IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リコーの特許一覧

特許7443867レーザーユニット及びレーザーマーカー装置
<>
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図1
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図2
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図3
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図4
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図5
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図6
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図7
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図8
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図9
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図10
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図11
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図12
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図13
  • 特許-レーザーユニット及びレーザーマーカー装置 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】レーザーユニット及びレーザーマーカー装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/064 20140101AFI20240228BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240228BHJP
   B41J 2/475 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
B23K26/064 A
B23K26/064 G
B23K26/00 B
B41J2/475 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020051736
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021146395
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】新井 伸幸
【審査官】落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-082958(JP,A)
【文献】特開2020-006414(JP,A)
【文献】特開2000-005892(JP,A)
【文献】国際公開第2006/137355(WO,A1)
【文献】特開2016-021519(JP,A)
【文献】特開2015-192079(JP,A)
【文献】特開2019-152820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/064
B23K 26/00
B41J 2/475
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を出射する複数の発光部が配置されたレーザー光源と、
前記レーザー光の集光を行う結像レンズ系と、
複数の前記レーザー光の結像位置を前記結像レンズ系の光軸上において異ならせるように該光軸方向に変化させる結像位置変更素子と、
を有し、
前記結像位置変更素子は、前記光軸方向の厚さが段階的に変化する階段状プリズムであって、前記光軸方向に対して鉛直方向の入射位置によって前記結像位置が異なることを特徴とするレーザーユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザーユニットであって、
前記階段状プリズムは、複数の大きさの異なる平板形状のプリズムを重ね合わせることで構成されることを特徴とするレーザーユニット。
【請求項3】
請求項に記載のレーザーユニットであって、
