(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】試料中に含まれる細胞の保持方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/24 20060101AFI20240228BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20240228BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20240228BHJP
C12M 1/26 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C12Q1/24
G01N1/04 H
C12M1/00 A
C12M1/26
(21)【出願番号】P 2019234568
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松永 太一
(72)【発明者】
【氏名】長岡 正人
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/149032(WO,A1)
【文献】東ソー研究・技術報告,2018年,Vol. 62,p. 89-92
【文献】東ソー研究・技術報告,2015年,Vol. 59,p. 3-9
【文献】東ソー研究・技術報告,Vol. 58,2014年,p. 3-12
【文献】化学工学,2017年,Vol. 81, No. 3,p. 126-128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
G01N 1/00
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を保持可能な保持部と、導入口と、排出口と、を設けた基板を備えた細胞保持装置を用いた、細胞の保持方法であって、
前記細胞を含む試料を、前記導入口より前記保持部に導入する工程と、
前記細胞を前記保持部に
誘電泳動力を用いて保持させる工程と、
前記導入口から
ミネラルオイルまたは流動パラフィンである置換溶媒を導入し、前記試料の溶媒を排出口から排出させる工程と、
を含む前記方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の方法で保持部に保持された細胞を解析することを特徴とする、細胞の解析方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の方法で解析された細胞をキャピラリによる吸引吐出で回収することを特徴とする、細胞の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる細胞の保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ライフサイエンス研究分野では、複数の細胞種を含む試料中より、標的の細胞を、単一細胞かつ生きた状態で検出および回収することが求められる。方法の一例として、微小粒子を保持可能な保持部を設けた基板を用いる方法が挙げられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の基板では、細胞保持空間に誘電泳動力を発生させる目的で、保持部と並行に配置した天板面に電極を設けている。そのため、保持部に保持された標的細胞をキャピラリ等による吸引で回収しようとする際、電極(天板)を外す工程が必要であり、当該工程で発生する振動等により保持部に保持された細胞が当該保持部外または別の保持部へ移動してしまうという課題があった。
さらに前述した方法では、細胞の生死にかかわらず保持部に保持されるため、生細胞を検出および回収しようする際、死細胞が混入する課題もあった。
本発明の目的は、死細胞の混入を抑え、かつ細胞の保持部への保持状態を安定的に維持することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。
【0006】
すなわち本発明の一態様は、
細胞を保持可能な保持部と、導入口と、排出口と、を設けた基板を備えた細胞保持装置を用いた、細胞の保持方法であって、前記細胞を含む試料を、前記導入口より前記保持部に導入する工程と、前記細胞を前記保持部に保持させる工程と、前記導入口から置換溶媒を導入し、前記試料の溶媒を排出口から排出させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
