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特許7444322リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20240228BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240228BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240228BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240228BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240228BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 D
H01M4/36 C
H01M4/133
H01M10/0566
H01M10/0525
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023114713
(22)【出願日】2023-07-12
【審査請求日】2023-07-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 陽
(72)【発明者】
【氏名】徳田 義徹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 崇
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-092649(JP,A)
【文献】特開2007-324067(JP,A)
【文献】特開2009-245613(JP,A)
【文献】特開2020-177932(JP,A)
【文献】特開2023-073103(JP,A)
【文献】国際公開第2023/139662(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/015054(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件1A及び条件1Bを満たす第1黒鉛粒子と、
下記条件2A及び条件2Bを満たす第2黒鉛粒子と、を含み、
第2黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~55質量%であり、
第1黒鉛粒子が複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が前記天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されており、体積基準の粒度分布におけるD10が7μm~13μmであり、D90が14μm~25μmである、リチウムイオン二次電池用負極材。
条件1A:静置法によるゆるみ見掛け密度T1が0.60g/cc以上であり、30回タップ法による見掛け密度T2が0.80g/cc以上であり、250回タップ法による見掛け密度T3が1.00g/cc以上であり、次式で示される圧縮度の値が19%以下である
圧縮度(%)=[(T2-T1)/T3]×100
条件1B:亜麻仁油吸油量が40mL/100g~55mL/100gである
条件2A:体積基準の粒度分布におけるD0.1が5μm以下である
条件2B:亜麻仁油吸油量が55mL/100g~75mL/100gである
【請求項2】
第1黒鉛粒子の体積基準の粒度分布におけるD0.1が5μm超である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
下記条件3A及び条件3Bを満たす第3黒鉛粒子をさらに含み、
第3黒鉛粒子が複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が前記天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
条件3A:体積基準の粒度分布において、第1黒鉛粒子のD50に対する第3黒鉛粒子のD50の比(第3黒鉛粒子のD50/第1黒鉛粒子のD50)が0.55~0.75の範囲である
条件3B:亜麻仁油吸油量が40mL/100g~55mL/100gである
【請求項4】
第3黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~25質量%である、請求項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
下記条件1A及び条件1Bを満たす第1黒鉛粒子と、
下記条件2A及び条件2Bを満たす第2黒鉛粒子と、
下記条件3A及び条件3Bを満たす第3黒鉛粒子と、を含み、
第2黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~55質量%であり、
第1黒鉛粒子が複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が前記天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている、リチウムイオン二次電池用負極材。
条件1A:静置法によるゆるみ見掛け密度T1が0.60g/cc以上であり、30回タップ法による見掛け密度T2が0.80g/cc以上であり、250回タップ法による見掛け密度T3が1.00g/cc以上であり、次式で示される圧縮度の値が19%以下である
圧縮度(%)=[(T2-T1)/T3]×100
条件1B:亜麻仁油吸油量が40mL/100g~55mL/100gである
条件2A:体積基準の粒度分布におけるD0.1が5μm以下である
条件2B:亜麻仁油吸油量が55mL/100g~75mL/100gである
第3黒鉛粒子が複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が前記天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
条件3A:体積基準の粒度分布において、第1黒鉛粒子のD50に対する第3黒鉛粒子のD50の比(第3黒鉛粒子のD50/第1黒鉛粒子のD50)が0.55~0.75の範囲である
条件3B:亜麻仁油吸油量が40mL/100g~55mL/100gである
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液とを含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は小型、軽量、かつ高エネルギー密度という特性を活かし、従来よりノート型PC、携帯電話、スマートフォン、タブレット型PC等の電子機器に広く使用されている。近年、CO排出による地球温暖化等の環境問題を背景に、電池のみで走行を行うクリーンな電気自動車(EV)、ガソリンエンジンと電池を組み合わせたハイブリッド電気自動車(HEV)等が普及している。また、最近では、電力貯蔵用にも用いられており、多岐の分野においてその用途は拡大している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極材は、その性能が、リチウムイオン二次電池の特性に大きく影響する。リチウムイオン二次電池用負極材の材料としては、炭素材料が広く用いられている。負極材に使用される炭素材料は、黒鉛と、黒鉛より結晶性の低い炭素材料(非晶質炭素等)とに大別される。黒鉛は、炭素原子の六角網面が規則正しく積層した構造を有し、リチウムイオン二次電池の負極材としたときに六角網面の端部よりリチウムイオンの挿入及び脱離反応が進行し、充放電が行われる。
【0004】
非晶質炭素は、六角網面の積層が不規則であるか、六角網面を有しない。このため、非晶質炭素を用いた負極材では、リチウムイオンの挿入及び脱離反応が負極材の全表面で進行する。そのため、負極材として黒鉛を用いる場合よりも入出力特性に優れるリチウムイオン電池が得られやすい(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。一方、非晶質炭素は黒鉛よりも結晶性が低いため、エネルギー密度が黒鉛よりも低い。
上記のような炭素材料の特性を考慮し、非晶質炭素と黒鉛とを複合化して高いエネルギー密度を維持しつつ入出力特性を高め、かつ黒鉛を非晶質炭素で被覆した状態とすることで表面の反応性を低減させ、初期の充放電効率を良好に維持しつつ入出力特性を高めた負極材も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-370662号公報
【文献】特開平5-307956号公報
【文献】国際公開第2012/015054号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EV、HEV等の自動車用途向けのリチウムイオン二次電池においては、回生エネルギーの電力の充電と、モーター駆動用に放電するため、高い入出力特性(すなわち、優れた放電負荷特性)が求められる。さらに、自動車は外気温の影響を受けやすく、リチウムイオン二次電池が夏場又は冬場などに過酷な状態に晒される。そのため、自動車用途向けのリチウムイオン二次電池は低温充電特性と高温保存特性との両立が求められる。さらに、近年の自動車用途向けのリチウムイオン二次電池は、充電時間の短縮化のためパルスでの充電特性も求められている。
【0007】
本開示の一態様では、放電負荷特性、低温充電特性、高温保存特性、およびパルス充電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材並びにそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1>下記条件1A及び条件1Bを満たす第1黒鉛粒子と、
下記条件2A及び条件2Bを満たす第2黒鉛粒子と、を含み、
第2黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~55質量%であり、
第1黒鉛粒子が複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が前記天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている、リチウムイオン二次電池用負極材。