前記階段状プリズムは、単一の材料から一体に形成されたことを特徴とするレーザーユニット。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つに記載のレーザーユニットであって、
前記結像位置変更素子は、前記レーザー光の入射側と出射側とのうち少なくとも一方の面に反射防止膜を有することを特徴とするレーザーユニット。
【請求項5】
請求項に記載のレーザーユニットであって、
前記結像位置変更素子は、前記光軸方向に対して鉛直方向に複数の屈折率の異なる領域を有することを特徴とするレーザーユニット。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1つに記載のレーザーユニットであって、
前記結像位置変更素子は、前記結像レンズ系よりも前記レーザー光の進行方向下流側に配置されることを特徴とするレーザーユニット。
【請求項7】
請求項に記載のレーザーユニットであって、
前記結像位置変更素子は、前記レーザー光の最も出射側の面に防塵部を備え、前記防塵部は当該レーザーユニットの筐体の開口部を覆うように取り付けられたことを特徴とするレーザーユニット。
【請求項8】
請求項1乃至5の何れか1つに記載のレーザーユニットであって、
前記結像位置変更素子は、前記結像レンズ系よりも前記レーザー光の進行方向上流側に配置されることを特徴とするレーザーユニット。
【請求項9】
レーザー光を出射する複数の発光部が配置されたレーザー光源と、
前記レーザー光の集光を行う結像レンズ系と、
複数の前記レーザー光の結像位置を前記結像レンズ系の光軸上において異ならせるように該光軸方向に変化させる結像位置変更素子と、
を有し、
前記結像位置変更素子は、前記結像レンズ系の絞り近傍に配置され、前記光軸方向に対して鉛直方向の入射位置によって前記結像位置が異なることを特徴とするレーザーユニット。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1つに記載のレーザーユニットと、
前記レーザーユニットから照射されるレーザー光の前記結像位置を通過するように記録媒体を搬送する搬送部と、
前記レーザー光の発光パターンを制御する発光制御部と、を有し、
前記記録媒体に印字するレーザーマーカー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーユニット及びレーザーマーカー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱紙等の記録媒体上にレーザー光を集光し、対象物に熱エネルギーを加えることで発色させるレーザーマーカー装置が知られている。
レーザーマーカー装置においては、レーザー光の結像位置(集光点)におけるビーム径が印字可能なドット径に相当し、かかるドット径を維持しつつ、記録媒体に十分な熱エネルギーを印加できる範囲が所定の印字可能深度として定められている。すなわち、レーザーマーカー装置では、印字可能深度の影響で印字対象物の高さが一定の範囲(印字深度内)に収まっている必要がある。そのため、印字対象の振動によるばたつきや、印字対象の厚みばらつきがあっても印字可能なように、ある程度印字位置に対してロバストなレーザーマーカーが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような深度拡大技術としては、例えばレンズ拡散板やソフトフォーカスレンズ等が挙げられる。しかしながら、こうした深度拡大技術は一般的にはシングルビームが想定されている。
また、その他深度拡大技術としては位相型光学素子を用いる技術も知られている(例えば特許文献1)が、光学素子の形状が同心円状であって、像高のあるマルチビームを入射させると、各像高に対して異なる屈折を与えてしまい、収差の原因となってしまう懸念がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を解決するため、本発明に係るレーザーユニットでは、レーザー光を出射する複数の発光部が配置されたレーザー光源と、前記レーザー光の集光を行う結像レンズ系と、複数の前記レーザー光の結像位置を前記結像レンズ系の光軸上において異ならせるように該光軸方向に変化させる結像位置変更素子と、を有し、前記結像位置変更素子は、前記光軸方向の厚さが段階的に変化する階段状プリズムであって、前記光軸方向に対して鉛直方向の入射位置によって前記結像位置が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、共通の光学系を用いたマルチビームレーザーマーカーにおいて、各光線に対して均一に深度拡大の効果を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明に係るレーザーマーカー装置を備えた巻き取り搬送装置の一形態の概略構成を示す図である。