保持部に保持する細胞の一例として、ヒト由来の人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)もしくは胚性幹細胞(ヒトES細胞)またはこれら細胞由来の分化細胞、ヒト由来の間葉系幹細胞(ヒトMSC細胞)、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)が挙げられる。
【0009】
細胞保持装置は、細胞を保持可能な保持部と、導入口と、排出口と、を設けた基板を備える。保持部は、凹部または貫通孔を有した形状であり、凹部を保持部とした場合、一端が保持させる細胞の全て、またはその一部を保持可能な大きさの開口部を有しており他端が底部を形成している態様とし、貫通孔を保持部とした場合、一端が保持させる細胞の全て、またはその一部を保持可能な大きさの開口部を有し他端が当該開口部よりも狭い開口部とするか、両端が保持させる細胞の一部を保持可能な大きさの開口部である態様とする。なお保持部の大きさ(径)を保持させる細胞を一つだけ保持可能な大きさとすると、検出した細胞の一細胞単位での回収および解析(形態学的分析、組織型分析、遺伝子分析など)が容易に行なえる点で好ましい。
導入口と排出口は、その形状や大きさに特に制限はないが、基板上で対極に位置するように配置されていることが好ましい。
【0010】
細胞を含む試料に用いられる溶媒は、細胞に対して等張かつ当該細胞の生存能力(viability)を維持可能な溶媒であれば特に限定はなく、一例として生理食塩水や、マンニトール、グルコース、スクロース等の糖類を含んだ水溶液や、当該水溶液に塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの電解質、および/またはBSA(ウシ血清アルブミン)等のタンパク質をさらに含んだ水溶液や、前記細胞の培養に用いた培養液が挙げられる。特に細胞を含む液体として、スクロースを含む水溶液に細胞を含んだ試料を懸濁させた液体を用いると、細胞へのダメージが少なくなる点で好ましい。添加するスクロースの濃度は等張液となる濃度とすればよく、具体的には200mM以上350mM以下とするとよい。さらに前記細胞がCTC(血中循環腫瘍細胞)といった血液中に含まれ得る細胞である場合、血液(全血)、希釈血液、血清、血漿、髄液、臍帯血、成分採血液などの血液試料や、尿、唾液、精液、糞便、痰、羊水、腹水などの血液成分を含み得る試料も、本発明における試料溶媒に含まれる。
【0011】
導入した試料中に含まれる細胞を保持部に保持させる方法は特に限定がなく、単に導入口から細胞を含む試料を導入するだけでもよいし、細胞を含む試料を導入した後、遠心力を利用して保持部へ強制的に当該細胞を保持させてもよい。中でも細胞を含む試料を導入した後、誘電泳動力を利用して保持部へ当該細胞を保持させると、細胞を保持部へ効率的に保持できる点で好ましい。いずれの方法であっても、細胞は保持部に固定されているわけではなく、保持部内で沈降している状態である。誘電泳動力を用いる場合、具体的には、交流電圧を印加することで誘電泳動力を発生させ、保持部に細胞を保持さればよい。印加する交流電圧は、保持部内の細胞の充放電が周期的に繰り返される波形を有した交流電圧であると好ましく、周波数を100kHz以上3MHz以下の間とし、電界強度を1×10
5から5×10
5V/mの間とすると特に好ましい(WO2011/149032号および特開2012-013549号公報参照)。好ましい基板の一態様として、後述する
図1および
図2に示す基板100や、特開2019-100940号公報に開示の基板が挙げられる。
【0012】
置換溶媒は、前記試料溶媒とは異なり、試料中の細胞よりも密度が小さく、かつ動粘度が高い、具体的には3mm2/s(3cSt)以上の溶媒である。好ましい例としてミネラルオイル、流動パラフィン、パルミチン酸イソプロピルが挙げられる。
【0013】
置換溶媒は、基板の導入口から導入すれば、保持部内にある試料溶媒は押し出され、排出口から排出されるため、保持部内の溶媒が試料溶媒から置換溶媒へと置き換わる。導入する置換溶媒の量は、保持部の容積を考慮して十分な量を導入することが好ましい。
【0014】
保持部に保持された細胞は、当該細胞が有する特性に基づき検出を行うことが可能である。例えば、細胞の大きさや、細胞内に存在する顆粒もしくは小器官の存否などに基づき検出しても良く、抗体、アプタマー、タンパクリガンドなどによる標識や細胞核染色試薬などによる染色後、当該標識や染色像に基づき検出しても良い。細胞核染色試薬の好ましい例として、細胞膜を透過可能なHoechst 33342(商品名)が挙げられる。検出対象細胞か否かの指標は、明確な数値で決定する必要はなく、例えば、検出対象細胞の画像データ(明視野像、標識像、染色試薬像)を教師データとした、人工知能(AI)による判定を行なってもよい。
