IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許7444078導電膜およびその製造方法、電極、並びに、太陽電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】導電膜およびその製造方法、電極、並びに、太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/24 20060101AFI20240228BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240228BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20240228BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20240228BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01B1/24 B
H01B13/00 Z
H01L31/04 264
H01L31/04 422
H01G9/20 111D
H01G9/20 115A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020569486
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000860
(87)【国際公開番号】W WO2020158370
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019017430
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】杉本 拓己
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-207116(JP,A)
【文献】特表2013-525946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/24
H01B 13/00
H01L 31/0224
H10K 30/50
H01L 31/18
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン材料と、高分子化合物と、アルカリ金属原子とを含む導電膜であって、
前記カーボン材料は、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックのうちの少なくとも一方を含み、
前記高分子化合物の含有量が5質量%以上40質量%以下であり、
前記高分子化合物は、スチレンブタジエンゴムラテックス及びポリアクリル酸ナトリウムを含み、
前記アルカリ金属原子の含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下であり、
前記アルカリ金属原子が、ナトリウム原子である、導電膜。
【請求項2】
前記カーボン材料の比表面積が100m/g以上3000m/g以下である、請求項1に記載の導電膜。
【請求項3】
前記カーボン材料がカーボンナノチューブである、請求項1または2記載の導電膜。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載の導電膜を備える電極。
【請求項5】
請求項に記載の電極を備える太陽電池。
【請求項6】
カーボン材料、水溶性分散剤、および水系溶媒を含むカーボン分散液を基材上に塗布し、乾燥させてカーボン膜を形成する工程(1)と、
前記工程(1)で得られたカーボン膜を、アルカリ性物質濃度が3質量%以上9質量%以下であるアルカリ性液で洗浄し、前記カーボン膜から前記水溶性分散剤の少なくとも一部を除去する工程(2)と、を含む、導電膜の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性分散剤が水溶性高分子分散剤である、請求項記載の導電膜の製造方法。
【請求項8】
前記カーボン分散液がバインダー樹脂をさらに含む、請求項または記載の導電膜の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ性液が無機アルカリ水溶液である、請求項のいずれかに記載の導電膜の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ性液のpHが7.5以上9以下である、請求項のいずれかに記載の導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜およびその製造方法、電極、並びに、太陽電池に関し、特に、導電膜およびその製造方法、該導電膜を備える電極、並びに、該電極を備える太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性や機械的特性に優れるカーボン材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)が注目されている。そして、CNTを配合することによりフィルムなどの各種製品の導電性や機械的特性を向上させる技術が提案されている。具体的には、例えば太陽電池やタッチパネルなどに使用される導電膜に関し、CNTを配合することで導電膜の導電性および機械的特性を向上させる技術が提案されている。
【0003】
ここで、CNTを含有する導電膜は、一般に、分散媒とCNTとを含むカーボンナノチューブ分散液(以下、「CNT分散液」と称することがある。)を基材上に塗布し、塗布したCNT分散液を乾燥させることにより製造される。従って、導電膜の導電性および機械的特性を良好に向上させるためには、CNTが分散媒中に良好に分散したCNT分散液を使用する必要がある。しかし、CNTは凝集性が非常に高い。そこで、導電膜の形成に用いられるCNT分散液の製造においては、通常、高分子分散剤などの分散剤を用いてCNTを分散媒中に分散させている。
【0004】
しかしながら、分散剤を含有するCNT分散液を用いて導電膜を形成した場合、形成された導電膜中には多量の分散剤が残存することとなる。そのため、分散剤を含有するCNT分散液を用いて形成した導電膜には、分散剤の存在に起因して導電性を十分に向上することができないという問題があった。
【0005】
このような問題に対し、CNTおよび分散剤を含むCNT分散液を基材に塗布し、乾燥させてカーボンナノチューブ含有膜(以下、「CNT含有膜」と称することがある。)を形成した後、CNT含有膜を洗浄してCNT含有膜から分散剤を除去することにより、導電性に優れる導電膜を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-146229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記従来の技術では、分散剤を溶解可能な溶媒を用いた洗浄と、特定の分散剤分解処理とを特定の順序で組み合わせて用いることによりCNT含有膜から分散剤を除去している。特許文献1に従い、前記CNT含有膜により対向電極を作製し、当該電極を用いて色素増感型太陽電池を製造し、評価したところ、エネルギー変換効率(以下、単に「変換効率」と称することがある。)および耐久性において未だ改善の余地があることが明らかになった。
【0008】
そこで、本発明は、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を実現可能な導電膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記導電膜を効率的に製造することができる導電膜の製造方法、該導電膜を備え、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を実現可能な電極、並びに、該電極を備え、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、導電膜における高分子化合物の含有量と、導電膜におけるアルカリ金属原子の含有量を、それぞれ所定範囲内とすることにより、意外にも、導電性および基材に対する密着性に優れる導電膜を得ることができ、ひいては、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を実現することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の導電膜は、カーボン材料と、高分子化合物と、アルカリ金属原子とを含む導電膜であって、前記高分子化合物の含有量が5質量%以上40質量%以下であり、前記アルカリ金属原子の含有量が5.0質量%以上15.0質量%以下である、ことを特徴とする。このように、導電膜における高分子化合物の含有量と、導電膜におけるアルカリ金属原子の含有量とを、それぞれ所定範囲内とすることにより、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を実現可能な導電膜を得ることができる。