図2】本発明に係るレーザーマーカー装置を備えた巻き取り搬送装置の構成を示す図である。
図3】本発明に係るレーザーマーカー装置の構成を示す図である。
図4図3に示したレーザーヘッドのY方向から見た構成の一例を示す図である。
図5図3に示したレーザーヘッドのX方向から見た構成の一例を示す図である。
図6】本発明に係る階段状プリズムの構成の一例を示す図である。
図7】本発明に係る階段状プリズムの効果の一例を示す図である。
図8】本発明に係るレーザーマーカー装置と比較例との出力結果の差を示す図である。
図9】本発明に係るレーザーマーカー装置の制御の一例を示す図である。
図10】本発明に係るレーザーマーカー装置の印字時の出力の一例を示す図である。
図11】異屈折率合板を用いた構成の一例を示す図である。
図12図3に示したレーザーマーカー装置の他の構成の一例を示す図である。
図13図3に示したレーザーマーカー装置の他の構成の一例を示す図である。
図14】本発明に係る階段状プリズムの構成の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて順次説明する。実施形態において、同一機能や同一構成を有するものには同一の符号を付し、重複説明は適宜省略する。図面は一部構成の理解を助けるために部分的に省略あるいは簡素化して記載する場合もある。
【0008】
本発明に係るレーザーマーカー装置たる印字装置100は、レーザーユニットを構成する装置本体部30と、レーザー光を出射するためのレーザーヘッド20と、記録媒体としての感熱紙たるシートSと、シートSを搬送するための搬送部10と、を有している。
なお、本実施形態における印字装置100は、シートSの表面にレーザー光を照射することで熱エネルギーによって印字するレーザーマーカー装置として機能するが、文字に限定されるものではなく、文字、記号、線、図形、ベタ画像あるいはこれらの組み合わせ、バーコード、2次元コード等の画像を印刷するものであって良い。
【0009】
シートSは、本実施形態における印字対象物であって、感熱紙の他、光を吸収して熱に変換し色相や反射率等の変化を生じる材料であれば何でも良く、例えば金属への刻印なども含まれる。また、シートSは、シート状に限定されるものではなく、様々な形状をとって良い。
なお、シートSを構成する「熱により色相や反射率等の変化を生じる材料」としては、例えば従来の感熱紙に用いられる電子供与性染料前駆体と電子受容性顕色剤との組み合わせ等が使用できる。また、熱により色相や反射率等の変化を生じる材料としては、熱と光の複合反応、例えばジアセチレン系化合物の加熱と紫外光照射による固相重合に伴う変色反応などの変化を生じる材料も含まれる。
【0010】
搬送部10は、本実施形態では図1に示すように、シートSが巻きかけられており、所定の方向に回動することでシートSを送出する送り出し用の操出ローラ11と、シートSを巻き取る巻取ローラ12と、を有する搬送手段である。
また、搬送部10のシートSの搬送経路上には、シートSの速度を検知するための検知手段たるエンコーダ49が設けられており、シートSの搬送速度と、レーザーへッド20の書き込み速度とが合致するための制御を行う。
【0011】
印字装置100におけるシートSの移動経路上には、レーザーヘッド20が取り付けられ、シートSに向かってレーザー光を照射する。
なお、本実施形態におけるシートSは、シートSの送り方向と直交する幅方向の長さがレーザーヘッド20の照射可能な幅よりも広い。
そのため、レーザーヘッド20を複数、互いに重複しない位置に取り付けることで、印字幅を確保しているが、かかる構成に限定されるものではなく、単一のレーザーヘッド20を用いても良い。このように、印字するべき範囲がレーザーヘッド20の照射範囲よりも広い場合にも、複数のレーザーヘッド20を設けることで十分な印字幅を確保することができる。
【0012】
装置本体部30には、画像情報を出力するパーソナルコンピュータなどの画像情報出力部47と、冷却装置50と、エンコーダ49と、が接続されている。
装置本体部30とレーザーヘッド20とは、単一あるいは複数の光ファイバ42で接続されており、後述するように装置本体部30で発振されたレーザー光は光ファイバ42を経てレーザーヘッド20を介してシートSに照射される。
このように印字装置100はレーザー発光素子41から出射したレーザ光を光ファイバ42とレーザーヘッド20とを介して記録媒体たるシートSに照射し、描画単位からなる画像(可視像)を記録する。
【0013】
装置本体部30は、例えば図2に示すように、レーザー発光素子41と、駆動ドライバ45と、あたるコントローラ46と、レーザー発光素子41に電力を供給するための電源部48と、を有している。