【0015】
前述した方法で試料中に含まれる細胞を検出した後、検出した前記細胞をキャピラリによる吸引吐出で回収することで、試料中に含まれる特定細胞を一細胞単位で回収できる。前記キャピラリは、特定細胞の一細胞単位での回収が可能な態様であれば特に限定はなく、一例としてナノピペット、ピコピペット、ガラスキャピラリや特開2016-142616号公報に開示の微小粒子回収装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、試料中に含まれる死細胞を選択的に除去でき、かつ保持部への細胞保持状態を維持できるため、保持部に保持された細胞の検出および回収が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の方法を実施可能な装置を構成する基板の一例を示した図(分解図)である。
【
図3】
図1および
図2に示す基板を備えた装置を用いた、本発明の細胞の検出および回収方法の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の方法を実施可能な装置を構成する基板の一例を
図1、その正面図を
図2に示す。
【0019】
図1に示す基板100は、
貫通孔11aを有した平板状の遮光部材11と、貫通孔12aを有した平板状の絶縁体12と、導入口13a、排出口13bおよび貫通部13cを有した平板状のスペーサ13とからなる細胞導入保持手段10と、
細胞導入保持手段10を上下方向に密着して挟むよう設けた電極21・22と、
電極21・22同士を接続する導線30と、
電極21・22に信号を印加する信号発生器40と、
を備えている。遮光部材11が有する貫通孔11aと絶縁体12が有する貫通孔12aとは互いに同一の寸法および形状であり、かつそれぞれの貫通孔の位置が一致するよう遮光部材11および絶縁体12を設けている。貫通孔11a、貫通孔12aおよび遮光部材11の下部に密着して設けた電極基板21により保持部50が構成され、導入口13aから細胞を含む液体を導入すると、貫通部13cを通じて保持部50へ細胞200が導入される。電極22はスペーサ13上部に密着して設けており、導入口13aから導入した、細胞200を含む液体の飛散や蒸発を防止している。なお、保持部50に保持した細胞200の回収を容易にするため、電極22はスペーサ13から取り外し可能な構造となっている。
【0020】
次に、
図1および
図2に示す基板を備えた装置を用いた、本発明の細胞の検出および回収方法の一例について
図3を用いて説明する。
【0021】
(1-1)細胞を標識する工程
検出対象細胞が有するタンパク質を認識する標識タンパク質を含む溶液を試料に添加することで、当該細胞と前記標識タンパク質との複合体を形成させる。
【0022】
(1-2)保持部へ細胞を導入する工程
図1に示す基板100に設けた導入口13aから、標識タンパク質300と結合した検出対象細胞210および夾雑細胞220を含む試料を導入し、誘電泳動力60を利用してこれら細胞を保持部50へ導入させる。具体的には、信号発生器40から電極21・22へ交流電圧を印加することで誘電泳動力60を発生させ、保持部50へ検出対象細胞210および夾雑細胞220を導入する。信号発生器40から電極21・22へ印加する交流電圧は、保持部50に保持された細胞の充放電が周期的に繰り返される波形を有した交流電圧とすると好ましく、周波数を100kHz以上3MHz以下とし、電界強度を1×10
5以上5×10
5V/m以下と特に好ましい。
【0023】
(1-3)溶媒置換工程
導入口13aから、置換溶媒を導入することで、排出口13bより残存試料が排出され、共に保持部50内空間を置換溶媒で置換される。本工程により、検出対象細胞210のうち死細胞を選択的に除去できる。
【0024】
(1-4)検出対象細胞210を検出する工程
基板を移動させる手段(図示せず)で基板をXY軸方向に移動させながら、検出部400および計測部により、検出対象細胞210に結合した標識タンパク質由来の蛍光または発光および位置情報を取得し、検出対象細胞210の位置を検出する。
【0025】
(1-5)検出対象細胞210を回収する工程
検出部400および計測部により検出した検出対象細胞210を回収するために、電極22をスペーサ13から取り外した後、キャピラリ500で吸引することで、基板100から検出対象細胞210を回収する。電極22を取り外す際は、スペーサ13を剥がさないよう取り外す必要がある。もしスペーサ13が絶縁体12から剥がれると、装置内に保持されている溶液が系外に流れてしまい、検出対象細胞210が破壊されるからである。
