(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】潤滑油組成物、及び潤滑油組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
C10M 141/10 20060101AFI20240228BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20240228BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20240228BHJP
C10M 137/00 20060101ALN20240228BHJP
C10M 129/70 20060101ALN20240228BHJP
C10M 129/74 20060101ALN20240228BHJP
C10M 137/12 20060101ALN20240228BHJP
C10N 40/12 20060101ALN20240228BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240228BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20240228BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20240228BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240228BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C10M141/10
C10M133/12
C10M129/10
C10M137/00
C10M129/70
C10M129/74
C10M137/12
C10N40:12
C10N40:30
C10N40:08
C10N30:10
C10N40:02
C10N40:04
(21)【出願番号】P 2020039404
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徳栄
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第16/032246(WO,A1)
【文献】特開2008-156527(JP,A)
【文献】特表2004-501234(JP,A)
【文献】特開2007-161773(JP,A)
【文献】特開平05-302093(JP,A)
【文献】特開2012-102191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3級炭素の含有量が、炭化水素の全炭素基準で、8.0at%以上である基油(X)と、
アミン系酸化防止剤(A)、フェノール系酸化防止剤(B)、及びリン系酸化防止剤(C)を含む酸化防止剤(Y)と、
を含有する潤滑油組成物であって、
前記アミン系酸化防止剤(A)は、下記一般式(a1)で表されるジフェニルアミン化合物(A1)を含み、
【化1】
[上記一般式(a1)中、R
a1及びR
a2は、各々独立に、炭素数1~30のアルキル基である。na1及びna2は、各々独立に、1~5の整数である。na1が2以上である場合、複数のR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。na2が2以上である場合、複数のR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
前記フェノール系酸化防止剤(B)は、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)を含み、
前記リン系酸化防止剤(C)が、下記一般式(c1)で表される、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)を含み、
【化2】
[上記一般式(c1)中、R
c1
、R
c2
、R
c3
、及びR
c4
は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~30のアルキル基である。]
前記ジフェニルアミン化合物(A1)、前記エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)、及び前記リン系酸化防止剤(C)の合計含有量[(A1)+(B1)+(C)]が、前記潤滑油組成物の全量基準で、1.0質量%超2.0質量%以下である、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記ジフェニルアミン化合物(A1)及び前記エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)の合計含有量[(A1)+(B1)]が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.9質量%以上である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ジフェニルアミン化合物(A1)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.3質量%~1.8質量%である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記アミン系酸化防止剤(A)が、更に、下記一般式(a2)で表されるナフチルアミン化合物(A2)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【化3】
[上記一般式(a2)中、R
a3は、炭素数1~30のアルキル基である。na3は、1~5の整数である。na3が2以上である場合、複数のR
a3は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
【請求項5】
前記ジフェニルアミン(A1)と前記ナフチルアミン(A2)の合計含有量[(A1)+(A2)]が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.8質量%以上2.0質量%未満である、請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)が、下記一般式(b1-1)で表される化合物(B1-1)及び下記一般式(b1-2)で表される化合物(B1-2)からなる群から選択される1種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【化4】
[上記式(b1-1)中、R
b1は、炭素数1~5のアルキレン基である。R
b2は、炭素数1~25のアルキル基である。]
【化5】
[上記式(b1-2)中、R
b3及びR
b4は、各々独立に、炭素数1~5のアルキレン基である。mは、2~4の整数である。]
【請求項7】
更に、極圧剤、清浄分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び摩擦調整剤からなる群から選択される1種以上の潤滑油用添加剤を含有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記基油(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、90.0質量%以上である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
タービン、圧縮機、及び油圧機器からなる群から選択される1種以上の機器に用いられる、請求項1~
8のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を、タービン、圧縮機、及び油圧機器からなる群から選択される1種以上の機器に使用する、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、及び潤滑油組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービン及びガスタービン等のタービン、圧縮機、並びに油圧機器等の機器に使用される潤滑油組成物は、高温環境下の系内を循環しながら使用される。そのため、酸化劣化が生じやすい。かかる事情から、当該潤滑油組成物について、高温環境下における長期間の使用に対しても酸化安定性を良好に維持するための様々な研究開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、粘度指数120以上の潤滑油基油と、フェニル-α-ナフチルアミン又はその誘導体と、p,p’-ジアルキルジフェニルアミン又はその誘導体と、粘度指数向上剤とを含有する、回転式ガス圧縮機用潤滑油組成物が開示されている。
