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  • 特許-赤外線遮蔽膜形成用分散液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】赤外線遮蔽膜形成用分散液
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20240228BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G02B5/26
C09K3/00 105
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020061919
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162637
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
【審査官】小久保 州洋
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-525891(JP,A)
【文献】特開2006-096656(JP,A)
【文献】特開2013-205810(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208331(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065788(WO,A1)
【文献】特開2019-020602(JP,A)
【文献】特開2016-186875(JP,A)
【文献】特開2020-012023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/26
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子と配列制御剤とを含む、赤外線遮蔽膜形成用分散液であって、
前記赤外線遮蔽膜形成用分散液を、基材の表面に塗布して分散膜を形成させたとき、前記導電性微粒子が二次元配列して赤外線遮蔽膜を形成し、
前記導電性微粒子が、一般式M (但し、Mは、Cs、Rb、K、Naのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子であり、
前記導電性微粒子は、分散粒子径が1nm以上200nm以下であり、
前記配列制御剤は、ホスホン酸誘導体であり、
前記基材は、透明のガラス基板、または、透明の樹脂基板であり、
前記赤外線遮蔽膜において、波長1300nmの光に対する、前記導電性微粒子の単位重量当たりの吸光係数が5L/(g・cm)以上であることを特徴とする赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【請求項2】
前記二次元配列における、前記導電性微粒子の互いの間隔が0.5nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液。
但し、導電性微粒子の互いの間隔とは、前記導電性微粒子同士の互いの表面間の最短距離である。
【請求項3】
前記ホスホン酸誘導体が、1-アルキルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、2-エチルヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、16-メチルヘプタデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、エイコシルホスホン酸、ドコシルホスホン酸、テトラコシルホスホン酸、ヘキサコシルホスホン酸、オクタコシルホスホン酸から選択される1種以上であり、
且つ、前記ホスホン酸誘導体の末端が、アミノ基、カルボキシル基、パーフルオロアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシド基のいずれかである、請求項1または2に記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【請求項4】
前記赤外線遮蔽膜形成用分散液中における配列制御剤の濃度が、前記導電性微粒子100質量部に対して10質量部以上1000質量部以下である、請求項1から3のいずれかに記載の赤外線遮蔽膜形成用分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性を保持しつつ、赤外線を反射して遮蔽する赤外線遮蔽膜に関する。
【背景技術】
【0002】
入射する太陽エネルギーの一部を遮断し、冷房負荷や、人の熱暑感、植物への悪影響等を低減できる熱線遮蔽能(赤外線遮蔽機能)を備えた赤外線遮蔽膜が、自動車、建造物等の窓材や、ビニールハウスのフィルム等の用途において求められており、各種検討がされてきた。
【0003】
赤外線遮蔽膜を例えば窓材の用途に用いる場合、対向する複数枚の板ガラス間に中間膜(中間層)として配置して合わせガラスとした例が報告されている。
【0004】
特許文献1には、当該合わせガラスの例として、一対のガラス板の間に粒径0.1μm以下の酸化スズまたは酸化インジウムのいずれかである熱線遮蔽性金属酸化物を含有する軟質樹脂層を設けた合わせガラスが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、少なくとも2枚の透明ガラス板状体の間にSn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属単体、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、あるいは、SbやFのドープ物から選択される各単独物、もしくは、これらの中から2種以上を選択してなる複合物である機能性超微粒子を分散させた中間膜層を有する合わせガラスが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、透明板状部材間に平均粒径0.1μm以下の超微粒子とガラス成分との混合層を形成してなる自動車用窓ガラスが開示されている。そして、超微粒子としてはTiO、ZrO、SnO、Inなどの金属酸化物、あるいは、これらの混合物が、ガラス成分としては有機ケイ素または有機ケイ素化合物が挙げられている。
