(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、硬化物及びシート状成形体
(51)【国際特許分類】
C08G 59/32 20060101AFI20240228BHJP
C08G 59/14 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08G59/32
C08G59/14
(21)【出願番号】P 2020553156
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2019040237
(87)【国際公開番号】W WO2020080292
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2018194395
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】柘植 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】能澤 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 隼人
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196720(JP,A)
【文献】特開2010-111859(JP,A)
【文献】特開2014-001380(JP,A)
【文献】特開2006-176658(JP,A)
【文献】特開2011-074124(JP,A)
【文献】特開2014-132074(JP,A)
【文献】特開2017-214529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00-59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され、エポキシ当量が7,000~100,000g/当量であるポリエーテルポリオール樹脂と、
3官能以上のエポキシ樹脂と、
エポキシ樹脂硬化剤と
を含み、
前記ポリエーテルポリオール樹脂が、主鎖に芳香族構造を40~
55質量%、脂環式構造を8~25質量%含有し、
前記ポリエーテルポリオール樹脂を固形分中に45質量%以上含む硬化性樹脂組成物
(なお、主鎖に含有される芳香族構造とは、芳香族構造の芳香環を構成する少なくとも1つの原子が主鎖に含有される芳香族構造であり、また、主鎖に含有される脂環式構造とは、脂環式構造の脂環を構成する少なくとも1つの原子が主鎖に含有される脂環式構造である)。
【化1】
一般式(1)中、nは1以上の整数である。A
1及びA
2は互いに同一でも異なっていてもよく
、下記一般式(3)で表される基である
。Bは水素原子又は下記式(2)で表される基である。2つのBのうちの少なくとも一方は下記式(2)で表される基である。
【化2】
一般式(3)中、R
1
は互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子から選ばれる基である。Xは単結合、炭素数1~7の2価の炭化水素基、シクロヘキサン環構造又はトリメチルシクロヘキサン環構造を有する2価の有機基、-O-、-S-、-SO
2
-、及び-C(O)-から選ばれる2価の基である。但し、少なくともA
1
及びA
2
中のいずれかのXはシクロヘキサン環構造又はトリメチルシクロヘキサン環構造を有する2価の基である。
【化3】
【請求項2】
前記ポリエーテルポリオール樹脂の数平均分子量が9,000~40,000である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
2官能エポキシ樹脂とビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを反応させて前記ポリエーテルポリオール樹脂を製造する工程を含む請求項1
又は2に記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項5】
請求項
4に記載の硬化物からなるシート状成形体。
【請求項6】
Tgが140℃以上である請求項
5に記載のシート状成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、更に耐折り曲げ性もバランスよく優れ、耐熱性、靱性が要求される各種分野、特にセンサ、ディスプレイなどの電気・電子分野に適用可能な硬化性樹脂組成物に関する。本発明はまた、該硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物及びシート状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、耐熱性、接着性、耐水性、機械的強度及び電気特性等に優れていることから、様々な分野で使用されている。
近年、各種エレクトロデバイスは、軽量化・薄膜化や形状の自由度などが求められる用途があり、フレキシブル化が注目されている。エレクトロデバイスのフレキシブル化には、従来、基材として用いられていたガラスに代わり、プラスチックフィルムが用いられる。このプラスチックフィルムには、耐折り曲げ性に優れることが求められる。また、半導体材料を実装するためには半田リフロー工程に耐えうる耐熱性が必要になる。更にディスプレイの基材として使用するためには透明性も必要になる。
【0003】
エレクトロデバイスのフレキシブル化の中でも、近年、折り畳みのスマートフォンや折り畳みのタブレットに用いられるディスプレイに有機発光ダイオード(OLED)を使用する動きが加速し、フォルダブルOLEDディスプレイが開発されている。フォルダブルOLEDディスプレイは、幾層ものフィルムによって構成されているが、一般的には、表面には前面板と言われる層があり、その下にセンサー層、さらにその下にはバックフィルム層という順序での層構成で構成されているものが多い。それぞれの層に使用されるフィルムの機能や特性は異なるため、フォルダブルOLEDディスプレイの開発に際しては、要求される特性に応じたフィルムの材料の選定が重要である。中でも、センサー層や、バックフィルム層は、透明性や耐折り曲げ性(可撓性)以外にも、発熱体が近くにあるために高温に耐えうるための、耐熱性が必要とされる。
【0004】
