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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 5/385 20150101AFI20240228BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01Q5/385
H01Q13/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020047255
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2020156089
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019050532
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 文枝
(72)【発明者】
【氏名】鳥光 悟
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長田 真幸
(72)【発明者】
【氏名】大谷 栄介
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-158707(JP,A)
【文献】特開2014-168222(JP,A)
【文献】特開2018-117253(JP,A)
【文献】特開2007-037159(JP,A)
【文献】特開2013-168875(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0013557(US,A1)
【文献】国際公開第2018/135400(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0088510(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0266957(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/385
H01Q 13/08
H01Q 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ装置において、
誘電体基板上に配置された少なくとも1の放射素子と、
前記放射素子の主偏波方向における前記誘電体基板の端部と、前記放射素子との間に配置された複数の無給電素子と、を有し、
複数の前記無給電素子は、前記主偏波方向において互いに異なる位置に配置され、励振によって生じる電力を合成するように電気的に接続された無給電素子ユニットを構成し、
前記無給電素子ユニットを構成する前記複数の無給電素子は、前記誘電体基板に生じる定在波のピーク位置にそれぞれ対応した位置となるように配置されている
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記無給電素子ユニットは、前記放射素子から前記端部に向けて伝送される電力および前記端部から前記放射素子に向けて伝送される電力の少なくとも一方を減衰するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記無給電素子ユニットは、前記放射素子から前記端部に向けて伝送される電力および前記端部から前記放射素子に向けて伝送される電力の少なくとも一方の位相を変化させることで、前記放射素子の指向性特性が所定の特性になるようにすることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記放射素子としてのパッチ素子が第1方向に複数並置され、
前記無給電素子ユニットは、前記第1方向に略直交する第2方向に前記複数の無給電素子が並置されるとともに電気的に接続されて構成され、当該無給電素子ユニットが前記第1方向に複数並置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記放射素子としてのパッチ素子が、前記主偏波方向とは異なる第1方向に複数並置され、
前記無給電素子ユニットは、前記第1方向に複数並置され、互いに電気的に接続された前記複数の無給電素子を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記第1方向は前記主偏波方向と略直交しており、
前記放射素子として前記第1方向に並置されるパッチ素子群の前記第1方向における中心位置と、前記無給電素子ユニットの前記第1方向に並置される無給電素群の前記第1方向における中心位置と、が前記主偏波方向の同一直線上に位置する請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記無給電素子ユニットは、前記主偏波方向における前記放射素子と前記誘電体基板の端部の一方との間、および、前記主偏波方向における前記放射素子と前記誘電体基板の端部の他方との間に配置されていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
複数の前記無給電素子のうち、前記主偏波方向において前記放射素子から相対的に近い位置にある第1無給電素子の共振周波数が、前記主偏波方向において前記放射素子から相対的に離れた位置にある第2無給電素子の共振周波数よりも高いことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記第2無給電素子の共振周波数は、前記放射素子の共振周波数と一致するように構成されていることを特徴とする請求項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記第1無給電素子から放射される電力が、前記第2無給電素子から放射される電力よりも高い請求項8又は9に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記第1無給電素子の前記主偏波方向における幅が、前記第2無給電素子の前記主偏波方向における幅よりも狭い請求項8乃至10のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項12】
