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特許7443993静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20240228BHJP
   G03G 9/09 20060101ALI20240228BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20240228BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G03G9/08 384
G03G9/09
G03G9/097 351
G03G9/087 325
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020145326
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040558
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 希
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-001576(JP,A)
【文献】特開2014-130198(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170278(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08
G03G 9/09
G03G 9/097
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも重合性単量体、着色剤及び帯電制御剤を含有する重合性単量体組成物を調製する工程、
当該重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒し、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を調製する工程、及び、
当該懸濁液を重合反応に供することにより着色樹脂粒子を形成する工程を有する、トナーの製造方法であって、
前記重合性単量体組成物を調製する工程において、少なくとも重合性単量体、着色剤としてカーボンブラック及び帯電制御剤として帯電制御樹脂を含有し、前記帯電制御樹脂が、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーであり、当該スチレンアクリル系ポリマーにおける4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位の共重合割合が0.1質量%以上3.0質量%以下である重合性単量体混合物に、いずれも櫛歯型リングである回転子と固定子とを同心上に配置した組み合わせを有する分散機を用い、当該回転子の外周端部の周速を15m/s以上60m/s以下の範囲内として分散処理を行う、静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法。
【請求項2】
前記重合性単量体組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、前記重合性単量体100質量部に対して、8質量部以上15質量部以下である、請求項1に記載の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法。
【請求項3】
前記重合性単量体組成物を調製する工程において、前記重合性単量体混合物を前記分散機内に導入した後、前記分散機内から排出させることを繰り返して循環させることにより分散処理を行う、請求項1又は2に記載の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法。
【請求項4】
前記カーボンブラックのジブチルフタレート吸収量が40mL/100g以上100mL/100g以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法。
【請求項5】
カーボンブラックを含有するブラックトナーを製造する、請求項1~のいずれか一項に記載の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法。
【請求項6】
前記重合性単量体組成物を調製する工程において、いずれも櫛歯型リングである回転子と固定子とを同心上に配置した組み合わせを有する分散機のみ用いて分散処理を行う、請求項1~5のいずれか一項に記載の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法。
【請求項7】
前記懸濁液を調製する工程において、いずれも櫛歯型リングである回転子と固定子とを同心上に配置した組み合わせを有する分散機を用いて前記重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒する、請求項1~のいずれか一項に記載の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真法、静電記録法、及び静電印刷法等において静電潜像を現像するために用いられる静電荷像現像用トナー(以下、単に「トナー」と称することがある。)の製造方法に関し、特に、静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置、静電記録装置、及び静電印刷装置等の画像形成装置においては、感光体上に形成される静電潜像を、静電荷像現像用トナーで現像することで所望の画像を形成する画像形成方法が広く実施され、複写機、プリンター、ファクシミリ、及びこれらの機能を搭載した複合機等に適用されている。
【0003】
近年、電子写真法を用いた、複合機、ファクシミリ、及びプリンター等の画像形成装置に対し、カラー化のニーズが高まってきている。カラー印刷では、写真のように高解像度且つ鮮明な色調の再現が求められる画像の印刷も行うことから、それに対応し得る画像特性が得られるカラートナーが求められている。また、このようなトナーに対しては、温度や湿度などの環境の変化による画質劣化防止の観点からの環境安定性や、印刷コストの低減の観点からの印字耐久性、消費電力低減の観点からの低温定着性等、様々な印字性能が要求されている。
上記要求に応えるためには、良好な転写性とドット再現性を両立できることから、小粒径で球形のトナーが適しており、その製造方法として、重合法が提案されている。従来の粉砕法では、特に小粒径のトナーを製造する場合、収率が低く、粉砕に多くのエネルギーを消費するのに対し、重合法では、収率が高く、粉砕工程が不要なことから消費エネルギーも低く、さらに、球形のトナーを容易に製造することができる。
【0004】
重合法によるトナー(以下、「重合トナー」という。)の製造方法としては、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等がある。懸濁重合法では、まず、重合性単量体、着色剤、及び必要に応じてその他の添加物を混合して重合性単量体組成物とし、それを、分散安定化剤を含有する水系分散媒体中に分散する。次に、高速攪拌機等を用いて、重合性単量体組成物が分散した水系分散媒体に高いシェアをかけることにより、重合性単量体組成物の液滴形成を行う。その後、液滴形成された重合性単量体組成物が分散した水系分散媒体を重合開始剤の存在下に重合し、濾過材による濾過、洗浄、乾燥を経て、着色樹脂粒子を得る。さらに、この着色樹脂粒子に無機微粒子等の外添剤を混合し、重合トナーとしている。
このように、重合法によって着色樹脂粒子を得る場合には、粒子を形成する段階(重合法では液滴形成及び重合を行う段階、一方、粉砕法では粉砕を行う段階)で、従来の粉砕法に比べ、小粒径で球形の着色樹脂粒子を形成でき、さらに粒径分布をよりシャープにできる大きな利点を有している。
しかしながら、近年、高解像度、高画質に対する要求水準がますます高くなっている。
【0005】
着色剤としてカーボンブラックを含有するトナーを重合法によって作製する場合には、重合性単量体及び着色剤を混合して重合性単量体組成物を調製する段階において、重合性単量体組成物中にカーボンブラックを微細かつ均一に分散させる必要がある。重合性単量体組成物を調製する段階でカーボンブラックを微細かつ均一に分散させないと、カーボンブラックが微細かつ均一に分散したトナーを得ることができない。

トナー全般の問題として着色剤を微細かつ均一に分散させる必要があるが、カーボンブラックを微細かつ均一に分散できない場合には、カーボンブラックは導電性材料であるため個々のトナー粒子間で帯電特性のばらつきが生じ、トナー全体を均一に摩擦帯電することができないという問題がある。また、カーボンブラックの含有量又は種類によっては、画像濃度が上がらない、あるいは、カブリや中抜けが発生しやすいなど、トナーの画像特性を目標水準に到達させることができない場合がある。
上記問題は、カーボンブラックを用いてブラックトナーを作製する場合に顕著に表れやすく、さらに、鮮明な黒色画像を得るためにカーボンブラックを増量してトナーを作製する場合には、特に顕著に表れる。
【0006】
しかし、カーボンブラックは分散性が悪いため、カーボンブラックを微細かつ均一に分散させた重合性単量体組成物を効率良く得ることが難しい。
メディア式分散機を使用し、重合性単量体とカーボンブラックの混合物中にせん断運動を促進するメディア粒子を共存させて分散処理を行うことにより、カーボンブラックを微細かつ均一に分散させた重合性単量体組成物が比較的効率良く得られる。
【0007】
特許文献1には、重合性単量体及び着色剤を含む重合性単量体混合物を、メディア粒子を用いない高せん断力の撹拌装置を使用して補助分散させた後、メディア式分散機を使用して分散を行うことにより、分散重合性単量体混合物を調製した後、当該分散重合性単量体混合物を含有する分散重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒する工程を含む、重合トナーの製造方法が記載されている。
【0008】
一方、特許文献2には、着色剤分散工程において、複数の突起を突起間にスリットが生じるようにして環状に配し、且つ突起により形成される環が同心円上に多段に形成された回転子と同様の形状の固定子とが一定の間隔を保ち、相互に噛み合うように同軸上に設置された分散機を用い、少なくとも着色剤、重合性単量体を含有する単量体組成物を、回転子の外周部の周速が30乃至60m/sの範囲内で回転する前記回転子と前記固定子の間隔を遠心方向に通過させることによって着色剤の分散処理を行うことを特徴とするトナーの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-235206号公報
【文献】特開2006-201543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、カーボンブラックを充分に分散させるためにメディア粒子を用いて強いせん断力をかけて長時間分散処理を行うと、メディア粒子の摩耗により重合性単量体組成物中にメディア粒子の破片が混入し、そのメディア粒子の破片がトナーに取り込まれて製造ロット間で帯電性のばらつきを生じさせる原因となる。そのため、画像濃度、カブリ、中抜け等の画像特性について目標水準を保証できない場合がある。
特許文献1の方法は、メディア式分散機を使用する分散処理の所要時間を短縮できるが、メディア式分散機の使用を完全に回避することはできない。また、重合性単量体混合物中に着色剤を分散させるために、メディア粒子を用いない撹拌装置とメディア式分散機という2つの装置を使用する必要があるので、分散処理の効率が悪く、設備費も高額になる。
特許文献2の方法は、メディア式分散機を使用する分散処理と比べると着色剤の分散性が充分に得られるとはいえない。特許文献2の実施例10は、着色剤としてカーボンブラックを含有する単量体組成物に上記のごとき分散処理を行った後、さらにメディア式分散機を使用して補助分散を行う場合には、メディア式分散機による補助分散を行わない場合と比べて、カーボンブラックを含有するトナーの画像濃度及びカブリの評価が向上することを示している。
【0011】
本開示の課題は、重合性単量体及び着色剤としてカーボンブラックを含有する重合性単量体組成物を調製する工程を含む重合法において、メディア粒子を用いない分散処理によってカーボンブラックを重合性単量体中に分散させることによって、優れた画像特性が得られるカーボンブラック含有トナーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示によれば、少なくとも重合性単量体、着色剤及び帯電制御剤を含有する重合性単量体組成物を調製する工程、
当該重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒し、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を調製する工程、及び、
当該懸濁液を重合反応に供することにより着色樹脂粒子を形成する工程を有する、トナーの製造方法であって、
