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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】ジルコニア組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20240228BHJP
   A61K 6/818 20200101ALI20240228BHJP
   A61K 6/822 20200101ALI20240228BHJP
   A61K 6/824 20200101ALI20240228BHJP
   A61K 6/816 20200101ALI20240228BHJP
   A61K 6/802 20200101ALI20240228BHJP
   A61K 6/813 20200101ALI20240228BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C04B35/488
A61K6/818
A61K6/822
A61K6/824
A61K6/816
A61K6/802
A61K6/813
C01G25/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023150426
(22)【出願日】2023-09-15
【審査請求日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2022149612
(32)【優先日】2022-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023038003
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】月森 貴史
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/104236(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/158491(WO,A1)
【文献】特開2016-060687(JP,A)
【文献】国際公開第2023/145766(WO,A1)
【文献】特開昭62-059571(JP,A)
【文献】特開平06-191939(JP,A)
【文献】特開2022-113137(JP,A)
【文献】特開2012-116745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/488
A61K 6/818
A61K 6/822
A61K 6/824
A61K 6/816
A61K 6/802
A61K 6/813
A61C 13/083
C01G 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及び銀(Ag)の群から選ばれる1以上の第1の遷移金属元素と、
ランタノイド希土類元素、並びに、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及び銀の群から選ばれる1以上の遷移金属元素であり、なおかつ、第1の遷移金属元素と種類の異なる第2の遷移金属元素の少なくともいずれかの着色元素と、
チタン(Ti)、バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の群から選ばれる1つ以上の第3の遷移金属元素と
安定化元素含有ジルコニアと、を含み、
前記第1の遷移金属元素の含有量が100質量ppm以上であり、
前記第2の遷移金属元素の含有量が100質量ppm未満であり、なおかつ、
そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の3%以下であること、及び、
そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比の分布幅が0.3以下であることの少なくともいずれかを満たす、ジルコニア組成物。
【請求項2】
そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比の分布幅が0.3以下である、請求項1に記載のジルコニア組成物。
【請求項3】
そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の3%以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項4】
T+C相率が50%以上である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項5】
前記ランタノイド希土類元素が、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビム(Yb)の群から選ばれる1以上である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項6】
前記ランタノイド希土類元素が、ジルコニアに固溶したランタノイド希土類元素である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項7】
ランタノイド希土類元素の含有量が1.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項8】
前記第3の遷移金属元素の含有量が0質量%超1.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項9】
アルミナ(Al)、シリカ(SiO)及びゲルマニア(Ge)の群から選ばれる1以上を含む、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項10】
BET比表面積が8m/g以上15m/g以下である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項11】
前記ジルコニア組成物が粉末である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項12】
前記ジルコニア組成物3.0±0.1gを直径25mmの金型に充電し、圧力49MPaの一軸加圧成形をした後、圧力196MPaでCIP処理した場合の実測密度が3.2g/cm以上である、請求項11に記載のジルコニア組成物。
【請求項13】
前記ジルコニア組成物が成形体である、請求項1又は2に記載のジルコニア組成物。
【請求項14】
ビッカース硬度が11.0以上である、請求項13に記載のジルコニア組成物。
【請求項15】
請求項1又は2に記載のジルコニア組成物を仮焼する工程を有する仮焼体の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の製造方法で得られた仮焼体を焼結する工程を有する焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジルコニアを主成分とする組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
着色成分を含むジルコニア(ZrO;二酸化ジルコニウム)の焼結体は、携帯電子機器部材、装飾部材、歯科補綴物など幅広い用途で適用されている。ジルコニアの焼結体は強度が高く加工が困難である。そのため、歯科補綴物などの形状が複雑な焼結体を得る場合は、ジルコニアの成形体(圧粉体)を焼結温度未満で熱処理することによって得られ、加工に適した強度を有する状態のジルコニア、いわゆる仮焼体(半焼結体、予備焼結体)が使用される。仮焼体は、CAD/CAMを用いて所望の形状に切削加工された後、焼結され、焼結体が作製される。
【0003】
自然歯の色調を有する焼結体を得るため、着色溶液に浸漬したジルコニアの仮焼体を焼結する方法(いわゆる浸漬法)がある(例えば、特許文献1)。浸漬法により着色された仮焼体は、仮焼体の表面と内部との着色溶液の浸透度合いの差による着色ムラが生じる。これに加え、浸漬法では、患者ごとの自然歯の色調に合わせた微細な色調を得ることが難しかった。
【0004】
一方、着色成分とジルコニアを粉末の状態で混合して得られる粉末組成物を成形及び仮焼し、仮焼した時点で着色成分を含有する仮焼体を焼結する方法(いわゆる粉末混合法)が知られている(特許文献2)。粉末混合法により得られる仮焼体は、浸漬法で得られる仮焼体と比べて着色ムラが極めて小さく、なおかつ、得られる焼結体の色調の微細な調整も容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許出願公開第3892254号明細書
【文献】米国特許第9428422号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
組成、特に着色成分の種類及び含有量を調整することで、仮焼体から得られる焼結体の色調が定まる。一方、着色成分は、微量であってもジルコニア組成物の熱収縮挙動に影響を及ぼす。そのため、組成の異なるジルコニア組成物は互いに熱収縮挙動が異なる。その結果、色調の異なる焼結体を与える仮焼体は、互いに硬度が相違していた。硬度が相違する仮焼体は、加工器具に与える負担が異なるため、熟練した加工技術が必要とされる。さらに、硬度が高いほど仮焼体の加工しにくくなる。
【0007】
組成の違いに由来する加工特性の相違に加え、着色成分を含む成形体を仮焼して得られる仮焼体は、同じ組成の仮焼体であっても製造ロット間での硬度が相違することがあった。仮焼体の組成(色調)に応じて異なる仮焼条件を適用することにより、組成の差異に由来する硬度の相違はある程度抑制できる。しかしながら、仮焼体の組成により仮焼条件を変更することは仮焼体の作製工程を煩雑にするため好ましくない。さらに、同一組成の仮焼体においては、複数の仮焼条件を適用したとしても、製造ロット間の硬度の相違は抑制できない。
【0008】
これらに鑑み、本開示は、従来の仮焼体よりも加工しやすく、なおかつ、製造ロット間の硬度の相違が抑制された仮焼体、その製造方法、及び、これにより得られる焼結体、並びに、このような仮焼体の原料となるジルコニア組成物の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、仮焼体の前駆体となるジルコニア組成物について、熱収縮挙動や組成について詳細に検討した。その結果、着色成分中でも遷移金属元素がジルコニア組成物の熱収縮挙動に与える影響が大きいこと、更には一定以上の含有量の遷移金属元素の状態を制御することにより、本質的な組成を変えることなく熱収縮挙動が変化することを見出した。これにより、従来の仮焼体から得られる焼結体と同等の色調を呈する焼結体が得られ、なおかつ、製造ロット間の仮焼体の硬度の相違が抑制された仮焼体、及び、このような仮焼体の前駆体となるジルコニアの組成物を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及び銀(Ag)の群から選ばれる1以上の第1の遷移金属元素と、
ランタノイド希土類元素、及び第1の遷移金属元素と種類の異なる第2の遷移金属元素の少なくともいずれかの着色元素と、
安定化元素含有ジルコニアと、を含み、
前記第1の遷移金属元素の含有量が100質量ppm以上であり、
前記第2の遷移金属元素の含有量が100質量ppm未満であり、なおかつ、
そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の3%以下であること、及び、
そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比の分布幅が0.3以下であることの少なくともいずれかを満たす、ジルコニア組成物。
[2] そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比の分布幅が0.3以下である、上記[1]に記載のジルコニア組成物。
[3] そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の3%以下である、上記[1]又は[2]に記載のジルコニア組成物。
[4] 前記第2の遷移金属元素が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及び銀の群から選ばれる1以上の遷移金属元素である、上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[5] 前記ランタノイド希土類元素が、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1以上である、上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[6] 前記ランタノイド希土類元素が、ジルコニアに固溶したランタノイド希土類元素である、上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[7] ランタノイド希土類元素の含有量が1.0質量%以下である、上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[8] チタン(Ti)、バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の群から選ばれる1つ以上の第3の遷移金属元素を含む、上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[9] アルミナ(Al)、シリカ(SiO)及びゲルマニア(Ge)の群から選ばれる1以上を含む、上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[10] BET比表面積が8m/g以上15m/g以下である、上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[11] 前記ジルコニア組成物が粉末である、上記[1]乃至[10]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[12] 前記ジルコニア組成物3.0±0.1gを直径25mmの金型に充電し、圧力49MPaの一軸加圧成形をした後、圧力196MPaでCIP処理した場合の実測密度が3.2g/cm以上である、上記[11]に記載のジルコニア組成物。
[13] 前記ジルコニア組成物が成形体である、上記[1]乃至[10]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物。
[14] ビッカース硬度が11.0以上である、上記[13]に記載のジルコニア組成物。
[15] 上記[1]乃至[14]のいずれかひとつに記載のジルコニア組成物を仮焼する工程を有する仮焼体の製造方法。
[16] 上記[15]に記載の製造方法で得られた仮焼体を焼結する工程を有する焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、従来の仮焼体よりも加工しやすく、なおかつ、製造ロット間の硬度の相違が抑制された仮焼体、その製造方法、及び、これにより得られる焼結体、並びに、このような仮焼体の原料となるジルコニア組成物の少なくともいずれかを提供すること、ができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示のジルコニア組成物について、実施形態の一例を示して説明する。本実施形態における用語は以下に示すとおりである。
【0013】
「組成物」とは、一定の組成を有する物質であり、例えば、粉末、成形体、仮焼体及び焼結体の群から選ばれる1以上が挙げられる。「ジルコニア組成物」とは、ジルコニアを主成分とする組成物であり、更には本質的にジルコニアからなる組成物である。これはジルコニア以外の成分を含んでいてもよい。好ましくは、本実施形態におけるジルコニア組成物は、仮焼体の前駆体となり得る組成物である。
【0014】