特許文献1には、主鎖に芳香族構造と脂環式構造を特定量含有するガラス転移温度の高いポリエーテルポリオール樹脂と、このポリエーテルポリオール樹脂に、2官能以上のエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤及び硬化促進剤を配合してなる硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1で提供される硬化物のガラス転移温度は不十分であり上述の耐熱性の要求を満たすものではない。
また、特許文献1に記載の硬化性樹脂組成物では、フォルダブルOLEDディスプレイのフィルムに要求される透明性、耐折り曲げ性(可撓性)及び耐熱性の全てをバランスよく満たすことができない。
【0006】
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上述したように、耐熱性に優れ、更に耐折り曲げ性もバランスよく優れ、耐熱性、靱性が要求される各種分野、電気・電子分野、中でも、近年急速に開発が進んでいるフォルダブルOLEDディスプレイに使用されるフィルムの材料として適用可能な硬化性樹脂組成物と、この硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物及びシート状成形体を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者は、特定の高分子ポリエーテルポリオール樹脂と3官能以上のエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤を用いることにより、耐熱性に優れ、更に耐折り曲げ性にも優れた硬化物を得ることができることを知見した。
【0009】
前述の特許文献1には、具体的にポリエーテルポリオール樹脂と共に配合するエポキシ樹脂として2官能エポキシ樹脂が、また、硬化剤としてビスフェノールAノボラック樹脂が使用されるのみである。特許文献1には、3官能以上のエポキシ樹脂について、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が記載されてはいるが、詳細な説明は明記されていない。
【0010】
本発明者は、特許文献1に記載のエポキシ樹脂及び硬化剤では、ポリエーテルポリオール樹脂本来の耐熱性を十分に発揮させることができず、得られる硬化物は透明性も不足するものとなるが、ポリエーテルポリオール樹脂と併用するエポキシ樹脂を3官能以上のエポキシ樹脂に変えることで、耐熱性に優れ、更に耐折り曲げ性もバランスよく改善できることを見出した。
【0011】
本発明は、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 下記一般式(1)で表され、エポキシ当量が7,000~100,000g/当量であるポリエーテルポリオール樹脂と、3官能以上のエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを含む硬化性樹脂組成物。
【0013】
【0014】
一般式(1)中、nは1以上の整数である。A1及びA2は互いに同一でも異なっていてもよく芳香族構造及び/又は脂環式構造を有する2価の有機基である。但し、A1及びA2のいずれかとして芳香族環構造と脂環式環構造とを含有する。Bは水素原子又は下記式(2)で表される基である。2つのBのうちの少なくとも一方は下記式(2)で表される基である。
【0015】
【0016】
[2] 前記ポリエーテルポリオール樹脂が、主鎖に芳香族構造を35~55質量%、脂環式構造を8~25質量%含有する[1]に記載の硬化性樹脂組成物。
【0017】
[3] 前記ポリエーテルポリオール樹脂の数平均分子量が9,000~40,000である[1]又は[2]に記載の硬化性樹脂組成物。
【0018】
[4] 前記ポリエーテルポリオール樹脂を固形分中に45質量%以上含む[1]~[3]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【0019】
[5] 前記一般式(1)中のA1及びA2が下記一般式(3)で表される基である[1]~[4]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【0020】
【0021】
一般式(3)中、R1は互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子から選ばれる基である。Xは単結合、炭素数1~7の2価の炭化水素基、シクロヘキサン環構造又はトリメチルシクロヘキサン環構造を有する2価の有機基、-O-、-S-、-SO2-、及び-C(O)-から選ばれる2価の基である。但し、少なくともA1及びA2中のいずれかのXはシクロヘキサン環構造又はトリメチルシクロヘキサン環構造を有する2価の基である。
【0022】
[6] 前記芳香族構造がベンゼン環構造であり、前記脂環式構造がシクロヘキサン環構造又はトリメチルシクロヘキサン環構造である[1]~[5]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【0023】
[7] 2官能エポキシ樹脂とビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを反応させて前記ポリエーテルポリオール樹脂を製造する工程を含む[1]~[6]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物の製造方法。
【0024】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【0025】
[9] [8]に記載の硬化物からなるシート状成形体。
【0026】
[10] Tgが140℃以上である[9]に記載のシート状成形体。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、耐熱性に優れ、更に耐折り曲げ性もバランスよく優れ、耐熱性、靱性が要求される各種分野、センサ、ディスプレイなどの様々なインターフェースなどの電気・電子分野に適用可能であり、中でも、近年急速に開発が進んでいるフォルダブルOLEDディスプレイに使用されるフィルムの材料として最適な硬化性樹脂組成物と、該硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物及びシート状成形体が提供される。