前記第1無給電素子と前記第2無給電素子の位相差が45度以上135度以下になるように、前記第1無給電素子と前記第2無給電素子を接続するマイクロストリップラインの長さが設定される請求項乃至11のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、パッチアンテナが動作すると、グランドに表面電流が流れ、その表面電流が基板端まで伝搬して基板端からの放射が生じ、これによってパッチアンテナの指向性が乱れるという問題点があった。
【0003】
そこで、特許文献1および特許文献2に開示された技術では、(1)無給電素子で受けた放射エネルギの偏波方向を変化させて再放射したり、(2)抵抗回路または損失性伝送線路によって放射エネルギを熱に変換したりすることで、指向性の乱れを緩和している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-168222号公報
【文献】特開2007-158707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述した(1)の解決方法では、水平偏波で受けた電力を垂直偏波で放射するアンテナが、垂直偏波の電力を受けてしまうという問題点がある。
【0006】
また、(2)の解決方法では、電気エネルギを熱エネルギに変換するための部品や伝送線路が増加してしまうという問題点がある。
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、パッチアンテナの指向性特性の乱れを簡易に抑制することを可能とするアンテナ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、アンテナ装置において、誘電体基板上に配置された少なくとも1の放射素子と、前記放射素子の主偏波方向における前記誘電体基板の端部と、前記放射素子との間に配置された複数の無給電素子と、を有し、複数の前記無給電素子は、前記主偏波方向において互いに異なる位置に配置され、励振によって生じる電力を合成するように電気的に接続された無給電素子ユニットを構成する、ことを特徴とする。
このような構成によれば、パッチアンテナの指向性特性の乱れを簡易に抑制することが可能になる。
【0009】
また、本発明は、前記無給電素子ユニットは、前記放射素子から前記端部に向けて伝送される電力および前記端部から前記放射素子に向けて伝送される電力の少なくとも一方を減衰するように構成されていることを特徴とする。
このような構成によれば、指向性特性の乱れを簡易に抑制することができる。
【0010】
また、本発明は、前記無給電素子ユニットは、前記放射素子から前記端部に向けて伝送される電力および前記端部から前記放射素子に向けて伝送される電力の少なくとも一方の位相を変化させることで、前記放射素子の指向性特性が所定の特性になるようにすることを特徴とする。
このような構成によれば、指向性特性を所望の特性に設定することができる。
【0011】
また、本発明は、前記放射素子としてのパッチ素子が第1方向に複数並置され、前記無給電素子ユニットは、前記第1方向に略直交する第2方向に複数のパッチ素子が並置されるとともに電気的に接続されて構成され、当該無給電素子ユニットが前記第1方向に複数並置されている、ことを特徴とする。
このような構成によれば、指向性特性の乱れを確実に抑制することができる。
【0012】
また、本発明は、前記放射素子としてのパッチ素子が、前記主偏波方向とは異なる第1方向に複数並置され、前記無給電素子ユニットは、前記第1方向に複数並置され、互いに電気的に接続された前記複数の無給電素子を有する、ことを特徴とする。
このような構成によれば、指向性特性の乱れを確実に抑制することができる。
【0013】
また、本発明は、前記第1方向は前記主偏波方向と略直交しており、前記放射素子として前記第1方向に並置されるパッチ素子群の前記第1方向における中心位置と、前記無給電素子ユニットの前記第1方向に並置される無給電素群の前記第1方向における中心位置と、が前記主偏波方向の同一直線上に位置することを特徴とする。
このような構成によれば、電力分布の中心が一致し、指向性特性の乱れをより抑制することができる。
【0014】
また、本発明は、前記無給電素子ユニットは、前記主偏波方向における前記放射素子と前記誘電体基板の端部の一方との間、および、前記主偏波方向における前記放射素子と前記誘電体基板の端部の他方との間に配置されていることを特徴とする。
このような構成によれば、指向性特性の乱れを効率良く、かつ、確実に抑制することができる。
【0015】
また、本発明は、前記無給電素子ユニットを構成する前記複数のパッチ素子は、前記誘電体基板に生じる定在波のピーク位置にそれぞれ対応した位置となるように配置されていることを特徴とする。
このような構成によれば、定在波に基づいて、指向性特性の乱れを効率良く、かつ、確実に抑制することができる。
【0016】
また、本発明は、複数の前記無給電素子のうち、前記主偏波方向において前記放射素子から相対的に近い位置にある第1無給電素子の共振周波数が、前記主偏波方向において前記放射素子から相対的に離れた位置にある第2無給電素子の共振周波数よりも高いことを特徴とする。
このような構成によれば、正面以外の広角方向の利得を向上させることができる。
【0017】
また、本発明は、前記第2無給電素子の共振周波数は、前記放射素子の共振周波数と一致するように構成されていることを特徴とする。
