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  • 特許-ヒトFcγRIIIaの保存溶液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ヒトFcγRIIIaの保存溶液
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/705 20060101AFI20240228BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20240228BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C07K14/705 ZNA
C07K1/16
C12N15/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020015961
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021123538
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 遼子
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/083048(WO,A1)
【文献】ACS Chem. Biol.,2018年,Vol.13,pp.2179-2189
【文献】Scientific Reports,2018年,Vol.8, No.3955,pp.1-10, Supplimental Information
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトFcγRIIIaの保存溶液であって、3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールを含む、前記保存溶液であって、
ヒトFcγRIIIaが、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリペプチドである、前記保存用溶液
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸残基において、さらに1から10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
ヒトFcγRIIIaと3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールとを接触させる工程を含む、ヒトFcγRIIIaの安定化方法であって、
ヒトFcγRIIIaが、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリペプチドである、前記安定化方法
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸残基において、さらに1から10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
ヒトFcγRIIIaが、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリペプチドであって、
当該ヒトFcγRIIIaを含む溶液をクロマトグラフィ用担体充填カラムにアプライし、当該担体にヒトFcγRIIIaを吸着させる工程と、溶出緩衝液を前記カラムにアプライし、前記担体に吸着したヒトFcγRIIIaを溶出させる工程と、
溶出したヒトFcγRIIIaを含む画分を回収する工程と、
回収した画分を保存する工程とを含む、ヒトFcγRIIIaの製造方法であって、
保存する工程を請求項1に記載の保存溶液で保存する、前記製造方法。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸残基において、さらに1から10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FcγRIIIaの保存溶液に関する。特に本発明は、ヒトFcγRIIIaを沈殿させることなく保存可能な、ヒトFcγRIIIaの保存溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
Fcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。個々の分子は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する認識ドメインによって、単一の、または同じグループの免疫グロブリンイソタイプをFcレセプター上の認識ドメインによって認識している。これによって、免疫応答においてどのアクセサリー細胞が動因されるかが決まってくる。Fcレセプターは、さらにいくつかのサブタイプに分類することができ、IgG(免疫グロブリンG)に対するレセプターであるFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある。また各レセプターは更に細かく分類されており、Fcγレセプターは、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIa、FcγRIIIbの存在が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