前記重合性単量体組成物を調製する工程において、少なくとも重合性単量体、着色剤としてカーボンブラック及び帯電制御剤として帯電制御樹脂を含有する重合性単量体混合物に、いずれも櫛歯型リングである回転子と固定子とを同心上に配置した組み合わせを有する分散機を用い、当該回転子の外周端部の周速を15m/s以上60m/s以下の範囲内として分散処理を行う、静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法が提供される。
【0013】
本開示の一形態は、前記重合性単量体組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、前記重合性単量体100質量部に対して、8質量部以上15質量部以下である。
【0014】
本開示の一形態は、前記帯電制御樹脂が、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーであり、当該スチレンアクリル系ポリマーにおける4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位の共重合割合が0.1質量%以上3.0質量%以下である。
【0015】
本開示の一形態は、前記重合性単量体組成物を調製する工程において、前記重合性単量体混合物を前記分散機内に導入した後、前記分散機内から排出させることを繰り返して循環させることにより分散処理を行う。
【0016】
本開示の一形態は、前記カーボンブラックのジブチルフタレート吸収量が、40mL/100g以上100mL/100g以下である。
【0017】
本開示の一形態において、上記本開示の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法は、カーボンブラックを含有するブラックトナーを製造する方法である。
【0018】
本開示の一形態は、前記重合性単量体組成物を調製する工程において、いずれも櫛歯型リングである回転子と固定子とを同心上に配置した組み合わせを有する分散機のみ用いて分散処理を行う。
【0019】
本開示の一形態は、前記懸濁液を調製する工程において、いずれも櫛歯型リングである回転子と固定子とを同心上に配置した組み合わせを有する分散機を用いて前記重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒する。
【発明の効果】
【0020】
上記の如き本開示の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法によれば、メディア粒子を用いない分散処理により、カーボンブラックを重合性単量体中に分散させることができるため、優れた画像特性が得られるカーボンブラック含有トナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本開示の製造方法に用いられる分散機の一例を模式的に表す斜視図である。
図2】本開示の製造方法に用いられる分散機を備える装置の一例を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法は、少なくとも重合性単量体、着色剤及び帯電制御剤を含有する重合性単量体組成物を調製する工程、
当該重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒し、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を調製する工程、及び、
当該懸濁液を重合反応に供することにより着色樹脂粒子を形成する工程を有する、トナーの製造方法であって、
前記重合性単量体組成物を調製する工程において、少なくとも重合性単量体、着色剤としてカーボンブラック及び帯電制御剤として帯電制御樹脂を含有する重合性単量体混合物に、いずれも櫛歯型リングである回転子と固定子とを同心上に配置した組み合わせを有する分散機(本開示において、「櫛歯型同軸リング式分散機」と称する場合がある。)を用い、当該回転子の外周端部の周速を15m/s以上60m/s以下の範囲内として分散処理を行うことを特徴とする。
【0023】
本開示の製造方法では、重合性単量体組成物を調製する工程において、少なくとも重合性単量体、着色剤としてカーボンブラック及び帯電制御剤として帯電制御樹脂を含有する重合性単量体混合物に、櫛歯型同軸リング式分散機を用いて分散処理を行うことによってカーボンブラックを重合性単量体中に分散させた後、必要に応じて離型剤等の添加物を更に添加することにより、重合性単量体組成物を調製する。
櫛歯型同軸リング式分散機はメディア粒子を用いないため、櫛歯型同軸リング式分散機を用いて重合性単量体混合物の分散処理をする場合には、メディア粒子の破片の混入を避けることができる。しかし、櫛歯型同軸リング式分散機を使用する分散処理は、メディア式分散機を使用する分散処理と比べると、特に着色剤としてカーボンブラックを用いた場合に、カーボンブラックを充分に分散させることが難しい。また、櫛歯型同軸リング式分散機を用いてカーボンブラックを充分に分散させるために回転子の周速を上げすぎると、圧力損失が大きくなったり、重合性単量体混合物中におけるカーボンブラックの分離が生じたりするため、かえってカーボンブラックが充分に分散されないという弊害が生じてしまう。
この問題に対し、本開示においては、カーボンブラックを、重合性単量体混合物中で帯電制御樹脂の存在下、特定の条件において櫛歯型同軸リング式分散機を用いて分散させることにより、カーボンブラックを充分に分散させることができる。
カーボンブラックを帯電制御樹脂の存在下で分散処理することにより充分に分散性が向上する理由は解明できていないが、カーボンブラックが微細な粒子の状態で帯電制御樹脂に吸着しやすく、帯電制御樹脂に吸着したカーボンブラックは、重合性単量体との親和性が良好となり、重合性単量体中に分散しやすいため、カーボンブラックの均一な分散が維持され、また、帯電制御樹脂の均一な分散も維持される結果、得られるトナーの帯電均一性が向上し、印字耐久性及び画像濃度等の印字特性が向上すると考えられる。
【0024】
以下、本開示の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法、及び本開示の製造方法により得られる静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーについて説明する。本開示の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法は、着色樹脂粒子を得た後、得られた着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させる工程を更に有することが好ましい。
なお、本開示において、数値範囲における「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
また、本開示において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの各々を表し、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの各々を表す。
【0025】
1.着色樹脂粒子の製造方法
本開示の静電荷像現像用カーボンブラック含有トナーの製造方法においては、(1)少なくとも重合性単量体、着色剤及び帯電制御剤を含有する重合性単量体組成物を調製する工程、(2)当該重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒し、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を調製する工程、及び、(3)当該懸濁液を重合反応に供することにより着色樹脂粒子を形成する工程を有する方法により、着色樹脂粒子を得る。本開示の製造方法において、着色樹脂粒子を得るまでの工程には、本開示の製造方法による効果を損なわない範囲で、上記(1)~(3)の工程とは異なるその他の工程を更に含まれていてもよい。
【0026】
(1)重合性単量体組成物を調製する工程
本開示の製造方法において、重合性単量体組成物を調製する工程は、少なくとも重合性単量体、着色剤としてカーボンブラック及び帯電制御剤として帯電制御樹脂を含有する重合性単量体混合物に、櫛歯型同軸リング式分散機を用いて分散処理を行い、その後、必要に応じて更にその他の添加剤を添加することにより、重合性単量体組成物を調製する工程である。
以下、本工程により調製される重合性単量体組成物が含有する各成分、及び本工程で行われる分散処理について説明する。
【0027】
(重合性単量体)
本開示において重合性単量体とは、重合可能な官能基を有するモノマーのことをいう。後述する懸濁液の重合反応により重合性単量体が重合して、トナー中の結着樹脂となる。
重合性単量体組成物に含まれる重合性単量体は、主成分として、モノビニル単量体を含むことが好ましい。
モノビニル単量体としては、例えば、スチレン;ビニルトルエン、及びα-メチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸、及びメタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等のニトリル化合物;アクリルアミド、及びメタクリルアミド等のアミド化合物;エチレン、プロピレン、及びブチレン等のオレフィン;が挙げられる。これらのモノビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、モノビニル単量体として、スチレン、スチレン誘導体、及びアクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステルが、好適に用いられる。
【0028】
重合性単量体組成物に含まれるモノビニル単量体の含有量は、特に限定はされないが、カーボンブラックの分散性を向上する点から、重合性単量体100質量部中、モノビニル単量体の含有量が、好ましくは90質量部以上であり、より好ましくは95質量部以上である。
【0029】
また、重合性単量体組成物は、重合性単量体として、更に架橋性の重合性単量体(架橋性モノマー)を含有していてもよい。架橋性の重合性単量体とは、2つ以上の重合可能な官能基を持つモノマーのことをいう。モノビニル単量体とともに、任意の架橋性の重合性単量体を用いることにより、トナーの耐ホットオフセット性及び保存性を向上することができる。
架橋性の重合性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、及びこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジメタクリレート等の2個以上の水酸基を持つアルコールに炭素-炭素二重結合を有するカルボン酸が2つ以上エステル結合したエステル化合物;N,N-ジビニルアニリン、及びジビニルエーテル等の、その他のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;等を挙げることができる。これらの架橋性の重合性単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
重合性単量体組成物が架橋性の重合性単量体を含む場合、架橋性の重合性単量体の含有量は、モノビニル単量体100質量部に対して、通常0.1~5質量部であり、好ましくは0.3~2質量部である。
【0030】
重合性単量体組成物は、重合性単量体として、更にマクロモノマーを含有していてもよい。重合性単量体の一部としてマクロモノマーを用いると、得られるトナーの保存性と低温定着性とのバランスが良好になる。マクロモノマーは、分子鎖の末端に重合可能な炭素-炭素不飽和二重結合を有するもので、数平均分子量が通常1,000~30,000の反応性のオリゴマー又はポリマーである。マクロモノマーは、モノビニル単量体を重合して得られる重合体のガラス転移温度(以下、「Tg」と称することがある。)よりも高いTgを有する重合体を与えるものが好ましい。
重合性単量体組成物がマクロモノマーを含む場合、マクロモノマーの含有量は、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.03~5質量部、より好ましくは0.05~1質量部である。
【0031】
(着色剤)
本開示の製造方法は、着色剤としてカーボンブラックを含有するトナーの製造方法であり、典型的にはブラックトナーを製造する方法である。
カーボンブラックとしては、公知のものを用いることができ、特に限定はされず、例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等の各種カーボンブラックを用いることができる。
また、特に限定はされないが、カーボンブラックとしては、一次粒径が20nm以上40nm以下のものが好適に用いられる。
本開示においては、これらのカーボンブラックをそれぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0032】
本開示に用いられるカーボンブラックは、ジブチルフタレート(DBP)吸収量が40~100mL/100gであることが好ましく、より好ましくは50~90mL/100g、更に好ましくは60~80mL/100g以上である。カーボンブラックのDBP吸収量が上記下限値以上であることにより、カーボンブラックの分散性が向上し、上記上限値以下であることにより、トナーの着色力が向上する。
