貴金属のような比重の大きい物質が攪拌されずに沈降しやすくなるという問題も発生する。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、槽内の冷却状態を均一化することができる反応方法および反応槽を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る反応方法は、非鉄金属の電解殿物、または前記電解殿物を湿式処理した中間物を塩酸酸性水溶液中で発熱反応させる反応方法であって、前記塩酸酸性水溶液が収容されている反応槽の側壁の外周に設置した複数の冷却ジャケットに冷却媒体を流入させることにより、前記塩酸酸性水溶液を冷却しながら前記発熱反応させ、前記複数の冷却ジャケットは互いに分離して設けられ、前記複数の冷却ジャケットの内部には、前記反応槽の外周の周方向に冷却媒体が流れる流路が設けられていることを特徴とする。
【0007】
前記電解殿物又は前記中間物は、貴金属を含んでいてもよい。前記発熱反応は、浸出反応であってもよい。前記電解殿物又は前記中間物は、SiOを含んでいてもよい。前記中間物は、銅電解殿物を湿式処理して得られる中間物であってもよい。前記中間物は、前記銅電解殿物を脱銅浸出した後に得られる浸出残渣であってもよい。前記反応槽から前記塩酸酸性水溶液を抜き出した後に前記反応槽の内壁に付着した鋳付を、洗浄液の液圧により洗浄してもよい。前記洗浄する際に、上下方向にロッドで吊り下げられかつ該ロッドに反応槽外周方向に噴霧する複数のスプレーを用い、前記ロッドを上下方向に移動させつつ噴霧を行なってもよい。前記洗浄液の液圧を0.1MPa以上としてもよい。前記ロッドを水平方向に回転させ、鋳付付着部の単位面積当たりの洗浄水量を10L/cm以上としてもよい。前記冷却ジャケットの材質にチタンを用いてもよい。前記反応槽の材質にチタンを用いてもよい。前記冷却ジャケットへ導入する冷却媒体の温度を20℃以上、前記塩酸酸性水溶液の温度以下の温度範囲としてもよい。
【0008】
本発明に係る反応槽は、非鉄金属の電解殿物、または前記電解殿物を湿式処理した中間物を塩酸酸性水溶液中で発熱反応させる反応槽であって、前記反応槽の側壁の外周に冷却媒体を通液する複数の冷却ジャケットを備え、前記複数の冷却ジャケットは互いに分離して設けられ、前記複数の冷却ジャケットの内部には、前記反応槽の外周の周方向に冷却媒体が流れる流路が設けられていることを特徴とする。
【0009】
前記反応槽から前記塩酸酸性水溶液を抜き出した後に前記反応槽の内壁に付着した鋳付を洗浄液の液圧により洗浄するための洗浄設備を有していてもよい。前記洗浄設備は、上下方向にロッドで吊り下げられかつ該ロッドに反応槽外周方向に噴霧するスプレーが複数取り付けられ、前記ロッドが上下方向に稼働できるように設置されていてもよい。前記洗浄液の液圧は、0.1MPa以上であってもよい。前記洗浄設備は、前記ロッドを水平方向に回転させ、鋳付付着部の単位面積当たりの洗浄水量を10L/cm以上としてもよい。前記冷却ジャケットの材質は、チタンであってもよい。前記反応槽の材質は、チタンであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、槽内の冷却状態を均一化することができる反応方法および反応槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)および(b)は比較形態に係る反応槽を例示する図である
図2】(a)および図2(b)は実施形態に係る反応槽を例示する図である。
図3】(a)および(b)はロッドによって吊り下げられたスプレーを例示する図である。
図4】実施例1および実施例2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態に係る反応槽および塩化浸出方法について、図を参照しつつ、詳細に説明する。
【0013】
(実施形態)
本実施形態で対象とする固体物質は、銅、銀、鉛などの非鉄金属の電解殿物、またはその電解殿物を湿式処理した中間物である。中間物は、例えば、銅電解殿物を湿式処理して得られる中間物である。当該中間物は、例えば、銅電解殿物を脱銅浸出した後に得られる浸出残渣である。なお、湿式処理とは、電解殿物の一部成分を分離するために行う湿式処理であり、浸出等の化学反応を用いる処理や、湿式で行う比重選別や分級選別のような物理的な選別処理も含む。