Fcγレセプターの中でも、FcγRIIIaはナチュラルキラー細胞(NK細胞)やマクロファージなどの細胞表面に存在しており、ヒト免疫機構の中でも重要なADCC(抗体依存性細胞傷害)活性に関与している重要なレセプターである。このFcγRIIIaとヒトIgGとの親和性は結合の強さを示すK値が10-7M以下であることが報告されている(非特許文献2)。また、抗体の糖鎖構造の違いにより、FcγRIIIaと抗体との結合性が異なることが知られている(非特許文献3)。
【0004】
天然型のヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列(配列番号1)はUniProt(Accession number:P08637)などの公的データベースに公表されている。また、ヒトFcγRIIIaの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されている。図1にヒトFcγRIIIaの構造略図を示す。なお、図1中の番号はアミノ酸番号を示しており、その番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から16番目のアラニン(Ala)までがシグナル配列(S)、17番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までが細胞外領域(EC)、209番目のバリン(Val)から229番目のバリン(Val)までが細胞膜貫通領域(TM)および230番目のリジン(Lys)から254番目のリジン(Lys)までが細胞内領域(C)とされている。なおFcγRIIIaはIgG1からIgG4まであるヒトIgGサブクラスのうち、特にIgG1とIgG3に対し強く結合する一方、IgG2とIgG4に対する結合は弱いことが知られている。
【0005】
ヒトFcγRIIIaは抗体の糖鎖構造を認識するため、ヒトFcγRIIIaを不溶性担体に固定化して得られる吸着剤は、抗体をその糖鎖構造に基づく結合性の違いにより分離できる(特許文献1および2)。抗体の糖鎖構造は、抗体医薬品における薬効や安定性に大きく関与するため、抗体医薬品を製造する際に糖鎖構造を制御することは極めて重要である。このため前記吸着剤は、抗体医薬品製造時の工程分析や分取に有用である。
【0006】
ヒトFcγRIIIaは、ヒトFcγRIIIaをコードする遺伝子を挿入した遺伝子組換え大腸菌を培養し、得られた培養液を陽イオン交換クロマトグラフィに供することで、高純度かつ高効率に製造できる(特許文献3)。しかしながら、特にアミノ酸置換によりアルカリ耐性を向上させたヒトFcγRIIIaにおいて、前記クロマトグラフィの溶出画分に含まれるヒトFcγRIIIaが沈殿してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-086216号公報
【文献】特開2016-169197号公報
【文献】特開2016-183113号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Takai.T.,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318-326,2005
【文献】J.Galon等,Eur.J.Immunol.,27,1928-1932,1997
【文献】C.L.Chen等,ACS Chem. Biol.,12,1335-1345,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ヒトFcγRIIIa(特にアミノ酸置換によりアルカリ耐性を向上させたヒトFcγRIIIa)を、沈殿させることなく安定に保存可能なヒトFcγRIIIaの安定化方法および保存溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒトFcγRIIIaに終濃度3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールを含ませることで、ヒトFcγRIIIaの沈殿が生じないことを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]から[4]に記載の態様を包含する。
【0012】
[1]
ヒトFcγRIIIaの保存溶液であって、3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールを含む、前記保存溶液。
【0013】
[2]
ヒトFcγRIIIaと3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールとを接触させる工程を含む、ヒトFcγRIIIaの安定化方法。
【0014】
[3]
ヒトFcγRIIIaを含む溶液をクロマトグラフィ用担体充填カラムにアプライし、当該担体にヒトFcγRIIIaを吸着させる工程と、
溶出緩衝液を前記カラムにアプライし、前記担体に吸着したヒトFcγRIIIaを溶出させる工程と、
溶出したヒトFcγRIIIaを含む画分を回収する工程と、
回収した画分を保存する工程とを含む、ヒトFcγRIIIaの製造方法であって、
保存する工程を[1]に記載の保存溶液で保存する、前記製造方法。
【0015】
[4]
ヒトFcγRIIIaが、以下の(a)から(c)のいずれかに記載のポリペプチドである、[1]に記載の保存溶液。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のヒトFcγRIIIaの保存溶液は、ヒトFcγRIIIaを含む溶液に終濃度で3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールを含ませることを特徴としており、当該溶液中に存在するヒトFcγRIIIaが沈殿するのを抑制できる。なおヒトFcγRIIIaの保存溶液に含ませるグリセロールを終濃度5%(w/v)から40%(w/v)までの範囲とすると好ましい。