装置本体部30はまた、レーザアレイ部14aとファイバアレイ部14bとを有するレーザ照射装置14を有している。本実施形態においては、レーザ照射装置14は、複数の光ファイバ42の出射側の端面を記録対象物たるシートSの移動方向であるX軸方向と直交するZ軸方向にアレイ状に配置したファイバアレイである。
本実施形態では、かかるレーザー光を出射するための制御を行う装置本体部30と、レーザー光をシートSに向けて出射するための制御を行うレーザーヘッド20とが1つの「レーザーユニット」として機能する。
【0014】
コントローラ46には、電源部48および画像情報出力部47が接続されている。
コントローラ46は、画像情報出力部47から出力された画像情報に基づいて、レーザー発光素子41の発光させるパターンを生成して、信号として出力する発光制御部である。
【0015】
レーザー発光素子41は、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、半導体レーザ、固体レーザ、色素レーザなどを用いることができる。レーザー発光素子41は、これらの中でも、波長選択性が広い点、小さいことから装置の小型化が可能な点、及び低価格化が可能な点から、半導体レーザが好ましい。
【0016】
また、レーザー発光素子41が出射するレーザ光の波長としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、好ましくは700nm~2000nmが好ましく、780nm~1600nmがより好ましい。
【0017】
出射手段であるレーザー発光素子41においては、印加するエネルギーの全てがレーザ光に変換されることはない。通常、レーザー発光素子41においては、レーザ光に変換されないエネルギーが熱に変換されることで発熱する。そのため、冷却手段である冷却装置50によりレーザー発光素子41を冷却する。
また、本実施形態のレーザ照射装置14は、ファイバアレイ部14bを用いることで、各レーザー発光素子41を離して配置することが可能となっている。これにより、隣接するレーザー発光素子41からの熱の影響を小さくすることが可能となり、レーザー発光素子41の冷却を効率的に行うことが出来るので、レーザー発光素子41の温度上昇、バラツキを回避することが出来、レーザ光の出力バラツキを低減出来、濃度ムラ、白抜けを改善できる。
なお、レーザ光の出力とはパワーメータで計測される平均出力である。レーザ光の出力制御方法としては2種類あり、ピークパワーを制御する方法と、パルスの発光比率(デューティー:レーザ発光時間/周期時間)を制御する方法とがある。
【0018】
冷却装置50は、冷却液を循環させてレーザー発光素子41を冷却する液冷方式であり、冷却液が各レーザー発光素子41から熱を受ける受熱部51と、冷却液の熱を放熱する放熱部52とを備えている。受熱部51と放熱部52とは、冷却パイプ53a、53bにより接続されている。受熱部51は、良熱伝導性部材で形成されたケース内部に良熱伝導性部材で形成された冷却液が流れるための冷却管が設けられている。複数のレーザー発光素子41は、受熱部51にアレイ状に配置されている。
【0019】
放熱部52は、ラジエータと、冷却液を循環させるためのポンプとを備えている。放熱部52のポンプにより送り出された冷却液は、冷却パイプ53aを通って、受熱部51へ流入する。そして、冷却液は、受熱部51内の冷却管を移動しながら受熱部51に配列されたレーザー発光素子41の熱を奪ってレーザー発光素子41を冷やす。受熱部51から流出したレーザー発光素子41の熱を奪って温度上昇した冷却液は、冷却パイプ53b内を移動して放熱部52のラジエータへ流れ込み、ラジエータにより冷却される。ラジエータにより冷却された冷却液は、再びポンプにより受熱部51へ送り出される。
【0020】
ファイバアレイ部14bは、レーザー発光素子41に対応して設けられた複数の光ファイバ42と、これら光ファイバ42のレーザー出射部となる端部付近を、上下方向(Z軸方向)にアレイ状に保持するアレイヘッド44と、を備えている。
また、光ファイバ42の各レーザー入射部は、対応するレーザー発光素子41のレーザ出射面に取り付けられている。
【0021】
なお、一つのアレイヘッド44ですべての光ファイバ42を保持しようとした場合、アレイヘッド44が長尺となり、変形しやすくなる。その結果、一つのアレイヘッド44では、ビーム配列の直線性やビームピッチの均一性を保つのが難しい。このため、アレイヘッド44は、光ファイバ42を100個~200個保持するものとすることが望ましい。また、レーザ照射装置14は、100個~200個の光ファイバ42を保持した複数のアレイヘッド44を、シートSの移動方向に対して直交する方向であるZ軸方向に並べて配設するのが好ましい。本実施形態においては、アレイヘッド44には1つあたり192個の光ファイバ42がY方向に並べて配設されている。
なお、アレイヘッド44を本実施形態ではY方向に一次元に配列された光ファイバアレイとしているが、光ファイバ42の配置は例えばジグザグや2列、あるいは二次元に配列されていても良い。