このような構成によれば、アンテナ装置の大型化を回避しつつ、正面以外の広角方向の利得を向上させることができる。
【0018】
また、本発明は、前記第1無給電素子から放射される電力が、前記第2無給電素子から放射される電力よりも高いことを特徴とする。
このような構成によれば、広角方向の利得が高い指向性特性を実現できる。
【0019】
また、本発明は、前記第1無給電素子の前記主偏波方向における幅が、前記第2無給電素子の前記主偏波方向における幅よりも狭いことを特徴とする。
このような構成によれば、素子の幅の調整により、広角方向の利得が高い指向性設計が容易に可能となる。
【0020】
前記第1無給電素子と前記第2無給電素子の位相差が45度以上135度以下になるように、前記第1無給電素子と前記第2無給電素子を接続するマイクロストリップラインの長さが設定されることを特徴とする。
このような構成によれば、広角方向にも高い利得を有する指向性特性をマイクロストリップラインの長さの調整により、容易に設計することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、パッチアンテナの指向性特性の乱れを簡易に抑制することを可能とするアンテナ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態に係るアンテナ装置の構成例を示す図である。
図2図1に示す無給電素子ユニットの詳細な構成例を示す図である。
図3】第1実施形態の効果を確かめるためのシミュレーション対象を示す図である。
図4】基板端の反射の有無による指向特性の変化を示すグラフである。
図5図3のシミュレーション結果を示すグラフである。
図6】本発明の第2実施形態に係るアンテナ装置の構成例を示す図である。
図7】本発明の第3実施形態に係るアンテナ装置の構成例を示す図である。
図8】本発明の第4実施形態に係るアンテナ装置の構成例を示す図である。
図9】無給電素子ユニットの変形実施形態を示す図である。
図10】定在波と無給電素子ユニットとの位置関係を示す図である。
図11】本発明の第5実施形態に係るアンテナ装置を構成するアンテナ素子および無給電素子ユニットの配置関係を示す図である
図12】無給電素子ユニットのマイクロストリップラインを説明する図である。
図13】位相差を180度としたときの図11のシミュレーション結果を示すグラフである。
図14】位相差を90度としたときの図11のシミュレーション結果を示すグラフである。
図15】電界差分と共振周波数の関係を示すグラフである。
図16】電界差分とパッチ素子のY方向の長さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
(A)第1実施形態の構成の説明
図1は、本発明の第1実施形態に係るアンテナ装置の構成例を示す図である。アンテナ装置は、例えば車載レーダに適用されるものである。図1に示す構成例では、アンテナ装置1は、誘電体基板10、送信アンテナ11-1~11-4、および、無給電素子ユニット群30-1~30-2を有している。
【0025】
誘電体基板10は、例えば、紙エポキシ、フッ素樹脂、ガラス・コンポジット、または、ガラス・エポキシ等によって構成され、表面(図1に示される面)には送信アンテナ11-1~11-4、および、無給電素子ユニット群30-1~30-2が形成され、裏面(図1に示されていない面)には送信アンテナ11-1~11-4等の地板として機能する裏面導体板が形成されている。なお、図1では、図面の簡略化のために省略しているが、送信アンテナ11-1~11-4等が形成される表面にも、送信アンテナ11-1~11-4および無給電素子ユニット群30-1~30-2が形成される領域以外の領域に表面導体板が形成されている。
【0026】
送信アンテナ11-1~11-4は、それぞれが6つのパッチ素子(放射素子)がマイクロストリップラインによって接続されて構成される。また、各マイクロストリップラインの中心付近には黒丸で示す給電部が設けられている。より詳細には、送信アンテナ11-1は、図1のX方向に6つのパッチ素子が並置され、これらがマイクロストリップラインによって接続されて構成される。送信アンテナ11-2~11-4も同様である。なお、送信アンテナ11-1~11-4の構成は一例であって、図1に示す構成以外の構成であってもよいことは言うまでもない。
【0027】
無給電素子ユニット群30-1は、図1のX方向に6つの無給電素子ユニットが並置されて構成される。ここで、無給電素子ユニットは、図2に拡大して示すように、2つのパッチ素子(無給電素子)31,32がマイクロストリップライン33によって接続されて構成される。なお、図2に示すマイクロストリップライン33の長さLが、送信アンテナ11-1~11-4から伝送される信号の波長をλとするとき、L=λ/2+n×λ(n=0,1,2,3・・・)となるように設定されている。無給電素子ユニット群30-2を構成する各無給電素子ユニットも同様の構成とされる。
【0028】
(B)第1実施形態の動作の説明
つぎに、第1実施形態の動作について説明する。図3は、第1実施形態の動作を確認するためのシミュレーションの対象を示す図である。図3の例では、送信アンテナとして単一のパッチ素子111が誘電体基板10の略中央に配置されている。また、パッチ素子111と誘電体基板10の左側端部の間には無給電素子ユニット130-1が配置され、パッチ素子111と誘電体基板10の右側端部の間には無給電素子ユニット130-2が配置されている。なお、無給電素子ユニット130-1,130-2の構成は、図2と同様である。
【0029】
