(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法及び低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240228BHJP
C04B 28/04 20060101ALI20240228BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20240228BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240228BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
G01N33/38
C04B28/04
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
C04B18/14 Z
C04B18/10 Z
(21)【出願番号】P 2023107772
(22)【出願日】2023-06-30
【審査請求日】2023-07-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堺 規行
(72)【発明者】
【氏名】金井 謙介
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-205940(JP,A)
【文献】特開2014-144878(JP,A)
【文献】特開昭52-056124(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111307588(CN,A)
【文献】合田寛基,セメントとコンクリート,化学と教育,日本,公益社団法人 日本化学会,2021年,69巻2号,p66-69
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
C04B 28/04
G01N 3/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合セメント中のポルトランドセメントの含有量が0質量%を超え55質量%以下である低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法であって、
前記ポルトランドセメント及び混合材料を含み、前記混合材料の含有割合を変更した複数の検量線用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)と
、
加温により促進養生した前記検量線用混合セメントの
、(i)加温により促進養生したモルタルの1日強度、(ii)加温により促進養生したセメントペーストの1日後の水和反応率、及び(iii)加温による促進養生開始から1日後の積算発熱量からなる群より選択される1つ以上の物性値(X)との関係式を予め求めておき、
被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの物性値(X)を求めることにより、前記被検査試料の28日モルタル圧縮強さ(Y)を予測し、28日モルタル圧縮強さの管理水準値と前記被検査試料の28日モルタル圧縮強さ(Y)とを比較することにより前記被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定を行う、低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【請求項2】
前記物性値(X)は、前記検量線用混合セメント及び前記被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントに、それぞれ、硬化促進剤を混合して測定する請求項1に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【請求項3】
前記検量線用混合セメントの加温による促進養生の条件が、30~70℃、かつ6~24時間である請求項1又は2に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【請求項4】
前記ポルトランドセメントが、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントからなる群より選択される1つ以上である請求項1又は2に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【請求項5】
前記混合材料が、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材及びバイオマス焼却灰からなる群より選択される1つ以上である請求項1又は2に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【請求項6】
前記硬化促進剤が、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム及びギ酸カルシウムからなる群より選択される1つ以上である請求項2に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【請求項7】
混合セメント中のポルトランドセメントの含有量が0質量%を超え55質量%以下である低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法であって、
前記ポルトランドセメント及び混合材料を混合して低炭素型コンクリート用混合セメントを得る混合工程と、
請求項1又は2に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法を用いて、前記混合工程で得た低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定を行う品質判定工程と
を有する低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法。
【請求項8】
前記ポルトランドセメントが、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントからなる群より選択される1つ以上である請求項