【0007】
さらに、特許文献4には、少なくとも2枚の透明ガラス板状体の間に、3層からなる合わせ中間膜を設け、当該中間膜の第2層にSn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moの金属、酸化物、窒化物、硫化物、あるいは、SbやFのドープ物の各単独物、もしくはこれらの中から選択される2種以上の複合物である機能性超微粒子を分散させた、合わせガラスが開示されている。
【0008】
しかしながら本発明者らの検討によると、特許文献1から4に開示されている合わせガラスは、いずれも高い可視光透過率が求められたときの赤外線遮蔽機能が十分でない、という課題が存在した。
【0009】
そこで、本発明の出願人は特許文献5に、日射遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に介在させ、当該中間層が、六ホウ化物微粒子を可塑剤に分散させた添加液(または、六ホウ化物微粒子と、ITO微粒子および/またはATO微粒子とを、可塑剤に分散させた添加液)と、ビニル系樹脂とからなる中間膜である、日射遮蔽用合わせガラスを開示した。
【0010】
また、本発明の出願人は特許文献5において、日射遮蔽機能を有する中間層を2枚の板ガラス間に介在させ、当該中間層は、少なくとも一方の板ガラスの内側に位置する面に形成され、かつ六ホウ化物微粒子を日射遮蔽成分として含有する塗布液(または六ホウ化物微粒子と、ITO微粒子およびATO微粒子から選択される1種以上とを、日射遮蔽成分として含有する塗布液)を塗布して形成された日射遮蔽膜を、2枚の板ガラス間に介在されるビニル系樹脂を含有する中間膜により形成される日射遮蔽用合わせガラスも開示している。
【0011】
特許文献5に開示した日射遮蔽用合わせガラスで用いた6ホウ化物微粒子を、十分細かく、かつ均一に分散した膜では、光の透過率が波長400nm~700nmの間に極大値を持ち、また波長700nm~1800nmの間に極小値をもつ。このため、特許文献5に開示した日射遮蔽用合わせガラスによれば、可視光透過率を77%または78%とした場合でも、日射透過率が50%~60%程度となっており、特許文献1から4に開示された従来の合わせガラスに比べて大幅に性能が改善された。
【0012】
さらに本発明の出願人は特許文献6において、日射遮蔽機能を有する微粒子としてタングステン酸化物微粒子、および/または複合タングステン酸化物微粒子を用い、日射遮蔽機能を有する微粒子をビニル系樹脂等の合成樹脂に分散した中間層を、板ガラス等から選ばれた2枚の合わせ板間に介在させた日射遮蔽用合わせ構造体を開示した。
【0013】
特許文献6に開示した日射遮蔽用合わせ構造体は、可視光透過率70.0%のときの日射透過率が35.7%になる例もあり、特許文献1から5に記載された従来の合わせガラスに比べて、さらに性能が改善されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平8-217500号公報
【文献】特開平8-259279号公報
【文献】特開平4-160041号公報
【文献】特開平10-297945号公報
【文献】特開2001-89202号公報
【文献】国際公開第2005/087680号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、本発明者らのさらなる検討によると、特許文献5や特許文献6に開示された日射遮蔽用合わせ構造体の中間層は、赤外線を吸収して遮蔽する際に発熱を伴うため、赤外線遮蔽機能を有する微粒子が熱劣化して、赤外線遮蔽機能が低下することがあった。
【0016】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、高い赤外線遮蔽機能(日射遮蔽特性、遮熱特性)と赤外線反射特性を有し、かつ、赤外線遮蔽による発熱と熱劣化による日射遮蔽機能の低下とが抑制された赤外線遮蔽膜、および、当該赤外線遮蔽膜を製造する為に用いる赤外線遮蔽膜形成用分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上述の課題の解決のため、赤外線遮蔽機能を有する導電性微粒子が二次元配列した赤外線遮蔽膜に想到した。
即ち、上述の課題を解決するための発明の一つは、
導電性微粒子が二次元配列し、
波長1300nmの光に対する、前記導電性微粒子の単位重量当たりの吸光係数が5L/(g・cm)以上であることを特徴とする赤外線遮蔽膜である。
また、上述の課題を解決するための発明の一つは、
導電性微粒子を含む赤外線遮蔽膜形成用分散液であって、
前記赤外線遮蔽膜形成用分散液を、適宜な基材の表面に塗布して分散膜を形成させたとき、前記導電性微粒子が二次元配列して赤外線遮蔽膜を形成し、
前記赤外線遮蔽膜において、波長1300nmの光に対する、前記導電性微粒子の単位重量当たりの吸光係数が5L/(g・cm)以上であることを特徴とする赤外線遮蔽膜形成用分散液である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、二次元配列した赤外線遮蔽機能を有する導電性微粒子が赤外線を反射するため、可視光透過率を保持しつつ、赤外線遮蔽による発熱と熱劣化による日射遮蔽機能の低下とが抑制された赤外線遮蔽膜を提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】六方晶の結晶構造の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る赤外線遮蔽膜は、導電性微粒子が配列制御剤によって二次元配列したものである。そして導電性微粒子の、二次元配列における間隔が0.5nm以上10nm以下であり、波長1300nmの光における単位重量当たりの吸光係数が5L/(g・cm)以上であるものである。
そして本発明に係る赤外線遮蔽膜は、導電性微粒子と配列制御剤と溶媒とを含む赤外線遮蔽膜形成用分散液を製造した後、当該赤外線遮蔽膜形成用分散液より、導電性微粒子が二次元配列した赤外線遮蔽膜を製造するものである。
以下、本発明を、1.導電性微粒子、2.赤外線遮蔽膜形成用分散液とその製造方法、3.赤外線遮蔽膜とその製造方法、の順で説明する。
【0021】
1.導電性微粒子