条件1A:静置法によるゆるみ見掛け密度T1が0.60g/cc以上であり、30回タップ法による見掛け密度T2が0.80g/cc以上であり、250回タップ法による見掛け密度T3が1.00g/cc以上であり、次式で示される圧縮度の値が19%以下である
圧縮度(%)=[(T2-T1)/T3]×100
条件1B:亜麻仁油吸油量が40mL/100g~55mL/100gである
条件2A:体積基準の粒度分布におけるD0.1が5μm以下である
条件2B:亜麻仁油吸油量が55mL/100g~75mL/100gである
<2>第1黒鉛粒子の体積基準の粒度分布におけるD10が7μm~13μmであり、D90が14μm~25μmである、<1>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<3>第1黒鉛粒子の体積基準の粒度分布におけるD0.1が5μm超である、<1>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<4>下記条件3A及び条件3Bを満たす第3黒鉛粒子をさらに含み、
第3黒鉛粒子が複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が前記天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている、<1>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
条件3A:体積基準の粒度分布において、第1黒鉛粒子のD50に対する第3黒鉛粒子のD50の比(第3黒鉛粒子のD50/第1黒鉛粒子のD50)が0.55~0.75の範囲である
条件3B:亜麻仁油吸油量が40mL/100g~55mL/100gである
<5>第3黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~25質量%である、<4>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<6><1>~<5>のいずれか1項に記載の負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
<7><6>に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解液とを含むリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様では、放電負荷特性、低温充電特性、高温保存特性、およびパルス充電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材並びにそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試料電極をプレスした際の油圧(t)と電極密度(g/cm)の関係を示す図である。
図2】試料電極をプレスした際の油圧(t)と電極密度(g/cm)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、負極材中及び組成物中における各成分の含有率及び含有量は、負極材中及び組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、負極材中及び組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率及び含有量を意味する。
本開示において負極材中及び組成物中の各成分の粒子径は、負極材中及び組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、負極材中及び組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部のみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語には、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
【0012】
<リチウムイオン二次電池用負極材>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材(以下、単に負極材ともいう)は、
下記条件1A及び条件1Bを満たす第1黒鉛粒子と、
下記条件2A及び条件2Bを満たす第2黒鉛粒子と、を含み、
第2黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~55質量%であり、
第1黒鉛粒子が複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が前記天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている。
条件1A:静置法によるゆるみ見掛け密度T1が0.60g/cc以上であり、30回タップ法による見掛け密度T2が0.80g/cc以上であり、250回タップ法による見掛け密度T3が1.00g/cc以上であり、次式で示される圧縮度の値が19%以下である
圧縮度(%)=[(T2-T1)/T3]×100
条件1B:亜麻仁油吸油量が40mL/100g~55mL/100gである
条件2A:体積基準の粒度分布におけるD0.1が5μm以下である
条件2B:亜麻仁油吸油量が55mL/100g~75mL/100gである
【0013】
後述する実施例に示すように、本開示の負極材を使用することで、入出力特性、低温充電特性、高温保存特性およびパルス充電特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる。
【0014】
(第1黒鉛粒子)
第1黒鉛粒子の静置法によるゆるみ見掛け密度T1は0.60g/cc以上であり、30回タップ法による見掛け密度T2は0.80g/cc以上であり、250回タップ法による見掛け密度T3は1.00g/cc以上である。
【0015】
リチウムイオン二次電池の負極は、銅箔等の集電体の上に負極材を含むスラリーを用いて形成した塗膜を乾燥して得られる。
リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化のためには、塗膜中の負極材の充填密度を高めること、言い換えれば塗膜の高密度化が必要である。
発明者による鋭意検討の結果、塗膜の形成に使用するスラリーの固形分含量が充分に大きいと良好な塗膜を形成し得ること、及び、第1黒鉛粒子の見掛け密度が上記条件を満たす場合に充分に大きいスラリーの固形分含量を達成できることがわかった。
第1黒鉛粒子の見掛け密度が上記条件を満たしていると、塗工時の膜厚の変動が小さく、十分な密着強度を得るために必要な結着剤の配合量を低減でき、実効容量の低下が抑制される傾向にある。
【0016】
さらに、第1黒鉛粒子の見掛け密度が上記条件を満たしていると、塗膜の電極密度が高くなり、目的の電極密度を得るために必要なプレス圧を低くできる傾向にある。プレス圧を低くすることにより、負極の厚み方向に垂直な方向における黒鉛粒子の配向性が低くなり、充放電時のリチウムイオンの出し入れをしやすくなる。その結果、低温充電特性、放電負荷特性等の入出力特性がより優れるリチウムイオン二次電池が得られる傾向にある。
【0017】
第1黒鉛粒子のT1は0.62g/cc以上であることが好ましく、0.65g/cc以上であることがより好ましい。T1の上限は特に限定されないが、例えば、0.80g/cc以下であってもよい。
第1黒鉛粒子のT2は0.81g/cc以上であることが好ましく、0.82g/cc以上であることがより好ましい。T2の上限は特に限定されないが、例えば、1.00g/cc以下であってもよい。
第1黒鉛粒子のT3は1.03g/cc以上であることが好ましく、1.05g/cc以上であることがより好ましい。T3の上限は特に限定されないが、例えば、1.20g/cc以下であってもよい。
【0018】
第1黒鉛粒子の見掛け密度から計算される圧縮度の値は、19%以下である。第1黒鉛粒子の見掛け密度が上述した範囲内であると、圧縮度の値が小さくなる傾向にある。
リチウムイオン二次電池では、充放電により負極材としての炭素材料が膨張収縮を繰り返す。このため、炭素材料と集電体との密着性が低いと炭素材料が集電体から剥離し、充放電容量が低下してサイクル特性が悪化するおそれがある。
負極材に含まれる第1黒鉛粒子の圧縮度が19%以下であると、負極材と集電体との密着性が向上する傾向にある。そのため、本実施形態の負極材を用いることにより、充放電により炭素材料が膨張収縮を繰り返した場合にあっても、炭素材料と集電体との密着性が良好に維持され、高温保存特性、サイクル特性等の寿命特性に優れるリチウムイオン二次電池が得られる傾向にある。
【0019】
第1黒鉛粒子の圧縮度は18%以下であることが好ましく、17%以下であることがより好ましい。圧縮度の下限は特に限定されないが、例えば、13%以上であってもよく、14%以上であってもよい。
【0020】
第1黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量は、40mL/100g~55mL/100gである。
黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量は、粒子間の空隙を間接的に定量化する指標であり、亜麻仁油吸油量の値が大きいほど粒子間の空隙が多いと判断できる。
黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量は、黒鉛粒子の粒度、粒度分布、粒子形状、タップ密度等の影響を受ける。
第1黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量が40mL/100g以上であると、負極材の充填が進みすぎず、乾燥条件等により塗膜の厚さが変動しにくい、プレスによって塗膜密度が上昇する際の密度の変動が生じにくい等の利点がある。更に、プレスによる残留応力が小さいために、負極が集電体から剥離しにくく、入出力特性及びサイクル特性が劣化しにくい傾向にある。
第1黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量は41mL/100g以上であることが好ましく、42mL/100g以上であることがより好ましい。
【0021】
