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特許7443755凍結用組成物、凍結物の製造方法、凍結物及び藍藻類凍結用剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】凍結用組成物、凍結物の製造方法、凍結物及び藍藻類凍結用剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
C12N1/12 Z
C12N1/12 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019230525
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021097614
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-09-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 純一
(72)【発明者】
【氏名】江原 岳
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-213365(JP,A)
【文献】Asian Jr. of Microbiol. Biotech. Env. Sc. ,2018年,Vol. 20, No. (4) ,1115-1123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルスルホキシドと、トレハロースと、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類と、を含む、凍結用組成物。
【請求項2】
3~13%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシドと、0.1~20%(w/v)の濃度のトレハロースと、前記藍藻類と、を含む、請求項1に記載の凍結用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の凍結用組成物を凍結させる工程を有する、藍藻類の凍結物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の凍結用組成物が凍結した、凍結物。
【請求項5】
ジメチルスルホキシドと、トレハロースと、からなり、
アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結に用いられる、藍藻類凍結用剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結用組成物、凍結物の製造方法、凍結物及び藍藻類凍結用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、色素材原料や、機能性食品の一つとして、藍藻類が注目されている。例えばスピルリナには、フィコシアニン(フィコシアノビリンを含む色素蛋白質)、クロロフィル類(例えばクロロフィルa)、カロテノイド類(例えばゼアキサンチン)等の抗酸化作用がある光合成色素の他、各種アミノ酸、ビタミン・ミネラル類、食物繊維、多糖体、リノール酸、γ-リノレイン酸、イノシトール、SOD(スーパーオキサイドジスムターゼ)、核酸等の栄養素が豊富に含まれている。
【0003】
しかし、凍結保存法が確立されていない藻類の維持管理には、定期的な植え継ぎ(継代培養)が行われ、人工気象機、振とう機等の設備費や電気代がかかることに加え、培養の手間が必要である。さらに、長期間の継代培養は、人為的ミスによるコンタミや、株の性質が変わるというリスクがある。したがって、藻体の維持には半永久的に保存が可能な凍結保存が好まれる。
【0004】
例えば、特許文献1では、単細胞生物をジメチルスルホキシド、エチレングリコールおよびプロリンの存在下で凍結させることを含んでなる、単細胞生物の凍結方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-213365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結保存は、これまで実現されていなかった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結保存を可能とする、凍結用組成物及び藍藻類凍結用剤の提供を目的とする。
また本発明は、前記凍結用組成物が凍結された凍結物、及び凍結物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、浸透型の凍結保護剤と、非浸透型の凍結保護剤と、前記藍藻類と、を含む組成物を凍結させることにより、前記藍藻類を凍結保存可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0009】
(1)浸透型の凍結保護剤と、非浸透型の凍結保護剤と、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類と、を含む、凍結用組成物。
(2)前記浸透型の凍結保護剤が、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物であり、