一般的に、自由電子を含む材料、即ち導電性材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺の電磁波(光)に、反射吸収応答を示すことが知られている。このような材料の粉末を光の波長より小さい粒子にすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて、可視光領域の透明性が得られることが知られている。尚、本発明において「透明性」とは、「可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高い」という意味で用いている。また、このような材料の粉末を直径500nm以下の導電性微粒子となるまで小さい粒子にすると、自由電子による局在表面プラズモン共鳴を原理とした光の反射吸収応答を示すことが知られている。とりわけ、本発明に係る導電性微粒子は波長780nmから2600nmの近赤外線領域に強い反射吸収応答を示し、日射遮蔽機能として有用である。導電性微粒子は直径200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明に係る赤外線遮蔽膜に用いられる導電性微粒子は、六ホウ化物微粒子、タングステン酸化物微粒子および複合タングステン微粒子から選択される1種以上である。これらの導電性微粒子は単位重量当たりの吸光係数が高く、後述する方法で赤外線遮蔽膜を製造したとき、導電性微粒子の波長1300nmにおける単位重量当たりの吸光係数が5L/(g・cm)以上となる。
これらの導電性微粒子について、(1)六ホウ化物、(2)六ホウ化物微粒子の光学特性、(3)タングステン酸化物、(4)複合タングステン酸化物、(5)タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子の光学特性、の順に説明する。
【0023】
(1)六ホウ化物
ホウ化物は、一般式XB(但し、Xは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、Caから選択される1種以上の金属元素、mは一般式におけるホウ素量を示す数字)で表され、XB、XB、XB12等で表されるホウ化物が挙げられる。尤も、赤外線遮蔽体の材料として用いる場合は、上述したホウ化物のうちXB、XBが主体となっていることが好ましく、さらに一部XB12を含んでいても良い。
【0024】
(2)六ホウ化物微粒子の光学特性
六ホウ化物微粒子は、暗い青紫等に着色した粉末であるが、粒径を可視光波長に比べて十分小さくなるように粉砕し、所定の膜中に分散させた状態においては、当該膜に可視光透過性が生じ、同時に、赤外線遮蔽機能が発現する。
【0025】
この理由については詳細に解明されていないが、これらのホウ化物は自由電子を比較的多く保有し、4f-5d間のバンド間遷移や、電子-電子、電子-フォノン相互作用による吸収が赤外線領域に存在することに由来すると考えられる。
【0026】
ホウ化物微粒子を十分細かくかつ均一に分散した膜においては、当該膜の透過率が、波長400nm以上700nm以下の光の領域内に極大値をもち、かつ波長700nm以上1800nm以下の光の領域に極小値を持つことが確認される。可視光波長が380nm以上780nm以下であり、視感度が550nm付近をピークとする釣鐘型であることを考慮すると、当該膜では可視光を有効に透過し、それ以外の日射光を有効に吸収・反射することができる。
【0027】
ホウ化物微粒子は、平均分散粒子径が200nm以下になると、幾何学散乱またはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の4乗に反比例するため、波長の短い青い光を多く散乱して青白色に変色させることが把握される。
また、レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例するため、粒子径を小さくすることで、レイリー散乱が低減して、ブルーヘイズの発生を抑制できる。その後の研究で、平均分散粒子径を85nm以下にすることでブルーヘイズは改善されることが分かっている。
【0028】
以上より、本発明に係るホウ化物微粒子の平均分散粒子径は100nm以下であることが好ましく、85nm以下であることがより好ましい。
一方、ホウ化物微粒子の平均分散粒子の下限値は特に限定されないが、例えば、1nm以上であることが好ましい。これは、ホウ化物微粒子の平均分散粒子径を1nm以上であれば工業的生産が容易だからである。なお、当該平均分散粒子径は、動的光散乱法に基づく粒径測定装置により測定することができる。
【0029】
このようなホウ化物微粒子は、公知の方法で製造されたもので良い。
例えば、固相反応法で合成された後、乾式粉砕法で粉砕されたものがある。当該乾式粉砕法としては、たとえば、ジェットミル等の高速気流により粒子同士を衝突させて粉砕する方法がある。
また、固相反応法で合成された後、合成したホウ化物微粒子を溶媒中に分散し、分散液を作製した後、ビーズミル、ボールミル、サンドミルなどの湿式媒体ミルを用いた湿式粉砕法により粉砕しても良い。
【0030】
(3)タングステン酸化物
一般的にタングステン酸化物(WO)中には有効な自由電子が存在しないため、赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線吸収微粒子としては有効ではない。
一方、酸素欠損を持つWOや、WOにNa等の陽性元素を添加した複合タングステン酸化物は、導電性材料であり、自由電子を持つ材料であることが知られている。そして、これらの自由電子を持つ材料の単結晶等の分析により、赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
【0031】
本発明に係るタングステン酸化物は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物である。
一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物において、当該タングステンと酸素との組成の範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、当該タングステン酸化物をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999であることが好ましい。当該z/yの値が2.2以上であれば、当該タングステン酸化物中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することができると伴に、材料としての化学的安定性を得ることができるので有効な赤外線吸収微粒子となる。一方、当該z/yの値が2.999以下であれば、必要とされる量の自由電子が生成され効率よい赤外線吸収微粒子となる。