【0022】
図3は、レーザアレイの配列状態について説明する図である。図3に示すように、アレイヘッド44における光ファイバ42は、シートS上に集光された焦点位置において、レーザー光を照射して発色して形成されるドット径Rが連なるように配列される。
【0023】
本実施形態では、レーザーヘッド20は固定されており、所謂「走査」は行わない非走査式のレーザーヘッドとして用いているが、便宜上、光ファイバ42が配列されたアレイ方向であるY方向を「主走査方向」とし、シートSが移動するX方向を「副走査方向」とする。主走査方向と副走査方向とは互いに直交する。
【0024】
なお、アレイヘッド44とシートSとを相対的に移動させてシートSに画像を記録するため、アレイヘッド44がシートSに対して移動してもよく、シートSがアレイヘッド44に対して移動してもよい。
【0025】
レーザーヘッド20は、図4図5に示すように、アレイヘッド44から射出されたレーザー光を集光するための結像レンズ系21と、結像レンズ系21よりも出射側すなわちZ方向側に配置された結像位置変更素子たる階段状プリズム22と、を有している。
なお、図4は当該レーザーヘッド20を副走査方向たるX方向側から見た図であり、図5は同じくレーザーヘッド20を主走査方向たるY方向側から見た図である。
図5においては手前方向に向かって複数の発光点たるレーザー出射部42aが並べて配置されている。
【0026】
結像レンズ系21は、各光ファイバ42から出射した発散光束のレーザー光を平行光束に変換する前側レンズ系21aと、光学絞り21bと、レーザー光の照射面であるシートSの表面にレーザ光を集光する後側レンズ系21cと、を有する複数のレンズ等の光学部品で構成された光学系である。図4図5には、結像レンズ系21の主要な光線図を付している。
本実施形態では、前側レンズ系21aと後側レンズ系21cとは、前側レンズ系21aの像側焦点面(図4図5における光学絞り21bの位置)を中心として対称に形成されている。
また、光ファイバ42の各端面が配置されたアレイヘッド44の位置が、レーザー光をマルチビームレーザー光源として出射する疑似的な発光部として機能するから、光ファイバ42の端面たるレーザー出射部42aが「レーザー光を出射するための複数の発光部が配置されたレーザー光源」に相当する。なお、本実施形態では、レーザー出射部42aにおけるレーザー光の出力波形はトップハット型のレーザー光であるが、かかる構成に限定されるものではなく、ガウス分布の出力波形を持った光でも良い。
【0027】
前側レンズ系21aと後側レンズ系21cとは共に3枚のメニスカスレンズで構成されており、前側レンズ系21aは、物体側から像側へ向かって順に、凹面を物体側に向けた正の第1メニスカスレンズLN1と、凸面を物体側に向けた正の第2メニスカスレンズLN2と、凹面を像側に向けた負の第3メニスカスレンズLN3と、を有している。
【0028】
同様に、後側レンズ系21cは、第1メニスカスレンズLN6と、凸面を像側に向けた第2メニスカスレンズLN5と、凹面を物体側に向けた第3メニスカスレンズLN4と、が物体側から像側へ、前側レンズ系21aとは逆順で配置されている。
【0029】
階段状プリズム22は、本実施形態では、複数のレーザー光の結像位置を結像レンズ系21の光軸O上において異ならせるようにZ方向に変化させる結像位置変更素子としての機能を有する光学部材である。
【0030】
階段状プリズム22は、図6に示すように、7枚のサイズの異なる平板状のBK7製の無機光学材料23が積層された構成を有している。
無機光学材料23のうち、最も+Z側に配置されたものよりも更に像側には、防塵用の窓であり防塵部として機能する合成石英製の板状部材24が取り付けられている。
階段状プリズム22は、図5に示すように、アレイヘッド44の並び方向たるY方向に対して鉛直なX方向において、階段状の異なる厚み分布を有し、かかる構成により、入射した各光束の結像位置をX方向に入射した各段ごとに異なる結像位置に変更する。言い換えるとレーザー光の光軸方向に対して鉛直方向であるX方向にレーザー光を分割し、分割されたレーザー光のそれぞれに異なる結像位置を与える。つまり1つのレーザー出射部42aから出た光束が、X方向の入射位置によって複数の結像位置を与えられてシートSへと射出される。
具体的には、図7(a)に模式的に光線図を示すように、無機光学材料23を透過する光の光学距離が、無機光学材料23の屈折率:n、無機光学材料23の1枚当たりの厚み:lとしたとき、X方向の入射位置によって通過する無機光学材料23の枚数が変わるから、光路長がxnl(x=1,2,3・・・,7)だけ変化することとなる。
かかる光路長の差によって、図7(a)、(b)に例示するように、X方向の各無機光学材料23を通った光束は、結像位置が光軸O上において多焦点化される。