【0018】
一態様として、未精製、粗精製または精製済のヒトFcγRIIIaを含む溶液に、前述した濃度のグリセロールを添加することでヒトFcγRIIIaを安定化することができる。
また別の態様として、後述する本発明のヒトFcγRIIIaの製造方法を実施する場合は、溶出緩衝液に前述した濃度のグリセロールを添加することで、溶出したヒトFcγRIIIaを安定化することができる。
【0019】
ここで、「安定化」とはヒトFcγRIIIaの沈殿が生じにくいことを意味する。
【0020】
本発明のヒトFcγRIIIaの製造方法では、クロマトグラフィ用担体充填カラムを用いた精製工程を含む。前記カラムにアプライする、ヒトFcγRIIIaを含む溶液の一例として、ヒトFcγRIIIaをコードするポリヌクレオチドを含む発現プラスミドで形質転換した宿主(形質転換体)の培養液より粗精製したヒトFcγRIIIa溶液があげられる。
【0021】
ヒトFcγRIIIaを発現させるための宿主としては、COS細胞やCHO細胞に代表される動物細胞、バチルス属(ブレビバチルス属細菌やパエニバチルス属細菌のような広義のバチルス属細菌も含む)や大腸菌に代表される細菌、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属に代表される酵母、麹菌に代表される糸状菌などが利用できる。中でも取扱いの簡便な大腸菌を宿主とすると好ましい。なお宿主が大腸菌の場合は、特開2012-034591号公報および特開2013-085531号公報に開示した方法等により、形質転換体を培養することでヒトFcγRIIIaを発現させればよい。
【0022】
前記形質転換体の培養液から、クロマトグラフィ用担体充填カラムにアプライする、粗精製したヒトFcγRIIIa溶液を得るには、発現の形態によって適宜選択すればよい。例えば、発現したヒトFcγRIIIaが宿主細胞のペリプラズムに発現する場合は、培養液を遠心分離して得られる宿主細胞を適切な緩衝液で懸濁し細胞破砕(物理的破砕、薬剤による破砕など)後、遠心分離により破砕残渣を除去することで、発現したヒトFcγRIIIaを含む無細胞抽出液を得ればよく、発現したヒトFcγRIIIaが宿主細胞のペリプラズムから培養上清に漏出する場合は、培養液を遠心分離して得られる培養上清から発現したヒトFcγRIIIaを回収すればよい。なお薬剤により宿主細胞を破砕する際は、例えば、特開2013-252099号公報に開示した方法や、BugBuster Protein extraction kit(タカラバイオ社製)等の市販の抽出試薬を用いて破砕するとよい。
【0023】
本発明のヒトFcγRIIIaの製造方法で用いる、クロマトグラフィ用担体充填カラムは、当業者が通常タンパク質精製で用いるクロマトグラフィ用担体を充填したカラムであれば特に限定はなく、前記担体として、ゲル濾過クロマトグラフィ用担体、陽イオン交換クロマトグラフィ用担体、陰イオンクロマトグラフィ用担体、疎水クロマトグラフィ用担体、アフィニティクロマトグラフィ用担体が例示できる。中でも陽イオン交換クロマトグラフィ用担体が、本発明の製造法におけるクロマトグラフィ用担体として好ましい。
【0024】
陽イオン交換クロマトグラフィ用担体は、カルボキシメチル基、スルホプロピル基、スルホン酸基といった陽イオン交換基を担体に導入したものであれば特に限定はなく、具体例として、TOYOPEARL CM-650、TOYOPEARL SP-650、TOYOPEARL GigaCap S-650(以上、東ソー製)、CM Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア製)があげられる。なお、前記陽イオン交換クロマトグラフィ用担体を用いて、本発明の精製方法を実施する際は、前記担体へのヒトFcγRIIIaを含む溶液(アプライ液)の添加量や、前記担体のタンパク吸着性能等によって決定した量の担体を、適切なオープンカラム等に充填して行なえばよい。また、前記陽イオン交換クロマトグラフィ用担体は、アプライ液を添加する前に、あらかじめ、適切な緩衝液(Tris-HCl緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液、リン酸塩緩衝液等)で平衡化するとよい。
【0025】
本発明のヒトFcγRIIIaの精製方法を、陽イオン交換クロマトグラフィ用担体充填カラムを用いて行なう場合の具体例を以下に示す。
(I)前述した方法で得られた粗精製ヒトFcγRIIIa溶液を、あらかじめ平衡化した陽イオン交換クロマトグラフィ用担体充填カラムにアプライし、前記担体にヒトFcγRIIIaを吸着させる。
(II)塩化ナトリウムを含む洗浄液を前記カラムにアプライし、夾雑タンパク質を除去する。
(III)溶出緩衝液を前記カラムにアプライし、前記担体に吸着したヒトFcγRIIIaを溶出させる。溶出緩衝液としては前記洗浄液よりも高い塩化ナトリウムを含む緩衝液を用いればよい。また溶出緩衝液に終濃度3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールを含ませてもよい。
(IV)溶出したヒトFcγRIIIaを含む画分を回収し、保存する。なお(III)でグリセロールを含まない溶出緩衝液で溶出させた場合は、前記画分に終濃度3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールを含ませてから保存する。
【0026】