【0032】
(4)複合タングステン酸化物
上述したWOへ、後述する元素Mを添加し、複合タングステン酸化物とすることで、当該WO中に自由電子が生成され、特に近赤外線領域に自由電子由来の強い吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線吸収微粒子として有効となる。
すなわち、当該WOに対し、酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加量とを併用することで、より効率の良い赤外線吸収微粒子を得ることができる。この酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加との併用した複合タングステン酸化物の一般式をMxWyOz(但し、Mは、前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と記載したとき、0.01≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3の関係を満たす複合タングステン酸化物が好ましい。
【0033】
まず、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。
x/yの値が0.001より大きければ、複合タングステン酸化物において十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線吸収効果を得ることが出来る。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、赤外線吸収微粒子中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0034】
また、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybのうちから選択される1種類以上であることが好ましい。
【0035】
ここで、元素Mを添加された当該MxWyOzにおける安定性の観点から、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。そして、赤外線吸収微粒子としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、元素Mは、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものであることがさらに好ましい。
【0036】
次に、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。z/yの値については、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物においても、上述したWyOzで表記されるタングステン酸化物と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0や2.0≦z/y≦2.2においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給がある。この為、2.0≦z/y≦3.0が好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0037】
さらに、当該複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、可視光領域の透過が向上し、赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図1を参照しながら説明する。
【0038】
図1において、符号11で示すWO単位にて形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に、符号12で示す元素Mが配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0039】
そして、可視光領域における光の透過を向上させ、赤外領域における光の吸収を向上させる効果を得る為には、複合タングステン酸化物中に、図1を用いて説明した単位構造が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物が結晶質であっても非晶質であっても構わない。
【0040】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域における光の透過が向上し、赤外領域における光の吸収が向上する。ここで一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され易い。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snを添加したとき六方晶が形成され易い。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に上述した元素Mが存在すれば良く、上述の元素に限定される訳ではない。
【0041】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.001≦x/y≦1が好ましく、0.2≦x/y≦0.5がより好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、上述した元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0042】
また、六方晶以外であって、正方晶、立方晶の複合タングステン酸化物も赤外線吸収微粒子として有効である。結晶構造によって、赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順である。従って、より可視光領域の光を透過し、より赤外線領域の光を吸収する用途には、六方晶の複合タングステン酸化物を用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0043】