7に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法。
【請求項9】
前記混合材料が、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材及びバイオマス焼却灰からなる群より選択される1つ以上である請求項
7に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法及び低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気候変動問題は地球規模で深刻となってきており、二酸化炭素排出量を抑制するための具体策が種々検討されている。建設分野においては、二酸化炭素を多量に発生させるとされるセメント製造において、その多くの部分がセメントの主成分であるクリンカ焼成過程で排出されるものであることから、セメント中に占めるクリンカの割合を減じ、その代わりとして混合材料である高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等の副産物の使用割合を増やした種々の低炭素型セメントが着目され、それを用いて製造したコンクリートが徐々に普及しつつある。
【0003】
これら混合セメントは、生コンクリート工場にてセメントと混合材料を配合して生コンクリートを製造する場合と、予め混合工場にてプレミックスしたセメントを生コンクリート工場に出荷する場合が考えられる。前者の場合は、各材料を貯蔵するサイロがそれぞれ必要になる等、設備や場所の制約を受けるため実際には対応が困難となる。
後者の場合は、ユーザーニーズに合わせた配合でプレミックスした混合セメントを自由度高く製造し生コンクリート工場に出荷することができるため合理的である。しかし、混和材割合が高い混合セメントは、混合割合のバラツキが特に初期強度発現性等の物性に大きく影響するため、製造したセメントが所望の配合になっているか、それに見合う強度発現性を有するかを迅速に判定できる品質確認手法が必要であった。
【0004】
かかる要求に対し、例えば、混合セメントの混合割合が所定量となっているかの判定手法として、混合セメントの色調を測定し、混合材料が所定量混合されているかを推定する判定手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の判定手法では、迅速な測定が可能であるが、混合する材料間の色調に差異がない場合、その配合量を推定することが困難であること、実際に基準となる強度に関する管理手法ではないため、強度管理としては精度が望めない課題があることから、新たな品質管理手法が望まれていた。
本発明は、低炭素型コンクリート用混合セメントの28日モルタル圧縮強さを短期間で確認することができる低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法、及び前記品質判定方法を用いた低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の<1>~<10>を提供する。
<1> 混合セメント中のポルトランドセメントの含有量が0質量%を超え55質量%以下である低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法であって、
前記ポルトランドセメント及び混合材料を含み、前記混合材料の含有割合を変更した複数の検量線用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)と、
前記検量線用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)と相関関係があり、加温により促進養生した前記検量線用混合セメントの物性値(X)との関係式を予め求めておき、
被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの物性値(X)を求めることにより、前記被検査試料の28日モルタル圧縮強さ(Y)を予測し、28日モルタル圧縮強さの管理水準値と前記被検査試料の28日モルタル圧縮強さ(Y)を比較することにより前記被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定を行う、低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【0008】
<2> 前記物性値(X)は、前記検量線用混合セメント及び前記被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントに、それぞれ、硬化促進剤を混合して測定する<1>に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【0009】
<3> 前記検量線用混合セメントの加温による促進養生の条件が、30~70℃、かつ6~24時間である<1>又は<2>に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【0010】
<4> 前記物性値(X)が、(i)加温により促進養生したモルタルの1日強度、(ii)加温により促進養生したセメントペーストの1日後の水和反応率、及び(iii)加温による促進養生開始から1日後の積算発熱量からなる群より選択される1つ以上である<1>~<3>のいずれか1つに記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【0011】
<5> 前記ポルトランドセメントが、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントからなる群より選択される1つ以上である<1>~<4>のいずれか1つに記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【0012】
