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特許7443969押出成形フィルムの製造方法及び押出成形フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】押出成形フィルムの製造方法及び押出成形フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240228BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20240228BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240228BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
C08J5/18 CFG
C08L27/18
C08L79/08 Z
C08L101/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020122889
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022019196
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086364(JP,A)
【文献】特開平06-013495(JP,A)
【文献】特開2018-177931(JP,A)
【文献】特開昭52-024253(JP,A)
【文献】特表2013-545831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融温度が270~320℃の第1のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子及び平均粒子径が1~10μmの芳香族性ポリマーの粒子の溶融混練物と、溶融温度が270~320℃の第2のテトラフルオロエチレンポリマーの粒子との混合物を溶融押出成形して、前記芳香族性ポリマーを10質量%以下で含む押出成形フィルムを得る、押出成形フィルムの製造方法であって、
前記第2のテトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融流れ速度が、前記溶融混練物の溶融流れ速度±8g/10分の範囲にある、押出成形フィルムの製造方法
【請求項2】
前記第1のテトラフルオロエチレン系ポリマー及び前記第2のテトラフルオロエチレン系ポリマーが、それぞれ独立に、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族性ポリマーが、非熱可塑性ポリイミドである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族性ポリマーのガラス転移温度が、前記第1のテトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度+20℃以上の範囲にある、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第2のテトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融流れ速度が、前記溶融混練物の溶融流れ速度±7g/10分の範囲にある、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記溶融混練物における前記芳香族性ポリマーの含有量が、前記第1のテトラフルオロエチレン系ポリマー100質量部に対して、5~30質量部である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混合物において、前記第2のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の、前記溶融混練物に対する質量での混合比が、5~20である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形フィルムの製造方法及び押出成形フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、比誘電率及び誘電正接が低いため、高周波信号を伝送するプリント配線板の電気絶縁体層に用いられる。プリント配線板では、電気絶縁体層の両側に導体が設けられた積層体に貫通孔を形成し、貫通孔の内壁面にメッキ層を形成して、導体同士の間の導通が確保される場合が多い。貫通孔の形成には、UV-YAGレーザーが使用される。
また、テトラフルオロエチレン系ポリマーは、UV波長域の吸収率が低い。そのため、テトラフルオロエチレン系ポリマーの層を有するプリント配線板では、貫通孔を形成するために、高出力のレーザー照射が必要である。その結果、レーザー照射の際に発生する熱によって、上記層や導体が変形し、層間剥離等が生じやすい。
【0003】
特許文献1では、UV吸収剤をフィルムに含有させて、UV-YAGレーザーによる孔開けの加工性を向上させているが、UV吸収剤によりフィルムの電気絶縁特性等の電気特性が低下する。
特許文献2では、テトラフルオロエチレン系ポリマーを高温処理して、UV-YAGレーザーによる孔開けの加工性を向上させているが、高温処理に適した製造装置が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平4-503081号公報
【文献】国際公開2019/087939号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、電気特性と、UV-YAGレーザーによる孔開けの加工性とを両立したフィルムを得るべく鋭意検討した。その結果、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子及び所定の芳香族性ポリマーの粒子の溶融混練物と、所定のテトラフルオロエチレンポリマーの粒子との混合物を、溶融押出成形して得たフィルムは、両者の物性に優れることを知見した。また、かかるフィルムは他材料との接着性にも優れていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> 溶融温度が270~320℃の第1のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子及び平均粒子径が1~10μmの芳香族性ポリマーの粒子の溶融混練物と、溶融温度が270~320℃の第2のテトラフルオロエチレンポリマーの粒子との混合物を溶融押出成形して、前記芳香族性ポリマーを10質量%以下で含む押出成形フィルムを得る、押出成形フィルムの製造方法。
