(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】非水系二次電池用負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20240228BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/36 D
(21)【出願番号】P 2020059193
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石渡 信亨
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏城
(72)【発明者】
【氏名】池田 宏允
(72)【発明者】
【氏名】加藤 瑛博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博明
(72)【発明者】
【氏名】横溝 正和
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-060465(JP,A)
【文献】特開2014-067636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含み、
水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを持ち、細孔径が最小のピークと次のピークの谷間の極小値以下の積算細孔容積をy[mL/g]とし、黒鉛表面の非晶質炭素質物および黒鉛質物のコート率をx(%)とした場合に下記式(1)および(2)を充足し、前記細孔径が最小のピークのピークトップの細孔径が360nm以下である非水二次電池用負極材。
式(1):y>0.005
式(2):y<-0.006x+0.12
【請求項2】
表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含み、
水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを持ち、細孔径が最小のピークと次のピークの谷間の極小値以下の積算細孔容積をy[mL/g]とし、黒鉛表面の非晶質炭素質物および黒鉛質物のコート率をx(%)とした場合に下記式(1)および(3)を充足する非水二次電池用負極材。
式(1):y>0.005
式(3):y<-0.006x+0.079
【請求項3】
前記黒鉛が天然黒鉛である請求項1または2に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項4】
真密度が2.20g/cm
3以上、2.262g/cm
3未満である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項5】
タップ密度が0.85g/cm
3以上である請求項1乃至4の何れか一項に記載の非水
系二次電池用負極材。
【請求項6】
表面の少なくとも一部が非晶質炭素質物によって被覆されている請求項1乃至5の何れか一項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項7】
鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、及び塊状黒鉛を造粒処理した球状黒鉛粒子を含有する請求項1乃至6の何れか一項に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項8】
前記造粒処理が、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与する処理である請求項7に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項9】
前記造粒処理が、ケーシング内で高速回転する回転部材を備え、ケーシング内に複数のブレードを設置したローターを有する装置において、該ローターが高速回転することによって、内部に導入された黒鉛に対して衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかを与えることで造粒する処理である請求項7又は8に記載の非水系二次電池用負極材。
【請求項10】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が請求項1乃至9のいずれか一項に記載の負極材を含有する、非水系二次電池用負極。
【請求項11】
正極及び負極、並びに電解質を備え、該負極が請求項10に記載の非水系二次電池用負極である、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用負極材に関する。また、本発明は、この非水系二次電池用負極材を含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度が高く、急速充放電特性に優れた非水系二次電池、とりわけリチウムイオン二次電池が注目されている。特に、リチウムイオンを吸蔵・放出できる正極及び負極、並びにLiPF6やLiBF4等のリチウム塩を溶解させた非水電解液からなる非水系リチウム二次電池が開発され、実用化されている。
【0003】
この非水系リチウム二次電池の負極材としては種々のものが提案されているが、高容量であること、放電電位の平坦性に優れていること等の理由から、天然黒鉛やコークス等の黒鉛化で得られる人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズピッチ、黒鉛化炭素繊維等の黒鉛質の炭素材が用いられている。また、一部の電解液に対して比較的安定しているなどの理由で非晶質の炭素材も用いられている。更には、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆あるいは付着させ、黒鉛による高容量かつ不可逆容量が小さいという特性と、非晶質炭素による電解液との安定性に優れるという特性との2つの特性を併せもたせた炭素材も用いられている。
【0004】
最近では、電気自動車等の分野において、航続距離の要求の高まりから高容量な電池の需要が高まっており、より電極の高密度化、極板が膨張しないことが重要となっている。さらに急速充電特性や低温入出力特性に優れること等の特性が重視されているため、これらの観点から上記の非水系リチウム二次電池の負極材の中でも黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆あるいは付着させた材料が使用されている。このような材料の中でも、特許文献1において、特定の条件で非晶質炭素を被覆させると共に、黒鉛に等方的加圧処理を行うことで急速充電特性を改善した負極材が開示されている。また、特許文献2において、黒鉛粒子に被覆する非晶質炭素について、原料にキノリン含有量が高いコールタールピッチを用いて表面に存在する硫黄元素及び窒素元素の原子濃度を制御することにより、高容量で、充放電特性を改善した負極材が開示されている。また、特許文献3において、特定の熱的特性を有する炭素材により、プレス荷重が低く、低温出力特性を改善した負極材が開示されている。更に、特許文献4において、特定の非晶質炭素で被覆されており、特定の細孔容積を有することにより、低温入出力特性及び高温保存特性を改善した負極材が開示されている。さらに特許文献5には、炭素材の、真密度と特定の荷重をかけた時の密度からタップ密度を減じた値が特定の関係を満たすことで、高容量化し且つ優れた低温入力特性を改善した負極材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2011/052452
【文献】WO2012/157590
【文献】特開2017-045574号公報
【文献】特開2018-163868号公報
【文献】特開2017-37711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等の検討によれば、特許文献1に記載の非水系二次電池用負極材では、細孔量を制御するために加圧処理による改質、被覆処理で調整しているが単純に非晶質炭素質物量を多くすると粒子が硬くなり高密度までプレスすることが困難であることが分かった。また、特許文献2~4に記載の非水系二次電池用負極材では、非晶質炭素質物を被覆することで急速充放電特性、及び高温保存特性を向上させているが非晶質炭素質物に起因して粒子が硬くなり高密度まで電極をプレスすることができないことがわかった。さらに特許文献5には非晶質炭素質物量とプレス性の関係を考慮して容量、出力特性が改善しているが、実施している荷重や密度が低く、更なる高密度化に対しては不十分であった。即ち、本発明の課題は、高容量な電池を作成するために非晶質炭素質物で被覆した非水系二次電池用負極材において、より小さなプレス荷重で高密度にプレスすることにより、高容量を達成し、且つ極板膨張が小さい非水系二次電池を提供できる非水系二次電池用負極材、並びにこれを含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、コート率あたりの粒子内の細孔容積を制御し、且つ粒子内空隙のピークを制御することで粒子の硬さに対して、プレス性が良好で極板膨張が小さい非水系二次電池を提供できる非水系二次電池用負極材、並びにこれを含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池を得られることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
[1] 表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含み、
水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを持ち、細孔径が最小のピークと次のピークの谷間の極小値以下の積算細孔容積をy[mL/g]とし、黒鉛表面の非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方のコート率をx(%)とした場合に下記式(1)および(2)を充足し、前記細孔径が最小のピークのピークトップの細孔径が360nm以下である非水二次電池用負極材。
式(1):y>0.005
式(2):y<-0.006x+0.12
[2] 表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含み、
水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを持ち、細孔径が最小のピークと次のピークの谷間の極小値以下の積算細孔容積をy[mL/g]とし、黒鉛表面の非晶質炭素質物および黒鉛質物のコート率をx(%)とした場合に下記式(1)および(3)を充足する非水二次電池用負極材。
式(1):y>0.005
式(3):y<-0.006x+0.079
[3] 前記黒鉛が天然黒鉛である[1]または[2]に記載の非水系二次電池用負極材。
[4] 真密度が2.20g/cm3以上、2.262g/cm3未満である[1]乃至[3]のいずれかに記載の非水系二次電池用負極材。
[5] タップ密度が0.85g/cm3以上である[1]乃至[4]の何れかに記載の
非水系二次電池用負極材。
[6] 表面の少なくとも一部が非晶質炭素質物によって被覆されている[1]乃至[5]の何れかに記載の非水系二次電池用負極材。
[7] 鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、及び塊状黒鉛を造粒処理した球状黒鉛粒子を含有する[1]乃至[6]の何れかに記載の非水系二次電池用負極材。
[8] 前記造粒処理が、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与する処理である[7]に記載の非水系二次電池用負極材。
[9] 前記造粒処理が、ケーシング内で高速回転する回転部材を備え、ケーシング内に複数のブレードを設置したローターを有する装置において、該ローターが高速回転することによって、内部に導入された黒鉛に対して衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかを与えることで造粒する処理である[7]又は[8]に記載の非水系二次電池用負極材。[10] 集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が[1]乃至[9]のいずれかに記載の負極材を含有する、非水系二次電池用負極。
[11] 正極及び負極、並びに電解質を備え、該負極が[10]に記載の非水系二次電池用負極である、非水系二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高容量向け電池のため粒子の硬さに対し、小さな荷重のプレスで高密度まで到達可能で且つ極板膨張が小さい非水系二次電池を提供できる非水系二次電池用負極材、並びにこれを含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1~3、比較例1~6におけるコート率と水銀圧入法による細孔分布のピークの極小値以下の細孔径の細孔容積の関係を示すグラフである。
【
図2】実施例1~3、比較例1~6におけるPellet密度-Tap密度に対する1.65g/cm
3までプレスするのにかかる荷重の関係を示すグラフである。
【
図3】実施例1と比較例1の水銀圧入法測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0012】
〔非水系二次電池用負極材〕
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池用負極材(以下、単に「負極材」と称することがある。)は、表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを持ち、そのピークの谷間の極小値以下の積算細孔容積をy、コート率をxとした場合に下記式(1)および(2)を充足し、その極小値以下のピークにおけるピークトップの細孔径が360nm以下である非水二次電池用負極材である。
式(1):y>0.005
式(2):y<-0.006x+0.12
また、本発明の別の実施形態に係る非水系二次電池用負極材は、表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含み、水銀圧入法で測定した細孔分布が2つ以上のピークを持ち、そのピークの谷間の極小値以下の細孔容積をy(mL/g)、コート率をx(%)とした場合に下記式(1)および(3)を充足することが好ましい。
式(1):y>0.005
式(3):y<-0.006x+0.079
【0013】
本実施形態の非水系二次電池用負極材は、高容量電池向けに小さなプレス荷重で高密度までプレス加工が可能で且つ極板膨張が小さい非水系二次電池を提供するという効果を奏する。本発明がこのような効果を奏する理由は定かではないが、次の理由が考えられる。
【0014】
本実施形態の負極材において、水銀圧入法で求められる細孔容積のうち極小値以下の細孔径の範囲における積算細孔容積は、負極材粒子内部に存在する細孔容積の指標となる。