前記非浸透型の凍結保護剤が、トレハロース、スクロース、ラクトース、マンニトール、グルコース、ソルビトール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、デキストラン硫酸及びアルブミンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物である、前記(1)に記載の凍結用組成物。
(3)ジメチルスルホキシドと、トレハロースと、前記藍藻類と、を含む、前記(1)又は(2)に記載の凍結用組成物。
(4)3~13%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシドと、0.1~20%(w/v)の濃度のトレハロースと、前記藍藻類と、を含む、前記(3)に記載の凍結用組成物。
(5)前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の凍結用組成物を凍結させる工程を有する、藍藻類の凍結物の製造方法。
(6)前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の凍結用組成物が凍結した、凍結物。
(7)浸透型の凍結保護剤と、非浸透型の凍結保護剤と、を含み、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結に用いられる、藍藻類凍結用剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結保存を可能とする、凍結用組成物及び藍藻類凍結用剤を提供できる。
また、本発明によれば、前記凍結用組成物が凍結された凍結物、及び凍結物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の凍結用組成物、凍結物の製造方法、凍結物及び藍藻類凍結用剤の実施形態を説明する。
【0012】
≪凍結用組成物≫
実施形態の凍結用組成物は、浸透型の凍結保護剤と、非浸透型の凍結保護剤と、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類と、を含むものである。
以下、浸透型の凍結保護剤及び非浸透型の凍結保護剤両方を指して単に「凍結保護剤」ということがある。
以下、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類を指して、単に「藍藻類」ということがある。
【0013】
本明細書において、「凍結保存」が可能であるとは、凍結処理を経た前記藍藻類が、解凍後に生存可能であることを意味する。藍藻類の生存は、例えば凍結処理を経た前記藍藻類を培養して、前記藍藻類の増殖が確認できたことで確定できる。
【0014】
(凍結保護剤)
本明細書において、「凍結保護剤」とは、凍結処理によって細胞が受け得る傷害を低減させるものである。凍結保護剤は、凍結対象の細胞と混合して用いることができる。
細胞内には多量の水分が含まれており、冷却により細胞内に氷晶が形成されると、それが細胞を損傷させてしまうという問題がある。凍結保護剤は、氷結晶の生成を抑える働きがあるとされる。
【0015】
上記の浸透型の凍結保護剤としては、細胞膜を浸透可能な化合物であって、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、メタノール等が挙げられる。
上記の浸透型の凍結保護剤としては、上記藍藻類に対する凍結保護の効果に優れることから、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物が好ましく、ジメチルスルホキシド及び/又はグリセロールがより好ましく、ジメチルスルホキシドがさらに好ましい。
【0016】
上記の非浸透型の凍結保護剤としては、細胞膜を浸透しない化合物であって、トレハロース、スクロース、ラクトース、マンニトール、グルコース、ソルビトールなどの糖類や、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、デキストラン、デキストラン硫酸、アルブミンなどの高分子化合物が挙げられる。
【0017】
上記の非浸透型の凍結保護剤としては、上記藍藻類に対する凍結保護の効果に優れることから、トレハロース、スクロース、ラクトース、マンニトール、グルコース、ソルビトール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、デキストラン硫酸及びアルブミンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物が好ましく、トレハロースがより好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態として、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロールからなる群から選択される少なくとも一種の化合物と、トレハロース、スクロース、ラクトース、マンニトール、グルコース、ソルビトール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、デキストラン硫酸及びアルブミンからなる群から選択される少なくとも一種の化合物と、前記藍藻類と、を含む、凍結用組成物を提供できる。