なお、カーボンブラックのDBP吸収量は、ISO4656(JIS K6217-4:2008)の「オイル吸収量の求め方」に準拠して測定される。
【0033】
重合性単量体組成物において、カーボンブラックの含有量は、特に限定はされないが、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは8.0質量部以上15.0質量部以下、より好ましくは9.0質量部以上13.0質量部以下、更に好ましくは10.0質量部以上12.5質量部以下である。カーボンブラックの含有量が上記下限値以上であることにより、トナーの着色力を向上し、高画像濃度の画像を形成することができ、一方、カーボンブラックの含有量が上記上限値以下であることにより、カーボンブラックの分散性の低下を抑制して、着色樹脂粒子の帯電均一性の低下を抑制することができ、カブリの発生が抑制された画像を形成することができる。
なお、本開示において、重合性単量体100質量部に対するカーボンブラックの含有量を算出する際に、重合性単量体組成物に含まれる各重合性単量体の含有量及び算出されるカーボンブラックの含有量は、それぞれJIS Z8401:1999の規則Bに従って小数点以下第1位に丸めた値とする。
鮮明な黒色画像を得るためには、カーボンブラックの含有量を上記範囲内程度に多くする必要があるが、従来のトナーの製造方法では、カーボンブラックの含有量を上記範囲内とすると、カーボンブラックの分散が不均一になり、画像特性が悪化する場合があった。これに対し、本開示の製造方法によれば、カーボンブラックの分散性を向上することができるため、カーボンブラックの含有量を上記範囲内としても画像特性の悪化を抑制することができ、画像特性に優れた鮮明な黒色画像を得ることができる。
【0034】
本開示において、重合性単量体組成物は、本開示の製造方法による効果を損なわない範囲において、着色剤として、カーボンブラックとは異なるその他の着色剤を更に含有していても良い。その他の着色剤としては、特に限定はされず、トナーに使用される公知の着色剤を用いることができる。
重合性単量体組成物がカーボンブラックとは異なるその他の着色剤を含有する場合、重合性単量体組成物において、着色剤100質量部中のカーボンブラックの含有量は、好ましくは80質量部以上、より好ましくは90質量部以上、更に好ましくは95質量部以上である。着色剤がカーボンブラックのみからなるものであってもよい。
また、重合性単量体組成物がカーボンブラックとは異なるその他の着色剤を含有する場合、カーボンブラックとは異なるその他の着色剤の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
(帯電制御剤)
重合性単量体組成物は、帯電制御剤として帯電制御樹脂を含有する。帯電制御樹脂としては、正帯電制御樹脂及び負帯電制御樹脂のいずれも好ましく用いられる。
【0036】
正帯電制御樹脂としては、例えば、特開昭63-60458号公報、特開平3-175456号公報、特開平3-243954号公報、特開平11-15192号公報、国際公開第2017/170278号などの記載に準じて製造される4級アンモニウム(塩)基含有共重合体を好ましく用いることができ、中でも、国際公開第2017/170278号等に記載されている4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーが好ましい。
また、本開示の製造方法に使用できる正帯電制御樹脂としては、正帯電制御樹脂として用いられている公知のポリアミン樹脂を挙げることもできる。
【0037】
上記好ましい4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーは、少なくともビニル芳香族炭化水素単量体単位と、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位とを含み、更に、4級アンモニウム塩基を含有しない(メタ)アクリレート単量体単位を含むものであってもよい。
4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体としては、例えば、N,N,N-トリメチル-N-(2-メタクリルオキシエチル)アンモニウムクロライド(DMC:メタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド)、N-ベンジル-N,N-ジメチル-N-(2-メタクリルオキシエチル)アンモニウムクロライド(DML:メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド)等が挙げられる。これらの単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
本開示に用いられる4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーは、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位の共重合割合が0.1~3.0質量%であることが好ましい。4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位の共重合割合は、より好ましくは0.3~2.5質量%であり、さらに好ましくは0.5~2.0質量%である。
【0038】
ビニル芳香族炭化水素単量体は、芳香族炭化水素にビニル基が結合した構造を有する化合物(単量体)であり、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2-プロピルスチレン、3-プロピルスチレン、4-プロピルスチレン、2-イソプロピルスチレン、3-イソプロピルスチレン、4-イソプロピルスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、2-メチル-α-メチルスチレン、3-メチル-α-メチルスチレン、4-メチル-α-メチルスチレン、2-エチル-α-メチルスチレン、3-エチル-α-メチルスチレン、4-エチル-α-メチルスチレン、2-プロピル-α-メチルスチレン、3-プロピル-α-メチルスチレン、4-プロピル-α-メチルスチレン、2-イソプロピル-α-メチルスチレン、3-イソプロピル-α-メチルスチレン、4-イソプロピル-α-メチルスチレン、2-クロロ-α-メチルスチレン、3-クロロ-α-メチルスチレン、4-クロロ-α-メチルスチレン、2,3-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,3-ジエチルスチレン、3,4-ジエチルスチレン、2,4-ジエチルスチレン、2,6-ジエチルスチレン、2-メチル-3-エチルスチレン、2-メチル-4-エチルスチレン、2-クロロ-4-メチルスチレン、2,3-ジメチル-α-メチルスチレン、3,4-ジメチル-α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,6-ジメチル-α-メチルスチレン、2,3-ジエチル-α-メチルスチレン、3,4-ジエチル-α-メチルスチレン、2,4-ジエチル-α-メチルスチレン、2,6-ジエチル-α-メチルスチレン、2-エチル-3-メチル-α-メチルスチレン、2-メチル-4-プロピル-α-メチルスチレン、2-クロロ-4-エチル-α-メチルスチレン等が挙げられる。
4級アンモニウム塩基を有しない(メタ)アクリレート単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ラウリル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル類;等が挙げられる。
【0039】
4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーは、例えば、国際公開第2017/170278号の記載に準じて製造することができる。すなわち、(a)ビニル芳香族炭化水素単量体、及び4級アンモニウム塩基を含有しない(メタ)アクリレート単量体等のビニル系単量体と4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体とを共重合することによって得る方法、(b)上記(a)で得られた共重合体をパラトルエンスルホン酸やメタンスルホン酸等と反応させることによって得る方法、及び(c)上記ビニル系単量体とジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート単量体とを共重合して得られた共重合体におけるジアルキルアミノアルキル基の窒素原子を4級化剤で4級化することによって得る方法によって製造することができる。
【0040】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
4級化剤としては、例えば、メチルクロライド、メチルブロマイド、エチルクロライド、エチルブロマイド、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド等のハロゲン化有機化合物;メチルスルホン酸アルキルエステル、エチルスルホン酸アルキルエステル、プロピルスルホン酸アルキルエステル、ベンゼンスルホン酸アルキルエステル、パラトルエンスルホン酸アルキルエステル等のスルホン酸アルキルエステル;等が挙げられる。
【0041】
4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーとしては、市販品を用いてもよい。当該スチレンアクリル系ポリマーの市販品としては、例えば、4級アンモニウム塩基含有アクリレート単量体の共重合割合が1.0質量%であるFCA-676P(:商品名、藤倉化成社製、Tg:73℃、重量平均分子量(Mw):19,500)、4級アンモニウム塩基含有アクリレート単量体の共重合割合が2.0質量%であるFCA-592P(:商品名、藤倉化成社製、Tg:82℃、重量平均分子量(Mw):12,000)、4級アンモニウム塩基含有アクリレート単量体の共重合割合が0.5質量%であるFCA-700P(:商品名、藤倉化成社製)等が挙げられる。
【0042】
本開示において、帯電制御剤として正帯電性の帯電制御剤を用いる場合は、帯電制御樹脂とは異なる正帯電性の帯電制御剤を更に含有していてもよい。帯電制御樹脂とは異なる正帯電性の帯電制御剤としては、例えば、ニグロシン染料(アジン系化合物)、4級アンモニウム塩、トリアミノトリフェニルメタン化合物、イミダゾール化合物等を挙げることができる。これらの正帯電性の帯電制御剤は、市販品を用いてもよい。ニグロシン染料の市販品としては、例えば、オリエント化学工業社製の製品名BONTRON(登録商標)Nシリーズ、オリエント化学工業社製の製品名NIGROSINE BASEシリーズ、NUBIAN(登録商標)BLACKシリーズ等を挙げることができる。4級アンモニウム塩の市販品としては、例えば、オリエント化学工業社製の製品名BONTRON(登録商標)Pシリーズ、クラリアント社製の製品名COPY CHARGE NX VP434、COPY CHARGE NEG VP2036等を挙げることができる。トリアミノトリフェニルメタン化合物の市販品としては、例えば、クラリアント社製の製品名COPY BLUE PR等を挙げることができる。
【0043】
本開示において、帯電制御剤として正帯電性の帯電制御剤を用いる場合は、重合性単量体組成物に含まれる帯電制御剤100質量部中、正帯電制御樹脂の含有量、特に好ましくは上述した4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーの含有量が、80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、95質量部以上であることが更に好ましく、正帯電性の帯電制御剤が上記好ましいスチレンアクリル系ポリマーのみからなるものであってもよい。
【0044】
また、本開示において、帯電制御剤として正帯電性の帯電制御剤を用いる場合、重合性単量体組成物中の帯電制御剤の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、0.1~15.0質量部であることが好ましく、1.0~14.0質量部であることがより好ましく、2.0~13.0質量部であることがさらに好ましい。
また、本開示において、帯電制御剤として正帯電性の帯電制御剤を用いる場合、重合性単量体組成物中の4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーの含有量は、重合性単量体100質量部に対して、0.1~15.0質量部であることが好ましく、1.0~14.0質量部であることがより好ましく、2.0~13.0質量部であることがさらに好ましい。
【0045】
本開示において、帯電制御剤として、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位を含むスチレンアクリル系ポリマーを用いる場合は、重合性単量体100質量部に対する当該スチレンアクリル系ポリマーの含有量(質量部)と、当該スチレンアクリル系ポリマーにおける4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート単量体単位の共重合割合(質量%)との積が、好ましくは1.5~7.5であり、より好ましくは4.0~7.0であり、さらに好ましくは5.0~6.5である。