特許文献1によれば、当該回転式ガス圧縮機用潤滑油組成物は、高温下で使用された場合であっても、熱・酸化安定性と抗スラッジ性の双方を高水準で達成すると同時に、省エネルギー効果にも優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、原料調達の多様化等を踏まえ、タービン、ガス圧縮機、及び油圧機器等の機器に使用される潤滑油組成物について、基油として様々な基油を用い、鋭意検討を行った。その結果、基油として3級炭素を一定量以上含有する基油を用いた場合、ポリαオレフィン及びPAG等の合成油や鉱油等、従来用いられていた基油に対する酸化防止剤の配合では、酸化安定性を長期に亘り維持できないことがわかった。
一方、潤滑油組成物の酸化安定性を示す指標として、JIS K 2514-3:2013又はASTM D 2272で規定されたRPVOT値(回転ボンベ式酸化安定度試験)が主に用いられ、酸化防止剤の性能低下から、使用油の残存寿命の評価を行うのが一般的である。特許文献1においても、RPVOT値(RBOT値)を用いた評価が行われている。
しかしながら、実機での使用環境下においては、潤滑油組成物が装置内を循環して用いられる際に吐出される圧縮空気に同伴して油が系外に飛び出すため、規定量の潤滑油組成物を実機内に維持するために、潤滑油組成物を適宜充填しながら使用されることが多い。そのため、密閉条件下で行われるRPVOT値での評価結果だけでは酸化安定性を正確に評価できていないという課題もあった。なお、酸価の上昇速度が速いとRPVOT値も短くなる傾向にあるため、初期段階の酸価上昇を抑制することは、結果的に、酸化安定性を長期に亘り維持することにも繋がる。
そこで、従来用いられていた基油に対する酸化防止剤の配合では酸化安定性を長期に亘り維持できなかった、3級炭素を一定量以上含有する基油について、酸化安定性を正確に評価するという観点から、RPVOT値により評価される酸化安定性を優れたものとするだけでなく、初期段階の酸価上昇(酸価上昇速度)を抑制することも考慮して、酸化安定性を長期に亘り維持することが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、3級炭素を一定量以上含有する基油を用いながらも、RPVOT値により評価される酸化安定性を優れたものとすることのみならず、初期段階の酸価上昇(酸価上昇速度)を抑制することで、酸化安定性を長期に亘り維持することができる潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の酸化防止剤の組み合わせと、これら特定の酸化防止剤の合計含有量の調整とによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記[1]~[10]に関する。
[1] 3級炭素の含有量が、炭化水素の全炭素基準で、8.0at%以上である基油(X)と、
アミン系酸化防止剤(A)、フェノール系酸化防止剤(B)、及びリン系酸化防止剤(C)を含む酸化防止剤(Y)と、
を含有する潤滑油組成物であって、
前記アミン系酸化防止剤(A)は、下記一般式(a1)で表されるジフェニルアミン化合物(A1)を含み、
【化1】
[上記一般式(a1)中、R
a1及びR
a2は、各々独立に、炭素数1~30のアルキル基である。na1及びna2は、各々独立に、1~5の整数である。na1が2以上である場合、複数のR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。na2が2以上である場合、複数のR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
前記フェノール系酸化防止剤(B)は、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)を含み、
前記ジフェニルアミン化合物(A1)、前記エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)、及び前記リン系酸化防止剤(C)の合計含有量[(A1)+(B1)+(C)]が、前記潤滑油組成物の全量基準で、1.0質量%超2.0質量%以下である、潤滑油組成物。
[2] 前記ジフェニルアミン化合物(A1)及び前記エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)の合計含有量[(A1)+(B1)]が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.9質量%以上である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記ジフェニルアミン化合物(A1)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.30質量%~1.8質量%である、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記アミン系酸化防止剤(A)が、更に、下記一般式(a2)で表されるナフチルアミン化合物(A2)を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【化2】
[上記一般式(a2)中、R
a3は、炭素数1~30のアルキル基である。na3は、1~5の整数である。na3が2以上である場合、複数のR
a3は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
[5] 前記ジフェニルアミン(A1)と前記ナフチルアミン(A2)の合計含有量[(A1)+(A2)]が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.80質量%以上2.0質量%未満である、上記[4]に記載の潤滑油組成物。
[6] 前記エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)が、下記一般式(b1-1)で表される化合物(B1-1)及び下記一般式(b1-2)で表される化合物(B1-2)からなる群から選択される1種以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【化3】
[上記式(b1-1)中、R
b1は、炭素数1~5のアルキレン基である。R
b2は、炭素数1~25のアルキル基である。]
【化4】
[上記式(b1-2)中、R
b3及びR
b4は、各々独立に、炭素数1~5のアルキレン基である。mは、2~4の整数である。]
[7] 前記リン系酸化防止剤(C)が、下記一般式(c1)で表される、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)を含む、上記[1]~[6]いずれかに記載の潤滑油組成物。
【化5】
[上記一般式(c1)中、R
c1、R
c2、R
c3、及びR
c4は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~30のアルキル基である。]
[8] 更に、極圧剤、清浄分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び摩擦調整剤からなる群から選択される1種以上の潤滑油用添加剤を含有する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[9] 前記基油(X)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、90.0質量%以上である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[10] タービン、圧縮機、及び油圧機器からなる群から選択される1種以上の機器に用いられる、上記[1]~[9]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[11] 上記[1]~[9]のいずれかに記載の潤滑油組成物を、タービン、圧縮機、及び油圧機器からなる群から選択される1種以上の機器に使用する、使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、3級炭素を一定量以上含有する基油を用いながらも、RPVOT値により評価される酸化安定性を優れたものにすることのみならず、初期段階の酸価上昇を抑制することで、酸化安定性を長期に亘り維持することができる潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
本明細書において、「AA~BB」と表現された数値範囲は、特にことわりのない限り、「AA以上BB以下」を意味する。
【0011】
[本発明の潤滑油組成物の態様]
本発明の潤滑油組成物は、3級炭素の含有量が、炭化水素の全炭素基準で、8.0at%以上である基油(X)と、アミン系酸化防止剤(A)、フェノール系酸化防止剤(B)、及びリン系酸化防止剤(C)を含む酸化防止剤(Y)と、を含有する潤滑油組成物である。