これをコート率に対し特定の範囲まで小さくすることにより、電極を一定密度となるまでプレスした際に、従来の粒子内部に存在する細孔容積が大きい負極材と比較して、より粒子の変形が小さいままプレスすることが可能となり、まったく粒子内細孔がない負極材と比較してプレスした際に適度に変形することが可能となる。この結果、より高密度までプレスすることが可能となる。
【0015】
さらに、水銀圧入法における一番小さいピークは粒子内細孔のサイズの指標となる。この粒子内の細孔のピークが小さいということは細孔径の小さな細孔が粒子内に存在し、粒子内の鱗片同士がより緻密に結着していることを示している。緻密に結着することでサイクル後の極板膨張が小さくなると考えている。
【0016】
[物性]
本発明の一実施形態に係る負極材は以下に説明する積算細孔容積とコート率の関係を満足する。また、本発明に係る負極材は、以下の各物性を満足していることが好ましい。
【0017】
<細孔容積>
本発明に係る負極材において、水銀圧入法(水銀ポロシメトリー)で測定した細孔分布が2つ以上のピークを持ち、細孔径が最小のピークと次のピークの谷間の極小値以下の積算細孔容積をy(mL/g)、コート率をx(%)とした場合に下記式(1)および(2)を充足する。
式(1):y>0.005
式(2):y<-0.006x+0.12
ピークの数としては2つ以上であり、より好ましくは2つである。
細孔分布のピークは粒子間の空隙と粒子内の空隙を示しており、ピークが一つの場合には粒子間空隙しか存在しないことを意味し、プレスした際の変形が不十分になる。 式(1)としては、粒子内空隙が存在する必要があるためy>0.005であり、y>0.01がより好ましく、y>0.015がさらに好ましい。
式(2)としては、y<αx+βとした場合、コート率xを横軸に、前記積算細孔容積yをy軸として、
図1中の式(2)の傾きを表し、βは式(2)のy切片を表す。αは、非晶質炭素質物および黒鉛質物のコート率と粒子内空隙を埋める効率である点から-0.0055以下が好ましく、好ましくは-0.007以上であり、より好ましくは-0.0065以上であり、最も好ましくは-0.006、である。βは非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方でコートする前の粒子内空隙の値である点から0.11以下が好ましく、0.10以下がさらに好ましく、0.09以下がより好ましく、0.079以下が特に好ましく、0.07が最も好ましい。上記式の範囲外になるということは非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方で細孔がうまく被覆されていないことを示しており、良好なプレス性を得ることができないことを示し、結果として急速充電や出力保存特性に悪影響を及ぼす。
【0018】
細孔径が小さい側のピークトップは粒子内細孔のサイズが小さいということを示している。粒子内細孔が細かいとは細孔径の小さな細孔が粒子内に存在し、粒子内の鱗片同士がより緻密化していることを示している点から、水銀圧入法で測定した細孔容積のうち細孔径が最小のピーク(小さい側のピーク)におけるピークトップの細孔径が350nm以下であることが好ましく、280nm以下であることがより好ましく、220nm以下であることがさらに好ましく、160nm以下であることがことさら好ましく、100nm以下であることが特に好ましく、85nm以下であることが最も好ましい。なお、ピークが一つしかない場合は粒子内空隙が存在していないことを示している。小さい側のピークが上記範囲外にあるということは粒子内に大きな空隙が頻度高く存在していることを示し、粒子を形成する鱗片同士の結着力が小さいことを示している。その結果充放電を繰り返したときに粒子が膨張し、結果として極板がより膨張する可能性がある。
【0019】
<積算細孔容積>
本発明に係る負極材において、細孔分布の細孔径が小さい側の2つのピークの谷間の極小値以下の範囲における積算細孔容積は水銀圧入法(水銀ポロシメトリー)を用いて測定した値で、通常0.12mL/g以下であり、好ましくは0.080mL/g以下であり、より好ましくは0.070mL/g以下であり、さらに好ましくは0.060mL/g以下であり、特に好ましくは0.050mL/g以下であり、最も好ましくは0.040mL/g以下であり、一方、好ましくは0.001mL/g以上であり、より好ましくは0.002mL/g以上であり、さらに好ましくは0.005mL/g以上であり、特に好ましくは0.010mL/g以上であり、最も好ましくは0.020mL/g以上である。上記範囲内であれば、充放電時にLiイオンが電極内をスムーズに移動することができ急速充放電特性や低温入出力特性が良好であるため、好ましい。
【0020】
上記水銀ポロシメトリー用の装置として、水銀ポロシメータ(オートポア9520:マイクロメリテックス社製)を用いることができる。試料(負極材)を0.2g前後の値となるように秤量し、パウダー用セルに封入し、室温、真空下(50μmHg以下)にて10分間脱気して前処理を実施する。引き続き、4psia(約28kPa)に減圧して前記セルに水銀を導入し、圧力を4psia(約28kPa)から40000psia(約280MPa)までステップ状に昇圧させた後、25psia(約170kPa)まで降圧させる。昇圧時のステップ数は80点以上とし、各ステップでは10秒の平衡時間の後、水銀圧入量を測定する。こうして得られた水銀圧入曲線からWashburnの式を用い、細孔分布を算出する。なお、水銀の表面張力(γ)は485dyne/cm、接触角(ψ)は140°として算出する。
そして、得られた結果より作成した、横軸を細孔径、縦軸を細孔容積とするグラフする。そのグラフにおいて、細孔径が一番小さいピークと次のピークの谷間の極小値を求め、それ以下を積算細孔容積yと定義する。
【0021】
<コート率>
本明細書において、コート率xは、以下のように求めることができる。つまり、黒鉛と非晶質前駆体の混合比率と焼成後の焼成収率から算出することができる。
式(4):
コート率x(%)=([焼成後のサンプル重量-黒鉛の重量]/[焼成後のサンプル重量]×100)
また、混合比率、焼成収率が不明なサンプルの場合は非晶質と黒鉛の真密度の差を利用して推測することができる。
まず、母材の黒鉛の結晶性をXRDのd002値により確認する。黒鉛の理論的なd002値は3.354Åであり、結晶性の高い天然黒鉛は理論値に近い値を示す。一方人造黒鉛は原料コークスの種類、黒鉛化温度によりd002の数値が大きく変動する。d002値は好ましくは3.357Å以下、さらに好ましくは3.356Å以下、より好ましくは3.354Åである。d002値が上記範囲外の時は黒鉛の結晶性が低く、十分な充放電容量を持たないため好ましくない。XRDのd002値が3.357Å以下の高結晶が確認できれば下記推定式(5)を用いてコート率を推測することが可能となる。
式(5):
コート率(%)=596.72-264.02x真密度
本発明の一実施形態に係る負極材の真密度は好ましくは2.200g/cm3以上、より好ましくは2.210g/cm3以上、さらに好ましくは2.200g/cm3以上であり、黒鉛の理論的な真密度は2.262g/cm3である。
前記コート率は通常20%以下であり、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは9%以下であり、特に好ましくは8%以下であり、最も好ましくは7%以下であり、一方、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは
1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上である。上記上限以下であれば負極材中の黒鉛の割合が適量であり、高容量化しやすく、一方下限以上では非晶質が適量でありリチウムイオンを黒鉛表面からスムーズに移動することができるため急速充放電特性や低温入出力特性が良好である。
【0022】
真密度は、ブタノールを使用した液相置換法(ピクノメーター法)によって測定したもので定義する。測定の際の測定誤差を限りなく低減するため測定回数を少なくとも3回、好ましくは5回、さらに好ましくは7回、特に好ましくは10回実施しその平均を用いるのが好ましい。
本発明の炭素材のd002値は、学振法によるX線回折で求めることができる。ここでのX線回折測定条件は次の通りである。
X線: Cu Kα線
測定範囲、及び、ステップ角度: 20度≦2θ≦30度、0.013度
試料調整 : 0.2mm深さの試料板凹部に粉末試料を充填し平坦な試料面を作製。上記X線回折により測定した面間隔d002及び結晶子の大きさLc002としては学振法の従って測定される値を用いることができる。なお、学振法においては、100nm(1000Å)以上の値は区別されず、すべて「>1000(Å)」と記載される。
【0023】
<BET比表面積(SA)>
本発明の一実施形態に係る負極材は、BET法による比表面積(SA)が、好ましくは0.5m2/g以上であり、より好ましくは0.8m2/g以上であり、更に好ましくは1.0m2/g以上である。一方、好ましくは10.0m2/g以下、より好ましくは6.5m2/g以下、更に好ましくは5.0m2/g以下、特に好ましくは4.0m2/g以下である。SAが上記下限値以上であると、Liイオンが出入りする部位が確保され、リチウムイオン二次電池の急速充放電特性や低温入出力特性が良好となる傾向にある。一方、SAが上記上限値以下であると活物質の電解液に対する活性が過剰となり過ぎず、電解液との副反応が抑えられて電池の初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を防ぎ、電池容量が向上する傾向がある。
【0024】
なお、BET比表面積(SA)はマウンテック社製マクソーブを用いて測定することができる。具体的には、試料に対して窒素流通下100℃、3時間の予備減圧乾燥を行なった後、液体窒素温度まで冷却し、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定することができる。
【0025】
<タップ密度>
本発明の一実施形態に係る負極材は、タップ密度(g/cm3)が、好ましくは1.15g/cm3以上であり、より好ましくは1.16g/cm3以上であり、更に好ましくは1.17g/cm3以上であり、特に好ましくは1.18g/cm3以上であり、最も好ましくは1.20g以上であり、一方、好ましくは1.40g/cm3以下であり、より好ましくは1.35g/cm3以下であり、更に好ましくは1.30g/cm3以下、である。タップ密度は、上記下限値以上であると極板化作製時のスジ引き等の工程性が良好になり、負極材層の充填性が上がるため圧延性が良好で高密度の負極シートが形成し易くなり高密度化が可能になり、電極体にしたときにLiイオン移動経路の屈曲度が小さくなり、かつ粒子間空隙の形状が整うため電解液の移動がスムーズになり急速充放電特性が向上するといった観点から好ましく、また、上記上限値以下であると粒子の表面や内部に適度な空間を有するため粒子が固くなりすぎず電極プレス性に優れ、また低温入出力特性や急速充放電特性に優れる観点から好ましい。
【0026】
なお、タップ密度は、粉体密度測定器タップデンサーKYT-3000(株式会社セイ
シン企業製)を用いて測定される。具体的には、20ccのタップセルに試料を落下させ、セルに満杯に充填した後、ストローク長10mmのタップを1000回行い、そのときの密度をタップ密度とする。
【0027】
<ペレット密度@2.4t/cm3>
内径φ10の金型に押し冶具としてφ10、長さ35mmのシャフト及び受け冶具としてφ10、長さ6mmのシャフトの2種類の冶具を挿入後、挟み込んだ時の荷重と高さ(厚み)を測定可能な装置(例えば、三菱ケミカルアナリテック製粉体抵抗測定システム)にセットし、油圧ポンプで15kgfの荷重を加え、冶具高さを測定する。次に、押し冶具のみを取り出して複合粒子0.6gを加え、再度押し冶具を挿入する。金型を油圧ジャッキ(例えばアズワン製ハイプレッシャージャッキJ-1)にセットし、圧力弁を締めて0.9t/cm2までゆっくり加圧し、2.4t/cm2まで速やかに加圧した後、3秒間保持し、油圧ジャッキから手を離して60秒待ち、圧力弁を緩めて減圧する。その後、挟み込んだ時の荷重と高さを測定可能な装置に再度セットし、油圧ポンプで15kgfの荷重を加え、加圧後の冶具高さを測定する。併せて加圧後の複合粒子の重量を測定し、前述の冶具高さの差分と重量から算出される密度をペレット密度として定義する。単位面積当たりの荷重は油圧ジャッキの目盛りとシリンダー径、金型の内径から算出できる。例えば後述の実施例ではφ22mmのシリンダー径を用い、ジャッキの目盛りが500kgfになるまでプレスすることで2.4t/cm2の荷重をかけた。
【0028】
<ペレット密度-タップ密度>
ペレット密度からタップ密度(g/cm3)を減じた数値は荷重をかけた際の詰まりやすさを表しており、粒子の硬さの指標として用いることができる。
ペレット密度-タップ密度は好ましくは0.1g/cm3以上であり、より好ましくは0.15g/cm3以上であり、更に好ましくは0.2g/cm3以上であり、特に好ましくは0.26g/cm3以上であり、一方、好ましくは0.8g/cm3以下であり、より好ましくは0.6g/cm3以下であり、更に好ましくは0.4g/cm3以下である。ペレット密度-タップ密度が上記上限値以下であると粒子が適度な硬さを持ち、高密度にプレスした際に電極表面の粒子が潰れすぎることなく電解液の移動がスムーズとなるため、好ましい。また、上記下限以上になると粒子が硬すぎることなく、高密度までプレスすることが可能になるため好ましい。
【0029】
<体積基準平均粒子径(平均粒子径d50)>
本発明の一実施形態に係る負極材は、体積基準平均粒子径(「平均粒子径d50」とも記載する。)は好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは4μm以上、特に好ましくは5μm以上である。また、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは20μm以下である。d50の値が上記下限値以上であると、不可逆容量の増加、初期電池容量の損失を防ぎやすくなる傾向があり、一方、d50の値が上記上限値以下であるとスラリー塗布における筋引き等の工程不都合の発生を防ぎ、急速充放電特性や低温入出力特性が向上する傾向がある。
【0030】
平均粒子径(d50)は、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、ツィーン20(登録商標)が挙げられる)の0.2重量%水溶液10mLに、複合粒子0.01gを懸濁させ、これを測定サンプルとして市販のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えばHORIBA製LA-920)に導入し、測定サンプルに28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、前記測定装置において体積基準のメジアン径として測定したものであると定義する。
【0031】