<2> 前記第1のテトラフルオロエチレン系ポリマー及び前記第2のテトラフルオロエチレン系ポリマーが、それぞれ独立に、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーである、<1>の製造方法。
<3> 前記第1のテトラフルオロエチレン系ポリマーと前記第2のテトラフルオロエチレン系ポリマーとが、同じテトラフルオロエチレン系ポリマーである、<1>又は<2>の製造方法。
<4> 前記芳香族性ポリマーが、非熱可塑性ポリイミドである、<1>~<3>のいずれかの製造方法。
<5> 前記芳香族性ポリマーのガラス転移温度が、前記第1のテトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度+20℃以上の範囲にある、<1>~<4>のいずれかの製造方法。
<6> 前記第2のテトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融流れ速度が、前記溶融混練ペレットの溶融流れ速度±7g/10分の範囲にある、<1>~<5>のいずれかの製造方法。
<7> 前記溶融混練物における前記芳香族性ポリマーの含有量が、前記第1のテトラフルオロエチレン系ポリマー100質量部に対して、5~30質量部である、<1>~<6>のいずれかの製造方法。
<8> 前記混合物において、前記第2のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の、前記溶融混練物に対する質量での混合比が、5~20である、<1>~<7>のいずれかの製造方法。
<9> 溶融温度が270~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーの海ドメインと芳香族性ポリマーの島ドメインとを含む押出成形フィルムであって、前記押出成形フィルムにおける前記芳香族性ポリマーの含有量が、10質量%以下であり、前記島ドメインの平均ドメイン径が、1~10μmであり、かつ、厚さ25μmの前記押出成形フィルムにおける波長355nmの光線の透過率が、80%以下である、押出成形フィルム。
<10> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーである、<9>の押出成形フィルム。
<11> 前記芳香族性ポリマーが、非熱可塑性ポリイミドである、<9>又は<10>の押出成形フィルム。
<12> 前記芳香族ポリマーの含有量が、0.1~5質量%である、<9>~<11>のいずれかの押出成形フィルム。
<13> 前記厚さ25μmの押出成形フィルムの面内において、前記透過率の最大値と最小値との差が、7%以下である、<9>~<12>のいずれかの押出成形フィルム。
<14> 前記押出成形フィルムの厚さが、前記島ドメインの平均ドメイン径の2倍超である、<9>~<13>のいずれかの押出成形フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電気特性と、UV-YAGレーザーによる孔開けの加工性(以下、「UV加工性」とも記す。)とに優れる、押出成形フィルムの製造方法を提供できる。また、かかる特性に優れる押出成形フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物(粒子、フィラー)の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、対象物の粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「D90」は、同様にして測定される、対象物の体積基準累積90%径である。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマー、硬化物又はエラストマーを分析して測定される値である。
「粒子の比表面積」は、ガス吸着(定容法)BET多点法によりNOVA4200e(Quantachrome Instruments社製)を使用して求められる。
「溶融流れ速度(MFR)」とは、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に規定される、ポリマーのメルトマスフローレートを意味する。
「フィルムの厚さ」は、接触式厚み計DG-525H(小野測器社製)にて、測定子AA-026(Φ10mm、SR7)を使用して、フィルムの厚さを、幅方向に距離が等しくなるように10点測定した測定値の平均値である。
「金属箔層の表面の十点平均粗さ(Rzjis)」は、JIS B 0601:2013の附属書JAに規定される値である。
「誘電正接」は、SPDR法により、24℃、50%RHの環境下にて、周波数10GHzで測定される値である。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーから直接形成された原子団であってもよく、得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
【0009】
本発明の押出成形フィルムの製造方法(以下、「本法」とも記す。)は、溶融温度が270~320℃の第1のテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「第1のFポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「第1のF粒子」とも記す。)及びD50が1~10μmの芳香族性ポリマー(以下、「ARポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「AR粒子」とも記す。)の溶融混練物と、ARポリマーを含まない、溶融温度が270~320℃の第2のテトラフルオロエチレンポリマー(以下、「第2のFポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「第2のF粒子」とも記す。)との混合物を溶融押出成形して、ARポリマーを10質量%以下で含む押出成形フィルム(以下、「本フィルム」とも記す。)を得る方法である。
【0010】
本法によれば、電気特性とUV加工性とに優れた本フィルムが得られる。その理由は必ずしも明確ではないが、以下の通りであると考えられる。
本フィルムは、ARポリマーを少量含む。そのため、本フィルム中では、2つのFポリマーを含むドメインを海とし、ARポリマーを含むドメインを島とする海島構造が形成されている。
【0011】
