IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7443880種子コーティング剤用バインダー、種子コーティング剤およびコーティング種子
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】種子コーティング剤用バインダー、種子コーティング剤およびコーティング種子
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/10 20060101AFI20240228BHJP
   A01C 1/06 20060101ALI20240228BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240228BHJP
   A01N 33/12 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
A01N25/10
A01C1/06 Z
A01P3/00
A01N33/12 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020056725
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2020164520
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019065029
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】黒田 真由佳
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-110622(JP,A)
【文献】特開2002-003308(JP,A)
【文献】特開2005-065700(JP,A)
【文献】特開平10-225206(JP,A)
【文献】特開2018-083802(JP,A)
【文献】特開2017-195837(JP,A)
【文献】特開2011-057629(JP,A)
【文献】特開2010-193881(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0015804(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0220454(US,A1)
【文献】特開昭57-129604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N、A01P、C08F、A01C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をケン化し
てなるカチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とする種子コ
ーティング剤用バインダーであって、
前記カチオン性基が4級アンモニウム塩基で、前記カチオン性基含有ポリビニルアルコ
ール系樹脂のケン化度が50~100モル%である、種子コーティング剤用バインダー。
【請求項2】
請求項1に記載の種子コーティング剤用バインダーを含有することを特徴とする種子コーティング剤。
【請求項3】
請求項2に記載の種子コーティング剤が、さらに無機フィラーを含有することを特徴とする種子コーティング剤。
【請求項4】
請求項2または3に記載の種子コーティング剤を被覆してなるコーティング種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種子コーティング剤用バインダー、種子コーティング剤およびコーティング種子に関し、詳細には、カチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂を含有する種子コーティング剤用バインダー、この種子コーティング剤用バインダーを含有する種子コーティング剤、およびこの種子コーティング剤をコーティングしてなるコーティング種子に関する。
【背景技術】
【0002】
種子を利用する分野において、長期貯蔵のためや、播種作業を省力化したり、少ない労働力で大規模な作業をしたりするために多様な形状をした種子を一定の形状や特定の重量に被覆造粒する技術、すなわち種子コーティングが従来から行われている。とりわけ、農業生産においては効率的でかつ、計画的な栽培を行うための高性能な種子が近年、要求されている。
種子コーティングにおいては、従来から様々な種子用コーティング材料が知られており、例えば非晶質シリカ、タルク、カオリナイト、珪藻土、炭酸カルシウム等の無機物の単材もしくはそれらの混合物が使用されている。これらの無機物をカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、澱粉、ポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記する場合がある。)、メチルセルロース(MC)、ゼラチン等のバインダーと共に種子にコーティングすることによってコーティング種子を得ていた(例えば、特許文献1)。
また、近年農薬などの有効成分をコーティング層に含有させたコーティング種子が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0003】
しかしながら、CMCのような乾燥固結性の強いバインダーを用いると、カビの発生を抑制するものの、コーティング層が強固に形成されすぎて、種子の発芽阻害が起こりやすいという課題があった。また、バインダーとしてPVA系樹脂や澱粉を用いると、発芽阻害はないものの、抗カビ性がなくカビが生えやすくなるという課題があった。
従って、種子にコーティングした際に、抗カビ性を持ち、なおかつ生育阻害のないコーティング剤用バインダーが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭63-59642号公報