本発明におけるヒトFcγRIIIaの一例として、以下の(i)から(v)のいずれかに記載のポリペプチドがあげられる。
(i)配列番号1に記載の天然型ヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列のうち、細胞外領域(図1ではEC領域)の一部である、17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基のうち、1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド;
(iv)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸残基において、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド;
(v)配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該24番目から199番目までのアミノ酸配列に対して80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、の相同性を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0027】
前記(ii)および(iv)における、「1もしくは数個」とは、例えば、1から30個、1から20個、または1から10個(10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、1個)を意味してよい。
【0028】
前記(ii)の一例として、特開2015-086216号公報で開示のFc結合性タンパク質、特開2016-169197号公報で開示のFc結合性タンパク質、特開2017-118871号公報で開示のFc結合性タンパク質、特開2018-197224号公報で開示のFc結合性タンパク質、およびWO2019/083048号で開示のFc結合性タンパク質があげられる。
【0029】
中でも前記(iii)から(v)のいずれかに記載のポリペプチドは、溶液中で凝集/沈殿しやすい点で、本発明におけるヒトFcγRIIIaの好ましい態様である。なお前記(iii)から(v)に記載の、配列番号2に記載のアミノ酸配列の24番目のグリシンから199番目のグルタミンまでのアミノ酸残基とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基であり、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Glu21Gly(この表記は、配列番号1の21番目のグルタミン酸がグリシンに置換されていることを表す、以下同じ)、Leu23Met、Val27Glu、Phe29Ile、Gln33Pro、Tyr35Asn、Lys40Gln、Gln48Arg、Tyr51His、Glu54Asp、Asn56Asp、Ser65Arg、Ser68Pro、Tyr74Phe、Phe75Ile、Ala78Ser、Thr80Ser、Asn92Ser、Val117Glu、Lys119Val、Glu121Gly、Asp122Glu、Lys132Arg、Thr140Met、Tyr141Phe、Gly147Val、Tyr158Val、Lys165Glu、Phe171Ser、Val176Ile、Ser178Arg、Asn180Lys、Glu184Gly、Thr185Ala、Asn187AspおよびIle190Valのアミノ酸置換を有するアミノ酸残基である。
【0030】
なお、本発明の保存溶液には終濃度0.5M以上、好ましくは0.8M以上、1.5M以下、好ましくは1.0M以下となるように塩(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等)が含まれてよく、pH7.0~8.0、好ましくは7.5前後となるよう塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)が含まれてよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明はヒトFcγRIIIaの保存溶液として、3%(w/v)から45%(w/v)のグリセロールを含んだ溶液を用いることを特徴としている。本発明により、ヒトFcγRIIIaを沈殿させることなく、溶液中で安定に保存できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】ヒトFcγRIIIaの構造を示す図。
【実施例
【0033】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は前記例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1 ヒトFcγRIIIa(FcR36i_Cys)の製造(その1)