[製造方法]
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池用負極材の製造方法は、表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含みコート率に対する特定の粒子内空隙の関係を満たし、水銀圧入法で測定した細孔容積のうち極小値以下のピークにおけるピークトップが特定の大きさを満たすように製造できる方法であれば特に制限はないが、例えば、鱗片を細かく粉砕したのち、造粒材の存在下で球形化処理を施した球状黒鉛を加圧処理して、非晶質炭素前駆体(非晶質炭素質物の原料)を混合し、焼成することで製造することができる。加圧処理は、異方的、等方的な加圧処理が挙げられるが、上記積算細孔容積yと上記コート率xとの関係を特定の範囲内に制御する観点から、当方的加圧処理が好ましい。また、加圧処理の条件としては、特に限定されないが、50MPa以上300MPa以下で処理することで、上記積算細孔容積yと上記コート率xとの関係を特定の範囲内に制御することができる。加圧処理の条件は、上記積算細孔容積yと上記コート率xとの関係を特定の範囲内に制御する観点から、好ましくは100MPa以上、より好ましくは120MPa以上、さらに好ましくは140MPa以上、特に好ましくは160MPa以上、最も好ましくは180MPa以上、また、好ましくは280MPa以下、より好ましくは260MPa以下、さらに好ましくは240MPa以下、特に好ましくは230MPa以下、最も好ましくは220MPa以下である。上述の製造法は、具体的には、鱗片の粉砕条件、球形化条件、成型圧力、コート率を制御することでコート率あたりの細孔容積を制御することが可能となり、且つ、小さいピークのピークトップの大きさを制御することが可能になるため好ましい
【0032】
<黒鉛>
本発明の一実施形態に係る負極材は黒鉛を含む。本発明の一実施形態に係る負極材を製造するために使用する黒鉛は、以下の種類、物性を示すものが好ましい。なお、黒鉛の物性について、その測定条件及び定義は特に説明しない限りは前述の負極材について説明したものと同様である。
【0033】
黒鉛の種類は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能であれば、その種類は特に限定されず、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれであってもよい。天然黒鉛としては、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等のいずれであってもよいが、不純物の少ない黒鉛が好ましく、必要に応じて公知の精製処理を施して用いることが好ましい。人造黒鉛としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の有機物を、通常2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で焼成し、黒鉛化したものが挙げられる。この際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。
【0034】
黒鉛の結晶性(黒鉛化度)は、通常、X線広角回折法による学振法で求められる(002)面の面間隔(d002)が、好ましくは3.357Å以下、さらに好ましくは3.356Å以下、より好ましくは3.354Å以下である。d002が上記範囲外の時は黒鉛の結晶性が適切であり、十分な充放電容量を持ち好ましい。
【0035】
黒鉛の形状は急速充放電特性の観点から特に球状黒鉛(球状化黒鉛)であることが好ましい。黒鉛粒子を球状化する方法として、具体的には、黒鉛に対し、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与して原料炭素材を造粒する造粒工程を有し、前記造粒工程を、下記1)、2)及び3)の条件を満足する造粒剤の存在下で行うが好ましい。
1)前記原料炭素材を造粒する工程時に造粒材が液体である。
2)造粒材が非晶質炭素となる有機化合物を含む。
3)造粒剤として有機溶剤を含まないか、有機溶剤を含む場合、有機溶剤の内、少なくとも1種は引火点を有さない、又は引火点を有するときには該引火点が5℃以上であるものを用いる。
【0036】
上記造粒工程を有すれば、必要に応じて別の工程を更に有していてもよい。別の工程は単独で実施してもよいし、複数工程を同時に実施してもよい。一実施形態としては、以下の第1工程乃至第5工程を含むものが挙げられる。以下、これらの工程について説明する。
(第1工程)原料炭素材の粒度を調整する工程
(第2工程)原料炭素材と造粒剤とを混合する工程
(第3工程)原料炭素材を造粒する工程
(第4工程)造粒剤を除去する工程
(第5工程)造粒炭素材に原料炭素材より結晶性が低い非晶質炭素質物を添着する工程
【0037】
(第1工程)原料炭素材の粒度を調整する工程
本発明の非水系二次電池用負極材の製造に用いる原料炭素材は、前述した黒鉛が使用される。
【0038】
原料炭素材は第1工程において次のような粒度に調整することが好ましい。即ち、得られる原料炭素材の平均粒子径(d50)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上であり、一方、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは12μm以下、最も好ましくは9μm以下である。
【0039】
d50を上記範囲内に原料炭素材の粒度を調整することで球形化処理後に負極材として好ましい粒径となり、また、鱗片同士の距離が短くなり、強固な粒子となるため好ましい。
【0040】
原料炭素材のd50を上記範囲に調整する方法として、例えば(天然)黒鉛粒子を粉砕または分級の少なくとも一つをする方法が挙げられる。
【0041】
粉砕に用いる装置に特に制限はないが、例えば、粗粉砕機としてはせん断式ミル、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コーンクラッシャー等が挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、ハンマーミル等が挙げられ、微粉砕機としては、機械式粉砕機、気流式粉砕機、旋回流式粉砕機等が挙げられる。具体的には、ボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、ジェットミル、サイクロンミル、ターボミル等が挙げられる。特に、d50が10μm以下の黒鉛粒子を得る場合には、気流式粉砕機や旋回流式粉砕機を用いることが好ましい。
【0042】
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合は、回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合は、重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)を用いることができ、また、湿式篩い分け、機械的湿式分級機、水力分級機、沈降分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0043】
また、第一工程で得られる、原料炭素材としては以下のような物性を満足することが好ましい。
【0044】
原料炭素材のX線広角回折法による002面の面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)は、通常、d002が3.37Å以下でLcが900Å以上であり、d002が
3.36Å以下でLcが950Å以上であることが好ましい。d002及びLcは、炭素材バルクの結晶性を示す値であり、d002の値が小さいほど、またLcが大きいほど、結晶性が高い炭素材であることを示し、黒鉛層間に入るリチウムの量が理論値に近づくので容量が増加する。結晶性が低過ぎると高結晶性黒鉛を電極に用いた場合の、高容量で、かつ不可逆容量が低いという優れた電池特性が発現しにくくなる傾向にある。d002とLcは、上記範囲が組み合わされていることが特に好ましい。
【0045】
X線回折は次の手法により測定する。まず、炭素粉末に総量の約15重量%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合したものを材料とし、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法で広角X線回折曲線を測定する。その後、学振法を用いて面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)を求める。
【0046】
原料炭素材の充填構造は、粒子の大きさ、形状、粒子間相互作用力の程度等によって左右されるが、本発明では充填構造を定量的に議論する指標の一つとしてタップ密度を適用することも可能である。本発明者らの検討では、真密度と平均粒子径がほぼ等しい黒鉛質粒子では、形状が球状で粒子表面が平滑であるほど、タップ密度が高い値を示すことが確認されている。すなわち、タップ密度を上げるためには、粒子の形状を球状に近づけ、粒子表面の平滑さを保つことが重要である。粒子形状が球状に近づき粒子表面が平滑であると、粉体の充填性も大きく向上する。原料炭素材のタップ密度は、好ましくは0.1g/cm3以上であり、より好ましくは0.15g/cm3以上であり、更に好ましくは0.2g/cm3以上であり、特に好ましくは0.3g/cm3以上である。タップ密度は実施例で後述する方法により測定する。
【0047】
原料炭素材のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルは粒子の表面の性状を現す指標として利用されている。原料炭素材のアルゴンイオンレーザーラマンスペクトルにおける1580cm-1付近のピーク強度に対する1360cm-1付近のピーク強度比であるラマンR値は、好ましくは0.05以上0.9以下であり、より好ましくは0.05以上0.7以下であり、更に好ましくは0.05以上0.5以下である。R値は炭素粒子の表面近傍(粒子表面から100Å位まで)の結晶性を表す指標であり、R値が小さいほど結晶性が高い、あるいは結晶状態が乱れていないことを示す。ラマンスペクトルは以下に示す方法により測定する。具体的には、測定対象粒子をラマン分光器測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射すると共に、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。なお、アルゴンイオンレーザー光の波長は514.5nmとする。
【0048】
原料の鱗片状黒鉛のBET比表面積(SA)は好ましくは5m2/g以上、より好ましくは10m2/g以上、好ましくは25m2/g以下、より好ましくは20m2/g以下である。上記範囲内であれば、次工程の球形化の工程で効率的に球形化されるため好ましい。
【0049】
原料の鱗片状黒鉛のBET比表面積(SA)はマウンテック社製マクソーブを用いて測定することができる。具体的には、試料に対して窒素流通下100℃、3時間の予備減圧乾燥を行なった後、液体窒素温度まで冷却し、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定できる。
【0050】
(第2工程)原料炭素材と造粒剤とを混合する工程
本発明の実施形態で用いる造粒剤は、1)前記原料炭素材を造粒する工程時に液体、2)造粒材が非晶質炭素となる有機化合物を含む、及び3)造粒剤が有機溶剤を含まないか
、有機溶剤を含む場合、有機溶剤の内、少なくとも1種は引火点を有さない、又は引火点を有するときには該引火点が5℃以上、の条件を満足するものである。
【0051】
上記要件を満たす造粒剤を有することで、続く第3工程における原料炭素材を造粒する工程の際に、原料炭素材間を造粒剤が液架橋することにより、原料炭素材間に液架橋内の毛管負圧と液の表面張力によって生じる引力が粒子間に液架橋付着力として働くため、原料炭素材間の液架橋付着力が増大し、原料炭素材がより強固に粒子表面に付着し、より効果的鱗片同士の距離を短くできるため好ましい。
【0052】
本発明においては、原料炭素材間を造粒剤が液架橋することによる原料炭素材間の液架橋付着力の強さはγcosθの値に比例する(ここで、γ:液の表面張力、θ:液と粒子の接触角)。すなわち、原料炭素材を造粒する際に、造粒剤は原料炭素材との濡れ性が高いことが好ましく、具体的にはγcosθ>0となるようにcosθ>0となる造粒剤を選択するのが好ましく、造粒剤の下記測定方法で測定した黒鉛との接触角θが90°未満であることが好ましい。
【0053】
(黒鉛との接触角θの測定方法)
HOPG表面に1.2μLの造粒剤を滴下し、濡れ広がりが収束して一秒間の接触角θの変化率が3%以下となったとき(定常状態ともいう)の接触角を接触角測定装置(協和界面社製自動接触角計DM-501)にて測定する。ここで、25℃における粘度が500cP以下の造粒剤を用いる場合には25℃における値を、25℃における粘度が500cPより大きい造粒剤を用いる場合には、粘度が500cP以下となる温度まで加温した温度における接触角θの測定値とする。
【0054】
さらに、原料炭素材と造粒剤の接触角θが0°に近いほど、γcosθ値が大きくなるため、黒鉛粒子間の液架橋付着力が増大し、黒鉛粒子同士がより強固に付着することが可能となる。従って、前記造粒剤の黒鉛との接触角θは85°以下であることがより好ましく、80°以下であることが更に好ましく、50°以下であることがこと更に好ましく、30°以下であることが特に好ましく、20°以下であることが最も好ましい。
【0055】
表面張力(γ)が大きい造粒剤を使用することによっても、γcosθ値が大きくなり黒鉛粒子の付着力は向上するため、γは好ましくは0以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは30以上である。造粒剤の表面張力(γ)は、表面張力計(例えば、協和界面科学株式会社製DCA-700)を用いてWilhelmy法により測定することができる。
【0056】
また、粒子の移動に伴う液橋の伸びに対する抵抗成分として粘性力が働き、その大きさは粘度に比例する。このため、原料炭素材を造粒する造粒工程時において液体であれば造粒剤の粘度は特段限定されないが、造粒工程時において1cP以上であることが好ましい。
【0057】
造粒剤の、25℃における粘度は1cP以上100000cP以下であることが好ましく、5cP以上10000cP以下であることがより好ましく、10cP以上8000cP以下であることが更に好ましく、50cP以上6000cP以下であることが特に好ましい。粘度が上記範囲内にあると、原料炭素材を造粒する際に、ローターやケーシングとの衝突等の衝撃力による付着粒子の脱離を防ぐことが可能となる。
【0058】
本発明で用いる造粒剤の粘度は、レオメーター(例えば、Rheometric Scientific社製ARES)を用い、カップに測定対象(ここでは造粒剤)を適量入れ、所定の温度に調節して測定する。せん断速度100s-1におけるせん断応力が0.
