(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】流動焙焼炉
(51)【国際特許分類】
F27B 15/02 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
F27B15/02
(21)【出願番号】P 2018038338
(22)【出願日】2018-03-05
【審査請求日】2020-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】合田 幸弘
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】土屋 知久
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-357390(JP,A)
【文献】特開平8-60215(JP,A)
【文献】実開平4-136498(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B1/00-21/14
F27D1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下側から上側へ向けて流れるガスを用いて被焙焼物が焙焼される筒状炉心部が設けられ、
該筒状炉心部は、
直筒形状である内面鉛直部と、
該内面鉛直部の上側に位置し、下側から上側に向けて炉内断面積が徐々に大きくなる拡張部と、を備え、
前記筒状炉心部の軸線を含む断面において、前記内面鉛直部の内面を表す
第1の直線と、前記拡張部の内面を表す
第2の直線とが、前記筒状炉心部の前記軸線に向けて凸形状である円弧を含む曲線により連結され、
前記曲線上の各点における接線の傾きが、前記第1の直線から前記第2の直線の傾きまで一方向に変化しており、
前記円弧の中心が前記筒状炉心部の内面よりも外側に位置している、
ことを特徴とする流動焙焼炉。
【請求項2】
前記円弧の曲率半径が、8.0mm以上100mm以下である、
ことを特徴とする請求項1記載の流動焙焼炉。
【請求項3】
前記円弧の曲率半径が、8.0mm以上50mm以下である、
ことを特徴とする請求項2記載の流動焙焼炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動焙焼炉に関する。さらに詳しくは、高品位が要求される被焙焼物を焙焼可能な流動焙焼炉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、流動焙焼炉は、原料単独、もしくは流動媒体を用いてガスを供給しながら焙焼対象の粉状または粒状の原料をあたかも流体のように浮遊させることによって媒体との混合状態をつくり上げ、効率的に焙焼する装置である。焙焼対象の原料と流動媒体とを混合させた状態で焙焼することにより原料と流動媒体とが衝突しながら焙焼が進み、また、原料が流動層内に比較的長時間滞留できるため、効率的に焙焼することができる。
【0003】
このような流動焙焼炉を用いて供給した原料に対する焙焼を確実に行うためには、ガスの流速を、原料(以下、本明細書において「被焙焼物」と称することがある)と流動媒体との混合物の空塔速度が、最小流動化速度以上、終末速度未満の範囲となるように正確に制御されなければならない。
【0004】
ここで、「空塔速度」とは、ガス流量/炉内断面積で求められる実速度である。ここで「炉内断面積」は、炉芯の軸心に垂直な平面における炉内の面積をいう。また、「最小流動化速度」とは、被焙焼物と流動媒体との混合物である粉体等(本明細書で少なくとも粉体および粒体のいずれかを含んでいるものを「粉体等」と称することがある)が流動を始める最小の速度である。「終末速度」とは、流動層から粉体等が上昇して飛び出し始める速度をいう。
【0005】
上記のように速度制御が正確に行われる必要があるのは、以下のような理由のためである。すなわち、供給するガスの流速が、原料と流動媒体との混合物の「最小流動化速度」未満であると、原料が流動化しないために焙焼が均一に進まず、原料の凝集が発生する等の問題が生じる。
【0006】
一方で、ガスの流速がその混合物の「終末速度」以上であると、流速が速すぎて原料または流動媒体がガスと共に流されてしまい、効果的に焙焼を施すことができないという問題、または回収率が大きく低下するという問題が生じる。
【0007】
つまり、流動焙焼では、ガス流量を適切な範囲内で制御して、原料を焙焼に足る時間、流動層内で流動化させることが必要となる。
【0008】