本法においては、第1のFポリマー及びARポリマーを含む溶融混錬物(溶融混練ペレット)を得て、この溶融混錬物と第2のF粒子とから本フィルムを製造する。溶融混錬物は、マスターバッチともみなせる。マスターバッチを形成する際に、ポリマーに充分な剪断がかかるために、ARポリマーが凝集しにくく、本フィルム中においてサイズの揃った島ドメインが形成されると考えられる。さらに、本フィルムを形成する際に、ARポリマーと2つのFポリマーとが充分に混合され、本フィルム中で島ドメインが均一に分散し、高いUV吸収性を発現すると考えられる。
【0012】
また、本発明者らは、島ドメインの平均ドメイン径が所定の範囲にあると、光線が効果的に島ドメインに侵入できるため、本フィルム中のARポリマーの含有量が少ない場合にも、本フィルムにおける光線の吸収性が高まることを知見している。形成される島ドメインの平均ドメイン径は、AR粒子のD50に依存すると考えられる。本法においては、所定のD50(1~10μm)を有するAR粒子を用いて、本フィルムを形成する。このため、本フィルムでは、ARポリマーの含有量が少なくとも、適度なドメイン径を有する島ドメインが形成され、高いUV吸収性を有すると考えられる。
【0013】
本法において、第1のFポリマーと第2のFポリマーとは、同じFポリマーであるのが好ましい。この場合、溶融押出成形の際に、第1のFポリマーと第2のFポリマーとが均一に混合され、本フィルム中において均質な海ドメインが形成されやすい。
本法において、ARポリマーのガラス転移温度は、第1のFポリマーの溶融温度+20℃以上の範囲にあるのが好ましく、溶融温度+30℃以上の範囲にあるのがより好ましい。ARポリマーのガラス転移温度は、第1のFポリマーの溶融温度+60℃以下の範囲にあるのが好ましく、溶融温度+50℃以下の範囲にあるのがより好ましい。この場合、溶融混練物の形成及び溶融押出成形の際に、ARポリマーの種類によらず、ARポリマーが溶融状態になりにくくなり、本フィルム中において適度なドメイン径を有する島ドメインが形成されやすい。
【0014】
第2のFポリマーのMFRは、溶融混練物のMFR±7g/10分の範囲にあるのが好ましく、±5g/10分の範囲にあるのがより好ましい。この場合、第2のFポリマーのMFRと溶融混練物のMFRとが接近するため、本フィルムを形成する際に、ARポリマーと2つのFポリマーとが充分に混合され、本フィルム中で島ドメインが均一に分散し、より高いUV吸収性を発現できる。
溶融混練物におけるARポリマーの含有量は、第1のFポリマー100質量部に対して、5~30質量部であるのが好ましく、10~20質量部であるのがより好ましい。この場合、本フィルムにおいて、電気特性とUV加工性とがバランスしやすい。
混合物において、第2のF粒子の、溶融混練物に対する質量での混合比は、5~20であるのが好ましく、5~10であるのがより好ましい。この場合、本フィルムにおいて、電気特性とUV加工性とがよりバランスしやすい。
【0015】
本発明における第1のFポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。本発明における第1のFポリマーは、熱溶融性である。この第1のFポリマーの溶融温度は、270~320℃であり、275~315℃が好ましく、290~310℃がより好ましい。この場合、第1のFポリマーの成形加工性と、本フィルムの機械強度とがバランスしやすい。
第1のFポリマーのガラス転移点は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
第1のFポリマーのMFRは、0.5~100g/10分が好ましく、1~30g/10分がより好ましい。この場合、本フィルムが、表面平滑性、外観、機械強度に優れやすい。
【0016】
第1のFポリマーとしては、TFE単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)を含むポリマー(PFA)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)に基づく単位を含むポリマー(FEP)が挙げられ、PFAであるのが好ましい。PAVEとしては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF及びCF=CFOCFCFCF(PPVE)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0017】
第1のFポリマーは、極性官能基を有するのが好ましい。極性官能基は、第1のFポリマー中の単位に含まれていてもよく、第1のFポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有する第1のFポリマー、プラズマ処理や電離線処理して得られる極性官能基を有する第1のFポリマーが挙げられる。極性官能基は、水酸基含有基又はカルボニル基含有基が好ましい。
【0018】
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH又は-C(CFOHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0019】
第1のFポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、極性官能基を有するポリマー(1)、又は、TFE単位及びPAVE単位を含み全単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含む、極性官能基を有さないポリマー(2)が好ましい。
これらのポリマーは、本フィルム中において微小球晶を形成するので、他の成分との密着性が高まりやすく、適度なドメイン径を有する島ドメインも形成されやすい。その結果、表面平滑性、接着性、電気特性及びUV吸収性(UV加工性)に優れた本フィルムが得られる。
【0020】
ポリマー(1)は、TFE単位、PAVE単位及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を含むポリマーであるのが好ましく、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.5~9.97モル%、0.01~3モル%で含むポリマーであるのがより好ましい。また、極性官能基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸又は5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0021】
ポリマー(2)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%で含有するのが好ましい。ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×10個あたり、ポリマーが有する極性官能基の数が500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