すなわち、集光されたレーザー光がシートSに照射されて与える熱エネルギーが、シートSの深さ方向についてそれぞれ図8(a)~(c)に示すように分布する。
なお、図8(a)~(c)においては、階段状プリズム22を図7の位置に設けた場合のレーザー光の光強度を実線で示すとともに比較例として階段状プリズム22を設けない場合のレーザー光の光強度を破線で示している。
また図8(a)~(c)においては、階段状プリズム22無しのときの結像位置をdef=0として、手前方向にずらした位置をdef-0.5mm、奥側にずらした位置をdef+0.5mmとした。また、横軸がレーザー光の光軸Oの中心を0としたときの測定座標を示し、縦軸がレーザー光の放射照度(W/mm2)を示している。すなわち、図8(a)~(c)において所定値以上の放射照度が測定される領域がレーザー光のビーム径を表している。
【0031】
図8(a)~(c)のグラフから明らかなように、階段状プリズム22を設けることでシートSの深度方向について、各光線に対して均一に深度拡大の効果を持たせることができるので、熱エネルギーの分布が深さ方向にも均一化されて、印字可能深度が拡大する。
【0032】
さて、かかる構成の印字装置100を用いて、シートSに対して印字を行う際の動作について説明する。
まず、パーソナルコンピュータなどの画像情報出力部47は、画像情報をコントローラ46に入力する。コントローラ46は、入力された画像情報に基づいて各駆動ドライバ45を駆動するための駆動信号(制御パルス)を生成する。コントローラ46は、生成された駆動信号(制御パルス)を各駆動ドライバ45へ送信する。具体的には、コントローラ46は、クロックジェネレータを備えている。
コントローラ46は、クロックジェネレータが発振するクロック数が、規定のクロック数となったら、各駆動ドライバ45を駆動するための駆動信号(制御パルス)を各駆動ドライバ45へ送信する。
【0033】
各駆動ドライバ45は、駆動信号(制御パルス)を受信すると、電流パルスを送信して対応するレーザー発光素子41を駆動する。レーザー発光素子41は、駆動ドライバ45の駆動に従い、発光パルスを出力してレーザー光を照射する。レーザー発光素子41から照射されたレーザ光は、対応する光ファイバ42に入射し、光ファイバ42のレーザー出射部42aから出射される。光ファイバ42のレーザー出射部42aから出射されたレーザー光は、結像レンズ系21を透過した後、結像位置変更素子たる階段状プリズム22を経て記録対象物であるシートSの表面に照射される。シートSの表面に照射されたレーザ光により加熱されることにより、シートSの表面にはレーザー光のスポット径を解像度として画像が記録される。
【0034】
図9は、制御パルスと発光パルスとの関係について説明する図である。図9(a)は制御パルスと発光パルスのタイミングチャートを示し、図9(b)はレーザのI-L特性を
示す。図9に示すように、発光パルスの立ち上がりが電流パルスよりも少し遅れているのは、レーザ出力と電流値のI-L特性という相関関係の中で、ある一定の電流値をかけないとレーザが発光しないためである。
【0035】
ところで、印字装置として、ガルバノミラーを用いてレーザ光を偏向して記録対象物に画像を記録する、所謂走査式のレーザーマーカーを用いた場合、文字等の画像は、ガルバノミラーの回転と駆動ドライバのパルス制御とで、レーザ光を照射して記録する。
そのため、ある一定の情報量を記録対象物に記録する場合には、ガルバノミラーの回転速度が書き込み速度の制限となってしまう場合が多く、高速書き込みが難しいという問題が生じていた。
【0036】
一方、本実施形態におけるレーザーヘッド20は、複数のレーザー出射部42aをアレイ状に配置したレーザアレイを用いたマルチビームレーザー光源である。
したがって、各画素に対応するレーザー発光素子41のON/OFF制御で、シートSに画像を記録することができる。これにより、情報量が多くても、シートSの搬送速度を低下させることなく、シートSに画像を記録することができる。よって、本実施形態における印字装置100によれば、多くの情報を記録対象物に記録する場合でも、生産性を落とさずに、画像を記録することができる。
なお、搬送部10のシートSの搬送速度は、求められる速度に応じて適宜設定して構わないが、例えば10m/s程度の搬送速度で十分に書き込み可能である。
【0037】
さて、レーザー照射装置14は、レーザー光を照射してシートSを加熱する原理上、シートSに高速で熱エネルギーを与えて画像を記録するため、搬送部10の搬送速度が高速化する場合には高出力のレーザー発光素子41を用いる必要がある。具体的にはレーザー発光素子41の1個当たりの出力数が10W/個程度であって、レーザー発光素子41の発熱量が多い。