「粉末」とは、粉末粒子(一次粒子及び二次粒子の少なくともいずれかの粒子)の集合体で、なおかつ、流動性を有する組成物である。「ジルコニア粉末」とは、ジルコニアを主成分とする粉末であり、本質的にジルコニアからなる粉末である。また、「粉末組成物」とは、特徴の異なる粉末から構成される組成物であり、特に、組成の異なる粉末を含む組成物である。
【0015】
「顆粒粉末」とは、粉末粒子の凝集物(顆粒粒子)の集合体で、なおかつ、流動性を有する組成物であり、特に粉末粒子が緩慢凝集した状態の組成物である。「ジルコニア顆粒粉末」とは、ジルコニアを主成分とする顆粒粉末であり、本質的にジルコニアからなる顆粒粉末である。
【0016】
「成形体」とは、物理的な力で凝集した粉末粒子から構成される一定の形状を有する組成物であり、特に、該形状の付与後(例えば成形後)に熱処理が施されていない状態の組成物である。「ジルコニア成形体」とは、ジルコニアを主成分とする成形体であり、本質的にジルコニアからなる成形体である。また、成形体は「圧粉体」と互換的に使用される。
【0017】
「仮焼体」とは、融着粒子から構成される一定の形状を有する組成物であり、焼結温度未満の温度で熱処理された状態の組成物である。「ジルコニア仮焼体」とは、ジルコニアを主成分とする仮焼体であり、本質的にジルコニアからなる仮焼体である。
【0018】
「焼結体」とは、結晶粒子から構成される一定の形状を有する組成物であり、焼結温度以上の温度で熱処理された状態の組成物である。「ジルコニア焼結体」とは、ジルコニアを主成分とする焼結体であり、本質的にジルコニアからなる焼結体である。
【0019】
「主成分」とは、組成物の組成における主相(マトリックス、母材、母相)となる成分であり、好ましくは組成物に占める質量割合が75質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であり、また、100質量%以下又は100質量%未満となる成分であり、75質量%以上100質量%以下、又は、95質量%以上100質量%未満であることが好ましい。
【0020】
「安定化元素」とは、ジルコニアに固溶することでジルコニアの結晶相を安定化する元素である。
【0021】
「BET比表面積」は、JIS R 1626に準じ、吸着ガスに窒素を使用したBET多点法(5点)により測定される比表面積[m/g]であり、特に以下の条件で測定されるBET比表面積である。
【0022】
吸着媒体 :N
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
BET比表面積は、一般的な比表面積測定装置(例えば、トライスターII 3020、島津製作所社製)を使用して測定することができる。
【0023】
なお、本実施形態における「大気雰囲気」とは、主として窒素及び酸素からなり、酸素濃度が18~23体積%の窒素雰囲気であることが挙げられ、これは水分を含んでいてもよい。
【0024】
「平均粒子径」は、湿式法で測定される粉末の体積粒子径分布におけるD50であり、一般的なレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(例えば、MT3300EXII、マイクロトラック・ベル社製)を使用して測定することができる。測定試料は、超音波処理などの分散処理により緩慢凝集を除去した粉末を純水に分散させ、スラリーとしたものを使用すればよい。湿式法による体積粒子径分布の測定は、スラリーをpH=3.0~6.0にして測定することが好ましい。
【0025】
「平均顆粒径」は、乾式法で測定される顆粒粉末の体積粒子径分布におけるD50であり、一般的なレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(例えば、MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用して測定することができる。測定試料は、超音波処理などの分散処理を施さず、緩慢凝集の状態の顆粒粉末をそのまま使用すればよい。
【0026】
「粉末X線回折パターン」とは、以下の条件の粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)測定により得られる組成物のXRDパターンを、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)で平滑化処理及びバックグラウンド除去処理して得られるXRDパターンである。
【0027】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 2°/分
測定範囲 : 2θ=26°~33°
2θ=72°~76°
加速電圧・電流 : 40mA・40kV
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
ゴニオメータ半径 : 185mm
XRD測定は、一般的なX線回折装置(例えば、Ultima IV、RIGAKU社製)を使用して行うことができる。仮焼体は、JIS R 6001-2に準じた粒度#400のサンドペーパーを用いて表面を研磨した後、粒度3μmのダイヤモンド研磨剤を用いてラップ研磨したものを測定試料とし、ラップ研磨後の表面をXRD測定すればよい。焼結体は、その表面を表面粗さRa≦0.02μmまで研磨したものを測定試料とし、研磨後の表面をXRD測定すればよい。
【0028】
「XRDピーク」とは、上述のXRD測定において得られるXRDパターンにおいて検出される2θにピークトップを有するピーク、である。本実施形態において「XRDピークを有さない」とは、上述のXRD測定において、該XRDピークが検出されないことである。
【0029】
ジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークは、以下の2θにピークトップを有するXRDピークである。
【0030】
単斜晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
立方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
正方晶(111)面に相当するXRDピーク、及び、立方晶(111)面に相当するXRDピークは、重複したひとつのピークとして測定される。
【0031】
「T+C相率」とは、上述のXRD測定において得られるXRDパターンにおける、正方晶、立方晶及び単斜晶のジルコニアのXRDピークの合計面積強度に対する、正方晶及び立方晶のジルコニアのXRDピークの面積強度の割合であり、以下の式から求められる。
【0032】
T+C=[I(111)+I(111)]
/[I(111)+I(11-1)+I(111)+I(111)]
上式において、fT+Cは正方晶及び立方晶率、I(111)は正方晶(111)面の面積強度、I(111)は立方晶(111)面の面積強度、I(111)は単斜晶(111)面の面積強度、I(11-1)は単斜晶(11-1)面の面積強度であり、I(111)+I(111)は、2θ=30±0.5°にピークトップを有するXRDピークの面積強度に相当する。
【0033】
各XRDピークの面積強度は、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)を使用してXRDパターンを解析することで得られる値である。
【0034】
「実測密度」は、試料体積[cm]に対する質量[g]から求められる値[g/cm]である。質量は、試料を秤量して得られる値を使用すればよい。体積は、成形体及び仮焼体については形状測定により求まる体積を使用すればよく、また、焼結体についてはJIS R 1634に準じたアルキメデス法により求める体積を使用すればよい。アルキメデス法は、溶媒としてイオン交換水を使用し、また、前処理は煮沸法で行えばよい。成形体、仮焼体及び焼結体の実測密度を、それぞれ、「成形体密度」、「仮焼体密度」及び「焼結体密度」とする。
【0035】
「ビッカース硬度」は、ダイヤモンド製の正四角錘の圧子を備えた一般的なビッカース試験機(例えば、装置名:Q30A、Qness社製)を使用して測定される値である。測定は、圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押込み痕の対角長さを計測する。得られた対角長さを使用して、以下の式からビッカース硬度を求めればよい。
【0036】
Hv=F/{d/2sin(α/2)}
上の式において、Hvはビッカース硬度(HV)、Fは測定荷重(1kgf)、dは押込み痕の対角長さ(mm)、及び、αは圧子の対面角(136°)である。
【0037】
ビッカース硬度の測定条件として、以下の条件が挙げられる。
【0038】
測定試料 : 厚み3.0±0.5mmの円板状
測定荷重 : 1kgf
測定に先立ち、測定試料は#800の耐水研磨紙で測定面を研磨し0.1mmを超える凹凸を除去し、前処理とすればよい。測定試料10点について測定し、その平均値をビッカース硬度とすればよい。
【0039】
「全光線透過率」は、JIS K 7361-1に準じて測定される、入射光に対する透過光(直線透過光及び拡散透過光の合計)の割合[%]である。測定試料は、試料厚さ1.0±0.1mm、かつ、両面の表面粗さRa≦0.02μmである円板状の焼結体を使用し、測定装置は、光源にD65光源を備えたヘーズメータ(例えば、ヘーズメータ NDH4000、日本電色社製)を使用すればよい。
【0040】
「色調(L、a、b)」は、JIS Z 8722の幾何条件cに準拠した照明・受光光学系を備えた分光測色計(例えば、CM-700d、コニカミノルタ社製)を使用し、SCI方式で測定される値である。色調の具体的な測定条件として、測定試料の背景として白色校正板を配置して測定する方法(いわゆる白バック測定)において、以下の条件が挙げられる。焼結体の色調は、焼結体の任意の個所を水平方向に切り出し、これを試料厚み1.0±0.1mmとなるように加工した測定試料を測定すればよい。
【0041】
光源 : D65光源
視野角 : 2°
測定方式 : SCI
明度Lは明るさを示す指標であり0以上100以下の値を有する。色相a及びbは色味を示す指標であり-100以上100以下の値を有する。彩度Cは鮮やかさを示す指標である。
【0042】
「三点曲げ強度」は、JIS R 1601に準じた方法によって、測定される値である。測定試料は、幅4mm、厚み3mm及び長さ45mmの柱形状を使用し、支点間距離30mmとし、測定試料の水平方向に荷重を印加して測定すればよい。
【0043】
「常圧焼結」とは、焼結時に被焼結物(成形体や仮焼体など)に対して外的な力を加えずに、ジルコニアの焼結が進行する温度(以下、「焼結温度」ともいう。)以上の温度で加熱することにより該被焼結物を焼結する方法である。
【0044】
「常圧焼成」とは、熱処理時に被処理物に対して外的な力を加えずに、焼結温度未満の温度で加熱する方法である。
【0045】
[ジルコニア組成物]
本実施形態は、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及び銀(Ag)の群から選ばれる1以上の第1の遷移金属元素と、
ランタノイド希土類元素及び第1の遷移金属元素と種類の異なる第2の遷移金属元素の少なくともいずれかの着色元素と、
安定化元素含有ジルコニアと、を含み、
前記第1の遷移金属元素の含有量が100質量ppm以上であり、
前記第2の遷移金属元素の含有量が100質量ppm未満であり、なおかつ、
そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の3%以下であること、及び、
そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比の分布幅が0.3以下であることの少なくともいずれかを満たす、ジルコニア組成物、である。第1の遷移金属元素(以下、「M1元素」ともいう。)は、ジルコニアを着色する機能を有し、色調の基調となり、なおかつ、本実施形態のジルコニア組成物に多く含まれる遷移金属元素、好ましくは本実施形態のジルコニア組成物に多く含まれる最も多く含まれる遷移金属元素である。M1元素は、ジルコニア組成物の熱収縮挙動への影響が大きいことに加え、焼結後、偏析しやすい。しかしながら、本実施形態のジルコニア組成物の構成を満たすことにより、M1元素の熱収縮挙動への影響が顕著に抑制される結果、本実施形態のジルコニア組成物は、製造ロット間の機械的強度の相違が抑制された仮焼体の前駆体として供することができる。
【0046】
本実施形態のジルコニア組成物は、仮焼体の前駆体となりうるジルコニア組成物であり、ジルコニア粉末及びジルコニア成形体の少なくともいずれかであることが好ましい。また本実施形態のジルコニア組成物は、ジルコニア成形体であってもよく、また、ジルコニア粉末であってもよい。
【0047】
本実施形態のジルコニア組成物は、安定化元素含有ジルコニアを含む。安定化元素含有ジルコニアは、安定化元素が固溶したジルコニア(安定化元素固溶ジルコニア)であることが好ましい。そのため、本実施形態のジルコニア組成物は、安定化元素含有ジルコニア組成物、更には安定化元素固溶ジルコニア組成物、とみなしてもよい。
【0048】
安定化元素はジルコニアを着色せずにジルコニアに固溶する元素であればよく、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)の群から選ばれる1以上が挙げられ、イットリウムであることが好ましい。
【0049】
本実施形態のジルコニア組成物における安定化元素の含有量(以下、「安定化元素量」ともいい、安定化元素がイットリウム等である場合「イットリウム量」ともいう。)はジルコニアの結晶相が、正方晶を主相とする結晶相、更には正方晶及び立方晶からなる結晶相で安定化される量であればよく、2.0mol%以上8.0mol%以下が例示できる。また、安定化元素がイットリウムである場合の安定化元素量(イットリウム量)は、2.6mol%以上、3.1mol%以上、3.6mol%以上又は3.9mol%以上であればよく、また、6.0mol%以下、5.6mol%以下、5.4mol%以下、4.3mol%以下又は4.1mol%以下であることが挙げられ、2.6mol%以上6.0mol%以下、3.6mol%以上5.4mol%以下、又は、3.9mol%以上4.1mol%以下であることが好ましい。
【0050】
本実施形態において、安定化元素量は、ジルコニア並びに酸化物換算した安定化元素及びランタノイド希土類元素の合計に対する、酸化物換算した安定化元素のモル割合[mol%]である。安定化元素の酸化物換算は、イットリウムがY、カルシウムがCaO及びマグネシウムがMgOである。
【0051】
本実施形態のジルコニア組成物は、未固溶の安定化元素を含まないことが好ましい。未固溶の安定化元素を含まないことは、XRDパターンが安定化元素の化合物に由来するXRDピークを有さないこと、をもって確認することができる。しかしながら、本実施形態のジルコニア組成物の効果を奏する範囲であれば、未固溶の安定化元素を含むこと、すなわちXRDパターンにおいて安定化元素の化合物に由来するXRDピークが確認されない範囲で未固溶の安定化元素を含むこと、は許容され得る。
【0052】
本実施形態のジルコニア組成物はマンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及び銀(Ag)の群から選ばれる1以上のM1元素を含む。M1元素は、ジルコニアを着色する機能を有し、なおかつ、焼結後に偏析しやすい遷移金属元素である。M1元素は、本実施形態のジルコニア組成物から得られる焼結体の色調の基調に影響する着色成分(主着色成分)として機能する元素である。歯科用補綴材として適した色調の焼結体を得るため、本実施形態のジルコニア組成物は100質量ppm以上含有する遷移金属元素が1種であること、すなわちM1元素が1種であることが好ましい。一方、含有量が100質量ppm以上である遷移金属元素を2種以上含む場合、便宜上、遷移金属元素の中で最も含有量の多い遷移金属元素をM1元素、他のM1元素は、第1’の遷移金属元素(M1’元素)、第1”の遷移金属元素(M1”元素)等として区別すればよい。
【0053】