【0022】
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、極性官能基を有する第1のFポリマー(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマーの主鎖の末端基に有するポリマー(1)等)をフッ素化処理して製造してもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0023】
本発明における第1のF粒子は、第1のFポリマーを含有する粒子であり、第1のF粒子中の第1のFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
第1のF粒子は、第1のFポリマーとは異なるポリマーを含んでもよい。異なるポリマーとしては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、マレイミドが挙げられる。
第1のF粒子は、無機物を含んでもよい。無機物としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金及びカーボンが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、及びメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)がより好ましく、シリカ及び窒化ホウ素がさらに好ましく、シリカが特に好ましい。この場合、本フィルムが電気特性、低線膨張性及びUV吸水性に優れやすい。無機物を含むF粒子は、Fポリマーをコアとし、このコアの表面に、無機物を有するのが好ましい。かかるF粒子は、例えば、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを合着(衝突、凝集等)させて得られる。
【0024】
第1のF粒子はペレット状であってもよく、粉体状であってもよい。第1のF粒子は粉体状であるのが好ましい。
粉体状の第1のF粒子のD50は、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、8μm以下がさらに好ましい。第1のF粒子のD50は、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、第1のF粒子のD90は、100μm未満が好ましく、90μm以下がより好ましい。
粉体状の第1のF粒子の比表面積は、1~8m/gが好ましく、1~5m/gがより好ましく、1~3m/gがさらに好ましい。
粉体状の第1のF粒子のD50、D90及び比表面積が、上記範囲にあれば、溶融混練物を形成する際に、AR粒子との混合を円滑に行いやすい。
【0025】
本発明におけるARポリマーとしては、液晶ポリエステル、ポリフタルアミド、芳香族ポリエーテルケトン、シンジオタクチックポリスチレン、芳香族ポリイミド、芳香族マレイミド、芳香族ビスマレイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレンエラストマー等の芳香族エラストマー又は芳香族ポリアミック酸が好ましく、芳香族ポリイミド又は芳香族ポリアミック酸がより好ましい。
芳香族ポリイミドは、熱可塑性であってもよく、非熱可塑性であってもよい。熱可塑性ポリイミドとは、イミド化が完了した、イミド化反応がさらに生じないポリイミドを意味する。
中でも、ARポリマーとしては、非熱可塑性ポリイミドが好ましい。かかる非熱可塑性ポリイミドを使用すれば、本フィルム中において、目的とするドメイン径を有する島ドメインが形成されやすい。このため、本フィルムは、より優れたUV加工性を発揮できる。
【0026】
本明細書中では、「非熱可塑性ポリイミド」とは、モノマーを組み合わせ、溶液重合させて得られる溶液(ポリイミド前駆体の溶液)を乾燥させ、さらにイミド化させて形成される成形体(フィルム等)を450℃にて1分間加熱した際、形状が保持されるポリイミドと定義する。上記成形体を450℃にて1分間加熱した際に、シワ又は伸びにより変形したり融着したりするポリイミドは「熱可塑性ポリイミド」とする。
【0027】
熱可塑性ポリイミドの具体例としては、「ネオプリム(登録商標)」シリーズ(三菱ガス化学社製)、「スピクセリア(登録商標)」シリーズ(ソマール社製)、「Q-PILON(登録商標)」シリーズ(ピーアイ技術研究所製)、「WINGO」シリーズ(ウィンゴーテクノロジー社製)、「トーマイド(登録商標)」シリーズ(T&K TOKA社製)、「KPI-MX」シリーズ(河村産業社製)、「ユピア(登録商標)-AT」シリーズ(宇部興産社製)が挙げられる。
【0028】
非熱可塑性ポリイミドは、非熱可塑性ブロック部位を含むのが好ましい。
非熱可塑性ブロック部位とは、ブロック部位を構成するモノマーのみを溶液重合して得られたポリイミド前駆体を、上述した非熱可塑性ポリイミドの定義における方法と同様の方法で評価した場合、形状が保持されるポリイミドを形成する、モノマーの組み合せから形成されるブロック部位を意味する。
【0029】
一方、熱可塑性ブロック部位とは、ブロック部位を構成するモノマーのみを溶液重合して得られたポリイミド前駆体から、上述した非熱可塑性ポリイミドの定義における方法と同様の方法で評価した場合、形状が保持されないポリイミドを形成する、モノマーの組み合せから形成されるブロック部位を意味する。
なお、ブロック部位が、熱可塑性であるか非熱可塑性であるか判断する際に、剛直なモノマーの組み合わせを選定すると成形体が破断又は粉々に割れてしまう場合がある。この場合は、その破片を集めて加熱して、その形状の保持状態から判断すればよい。
【0030】
非熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は、280℃以上が好ましく、290℃以上がより好ましい。上記ガラス転移温度は、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。この場合、より低温での溶融押出成形により、本フィルムを成形できる。
非熱可塑性ポリイミドのイミド基密度は、0.20~0.35が好ましい。イミド基密度が上記上限以下であれば、非熱可塑性ポリイミドの吸水率がより低くなり、本フィルムの電気特性(特に、誘電特性)の変化をより抑制しやすい。上記イミド基密度が上記下限以上であれば、イミド基が極性基として機能して、本フィルムの密着性がより向上するだけでなく、吸水率が顕著に低下しやすい。
【0031】