【0014】
銅製錬工程においては主に銅精鉱を含む原料を乾式製錬し約99%の品位の粗銅を製造した後に電解精製により製品電気銅を製造する。銅(Cu)の電解精製において、転炉からの粗銅を精製炉において99.5wt%程度に精製し、鋳造した陽極(アノード)と陰極としての種板とを電解槽に交互に吊るし、電解精製を実施する。電解槽の底には、陽極に含まれる不純物が泥状に沈積する。この泥状の沈積物を銅電解殿物(アノードスライム)と称する。銅電解殿物には、銅に加えて、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、セレン(Se)などの金属が濃縮されている。
【0015】
この銅電解殿物に塩化浸出を行なうことで、金、白金、パラジウム、セレンなどを浸出することができる。または、銅電解殿物に含まれる銅を硫酸溶液で浸出除去するなどの湿式処理を行なうことで脱銅して固液分離して塩酸でリパルプした中間物(脱銅殿物スラリー)に塩化浸出を行なうことで、金、白金、パラジウム、セレンなどを浸出する。
【0016】
銅電解殿物は、例えば、銅を3.0mass%~33mass%含み、金を0.6mass%~4.0mass%含み、白金を0.006mass%~0.06mass%含み、パラジウムを0.03mass%~0.3mass%含み、セレンを6.0mass%~25mass%含み、SiOを3.0mass%~36mass%含む。このように、銅電解殿物には一部に貴金属が含まれる。SiO量が多いのは、電解工程の懸濁物質をろ過除去するためのろ過助剤としてラヂオライトを使用することにより、SiOが銅電解殿物に混入しやすくなっているためである。
【0017】
脱銅殿物スラリーは、金を0.8mass%~7.4mass%含み、白金を0.008mass%~0.1mass%含み、パラジウムを0.04mass%~0.6mass%含み、セレンを7.6mass%~46mass%含み、SiOを3.8mass%~66mass%含む。このように、中間物にも、一部に貴金属が含まれる。
【0018】
銀殿物や鉛殿物も含有量の違いはあるが、金等の貴金属を含むため、銅殿物同様に塩酸処理が必要となる。鉛殿物は、例えば、鉛を5mass%~15mass%含み、銀を15mass%~20mass%含み、銅を4mass%~9mass%含み、アンチモンを25mass%~34mass%含み、ビスマスを14mass%~22mass%含み、金を300g/t~500g/t含み、その他、テルル、セレン、スズなどを含む。
【0019】
また、銀殿物は、例えば、金を約60mass%含み、銀を約25mass%含み、白金族元素を約15mass%含む。なお、鉛殿物も銀殿物も浸出液として塩酸を用いる場合、銀は溶解度が低いためSiOのように固体として存在する。よって、SiO同様に鋳付発達の原因となる可能性があると考えられる。
【0020】
塩化浸出工程では、浸出液として塩酸と過酸化水素が用いられ、例えば、下記式(1)~(4)のような反応が生じる。
3Au+3H+8HCl→2HAuCl+6HO (1)
Pt+2H+6HCl→HPtCl+4HO (2)
Pd+H+4HCl→HPdCl+2HO (3)
Se+2H→HSeO+HO (4)
【0021】
上記式(1)~(4)のような塩化浸出反応は発熱反応であるため、反応槽の温度が過剰に上昇するおそれがある。そこで、熱交換器によって浸出液温を所定温度範囲(例えば、70℃~75℃)に制御することが望まれる。
【0022】
例えば、反応槽の側壁の内面よりも内側に、冷却水などの冷却媒体が流動する冷却管を設けることによって、反応槽内の浸出液の温度を所定範囲に制御することが考えられる。
【0023】