第1黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量が55mL/100g以下であると、大きい粒子間の空隙に対する微細粒子の量が多すぎず、電解液の浸透が円滑に行われやすい。さらに、リチウムイオンの拡散抵抗が小さくなり、電池性能全般、中でも連続での充電受入性(パルス充電特性)が劣化しにくい傾向にある。
第1黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量は53mL/100g以下であることが好ましく、50mL/100g以下であることがより好ましい。
【0022】
第1黒鉛粒子は、体積基準の粒度分布におけるD10が7μm~13μmの範囲内であり、D90が14μm~25μmの範囲内であることが好ましい。
【0023】
第1黒鉛粒子のD10が7μm以上でありD90が14μm以上であると、粒子が小さすぎず比表面積が大きすぎない傾向にあり、良好な充放電効率及び高い放電容量が得られる傾向にある。
第1黒鉛粒子のD10が13μm以下でありD90が25μm以下であると、粒子が大きすぎず、低温充電受入、放電負荷特性等の入出力特性の劣化が抑制される傾向にある。加えて、高温保存特性、サイクル特性等の寿命特性の劣化が抑制される傾向にある。
第1黒鉛粒子のD10は7.1μm~12.5μmであることが好ましく、7.5μm~10.0μmであることがより好ましい。
第1黒鉛粒子のD90は14.5μm~24.5μmであることが好ましく、15.0μm~20.0μmであることがより好ましい。
【0024】
第1黒鉛粒子は、体積基準の粒度分布におけるD0.1が5μmより大きいことが好ましく、5.2μm以上であることがより好ましく、5.5μm以上であることがさらに好ましい。
第1黒鉛粒子のD0.1が5μmより大きいと、粒子が小さすぎず比表面積が大きすぎない傾向にあり、良好な充放電効率及び高い放電容量が得られる傾向にある。
第1黒鉛粒子のD0.1の上限値は特に制限されないが、例えば、10μm以下、8μm以下、又は7μm以下であってもよい。
【0025】
第1黒鉛粒子は、体積基準の粒度分布におけるD50が8μm以上であることが好ましく、8.5μm以上であることがより好ましく、9μm以上であることがさらに好ましい。
【0026】
第1黒鉛粒子は、体積基準の粒度分布におけるD50が20μm以下であることが好ましく、19μm以下であることがより好ましく、18μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
本開示において、黒鉛粒子のD0.1、D10、D50及びD90は、体積基準の粒度分布において小粒子側からの分布の累積頻度がそれぞれ0.1%、10%、50%及び90%に達する点の粒子径を意味する。体積基準の粒度分布は、レーザー回折法によって測定する。
【0028】
第1黒鉛粒子は、複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている。
第1黒鉛粒子の表面の少なくとも一部が天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材(以下、低結晶炭素ともいう)で被覆されていることで、充放電反応に寄与する核材となる黒鉛粒子の表面露出が抑制される。その結果、リチウムイオン二次電池を作製した際、負極材の表面における電解液の分解反応が抑制されて初回効率、サイクル特性及びパルス充電特性の低下が抑制される傾向にある。
【0029】
核材となる黒鉛粒子100質量部に対する低結晶炭素の量は、例えば、1質量部~20質量部の範囲内であってもよく、1質量部~10質量部の範囲内であってもよい。
【0030】
第1黒鉛粒子は、天然黒鉛粒子に対して球状化、粉砕等の加工を施して得られる。第1黒鉛粒子の形状としては、球状、塊状等が挙げられる。
第1黒鉛粒子の製造に使用する天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等が挙げられる。
第1黒鉛粒子の製造に使用する天然黒鉛は、精製処理によって高純度化することが好ましい。精製処理の方法は特に制限されず、通常用いられる精製処理方法から適宜選択することができる。例えば、浮遊選鉱、電気化学処理、薬品処理等を挙げることができる。
【0031】
第1黒鉛粒子の製造に使用する天然黒鉛の純度は、質量基準で99.8%以上(灰分0.2%以下)であることが好ましく、99.9%以上(灰分0.1%以下)であることがより好ましい。純度が99.8%以上であることで電池の安全性がより向上し、電池性能がより向上する傾向にある。天然黒鉛の純度は、例えば、100gの黒鉛を空気雰囲気で800℃の炉に48時間以上静置したのち、灰分に由来する残量を測定することで算出することができる。
【0032】
核材となる黒鉛粒子の表面を低結晶炭素で被覆する方法は、特に限定されない。例えば、核材となる黒鉛粒子と、加熱により低結晶炭素に変化する物質(以下、低結晶炭素の前駆体ともいう)と、を含む混合物を熱処理する工程を含む方法であってもよい。
低結晶炭素の前駆体は特に制限されず、ピッチ、有機高分子化合物等が挙げられる。ピッチとしては、例えば、エチレンヘビーエンドピッチ、原油ピッチ、コールタールピッチ、アスファルト分解ピッチ、ポリ塩化ビニル等を熱分解して作製されるピッチ、及びナフタレン等を超強酸存在下で重合させて作製されるピッチが挙げられる。有機高分子化合物としては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等の熱可塑性樹脂、デンプン、セルロース等の天然物質などが挙げられる。
第1黒鉛粒子の製造に使用する核材となる黒鉛粒子及び低結晶炭素の前駆体は、それぞれ1種単独であっても2種以上であってもよい。
核材となる黒鉛粒子と、低結晶炭素の前駆体と、を含む混合物を熱処理する際の温度は、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池におけるサイクル特性を向上させる点から、900℃~1500℃であることが好ましい。
上記方法において、熱処理前の混合物中の核材となる黒鉛粒子の含有率は、特に制限されない。リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させる点から、核材となる黒鉛粒子の含有率は、混合物の総質量に対して、90質量%~99.9質量%であることが好ましい。
【0033】
第1黒鉛粒子の77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積(N比表面積)は、特に制限されないが、例えば、2.5m/g~5m/gであることが好ましく、3m/g~5m/gであることがさらに好ましい。第1黒鉛粒子のN比表面積が上記範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の初回充放電効率、入出力特性及びサイクル特性の良好なバランスが得られる傾向にある。
黒鉛粒子のN比表面積は、後述する実施例に記載の方法にて測定される。
【0034】
第1黒鉛粒子のラマン分光測定のR値は、特に制限されないが、例えば、0.2~1.0であることが好ましく、0.2~0.8であることがさらに好ましい。第1黒鉛粒子のR値が0.2以上であると、リチウムイオンの出し入れに用いられる黒鉛格子欠陥が充分存在し、入出力特性の低下が抑制される傾向にある。第1黒鉛粒子のR値が1.0未満であると、電解液の分解反応が充分に抑制され、初回効率の低下が抑制される傾向にある。
本開示において黒鉛粒子のR値は、ラマン分光測定において得られたラマン分光スペクトルにおいて、1580cm-1付近の最大ピークの強度Igと、1360cm-1付近の最大ピークの強度Idの強度比(Id/Ig)とする。
黒鉛粒子のR値は、後述の実施例に記載の方法にて測定される。
【0035】
第1黒鉛粒子のCO吸着量は、特に制限されないが、例えば、0.10cm/g~0.40cm/gであることが好ましく、0.10cm/g~0.30cm/gであることがより好ましく、0.10cm/g~0.20cm/gであることがさらに好ましい。COは飽和蒸気圧が高く、また、CO分子の運動エネルギーは極めて高いため、相互作用の弱い黒鉛骨格のベーサル面には吸着されにくい。しかし、格子欠陥等の部分に発生する凹凸、すなわちウルトラマイクロ孔には、極めて強い吸着相互作用によりCO分子が吸着されることが分かっている。一方で、格子欠陥は、格子の乱れがあり双極子モーメントが偏り極性を持ち、酸化還元反応の活性点となり電解液の分解反応活性であることが知られている。黒鉛粒子のCO吸着量が前述の範囲である場合、リチウムイオンが黒鉛層間の挿入脱離のサイトとなる個所は残しつつも、電解液等の過剰な分解反応を抑制することができると考えられる。電解液の分解物は活物質表面にSEI(Solid Electrolyte Interphase)膜を形成するため、入出力特性の抵抗成分となることも知られている。そのため、黒鉛粒子のCO吸着量を前述の範囲にし、電解液分解等の過剰な副反応を抑制することにより、優れた入出力特性及び高温保存特性が得られる。
黒鉛粒子のCO吸着量は、後述の実施例に記載の方法にて測定される。
【0036】
第1黒鉛粒子の平均面間隔d002は、特に制限されないが、例えば、0.335nm~0.339nmの範囲の黒鉛粒子であることが好ましい。特に、充放電容量増大の観点から、d002が0.335nm~0.338nmの範囲がより好ましく、0.335nm~0.337nmの範囲がさらに好ましい。平均面間隔d002が0.335nm~0.337nmの範囲の黒鉛粒子を用いた場合、充放電容量が330mAh/g~370mAh/gと大きく良好なリチウムイオン二次電池が得られる傾向にある。
黒鉛粒子の平均面間隔d002は、後述の実施例に記載の方法にて測定される。
【0037】
第1黒鉛粒子の平均円形度の範囲は、特に制限されないが、例えば、0.74以上であることが好ましく、0.80以上であることがさらに好ましい。