【0011】
ここで、本発明の導電膜は、前記カーボン材料の比表面積が100m/g以上3000m/g以下であることが好ましい。カーボン材料の比表面積が100m/g以上3000m/g以下であれば、触媒活性面積を増大させて、触媒性能を向上させることができ、また、導電膜の作製時において、カーボン材料がカーボン分散液中に分散した際に、カーボン分散液の固形分濃度が低下し過ぎるのを防止して、生産性を向上させることができる。
なお、本発明において、「比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0012】
そして、本発明の導電膜は、前記カーボン材料が繊維状炭素ナノ構造体であることが好ましい。カーボン材料が繊維状炭素ナノ構造体であれば、触媒性能を向上させることができる。
【0013】
さらに、本発明の導電膜は、前記高分子化合物が、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴムおよびそれらの変性ゴムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。高分子化合物が所定のゴムであれば、基材に対する密着性に優れる導電膜を得ることができ、ひいては、高い耐久性を有する太陽電池を実現することができる。
【0014】
そして、本発明の導電膜は、前記アルカリ金属原子がナトリウム原子であることが好ましい。アルカリ金属原子がナトリウム原子であれば、触媒性能を向上させることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電極は、上述のいずれかの導電膜を備えることを特徴とする。本発明の導電膜を備える電極は、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を実現可能である。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の太陽電池は、上述の電極を備えることを特徴とする。本発明の電極を備える太陽電池は、高い変換効率および高い耐久性を有する。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の導電膜の製造方法は、カーボン材料、水溶性分散剤、および水系溶媒を含むカーボン分散液を基材上に塗布し、乾燥させてカーボン膜を形成する工程(1)と、前記工程(1)で得られたカーボン膜をアルカリ性液で洗浄し、前記カーボン膜から前記水溶性分散剤の少なくとも一部を除去する工程(2)と、を含むことを特徴とする。本発明の導電膜の製造方法は、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を実現可能な導電膜を効率よく製造することができる。
【0018】
ここで、本発明の導電膜の製造方法は、前記水溶性分散剤が水溶性高分子分散剤であることが好ましい。水溶性分散剤が水溶性高分子分散剤であれば、カーボン材料をカーボン分散液中に分散させ、カーボン分散液の固形分濃度を上昇させて、基材との密着性が向上した導電膜を得ることができる。
ここで、本明細書において高分子が「水溶性である」とは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が1.0質量%未満であることをいう。なお、水のpHによって溶解性が変わる物質については、少なくともいずれかのpHにおいて上述した「水溶性」に該当するのであれば、その物質は「水溶性」であるとする。
【0019】
そして、本発明の導電膜の製造方法は、前記カーボン分散液がバインダー樹脂をさらに含むことが好ましい。カーボン分散液がバインダー樹脂をさらに含めば、洗浄後の導電膜と基材との密着性を良好に維持することができる。
なお、「バインダー樹脂」は、水溶性でなく、「水溶性高分子」とは異なるものである。
【0020】
さらに、本発明の導電膜の製造方法は、前記アルカリ性液が無機アルカリ水溶液であることが好ましい。アルカリ性液が無機アルカリ水溶液であれば、導電膜中におけるアルカリ金属原子の含有量を適切に調節することができる。
【0021】
そして、本発明の導電膜の製造方法は、前記アルカリ性液のpHが7.5以上9以下であることが好ましい。アルカリ性液のpHが7.5以上9以下であれば、洗浄の効果を得ることができると共に、スズドープ酸化インジウム(ITO)やフッ素ドープ酸化スズ(FTO)を備える基材を用いた場合であっても、ITOやFTOの溶解を抑制して基材の低抵抗化を図り、変換効率の高い太陽電池を実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を実現可能な導電膜を提供することができる。
また、本発明によれば、上記導電膜を効率的に製造することができる導電膜の製造方法、該導電膜を備え、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を実現可能な電極、並びに、該電極を備え、高い変換効率および高い耐久性を有する太陽電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(導電膜)
本発明の導電膜は、カーボン材料、高分子化合物、およびアルカリ金属原子を含み、必要に応じて、任意のその他の成分をさらに含む。
【0024】
<カーボン材料>
カーボン材料(A)としては、特に制限されることなく、導電性を有する、繊維状炭素ナノ構造体、グラフェン、フラーレン、カーボンナノホーン、グラファイト、活性炭、カーボンファイバー、多孔質カーボン、膨張黒鉛、ケッチェンブラックやアセチレンブラック等のカーボンブラックなどを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、得られる導電膜の強度や触媒性能に優れる点で、繊維状炭素ナノ構造体が好ましい。
【0025】
カーボン材料の比表面積は、特に制限されないが、100m/g以上であることが好ましく、250m/g以上であることがより好ましく、500m/g以上であることが特に好ましく、3000m/g以下であることが好ましい。
カーボン材料の比表面積が、上記下限以上であることにより、触媒活性面積を増大させて、触媒性能を向上させることができ、上記上限以下であることにより、導電膜の作製時において、カーボン材料がカーボン分散液中に分散した際に、カーボン分散液の固形分濃度が低下し過ぎるのを防止して、生産性を向上させることができる。
【0026】
導電膜中のカーボン材料の含有量は、特に制限されないが、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが特に好ましく、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが特に好ましい。
導電膜中のカーボン材料の含有量が、上記下限以上であることにより、導電膜を低抵抗化することができ、上記上限以下であることにより、基材に対する密着性を維持させることができる。
【0027】
<<繊維状炭素ナノ構造体>>
繊維状炭素ナノ構造体としては、具体的には、例えば、カップスタック型カーボンナノチューブなど円錐状の構造体が積み重なってできた構造体、カーボンナノバット、カーボンナノチューブ(CNT)等の円筒形状の炭素ナノ構造体や、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成されてなるグラフェンナノリボンなど炭素ナノ構造体等の非円筒形状の炭素ナノ構造体を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
そして、上述した中でも、繊維状炭素ナノ構造体としては、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。なお、繊維状炭素ナノ構造体はCNTのみからなるものであってもよい。CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、少ない配合量であっても、得られる導電膜に対して、導電性、膜強度、太陽電池用電極に用いる場合における触媒活性等の特性を効率的に付与することができるからである。
【0029】
繊維状炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に制限されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができる。CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。カーボンナノチューブの層数が少ないほど、配合量が少量であっても、比表面積が大きくなり、得られる導電膜に対して、太陽電池用電極に用いる場合における触媒活性等の特性を付与することができる。
【0030】