本実施形態のジルコニア組成物のM1元素の含有量(M1元素量)は100質量ppm以上であり、その含有量が増えるほどM1元素に由来する色調が強くなる。M1元素量は150質量ppm以上、300質量ppm以上又は500質量ppm以上であり、また、0.2質量%以下(2000質量ppm以下)、0.15質量%以下、0.12質量%以下又は0.1質量%以下(1000質量ppm以下)であることが例示できる。具体的なM1元素量は目的とする色調により適宜調整すればよい。例えば、歯科用補綴材として適した色調とする場合のM1元素量として、100質量ppm以上1500質量ppm以下、100質量ppm以上1000質量ppm以下、又は、100質量ppm以上500質量ppm以下が挙げられる。
【0054】
本実施形態におけるM1元素量は、ジルコニア及び酸化物換算した金属元素の合計質量(以下、「金属元素質量」ともいう。)に対する、酸化物換算したM1元素の質量割合[質量ppm]である。
【0055】
M1元素の種類は、目的とする色調により適宜選択すればよいが、例えば、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン及び銀の群から選ばれる1以上、更には、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅の群から選ばれる1以上、また更には、マンガン、鉄及びニッケルの群から選ばれる1以上、また更にはマンガン及び鉄の少なくともいずれか、また更には、鉄及びニッケルの少なくともいずれかが、また更には鉄が挙げられる。また、M1元素は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン又は銀であればよく、マンガン、鉄、コバルト又はニッケルであればよく、ニッケル又は鉄であればよい。例えば、灰色を基調とする色調を有する焼結体を得る場合、M1元素がマンガンであること、黄色を基調とする色調を有する焼結体を得る場合、M1元素が鉄であること、青色を基調とする色調を有する焼結体を得る場合、M1元素がコバルトであること、及び、緑色を基調とする色調を有する焼結体を得る場合、M1元素がニッケルであること、が、それぞれ、挙げられる。
【0056】
本実施形態のジルコニア組成物は、M1元素を任意の形態で含んでいればよい。M1元素は、例えば、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる少なくともいずれか、更には酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び塩化物の群から選ばれる少なくともいずれか、また更には酸化物及びオキシ水酸化物の少なくともいずれか、また更には酸化物、として含まれていることが挙げられる。
【0057】
本実施形態のジルコニア組成物は、そのジルコニウム元素の特性X線及びM1元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対するM1元素の特性X線の強度の比(以下、「X線強度比」ともいう。)が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の3%以下(すなわち、全測定点数に占める、X線強度比が0.05以上となる測定点数の割合が3%以下)であること、及び、そのジルコニウム元素の特性X線及び第1の遷移金属元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比の分布幅が0.3以下であることの少なくともいずれかを満たす。このような構成を満足することで、M1元素の局在が著しく少なくなると考えられる。これにより、M1元素の不均一な存在に由来する、局所的な急激な熱収縮が抑制され、得られる仮焼体の硬度が低くなることに加え、製造ロットの違いによる熱収縮挙動のバラツキが抑制されると考えられる。その結果、本実施形態のジルコニア組成物から得られる仮焼体の製造ロット間の硬度の相違が抑制され得る。
【0058】
全測定点に対する、X線強度比が0.05以上となる測定点の割合(以下、「高強度割合」ともいう。)は、3%以下、2%以下、0.5%以下、0.1%以下又は0.05%以下であることが好ましい。高強度割合は0%以上、0%超又は0.01%以上であればよく、0%以上3%以下、0%超3%以下、0.01%以上0.5%以下であることが好ましい。
【0059】
後述の強度比範囲を満たすジルコニア組成物においては、高強度割合は任意の値であってもよく、例えば、高強度割合が0%以上100%未満、50%以上99.5%以下、又は、80%以上99.5%以下であることが例示できる。
【0060】
本実施形態のジルコニア組成物は、M1元素の粗大な凝集を有さないことが好ましく、全測定点に対する、X線強度比が0.1以上となる測定点の割合(以下、「粗大強度割合」ともいう。)は、10%以下、8%以下、5%以下、0.5%以下、0.3%以下、0.1%以下又は0.01%以下であることが好ましい。粗大強度割合は0%以上又は0%超であってもよく、また、0%以上10%以下、0%超10%以下、又は、0%超5%以下であることが好ましい。M1元素が鉄である場合の粗大強度割合として、0%以上0.5%以下、又は0%以上%0.01%以下が例示できる。
【0061】
本実施形態のジルコニア組成物のX線強度比の分布幅(すなわち、最大強度比(後述)と最小強度比(後述)の差の絶対値;以下、「強度比範囲」ともいう。)は、0.3以下、0.2以下、0.15以下、0.12以下、0.1以下又は0.08以下であることが好ましい。これにより、得られる仮焼体がより均質な硬度を有しやすくなる。
【0062】
強度比範囲が狭いことは、全測定点のX線強度比の値が同等になること、すなわち、M1元素がより均一な状態で組成物中に存在することを意味する。これにより、M1元素の不均一な存在に由来する、局所的な急激な熱収縮が抑制され、得られる仮焼体の硬度が低くなることに加え、製造ロットの違いによる熱収縮挙動のバラツキが抑制されると考えられる。そのため、本実施形態のジルコニア組成物は、高強度割合が3%以下であることに変えて、又は、高強度割合が3%以下であることに加え、強度比範囲が上述の値であることが好ましい。本実施形態のジルコニア組成物このような強度比範囲を示すことで、ジルコニア組成物の熱収縮挙動に与えるM1元素の影響がより均質になる。強度比範囲は0超、0.01以上、0.04以上又は0.05以上であればよい。強度比範囲は0超0.3以下、0超0.2以下、0.01以上0.1以下、又は、0.04以上0.08以下であることが挙げられる。
【0063】
強度比範囲は、安定化元素量が多くなるほど、また、M1元素量が多くなるほど大きくなる傾向がある。
【0064】
一方、X線強度比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の3%以下であるジルコニア組成物においては、強度比範囲は任意の範囲であってもよいが、X線強度比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の3%以下であり、なおかつ、強度比範囲が0.3以下であること、が好ましい。
【0065】
本実施形態のジルコニア組成物のX線強度比の最大値(以下、「最大強度比」ともいう。)は、0.3以下、0.2以下又は0.1以下であることが好ましい。最大強度比がこの範囲であることで、M1元素の粗大な凝集粒子によるジルコニア組成物への熱収縮挙動への影響がより小さくなりやすい。本実施形態のジルコニア組成物の最大強度比は0.04以上又は0.05以上であってもよい。好ましい最大強度比として0.04以上0.3以下、0.04以上0.2以下、又は、0.05以上0.1以下が挙げられる。
【0066】
本実施形態のジルコニア組成物のX線強度比の最小値(以下、「最小強度比」ともいう。)は、0以上、0超又は0.001以上であることが例示でき、また、0.05以下、0.04以下、0.01以下又は0.002以下であればよく、0以上0.01以下、0以上0.002以下、又は、0超0.002以下が例示できる。
【0067】
本実施形態のジルコニア組成物において、ジルコニウム元素の特性X線及びM1元素の特性X線の測定は、以下の条件による電界放出型波長分散型電子線マイクロアナライザー(以下、「FE-EPMA」ともいう。)測定であればよい。
【0068】
加速電圧 :15kV
照射電流 :50nA
ビーム径 :1μm
取込時間 :50msec
倍率 :500倍
分析面積 :256.0μm×256.0μm
測定には、一般的なFE-EPMA装置(例えば、JXA-iHP200F、日本電子社製)を使用し、また、分析面積を格子状に65,500±100分割して得られる各領域を測定点とすればよい。本実施形態においては、同一試料の複数個所(好ましくは5±3か所)についてFE-EPMA測定を行い、それぞれ、高強度割合、粗大強度割合、最大強度比、最小強度比及び強度比範囲を求め、その平均値をもって本実施形態のおける値とすればよい。
【0069】
本実施形態のジルコニア組成物は、ランタノイド希土類元素及びM1元素と種類の異なる第2の遷移金属元素(以下、「M2元素」ともいう。)の少なくともいずれかの着色元素(以下、「副着色成分」ともいう。)を含む。副着色成分は、色調を調整するための着色成分であり、ジルコニア組成物がM1元素に加えて副着色成分を含有することで、得られる焼結体の色調の調整ができる。所望の色調に応じ、副着色成分は、ランタノイド希土類元素のみであってもよく、M2元素のみであってもよく、ランタノイド希土類元素及びM2元素であってもよい。
【0070】
M2元素としての遷移金属元素は、本実施形態の組成物に含まれるM1元素と異なる種類の遷移金属元素であって、ジルコニアを着色する機能を有し、なおかつ、焼結後に偏析しやすい遷移金属元素である。M2元素は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及び銀の群から選ばれる1以上であって、M1元素と異なる種類の遷移金属元素であることがより好ましい。M2元素は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及び銀の群から選ばれる1以上であることがより好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン及び銀の群から選ばれる1以上であることが更に好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅の群から選ばれる1以上であることが更により好ましく、マンガン、コバルト及びニッケルの群から選ばれる1以上であることが更により好ましく、マンガン及びコバルトの少なくともいずれかであることが更により好ましく、コバルトが更により好ましい。
【0071】
M2元素は、M1元素と異なり、なおかつ、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン又は銀であること、更にはM1元素と異なり、なおかつ、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル又は銅であること、また更にはM1元素と異なり、なおかつ、マンガン、コバルト又はニッケルであること、また更にはM1元素と異なり、なおかつ、マンガン又はコバルトであることが好ましい。
【0072】
M2元素の含有量(M2元素量)は100質量ppm未満であり、80質量ppm以下、70質量ppm以下又は50質量ppm以下であることが好ましい。このような含有量であれば、M2元素のジルコニア組成物の熱収縮挙動へ与える影響が非常に小さくなる。本実施形態のジルコニア組成物は、M2元素を含まなくてもよい(すなわち、M2元素の含有量が0質量ppmであってもよい)。したがって、本実施形態のジルコニア組成物のM2元素量は0質量ppm以上であればよい。一方、本実施形態のジルコニア組成物はM2元素を含み、その含有量が0質量ppm超、3質量ppm以上、10質量ppm以上、20質量ppm以上又は35質量ppm以上であってもよく、例えば、0質量ppm超100質量ppm未満、0質量ppm超80質量ppm以下、又は、0質量ppm超50質量ppm以下であることが挙げられる。さらに、M2元素量は、0質量ppm超10質量ppm以下、又は0質量ppm超5質量ppm以下であってもよい。
【0073】
本実施形態におけるM2元素量は、金属元素質量に対する、酸化物換算したM2元素の質量割合[質量ppm]である。
【0074】
遷移金属元素の酸化物換算は、それぞれ、マンガンがMn、鉄がFe、コバルトがCo、ニッケルがNiO、銅がCuO、モリブデンがMo、テクネチウムがTc、ルテニウムがRuO、ロジウムがRhO、パラジウムがPd及び銀がAgOとすればよい。
【0075】
ランタノイド希土類元素は、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、エルビウム(Er)及びイッテルビウム(Yb)の群から選ばれる1以上であることが好ましく、プラセオジム、ネオジム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上であることがより好ましく、プラセオジム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上であることが更に好ましく、テルビウム及びエルビウムの少なくともいずれかであることが更により好ましく、エルビウムであることが特に好ましい。
【0076】
ランタノイド希土類元素は遷移金属元素と比べてジルコニア組成物の熱収縮挙動に及ぼす影響が小さいと考えられる。そのため、ランタノイド希土類元素の含有量は1.0質量%以下、0.85質量%以下、0.6質量%以下又は0.15質量%以下であることが好ましい。本実施形態のジルコニア組成物は、ランタノイド希土類元素を含まなくてもよい(すなわち、ランタノイド希土類元素の含有量は0質量%又は0質量%以上であってもよい)。一方、本実施形態のジルコニア組成物は、ランタノイド希土類元素を含み、その含有量は0質量%超、0.01質量%以上又は0.05質量%以上であってもよく、例えば、0質量%以上1.0質量%以下、0質量%以上0.15質量%以下、又は、0.05質量%以上0.15質量%以下が例示できる。ランタノイド希土類元素は安定化元素としても機能する。しかしながら、本実施形態においては、便宜上、ランタノイド希土類元素は安定化元素に含まれないものとみなす。
【0077】
ランタノイド希土類元素の含有量は、ジルコニア、金属元素質量[g]に対する、酸化物換算したランタノイド希土類元素[g]の割合[質量%]として求めればよい。
【0078】
ランタノイド希土類元素の酸化物換算は、それぞれ、プラセオジムがPr11、ネオジムがNd、サマリウムがSm、ユーロピウムがEu、ガドリウムがGd、テルビウムがTb、エルビウムがEr及びイッテルビウムがYbであればよい。
【0079】
本実施形態のジルコニア組成物は、副着色成分を任意の形態で含んでいればよい。副着色成分は、例えば、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる少なくともいずれか、更には酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び塩化物の群から選ばれる少なくともいずれか、また更には酸化物及びオキシ水酸化物の少なくともいずれか、また更には酸化物、として含まれていることが挙げられる。
【0080】
焼結時の異常粒成長が抑制されやすくなるため、副着色成分がランタノイド希土類元素である場合、ランタノイド希土類元素は、ジルコニアに固溶していること(ジルコニウムカチオンと置換していること)が好ましい。本実施形態のジルコニア組成物は、ランタノイド希土類元素に変えて、又は、ランタノイド希土類元素に加えて、ランタノイド希土類元素が固溶したジルコニア(以下、「ランタノイド固溶ジルコニア」ともいう。)を含むことが好ましい。特に、本実施形態のジルコニア組成物は、ランタノイド希土類元素をランタノイド固溶ジルコニアのみとして含むことがより好ましく、更に、ランタノイド希土類酸化物など、ランタノイド希土類元素を含む化合物を含まないことがより好ましい。
【0081】