図4は、図3に示すパッチ素子111の指向性特性を示す図である。ここで、図4の横軸はパッチ素子111を中心とする角度(deg)を示し、縦軸はパッチ素子111の利得(dBi)を示す。図4において、実線は誘電体基板10の基板端からの影響を受けない場合の指向性特性を示し、破線は誘電体基板10の基板端からの影響を受ける場合の指向性特性を示している。なお、基板端からの影響を受ける例としては、例えば、図3において、無給電素子ユニット130-1,130-2が配置されていない場合がある。このような場合、パッチ素子111から基板表面を介して伝播され、基板端に達した後、パッチ素子111に向かって反射される電力、および、基板端から空間に放射される電波が発生する。送信アンテナから放射される電波がこれらと結合し、指向性特性に影響を与えることとなる。また、再放射の影響を受けない例としては、例えば、図3において誘電体基板10が非常に大きなサイズを有する場合がある。このようにサイズが大きい場合には、誘電体基板10の端部に電力が到達するまでに減衰してしまうため、反射、および、基板端からの放射が生じない。
【0030】
図4に示すように、基板端からの影響を受ける場合と、受けない場合とを比較すると、指向性特性が異なっている。すなわち、誘電体基板10の基板端からの反射が、アンテナの指向性特性に影響を与えることが分かる。
【0031】
図5は、図3の無給電素子ユニット130-1,130-2の動作を説明するための図である。図5の実線は誘電体基板10の基板端からの再放射の影響を受けた場合(無給電素子ユニット130-1,130-2を配置しない場合)の指向性特性を示し、破線は無給電素子ユニット130-1,130-2による位相調整によって基板端からの反射を低減した場合の指向性特性を示している。このように、無給電素子ユニット130-1,130-2を配置した場合には、図4に示す、基板端からの影響がない場合の特性(理想的な特性)に近くなる。
【0032】
なお、図5において、一点鎖線は図3に示すLの設定により、指向性特性の±30degにピークを有するように調整した場合を示し、二点鎖線は図3に示すLの設定により、指向性特性の0degにピークを有するように調整した場合を示している。このように、本実施形態では、無給電素子ユニット130-1,130-2の設定によっては、指向性特性を所望の特性に調整することも可能である。
【0033】
図3に戻る。図3において、パッチ素子111に信号が供給されると、主偏波方向であるY方向に対して電力が伝搬される。このとき、無給電素子ユニット130-1,130-2が配置されていない場合には、パッチ素子111から伝送される信号(進行波)は、その一部が誘電体基板10の左右の基板端で反射され、反射波としてパッチ素子111に向かって伝搬されるとともに、他の一部が基板端から空間に放射される。この様な基板端からの影響を受けた場合、図5に実線で示すように、基板端からの影響を受けない場合に比較して指向性特性が変化する。なお、本発明でいう主偏波方向は、放射素子から放射される電波の主な偏波の方向をいい、本実施形態ではY軸に略平行な方向となっている。
【0034】
一方、無給電素子ユニット130-1,130-2が配置されている場合であって、無給電素子ユニット130-1,130-2が進行波(または反射波)を減衰するように設定されている場合には、図5に破線で示すような特性(図4に示す実線と同様の特性)となる。より詳細には、パッチ素子111から図の左側に向かって伝送される信号は、無給電素子ユニット130-1を構成する2つのパッチ素子を励振する。励振によって2つのパッチ素子に生じた信号は、マイクロストリップラインを介して合成するように設定されている。パッチ素子111から図の左側に向かって伝送される信号は、無給電素子ユニット130-1によって減衰され、また、反射波についても同様に無給電素子ユニット130-1によって減衰されることから、誘電体基板10の左側の基板端による反射、および、基板端からの放射の影響が少なくなる。
【0035】
同様に、パッチ素子111から図の右側に向かって伝送される信号は、無給電素子ユニット130-2によって減衰され、また、反射波についても同様に無給電素子ユニット130-2によって減衰されることから、誘電体基板10の右側の基板端による反射、および、基板端からの放射の影響が少なくなる。
【0036】
また、励振によって2つのパッチ素子に生じた信号が、マイクロストリップラインを介して合成される際に、例えば、所定の位相を有するように設定することで、進行波および反射波による影響により、前述した図5に一点鎖線で示すように30degにピークを有するようにしたり、0degにピークを有するようにしたりすることができる。なお、位相だけでなく、振幅についても調整するようにしてもよい。例えば、無給電素子ユニットを構成する2つの無給電素子について、それぞれの無給電素子を配置する位置、および、それぞれの無給電素子を接続するマイクロストリップラインの幅または長さを変更するようにしてもよい。
【0037】
第1実施形態である図1においても、図3と同様の動作により、誘電体基板10の端部における反射が減少され、指向性特性が変化することが抑制される。すなわち、送信アンテナ11-1~11-4から図の左側に向かって伝送される信号は、無給電素子ユニット群30-1を構成する各無給電素子ユニットの2つのパッチ素子を励振する。励振によって2つのパッチ素子に生じた信号は、マイクロストリップラインを介して合成するように設定されている。送信アンテナ11-1~11-4から図の左側に向かって伝送される信号は、無給電素子ユニット群30-1によって減衰され、また、反射波についても同様に無給電素子ユニット群30-1によって減衰されることから、誘電体基板10の左側の基板端による反射、および、基板端からの放射の影響が少なくなる。
【0038】
同様に、送信アンテナ11-1~11-4から図の右側に向かって伝送される信号は、無給電素子ユニット群30-2によって減衰され、また、反射波についても同様に無給電素子ユニット群30-2によって減衰されることから、誘電体基板10の右側の基板端による反射、および、基板端からの放射の影響が少なくなる。