第1黒鉛粒子の平均円形度が0.74以上であることで、仮に黒鉛粒子が分子間相互作用により凝集体を形成したとしても、その粒子間の空隙に吸収されたバインダー等の成分局在化を抑制することができ、密着性に優れた電極が得られる傾向にある。また、バインダーの局在化が抑制されるため、バインダーの必要量の増加が抑制される。その結果、容量の低下、抵抗成分増加による入出力特性の低下等も抑制できる傾向にある。さらに、核材となる黒鉛粒子の表面に均一な低結晶炭素層が形成され、粒子間での低結晶炭素による被覆量のばらつきが抑制される傾向にある。その結果、負極内部がより硬質な(すなわち、低結晶炭素の被覆量が多い)箇所及び粒子と、より軟質な(すなわち、低結晶炭素の被覆量が少ない)箇所及び粒子と、に分かれることが抑制される。その結果として、低結晶炭素の被覆量の少ない部分がプレス処理の負荷に耐えられず亀裂が発生することによる比表面積の増加、及び亀裂の発生による高活性化による高温保存特性の低下が抑制される傾向にある。
黒鉛粒子の平均円形度は、後述の実施例に記載の方法にて測定される。
【0038】
(第2黒鉛粒子)
第2黒鉛粒子は、体積基準の粒度分布におけるD0.1が5μm以下である。
第2黒鉛粒子のD0.1が5μm以下であると、第1黒鉛粒子の空隙を埋める第2黒鉛由来の微細粒子が充分に存在する。このため、粒子間の接触点が充分に確保されて電子的な抵抗が小さく、電池性能全般の劣化が抑制される傾向にある。
第2黒鉛粒子のD0.1は4.5μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。
第2黒鉛粒子のD0.1の下限は特に限定されないが、例えば、1μm以上であってもよく、1.5μm以上であってもよい。
【0039】
第2黒鉛粒子は、亜麻仁油吸油量が55mL/100g~75mL/100gである。
第2黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量が55mL/100g以上であると、第1黒鉛粒子の空隙を埋める第2黒鉛粒子由来の微細粒子が充分に存在する。このため、粒子間の接触点が充分に確保されて電子的な抵抗が小さく、電池性能全般の劣化が抑制される傾向にある。
第2黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量が75mL/100g以下であると、第1黒鉛粒子の空隙を埋める第2黒鉛粒子由来の微細粒子の量が多すぎず、電解液の浸透が円滑に行われる。また、リチウムイオンの拡散抵抗が小さく、電池性能全般、中でも連続での充電受入性(パルス充電特性)の劣化が抑制される傾向にある。
【0040】
第2黒鉛粒子の材質は特に制限されず、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよい。
天然黒鉛としては、第1黒鉛粒子として使用されうる天然黒鉛が挙げられる。
人造黒鉛としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の樹脂系材料、石油、石炭等から得られるピッチ系材料、コークスなどを焼成して得られる人造黒鉛が挙げられる。
第2黒鉛粒子は、複数の一次粒子から形成される二次粒子の状態であってもよい。
第2黒鉛粒子は、表面の少なくとも一部が低結晶炭素で被覆されていても、被覆されていなくてもよい。
【0041】
天然黒鉛を用いた場合の第2黒鉛粒子の製造方法は、第1黒鉛粒子の製造方法と同様である。
人造黒鉛を得るための方法について、特に制限はない。例えば、樹脂、ナフタレン、アントラセン、フェナントロリン、コールタール、タールピッチ等の原料を800℃以上の不活性雰囲気中でか焼して、焼成物である人造黒鉛を得る方法が挙げられる。この場合、得られた焼成物をジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の既知の方法により粉砕し、粒子径を調整することで人造黒鉛由来の第2黒鉛粒子を作製することができる。また、か焼する前に予め原料に熱処理を施してもよい。
【0042】
第2黒鉛粒子の体積基準の粒度分布におけるD50は、特に制限されない。例えば、第2黒鉛粒子のD50は15μm~25μmであることが好ましく、17μm~25μmであることがより好ましい。第2黒鉛粒子のD50が25μm以下であると、放電容量、入出力特性及びサイクル特性が向上する傾向にある。第2黒鉛粒子のD50が15μm以上であると、初回充放電効率が向上する傾向にある。
【0043】
第2黒鉛粒子の77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積(N比表面積)は、特に制限されないが、例えば、1.7m/g~5m/gであることが好ましく、2m/g~4.5m/gであることがさらに好ましい。第2黒鉛粒子のN比表面積が上記範囲内であると、初回充放電効率、入出力特性及びサイクル特性の良好なバランスが得られる傾向にある。
【0044】
第2黒鉛粒子のCO吸着量は、特に制限されないが、例えば、0.10cm/g~0.40cm/gであることが好ましく、0.10cm/g~0.30cm/gであることがより好ましく、0.20cm/g~0.30cm/gであることがさらに好ましい。第2黒鉛粒子のCO吸着量が上記範囲内であると、電解液分解等の過剰な副反応が抑制され、優れた入出力特性及び高温保存特性が得られる傾向にある。
【0045】
(第3黒鉛粒子)
本開示の負極材は、第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子に加えて第3黒鉛粒子を含んでもよい。負極材が第3黒鉛粒子を含むことで、高密度実装時に高い容量及び効率に優れるリチウムイオン二次電池が得られる。
【0046】
第3黒鉛粒子は、体積基準の粒度分布において、第1黒鉛粒子のD50に対する第3黒鉛粒子のD50の比(第3黒鉛粒子のD50/第1黒鉛粒子のD50、以下、粒子径比ともいう)が0.55~0.75の範囲である。
粒子径比が上記の範囲内である第3黒鉛粒子は第1黒鉛粒子よりも細かい粒子である(粒子径比が1より小さい)ため、第1黒鉛粒子よりも硬質な黒鉛粒子となる傾向にある。このため、第3黒鉛粒子を含む負極材を用いて塗膜を形成することで、高密度化のためのプレス押圧力による粒子の変形がより抑制される。その結果、電解液の浸透経路が充分に確保され、電解液が円滑に浸透する傾向にある。
第3黒鉛粒子の粒子径比が0.55以上であることで、塗膜が硬くなりすぎず目的の電極密度を得るために必要なプレス圧が高くなる傾向が抑制され、電極密度を良好に制御できる。その結果として、電極の厚み方向と垂直な方向における黒鉛粒子の配向性が高くなりすぎず、入出力特性の低下及び高密度実装時の容量と効率の低下が抑制される傾向にある。
第3黒鉛粒子の粒子径比が0.75以下であることで、塗膜が軟らかくなりすぎずプレス後のスプリングバック(プレス前の状態に戻ろうとする現象)が抑制され、電極密度を良好に制御できる。
第3黒鉛粒子の粒子径比は0.60~0.75であることが好ましく、0.65~0.75であることがより好ましい。
【0047】
第3黒鉛粒子は、亜麻仁油吸油量が40mL/100g~55mL/100gである。
第3黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量が40mL/100g以上であると、粒子間の空隙が小さすぎず、充填が進みすぎない。このため、乾燥条件等により塗膜厚さが変動しにくく、高圧でプレスしても電極密度の変動が生じにくい。更に、プレスによる残留応力が小さいために、負極が集電体から剥離しにくい。その結果、入出力特性及びサイクル特性が良好に維持される。
第3黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量が55mL/100g以下であると、第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子の粒子間の空隙に対する微細粒子の量が多すぎず、電解液が円滑に浸透する。また、リチウムイオンの拡散抵抗が小さく、電池性能全般、中でも連続での充電受入性(パルス充電特性)の劣化が抑制される。
リチウムイオン二次電池の性能をより向上させる点から、第3黒鉛粒子の亜麻仁油吸油量は41mL/100g~55mL/100gであることが好ましく、41mL/100g~50mL/100gであることがより好ましい。
【0048】
第3黒鉛粒子は、複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている。
複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子及び低結晶炭素による被覆の詳細及び好ましい態様については、第1黒鉛粒子の記載を参照できる。
【0049】
第1黒鉛粒子の好ましい態様として上述した内容は、第3黒鉛粒子の好ましい態様として参照できる。
【0050】
(黒鉛粒子の混合比)
本開示の負極材において、第2黒鉛粒子の量は、黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~55質量%である。
第2黒鉛粒子は粒度分布が広く、第1黒鉛粒子よりも大きい粒子と、第1黒鉛粒子よりも細かい粒子とを含んでいる。粒度分布の異なる第1黒鉛粒子と第2黒鉛粒子とをブレンドすることで、粒子間の空隙を相互に埋める状態となり、得られる負極塗膜の充填状態を制御することができる。すなわち、負極製造におけるプレス工程において、プレス押圧力を塗膜内部に均一に掛けられるようになる。その結果、塗膜の厚さ方向における密度のバラツキが少なくなると共に、電解液の浸透が円滑に行われるようになる。また、第1黒鉛粒子は比較的細かい粒子であるとともに表面の少なくとも一部が低結晶炭素で被覆されているため、第2黒鉛粒子(特に、低結晶炭素で被覆されていない第2黒鉛粒子)よりも硬い傾向にある。硬さの異なる第1黒鉛粒子と第2黒鉛粒子のように硬さの異なる黒鉛粒子をブレンドすることで、高圧でプレスしたときの粒子の変形が抑制され、電解液の浸透経路が充分に確保され、電解液が円滑に浸透する。
【0051】
本開示の負極材は、第2黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%以上であることで、第1黒鉛粒子の空隙を埋める第2黒鉛粒子由来の微細粒子が充分に存在する。このため、粒子間の接触点が充分に確保されて電子的な抵抗が小さく、電池性能全般の劣化が抑制される。