【0028】
本発明の硬化性樹脂組成物及びその硬化物とこの硬化物よりなるシート状成形体は、電気・電子部品の絶縁材料、封止材料、基材等の他に光学材料にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
本発明において「固形分」とは溶媒を除いた成分を意味し、固体のエポキシ樹脂のみならず、半固形や粘稠な液状物のものを含むものとする。
「全エポキシ樹脂成分」とは、以下に示す本発明のポリエーテルポリオール樹脂及び3官能以上のエポキシ樹脂と後述するその他のエポキシ化合物との合計を意味する。
【0031】
本発明において、「シート」と「フィルム」とは同義である。シートの中でも比較的厚さの薄いものをフィルムと称し、シートはフィルムを包含する。
本発明のシート状成形体は、フィルム状成形体を包含する。
【0032】
[1]硬化性樹脂組成物
本発明の硬化性樹脂組成物は、下記一般式(1)で表され、エポキシ当量が7,000~100,000g/当量であるポリエーテルポリオール樹脂(以下、「本発明のポリエーテルポリオール樹脂」と称す場合がある。)と、3官能以上のエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを含むことを特徴とする。
【0033】
【0034】
一般式(1)中、nは1以上の整数である。A1及びA2は互いに同一でも異なっていてもよく芳香族構造及び/又は脂環式構造を有する2価の有機基である。但し、A1及びA2のいずれかとして芳香族環構造と脂環式環構造とを含有する。Bは水素原子又は下記式(2)で表される基である。2つのBのうちの少なくとも一方は下記式(2)で表される基である。
【0035】
【0036】
[1-1]ポリエーテルポリオール樹脂
本発明のポリエーテルポリオール樹脂は、前記一般式(1)で表されるものである。一般式(1)中のA1及びA2は、下記一般式(3)で表される基であることが耐熱性の観点から好ましい。
【0037】
【0038】
一般式(3)中、R1は互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1~10の炭化水素基又はハロゲン原子から選ばれる基である。Xは単結合、炭素数1~7の2価の炭化水素基、シクロヘキサン環構造又はトリメチルシクロヘキサン環構造を有する2価の有機基、-O-、-S-、-SO2-、及び-C(O)-から選ばれる2価の基である。但し、少なくともA1及びA2中のいずれかのXはシクロヘキサン環構造又はトリメチルシクロヘキサン環構造を有する2価の基である。
【0039】
上記一般式(3)中のXとしては特にトリメチルシクロヘキサン環構造が好ましい。
R1としては水素原子、炭素数1~2の炭化水素基又はハロゲン原子から選ばれる基が好ましい。
【0040】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂は、前記一般式(1)で表され、好ましくは主鎖に芳香族構造を35~55質量%、脂環式構造を8~25質量%含有するものである。芳香族構造の含有量は40~50質量%がより好ましい。脂環式構造の含有量は10~20質量%がより好ましい。
【0041】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂の主鎖に含まれる芳香族構造はベンゼン環構造であり、脂環式構造はシクロヘキサン環構造又はトリメチルシクロヘキサン環構造であることが、耐熱性、吸湿性の観点から好ましい。脂環式構造としてシクロヘキサン環構造とトリメチルシクロヘキサン環構造の両方が含まれていてもよい。
【0042】
ポリエーテルポリオール樹脂はフィルム化に適した所定値以上の分子量であって、高粘度とならず取り扱い性に優れた所定値以下の分子量であることが好ましい。フィルム化及び樹脂の取り扱いの両面からみて、本発明のポリエーテルポリオール樹脂の数平均分子量は9,000~40,000の範囲が好ましく、特に9,000~30,000の範囲が好ましい。
【0043】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂は、エポキシ末端(Bが式(2)で表されるグリシジル基)を必須とし、フェノール末端(Bが水素原子)を含む化学形態をとることができる。硬化反応の点からはエポキシ基を持つことが必須であり、本発明のポリエーテルポリオール樹脂のエポキシ当量は7,000~100,000g/当量である。
【0044】
エポキシ当量が7,000g/当量未満では反応性は十分であるが、ポリエーテルポリオール樹脂としての分子量が低くなり過ぎフィルム形成性が得られない。エポキシ当量が100,000g/当量を超えると、エポキシ基がほとんどなくなるため、実質的に硬化反応性が期待できなくなる。本発明のポリエーテルポリオール樹脂のエポキシ当量は、特に7,000~30,000g/当量が好ましい。
【0045】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂の数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定したポリスチレン換算の値である。
本発明において「エポキシ当量」とは、「1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量」と定義され、JIS K7236に準じて測定することができる。
【0046】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂は、一般的なポリエーテルポリオール樹脂の製造方法を用いて製造することができる。本発明のポリエーテルポリオール樹脂は、例えば、芳香族構造及び脂環式構造を持つ2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂を組み合わせて触媒の存在下に加熱付加反応させることにより得ることができる。
【0047】
使用する2価フェノール化合物としては、芳香族構造及び脂環式構造を持つものであれば特に制約はないが、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等が好適に使用できる。その中でも、特にビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンが好ましい。使用するビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンは純度が96%以上、特に98%以上のものがよい。ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンの純度が96%未満では、十分に高分子量化を達成できない場合がある。