【0039】
以上の動作により、誘電体基板10の基板端による反射、および、基板端からの放射を低減することで、送信アンテナ11-1~11-4の指向性特性が変化することを抑制できる。
【0040】
以上に説明したように、本発明の第1実施形態では、送信アンテナ11-1~11-4と誘電体基板10の左側端部の間に無給電素子ユニット群30-1を配置し、送信アンテナ11-1~11-4と誘電体基板10の右側端部の間に無給電素子ユニット群30-2を配置した。そして、それぞれの無給電素子ユニットを構成するパッチ素子に、励振によって発生する信号が、マイクロストリップラインを介して合成されることにより、基板端まで伝播する信号を減衰し、基板端の反射、および、基板端からの放射の影響を低減することができる。
【0041】
また、パッチ素子に、励振によって発生する信号が、マイクロストリップラインを介して合成される際に、所定の位相特性となるように設定することで、図5に一点鎖線および二点鎖線で示すように、指向性特性を任意に調整することができる。
【0042】
さらに、第1本実施形態では、パッチ素子を用いて指向性特性を調整するようにした。パッチ素子は、誘電体基板10を生成する際に、エッチングによって形成されるので、例えば、従来技術のように、抵抗素子等を用いて熱エネルギに変換する場合に比較すると、抵抗素子のような余分な部品を用いずに構成することができる。
【0043】
(C)第2実施形態の構成の説明
つぎに、本発明の第2実施形態について説明する。図6は、本発明の第2実施形態の構成例を示す図である。なお、図6において、図1と対応する部分には同一の符号を付してその説明は省略する。図6では、図1と比較すると、無給電素子ユニット群30-1が無給電素子ユニットの数が2つ少ない無給電素子ユニット群30-3に置換されるともに、無給電素子ユニット群30-2が無給電素子ユニットの数が2つ少ない無給電素子ユニット群30-4に置換されている。これら以外の構成は、図1と同様である。
【0044】
(D)第2実施形態の動作の説明
第2実施形態の動作は、基本的には図1に示す第1実施形態と同様である。しかしながら、第2実施形態では、送信アンテナ11-1~11-4のアレー中心に位置する給電点に近い上下2つずつ、X方向に並ぶ計4箇所のパッチ素子に対応する位置に無給電素子ユニットが上下に2つずつ、X方向に並ぶ計4箇所配置されている。送信アンテナ11-1~11-4から生じる進行波は、給電点に近いほど振幅が大きいので、振幅が大きい部分に対して無給電素子ユニットを配置することで、進行波および反射波を効率良く減衰するとともに、無給電素子ユニットの数を減少させることができる。
【0045】
(E)第3実施形態の構成の説明
つぎに、本発明の第3実施形態について説明する。図7は、本発明の第3実施形態の構成例を示す図である。なお、図7において、図1と対応する部分には同一の符号を付してその説明は省略する。図7では、図1と比較すると、無給電素子ユニット群30-1が無給電素子ユニットの数が2つ多い無給電素子ユニット群30-5に置換されるともに、無給電素子ユニット群30-2が無給電素子ユニットの数が2つ多い無給電素子ユニット群30-6に置換されている。これら以外の構成は、図1と同様である。
【0046】
(F)第3実施形態の動作の説明
第3実施形態の動作は、基本的には図1に示す第1実施形態と同様である。しかしながら、第3実施形態では、送信アンテナ11-1~11-4の上端部および下端部から生じる進行波が誘電体基板10の上端部および下端部を経由して誘電体基板10の左右の基板端に達し、反射波および基板端からの放射を生じる場合がある。第3実施形態では、送信アンテナ11-1~11-4の上端部および下端部から生じる進行波を、それよりも高い(または低い)位置に存在する無給電素子ユニットによって減衰させることから、第1実施形態に比較して、指向特性の変化を一層低減することができる。
【0047】
(G)第4実施形態の構成の説明
つぎに、本発明の第4実施形態について説明する。図8は、本発明の第4実施形態の構成例を示す図である。なお、図8において、図6と対応する部分には同一の符号を付してその説明は省略する。図8では、図6と比較すると、無給電素子ユニット群30-3が無給電素子ユニット群30-7に置換されるともに、無給電素子ユニット群30-4が無給電素子ユニット群30-8に置換されている。これら以外の構成は、図6と同様である。
【0048】
無給電素子ユニット群30-7は、X方向に4つ並置されるパッチ素子がY方向に2列配置されるとともに、各列を構成する4つのパッチ素子がX方向に伸びるマイクロストリップラインによって相互に接続されている。また、X方向に伸びる2本のマイクロストリップラインは、上下方向にそれぞれ凸部を有する(クランク形状を有する)マイクロストリップラインによって電気的に接続され、X方向に伸びる2本のマイクロストリップラインより幅が太くなっている。なお、無給電素子ユニット群30-8も無給電素子ユニット群30-7と同様の構成とされている。
【0049】
ここで、送信アンテナ11-1の最も上側に位置するパッチ素子111-1の上辺112と、最も下側に位置するパッチ素子111-2の下辺113との間を結ぶX方向の直線長さGL1の中間をアレー中心位置122とする。同様に、無給電素子ユニット群30-7の最も上側に位置するパッチ素子(無給電素子)31-1の上辺331と、最も下側に位置するパッチ素子(無給電素子)31-1の下辺332との間を結ぶX方向の直線長さGL2の中間をアレー中心位置132とする。送信アンテナ11-1のアレー中心位置122と無給電素子ユニット群30-7のアレー中心位置132は、何れもY方向に延びる同一の仮想的な直線IL上に位置する構成となっている。すなわち、第4実施形態では、送信アンテナ11-1~11-4のX方向におけるアレー中心位置122と、無給電素子ユニット群30-7~30-8のX方向におけるアレー中心位置132と、がY方向で並んでいる。