【0046】
負帯電制御樹脂としては、例えば、特開平1-217464号公報、特開平3-15858号公報、国際公開第2015/80272号などの記載に準じて製造されるスルホン酸(塩)基含有共重合体を好ましく用いることができ、中でも、国際公開第2015/80272号等に記載されているビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリレート単量体単位と、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位とを含むスルホン酸基含有ポリマーが好ましい。なお、当該スルホン酸基含有ポリマーにおいて、スルホン酸基には、その塩(スルホン酸塩基)も含まれる。
【0047】
上記好ましいスルホン酸基含有ポリマーに用いられるスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-n-ブタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-フェニルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2,2,4-トリメチルペンタンスルホン酸等が挙げられる。これらの単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
本開示に用いられるビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリレート単量体単位と、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位とを含むスルホン酸基含有ポリマーは、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位の共重合割合が0.8~4.0質量%であることが好ましく、1.0~3.5質量%であることがより好ましく、1.5~3.0質量%であることがさらに好ましい。スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位の共重合割合が上記下限値以上であることにより、充分な負帯電性の付与効果が得られ、上記上限値以下であることにより、分散安定性の低下を抑制し、着色樹脂粒子の粒径の均一性を向上することができる。また、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位の共重合割合が上記範囲内であることにより、画質の環境安定性の悪化を抑制することができる。
【0048】
上記好ましいスルホン酸基含有ポリマーに用いられるビニル芳香族炭化水素単量体としては、上述したスチレンアクリル系ポリマーに用いられるビニル芳香族炭化水素単量体と同様のものを挙げることができる。
上記好ましいスルホン酸基含有ポリマーに用いられる(メタ)アクリレート単量体としては、上述したスチレンアクリル系ポリマーに用いられる4級アンモニウム塩基を有しない(メタ)アクリレート単量体と同様のものを挙げることができる。
本開示に用いられるビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリレート単量体単位と、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位とを含むスルホン酸基含有ポリマーにおいて、ビニル芳香族炭化水素単量体と(メタ)アクリレート単量体との共重合割合(質量基準)は、特に限定はされないが、耐熱保存性、低温定着性及び分散性の観点から、通常、99:1~50:50であり、好ましくは95:5~70:30である。
上記好ましいスルホン酸基含有ポリマーは、例えば、国際公開第2015/80272号の記載に準じて製造することができる。
【0049】
本開示において、帯電制御剤として負帯電性の帯電制御剤を用いる場合は、帯電制御樹脂とは異なる負帯電性の帯電制御剤を更に含有していてもよい。帯電制御樹脂とは異なる負帯電性の帯電制御剤としては、例えば、Cr、Co、Al、Feなどの金属を含有するアゾ染料、サリチル酸金属化合物及びアルキルサルチル酸金属化合物等を挙げることができる。これらの負帯電性の帯電制御剤は、市販品を用いてもよい。アゾ染料の市販品としては、例えば、オリエント化学工業社製の製品名BONTRON(登録商標)Sシリーズ、保土谷化学工業社製の製品名アイゼンスピロンブラックTRH等を挙げることができ、サリチル酸金属化合物又はアルキルサルチル酸金属化合物の市販品としては、例えば、オリエント化学工業社製の製品名BONTRON(登録商標)Eシリーズ等を挙げることができる。
【0050】
本開示において、帯電制御剤として負帯電性の帯電制御剤を用いる場合は、重合性単量体組成物に含まれる帯電制御剤100質量部中、負帯電制御樹脂の含有量、特に好ましくは上述したビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリレート単量体単位と、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位とを含むスルホン酸基含有ポリマーの含有量が、80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、95質量部以上であることが更に好ましく、負帯電性の帯電制御剤が上記好ましいスルホン酸基含有ポリマーのみからなるものであってもよい。
【0051】
また、本開示において、帯電制御剤として負帯電性の帯電制御剤を用いる場合、重合性単量体組成物中の帯電制御剤の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、0.1~8.0質量部であることが好ましく、0.2~7.0質量部であることがより好ましく、0.3~6.5質量部であることがさらに好ましい。
また、本開示において、帯電制御剤として負帯電性の帯電制御剤を用いる場合、重合性単量体組成物中のビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリレート単量体単位と、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位とを含むスルホン酸基含有ポリマーの含有量は、重合性単量体100質量部に対して、0.1~8.0質量部であることが好ましく、0.2~7.0質量部であることがより好ましく、0.3~6.5質量部であることがさらに好ましい。
【0052】
本開示において、帯電制御剤として、ビニル芳香族炭化水素単量体単位と(メタ)アクリレート単量体単位と、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位とを含むスルホン酸基含有ポリマーを用いる場合は、重合性単量体100質量部に対する当該スルホン酸基含有ポリマーの含有量(質量部)と、当該スルホン酸基含有ポリマーにおけるスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位の共重合割合(質量%)との積が、好ましくは0.4~32.0であり、より好ましくは0.7~24.5であり、さらに好ましくは0.9~19.5である。
【0053】
本開示の製造方法に用いられる帯電制御樹脂としては、重量平均分子量(Mw)が2,000~50,000のものが好ましく、4,000~40,000のものが更に好ましく、6,000~35,000のものが最も好ましい。帯電制御樹脂の重量平均分子量が2,000未満であると、オフセットが発生する場合があり、50,000を超えると定着性が悪くなる場合がある。なお、本開示において、重合体の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフラン(THF)に溶解した試料を用いて、GPCによるポリスチレン換算で求めることができる。
また、本開示の製造方法に用いられる帯電制御樹脂のガラス転移温度は、好ましくは40~80℃であり、より好ましくは45~75℃であり、更に好ましくは45~70℃である。ガラス転移温度が40℃未満であるとトナーの保存性が悪くなる場合があり、80℃を超えると定着性が低下する場合がある。
【0054】
重合性単量体組成物は、定着時におけるトナーの定着ロールからの離型性を改善する観点から、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、一般にトナー用の離型剤として用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、及び低分子量ポリブチレン等のポリオレフィンワックス;キャンデリラ、カルナウバ、ライス、木ロウ、及びホホバ等の天然ワックス;パラフィン、マイクロクリスタリン、及びペトロラタム等の石油ワックス;モンタン、セレシン、及びオゾケライト等の鉱物ワックス;フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックス;ペンタエリスリトールテトラミリステート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、及びペンタエリスリトールテトララウレート等のペンタエリスリトールエステル、並びに、ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテート、及びジペンタエリスリトールヘキサラウレート等のジペンタエリスリトールエステル等の多価アルコールエステル化合物;等が挙げられる。これらの離型剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
離型剤の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部である。
【0055】
重合性単量体組成物は、分子量調整剤を含有することが好ましい。分子量調整剤としては、一般にトナー用の分子量調整剤として用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、及び2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-4-チオール等のメルカプタン類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラムジスルフィド、N,N’-ジオクタデシル-N,N’-ジイソプロピルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;等が挙げられる。これらの分子量調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合性単量体組成物が分子量調整剤を含む場合、分子量調整剤の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、通常0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~5質量部である。
【0056】
(分散処理)
本開示の製造方法は、重合性単量体組成物を調製する工程において、少なくとも重合性単量体、着色剤としてカーボンブラック及び帯電制御剤として帯電制御樹脂を含有する重合性単量体混合物に、いずれも櫛歯型リングである回転子と固定子とを同心上に配置した組み合わせを有する分散機(櫛歯型同軸リング式分散機)を用いて分散処理を行う。
なお、重合性単量体組成物を調製する工程においては、当該分散処理の前に行う予備分散処理、及び当該分散処理の後に行う補助分散処理等の、当該分散処理とは別に行う混合、攪拌又は分散処理を行う工程を含むものであってもよい。
【0057】
以下、本工程で用いられる分散機の説明においては、分散処理を行う混合液を「分散液」と称する。
図1は、本開示の製造方法に用いられる分散機の一例を模式的に示す斜視図である。図1には、本工程で用いられる分散機の特徴がわかりやすいように、回転子4、固定子5、及び駆動軸6の各々を備えるパーツを分離させた状態を示す。図1に示す分散機は、いずれも櫛歯型リングである回転子4と固定子5とを同心上に配置した組み合わせを有し、駆動軸6の駆動により回転子4を高速で回転させて、回転子4の内側から固定子5の外側に分散液を流通させ、回転子4と固定子5との間隙で分散液を撹拌する。図1に示す分散機は、回転子4と固定子5との組み合わせが、駆動軸6の軸方向に沿って1段階で配置されており、且つ駆動軸6の中心側から外側に向かって同心上に3段階で配置されている。
図2は、本開示の製造方法に用いられる分散機を備える装置の一例を模式的に示す断面図である。図2に示す装置は、分散液を貯めるタンク1と、分散機2とを有する。図2に示す分散機2は、ケーシング内に、いずれも櫛歯型リングである回転子4と固定子5とを同心上に配置した組み合わせを有し、駆動軸6の駆動により回転子4を高速で回転させて、回転子4の内側から固定子5の外側に分散液を流通させ、回転子4と固定子5との間隙で分散液を撹拌する。図2に示す分散機2は、回転子4と固定子5との組み合わせが、駆動軸6の軸方向に沿って3段階で配置されており、且つ駆動軸6の中心側から外側に向かって同心上に2段階又は3段階で配置されている。