また、本実施形態では、解像度を200dpi程度とするために、192個のレーザー出射部42aがピッチ127μmでアレイヘッド44にアレイ状に配列されている。かかる構成により、高出力のレーザー光が密集しているため、発熱量が多い。
【0038】
そこで、レーザ照射装置14においては、冷却装置50を設けて、レーザー発光素子41を液冷することで、レーザー発光素子41の温度上昇をより一層抑制することができる。その結果、レーザ照射装置14によれば、さらに、レーザー発光素子41の発光間隔を短くすることができ、シートSの搬送速度をあげることができ、生産性を高めることができる。なお、本実施形態の冷却装置50は、レーザー発光素子41を液冷しているが、冷却ファンなどを用いてレーザー発光素子41を空冷するようにしてもよい。液冷の方が空冷より冷却効率が高く、レーザー発光素子41を良好に冷却できるというメリットがある。一方、空冷とすることで、液冷より冷却効率は落ちるが、安価にレーザー発光素子41を冷却することができるというメリットがある。
【0039】
ここで、シートSに印字される様子を説明する。
【0040】
図10は、シートSの印字について説明する図である。説明を単純化するためにシートSが静止している場合について述べるが、シートSの搬送においても、シートSがレーザーヘッド20の照射範囲を通過するまでに同様の現象が生じるとしてよい。
レーザー発光素子41から照射されたレーザー光は、シートS表面のレーザースポット位置、言い換えると結像レンズ系21による結像位置に熱エネルギーとして伝わる。
図10に示すように、熱エネルギーは、一般的に中心部が高く、端部が低くなるガウス分布のようになる。
【0041】
シートSには、発色閾値が存在しており、発色閾値を超えた部分が発色する。発色濃度は、熱エネルギーの大きさに比例する。また、発色閾値は、シートSの材料によって異なる。
【0042】
レーザー光の結像レンズ系21による結像位置をdef=0としたとき、既に図8(a)~(c)で説明したように、レーザー光の出力は結像位置からZ方向、すなわちシートSの厚さ方向にずれるほど大きく変化する。
かかる出力の変化が大きくなるほど、かかる発色閾値を満たさなくなって発色するべき位置が十分に発色しない等の問題が生じうる。
そこで本実施形態では、階段状プリズム22によって、同一光軸上で結像位置を変化させることで、各光線に対して均一に深度拡大の効果を持たせることができる。
【0043】
さて、光学系に用いられるレンズ等の光学部材は、一般には光軸Oを中心として同心円状に光学特性が同一になるように設計される。
そのため、単にソフトフォーカス化、あるいはマルチフォーカス化を行うためには、レンズ拡散板やソフトフォーカスレンズ等を入れることが考えられる。
しかしながら、本実施形態のようにアレイ状のマルチビームレーザー光源を用いた場合には、アレイヘッド44の端部に配置されたレーザー出射部42aからのレーザー光が結像レンズ系21に斜めに入射することで、光線の横ずれによって非点収差化してしまう虞がある。
そこで本実施形態では、階段状プリズム22は、アレイ方向たるY方向に延びて形成され、X方向に複数に分割された光路長を与える。かかる構成により、アレイ状に配置されたマルチビームレーザー光源であっても、アレイ方向に並んだ複数の光線に対して均一に多焦点化を行うことができる。
階段状プリズム22は、レーザー光のX方向の入射位置によって入射したレーザー光を分割し、分割されたそれぞれのレーザー光についてZ方向における結像位置が異なる。
さらに、階段状プリズム22を用いることにより、レンズ拡散板やソフトフォーカスレンズのようにレーザー光の損失や不均一化を招くことがなく、かつ光束の一部について結像位置のみを光軸O上で変化させることができる。
【0044】
また本実施形態においては、階段状プリズム22は、レーザー光のビーム径に対して階段数が最大になるように、レーザー光の直径に対して複数段の段差を設けている。
かかる構成により、各光線に対して均一に深度拡大の効果を持たせることができる。
【0045】
また本実施形態においては、階段状プリズム22を、サイズの異なる複数の平板状の光学部材を積層することで形成している。
かかる構成により、安価に階段状プリズム22を製作することができる。
なお、階段状プリズム22は、このように平板状の光学材料の積層によるもの以外にも、切削等によって単一の光学材料から一体の光学部材として製作することもできる。
このように切削によって階段状プリズム22を製作することとすれば、平板同士の界面が存在しなくなるために、光量損失を低減することができる。
【0046】
また本実施形態では、階段状プリズム22は、レーザー光の入射側と出射側とのうち少なくとも一方の面に反射防止膜を有する。
かかる構成により、階段状プリズム22の表面での反射率を低減して、迷光の低減や光量損失の低減に寄与する。