【0048】
原料2価フェノール化合物としては、芳香族構造及び脂環式構造を持つ2価フェノール化合物と共に他の2価フェノール化合物を併用してもよい。その場合、他の2価フェノール化合物としては、2個の水酸基が芳香族環に結合したものであればどのようなものでもよい。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールAD等のビスフェノール類、ビフェノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。また、これらがアルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基などの非妨害性置換基で置換されたものを用いてもよい。これらの2価フェノール化合物の中で好ましいものは、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノールである。
【0049】
他の2価フェノール化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
他の2価フェノール化合物を併用する場合、その使用量は原料として用いる全2価フェノール化合物中の30質量%以下とすること、即ち、原料2価フェノール化合物の70~100質量%は芳香族構造及び脂環式構造を持つ2価フェノール化合物であることが好ましい。
【0051】
原料2官能エポキシ樹脂は、分子内に2個のエポキシ基を持つ化合物であればどのようなものでもよく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノンなどの単環2価フェノールのジグリシジルエーテル、ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、2価アルコールのジグリシジルエーテル、フタル酸、イソフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸などの2価カルボン酸のジグリシジルエステル等が挙げられる。また、これらがアルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基などの非妨害性置換基で置換されたものを用いてもよい。
【0052】
これらの2官能エポキシ樹脂の中で好ましいものは、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAF、水素添加ビスフェールA、4,4’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノールとエピハロヒドリンとの縮合反応によって得られるエポキシ樹脂である。
【0053】
これらの原料2官能エポキシ樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
2官能エポキシ樹脂と2価フェノール化合物の反応時の当量比は、エポキシ基:フェノール性水酸基=1:0.90~1.10とするのが好ましい。この当量比が0.90より小さくても、1.10より大きくても十分に高分子量化することができないおそれがある。
反応条件等にもよるが、エポキシ基:フェノール水酸基=1:1未満の場合、末端がエポキシ基となり、エポキシ基:フェノール性水酸基=1:1より大の場合、末端がフェノール性水酸基になる確率が高くなる。
【0055】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂を製造する際に使用する触媒は、エポキシ基とフェノール性水酸基、アルコール性水酸基やカルボキシル基との反応を進めるような触媒能を持つ化合物であればどのようなものでもよい。例えば、アルカリ金属化合物、有機リン化合物、第3級アミン、第4級アンモニウム塩、環状アミン類、イミダゾール類等が挙げられる。
【0056】
アルカリ金属化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のアルカリ金属アルコキシド、アルカリ金属フェノキシド、水素化ナトリウム、水素化リチウム等のアルカリ金属水素化物、酢酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0057】
有機リン化合物の具体例としては、トリ-n-プロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、テトラメチルホスホニウムブロマイド、テトラメチルホスホニウムアイオダイド、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムクロライド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムブロマイド、トリメチルベンジルホスホニウムクロライド、トリメチルベンジルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルエチルホスホニウムクロライド、トリフェニルエチルホスホニウムブロマイド、トリフェニルエチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0058】
第3級アミンの具体例としては、トリエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミンなどが挙げられる。
【0059】
第4級アンモニウム塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリエチルメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムアイオダイド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0060】
イミダゾール類の具体例としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールなどが挙げられる。