なお、イミド基密度は、ポリイミド前駆体をイミド化したポリイミドにおいて、イミド基部分の単位当たり分子量(140.1)をポリイミドの単位当たり分子量で除した値である。例えば、ピロメリット酸二無水物(分子量:218.1)の1モルと3,4’-オキシジアニリン(分子量:200.2)の1モルとの2成分からなるポリイミド前駆体をイミド化したポリイミド(単位当たりの分子量:382.2)のイミド基密度は、140.1を382.2で除した値である0.37となる。
【0032】
非熱可塑性ポリイミドは、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、パラフェニレンジアミン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル及び4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエートからなる群より選択される複数の芳香族ジアミンと、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2',3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物、p-フェニレンビス(トリテート無水物)、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物からなる群より選択される複数の芳香族酸二無水物とから形成される単位を含むのが好ましい。この場合、非熱可塑性ポリイミドの非熱可塑性が向上し、本フィルムの密着性がより向上するだけでなく、吸水率が顕著に低下しやすい。
非熱可塑性ポリイミドは、全単位に対して、上記単位を80モル%以上含むのが好ましい。その上限は、100モル%である。
【0033】
さらに、非熱可塑性ポリイミドは、メタフェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、ベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、パラキシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(3-メチル-5-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン等の他のジアミンを単位のモノマー成分としていてもよい。これらの他のジアミンは、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
さらに、非熱可塑性ポリイミドは、ピロメリット酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、ピリジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、4,4’-オキシジフタル酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5,5’-[1-メチル-1,1-エタンジイルビス(1,4-フェニレン)ビスオキシ]ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等の他のテトラカルボン酸又はその誘導体を単位のモノマー成分としていてもよい。これらの他のテトラカルボン酸又はその誘導体は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
非熱可塑性ポリイミドを製造する際のポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の合成は、溶媒存在下に行うのが好ましい。溶媒の具体例としては、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、フェノール、クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール、ヘキサメチルホスホルアミドが挙げられる。
ポリイミド前駆体は、ポリイミド前駆体を5~40重量%の固形分として含有する溶液に調製するのが好ましい。この場合、溶液の粘度は、100~1000Pa・sが好ましい。また、溶液においてポリイミド前駆体の一部は、イミド化されていてもよい。
【0036】
スチレンエラストマーとしては、スチレン-ブタジエン共重合体、水添-スチレン-ブタジエン共重合体、水添-スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物等が挙げられる。
本発明におけるAR粒子のD50は、1~10μmであり、2~7μmがより好ましい。この場合、溶融混練物を形成する際に、第1のF粒子との混合を円滑に行いやすい。
芳香族ポリエーテルケトンとしては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトンが挙げられる。
【0037】
本発明における第2のFポリマーの定義及び範囲は、好適な態様も含めて、上記第1のFポリマーのそれらと同様である。また、第2のF粒子の定義及び範囲も、好適な態様も含めて、上記第1のF粒子のそれらと同様である。
なお、第2のFポリマーは、上述したように、第1のFポリマーと同じFポリマーであるのが好ましい。
第2のF粒子はペレット状であるのが好ましい。
【0038】
本法における溶融混練物は、第1のF粒子及びAR粒子を溶融混錬して得られる。溶融混練物は、例えば、押出機内に、第1のF粒子とAR粒子とを投入し、押出機内において、第1のF粒子とAR粒子との混合物を加熱により溶融しつつ混練して得られる。第1のF粒子とAR粒子は、あらかじめブレンダーで混合し、押出機内に投入されてもよい。
溶融混練物は、ペレット状であるのが好ましい。かかる場合、本フィルム中において、目的とするドメイン径を有する島ドメインが形成されやすい。このため、本フィルムは、より優れたUV加工性を発揮できる。
【0039】
本法における溶融押出成形は、ダイコート法(Tダイによる溶融押出成形)を用いるのが好ましい。ダイコート法は、具体的には、次のようにして行われる。
まず、Tダイに接続された押出機内に、第1のF粒子及びAR粒子の溶融混練物と、第2のF粒子とが投入される。次に、押出機内において、上記溶融混練物と第2のF粒子との混合物が加熱により溶融されつつ混練され、溶融混練物が得られる。
次に、この溶融混練物は、Tダイ内に供給され、Tダイのリップ(吐出口)から吐出される。その後、吐出された溶融混練物は、Tダイの鉛直下方に配置された最初の冷却ロールに接触することにより、冷却されてフィルム化される。次に、フィルム化された溶融混練物は、さらに下流側に配置された他の冷却ロール及び搬送ロールに接触しつつ搬送され、最終的に、本フィルムとして巻取りロールに巻き取られる。