【0050】
(H)第4実施形態の動作の説明
第4実施形態の動作は、基本的には図1に示す第1実施形態と同様である。しかしながら、第4実施形態では、送信アンテナ11-1~11-4と同様の形状を有する無給電素子ユニット群30-7,30-8を用いることで、送信アンテナ11-1~11-4と同様の特性により進行波をより効率よく減衰することができる。このため、第1実施形態に比較して、指向特性の変化を一層低減することができる。また、上下方向にそれぞれ凸部を有するマイクロストリップラインを用いることで、無給電素子ユニット群を構成する、Y軸方向に並ぶ無給電素子間の間を相互に電気的に接続するとともに、これら無給電素子間の隙間で効率よく給電線の長さを調整することができ、省スペース化を図ることができる。
【0051】
また、放射素子として、主偏波方向に直交するX方向(第1方向)に並置される送信アンテナ11-1~11-4(パッチ素子111群)のX方向におけるアレー中心位置122と、無給電素子ユニット群30-7~30-8(パッチ素子(無給電素子)31)のX方向におけるアレー中心位置132と、が主偏波方向の同一の直線IL上に位置する。すなわち、アレー化しており電力分布が高い送信アンテナ11-1~11-4の中心位置と、同じくアレー化している無給電素子ユニット群30-7~30-8の中心位置と、が一致することになって同じ指向性のアンテナが並んだ状態となり、指向性の乱れをより抑制することができる。
【0052】
なお、図8の例では、X方向に配置するパッチ素子の個数を、送信アンテナ11-1~11-4が6個、無給電素子ユニット群30-7,30-8が4個としたが、これ以外の個数としてもよい。例えば、送信アンテナ11-1~11-4が8個、無給電素子ユニット群30-7,30-8が6個としてもよい。
【0053】
図8の例のX方向に配置するパッチ素子の個数を変える場合においても、送信アンテナ11-1~11-4のX方向におけるアレー中心位置と、無給電素子ユニット群30-7~30-8のX方向におけるアレー中心位置と、がY方向で一致することが好ましい。
【0054】
(I)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の各実施形態では、2つのパッチ素子を有する無給電素子ユニットを用いるようにしたが、例えば、図9に示す3つのパッチ素子51~53がマイクロストリップライン54によって接続された無給電素子ユニットを用いるようにしてもよい。なお、図9に示す例では、パッチ素子51~53に励振される信号が、マイクロストリップラインによって、例えば、120度の位相差を有して合成されるようにすることができる。もちろん、これ以外の位相差を有するようにしてもよい。また、図9の例では、パッチ素子51~53は等間隔に配置されているが、間隔が異なる配置としてもよい。
【0055】
また、以上の各実施形態では、定在波との関係については言及していないが、例えば、図10に示すように、誘電体基板10に定在波が生じる場合には、定在波との位置関係に基づいて、無給電素子ユニット群の配置位置を決定するようにしてもよい。より詳細には、無給電素子ユニットを構成するパッチ素子に定在波のピーク(山および谷となる部分)が位置するようにパッチ素子をそれぞれ配置することで、効率よく定在波を減衰することができる。
【0056】
(J)第5実施形態の構成の説明
つぎに、図11を参照して無給電素子ユニットを構成する複数のパッチ素子(無給電素子)のうち、少なくとも1つのパッチ素子の共振周波数が、アンテナ素子の共振周波数と異なる第5実施形態について説明する。図11は、本発明の第5実施形態に係るアンテナ装置を構成するアンテナ素子121および無給電素子ユニット140の配置関係を示す図である。なお、図11は、図3と同様のシミュレーションの対象を示しており、第5実施形態のアンテナ装置は、図11に示す配置関係を図1に示すようなアンテナ装置に適用するものである。
【0057】
図11に示すように、無給電素子ユニット140-1~140-2は、各々2つのパッチ素子(無給電素子)61,62によって構成される。第5実施形態では、Y方向でアンテナ素子121に相対的に近い位置に配置されるパッチ素子61の共振周波数が、アンテナ素子121の共振周波数よりも高い構成となっている。パッチ素子61とパッチ素子62のそれぞれの共振周波数を異ならせると、パッチ素子61とパッチ素子62の再放射量の関係が変化することになる。なお、この例では、Y方向でアンテナ素子121に相対的に遠い位置に配置されるパッチ素子62の共振周波数は、アンテナ素子121の共振周波数と一致するように構成されている。なお、ここでいう一致とは、完全に数値が同一であることに限定されるわけではなく、±の誤差は許容されるものとする。
【0058】
共振周波数は、誘電体基板10の誘電率、誘電体基板10の厚みおよび素子のY方向の幅に基づいて決定される。すなわち、誘電体基板10の構成が同じ場合、パッチ素子の幅に基づいて共振周波数が決まることになる。パッチ素子61のY方向の長さを幅d1とし、パッチ素子62のY方向の長さを幅d2とする。幅d1が小さくなると共振周波数が高くなる。パッチ素子61の幅d1は、パッチ素子61の幅d2よりも狭く設定されており、パッチ素子61の共振周波数がパッチ素子62の共振周波数よりも高くなっている。なお、パッチ素子62の幅d2は、アンテナ素子121の長さと同じ幅である。
【0059】
図12は、無給電素子ユニット140のマイクロストリップライン63を説明する図である。図12に示すマイクロストリップライン63は、パッチ素子61の左辺部610に形成される切欠部611の内側と、パッチ素子62の左辺部620に形成される切欠部621の内側と、を接続している。
