(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】熱輸送装置および熱交換ユニット
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20240228BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
F28D15/04 B
F28D15/02 102C
F28D15/02 102G
F28D15/02 104A
(21)【出願番号】P 2020072918
(22)【出願日】2020-04-15
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】上久保 将大
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-159915(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110822959(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00 - 15/06
H01L 23/34 - 23/46
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相の作動流体と、前記液相の作動流体に対して実質的に不溶でありかつ動作温度において凝縮しないガスを含む非凝縮ガスとが封入された内部空間をもつ密閉容器に、
前記液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、
前記蒸発部から延在し、前記蒸発部で蒸発させた気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部と
を備え、
前記凝縮部は、前記蒸発部から上方に向かって延在するように設けられ、
前記凝縮部が位置する前記密閉容器の内面に、複数の凸部が形成され、
前記複数の凸部は、前記液相の作動流体の液滴に対して60°以上の接触角を有するように形成されている、熱輸送装置。
【請求項2】
前記密閉容器は、銅、銅合金、ステンレス鋼、チタンまたはチタン合金によって構成される、請求項1に記載の熱輸送装置。
【請求項3】
前記液相の作動流体は、90質量%以上の水を含有する水系の液体である、請求項1または2に記載の熱輸送装置。
【請求項4】
前記非凝縮ガスは、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、窒素(N
2)ガス、酸素(O
2)ガスおよびネオン(Ne)ガスからなる群から選択される1種以上を含むガスである、請求項1から3までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項5】
前記動作温度は、-30℃以上の範囲である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項6】
前記液相の作動流体の液滴は、前記密閉容器の内面を、前記複数の凸部によって弾かれた状態で、前記蒸発部に向かって下方移動する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項7】
請求項1から
6までのいずれか1項に記載の熱輸送装置を備え、
前記密閉容器は、
前記蒸発部に、前記液相の作動流体を加熱して蒸発させる加熱手段を有し、
前記凝縮部に、前記気相の作動流体を冷却して凝縮させる冷却手段を有する、熱交換ユニット。
【請求項8】
前記加熱手段が熱的に接続されるベースブロックであり、
前記冷却手段が、前記密閉容器の前記凝縮部に複数並列して設けられる冷却フィンである、請求項
7に記載の熱交換ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送装置および熱交換ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速鉄道車両やハイブリッド車、電気自動車などの各種車両に搭載される、電力変換装置(インバータ)などの半導体素子や、リチウムイオン電池などの二次電池など、電気・電子機器における放熱や均熱化を図るため、密閉のコンテナに封入された作動流体が相変化する際の潜熱を利用して発熱体を冷却し、そこから離隔した位置に熱輸送を行う熱輸送装置が用いられている。
【0003】
ここで、熱輸送装置は、作動流体が封入された内部空間を有する密閉容器(コンテナ)を備える。密閉容器は、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部とを有する。蒸発部で液相から気相に相変化させた作動流体は、蒸発部から凝縮部へ流れる。凝縮部で気相から液相に相変化させた作動流体は、凝縮部から蒸発部へ流れる。このようにして、密閉容器内の蒸発部と凝縮部の間で作動流体の循環流れが形成されることによって、密閉容器内の蒸発部と凝縮部の間で熱輸送を行っている。このような熱輸送装置の作動流体としては、潜熱(特に蒸発熱)が大きい水を用いるのが一般的である。