【0040】
第1のF粒子及びAR粒子の溶融混練物と、第2のF粒子は、あらかじめブレンダーで混合され、押出機内に投入されるのが好ましい。
最初の冷却ロールの温度は、150~250℃が好ましい。この場合、溶融混練物を急冷できるので、本フィルム中において、Fポリマーの小球晶が形成されやすく、よって、ARポリマーによる適度なドメイン径を有する島ドメインも形成されやすい。
この急冷効果を高める観点から、最初の冷却ロールの直後の位置には、フィルム化された溶融混練物に対して、スリットノズルからスリット状空気流を吹き付けるエアーナイフを設けるようにしてもよい。
この場合、エアーナイフから吹き出す空気の温度は、150~200℃が好ましく、170~200℃がより好ましい。また、エアーナイフから吹き出す空気の流速は、10~20m/秒が好ましい。
【0041】
また、同様の観点から、Tダイから吐出された溶融混練物を、最初の冷却ロールに接触するまでの間、その温度を高く維持する非接触式加熱部を設けるようにしてもよい。非接触式加熱部は、例えば、対向配置された一対のヒータ等で構成し、それらの間に溶融混練物を通過させるように構成することができる。
この場合、Tダイ内における溶融混練物の温度をA[℃]、非接触式加熱部の温度をB[℃]と規定したとき、その差の絶対値(|A-B|)は、70℃以下が好ましく、30~50℃がより好ましい。この場合、Fポリマー及びARポリマーの変質を防止しつつ、溶融混練物の温度を、最初の冷却ロールに至るまで充分に高く維持できる。
【0042】
得られる本フィルムは、Fポリマー(第1のFポリマー及び第2のFポリマー)の海ドメインとARポリマーの島ドメインとを含み、ARポリマーの含有量が、10質量%以下であり、島ドメインの平均ドメイン径が、1~10μmである。そして、本フィルムを厚さ25μmに形成したとき、この厚さ25μmの本フィルムにおける波長355nmの光線の透過率が、80%以下である。
本フィルムにおけるFポリマーの定義及び範囲は、好適な態様も含めて、本法における第1のFポリマーのそれらと同様である。また、本フィルムにおけるARポリマーの定義及び範囲は、好適な態様も含めて、本法におけるARポリマーのそれらと同様である。
上述したように、本フィルムでは、ARポリマーの含有量が少なくとも、適度なドメイン径を有する島ドメインを含むため、高いUV吸収性を有する。
【0043】
本フィルムにおけるARポリマーの含有量は、0.1~5質量%が好ましく、0.3~4質量%がより好ましい。この場合、本フィルムにおいて、Fポリマーに基づく特性(電気特性等)が低下するのを防止しつつ、充分に高いUV吸収性を付与できる。
また、島ドメインの平均ドメイン径は、3~7μmが好ましい。この場合、光線(UV)が本フィルム(島ドメイン)により効果的に侵入できるため、本フィルムのUV吸収性がより向上する。
【0044】
厚さ25μmの本フィルムにおける波長355nmの光線の透過率(以下、「光線透過率」とも記す。)は、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。光線透過率の下限は、0%である。この場合、本フィルムは、充分に高いUV吸収性を有すると判断できる。
また、厚さ25μmの押出成形フィルムの面内において、光線透過率の最大値と最小値との差は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。この場合、本フィルムは、均質な特性を有すると判断できる。なお、光線透過率の最大値と最小値との差の下限は、通常、1%以上である。
【0045】
本フィルムの厚さは、島ドメインの平均ドメイン径の2倍超であるのが好ましく、4倍超であるのがより好ましく、6倍超であるのがさらに好ましい。本フィルムの厚さは、島ドメインの平均ドメイン径の15倍以下であるのが好ましく、10倍以下であるのがより好ましい。この場合、本フィルムのUV吸収性をより高めることができる。
本フィルムの具体的な厚さは、5~150μmが好ましく、10~100μmがより好ましく、20~50μmがさらに好ましい。
【0046】
本フィルムは、2つのFポリマー及びARポリマー以外の他の成分を含んでいてもよい。本法においては、他の成分を、溶融混練物に混合してもよく、第2のF粒子に混合してもよく、溶融混練物及び第2のF粒子の双方に混合してもよい。
他の成分としては、無機フィラー、有機フィラー、上記ポリマー以外の他の樹脂、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤等が挙げられる。
【0047】
無機フィラーは、窒化物フィラー又は無機酸化物フィラーが好ましく、窒化ホウ素フィラー、ベリリアフィラー(ベリリウムの酸化物のフィラー)、ケイ酸塩フィラー(シリカフィラー、ウォラストナイトフィラー、タルクフィラー)、又は金属酸化物(酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラーがより好ましく、シリカフィラーがさらに好ましい。
無機フィラーは、その表面の少なくとも一部が、シランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等)で表面処理されているのが好ましい。
【0048】
無機フィラーのD50は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。D50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
無機フィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。
無機フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
無機フィラーの好適な具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン(登録商標)」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX(登録商標)」シリーズ等)、球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP(登録商標)」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された(石原産業社製の「タイペーク(登録商標)」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT(登録商標)」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
