IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許7443768封止用エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】封止用エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20240228BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240228BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20240228BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20240228BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20240228BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240228BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K5/20
C08K3/36
C08K3/38
C08G59/20
C08G59/40
H01L23/30 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019510061
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018013018
(87)【国際公開番号】W WO2018181601
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2017063910
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 慧地
(72)【発明者】
【氏名】姜 東哲
(72)【発明者】
【氏名】土田 悟
(72)【発明者】
【氏名】山浦 格
(72)【発明者】
【氏名】田中 実佳
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-191754(JP,A)
【文献】特開平10-324794(JP,A)
【文献】特開2010-280805(JP,A)
【文献】特開2006-249377(JP,A)
【文献】特開2005-041928(JP,A)
【文献】特開2005-290076(JP,A)
【文献】特開2002-309067(JP,A)
【文献】特開2002-265571(JP,A)
【文献】特開昭58-075853(JP,A)
【文献】特開2011-236303(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192499(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08G
H01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材及び(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物を含み、
前記(D)無機充填材は、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素及び窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つの特定の無機充填材と、溶融シリカと、を含み、
前記(D)無機充填材における前記特定の無機充填材の含有率は、前記(D)無機充填材全量に対し、70質量%以上[1250/1450]×100質量%以下であり、
前記(A)エポキシ樹脂は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂及びビフェニル型エポキシ樹脂を含み、
前記(B)硬化剤は、トリフェニルメタン型フェノール樹脂を含み、
前記(A)エポキシ樹脂中の官能基数に対する前記(B)硬化剤中の官能基数の比は、0.5~1.5であり、
前記(D)無機充填材の含有率は、エポキシ樹脂組成物全量に対し、75質量%~97質量%であり、
前記(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物は、オレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド及びメチレンビスステアリン酸アミドからなる群より選択される少なくとも一つを含む封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物の含有率は、全量に対し、0.02質量%~1.0質量%である請求項1に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
素子と、前記素子を封止する請求項1又は2に記載の封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物とを備える電子部品装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用エポキシ樹脂組成物及び電子部品装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高度化及び軽薄短小化が求められる中、半導体素子の高集積化及び表面実装化が進んでいる。これに伴い、封止用エポキシ樹脂組成物への要求は益々厳しくなっているのが現状である。特に半導体装置の薄型化及び多ピン化に際しては、半導体素子を封止する際に成形金型におけるエポキシ樹脂組成物の流路が極めて狭くなるため、より流動性に優れたエポキシ樹脂組成物が必要となる。また、半導体素子の高集積化によって素子自体の発熱量は増加し、誤作動の発生、素子の低寿命化等が懸念される。このため、エポキシ樹脂組成物を硬化させた際、熱伝導性に優れることが望ましい。
【0003】
エポキシ樹脂組成物を硬化させた際に熱伝導性を向上させる手法としては、熱伝導性フィラのエポキシ樹脂組成物中の充填量を増やす方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-211225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱伝導性フィラ等の無機充填材をエポキシ樹脂組成物に配合した場合、エポキシ樹脂組成物の流動性が低下し、更に、無機充填材をエポキシ樹脂組成物に多量に配合した場合、エポキシ樹脂組成物の流動性の低下がより顕著となる。そこで、エポキシ樹脂組成物に無機充填材を配合した場合における流動性の低下を抑制することが望ましい。
【0006】
本発明の一形態は、流動性に優れた封止用エポキシ樹脂組成物、及びこれを用いて封止された素子を備える電子部品装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
【0008】
<1> (A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材及び(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物を含む封止用エポキシ樹脂組成物。
【0009】