本開示の負極材は、第2黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し55質量%以下であることで、比較的軟質な第2黒鉛粒子のプレス押圧力による粒子の変形が発生しにくい。このため、電解液の浸透が円滑に行われ、リチウムイオンの拡散抵抗が小さく、電池性能全般、中でも連続での充電受入性(パルス充電特性)の劣化が抑制される傾向にある。さらに、第2黒鉛粒子由来の粗大粒子の量が多すぎず、電極内での充放電による局所的な膨張収縮が抑制される。その結果、集電体からの電極の剥離が抑制されてサイクル特性が良好に維持される。
【0052】
第2黒鉛粒子の量は、黒鉛粒子の全質量に対し15質量%~55質量%であることが好ましく、20質量%~55質量%であることがより好ましく25質量%~55質量%であることがさらに好ましい。
【0053】
本開示の負極材が第3黒鉛粒子を含む場合、第3黒鉛粒子の量は黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~25質量%であることが好ましい。
【0054】
負極材に含まれる第3黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%以上であると、第1黒鉛粒子の空隙を埋める第2黒鉛粒子由来の微細粒子及び第3黒鉛粒子由来の微細粒子が充分に存在する。このため、粒子間の接触点が充分に確保されて電子的な抵抗が小さく、電池性能全般の劣化が抑制される傾向にある。
【0055】
負極材に含まれる第3黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し25質量%以下であると、第2黒鉛粒子及び第3黒鉛粒子由来の微細粒子が多すぎず、電解液の浸透が円滑に行われる。このため、リチウムイオンの拡散抵抗が小さく、電池性能全般、中でも連続での充電受入性(パルス充電特性)の劣化が抑制される傾向にある。さらに、第2黒鉛粒子由来の粗大粒子の量が多すぎず、電極内での充放電による局所的な膨張収縮が抑制される。その結果、集電体からの電極の剥離が抑制されてサイクル特性が良好に維持される。
上述した効果の観点からは、本開示の負極材が第3黒鉛粒子を含む場合、第2黒鉛粒子の量は黒鉛粒子の全質量に対し25質量%~50質量%であることが好ましい。
【0056】
本開示において「黒鉛粒子の全質量」とは、負極材が黒鉛粒子として第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子のみを含む場合は第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子の合計質量を意味し、負極材が第1黒鉛粒子又は第2黒鉛粒子に該当しない黒鉛粒子(例えば、第3黒鉛粒子)をさらに含む場合は第1黒鉛粒子、第2黒鉛粒子及びこれらに該当しない黒鉛粒子の合計質量を意味する。
【0057】
本開示の負極材において第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子の合計質量、又は第1黒鉛粒子、第2黒鉛粒子及び第3黒鉛粒子の合計質量は、黒鉛粒子の全質量に対し80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0058】
本開示において、2種以上の黒鉛粒子を混合する方法は特に制限されない。例えば、V型混合機などの粉末混合機を用いて混合してもよい。あるいは、スラリーの調製時に2種以上の黒鉛粒子を他の材料とともに混合してもよい。
【0059】
負極材(すなわち、黒鉛粒子の混合物)の粒子径、見掛け密度、圧縮度及び亜麻仁油吸油量は特に制限されない。
例えば、負極材の体積基準の粒度分布におけるD10は8μm~13μmの範囲から選択でき、D50は14μm~20μmの範囲から選択でき、D90は24μm~43μmの範囲から選択できる。
負極材のT1は0.55g/cc以上であってよく、T2は0.70g/cc以上であってよく、T3は1.00g/cc以上であってよく、圧縮度は21以下であってよい。
負極材の亜麻仁油吸油量は45mL/100g~56mL/100gの範囲から選択できる。
【0060】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極(以下、負極ともいう)は、前述した負極材を含む負極材層と、集電体と、を含む。リチウムイオン二次電池用負極は、前述した負極材を含む負極材層及び集電体の他、必要に応じて他の構成要素を含んでもよい。
【0061】
負極を作製する方法は、特に制限されない。例えば、負極材と結着剤を溶剤とともに混錬してスラリー状の負極材組成物を調製し、これを集電体上に塗布して作製する方法、負極材組成物をシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化する方法などが挙げられる。混錬は、撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダー等の分散装置を用いて行うことができる。
【0062】
負極材組成物の調整に用いる結着剤は、特に限定されない。結着剤としては、スチレンーブタジエン共重合体、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステルの重合体、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸の重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル等のイオン導電性の大きな高分子化合物などが挙げられる。負極材組成物が結着剤を含む場合、その量は特に制限されない。結着剤の含有量は、例えば、負極材と結着剤の合計100質量部に対して0.5質量部~20質量部であってもよい。
【0063】
溶剤は、結着剤を溶解又は分散可能な溶剤であれば特に制限されない。具体的には、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン等の有機溶剤が挙げられる。溶剤の含有量は、例えば、負極材100質量部に対して60質量部~150質量部であってもよい。
【0064】
負極材組成物は、増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース又はその塩、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。負極材組成物が増粘剤を含む場合、その量は特に制限されない。増粘剤の含有量は、例えば、負極材100質量部に対して0.1質量部~5質量部であってもよい。
【0065】
負極材組成物は、導電補助材を含んでもよい。導電補助材としては、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック等)等の炭素材料、導電性を示す酸化物、導電性を示す窒化物などが挙げられる。負極材組成物が導電補助材を含む場合、その量は特に制限されない。導電補助材の含有量は、例えば、負極材100質量部に対して0.5質量部~15質量部であってもよい。
【0066】
集電体の材質は特に制限されず、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等から選択できる。集電体の状態は特に制限されず、箔、穴開け箔、メッシュ等から選択できる。また、ポーラスメタル(発砲メタル)、カーボンペーパー等の多孔性材料なども集電体として使用可能である。
【0067】
負極材組成物を集電体に塗布して負極材層を形成する場合、その方法は特に制限されず、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、コンマコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等の公知の方法を採用できる。負極材組成物を集電体に塗布した後は、負極材組成物に含まれる溶剤を乾燥により除去する。乾燥は、例えば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機又はこれらの装置の組み合わせを用いて行うことができる。必要に応じて圧延処理を行ってもよい。圧延処理は、平板プレス、カレンダーロール等の方法で行うことができる。
【0068】
シート、ペレット等の形状に成形された負極材組成物を集電体と一体化して負極材層を形成する場合、一体化の方法は特に制限されない。例えば、ロール、平板プレス又はこれらの手段の組み合わせにより行うことができる。一体化する際の圧力は、例えば、1MPa~200MPaであることが好ましい。
【0069】
<リチウムイオン二次電池>
本開示のリチウムイオン二次電池は、前述した本開示のリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に「負極」とも称する。)と、正極と、電解液とを含む。
【0070】
正極は、前述した負極の作製方法と同様にして、集電体上に正極材層を形成することで得ることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にしたものが使用可能である。
【0071】
正極材層の形成に用いる正極材は、特に制限されない。例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物(金属酸化物、金属硫化物等)及び導電性高分子材料が挙げられる。より具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、これらの複酸化物(LiCoNiMn、x+y+z=1)、添加元素M‘を含む複酸化物(LiCoNiMnM’、a+b+c+d=1、M’:Al、Mg、Ti、Zr又はGe)、スピネル型リチウムマンガン酸化物(LiMn)、リチウムバナジウム化合物、V、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)等のリチウム含有化合物、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素などが挙げられる。正極材層の形成に用いる正極材は、1種単独であっても2種以上であってもよい。
【0072】
電解液は特に制限されず、例えば、電解質としてのリチウム塩を非水系溶媒に溶解したもの(いわゆる有機電解液)が使用可能である。
リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等が挙げられる。電解液に含まれるリチウム塩は、1種単独であっても2種以上であってもよい。