【0050】
他の樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、多官能シアン酸エステル樹脂、多官能マレイミド-シアン酸エステル樹脂、多官能性マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン、ポリアリルスルホンが挙げられる。
【0051】
本フィルムと金属箔とを加熱圧着することにより、ポリマー層と金属箔層とを有する金属張積層体を製造できる。
金属張積層体は、ポリマー層及び金属箔層以外の他の層を含んでもよい。他の層としては、耐熱性樹脂層が挙げられる。
かかる金属張積層体の層構成の具体例としては、金属箔層/ポリマー層/耐熱性樹脂層、金属箔層/ポリマー層/耐熱性樹脂層/ポリマー層/金属箔層、金属箔層/耐熱性樹脂層/ポリマー層/耐熱性樹脂層/金属箔層が挙げられる。
金属箔としては、銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔が挙げられる。銅箔には、亜鉛クロメート等の防錆層、ニッケル、コバルト等のバリア層が形成されていてもよい。また、バリア層は、めっき処理により形成されてもよく、化成処理によって形成されてもよい。
【0052】
金属箔層とポリマー層との密着性を向上させる観点から、金属箔層の表面は、シランカップリング剤で処理されていてもよい。シランカップリング剤としては、エポキシシラン、アミノシラン、ビニルシラン、アクリロキシシラン、メタクリロキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、イソシアネートシランが挙げられ、アクリロキシシラン、メタクリロキシシラン、エポキシシランが好ましい。シランカップリング剤は、1種を使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
金属箔層のポリマー層側の表面のRzjisは、0.3~1.6が好ましい。Rzjisが0.3以上であれば、UV-YAGレーザーによる孔開け加工時に金属箔層とポリマー層との間で層間剥離が生じにくい。Rzjisが1.6以下であれば、粗さに起因する伝送損失の増大を抑制できる。
金属箔層の厚さは、3~18μmが好ましく、6~12μmがより好ましい。
【0053】
ポリマー層の誘電正接は、0.0005~0.0040が好ましく、0.0007~0.0030がより好ましい。誘電正接が低いほどポリマー層の電気特性がより優れる。
ポリマー層の厚さは、1~50μmが好ましく、2~25μmがより好ましい。ポリマー層の厚さが上記下限値以上であれば、伝送損失が小さいプリント配線板を得やすい。ポリマー層の厚さが上記上限値以下であれば、UV加工性がより向上する。なお、金属張積層体が複数のポリマー層を有する場合、それぞれの厚さを上記範囲内とするのが好ましい。
【0054】
耐熱性樹脂層の構成材料(耐熱樹脂材料)としては、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、ポリエステル、ポリアミド、アラミド繊維が挙げられる。中でも、耐熱樹脂材料としては、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド及びアラミド繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリイミド又は液晶ポリマーがより好ましい。
耐熱性樹脂層は、UV加工性を高める観点から、異種材料が少ない方が好ましく、上記非熱可塑性ポリイミド単独で構成されるのが好ましい。
金属張積層体が耐熱性樹脂層を有する場合、耐熱性樹脂層の厚さ(複数の場合、合計厚さ)に対するポリマー層の厚さ(複数の場合、合計厚さ)の比は、0.5~2が好ましい。この場合、ポリマー層のUV-YAGレーザーによる孔開け加工が容易になり、また、伝送損失も低減しやすい。
【0055】
金属張積層体の厚さは、10~150μmが好ましく、15~100μmがより好ましく、20~50μmがさらに好ましい。この場合、金属張積層体をプリント配線板としてより安定して使用でき、UV-YAGレーザーにより貫通孔を形成しやすい。
貫通孔の開口形状としては、円形状が好ましい。この場合、直径を0.05~0.10mmの範囲に設定できる。
貫通孔の数は、1つでもよく、2つ以上でもよい。
貫通孔の内壁面には、必要に応じてメッキ層を形成してもよい。例えば、プリント配線板が厚さ方向の両側に導体を有する場合、貫通孔の内壁面にメッキ層を形成すれば、互いの導体同士の間の導通を確保できる。
【0056】
メッキ層としては、銅メッキ層、金メッキ層、ニッケルメッキ層、クロムメッキ層、亜鉛メッキ層、スズメッキ層が挙げられる。
伝送損失は、プリント配線板における、信号の入力部から出力部までの信号の減衰を表すパラメータである。
プリント配線板の伝送損失は、40GHzにおいて、-0.07dB/mm以上が好ましく、-0.06dB/mm以上がより好ましい。
【0057】
プリント配線板は、上記金属張積層体に対して、UV-YAGレーザーの照射による孔開け加工で貫通孔を形成する方法により製造できる。
UV-YAGレーザーの波長は、3倍高調波(波長355nm)又は4倍高調波(266nm)が好ましい。
孔開け加工には、UV-YAGレーザー加工機を使用できる。UV-YAGレーザーによる孔開け加工には、トレパニング加工を採用できる。具体的には、貫通孔を形成すべき箇所の周縁に沿って、径を絞ったレーザーを周回させながら照射し、金属張積層体を部分的にくり抜いて貫通孔を形成できる。
【0058】
レーザーの出力、レーザー照射の周回回数、レーザーの発振周波数は、金属張積層体の厚さに応じて設定できる。
波長355nmのレーザー光を使用する場合、その出力は、0.1~3.0Wが好ましく、0.5~2.0Wがより好ましい。波長266nmのレーザー光を使用する場合、その出力は、0.01~0.5Wが好ましく、0.05~0.3Wがより好ましい。この場合、貫通孔の形成が容易になり、レーザーの熱による樹脂の飛散物も少なくできる。
レーザー照射の周回回数は、5~50回が好ましい。
波長355nmのレーザー光を使用する場合、その発振周波数は、20~80kHzが好ましい。波長266nmのレーザー光を使用する場合、その発振周波数は、1~10kHzが好ましい。
【0059】
上記金属張積層体は、所定の海島構造を備える本フィルムで作成されたポリマー層を有し、その波長355nmの光線の透過率が制御されている。このため、ポリマー層は、添加剤を用いなくても、UV-YAGレーザーの吸収率が高まり、結果として、電気特性の低下を抑制しつつ、UV-YAGレーザーを用いて容易に小口径の貫通孔を形成できる。