【0004】
しかしながら、電気・電子機器は、高機能化の進展にともない、高密度搭載などによって発熱量が増大しているため、冷却性能を高めることがより重要になっている。
【0005】
また、このような熱輸送装置を、寒冷地、例えば-30℃になるような低温環境下で使用される各種車両に搭載する場合、熱輸送装置の凝縮部で気相から液相へ相変化した作動流体が凍結することで、熱輸送装置の熱輸送機能が低下する傾向があり、最悪の場合には、熱輸送装置が起動しなくなるという問題がある。
【0006】
寒冷地でも熱輸送機能を有する熱輸送装置としては、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1の熱輸送装置(冷却装置)は、複数のヒートパイプのうち、一方の端部を被発熱体が取り付けられる蒸発部とし、他方の端部を凝縮部として複数の放熱フィンを取り付けたヒートパイプ式冷却装置であり、ヒートパイプのうち一部の凝縮部の内面に、撥水性部材からなるコーティングを設けている。特許文献1の熱輸送装置では、一部のヒートパイプの凝縮部の内面に、撥水性部材からなるコーティングを設けることで、一部のヒートパイプにおける凝縮能力を小さくし、それにより低温下での作動流体(作動液)の冷却による凍結を起こり難くして、より広い温度範囲での冷却を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒートパイプの凝縮部の内面に、撥水性部材からなるコーティングを設けた場合、低温下、例えば気温が-30℃になるような環境下での作動流体の凍結は起こり難くなるものの、凝縮能力が小さくなるため、常温環境下、例えば気温が5~40℃の範囲の環境下での、熱輸送性能が劣るという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、常温環境下と低温環境下の両方を含む、広い温度範囲での使用環境下であっても、安定した良好な熱輸送機能をもたらすことができる熱輸送装置と、それを備えた熱交換ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、熱輸送装置のうち凝縮部が位置する密閉容器の内面に、液相の作動流体の液滴に対して60°以上の接触角を有するように複数の凸部が形成されることで、例えば5~40℃の常温環境下と、例えば-30℃になるような低温環境下とを含む広い温度範囲での使用環境下であっても、安定した良好な熱輸送機能をもたらすことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)液相の作動流体と、前記液相の作動流体に対して実質的に不溶でありかつ動作温度において凝縮しないガスを含む非凝縮ガスとが封入された内部空間をもつ密閉容器に、
前記液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、
前記蒸発部から延在し、前記蒸発部で蒸発させた気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部と
を備え、
前記凝縮部が位置する前記密閉容器の内面に、複数の凸部が形成され、前記複数の凸部は、前記液相の作動流体の液滴に対して60°以上の接触角を有するように形成されている、熱輸送装置。
(2)前記密閉容器は、銅、銅合金、ステンレス鋼、チタンまたはチタン合金によって構成される、(1)に記載の熱輸送装置。
(3)前記液相の作動流体は、90質量%以上の水を含有する水系の液体である、(1)または(2)に記載の熱輸送装置。
(4)前記非凝縮ガスは、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、窒素(N2)ガス、酸素(O2)ガスおよびネオン(Ne)ガスからなる群から選択される1種以上を含むガスである、(1)から(3)までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
(5)前記動作温度は、-30℃以上の範囲である、(1)から(4)までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
(6)(1)から(5)までのいずれか1項に記載の熱輸送装置を備え、前記密閉容器は、前記蒸発部に、前記液相の作動流体を加熱して蒸発させる加熱手段を有し、前記凝縮部に、前記気相の作動流体を冷却して凝縮させる冷却手段を有する、熱交換ユニット。