(5)タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子の光学特性
本発明に係る、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線吸収微粒子は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0044】
また、当該赤外線吸収微粒子中におけるタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。
まず、透明性を保持したい応用に使用する場合は、800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、粒子径が800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0045】
この粒子による散乱の低減を重視するとき、分散粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下が良い。この理由は、粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm~780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線吸収膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できる。即ち、分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。
【0046】
さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましく、分散粒子径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0047】
上記分散粒子径を800nm以下とすることにより、本発明に係る赤外線吸収微粒子を溶媒中に分散させた赤外線吸収微粒子分散体のヘイズ値は、可視光透過率85%以下でヘイズ30%以下とすることができる。ヘイズが30%よりも大きい値であると、曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
尚、赤外線吸収微粒子の分散粒子径は、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS-8000等を用いて測定することができる。
【0048】
また、タングステン酸化物微粒子において、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、赤外線領域の吸収特性も良いので、赤外線吸収微粒子として好ましい。
【0049】
また、優れた赤外線吸収特性を発揮させる観点から、赤外線吸収微粒子の結晶子径は1nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは1nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上70nm以下である。尚、結晶子径の測定には、粉末X線回折法(θ―2θ法)によるX線回折パターンの測定と、リートベルト法による解析を用いる。
結晶子径は、XRD(X線回折法)の分析結果に基づくリートベルト解析によって求めることができる。具体的には、スペクトリス株式会社PANalytical社製の粉末X線回折装置「X’Pert-PRO/MPD」装置を用い、Cu線源で回折角2θ=10°~120°に出現する赤外線吸収微粒子の回折ピーク位置に基づいて、リートベルト解析を行うことによって結晶子径を求めることができる。
【0050】
2.赤外線遮蔽膜形成用分散液とその製造方法
本発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液は、後述する赤外線遮蔽膜を製造する為のものであり、導電性微粒子と、配列制御剤としてホスホン酸誘導体等と、溶媒とを含むものである。
そして、当該導電性微粒子分散液をもちいて赤外線遮蔽膜を形成したとき、当該導電性微粒子は二次元配列し、当該二次元配列における導電性微粒子の互いの間隔を0.5nm以上10nm以下に制御することができる。但し、導電性微粒子の互いの間隔とは、前記導電性微粒子同士の互いの表面間の最短距離である。
【0051】
本発明に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液は、導電性微粒子粉末と配列制御剤と溶媒とを、ペイントシェーカー等を用いて分散処理することで製造することが出来る。当該赤外線遮蔽膜形成用分散液について(1)配列制御剤、(2)溶媒、(3)その他の添加剤、(4)赤外線遮蔽膜形成用分散液の製造方法、の順で説明する。
【0052】
(1)配列制御剤
配列制御剤は、赤外線遮蔽膜の成膜時において、導電性微粒子を二次元配列させ、当該導電性微粒子間の互いの間隔を所定値に制御する効果を発揮するものである。
本発明に係る導電性微粒子の配列制御剤としては、ホスホン酸誘導体を好ましく用いることが出来る。配列制御剤としてホスホン酸誘導体を添加することにより、導電性微粒子の二次元配列における互いの間隔を0.5nm以上10nm以下に制御することが出来る。
【0053】
そして、導電性微粒子を、0.5nm以上10nm以下の間隔で二次元配列させると、導電性微粒子間の間隙において局在表面プラズモン共鳴は更に増強され、極めて強い光の反射吸収応答を示すことを知見した。さらに、当該光の反射吸収応答においても、反射応答が著しく強まるため、本発明に係る赤外線遮蔽膜における赤外線吸収による発熱が抑制され、その結果、赤外線遮蔽機能を有する導電性微粒子の熱劣化を抑制することができる。
【0054】
赤外線遮蔽膜形成用分散液中における配列制御剤の濃度は特に限定されないが、濃度が希薄過ぎる場合には、導電性微粒子の二次元配列の形成が不十分になり、また、濃厚過ぎる場合には導電性微粒子の互いの間隔が10nmを超え、いずれも所望の反射吸収応答、とりわけ所望の反射応答を得られない。そのため、配列制御剤の濃度は、導電性微粒子100質量部に対して10質量部以上1000質量部以下が好ましい。
【0055】