<6> 前記混合材料が、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材及びバイオマス焼却灰からなる群より選択される1つ以上である<1>~<5>のいずれか1つに記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【0013】
<7> 前記硬化促進剤が、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム及びギ酸カルシウムからなる群より選択される1つ以上である<2>に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【0014】
<8> 混合セメント中のポルトランドセメントの含有量が0質量%を超え55質量%以下である低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法であって、
前記ポルトランドセメント及び混合材料を混合して低炭素型コンクリート用混合セメントを得る混合工程と、
<1>~<7>のいずれか1つに記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法を用いて、前記混合工程で得た低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定を行う品質判定工程と
を有する低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法。
【0015】
<9> 前記ポルトランドセメントが、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントからなる群より選択される1つ以上である<8>に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法。
【0016】
<10> 前記混合材料が、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材及びバイオマス焼却灰からなる群より選択される1つ以上である<8>又は<9>に記載の低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低炭素型コンクリート用混合セメントの28日モルタル圧縮強さを短期間で確認することができる低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法、及び前記品質判定方法を用いた低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1で作成した28日モルタル圧縮強さと促進強熱減量による検量線である。
【
図2】実施例1で作成した28日モルタル圧縮強さと促進1日モルタル圧縮強さによる検量線である。
【
図3】実施例1で作成した28日モルタル圧縮強さと促進1日発熱量による検量線である。
【
図4】実施例2で作成した28日モルタル圧縮強さと促進強熱減量による検量線である。
【
図5】実施例2で作成した28日モルタル圧縮強さと促進1日モルタル圧縮強さによる検量線である。
【
図6】実施例2で作成した28日モルタル圧縮強さと促進1日発熱量による検量線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0020】
<品質判定方法>
本発明の品質判定方法は、混合セメント中のポルトランドセメントの含有量が0質量%を超え55質量%以下である低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法であって、
前記ポルトランドセメント及び混合材料を含み、前記混合材料の含有割合を変更した複数の検量線用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)と、
前記検量線用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)と相関関係があり、加温により促進養生した前記検量線用混合セメントの物性値(X)との関係式を予め求めておき、
被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの物性値(X)を求めることにより、前記被検査試料の28日モルタル圧縮強さ(Y)を予測し、28日モルタル圧縮強さの管理水準値と前記被検査試料の28日モルタル圧縮強さ(Y)を比較することにより前記被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定を行う。
【0021】
本実施形態で用いられる低炭素型コンクリート用混合セメントは、混合セメント中のポルトランドセメントの含有量が0質量%を超え55質量%以下である。混合セメント中の混合材料の含有量は、45質量%以上99質量%未満である。
また、「28日モルタル圧縮強さの管理水準値」とは、設計した割合で成分が混合された低炭素型コンクリート用混合セメントの28日モルタル圧縮強さを意味する。
混合セメントの設計時は、実験室において各成分を正確に秤量することができる。しかし、混合工場において混合セメントを製造する際は、しばしば、各成分を計量する設備に不具合が生じて、設計どおりに計量されないことにより、混合割合のバラツキが生じることがあった。低炭素型コンクリート用混合セメントはポルトランドセメントの含有量が少ないために、ポルトランドセメントと混合材料との混合割合のバラツキが特に初期強度(28日モルタル圧縮強さ)発現性等の物性に大きく影響する。
混合工場で製造した混合セメント(実機混合品)を出荷する際に、28日の余裕をもって混合セメントの品質確認を行うことは困難であることから、より迅速に品質確認を行える品質判定方法が望まれていた。
本実施形態に係る品質判定方法は、上記構成とすることで、混合セメントの28日モルタル圧縮強さを短期間で予測することができる。
【0022】
これは、28日モルタル圧縮強さと相関関係がある物性値として、短期間で測定可能な物性値(X)を測定しておくことで、混合セメントを出荷する際に、当該物性値(X)を測定すればよいからである。本発明では、物性値(X)を短期間で測定するために、検量線用混合セメントは、加温により促進養生する。