(1)WO2019/083048号に記載の方法で作製したFcR36i_Cys(配列番号2)を発現する形質転換体を、2Lのバッフルフラスコに入った100μg/mLのカルベニシリンを含む400mLの2YT液体培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。なおFcR36i_Cys(配列番号2)において、1番目のメチオニン(Met)から22番目のアラニン(Ala)までが改良PelBシグナルペプチド(UniProt No.P0C1C1の1番目から22番目までのアミノ酸残基からなるオリゴペプチドであって、ただし6番目のプロリンをセリンにアミノ酸置換したオリゴペプチド)であり、24番目のグリシン(Gly)から199番目のグルタミン(Gln)までがヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列(配列番号1に記載のアミノ酸配列の17番目から192番目までのアミノ酸残基であり、ただし当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において、Glu21Gly、Leu23Met、Val27Glu、Phe29Ile、Gln33Pro、Tyr35Asn、Lys40Gln、Gln48Arg、Tyr51His、Glu54Asp、Asn56Asp、Ser65Arg、Ser68Pro、Tyr74Phe、Phe75Ile、Ala78Ser、Thr80Ser、Asn92Ser、Val117Glu、Lys119Val、Glu121Gly、Asp122Glu、Lys132Arg、Thr140Met、Tyr141Phe、Gly147Val、Tyr158Val、Lys165Glu、Phe171Ser、Val176Ile、Ser178Arg、Asn180Lys、Glu184Gly、Thr185Ala、Asn187AspおよびIle190Valのアミノ酸置換を有するポリペプチドのアミノ酸配列)であり、200番目のグリシン(Gly)から207番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。
【0035】
(2)グルコース10g/L、酵母エキス20g/L、リン酸三ナトリウム十二水和物3g/L、リン酸水素二ナトリウム十二水和物9g/L、塩化アンモニウム1g/Lおよびカルベニシリン100mg/Lを含む液体培地1.8Lに、(1)の培養液180mLを接種し、3L発酵槽(バイオット製)を用いて本培養を行なった。温度30℃、pH6.9から7.1、通気量1VVM、溶存酸素濃度30%飽和濃度の条件に設定し、本培養を開始した。pHの制御には酸として50%リン酸、アルカリとして14%アンモニア水をそれぞれ使用し、溶存酸素の制御は撹拌速度を変化させることで制御し、撹拌回転数は下限500rpm、上限1000rpmに設定した。培養開始後、グルコース濃度が測定できなくなった時点で、流加培地(グルコース248.9g/L、酵母エキス83.3g/L、硫酸マグネシウム七水和物7.2g/L)を溶存酸素(DO)により制御しながら加えた。
【0036】
(3)菌体量の目安として600nmの吸光度(OD600nm)が約150に達したところで培養温度を25℃に下げ、設定温度に到達したことを確認した後、終濃度が0.5mMになるようIPTG(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside)を添加し、引き続き25℃で培養を継続した。
【0037】
(4)培養開始から約48時間後に培養を停止し、培養液を4℃で8000rpm、20分間の遠心分離により菌体を回収した。
【0038】
(5)組換え大腸菌の培養液より菌体を回収後、抽出液(1mMのEDTA、40mMの塩化ナトリウム、2mMの硫酸マグネシウム、250Unit/LのBenzonase(メルク製)、0.005%(w/v)のリゾチーム、および0.5%(w/v)のTriton X-100(商品名)を含む20mMのリン酸緩衝液(pH6.0)を用いて、菌体内に発現した前記タンパク質を抽出した。菌体抽出液から4℃で20分間、15,000rpmの遠心分離を2回行ない、FcR36i_Cys抽出液を得た。
【0039】
(6)(5)で得たFcR36i_Cys抽出液を、あらかじめ20mMのリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化した140mLの陽イオン交換クロマトグラフィ用担体(TOYOPEARL CM-650M、東ソー製)を充填したVL32×250カラム(メルクミリポア製)に流速13mL/分でアプライした。平衡化に用いた緩衝液で洗浄後、0.4Mの塩化ナトリウムを含む20mMのリン酸緩衝液(pH6.0)で洗浄することで、夾雑不純物を除去した。
【0040】
(7)0.7Mの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)でFcR36i_Cysを溶出した。溶出後のFcR36i_Cysは、濃度が1mg/mLとなるように0.7Mの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で希釈した。
【0041】
(8)(7)で得られた、濃度1mg/mLのFcR36i_Cys溶液に、塩濃度が0.8M以上になるように塩化ナトリウムを、pHが8.5になるように水酸化ナトリウム水溶液を、終濃度5%(w/v)となるようにグリセロールを、それぞれ添加し、4℃で4日間保存した。
【0042】
(9)(8)で保存後のFcR36i_Cys溶液の沈殿の有無を目視で確認した。
【0043】
実施例2 FcR36i_Cysの製造(その2)
実施例1(8)で添加するグリセロール濃度を終濃度で20%(w/v)とした他は、実施例1と同様な方法で、FcR36i_Cysを精製し、保存後、沈殿の有無を確認した。
【0044】
実施例3 FcR36i_Cysの製造(その3)
実施例1(8)で添加するグリセロール濃度を終濃度で40%(w/v)とした他は、実施例1と同様な方法で、FcR36i_Cysを精製し、保存後、沈殿の有無を確認した。
【0045】
実施例4 FcR36i_Cysの製造(その4)
(1)実施例1(1)から(5)までと同様の方法でFcR36i_Cys抽出液を得た。
【0046】
(2)実施例1(6)と同様の方法でFcR36i_Cys抽出液をカラムにアプライし、洗浄により夾雑不純物を除去した。