(7)前記加熱手段が熱的に接続されるベースブロックであり、前記冷却手段が、前記密閉容器の前記凝縮部に複数並列して設けられる冷却フィンである、(6)に記載の熱交換ユニット。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、常温環境下と低温環境下の両方を含む、広い温度範囲での使用環境下であっても、安定した良好な熱輸送機能をもたらすことができる熱輸送装置と、それを備えた熱交換ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に従う熱輸送装置を備えた熱交換ユニットの概略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の熱輸送装置について、動作前における作動流体の状態を説明するための概念図である。
【
図3】
図3は、
図1の熱輸送装置について、動作中に内部で生じる作動流体の流れを説明するための概念図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、熱輸送装置の微細加工部が有する凸部の形状について説明するための概念図である。
【
図5】
図5は、熱輸送装置の微細加工部における、液相の作動流体の液滴に対する接触角について説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の好ましい実施形態について、以下で説明する。
【0015】
<熱輸送装置の実施形態>
図1は、本発明に従う熱輸送装置を備えた熱交換ユニットの概略断面図である。また、
図2は、
図1の熱輸送装置について、動作前における作動流体の流れを説明するための概念図である。また、
図3は、
図1の熱輸送装置について、動作中に内部で生じる作動流体の流れを説明するための概念図である。また、
図4(a)~(c)は、熱輸送装置の微細加工部が有する凸部の形状について説明するための概念図である。また、
図5は、熱輸送装置の微細加工部における、液相の作動流体の液滴に対する接触角について説明するための模式図である。なお、
図1~
図5は、微細加工部21の凸部と、液相の作動流体F(L)の液滴の大きさを誇張して模式的に図示するものであり、各構成要素の絶対的な大きさの関係について図示するものではない。
【0016】
本発明の熱輸送装置1は、
図1に示されるように、液相の作動流体F(L)と、液相の作動流体F(L)に対して実質的に不溶でありかつ動作温度において凝縮しないガスを含む非凝縮ガスGとが封入された内部空間Hをもつ密閉容器2に、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化させる蒸発部3と、蒸発部3から延在し、蒸発部3で蒸発させた気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させる凝縮部4とを備える。ここで、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面に、複数の凸部22が形成され、複数の凸部22が、液相の作動流体F(L)の液滴に対して60°以上の接触角φを有するように形成されるものである。
【0017】
このように、本発明の熱輸送装置1は、密閉容器2内に非凝縮ガスGが封入されるとともに、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面に、複数の凸部が形成された微細加工部21を有するように構成される。これにより、熱輸送装置1が動作している際に、密閉容器2の先端部20や微細加工部21の凸部の近傍に、非凝縮ガスGが多く分布した状態となる。そして、非凝縮ガスGが密閉容器2の先端部20や微細加工部21の近傍に多く分布すると、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面、特に密閉容器2の先端部の内面や微細加工部21の表面は、液相の作動流体F(L)の液滴を弾くようになる。その結果、凝縮部4において、気相の作動流体F(g)が凝縮して生じた液相の作動流体F(L)の液滴は、密閉容器2の内面で弾かれるため、密閉容器2の内面に付着せずに重力の作用によって、蒸発部3に向かって下方移動し易くなる。それにより、特に低温環境下であっても、液相の作動流体F(L)が凝縮部4の内面に滞留し難くなることで、液相の作動流体F(L)の滞留による凝縮部4での凍結が起こり難くなる。したがって、本発明の熱輸送装置1によることで、特に低温環境下であっても、安定した良好な熱輸送機能をもたらすことができる。
【0018】
加えて、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面に、非凝縮ガスGが多く分布した状態の微細加工部21が形成されることで、微細加工部21を有する密閉容器2の構成材料が凝縮部4の内面に現れるため、特に凝縮部4にコーティング膜を形成した場合と比べても、凝縮能力の低下や、微細加工部21の劣化が起こり難く、それによるガスの発生もない。したがって、本発明の熱輸送装置1によることで、特に常温環境下においても、安定した良好な熱輸送機能をもたらすことができる。