検出対象細胞210の吸引は、基板を移動させる手段およびノズルを移動させる手段(ともに図示せず)を用いて前記(1-3)の工程で検出した検出対象細胞210が保持されている保持部へキャピラリ500の中心を移動させ、キャピラリ500により液を吸引することで検出対象細胞210を回収する。なお、キャピラリ500による検出対象細胞210の吸引位置を、検出対象細胞210を保持した保持部50の中心から水平方向に一定距離ずらした位置とすると、検出対象細胞210の吸引を容易に行なえるため好ましい。具体的には検出対象細胞210の吸引位置を、保持部50の中心から水平方向に保持部50の直径の0.1倍から2倍の長さ分(ただし隣接する保持部50間の距離の2分の1以下)ずらし、かつ保持部50の高さから垂直方向に保持部50の高さの0.01倍から2倍の高さ分高い位置とすると好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は当該例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1 溶媒置換による死細胞除去効果
(1)iPS細胞の調製
(1-1)ヒトiPS細胞株である201B7株(iPSアカデミアジャパン社製)を、iMatrix(ニッピ社製)をコートしたポリスチレンプレート(培養基材)上で、StemFit AK02N培地(タカラバイオ社製)を用いて培養した。
(1-2)PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後、TrypLE select(Thermo Fisher社製)とVersene Solution(Thermo Fisher社製)との混合液を添加し、10分間37℃で静置することによって、培養基材よりiPS細胞を剥離した。
(1-3)剥離したiPS細胞を、StemFit AK02N培地にY-27632(富士フイルム和光純薬社製:濃度10μM)を添加した培地(以下、StemF+Y培地)で回収した(iPS細胞サンプル)。
【0028】
(2)蛍光標識による染色
(2-1)(1)で作製した「iPS細胞サンプル」を、細胞核染色試薬であるHoechst 33342(富士フイルム和光純薬社製、1:500)と死細胞染色試薬であるSYTOX Green(Thermo Fisher社製、1:2000)とを含むStemF+Y培地に30分間室温で浸し染色した。
(2-2)染色後、250mM Sucrose(富士フイルム和光純薬社製)、10mM HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid、同仁化学研究所社製)および1%(w/v)BSA(Merck社製)を含む電気伝導度の低い等張液(以下、DEPB1)を添加し、遠心分離(160×g、5分間)した。
(2-3)上清を除去し、新たにDEPB1を添加して遠心分離する操作を2回繰り返することで洗浄作業を行ない、得られたペレットをDEPB1に懸濁させた。
【0029】
(3)誘電泳動の実施と溶媒置換前の細胞画像取得
(3-1)
図1および
図2に示す構成からなる基板100に(2-3)で得られた懸濁液を導入した。本実施例で用いた基板100が有する細胞保持手段10には、直径30μm、深さ40μmの保持部50を中心間距離50μmの間隔で格子状に設けている。
(3-2)信号発生器40より周波数1KHzの交流電圧を、電極21・22に10分間印加することで、誘電泳動力を用いた保持部50への細胞保持を行なった。
(3-3)保持部50に保持された細胞の有する蛍光(Hoechst 33342およびSYTOX Green)を、蛍光顕微鏡(IX83、オリンパス社製)を用いてCMOSカメラで撮影した。
【0030】
(4)溶媒置換
基板100が有する導入口13aからDEPB1またはミネラルオイル(Merck社製)を導入し、排出口13bから基板内余剰溶液を排出することで、保持部50を含む基板内空間の溶液全てを置換した。
【0031】
(5)溶媒置換後の細胞画像取得
保持部50に保持された細胞の有する蛍光(Hoechst 33342およびSYTOX Green)を、蛍光顕微鏡(IX83、オリンパス社製)を用いてCMOSカメラで撮影した。
【0032】
(6)溶媒置換前後での細胞の移動率算出
(3)および(5)で取得した細胞数を比較し、以下に示す除去率を算出した。また、Hoechst 33342陽性の細胞は生細胞を示し、SYTOX Green陽性の細胞は、死細胞を示す。
除去率[%]=100×[1-{(5)溶媒置換後の細胞数/(3)溶媒置換前の細胞数}]