また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、1nm以上であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が1nm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高め、導電膜に安定的に導電性等の特性を付与することができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径が60nm以下であれば、少ない配合量であっても、得られる導電膜に対して、太陽電池用電極に用いる場合における触媒活性等の特性を効率的に付与することができる。
なお、本発明において、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像上で、例えば、20本の繊維状炭素ナノ構造体について直径(外径)を測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0031】
また、繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.40超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが特に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満の繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、製造される導電膜の性能を更に向上させることができる。
なお、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0032】
そして、繊維状炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0033】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、平均長さが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが特に好ましく、600μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることが特に好ましい。平均長さが10μm以上であれば、少ない配合量で導電膜中において導電パスを形成でき、また、導電膜の強度が高い。そして、平均長さが600μm以下であれば、カーボン分散液を塗布する際、濡れ性(塗布性)を向上させることができる。従って、繊維状炭素ナノ構造体の平均長さを上記範囲内とすれば、導電膜の表面抵抗率を十分に低下させることや導電膜に対して高い触媒活性を付与することができる。
なお、本発明において、「繊維状炭素ナノ構造体」の平均長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)画像上で、例えば、20本の繊維状炭素ナノ構造体について長さを測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0034】
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、通常、アスペクト比が10超である。なお、繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径および長さを測定し、直径と長さとの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0035】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、比表面積が、200m/g以上であることが好ましく、400m/g以上であることがより好ましく、600m/g以上であることが特に好ましく、2000m/g以下であることが好ましく、1800m/g以下であることがより好ましく、1600m/g以下であることが特に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体の比表面積が200m/g以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高め、少ない配合量で、得られる導電膜に対して、導電性、太陽電池用電極に用いる場合における触媒活性等の特性を付与することができる。また、繊維状炭素ナノ構造体の比表面積が2000m/g以下であれば、得られる導電膜に対して、導電性、太陽電池用電極に用いる場合における触媒活性等の特性を付与することができ、また、カーボン分散液の塗布性を安定化させることができる。
【0036】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。なお、「t-プロット」は、窒素ガス吸着法により測定された繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0037】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0038】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有する繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。
【0039】
なお、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが特に好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットの屈曲点がかかる範囲内にあれば、繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高め、少ない配合量で導電膜の導電性等の特性を高めることができる。具体的には、屈曲点の値が0.2未満であれば、繊維状炭素ナノ構造体が凝集し易く分散性が低下し、屈曲点の値が1.5超であれば繊維状炭素ナノ構造体同士が絡み合いやすくなり分散性が低下する虞がある。
なお、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0040】
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体のS2/S1の値がかかる範囲内であれば、繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高め、少ない配合量で導電膜の導電性等の特性を高めることができる。
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0041】
因みに、繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t-プロットの作成、および、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0042】
更に、繊維状炭素ナノ構造体として好適なCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0043】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が、0.5以上10.0以下であることが好ましく、1.0以上5.0以下であることがより好ましい。G/D比が0.5以上10.0以下であれば、得られる導電膜に対して、太陽電池用電極に用いる場合における触媒活性等の特性を付与することができる。
【0044】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、XPSによる元素分析で、炭素原子と酸素原子の合計に対し、酸素原子量が5原子%以下であることが好ましく、2原子%以下であることがより好ましく、1原子%以下であることが特に好ましい。酸素原子量が好ましい範囲内であれば、得られる導電膜に対して、太陽電池用電極に用いる場合における触媒活性等の特性を良好に付与することができる。
【0045】
CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CHNの元素分析による、炭素原子の割合は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが特に好ましく、水素原子の割合は、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。
炭素原子(水素原子)の割合が好ましい範囲内であれば、得られる導電膜に対して、太陽電池用電極に用いる場合における触媒活性等の特性を良好に付与することができる。
【0046】
なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、特に制限されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて製造することができる。具体的には、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に原料化合物およびキャリアガスを供給し、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