【0019】
(密閉容器)
図1および
図2に示す熱輸送装置1は、液相の作動流体F(L)と、液相の作動流体F(L)に対して実質的に不溶でありかつ動作温度において凝縮しないガスを含む非凝縮ガスGとが封入された内部空間Hを有する密閉容器2を備えている。
【0020】
密閉容器2は、所要量の液相の作動流体F(L)と、非凝縮ガスGを保持できるものであれば特に限定されず、例えば
図1に示すように、液相の作動流体F(L)が充填される筒状の収容部2aと、収容部2aの上部の離隔した位置からそれぞれ上方に向かって延出する筒状の延設部2b、2cによって構成される。また、密閉容器2は、コンテナなどの単一の部材によって構成されていてもよく、複数の異なる部材で構成されていてもよい。
【0021】
密閉容器2の肉厚は、特に限定されないが、例えば0.05~1mmの範囲である。また、密閉容器2を構成する延設部2b、2cは、延出方向に対して直交方向に切断したときの外面輪郭形状が、略円形状の他、扁平形状、四角形などの多角形状であってもよく、特に限定されない。また、密閉容器2を構成する延設部2b、2cの外径寸法は、特に限定されないが、例えば5~20mmの範囲にすることができる。
【0022】
密閉容器2の構成材料は、後述する微細加工部21を内面に形成し、かつ非凝縮ガスGを内面の近傍に分布させたときに、液相の作動流体F(L)の液滴を弾くことができる材料であれば、特に限定されない。その中でも、本実施形態では、微細加工部21の劣化を低減し、かつ後述する蒸発部3や凝縮部4を介する液相の作動流体F(L)との熱のやり取りを促進させる点から、密閉容器2は、金属材料、例えば銅、銅合金、ステンレス鋼、チタンまたはチタン合金によって構成されることが好ましい。ここで、優れた熱伝導率を有する点から、密閉容器2には、例えば、銅、銅合金などを使用することができる。また、軽量化の点から、密閉容器2には、例えば、チタン、チタン合金などを使用することができる。また、高強度を有する点から、密閉容器2には、例えば、ステンレス鋼などを使用することができる。また、その他、使用状況に応じて、密閉容器2には、例えば、スズ、スズ合金、ニッケル、ニッケル合金などを用いてもよい。
【0023】
(作動流体)
密閉容器2の内部空間Hに封入される作動流体は、常温で液相を構成するものであり、好ましくは水を含有する。ここで、液相の作動流体F(L)は、90質量%以上の水を含有する水系の液体であることがより好ましい。特に、水を含有する液体によることで、作動流体の蒸発熱が大きくなり、蒸発部3から凝縮部4に輸送できる蒸発潜熱の量も増加するため、熱輸送装置1における熱輸送機能をより高めることができる。なお、作動流体における水の含有量の上限は、特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0024】
作動流体には、水のほか、凝固点などを調整する観点で、他の化合物を含んでもよい。そのような化合物としては、水に溶解する化合物を挙げることができ、例えばメタノールやエタノールなどを挙げることができる。
【0025】
(非凝縮ガス)
また、密閉容器2の内部空間Hに封入される非凝縮ガスGとしては、液相の作動流体F(L)に対して実質的に不溶であり、かつ動作温度において凝縮しないものを少なくとも用いる。熱輸送装置1が動作していない場合、非凝縮ガスGは、
図2に記載されるように、気液平衡によって生成する気相の作動流体F(g)と混合した状態になっていることが多い。しかしながら、熱輸送装置1が動作すると、非凝縮ガスGは、温度差などによって気相の作動流体F(g)と次第に混ざり難くなる。また、液相の作動流体F(L)の蒸発によって生成される気相の作動流体F(g)によって、非凝縮ガスGが密閉容器2の内面の近傍に押し出されるため、凝縮部4が位置する密閉容器2の先端部20の内面や微細加工部21の表面の近傍に、非凝縮ガスGが多く分布した状態となる。これにより、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面で気相の作動流体F(g)を凝縮させた際に、密閉容器2の内面で液滴を弾くことができ、それにより密閉容器2の内面での、液滴の滞留や凍結を起こり難くすることができる。
【0026】
ここで、密閉容器2内に非凝縮ガスGが存在しない場合、密閉容器2の内面に非凝縮ガスGが多く分布することがないため、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面に液滴が滞留し、特に低温環境下では、冷却フィン6などによって凝縮部4が冷却される。それにより、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面で液滴が凍結し、蒸発部3に保持される液相の作動流体F(L)が減少することで、熱輸送装置1が動作しなくなる。