図1(a)および図1(b)は、比較形態に係る反応槽20を例示する図である。図1(a)は、反応槽20の上面図である。図1(b)は、反応槽20の透過図である。図1(a)および図1(b)で例示するように、反応槽20の側壁の内面よりも内側に、冷却管21が設けられている。冷却管21内を冷却水などの冷却媒体が流動することによって浸出液が冷却される。しかしながら、冷却管21の周囲が集中的に冷却されて、浸出液の冷却状態が不均一となる。この場合、局所的に過冷却となった箇所に鋳付が生じるおそれがあり、鋳付が発生すると徐々に成長し、本来浸出により回収すべき有価金属の回収が遅れるという問題が有る。また、鋳付が成長して液流れを阻害し反応槽内の攪拌状態が悪化することにより、貴金属のような比重の大きい物質が攪拌されずに沈降しやすくなるという問題も発生する。これまで、銅電解殿物や脱銅殿物スラリーに含まれるSiO量が少なかったために鋳付が少なかったが、近年になって銅電解殿物や脱銅殿物スラリーに含まれるSiO量が増えてきて鋳付量が増え、鋳付対策が必要となってきている。
【0024】
そこで、本実施形態においては、反応槽10の側壁の外周に冷却ジャケットを設ける。図2(a)および図2(b)は、実施形態に係る反応槽10を例示する図である。図2(a)は、反応槽10の上面図である。図2(b)は、反応槽10の正面図である。図2(a)および図2(b)で例示するように、反応槽10の側壁の外周に冷却ジャケット11が設けられている。冷却ジャケット11内には、冷却水などの冷却媒体が流動するための配管などが設けられている。例えば、冷却ジャケット11内では、反応槽10の側壁の周方向に巻かれた複数の配管が設けられている。これらの配管には、流入配管12から冷却媒体が流入する。また、これらの配管から、排出配管13を介して冷却媒体が排出される。冷却ジャケット11を反応槽10の側壁よりも外側に配置することで、反応槽10内における浸出液の流動を妨げる部材が減り、反応槽10内の攪拌が均一となって局所的な冷却が抑制され、反応槽10内の冷却状態を均一化することができる。その結果、鋳付の発生を抑制することができる。冷却面において鋳付の発生が抑制されれば、冷却効率が維持され、反応槽10内での塩化浸出の反応効率が向上する。
【0025】
なお、冷却ジャケット11を反応槽10よりも外側に配置することで、冷却媒体の冷却効果が反応槽10の側壁を介して反応槽10内に伝わり、冷却媒体の冷却効果が反応槽10の側壁の全体に広がり、反応槽10内の冷却状態を均一化することができるという効果も得られる。
【0026】
浸出液温度を一例として70℃~75℃に維持しつつ、壁面の鋳付の生成を水洗で洗浄可能な程度の発生量に留めるためには、冷却ジャケット11内に導入する冷却媒体の温度に下限を設けることが好ましい。例えば、冷却ジャケット11内に導入する冷却媒体の温度を、20℃以上とすることが望ましく、より洗浄を容易にするためにはさらに25℃以上とすることが望ましい。一方、上限は、浸出液温度を維持したい温度範囲の上限を超えないような温度であればよく、浸出液温度以下とすることができ、例えば、40℃以下とすることができる。なお、浸出液温度を所定温度範囲に維持するために、冷却媒体の温度ではなく、冷却媒体の流量などを調整してもよい。
【0027】
冷却ジャケットの材質は、特に限定されるものではないが、熱伝導性を向上させるためには、チタンであることが好ましい。反応槽10の材質は、特に限定されるものではないが、熱伝導性を向上させるためには、チタンであることが好ましい。冷却ジャケットおよび反応槽10の材質は、ニッケル合金などであってもよい。
【0028】
なお、反応槽10内の冷却状態が均一化されて鋳付の発生が抑制されても、反応槽10による塩化浸出を繰り返していると鋳付が発生することがある。そこで、反応槽10から浸出液を抜き出した後に反応槽10の内壁に付着した鋳付を液圧により洗浄するための洗浄設備が備わっていることが好ましい。そこで、本実施形態においては、反応槽10の内部にスプレーが設けてあることが好ましい。
【0029】
図3(a)および図3(b)は、ロッド14によって吊り下げられたスプレー15を例示する図である。図3(a)および図3(b)で例示するように、スプレー15は、上下方向にロッド14で吊り下げられかつ反応槽10の内壁に向かって噴霧を行なう。スプレー15は、ロッド14の複数箇所に設けられている。
【0030】