1Pa以上の場合にはせん断速度100s-1で測定した値を、せん断速度100s-1におけるせん断応力が0.1Pa未満の場合には1000s-1で測定した値を、せん断速度1000s-1におけるせん断応力が0.1Pa未満の場合にはせん断応力が0.1Pa以上となるせん断速度で測定した値を、本明細における粘度と定義する。なお、用いるスピンドルを低粘度流体に適した形状とすることでもせん断応力を0.1Pa以上とすることができる。
【0059】
また造粒剤の、前記原料炭素材と造粒材を混合する際の粘度は1cP以上1000cP以下であることが好ましく、5cP以上800cP以下であることがより好ましく、10cP以上600cP以下であることが更に好ましく、20cP以上500cP以下であることが特に好ましい。粘度が上記範囲内にあると、原料炭素材に造粒材が均一に付着し、原料炭素材を造粒する際に、ローターやケーシングとの衝突等の衝撃力による付着粒子の脱離を防ぐことが可能となり、また、1nmから4nmの微細孔に造粒材が入り込み後工程で非晶質炭素となることによって本微細孔を低減でき、低温入出力特性や高温保存特性に優れた負極材を製造することが可能となるため好ましい。前記原料炭素材を造粒する工程時における粘度は、後述する有機溶剤の添加や、混合温度の制御により調整することができる。
【0060】
また、本発明の実施形態で用いる造粒剤は、非晶質炭素となる有機化合物を含むものである。これにより、1nmから4nmの微細孔に造粒材が入り込み非晶質炭素となることで本微細孔を低減できるため低温入出力特性や高温保存特性に優れた負極材を製造することができる。例えば、石油系や石炭系の重質油やタールやピッチ、ポリビニルアルコール、ポリアクリルニトリル、フェノール樹脂、セルロース等の樹脂が挙げられ、必要により水系溶媒、もしくは引火点を有さない、あるいは引火点を有するときは引火点が5℃以上の有期溶剤等を用いて希釈することができる。これらの中でも、非晶質炭素として微細孔を生成しにくく、1nmから4nmの微細孔をより効率的に低減できるため、ソフトカーボンである石油系や石炭系の重質油やタールやピッチ等を含むものが好ましい。
【0061】
さらに、本発明の実施形態で用いる造粒剤は、有機溶剤を含まないか、有機溶剤を含む場合、有機溶剤の内、少なくとも1種は引火点を有さない、あるいは引火点を有するときは引火点が5℃以上のものである。これにより、続く第3工程における原料炭素材を造粒する際に、衝撃や発熱に誘発される造粒剤の引火、火災、及び爆発の危険を防止することができるため、安定的に効率よく製造を実施することができる。
【0062】
引火点5℃以上の有機溶剤としては、流動パラフィン等のパラフィン系オイルやオレフィン系オイルやナフテン系オイルや芳香族系オイル等の合成油、植物系油脂類や動物系脂肪族類やエステル類や高級アルコール類等の天然油;キシレン、イソプロピルベンゼン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン等のアルキルベンゼン;メチルナフタレン、エチルナフタレン、プロピルナフタレン等のアルキルナフタレン;スチレン等のアリルベンゼン、アリルナフタレン等の芳香族炭化水素類;オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類や、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル等のエステル類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、メトキシプロパノール、メトキシプロピル-2-アセテート、メトキシメチルブタノール、メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチ
ルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコール類誘導体類;1,4-ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ピリジン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素有機化合物;ジメチルスルホキシド等の含硫黄有機化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等の含ハロゲン有機化合物、及びそれらこれらの混合物等が挙げられ、例えばトルエンのような引火点が低い化合物は含まれない。これらの有機溶剤は単体で造粒剤としても用いることができる。なお、本明細書において、引火点は、公知の方法により測定できる。
【0063】
原料炭素材と造粒剤を混合する方法として、例えば、原料炭素材と造粒剤とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法や、有機化合物を低粘度希釈溶媒(有機溶剤)に溶解させた造粒剤と原料炭素材を混合した後に該希釈溶媒(有機溶剤)を除去する方法等が挙げられる。これらの中でも、有機化合物中の炭素質物となる成分が多いほど1nmから4nmの微細孔をより効率的に低減できるため、原料炭素材と造粒剤とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法が好ましい。また、続く第3工程にて原料炭素材を造粒する際に、造粒装置に造粒剤と原料炭素材とを投入して、原料炭素材と造粒剤を混合する工程と造粒する工程とを同時に行う方法も挙げられる。
【0064】
造粒剤の添加量は、原料炭素材100重量部に対して好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは3重量部以上、より更に好ましくは6重量部以上、こと更に好ましくは10重量部以上、特に好ましくは12重量部以上、最も好ましくは15重量部以上であり、好ましくは1000重量部以下、より好ましくは100重量部以下、更に好ましくは80重量部以下、特に好ましくは50重量部以下、最も好ましくは30重量部以下である。上記範囲内にあると、粒子間付着力の低下による球形化度の低下や、装置への原料炭素材の付着による生産性の低下といった問題が生じ難くなる。
【0065】
(第3工程)原料炭素材を造粒する工程(原料炭素材に対して球形化処理を行う工程)
炭素材は、原料炭素材に衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与えることにより球形化処理(以下、造粒とも称する)を施したものであることが好ましい。また、該球形化黒鉛は、複数の鱗片状又は鱗状黒鉛、及び磨砕された黒鉛微粉からなるものであることが好ましく、特に複数の鱗片状黒鉛からなるものであることが特に好ましい。
【0066】
本発明は、少なくとも衝撃、圧縮、摩擦、及びせん断力のいずれかの力学的エネルギーを付与して原料炭素材を造粒する造粒工程を有することが好ましい。この工程に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に、原料炭素材の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し与える装置を用いることができる。
【0067】
具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された原料炭素材に対して衝撃、圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。また、原料炭素材を循環させることによって機械的作用を繰り返し与える機構を有するものであるのが好ましい。
【0068】
このような装置としては、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロン、クリプトロンオーブ(アーステクニカ社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム、ノビルタ、ファカルティ(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)、COMPOSI(日本コークス工業製)等が挙げられる。これらの中で、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムが
好ましい。
【0069】
前記装置を用いて処理する場合、例えば、回転するローターの周速度は好ましくは30m/秒以上、より好ましくは50m/秒以上、更に好ましくは60m/秒以上、特に好ましくは70m/秒以上、最も好ましくは80m/秒以上であり、好ましくは100m/秒以下である。上記範囲内であると、より効率的に球形化と同時に微粉の母材への付着や母材による内包を行うことができるため好ましい。
【0070】
また、原料炭素材に機械的作用を与える処理は、単に原料炭素材を通過させるだけでも可能であるが、原料炭素材を30秒以上、装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、より好ましくは1分以上、更に好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上、装置内を循環又は滞留させて処理する。
【0071】
また造粒剤の、前記原料炭素材を造粒する工程時における粘度は1cP以上であることが好ましく、5cP以上であることがより好ましく、10cP以上であることが更に好ましく、20cP以上であることが特に好ましく、一方、1000cP以下であることが好ましく、800cP以下であることがより好ましく、600cP以下であることが更に好ましく、500cP以下であることが特に好ましい。粘度が上記範囲内にあると、造粒材の存在下で原料炭素材を造粒する際に、ローターやケーシングとの衝突等の衝撃力による付着粒子の脱離を防ぐことが可能となり、また、1nmから4nmの微細孔に造粒材が入り込み後工程で非晶質炭素となることによって本微細孔を低減でき、低温入出力特性や高温保存特性に優れた負極材を製造することが可能となるため好ましい。前記原料炭素材を造粒する工程時における粘度は、有機溶剤の添加や、造粒処理温度の制御により調整することができる。
【0072】
また原料炭素材を造粒する工程においては、原料炭素材を、その他の物質存在下で造粒してもよく、その他の物質としては、例えばリチウムと合金化可能な金属或いはその酸化物、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、磨砕された黒鉛微粉、非晶質炭素、及び生コークス等が挙げられる。原料炭素材以外の物質と併せて造粒することで様々なタイプの粒子構造の非水系二次電池用負極材を製造できる。
【0073】
また、原料炭素材や造粒剤や上記その他の物質は上記装置内に一度に全量投入してもよく、分けて逐次投入してもよく、連続投入してもよい。また、原料炭素材や造粒剤や上記その他の物質は上記装置内に同時に投入してもよく、混合して投入してもよく、別々に投入してもよい。原料炭素材と造粒剤と上記その他の物質を同時に混合してもよいし、原料炭素材と造粒剤を混合したものに上記その他の物質を添加してもよいし、その他の物質と造粒剤を混合したものに原料炭素材を添加してもよい。粒子設計に併せて、別途適切なタイミングで添加・混合することができる。
【0074】
炭素材の球形化処理の際には、球形化処理中に生成する微粉を粒子表面に効果的に付着しながら球形化処理することがより好ましい。球形化処理中に生成する微粉を粒子表面に付着させながら球形化処理することにより、大きな鱗片の隙間に小さな鱗片が緻密に結着し、鱗片間を強固に結着させることが可能となる。このため、この後に非晶質物または黒鉛化物で被覆した際により効果的に粒子内空隙を低減することが可能となる。また、Liイオンの挿入・脱離サイトとして利用できるエッジの量が増大し、且つ電解液が粒子内空隙へと有効且つ効率的に行き渡り、粒子内のLiイオン挿入脱離サイトを効率的に利用できるようになるため、良好な低温出力特性やサイクル特性を示す傾向がある。また、母材に付着する微粉は球形化処理中に生成したものに限らず、鱗片状黒鉛粒度調整の際に同時に微粉を含むよう調整してもよいし、別途適切なタイミングで添加・混合してもよい。
【0075】
微粉を母材の粒子表面に効果的に付着させるために鱗片状黒鉛粒子-鱗片状黒鉛粒子間、鱗片状黒鉛粒子-微粉粒子間、及び微粉粒子-微粉粒子間の付着力を強くすることが好ましい。粒子間の付着力として、具体的には、粒子間介在物を介さないファンデルワールス力や静電引力、粒子間介在物を介する物理的または化学的架橋力等が挙げられる。
【0076】
ファンデルワールス力は、平均粒子径(d50)が100μmを境に小さくなるほど[自重]<[付着力]となる。このため、球形化黒鉛の原料となる鱗片状黒鉛(原料炭素材)の平均粒子径(d50)が小さいほど粒子間付着力が増し、微粉が母材に付着、及び球形化粒子に内包された状態となりやすく好ましい。鱗片状黒鉛の平均粒子径(d50)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上で、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは35μm以下、特に好ましくは20μm以下、とりわけ好ましくは10μm以下、最も好ましくは8μm以下である。
【0077】
粒子間介在物を介する物理的または化学的架橋力としては、液体性介在物、固体性介在物、を介する物理的または化学的架橋力が挙げられる。上記化学的架橋力としては、粒子と粒子間介在物との間で化学反応、焼結、メカノケミカル効果等により、共有結合、イオン結合、水素結合等が形成された場合の架橋力が挙げられる。