【0027】
非凝縮ガスGには、液相の作動流体F(L)に対して実質的に不溶のガスが含まれる。これにより、非凝縮ガスGが、液相の作動流体F(L)との間で相分離するとともに、非凝縮ガスGの溶存による、液相の作動流体F(L)の蒸発および凝縮への悪影響を生じ難くすることができる。なお、本明細書における「実質的に不溶」とは、具体的には液相の作動流体F(L)に対する溶解度が50mg/L以下である場合を意味する。
【0028】
非凝縮ガスGは、動作温度において凝縮しないガスであり、より具体的には動作温度よりも低い沸点を有するガスである。特に、非凝縮ガスGは、-50℃以下の沸点を有することが好ましく、-100℃以下の沸点を有することがより好ましい。沸点の低い非凝縮ガスGを用いることで、低温環境下でもより安定して動作させることが可能な熱輸送装置1を得ることができる。
【0029】
また、非凝縮ガスGは、例えば20℃の温度および23hPaの圧力において、気相の作動流体(g)の密度よりも大きい密度を有するガスを含むことが好ましく、より具体的には、水蒸気の密度よりも大きいことが好ましい。また、非凝縮ガスGの密度は、例えば20℃の温度および23hPaの圧力において、液相の作動流体(L)の密度より小さいことが好ましい。このように非凝縮ガスGの密度を設定することで、蒸発部3から凝縮部4に気相の作動流体F(g)が上方移動した際に、非凝縮ガスGが下方に移動し易くなるため、熱輸送装置1の熱輸送効率をより高めることができる。
【0030】
非凝縮ガスGの具体例としては、例えばアルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、窒素(N2)ガス、酸素(O2)ガスおよびネオン(Ne)ガスからなる群から選択される1種以上を含むガスを挙げることができるが、これらに限定されない。その中でも特に、非凝縮ガスGとしては、より長期間にわたり安定した良好な熱輸送機能をもたらす観点から、密閉容器2や作動流体との間で反応せず、ガスの状態で安定なものを用いることが好ましく、例えばアルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、窒素(N2)ガスおよびネオン(Ne)ガスからなる群から選択される1種以上を含むガスを用いることが好ましい。また、非凝縮ガスGは、これらのうち少なくともいずれかのガスを、例えば90体積%以上の割合で含んでいればよく、他のガスを含む混合ガスであってもよい。混合ガスの具体例としては、例えば空気を挙げることができる。
【0031】
(蒸発部および凝縮部)
密閉容器2は、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相に相変化させる蒸発部3と、蒸発部3から延在し、蒸発部3で蒸発させた気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させる凝縮部4とを設ける。
図1および
図2に示す熱輸送装置1の密閉容器2は、液相の作動流体F(L)が収容される収容部2aに蒸発部3を、収容部2aの上側に構成される延設部2b、2cに凝縮部4を有し、密閉容器2の全体を密閉して構成している。
【0032】
熱輸送装置1の蒸発部3と凝縮部4は、液相の作動流体F(L)が相変化して移動することによって、蒸発部3と凝縮部4との間を熱輸送するように構成される。
【0033】
このうち、蒸発部3は、
図1では、密閉容器2の収容部2aに形成されており、電力変換装置(インバータ)などの半導体素子や、リチウムイオン電池などの二次電池などの発熱体(図示せず)に熱的に接続された、ベースブロック5などの加熱手段から受熱(吸熱)して、液相の作動流体F(L)を気相に相変化する機能を有する。これにより、相変化によって形成された気相の作動流体F(g)は、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。
【0034】
また、凝縮部4は、蒸発部3から延在するように設けられる。この凝縮部4は、蒸発部3で気相に相変化して輸送されてきた気相の作動流体F(g)を放熱するように構成される。より具体的には、凝縮部4は、
図3に記載されるように、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させ、それにより凝縮潜熱として作動流体によって輸送された熱を、熱輸送装置1の外部に放出する。
【0035】
この凝縮部4は、
図1に示されるように、蒸発部3から上方に向かって延在するように設けられ、例えば延設部2b、2cに配設されることが好ましい。これにより、凝縮部4で気相の作動流体F(g)の凝縮によって生じた液相の作動流体F(L)を、重力によって容易に蒸発部3に戻すことができる。
【0036】
(微細加工部)