そして、スーパーグロース法により製造された繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体を含んでいてもよい。
【0047】
<高分子化合物>
高分子化合物は、通常、後述する導電膜の製造方法で用いる水溶性分散剤や任意成分としてのバインダー樹脂に由来するものであるが、特に制限されることなく、例えば、メラミン樹脂;ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール等のポリビニル系樹脂;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル;ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸;ポリエステル樹脂;セルロースおよびその誘導体;でんぷんやその変性物;等の水溶性高分子化合物や、アクリル樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂;ブチラール樹脂;アルキド樹脂;塩化ビニル樹脂;スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴムおよびそれらの変性ゴム(例えば、酸変性ゴム);などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、導電膜と基材との密着性が高まる点で、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリルゴムおよびそれらの変性ゴムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
なお、後述する実施例で示すように、例えば、バインダー樹脂としてSBRラテックスを用いた場合、導電膜中における高分子化合物としてスチレンブタジエンゴムが残留する。
ここで、前記高分子化合物は、親水基を有していてもよく、当該親水基としては、酸性官能基(-SO 基、-COO基、-PO 基)が好ましい。
【0048】
高分子化合物の重量平均分子量は、1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、5000以上であることが特に好ましい。
高分子化合物の重量平均分子量が、上記下限以上であることにより、カーボン分散液の固形分濃度が低下し過ぎるのを防止して、生産性を向上させることができる。
なお、高分子化合物の重量平均分子量は、フィールド-フローフラクショネーション多角度光散乱により測定することができる。
【0049】
導電膜中の高分子化合物の含有量は、5質量%以上であることが必要であり、10質量%以上であることが好ましく、40質量%以下であることが必要であり、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
導電膜中の高分子化合物の含有量が、上記下限以上であることにより、導電膜と基材との密着性を維持して導電膜の低抵抗化を図り、変換効率の高い太陽電池を実現することができ、上記上限以下であることにより、導電膜の低抵抗化を図り、変換効率の高い太陽電池を実現することができる。
なお、導電膜中の高分子化合物の含有量は、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0050】
<アルカリ金属原子>
アルカリ金属原子としては、特に制限されることなく、ナトリウム原子、カリウム原子、リチウム原子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、電極の触媒性能を高める点で、ナトリウム原子が好ましい。
【0051】
導電膜中のアルカリ金属原子の含有量は、5.0質量%以上であることが必要であり、5.5質量%以上であることが好ましく、6.0質量%以上であることがより好ましく、15.0質量%以下であることが必要であり、14.5質量%以下であることが好ましく、14.0質量%以下であることがより好ましい。
導電膜中のアルカリ金属原子の含有量が、上記下限以上であることにより、触媒性能を向上させることができ、上記上限以下であることにより、耐久性の高い太陽電池を実現することができる。
なお、導電膜中のアルカリ金属原子の含有量は、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0052】
<その他の成分>
その他の成分としては、シリカ等の無機物、金属粒子、導電助剤、界面活性化剤、消泡剤、老化防止剤、防腐剤等が挙げられる。これらは、公知のものを適宜使用すればよい。1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0053】
導電膜の水分量としては、特に制限はないが、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、4質量%以下がさらに好ましい。なお、導電膜の水分量は、0質量%であってもよい。
導電膜の水分量が、上記上限以下であることにより、例えば、色素増感型太陽電池の製造に該導電膜を用いると、色素の脱離および透明導電膜の溶解を抑制して、耐久性を向上させることができる。
【0054】
導電膜の膜厚としては、特に制限はないが、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
導電膜の膜厚が、上記下限以上であることにより、触媒性能を発現することができ、上記上限以下であることにより、導電膜を低抵抗化することができる。
【0055】
(導電膜の製造方法)
本発明の導電膜の製造方法は、カーボン材料、水溶性分散剤、および水系溶媒を含むカーボン分散液を基材上に塗布し、乾燥させてカーボン膜を形成する工程(1)と、工程(1)で得られたカーボン膜をアルカリ性液で洗浄し、カーボン膜から水溶性分散剤の少なくとも一部を除去する工程(2)と、を含み、さらに、必要に応じて、アルカリ金属原子を補充する工程(3)、アルカリ性液で洗浄したカーボン膜を乾燥する工程(4)等のその他の工程、をさらに含む。
【0056】
<工程(1)>
工程(1)では、カーボン分散液を基材上に塗布し、乾燥させて、カーボン膜を形成する。
【0057】
<<カーボン分散液>>
カーボン分散液は、カーボン材料、水溶性分散剤、および水系溶媒を含み、必要に応じて、バインダー樹脂、任意のその他の成分をさらに含む。
カーボン分散液の製造方法としては、特に制限はなく、水溶性分散剤をカーボン材料と水系溶媒との混合物に加えてもよく、カーボン材料を水溶性分散剤と水系溶媒との混合物に加えてもよい。
カーボン分散液の混合処理や分散処理は、公知の方法を利用することができる。例えば、ナノマイザーやアルティマイザーなど湿式ジェットミル、高圧ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル、サンドグラインダー、ダイノミル、スパイクミル、DCPミル、バスケットミル、ペイントコンディショナー、ホモミキサー等の高速攪拌装置などを用いる方法が挙げられる。1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、カーボン分散液の固形分濃度としては、特に制限はなく、塗工方式により適宜選択することができる。
【0058】
カーボン分散液のpHは、特に制限されないが、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましく、7未満(すなわち酸性)であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましく、4以下であることがさらにより好ましく、2.5以下であることが特に好ましい。カーボン分散液のpHを上記の範囲内とすることで、カーボン分散液の安定性を確保することができる。
なお、カーボン分散液のpHを下げるためには、酸性物質を添加すればよい。酸性物質としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、ギ酸、リン酸、などが好ましく、除去の容易さの観点から、塩酸、硝酸がより好ましい。
分散時の温度は、特に限定されないが、通常、水系溶媒の沸点以下であり、好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下、好ましくは-10℃以上、より好ましくは0℃以上である。この範囲であれば、水溶性分散剤の溶解性・構造の制御ができ、カーボン材料の分散性を向上させることができ、例えば、酸性溶液中で処理した場合などであっても、カーボン材料の変質などを抑えることができる。
【0059】
[カーボン材料]
カーボン分散液におけるカーボン材料は、「導電膜」の説明で上述した通りであり、好適な例についても上述した通りである。
【0060】