【0078】
(第4工程)造粒剤の一部及び有機溶剤を除去する工程
本発明においては、前記造粒剤の一部及び有機溶剤を除去する工程を有していることが好ましい。造粒剤の一部及び有機溶剤を除去する方法としては、例えば、溶剤により洗浄する方法や、常圧や減圧下で熱をかけることにより造粒剤の一部及び有機溶剤を揮発・分解除去する方法が挙げられる。
【0079】
このときの熱処理温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは200℃以上、特に好ましくは300℃以上であり、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1000℃以下、更に好ましくは800℃以下、最も好ましくは造粒材の沸点付近である。熱処理温度が上記範囲内にあると、十分に造粒剤を揮発・分解除去でき生産コストの削減につながり、また成型処理時の成型状態も良好になるため好ましい。
【0080】
熱処理時間は、好ましくは0.5~48時間、より好ましくは1~40時間、更に好ましくは2~30時間、特に好ましくは3~24時間である。熱処理時間が上記範囲内にあると、十分に造粒剤を揮発・分解除去でき生産性を向上できる。
【0081】
熱処理の雰囲気は、大気雰囲気等の活性雰囲気、もしくは、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気があげられ、200℃~300℃で熱処理する場合には特段制限はないが、300℃以上で熱処理を行う場合には、黒鉛表面の酸化を防止する観点で、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。
【0082】
(第5工程)造粒炭素材に原料炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着する工程
本発明では、造粒炭素材に、さらに原料炭素材より結晶性が低い炭素質物を添着する工程を有してもよい。この工程によれば、表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物を有する黒鉛が得られるため、これを用いた非水系二次電池用負極と電解液との副反応が少なく高容量で、低温入出力特性や高温保存特性に優れた非水系二次電池用負極材を得ることができる。
【0083】
造粒炭素材への非晶質炭素質物の添着(複合化)処理は非晶質炭素質物となる有機化合物と、造粒炭素材を混合し、非酸化性雰囲気下、好ましくは窒素、アルゴン、二酸化炭素
等の流通下に加熱して、有機化合物を非晶質炭素化させる処理である。非晶質炭素質物となる具体的な有機化合物としては、石油系や石炭系の重質油やタールやピッチ、具体的には軟質ないし硬質の種々のコールタールピッチや石炭液化油等の炭素系重質油、原油の常圧又は減圧蒸留残渣油等の石油系重質油、ナフサ分解によるエチレン製造の副生物である分解系重質油等種々のものを用いることができる。
【0084】
また、分解系重質油を熱処理することで得られるエチレンタールピッチ、FCCデカントオイル、アシュランドピッチ等の熱処理ピッチ等を挙げることができる。さらにポリ塩化ビニル、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール等のビニル系高分子と3-メチルフェノールホルムアルデヒド樹脂、3,5-ジメチルフェノールホルムアルデヒド樹脂等の置換フェノール樹脂、アセナフチレン、デカシクレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、フェナジンやアクリジン等の窒素環化合物、チオフェン等のイオウ環化合物等を挙げることができる。また、固相で炭素化を進行させる有機化合物としては、セルロース等の天然高分子、ポリ塩化ビニリデンやポリアクリロニトリル等の鎖状ビニル樹脂、ポリフェニレン等の芳香族系ポリマー;フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂;フルフリルアルコールのような熱硬化性樹脂原料等を挙げることができる。これらの中でも、非晶質炭素として微細孔を生成しにくく、1nmから4nmの微細孔をより効率的に低減できるため、QiやTiが少なく焼成の昇温時にすべて軟化するソフトカーボンである石油系や石炭系の重質油やタールやピッチが好ましい。
【0085】
造粒炭素材と非晶質炭素質物となる有機化合物とを混合する方法として、例えば、原料炭素材と造粒剤とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法や有機化合物を低粘度希釈溶媒(有機溶剤)に溶解させた造粒剤と原料炭素材を混合した後に該希釈溶媒(有機溶剤)を除去する方法等が挙げられる。これらの中でも、有機化合物中の炭素質物となる成分が多いほど1nmから4nmの微細孔をより効率的に低減できるため、原料炭素材と造粒剤とをミキサーやニーダーを用いて混合する方法が好ましい。好ましい。
【0086】
また、造粒炭素材と炭素質物となる有機化合物とを混合する際の、炭素質物となる有機化合物の粘度は1cP以上1000cP以下であることが好ましく、5cP以上800cP以下であることがより好ましく、10cP以上600cP以下であることが更に好ましく、20cP以上500cP以下であることが特に好ましい。粘度が上記範囲内にあると、造粒炭素材の1nmから4nmの微細孔に炭素質物となる有機化合物が入り込み、焼成により非晶質炭素となることによって本微細孔を低減でき、低温入出力特性や高温保存特性に優れた負極材を製造することが可能となるため好ましい。
【0087】
造粒炭素材と炭素質物となる有機化合物とを混合する際の混合温度は、通常炭素質物となるとなる有機化合物の軟化点以上であり、好ましくは軟化点より10℃以上高い温度、より好ましくは軟化点より20℃以上高い温度、更に好ましくは30℃以上高い温度、特に好ましくは50℃以上高い温度、通常450℃以下、好ましくは250℃以下で行われる。加熱温度が低すぎると、炭素質物前駆体となる有機化合物の粘度が高くなって混合が困難となり被覆形態が不均一となる虞があり、加熱温度が高すぎると炭素質物前駆体となる有機化合物の揮発と重縮合によって混合系の粘度が高くなって混合が困難となり被覆形態が不均一となる虞がある。
【0088】
加熱温度(焼成温度)は混合物の調製に用いた有機化合物により異なるが、通常は500℃以上、好ましくは600℃以上、より好ましくは700℃以上に加熱して黒鉛表面の少なくとも一部に非晶質炭素を添着させる。加熱温度の上限は有機化合物の炭化物が、混合物中の鱗片状黒鉛の結晶構造と同等の結晶構造に達しない温度であり、加熱温度の上限は通常は2000℃、好ましくは1800℃、より好ましくは1700℃、更に好ましく
は1600℃である。
【0089】
上述したような処理を行った後、次いで解砕、粉砕及び分級処理を適宜組み合わせて施すことにより、炭素質物複合炭素材とすることができる。また、形状は任意であるが、平均粒子径は、通常2~50μmであり、5~35μmが好ましく、特に8~30μmである。
【0090】
また、公知の技術を用いたとしても、求める範囲内に制御できるのであれば公知の技術を用いることもできる。つまり、公知の技術を用いて球形化処理を施すことで球形化された黒鉛粒子を製造することができる。例えば、衝撃力を主体に粒子の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いて行うことが挙げられる。具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された炭素材に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、表面処理を行なう装置が好ましい。また、黒鉛粒子を循環させることによって機械的作用を繰り返して与える機構を有するものであるのが好ましい。具体的な装置としては、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、クリプトロン(アーステクニカ社製)、CFミル(宇部興産社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)、シータコンポーザ(徳寿工作所社製)等が挙げられる。これらの中で、奈良機械製作所社製のハイブリダイゼーションシステムが好ましい。例えば前述の装置を用いて処理する場合は、回転するローターの周速度を、特に制限はないが、30m/秒~100m/秒にするのが好ましく、40m/秒~100m/秒にするのがより好ましく、50m/秒~100m/秒にするのが更に好ましい。また、処理は、単に炭素質物を通過させるだけでも可能であるが、30秒以上装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、1分以上装置内を循環又は滞留させて処理するのがより好ましい。
【0091】
<黒鉛の加圧処理>
本発明の一実施形態に係る負極材の製造は、黒鉛を加圧処理する工程を含むことが好ましい。黒鉛の加圧処理の方法としては、加圧できる方法であれば特に制限はなく、例えば原料の黒鉛をゴム型等の容器に入れ、水を加圧媒体とする静水圧等方的加圧処理や、空気等のガスを加圧媒体とする空圧による等方的加圧処理が挙げられる。また、原料の黒鉛を金型に充填し、一軸プレスで一定方向に加圧処理を加えてもよい。加圧するタイミングは上記球形化黒鉛を製造する工程1~工程5のいずれで実施しても構わないが工程4と5の間で実施することが余分な造粒材を除去した状態で加圧するため効率よく圧力が加わるため好ましい
【0092】
黒鉛の加圧処理の加圧媒体の圧力としては、通常、100MPa以上が好ましく、150MPa以上がより好ましく、200MPa以上が更に好ましい。上限は通常400MPa以下、好ましくは300MPa以下である。上記、下限値以下では成型による細孔の制御が不十分となりコート率あたりの粒子内細孔容積を好ましい範囲にしにくく、上記上限値以上であると装置が大きくなりすぎ量産性を損ないすぎる点から好ましくない。
成型処理後のサンプルは一度粉砕し、処理前の粒径と同等かそれ以下になるまで解砕・粉砕処理することが好ましい。ただし、粉砕の方法としては公知の装置を用いることができ、成型体が大きい場合には粗砕工程、中間粉砕工程、粉砕工程と工程を経て実施することが好ましい。粗砕工程の装置としては例えばジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コーンクラッシャー、ロートプレックスなどが挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、オリエントミル、ハンマーミルなどが挙げられ、微粉砕設備としてはターボミル、クリプトロン、ピンミル、ボールミル、振動ミル、パルベライザーなどが挙げられる。上記粉砕ののち分級処理を実施し、原料と同等以下になるまで粉砕を実施する。処理前の粒径よりも大きい場合、粒子同士が成型処理により付着し凝集していることを示して
おり、非晶質被覆時にその部分にうまくコートできなくなるため好ましくない。一方処理前の粒径よりも著しく小さい場合、球形化黒鉛を粉砕しており、SAが上がってしまうため好ましくない。
【0093】
(積算細孔容積)
本発明の一実施形態にかかる負極材の原料に用いる黒鉛は、水銀圧入法(水銀ポロシメトリー)を用いて測定した細孔分布において、2以上のピークを有することが好ましく、極小値以下の範囲における積算細孔容積は水銀圧入法(水銀ポロシメトリー)を用いて測定した値で、通常0.15mL/g以下であり、好ましくは0.08mL/g以下であり、より好ましくは0.070mL/g以下であり、さらに好ましくは0.060mL/g以下であり、特に好ましくは0.050mL/g以下である。積算細孔容積が上記範囲よりも大きい場合、粒子内空隙が大きいことを表し、非晶質でコートしたときに効率的に細孔容積を低減しにくいため好ましくない
【0094】
(小さい側のピークトップ)
本発明の一実施形態にかかる負極材の原料に用いる黒鉛は、水銀圧入法(水銀ポロシメトリー)を用いて測定した細孔分布において、2以上のピークを有することが好ましく、細孔径が小さい側のピークのピークトップは水銀圧入法(水銀ポロシメトリー)を用いて測定した値で、通常500nm以下であり、好ましくは400nm以下であり、より好ましくは300nm以下であり、さらに好ましくは200nm以下であり、特に好ましくは100nm以下である。上記範囲よりも粒子内空隙が大きい場合、球形化した時点で原料となる鱗片状黒鉛同士の距離が遠く大きな空隙があるため非晶質でコートしたときに効率的に結着させることができないため好ましくない。
【0095】
(円形度)
本発明の一実施形態に係る負極材の原料に用いる黒鉛は、フロー式粒子像分析より求められる円形度が、0.88以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましく、0.91以上であることが更に好ましく、0.92以上であることが特に好ましく、0.93以上であることが最も好ましい。このように円形度が高い黒鉛であると、それを用いて製造した負極材の、Liイオン拡散の屈曲度が下がって粒子間空隙中の電解液移動がスムーズになり、急速充放電特性を高めることができるために好ましい。一方、この円形度は、理論上限が1であるため、通常、1未満であり、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.98以下、さらに好ましくは0.97以下である。得られた負極材同士の接触性を確保してサイクル特性を高める観点からは上記上限以下であることが好ましい。