【0019】
本発明の一実施形態として、ジメチルスルホキシド及び/又はグリセロールと、トレハロースと、前記藍藻類と、を含む、凍結用組成物を提供できる。
【0020】
本発明の一実施形態として、ジメチルスルホキシドと、トレハロースと、前記藍藻類と、を含む、凍結用組成物を提供できる。
【0021】
凍結用組成物がジメチルスルホキシドを含む場合、凍結用組成物の総量に対し、3~13%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシドを含むことが好ましく、7~13%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシドを含むことがより好ましく、8~12%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシドを含むことがさらに好ましい。
上記の数値範囲でジメチルスルホキシドを含む凍結用組成物は、上記藍藻類に対する凍結保護の効果に特に優れる。
【0022】
凍結用組成物がトレハロースを含む場合、凍結用組成物の総量に対し、0.1~20%(w/v)の濃度のトレハロースを含むことが好ましく、1~13%(w/v)の濃度のトレハロースを含むことがより好ましく、2.5~10%の濃度のトレハロースを含むことがさらに好ましく、3~7%の濃度のトレハロースを含むことがさらに好ましく、4~6%の濃度のトレハロースを含むことが特に好ましい。
上記の数値範囲でトレハロースを含む凍結用組成物は、上記藍藻類に対する凍結保護の効果に特に優れる。
【0023】
凍結用組成物がジメチルスルホキシド及びトレハロースを含む場合、凍結用組成物の総量に対し、3~13%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシド及び0.1~20%(w/v)の濃度のトレハロースを含むことが好ましく、7~13%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシド及び1~13%(w/v)の濃度のトレハロースを含むことがより好ましく、8~12%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシド及び2.5~10%の濃度のトレハロースを含むことがさらに好ましく、8~12%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシド及び3~7%の濃度のトレハロースを含むことがさらに好ましく、8~12%(w/v)の濃度のジメチルスルホキシド及び4~6%の濃度のトレハロースを含むことが特に好ましい。
【0024】
(藍藻類)
実施形態の凍結用組成物が含む藍藻類(Cyanobacteria)は、アルスロスピラ(Arthrospira)属又はスピルリナ(Spirulina)属に属するものである。従来一括してスピルリナ属と呼称されていたアルスロスピラ属(Arthrospira)及びスピルリナ属(Spirulina)に属する微細な単細胞微生物は、「スピルリナ」と通称されており、その具体例としては、アルスロスピラ・プラテンシス(Arthrospira platensis)、アルスロスピラ・マキシマ(Arthrospira maxima)、アルスロスピラ・ゲイトレリ(Arthrospira geitleri)、アルスロスピラ・サイアミーゼ(Arthrospira siamese)、スピルリナ・メイヤー(Spirulina major)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalsa)、等が挙げられる。中でも、人工的に培養でき、入手が容易なことから、アルスロスピラ・プラテンシス、アルスロスピラ・マキシマ、アルスロスピラ・ゲイトレリ、アルスロスピラ・サイアミーゼが好ましい。
【0025】
実施形態の凍結用組成物は、藍藻類の細胞を、凍結用組成物の総体積量に対し、50体積%以下の割合で含んでいてもよく、30体積%以下の割合で含んでいてもよく、10体積%以下の割合で含んでいてもよい。
【0026】
(その他成分)
実施形態の凍結用組成物は、上記の浸透型の凍結保護剤、非浸透型の凍結保護剤及び藍藻類の他に、各種成分を含むことができる。各種成分としては、例えば藍藻類を培養した培地成分、水、酸化防止剤、pH調整剤等が挙げられる。培地成分としては、無機塩類やビタミン、キレート剤等が挙げられる。後述の実施例では、使用したSOT培地組成を例示している。
【0027】
実施形態の凍結用組成物は、上記の浸透型の凍結保護剤、非浸透型の凍結保護剤及び藍藻類を配合することで得られる。
例えば、藍藻類を培養して得られた藍藻類を含む培地(例えば、液体培地)と、凍結保護剤とを適宜混合して、凍結用組成物を得ることができる。
藍藻類は、藍藻類を含む培地から、分離又は濃縮して得られた分離物又は濃縮物を、凍結用組成物に配合することができる。上記の分離又は濃縮の方法は特に制限されないが、フィルター濾過や、遠心分離を行うこと等が挙げられる。
凍結保護剤は、扱いやすいように適宜希釈して用いることができる。希釈媒体としては、水が挙げられる。
【0028】