【0061】
環状アミン類の具体例としては、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)5-ノネン等が挙げられる。
【0062】
これらの触媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
触媒の使用量は反応固形分中、通常0.001~1重量%である。触媒の使用量が0.001重量%未満の場合、高分子量化が難しい。触媒の使用量が1重量%より多い場合はゲル化する恐れがある。反応固形分とは、反応系内の溶媒以外の反応基質の合計をさす。
【0064】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂の製造時の合成反応の工程においては溶媒を用いてもよい。その溶媒としては、ポリエーテルポリオール樹脂を溶解するものであれば、どのようなものでもよい。例えば、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、グリコールエーテル系溶媒などが挙げられる。
【0065】
芳香族系溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
ケトン系溶媒の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、ジオキサンなどが挙げられる。
【0066】
アミド系溶媒の具体例としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0067】
グリコールエーテル系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0068】
これらの溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
溶媒は、ポリエーテルポリオール樹脂製造時の合成反応における反応系の固形分濃度が35~95質量%となるように用いることが好ましい。反応途中で高粘性生成物が生じたときは溶媒を添加して反応を続けることができる。反応終了後、溶媒は必要に応じて、除去することもできるし、更に追加することもできる。
【0070】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂製造時の重合反応は、使用する触媒が分解しない程度の反応温度で行う。反応温度は、好ましくは50~230℃、より好ましくは120~200℃である。アセトンやメチルエチルケトンのような低沸点溶媒を使用する場合には、オートクレーブを使用して高圧下で反応を行うことで反応温度を確保することができる。
【0071】
本発明のポリエーテルポリオール樹脂は、そのエポキシ基あるいは水酸基の部位を他の化合物で変性して使用することも可能である。例えば、変性剤としてアクリル酸又はメタクリル酸を用いて、エポキシ基の一部に付加させて変性したものや水酸基にイソシアネート化合物を付加させて変性したもの等が挙げられる。
【0072】
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明のポリエーテルポリオール樹脂の1種のみを含むものであってもよく、前記一般式(1)における有機基等の異なるポリエーテルポリオール樹脂の2種以上を含むものであってもよい。
【0073】
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明のポリエーテルポリオール樹脂を本発明の硬化性樹脂組成物の固形分中に45質量%以上含むことが好ましい。本発明のポリエーテルポリオール樹脂の含有量が45質量%未満であると、本発明のポリエーテルポリオール樹脂を用いることによるフィルム製膜性と耐折り曲げ性の向上効果を十分に得ることができない場合がある。ただし、後述の3官能以上のエポキシ樹脂の好適含有量やエポキシ樹脂硬化剤の好適含有量を確保して良好な硬化物を得る観点から、本発明の硬化性樹脂組成物中の本発明のポリエーテルポリオール樹脂の含有量は固形分に対して99質量%以下であることが好ましい。本発明の硬化性樹脂組成物中の固形分に対する本発明のポリエーテルポリオール樹脂の含有量は特に50~99質量%、とりわけ60~97質量%が好ましい。
【0074】
[1-2]3官能以上のエポキシ樹脂
本発明のポリエーテルポリオール樹脂と共に用いるエポキシ樹脂は、3官能以上のエポキシ樹脂であり、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、テルペンフェノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、トリグリシジルアミノフェノール等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミニジフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、グリオキザールなどの種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂、石油系重質油又はピッチ類とホルムアルデヒド重合物とフェノール類とを酸触媒の存在下に重縮合させた変性フェノール樹脂等の各種のフェノール化合物と、エピハロヒドリンとから製造されるエポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、等の種々のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0075】
これらのうち、耐熱性の点で、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂が好ましく、特にトリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0076】
本発明の硬化性樹脂組成物は、これらの3官能以上のエポキシ樹脂の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0077】
本発明の硬化性樹脂組成物は、3官能以上のエポキシ樹脂を固形分に対して1~54質量%、特に2~50質量%含有することが好ましい。本発明の硬化性樹脂組成物は、3官能以上のエポキシ樹脂を、本発明のポリエーテルポリオール樹脂と3官能以上のエポキシ樹脂との合計100質量%に対して1~55質量%、特に3~50質量%含有することが好ましい。