【0060】
本実施形態では、図12の二点鎖線に示す、マイクロストリップライン63の中心を通過する線の長さMLが調整されることで位相が調整される。図12中のマイクロストリップライン63長さMLの始端位置はパッチ素子61の左辺部610を切欠部611まで延長した直線上に位置し、終端位置はパッチ素子62の左辺部620を切欠部621まで延長した直線上に位置する。マイクロストリップライン63の長さMLは波長λの整数倍とされており、例えば、マイクロストリップライン63の長さMLを波長λの4分の1波長分長くすると位相差が90度となり、波長λの半波長分伸ばすと位相差が180度となる。
【0061】
(K)第5実施形態の動作の説明
次に、アンテナ素子121および無給電素子ユニット140において、マイクロストリップライン63の長さMLにより位相差を調整するとともに、パッチ素子61のY方向の幅d1を変更したときの利得と角度の関係を示すシミュレーション結果について図13を参照して説明する。
【0062】
図13は、位相差を180度としたときの図11のシミュレーション結果を示すグラフである。本シミュレーションは、アンテナ素子121が共振周波数である24GHzで発振するとの条件で行っている。図13のグラフにおいて、パッチ素子61のY方向の幅d1が、2.0mm、2.2mm、2.4mm、2.6mm、2.8mm、3.0mmの場合が、それぞれ異なる線種で示されている。なお、同じ無給電素子ユニット140を構成するパッチ素子62のY方向の幅d2は3mmである。すなわち、幅d1が3mmの線が、パッチ素子61とパッチ素子62の共振周波数が同じ場合のシミュレーション結果である。そして、d1が2.0mm、2.2mm、2.4mm、2.6mm、2.8mmの線がパッチ素子61とパッチ素子62の共振周波数が異なる場合のシミュレーション結果となる。図13のグラフからわかるように、共振周波数が同じ場合に比べ、共振周波数を異ならせた場合の方が、広角の利得が高くなる傾向がわかる。特に図13の例では、方位角+25度および-25度で利得が顕著に上昇していることがわかる。
【0063】
図14は、位相差を90度としたときの図11のシミュレーション結果を示すグラフである。図14のグラフにおいても、パッチ素子61のY方向の幅d1が、2.0mm、2.2mm、2.4mm、2.6mm、2.8mm、3.0mmの場合が、それぞれ異なる線種で示されている。パッチ素子62のY方向の幅d2も3mmである。図14のグラフからも共振周波数が同じ場合に比べ、共振周波数を異ならせた場合の方が、広角の利得が大きくなる傾向がわかる。図14の例では、方位角+45度~+60度および-45度~-60度の範囲の利得が高いことがわかる。また、パッチ素子61のY方向の幅d1が2.8mm、2.6mmのときに広角範囲全般で利得が高い結果となっている。
【0064】
第5実施形態では、複数のパッチ素子(無給電素子)61,62のうち、主偏波方向において放射素子であるアンテナ素子121から相対的に近い位置にあるパッチ素子(第1無給電素子)61の共振周波数が、Y方向(主偏波方向)においてアンテナ素子121から相対的に離れた位置にあるパッチ素子(第2無給電素子)62の共振周波数よりも高い構成となっている。図13および図14のグラフの結果からも、この構成をとることにより、正面以外の広角方向の利得を向上させることができることがわかる。
【0065】
また、第5実施形態では、パッチ素子(第1無給電素子)61のY方向(主偏波方向)における幅d1が、パッチ素子(第2無給電素子)62のY方向における幅d2よりも狭く構成されている。これにより、パッチ素子61の幅d1およびパッチ素子62の幅d2の調整により、広角方向の利得が高い指向性設計が容易に可能となる。
【0066】
また、第5実施形態では、パッチ素子(第1無給電素子)61とパッチ素子(第2無給電素子)62の位相差が45度以上135度以下になるように、パッチ素子61とパッチ素子62を接続するマイクロストリップライン63の長さMLが設定されることが好ましい。これにより、広角方向にも高い利得を有する指向性特性をマイクロストリップラインの長さの調整により、容易に設計することができる。すなわち、マイクロストリップライン63の長さMLによって広角方向のピークの角度を調整することができる。
【0067】
特に、車両の左右後端のそれぞれに配置される車載レーダには、方位角+45度~+60度および-45度~-60度の範囲で高い利得が要求される。第5実施形態の構成によれば、マイクロストリップライン63の長さMLの設定によって当該方位角の範囲の利得が高い車載レーダに好適なアンテナ装置を実現できるのである。
【0068】
また、第5実施形態では、パッチ素子(第2無給電素子)62の共振周波数は、アンテナ素子(放射素子)121の共振周波数と一致するように構成されている。これにより、アンテナ装置の大型化を回避しつつ、正面以外の広角方向の利得を向上させることができる。
【0069】
次に、アンテナ装置の指向性と、無給電素子ユニット140を構成するパッチ素子61とパッチ素子62のそれぞれから再放射される電力の関係と、に基づいてより好ましい範囲に共振周波数を設定する方法について説明する。図15は、電界差分と共振周波数の関係を示すグラフである。図15のグラフの縦軸は、アンテナ素子121から相対的に近いパッチ素子61から放射される電力から、アンテナ素子121から相対的に遠いパッチ素子62から放射される電力を減算した電界差分である。図15のグラフの横軸はパッチ素子61の共振周波数とパッチ素子62の共振周波数の比(f2/f1)である。共振周波数f1はパッチ素子61の共振周波数であり、共振周波数f2はパッチ素子62の共振周波数である。
【0070】