<2> 前記(D)無機充填材は、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素及び窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つの特定の無機充填材を含む<1>に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【0010】
<3> 前記(D)無機充填材における前記特定の無機充填材の含有率は、前記(D)無機充填材全量に対し、70質量%以上である<2>に記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【0011】
<4> 前記(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物の含有率は、全量に対し、0.02質量%~1.0質量%である<1>~<3>のいずれか1つに記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【0012】
<5> 前記(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物は、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンエルカ酸アミド、m-キシレンビスエルカ酸アミド、p-フェニレンビスエルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、及びエチレンビスラウリン酸アミドからなる群より選択される少なくとも一つの化合物を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の封止用エポキシ樹脂組成物。
【0013】
<6> 素子と、前記素子を封止する<1>~<5>のいずれか1つに記載の封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物とを備える電子部品装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一形態によれば、流動性に優れた封止用エポキシ樹脂組成物、及びこれを用いて封止された素子を備える電子部品装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0016】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
【0017】
〔封止用エポキシ樹脂組成物〕
本開示の封止用エポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材及び(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物を含む。これにより、流動性に優れた封止用エポキシ樹脂組成物が提供される。また、本開示の封止用エポキシ樹脂組成物は、例えば、電子部品装置を封止するために用いられる。
【0018】
[(A)エポキシ樹脂]
本開示の封止用エポキシ樹脂組成物(以下、「エポキシ樹脂組成物」とも称する。)は、(A)エポキシ樹脂を含む。(A)エポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を有するものであればその種類は特に制限されない。
【0019】
(A)エポキシ樹脂として具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものであるノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等);上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるトリフェニルメタン型エポキシ樹脂;上記フェノール化合物及びナフトール化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド化合物とを酸性触媒下で共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものである共重合型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF等のジグリシジルエーテルであるジフェニルメタン型エポキシ樹脂;アルキル置換又は非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン系フェノール化合物のジグリシジルエーテルであるスチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールS等のジグリシジルエーテルである硫黄原子含有エポキシ樹脂;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテルであるエポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ダイマー酸等の多価カルボン酸化合物のグリシジルエステルであるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アニリン、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したものであるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノール化合物の共縮合樹脂をエポキシ化したものであるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;分子内のオレフィン結合をエポキシ化したものであるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるパラキシリレン変性エポキシ樹脂;メタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるメタキシリレン変性エポキシ樹脂;テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるテルペン変性エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルである多環芳香環変性エポキシ樹脂;ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるナフタレン型エポキシ樹脂;ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるアラルキル型エポキシ樹脂;などが挙げられる。更にはシリコーン樹脂のエポキシ化物、アクリル樹脂のエポキシ化物等もエポキシ樹脂として挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量(分子量/エポキシ基数)は、特に制限されない。成形性、耐リフロー性、電気的信頼性等の各種特性バランスの観点からは、100g/eq~1000g/eqであることが好ましく、150g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
【0021】
(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236:2009に準じた方法で測定される値とする。
【0022】