カーボン分散液中のカーボン材料の含有量は、特に制限されないが、カーボン分散液全体中、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましく、30.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることがさらに好ましく、1.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0061】
[水溶性分散剤]
水溶性分散剤としては、水溶性である限り、特に制限はなく、低分子分散剤であっても、高分子分散剤であってもよいが、カーボン材料の分散性に優れることから、高分子分散剤が好ましい。当該高分子分散剤としては、例えば、メラミン樹脂;ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール等のポリビニル系樹脂;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル;ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸;ポリエステル樹脂;セルロースおよびその誘導体;でんぷんやその変性物などや、それらの塩が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
水溶性分散剤は、少なくとも親水基を有する化合物であり、少なくとも親水基を有する高分子化合物(水溶性高分子分散剤)であることが好ましく、酸性官能基(例えば、-SO 基、-COO基、-PO 基)を有する高分子化合物であることがより好ましい。水溶性分散剤として、上記好ましいものを選択することにより、カーボン材料をカーボン分散液中に分散させ、カーボン分散液の固形分濃度を上昇させて、基材との密着性が向上した導電膜を得ることができる。また、水溶性分散剤は、前記酸性官能基を有することにより、pHに応じて溶解性に差を生じさせることができる。よって、水溶性分散剤は、CNT等のカーボン材料を分散させる際には、酸性側pHとすることで、カーボン材料への吸着を促進することができ、一方、洗浄を行う際には、アルカリ性側pHとすることで、カーボン材料からの脱離を促進することができる。
【0062】
水溶性分散剤の重量平均分子量は、1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、5000以上であることが特に好ましく、100万以下であることが好ましく、70万以下であることがより好ましく、50万以下であることが特に好ましい。
水溶性分散剤の重量平均分子量が、上記下限以上であることにより、分散性を上げることができ、上記上限以下であることにより、分散物の低粘度化が可能である。
なお、水溶性分散剤の重量平均分子量は、フィールド-フローフラクショネーション多角度光散乱により測定することができる。
【0063】
カーボン材料100質量部当たりの水溶性分散剤の含有量は、10質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることが特に好ましく、3000質量部以下であることが好ましく、2000質量部以下であることがより好ましく、1000質量部以下であることが特に好ましい。
上記含有量が、上記下限以上であることにより、カーボン材料をカーボン分散液中に分散させ、カーボン分散液の固形分濃度を上昇させて、基材との密着性が向上した導電膜を得ることができ、上記上限以下であることにより、洗浄負荷および材料コストを低減することができる。
【0064】
[水系溶媒]
水系溶媒としては、その中でCNT等のカーボン材料が分散しうるものであれば、特に制限されず、水を単独で使用してもよく、水と混和する溶媒類との混合溶媒を用いてもよい。
このような水系溶媒を用いることにより、環境負担を低減することができると共に、回収設備が不要となり、コストを低減することができる。
水と混和する溶媒としては、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジアセトンアルコール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N,N-ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N-メチルピロリドン、アセトニトリル等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、水と混和する溶媒としては、カーボン分散液の安定性を向上させる観点からは、エーテル類、ケトン類、アルコール類が好ましい。
これらは、脱気などを適時行ってもよい。
【0065】
[バインダー樹脂]
任意成分であるバインダー樹脂としては、水溶性高分子とは異なり、水溶性ではない限り、特に制限はなく、例えば、アクリル樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂;ブチラール樹脂;アルキド樹脂;塩化ビニル樹脂;スチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)、アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス(NBRラテックス)、アクリルゴムラテックスおよびそれらの変性ゴムラテックス等の粒子状ラテックス;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
バインダー樹脂としては、後述する工程(2)で用いられるアルカリ性液に対して非溶解であるのが好ましく、上記樹脂からなる後架橋型高分子(例えば、光硬化型高分子(紫外線硬化型高分子)、熱硬化型高分子、2液硬化型高分子)や;スチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)、アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス(NBRラテックス)、アクリルゴムラテックスおよびそれらの変性ゴムラテックスであることがより好ましく、スチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)、アクリロニトリルブタジエンゴムラテックス(NBRラテックス)、アクリルゴムラテックスおよびそれらの変性ゴムラテックスであることが特に好ましい。バインダー樹脂として、上記好ましいものを選択することにより、後述する工程(2)での洗浄を行った後であっても、基材との密着性が維持された導電膜を得ることができる。
なお、本明細書において、「非溶解」とは、「25℃において、その物質の乾燥物0.5gを100gの後述する工程(2)で用いられるアルカリ性液に溶解した際に、不溶分が80.0質量%以上であることをいう。」を意味する。
【0066】
カーボン材料100質量部当たりのバインダー樹脂の含有量は、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが特に好ましく、100質量部以下であることが好ましく、75質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。
上記含有量が、上記下限以上であることにより、後述する工程(2)での洗浄を行った後であっても、基材との密着性が維持された導電膜を得ることができ、上記上限以下であることにより、導電膜の低抵抗化を図り、変換効率の高い太陽電池を実現することができる。
【0067】
[その他の成分]
カーボン分散液におけるその他の成分は、導電膜におけるその他の成分で上述した通りである。
【0068】
<<基材>>
基材は、上述したカーボン分散液を塗布することができ、得られる導電膜を担持可能であれば形状、構成する材料、およびサイズ(厚みなど)は特に制限されず、目的とする用途によって適宜選択することができる。
基材は、支持基板と、該支持基板上に形成された導電性部等とを備えるものであってもよい。
ここで、支持基板としては、特に制限はないが、ガラス、高分子フィルム、金属フィルムが好ましい。なお、支持基板が高分子フィルムである場合は、高分子フィルムの軟化点が100℃以上であることが好ましい。
また、基材として、本発明の導電膜以外の公知の導電膜が、導電性部として支持基板上に形成された基材や、樹脂等のアンダーコート層が支持基板上に形成された基材、酸素や水分に対するバリア性を有する有機/無機のバリア層が支持基板上に形成された基材を用いてもよい。なお、支持基板上に形成される公知の導電膜として、ITO、FTO、カーボン分散フィルム等の透明導電膜やスパッタ膜が、基材の低抵抗化を図り、変換効率の高い太陽電池を実現することができる点で、好適に用いられる。
【0069】
<<塗布>>
そして、カーボン分散液を基材上に塗布する方法としては、公知の塗布方法を採用できる。具体的には、塗布方法としては、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、ロールナイフコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法、インクジェット法等を用いることができる。