【0096】
円形度はフロー式粒子像分析装置(東亜医療電子社製FPIA-2100)を使用し、円相当径による粒径分布の測定を行い、平均円形度を算出することにより求められる。円形度は以下の式で定義され、円形度が1のときに理論的真球となる。
[円形度]=[粒子投影形状と同じ面積を持つ相当円の周囲長]/[粒子投影形状の実際の周囲長]
【0097】
この円形度の測定においては、分散媒としてイオン交換水を使用し、界面活性剤としてポリオキシエチレン(20)モノラウレートを使用する。円相当径とは、撮影した粒子像と同じ投影面積を持つ円(相当円)の直径であり、円形度とは、相当円の周囲長を分子とし、撮影された粒子投影像の周囲長を分母とした比率である。測定した相当径が1.5~40μmの範囲の粒子の円形度を平均し、円形度とする。
【0098】
(タップ密度)
黒鉛のタップ密度は、好ましくは0.60g/cm3以上であり、より好ましくは0.
70g/cm3以上であり、更に好ましくは0.80g/cm3以上であり、特に好ましくは0.855/cm3以上であり、最も好ましくは0.90g/cm3以上であり、一方、通常1.40g/cm3以下であり、好ましくは1.30g/cm3以下であり、より好ましくは1.20g/cm3以下である。
【0099】
(体積基準平均粒子径)
黒鉛の体積基準平均粒子径(D50)は特に限定されないが、通常1μm以上であり、好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上であり、通常50μm以下であり、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。
【0100】
(BET比表面積)
黒鉛のBET比表面積は特に限定されないが、通常1.0m2/g以上であり、好ましくは1.5m2/g以上であり、より好ましくは2.0m2/g以上であり、更に好ましくは3.0m2/g以上であり、特に好ましくは4.5m2/g以上であり、最も好ましくは5.0m2/g以上である。また、通常、30.0m2/g以下であり、好ましくは20.0m2/g以下であり、より好ましくは10.0m2/g以下である。
【0101】
(ラマンR1値)
黒鉛の下記式αで表されるラマンR1値は特に限定されないが、0.10以上1.00以下であることが好ましい。また、ラマンR値は、より好ましくは0.15以上であり、さらに好ましくは0.20以上であり、特に好ましくは0.25以上であり、一方、より好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.60以下である。
式α:
ラマンR1値=(ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPBの強度IB)/(1580cm-1付近のピークPAの強度IA)
【0102】
<黒鉛の非晶質炭素複合化>
本発明の一実施形態に係る負極材は、表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含む。ここで、非晶質炭素質物とはX線広角回折法による(002)面の面間隔(d002)が通常0.340nm以上の炭素のことであり、非晶質炭素質物と炭素質物とは同義である。一方、黒鉛質物とは(d002)が0.340nm未満の黒鉛のことである。この非晶質炭素複合化の処理は黒鉛と非晶質炭素前駆体(非晶質炭素質物の原料)を混合して焼成することにより行われる。黒鉛の非晶質炭素複合化を適切な条件で行うことにより、前述の熱的特性を満足するものになると共に、細孔容積も前述の範囲に制御しやすくなる。
【0103】
非晶質炭素前駆体としては、特に限定されないが、タールやピッチ、ナフタレンやアントラセンやその誘導体等の芳香族炭化水素類、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール等の熱可塑性高分子等の有機物が挙げられる。これらの有機物前駆体は1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、炭素構造が発達しやすく、少ない量で被覆できるという観点から、タール、ピッチ、芳香族炭化水素類が好ましく、前記コート率と細孔量の関係を満たすためには残炭素50%以上のものが好ましく、特に好ましいのは60%、特に好ましいのは残炭素65%以上である。残炭率が高いほど焼成処理を実施した際の発泡、体積減少が抑制され、効率よく上記黒鉛の中の粒子内細孔を埋めることができるため好ましい。
【0104】
非晶質炭素前駆体に含まれる灰分は、非晶質炭素前駆体の全重量に対して、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下であり、更に好ましくは0.1重量%以下である。また、灰分の下限は通常0.1重量ppm以上である。非晶質炭素前駆体に含まれる灰分が上記範囲内であると非晶質で被覆した際や焼成の昇温時にすべての非晶室前
駆体が一度軟化し効率的に細孔を被覆するため、前記コート率と細孔量の関係を満たしやすくなるため好ましい。
【0105】
本発明における非晶質炭素前駆体に含まれる金属不純物量は、非晶質炭素前駆体の全重量に対するFe、Al、Si、Caの合計含有量に残炭率を除した値と定義する。非晶質炭素前駆体の全重量に対して、好ましくは1000重量ppm以下、より好ましく400重量ppm以下、さらに好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは50重量ppm以下、通常、0.1重量ppm以上である。非晶質炭素前駆体に含まれる金属不純物量が上記範囲内であると前述のコート率と細孔量の関係を満たしやすくなるため好ましい。
【0106】
非晶質炭素前駆体に含まれるキノリン不溶分(Qi)は、非晶質炭素前駆体の全重量に対して、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下、最も好ましくは0.1重量%以下である。非晶質炭素前駆体に含まれるキノリン不溶分(Qi)が上記範囲内であると前述のコート率と細孔量の関係を満たしやすくなるため好ましい。
【0107】
黒鉛と非晶質炭素前駆体とを混合した後、焼成する。焼成する際の温度は、好ましくは950℃以上であり、より好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1050℃以上であり、特に好ましくは1100℃以上、最も好ましくは1150℃以上である。一方、好ましくは2000℃以下であり、より好ましくは1800℃以下であり、さらに好ましくは1600℃以下、特に好ましくは1500℃以下である。また、焼成する際の時間は、好ましくは0.5時間以上であり、より好ましくは1時間以上であり、一方、好ましくは1000時間以下であり、より好ましくは500時間以下であり、さらに好ましくは100時間以下である。焼成する際の温度、時間が上記範囲であるとコート率と細孔量の関係を満たしやすくなるため好ましい。
【0108】
焼成する際の雰囲気は不活性雰囲気下であることが好ましい。具体的には、窒素やアルゴンといった不活性気体を流通させることにより酸素濃度を下げる方法や、減圧処理により酸素を系外に排出し窒素やアルゴンで復圧する方法や、コークスブリーズ等の犠牲材を製品の周囲に充填することにより炉内雰囲気に含まれる酸素を低減する方法が挙げられる。不活性気体の流通量や流通時間、減圧処理の程度、犠牲材の充填条件などにより、系内の酸素濃度を制御することが可能である。酸素濃度(体積濃度)は、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは100ppm以下である。上記範囲を上回ると、非晶質炭素質物の炭素構造の発達が阻害され、非晶質自体に細孔を生じ前述のコート率と細孔量の関係を満たすことが難しくなる傾向がある。
【0109】
黒鉛に非晶質炭素前駆体を混合する場合の非晶質炭素前駆体の混合比率は、目的とする複合粒子の組成に基づいて適宜選択されるべきものであるが、黒鉛に対して、非晶質炭素前駆体の量はその残炭物(非晶質炭素質物)として、重量比(〔[非晶質炭素質物の重量]/[非晶質炭素質物を有する黒鉛]〕×100)で、通常、0.01%以上好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは1%以上、特に好ましくは2%以上、最も好ましいは3%以上である。一方、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。この重量比が上記範囲であると、電池が高容量であり、かつ、Liイオンが挿入・脱離し易くなるため、低温入出力特性、急速充放電特性及びサイクル特性に優れる点で好ましい。
【0110】
<黒鉛の黒鉛質物複合化>
本発明の一実施形態に係る負極材は、表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含む。この黒鉛化の処理は黒鉛と有機化合物(黒
鉛質物の原料)を混合して焼成することにより行われる。
表面の少なくとも一部に黒鉛質物を有する黒鉛を含む負極材の製造方法は、特に制限はないが、好ましくは、上述した黒鉛(「原料黒鉛」ともいう。)を加圧処理した後、解砕し、黒鉛質物被覆部分を得るための有機化合物と混合し、得られた混合物を黒鉛化、粉砕処理を行う工程、もしくは、原料炭素材と黒鉛質物被覆部分を得るための有機化合物と混合し、加圧処理した後、得られた混合物を黒鉛化、粉砕処理を行う工程にて表面の少なくとも一部に黒鉛質物を有する黒鉛を含む負極材を製造することができる。より好ましくは、粉砕工程数が少ない後者となる。
有機化合物としては、具体的には、含浸ピッチ、コールタールピッチ、石炭液化油等の石炭系重質油、アスファルテン等の直留系重質油、及びエチレンヘビーエンドタール等の分解系重質油等の石油系重質油等に例示される易黒鉛化性有機化合物、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然フルフリルアルコール高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などが挙げられ、この中でも焼成によって黒鉛化又は炭素化が可能な易黒鉛化性有機化合物が好ましい。
原料黒鉛と有機化合物とを混合する工程・加圧処理する工程は黒鉛の非晶質炭素複合化と同様の様式にて行うことができる。
【0111】
・混合物を焼成する工程
具体的には、混合物を非酸化性雰囲気下、好ましくは窒素、アルゴン、二酸化炭素などの流通下に加熱して、有機化合物を黒鉛化させ、表面の少なくとも一部に黒鉛質物を有する黒鉛を含む非水系二次電池用複合負極材を製造する工程である。
焼成温度は混合物の調製に用いた有機化合物により異なるが、黒鉛質物が複合化された非水系二次電池用負極材を得る場合、有機化合物が黒鉛化する温度又はそれ以上であればよく、具体的には、通常は2000℃以上、好ましくは2500℃以上、より好ましくは2700℃以上に加熱して十分に炭化させる。加熱温度の上限は有機化合物の炭化物が、混合物中の炭素材の結晶構造と同等の結晶構造に達しない温度であり、通常は3300℃以下、好ましくは3100℃以下、3000℃以下がより好ましい。
【0112】
焼成処理条件において、熱履歴温度条件、昇温速度、冷却速度、熱処理時間等は、適宜設定する。また、比較的低温領域で熱処理した後、所定の温度に昇温することもできる。なお、本工程に用いる反応機は回分式でも連続式でも、また一基でも複数基でもよい。
焼成に使用する炉は上記要件を満たせば特に、制約はないが、例えば、シャトル炉、トンネル炉、リードハンマー炉、ロータリーキルン、オートクレーブ等の反応槽、コーカー(コークス製造の熱処理槽)、タンマン炉、アチソン炉、加熱方式も、高周波誘導加熱炉、直接式抵抗加熱、間接式抵抗加熱、直接燃焼加熱、輻射熱加熱等を用いることができる。処理時には、必要に応じて攪拌を行なってもよい。
【0113】
上記工程を経た複合炭素材は、必要に応じて、再度粉砕、解砕、分級処理等の粉体加工し、非水系二次電池用負極材を得る。
粉砕や解砕に用いる装置に特に制限はないが、例えば、粗粉砕機としてはせん断式ミル、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コーンクラッシャー等が挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、ハンマーミル等が挙げられ、微粉砕機としてはボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、ジェットミル等が挙げられる。
【0114】
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合は、回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合は、重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)を用いることができ、また、湿式篩い分け、機械的湿式分級機、水力分級機、沈降
分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0115】