本実施形態において、ランタノイド希土類元素を含む化合物を含まないことは、FE-EPMAにおいて粒子状のランタノイド希土類元素が観測されないこと、により判断すればよい。
【0082】
本実施形態のジルコニア組成物は、チタン(Ti)、バナジウム(V)及びニオブ(Nb)の群から選ばれる1つ以上の第3の遷移金属元素(以下、「M3元素」ともいう。)、好ましくはチタン及びバナジウムの少なくともいずれか、より好ましくはチタンを含んでいてもよい。M3元素は、焼結後に偏析しにくい遷移金属元素である。副着色成分に加え又は副着色成分に代わり、M3元素を含有することにより、ジルコニア組成物の熱収縮挙動の変化を抑制し、なおかつ、得られる焼結体の色調の微調整がしやすくなる。
【0083】
本実施形態のジルコニア組成物は、M3元素を含み、その含有量は1.0質量%以下、0.5質量%以下又は0.3質量%以下であってもよく、また、0質量%超又は0.1質量%以上であることが挙げられる。また、本実施形態のジルコニア組成物は、M3元素を含んでいなくてもよい(すなわち、M3元素の含有量が0質量%又は0質量%以上であってもよい)。本実施形態のM3元素の含有量(M3元素量)として、0質量%以上1.0質量%以下、0質量%以上0.5質量%以下、又は、0質量%以上0.05質量%以下が例示でき、M3元素を含む場合、0質量%超1.0質量%以下、0質量%超0.5質量%以下、又は、0質量%超0.05質量%以下が例示できる。
【0084】
M3元素の含有量は、ジルコニア、金属元素質量[g]に対する、酸化物換算したM3元素[g]の質量割合[質量%]として求めればよい。酸化物換算は、それぞれ、チタンがTiO、バナジウムがV、及び、ニオブがNbである。
【0085】
本実施形態のジルコニア組成物は、M3元素を任意の形態で含んでいればよい。M3元素は、例えば、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる少なくともいずれか、更には酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び塩化物の群から選ばれる少なくともいずれか、また更には酸化物及びオキシ水酸化物の少なくともいずれか、また更には酸化物、として含まれていることが挙げられる。また、M3元素は、その一部又は全部がジルコニアに固溶していてもよい(ジルコニウムカチオンと置換していてもよい)。
【0086】
本実施形態のジルコニア組成物は、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)及びゲルマニア(Ge)の群から選ばれる1以上(以下、「添加成分」ともいう。)、更にはアルミナを含んでいてもよい。微量の添加成分を含むことで、低温での緻密化が促進されやすくなる。添加成分を含む場合、その含有量は0質量%超、0.005質量%以上又は0.01質量%以上であればよく、また、0.25質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下又は0.06質量%以下であればよい。また、本実施形態のジルコニア組成物は、添加成分を含んでいなくてもよい(すなわち、添加成分の含有量が0質量%又は0質量%以上であってもよい)。
【0087】
添加成分の含有量は、金属元素質量[g]に対する、添加成分(Al、SiO又はGe)[g]の質量割合[質量%]として求めればよい。
【0088】
本実施形態のジルコニア組成物は、不純物を含まないことが好ましいが、ジルコニアの不可避不純物であるハフニア(HfO)を含んでいてもよい。不可避不純物としてのハフニアの含有量は、原料鉱石や製造方法により大きく異なるが、例えば、2.0質量%以下であることが例示できる。本実施形態における密度等の組成に基づく値の算出において、ハフニアはジルコニア(ZrO)とみなして計算すればよい。
【0089】
本実施形態のジルコニア組成物は、結合剤を含んでいてもよい。結合剤を含むことで操作性(ハンドリング)や、保形性がより高くなる。結合剤は、セラミックスの造粒や成形に使用され得る結合剤であればよく、有機結合剤であることが好ましい。有機結合剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル系樹脂の群から選ばれる1種以上、好ましくはポリビニルアルコール及びアクリル系樹脂の少なくともいずれかであり、より好ましくはアクリル系樹脂、が挙げられる。本実施形態において、アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの少なくともいずれかを含む重合体である。具体的な結合剤として、例えば、AS-1100,AS-1800及びAS-2000の群から選ばれる1以上(いずれも製品名。東亜合成社製)が挙げられる。
【0090】
結合剤の含有量は、0.5質量%以上又は1質量%以上であり、また、10質量%以下又は5質量%以下であることが例示できる。
【0091】
例えば、M1元素として鉄、M2元素としてコバルト、ランタノイド希土類元素としてエルビウム、M3元素としてチタン、添加成分としてアルミニウム(アルミナ)、及び、結合剤を含むイットリウム安定化ジルコニア組成物の組成は、以下のように求めることができる。
【0092】
金属元素質量[g] :
+Er+ZrO+Al+Fe+Co+TiO
安定化元素量[mol%] :
{(Y+Er)/(Y+Er+ZrO)}×100
エルビウム含有量[質量%] :
{Er/(Y+Er+ZrO
+Al+Fe+Co+TiO)}×100
鉄含有量[質量%] :
{Fe/(Y+Er+ZrO
+Al+Fe+Co+TiO)}×100
コバルト含有量[質量%] :
{Co/(Y+Er+ZrO
+Al+Fe+Co+TiO)}×100
チタン含有量[質量%] :
{TiO/(Y+Er+ZrO
+Al+Fe+Co+TiO)}×100
アルミナ含有量[質量%] :
{Al/(Y+Er+ZrO
+Al+Fe+Co+TiO)}×100
また、結合剤の含有量は以下から求めればよい。
【0093】
{(W-W)/W}×100
上式において、Wは大気雰囲気、250℃以上400℃以下で熱処理前のジルコニア組成物の質量[g]であり、Wは大気雰囲気、250℃以上400℃以下で熱処理前のジルコニア組成物の質量[g]である。なお、算出方法が相違するため、結合剤を含むジルコニア組成物の合計含有量は見かけ上、100質量%とならなくてもよい。
【0094】
本実施形態のジルコニア組成物のBET比表面積は、8m/g以上又は10m/g以上であり、また、15m/g以下、11m/g以下又は10.5m/g以下であること挙げられ、8m/g以上15m/g以下、10m/g以上11m/g以下、又は、10m/g以上10.5m/g以下であることが好ましい。
【0095】
本実施形態のジルコニア組成物の平均粒子径は、0.35μm以上又は0.4μm以上であり、また、0.55μm以下又は0.5μm以下であることがあげられ、0.35μm以上0.55μm以下、又は、0.4μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0096】
本実施形態のジルコニア組成物のT+C相率は、50%以上、55%以上、60%以上、70%以上、80%以上又は85%以上であり、また、100%以下、99%以下、95%以下、92%以下又は90%以下であることが挙げられ、50%以上100%以下、70%以上95%以下、又は、85%以上92%以下であることが好ましい。
【0097】
本実施形態のジルコニア組成物が粉末(以下、「本実施形態の粉末」ともいう。)である場合、該粉末は顆粒粉末であってもよい。これにより流動性や成形性が高くなりやすい。
【0098】
顆粒粉末の平均顆粒径は30μm以上又は40μm以上であり、また、100μm以下又は50μm以下であることが挙げられ、40μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0099】
本実施形態の粉末の嵩密度は、1.10g/cm以上、1.15g/cm以上又は1.20g/cm以上であること、また、1.40g/cm以下、1.35g/cm以下又は1.30g/cm以下であることが挙げられ、1.15g/cm以上1.40g/cm以下、又は、1.20g/cm以上1.30g/cm以下であることが好ましい。
【0100】
本実施形態のジルコニア粉末は、直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaの一軸加圧成形をした後、圧力196MPaでCIP処理した場合の密度が3.2g/cm以上又は3.3g/cm以上であればよく、また、3.5g/cm以下又は3.4g/cm以下であってもよい。特に、本実施形態のジルコニア粉末3.0±0.1gを直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaの一軸加圧成形をした後、圧力196MPaでCIP処理した場合の実測密度が3.2g/cm以上又は3.3g/cm以上であり、また、3.5g/cm以下又は3.4g/cm以下であることが挙げられ、3.2g/cm以上3.5g/cm以下、又は、3.3g/cm以上3.4g/cm以下が好ましい。
【0101】
また、本実施形態のジルコニア組成物が成形体(以下、「本実施形態の成形体」ともいう。)である場合、その実測密度も上述の実測密度と同等であればよく、3.2g/cm以上又は3.3g/cm以上であり、また、3.5g/cm以下又は3.4g/cm以下が例示でき、3.2g/cm以上3.5g/cm以下、又は、3.3g/cm以上3.4g/cm以下が好ましい。
【0102】
本実施形態の成形体の形状は目的とする仮焼体の形状と同様な形状であればよく、例えば、円板状、円柱状、立方体状、直方体状、多面体状、錐体状、球状及び略球状の群から選ばれる1以上、更には歯科補綴材の形状など、任意の形状であればよい。
【0103】
本実施形態の成形体は、取り扱い中に破損しにくい硬度を有していればよく、例えば、ビッカース硬度が10.0HV以上、11.0以上又は11.5HV以上であり、また、14.0HV以下、13.0HV以下又は12.0HV以下であることが挙げられ、10.0HV以上14.0HV以下、11.0HV以上13.0HV以下、又は、11,5HV以上12.0HV以下であることが例示できる。ビッカース硬度が11.0以上であると、ハンドリング中の欠陥がより生じにくくなる。
【0104】
本実施形態の成形体は、本実施形態の粉末を成形することにより得られるが、成形前後で高強度割合等のFE-EPMAにより測定される値や、組成、BET比表面積等は変化しない。
【0105】
本実施形態のジルコニア組成物は、ジルコニアの公知の用途に使用することができるが、焼結体及び仮焼体の少なくともいずれかの前駆体として使用することが好ましく、歯科材料及びその前駆体の少なくともいずれかとして使用することが好ましい。
【0106】
[ジルコニア組成物の製造方法]
本実施形態のジルコニア組成物の製造方法は、上述の構成を満たすジルコニア組成物が得られる任意の製造方法であればよい。
【0107】
本実施形態のジルコニア組成物が粉末である場合の好ましい製造方法として、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及び銀の群から選ばれる1以上のM1元素と、安定化元素含有ジルコニアとを含み、そのジルコニウム元素の特性X線及びM1元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対するM1元素の特性X線の強度の比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の2%以下であるジルコニア粉末、並びに、
ランタノイド希土類元素及びM1元素と種類の異なるM2元素の少なくともいずれかの着色元素と、ジルコニアとを含むジルコニア粉末を、
前記M1元素の含有量が100質量ppm以上、なおかつ、前記M2元素の含有量が100質量ppm未満となるように混合する混合工程、を有するジルコニア組成物(ジルコニア粉末)の製造方法、が挙げられる。
【0108】
混合工程では、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及び銀の群から選ばれる1以上のM1元素と、安定化元素含有ジルコニアとを含み、そのジルコニウム元素の特性X線及びM1元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対するM1元素の特性X線の強度の比が0.05以上となる測定点の割合が、全測定点の2%以下であるジルコニア粉末(以下、「原料粉末1」ともいう。)、及び、ランタノイド希土類元素及びM1元素と種類の異なるM2元素の少なくともいずれかの着色元素と、ジルコニアとを含むジルコニア粉末(以下、「原料粉末2」ともいう。)、を混合する。ジルコニアの粉末と、M1元素の化合物等とを直接混合して混合粉末を得る場合と異なり、本実施形態の製造方法では、あらかじめM1元素等を含むジルコニアを出発物質とする。これにより、乾式混合、その他簡便な混合方法であってもM1元素や着色元素がより均一になりやすい。
【0109】
原料粉末1はM1元素を含む。原料粉末1に含まれるM1元素は、本実施形態のジルコニア組成物におけるM1元素と同様であればよい。
【0110】
混合工程により得られるジルコニア組成物におけるM1元素の含有量を100質量ppm以上とするため、原料粉末1のM1元素の含有量は、上述の本実施形態のジルコニア組成物のM1元素量と同じであればよいが、例えば、0.01質量%超(100質量ppm超)、0.05質量%以上(500質量ppm以上)又は0.1質量%以上(1000質量ppm以上)であり、また、0.3質量%以下(3000質量ppm以上)、0.25質量%以下(2500質量ppm以下)又は0.2質量%以下(2000質量ppm以下)であることが挙げられる。
【0111】
原料粉末1は、そのジルコニウム元素の特性X線及びM1元素の特性X線を測定したときの、ジルコニウム元素の特性X線の強度に対するM1元素の特性X線の強度の比(X線強度比)が0.05以上となる測定点の割合(高強度割合)が、全測定点の2%以下である。この様な高強度割合を満たすことで、原料粉末1においてもM1元素の凝集が少なくなると考えられる。
【0112】
原料粉末1における高強度割合は、2%以下、1%以下又は0.1%以下であり、また、0%以上、0%超又は0.01%以上であることが例示でき、0%以上2%以下、0%超1%以下、又は、0.01%以上0.1%以下であることが例示できる。
【0113】
原料粉末1はM1元素の粗大な凝集を有さないことが好ましく、X線強度比が0.1以上となる測定点の割合(粗大強度割合)は、0.5%以下、0.1%以下又は0.05%以下であることが好ましい。粗大強度割合は0%以上又は0%超であってもよく、0%以上0.5%以下、又は、0%以上0.05%以下であることが好ましい。
【0114】
本実施形態の原料粉末1におけるジルコニウム元素の特性X線及びM1元素の特性X線の測定は、以下の条件とすること以外は、本実施形態のジルコニア組成物と同様なFE-EPMA測定であればよい。
【0115】
加速電圧 :15kV
照射電流 :50nA
ビーム径 :1μm
取込時間 :50msec
倍率 :5000倍
分析面積 :45.32μm×45.32μm
原料粉末1のX線強度比の最大値(最大強度比)は、0.9以下、0.5以下又は0.2以下であることが好ましい。X線強度比がこの範囲であることで、本実施形態のジルコニア組成物中にM1元素の凝集が生じにくくなる。原料粉末1の最大強度比は0.05以上又は0.08以上であればよく、0.05以上0.9以下、又は、0.08以上0.2以下であることが例示できる。
【0116】
原料粉末1のX線強度比の最小強度比は、0以上又は0超であることが例示でき、また0.01以下であればよく、0以上0.01以下、又は、0超0.01以下であればよい。
【0117】
本実施形態のジルコニア組成物における強度比範囲と同様な理由により、原料粉末1のX線強度比の分布幅(強度比範囲)は、0.9以下、0.5以下又は0.2以下であり、また、0超又は0.01以上であればよく、0超0.9以下、又は、0.01以上0.2以下が例示できる。