特許文献1には、古砂ダストを流動焙焼炉の焙焼室内に供給し、その焙焼室内において流動焙焼させ、焙焼室内に形成される流動層の上部位置に開口する溢流口からオーバーフローさせて、再生処理ダストとして回収する技術が開示されている。ここで、古砂ダストは、鋳物古砂再生用の乾式再生機で発生したダストを集じんして得たものである。また、流動焙焼炉の底部には、珪砂がベース砂として収容されている。
【0009】
また、特許文献2には、金属鉄源を流動焙焼炉で酸化焙焼する工程と、焙焼炉の溢流口より排出された粗粒子の酸化層を剥離する工程と、剥離工程後の酸化鉄と金属鉄粉を流動焙焼炉に循環する工程と、生成した微粉酸化鉄を焙焼ガスと共に流出させて焙焼ガス中より捕捉回収する工程とからなる高品位酸化鉄の製造方法が開示されている。
【0010】
これらの特許文献1または2では、古砂ダストや酸化鉄が焙焼されているが、焙焼後にこれらの原料がどの程度均一に焙焼されているかについては言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2000-42515号公報
【文献】特開昭61-236616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
二次電池の材料として多く用いられる酸化ニッケル(NiO)は、焙焼後の被焙焼物の純度に対する要求が非常に厳しい。酸化ニッケルは、硫酸ニッケル(NiSO4)を含有する水溶液にアルカリを添加し、中和して水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を得、その水酸化ニッケルを焙焼して製造される。焙焼後の酸化ニッケルに含まれる不純物の硫黄品位が、例えば100ppmを超えるような高さだと、電池の特性を低下させる等の影響が生じるなど好ましくない。特許文献1等で開示されている従来の流動焙焼炉での焙焼は、焙焼後の被焙焼物の純度を上げる必要性はそれほど高くなく、特許文献1で開示されている構成では、焙焼後の被焙焼物の純度を上げることが困難であった。特に、被焙焼物が炉心内の段差部分に堆積すると、被焙焼物の焙焼が不均一となった。すなわち従来の流動焙焼炉の構成では、焙焼の均一性を十分に上げることができないという問題がある。
【0013】
本発明は上記事情に鑑み、焙焼後の被焙焼物の純度に対する要求が高い場合でも、被焙焼物を均一に焙焼することができる流動焙焼炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、この問題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、流動焙焼炉の筒状炉心部を形成する内面鉛直部と拡張部との連結部分の形状を特定することにより、焙焼後の被焙焼物の純度に対する要求が高い場合でも、被焙焼物を均一に焙焼することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
第1発明の流動焙焼炉は、下側から上側へ向けて流れるガスを用いて被焙焼物が焙焼される筒状炉心部が設けられ、該筒状炉心部は、内面鉛直部と、該内面鉛直部の上側に位置し、下側から上側に向けて炉内断面積が徐々に大きくなる拡張部と、を備え、前記筒状炉心部の軸線を含む断面において、前記内面鉛直部の内面を表す第1の直線と、前記拡張部の内面を表す第2の直線とが、前記筒状炉心部の前記軸線に向けて凸形状である円弧を含む曲線により連結され、前記曲線上の各点における接線の傾きが、前記第1の直線から前記第2の直線の傾きまで一方向に変化しており、前記円弧の中心が前記筒状炉心部の内面よりも外側に位置していることを特徴とする。
第2発明の流動焙焼炉は、第1発明において、前記円弧の曲率半径が、8.0mm以上100mm以下であることを特徴とする。
第3発明の流動焙焼炉は、第2発明において、前記円弧の曲率半径が、8.0mm以上50mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明によれば、内面鉛直部と拡張部との連結部分を、所定の曲面で連結したことにより、内面鉛直部と拡張部とが滑らかに連結され、被焙焼物が連結部分に堆積することを防止できる。この構成により、振動装置などの特別な装置を設ける必要がないので、流動焙焼炉の製造コストを抑えながら、焙焼の均一性を上げることができる。
第2発明によれば、連結部分の断面形状の円弧の曲率半径が8.0mm以上100mm以下であることにより、被焙焼物が堆積することをより確実に防止でき、焙焼の均一性をより高めることができる。