非水系溶媒としては、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、シクロペンタノン、シクロヘキシルベンゼン、スルホラン、プロパンスルトン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル等が挙げられる。電解液に含まれる非水系溶媒は、1種単独であっても2種以上であってもよい。
【0073】
リチウムイオン二次電池における正極及び負極の状態は、特に制限されない。例えば、正極及び負極と、必要に応じて正極及び負極の間に配置されるセパレーターとからなる積層体の状態であってもよい。積層体は、渦巻状に巻回した状態であっても、複数の積層体をさらに積層した状態であってもよい。
【0074】
セパレーターは特に制限されず、例えば、樹脂製の不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものが使用可能である。樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とするものが挙げられる。リチウムイオン二次電池の構造上、正極と負極が直接接触しない場合は、セパレーターは使用しなくてもよい。
【0075】
リチウムイオン二次電池の形状は、特に制限されない。例えば、ラミネート型電池、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池及び角型電池が挙げられる。
【0076】
本開示のリチウムイオン二次電池は、出力特性に優れるため、電気自動車、パワーツール、電力貯蔵装置等に使用される大容量のリチウムイオン二次電池として好適である。特に、加速性能及びブレーキ回生性能の向上のために大電流での充放電が求められている電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等に使用されるリチウムイオン二次電池として好適である。
【実施例
【0077】
以下、実施例に基づいて本開示を詳しく説明する。ただし、本開示は以下の実施例によって限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施できるものである。
【0078】
<実施例1~実施例5、比較例1~比較例7>
[第1黒鉛粒子の作製]
平均粒子径16μmの球形天然黒鉛(複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子)100質量部と、コールタールピッチ(軟化点90℃、残炭率(炭化率)50%)6質量部とを混合して混合物を得た。次いで、混合物を窒素流通下、20℃/時間の昇温速度で950℃まで昇温し、950℃(焼成処理温度)にて1時間保持して、低結晶炭素で被覆された黒鉛粒子を得た。得られた黒鉛粒子をカッターミルで解砕した後、300メッシュ篩で篩分けを行い、その篩下分を黒鉛粒子(試料番号1)とした。
【0079】
黒鉛粒子(試料番号1)の作製において、炭素被覆量又は原料として用いる球形天然黒鉛の種類を変更することで、黒鉛粒子(試料番号2~11)を作製した。
得られた黒鉛粒子(試料番号1~11)については、下記方法により、粒子径(D0.1、D10、D50及びD90)の測定、N比表面積の測定、吸油量の測定、R値の測定、CO吸着量の測定、平均面間隔d002の測定、円形度の測定、見掛け密度の測定、及び圧縮度の算出を実施した。各物性値を表1に示す。なお、表1中の炭素被覆量(質量部)は、球形天然黒鉛100質量部に対するコールタールピッチの量(質量部)を意味する。
【0080】
[第2黒鉛粒子の作製]
平均粒子径が10μmのコークス粉末43質量部、コールタールピッチ18.5質量部、炭化ケイ素18.5質量部、及び平均粒子径が20μmの球形天然黒鉛20質量部を混合し、100℃で1時間撹拌して混合物を得た。次いで、この混合物を粒子径が25μmとなるように粉砕し、得られた粉砕粉を金型に入れて直方体に成形した。得られた直方体を窒素雰囲気中で1000℃で熱処理し、次いで2800℃で焼成して、黒鉛化可能な成分を黒鉛化して黒鉛成形体を得た。得られた黒鉛成形体をハンマーで粗砕した後、ピンミルで粉砕して黒鉛粒子粉末を得た。さらに、300メッシュ篩で篩分けを行い、その篩下分を黒鉛粒子(試料番号12)とした。
得られた黒鉛粒子(試料番号12)については、下記方法により、粒子径(D0.1、D10、D50及びD90)の測定、及びCO吸着量の測定を実施した。各物性値を表1に示す。
【0081】
[負極材の作製]
第1黒鉛粒子としての黒鉛粒子(試料番号2~11)と、第2黒鉛粒子としての黒鉛粒子(試料番号12)とをV型混合器で2時間混合して、実施例1~5及び比較例2~7の負極材を作製した。各負極材の作製において、第2黒鉛粒子の配合量は黒鉛粒子の全質量に対し35質量%とした。また、黒鉛粒子(試料番号12)と混合していない黒鉛粒子(試料番号1)を比較例1とした。
得られた負極材については、下記方法により、粒子径(D10、D50及びD90)の測定、見掛け密度の測定、圧縮度の算出、N比表面積の測定、吸油量の測定を実施した。各物性値を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
[粒子径の測定]
試料を質量比0.2%の界面活性剤(商品名:リボノールT/15、ライオン株式会社)とともに精製水中に分散させて得た分散液を、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3000J、株式会社島津製作所)の試料水槽に入れた。次いで、溶液に超音波をかけながらポンプで循環させ(ポンプ流量は最大値から65%)、吸光度を0.10~0.15となるように水量を調整し、体積基準の粒度分布を測定した。
得られた体積基準の粒度分布から、試料のD0.1、D10、D50及びD90に相当する粒子径を取得した。
【0084】
[静置法によるゆるみ見掛け密度の測定]
容量30cmのメスシリンダー(筒井理化学機械株式会社、JIS K-5101準拠仕様)に、500μmのメッシュ付き漏斗を用いて試料を自由落下させた。メスシリンダーから試料を溢れさせ、メスシリンダーの口で試料をすり切り、試料の体積を30cmとした。試料の入ったメスシリンダーの質量を測り、測定値からメスシリンダーの質量を差し引いて試料の質量を求めた。下記式により、試料のゆるみ見掛け密度(T1)を算出した。
T1={(試料の質量)/(試料の体積:30cm)}
【0085】
[30回および250回タップ法による見掛け密度の測定]
容量150cmの目盛付き平底試験管(株式会社蔵持科学器械製作所、KRS-406)に試料100cmを投入し、試験管に栓をした。この試験管を5cmの高さから30回落下させた後の試料の質量及び体積を求めた。下記式により、試料の30回タップ法による見掛け密度(T2)を算出した。
T2={(試料の質量)/(30回タップした後の試料の体積)}
試料の250回タップ法による見掛け密度T3は、5cmの高さからの落下回数を250回にする以外は、T2と同様にして測定した。
【0086】
[圧縮度の算出]
試料の静置法によるゆるみ見掛け密度(T1)、30回タップ法による見掛け密度(T2)及び250回タップ法による見掛け密度(T3)の測定値から、下記式により試料の圧縮度を算出した。
圧縮度(%)=[(T2-T1)/T3]×100
【0087】
[N比表面積の測定]
試料のN比表面積は、高速比表面積/細孔分布測定装置(FlowSorbIII、株式会社島津製作所)を用いて、前処理乾燥(200℃で2時間以上)し、次いで液体窒素温度(77K)での窒素吸着を一点法で測定してBET法により算出した。
【0088】
[亜麻仁油吸油量の測定]
試料の亜麻仁油吸油量は、JIS K6217-4:2008「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部:オイル吸収量の求め方」に記載の方法において、試薬液体としてフタル酸ジブチル(DBP)の代わりに亜麻仁油(関東化学株式会社)を使用して測定した。
具体的には、試料に定速度ビュレットで亜麻仁油を滴定し、粘度特性の変化をトルク検出器から測定した。発生した最大トルクの70%のトルクに対応する、試料の単位質量当りの亜麻仁油の添加量を亜麻仁油吸油量(mL/100g)とした。測定器としては、株式会社あさひ総研の吸収量測定装置を用いた。
【0089】
[R値の測定]
試料のR値は、下記の条件でラマン分光測定を行い、得られたラマン分光スペクトルにおいて、1580cm-1付近の最大ピークの強度Igと、1360cm-1付近の最大ピークの強度Idの強度比(Id/Ig)とした。
ラマン分光測定は、レーザーラマン分光光度計(型番:NRS-1000、日本分光株式会社)を用い、試料が平らになるようにセットした試料板にレーザー光を照射して行った。測定条件は以下の通りである。
レーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm-1
測定範囲:1180cm-1~1730cm-1
ピークリサーチ:0.5°/分
【0090】
[CO吸着量の測定]
試料のCO吸着量は、マイクロトラック・ベル株式会社のBelsorpIIを使用して測定した。また、前処理装置として、マイクロトラック・ベル株式会社のBelsorpIIを用いた。なお、CO吸着量は、測定温度273K、相対圧P/P=0.98~0.99(P=平衡圧、P=飽和蒸気圧)での値を用いた。前処理は真空度1Pa以下で、250℃まで5℃/分で昇温し、10分間保持し、その後、350℃まで3℃/分で昇温し、210分間保持した。その後、加熱を中止し、室温になるまで冷却した。吸着量測定の測定相対圧は以下の表2の通り実施した。
上記方法で標準物質のアルミナ粉(BCR-171、No0446、Institute for Reference Materials and Measurements)のCO吸着量を測定すると、0.40cm/gであった。
【0091】
【表2】
【0092】
[平均面間隔d002の測定]
試料の平均面間隔d002は、X線回折法により測定した。具体的には試料を石英製の試料ホルダーの凹部分に充填して測定ステージにセットし、広角X線回折装置(株式会社リガク)を用いて以下の条件で測定を行った。
線源:CuKα線(波長=0.15418nm)
出力:40kV、20mA
サンプリング幅:0.010°
走査範囲:10°~35°
スキャンスピード:0.5°/分