【文献】特開2011-57629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、種子にコーティングした際に、抗カビ性を持ち、なおかつ生育阻害のない種子コーティング剤用バインダー、種子コーティング剤及びコーティング種子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の実情に鑑みて鋭意研究した結果、カチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂を含有する種子コーティング剤用バインダーが抗カビ性に優れ、生育阻害も起こさないことを見出した。さらに、本発明は、かかる種子コーティング剤用バインダーを含有する種子コーティング剤、およびこの種子コーティング剤をコーティングしてなるコーティング種子をも提供するものである。
【0007】
すなわち、本発明の種子コーティング剤用バインダーは、カチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とするものである。
本発明の種子コーティング剤用バインダーは、カチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂によってカビの増殖を阻害すると推測される。
【0008】
本発明の種子コーティング剤用バインダーを含有する種子コーティング剤は、抗カビ性により優れ、生育阻害のない種子コーティング剤となり得る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の種子コーティング剤用バインダーは、抗カビ性に優れており、特に作物の種子にコーティングを施すことにより優れたコーティング種子となり得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、これらの内容に特定されるものではない。
【0011】
本発明の種子コーティング剤用バインダーは、カチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「カチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂」を「カチオン性基含有PVA系樹脂」と略記する場合がある。)を含有することを特徴とする。
【0012】
<カチオン性基含有PVA系樹脂>
本発明で用いるカチオン性基含有PVA系樹脂は、カチオン性基を有する不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をケン化することによって得られるものであり、ケン化度相当のビニルアルコール単位と、未ケン化部分のビニルエステル系単量体由来の構造単位と、カチオン性の構造単位を有するものである。
【0013】
カチオン性基含有PVA系樹脂中のカチオン性基の含有量は0.01~20モル%、さらには0.1~10モル%、特には0.5~5モル%であることが好ましく、かかる含有量が少なすぎると効果が小さくなる傾向があり、逆に多すぎるとカチオン性基含有PVA系樹脂の製造が困難になる傾向がある。
かかる含有量は、H-NMRにより測定される。
【0014】
本発明で用いられるカチオン性基含有PVA系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠)は100~4000、さらには300~3000、特には800~2000が好ましく、かかる平均重合度が小さすぎるとカチオン性基含有PVA系樹脂をコーティング剤のバインダーとして用いてコーティング種子を得る際にコーティング種子が脆くなる傾向があり、逆に大きすぎるとコーティング種子にコーティングすることが困難となる傾向がある。
【0015】
また、かかるカチオン性基含有PVA系樹脂のケン化度(JIS K6726に準拠)は50~100モル%、さらには70~99.9モル%、特には80~99.8モル%、殊には85~99.5モル%が好ましく、かかるケン化度が小さすぎると水への溶解が困難となる傾向がある。
【0016】
上記のカチオン性基としては、アミノ基、イミノ基、グアニジノ基、4級アンモニウム塩基などがあり、好ましくは4級アンモニウム塩基である。
【0017】
上記の4級アンモニウム塩基を有する不飽和単量体としては、例えば、トリメチル-(
メタアクリルアミド)-アンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムクロラ
イド、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロ
ライド、3-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3-メタクリ
ルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられ、中でもジアリルジ
メチルアンモニウムクロライドが本発明の効果が顕著に発揮される点で好ましい。
【0018】
また、ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、中でも、経済性が高い点で、酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0019】
上記の共重合体を得るためには、従来の公知の重合方法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又はエマルジョン重合のいずれをも採用し得るが、工業的にはメタノールやトルエン等を用いる溶液重合が好ましい。
【0020】
また、重合時における各成分(単量体)の仕込み方法としては一括、分割、連続滴下等が挙げられ、適宜選択すればよい。連鎖移動剤を共存させて重合する場合は所定の変性量になるように重合系の酢酸ビニルの反応率に応じて連鎖移動剤を添加することにより、反応系の連鎖移動剤量が酢酸ビニルに対し、あまり変化しないようにすることが好ましい。
【0021】