また、物性値(X)の測定により予測した28日モルタル圧縮強さと、28日モルタル圧縮強さの管理水準値とを比較し、数値の差分等から、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定を容易に行うことができる。
本発明の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法では、特許文献1に記載のような、混合セメントの色調による品質判定ではなく、物性値に基づく品質判定であるため、従来よりも正確に低炭素型コンクリート用混合セメントの28日モルタル圧縮強さを確認することができる。
以下、本発明の品質判定方法について詳細に説明する。
【0023】
〔混合セメント〕
本発明の品質判定方法で用いる混合セメントは、検量線用混合セメントと、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントである。どちらの混合セメントも、含有量が0質量%を超え55質量%以下のポルトランドセメントと、含有量が45質量%以上99質量%未満の混合材料を含む。
【0024】
(検量線用混合セメント)
検量線用混合セメントは、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定に用いる品質判定用の混合セメントであり、検量線を作成するために、混合材料の含有割合を変更し、複数種(例えば、5種類以上)調製する。
例えば、所定の強度を得るために、普通ポルトランドセメント、混合材料A、及び混合材料Bが、それぞれ35質量%、40質量%、及び25質量%と設計された混合セメントにおいては、混合材料Aを30~45質量%、混合材料Bを20~35質量%といった具合に変更すればよい。
【0025】
(被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメント)
被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントは、本発明の品質判定方法により品質判定される混合セメントであり、工場等で製造された混合セメント等である。
なお、本発明の品質判定方法において、検量線用混合セメントが含有する成分、及び、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントが含有する成分の種類は、原則として同じである。
本発明の品質判定方法は、上記の例でいえば、普通ポルトランドセメント:混合材料A:混合材料Bが質量比で35:40:25となることを期待して工場で各成分を混合して得られる実機混合品の品質判定を行うのであり、設計外の成分を意図して混合しないからである。
【0026】
よって、例えば、普通ポルトランドセメントと混合材料Aと混合材料Bのみを含有するよう設計された混合セメントの製造においては、製造される混合セメント(被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメント)も、普通ポルトランドセメントと混合材料Aと混合材料Bのみを含有するはずであるので、品質確認のための検量線用混合セメントも普通ポルトランドセメントと混合材料Aと混合材料Bのみを含有する組成で調製する。
ただし、工場設備内に、設計した組成とは異なる異種のポルトランドセメント及び/又は異種の混合材料が残存していることにより、製造される混合セメント(被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメント)に、意図せず、設計した組成とは異なる成分が混入する可能性は否めない。その場合には、検量線用混合セメントが含有する成分と、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントが含有する成分の種類が異なる。
以下、単に「混合セメント」と記載されている事項は、特に区別して記載しない限り、検量線用混合セメント及び被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの両方に当てはまる。
【0027】
(ポルトランドセメント)
ポルトランドセメントは、特に制限されないが、ポルトランドセメントの含有量が少ない低炭素型コンクリートにおいては、コンクリート強度を向上する観点から、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントからなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。
混合セメント中のポルトランドセメントの含有量は0質量%を超え55質量%以下であり、5質量%以上55質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
ポルトランドセメントとして普通ポルトランドセメントを用いる場合は、混合セメント中の普通ポルトランドセメントの含有量は、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
ポルトランドセメントとして早強ポルトランドセメントを用いる場合は、混合セメント中の早強ポルトランドセメントの含有量は、5質量%以上45質量%以下であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
(混合材料)
混合材料とは、ポルトランドセメントに混合される材料であって、硬化促進剤以外の材料である。
硬化促進剤は、物性値(X)を短期間で測定するために、検量線用混合セメント及び被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントに、それぞれ、混合し得る薬剤であり、混合セメントの構成成分ではない。
混合材料は、具体的には、例えば、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材、バイオマス焼却灰等が挙げられる。混合材料は1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
混合材料は、混合セメント中の含有量が45質量%以上99質量%未満となる範囲で混合セメントに含まれる。