第3発明によれば、連結部分の断面形状の円弧の曲率半径が8.0mm以上50mm以下であることにより、焙焼の均一性を高めることができるとともに、連結部分の製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る流動焙焼炉の正面方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための流動焙焼炉およびその運転方法を例示するものであって、本発明は流動焙焼炉およびその運転方法を以下のものに特定しない。なお、各図面が示す部材の大きさまたは位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0019】
(第1実施形態)
図1には、本発明の第1実施形態に係る流動焙焼炉10の正面方向からの断面図を示す。
図1において黒色の太線矢印は、流動用ガスの流れ方向を示している。本実施形態の流動焙焼炉10には、筒状炉心部11が、軸心を鉛直にした状態で設けられている。この筒状炉心部11の下部には固定層15が設けられている。固定層15は例えば球状のアルミナなどのセラミックスを充填したものを用いることができ、セラミックスはポーラスであってよく、高い充填率のものであってよい。そして被焙焼物が固定層15の下に落ち込まないように固定層15を何層かで構成してもよい。例えば固定層15の下側を球状のアルミナを用い、固定層15の上側をより小さな球状のアルミナを用いてもよい。この固定層15の下面には、筒状炉心部11の下部から流動用ガスを導入するための流動用ガス導入管12が設けられている。この流動用ガス導入管12から太線矢印で示す向きに流動用ガスが供給されることで、固定層15の上に位置している流動媒体31および原料32が流動化して流動層が生じ、この流動層内で原料32が浮遊した状態で焙焼が行なわれる。
【0020】
筒状炉心部11の下部には、流動媒体31等を一定の温度に保持するためのヒータ13が設けられている。なおこのヒータ13は原料32によっては設けられない場合もある。ヒータ13が用いられない場合は、例えば高温の流動用ガスを流して流動焙焼してもよい。
【0021】
筒状炉心部11に供給する原料32は、筒状炉心部11の側部に設けられた原料投入管14により適宜投入される。そして原料投入管14は原料投入後、蓋またはバルブで閉じる。
【0022】
本実施形態の流動焙焼炉10の筒状炉心部11には、内側の面が鉛直である内面鉛直部16が上下に2カ所設けられている。上側に位置する内面鉛直部16の炉内断面積は、下側に位置する内面鉛直部16の炉内断面積よりも大きい。拡張部17の形状は、下側から上側に向けて徐々に炉内断面積が広くなる形状である。筒状炉心部11は、2つの内面鉛直部16と、その間に位置する拡張部17とを含んで構成されている。
【0023】
本実施形態では、下側の内面鉛直部16と拡張部17との連結部分の形状に技術的特徴がある。
図2には、
図1のa部の拡大図を示す。この図は、筒状炉心部11の軸線を含む断面を表している。d1は下側の内面鉛直部16の内面を表す直線であり、d2は拡張部17の内面を表す直線である。
【0024】
本実施形態では、
図2に示すように、直線d1と直線d2とが、円弧を含む曲線C1により連結されている。そして、曲線C1に含まれる円弧の中心は、筒状炉心部11の内面よりも外側に位置している。このように円弧の中心が、筒状炉心部11の内面よりも外側に位置していることにより、直線d1と直線d2とが曲線C1により滑らかに連結される。
【0025】
このように滑らかに連結されることにより、被焙焼物が連結部分に堆積することを防止できる。よって、振動装置などの特別な装置を設ける必要がないので、流動焙焼炉10の製造コストを抑えながら、焙焼の均一性を上げることができる。
【0026】
なお
図2には、曲率半径が95mmの円弧を含む曲線C1が、直線d1、d2と連結している図を記載されているが、曲率半径が50mmの円弧を含む曲線がC2として、曲率半径が9.5mmの円弧を含む曲線がC3として、曲率半径が8mmの円弧を含む曲線がC4として併せて描かれている。本明細書では曲線Cは、C1からC4を含むが、これらに限定されるものではなく、請求の範囲に記載のある範囲の曲率半径の円弧を含む曲線となる。なお本実施形態では、曲率半径は、8.0mm以上100mm以下、好ましくは8.0mm以上50mm以下とする。
【0027】
連結部分の断面形状の円弧の曲率半径が8.0mm以上100mm以下であることにより、被焙焼物が堆積することをより確実に防止でき、焙焼の均一性をより高めることができる。
【0028】
また、後述するように、連結部分の断面形状の円弧の曲率半径が8.0mm以上50mm以下であることにより、焙焼の均一性を高めることができるとともに、連結部分の製造コストを抑えることができる。
【0029】
直線d1、d2と曲線Cとの関係について別の表現を用いると、曲線C上の各点における接線の傾きが、直線d1の傾きから直線d2の傾きまで一方向に変化している。ここで一方向に変化するとは、傾きの値が増加することのみを意味するか、減少することのみを意味する。