アミン系酸化防止剤(A)は、下記一般式(a1)で表されるジフェニルアミン化合物(A1)を含む。
【化6】
[上記一般式(a1)中、R
a1及びR
a2は、各々独立に、炭素数1~30のアルキル基である。na1及びna2は、各々独立に、1~5の整数である。na1が2以上である場合、複数のR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。na2が2以上である場合、複数のR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
フェノール系酸化防止剤(B)は、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)を含む。
そして、ジフェニルアミン化合物(A1)、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)、及びリン系酸化防止剤(C)の合計含有量[(A1)+(B1)+(C)]は、潤滑油組成物の全量基準で、1.0質量%超2.0質量%以下である。
【0012】
本発明者は、3級炭素を一定量以上含有する基油を用いながらも、RPVOT値により評価される酸化安定性を優れたものとすることのみならず、初期段階の酸価上昇を抑制することで、酸化安定性を長期に亘り維持することができる潤滑油組成物を提供することを課題として、鋭意検討を行った。
まず、3級炭素を一定量以上含有する基油を用いた場合に、ポリαオレフィン及びPAG等の合成油や鉱油等、従来用いられていた基油に対する酸化防止剤の配合では、酸化防止剤が効きにくい理由について検討した。その結果、3級炭素のラジカルは、3級炭素よりも低級炭素のラジカルと比較して安定であるため、3級炭素を一定量以上含有する基油は、酸素原子を捕捉し得るラジカルがより多く存在し、酸化劣化が起こりやすくなることが要因の一つとして考えられた。そして、このことから、3級炭素を一定量以上含有する基油を用いる場合、酸化防止剤の配合の調整が従来よりも困難であると考えられた。実際、3級炭素を一定量以上含有する基油に、従来と同様に酸化防止剤を配合しても酸化防止剤が効きにくく、上記課題を解決する潤滑油組成物の調整は困難を極めた。
かかる状況の下、本発明者は、酸化防止剤の配合について種々検討を重ね、上記課題を解決し得る酸化防止剤の配合を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
なお、以降の説明では、「基油(X)」及び「酸化防止剤(Y)」を、それぞれ「成分(X)」及び「成分(Y)」ともいう。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(X)及び成分(Y)のみから構成されていてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(X)及び成分(Y)以外の他の成分を含有していてもよい。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(X)及び成分(Y)の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、更になお好ましくは97質量%以上である。また、好ましくは、99.9質量%以下である。
【0014】
以下、本発明の潤滑油組成物が含有する各成分について、詳細に説明する。
【0015】
<基油(X)>
本発明の潤滑油組成物は、基油(X)を含有する。
基油(X)は、3級炭素の含有量が、基油(X)中の炭化水素の全炭素基準で、8.0at%以上である。
本発明者の検討によると、基油(X)の3級炭素の含有量が、基油(X)中の炭化水素の全炭素基準で、8.0at%以上である場合、酸化劣化が起こりやすく、酸化防止剤の配合の調整が従来よりも困難であることがわかっている。本発明では、後述する酸化防止剤の配合の調整によって、酸化安定性を長期に亘り維持しつつ、酸価の上昇を抑制するようにしている。
なお、本発明の一態様では、基油(X)の3級炭素の含有量は、8.5at%以上であってもよく、9.0at%以上であってもよく、9.5at%以上であってもよく、10.0at%以上であってもよい。なお、基油(X)の3級炭素の含有量の上限値は、通常、20.0at%以下である。
なお、基油(X)中の炭化水素の全炭素基準での3級炭素の含有量は、13C-NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対する3級炭素に起因する積分強度の合計の割合を意味するが、同等の結果が得られるのであればその他の方法を用いてもよい。なお、13C-NMR測定にあたっては、サンプルとして測定対象試料0.5gに3gの重クロロホルムを加えて希釈したものを使用し、測定温度は室温、共鳴周波数は100MHzとし、測定法はゲート付デカップリング法を使用する方法が挙げられる。上記分析により、後述するように(a)と(b)をそれぞれ測定し、(a)を100%とした時の(b)の割合(%)を算出する。(b)の割合は基油(X)を構成する全炭素原子に対する全3級炭素原子の割合を示す。
(a)化学シフト約10-50ppmの積分強度の合計(炭化水素の全炭素に起因する積分強度の合計)
(b)化学シフト約27.9-28.1ppm、28.4-28.6ppm、32.6-33.2ppm、34.4-34.6ppm、37.4-37.6ppm、38.8-39.1ppm、及び、40.4-40.6ppmの積分強度の合計(メチル基、エチル基、及びその他分岐基がついた3級炭素及びナフテン3級炭素に起因する積分強度の合計)
なお、基油(X)が混合基油の場合には、当該混合基油の3級炭素の含有量を上述の方法で測定した値を示す。
【0016】
(基油(X)の含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油(X)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは90.0質量%以上、より好ましくは93.0質量%以上、更に好ましくは95.0質量%以上である。また、好ましくは99.0質量%未満、より好ましくは98.5質量%以下、更に好ましくは98.0質量%以下である。
【0017】
(基油(X)の種類)
基油(X)としては、3級炭素の含有量が、基油(X)中の炭化水素の全炭素基準で、8.0at%以上である基油を、特に制限なく用いることができる。以下、「3級炭素の含有量が、基油(X)中の炭化水素の全炭素基準で、8.0at%以上である基油」を、「3級炭素高含有基油」ともいう。
3級炭素高含有基油の代表例としては、例えば、パラフィン系鉱油、中間系鉱油、ナフテン系鉱油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;当該常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げ、溶剤脱ろう、接触脱ろう、異性化脱ろう、減圧蒸留等の精製処理の一つ以上の処理を施した鉱油又はワックス(スラックワックス、GTLワックス等)や、イソパラフィン重合体等が挙げられる。
これらの基油(X)は、1種からなるものであってもよく、2種以上を組み合わせた混合油であってもよい。
【0018】
なお、基油(X)は、3級炭素の含有量が、基油(X)の全量基準で、8.0at%以上であることを満たす範囲内で、3級炭素の含有量が8.0at%未満である基油、例えば、合成油や植物油等を1種または2種以上組み合わせて含有していてもよい。
【0019】
但し、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、基油(X)は、基油の全量基準で、50質量%~100質量%含むことが好ましく、60質量%~100質量%含むことがより好ましく、70質量%~100質量%含むことが更に好ましく、80質量%~100質量%含むことがより更に好ましく、90質量%~100質量%含むことが更になお好ましい。
【0020】
(基油(X)の40℃における動粘度、粘度指数)
基油(X)の40℃における動粘度(以下、「40℃動粘度」ともいう)は、好ましくは10mm2/s~100mm2/s、より好ましくは30mm2/s~60mm2/s、更に好ましくは35mm2/s~55mm2/s、より更に好ましくは40mm2/s~50mm2/sである。
また、基油(X)の粘度指数は、好ましくは100以上、より好ましくは125以上、更に好ましくは130以上である。また、通常150以下である。
本明細書において、基油(X)の40℃動粘度及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定及び算出した値である。
【0021】
<酸化防止剤(Y)>
本発明の潤滑油組成物は、酸化防止剤(Y)を含有する。
潤滑油組成物が酸化防止剤(Y)を含有しない場合、本発明の効果が奏されない。