本開示の製造方法に用いられる分散機が備える回転子及び固定子は、例えば、環状に配置された複数の突起と、当該突起間に生じるスリット部とを有する。当該スリット部の幅は、特に限定はされないが、例えば、0.05~6mmの範囲内とすることができる。スリット部の幅を上記範囲内とすることにより、圧力損失を抑制し、充分なエネルギーにより攪拌を行うことができる。
なお、回転子と固定子との組み合わせとは、一定の間隔で相互に噛み合うように配置された回転子と固定子との組み合わせをいう。また、回転子と固定子との組み合わせが、駆動軸の中心側から外側に向かって同心上に多段階で配置されているとは、回転子及び固定子における複数の突起と当該突起間のスリット部とにより形成される環が、同心上に多段階で配置されていることをいう。駆動軸の軸方向に沿って多段階で配置されている回転子と固定子との各組み合わせにおいて、駆動軸の中心側から外側に向かって、回転子及び固定子の環が同心上に多段階で配置されていてもよい。
回転子と固定子との組み合わせが、駆動軸の中心側から外側に向かって同心上に多段階で配置されている場合は、駆動軸の中心側から外側に向けてスリット部の幅が狭くなっていくように、回転子及び固定子が配置されていることが好ましい。
本開示の製造方法に用いられる分散機において、回転子と固定子との組み合わせは、図1及び2に示すように、分散液の進行方向に2段階以上の多段階で配置されたものであってもよいし、1段階で配置されたものであってもよい。得られる着色樹脂粒子の粒径分布を狭くする点からは、分散液の進行方向に回転子と固定子との組み合わせが多段階で配置されていることが好ましい。中でも、回転子と固定子との組み合わせが、駆動軸の中心側から外側に向かって同心上に2段階又は3段階で配置されていることが好ましい。
上記分散機において、回転子及び固定子が有する歯数は、製造するトナーの粒径に応じて適宜選択され、特に限定はされないが、回転子と固定子との組み合わせが、駆動軸の軸方向に沿って多段階で配置されている場合は、分散液の流入口側に最も近い回転子及び固定子の歯数が、他の回転子及び固定子の歯数より少ないように配置されていることが好ましい。例えば、分散機内における回転子と固定子との組み合わせの配置が、分散液の流入口側から排出口側に向けて、粗歯、中歯、細歯の順の3段階、粗歯、中歯、中歯の順の3段階、粗歯、細歯、細歯の順の3段階、粗歯、中歯の順の2段階、及び粗歯、細歯の順の2段階から選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0058】
本開示の製造方法では、重合性単量体混合物に分散処理を行う際に、上記分散機の回転子の外周端部の周速を15~60m/sとし、好ましくは20~50m/s、より好ましくは25~40m/sとする。なお、本開示においては、回転子の外周端部の周速を、単に「回転子の周速」という場合がある。上記分散機の回転子の周速が上記下限値以上であることにより、カーボンブラックが分散しやすい充分なエネルギーで分散処理が行われ、また、カーボンブラックの凝集が生じる前に、カーボンブラックを均一に分散させることができる。一方、上記分散機の回転子の周速が上記上限値以下であることにより、回転子の周速が速すぎることによる圧力損失、及び重合性単量体混合物中におけるカーボンブラックの分離が抑制されるため、カーボンブラックが均一に分散されやすい。また、上記分散機の回転子の周速を上記上限値以下とすることにより、温度上昇による重合反応の一部進行を抑制することができるため、トナーの定着性の悪化を防ぐこともできる。
【0059】
また、重合性単量体組成物を調製する工程においては、重合性単量体混合物を上記分散機内に導入した後、上記分散機内から排出させることを繰り返して循環させることにより分散処理を行うことが好ましい。例えば、図2に示すような、分散液を貯めるタンクに上記分散機が接続された装置を用いることにより、重合性単量体混合物を、タンクから分散機内に導入し、分散機内で撹拌した後、タンクへ排出させることを繰り返して循環させることができる。図2に示す装置では、タンク1に注入された分散液は、タンク1から分散機2へ供給され、分散機2により撹拌された後、タンク1へ排出されることを繰り返して装置内を循環する。図2に示す装置において、タンク1中の分散液は、インナーノズル(図示せず)を介し、分散液流入路7を経て、分散機2に供給される。分散機2は、ケーシング内に、駆動軸6の軸方向に沿って3段階で配置された回転子4と固定子5との組み合わせを3段階で有する。ケーシングの内壁には冷却ジャケット3を備える。分散機2では、駆動軸6の駆動により回転子4を高速で回転させて、回転子4の内側から固定子5の外側に分散液を流通させ、回転子4と固定子5との間隙で分散液を撹拌し、回転子4の最外周の櫛歯と、固定子5の最外周の櫛歯の間隙を通過させて、下流側に流通させる。分散機2で撹拌された分散液は、分散液循環路8を経てタンク1に戻される。所望の循環回数となるまで装置内を循環した分散液は、分散液排出路9を通して排出され、次の工程に用いられる。
分散液の送液方法は、特に限定されず、例えば、送液ポンプを用いる方法等が挙げられる。また、分散機から排出させる分散液の流量を調整することにより、分散機の内圧を調整することができる。分散機の内圧は、好ましくは0.01~15MPa、より好ましくは0.05~10MPa、更に好ましくは0.1~5MPaである。分散機の内圧を前記範囲内にすることにより、キャビテーションによる泡の発生を抑制しつつ、カーボンブラックを効率良く分散させることができる。
【0060】
なお、図1、2に示す分散機は、駆動軸が水平方向に沿って伸びる横型のものであるが、本開示の製造方法に用いる分散機としてはこれに限定されず、駆動軸が重力方向に沿って伸びる縦型のものであってもよい。
本開示の製造方法においては、櫛歯型同軸リング式分散機として市販のものを用いることができる。櫛歯型同軸リング式分散機を備える市販の装置としては、例えば、大平洋機工(株)製のマイルダー(:商品名)、(株)ユーロテック製のキャビトロン(:商品名)等の横型多段階インライン分散機、IKA製のインライン分散機(例えばDISPAX-REACTOR(登録商標) DRS(:商品名)等)等の縦型多段階インライン分散機等を挙げることができる。これらの市販の装置はいずれも分散液を貯めるタンクを有するため、重合性単量体混合物を循環させて分散処理を行うことができる。
【0061】
本開示の製造方法では、重合性単量体組成物を調製する工程において、重合性単量体混合物を上記分散機内に導入した後、上記分散機内から排出させることを繰り返して循環させて、下記式(I)により算出される循環回数を、好ましくは8~30回、より好ましくは8~26回、さらに好ましくは9~20回として、分散処理を行うことが好ましい。
式(I)
循環回数={分散液の流量(リットル/分)×処理時間(分)}/分散液の仕込み量(リットル)
ここで、循環回数は、分散機内を分散液が循環する回数を意味する。つまり、分散機における分散液の流量(リットル/分)に、分散機による処理時間(分)を乗ずると、分散機で処理した延べ処理量が得られる。この延べの処理量を分散液の仕込み量(リットル)で割れば、分散液の循環回数を算出することができる。
上記循環回数を上記範囲内とすることにより、カーボンブラックの分散性を向上し、トナーの帯電均一性を向上して、画像を高濃度化し、カブリを抑制することができる。
【0062】
本開示の製造方法では、重合性単量体組成物を調製する工程において、更に、分散機の回転子の周速(m/s)と上記式(I)により算出される循環回数との積(回転子周速(m/s)×循環回数)を、好ましくは300~600、より好ましくは320~570、さらに好ましくは330~550、よりさらに好ましくは340~550として、分散処理を行うことが好ましい。
分散機の回転子の周速(m/s)と上記式(I)により算出される循環回数との積を上記範囲内とすることにより、カーボンブラックの分散性を向上し、トナーの帯電均一性を向上して、画像を高濃度化し、カブリを抑制することができる。
また、本開示の製造方法においては、分散機の回転子の周速が25~40m/sであり、且つ分散機の回転子の周速(m/s)と上記循環回数との積が340~550であることが特に好ましい。
【0063】
本開示の製造方法においては、重合性単量体組成物を調製する工程で行われる櫛歯型同軸リング式分散機を用いた分散処理が、当該分散機のみ用いて行う分散処理であることが、カーボンブラックの分散性を向上し、トナーの帯電均一性を向上して、画像を高濃度化し、カブリが抑制する点から好ましい。
また、本開示の製造方法において、櫛歯型同軸リング式分散機を用いた分散処理とは別に、予備分散処理又は補助分散処理等の混合、攪拌又は分散処理が行われる場合、当該混合、攪拌又は分散処理は、櫛歯型同軸リング式分散機を用いずに行うものであってもよいが、櫛歯型同軸リング式分散機を用いて行うことが好ましい。また、本工程においては、メディア式分散機を用いないことが好ましい。本工程において、メディア粒子を用いて分散処理又は攪拌処理を行うと、メディア粒子の摩耗により、トナー粒子中にメディアの破片が混入し、帯電特性が著しく低下してしまう場合があり、製造ロット間で帯電特性にばらつきが生じ、画像濃度が不充分になる場合や、カブリが発生する場合がある。
【0064】
上記分散処理が行われる重合性単量体混合物は、本工程により得られる重合性単量体組成物が含有する成分のうち、少なくとも重合性単量体、カーボンブラック及び帯電制御樹脂を含有すればよい。
上記分散処理はカーボンブラックを重合性単量体中に分散させるための処理であるため、中でも、トナーに含有させるカーボンブラックの全量が、上記分散処理が行われる重合性単量体混合物中に含有されていることが好ましい。これにより、トナー中のカーボンブラックの分散安定性が向上し、トナーの帯電均一性が向上するため、画像特性を向上することができる。
また、上記分散処理が行われる重合性単量体混合物中、重合性単量体、カーボンブラック及び帯電制御樹脂とは異なる成分の含有量は、カーボンブラックの分散性の低下を抑制する点から、重合性単量体100質量部に対し、1質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。
【0065】
(2)懸濁液を調製する工程
懸濁液を調製する工程は、上述した工程により得られた重合性単量体組成物を、水系分散媒体中で造粒し、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を調製する工程である。
【0066】
本工程に用いられる水系分散媒体は、少なくとも水系媒体を含む。本開示において、水系媒体は、水を主成分とする媒体のことを言う。
水系分散媒体は、分散安定化剤を含有することが好ましい。分散安定化剤としては、例えば、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等の硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等の炭酸塩;リン酸カルシウム等のリン酸塩;酸化アルミニウム、及び酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化第二鉄等の金属水酸化物;等の無機化合物や、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、及びゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤;ノニオン性界面活性剤;両性界面活性剤;等の有機化合物が挙げられる。これらの分散安定化剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記分散安定化剤の中でも、無機化合物、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましい。無機化合物、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドを用いることにより、着色樹脂粒子の粒径分布を狭くすることができ、また、洗浄後の分散安定化剤残存量を少なくできるため、得られるトナーが画像を鮮明に再現することができ、且つ環境安定性に優れたものとなる。
【0067】
本工程においては、重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒する際に、重合性単量体組成物と水系分散媒体との混合液に重合開始剤を添加して、重合性単量体組成物の液滴形成を行うことが好ましい。なお、重合開始剤は、重合性単量体組成物が水系分散媒体中へ分散された後、液滴形成前に添加されても良いが、水系分散媒体中へ分散される前の重合性単量体組成物へ添加されても良い。
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩:4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジ-t-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシジエチルアセテート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルブタノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、及びt-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物等が挙げられる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