ホスホン酸誘導体としては、例えば、1―アルキルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、2―エチルヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、16―メチルヘプタデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、エイコシルホスホン酸、ドコシルホスホン酸、テトラコシルホスホン酸、ヘキサコシルホスホン酸、オクタコシルホスホン酸などが挙げられる。また、上述したホスホン酸誘導体の末端がアミノ基、カルボキシル基、パーフルオロアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシド基、等であるものも使用できる。
【0056】
(2)溶媒
赤外線遮蔽膜形成用分散液中における溶媒は、配列制御剤を溶解するものであれば良い。 配列制御剤がホスホン酸誘導体の場合は、例えば、n-ヘキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2―ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メタノール、エタノール、エトキシエタノール、2―プロパノール、水等が挙げられる。
【0057】
(3)その他の添加剤
赤外線遮蔽膜形成用分散液には、導電性微粒子の分散安定性を一層向上させるために分散剤を添加することもできる。分散剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤は、さらに好ましい。
【0058】
また、官能基を有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤も好ましい分散剤として挙げられる。中でも、カルボキシル基を官能基として有するアクリル-スチレン共重合体系分散剤、アミンを含有する基を官能基として有するアクリル系分散剤が、より好ましい例として挙げられる。官能基にアミンを含有する基を有する分散剤は、分子量Mw2000~200000、アミン価5~100mgKOH/gのものが好ましい。また、カルボキシル基を有する分散剤では、分子量Mw2000~200000、酸価1~50mgKOH/gのものが好ましい。
【0059】
市販の分散剤における好ましい具体例としては、日本ルーブリゾール社製SOLSPERSE(登録商標)(以下同じ)3000、5000、9000、11200、12000、13000、13240、13650、13940、16000、17000、18000、20000、21000、24000SC、24000GR、26000、27000、28000、31845、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34750、35100、35200、36600、37500、38500、39000、41000、41090、53095、55000、56000、71000、76500、J180、J200、M387等;SOLPLUS(登録商標)(以下同じ)D510、D520、D530、D540、DP310、K500、L300、L400、R700等;ビックケミー・ジャパン社製Disperbyk(登録商標)(以下同じ)-101、102、103、106、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190、191、192、2000、2001、2009、2020、2025、2050、2070、2095、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164、Anti-Terra(登録商標)(以下同じ)-U、203、204等;BYK(登録商標)(以下同じ)-P104、P104S、P105、P9050、P9051、P9060、P9065、P9080、051、052、053、054、055、057、063、065、066N、067A、077、088、141、220S、300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、340、345、346、347、348、350、354、355、358N、361N、370、375、377、378、380N、381、392、410、425、430、1752、4510、6919、9076、9077、W909、W935、W940、W961、W966、W969、W972、W980、W985、W995、W996、W9010、Dynwet800、Siclean3700、UV3500、UV3510、UV3570等;エフカアディティブズ社製EFKA(登録商標)(以下同じ)2020、2025、3030、3031、3236、4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4300、4310、4320、4330、4340、4400、4401、4402、4403、4500、5066、5220、6220、6225、6230、6700、6780、6782、7462、8503等;BASFジャパン社製JONCRYL(登録商標)(以下同じ)67、678、586、611、680、682、690、819、-JDX5050等;大塚化学社製TERPLUS(登録商標)(以下同じ)MD1000、D1180、D 1130等;味の素ファインテクノ社製アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB-711、PB-821、PB-822等;楠本化成社製ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1751N、1831、1850、1860、1934、DA-400N、DA-703-50、DA-325、DA-375、DA-550、DA-705、DA-725、DA-1401、DA-7301、DN-900、NS-5210、NVI-8514L等;東亞合成社製アルフォン(登録商標)(以下同じ)UH-2170、UC-3000、UC-3910、UC-3920、UF-5022、UG-4010、UG-4035、UG-4040、UG-4070、レゼダ(登録商標)(以下同じ)GS-1015、GP-301、GP-301S等;三菱化学社製ダイヤナール(登録商標)(以下同じ)BR-50、BR-52、BR-60、BR-73、BR-80、BR-83、BR-85、BR-87、BR-88、BR-90、BR-96、BR-102、BR-113、BR-116等が挙げられる。