結果を
図5に示す。(4)の溶媒置換をミネラルオイルで行なうことで、死細胞を選択的に除去できた(死細胞除去率:27.61%、生細胞除去率:3.13%)。一方、DEPB1で溶媒置換したときは、死細胞、生細胞ともほとんど除去されなかった(死細胞除去率:0.59%、生細胞除去率:0.24%)。
【0033】
実施例2 溶媒置換による保持部への細胞保持効果
(1)MCR-5細胞の調製
iPS細胞よりサイズの大きな細胞としてMRC-5細胞(ヒト胎児肺由来線維芽細胞:JCRB細胞バンクより分譲)(直径30μm程度)を選択した。MRC-5細胞を、10%(w/v)FBS(Fetal Bovine Serum)を含むDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)(富士フイルム和光純薬社製)を用いて培養後、実施例1(1-2)と同様な方法で剥離し、実施例1(1-3)と同様な方法で回収した(MRC-5細胞サンプル)。
【0034】
(2)細胞核染色試薬による染色
(2-1)実施例1(1)で作製した「iPS細胞サンプル」または本実施例(1)で作製した「MRC-5細胞サンプル」を、細胞核染色試薬Hoechst 33342(商品名)を含むStemF+Y培地に30分間室温で浸すことで染色した。
(2-2)染色操作後、DEPB1を添加し、遠心分離(160×g、5分間)した。
(2-3)上清を除去し、新たにDEPB1を添加して遠心分離する操作を2回繰り返することで洗浄作業を行ない、得られたペレットをDEPB1に懸濁させた。
【0035】
(3)保持部への細胞保持
(3-1)
図1および
図2に示す基板100に(3)で得られた懸濁液を導入した。前記基板100は、直径30μm、深さ40μmの保持部50を中心間距離50μmの間隔で格子状に設けている。
(3-2)信号発生器40より周波数1KHzの交流電圧を、電極21・22に10分間印加することで、誘電泳動力を用いた保持部50への細胞保持を行なった。
【0036】
(4)溶媒置換
基板100に設けた導入口13aから、DEPB1またはミネラルオイル(Merck社製)を導入し、排出口13bから余剰溶液を排出することによって保持部50内空間の溶媒を置換した。
【0037】
(5)細胞画像取得
保持部50に保持された細胞が有する、細胞核染色試薬(Hoechst 33342)由来の蛍光を、蛍光顕微鏡を用いてCMOSカメラで撮影した。当該撮影後、電極22を除去し、再び蛍光顕微鏡を用いて蛍光染色画像を撮影した。電極22除去前後における細胞の位置を比較し、以下に示す式で移動率を算出した。
移動率[%]=100×[1-{電極除去前後で位置が移動しなかった細胞数/電極除去前で検出した細胞数}]
結果を
図6に示す。(4)の溶媒置換をDEPB1で行なったとき、電極22除去操作により、iPS細胞では3.79%が、MRC-5細胞では23.65%が、それぞれ移動した。一方、(4)の溶媒置換をミネラルオイルで行なったときは、電極22除去操作を行なっても、iPS細胞で0.1%、MRC-5細胞で1.67%と、ほとんど移動しなかった。
【0038】
実施例3 天板除去に伴う細胞の移動率に対する流動パラフィン置換の効果
(1)実施例1(1)で作製した「iPS細胞サンプル」を、実施例2(2)に記載の方法で細胞核染色試薬で染色し、実施例2(3)に記載の方法で保持部へ細胞を保持させた。
(2)置換溶媒を、250mM Sucrose、2.5mM HEPES、0.5 mM MgCl
2(ナカライテスク社製)および1%(v/v)Pluronic F―68(Thermo Fisher社製)を含む電気伝導度の低い等張液(以下、DEPB2)、または流動パラフィン(低粘度タイプ:ナカライテスク社製)とした他は、実施例2(4)と同様な方法で溶媒置換した。
(3)実施例2(5)と同様な方法で、電極22除去前後の蛍光画像を取得し、移動率を算出した。
結果を
図7に示す。(2)の溶媒置換をDEPB2で行なったとき、電極22除去操作により6.65%が移動していたが、(2)の溶媒置換を流動パラフィンで行なったときは、電極22除去操作を行なっても移動率は0.15%であった。
【符号の説明】
【0039】
100:基板
10:細胞導入保持手段
11:遮光部材
12:絶縁体
11a、12a:貫通孔
13:スペーサ
13a:導入口
13b:排出口
13c:貫通部
21・22:電極基板
30:導線
40:信号発生器(交流電圧)
50:保持部
60:誘電泳動力
200:細胞
210:検出対象細胞
220:夾雑細胞
300:標識タンパク質
400:検出部(蛍光顕微鏡)
500:キャピラリ