これらの重合開始剤の中でも、残留重合性単量体を少なくすることができ、トナーの印字耐久性を向上できることから、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物の中でも、開始剤効率がよく、残留重合性単量体を低減できる点から、パーオキシエステルが好ましく、非芳香族パーオキシエステル、すなわち芳香環を有しないパーオキシエステルがより好ましい。
【0068】
本工程においては、櫛歯型同軸リング式分散機を用いて上記重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒することが、カーボンブラックの分散性を向上し、トナーの帯電均一性を向上して、画像を高濃度化し、カブリを抑制する点から好ましい。すなわち、本工程では、重合性単量体組成物の液滴を水系分散媒体中で形成するための分散処理を、上記分散機を用いて行うことが好ましく、上記分散機のみ用いて行うことがより好ましい。
本工程で用いられる櫛歯型同軸リング式分散機としては、重合性単量体組成物を調製する工程の分散処理に用いられる櫛歯型同軸リング式分散機と同様のものを用いることができる。
また、本工程において、上記重合性単量体組成物を水系分散媒体中で造粒するために用いられる櫛歯型同軸リング式分散機の好ましい形態は、上述した重合性単量体組成物を調製する工程における好ましい形態と同様である。
また、櫛歯型同軸リング式分散機を用いた造粒における回転子の周速、循環回数、及び回転子の周速(m/s)と循環回数との積等の好ましい条件も、上述した重合性単量体組成物を調製する工程における好ましい条件と同様である。
【0069】
なお、懸濁液調製工程において、重合性単量体組成物の造粒以外の目的で行われる混合、攪拌又は分散処理は、櫛歯型同軸リング式分散機を用いて行うものであってもよいし、櫛歯型同軸リング式分散機を用いずに行うものであってもよい。本工程においては、メディア式分散機を用いないことが好ましい。本工程において、メディア粒子を用いて造粒、混合、攪拌又は分散処理を行うと、上述した重合性単量体組成物を調製する工程で生じ得る問題と同様の問題が生じる恐れがある。
【0070】
(3)着色樹脂粒子を形成する工程
本工程は、上述した工程により得られた懸濁液を重合反応に供することにより、着色樹脂粒子を形成する工程である。例えば、上記懸濁液を上記重合性単量体の重合温度に加熱することにより、上記懸濁液を重合反応に供することができる。
上記重合反応における重合温度は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60~95℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、より好ましくは2~15時間である。
【0071】
本開示の製造方法においては、上記懸濁液を重合反応に供することにより得られる着色樹脂粒子にそのまま外添剤を添加してトナーとしてもよいが、上記懸濁液を重合反応に供することにより得られる着色樹脂粒子をコア層とし、その外側にコア層と異なるシェル層を作ることで得られる、所謂コアシェル型(又は、「カプセル型」ともいう)の着色樹脂粒子とすることが好ましい。コアシェル型の着色樹脂粒子は、低軟化点を有する物質よりなるコア層を、それより高い軟化点を有する物質で被覆することにより、定着温度の低温化と保存時の凝集防止とのバランスを取ることができる。
【0072】
上記懸濁液を重合反応に供することにより得られる着色樹脂粒子を用いて、コアシェル型の着色樹脂粒子を製造する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法によって製造することができる。in situ重合法や相分離法が、製造効率の点から好ましい。
【0073】
in situ重合法によるコアシェル型の着色樹脂粒子の製造方法を以下に説明する。
着色樹脂粒子が分散している水系分散媒体中に、シェル層を形成するための重合性単量体(以下、シェル用重合性単量体と称する場合がある。)と重合開始剤を添加し、重合することでコアシェル型の着色樹脂粒子を得ることができる。
【0074】
シェル用重合性単量体としては、前述の重合性単量体と同様なものが使用できる。中でも、スチレン、アクリロニトリル、及びメチルメタクリレート等の、Tgが80℃を超える重合体が得られる単量体を、単独であるいは2種以上組み合わせて使用することが好ましい。
【0075】
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸金属塩;2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、及び2,2 ’-アゾビス-(2-メチル-N-(1,1-ビス(ヒドロキシメチル)2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)等のアゾ系開始剤;等の水溶性重合開始剤を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。重合開始剤の量は、シェル用重合性単量体100質量部に対して、好ましくは、0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部である。
【0076】
シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60~95℃である。また、シェル層の重合の反応時間は好ましくは1~20時間であり、より好ましくは2~15時間である。
【0077】
(4)洗浄、ろ過、脱水、及び乾燥工程
本開示の製造方法においては、着色樹脂粒子の水分散液に、常法に従い、分散安定化剤を除去するための洗浄、ろ過、脱水及び乾燥を行うことにより、乾燥した着色樹脂粒子を得る工程を有することが好ましい。これらの洗浄、ろ過、脱水及び乾燥の操作は、必要に応じて数回繰り返して行うことが好ましい。
【0078】
上記の洗浄の方法としては、分散安定化剤として無機化合物を使用した場合、着色樹脂粒子の水分散液への酸又はアルカリの添加により、分散安定化剤を水に溶解し除去することが好ましい。分散安定化剤として、難水溶性の無機水酸化物のコロイドを使用した場合は、酸を添加して、着色樹脂粒子水分散液のpHを6.5以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸、及び硝酸等の無機酸、並びに蟻酸、及び酢酸等の有機酸を用いることができるが、除去効率の大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0079】
脱水、ろ過の方法は、種々の公知の方法等を用いることができ、特に限定されない。例えば、遠心ろ過法、真空ろ過法、加圧ろ過法等を挙げることができる。また、乾燥の方法も、特に限定されず、種々の方法が使用できる。
【0080】
2.着色樹脂粒子の基本特性
着色樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)は、好ましくは5.0~8.0μmであり、より好ましくは6.0~7.5μmである。着色樹脂粒子のDvが上記下限値以上であれば、トナーの流動性が向上し、優れた転写性を維持しやすく、高い画像濃度を保つことができ、上記上限値以下であれば、画像の解像度を向上できる。
【0081】
また、着色樹脂粒子は、その体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)が、好ましくは1.00~1.20であり、より好ましくは1.00~1.18であり、更に好ましくは1.00~1.15である。Dv/Dnが1.2以下であれば、転写性、画像濃度及び解像度をいずれも高く維持できる。着色樹脂粒子の体積平均粒径、及び個数平均粒径は、例えば、粒度分析計(ベックマン・コールター製、商品名:マルチサイザー)等を用いて測定することができる。
【0082】
着色樹脂粒子の平均円形度(Ca)は、画像再現性の観点から、0.97~1.00であることが好ましく、0.98~1.00であることがさらに好ましい。着色樹脂粒子の平均円形度が0.97以上であると、印字の細線再現性に優れる。
ここで、円形度は、粒子像と同じ投影面積を有する円の周囲長を、粒子の投影像の周囲長で除した値として定義される。平均円形度(Ca)は、粒子の形状を定量的に表現する簡便な方法として用いたものであり、着色樹脂粒子の凹凸の度合いを示す指標である。平均円形度(Ca)は、着色樹脂粒子が完全な球形の場合に1を示し、着色樹脂粒子の表面形状が複雑になるほど小さな値となる。
平均円形度(Ca)は、下記平均円形度の計算式により求められる。
【0083】
【数1】
【0084】
上記式において、nは円形度Ciを求めた粒子の個数である。
上記式においてCiは0.6~400μmの円相当径の粒子群の各粒子について測定された円周長を元に下記円形度の計算式により算出された各粒子の円形度である。
円形度の計算式:
円形度(Ci)=粒子の投影面積に等しい円の周囲長/粒子投影像の周囲長
上記式において、fiは円形度Ciの粒子の頻度である。
上記円形度及び平均円形度は、シスメックス社製フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」を用いて測定することができる。
【0085】
本開示の製造方法によれば、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量の絶対値を、好ましくは40~80μc/gとすることができ、より好ましくは43~70μc/gとすることができ、さらに好ましくは45~65μc/gとすることができる。
なお、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量は、着色樹脂粒子をキャリア粒子と混合した時の摩擦帯電量をブローオフ法に基づき測定した値である。キャリア粒子としては、標準キャリアであるEF-60(:製品名、パウダーテック社製、Mn-Mg-Sr-Fe系、球状、樹脂コートなし、粒径60nm)を用いることが好ましい。帯電量の測定には粉体帯電量測定装置を用いることが好ましく、例えば、MODEL231TO Q/mMETER(:型式、トレックジャパン社製)を好ましく用いることができる。
本開示において、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量は、着色樹脂粒子のサンプル10個における各測定値の平均値とする。ここで、着色樹脂粒子のサンプルとしては、乾燥後の着色樹脂粒子を所定量秤量したものを用いることができる。また、着色樹脂粒子のサンプル10個におけるブローオフ帯電量の平均値の標準偏差が小さいほど、着色樹脂粒子は帯電均一性に優れる。当該平均値の標準偏差は、好ましくは6.0未満であり、より好ましくは3.0未満である。
【0086】
3.外添処理工程
本開示の製造方法は、更に、着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させる工程を有することが好ましい。当該工程を有することにより、本開示の製造方法により得られるトナーを、着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させた1成分トナー(現像剤)とすることができる。なお、1成分トナーは、さらにキャリア粒子と共に混合攪拌して2成分現像剤としてもよい。
【0087】
着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させる外添処理工程は、例えば、着色樹脂粒子を外添剤と共に混合攪拌することにより行うことができる。
外添処理を行う攪拌機は、着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させることができる攪拌装置であれば特に限定されず、例えば、ヘンシェルミキサー(:商品名、三井鉱山社製)、FMミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、スーパーミキサー(:商品名、川田製作所社製)、Qミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、メカノフュージョンシステム(:商品名、ホソカワミクロン社製)、及びメカノミル(:商品名、岡田精工社製)等の混合攪拌が可能な攪拌機を挙げることができる。
【0088】
外添剤としては、種々の無機微粒子及び有機微粒子から、適切な材料および粒径を有するものを選択して用いることができる。外添剤としては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム及び酸化セリウム等の無機微粒子;ポリメタクリル酸メチル樹脂、シリコーン樹脂及びメラミン樹脂等の有機微粒子;等が挙げられる。これらの中でも、無機微粒子が好ましく、無機微粒子の中でも、シリカ及び酸化チタンから選ばれる少なくとも1種の微粒子が好ましく、特にシリカ微粒子が好適である。