【0030】
本実施形態の内面鉛直部16と拡張部17との連結部分は、連結部分のみを削り出し加工を行い、その後下側に位置する内面鉛直部16、および上側に位置する拡張部17と溶接により一体化する。符号18は、内面鉛直部16の一部を構成する部材と連結部分を構成する部材との溶接線、および拡張部17の一部を構成する部材と連結部分を構成する部材との溶接線を示している。なお、連結部分の曲線で表される部分が大きくなるほど、連結部分が大きくなり、かつ加工が難しくなって加工コストが大きくなるため、コスト面を考慮すると連結部分は小さい方が好ましい。なお、連結部分の加工方法は削り出しに限定されない。例えば連結部分は、ヘラ絞り加工によって製造することも可能である。筒状炉心部11の材料は、ステンレスが好適に用いられている。
【0031】
(第1実施形態に係る流動焙焼炉10の運転方法)
図1に示すように、流動焙焼炉10には、原料32と一緒に流動層を生じさせるための流動媒体31が装入されている。流動焙焼炉10に流動用ガス導入管12から流動用ガスが導入されるとともに、原料32があらかじめ定められた量だけ投入される。流動用ガスの流速は、原料32と流動媒体31との混合物の「空塔速度」が、「最小流動化速度」以上で「終末速度」未満であるように調整する。
【0032】
流動焙焼炉10はヒータ13により加熱した状態にしておき、原料32を投入して焙焼することが好ましい。原料投入後、加熱すると時間がかかり効率が悪くなるからである。ヒータ13は電気式であることが、制御が容易である点で好ましい。また、図示していないが、ガスバーナなどはコスト面で安く、好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明に関連する実験を行い、本発明の各実施形態の実施例を示して説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
(実験1)(連結部分の円弧形状の効果の検証、原料:水酸化ニッケル)
<原料>
焙焼対象の原料(被焙焼物)32として、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を準備した。水酸化ニッケルは、平均粒径が23.3±1.0μmのものであり、あらかじめ真空中で175℃、3時間の真空加熱処理が行われ、含有水分が実質的に除去された。分析すると硫黄分が2.1±0.1重量%の割合で含まれていた。その他の不純物成分は、実質的に無視できる程度だった。
【0035】
なお、以下の各実験においては、バッチ処理を行った。すなわち各原料32は所定量を流動焙焼炉10に装入し、次に空気を流動用ガスとして炉内下部から送り込んで流動化するとともに所定の温度に昇温し維持して流動焙焼を行い、焙焼後の流動用ガスは上部から排出するようにした。
【0036】
<流動焙焼処理>
実験1の実施例1~4では、
図1に示す第1実施形態に係る流動焙焼炉10が、連結部分の円弧の曲率を表1に記載したように変更して用いられた。また、比較例1では、連結部分の円弧の曲率半径が0、すなわち筒状炉心部11の軸線を含む断面において、内面鉛直部16の内面を表す直線d1と、拡張部17の内面を表す直線d2とが直接連結されている焙焼炉が用いられた。実験1では、上側に位置する内面鉛直部16の炉内面積は、下側に位置する内面鉛直部16の炉内面積の2倍となっている。これらの焙焼炉により、原料の水酸化ニッケルが焙焼され、焙焼物である酸化ニッケル(NiO)が回収された。
【0037】
投入原料の重量は、全て同一とし、焙焼条件は全て同一条件とした。具体的には焙焼温度は900℃、焙焼時間は20分、流動用ガスには空気が用いられた。所定の焙焼後炉を冷却し、炉内の被焙焼物を回収した。
【0038】
<評価>
実施例1~4、比較例1のそれぞれの処理において、焙焼により得られた試料の回収率(実収率)、回収した試料中における酸化ニッケルの含有量、および、回収した試料中における硫黄の含有量が評価された。表1に、測定結果を示す。なお、評価方法は以下の通りである。
【0039】
[焙焼により得られた試料の回収率]
焙焼により得られた試料の回収率(実収率)は、下記の数1により算出した。
【0040】
(数1)
R=W1/(W2-S)×100
【0041】
R:回収率[%]
W1:回収した試料の重量
W2:投入した原料32(今回はNi(OH)2)が全て焙焼された(今回はNiO)ときの重量
S:投入した原料32に含まれている硫黄の重量
【0042】
[回収した試料中における酸化ニッケルの含有量の割合]