【0118】
原料粉末1は安定化元素含有ジルコニアを含む。安定化元素の種類及び含有量は、本実施形態のジルコニア組成物に含まれる安定化元素含有ジルコニアと同様であればよい。
【0119】
原料粉末2は、ランタノイド希土類元素及びM1元素と種類の異なるM2元素の少なくともいずれかの着色元素(副着色成分)を含む。原料粉末2に含まれる好ましい副着色成分は、本実施形態のジルコニア組成物におけるものと同様であればよい。
【0120】
原料粉末2におけるM2元素の含有量は、上述の本実施形態のジルコニア組成物のM2元素量と同様な値であればよいが、例えば、800質量ppm以下、500質量ppm以下又は100質量ppm以下であり、また、0質量ppm超、10質量ppm以上又は30質量ppm以上であることが挙げられる
原料粉末2に含まれる好ましいランタノイド希土類元素の含有量は、上述の本実施形態のジルコニア組成物のランタノイド希土類元素の含有量と同様な値であればよいが、4質量%以上、6質量%以上又は8質量%以上であること、また、20質量%以下、15質量%以下、12質量%以下又は10質量%以下であることが例示できる。
【0121】
原料粉末2は、ジルコニアを含む。副着色成分がM2元素である場合、該ジルコニアは安定化元素含有ジルコニアであることが好ましい。一方、副着色成分がランタノイド希土類元素である場合、該ジルコニアはランタノイド希土類元素固溶ジルコニアであることが好ましい。
【0122】
原料粉末2に含まれるジルコニアが安定化元素含有ジルコニアである場合、安定化元素の種類及び含有量は、本実施形態のジルコニア組成物に含まれる安定化元素含有ジルコニアと同様であればよい。
【0123】
原料粉末2に含まれるジルコニアが安定化元素含有ジルコニア場合、原料粉末1及び2における安定化元素量は同様であることが好ましく、例えば、原料粉末1及び2の安定化元素量の差は、1.5mol%以下又は1.0mol%以下であり、また、0mol%以上又は0mol%超であることが挙げられる。一方、原料粉末2がランタノイド希土類元素を含む場合、原料粉末1及び2の安定化元素量の差は原料粉末1の安定化元素量と等しくなる。
【0124】
M1元素及び着色元素を目的の含有量とするため、混合工程では、原料粉末1及び原料粉末2に加え、更に遷移金属元素及びランタノイド希土類元素を含まない安定化元素含有ジルコニアの粉末(以下、「原料粉末3」ともいう。)を混合することが好ましい。
【0125】
原料粉末3は、遷移金属元素及びランタノイド希土類元素を含まない安定化元素含有ジルコニア粉末であり、遷移金属元素及びランタノイド希土類元素を含まないイットリウム含有ジルコニア粉末であることが好ましい。
【0126】
原料粉末3における安定化元素量は、原料粉末1、及び、本実施形態のジルコニア組成物の安定化元素の種類及び含有量と同等であればよい。
【0127】
混合工程には、原料粉末1乃至3に加え、M3元素源を供してもよい。M3元素源として、チタン、バナジウム及びニオブの群から選ばれる1以上を含む塩及び化合物の少なくともいずれかが挙げられ、チタン、バナジウム及びニオブの群から選ばれる1以上を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上が例示でき、チタン、バナジウム及びニオブの群から選ばれる1以上を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、塩化物及び酢酸塩の群から選ばれる1以上が好ましく、チタン、バナジウム及びニオブの群から選ばれる1以上を含む酸化物及び水酸化物の少なくともいずれかであることがより好ましい。
【0128】
チタン源として、例えば、酸化チタン(TiO)、水酸化チタン(Ti(OH))、オキシ水酸化チタン(TiOOH)、塩化チタン(II)(TiCl)、塩化チタン(III)(TiCl)、塩化チタン(IV)(TiCl)、硫酸チタン(Ti(SO)、硝酸チタン(Ti(NO)及び酢酸チタン(Ti(CHCOO))の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0129】
バナジウム源として、例えば、酸化バナジウム(VO)、五酸化バナジウム(V)、水酸化バナジウム(V(OH))、オキシ水酸化バナジウム(VO(OH))、塩化バナジウム(III)(VCl)、硫酸バナジウム(V(SO)及び酢酸バナジウム(V(CHCOO))の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0130】
ニオブ源として、例えば、酸化ニオブ(Nb)、水酸化バナジウム(V(OH))、塩化ニオブ(V)(Nbl)及び酢酸ニオブ(V(CHCOO))の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0131】
M3元素源は、混合工程により得られるジルコニア組成物が上述の本実施形態のジルコニア組成物におけるM3元素の含有量と同等の含有量となるように混合すればよい。
【0132】
また、M3元素源に加え、又は、M3元素源に変えて、原料粉末1乃至3の少なくともいずれかがM3元素を含んでいてもよい。
【0133】
混合工程では、原料粉末1乃至3に加え、添加成分源を供してもよい。
【0134】
添加成分源として、アルミニウム、ケイ素及びゲルマニウムの群から選ばれる1以上を含む塩及び化合物の少なくともいずれかが挙げられ、アルミニウム、ケイ素及びゲルマニウムの群から選ばれる1以上を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上が例示できる。好ましい添加成分源として、アルミナ、シリカ及びゲルマニアの群から選ばれる1以上、更にはアルミナが挙げられる。
【0135】
添加成分源は、混合工程により得られるジルコニア組成物が上述の本実施形態のジルコニア組成物における添加成分の含有量と同等の含有量となるように混合すればよい。
【0136】
また、添加成分源に加え、又は、添加成分源に変えて、原料粉末1乃至3の少なくともいずれかが添加成分を含んでいてもよい。
【0137】
原料粉末1乃至3は、結合剤を含んでいてもよい。結合剤を含むことで操作性(ハンドリング)や、保形性がより高くなる。結合剤及びその含有量は、上述の本実施形態のジルコニア組成物が含有する結合剤と同様であればよい。
【0138】
原料粉末1乃至3等の各出発物質は、本実施形態のジルコニア粉末と同様な物性を有していることが好ましく、また、各出発物質は、互いに同様な物性を有していることが好ましい。各出発物質の物性として、以下のものが挙げられる。
【0139】
各出発物質のBET比表面積は、それぞれ、8m/g以上又は10m/g以上であり、また、15m/g以下、12m/g以下、11m/g以下又は10.5m/g以下であることが好ましく、8m/g以上15m/g以下、又は、10m/g以上12m/g以下であることが例示できる。
【0140】
各出発物質の平均粒子径は、それぞれ、0.35μm以上又は0.4μm以上であることが好ましく、また、0.55μm以下又は0.5μm以下であることがより好ましく、0.35μm以上0.55μm以下、又は、0.4μm以上0.5μm以下であることが例示できる。
【0141】
各出発物質のT+C相率は、それぞれ、50%以上、55%以上又は60%以上であることが好ましく、また、100%以下、99%以下、95%以下、92%以下又は90%以下であることが好ましい。
【0142】
各出発物質は顆粒粉末であることが好ましい。顆粒粉末の平均顆粒径は30μm以上又は40μm以上であり、また、100μm以下又は50μm以下であることが挙げられ、30μm以上100μm以下、又は、40μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0143】
混合工程では、出発物質を、M1元素の含有量が100質量ppm以上、なおかつ、前記M2元素の含有量が100質量ppm未満となるように混合すればよく、上述の本実施形態のジルコニア組成物のM1及び着色元素の含有量と同等の量になるように混合すればよい。
【0144】
混合方法は各出発物質が均一になる任意の混合方法であればよく、乾式混合及び湿式混合の少なくともいずれであればよく、乾式混合であってもよい。本実施形態の製造方法では、予めM1元素や着色成分が含まれるジルコニアの粉末同士を混合するため、振盪や撹拌混合などの簡便な混合方法であっても、M1元素の局在が生じにくい。
【0145】
各出発物質の混合割合は、目的とするM1元素等の含有量や、目的とする色調に応じた所望の混合割合であればよい。例えば、合計が100質量%となるように、各出発物質を以下の割合で混合すればよい。
【0146】
原料粉末1 :15質量%以上、18質量%以上又は20質量%以上、
80質量%以下、75質量%以下又は70質量%以下
M2元素を含む原料粉末2
:0質量%以上、0質量%超、1質量%以上、3質量%以上又は5質量%以上、
30質量%以下、20質量%以下又は18質量%以下
ランタノイド希土類元素を含む原料粉末2
:0質量%以上、0質量%超、0.5質量%以上、0.8質量%以上又は1質量%以上、
10質量%以下、8質量%以下又は3質量%以下、
原料粉末3 :15質量%以上、18質量%以上又は20質量%以上、
80質量%以下、75質量%以下又は70質量%以下
M3元素源:0質量%以上、0質量%超、0.05質量%以上、0.10質量%以上又は0.20質量%以上、
1.0質量%以下、0.8質量%以下又は0.7質量%以下
添加成分源 :0質量%以上、0質量%超、0.003質量%以上又は0.01質量%以上、
0.1質量%以下、0.08質量%以下又は0.06質量%以下
本実施形態のジルコニア組成物が成形体(圧粉体)である場合の好ましい製造方法として、上記の混合工程により得られるジルコニア粉末を成形する成形工程、を有するジルコニア組成物(ジルコニア成形体)の製造方法、が挙げられる。
成形方法はジルコニア組成物(ジルコニア粉末)を圧粉体とし得る任意の成形方法であればよく、一軸加圧成形、冷間静水圧プレス(以下、「CIP」ともいう。)処理、スリップキャスティング、シート成形、泥漿鋳込み成形及び射出成形の群から選ばれる1以上の方法が例示でき、スリップキャスティング、射出成形、一軸加圧成形及びCIP処理の群から選ばれる1以上が好ましく、一軸加圧成形及びCIP処理の少なくともいずれかであることがより好ましく、ジルコニア組成物を一軸加圧成形し、得られる一次成形体をCIP処理する方法、が更に好ましい。一軸加圧成形における圧力は15MPa以上又は90MPa以上であり、また、400MPa以下又は150MPa以下又はであること、が例示できる。
【0147】
[原料粉末の製造方法]
原料粉末1の好ましい製造方法として、水和ジルコニア、安定化元素源、及び、M1元素源を含有するスラリーを乾燥して乾燥粉末を得る工程、並びに、該乾燥粉末を焼結温度未満の温度で熱処理する熱処理工程、を有する製造方法、が挙げられる。粉末状のジルコニアと、M1元素源とを混合した場合、M1元素の局在化が生じやすい。局在化したM1元素は、例え測定限界以下であったとしても、得られるジルコニア組成物の熱収縮挙動に大きな影響を与える。これに対し、粉末の前駆体の段階でジルコニアとM1元素源とが混合されることで、ジルコニア組成物の収縮挙動に影響しうるようなM1元素の局在化が抑制されると考えられる。原料粉末1は、ジルコニアの前駆体とM1元素を含有する溶液から得られる粉末、更には水和ジルコニア及びM1元素を含有する溶液から得られる加水分解物及び共沈物の少なくともいずれかを前駆体とする粉末、また更には水和ジルコニア及びM1元素を含有する溶液から得られる加水分解物を前駆体とする粉末であることが好ましい。
【0148】
水和ジルコニア、安定化元素源、及び、M1元素源を含有する溶液を乾燥して乾燥粉末を得る工程(以下、「前駆体合成工程」ともいう。)には、水和ジルコニア、安定化元素源及びM1元素源を含有する溶液(以下、「原料溶液」ともいう。)を供する。原料溶液に含まれる水和ジルコニア、安定化元素源及びM1元素源の含有量は、それぞれ、上述の原料粉末1の組成と同様な量であればよい。
【0149】
水和ジルコニアがより分散しやすくなるため原料溶液のpHは7以下又は5以下であることが好ましく、また、1以上又は3以上であればよい。
【0150】
水和ジルコニアは、水和した状態のジルコニア(ZrO・nHO。nは整数)であり、更には水和ジルコニアゾルであることが好ましい。水和ジルコニアは、ジルコニウム塩の加水分解、共沈及び中和の群から選ばれる1以上により得られる水和ジルコニアであることが好ましく、加水分解により得られる水和ジルコニアあることが好ましく、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム及び硫酸ジルコニウムの群から選ばれる1以上の加水分解又は共沈により得られる水和ジルコニアであることが好ましく、オキシ塩化ジルコニウムの加水分解又は共沈により得られる水和ジルコニアであることが好ましい。
【0151】
安定化元素源(以下、安定化元素がイットリウム等である場合は、それぞれ、「イットリウム源」等ともいう。)は、安定化元素を含む塩及び化合物の少なくともいずれであればよく、安定化元素を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上が挙げられ、安定化元素を含む酸化物、水酸化物及び塩化物の少なくともいずれかであることがより好ましく、安定化元素を含む塩化物であることが更に好ましい。
【0152】
イットリウム源として、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、オキシ水酸化イットリウム、塩化イットリウム、炭酸イットリウム、硫酸イットリウム、硝酸イットリウム及び酢酸イットリウムの群から選ばれる1以上、更には酸化イットリウム、水酸化イットリウム、オキシ水酸化イットリウム及び塩化イットリウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化イットリウム及び塩化イットリウムの少なくともいずれか、が挙げられ、塩化イットリウムであることが好ましい。
【0153】
カルシウム源として、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、オキシ水酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム及び酢酸カルシウムの群から選ばれる1以上、更には酸化カルシウム、水酸化カルシウム、オキシ水酸化カルシウム及び塩化カルシウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化カルシウム及び塩化カルシウムの少なくともいずれか、が挙げられる。
【0154】
マグネシウム源として、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、オキシ水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム及び酢酸マグネシウムの群から選ばれる1以上、更には酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、オキシ水酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの少なくともいずれか、が挙げられる。
【0155】
M1元素源(以下、M1元素が鉄等である場合は、それぞれ、「鉄源」等ともいう。)は、M1元素を含む塩及び化合物の少なくともいずれであればよく、M1元素を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上が挙げられ、M1元素を含む酸化物、水酸化物及び塩化物の少なくともいずれかであることがより好ましく、M1元素を含む酸化物であることが更に好ましい。主なM1源として、以下のものが挙げられる。
【0156】