なお、これらの外添剤は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用して用いることが好ましい。中でも、粒径の異なる2種以上のシリカ微粒子を併用することが好ましい。
【0089】
外添剤の添加量は、着色樹脂粒子100質量部に対して、通常、0.05~6質量部、好ましくは0.2~5質量部である。外添剤の添加量が上記下限値以上であることにより、転写残の発生を抑制することができ、上記上限値以下であることにより、カブリを抑制することができる。
【0090】
4.静電荷像現像用カーボンブラック含有トナー
本開示の製造方法によれば、温度23℃及び相対湿度50%の常温常湿(N/N)環境下で24時間放置して、トナー量0.5mg/cm、5%画像濃度で連続印字を行い、10枚目に黒ベタ印字を行った時の当該黒ベタ印字の画像濃度が、1.20以上となるトナーを得ることができ、より好ましい実施形態においては、上記画像濃度が1.30以上となるトナーを得ることができる。
【0091】
本開示の製造方法によれば、温度35℃及び相対湿度80%の高温高湿(H/H)環境下、及び温度10℃及び相対湿度20%の低温低湿(L/L)環境下のいずれにおいても、連続印字1,000枚での印字耐久性試験後、及び連続印字10,000枚での印字耐久性試験後に、カブリ値が1.6未満となるトナーを得ることができ、より好ましい実施形態においては、上記カブリ値が0.8未満となるトナーを得ることができる。
なお、印字耐久性試験は、後述する実施例における印字耐久性試験と同様の方法により行われ、カブリ値は、後述する実施例におけるカブリ値と同様にして求められる。
【実施例
【0092】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本開示を更に具体的に説明するが、本開示は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
【0093】
(合成例1:スルホン酸基含有ポリマー(1)の合成)
3Lの反応容器に、トルエン900部、スチレン83部、2-エチルヘキシルアクリレート14.5部、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸2.5部、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2.4部を仕込み、攪拌しながら、80℃で8時間共重合反応させた。反応終了後、凍結乾燥により溶剤を除去し、重量平均分子量18,000、ガラス転移温度56.2℃のスルホン酸基含有ポリマー(1)を得た。なお、スルホン酸基含有ポリマー(1)におけるスルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド単量体単位(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸単位)の共重合割合は2.5質量%であった。
【0094】
[実施例1]
(1)重合性単量体組成物を調製する工程
重合性単量体としてスチレン75部、アクリル酸ブチル25部及びポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業株式会社製、商品名「AA6」)1.5部、着色剤としてカーボンブラック(DBP吸収量:66mL/100g 三菱化学社製)12部、及び、帯電制御樹脂として4級アンモニウム塩基含有アクリレート単量体単位を1.0質量%の割合で含むスチレンアクリル系ポリマー(スチレン/アクリル樹脂、商品名:FCA-676P、藤倉化成社製、Tg:73℃、重量平均分子量(Mw):19,500)6.0部を混合して重合性単量体混合物を得た。
得られた重合性単量体混合物に、櫛歯型同軸リング式分散機(1)(ユーロテック社製、商品名:キャビトロン)を用いて、回転子の周速28m/s、循環回数18回の条件で分散処理を行った。なお、上記分散機(1)は、回転子及び固定子が有するスリット部の幅が0.05~6mmであり、回転子と固定子との組み合わせが、駆動軸の軸方向に沿って1段階で配置されており、且つ駆動軸の中心側から外側に向かって同心上に3段階で配置されたものであった。また、上記分散機(1)は、駆動軸の中心側の回転子及び固定子のスリット幅に比べて、駆動軸の外側の回転子及び固定子のスリット幅が狭くなるように、回転子と固定子との組み合わせが配置されていた。
【0095】
分散処理後の重合性単量体混合物118.3部を撹拌機で撹拌しながら、離型剤としてペンタエリスリトールテトラステアレート20部、分子量調整剤としてテトラエチルチウラムジスルフィド1.0部、及び架橋性モノマーとしてジビニルベンゼン0.8部を添加し、10分間撹拌することにより重合性単量体組成物を調製した。
【0096】
(2)懸濁液を調製する工程
他方、イオン交換水250部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)6.5部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(アルカリ金属水酸化物)5部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性の金属水酸化物コロイド)分散液を調製した。
【0097】
上記により得られた水酸化マグネシウムコロイド分散液を撹拌機で撹拌しながら、上記重合性単量体組成物を投入し、10分間攪拌した後、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ2-エチルブチレート(化薬アクゾ株式会社製、商品名「トリゴノックス27」)5部をさらに投入し、上記分散機(1)を用いて、回転子の周速40m/s、循環回数9回の条件で高剪断攪拌することにより、重合性単量体組成物を造粒し、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を得た。
【0098】
(3)着色樹脂粒子を形成する工程
重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を、攪拌翼を装着した反応器内に投入し、攪拌しながら90℃に昇温して重合反応を行なった。重合転化率がほぼ100%に達した後、重合温度はそのままにして、シェル用重合性単量体のメチルメタアクリレート3部と、イオン交換水10部に溶解した2,2′-アゾビス〔2-メチル-N-〔1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド〕(和光純薬工業株式会社製、商品名「VA086」)0.1部を添加し、さらに90℃で3時間を保ち、その後、水冷し、コアシェル構造を有する着色樹脂粒子の水分散液を得た。得られた水分散液のpHは、9.5であった。
【0099】
(4)洗浄、ろ過、脱水、及び乾燥工程
上記により得た着色樹脂粒子の水分散液を攪拌しながら、pHが6以下となるまで硫酸を添加し、25℃で10分間攪拌を継続することにより酸洗浄を行った。その後、濾過により水を分離した後、新たにイオン交換水500部を加えて再スラリー化して10分間攪拌を行うことにより、水洗浄を行った。濾過、脱水、水洗浄を数回繰り返し行ってから、着色樹脂粒子を濾過分離して、湿潤した着色樹脂粒子(1)を得た。湿潤した着色樹脂粒子(1)を乾燥機に入れ、温度40℃で3日間乾燥した。
【0100】
(5)外添処理工程
乾燥後の着色樹脂粒子(1)100部に、疎水化処理されたシリカ微粒子(キャボット社製、製品名:TG820F、個数平均一次粒径:7nm)1部と、疎水化処理されたシリカ微粒子(日本アエロジル社製、製品名:NEA50、個数平均一次粒径:35nm)1部を添加し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して非磁性一成分の実施例1のトナーを得た。
【0101】
[実施例2~4]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、上記分散機(1)による分散処理の条件を、表1に示す回転子の周速及び循環回数に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4の着色樹脂粒子(2)~(4)を得て、当該着色樹脂粒子(2)~(4)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の実施例2~4のトナーを得た。
【0102】
[実施例5]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、帯電制御樹脂としてFCA-676P 6.0部に代えて、4級アンモニウム塩基含有アクリレート単量体単位を2.0質量%の割合で含むスチレンアクリル系ポリマー(スチレン/アクリル樹脂、商品名:FCA-592P、藤倉化成社製、Tg:82℃、重量平均分子量(Mw):12,000)2.5部を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の着色樹脂粒子(5)を得て、当該着色樹脂粒子(5)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の実施例5のトナーを得た。
【0103】
[実施例6]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、帯電制御樹脂としてFCA-676P 6.0部に代えて、4級アンモニウム塩基含有アクリレート単量体単位を0.5質量%の割合で含むスチレンアクリル系ポリマー(スチレン/アクリル樹脂、商品名:FCA-700P、藤倉化成社製)13.0部を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の着色樹脂粒子(6)を得て、当該着色樹脂粒子(6)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の実施例6のトナーを得た。
【0104】
[実施例7]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、カーボンブラックの添加量を12部から14部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例7の着色樹脂粒子(7)を得て、当該着色樹脂粒子(7)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の実施例7のトナーを得た。
【0105】
[実施例8]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、帯電制御樹脂としてFCA-676P 6.0部に代えて、合成例1で得たスルホン酸基含有ポリマー(1)6.0部を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例8の着色樹脂粒子(8)を得て、当該着色樹脂粒子(8)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の実施例8のトナーを得た。
【0106】
[比較例1]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、上記分散機(1)(ユーロテック社製、商品名:キャビトロン)に代えて、メディア式分散機である分散機(2)(シンマルエンタープライゼス社製、商品名:DYNO-MILL、KDL-PILOT型)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の着色樹脂粒子(C1)を得て、当該着色樹脂粒子(C1)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の比較例1のトナーを得た。
【0107】
[比較例2~3]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、上記分散機(1)による分散処理の条件を、表1に示す回転子の周速及び循環回数に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2~3の着色樹脂粒子(C2)~(C3)を得て、当該着色樹脂粒子(C2)~(C3)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の比較例2~3のトナーを得た。
【0108】
[比較例4]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、重合性単量体混合物には帯電制御樹脂としてのFCA-676P 6.0部を添加せず、分散処理後の重合性単量体混合物に、離型剤、分子量調整剤及び架橋性モノマーと共に、帯電制御樹脂としてのFCA-676P 6.0部を添加し、更に、上記分散機(1)による分散処理の条件を、表1に示す回転子の周速及び循環回数に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例4の着色樹脂粒子(C4)を得て、当該着色樹脂粒子(C4)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の比較例4のトナーを得た。
【0109】