回収した試料中における酸化ニッケルの含有量の割合は、回収した試料中に含まれる酸化ニッケル(NiO)と水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の含有量をそれぞれ算出し、それぞれの含有量の合計値に対するNiO含有量の割合(重量%)として算出した。
【0043】
[回収した試料中における硫黄の含有量]
回収した試料中における硫黄の含有量は、硫黄分析装置(三菱化学株式会社製,型式:TOX-100)を用いて測定した。
【0044】
【表1】
表1に示すように、流動焙焼炉10で、連結部分が所定の形状である実施例1~4では良好な結果が得られた。すなわち、回収率は全て高い値を示し、回収した試料中における酸化ニッケルの含有割合も全て99.5%以上となり、水酸化ニッケルをほとんど酸化ニッケルに焙焼できていることが分かる。また、回収した試料中の硫黄の含有量も極めて少なく、硫黄品位が低い高品質な酸化ニッケルが得られた。これは、被焙焼物が連結部分に堆積することが無く、均一に効率よく焙焼されたためであると考えられる。
【0045】
一方、連結部分の円弧の曲率半径が0、すなわち筒状炉心部11の軸線を含む断面において、内面鉛直部16の内面を表す直線d1と、拡張部17の内面を表す直線d2とが直接連結されている焙焼炉で焙焼された比較例1では実施例1~4に対して、回収率は低く、回収した試料中における硫黄品位も高くなった。これは、流動焙焼中に被焙焼物が連結部分に堆積し、焙焼されない被焙焼物が存在し、焙焼が不均一になったことによるものと考えられる。
【0046】
(実験2)(連結部分の円弧形状の効果の検証、原料:銅精鉱)
水酸化ニッケルに代えて、砒素を微量含有する銅精鉱を焙焼し、砒素を分離する試験をおこなった。
【0047】
<原料>
原料には表2に示す組成の南米産の銅精鉱を用いた。
【0048】
【0049】
<流動焙焼処理>
実験2の実施例5~8では、
図1に示す第1実施形態に係る流動焙焼炉10が、連結部分の円弧の曲率を表3に記載したように変更して用いられた。また、比較例2では、連結部分の円弧の曲率半径が0、すなわち筒状炉心部11の軸線を含む断面において、内面鉛直部16の内面を表す直線d1と、拡張部17の内面を表す直線d2とが直接連結されている焙焼炉が用いられた。これらの焙焼炉には、2つの内面鉛直部16が設けられており、これらの内面鉛直部16は、拡張部17を挟んで一体化されている。また上側に位置する内面鉛直部16の炉内面積は、下側に位置する内面鉛直部16の炉内面積の2倍となっている。これらの焙焼炉により、原料の銅精鉱が焙焼された。
【0050】
投入原料の重量は、全て同一とし、焙焼条件は全て同一条件とした。具体的には焙焼温度は900℃、焙焼時間は4.0時間、流動用ガスには窒素が用いられた。所定の焙焼後炉を冷却し、炉内の被焙焼物を回収した。
【0051】
<評価>
それぞれの処理において、フィルターでの試料の回収率、および焙焼後の銅精鉱中の砒素含有量が評価された。表3に結果を示す。なお、以下の方法で評価した。
【0052】
[フィルターでの試料の回収率]
焙焼後、排気ガスとともに流し出された被焙焼物はバグフィルターで回収し、その回収量から下式によってフィルターでの回収率(飛散率)を算出した。なお、フィルターでの回収率(飛散率)が低いほど流動焙焼炉から飛散しなかった割合が高い好ましい結果だったことを意味する。
【0053】
(数2)
R2=W3/W4×100
【0054】
R2:フィルターでの回収率[%]
W3:回収した試料の重量
W4:投入した原料(今回は銅精鉱)の重量
【0055】
[実験前後の試料中の砒素含有量]
実験前後の試料について、砒素と硫黄をICPで分析した。
【0056】
【0057】
表3に示すように、流動焙焼炉10で、連結部分が所定の形状である実施例5~8では良好な結果が得られた。すなわち、全ての実施例において砒素は0.1重量%未満であり、精鉱中の砒素と硫黄の含有量が大きく減少していることが分かった。このように精鉱中の砒素、硫黄が減少したため、鉱石中の銅含有率は10%以上増加したことに相当した。これは、被焙焼物が連結部分に堆積することが無く、均一に効率よく焙焼されたためであると考えられる。
【0058】
一方、連結部分の円弧の曲率半径が0、すなわち筒状炉心部11の軸線を含む断面において、内面鉛直部16の内面を表す直線d1と、拡張部17の内面を表す直線d2とが直接連結されている焙焼炉で焙焼された比較例1では実施例1~4に対して、回収率は低く、回収した試料中における硫黄品位も高くなった。これは、流動焙焼中に被焙焼物が連結部分に堆積し、焙焼されない被焙焼物が存在し、焙焼が不均一になったことによるものと考えられる。
【符号の説明】
【0059】
10 流動焙焼炉
11 筒状炉心部
16 内面鉛直部
17 拡張部