黒鉛に有機化合物を混合する場合の有機化合物の混合比率は、目的とする複合粒子の組成に基づいて適宜選択されるべきものであるが、黒鉛に対して、有機化合物の量はその残炭物(黒鉛質物)として、重量比(〔[黒鉛質物の重量]/[黒鉛質物を有する黒鉛]〕×100)で、通常、0.01%以上好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは1%以上、特に好ましくは2%以上、最も好ましいは3%以上である。一方、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。この重量比が上記範囲であると、電池が高容量であり、かつ、Liイオンが挿入・脱離し易くなるため、低温入出力特性、急速充放電特性及びサイクル特性に優れる点で好ましい。
【0116】
<その他の処理>
本発明の一実施形態に係る負極材を製造するために、前述の製造方法によって得られた複合粒子について、別途粉砕処理を行ってもよい。
【0117】
粉砕処理に使用する粗粉砕機としては、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コ-ンクラッシャー等が挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、オリエントミル、ハンマーミル等が挙げられ、微粉砕機としてはターボミル、クリプトロン、ボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、ジェットミル等が挙げられる。これらの中でも、ターボミルやクリプトロン等が粉砕時間が短く、処理速度の観点から好ましい。
【0118】
本発明の一実施形態に係る負極材を製造するために、前述の製造方法によって得られた複合粒子について、粒径の分級処理を行ってもよい。分級処理条件としては、目開きが、通常53μm以下、好ましくは45μm以下、より好ましくは38μm以下であるものを用いて実施される。
【0119】
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合:回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合:重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)等を用いることができ、湿式篩い分けの場合:機械的湿式分級機、水力分級機、沈降分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0120】
〔非水系二次電池用負極〕
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池用負極(以下、「本発明の負極」と称する場合がある。)は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が上記の本発明の一実施形態に係る負極材を含有するものである。
【0121】
上記負極材を用いて負極を作製するには、負極材に結着樹脂を配合したものを水性又は有機系媒体でスラリーとし、必要によりこれに増粘材を加えて集電体に塗布し、乾燥すればよい。
【0122】
結着樹脂としては、非水電解液に対して安定で、かつ非水溶性のものを用いるのが好ましい。例えば、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアクリル酸、及び芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体やその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン及びスチレンブロック共重合体並びにその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体等の
軟質樹脂状高分子;テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン及びポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子等を用いることができる。有機系媒体としては、例えば、N-メチルピロリドン及びジメチルホルムアミドを用いることができる。
【0123】
結着樹脂は、負極材100重量部に対して通常は0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上用いる。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して0.1重量部以上とすることで、負極材料相互間や負極材料と集電体との結着力が十分となり、負極から負極材料が剥離することによる電池容量の減少及びリサイクル特性の悪化を防ぐことができる。
【0124】
また、結着樹脂の使用量は負極材100重量部に対して10重量部以下とするのが好ましく、7重量部以下とするのがより好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して10重量部以下とすることにより、負極の容量の減少を防ぎ、かつリチウムイオン等のアルカリイオンの負極材料への出入が妨げられる等の問題を防ぐことができる。
【0125】
スラリーに添加する増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール並びにポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘材は負極材料100重量部に対して、通常0.1重量部~10重量部、特に0.2重量部~7重量部となるように用いるのが好ましい。
【0126】
負極集電体としては、従来からこの用途に用い得ることが知られている、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン及び炭素等を用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネット及びパンチングメタル等を用いることも好ましい。
【0127】
集電体に負極材と結着樹脂のスラリーを塗布・乾燥した後は、加圧して集電体上に形成された活物質層の密度を大きくして負極活物質層の単位体積当たりの電池容量を大きくするのが好ましい。活物質層の密度は1.2g/cm3~1.8g/cm3の範囲にあることが好ましく、1.5g/cm3~1.8g/cm3であることがより好ましい。活物質層の密度を上記下限値以上とすることで、電極の厚みの増大に伴う電池の容量の低下を防ぐことができる。また、活物質層の密度を上記上限値以下とすることで、電極内の粒子間空隙が減少に伴い空隙に保持される電解液量が減り、リチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が小さくなり急速充放電特性が低下することを防ぐことができる。
【0128】
〔非水系二次電池〕
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、負極として、本発明の一実施形態に係る負極を用いたものである。特に、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池に用いる正極及び負極は、通常、Liイオンを吸蔵及び放出可能な正極及び負極であることが好ましく、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池はリチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0129】
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、上記の本発明の一実施形態に係る負極を用いる以外は、常法に従って製造することができる。特に、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池は、[負極の容量]/[正極の容量]の値を1.01~1.5に設計することが好ましく、1.2~1.4に設計することがより好ましい。
【0130】
[正極]
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池の正極の活物質となる正極材としては、例えば、基本組成がLiCoO2で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNiO2で表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO2及びLiMn2O4で表されるリチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物、並びにこれらの複合酸化物混合物等を用いればよい。更にはTiS2、FeS2、Nb3S4、Mo3S4、CoS2、V2O5、CrO3、V3O3、FeO2、GeO2及びLiNi0.33Mn0.33Co0.33O2、LiFePO4等を用いればよい。
【0131】
前記正極材に結着樹脂を配合したものを適当な溶媒でスラリー化して集電体に塗布、乾燥することにより正極を製造することができる。なお、スラリー中にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電材を含有させることが好ましい。また、必要に応じて増粘材を含有させてもよい。なお、結着材及び増粘剤としては、この用途に周知のもの、例えば負極の製造に用いるものとして例示したものを用いることができる。
【0132】
導電材の配合量は正極材100重量部に対し、0.5重量部~20重量部が好ましく、1重量部~15重量部がより好ましい。また、増粘材の配合量は正極材100重量部に対し、0.2重量部~10重量部が好ましく、0.5重量部~7重量部がより好ましい。更に、正極材100重量部に対する結着樹脂の配合量は、結着樹脂を水でスラリー化する場合には0.2重量部~10重量部が好ましく、0.5重量部~7重量部がより好ましく、一方、結着樹脂をN-メチルピロリドン等の結着樹脂を溶解する有機溶媒でスラリー化する場合には0.5重量部~20重量部が好ましく、1~15重量部がより好ましい。
【0133】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタル等並びにこれらの合金が挙げられる。これらの中でもアルミニウム、チタン及びタンタル並びにその合金が好ましく、アルミニウム及びその合金が最も好ましい。
【0134】
[電解液]
電解液は、従来公知の非水溶媒に種々のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
【0135】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル、クラウンエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメチルテトラヒドロフラン及び1,3-ジオキソラン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル等を用いればよい。通常はこれらの2種以上を混合して用いる。なかでも環状カーボネートと鎖状カーボネート、又はこれに更に他の溶媒を混合して用いることが好ましい。
【0136】
電解液には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン及びジエチルスルホン等の化合物やジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていてもよい。更に、ジフェニルエーテル及びシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていてもよい。
【0137】
非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)及びLiC(CF3SO2)3等が挙げられる。電解液中の電解質の濃度は通常0.5mol/L~2mol/Lであり、好ましくは
0.6mol/L~1.5mol/Lである。
【0138】
[セパレータ]
本発明の一実施形態に係る非水系二次電池には、正極と負極との間に介在させるセパレータを用いることが好ましい。このようなセパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔性シートや不織布を用いることが好ましい。
【実施例】
【0139】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0140】
<負極シートの作製>
後述の条件で調製した負極材を負極活物質として用い、活物質層密度1.65±0.03g/cm3の活物質層を有する極板を作製した。具体的には、負極材50.00±0.02gに、1重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を50.00±0.02g(固形分換算で0.500g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン1.00±0.05g(固形分換算で0.5g)を、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0141】