【0078】
3官能以上のエポキシ樹脂の含有量が上記下限以上であることにより、3官能以上のエポキシ樹脂を本発明のポリエーテルポリオール樹脂と併用することによる耐熱性の向上効果を十分に得ることができる。3官能以上のエポキシ樹脂の含有量が上記上限以下であることにより、本発明のポリエーテルポリオール樹脂の含有量を十分なものとして、ポリエーテルポリオール樹脂本来の耐熱性および耐折り曲げ性の効果を十分に得ることができる。
【0079】
[1-3]エポキシ樹脂硬化剤
本発明においてエポキシ樹脂硬化剤とは、エポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質を示す。本発明においては、通常「硬化促進剤」と呼ばれるものであってもエポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなす。
【0080】
本発明で用いるエポキシ樹脂硬化剤としては、特に限定されないが、例えば多官能フェノール類、ポリイソシアネート系化合物、アミン系化合物、酸無水物系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤、有機ホスフィン類等が挙げられる。
これらのうち、ポットライフの点で多官能フェノール類、イミダゾール系化合物が好ましく、その中でもイミダゾール系化合物が最も好ましい。
【0081】
多官能フェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o-クレゾールノボラック、m-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ-p-ヒドロキシスチレン、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、t-ブチルカテコール、t-ブチルヒドロキノン、フルオログリシノール、ピロガロール、t-ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4-ベンゼントリオール、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,4-ジヒドロキシナフタレン、2,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,8-ジヒドロキシナフタレン、上記ジヒドロキシナフタレンのアリル化物又はポリアリル化物、アリル化ビスフェノールA、アリル化ビスフェノールF、アリル化フェノールノボラック、アリル化ピロガロール等が例示される。
【0082】
イミダゾール系化合物としては、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4(5)-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノ-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加体、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加体、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、及びエポキシ樹脂と上記イミダゾール類との付加体等が例示される。
【0083】
これらのエポキシ樹脂硬化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
本発明の硬化性樹脂組成物におけるエポキシ樹脂硬化剤の含有量は、本発明の硬化性樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ樹脂成分100質量部に対して好ましくは0.1~100質量部であり、より好ましくは80質量部以下であり、更に好ましくは60質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。
エポキシ樹脂硬化剤の含有量が上記範囲内であると、未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるため好ましい。
【0085】
[1-4]その他のエポキシ化合物
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明のポリエーテルポリオール樹脂及び3官能以上のエポキシ樹脂以外の、他のエポキシ化合物を含有してもよい。他のエポキシ化合物としては、2官能エポキシ樹脂、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂等の各種のエポキシ樹脂の1種又は2種以上が挙げられる。
【0086】
本発明の硬化性樹脂組成物が、本発明のポリエーテルポリオール樹脂及び3官能以上のエポキシ樹脂以外の他のエポキシ化合物を含有する場合、他のエポキシ化合物の含有量は、本発明の硬化性樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ樹脂成分に対して好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下である。他のエポキシ化合物を含有させることにより、吸水性、透明性等の物性向上効果を得ることができるが、その含有量が多過ぎると、本発明のポリエーテルポリオール樹脂及び3官能以上のエポキシ樹脂による耐熱性および耐折り曲げ性の向上効果が損なわれるおそれがある。
【0087】
[1-5]溶剤
本発明の硬化性樹脂組成物には、塗膜形成時等の取り扱い時に、硬化性樹脂組成物の粘度を適度に調整するために溶剤を配合して希釈してもよい。本発明の硬化性樹脂組成物において、溶剤は、硬化性樹脂組成物の成形における取り扱い性、作業性を確保するために用いられ、その使用量には特に制限がない。
本発明においては「溶剤」という語と「溶媒」という語をその使用形態により区別して用いるが、それぞれ独立して同種のものを用いても異なるものを用いてもよい。
【0088】
本発明の硬化性樹脂組成物が含み得る溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノールなどが挙げられる。これらの溶剤は適宜に2種又はそれ以上の混合溶剤として使用することも可能である。