本発明の潤滑油組成物が含有する酸化防止剤(Y)は、アミン系酸化防止剤(A)、フェノール系酸化防止剤(B)、及びリン系酸化防止剤(C)を含む。以降の説明では、これらをそれぞれ「成分(A)」、「成分(B)」、及び「成分(C)」ともいう。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、酸化防止剤(Y)は、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)のみから構成されていてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)以外の他の酸化防止剤を含有していてもよい。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計含有量は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、酸化防止剤(Y)の全量基準で、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、更に好ましくは80質量%~100質量%、より更に好ましくは90質量%~100質量%、更になお好ましくは95質量%~100質量%である。
以下、アミン系酸化防止剤(A)、フェノール系酸化防止剤(B)、及びリン系酸化防止剤(C)について、詳細に説明する。
【0022】
<アミン系酸化防止剤(A)>
本発明の潤滑油組成物は、酸化防止剤(Y)として、アミン系酸化防止剤(A)を含有する。
アミン系酸化防止剤(A)は、酸化防止性能を有し、アミノ基を含有する化合物である。
以下、本発明の潤滑油組成物において用いられる、アミン系酸化防止剤(A)について、詳細に説明する
【0023】
(ジフェニルアミン化合物(A1))
本発明の潤滑油組成物において、アミン系酸化防止剤(A)は、下記一般式(a1)で表されるジフェニルアミン化合物(A1)を含む。
【化7】
[上記一般式(a1)中、R
a1及びR
a2は、各々独立に、炭素数1~30のアルキル基である。na1及びna2は、各々独立に、1~5の整数である。na1が2以上である場合、複数のR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。na2が2以上である場合、複数のR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
本発明者の検討によると、ジフェニルアミン化合物(A1)は、リン系酸化防止剤(C)と併用することで、RPVOT値で評価される酸化安定性を良好にする性能を有する。一方で、ジフェニルアミン化合物(A1)は、初期段階で酸価を上昇させてしまう傾向にある。そこで、本発明では、初期段階の酸化上昇を抑制することで、酸化安定性を長期に亘り維持するために、ジフェニルアミン化合物(A1)、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)、及びリン系酸化防止剤(C)の合計含有量[(A1)+(B1)+(C)]を一定範囲に規定している。なお、潤滑油組成物がジフェニルアミン化合物(A1)を含有しない場合、本発明の効果が奏されない。
【0024】
上記一般式(a1)中、Ra1及びRa2として選択し得るアルキル基の炭素数は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、各々独立に、好ましくは1~20、より好ましくは4~16、更に好ましくは4~14である。
Ra1及びRa2として選択し得るアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられる。
これらのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0025】
上記一般式(a1)中、na1及びna2は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、各々独立に、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、更に好ましくは1である。
【0026】
ジフェニルアミン化合物(A1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ジフェニルアミン化合物(A1)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.30質量%~1.8質量%、より好ましくは0.30質量%~1.2質量%、更に好ましくは0.40質量%~1.1質量%である。
ジフェニルアミン化合物(A1)の含有量が上記範囲であることにより、RPVOT値で評価される潤滑油組成物の酸化安定性を良好なものとしつつ、潤滑油組成物の初期段階の酸価の上昇を抑制しやすい。
【0028】
(ナフチルアミン化合物(A2))
本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、アミン系酸化防止剤(A)は、下記一般式(a2)で表されるナフチルアミン化合物(A2)を含むことが好ましい。
【化8】
[上記一般式(a2)中、R
a3は、炭素数1~30のアルキル基である。na3は、1~5の整数である。na3が2以上である場合、複数のR
a3は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
【0029】
上記一般式(a2)中、Ra3として選択し得るアルキル基の炭素数は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、好ましくは1~20、より好ましくは4~16、更に好ましくは6~14である。
Ra3として選択し得るアルキル基の具体例としては、Ra1及びRa2として選択し得るアルキル基として例示したものが挙げられる。
これらのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、直鎖状であることが好ましい。
【0030】
上記一般式(a2)中、na3は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、更に好ましくは1である。
【0031】
ナフチルアミン化合物(A2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ナフチルアミン化合物(A2)の含有量は、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.50質量%~0.80質量%、より好ましくは0.55質量%~0.75質量%、更に好ましくは0.60質量%~0.70質量%である。
【0033】
(アミン系酸化防止剤(A)中の各種アミン化合物の含有量、含有比率)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ジフェニルアミン化合物(A1)の含有量は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、アミン系酸化防止剤(A)の全量基準で、好ましくは30質量%~100質量%、より好ましくは、35質量%~100質量%、更に好ましくは40質量%~100質量%である。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、アミン系酸化防止剤(A)がナフチルアミン化合物(A2)を含む場合、ジフェニルアミン化合物(A1)及びナフチルアミン化合物(A2)の合計含有量は、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、アミン系酸化防止剤(A)の全量基準で、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、更に好ましくは95質量%~100質量%、より更に好ましくは98質量%~100質量%、更になお好ましくは99質量%~100質量%である。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、ジフェニルアミン化合物(A1)及びナフチルアミン化合物(A2)以外の他のアミン系酸化防止剤(A’)の含有量は少ないことが好ましい。当該他のアミン系酸化防止剤(A’)の含有量は、アミン系酸化防止剤(A)の全量基準で、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満、更になお好ましくは当該他のアミン系酸化防止剤(A’)を含まないことである。
当該他のアミン系酸化防止剤(A’)としては、例えば、ジフェニルアミン化合物(A1)には該当しない、アラルキル化ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0034】