(A)エポキシ樹脂の融点又は軟化点は、特に制限されない。成形性と耐リフロー性の観点からは40℃~180℃であることが好ましく、エポキシ樹脂組成物の調製の際の取扱い性の観点からは50℃~130℃であることがより好ましい。
【0023】
(A)エポキシ樹脂の融点又は軟化点は、JIS K 7234:1986及びJIS K 7233:1986に記載の単一円筒回転粘度計法により測定される値とする。
【0024】
エポキシ樹脂組成物中の(A)エポキシ樹脂の含有率は、強度、流動性、耐熱性、成形性等の観点から0.5質量%~30質量%であることが好ましく、2質量%~20質量%であることがより好ましく、3質量%~15質量%であることが更に好ましく、5質量%~10質量%であることが特に好ましい。
【0025】
[(B)硬化剤]
本開示のエポキシ樹脂組成物は、(B)硬化剤を含む。硬化剤の種類は特に制限されず、(A)エポキシ樹脂の種類、エポキシ樹脂組成物の所望の特性等に応じて選択できる。
【0026】
(B)硬化剤として具体的には、フェノール硬化剤、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、ブロックイソシアネート硬化剤等が挙げられる。耐熱性向上の観点からは、硬化剤は、フェノール硬化剤が好ましい。
【0027】
フェノール硬化剤として具体的には、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノール、クレゾール、キシレノール、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル等とから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂;メタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジシクロペンタジエンとから共重合により合成されるジシクロペンタジエン型フェノール樹脂及びジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;ビフェニル型フェノール樹脂などが挙げられる。これらのフェノール硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
(B)硬化剤の官能基当量(フェノール硬化剤の場合は水酸基当量)は、特に制限されない。成形性、耐リフロー性、電気的信頼性等の各種特性バランスの観点からは、70g/eq~1000g/eqであることが好ましく、80g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
【0029】
フェノール硬化剤の水酸基当量は、JIS K 0070:1992に準じた方法により測定される値とする。
【0030】
(B)硬化剤の融点又は軟化点は、特に制限されない。成形性と耐リフロー性の観点からは、40℃~180℃であることが好ましく、エポキシ樹脂組成物の製造時における取扱い性の観点からは、50℃~130℃であることがより好ましい。
【0031】
(B)硬化剤の融点又は軟化点は、JIS K 7234:1986及びJIS K 7233:1986に記載の単一円筒回転粘度計法により測定される値とする。
【0032】
(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤との当量比、すなわち(A)エポキシ樹脂中の官能基数に対する(B)硬化剤中の官能基数の比((B)硬化剤中の官能基数/(A)エポキシ樹脂中の官能基数)は、特に制限されない。それぞれの未反応分を少なく抑える観点からは、0.5~1.5の範囲に設定されることが好ましく、0.6~1.3の範囲に設定されることがより好ましく、0.7~1.2の範囲に設定されることが更に好ましい。
【0033】
[(C)硬化促進剤]
本開示のエポキシ樹脂組成物は、(C)硬化促進剤を含む。硬化促進剤の種類は特に制限されず、(A)エポキシ樹脂の種類、エポキシ樹脂組成物の所望の特性等に応じて選択できる。
【0034】
(C)硬化促進剤として具体的には、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、1,5-ジアザ-ビシクロ(4,3,0)ノネン、5,6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類及びこれらの誘導体、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類及びこれらの誘導体、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン類及びこれらのホスフィン類に無水マレイン酸、ベンゾキノン、ジアゾフェニルメタン等のπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有するリン化合物、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、N-メチルテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンとベンゾキノンの付加物、トリパラトリルホスフィンとベンゾキノンの付加物、トリフェニルホスホニウムトリフェニルボランなどが挙げられる。これらの硬化促進剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
エポキシ樹脂組成物中の(C)硬化促進剤の含有率は硬化促進効果が得られれば特に限定されない。エポキシ樹脂組成物中の(C)硬化促進剤の含有率は、(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤の合計量に対して、0.1質量%~8.0質量%であることが好ましく、0.5質量%~5.0質量%であることがより好ましく、1.0質量%~3.0質量%であることが更に好ましい。(C)硬化促進剤の含有率が(A)エポキシ樹脂と(B)硬化剤の合計量に対して、0.1質量%以上であると、硬化時間の短縮化が図れる傾向にあり、8.0質量%以下であると、硬化速度が速すぎず良好な成形品が得られる傾向にある。
【0036】
[(D)無機充填材]
本開示のエポキシ樹脂組成物は、(D)無機充填材を含む。(D)無機充填材を含むことにより、硬化物とした際に吸湿性低減及び強度向上を図ることができる。
【0037】
(D)無機充填材は、エポキシ樹脂組成物を硬化物とした際の熱伝導性を高める観点から、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、炭化ケイ素及び窒化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一つの無機充填材(以下、「特定の無機充填材」とも称する。)を含むことが好ましい。
【0038】
(D)無機充填材における特定の無機充填材の含有率は、エポキシ樹脂組成物を硬化物とした際の熱伝導性をより高める観点から、(D)無機充填材全量に対し、70質量%以上であることが好ましく、75質量%~95質量%であることがより好ましく、80質量%~90質量%であることが更に好ましい。
【0039】
また、(D)無機充填材における特定の無機充填材の含有率は、エポキシ樹脂組成物を硬化物とした際の熱伝導性をより高める観点から、エポキシ樹脂組成物全量に対し、60質量%以上であることが好ましく、70質量%~90質量%であることがより好ましく、75質量%~80質量%であることが更に好ましい。