【0089】
[1-6]その他の成分
本発明の硬化性樹脂組成物には、以上に挙げた成分の他にその他の成分を含有することができる。その他の成分は硬化性樹脂組成物の所望の物性により適宜組み合わせて用いることができる。
【0090】
例えば、得られる硬化物の硬化収縮率を下げる効果、熱膨張率を低下させる効果等の各種特性を向上させることを目的に、本発明の硬化性樹脂組成物に無機充填材を配合し、電気・電子分野、特に液状半導体封止材への応用展開を図ることができる。
靱性を付与するために本発明の硬化性樹脂組成物にゴム粒子、アクリル粒子などの有機充填材を配合してもよい。
【0091】
無機充填材としては、粉末状の補強材や充填材、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩、ケイ藻土粉、塩基性ケイ酸マグネシウム、焼成クレイ、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカなどのケイ素化合物、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、その他、カオリン、マイカ、石英粉末、グラファイト、二硫化モリブデン等が挙げられる。
無機充填材は固形分としての全エポキシ樹脂成分とエポキシ樹脂硬化剤との合計100質量部に対して、通常10~900質量部配合することができる。
【0092】
更に、繊維質の補強材や充填材を配合することも可能である。繊維質の補強材や充填材としては、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、カーボンファイバー、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ボロン繊維等が挙げられる。また、有機繊維、無機繊維のクロスあるいは不織布を用いることもできる。
【0093】
これらの無機充填材、繊維、クロス、不織布は、それらの表面をシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤あるいはプライマー処理する等の表面処理を行ってもよい。
【0094】
本発明の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて下記(1),(2)の成分を添加配合することができる。
【0095】
(1)カップリング剤、可塑剤、希釈剤、可撓性付与剤、分散剤、湿潤剤、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤、酸化防止剤、脱泡剤、流れ調整剤等。
これらは固形分としての全エポキシ樹脂成分とエポキシ樹脂硬化剤との合計100質量部に対して、通常0.1~20質量部配合される。
【0096】
(2)最終的な塗膜における樹脂の性質を改善する目的で種々の硬化性モノマー、オリゴマー及び合成樹脂。例えば、シアネートエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等の1種又は2種以上。
これら樹脂類を用いる場合、その配合割合は、本発明の硬化性樹脂組成物の本来の性質を損なわない範囲の量、すなわち固形分としての全エポキシ樹脂成分とエポキシ樹脂硬化剤との合計100質量部に対して、50質量部以下が好ましい。
【0097】
本発明の硬化性樹脂組成物には、難燃性を付与するために、ノンハロゲンタイプのP系、N系、Si系難燃剤等を添加してもよい。
【0098】
[2]硬化物
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させることにより、硬化物を得ることができる。ここでいう「硬化」とは熱及び/又は光等によりエポキシ樹脂を意図的に硬化させることを意味する。その硬化の程度は所望の物性、用途により制御すればよい。
【0099】
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させて硬化物とする際の硬化性樹脂組成物の硬化方法は、硬化性樹脂組成物中の配合成分や配合量、配合物の形状によっても異なるが、通常、23~200℃で5分~24時間の加熱条件が挙げられる。この加熱は23~160℃で5分~24時間の一次加熱と、一次加熱温度よりも40~177℃高い80~200℃で5分~24時間の二次加熱との二段処理、更に二次加熱温度よりも高い100~200℃で5分~24時間の三次加熱を行う三段処理で行うことが、硬化不良を少なくする点で好ましい。
【0100】
硬化物を半硬化物として製造する際には、加熱等により形状が保てる程度に硬化性樹脂組成物の硬化反応を進行させればよい。硬化性樹脂組成物が溶剤を含んでいる場合には、加熱、減圧、風乾等の手法で大部分の溶剤を除去するが、半硬化物中に5質量%以下の溶剤を残留させてもよい。
【0101】
[3]シート状成形体
本発明のシート状成形体は、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる本発明の硬化物よりなるシート状の成形体である。
【0102】
本発明のシート状成形体は、本発明の硬化性樹脂組成物を所定の厚さのシート状に調整した状態で硬化させることにより製造することができる。或いは、本発明のシート状成形体は、本発明の硬化性樹脂組成物より得られた半硬化物を所定の厚さのシート状に成形すると共に更に硬化させることにより製造することができる。
【0103】
本発明のシート状成形体の厚さには特に制限はないが、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.001mm以上、更に好ましくは0.01mm以上、特に好ましくは0.02mm以上、とりわけ好ましくは0.05mm以上である。
【0104】
本発明のシート状成形体は、後述の実施例の項で測定されるガラス転移温度(Tg)が140℃以上であることが好ましい。Tgが上記下限以上であれば、耐熱性が高いものとなり好ましい。この観点から、本発明のシート状成形体のTgは150℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましく、170℃以上であることが特に好ましい。
【0105】
[4]用途