[比較例5]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、帯電制御樹脂FCA-676P 6.0部に代えて、正帯電性の帯電制御剤であるBONTRON(登録商標)N-21(:製品名、オリエント化学工業社製、アジン系化合物)2.0部を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例5の着色樹脂粒子(C5)を得て、当該着色樹脂粒子(C5)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の比較例5のトナーを得た。
【0110】
[比較例6]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、カーボンブラック12部に代えて、シアン着色剤(大日本インキ化学工業社製、商品名「FASTOGEN Blue GCTF」)12部を用い、上記分散機(1)による分散処理の条件を、表1に示す回転子の周速及び循環回数に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例6の着色樹脂粒子(C6)を得て、当該着色樹脂粒子(C6)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の比較例6のトナーを得た。
【0111】
[比較例7]
実施例1において、上記「(1)重合性単量体組成物を調製する工程」で、カーボンブラック12部に代えて、シアン着色剤(大日本インキ化学工業社製、商品名「FASTOGEN Blue GCTF」)12部を用い、上記分散機(1)による分散処理の条件を、表1に示す回転子の周速及び循環回数に変更し、更に、重合性単量体混合物には帯電制御樹脂としてのFCA-676P 6.0部を添加せず、分散処理後の重合性単量体混合物に、離型剤、分子量調整剤及び架橋性モノマーと共に、帯電制御樹脂としてのFCA-676P 6.0部を添加した以外は、実施例1と同様にして、比較例7の着色樹脂粒子(C7)を得て、当該着色樹脂粒子(C7)に実施例1の上記「(5)外添処理工程」と同様の外添処理を行うことにより、非磁性一成分の比較例7のトナーを得た。
【0112】
[評価]
各実施例で用いたカーボンブラックのDBP吸収量は、ISO4656(JIS K6217-4:2008)の「オイル吸油量の求め方」に準拠して測定した。
各実施例で重合性単量体混合物に行った分散処理の循環回数は、上記式(I)により算出した。
各実施例及び各比較例で製造された乾燥後の着色樹脂粒子、及びトナーについて、以下の測定及び評価を行った。測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0113】
(1)着色樹脂粒子の体積平均粒径
着色樹脂粒子の体積平均粒径は、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)により測定した。このマルチサイザーによる測定は、アパーチャー径:100μm、分散媒体:アイソトンII(:商品名)、濃度10%、測定粒子個数:100,000個の条件で行った。
具体的には、乾燥後の着色樹脂粒子を約0.1g秤量し、ビーカーに取り、分散剤として界面活性剤水溶液(富士フイルム社製、商品名:ドライウエル)0.1mLを加えた。そのビーカーへ、更にアイソトンIIを10~30mL加え、20W(Watt)の超音波分散機で3分間分散させてから上記の粒径測定機による測定を行った。
【0114】
(2)着色樹脂粒子のブローオフ帯電量及び帯電均一性
乾燥後の着色樹脂粒子0.25gと、フェライトキャリア(EF-60(:製品名、パウダーテック社製、Mn-Mg-Sr-Fe系、球状、樹脂コートなし、粒径60nm))9.75gとを、容積30mL(内寸底面直径30mm、高さ50mm)のガラス製容器に入れ、ローラ式撹拌機を用いて30分間、160回転/分の回転を与え、23℃、相対湿度50%の環境において摩擦帯電処理を行った。前記摩擦帯電処理後の着色樹脂粒子とフェライトキャリアの混合物0.2gをファラデーゲージに投入し、ブローオフ粉体帯電量測定装置(型式:MODEL231TO Q/mMETER、トレックジャパン社製)を用いて、窒素ガス圧0.098MPaの条件で30秒間ブローオフして、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量(μC/g)を測定した。
上記の測定を、各実施例又は各比較例につき、10個のサンプルについて各々1回ずつ行い(N=10)、各測定値の平均値と標準偏差を求めた。当該平均値を着色樹脂粒子のブローオフ帯電量とし、標準偏差から、下記評価基準により着色樹脂粒子の帯電均一性を評価した。
(帯電均一性評価基準)
A:標準偏差が3.0未満
B:標準偏差が3.0以上6.0未満
C:標準偏差が6.0以上
【0115】
(3)画像濃度
実施例1~7及び比較例1~7で得られたトナーについては、市販の非磁性一成分現像方式の正帯電トナー用プリンター(印字速度:20枚/分)を用い、現像装置のトナーカートリッジにトナーを充填した後、印字用紙をセットし、温度23℃及び相対湿度50%の常温常湿(N/N)環境下で24時間放置した。その後、ベタ印字時に現像ロール上に供給されるトナー量が0.5mg/cmとなる一点に固定して、5%画像濃度で連続印字を行った。10枚目の印字用紙に黒ベタ印字(100%画像濃度)を行い、マクベス式反射型画像濃度測定機を用いて画像濃度を測定した。
実施例8で得られたトナーについては、上述した実施例1~7及び比較例1~7の画像濃度の測定方法において、上記正帯電トナー用プリンターに代えて、市販の非磁性一成分現像方式の負帯電トナー用プリンター(印字速度:20枚/分)を用いたこと以外は、実施例1~7及び比較例1~7と同様の方法により画像濃度を測定した。
画像濃度の測定値に基づき、下記評価基準により評価した。
(画像濃度評価基準)
A:画像濃度が1.30以上
B:画像濃度が1.20以上1.30未満
C:画像濃度が1.20未満
【0116】
(4)カブリ
温度35℃及び相対湿度80%の高温高湿(H/H)環境下、及び温度10℃及び相対湿度20%の低温低湿(L/L)環境下のそれぞれにおいて、以下の印字耐久性試験を行った。
(印字耐久性試験)
実施例1~7及び比較例1~7で得られたトナーについては、市販の非磁性一成分現像方式の正帯電トナー用プリンター(印刷速度:20枚/分)を用い、現像装置のトナーカートリッジにトナーを充填した後、印字用紙をセットし、所定の環境下で24時間放置した後、同環境下にて、5%画像濃度で連続印字を行った。連続印字1,000枚目(初期)の後、及び10,000枚目(耐久後)の後に、それぞれ白ベタ印字を行い、白ベタ印字の途中で印字を停止した。現像後の感光体上にある非画像部のトナーを粘着テープで剥ぎ取り、当該粘着テープを新しい印字用紙に貼り付けた。マクベス式反射型画像濃度測定機を用いて、当該粘着テープを貼り付けた新しい印字用紙の色調を測定し、それぞれLab空間の座標として表した。
実施例8で得られたトナーについては、上述した実施例1~7及び比較例1~7の色調の測定方法において、上記正帯電トナー用プリンターに代えて、市販の非磁性一成分現像方式の負帯電トナー用プリンター(印字速度:20枚/分)を用いたこと以外は、実施例1~7及び比較例1~7と同様の方法により初期及び耐久後の色調を測定し、それぞれLab空間の座標として表した。
未使用の粘着テープを貼り付けた印字用紙の色調を、マクベス式反射型画像濃度測定機を用いて測定し、Lab空間の座標として表したものを基準サンプルとした。
実施例又は比較例のトナーを用いた測定サンプルの色調と、基準サンプルの色調との色差ΔEをカブリ値として算出し、下記評価基準により評価した。カブリ値が小さい方が、カブリが少ないことを示す。
(カブリ評価基準)
A:カブリ値(ΔE)が0.8未満
B:カブリ値(ΔE)が0.8以上1.6未満
C:カブリ値(ΔE)が1.6以上
【0117】
【表1】
【0118】
表1において、「CB」は、カーボンブラックを意味し、「シアン」は、シアン着色剤を意味する。また、「マクロモノマー」は、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業株式会社製、商品名「AA6」)を意味し、「架橋性モノマー」は、ジビニルベンゼンを意味する。
【0119】
[考察]
比較例1では、重合性単量体組成物を調製する工程において、櫛歯型同軸リング式分散機を用いずに、メディア式分散機を用いたため、着色樹脂粒子の帯電均一性が劣っており、画像を形成した際には、H/H環境下及びL/L環境下のいずれにおいても初期及び耐久後カブリが発生しやすかった。比較例1では、トナー粒子中にメディアの破片が混入したことにより、帯電特性が低下し、画像特性が低下したと考えられる。
比較例2では、重合性単量体組成物を調製する工程において、分散機の回転子の周速が60m/sを超えていたため、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量が不充分であり、画像を形成した際には画像濃度が不充分で、H/H環境下及びL/L環境下のいずれにおいても耐久後カブリが発生しやすかった。比較例2では、分散機の回転子の周速が速すぎたことによる圧力損失等によって、カーボンブラックの分散が不充分であったことにより、帯電特性が低下し、画像特性が低下したと考えられる。
比較例3では、重合性単量体組成物を調製する工程において、分散機の回転子の周速が15m/s未満であったため、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量が不充分であり、画像を形成した際には画像濃度が不充分で、H/H環境下及びL/L環境下のいずれにおいても耐久後カブリが発生しやすかった。比較例3では、分散機の回転子の周速が遅すぎたことによるエネルギー不足等によって、カーボンブラックの分散が不充分であったことにより、帯電特性が低下し、画像特性が低下したと考えられる。
比較例4では、重合性単量体組成物を調製する工程において、重合性単量体混合物に帯電制御樹脂を添加せずに分散処理を行い、分散処理後に帯電制御樹脂を添加したため、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量が不充分であり、着色樹脂粒子の帯電均一性が劣っており、画像を形成した際には画像濃度が不充分で、H/H環境下及びL/L環境下のいずれにおいても初期カブリ及び耐久後カブリが発生しやすかった。比較例4では、帯電制御剤の非存在下でカーボンブラックの分散処理をしたことで、カーボンブラックの分散が不充分であったことにより、帯電特性が低下し、画像特性が低下したと考えられる。
比較例5では、重合性単量体組成物を調製する工程において、重合性単量体混合物に帯電制御樹脂に代えて、帯電制御剤であるアジン系化合物(BONTRON(登録商標)N-71)を含有させて分散処理を行ったことにより、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量が不充分であり、着色樹脂粒子の帯電均一性が劣っており、画像を形成した際には、H/H環境下及びL/L環境下のいずれにおいても耐久後カブリが発生しやすかった。比較例5では、帯電制御樹脂とは異なる帯電制御剤の存在下でカーボンブラックの分散処理をしたことで、カーボンブラックの分散が不充分であったことにより、帯電特性が低下し、画像特性が低下したと考えられる。
【0120】
比較例6、7では、着色剤としてカーボンブラックを用いずにシアン着色剤を用いた。比較例6では分散処理時に帯電制御樹脂を添加し、比較例7では分散処理後に帯電制御樹脂を添加した。その結果、比較例6、7の評価結果にはほとんど差がなく、着色樹脂粒子の帯電均一性に劣り、画像を形成した際には、H/H環境下及びL/L環境下のいずれにおいても初期カブリ及び耐久後カブリが発生しやすかった。これにより、着色剤がカーボンブラックを含まない場合には、着色剤の分散処理を帯電制御樹脂の存在下で行っても、画像特性が向上する効果が得られないことが明らかにされた。カーボンブラックとは異なる着色剤は、帯電制御樹脂による分散性向上の効果が得られにくいため、帯電制御樹脂の存在下で分散処理をしても着色剤の分散性が向上せず、着色剤の分散状態が、帯電制御樹脂の存在下で分散処理をした場合と、分散処理後に帯電制御樹脂を添加した場合で同程度になったため、比較例6、7の評価結果にほとんど差がなかったと推定される。
【0121】
一方で、実施例1~8では、重合性単量体組成物を調製する工程において、少なくとも重合性単量体、着色剤としてカーボンブラック及び帯電制御剤として帯電制御樹脂を含有する重合性単量体混合物に、櫛歯型同軸リング式分散機を用い、回転子の周速を15~60m/sとして分散処理を行うことにより、カーボンブラックを重合性単量体中に分散させた。実施例1~8では、着色樹脂粒子のブローオフ帯電量が充分であり、帯電均一性に優れ、画像を形成した際の画像濃度が良好で、H/H環境下及びL/L環境下のいずれにおいてもカブリが発生しにくかった。このように、実施例1~8では、メディア粒子を用いない分散処理によってカーボンブラックを重合性単量体中に分散させることによって、優れた画像特性を有する画像を形成することができた。
【符号の説明】
【0122】
1 タンク
2 分散機(ケーシング)
3 冷却ジャケット
4 回転子
5 固定子
6 駆動軸
7 分散液流入路
8 分散液循環路
9 分散液排出路
図1
図2