【0029】
〔検量線の作成〕
本発明の品質判定方法では、まず、混合材料の含有割合を変更した複数の検量線用混合セメントを調製し、各検量線用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)を測定する。次いで、各検量線用混合セメントについて、28日モルタル圧縮強さ(Y)と相関関係がある物性値(X)を測定する。
ここで、物性値(X)は、短期間で測定可能な物性値であることが好ましく、1~3日材齢の各種物性値、例えば、モルタル圧縮強さ、積算発熱量、水和反応率等を測定することが好ましい。この際、混合セメントを加温により促進養生することにより、短期間で物性値(X)を得ることができる。促進養生の条件は、30~70℃、かつ6~24時間であることが好ましい。
【0030】
物性値(X)を短期間で測定するため、物性値(X)は、検量線用混合セメントに硬化促進剤を混合して測定してもよい。
硬化促進剤は、例えば、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、ギ酸カルシウム等が挙げられる。硬化促進剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
硬化促進剤を用いる場合、混合セメントと硬化促進剤との混合物中の硬化促進剤の含有量は、0.5~5質量%であることが好ましく、1~3質量%であることがより好ましい。
【0031】
物性値(X)は、(i)加温により促進養生したモルタルの1日強度(1日モルタル圧縮強さ)、(ii)加温により促進養生したセメントペーストの1日後の水和反応率、及び(iii)加温による促進養生開始から1日後の積算発熱量からなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。
測定する物性値(X)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。複数種の物性値(X)を測定した方が、より正確な品質判定を行うことができる。
物性値(X)は、(i)~(iii)のいずれであっても、被検査試料の28日モルタル圧縮強さ(Y)を短期間で容易に予測可能であるが、汎用性の観点から、(i)~(iii)の中でも、(i)が好ましい。
28日モルタル圧縮強さ(Y);並びに、物性値(X)としての1日モルタル圧縮強さ、水和反応率、及び積算発熱量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
複数の検量線用混合セメントについて、28日モルタル圧縮強さ(Y)と、物性値(X)を測定したら、例えば、縦軸を28日モルタル圧縮強さ(Y)、横軸を物性値(X)として、各検量線用混合セメントの測定値をプロットし、検量線を得る。
【0033】
一方、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントについて、検量線用混合セメントを用いて測定した物性値(X)と同じ種の物性値(X)を求める。得られた測定値と、検量線とから、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)を予測することができる。
【0034】
被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの物性値(X)の測定は、検量線用混合セメントの物性値(X)の測定と同様に行うことが好ましく、混合セメントを加温により促進養生することにより、短期間で物性値(X)を測定することが好ましい。促進養生の条件は、30~70℃、かつ6~24時間であることが好ましい。また、物性値(X)を短期間で測定するため、物性値(X)は、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントに硬化促進剤を混合して測定してもよい。用い得る硬化促進剤の種類は上述のとおりである。
【0035】
更に、検量線を用いて得られた予測値(被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y))と、28日モルタル圧縮強さの管理水準値とを比較することにより、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質を判定することができる。
既述のとおり、「28日モルタル圧縮強さの管理水準値」とは、設計した割合で成分が混合された低炭素型コンクリート用混合セメントの28日モルタル圧縮強さを意味する。本来、この設計時に確認した28日モルタル圧縮強さが得られることを期待して、工場で各成分を混合し、実機混合品を得る。実機混合品の予測値が管理水準値と同じであれば、計量不備がなく、設計どおりに混合セメントが製造されたと考えることができる。また、実機混合品の予測値が管理水準値に対して、例えば±5%以内を許容範囲と定めている場合に、予測値がその範囲から外れる場合には、混合材料を混合して、品質を調整することができる。
【0036】
上記の方法により、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質を短期間(例えば、1~3日間)で判定することができる。特に、28日モルタル圧縮強さという具体的な物性について、数値により品質を判定することができるため、従来よりも正確に品質判定を行うことができる。
【0037】
<低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法>
本発明の低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法は、混合セメント中のポルトランドセメントの含有量が0質量%を超え55質量%以下である低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法であって、
前記ポルトランドセメント及び混合材料を混合して低炭素型コンクリート用混合セメントを得る混合工程と、
本発明の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法を用いて、前記混合工程で得た低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定を行う品質判定工程と