本発明の硬化性樹脂組成物は、耐熱性に優れ、更に耐折り曲げ性にも優れた硬化物を与えるものであり、積層板、封止材、接着剤、塗料及び電気絶縁材料等に使用することができる。特に本発明の硬化性樹脂組成物は、センサ、ディスプレイなどの様々なインターフェース用の耐折り曲げ性が必要なデバイス、それを支える基材や、半導体封止用封止材、電気絶縁用粉体塗料、レジストインキ、電気・電子部品用注型材及び電気・電子部品用接着剤及び絶縁フィルム等に使用することができる。本発明の硬化性樹脂組成物は、近年急速に開発が進んでいるフォルダブルOLEDディスプレイに使用されるフィルムの材料としても有用である。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。以下において、「部」は全て「質量部」を示す。
【0107】
[各種分析・評価・測定方法]
以下における各種物性ないし特性の分析・評価・測定方法は次の通りである。
【0108】
1)ガラス転移温度(Tg)
硬化性樹脂組成物の硬化フィルムについて、SIIナノテクノロジー(株)製示差走査熱量計「DSC7020」を使用し、30~200℃まで10℃/minで昇温してガラス転移温度を測定した。ガラス転移温度は、JIS K7121「プラスチックの転移温度測定法」に記載されているうちの「中点ガラス転移温度:Tmg」に基づいて測定した。Tgが140℃未満のものを×、140℃以上のものを〇として評価した。
【0109】
2)透明性
得られた硬化フィルムについて、ASTM D1925に準じて測色色差計(日本電色工業製、ZE6000)を用いて、YIを測定した。YIが14未満のものを〇、YIが14以上30未満のものを△、YIが30以上又は白濁しているものを×として評価した。
【0110】
3)可撓性
得られた硬化フィルムを180°折り曲げても割れないものを〇、折り曲げることができないものを×として評価した。
【0111】
[ポリエーテルポリオール樹脂及び硬化性樹脂組成物の製造・評価]
<実施例1~3及び比較例1~3>
2官能エポキシ化合物(3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製 商品名「YX4000」、エポキシ当量186g/当量))100部と2価フェノール化合物(ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(水酸基当量155g/当量))80.9部、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(27質量%水溶液)0.37部及びメチルエチルケトン(固形分:70質量%)を撹拌機付き耐圧反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下、135℃で8時間反応を行った。反応後、メチルエチルケトンを添加することにより固形分濃度を40質量%に調整した。
こうして得られたポリエーテルポリオール樹脂はエポキシ当量8765g/当量、数平均分子量9,968であった。
【0112】
ポリエーテルポリオール樹脂の分析は次の方法で行った。
・数平均分子量:ゲル浸透クロマトグラフィーによってポリスチレン換算値として測定した。
・エポキシ当量:JIS K7236に準じて電位差滴定法により測定し、樹脂固形分としての値に換算した。
【0113】
上記のポリエーテルポリオール樹脂に、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤、溶剤を配合して調製した硬化性樹脂組成物を、アプリケーターを用いて、セパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗布して塗膜を形成し、100~120℃で1時間乾燥し、更にその後150~170℃で1時間熱処理して、各評価に必要な厚みの硬化フィルムを得た。使用したエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤の種類と使用量、及び得られた硬化フィルムの性状を表-1に示した。
【0114】
実施例、比較例において用いたエポキシ樹脂およびエポキシ樹脂硬化剤は以下の通りである。
【0115】
[エポキシ樹脂]
<3官能以上のエポキシ樹脂>
(A-1)トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製 jER1032H60)
(A-2)ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製 jER157S65)
(A-3)フェノールノボラック型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製 jER154)
【0116】
<2官能エポキシ樹脂>
(A-4)ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製 jER806)
(A-5)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製 YX4000)
【0117】
[エポキシ樹脂硬化剤]
(B-1):2-エチル-4(5)-メチルイミダゾール(三菱ケミカル(株)製 EMI-24)
(B-2):ビスフェノールAノボラック樹脂(三菱ケミカル(株)製 YLH129)
【0118】
【0119】
[評価結果]
表-1の結果より次のことがわかる。
本発明のポリエーテルポリオール樹脂と3官能以上のエポキシ樹脂を含む本発明の硬化性樹脂組成物を用いて得られた実施例1~3の硬化物は、3官能以上のエポキシ樹脂の代りに2官能のエポキシ樹脂を用いた比較例1~3の硬化物と比較して耐熱性(Tg)に優れたものである。
【0120】
特に、実施例1で用いた3官能エポキシ樹脂は、他の樹脂と比べて構造的に分子運動で制限されるため、実施例1ではTgが更に高く、実用上好ましい。
実施例1~3の硬化性樹脂組成物によれば、比較例1~3の硬化性樹脂組成物と比較して、透明性、可撓性及び耐熱性をバランスよく向上できており、透明性、耐熱性、耐折り曲げ性が要求されるフォルダブルOLEDディスプレイに使用されるフィルム材料としても好適であることが分かる。
【0121】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年10月15日付で出願された日本特許出願2018-194395に基づいており、その全体が引用により援用される。