(ジフェニルアミン化合物(A1)及びナフチルアミン化合物(A2)の合計含有量、含有比率)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、アミン系酸化防止剤(A)がナフチルアミン化合物(A2)を含む場合、ジフェニルアミン化合物(A1)及びナフチルアミン化合物(A2)の合計含有量[(A1)+(A2)]は、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.80質量%以上2.0質量%未満、より好ましくは0.90質量%~1.9質量%、更に好ましくは1.0質量%~1.7質量%である。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、アミン系酸化防止剤(A)がナフチルアミン化合物(A2)を含む場合、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、ジフェニルアミン化合物(A1)とナフチルアミン化合物(A2)との含有比率[(A1)/(A2)]は、質量比で、好ましくは0.5~2.0、より好ましくは0.6~1.8、更に好ましくは0.7~1.7である。
【0035】
<フェノール系酸化防止剤(B)>
本発明の潤滑油組成物は、酸化防止剤(Y)として、フェノール系酸化防止剤(B)を含有する。
フェノール系酸化防止剤(B)は、酸化防止性能を有し、フェノール構造を有する化合物である。但し、このような化合物のうち、リン原子を含有する化合物は、リン系酸化防止剤(C)に包含されるものとする。
以下、本発明の潤滑油組成物において用いられる、フェノール系酸化防止剤(B)について、詳細に説明する。
【0036】
(エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1))
本発明の潤滑油組成物において、フェノール系酸化防止剤(B)は、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)を含む。
本発明者の検討によると、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)は、3級炭素高含有基油で生じ易い初期段階の酸化劣化を抑制する性能を有する。但し、当該ヒンダードフェノール化合物(B1)のエステル構造部位が、3級炭素高含有基油に含まれ得る微量の水分と加水分解し、初期段階の酸価を上昇させ易い。そのため、本発明では、ジフェニルアミン化合物(A1)、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)、及びリン系酸化防止剤(C)の合計含有量[(A1)+(B1)+(C)]を一定範囲に規定している。
潤滑油組成物がエステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)を含有しない場合、本発明の効果が奏されない。
なお、ヒンダードフェノール化合物とは、フェノール芳香環上の水素原子がtert-ブチル基等の嵩高い置換基により置換された化合物である。
エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)としては、例えば、下記一般式(b1-1)で表される化合物(B1-1)及び下記一般式(b1-2)で表される化合物(B1-2)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。なお、以降の説明では、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)を、単に「ヒンダードフェノール化合物(B1)」ともいう。
【化9】
[上記式(b1-1)中、R
b1は、炭素数1~5のアルキレン基である。R
b2は、炭素数1~25のアルキル基である。]
【化10】
[上記式(b1-2)中、R
b3及びR
b4は、各々独立に、炭素数1~5のアルキレン基である。mは、2~4の整数である。]
【0037】
上記一般式(b1-1)中、Rb1として選択し得るアルキレン基の炭素数は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、更に好ましくは1~2である。
Rb1として選択し得るアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基等の直鎖状のアルキレン基;イソプロピレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン、tert-ブチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基などの分枝鎖状アルキレン基等が挙げられる。
上記一般式(b1-1)中、Rb2として選択し得るアルキル基の炭素数は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、好ましくは2~20、より好ましくは4~15、更に好ましくは6~10である。
Rb2として選択し得るアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基等が挙げられる。これらは、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
上記一般式(b1-1)で表される化合物(B1-1)を例示すると、ベンゼンプロパン酸3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
上記一般式(b1-1)で表される化合物(B1-1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記一般式(b1-2)中、Rb3及びRb4として選択し得るアルキレン基の炭素数は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、好ましくは1~4、より好ましくは1~3、更に好ましくは1~2である。
Rb3及びRb4として選択し得るアルキレン基の具体例としては、Rb2として挙げた基と同様の基が挙げられる。
上記一般式(b1-2)で表される化合物(B1-2)を例示すると、ペンタエリスリトール テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]等が挙げられる。
上記一般式(b1-2)で表される化合物(B1-2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ヒンダードフェノール化合物(B1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ヒンダードフェノール化合物(B1)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.50質量%~0.80質量%、より好ましくは0.55質量%~0.70質量%、更に好ましくは0.55質量%~0.65質量%である。
ヒンダードフェノール化合物(B1)の含有量が上記範囲であることにより、潤滑油組成物の初期段階の酸価上昇を抑制することができると共に、3級炭素高含有基油に含まれ得る微量な水分との反応により生成される加水分解物に起因する酸価の上昇を抑制させ得る。
【0041】
(フェノール系酸化防止剤(B)中のヒンダードフェノール化合物(B1)の含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ヒンダードフェノール化合物(B1)の含有量は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、フェノール系酸化防止剤(B)の全量基準で、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、更に好ましくは95質量%~100質量%、より更に好ましくは98質量%~100質量%、更になお好ましくいは99質量%~100質量%である。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、ヒンダードフェノール化合物(B1)以外の他のフェノール系酸化防止剤(B’)の含有量は少ないことが好ましい。当該他のフェノール系酸化防止剤(B’)の含有量は、フェノール系酸化防止剤(B)の全量基準で、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満、更になお好ましくは当該他のフェノール系酸化防止剤(B’)を含まないことである。
当該他のフェノール系酸化防止剤(B’)としては、例えば、ヒンダードフェノール化合物(B1)には該当しない、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(DBPC)等が挙げられる。
【0042】
<リン系酸化防止剤(C)>
本発明の潤滑油組成物は、酸化防止剤(Y)として、リン系酸化防止剤(C)を含有する。