【0093】
[平均円形度の測定]
試料の円形度は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(マルバーン・パナリティカルFPIA-3000)を用いて測定した。測定温度は25℃とし、試料の濃度は10質量%とし、カウントする粒子の数は10000個とした。また、分散用の溶媒として水を使用した。
なお、試料の円形度を測定する前に、試料粉末を予め、分散させておくことが好ましい。例えば、超音波分散、ボルテックスミキサー等を使用して試料を分散させることが可能である。処理の条件は、試料の粒子崩壊又は粒子破壊の影響を抑制するため、測定する試料の強度を鑑みて調整する。
【0094】
[負極の作製]
実施例及び比較例にて作製した負極材を用いて以下の手順で試料電極(負極)を作製した。
まず、負極材に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)と結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を添加した。これらの質量比は、負極材:CMC:SBR=98:1:1とした。これに分散溶液である精製水を添加し、混錬することによりスラリーを得た。このスラリーを負極用の集電体である平均厚みが10μmの圧延銅箔に実質的に均等かつ均質に所定量塗布した(塗布量:10.0mg/cm)。その後、ロールプレスで1.6g/cmに電極密度を調整して、片面に負極材層が形成された圧延銅箔を得た。この圧延銅箔を直径14mmの円盤状に打ち抜き、試料電極(負極)を作製した。作製した試料電極を用いて、下記の方法により電解液の電極浸透速度及び電極膨潤率を測定した。結果を表3に示す。
【0095】
[電解液の電極浸透速度]
試料電極の負極塗膜上に 常温(25℃)下で電解液(LiPF/EC+DMC、キシダ化学株式会社)をマイクロシリンジで0.02ml滴下し、電解液が負極塗膜上から消えるまでの時間を測定した。
【0096】
[電極膨潤率]
試料電極の負極材層を70℃の電解液(LiPF/EC+DMC、キシダ化学株式会社)中に48時間浸漬し、浸漬前後の層の厚みの変化をマイクロメーターで測定し、下記式により膨潤率を求めた。
膨潤率(%)={(浸漬後の厚み-浸漬前の厚み)/浸漬前の厚み}×100
【0097】
[リチウムイオン二次電池の作製]
作製した試料電極(負極)、セパレーター、対極(正極)の順にコイン型電池容器に入れ、電解液を注入して、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)の混合溶媒(EC:EMCの体積比は3:7)に、混合溶媒全量に対してビニレンカーボネート(VC)を0.5質量%添加し、LiPFを1mol/Lの濃度になるように溶解したものを使用した。対極(正極)としては、金属リチウムを使用した。セパレーターとしては、厚み20μmのポリエチレン製微孔膜を使用した。作製したリチウムイオン二次電池を用いて、下記の方法により初回充放電特性、低温充電特性、高温保存特性、並びに放電負荷特性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0098】
(初回充放電特性の評価)
作製したリチウムイオン二次電池を、電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電(CC充電)し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電(CV充電)を行った。このときの容量を初回充電容量(CC/CV充電)とした。次いで、30分間休止後、電流値0.2Cで1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電(CC放電)を行った。このときの容量を初回放電容量とした。
初回充電容量の値から初回放電容量の値を差し引いた値を不可逆容量とし、初回充電容量の値に対する初回放電容量の値の比を初回効率として算出した。なお、電流値の単位として求めた「C」とは、「電流値(A)/電池容量(Ah)」を意味する。
不可逆容量[mAh/g]=(初回充電容量)-(初回放電容量)
初回効率[%]=(初回放電容量)/(初回充電容量)×100
【0099】
(低温充電特性の評価)
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽内に入れ、電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電(CC充電)し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電(CV充電)を行った。次いで、30分間休止後、電流値0.2Cで1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電(CC放電)を行った。この充放電を1サイクルとし、2サイクル目の充放電を行った。
その後、上記リチウムイオン二次電池を-30℃に設定した恒温槽に入れ、電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電(CC充電)し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電(CV充電)を行った。
低温充電受入は、前述した-30℃下で充電を行った際のCC/CV充電容量に対する-30℃下で充電を行った際のCC充電容量の比から求めた。
低温充電受入[%]=(-30℃でのCC充電容量)/(-30℃でのCC/CV充電容量)×100
【0100】
(高温保存特性の評価)
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽内に入れ、電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電を行った。次いで、30分間休止後、電流値0.2Cで1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電を行った。この充放電を1サイクルとし、2サイクル目の充放電を行った後、
電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電を行い、この電池を60℃に設定した恒温槽に入れ、5日間保存した。
その後、25℃に設定した恒温槽内に入れ、60分間放置し、電流値0.2Cで1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電を行った。次いで、1サイクル目と同様な条件で充放電を行った。
高温貯蔵維持率及び高温貯蔵回復率を次式から算出した。
高温貯蔵維持率[%]=(60℃、5日間保存後、25℃にて1回目の放電容量)/(25℃にて2サイクル目の放電容量)×100
高温貯蔵回復率[%]=(60℃、5日間保存後、25℃にて2回目の放電容量)/(25℃にて2サイクル目の放電容量)×100
【0101】
(放電負荷特性の評価)
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃に設定した恒温槽内に入れ、電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電を行った。次いで、30分間休止後、電流値0.2Cで1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電を行った。この充放電を1サイクルとし、2サイクル目の充放電を行った。
次に、電流値0.2Cで電圧0V(V vs. Li/Li)まで定電流充電し、次いで電流値が0.02Cとなるまで0Vで定電圧充電を行い、この電池を電流値4Cで1.5V(V vs. Li/Li)まで定電流放電を行った。
放電負荷を次式から算出した。
放電負荷[%]=(電流値4Cにて得られた放電容量)/(電流値0.2Cにて得られた2サイクル目の放電容量)×100
【0102】
[サイクル特性、パルス充電特性評価用の負極の作製]
実施例及び比較例にて作製した負極材を用いて以下の手順で試料電極(負極)を作製した。
まず、負極材に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)と結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を添加した。これらの質量比は、負極材/CMC/SBR=98/1/1とした。これに分散溶液である精製水を添加し、混錬することによりスラリーを形成した。このスラリーを負極用の集電体である平均厚みが10μmの圧延銅箔に実質的に均等かつ均質に所定量塗布した(塗布量:10.0mg/cm)。その後、ロールプレスで1.6g/cmに電極密度を調整して、片面に負極材層が形成された圧延銅箔を得た。この圧延銅箔を2.5cm×12cmとなるように打ち抜き、試料電極(負極)を作製した。
【0103】
[サイクル特性、パルス充電特性評価用のリチウムイオン二次電池の作製]
作製した試料電極(負極)を折り曲げ、その中に、折り曲げたセパレーター、対極(正極)の順に配置し、電解液を注入して、リチウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、EC(エチレンカーボネート)、EMC(エチルメチルカーボネート)(ECとEMCとの体積比は3:7)の混合溶媒に、混合溶液全量に対してビニレンカーボネート(VC)を0.5質量%添加し、LiPFを1mol/Lの濃度になるように溶解したものを使用した。対極(正極)としては、三元系(Ni、Co、Mn)リチウム酸化物/導電材/PVDF(ポリフッ化ビニリデン)の質量比が90/5/5の電極(1.5cm×4cm)を使用した。セパレーターとしては、厚み20μmのポリエチレン製微孔膜を使用した。作製したリチウムイオン二次電池を用いて、下記の方法によりサイクル特性、パルス充電特性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0104】
[サイクル特性の評価]
作製したリチウムイオン二次電池を用いて、以下のようにしてサイクル特性を評価した。