凍結用組成物は、例えば、溶媒として上記の浸透型の凍結保護剤を含み、非浸透型の凍結保護剤が溶解した溶液に、藍藻類が分散した分散液として提供できる。
【0029】
従来、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結保存は実施されておらず、これの維持管理は多大な労力を要していた。
また、細胞の凍結保護剤は、従来種々のものが知られているが、細胞の種類によって適当な凍結保護剤は異なり、上記藍藻類に適用可能な凍結保護剤は、見出されてこなかった。さらに、トリコームを形成する上記藍藻類は、その構造の複雑さから、凍結保存の実現は困難であるとされてきた。
【0030】
上記の実情から、実施形態の凍結用組成物は、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結保存を可能とする、大変に有用なものである。
また、実施形態の凍結用組成物によれば、凍結保存後の藍藻類の増殖性に優れており、実用上の観点からも非常に優れたものである。
【0031】
≪藍藻類の凍結物の製造方法・凍結物≫
実施形態の藍藻類の凍結物の製造方法は、凍結用組成物を凍結させる工程を有する。凍結用組成物を凍結させることで、凍結用組成物に含まれる藍藻類が凍結される。
【0032】
上記の凍結の方法は特に限定されず、例えば、細胞凍結プログラムフリーザーや凍結容器等を使用して、-1℃/min程度(例えば-1℃/min~-2℃/min)の緩慢な冷却速度で凍結用組成物を冷却する方法(緩慢凍結法)や、液体窒素や超低温のフリーザー等を用いて凍結用組成物を急冷させる方法(急速凍結法)、及びそれらの組み合わせ(段階凍結法)等が挙げられる。
【0033】
凍結用組成物を凍結させる冷却温度は、一例として-20℃以下であり、-200℃以上-20℃以下であってよく、-90℃以上-50℃以下であってよい。
【0034】
実施形態の藍藻類の凍結物の製造方法によれば、実施形態の凍結用組成物が凍結した凍結物を得ることができる。
【0035】
凍結物の温度としては、上記の凍結用組成物を凍結させる冷却温度を例示できる。
【0036】
得られた凍結物は、凍結保存することができる。凍結物は、例えば、フリーザー(例えば-80℃)や、超低温フリーザー(例えば-150℃)、液体窒素中(例えば-196℃)、液体窒素を収容した保存容器内(例えば-150℃以下)等で、凍結保存することができる。
【0037】
得られた凍結物は、解凍して、凍結物に含有された藍藻類を培養することができる。この際の、解凍方法は特に制限されず、凍結物を加温して解凍する方法が挙げられる。
【0038】
≪藍藻類凍結用剤≫
実施形態の藍藻類凍結用剤は、浸透型の凍結保護剤と、非浸透型の凍結保護剤と、を含み、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結に用いられるものである。
【0039】
実施形態の藍藻類凍結用剤は、浸透型の凍結保護剤と、非浸透型の凍結保護剤と、を含み、上記の実施形態の藍藻類の凍結物の製造方法に用いることができる。
【0040】
また、本発明の一実施形態として、アルスロスピラ属又はスピルリナ属に属する種から選択される藍藻類の凍結に用いられる、浸透型の凍結保護剤と、非浸透型の凍結保護剤と、を備えた、藍藻類凍結用キットを提供できる。
【0041】
また、本発明の一実施形態として、上記の実施形態の藍藻類の凍結物の製造方法に用いられる、浸透型の凍結保護剤と、非浸透型の凍結保護剤と、を備えた、藍藻類凍結用キットを提供できる。
【0042】
上記の浸透型の凍結保護剤および非浸透型の凍結保護剤としては、凍結用組成物において例示したものが挙げられ、ジメチルスルホキシド及び/又はグリセロールと、トレハロースとの組み合わせが好ましく、ジメチルスルホキシドと、トレハロースと、の組み合わせがより好ましい。
【0043】
実施形態の藍藻類凍結用剤又は実施形態のキットを用いて、実施形態の凍結用組成物を調製することができる。その際、凍結用組成物において例示した好適な含有量となるよう、凍結保護剤を適宜使用して、実施形態の凍結用組成物を調製してもよい。
【0044】
実施形態の藍藻類凍結用剤又は実施形態のキットによれば、上記の凍結用組成物を調製でき、藍藻類の凍結保存が実現される。
【実施例
【0045】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
1.凍結保存の検討(1)
Arthrospira platensis KGS-2050株を用いて、凍結保存の検討を行った。本検討で使用した培養液は以下である。
【0047】
(培養液)
100ml三角フラスコにSOT培地を50ml調製し、Arthrospira platensis KGS-2050株を、培養温度25℃、80rpm(ロータリー)、明条件(光量50μmol photons/m/s)24時間照射で、12日間培養したものを培養液とした。
【0048】
SOT培地の組成を以下に示す。
【表1】
【0049】
本検討で使用した凍結用組成物における、凍結保護剤の組成は、以下の12種類である(表2参照)。
【0050】
(凍結保護剤)
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