リン系酸化防止剤(C)は、リン原子を含有する化合物であり、アミン系酸化防止剤(A)と併用することで、RPVOT値で評価される酸化安定性を良好なものとして、酸化安定性を長期に亘り維持する性能を有する。
潤滑油組成物がリン系酸化防止剤(C)を含有しない場合、RPVOT値で評価される酸化安定性を優れたものとすることができず、酸化安定性を長期に亘り維持することができない。
以下、本発明の潤滑油組成物において用いられる、リン系酸化防止剤(C)について、詳細に説明する
【0043】
(フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1))
本発明の一態様の潤滑油組成物において、リン系酸化防止剤(C)は、下記一般式(c1)で表される、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)を含むことが好ましい。
【化11】
[上記一般式(c1)中、R
c1、R
c2、R
c3、及びR
c4は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~30のアルキル基である。]
【0044】
Rc1、Rc2、Rc3、及びRc4として選択し得るアルキル基としては、上述のRa1及びRa2として選択し得るアルキル基と同じものが挙げられる。
但し、Rc1、Rc2、Rc3、及びRc4として選択し得るアルキル基の炭素数としては、それぞれ独立に、好ましくは1~20、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~6である。
ここで、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、ヒンダードフェノール骨格を有することが好ましい。したがって、Rc1及びRc2として選択し得るアルキル基は、分岐鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数1~6の分岐鎖アルキル基であることがより好ましく、tert-ブチル基であることが更に好ましい。
【0045】
フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.05質量%~0.30質量%、より好ましくは0.07質量%~0.20質量%、更に好ましくは0.09質量%~0.15質量%である。
フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)の含有量が上記範囲であることにより、ジフェニルアミン(A1)とヒンダードフェノール化合物(B1)の配合量を抑えながらも、酸化安定性を長期に亘り安定に維持し得る。
【0046】
(リン系酸化防止剤(C)中のフェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)の含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)の含有量は、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、リン系酸化防止剤(C)の全量基準で、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、更に好ましくは95質量%~100質量%、より更に好ましくは98質量%~100質量%、更になお好ましくいは99質量%~100質量%である。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)以外の他のリン系酸化防止剤(C’)の含有量は少ないことが好ましい。当該他のリン系酸化防止剤(C’)の含有量は、リン系酸化防止剤(C)の全量基準で、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満、更になお好ましくは当該他のリン系酸化防止剤(C’)を含まないことである。
当該他のリン系酸化防止剤(C’)としては、例えば、フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1)には該当しない、リン原子を含有する金属系酸化防止剤、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
【0047】
<他の酸化防止剤(Y’)>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を発揮させやすくするという観点から、アミン系酸化防止剤(A)、フェノール系酸化防止剤(B)、及びリン系酸化防止剤(C)以外の他の酸化防止剤(Y’)の含有量は少ないことが好ましい。当該他の酸化防止剤(Y’)の含有量は、酸化防止剤(Y)の全量基準で、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満、更になお好ましくは当該他の酸化防止剤(Y’)を含まないことである。
他の酸化防止剤(Y’)としては、例えば硫黄系酸化防止剤、金属系酸化防止剤等が挙げられる。
【0048】
<各酸化防止剤の合計含有量、含有比率>
以下、ジフェニルアミン化合物(A1)、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)、及びリン系酸化防止剤(C)に関し、合計含有量、含有比率について詳細に説明する。
【0049】
([(A1)+(B1)+(C)])
本発明の潤滑油組成物において、ジフェニルアミン化合物(A1)、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)、及びリン系酸化防止剤(C)の合計含有量[(A1)+(B1)+(C)]は、1.0質量%超2.0質量%以下であることを要する。
[(A1)+(B1)+(C)]が1.0質量%以下であると、RPVOT値で評価される酸化安定性を優れたものとすることができず、酸化安定性を長期に亘って維持することができない。
また、[(A1)+(B1)+(C)]が2.0質量%超であると、初期段階で酸価が上昇しやすい潤滑油組成物となる。
ここで、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、[(A1)+(B1)+(C)]は、1.1質量%~1.9質量%であることが好ましく、1.1質量%~1.8質量%であることがより好ましく、1.2質量%~1.7質量%であることが更に好ましい。
【0050】
([(A1)+(B1)])
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ジフェニルアミン化合物(A1)及びエステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)の合計含有量[(A1)+(B1)]は、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、好ましくは0.9質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.1質量%以上である。また、好ましくは1.9質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、更に好ましくは1.7質量%以下、より更に好ましくは1.6質量%以下である。
【0051】
([(A1)/(B1)])
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ジフェニルアミン化合物(A1)と、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)との含有比率[(A1)/(B1)]は、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、質量比で、好ましくは0.5~2.0、より好ましくは0.6~1.9、更に好ましくは0.7~1.8、より更に好ましくは0.8~1.7である。
【0052】
([(A1)/(C)])
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ジフェニルアミン化合物(A1)と、リン系酸化防止剤(C)との含有比率[(A1)/(C)]は、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、質量比で、好ましくは3.0~15.0、より好ましくは3.5~13.0、更に好ましくは4.0~12.0、より更に好ましくは4.5~11.0、更になお好ましくは5.0~10.0である。
【0053】
([(B1)/(C)])