【0070】
<<乾燥>>
更に、塗布したカーボン分散液を乾燥する方法としては、公知の乾燥方法を採用できる。乾燥方法としては、熱風乾燥法、真空乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等が挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、室温~200℃、乾燥時間は、特に限定されないが、通常、0.1分間~150分間である。
【0071】
<<カーボン膜>>
工程(1)によって得られたカーボン膜の乾燥膜厚としては、特に制限はないが、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
上記カーボン膜の膜厚が、上記下限以上であることにより、触媒活性面積を増大させて、触媒性能を向上させることができ、上記上限以下であることにより、後述する工程(2)での洗浄効率を向上させて導電膜の低抵抗化を図り、変換効率の高い太陽電池を実現することができる。
【0072】
そして、本発明の導電膜の製造方法においては、工程(1)の後、以下の工程(2)を行う。
【0073】
<工程(2)>
工程(2)では、少なくとも、工程(1)で得られたカーボン膜をアルカリ性液で洗浄し、カーボン膜から水溶性分散剤の少なくとも一部を除去する。
前記洗浄は、例えば、工程(1)により得られたカーボン膜に対して行えばよい。洗浄では、カーボン膜とアルカリ性液とを接触させ、カーボン膜中の水溶性分散剤をアルカリ性液中に溶出させることにより、カーボン膜中の水溶性分散剤の一部をカーボン膜から除去する。
【0074】
<<アルカリ性液>>
アルカリ性液としては、任意のアルカリ性物質を前記したような水系溶媒に溶解したものであれば、特に限定されない。アルカリ性液は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等の無機アルカリ水溶液;テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アルカリ水溶液;のいずれであってもよいが、無機アルカリ水溶液が好ましく、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)水溶液がより好ましい。炭酸水素ナトリウム(NaHCO)水溶液を用いた洗浄を行うことにより、pH8程度の弱アルカリ性の環境を作ることができ、導電膜に対するダメージを低減して洗浄することができる。また、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)水溶液を用いた洗浄を行うことにより、得られる導電膜に、効率よくアルカリ金属原子であるナトリウム原子を付与することができる。
【0075】
アルカリ性液のpHは、7.5以上であることが好ましく、9以下であることが好ましい。
上記pHが、上記下限以上であることにより、洗浄の効果を得ることができ、上記上限以下であることにより、ITOやFTOを備える基材を用いた場合であっても、ITOやFTOの溶解を抑制して基材の低抵抗化を図り、変換効率の高い太陽電池を実現することができる。
【0076】
アルカリ性液のアルカリ性物質濃度は、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが特に好ましく、9質量%以下であることが好ましい。
上記アルカリ性液のアルカリ性物質濃度が、上記下限以上であることにより、触媒性能が向上した導電膜を得ることができ、上記上限以下であることにより、アルカリ性液においてアルカリ性物質を確実に溶解させることができる。
【0077】
<<洗浄>>
そして、上述したアルカリ性液を用いたカーボン膜の洗浄は、例えば、カーボン膜のアルカリ性液中への浸漬、または、アルカリ性液のカーボン膜への塗布により行なうことができる。なお、カーボン膜の洗浄は複数回に分けて行なってもよい。また、洗浄後のカーボン膜は、既知の方法を用いて乾燥させることができる(後述する工程(4))。
なお、上述したアルカリ性液を用いたカーボン膜の洗浄時間は、1分間以上とするのが好ましく、また、10分間以下とするのが好ましく、5分間以下とするのがより好ましく、3分間以下とするのが特に好ましい。洗浄時間が、上記下限以上であることにより、十分に水溶性分散剤を除去することができ、上記上限以下であることにより、短時間での処理による効率化を図ることができるからである。
また、洗浄時におけるアルカリ性液の温度としては、特に制限はないが、10℃以上30℃以下とするのが好ましい。
【0078】
<工程(3)>
また、工程(3)を設け、例えば、工程(2)において、カーボン膜を水酸化ナトリウム(NaOH)の希水溶液で洗浄する場合、導電膜中におけるアルカリ金属原子(例えば、ナトリウム原子)の含有量が少なくなるため、洗浄後に、ヨウ化ナトリウム(NaI)水溶液等のアルカリ金属イオン含有水溶液を添加することにより、アルカリ金属原子(例えば、ナトリウム原子)を補充してもよい。
【0079】
補充するアルカリ金属原子としては、「導電膜」の説明で上述した通りであり、好適な例についても上述した通りである。
添加するアルカリ金属イオン含有水溶液としては、例えば、NaI水溶液、NaBr水溶液などを挙げられる。
添加するアルカリ金属イオン含有水溶液の溶質濃度としては、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
添加するアルカリ金属イオン含有水溶液の溶質濃度が、上記下限以上であることにより、効率的に導電膜の触媒性能を高めることができ、上記上限以下であることにより、導電膜への浸透性を高めることができる。
【0080】
<工程(4)>
さらに、工程(4)として、上述した工程(2)においてアルカリ性液で洗浄したカーボン膜を乾燥してもよい。
乾燥条件としては、特に制限はないが、低湿度環境、加温環境、真空環境での乾燥、などが好ましい。
【0081】
(電極)
本発明の電極は、本発明の導電膜を用いて得られるものである。本発明の電極は、例えば、色素増感型太陽電池(DSC)、有機薄膜太陽電池、およびペロブスカイト型太陽電池等の有機系太陽電池に好適に用いられる。
本発明の電極について、色素増感型太陽電池(DSC)を例にとり説明する。色素増感型太陽電池(DSC)は、通常、光電極、電解質層、対向電極がこの順に並んでなる構造を有する。
光電極は、光を受けることで、外部の回路に電子を放出し得る電極である。光電極は、通常、基材上に導電膜が形成されてなる光電極基板と、この光電極基板上に形成された多孔質半導体微粒子層と、この多孔質半導体微粒子層の表面に増感色素が吸着されて形成された増感色素層とを有する。
電解質層は、光電極と対向電極とを分離するとともに、電荷移動を効率よく行うための層である。
対向電極は、外部の回路から入ってきた電子を電解質層に効率よく渡すための電極である。対向電極は、通常、基材上に導電膜が形成されてなる対向電極基板と、この対向電極基板上に形成された触媒層とを有する。
なお、本発明の導電膜は、光電極の導電膜として用いてもよく、対向電極の導電膜または触媒層として用いてもよく、光電極の導電膜および対向電極の導電膜または触媒層として用いてもよい。また、本発明の導電膜がCNT膜である場合、該CNT膜は導電膜と触媒層とを兼ねることができるため、基材上にCNT膜を形成し、対向電極として使用可能である。
【0082】
(太陽電池)
本発明の太陽電池は、上述した本発明の電極を備えるものである。本発明の太陽電池は、本発明の電極を備えるものであれば、特に限定されない。本発明の太陽電池としては、上述した色素増感型太陽電池(DSC)、有機薄膜太陽電池、およびペロブスカイト型太陽電池等の有機系太陽電池が挙げられる。例えば、ペロブスカイト型太陽電池の例としては、特開2014-049631号公報、特開2015-046583号公報、特開2016-009737号公報などに記載されている。かかる有機系太陽電池のほか、半導体基板の種類により、例えば、単結晶シリコン型太陽電池、多結晶シリコン型太陽電池、微結晶シリコン型太陽電池、多結合型シリコン系太陽電池等の結晶シリコン系太陽電池;アモルファスシリコン型太陽電池;GaAs系太陽電池、CIS系太陽電池、CdTe系太陽電池などの化合物系太陽電池;などに分類されるものが挙げられる。
また、本発明の太陽電池は、太陽を光源とするものに限定されず、例えば屋内照明を光源とするものであってもよい。
本発明の太陽電池は、本発明の電極を備えるものであるため、変換効率が高い。このような特性が特に活かされることから、本発明の太陽電池は、携帯型太陽電池や屋内用太陽電池として好ましく用いられる。
【実施例
【0083】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例では、本発明の導電膜を使用して触媒電極(対向電極)を形成しているが、本発明の導電膜を使用して光電極を形成してもよい。