【0060】
(4)赤外線遮蔽膜形成用分散液の製造方法、
赤外線遮蔽膜形成用分散液は、例えば、赤外線遮蔽膜形成用分散液の原料(導電性微粒子と配列制御剤と溶媒)を、媒体メディアを用いるビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルにより分散処理することで製造することができる。
【0061】
そして、媒体攪拌ミルを用いた粉砕・分散処理では、導電性微粒子の分散処理と同時に、導電性微粒子同士の衝突や媒体メディアの該微粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、導電性微粒子をより微粒子化して分散させることができる。さらに、赤外線遮蔽膜形成用分散液は、含有する導電性微粒子の平均分散粒子径が1nm以上800nm以下であることが好ましいが、媒体攪拌ミルを用いた粉砕・分散処理によれば、所望とする粒径に達する時間が短くてよい。従って、媒体攪拌ミルを用いて赤外線遮蔽膜用分散液を製造することが好ましい。
【0062】
3.赤外線遮蔽膜とその製造方法
本発明に係る赤外線遮蔽膜は、導電性微粒子が二次元配列し、前記導電性微粒子の二次元配列における互いの間隔が0.5nm以上10nm以下であり、前記導電性微粒子の波長1300nmにおける単位重量当たりの吸光係数が5L/(g・cm)以上であるものである。
【0063】
本発明に係る赤外線遮蔽膜を製造するには、上述した赤外線遮蔽膜形成用分散液を適宜な基材の表面に塗布し、ここに導電性微粒子の分散膜を形成させて、赤外線遮蔽膜とすれば良い。つまり、当該赤外線遮蔽膜は、導電性微粒子分散体の一種であり、同じく、赤外線遮蔽膜形成用分散液の乾燥固化物の一種でもある。
導電性微粒子が二次元配列した赤外線遮蔽膜の形成方法は、特に限定されず、スピンコート法、浸漬法、ラングミュアブロジェット法(LB法)等の湿式法が挙げられる。
【0064】
上述した基材の材質は、透明体であれば特に限定されないが、ガラス基板や、樹脂基板等が挙げられる。
樹脂基板の形態としては、樹脂ボード、樹脂シート、樹脂フィルム等で良く、用いる樹脂としては、必要とするボード、シート、フィルムの表面状態や耐久性に不具合を生じないものであれば特に制限はない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマーや、さらにこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物等の透明ポリマーからなるボード、シート、フィルムが挙げられる。特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートあるいはポリエチレン-2,6-ナフタレート等のポリエステル系2軸配向フィルムが、機械的特性、光学特性、耐熱性および経済性の点より好適である。当該ポリエステル系2軸配向フィルムは共重合ポリエステル系であっても良い。
【0065】
本発明に用いられる透明基板には、赤外線遮蔽膜形成用分散液の濡れ性や接着性を確保するために表面処理を施すことや簡易接着層を設けることができる。表面処理や簡易接着層は公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。
【実施例
【0066】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例における分散液中の微粒子の結晶子径は、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X’Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)により測定し、リートベルト法を用いて算出した。
微粒子分散液と赤外線遮蔽膜の光学特性は、分光光度計(日立製作所株式会社製U-4100)を用いて測定した。このうち、微粒子分散液については、分光光度計の測定用ガラスセルにて可視光透過率が80%となるように溶媒で希釈した後、波長200nm~2600nmの範囲における光の透過率を5nmの間隔で測定した。また、吸光係数は、まずA=-log10(T/100)(A:吸光度、T:透過率)の計算式で吸光度を求め、更にランバートベール則により算出した。すなわち、吸光係数には吸光成分と反射成分の両方を含む。尚、赤外線遮蔽膜の光学特性値(透過率、反射率)は、基材であるソーダライムガラスの光学特性値を含む値である。
【0067】
[実施例1]
六塩化タングステン1gを31mLのエタノールに溶解し、25質量%アンモニア水溶液5mLを添加して室温で15分間攪拌した。その後、フラスコ内に入れて100℃で3.5時間還流させ、(NHWO3-yを合成した。次に、溶媒を除去し、80℃で24時間乾燥させた後、得られた(NHWO3-yを塩化セシウム0.425gと共にエタノールへ添加した後、再度溶媒を除去し、80℃で24時間乾燥させた。得られた乾固物をAr雰囲気下において450℃で2時間熱処理し、実施例1に係るCs0.33WO3-x微粒子を得た。
得られたCs0.33WO3-xの結晶子径を測定したところ30nmであった。
【0068】
得られたCs0.33WO3-x微粒子0.2gとn-オクタデシルホスホン酸0.02gとトルエン19.78gとを混合し、得られた混合液を0.3mmφZrOビーズと共に、ペイントシェーカーで10分間の分散処理を行い、実施例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液を得た。
得られた実施例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液の分散粒子径を測定したところ、110nmであった。当該値を表1に記載する。
【0069】
実施例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液の光学特性を測定し、単位重量当たりの吸光係数を算出したところ、波長1300nmにおける単位重量当たりの吸光係数は7.76L/(g・cm)であった。当該値を表1に記載する。
【0070】