凍結用組成物の終濃度で2.5、5、10又は15%(w/v)のジメチルスルホキシドを含むもの。
・グリセロール
凍結用組成物の終濃度で2.5、5、10又は15%(w/v)のグリセロールを含むもの。
・メタノール
凍結用組成物の終濃度で2.5、5、10又は15%(w/v)のメタノールを含むもの。
【0051】
まず、2ml容クライオチューブで、上記の終濃度となるよう調整した凍結保護剤0.6mlに、培養液0.6mlを加えて混合し、凍結用組成物を得た。凍結用組成物を収容したクライオチューブをフリーズコンテナに入れ、-1℃/minの速度で-80℃まで凍結し凍結物を得た。凍結物は-80℃の冷凍庫内で保存した。3日間の保存後、凍結物の入ったクライオチューブを40℃の湯に浸しながら1分45秒間攪拌することで、凍結物を解凍した。
【0052】
凍結物の解凍直後の状態は、以下のとおりであった。凍結保護剤にメタノールを使用した実験区では、トリコーム(細胞が連続的に、糸状に並んだものを)が破壊されて細胞片しか観察されなかった。対して、5、10又は15%(w/v)の終濃度でジメチルスルホキシドを使用した実験区と、5、10又は15%(w/v)の終濃度でグリセロールを使用した実験区とでは、トリコームが観察され、凍結保存状態が、ある程度良好であることが示唆された(表2参照)。
【0053】
次いで、SOT培地が5ml入った15ml試験管を用意し、上記の凍結物を解凍したものを0.12ml植菌し、培養温度25℃、光量50μE/m/s(24時間照射)の培養条件で7日間静置培養を行った。
【0054】
その結果、凍結保護剤にメタノールを使用した実験区では、いずれも藻体の増殖が確認されなかったのに対し、5又は10%(w/v)の終濃度でジメチルスルホキシドを使用した実験区と、2.5、5、10又は15%(w/v)の終濃度でグリセロールを使用した実験区とでは、藻体の増殖が観察された。しかし、凍結保護剤にグリセロールを使用した実験区では、グリセロールがバクテリアの炭素源になるためか、藻体よりもバクテリアの増殖が顕著であった(表2参照)。
【0055】
これらの結果から、本検討(1)における最も実用的な凍結用組成物は、1週間後の濁度(OD800)の値が高かった、10%(w/v)の終濃度でジメチルスルホキシドを含有したものであることが示された。
【0056】
【表2】
【0057】
2.凍結保存の検討(2)
上記の凍結保存の検討(1)と同じ培養液について、凍結保存の検討を行った。本検討で使用した凍結用組成物における、凍結保護剤の組成は、以下の5種類である(表3参照)。
【0058】
(凍結保護剤)
・ジメチルスルホキシド(DMSO)
凍結用組成物の終濃度で10%(w/v)のジメチルスルホキシドを含むもの。
・ジメチルスルホキシド(DMSO)+トレハロース
凍結用組成物の終濃度で10%(w/v)のジメチルスルホキシドと、
凍結用組成物の終濃度で0.5、2.5、5又は10%(w/v)トレハロースと、を含むもの。
【0059】
まず、2ml容クライオチューブで、上記の終濃度となるよう調整した凍結保護剤0.6mlに、培養液0.6mlを加えて混合し、凍結用組成物を得た。凍結用組成物を収容したクライオチューブをフリーズコンテナに入れ、-1℃/minの速度で-80℃まで凍結し凍結物を得た。凍結物は-80℃の冷凍庫内で保存した。2日間の保存後、凍結物の入ったクライオチューブを40℃の湯に浸しながら1分45秒間攪拌することで、凍結物を解凍した。
【0060】
解凍直後の状態の結果は、いずれの実験区でも、トリコームが観察でき、凍結保存状態が良好であることが示唆された(表3参照)。なかでも、10%(w/v)の終濃度のジメチルスルホキシドと、2.5、5又は10%(w/v)の終濃度のトレハロースとを使用した実験区では、よりサイズの大きなトリコームが観察され、凍結保存状態がより良好であることが示唆された。特に10%(w/v)の終濃度のジメチルスルホキシド及び5%(w/v)の終濃度のトレハロースを使用した実験区では、解凍後に最大600μmのトリコームが観察され、凍結保存状態が特に良好であることが示唆された。
【0061】
次いで、SOT培地が50ml入った200ml三角フラスコを用意し、上記の凍結物を解凍したものを全量植菌し、培養温度25℃、振とう速度80rpm、光量50μE/m/s(24時間照射)の培養条件で3日間培養を行った。
【0062】
その結果、10%(w/v)の終濃度でジメチルスルホキシドを使用した実験区では、培養3日後で、藻体の顕著な増殖は確認されなかった。
一方、凍結保護剤にジメチルスルホキシド及びトレハロースを使用した実験区では、培養3日後で、藻体の増殖が確認された。特に、10%(w/v)の終濃度のジメチルスルホキシド及び5%(w/v)の終濃度のトレハロースを使用した実験区では、培養3日後には濁度(OD800)が1.2に達した。
【0063】
本検討(2)において、最も良好な結果を示した凍結用組成物は、10%(w/v)の終濃度でジメチルスルホキシド、及び5%(w/v)の終濃度でトレハロースを含有したものであった。
上記の結果から、トレハロースが、凍結・融解時の細胞へのダメージを軽減させたと考えられる。
【0064】
【表3】
【0065】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。