【0040】
(D)無機充填材は、前述の特定の無機充填材以外のその他の無機充填材を含んでいてもよい。その他の無機充填材としては、溶融シリカ、結晶シリカ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、ベリリア、ジルコニア、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア等の粉体又はこれらを球形化したビーズ、チタン酸カリウム等の単結晶繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などが挙げられる。中でも、線膨張係数低減の観点から、溶融シリカが好ましい。また、その他の無機充填材としては、難燃効果の観点から、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、水酸化マグネシウム等が挙げられる。その他の無機充填材は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
エポキシ樹脂組成物における(D)無機充填材の含有率は、吸湿性、線膨張係数の低減、強度向上及び半田耐熱性の観点から、エポキシ樹脂組成物全量に対し、75質量%~97質量%であることが好ましく、80質量%~95質量%であることがより好ましく、85質量%~92質量%であることが更に好ましい。
【0042】
なお、(D)無機充填材の形状は特に限定されず、例えば、粉状、球状、繊維状等が挙げられる。中でも、エポキシ樹脂組成物の成形時の流動性及び金型摩耗性の点からは、球形が好ましい。
【0043】
[(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物]
本開示のエポキシ樹脂組成物は、(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物を含む。(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物を含むことにより、エポキシ樹脂組成物の流動性が向上する。なお、エポキシ樹脂組成物の流動性の向上は、(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物が(A)エポキシ樹脂、(D)無機充填材等の分散性を向上させることにより生じると推察される。
【0044】
(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物として具体的には、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド等のモノアミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、メチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド、m-キシレンビスエルカ酸アミド、p-フェニレンビスエルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビスアミドが挙げられる。炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、流動性の観点から、オレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド及びメチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
【0045】
炭素数17以上の脂肪酸アミド化合物を用いることにより、(A)エポキシ樹脂との相溶性が高くなりすぎることを抑制でき、硬化阻害の発生による金型からの離型性の低下を抑制することができる傾向にある。更に、エポキシ樹脂組成物の硬化物の吸水率が大きくなり、耐半田クラック性に悪影響を及ぼすことも抑制される傾向にある。
【0046】
炭素数50以下の脂肪酸アミド化合物を用いることにより、(A)エポキシ樹脂との相溶性の低下及び流動性の低下が抑制される傾向にある。更に、成形時にエポキシ樹脂組成物から脂肪酸アミド化合物が染み出すことによる金型汚れ及び基板との接着力低下を抑制できる傾向にある。
【0047】
本開示のエポキシ樹脂組成物は、(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物として炭素数17~44の脂肪酸アミド化合物を含んでいてもよく、炭素数17~40の脂肪酸アミド化合物を含んでいてもよい。
【0048】
なお、脂肪酸アミド化合物における炭素数は、化合物中の炭化水素部分の炭素数を指し、アミド基の炭素数は含まないものとする。また、炭化水素部分の水素は、別の官能基に置換されていてもよい。
【0049】
また、(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物としては、二重結合を有する不飽和脂肪酸アミドであってもよく、二重結合を有しない飽和脂肪酸アミドであってもよい。(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物としては、分子内に芳香環を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0050】
エポキシ樹脂組成物における(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物の含有率は、特に限定されず、例えば流動性の観点から、エポキシ樹脂組成物全量に対し、0.02質量%~1.0質量%であることが好ましく、0.1質量%~0.8質量%であることがより好ましく、0.3質量%~0.7質量%であることが更に好ましい。
【0051】
また、エポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲において、炭素数16以下の脂肪酸アミド化合物を含んでいてもよく、炭素数51以上の脂肪酸アミド化合物を含んでいてもよい。
【0052】
[その他の成分]
本開示のエポキシ樹脂組成物は、前述の(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)硬化促進剤、(D)無機充填材及び(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、本発明の効果を奏する範囲において特に限定されず、パラフィン、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩等の離型剤;シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤;臭素化エポキシ樹脂、リン化合物等の難燃剤;三酸化アンチモン、四酸化アンチモン等の難燃助剤;カーボンブラック、酸化鉄等の着色剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム、合成ゴム等の応力緩和剤;酸化防止剤などの各種添加剤が挙げられる。
【0053】
[エポキシ樹脂組成物の調製方法]