実施例および比較例において作製した色素増感型太陽電池素子の電池性能は、以下の方法を使用して評価した。さらに、実施例および比較例において作製したFTOガラス基板における導電膜について、水分量測定、高分子化合物含有量(残留量)測定、アルカリ金属原子含有量測定、および剥離試験を行った。
【0084】
<電池性能>
光源として、150Wキセノンランプ光源にAM1.5Gフィルタを装着した擬似太陽光照射装置(PEC-L11型、ペクセル・テクノロジーズ社製)を用いた。光量は、1sun(AM1.5G、100mW/cm(JISC8912のクラスA))に調整した。作製した色素増感型太陽電池素子をソースメータ(2400型ソースメータ、Keithley社製)に接続し、以下の電流電圧特性の測定を行なった。
1sunの光照射下、バイアス電圧を0Vから0.8Vまで0.01V単位で変化させながら出力電流を測定した。出力電流の測定は、各電圧ステップにおいて、電圧を変化させた後、0.05秒後から0.15秒後までの値を積算することで行った。バイアス電圧を、逆方向に0.8Vから0Vまで変化させる測定も行い、順方向と逆方向の測定の平均値を光電流とした。
なお、測定に際しては、色素増感型太陽電池素子の有効面積を規定するため、直径5.5mmの円形状のくり抜き部分を有する黒色遮光マスクを使用した。作製した色素増感型太陽電池素子の光電極の上にマスクを置くことにより、有効面積を0.2376cmとした。
上記の電流電圧特性の測定結果より、曲線因子およびエネルギー変換効率(%)を算出し、下記評価基準で評価した。結果を表1に示す。
さらに、作製した色素増感型太陽電池素子を温度60℃環境下に500時間保管した後に、再度、上述した電池性能(エネルギー変換効率(%))を測定ないし算出し、初期特性に対する割合を算出し、下記評価基準で評価した(耐久性評価)。結果を表1に示す。
<<曲線因子>>
A:0.5以上
B:0.4以上0.5未満
C:0.35以上0.4未満
D:0.3以上0.35未満
E:0.3未満
<<エネルギー変換効率>>
A:5%以上
B:4%以上5%未満
C:3%以上4%未満
D:2%以上3%未満
E:2%未満
<<耐久性評価>>
A:85%以上
B:80%以上85%未満
C:75%以上80%未満
D:70%以上75%未満
E:70%未満
【0085】
<導電膜の水分量測定>
実施例において作製したFTOガラス基板上に形成された導電膜、および、比較例において作製したITO-PENフィルムよりなる基板上に形成された導電膜の水分量を、市販の自動水分測定器(三菱ケミカルアナリテック社製、カールフィッシャー水分計)により測定した。結果を表1に示す。
【0086】
<導電膜の高分子化合物含有量測定>
実施例において作製したFTOガラス基板上に形成された導電膜、および、比較例において作製したITO-PENフィルムよりなる基板上に形成された導電膜の高分子化合物含有量を、熱重量分析装置(リガク社製、商品名:TG・DTA装置)を用いた熱重量分析により測定した。結果を表1に示す。
【0087】
<導電膜のアルカリ金属原子含有量測定>
実施例において作製したFTOガラス基板上に形成された導電膜、および、比較例において作製したITO-PENフィルムよりなる基板上に形成された導電膜のアルカリ金属原子含有量を、誘導結合プラズマ質量分析計(ICPMS)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0088】
<導電膜の剥離試験>
実施例において作製した導電膜が形成されたFTOガラス基板、および、比較例において作製した導電膜が形成されたITO-PENフィルムよりなる基板について、基板ごと、純水に付け込み、垂直にすることにより剥がれの有無を位置ずれの有無により確認した。なお、位置ずれがなければ、導電膜と基板との密着性を維持することで、導電膜の低抵抗化を図ることができ、ひいては、変換効率の高い太陽電池を実現することができる。
【0089】
(実施例1)
<カーボンナノチューブの合成>
国際公開第2006/011655号の記載に従って、スーパーグロース法によってSGCNTを得た。
得られたSGCNTは、BET比表面積が1000m/g、質量密度が0.03g/cm、マイクロ孔容積が0.44mL/gであった。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に100本のSGCNTの直径を測定した結果、平均直径(Av)が3.3nm、直径の標本標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)が1.9nm、(3σ/Av)が0.58、平均長さが100μmであった。また、得られたSGCNTは、主に単層CNTにより構成されていた。
【0090】
<色素増感型太陽電池用触媒電極の作製>
容量50mLのサンプル瓶にカーボンナノチューブ(CNT)0.005g(100質量部)と、水溶性分散剤としてのポリアクリル酸のナトリウム塩(分子量:25000、和光純薬社製、製品名「ポリアクリル酸ナトリウム」)0.025g(500質量部)と、バインダー樹脂としてのスチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)(日本ゼオン株式会社製、製品名「BM-451B」)0.001g(20質量部)とを量りとり、純水30gを加えたのち硝酸を用いてpHを2に調整した。これをバス型超音波分散機で30分間処理することでカーボンナノチューブ分散液を得た。
2cm×1.2cmにカットしたFTOガラス基板上にカーボンナノチューブ分散液を500μL滴下し、60℃で乾燥してFTOガラス基板上にCNT含有膜(乾燥膜厚:0.1μm)を形成した(工程(1))。
CNT含有膜を形成したFTOガラス基板を、アルカリ性物質濃度が9質量%のNaHCO水溶液(pH=8)中に5分間浸漬し(工程(2))、その後、CNT含有膜を露点(-50℃)環境下に8時間静置することにより乾燥させ、CNT含有膜を触媒層として表面に有するFTOガラス基板(触媒電極)を得た。
【0091】
<色素増感型太陽電池用光電極の作製>
[色素溶液の調製]
ルテニウム錯体色素(N719、ソラロニクス社製)7.2mgを20mLのメスフラスコに入れた。tert-ブタノール10mLをメスフラスコに添加し、攪拌した。その後、アセトニトリル8mLを加え、メスフラスコに栓をした後、超音波洗浄器による振動により、60分間攪拌した。溶液を常温に保ちながら、アセトニトリルを加え、全量を20mLとした。
【0092】
[光電極の調製]
ITO-PENフィルムよりなる基板上に、低温成膜酸化チタンペースト(ペクセル・テクノロジーズ社製)を塗布し、塗膜を乾燥後、ホットプレートを用いて温度150℃で10分間加熱することにより多孔質酸化チタン電極を作製した。この酸化チタン電極を上記N719色素溶液(0.3mM)に浸漬した。このとき、十分な色素吸着を行うため、色素溶液は、電極一枚当たり、2mL以上を目安とした。
色素溶液を40℃に保ちながら色素を吸着させた。2時間後、シャーレから色素吸着済み酸化チタン電極を取り出し、アセトニトリル溶液にて洗浄して乾燥させ、光電極とした。
【0093】
<色素増感型太陽電池素子の作製>
厚さ25μmの熱融着フィルム(SOLARONIX社製)の内側を直径9mmの円形状にくりぬき、このフィルムを触媒電極上にセットした。電解液を滴下し、光電極を上から重ね合わせ、みの虫クリップで両側を挟むことで色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、電池性能を評価した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例2)
実施例1において、色素増感型太陽電池用触媒電極を作製する際に、CNT含有膜が形成されたFTOガラス基板をアルカリ性物質濃度が9質量%のNaHCO水溶液(pH=8)中に浸漬する代わりに、CNT含有膜が形成されたFTOガラス基板をアルカリ性物質濃度が7質量%のNaHCO水溶液(pH=8)中に浸漬したこと以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用触媒電極、色素増感型太陽電池用光電極および色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、色素増感型太陽電池素子の電池性能評価、導電膜の水分量測定、導電膜の高分子化合物含有量測定、導電膜のアルカリ金属原子含有量測定、および導電膜の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例3)
実施例1において、色素増感型太陽電池用触媒電極を作製する際に、バインダー樹脂としてのスチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)0.001g(20質量部)を用いる代わりに、バインダー樹脂としてのスチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)0.00025g(5質量部)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用触媒電極、色素増感型太陽電池用光電極および色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、色素増感型太陽電池素子の電池性能評価、導電膜の水分量測定、導電膜の高分子化合物含有量測定、導電膜のアルカリ金属原子含有量測定、および導電膜の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例4)