マンガン源として、例えば、酸化マンガン(II)(MnO)、酸化マンガン(III)(Mn)、二酸化マンガン(MnO)、四三酸化マンガン(Mn)、水酸化マンガン(Mn(OH))、オキシ水酸化マンガン(MnOOH)、塩化マンガン(MnCl)、炭酸マンガン(MnCO)、硫酸マンガン(MnSO)、硝酸マンガン(Mn(NO)及び酢酸マンガン(Mn(COOH))の群から選ばれる1以上、更には水酸化マンガン及び酢酸マンガンの少なくともいずれかが挙げられる。
【0157】
鉄源として、例えば、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)、四三酸化鉄(Fe)、水酸化鉄(II)(Fe(OH))、水酸化鉄(III)(Fe(OH))、塩化鉄(II)(FeCl)及び塩化鉄(III)(FeCl)、炭酸鉄(FeCO)の群から選ばれる1以上が挙げられ、水酸化鉄(III)、水酸化鉄(II)、塩化鉄(III)及び塩化鉄(II)の群から選ばれる1以上であることが好ましい。
【0158】
コバルト源として、例えば、酸化コバルト(II)(CoO)、酸化コバルト(IV)(CoO)、四三酸化コバルト(Co)、水酸化コバルト(Co(OH))、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)、塩化コバルト(CoCl)、炭酸コバルト(CoCO)、硫酸コバルト(CoSO)、硝酸コバルト(Co(NO)及び酢酸コバルト(Co(CHOO))の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0159】
ニッケル源として、例えば、酸化ニッケル(II)(NiO)、酸化ニッケル(IV)(NiO)、四三酸化ニッケル(Ni)、水酸化ニッケル(Ni(OH))、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、塩化ニッケル(NiCl)、炭酸ニッケル(NiCO)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)及び酢酸ニッケル(Ni(CHCOO))の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0160】
銅源として、例えば、酸化銅(II)(CuO)、酸化銅(IV)(CuO)、四三酸化銅(Cu)、水酸化銅(Cu(OH))、オキシ水酸化銅(CuOOH)、塩化銅(CuCl)、炭酸銅(CuCO)、硫酸銅(CuSO)、硝酸銅(Cu(NO)及び酢酸銅(Cu(CHCOO))の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0161】
原料溶液に含まれる溶媒は、水和ジルコニアが分散する溶媒であればよく、極性溶媒及び非極性溶媒の少なくともいずれかであればよく、アルコール及び水の少なくともいずれか、更にはエタノール及び水の少なくともいずれか、また更には水であることが好ましい。原料組成物に含まれる水として、純水及びイオン交換水少なくともいずれかが例示できる。また、ジルコニウム塩を加水分解、共沈及び中和の群から選ばれる1以上により得られる水和ジルコニア及びその溶媒を含む溶液を、水和ジルコニア及び溶媒として供してもよい。
【0162】
原料粉末1がM3元素を含む場合、原料溶液は上述のM3元素源を含んでいてもよい。
【0163】
原料溶液は、水和ジルコニア、安定化元素源及びM1元素源が均一に混合される方法であれば任意な方法で得ることができる。原料溶液の製造方法として、例えば、(1)水和ジルコニア、安定化元素源、M1元素源及び溶媒を混合する方法、(2)水和ジルコニア溶液と、安定化元素源及びM1元素源と、を混合する方法、(3)水和ジルコニア溶液と、安定化元素源を含む溶液と、M1元素源を含む溶液と、を混合する方法、が例示できる。好ましい混合方法として、水和ジルコニア溶液と、M1元素源を含む溶液と、安定化元素源と、を混合する工程を有する製造方法、更にはジルコニウム塩を加水分解して得られる水和ジルコニア溶液と、M1元素源を含む溶液と、安定化元素源と、を混合する工程を有する製造方法、が挙げられる。
【0164】
乾燥工程における乾燥方法は、原料溶液から溶媒及び水和ジルコニアの水和水が除去される公知の方法であればよい。これにより乾燥粉末が得られる。乾燥方法として、乾燥工程に供する原料溶液の濃度や量に応じて任意の乾燥方法を選択すればよい。また、乾燥条件として以下の条件が挙げられる。
【0165】
乾燥雰囲気 : 大気雰囲気、好ましくは大気流通雰囲気
乾燥温度 : 150℃以上、160℃以上又は180℃以上、かつ、
210℃以下、200℃以下又は190℃以下
原料溶液の乾燥方法や乾燥時間は、処理に供する原料溶液の量並びに乾燥炉の形式及び特性により適宜設定すればよい。乾燥時間として5時間以上又は10時間以上であり、また、75時間以下又は50時間以下であることが挙げられる。
【0166】
原料粉末1の製造方法は、乾燥粉末を焼結温度未満の温度で熱処理する熱処理工程を有する。このような熱処理により、安定化元素がジルコニアに効率よく固溶し、原料粉末1が得られる。これに加え、成形体(圧粉体)とする前にこのような熱履歴を経ることで、成形後の熱処理におけるM1元素の凝集がより抑制される。
【0167】
熱処理における熱処理温度は、安定化元素のジルコニアへの固溶が促進する温度であって、所期のBET比表面積となるように、焼結温度未満の任意の温度を適用すればよい。熱処理温度が高くなるほど、BET比表面積が低下する傾向がある。熱処理温度として1200℃以下、1200℃未満又は1150℃以下が例示できる。安定化元素のジルコニアへの固溶がより促進されるため、熱処理温度は1000℃以上、1050℃以上又は1100℃以上であることが好ましい。
【0168】
熱処理温度以外の熱処理条件は、安定化元素のジルコニアへの固溶が促進される条件で行えばよく、以下の条件が例示できる。
【0169】
熱処理雰囲気 :酸化雰囲気、好ましくは大気雰囲気、
熱処理温度 :1000℃以上、1025℃以上又は1050℃以上、かつ、
1200℃以下又は1150℃以下
熱処理時間は、熱処理に供する乾燥粉末の量及び使用する熱処理炉の方式や特性に応じて適宜調整すればよいが、30分以上又は1時間以上であり、かつ、10時間以下又は5時間以下であることが例示できる。
【0170】
原料粉末1が添加成分を含む場合、熱処理後の原料粉末1に上述の添加成分源を混合すればよい。混合方法は公知の方法であればよく、また、後述の粉砕工程と同時に行ってもよい。原料粉末1が含む添加成分源の量は、上述の添加成分量と同等の量であればよい。
【0171】
原料粉末1の粒子径を調整するため、原料粉末1の製造方法は粉末を粉砕する工程(以下、「粉砕工程」ともいう。)、を有していてもよい。粉砕は、粉末が所期の粒子径となる方法を適宜使用することができ、乾式粉砕及び湿式粉砕の少なくともいずれかであればよい。粉砕効率が高いことから、粉砕は湿式粉砕、更には振動ミル、ボールミル及びビーズミルの群から選ばれる1以上による粉砕、また更にはボールミル及びビーズミルによる粉砕、であることが好ましい。
【0172】
粉砕時間は粉砕工程に供する仮焼粉末の量及び粉砕方法により適宜設定すればよい。粉砕時間が長くなるほど粒子径は平衡に達する大きさまで小さくなる。
【0173】
粉末の流動性を制御するため、又は、成形性を向上するため、原料粉末1の製造方法は、粉末を顆粒化し顆粒粉末を得る工程(以下、「顆粒化工程」ともいう。)を有していてもよい。顆粒化は、粉末の二次粒子同士が緩慢凝集し顆粒粒子となる任意の方法であればよい。顆粒化方法として、噴霧乾燥法、撹拌造粒法及び押出造粒法の群から選ばれる1以上、更には噴霧乾燥法であることが挙げられる。噴霧乾燥法では、顆粒化する粉末を溶媒に分散されたスラリーを液滴とし、これを噴霧乾燥することで顆粒粉末が得られる。前記溶媒は水及びアルコールの少なくともいずれかであればよい。また、必要に応じてスラリーに、アクリル樹脂等の結合剤を混合した後に噴霧乾燥して顆粒化してもよい。
【0174】
原料粉末2及び原料粉末3の製造方法は任意の製造方法により製造すればよい。
【0175】
例えば、M2元素源を含む原料粉末2は、M1元素源の代わりにM2元素源を使用すること以外は、原料粉末1の製造方法と同様な方法で製造すること、又は、着色成分を含まないジルコニアの粉末と、M2元素を含む化合物及び塩の少なくともいずれかと、を混合する製造方法、によって製造することが挙げられる。
【0176】
また、ランタノイド希土類元素を含む原料粉末2は、安定化元素源及びM1元素源の代わりにランタノイド希土類元素源を使用すること以外は、原料粉末1の製造方法と同様な方法や、で製造することが挙げられる。
【0177】
ランタノイド希土類元素源は、ランタノイド希土類元素を含む塩及び化合物の少なくともいずれであればよく、ランタノイド希土類元素を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上が挙げられ、ランタノイド希土類元素を含む酸化物、水酸化物及び塩化物の少なくともいずれかであることがより好ましく、ランタノイド希土類元素を含む酸化物であることが更に好ましい。
【0178】
また、例えば、原料粉末3は、M1元素源を使用しないこと以外は、原料粉末1の製造方法と同様な方法で製造することが挙げられる。
[仮焼体及びその製造方法]
本実施形態のジルコニア組成物は、仮焼体の前駆体として使用することができ、本実施形態のジルコニア組成物は、本実施形態のジルコニア組成物を仮焼する工程(以下、「仮焼工程」ともいう。)、を有する仮焼体の製造方法に供することができる。
【0179】
ジルコニア組成物を仮焼することで、仮焼体(以下、「本実施形態の仮焼体」ともいう。)が得られる。
【0180】
仮焼工程における仮焼は、ジルコニアの焼結温度未満の温度での熱処理であればよく、常圧焼成であることが好ましい。仮焼方法は、所期の特性を有する仮焼体が得られれば任意の方法であればよく、以下の方法及び条件が例示できる。
【0181】
仮焼雰囲気: 還元性雰囲気以外の雰囲気、好ましくは酸化雰囲気、
より好ましくは大気雰囲気
仮焼温度 : 800℃以上、900℃以上又は950℃以上、かつ、
1200℃以下、1150℃以下又は1100℃以下
昇温速度 : 10℃/時間以上又は30℃/時間以上、かつ、
200℃/時間以下又は150℃/時間以下
仮焼温度における保持時間(以下、「仮焼時間」ともいう。)は、仮焼に供するジルコニア組成物の形状、大きさ及び量、並びに、仮焼炉の方式や性能により適宜調整すればよい。仮焼時間として、0.5時間以上又は1時間以上が例示でき、また、7時間以下又は3時間以下であればよい。
【0182】
本実施形態のジルコニア組成物が結合剤を含む場合、仮焼温度への昇温中にこれを除去してもよい。一方、仮焼工程に先立ち、結合剤を除去する工程、いわゆる脱脂工程、を有していてもよい。結合剤の除去方法は任意であり、ジルコニア組成物の形状及び大きさ、並びに、脱脂の方式や特性により適宜調整すればよいが、大気雰囲気、400℃以上800℃未満での熱処理が例示できる。
【0183】
本実施形態の仮焼体は、粉末や成形体(圧粉体)と異なり、仮焼体は融着粒子から構成される。融着粒子は焼結初期の構造を有しており、仮焼体は、本実施形態のジルコニア組成物に含まれる粉末粒子の形状の一部が維持された状態で、粒子同士がネッキングを形成した構造を有する。これにより、仮焼体は機械加工に適した機械的特性を有する状態となる。
【0184】
本実施形態の仮焼体の形状は目的とするよう等に応じた任意の形状であればよい。仮焼体の形状として、円板状、円柱状、立方体状、直方体状、多面体状、球状及び略球状の群から選ばれる1以上や、歯科補綴物形状であることが例示できる。
【0185】
本実施形態の仮焼体の実測密度(仮焼体密度)は、2.8g/cm以上又は3.2g/cm以上であり、また、3.5g/cm以下又は3.4g/cm以下であること挙げられ、2.8g/cm以上3.5g/cm以下、又は、3.2gcm以上3.4g/cm以下であることが好ましい。なお、仮焼体では緻密化がほとんど進行しないため、仮焼体密度は成形体の実測密度(成形体密度)と同等であってもよい。
【0186】
本実施形態の仮焼体は、CAD/CAMの機械加工に適した硬度を有していればよく、例えば、ビッカース硬度として25HV以上150HV以下(25kgf/mm以上150kgf/mm以下)であること、が挙げられる。本実施形態の仮焼体のビッカース硬度は30HV以上、40HV以上又は45HV以上であり、また、70HV以下、60HV以下、55HV以下又は50HV以下であることが好ましい。
【0187】
同じ組成を有する本実施形態のジルコニア組成物を同じ条件で作製した仮焼体間のビッカース硬度のバラツキが小さいことが好ましく、当該仮焼体間のビッカース硬度の標準偏差は4HV以下又は3HV以下であることが好ましい。ビッカース硬度の標準偏差は小さいことが好ましいが0HV以上又は0HV超であることが挙げられる。
【0188】
さらに、本実施形態の仮焼体は組成差による硬度の差が小さいこと好ましく、例えば、以下の成形条件及び仮焼条件で市販粉末(製品名:Zpex4、東ソー社製)から得られる仮焼体の硬度に対する、同一の成形条件及び仮焼条件で本実施形態のジルコニア組成物から得られる仮焼体の硬度の差の絶対値(以下、単に「硬度差」ともいう。)が、10HV以下、9HV以下、7HV以下、6HV以下又は5HV以下であることが好ましい。硬度差は小さいほど好ましいが、0HV以上、0HV超、1HV以上又は2HV以上であることが例示できる。本実施形態の仮焼体の硬度差は0HV以上10HV以下、0HV超9HV以下、又は、2HV以上5HV以下であることが例示できる。
(成形条件) 成形方法 :一軸加圧及びCIP処理
一軸加圧圧力 :49±3MPa
CIP圧力 :196±5MPa
(仮焼条件) 仮焼方法 :常圧焼成
雰囲気 :大気雰囲気
焼成温度 :1000℃
焼成時間 :1時間
昇温速度 :50±5℃/時間
降温速度 :300±10℃/時間
【0189】
本実施形態の仮焼体は、公知の用途に使用することができ、歯科用補綴物用の仮焼体と使用すること、更には、歯科用ミルブランクとして使用することが挙げられる。
[焼結体及びその製造方法]
本実施形態のジルコニア組成物及び仮焼体の少なくともいずれかは、焼結体の前駆体として使用することができる。また、本実施形態のジルコニア組成物及び仮焼体の少なくともいずれかは、本実施形態のジルコニア組成物及び仮焼体の少なくともいずれかを焼結する工程(以下、「焼結工程」ともいう。)、を有する焼結体の製造方法、に使用することができる。
【0190】
ジルコニア組成物及び仮焼体の少なくともいずれかを焼結することで焼結体(以下、「本実施形態の焼結体」ともいう。)が得られる。
【0191】
焼結工程における焼結方法は、ジルコニアの緻密化が進行する任意の焼結方法が適用できる。焼結方法として加圧焼結、真空焼結及び常圧焼結の群から選ばれる1以上の焼結方法が好ましく、常圧焼結がより好ましく、大気雰囲気での常圧焼結が更に好ましい。常圧焼結により、焼結体を常圧焼結体として得ることができる。
【0192】
好ましい常圧焼結の条件として、以下の条件が挙げられる。
【0193】
焼結雰囲気 :還元雰囲気以外の雰囲気、好ましくは酸化雰囲気、
より好ましくは大気雰囲気
処理温度 :1200℃超、1300℃以上又は1400℃以上、かつ、
1600℃以下、1550℃以下又は1500℃以下
昇温速度 :50℃/時間以上、100℃/時間以上又は150℃/時間以上、かつ、
800℃/時間以下又は700℃/時間以下
処理温度における保持時間(以下、「焼結時間」ともいう。)は、焼結に供するジルコニア組成物の形状、大きさ及び量、並びに、焼結炉の方式や性能により適宜調整すればよい。焼結時間として、0.5時間以上又は1時間以上が例示でき、また、5時間以下又は3時間以下であればよい。
【0194】
他の好ましい焼結条件として、以下の条件が挙げられる。
焼結雰囲気 :還元雰囲気以外の雰囲気、好ましくは酸化雰囲気、
より好ましくは大気雰囲気
処理温度 :1200℃超、1300℃以上又は1400℃以上、かつ、
1600℃以下、1550℃以下又は1500℃以下
昇温速度 :30℃/分以上又は50℃/分以上、かつ、
300℃/分以下又は250℃/分以下
焼結時間 :1分以上又は5分以上、かつ、