【0047】
(3)溶出緩衝液として0.7Mの塩化ナトリウムおよび10%(w/v)のグリセロールを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)を用いた他は、実施例1(7)と同様の方法でFcR36i_Cysを溶出した。
【0048】
(4)(3)で得られた、濃度1mg/mLのFcR36i_Cys溶液に、塩濃度が0.8M以上になるように塩化ナトリウムを、pHが8.5になるように水酸化ナトリウム水溶液を、それぞれ添加し、4℃で4日間保存した。なお前記塩化ナトリウムおよび水酸化ナトリウム水溶液添加による、FcR36i_Cys溶液中のグリセロール濃度への影響は軽微である。
【0049】
(5)実施例1(9)と同様な方法で沈殿の有無を確認した。
【0050】
比較例1 FcR36i_Cysの製造(その5)
実施例1(8)でグリセロールを添加しない他は、実施例1と同様な方法で、FcR36i_Cysを精製し、保存後、沈殿の有無を確認した。
【0051】
比較例2 FcR36i_Cysの製造(その6)
実施例1(8)で添加するグリセロール濃度を終濃度で50%(w/v)とした他は、実施例1と同様な方法で、FcR36i_Cysを精製し、保存後、沈殿の有無を確認した。
【0052】
比較例3 FcR36i_Cysの製造(その7)
実施例1(8)でグリセロールの代わりに、終濃度1000mMとなるようにスクロースを添加した他は、実施例1と同様な方法で、FcR36i_Cysを精製し、保存後、沈殿の有無を確認した。
【0053】
比較例4 FcR36i_Cysの製造(その8)
実施例1(8)でグリセロールの代わりに、終濃度800mMとなるようにD-ソルビトールを添加した他は、実施例1と同様な方法で、FcR36i_Cysを精製し、保存後、沈殿の有無を確認した。
【0054】
比較例5 FcR36i_Cysの製造(その9)
実施例1(8)でグリセロールの代わりに、終濃度0.01%(w/v)となるようにTween 20(商品名)を添加した他は、実施例1と同様な方法で、FcR36i_Cysを精製し、保存後、沈殿の有無を確認した。
【0055】
沈殿の有無を確認した結果を表1に示す。グリセロールを添加して保存(実施例1から4および比較例2)すると、溶液中のヒトFcγRIIIaは安定し、沈殿は生じなかった。一方、未添加(比較例1)ならびにグリセロール以外の糖類(比較例3および4)または界面活性剤(比較例5)を添加して保存すると、溶液中のヒトFcγRIIIaが凝集し沈殿が生じた。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例5 ヒトFcγRIIIa固定化担体による抗体吸着量の測定
(1) 粒子径10μmの多孔質親水性ポリマー粒子表面に存在する水酸基をヨードアセチル基で活性化後、当該活性化担体に実施例1から4ならびに比較例2で製造したFcR36i_Cysをそれぞれ反応させることで、FcR36i固定化担体を得た。
【0058】
(2)(1)で作製した固定化担体1mLに対し50%スラリーとなるよう、PBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)を添加した。
【0059】
(3)作製したスラリーを均一化後、当該スラリー100μL(固定化担体としては50μL)をスピンカラム(コスモスピンフィルターH 0.45μm、ナカライテスク製)へ添加し、3000rpmで1分間遠心することで、サクションドライの固定化担体を調製した。
【0060】
(4)サクションドライの固定化担体にPBSを150μL添加し、3000rpmで1分間遠心した。本操作を3回繰り返すことで固定化担体を洗浄した。
【0061】
(5)洗浄後の固定化担体にPBSを150μLおよび人免疫グロブリン(グロブリン筋注1500mg/10mL「JB」、日本血液製剤機構製)を60μL順次添加し、25℃にて2時間撹拌することで、固定化担体に免疫グロブリン(抗体)を吸着させた。
【0062】
(6)(5)の吸着操作後、スピンカラムを3000rpmで1分間遠心することにより未吸着の抗体を含んだ溶液とゲルを分離した。
【0063】
(7)固定化担体にPBSを150μL添加し、3000rpmで1分間遠心した。本操作を3回繰り返すことで固定化担体を洗浄した。
【0064】
(8)ゲルに50mMクエン酸緩衝液(pH3.0)を150μL添加し、3000rpmで1分間遠心した。本操作を3回繰り返すことで固定化担体に吸着した抗体を溶出した。溶出液の吸光度を測定することで抗体の濃度を算出し、FcR36i固定化担体への抗体の吸着量を求めた。
【0065】
結果を表2に示す。ヒトFcγRIIIa保存溶液として終濃度5%(w/v)から40%(w/v)のグリセロールを用いたとき(実施例1から4)、当該ヒトFcγRIIIaを固定化した担体における抗体吸着量はそれぞれ担体1gあたり10mgと、保存したヒトFcγRIIIaが有する抗体結合能を維持していることがわかる。一方、ヒトFcγRIIIaの保存溶液として終濃度50%(w/v)のグリセロールを用いたとき(比較例2)、当該ヒトFcγRIIIaを固定化した担体における抗体吸着量は担体1gあたり1mg未満となり、保存したヒトFcγRIIIaが有していた抗体結合能が大幅に減少していた。以上の結果から、ヒトFcγRIIIaの保存溶液として添加するグリセロールは、終濃度として3%(w/v)から45%(w/v)までがよいことがわかる。
【0066】
【表2】
図1
【配列表】
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