実施例1において、色素増感型太陽電池用触媒電極を作製する際に、CNT含有膜が形成されたFTOガラス基板をアルカリ性物質濃度が9質量%のNaHCO水溶液(pH=8)中に5分間浸漬する代わりに、CNT含有膜が形成されたFTOガラス基板をアルカリ性物質濃度が9質量%のNaHCO水溶液(pH=8)中に5分間浸漬した後に、濃度が5質量%のNaI水溶液中に10分間浸漬したこと以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用触媒電極、色素増感型太陽電池用光電極および色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、色素増感型太陽電池素子の電池性能評価、導電膜の水分量測定、導電膜高分子化合物含有量測定、導電膜のアルカリ金属原子含有量測定、および導電膜の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例5)
実施例1において、色素増感型太陽電池用触媒電極を作製する際に、アルカリ性物質濃度が9質量%のNaHCO水溶液(pH=8)中に5分間浸漬する代わりに、アルカリ性物質濃度が0.004質量%のNaOH水溶液(pH=8)中に5分間浸漬したこと以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用触媒電極、色素増感型太陽電池用光電極および色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、色素増感型太陽電池素子の電池性能評価、導電膜の水分量測定、導電膜の高分子化合物含有量測定、導電膜のアルカリ金属原子含有量測定、および導電膜の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例6)
実施例1において、色素増感型太陽電池用触媒電極を作製する際に、カーボンナノチューブ(CNT)0.005g(100質量部)を用いる代わりに、カーボンブラック(ライオンスペシャリティケミカルズ社製、商品名:ECP600JD、比表面積:600m/g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用触媒電極、色素増感型太陽電池用光電極および色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、色素増感型太陽電池素子の電池性能評価、導電膜の水分量測定、導電膜の高分子化合物含有量測定、導電膜のアルカリ金属原子含有量測定、および導電膜の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例7)
実施例6において、色素増感型太陽電池用触媒電極を作製する際に、水溶性分散剤としてのポリアクリル酸のナトリウム塩0.025g(500質量部)を用い、バインダー樹脂としてのスチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)0.001g(20質量部)を用い、カーボンブラック含有膜が形成されたFTOガラス基板をNaHCO水溶液(pH=8)中に浸漬する代わりに、水溶性分散剤としてのポリアクリル酸のナトリウム塩0.001g(20質量部)を用い、バインダー樹脂としてのスチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)を用いず、カーボンブラック含有膜が形成されたFTOガラス基板をNaHCO水溶液(pH=8)中に浸漬しなかったこと以外は、実施例6と同様にして、色素増感型太陽電池用触媒電極、色素増感型太陽電池用光電極および色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、色素増感型太陽電池素子の電池性能評価、導電膜の水分量測定、導電膜の高分子化合物含有量測定、導電膜のアルカリ金属原子含有量測定、および導電膜の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例1)
実施例1において、色素増感型太陽電池用触媒電極を作製する際に、FTOガラス基板上にCNT含有膜を形成し、CNT含有膜が形成されたFTOガラス基板をアルカリ性物質濃度が9質量%のNaHCO水溶液(pH=8)中に5分間浸漬する代わりに、ITO-PENフィルムよりなる基板上にCNT含有膜を形成し、CNT含有膜が形成されたITO-PENフィルムよりなる基板を水(pH=7)中に5分間浸漬し、その後、導電膜(CNT含有膜)に430μW/cmの紫外線を10分間照射するUV処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用触媒電極、色素増感型太陽電池用光電極および色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、色素増感型太陽電池素子の電池性能評価、導電膜の水分量測定、導電膜の高分子化合物含有量測定、導電膜のアルカリ金属原子含有量測定、および導電膜の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例2)
実施例1において、色素増感型太陽電池用触媒電極を作製する際に、FTOガラス基板上にCNT含有膜を形成し、バインダー樹脂としてのスチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)0.001g(20質量部)を用いる代わりに、ITO-PENフィルムよりなる基板上にCNT含有膜を形成し、バインダー樹脂としてのスチレンブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス)を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、色素増感型太陽電池用触媒電極、色素増感型太陽電池用光電極および色素増感型太陽電池素子を作製した。そして、導電膜の水分量測定、導電膜の高分子化合物含有量測定、導電膜のアルカリ金属原子含有量測定、および導電膜の剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1より、実施例1~7では、比較例1~2と比較し、剥離試験、曲線因子、エネルギー変換効率、および耐久性の全てが高いレベルにある色素増感型太陽電池素子が得られたことが分かる。
実施例2では、実施例1(曲線因子:A、エネルギー変換効率:A、耐久性:A)と比べて、導電膜における高分子化合物含有量(残留量)が大きいことの影響で(実施例1:20質量%、実施例2:40質量%)、導電膜の抵抗が大きくなって、曲線因子およびエネルギー変換効率が劣っており(曲線因子:B、エネルギー変換効率:B)、導電膜における水分量が大きいことの影響で(実施例1:3質量%、実施例2:5質量%)、耐久性が劣っている(耐久性:B)。
実施例3では、実施例1(曲線因子:A、エネルギー変換効率:A、耐久性:A)と比べて、導電膜の基板からの剥離(位置ずれとまではいかない軽微な剥離)の影響で導電膜の抵抗が大きくなって、曲線因子およびエネルギー変換効率が劣っている(曲線因子:B、エネルギー変換効率:B)。
実施例4では、実施例1(曲線因子:A、エネルギー変換効率:A、耐久性:A)と比べて、導電膜におけるアルカリ金属原子含有量が大きいことの影響で(実施例1:7.3質量%、実施例4:15.0質量%)、耐久性が劣っている(耐久性:B)。
実施例5では、実施例1(曲線因子:A、エネルギー変換効率:A、耐久性:A)と比べて、導電膜におけるアルカリ金属原子含有量が小さいことの影響で(実施例1:7.3質量%、実施例5:5.0質量%)、導電膜の触媒性能が低下して、曲線因子が劣っている(曲線因子:B)。
実施例6では、実施例1(曲線因子:A、エネルギー変換効率:A、耐久性:A)と比べて、カーボンブラックを用いた影響で(実施例1:比表面積1000m/gのカーボンナノチューブ、実施例6:比表面積600m/gのカーボンブラック)、導電膜の触媒性能が低下して、曲線因子が劣っている(曲線因子:B)。
比較例1では、実施例1(曲線因子:A、エネルギー変換効率:A、耐久性:A)と比べて、導電膜における高分子化合物含有量(残留量)が大きく(実施例1:20質量%、比較例1:60質量%)、導電膜における水分量が大きいことの影響で(実施例1:3質量%、比較例1:10質量%)、耐久性が劣り(耐久性:E)、また、導電膜の触媒性能が低下して、曲線因子が劣っている(曲線因子:E)。
比較例2では、導電膜中に高分子化合物が残存しておらず、位置ずれが生じ、電池性能を評価することができなかった。