ロッド14は、上下方向に稼動する。ロッド14は、水平方向に回転可能である。それにより、反応槽10内の各高さにおける内壁に向かってスプレー15から満遍なく噴霧を行なうことができる。噴霧における水圧は、0.1MPa以上であることが好ましく、さらに水圧による除去効果を高めるためには0.4MPa以上であることがより好ましい。ロッド14を水平方向に回転させ、鋳付付着部の単位面積当たりの洗浄水量を10L/cm以上とすることが好ましい。
【0031】
なお、反応槽10の底部に溜まった残渣を滞留させないように、反応槽10の底部から残渣を含む液を抜き出して反応槽10の上部から再度投入してもよい。
【実施例
【0032】
銅電解殿物を脱銅浸出した脱銅殿物スラリーに対して、上記実施形態に係る反応槽10を用いて、塩酸と過酸化水素を添加して塩化浸出を行なった。塩化浸出は、バッチ処理とした。すなわち、塩化浸出を複数回行う場合、塩化浸出反応終了後に反応槽内のスラリーを全て抜き出し、新たな脱銅スラリーを受け入れて塩化浸出を行った。塩化浸出時の浸出液温度は70~75℃に維持するよう冷却した。
【0033】
(実施例1)
実施例1では、冷却ジャケット11に冷却媒体として冷却水を通液しつつ塩化浸出を複数回行なった。各塩化浸出のインターバルに、ロッド14を回転させつつスプレー15(水圧0.1MPa)を用いて水洗洗浄を行なった。冷却媒体の温度は、10℃から19℃の間になるように調整した。
【0034】
(実施例2)
実施例2では、冷却ジャケット11に冷却媒体として冷却水を通液しつつ塩化浸出を複数回行なった。実施例2では、各塩化浸出のインターバルに、スプレー15を用いた水洗洗浄を行わなかった。冷却媒体の温度は、10℃から19℃の間になるように調整した。
【0035】
実施例1および実施例2について、反応槽10の冷却能力を調べた。実施例1および実施例2の合計回数(約70回)のそれぞれの塩化浸出を行なった際に、各回の総括熱伝達係数を算出し、横軸を実施順としてプロットした結果である。「▲」の結果は、実施例1の方法で水洗を行った後に塩化浸出を実施した回の総括熱伝達係数を算出した結果である。「●」のデータは、実施例2のように水洗を行わずに次の塩化浸出を行った回の総括熱伝達係数を算出した結果である。結果を図4に示す。図4に示すように、実施例1および実施例2のいずれにおいても、おおむね良好な冷却能力が継続して維持された。これは、反応槽10の側壁の外部に冷却ジャケット11を設けたことで、反応槽10内の冷却状態が均一化され、鋳付の発生が抑制されたからであると考えられる。
【0036】
実施例1と実施例2とを比較した結果、実施例1の方が高い冷却能力が維持された。これは、スプレー15を用いて水洗洗浄することによって鋳付を洗浄することができたからであると考えられる。
【0037】
(実施例3)
実施例3では、冷却ジャケット11に冷却媒体として冷却水を通液しつつ塩化浸出を複数回行なった。冷却媒体の温度は、20℃から28℃の間になるように調整した。
【0038】
(比較例)
比較例では、図1(a)および図1(b)のように、反応槽内の内壁よりも内側に設けた冷却管に冷却媒体として冷却水を流入させた。
【0039】
反応槽内の鋳付発生量kg/年を定量した。結果を表1に示す。また、鋳付の成分分析結果を表2に示す。表1に示すように、比較例では鋳付発生量が非常に多くなった。これは、反応槽内の冷却管を用いて冷却したからであると考えられる。一方、実施例1では、鋳付発生量が非常に少なくなった。これは、反応槽の外周に設けた冷却ジャケットを用いて冷却したからであると考えられる。なお、表1の実施例1は、上述したように冷却媒体の温度を10℃から19℃の間になるように調整し、上述した水洗洗浄を行なったものと水洗洗浄を行わなかった場合を含む。実施例3では、鋳付発生量がさらに少なくなった。これは、冷却媒体の温度を20℃以上にしたからであると考えられる。
【表1】
【表2】
【0040】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 反応槽
11 冷却ジャケット
12 流入配管
13 排出配管
14 ロッド
15 スプレー
図1
図2
図3
図4