を有する。
すなわち、混合工程において低炭素型コンクリート用混合セメントを製造しつつ、当該低炭素型コンクリート用混合セメントを、本発明の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法における「被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメント」として、物性値(X)を求めることにより、前記被検査試料の28日モルタル圧縮強さ(Y)を予測し、品質判定を行う。
【0038】
上記のとおり、本発明の低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法を用いれば、製造した低炭素型コンクリート用混合セメントについて、短期間で、かつ正確に品質判定を行うことができる。
【0039】
混合工程で製造される低炭素型コンクリート用混合セメントは、既述のとおり、混合セメント中の含有量が、0質量%を超え55質量%以下のポルトランドセメントを含有する。ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントからなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。
また、混合材料は、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材及びバイオマス焼却灰からなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。
【0040】
混合工程における各成分の混合の手段としては特に限定されない。例えば、ミキサー、ボールミル、ロッシェミル、エアーブレンディングサイロ等が挙げられる。混合時間は、通常のセメント製造において十分に混合が行われたと判断される範囲で設定することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
<混合セメントの製造に用いた成分>
(1)ポルトランドセメント
・普通ポルトランドセメント(c1)(住友大阪セメント株式会社製)
・早強ポルトランドセメント(c2)(住友大阪セメント株式会社製)
(2)混合材料
・高炉水砕スラグ微粉末(m1)(エスメント中部株式会社製、商品名:エスメント)
・フライアッシュ(m2)(株式会社テクノ中部社製、JISA6201規定のII種品)
・シリカフューム(m3)(エルケム社製、商品名:920D)
【0043】
〔実施例1〕
実施例1は、普通ポルトランドセメント(c1)、高炉水砕スラグ微粉末(m1)、フライアッシュ(m2)、及びシリカフューム(m3)を、質量比で、c1:m1:m2:m3=35:40:20:5と設計した混合セメントAを、工場で製造した場合を想定している。
【0044】
(検量線用混合セメントの製造)
表1の「配合A1」~「配合A6」欄に示す配合割合にて、普通ポルトランドセメント、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、及びシリカフュームを混合し、6種類の検量線用混合セメントA1~A6を製造した。
【0045】
(混合セメントAの製造)
表1の「設計A」欄に示す配合割合にて、普通ポルトランドセメント、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、及びシリカフュームを混合し、管理水準値測定用の混合セメントAを製造した。
【0046】
〔実施例2〕
実施例2は、早強ポルトランドセメント(c2)、高炉水砕スラグ微粉末(m1)、フライアッシュ(m2)、及びシリカフューム(m3)を、質量比で、c2:m1:m2:m3=20:55:20:5と設計した混合セメントBを、工場で製造した場合を想定している。
【0047】
(検量線用混合セメントの製造)
表2の「配合B1」~「配合B6」欄に示すに示す配合割合にて、早強ポルトランドセメント、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、及びシリカフュームを混合し、6種類の検量線用混合セメントB1~B6を製造した。
【0048】
(混合セメントBの製造)
表2の「設計B」欄に示す配合割合にて、早強ポルトランドセメント、高炉水砕スラグ微粉末、フライアッシュ、及びシリカフュームを混合し、管理水準値測定用の混合セメントBを製造した。
【0049】
<物性値(X)と28日モルタル圧縮強さ(Y)の測定>
混合セメントA、検量線用混合セメントA1~A6、混合セメントB及び検量線用混合セメントB1~B6について、下記方法により、物性値(X)と28日モルタル圧縮強さ(Y)を測定した。
【0050】
1.物性値(X)
物性値(X)として、(i)加温により促進養生したモルタルの1日強度、(ii)加温により促進養生したセメントペーストの1日後の水和反応率、及び(iii)加温による促進養生開始から1日後の積算発熱量を測定した。
【0051】
(i)加温により促進養生したモルタルの1日強度
各混合セメントに対し、塩化カルシウムを外割で1質量%添加し、混合セメント(塩化カルシウムを含む)が340g、水が204g、砂が1350gとなる割合で、各成分を混練した(水/混合セメント(塩化カルシウムを含む)が質量比で0.6)。砂は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠する標準砂を用いた。
混練物をJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠したモルタル用型枠を使用して、混練物を型枠に入れた。型枠をビニール袋で密閉し、40℃恒温槽内に入れて24時間養生した後、脱型し、モルタルの圧縮強度を測定した。
結果を、表1及び表2の「促進1日モルタル圧縮強さ」欄に示す。
【0052】
(ii)加温により促進養生したセメントペーストの1日後の水和反応率