図15のグラフには、図14に示すシミュレーション結果におけるパッチ素子61のY方向の幅d1を変えたときの共振周波数の比(f2/f1)が6点プロットされている。すなわち、図15のグラフにおいて最も左側のプロットは、パッチ素子61の共振周波数とパッチ素子62の共振周波数が一致している共振周波数の比(f2/f1)が1のときの電界差分である。以下同様に、左から順にパッチ素子61のY方向の幅d1が2.8mm、2.6mm、2.4mm、2.2mm、2.0mmのときのそれぞれの共振周波数の比(f2/f1)に対する電界差分がプロットされている。
【0071】
上述したように、図14のグラフでは、パッチ素子61のY方向の幅d1が2.8mm、2.6mmの場合に、その他の場合に比べて広角範囲により利得が高いシミュレーション結果が出ている。この結果を図15に当てはめると、電界差分が0以上となるようにパッチ素子61とパッチ素子62のそれぞれの共振周波数を設定することにより、アンテナ装置に対して広角範囲で利得が高いより性能の良いアンテナ装置を実現できることが分かる。
【0072】
図15では、無給電素子ユニット140を構成するパッチ素子61とパッチ素子62の共振周波数の関係に基づいて説明した。上述の通り、パッチ素子61の共振周波数は、パッチ素子61のY方向の幅d1に基づいて調整することができ、パッチ素子62の共振周波数は、パッチ素子62のY方向の幅d2に基づいて調整することができる。
【0073】
次に、図16を参照して電界差分とパッチ素子のY方向の長さとの関係について説明する。図16は、電界差分とパッチ素子61,62のY方向の幅d1,d2の関係を示すグラフである。図16のグラフの縦軸は、図15と同様に、アンテナ素子121から相対的に近いパッチ素子61から放射される電力から、アンテナ素子121から相対的に遠いパッチ素子62から放射される電力を減算した電界差分である。横軸はパッチ素子61のY方向の幅d1とパッチ素子62のY方向の幅d2の比(d2/d1)である。
【0074】
図16のグラフには図14に示すシミュレーション結果におけるパッチ素子61のY方向の幅d1を変えたときのパッチ素子61のY方向の幅d1とパッチ素子62のY方向の幅d2の幅比(d2/d1)が示されている。図16のグラフでは、図15のグラフの横軸とは逆順となる。最も左側のプロットはパッチ素子61のY方向の幅d1が2.0mmのときの幅比(d2/d1)に対応する電界差分である。以下同様に、左から順にパッチ素子61のY方向の幅d1が2.2mm、2.4mm、2.6mm、2.8mm、3.0mmに対応するときのそれぞれの幅比(d2/d1)に対応する電界差分がプロットされている。
【0075】
この図16のグラフの結果から、電界差分が0以上となるようにパッチ素子61の方向の幅d1とパッチ素子62のY方向の幅d2を設定することによっても、アンテナ装置に対して広角範囲で利得が高いより性能の良いアンテナ装置を実現できることが分かる。すなわち、第5実施形態の構成において、パッチ素子(第1無給電素子)61から放射される電力が、パッチ素子(第2無給電素子)62から放射される電力よりも高く構成することにより、広角範囲で利得の高い指向性を有するアンテナ装置の設計を実現できる。
【0076】
以上説明した第5実施形態においても、図9に示すように3つのパッチ素子をマイクロストリップラインによって接続された無給電素子ユニットを用いるようにしてもよいし、図10に示すように、定在波との位置関係に基づいて、無給電素子ユニット群の配置位置を決定するようにしてもよい。
【0077】
以上説明した第5実施形態において、パッチ素子62の共振周波数が、アンテナ素子121の共振周波数と一致するように構成されている例を示したが、パッチ素子61の共振周波数が、アンテナ素子121の共振周波数と一致するように構成し、この上でパッチ素子61の共振周波数がパッチ素子62の共振周波数よりも高くなるようにしてもよい。しかしながら、パッチ素子62の共振周波数がアンテナ素子121の共振周波数と一致するように構成した方が、アンテナ装置1の小型化の観点で好ましい。
【0078】
以上、第1~第5の実施形態および変形実施形態について説明してきたが、この構成はさらに変更することができる。例えば、以上の各実施形態では、4つの送信アンテナと、2つの無給電素子ユニット群を有するようにしたが、4つおよび2つ以外の数の組み合わせでもよい。
【0079】
また、以上の各実施形態では、同じ特性を有する無給電素子ユニットを配置するようにしたが、例えば、特性が異なる無給電素子ユニットを配置するようにしてもよい。例えば、図1に示す第1実施形態では、無給電素子ユニット群30-1,30-2を構成する無給電素子ユニットを、給電点に近いユニットと、遠いユニットで、特性を変化させるようにしてもよい。
【0080】
また、以上の各実施形態では、矩形形状を有するパッチ素子を用いるようにしたが、これ以外の形状のパッチ素子を用いるようにしてもよい。
【0081】
また、前述した各実施形態において、無給電素子ユニットをグランド(送信アンテナ11-1~11-4等の地板)に接地するようにしてもよい。
【0082】
また、以上の各実施形態では、送信アンテナを例に挙げて説明したが、受信アンテナに本発明を適用してもよい。すなわち、11-1~11~4の一部または全部が受信アンテナであっても本発明を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 アンテナ装置
10 誘電体基板
11-1~11-4 送信アンテナ
30-1~30-8 無給電素子ユニット群
33 マイクロストリップライン
51~53 パッチ素子
54 マイクロストリップライン
61~62 パッチ素子
63 マイクロストリップライン
111 パッチ素子
121 パッチ素子
130-1~130-2 無給電素子ユニット
140-1~140-2 無給電素子ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16