また、ビニルエステル系化合物の他にも共重合可能な不飽和単量体を共重合しても良く、不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のビニル基とエポキシ基を有する単量体;トリアリルオキシエチレン、ジアリルマレアート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル基を2個以上有する単量体;酢酸アリル、アセト酢酸ビニルエステル、アセト酢酸アリルエステル、ジアセト酢酸アリルエステル等のアリルエステル系単量体;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート;アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピルクロトナート等のアセトアセトキシアルキルクロトナート;2-シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(アルキル部分がC1~C10アルキル基であり、好ましくはC1~C6アルキル基);(メタ)アクリロニトリルなどのニトリル系単量体;スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン;エチレンスルホン酸等のオレフィン系単量体;ブタジエン-1,3、2-メチルブタジエン、1,3又は2,3-ジメチルブタジエン-1,3、2-クロロブタジエン-1,3等のジエン系単量体;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール、グリセリンモノアリルエーテル等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類、およびそのアシル化物などの誘導体;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパンなどのヒドロキシメチルビニリデンジアセテート類;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類、その塩又はモノ若しくはジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のビニルアルキルジアルコキシシラン;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のγ-(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン;γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のγ-(メタ)アクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシラン;ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ヒドロキシメチルビニリデンジアセテートが挙げられる。ヒドロキシメチルビニリデンジアセテートの具体的な例としては、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等が挙げられる。
また、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジメチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン等のジオールを有する化合物などが挙げられる。これらの単量体は、単独で、又は2種以上を併用してもよい。これらの単量体の含有量は、5モル%以下、好ましくは2モル%以下である。
【0022】
かくしてカチオン性単量体とビニルエステル系化合物の共重合体が得られるのであるが、かかる共重合体のケン化物を得る方法としては、通常公知の方法、即ちビニルエステル系共重合体をケン化する方法が挙げられる。具体的なケン化方法としては、アルカリケン化又は酸ケン化のいずれも採用できるが、工業的にはメタノール溶媒で水酸化ナトリウムやナトリウムメトキシドを触媒とした加メタノール分解が最も有利である。
【0023】
また、ケン化後に更に変性することもでき、例えば、得られたPVA系樹脂をアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等が挙げられる。かかる後変性による変性基の含有量は、5モル%以下、好ましくは2モル%以下である。
【0024】
<種子コーティング剤用バインダー>
本発明の種子コーティング剤用バインダーは、上記のカチオン性基含有PVA系樹脂の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のバインダー成分を含有させることができる。
かかるバインダー成分としては、例えば、CMC、HPC、澱粉等の多糖類、PVA、MC、ヒドロキシメチルセルロース(HPMC)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、アラビアガム、ポリアクリル酸、プルラン、ポリエチレングリコール、アルギン酸などが挙げられる。かかるバインダー成分の含有量は、カチオン性基含有PVA系樹脂100重量部に対して、好ましくは10重量部以下である。かかる含有量が大きすぎると本発明の効果が得られにくくなる。
【0025】
<種子コーティング剤>
本発明の種子コーティング剤は、カチオン性基含有PVA系樹脂を含有する種子コーティング剤用バインダーを含む組成物である。
かかる種子コーティング剤には、カチオン性基含有PVA系樹脂とその他のバインダー成分以外の成分を含んでもよく、例えば、農薬活性成分;肥料;無機フィラー;ポリエチレングリコール等の滑剤;抗菌剤;芳香剤;着色剤;消泡剤;熱可塑性樹脂;硫酸アンモニウム、塩化カリウム、食塩、その他カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの塩化物等の崩壊剤;アニオン系、ノニオン系界面活性剤等の分散剤;ホワイトカーボン、含水ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、無水芒硝、微結晶セルロース、プラスチック、塩化ビニル等の吸収剤:水やメタノール、塩化メチレン、その他の高沸点溶剤;滑剤;安定剤等が挙げられる。
【0026】
〔農薬活性成分〕