まず、45℃において電流値2C、充電終止電圧4.2Vで定電流充電し、4.2Vに到達した時からその電圧で電流値が0.02Cになるまで定電圧充電した。30分間休止後、25℃で電流値2C、終止電圧2.7Vの定電流放電を行い、放電容量を測定した(1サイクル目の放電容量)。上記充放電を1サイクルとし、500サイクル行い、300サイクル後、及び500サイクル後のそれぞれにおいて放電容量を測定した。そして、以下の式から放電容量維持率(%)を算出した。
放電容量維持率[%]=(300サイクル後又は500サイクル後の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100
【0105】
[パルス充電特性の評価]
パルス充電特性は、Liの析出状態から判断した。作製したリチウムイオン二次電池を25℃において電流値1C、充電終止電圧4.2Vで定電流充電し、4.2Vに到達した時からその電圧で電流値が0.02Cになるまで定電圧充電した。30分間休止後、25℃で電流値1C、終止電圧2.7Vの定電流放電を行った。この充放電を1サイクルとし、3サイクルの充放電を行った。
次に、上記電池を-30℃に設定した恒温槽に入れ、60分間放置した後、20C相当の電流値で5秒間充電したのちに、電池を解体して、Liの析出状態をSEM(株式会社キーエンス、SU3500)にて確認した。Liの析出が無い場合に、パルス充電特性に優れると判断した。
【0106】
【表3】

【0107】
表3に示す結果から明らかなように、負極材に含まれる黒鉛粒子が所定の条件を満たす実施例1~5では、負極材に含まれる黒鉛粒子が所定の条件を満たさない比較例1~7に比べて高い充放電効率を維持しながら、低温充電特性、高温保存特性、放電負荷特性およびパルス充電特性にも優れていた。
性能向上の推定メカニズムについて、以下に説明する。
負極材に含まれる第1黒鉛粒子が比較的細かい粒子であり、第2黒鉛粒子は比較的大きい(粗大)粒子、かつ第1黒鉛粒子よりも細かい粒子(より微細)を保有している。このため、これらの黒鉛粒子をブレンドすると粒子間の空隙を相互に埋める状態となり、得られる負極塗膜の充填状態を良好に制御することができる。前記充填状態は、第1黒鉛粒子と第2黒鉛粒子の物性によって制御することができる。第1黒鉛粒子と第2黒鉛粒子の物性が所定の条件を満たすことで、負極の製造の際のプレス工程において、プレス押圧力を塗膜内部に均一に掛けられるようになる。このため、塗膜の厚さ方向に対して密度のバラツキが少なくなると共に、電解液の浸透が円滑に行われるようになる。その結果として、電池性能の向上が達成される。加えて、以下に説明する黒鉛粒子の硬さも電池性能の向上に寄与する一因である。
【0108】
[電極プレス性の評価]
実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2で構成させた試料番号1、試料番号2、試料番号3、試料番号6及び試料番号12の黒鉛粒子を単独で用い、前述した同様な方法にて試料電極を作製した。前記試料電極を用いて、ロールプレスのロールギャップを固定し、可変させた任意の油圧(t)にてそれぞれプレス処理を実施した。各油圧にてプレス処理した各電極厚みを測定することで電極密度(g/cm)を算出し、電極プレス性を評価した。結果を図1及び図2に示す。
【0109】
図1及び図2に示すように、低結晶炭素で被覆された黒鉛粒子である試料番号1の電極プレス性は、低結晶炭素で被覆されていない黒鉛粒子である試料番号6と比較して、ロールプレス油圧の上昇に伴う電極密度の上昇度合いが小さい。また、粒子径が異なる試料番号2と試料番号3とを比較すると、粒子径が小さい試料番号3の方が試料番号2よりも電極密度の上昇度合いが小さく粒子がより硬い。さらに、第1黒鉛粒子に相当する試料番号1、2、3と第2黒鉛粒子に相当する試料番号12とを比較すると、試料番号1、2、3の方が試料番号12よりも電極密度の上昇度合いが小さく粒子がより硬い。
以上の結果から、黒鉛粒子の被覆処理、もしくは黒鉛粒子の粒子径を変化させることによって黒鉛粒子の硬さを制御できることがわかる。すなわち、所望の硬さの第1黒鉛粒子を選択し、さらに硬さの異なる第2黒鉛粒子と組み合わせることで、負極材としての硬さを制御することができ、電極を高圧でプレスする際の押圧力による粒子変形を抑えることができ、電解液の浸透経路が確保され、電解液の浸透が円滑に行われるようになる。その結果として、高い充放電効率を維持しながら、低温充電特性、高温保存特性、放電負荷特性およびパルス充電特性の向上に寄与できる。
【0110】
<実施例6~実施例9、比較例8>
第1黒鉛粒子として試料番号1を、第2黒鉛粒子として試料番号12をそれぞれ使用し、第2黒鉛粒子の配合量を変化させて負極材を作製した。得られた負極材を使用して実施例1と同様の手法で電極特性及び電池特性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
表4に示すように、第2黒鉛粒子の配合量が55質量%以下である実施例1、6~9は、第2黒鉛粒子の配合量が55質量%を超える比較例8よりも電池の充放電特性に優れる傾向にある。明確な理由は不明であるが、第1黒鉛粒子の空隙を埋める第2黒鉛粒子由来の微細粒子の量が多すぎず、電解液の浸透が円滑に行われることが考えられる。さらに、電解液による電極の膨潤率が抑制されてインピーダンスが低く抑えられることが挙げられる。
【0113】
<実施例10~実施例12、比較例9~比較例11>
黒鉛粒子(試料番号12)の作製において、黒鉛粒子のD50を20μmに調整したこと以外は同様にして黒鉛粒子(試料番号13)を作製した。
【0114】
黒鉛粒子(試料番号12)100質量部とコールタールピッチ(軟化点90℃、残炭率(炭化率)50%)6質量部とを混合した。次いで、混合物を窒素流通下、20℃/時間の昇温速度で950℃まで昇温し、950℃(焼成処理温度)にて1時間保持して炭素層被覆黒鉛粒子とした。得られた炭素層被覆黒鉛粒子をカッターミルで解砕した後、300メッシュ篩で篩分けを行い、その篩下分を黒鉛粒子(試料番号14)とした。
【0115】
黒鉛粒子(試料番号12)の作製において、成形ブロックの状態にせずに粉砕粉の状態で黒鉛化を実施したこと以外は同様にして黒鉛粒子(試料番号15)を作製した。
【0116】
黒鉛粒子(試料番号12)の作製において、黒鉛粒子のD50を27μmに調整したこと以外は同様にして黒鉛粒子(試料番号16)を作製した。
【0117】
黒鉛粒子(試料番号14)の作製において、炭素層被覆前の核材となる黒鉛粒子として黒鉛粒子(試料番号13)を用いたこと以外は同様にして黒鉛粒子(試料番号17)を作製した。
【0118】
黒鉛粒子(試料番号16)の作製において、成形ブロックの状態にせずに粉砕粉の状態で黒鉛化を実施したこと以外は同様にして黒鉛粒子(試料番号18)を作製した。
【0119】
第1黒鉛粒子として試料番号1を、第2黒鉛粒子として試料番号12~18をそれぞれ使用して負極材を作製し、物性を測定した。さらに、得られた負極材を使用して実施例1と同様の手法で電極特性及び電池特性の評価を行った。結果を表5に示す。
【0120】
【表5】

【0121】
表5に示すように、負極材が所定の条件を満たす第2黒鉛粒子を含む実施例1及び実施例10~12は、負極材が所定の条件を満たす第2黒鉛粒子を含まない比較例9~11に比べて高い充放電効率を維持しながら、低温充電特性、高温保存特性、放電負荷特性およびパルス充電特性にも優れていた。
【0122】
以下の実施例では、第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子に加えて第3黒鉛粒子を含む負極材について検討を行った。
【0123】
<実施例13~19>
表6に示す試料番号及び配合量の黒鉛粒子をそれぞれ第1黒鉛粒子、第2黒鉛粒子及び第3黒鉛粒子とし、これらを混合して負極材を作製した。さらに、得られた負極材を使用して実施例1と同様の手法で電極特性及び電池特性の評価を行った。
実施例13~19では、電極浸透速度の測定、初回充放電特性及びサイクル特性の評価において、電極密度を1.75g/cmとした場合の追加評価を実施した。電極密度が1.75g/cmの負極は、前述したロールプレスの油圧を調整することにより作製した。結果を表6に示す。
【0124】
【表6】
【0125】
表6に示すように、第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子に加えて第3黒鉛粒子を含む実施例13~19は、第3黒鉛粒子を含まない実施例1、8に比べて高い充放電効率を維持しながら、低温充電特性、高温保存特性及び放電負荷特性にも優れていた。
第1黒鉛粒子及び第2黒鉛粒子に加えて第3黒鉛粒子を含む実施例13~19は、高密度実装時(電極密度1.75g/cm)にも高い容量及び効率を維持しつつ、サイクル特性にも優れていた。
【0126】
[電極抵抗の測定]
実施例14、実施例17、実施例19、実施例1及び実施例8で作製した負極(電極密度:1.6g/cm及び1.75g/cm)を用いて電極抵抗を測定した。測定には、日置電機株式会社の電極抵抗測定システム(RM2610)を使用した。本測定システムを使用することにより、負極における負極材層抵抗と界面抵抗(集電体と負極材層との接触抵抗)とを分離して測定することができる。負極の電極抵抗が小さいほど、高い充放電効率を維持しながら、低温充電特性、高温保存特性及び放電負荷特性に優れることを示している。結果を表7に示す。
【0127】
【表7】
【0128】
表7に示すように、第3黒鉛粒子を含む実施例14、実施例17及び実施例19の電極抵抗(負極材層抵抗及び界面抵抗)は、第3黒鉛粒子を含まない実施例1、8と比較して低いことが示された。以上の結果は、負極材に第3黒鉛粒子を添加することにより電極抵抗を小さくできることを示している。
【要約】
【課題】放電負荷特性、低温充電特性、高温保存特性およびパルス充電特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極材並びにそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】特定の見掛け密度及び亜麻仁油吸油量の条件を満たす第1黒鉛粒子と、特定のD0.1及び亜麻仁油吸油量の条件を満たす第2黒鉛粒子とを含み、第2黒鉛粒子の量が黒鉛粒子の全質量に対し10質量%~55質量%であり、第1黒鉛粒子が複数の天然黒鉛粒子からなる二次粒子であり、表面の少なくとも一部が前記天然黒鉛粒子よりも結晶性の低い炭素材で被覆されている、リチウムイオン二次電池用負極材。
【選択図】なし
図1
図2