このスラリーを、集電体である厚さ10μmの銅箔上に、負極材料が10.00±0.2mg/cm2付着するように、ダイコーターを用いて幅10cmに塗布して乾燥後、幅5cmにカットし、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.5±0.03g/cm3、及び1.65±0.03g/cm3になるよう調整しそれぞれの電極シートを得た。活物質層の密度が1.65g/cm3の電極シート作製時に加えた荷重のピーク値をプレス荷重[kgf/5cm]とし、表1に示した。
【0142】
<正極シートの作製>
正極は、次の通りに作製した。まず、正極活物質としてのニッケル-マンガン-コバルト酸リチウム(LiNiMnCoO2)85重量%と、導電材としてのアセチレンブラック10重量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5重量%とを、N-メチルピロリドン溶媒中で混合してスラリーを得た。このスラリーを、集電体である厚さ15μmのアルミニウム箔上に正極材が22.5±0.2mg/cm2付着するように、ブレードコーターを用いて塗布し、130℃で乾燥した。更にロールプレスを行い、正極密度が2.60±0.05g/cm3になるよう調整し電極シートを得た。
【0143】
<非水系二次電池(ラミネート型電池)の作製法>
上記方法で作製した、負極材料が10.0±0.3mg/cm2付着した、活物質層の密度が1.65±0.03g/cm3(の負極シートと正極シート、及びポリエチレン製セパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層した。こうして得られた電池要素を筒状のアルミニウムラミネートフィルムで包み込み、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(体積比=3:3:4)に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液を注入した後で真空封止し、シート状の非水系二次電池をそれぞれ作製した。更に、電極間の密着性を高めるために、ガラス板でシート状電池を挟んで加圧した。
【0144】
<膨れ測定>
充放電サイクルを経ていない非水系二次電池に対して、25℃で電圧範囲4.1V~3
.0V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下同様)にて3サイクル、電圧範囲4.2V~3.0V、電流値0.2Cにて(充電時には4.2Vにて定電圧充電をさらに2.5時間実施)2サイクル、初期充放電を行った。この時点で、固定するためのガラス板を外し、株式会社ミツトヨ製の接触式厚み計にて1つのセルに対し9点厚みを測定し、その平均をサイクル前の厚みとした。その後再度ガラス板で挟んだのち45℃の恒温槽にて0.8C-CCCV充電0.8CCC放電1.5Vカットの条件で25回充放電しサイクル試験を実施した。その後SOC0%の状態の電池をサイクル前と同じ場所を9点測定しその平均を求め、サイクル前の厚みとの差をサイクル中の極板の膨れとした。その差を表1に示した。
【0145】
(実施例1)
平均粒径(d50)が100μmの鱗片状天然黒鉛を粉砕してd50が9μmの鱗片状天然黒鉛を得た。得られた鱗片状天然黒鉛に造粒剤として液状オイルを12重量部混合した後、球形化処理を行い、さらに熱処理により造粒材を除去し、球形化天然黒鉛(平均粒径(d50)13μm、SA19m
2/g、タップ密度0.94g/cm
3)を得た。得られた球形化天然黒鉛をゴム製容器に充填・密閉して200MPaにて等方的加圧処理を行った後、得られた成型物を解砕・分級処理した。得られた球形化天然黒鉛粉末と非晶質炭素前駆体として灰分0.02重量%、金属不純物量20重量ppm、Qi1重量%に調整したピッチを混合し、炉内圧力を10torr以下に減圧処理して窒素で大気圧まで復圧し、さらに窒素を流通させて炉内の酸素濃度<100ppmにして不活性ガス中で1300℃熱処理を施した。得られた焼成物を解砕・分級処理することにより、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素質物を含有する複合炭素材である負極材を得た。焼成収率から、得られた負極材(複合炭素材)において、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素質物との重量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素質物)は1:0.06であることが確認された。また、得られた負極材について、上記の方法にて、タップ密度、ペレット密度、真密度、細孔分布を測定した。結果を表1に示す。また、水銀圧入法測定結果を
図3に示す。
【0146】
(実施例2)
平均粒径(d50)が100μmの鱗片状天然黒鉛を粉砕してd50が11μmの鱗片状天然黒鉛を得た。得られた鱗片状天然黒鉛に造粒剤として液状オイルを12重量部混合した後、球形化処理を行い、さらに熱処理により造粒材を除去し、球形化天然黒鉛(平均粒径(d50)16μm、SA15m2/g、タップ密度0.96g/cm3)を得た。得られた球形化黒鉛をゴム製容器に充填・密閉して200MPaにて等方的加圧処理を行った後、得られた成型物を解砕・分級処理した。得られた球形化黒鉛粉末と非晶質炭素前駆体として灰分0.02重量%、金属不純物量20重量ppm、Qi1重量%に調整したピッチを混合し、炉内圧力を10torr以下に減圧処理して窒素で大気圧まで復圧し、さらに窒素を流通させて炉内の酸素濃度<100ppmにして不活性ガス中で1300℃熱処理を施した。得られた焼成物を解砕・分級処理することにより、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素質物を含有する複合炭素材である負極材を得た。焼成収率から、得られた負極材(複合炭素材)において、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素質物との重量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素質物)は1:0.06であることが確認された。得られた負極材について、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0147】
(実施例3)
球形化黒鉛粒子と非晶質炭素との重量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素質物)を1:0.08とした以外は実施例2と同様の方法で負極材(複合炭素材)を得た。得られた負極材について、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0148】
(比較例1)
平均粒径(d50)が100μmの鱗片状天然黒鉛を球形化処理して作製した球形化天
然黒鉛(平均粒径(d50)16μm、BET比表面積(SA)6.9m
2/g、タップ密度1.0g/cm
3)をゴム製容器に充填・密閉して100MPaにて等方的加圧処理を行った後、得られた成型物を解砕・分級処理した。得られた球形化天然黒鉛粉末と、非晶質炭素前駆体として灰分<0.01%、金属不純物量60ppm、Qi<0.1%に調整したタールを混合した後、炉内圧力を10torr以下に減圧処理して窒素で大気圧まで復圧し、さらに窒素を流通させて炉内の酸素濃度<100ppmにして1300℃熱処理を施した。得られた焼成物を解砕・分級処理することにより、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素質物を含有する複合炭素材である負極材を得た。焼成収率から、得られた負極材(複合炭素材)において、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素質物との重量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素質物)は1:0.03であることが確認された。得られた負極材について、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。また、水銀圧入法測定結果を
図3に示す。
【0149】
(比較例2)
等方的加圧処理を行わない以外は実施例1と同様の方法で複合炭素材である負極材を得た。得られた負極材(複合炭素材)について、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0150】
(比較例3)
等方的加圧処理を行わないことと球形化黒鉛粒子と非晶質炭素質物との重量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素質物)は1:0.04であること以外は比較例と同様の方法で複合炭素材である負極材を得た。得られた負極材(複合炭素材)について、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0151】
(比較例4)
球形化天然黒鉛(平均粒径(d50)11μm、BET比表面積(SA)8.2m2/g、タップ密度0.88g/cm3)を用い、等方的加圧処理を行わず、非晶質炭素前駆体としてQi=2.5%に調整したコールタールを用いて、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素質物との重量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素質物)は1:0.07にした以外は実施例4と同様の方法で負極材を得た。得られた負極材について、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0152】
(比較例5)
平均粒径(d50)が100μmの鱗片状天然黒鉛を球形化処理して作製した球形化天然黒鉛(平均粒径(d50)13μm、BET比表面積(SA)7.8m2/g、タップ密度0.93g/cm3)と、黒鉛質物前駆体として灰分0.1重量%、Qi<0.2重量%に調整したピッチと混合した後、ゴム製容器に充填・密閉して等方的加圧処理を行った。その後窒素を流通させて1000℃で熱処理し脱タール後、不活性雰囲気下で3000℃で黒鉛化処理を実施した。得られた黒鉛化物を解砕・分級処理することにより、黒鉛粒子の表面または内部に黒鉛質物を含有する複合炭素材である負極材を得た。焼成収率から、得られた複合炭素材である負極材(において、球形化黒鉛粒子と黒鉛質物との重量比率(球形化黒鉛質粒子:黒鉛質物)は1:0.10であることが確認された。得られた負極材(複合炭素材)について、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0153】
(比較例6)
ニードル生コークスを10μmに粉砕し窒素を流通させて1000℃で熱処理し脱タール後、不活性雰囲気下で3000℃で黒鉛化処理を実施しニードル状の人造黒鉛を得た(平均粒径(d50)11μm、BET比表面積(SA)1.8m2/g、タップ密度1.1g/cm3)。得られた人造黒鉛と非晶質炭素前駆体として灰分<0.01%、金属不純物量60ppm、Qi<0.1%に調整したタールを混合した後、炉内圧力を10to
rr以下に減圧処理して窒素で大気圧まで復圧し、さらに窒素を流通させて炉内の酸素濃度<100ppmにして1300℃熱処理を施した。焼成収率から、得られた複合炭素材である負極材において、球形化黒鉛粒子と非晶質炭素質物との重量比率(球形化黒鉛質粒子:非晶質炭素質物)は1:0.04であることが確認された。得られた負極材(複合炭素材)について、実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。
【0154】
【0155】
図1に、横軸をコート率、縦軸を水銀圧入法の極小値以下の細孔容積とし、コート率と細孔容積の関係を示した。
図1には、式(1)および式(2)も併せて示した。
図2に、横軸を(ペレット密度)-(タップ密度)(
図1中、“Pellet-Tap”と示す。)、縦軸を実際の「プレス荷重」(1.65g/cm
3にプレスする際に必要なプレス荷重)とし、Pellet-Tapとプレス荷重の関係を示した。
図2で分かるように、特定の式(1)式(2)を充足する材料は
図2で示すようにプレス性が良好であることがわかる。
【0156】
表1、及び
図1、2から明らかなように、表面の少なくとも一部に非晶質炭素質物または黒鉛質物の少なくとも一方を有する黒鉛を含む負極材であって、水銀圧入法で測定した積算細孔容積と、黒鉛表面の非晶質炭素質物および黒鉛質物のコート率が特定の式を充足する実施例は良好なプレス性とサイクル時の極板の膨張収縮が非常に小さいことが確認された。一方比較例1はプレス性は良好なものの、極板膨張が大きいことが確認された。比較例2は極板膨張は小さいものの式(1)、式(2)の範囲外のためプレス荷重が大きいことが確認された。
つまり、式(1)、式(2)を充足すること、且つ小さいピークのピークトップの細孔径が特定範囲内であることの両方を満たすことで高密度にプレス加工が可能でサイクル時の極板膨張が小さいという性能を発現することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の非水系二次電池用負極材、並びにこれを含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池は、高容量向け電池用負極材として、急速充放電特性、低温入出力特性、高温保存特性に優れるため、車載用途;パワーツール用途;携帯電話、パソコン等の携帯機器用途等に好適に用いることができる。