本発明で用いられる種子コーティング剤には農薬活性成分を含有させることができ、前記農薬活性成分としては、例えば、カーバメイト系化合物、合成ピレスロイド系化合物、有機リン系化合物、有機塩素系化合物などの殺虫剤;N-ヘテロ環系エルゴステロール阻害剤、カルボキシアミド系化合物、ジカルボキシイミド系化合物、ポリハロアルキルチオ系化合物、硫黄系化合物などの殺菌剤;スルホニル尿素系化合物、トリアジン系化合物、ジニトロアニリン系化合物などの除草剤などが挙げられる。
これら農薬活性成分の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
【0027】
またこれら農薬活性成分の含有量は、農薬活性成分の種類にもよるが、カチオン性基含有PVA系樹脂100重量に対して、好ましくは10~10000重量部、特に好ましくは20~7000重量部、更に好ましくは30~5000重量部である。かかる含有量が多すぎると徐放性が低下する傾向があり、少なすぎると農薬の効果が低下する傾向がある。
【0028】
〔肥料〕
本発明で用いられる種子コーティング剤には、肥料を含有させることができ、前記肥料としては、例えば、窒素、リン酸、カリウム、カルシウム(石灰)、マグネシウムなどが挙げられる。これら肥料の中から1種を単独でまたは2種以上を併せて用いることができる。
またこれら肥料の含有量は、農薬活性成分の種類にもよるが、カチオン性基含有PVA系樹脂100重量に対して、好ましくは10~10000重量部、特に好ましくは20~7000重量部、更に好ましくは30~5000重量部である。かかる含有量が多すぎると徐放性が低下する傾向があり、少なすぎると肥料の効果が低下する傾向がある。
また、農薬活性成分と肥料とを併せて用いてもよい。
【0029】
〔無機フィラー〕
また、本発明においては、無機フィラーを含有することが好ましい。無機フィラーとしては、公知の無機フィラーを適宜用いてもよく、例えば、シリカ、バーミキュライト、クレー、軽石、珪砂、炭酸カルシウム、ゼオライト、パーライト、珪藻土、カオリンなどが挙げられる。中でも、種子乾燥時の種子同士の結着を防ぐことができる点から珪藻土やカオリン、タルクが好ましい。
【0030】
無機フィラーを含有する場合、無機フィラーの含有量は、カチオン性基含有PVA系樹脂100重量に対して、好ましくは10~10000重量部、特に好ましくは50~8000重量部、更に好ましくは100~5000重量部である。無機フィラーの含有量が上記の範囲内である場合には、バインダー成分と無機フィラーの配合バランスが良好となり、本発明の効果がより良好なものとなる。
【0031】
カチオン性基含有PVA系樹脂と、場合により農薬活性成分または肥料と、無機フィラーとの合計量、即ち種子コーティング剤の固形分全体に対して、カチオン性基含有PVA系樹脂の含有量は、好ましくは0.1~100重量%、特に好ましくは0.2~80重量%、更に好ましくは0.3~50重量%である。カチオン性基含有PVA系樹脂の含有量が少なすぎると抗カビ性が低下する傾向があり、多すぎるとコーティングが困難になる傾向がある。
【0032】
本発明の種子コーティング剤は、(i)溶液または分散液状態で種子コーティング剤を含有するコーティング液として種子をコーティングする場合と、(ii)種子コーティング剤を含有する成形品として種子をコーティングする場合がある。
【0033】
(i)の場合には、種子コーティング剤は水などの溶媒を用いて溶液または分散液状態で用い、種子をコーティングする。溶液または分散液状態の種子コーティング剤における本発明の種子コーティング剤用バインダーの濃度が、溶液または分散液状態のコーティング剤全体に対して0.1~30重量%であることが好ましく、0.2~25重量%であることがより好ましく、特には0.5~20重量%であることが好ましい。かかる濃度が低すぎると抗カビ性が低下する傾向があり、高すぎると水溶液の粘度が上昇する傾向がある。
また、水溶液には、少量であれば、エタノール等のアルコール溶剤やアセトン等のケトン溶剤を含有することもでき、かかる含有量は、水に対して、10重量%以下、特には5重量%以下であることが好ましい。かかる溶剤の含有量が大きすぎると、本発明の種子コーティング剤用バインダーが溶けにくくなる傾向がある。
【0034】
(ii)の場合には、種子コーティング剤を含有する成形品とした後、種子を包んで用いられる。例えば、種子コーティング剤を含有するコーティング液を塗工し、乾燥してフィルム化してシードテープなどの形態で用いたり、種子コーティング剤を射出成型などによって成型してカプセル化するなど、種々の形状で種子を包んだりすることもできる。
【0035】
<コーティング種子>
本発明のコーティング種子とは、前記(i)溶液または分散液状態で種子コーティング剤を含有するコーティング液をコーティングされた種子のことをいう。その形状としては、粒状、球状などの形状が挙げられる。
【0036】
かかる粒状のコーティング種子は、種子コーティング剤を含有するコーティング液でコーティングしたあと、乾燥することにより得られる。
【0037】
本発明の粒状のコーティング種子は、上述した本発明のコーティング剤を液状または分散液状として種子をコーティングすることによって得られる。かかるコーティングの際に用いる装置としては、コーティングに使用できる装置であれば何でもよく、例えば、流動装置や回転パン等を使用することができる。
【0038】
上記でコーティングされた種子は、乾燥し、コーティング種子となる。乾燥装置としては、例えば、流動層乾燥機、熱風乾燥機、真空乾燥機などを用いることができる。
乾燥の温度としては、例えば、0~80℃、好ましくは5~50℃、特に好ましくは10~40℃であり、乾燥の時間としては、例えば、1分~48時間、好ましくは5分~24時間である。
【0039】
以上により本発明のコーティング種子が得られる。
本発明の種子コーティング剤は、抗カビ性に優れている。
【0040】
また、本発明の種子コーティング剤は抗カビ性に優れる一方、マメ科の植物の生育を補助することで知られる根粒菌に対する抗菌性は低いため、マメ科の植物の種子コーティング剤として特に好適に用いることができる。
【実施例