本発明の一態様の潤滑油組成物において、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)と、リン系酸化防止剤(C)との含有比率[(B1)/(C)]は、本発明の効果をより発揮させやすくするという観点から、質量比で、好ましくは4.0~10.0、より好ましくは4.5~9.0、更に好ましくは5.0~8.0、より更に好ましくは5.5~7.0、更になお好ましくは5.5~6.5である。
【0054】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤(Y)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
当該潤滑油用添加剤としては、例えば、極圧剤、清浄分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び摩擦調整剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
なお、本明細書において、粘度指数向上剤や消泡剤等の添加剤は、ハンドリング性や鉱油系基油(A)への溶解性を考慮し、希釈油に溶解した溶液の形態で、他の成分と配合される場合がある。このような場合、本明細書においては、消泡剤や粘度指数向上剤等の添加剤の含有量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量である。
以下、上記の各潤滑油用添加剤の詳細について説明する。
【0056】
(極圧剤)
極圧剤としては、例えば、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、酸性リン酸エステル類、酸性亜リン酸エステル類、ジチオリン酸等のリン系極圧剤;モノチオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類等の硫黄-リン系極圧剤;塩素化炭化水素等のハロゲン系極圧剤;有機金属系極圧剤;等が挙げられる。
なお、これらの極圧剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の一態様の潤滑油組成物が極圧剤を含有する場合、極圧剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.03~5質量%、更に好ましくは0.05~1.0質量%である。
【0057】
(清浄分散剤)
清浄分散剤としては、例えば、金属スルホネート、金属サリチレート、金属フェネート、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機リン酸金属塩、コハク酸イミド、ベンジルアミン、コハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
金属スルホネート等の金属塩を構成する金属としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びバリウムがより好ましく、カルシウムが更に好ましい。なお、コハク酸イミド、ベンジルアミン、及びコハク酸エステルは、ホウ素変性物であってもよい。
本発明の一態様の潤滑油組成物が清浄分散剤を含有する場合、清浄分散剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.02~7質量%、更に好ましくは0.03~5質量%である。
【0058】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、重量平均分子量が5万~15万程度のポリメタクリレート等が挙げられる。本発明の一態様の潤滑油組成物が流動点降下剤を含有する場合、流動点降下剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.02~2質量%である。
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が粘度指数向上剤を含有する場合、粘度指数向上剤の樹脂分換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.02~7質量%、更に好ましくは0.03~5質量%である。
【0059】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、金属スルホネート、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機スルフォン酸金属塩、有機リン酸金属塩、アルケニルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸多価アルコールエステル等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が防錆剤を含有する場合、防錆剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.03~5.0質量%である。
【0060】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が金属不活性化剤を含有する場合、金属不活性化剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~5.0質量%、より好ましくは0.03~3.0質量%である。
【0061】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等のフッ素系消泡剤、ポリアクリレート系消泡剤等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、消泡剤の樹脂分換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.0001~0.20質量%、より好ましくは0.0005~0.10質量%である。
【0062】
(摩擦調整剤)
摩擦調整剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)等のモリブデン系摩擦調整剤;炭素数6~30のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪族アミン、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤;等が挙げられる。
なお、高温環境下で長期間の使用に伴い発生するスラッジの析出を抑制するという観点から、MoDTCやMoDTP等の硫黄原子含有摩擦調整剤の含有量は少ないことが好ましい。具体的には、硫黄原子含有摩擦調整剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.05質量%未満、更になお好ましくは0.01質量%未満、一層好ましくは硫黄原子含有摩擦調整剤を含まないことである。
【0063】
[潤滑油組成物の各種物性]
<潤滑油組成物の40℃動粘度>
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃動粘度は、好ましくは10mm2/s~100mm2/s、より好ましくは30mm2/s~60mm2/s、更に好ましくは35mm2/s~55mm2/s、より更に好ましくは40mm2/s~50mm2/sである。
本明細書において、潤滑油組成物の40℃動粘度は、JIS K 2283:2000に準拠して測定した値である。
【0064】
<酸化安定性>
(酸価の増加量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、後述する実施例に記載の方法で行われる、ASTM D2440に準拠した酸化安定性試験による試験前後の酸価の増加量Δ酸価(試験後酸価と試験前酸価との差)は、好ましくは0.10mgKOH/g未満、より好ましくは0.08mgKOH/g以下、更に好ましくは0.06mgKOH/g以下、より更に好ましくは0.05mgKOH/g以下、更になお好ましくは0.04mgKOH/g以下である。
本明細書において、酸価は、JIS K2501:2003の5(指示薬滴定法)に準拠して測定される値である。
【0065】
(RPVOT値)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ASTM D2440に準拠して酸化安定性試験を行った後に、ASTM D2272に準拠して試験温度150℃で測定される、RPVOT値は、好ましくは600min以上、より好ましくは650min以上、更に好ましくは700min以上、より更に好ましくは750min以上である。
【0066】
[潤滑油組成物の製造方法]
本発明の潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。
例えば、本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法は、3級炭素の含有量が、炭化水素の全炭素基準で、8.0at%以上である基油(X)と、アミン系酸化防止剤(A)、フェノール系酸化防止剤(B)、及びリン系酸化防止剤(C)を含む酸化防止剤(Y)と、を含有する潤滑油組成物の製造方法であって、基油(X)と酸化防止剤(Y)とを混合する工程を含み、