続いて、Langmuir-Schaefer法に準拠して、ガラス基板上にCs0.33WO3-x微粒子のラングミュア膜を作製した。
具体的には、実施例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液0.2gを、LB膜作製装置内に入れた純水上に浮かべ、トルエンを蒸発させて島状に分布したCs0.33WO3-x微粒子のラングミュア膜を作製した。次に圧縮棒を用いて当該島状のラングミュア膜を集め、20mm×40mmの範囲でCs0.33WO3-x微粒子が二次元配列したラングミュア膜とした。その後、疎水性のソーダライムガラスを当該ラングミュア膜に当てて、当該ラングミュア膜をガラス上に転写し、風乾して実施例1に係る赤外線遮蔽膜を得た。このとき、液温および雰囲気温度は25℃であった。
【0071】
実施例1に係る赤外線遮蔽膜における光の透過率を測定したところ、波長500nmにおいて84%、波長900nmにおいて51%、波長1300nmにおいて40%であった。また、光の反射率を測定したところ、波長900nmにおいて15%、波長1300nmにおいて31%であった。当該値を表2に記載する。
【0072】
[実施例2](親水性基板使用、Langmuir-Blodgett法)
実施例1に係るCs0.33WO3-x微粒子0.2gと、11-ヒドロキシウンデシルホスホン酸0.02gと、トルエン19.78gとを混合し、得られた混合液と0.3mmφZrOビーズとを、ペイントシェーカーを用いて10分間の分散処理し、実施例2に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液を得た。
【0073】
実施例2に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液の光学特性を測定し、単位重量当たりの吸光係数を算出したところ、波長1300nmにおける単位重量当たりの吸光係数は7.85L/(g・cm)であった。当該値を表1に記載する。
得られた実施例2に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液の分散粒子径を測定したところ、110nmであった。当該値を表1に記載する。
【0074】
続いて、Langmuir-Blodgett法に準拠して、ガラス基板上にCs0.33WO3-x微粒子のラングミュア膜を作製した。
具体的には、まず、大気圧プラズマで親水化処理した厚さ3mmのソーダライムガラスを、LB膜作製装置内の純水液面に対して垂直に浸漬した。
次に、実施例2に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液0.2gを、LB膜作製装置内に入れた純水上に浮かべ、トルエンを蒸発させて島状に分布したCs0.33WO3-x微粒子のラングミュア膜を作製した。さらに圧縮棒を用いて、当該島状のラングミュア膜を集め、20mm×40mmの範囲でCs0.33WO3-x微粒子が二次元配列したラングミュア膜とした。
その後、浸漬した親水性のソーダライムガラスを徐々に引き揚げ、ラングミュア膜をガラス上に転写し、風乾して実施例2に係る赤外線遮蔽膜を得た。このとき、液温および雰囲気温度は25℃であった。
【0075】
実施例2に係る赤外線遮蔽膜における光の透過率を測定したところ、波長500nmにおいて83%、波長900nmにおいて51%、波長1300nmにおいて40%であった。また、反射率を測定したところ、波長900nmにおいて16%、波長1300nmにおいて31%であった。当該値を表2に記載する。
【0076】
[比較例1]
錫含有量4.4質量%、平均粒径0.03μmのITO微粒子(商品名:UFP-HX、住友金属鉱山株式会社製)0.2gとn-オクタデシルホスホン酸0.02gとトルエン19.78gとを混合し、得られた混合液を0.3mmφZrOビーズと共に、ペイントシェーカーで10分間の分散処理を行い、比較例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液を得た。当該値を表1に記載する。
【0077】
比較例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液の光学特性を測定し、単位重量当たりの算出したところ、波長1300nmの光における単位重量当たりの単位重量当たりの吸光係数は2.39L/(g・cm)であった。
得られた比較例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液の分散粒子径を測定したところ、90nmであった。当該値を表1に記載する。
【0078】
実施例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液に代えて、比較例1に係る赤外線遮蔽膜形成用分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る赤外線遮蔽膜を作製した。
【0079】
比較例1に係る赤外線遮蔽膜における光の透過率を測定したところ、波長500nmにおいて91%、波長900nmにおいて84%、波長1300nmにおいて42%であった。また、反射率を測定したところ、波長900nmにおいて2%、波長1300nmにおいて9%であった。当該値を表2に記載する。
【0080】
[比較例2]
メタタングステン酸アンモニウム水溶液(0.02mol/9.28g)9.28gと、塩化セシウム(CsCl)の水溶液(塩化セシウム1.11gを水80gに溶解した水溶液)を、WとCsとの原子比がCs/W=0.33となるように混合し、界面活性剤DOWSIL FZ-2105(ダウ・東レ株式会社製)が全体の0.002%になるように添加して成膜用溶液を得た。
【0081】
得られた成膜用溶液を、膜厚3mmのソーダライムガラスの片面にディップコーティングし、風乾した後、Nガスをキャリアーとした0.6体積%Hガス供給下で550℃10分間熱処理して、比較例2に係る赤外線遮蔽膜を得た。
【0082】
比較例2に係る赤外線遮蔽膜における光の透過率を測定したところ、波長500nmにおいて84%、波長900nmにおいて57%、波長1300nmにおいて43%であった。また、反射率を測定したところ、波長900nmにおいて8%、波長1300nmにおいて19%であった。当該値を表2に記載する。
【0083】
【表1】
【表2】
図1