このようにして製造されるプリント配線板は、高周波用途に好適に使用できる。
【0060】
以上、本発明の押出成形フィルムの製造方法及び押出成形フィルムについて説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の押出成形フィルムの製造方法は、上記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
また、本発明の押出成形フィルムは、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の構成と置換されていてよい。
【実施例
【0061】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[F粒子]
F粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、極性官能基を有するFポリマー1(溶融温度:300℃、MFR:28g/10min)からなる粉体状の粒子(D50:2.1μm)
F粒子2:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、極性官能基を有するFポリマー2(溶融温度:300℃、MFR:22g/10min)からなるペレット状の粒子
F粒子3:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含み、極性官能基を有しないFポリマー3(溶融温度305℃、MFR:28g/10min)からなる粉体状の粒子(D50:2.3μm)
F粒子4:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含み、極性官能基を有しないFポリマー4(溶融温度305℃、MFR:22g/10min)からなるペレット状の粒子
F粒子5:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含み、極性官能基を有しないFポリマー5(溶融温度305℃、MFR:16g/10min)からなるペレット状の粒子
【0062】
[AR粒子]
AR粒子1:非熱可塑性ポリイミド(Tg:337℃)の粒子(D50:3μm、ダイセル・エボニック社製「P84NT superfine」)
AR粒子2:非熱可塑性ポリイミド(Tg:355℃)の粒子(D50:13μm、宇部興産社製「UIP-SA」)
[銅箔]
銅箔1:低粗化銅箔(厚さ:12μm、福田金属箔粉工業社製、「CF-T49A-DS-HD2)
【0063】
2.フィルムの製造例
[例1]
F粒子1(90質量部)とAR粒子(10質量部)とを、ブレンダーで撹拌し、混合物を調製した。2軸押出機(テクノベル社製、「KZW15TW-45MG」)を用いて、混合物を溶融混錬(スクリュー回転数:200rpm、設定樹脂温度:370℃)し、ペレット1を製造した。ペレット1のMFRは24g/10minであった。
ペレット1(10質量部)とF粒子2(90質量部)とを、ブレンダーで撹拌し、混合物を調製した。単軸押出機(700mm巾コートハンガーダイを有する30mmφ単軸押出機)を用いて、混合物をダイ温度340℃で押出成形し、幅500mm、長さ100m、厚さ25μmのフィルム1を得た。フィルム1における島ドメインの平均ドメイン径は、3μmであった。
なお、平均ドメイン径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察されるフィルムの断面におけるSEM写真から、画像処理にて島ドメインを判定して求められる。
【0064】
[例2~6]
F粒子及びAR粒子の種類と量とを、表1に示す通り変更した以外は、ペレット1と同様にして、ペレット2~5を得た。
ペレット及びF粒子の種類と量とを、表2に示す通り変更した以外は、フィルム1と同様にして、フィルム2~6を得た。
[例7]
F粒子2(99質量部)とAR粒子1(1質量部)とを、ブレンダーで撹拌し、混合物を調製した。混合物を、単軸押出機(750mm巾コートハンガーダイを有する30mmφ単軸押出機)を用いて、ダイ温度340℃で押出成形し、幅500mm、長さ100m、厚さ25μmのフィルム7を得た。
【0065】
フィルム1~7の成分、それぞれのペレットとF粒子とのMFRの差、フィルム中のARポリマーの含有量、島ドメインの平均ドメイン径も併せて、表2に示した。なお、フィルム6中には島ドメインが存在せず、フィルム7はペレットを用いなかったため、ペレットとF粒子とのMFRの差は存在しない。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
3.積層体の製造
フィルム1の表面に銅箔1を重ね、真空熱プレスして積層体1を得た。なお、処理条件は、温度:340℃、加圧圧力:3.0MPa、加圧時間:20分間とした。
フィルム1を、フィルム2~6に変更した以外は、積層体1と同様にして、積層体2~7を得た。
【0069】
4.評価
4-1.フィルムの評価
4-1-1.光線透過性の評価
得られたフィルムの、波長355nmの紫外線の透過率を、分光光度計(株式会社島津製作所製、「UV-3600」)を使用して測定した。また、フィルムの幅方向で3点、長手方向で5mおきに、合計60点における上記紫外線の透過率を測定し、最大値と最小値との差を求めた。
【0070】
4-1-2.電気特性の評価
得られたフィルムについて、SPDR(スプリットポスト誘電体共振)法にて、その誘電正接(測定周波数:10GHz)を測定した。
[評価基準]
〇:誘電正接が0.0010未満である。
△:誘電正接が0.0010以上0.0040以下である。
×:誘電正接が0.0040超である。
【0071】
4-2.積層体の評価
4-2-1.UV加工性(UVレーザー加工性)の評価
積層体に対して、レーザー加工機(esi5330)を使用して、直径100μmの円周上を周回するように、波長355nmのUV-YAGレーザーを照射した。これにより、積層体に円形の貫通孔を形成した。なお、レーザー出力を1.5W、レーザー焦点径を25μm、円周上の周回回数は16回、発振周波数は40kHzとした。
その後、貫通孔を含む積層体の断片を切り出し、熱硬化性エポキシ樹脂で固めた。次いで、貫通孔の断面が露出するまで研磨した。100個の貫通孔の周辺断面を顕微鏡で観察し、層界面における、削れ及び剥がれの発生の有無を確認し、以下の基準にて評価した。
[評価基準]
〇:全ての貫通孔で削れ及び剥がれの発生無し
△:1個以上5個以下の貫通孔で、削れ及び剥がれの発生有り
×:5個超の貫通孔で、削れ及び剥がれの発生有り
それぞれの評価結果を、まとめて表3に示す。
【0072】
【表3】