アミン系酸化防止剤(A)は、下記一般式(a1)で表されるジフェニルアミン化合物(A1)を含み、
【化12】
[上記一般式(a1)中、R
a1及びR
a2は、各々独立に、炭素数1~30のアルキル基である。na1及びna2は、各々独立に、1~5の整数である。na1が2以上である場合、複数のR
a1は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。na2が2以上である場合、複数のR
a2は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
フェノール系酸化防止剤(B)は、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)を含み、
ジフェニルアミン化合物(A1)、エステル構造を有するヒンダードフェノール化合物(B1)、及びリン系酸化防止剤(C)の含有量[(A1)+(B1)+(C)]は、潤滑油組成物の全量基準で、1.0質量%超2.0質量%以下に調整される、潤滑油組成物の製造方法である。
上記各成分を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、基油(A)に、酸化防止剤(Y)を配合する工程を有する方法が挙げられる。アミン系酸化防止剤(A)、フェノール系酸化防止剤(B)、及びリン系酸化防止剤(C)は、基油(A)に同時に配合してもよいし、別々に配合してもよい。酸化防止剤(Y)以外の他の成分(潤滑油用添加剤)の配合についても同様である。なお、各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
【0067】
[潤滑油組成物の用途]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、蒸気タービン、原子力タービン、ガスタービン、水力発電用タービン等の各種タービンの潤滑に用いられるタービン油;送風機、ガス圧縮機等の各種ターボ機械の潤滑に用いられる軸受油、ギヤ油、制御系作動油;さらには油圧作動油等として使用し得る。
つまり、本発明の潤滑油組成物は、タービン、ガス圧縮機、及び油圧機器からなる群から選択される1種以上の機器等の潤滑用途に使用することが好ましい。
したがって、本発明の潤滑油組成物によれば、当該潤滑油組成物を、タービン、ガス圧縮機、及び油圧機器からなる群から選択される1種以上の機器に使用する、使用方法が提供される。
【実施例】
【0068】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[各種物性値の測定方法]
各実施例及び各比較例で用いた各原料並びに各実施例及び各比較例の潤滑油組成物の各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
(1)動粘度及び粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)酸価
JIS K2501:2003の5(指示薬滴定法)に準拠して測定した。
(3)3級炭素の含有量
基油の3級炭素の含有量(炭化水素の全炭素基準)は、13C-NMRを用いて上述した方法にて測定した。
【0070】
[実施例1~3及び比較例1~8]
以下に示す基油及び各種添加剤を、表1に示す配合量(質量%)で十分に混合し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。
実施例1~3及び比較例1~8で用いた基油及び各種添加剤の詳細は、以下に示すとおりである。
【0071】
<基油(X)>
・基油(X1)
石油由来のワックスを含む原料油を、水素化異性化脱ろう処理を施した後に、水素化仕上げ処理を施し得られた、API分類でグループIIIに属する基油
3級炭素の含有量:10.0at%(基油全量基準)、40℃動粘度:43.75mm2/s、粘度指数:143
・基油(X2)
イソパラフィン重合体からなる基油
3級炭素の含有量:9.2at%(基油中の炭化水素の全炭素基準)、40℃動粘度:45.87mm2/s、粘度指数:107
・基油(X3)
下記(1)及び(2)の基油を2種類混合し、3級炭素の含有量が5.0at%(基油全量基準)とした混合基油
(1)API分類でグループIIに属する基油、3級炭素の含有量:5.0at%(基油中の炭化水素の全炭素基準)、40℃動粘度:30.60mm2/s、粘度指数:104
(2)API分類でグループIIに属する基油、3級炭素の含有量:5.0at%(基油中の炭化水素の全炭素基準)、40℃動粘度:90.51mm2/s、粘度指数:107
※(1)と(2)の含有比率は、質量比で、(1):(2)=67.90:30.00である。
・基油(X4)
ポリ-α-オレフィンからなる基油
3級炭素の含有量:5.0at%(基油中の炭化水素の全炭素基準)、40℃動粘度:46.74mm2/s、粘度指数:137
【0072】
<アミン系酸化防止剤(A)>
・ジフェニルアミン(A1):ジ(オクチルフェニル)アミン
前記一般式(a1)中、Ra1及びRa2がオクチル基であり、na1=na2=1である化合物である。
・ナフチルアミン(A2):オクチルフェニル-α-ナフチルアミン
前記一般式(a2)中、Ra3がオクチル基であり、na3=1である化合物である。
【0073】
<フェノール系酸化防止剤(B)>
・ヒンダードフェノール化合物(B1):ベンゼンプロパン酸-3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシアルキルエステル
前記一般式(b1-1)中、Rb1が炭素数2のアルキレン基、Rb2が炭素数8のアルキル基である化合物である。
【0074】
<リン系酸化防止剤(C)>
・フェノール構造を有するリン原子含有化合物(C1):ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、
前記一般式(c1)中、Rc1及びRc2がtert-ブチル基、Rc3及びRc4がエチル基である化合物である。
【0075】
<潤滑油用添加剤>
・極圧剤:ジチオリン酸
・防錆剤:アルケニルコハク酸多価アルコールエステル、
・金属不活性化剤:N-ジアルキルアミノメチルベンゾトリアゾール
・消泡剤:樹脂分濃度1質量%のシリコーン系消泡剤
【0076】
実施例1~3及び比較例1~8の潤滑油組成物のそれぞれについて、以下の2つの試験を実施した。
【0077】
<酸化安定性試験1(試験前後での酸価増加量の評価)>
まず、各潤滑油組成物の試験前の酸価を測定した。次に、ASTM D2440に準拠し、下記条件で酸化安定性試験を実施した。この試験では、試験時間を1週間(168時間)として初期段階での酸価の上昇を確認した。
・試験温度:110℃
・触媒:銅
・試験時間:1週間(168時間)
・酸素吹き込み量:1L/h
試験後、各潤滑油組成物の酸価を測定して試験前の酸価からの上昇量(Δ酸価)を求めた。そして、Δ酸価が0.10mgKOH/g未満であるものを合格とした。
【0078】
<酸化安定性試験2(試験前後でのRPVOT値の評価)>
まず、各潤滑油組成物のRPVOT値を、ASTM D2272に準拠して試験温度150℃で測定した。次に、ASTM D2440に準拠して酸化安定性試験を行った後の各潤滑油組成物のRPVOT値を同様に測定した。この試験では、酸化防止剤の性能低下から、試験油の残存寿命を確認した。
そして、試験油のRPVOT値が600min以上であるものを合格とした。
【0079】
結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
表1より、以下のことがわかる。
実施例1~3の潤滑油組成物は、Δ酸価及びRPVOT値ともに優れた結果が得られ、初期段階の酸価の上昇を抑制し、酸化安定性を長期に亘り維持することができる潤滑油組成物であることがわかる。
これに対し、比較例1、2、及び4のように、ジフェニルアミン化合物(A1)、ヒンダードフェノール化合物(B1)、及びリン系酸化防止剤(C)の合計含有量[(A1)+(B1)+(C)]が2.0質量%を超える潤滑油組成物は、Δ酸価の値が大きくなり、初期段階で酸価上昇が起こりやすいことがわかる。
また、比較例3、5、及び8のように、ジフェニルアミン化合物(A1)、ヒンダードフェノール化合物(B1)、及びリン系酸化防止剤(C)の合計含有量[(A1)+(B1)+(C)]が1.0質量%以下である潤滑油組成物は、RPVOT値が低下し、酸化安定性を長期に亘って維持できないことがわかる。
さらに、比較例6及び7のように、3級炭素の含有量が8.0at%未満である基油を用いた潤滑油組成物は、Δ酸価の値は小さいことから初期段階での酸価上昇は起こり難いものの、RPVOT値が低下し、酸化安定性を長期に亘って維持できないことがわかる。