エポキシ樹脂組成物の調製方法は、特に制限されない。一般的な手法としては、所定の配合量の成分をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練し、冷却し、粉砕する方法を挙げることができる。より具体的には、例えば、上述した成分の所定量を撹拌及び混合し、予め70℃~140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダー等で混練し、冷却し、粉砕する方法を挙げることができる。
【0054】
〔電子部品装置〕
本開示の電子部品装置は、素子と、前記素子を封止する上述の封止用エポキシ樹脂組成物の硬化物とを備える。
電子部品装置としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ、有機基板等の支持部材に、素子(半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子など)を搭載して得られた素子部をエポキシ樹脂組成物で封止したものが挙げられる。
より具体的には、リードフレーム上に素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部とをワイヤボンディング、バンプ等で接続した後、エポキシ樹脂組成物を用いてトランスファ成形等によって封止した構造を有するDIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J-lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型IC(Integrated Circuit);テープキャリアにバンプで接続した素子をエポキシ樹脂組成物で封止した構造を有するTCP(Tape Carrier Package);支持部材上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、はんだ等で接続した素子を、エポキシ樹脂組成物で封止した構造を有するCOB(Chip On Board)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール等;裏面に配線板接続用の端子を形成した支持部材の表面に素子を搭載し、バンプ又はワイヤボンディングにより素子と支持部材に形成された配線とを接続した後、エポキシ樹脂組成物で素子を封止した構造を有するBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)、MCP(Multi Chip Package)などが挙げられる。また、プリント配線板においてもエポキシ樹脂組成物を好適に使用することができる。
【0055】
エポキシ樹脂組成物を用いて電子部品装置を封止する方法としては、低圧トランスファ成形法、インジェクション成形法、圧縮成形法等が挙げられる。これらの中では、低圧トランスファ成形法が一般的である。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[エポキシ樹脂組成物の調製]
下記に示す成分を表1及び表2に示す配合割合(質量部)で予備混合(ドライブレンド)した後、二軸ロール(ロール表面約95℃)で約5分間混練し、冷却粉砕して実施例と比較例のエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0058】
(A)エポキシ樹脂
・E1・・・ビスフェノール型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学株式会社、品名「YSLV-80XY」
・E2・・・多官能エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社、品名「1032H60」
・E3・・・ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社、品名「YX-4000」
(B)硬化剤
・H1・・・多官能フェノール樹脂、エア・ウォーター株式会社、品名「HE910」
・H2・・・フェノール樹脂、明和化成株式会社、品名「MEH-7500」
・H3・・・ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、エア・ウォーター株式会社、品名「HE200C」
(C)硬化促進剤
・リン系硬化促進剤
(D)無機充填材
・溶融シリカ(体積平均粒子径7.6μmのシリカ粒子)
・アルミナ(体積平均粒子径1.4μmのアルミナ粒子)
(E)炭素数17~50の脂肪酸アミド化合物
・FA1・・・オレイン酸アミド(炭素数17の不飽和脂肪酸アミド)
・FA2・・・ステアリン酸アミド(炭素数17の飽和脂肪酸アミド)
・FA3・・・エチレンビスオレイン酸アミド(炭素数36の不飽和脂肪酸アミド)
・FA4・・・エチレンビスラウリン酸アミド(炭素数24の飽和脂肪酸アミド)
・FA5・・・メチレンビスステアリン酸アミド(炭素数35の飽和脂肪酸アミド)
【0059】
(流動性の評価)
エポキシ樹脂組成物の流動性の評価は、スパイラルフロー試験により行った。
具体的には、EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いてエポキシ樹脂組成物を成形し、エポキシ樹脂組成物の成形物の流動距離(cm)を測定した。エポキシ樹脂組成物の成形は、トランスファ成形機を用い、金型温度175℃、注入圧力7.5MPa、硬化時間120秒の条件下で行った。結果を表1に示す。
【0060】
(熱伝導率の評価)
エポキシ樹脂組成物の熱伝導率の評価を以下のようにして行った。
まず、調製したエポキシ樹脂組成物を用いて、熱伝導率測定用のエポキシ樹脂組成物を成形した。熱伝導率測定用のエポキシ樹脂組成物の成形は、真空ハンドプレス成形機を用い、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間10分の条件下で行った。上記方法で1cm×1cm×0.1cmに成形した硬化物の厚さ方向の熱拡散率を測定した。熱拡散率の測定はレーザーフラッシュ法(装置:LFA467 HyperFlash、ネッチ・ジャパン株式会社製)にて行った。パルス光照射は、パルス幅0.1(ms)、印加電圧247Vの条件で行った。測定は雰囲気温度25℃±1℃で行った。次いで、式(1)を用いて比熱、密度を熱拡散率に乗算することによって,熱伝導率の値を得た。
λ=α×Cp×ρ・・・式(1)
(式(1)中、λは熱伝導率(W/(m・K))、αは熱拡散率(m/s)、Cpは比熱(J/(kg・K))、ρは密度(d:kg/m)をそれぞれ示す。)
エポキシ樹脂組成物の熱伝導率の測定結果を表1及び表2に示す。比較例1の熱伝導率を標準とし、熱伝導率が同等以上のものをA、それ未満のものをBとした。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1及び表2に示すように、実施例1~5では、比較例1及び2よりもエポキシ樹脂組成物の流動性に優れていた。
更に、実施例1~5では、エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が、比較例1と同等以上であり、かつ、比較例2よりも優れていた。
【0064】
2017年3月28日に出願された日本国特許出願2017-063910の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的且つ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。