1時間以下又は0.5時間以下
【0195】
本実施形態の焼結体は、上述のジルコニア組成物及び仮焼体と同様な組成であればよい。
【0196】
本実施形態の焼結体は、歯科色調見本のいずれかの色調と同様な色調を有することが好ましい。本実施形態の焼結体の色調として、歯科色調見本(例えば、ビタ・クラシカルシェードガイド)のA1、A2、A3、A3.5、A4、B1、B2、B3、B4、C1、C2、C3、C4、D2、D3又はD4の色調を有していることがより好ましい。
【0197】
焼結体の色調は、その透光性により異なる。例えば、全光線透過率が24~44%である焼結体における歯科色調見本の色調をL表色系で示した場合、以下の色調が例示できる。
【0198】
【表1】
【0199】
本実施形態の焼結体は歯科補綴物として適用しうる強度を有していることが好ましく、三点曲げ強度が、550MPa以上、600MPa以上又は800MPa以上であることが好ましい。三点曲げ強度は、1200MPa未満、1100MPa未満又は1000MPa以下であることが例示でき、550MPa以上1200MPa未満、又は、800MPa以上1000MPa以下であることが好ましい。
【0200】
本実施形態の焼結体は自然歯の審美性と同等の審美性を与える透光性を有していればよい。この様な全光線透過率として10%以上、15%以上又は25%以上であり、また、40%以下、35%以下又は30%以下であること、が挙げられ、10%以上40%以下、15%以上35%以下、又は、25%以上30%以下であることが好ましい。
【0201】
さらに、本実施形態の焼結体は組成差による全光線透過率の差が小さいこと好ましい。例えば、以下の成形条件、仮焼条件及び焼結条件で市販粉末(製品名:Zpex4、東ソー社製)から得られる焼結体の全光線透過率に対する、同一の成形条件、仮焼条件及び焼結条件で本実施形態のジルコニア組成物から得られる焼結体の全光線透過率の割合(以下、「透過率比」ともいう。)は、0.5以上、0.6以上又は0.7以上であること挙げられる。透過率比は小さいほど好ましいが、色調が濃い焼結体ほど透過率比は大きくなる傾向がある。そのため、透過率比は1.0以下又は0.9以下であることが例示でき、0.5以上1.0以下、又は、0.7以上0.9以下であることが好ましい。
(成形条件) 成形方法 :一軸加圧及びCIP処理
一軸加圧圧力 :49±3MPa
CIP圧力 :196±5MPa
(仮焼条件) 仮焼方法 :常圧焼成
雰囲気 :大気雰囲気
焼成温度 :1000℃
焼成時間 :1時間
昇温速度 :50±5℃/時間
降温速度 :300±10℃/時間
(焼結条件) 焼結方法 :常圧焼結
雰囲気 :大気雰囲気
処理温度 :1450℃
焼結時間 :2時間
昇温速度 :600±20℃/時間
降温速度 :600±50℃/時間
【0202】
本実施形態の焼結体は、ジルコニアの公知の用途に適用することができ、例えば、構造材料、光学材料、歯科材料、装飾材料及び電子機器の外装部材などとして使用することができ、歯科材料、更には歯科用補綴物として使用することが好ましい。
【0203】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上記各実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記各実施形態で具体的に記載された構成要件を任意に組み合わせた態様、並びに、上限値及び下限値を任意に組み合わせた数値範囲も、本開示に含まれる。また、上限値及び/又は下限値を、以下に説明する実施例の値で置換したものも本開示に含まれる。
【実施例
【0204】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明する。しかしながら、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0205】
(組成分析)
組成物の組成はICP分析で測定した。分析の前処理として、試料粉末は大気雰囲気、1000℃で1時間、熱処理した。
【0206】
(BET比表面積)
BET比表面積は、自動比表面積自動測定装置(装置名:トライスターII 3020、島津製作所製)を使用し、JIS R 1626に準じ、以下の条件による、BET多点法(5点)により測定した。
吸着媒体 :N
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
【0207】
(結晶相、正方晶+立方晶率)
結晶相は、X線回折装置(装置名:Ultima IV、RIGAKU社製)を使用し、以下の条件によるXRD測定により同定した。
【0208】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 2°/分
測定範囲 : 2θ=26°~33°
2θ=72°~76°
加速電圧・電流 : 40mA・40kV
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
ゴニオメータ半径 : 185mm
結晶相の同定は、X線回折装置付属の解析プログラム(プログラム名:統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)を使用して平滑化処理及びバックグラウンド除去処理し、当該処理後のXRDパターンを、分割擬Voigt関数によりプロファイルフィッティングすることで行った。
【0209】
正方晶+立方晶率(T+C相率)は、本実施形態の粉末組成物、仮焼体、及び焼結体の表面のXRDパターンから、上述の式により求めた。
【0210】
(平均顆粒径)
平均顆粒径は、マイクロトラック粒度分布計(装置名:MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定により測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0211】
光源 :半導体レーザー(波長:780nm)
電圧 :3mW
ジルコニアの屈折率 :2.17
計算モード :MT3000
測定試料は、超音波処理などの分散処理を施さず、緩慢凝集の状態の顆粒粉末をそのまま使用した。
【0212】
(実測密度)
成形体及び仮焼体の質量を天秤で測定し、また、体積をノギスで測定して寸法から求めた。得られた質量及び体積から実測密度を求め、成形体については成形体密度、及び、仮焼体については仮焼体密度とした。
【0213】
(ビッカース硬度)
ビッカース硬度は、ビッカース試験機(装置名:Q30A、Qness社製)を使用し、以下の条件で、圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押込み痕の対角長さを計測した。得られた対角長さを使用して、上述のビッカース硬度の式からを求めた。
【0214】
測定試料 : 厚み3.0±0.5mmの円板状
測定荷重 : 1kgf
荷重保持時間 : 5秒
測定は、同一条件で作製した成形体又は仮焼体10点について測定し、その平均値をもってビッカース硬度とした。また、測定に先立ち、測定試料は#800の耐水研磨紙で測定面を研磨し0.1mmを超える凹凸を除去し、前処理とした。
【0215】
(全光線透過率)
全光線透過率を、ヘーズメータ(装置名:NDH4000、日本電色社製)を用い、D65光源を使用して、JIS K 7361-1に準拠した方法によって測定した。測定試料は、表面粗さRa≦0.02μmとなるように両面研磨した、厚み1.0±0.1mmの円板状の焼結体を使用した。
【0216】
(色調)
JIS Z 8722の幾何条件cに準拠した照明・受光光学系を備えた分光測色計(装置名:CM-700d、コニカミノルタ社製)を使用して色調を測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0217】
光源 : D65光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCI
測定試料として焼結体の任意の個所を水平方向に切り出した後、当該試料の両面を鏡面研磨し、直径20mm×厚さ1.0±0.1mm及び表面粗さ(Ra)が0.02μm以下とした。測定試料を白色板の上に配置し、研磨後の両表面を評価面とし、それぞれ、色調(L、a及びb)を測定した(白バック測定)。色調評価有効面積は直径10mmを採用した。
【0218】
(三点曲げ強度)
JIS R 1601に準じた方法によって、三点曲げ強度を測定した。測定試料は、幅4mm、厚み3mm及び長さ45mmの柱形状とした。測定は、支点間距離30mmとし、測定試料の水平方向に荷重を印加して行った。
【0219】
<原料粉末の合成>
合成例1
以下の方法で粉末1乃至9をそれぞれ合成した。すなわち、オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解して得られた水和ジルコニア水溶液と、FeCl濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液、及び、塩化イットリウムを下表の粉末の組成となるように混合して、それぞれ、原料溶液を得た。原料溶液を、それぞれ、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、下表に示す温度で熱処理して各仮焼粉末を得た。得られた仮焼粉末199.9g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂、並びに、必要に応じてα-アルミナ粉末を含むスラリー及び酸化チタン粉末を含むスラリーの少なくともいずれかを添加して各スラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃でそれぞれ噴霧乾燥し、9種類の顆粒粉末(粉末1乃至9)を得た。
【0220】
合成例2
塩化鉄(III)水溶液を使用しなかったこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるように原料溶液を得、これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、1175℃で熱処理して仮焼粉末を得た。
【0221】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g、オキシ水酸化鉄(FeOOH)粉末0.45g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末10)を得た。
【0222】
合成例1及び2の結果を下表に示す。
【0223】
【表2】
【0224】
粉末1及び10はいずれも鉄を含有するが、粉末1は、高強度割合が0.05%、粗大強度割合が0%、最大強度比が0.107、及び、X線強度比の最小値が0であった。これに対し、粉末10は、高強度割合が2.04%、粗大強度割合が0.54%、最大強度比が0.901、及び、最小強度比が0であった。
【0225】
合成例3
塩化鉄(III)水溶液の代わりに酸化ニッケル(NiO)粉末を使用したこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるように原料溶液を得た。これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、1140℃で熱処理して、仮焼粉末を得た。
【0226】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末11)を得た。
【0227】
合成例4
酸化ニッケル(NiO粉末)を使用しなかったこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるように、原料溶液を得、これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、1140℃で熱処理して、仮焼粉末を得た。
【0228】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g、酸化ニッケル粉末0.1g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末12)を得た。
【0229】
合成例3及び4の結果を下表に示す。
【0230】
【表3】
【0231】
合成例5
塩化鉄(III)水溶液の代わりに四三酸化コバルト(Co)粉末を使用したこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるように、原料溶液を得、これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、1140℃で熱処理して、仮焼粉末を得た。
【0232】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末13)を得た。
【0233】
合成例6
塩化鉄(III)水溶液を使用しなかったこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるように、各原料溶液を得、これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、下表に示す仮焼温度で熱処理して、各仮焼粉末を得た。
【0234】
仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g、酸化コバルト粉末0.1g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末14及び15)を得た。
【0235】
また、仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g、酸化コバルト粉末0.08g、酸化チタン粉末0.4g及び純水をボールミルで混合したこと以外は同様な方法により、顆粒粉末(粉末16)を得た。
【0236】
合成例5及び6の結果を下表に示す。
【0237】
【表4】
【0238】
合成例7
塩化鉄(III)水溶液の代わりに四三酸化マンガン(Mn)粉末を使用したこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるように、原料溶液を得、これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、1140℃で熱処理して、仮焼粉末を得た。
【0239】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末17)を得た。
【0240】
合成例8
四三酸化マンガン粉末を使用しなかったこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるように、原料溶液を得、これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、1175℃で熱処理して、仮焼粉末を得た。
【0241】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g、四三酸化マンガン粉末0.1g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末18)を得た。
【0242】
合成例7及び8の結果を下表に示す。
【0243】
【表5】
【0244】
合成例9
塩化鉄(III)水溶液を使用しなかったこと、及び、塩化イットリウムの代わりに酸化エルビウムを使用したこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるように、それぞれ、原料溶液を得、これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、下表に示す仮焼温度で熱処理して、仮焼粉末を得た。
【0245】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末19及び20)を得た。結果を下表に示す。
【0246】
【表6】
【0247】
合成例10