各混合セメントに対し、塩化カルシウムを外割で1質量%添加し、水/混合セメント(塩化カルシウムを含む)が質量比で0.28となるように水を混合して混練物を得た。混練物を容器に入れて密封し、45℃で24時間養生した。その後、容器からモルタルを取り出し、粒径1mmの篩に全て通るように粉砕した。粉砕物を70℃で1時間乾燥し、乾燥物を秤量した。乾燥物を750℃で30分強熱した後の乾燥物を秤量して、減量を求めた。
結果を、表1及び表2の「促進強熱減量」欄に示す。
【0053】
(iii)加温による促進養生開始から1日後の積算発熱量
各混合セメント10gを専用試料カップに計量し、注水用の水5gを東京理工社製コンダクションカロリーメーターにセットした。設定温度45℃にて、注水してから24時間後の積算水和熱(積算発熱量)を測定した。
結果を、表1及び表2の「促進1日発熱量」欄に示す。
【0054】
2.28日モルタル圧縮強さ(Y)
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して、各混合セメントのモルタルの28日モルタル圧縮強さを測定した。
結果を、表1及び表2の「28日モルタル圧縮強さ」欄に示す。
【0055】
【0056】
配合A1~配合A6の28日モルタル圧縮強さ(Y)(N/mm
2)を縦軸(y)、配合A1~配合A6の物性値(X)〔促進強熱減量(%)、促進1日モルタル圧縮強さ(N/mm
2)、又は促進1日発熱量(J/g))を横軸(x)にとり、3種類の検量線を作成した。
28日モルタル圧縮強さと促進強熱減量による検量線は、y=2.3849x-7.6833(決定係数、R
2=0.9372);
28日モルタル圧縮強さと促進1日モルタル圧縮強さによる検量線は、y=1.5099x+0.1213(決定係数、R
2=0.9246);
28日モルタル圧縮強さと促進1日発熱量による検量線は、y=0.3281x-34.177(決定係数、R
2=0.9259)
であった。
上記配合A1~配合A6に基づく3つの検量線を、
図1~
図3に示す。
【0057】
表1の「設計A」における「28日モルタル圧縮強さ」の数値が、実施例1における「28日モルタル圧縮強さの管理水準値」であり、実施例1においては、強度推定値の許容差を±5%と定めた。すなわち、実施例1における28日モルタル圧縮強さの許容範囲は、35.7±1.79N/mm2であり、範囲で示すと33.9~37.5N/mm2となる。
例えば、混合工場で製造された実機混合品(被検査試料)について、促進1日モルタル圧縮強さを測定し、24.8N/mm2であった場合、実機混合品の28日モルタル圧縮強さ(Y)は、検量線から35.6N/mm2と予測され、許容範囲内であることがわかる。
また、例えば、混合工場で製造された実機混合品(被検査試料)について、促進強熱減量(水和反応率)を測定し、17.8%であった場合、実機混合品の28日モルタル圧縮強さ(Y)は、検量線から34.8N/mm2と予測され、許容範囲内であることがわかる。
更に、例えば、混合工場で製造された実機混合品(被検査試料)について、促進1日発熱量を測定し、218J/gであった場合、実機混合品の28日モルタル圧縮強さ(Y)は、検量線から37.3N/mm2と予測され、許容範囲内であることがわかる。
【0058】
【0059】
配合B1~配合B6の28日モルタル圧縮強さ(Y)(N/mm
2)を縦軸(y)、配合B1~配合B6の物性値(X)〔促進強熱減量(%)、促進1日モルタル圧縮強さ(N/mm
2)、又は促進1日発熱量(J/g))を横軸(x)にとり、3種類の検量線を作成した。
28日モルタル圧縮強さと促進強熱減量による検量線は、y=1.0626x+13.445(決定係数、R
2=0.8687);
28日モルタル圧縮強さと促進1日モルタル圧縮強さによる検量線は、y=0.9464x+10.145(決定係数、R
2=0.9312);
28日モルタル圧縮強さと促進1日発熱量による検量線は、y=0.1763x-0.3161(決定係数、R
2=0.9262)
であった。
上記配合B1~配合B6に基づく3つの検量線を、
図4~
図6に示す。
【0060】
表2の「設計B」における「28日モルタル圧縮強さ」の数値が、実施例2における「28日モルタル圧縮強さの管理水準値」であり、実施例2においては、強度推定値の許容差を±5%と定めた。すなわち、実施例2における28日モルタル圧縮強さの許容範囲は、31.0±1.6N/mm2であり、範囲で示すと29.5~32.6N/mm2となる。
例えば、混合工場で製造された実機混合品(被検査試料)について、促進1日モルタル圧縮強さを測定し、21.2N/mm2であった場合、実機混合品の28日モルタル圧縮強さ(Y)は、検量線から30.2N/mm2と予測され、許容範囲内であることがわかる。
また、例えば、混合工場で製造された実機混合品(被検査試料)について、促進強熱減量(水和反応率)を測定し、17.2%であった場合、実機混合品の28日モルタル圧縮強さ(Y)は、検量線から31.7N/mm2と予測され、許容範囲内であることがわかる。
更に、例えば、混合工場で製造された実機混合品(被検査試料)について、促進1日発熱量を測定し、173J/gであった場合、実機混合品の28日モルタル圧縮強さ(Y)は、検量線から30.2N/mm2と予測され、許容範囲内であることがわかる。
【要約】
【課題】低炭素型コンクリート用混合セメントの28日モルタル圧縮強さを短期間で確認することができる品質判定方法、及び前記品質判定方法を用いた低炭素型コンクリート用混合セメントの製造方法を提供する。
【解決手段】混合セメント中のポルトランドセメントの含有量が0質量%を超え55質量%以下である低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法であって、ポルトランドセメント及び混合材料を含み、混合材料の含有割合を変更した複数の検量線用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)と、検量線用混合セメントの28日モルタル圧縮強さ(Y)と相関関係があり、加温により促進養生した検量線用混合セメントの物性値(X)との関係式を予め求めておき、被検査試料の低炭素型コンクリート用混合セメントの物性値(X)を求める、低炭素型コンクリート用混合セメントの品質判定方法。
【選択図】なし