【0047】
また本実施形態では、階段状プリズム22は、結像レンズ系21よりもレーザー光の進行方向において下流側に配置される。
かかる構成により、階段状プリズム22が結像レンズ系21の結像位置と、結像レンズ系21との間に配置されるから、像側から見たときにレーザー出射部42aが各位置において光軸方向にずれて配置されたのと同様の効果となるから、光学性能に影響を与えることなく、各光線について均一に深度拡大のこうかを持たせることができる。
【0048】
また本実施形態では、階段状プリズム22は、レーザー光の最も出射側の面に硬度の高い防塵部たる合成石英製の板状部材24を備え、板状部材24はレーザーヘッド20の筐体の開口部を覆うように取り付けられている。
かかる構成により、部品点数の増加を抑えることで、レーザーヘッド20の小型化を容易とする。
【0049】
さて、本発明の第2の実施形態として、図11にレーザーヘッド20の異なる構成例について示す。
なお、図11においては、第1の実施形態として既に説明した構成と同様の部分については同一の付番をして説明を適宜省略する。
【0050】
本実施形態では、レーザーヘッド20は、結像レンズ系21と結像位置との間に配置され、X方向に複数の屈折率の異なる平板であるセル25を備えた異屈折率合板26を有している。
セル25は、アレイ方向たるY方向と、光軸Oの方向たるZ方向とに対して鉛直方向であるX方向に複数設けられており、それぞれのセル25について厚みzが同一で異なる屈折率n1~nxを有している。
異屈折率合板26は、かかる構成により、それぞれのセル25に入射したレーザー光の光路を、それぞれn1×z、n2×z、n3×z・・・nx×z、の光学的距離とするから、光路差が与えられて多焦点化されたレーザー光を得ることができる。
【0051】
また、かかる構成においては、n1~nxは+X方向側で低屈折率、-X方向側で高屈折率となるように段階的に変化しているので、n1<n2<n3・・・<nxである。
低い屈折率のセル25に入射した光線は、相対的に手前側に結像し、高屈折率なセル25に入射した光線は相対的に奥側に結像する。
このように、異屈折率合板26は、結像レンズ系21のレーザー光の結像位置を変化させる結像位置変更素子として機能する。
【0052】
なお、かかる異屈折率合板26については、各セル25の厚み、大きさ、硝材の並び順、数、種類等は問わない。
また、異屈折率合板26の形状は、本実施形態では、厚みzの平板形状を選択したが、適宜設計によって形状を変更しても良い。
【0053】
また、上述の第1、第2の実施形態においては、結像位置変更素子として機能する階段状プリズム22、異屈折率合板26の何れも、結像レンズ系21と、結像レンズ系21の結像位置との間に配置したが、かかる位置に限定されるものではない。
また、階段状プリズム22の形状についても、以下に述べるように様々な変形例を撮っても良い。
【0054】
例えば階段状プリズム22は、図12に示すように結像レンズ系21よりも-Z方向側に配置されるとしても良い。
あるいは、階段状プリズム22は、図13に示すように結像レンズ系21の光学絞り21bの近傍に配置されるとしても良い。なお、図13においては光学絞り21bのZ方向下流側に配置したが、上流側であっても良い。
また、「光学絞り21bの近傍」とは前側レンズ系21aと、後側レンズ系21cと、の間に配置されているものを含む。
【0055】
また、階段状プリズム22は、図14に示すように、両側が階段形状になったものであっても良いし、それぞれの無機光学材料23の角の部分に面取りを施しても良い。
【0056】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、上述の各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに異なる実施形態や変形例を適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 搬送部
14 レーザー照射装置
20 レーザーユニット(レーザーヘッド)
21 結像レンズ系
22 結像位置変更素子(階段状プリズム)
23 無機光学材料
24 防塵部(板状部材)
25 セル(結像位置変更素子)
26 異屈折率合板(結像位置変更素子)
41 レーザー発光素子
42 光ファイバ
100 レーザーマーカー装置(印字装置)
LN1、LN6 第1メニスカスレンズ
LN2、LN5 第2メニスカスレンズ
LN3、LN4 第3メニスカスレンズ
S 記録媒体(シート)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【文献】特許第5357790号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14