塩化鉄(III)水溶液を使用しなかったこと以外は合成例1と同様な方法で下表の粉末の組成となるようにそれぞれ原料溶液を得、これを、大気流通雰囲気、180℃で乾燥して乾燥粉末とした後に、大気雰囲気、下表に示す仮焼温度で熱処理して仮焼粉末を得た。
【0248】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g及び純水をボールミルで混合した後に、アクリル系樹脂を添加してスラリーとした。該スラリーを大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、顆粒粉末(粉末21及び23)を得た。
【0249】
また、市販のジルコニア粉末(製品名:Zpex4、東ソー社製)を粉末22とした。
顆粒粉末の組成及び物性を下表に示す。
【0250】
【表7】
【0251】
実施例1乃至7、及び、比較例1乃至3
各粉末を下表に示す質量割合で200mLのポリプロピレン製容器に充填し、該容器を撹拌することでこれを乾式混合し、各実施例及び比較例の粉末組成物を得た。結果を下表に示す。
【0252】
【表8】
【0253】
実施例1及び4並びに比較例1は、それぞれ、歯科色調見本C1の色調を有する焼結体に相当する組成の粉末である。実施例2及び5並びに比較例2は、それぞれ、歯科色調見本C3の色調を有する焼結体に相当する組成の粉末である。実施例3及び6並びに比較例3は、それぞれ、歯科色調見本C4の色調を有する焼結体に相当する組成の粉末である。
【0254】
高強度割合は、実施例1が0%(0.002%)、実施例2が0.02%及び実施例3が0.03%であり、Fe量の増加に伴い高強度割合が増加する傾向があることが確認できた。一方、比較例3の高強度割合は3.06%と、実施例3の100倍以上であった。なお、粗大強度割合は、実施例1乃至3はいずれも0%であったのに対し、比較例3は0.38%であり、実施例と比べ、比較例3は鉄がより凝集していることが確認できた。
【0255】
最大強度比は、実施例1が0.053、実施例2が0.054、実施例3が0.057及び比較例3が0.334であり、また、最小強度比は、実施例1が0.001、実施例2が0、実施例3が0及び比較例3が0.002であった。これより、強度比範囲は、実施例1が0.052、実施例2が0.054及び実施例3が0.057であるのに対し、比較例3が0.332であり、実施例と比べ、比較例は多様な凝集状態の鉄(M1元素)を含んでいることが確認できた。
【0256】
得られた粉末3.0gを、それぞれ、直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaの一軸加圧成形をした後、圧力196MPaでCIP処理して円板状の成形体(圧粉体)を得た。これらの成形体を以下の条件で仮焼し、各実施例及び比較例の仮焼体を得た。
【0257】
仮焼温度 :1000℃
仮焼時間 :1時間
昇温速度 :50℃/時
仮焼雰囲気:大気雰囲気
降温速度 :300℃/時
実施例1及び4並びに比較例1の仮焼体をC1仮焼体とし、実施例2及び5並びに比較例2の仮焼体をC3仮焼体とし、実施例3及び6並びに比較例3をC4仮焼体とする。結果を下表に示す。なお、下表における組成はジルコニア以外の元素の含有量(酸化物換算)を示している。
【0258】
【表9】
【0259】
比較例と比べ、実施例の成形体は密度が同程度であるにも関わらず、ビッカース硬度が11.5HV以上と高く、欠陥の生じにくい成形体であることが確認できた。
【0260】
測定例1
実施例及び比較例の仮焼体のビッカース硬度を測定した。結果を下表に示す。なお、ビッカース硬度は各実施例及び比較例の操作を繰り返すことで得られた10点の仮焼体について測定した。また、粉末10を使用したこと以外は実施例と同様な方法で仮焼体を作製し、得られた仮焼体(以下、「基準仮焼体」ともいう。)のビッカース硬度(46.3HV)との差を硬度差として示した。
【0261】
【表10】
【0262】
実施例及び比較例の仮焼体は、C1仮焼体からC4仮焼体へ、色調が濃い仮焼体ほどビッカース硬度が高くなり、なおかつ、標準偏差が大きくなる傾向があることが確認できる。また、いずれの色調においても実施例の仮焼体は、比較例の仮焼体よりもビッカース硬度が低く、なおかつ、標準偏差が小さく、製造ロット間の硬度のバラツキが抑制されていることが確認できた。
【0263】
また、C1~C4仮焼体における、実施例の仮焼体のビッカース硬度は47.3HV~50.8HVと、硬度差は5HV以下であるのに対し、比較例の仮焼体のビッカース硬度は53.4HV~65.8HVと、硬度差は10HVを超えていた。
【0264】
さらに、市販のジルコニア粉末から得られた仮焼体との硬度差は、実施例が1.0HV~4.5HVと5HV以下であった。これに対し、比較例は7.1HV~19.5HVと7HV以上と硬度差が大きく、色調が濃くなるにしたがってその差が大きくなることが確認できる。
【0265】
<焼結体の作製>
各実施例及び比較例の仮焼体、並びに、基準仮焼体を以下の条件で焼結し、焼結体を得た。
【0266】
焼結方法 :常圧焼結
焼結温度 :1500℃
焼結時間 :2時間
昇温速度 :600℃/時間
焼結雰囲気:大気雰囲気
得られた焼結体は、実施例1及び4並びに比較例1の焼結体をC1焼結体とし、実施例2及び5並びに比較例2の焼結体をC3焼結体とし、実施例3及び6並びに焼結例3の焼結体をC4焼結体とした。また、基準仮焼体から得られた焼結体を基準焼結体とした。結果を下表に示す。下表において、透過率比は基準焼結体の全光線透過率(42%)に対する、各焼結体の全光線透過率を示す。
【0267】
【表11】
【0268】
実施例及び比較例の焼結体は、透過率比及び色調が同程度であった。これより、実施例の仮焼体から、従来の焼結体と同等の色調及び全光線透過率を有する焼結体が得られることが確認できた。
【0269】
実施例7乃至12
各粉末を下表に示す質量割合で200mLのポリプロピレン製容器に充填し、該容器を撹拌することでこれを乾式混合し、各実施例及び比較例の粉末組成物を得た。
【0270】
得られた粉末組成物を、実施例1と同様な方法で成形及び仮焼し、実施例7乃至12の仮焼体を得た。粉末組成物の結果を表12に、成形体及び仮焼体の結果を表13にそれぞれ示した。
なお、表13における組成はジルコニア以外の含有量を示している。
【0271】
【表12】
【0272】
高強度割合は、実施例7が0.01%(0.005%)、実施例8が0.01%(0.011%)、実施例9が0.01%(0.014)であり、また、実施例10が0.03%及び実施例11が0.06%であった。これより、Fe量の増加に伴い高強度割合が増加する傾向があることが確認できた。また、粗大強度割合は、実施例7乃至11いずれも0%であった。
【0273】
最大強度比は、実施例7が0.012、実施例8が0.015及び実施例9が0.015であり、実施例10が0.057及び実施例11が0.128であった。また、最小強度比は、実施例7乃至11のいずれも0であり、強度比範囲は、実施例7が0.012、実施例8が0.015及び実施例9が0.015であった。安定化元素量が多くなるに伴い、高強度割合が高く、強度比範囲が広くなる傾向があった。
【0274】
【表13】
【0275】
測定例2
測定例1と同様な方法で仮焼体のビッカース硬度の測定、並びに、焼結体の作製及びその評価を行った。ビッカース硬度の測定結果を表14に、焼結体の評価結果を表15に示す。
【0276】
【表14】
【0277】
実施例7乃至12の仮焼体は、いずれも実施例1乃至6の仮焼体と同程度のビッカース硬度を示しており、安定化元素(イットリウム)の含有量がビッカース硬度に与える影響は確認できなかった。
【0278】
【表15】
【0279】
安定化元素(イットリウム)の含有量の増加により、三点曲げ強度が低下し、かつ、透過率が高くなることが確認できた。
【0280】
実施例13及び14
各粉末を下表に示す質量割合で200mLのポリプロピレン製容器に充填し、該容器を撹拌することでこれを乾式混合し、各実施例及び比較例の粉末組成物を得た。
【0281】
得られた粉末組成物を、実施例1と同様な方法で成形及び仮焼し、実施例13及び14の仮焼体を得た。粉末組成物の結果を表16に、成形体及び仮焼体の結果を表17にそれぞれ示した。なお、表17における組成はジルコニア以外の含有量を示している。
【0282】
【表16】
【0283】
【表17】
【0284】
粉末5及び6は、互いに鉄の含有量が異なるが、混合比率を変えることで、同様な物性を有する粉末組成物及び成形体が得られることが確認できた。
【0285】
測定例3
測定例1と同様な方法で仮焼体のビッカース硬度の測定、並びに、焼結体の作製及びその評価を行った。ビッカース硬度の測定結果を表18に、焼結体の評価結果を表19に示す。
【0286】
【表18】
【0287】
【表19】
【0288】
実施例13及び14より、混合比率が異なる粉末組成物から仮焼体であっても、同様な仮焼体及び焼結体が得られることが確認できた。
【0289】
実施例15乃至17
各粉末を下表に示す質量割合で200mLのポリプロピレン製容器に充填し、該容器を撹拌することでこれを乾式混合し、各実施例及び比較例の粉末組成物を得た。
【0290】
得られた粉末組成物を、実施例1と同様な方法で成形及び仮焼し、実施例15及び17の仮焼体を得た。粉末組成物の結果を表20に、成形体及び仮焼体の結果を表21にそれぞれ示した。なお、表21における組成はジルコニア以外の含有量を示している。
【0291】
【表20】
【0292】
粉末8は、他の粉末と比べてBET比表面積が高く、その混合比率を高くすることで、得られる粉末組成物のBET比表面積が高くなることが確認できた。
【0293】
【表21】
【0294】
測定例4
測定例1と同様な方法で仮焼体のビッカース硬度の測定、並びに、焼結体の作製及びその評価を行った。ビッカース硬度の測定結果を表22に、焼結体の評価結果を表23に示す。
【0295】
【表22】
【0296】
実施例10乃至12と比べ、実施例15乃至17で得られた仮焼体はビッカース硬度が高くなる一方、標準偏差が小さいことが確認できる。
【0297】
【表23】
【0298】
実施例10乃至12と、実施例15乃至17との対比より、粉末組成物のBET比表面積によらず、同様な色調を有する焼結体が得られることが確認できた。
【0299】
実施例18
各粉末を下表に示す質量割合で200mLのポリプロピレン製容器に充填し、該容器を撹拌することでこれを乾式混合し、各実施例及び比較例の粉末組成物を得た。
【0300】
得られた粉末組成物を、実施例1と同様な方法で成形及び仮焼し、実施例18の仮焼体を得た。粉末組成物の結果を表24に、成形体及び仮焼体の結果を表25にそれぞれ示した。なお、表25における組成はジルコニア以外の元素の含有量(酸化物換算)を示している。
【0301】
【表24】
【0302】
実施例18は、高強度割合が0.07%、粗大強度割合が0%、最大強度比が0.148、及び、最小強度比が0.003であり、また、強度比範囲は0.145であった。
【0303】
【表25】
【0304】
測定例5
測定例1と同様な方法で仮焼体のビッカース硬度の測定、並びに、焼結体の作製及びその評価を行った。ビッカース硬度の測定結果を表26に、焼結体の評価結果を表27に示す。
【0305】
【表26】
【0306】
【表27】
【0307】
アルミナ含有量が0.05質量%以下の実施例12及び18おいて、アルミナ含有量によらず、いずれも同様なビッカース硬度を有する仮焼体であった。また、得られた焼結体は同様な色調、三点曲げ強度及び透過率であった。
【0308】
実施例19乃至24、及び、比較例4乃至6
各粉末を下表に示す質量割合で200mLのポリプロピレン製容器に充填し、該容器を撹拌することでこれを乾式混合し、各実施例及び比較例の粉末組成物を得た。
【0309】
得られた粉末組成物を、実施例1と同様な方法で成形及び仮焼し、各実施例及び比較例の仮焼体をそれぞれ得た。粉末組成物の結果を表28に、成形体及び仮焼体の結果を表29にそれぞれ示した。なお、表29における組成はジルコニア以外の元素の含有量(酸化物換算)を示している。
【0310】
【表28】
【0311】
高強度割合は、実施例22が99.24%及び実施例24が99.33%であった。また、粗大強度割合は、実施例22が5.64及び実施例24が6.66であった。
【0312】
最大強度比は、実施例22が0.127及び実施例24が0.140であり、また、最小強度比は、実施例22が0.036及び実施例24が0.032であった。これより、強度比範囲は、実施例22が0.091及び実施例24が0.108であり、M1元素が鉄である場合と比べ、強度比範囲が広くなる傾向があることが確認できた。
【0313】
【表29】
【0314】
比較例と比べ、実施例の成形体はビッカース硬度が11.0HV以上と高く、欠陥の生じにくい成形体であることが確認できた。
【0315】
測定例6
測定例1と同様な方法で仮焼体のビッカース硬度の測定、並びに、焼結体の作製及びその評価を行った。ビッカース硬度の測定結果を表30に、焼結体の評価結果を表31に示す。
【0316】
【表30】
【0317】
同様な色調を呈する焼結体が得られる仮焼体間において、実施例の仮焼体は比較例の仮焼体よりも硬度が低く、なおかつ、硬度差が小さかった。これに加え、標準偏差が小さく、ロット間の硬度のバラツキが小さくなることが確認できた。
【0318】
【表31】
【0319】
実施例及び比較例、いずれの仮焼体からも同様な色調を呈する焼結体が得られることが確認できた。
【0320】
実施例25乃至30、及び、比較例7乃至9
各粉末を下表に示す質量割合で200mLのポリプロピレン製容器に充填し、該容器を撹拌することでこれを乾式混合し、各実施例及び比較例の粉末組成物を得た。
【0321】
得られた粉末組成物を、実施例1と同様な方法で成形及び仮焼し、各実施例及び比較例の仮焼体をそれぞれ得た。粉末組成物の結果を表32に、成形体及び仮焼体の結果を表33にそれぞれ示した。なお、表33における組成はジルコニア以外の元素の含有量(酸化物換算)を示している。
【0322】
【表32】
【0323】
実施例27は、高強度割合が99.42%、粗大強度割合が4.51%、最大強度比が0.125及び最小強度比が0.033であり、強度比範囲は0.092であった。
【0324】
【表33】
【0325】
比較例と比べ、実施例の成形体はいずれもビッカース硬度が11.0HV以上と高く、欠陥の生じにくい成形体であることが確認できた。
【0326】
測定例7
測定例1と同様な方法で仮焼体のビッカース硬度の測定、並びに、焼結体の作製及びその評価を行った。ビッカース硬度の測定結果を表34に、焼結体の評価結果を表35に示す。
【0327】
【表34】
【0328】
同様な色調を呈する焼結体が得られる仮焼体間において、実施例の仮焼体は比較例の仮焼体よりも硬度が低く、なおかつ、硬度差が小さかった。これに加え、標準偏差が小さく、ロット間の硬度のバラツキが小さくなることが確認できた。
【0329】
【表35】
【0330】
実施例及び比較例、いずれの仮焼体からも同様な色調を呈する焼結体が得られることが確認できた。
【要約】      (修正有)
【課題】加工しやすく、製造ロット間の硬度の相違が抑制された仮焼体、及び仮焼体の原料となるジルコニア組成物を提供する。
【解決手段】Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd及びAgから選ばれる1以上の第1の遷移金属元素と、ランタノイド希土類元素及び第1の遷移金属元素と種類の異なる第2の遷移金属元素の少なくともいずれかの着色元素と、安定化元素含有ジルコニアと、を含み、第1の遷移金属元素の含有量が100質量ppm以上であり、第2の遷移金属元素の含有量が100質量ppm未満であり、かつジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比が0.05以上となる測定点の割合が全測定点の3%以下であること、及びジルコニウム元素の特性X線の強度に対する第1の遷移金属元素の特性X線の強度の比の分布幅が0.3以下であることの少なくともいずれかを満たす、ジルコニア組成物。
【選択図】なし