【0041】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中「%」、「部」とあるのは、重量基準を意味する。
【0042】
[実施例1]
<種子コーティング剤用バインダーの調製>
(カチオン性基含有PVA系樹脂)
還流冷却機、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、メタノール20部、酢酸ビニル100部、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの65%水溶液0.7部を仕込み、開始剤としてアセチルパーオキサイドを用い、窒素気流下で加熱還流させ重合を開始した。ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの65%水溶液2.7部を重合開始直後から5時
間かけて滴下し、重合率71%となった時点で重合禁止剤としてm-ジニトロベンゼンを投入し、重合を終了した。続いてメタノール蒸気を吹き込む方法により、未反応モノマーを系外に除去し、共重合体のメタノール溶液を得た。次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度32%に調整して、ニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を、共重合体の酢酸ビニル単体に対して20ミリモルとなる量を加えてケン化を行った。生成した固形物を濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的物であるカチオン性基含有PVA系樹脂を得た。得られたカチオン性基含有PVA系樹脂の平均ケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、99モル%であり、平均重合度は1800であった。また、カチオン性基の含有量はH-NMRで測定して算出したところ3モル%であった。
【0043】
<種子コーティング剤の調製>
種子コーティング剤用バインダーとして、上記で得られたカチオン性基含有PVA系樹脂を1部、無機フィラーとしてカオリン(キシダ化学社製、カオリン)を100部、滑剤としてポリエチレングリコール(日油社製、PEG300)1部を濃度46%となるように種子コーティング剤の水分散液を作製した。
【0044】
<コーティング種子の調製>
上記の種子コーティング剤の水分散液1gをポリエチレン袋に入れて、豌豆の種子15gと接触させ、1分間振り混ぜて種子コーティング剤を種子にまんべんなく付着させた。種子コーティング剤の付着した種子をフッ素樹脂シートに置いて室温で一日以上乾燥させ、コーティング種子とした。
【0045】
<抗カビ性評価>
上記で得られたコーティング種子を水道水で湿らせた脱脂綿を敷いたシャーレに入れふたをして、15℃、常湿の恒温機で4日間静置し、カビの生えたコーティング種子の個数を下記の基準にて目視で評価した。結果を表1に示す。
評価基準
○:4日後、種子にカビの発生が全くなかった。
△:4日後、いくつかの種子にカビが発生した。
×:4日後、すべての種子にカビが発生した。
【0046】
<発芽性評価>
上記で得られたコーティング種子を水道水で湿らせた脱脂綿を敷いたシャーレに入れふたをして、15℃、常湿の恒温機で4日間静置し、1cm以上発芽したコーティング種子の個数を目視で評価した。結果を表1に示す。
◎:3日後、すべての種子が発芽した。
○:4日後、すべての種子が発芽した。
×:4日後、すべての種子は発芽しなかった。
【0047】
[実施例2]
実施例1において、平均ケン化度87モル%、平均重合度1800、カチオン性基の含有量1モル%のカチオン性基含有PVA系樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、平均ケン化度98モル%、平均重合度2000、未変性のPVA系樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
実施例1において、平均ケン化度98モル%、平均重合度500、未変性のPVA系樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す
【0050】
[比較例3]
実施例1において、平均ケン化度88モル%、平均重合500、未変性のPVA系樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す
【0051】
[比較例4]
実施例1において、平均ケン化度78モル%、平均重合度2000、未変性のPVA系樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す
【0052】
[比較例5]
実施例1において、平均ケン化度78モル%、平均重合度500、未変性のPVA系樹脂を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す
【0053】
[比較例6]
実施例1において、カチオン性基含有PVA系樹脂の替りにCMC(キシダ化学社製)を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す
【0054】
[比較例7]
実施例1において、カチオン性基含有PVA系樹脂の替りに澱粉(和光純薬社製)を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行った。結果を表1に示す
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、カチオン性基含有PVA系樹脂を用いた実施例1、2では、未変性のPVA系樹脂を用いた比較例1~5と比して抗カビ性に優れ、PVA系樹脂を用いなかった比較例6、7に比して、発芽性に優れていることから、優れた種子コーティング剤であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の種子コーティング剤用バインダー、種子コーティング剤およびコーティング種子は、抗カビ性および発芽性に優れるので、作物種子のコーティングに好適に利用することができる。