凝縮部4が位置する密閉容器2の内面には、複数の凸部22が形成されている。そして、これら複数の凸部22が、微細加工部21を形成するように構成される。この微細加工部21は、密閉容器2内に封入された非凝縮ガスGの存在下で、気相の作動流体F(g)の凝縮に伴って生じる液滴を弾く表面構造を有する。
【0037】
ここで、微細加工部21を構成する凸部22の形状は、特に限定されず、例えば
図4(a)に示す微細加工部21Aのように、複数の直方体または立方体の形状を有する凸部22Aが、底面23Aから延出する形状を有する形状を有してもよい。また、
図4(b)に示す微細加工部21Bのように、複数の三角柱の形状を有する凸部22Bが、底面23Bから延出する形状を有する形状を有してもよい。また、
図4(c)に示す微細加工部21Cのように、複数の六角柱の形状を有する凸部22Cが、底面23Cから延出する形状を有する形状を有してもよい。
【0038】
また、微細加工部21を構成する凸部22の、底面23に沿った面視における大きさは、縦横のそれぞれについて、2μm以上50μm以下の範囲であることが好ましく、5μm以上40μm以下の範囲であることがより好ましい。
【0039】
また、微細加工部21を構成する凸部22が底面23から延出する高さは、微細加工部21の表面粗さRmaxが、1μm以上100μm以下の範囲になるように構成することが好ましく、2μm以上80μm以下の範囲になるように構成することがより好ましい。
【0040】
また、微細加工部21は、任意の縦1mm×横1mmの範囲において、500個以上5000個以下の範囲で凸部22を有することが好ましく、1000個以上3000個以下の範囲で凸部22を有することがより好ましい。
【0041】
ここで、蒸発部3で液相の作動流体F(L)の蒸発によって気相の作動流体F(g)が形成されて、凝縮部4に気相の作動流体F(g)が上方移動されると、非凝縮ガスGは、気相の作動流体F(g)に押し出されるようにして密閉容器2の内面に沿って集まるようになる。そして、密閉容器2の先端部20の近傍や、微細加工部21の凸部22の近傍に、非凝縮ガスGが多く分布するようになる。このとき、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面に微細加工部21を設けることで、より多くの非凝縮ガスGが、微細加工部21の表面の近傍に分布するようになるため、凝縮によって生じた液相の作動流体F(L)の液滴が、密閉容器2の内面に弾かれ易くなり、液滴が下方にある蒸発部3に移動し易くなる。したがって、液相の作動流体F(L)が凝縮部4の内面に滞留し難くなることで、低温環境下であっても、液相の作動流体F(L)の凝縮部4での凍結を起こり難くすることができる。
【0042】
微細加工部21は、
図5に示される、液相の作動流体F(L)の液滴に対する、Cassieの式によって定義される接触角φが、60°以上となるように、複数の凸部22が形成される。特に、微細加工部21の液相の作動流体F(L)の液滴に対する接触角φは、90°以上であることがより好ましく、120°以上であることがさらに好ましい。微細加工部21の液相の作動流体F(L)の液滴に対する接触角を大きくすることで、液相の作動流体F(L)の液滴を、微細加工部21の表面で弾かれ易くすることができる。特に、接触角φを60°以上に高めるように凸部22を構成することで、気相の作動流体F(g)を液相の作動流体F(L)に凝縮させる際に、200000W/m
2K程度の高い凝縮熱伝達率を得られる滴状凝縮が起こり易くなるため、熱輸送装置1における熱輸送の効率を高めることができる。このとき、凝縮熱伝達率が20000W/m
2K程度と低い膜状凝縮は起こり難くなる。
【0043】
ここで、接触角φは、以下の式(1)で表される、Cassieの式を用いて求めることができる。
cosφ=f1cosθ1+f2cosθ2 ・・・式(1)
【0044】
Cassieの式は、微細加工部21などの粗面を、粗面の構成材料からなる第1素材と、雰囲気からなる第2素材からなる複合面であると仮定して、接触角φを求める式である。ここで、式(1)のうち、θ1は、液相の作動流体F(L)の液滴の、第1素材に対する接触角である。また、θ2は、液相の作動流体F(L)の液滴の、第2素材に対する接触角である。また、f1およびf2は、第1素材と第2素材の表面積の割合(f1+f2=1)である。例えば、第1素材を密閉容器2の構成材料とし、かつ第2素材を微細加工部21において複数の凸部22の間に保持される非凝縮ガスGとする場合、θ1は、液相の作動流体F(L)の液滴の、密閉容器2の構成材料に対する接触角となる。また、θ2は、液相の作動流体F(L)の液滴の、微細加工部21において複数の凸部22の間に保持される非凝縮ガスGに対する接触角となり、θ2=180°となる。
【0045】
他方で、微細加工部21は、見かけの表面積(S1)に対する実際の表面積(S2)の比(S2/S1)が、1.4以上であることが好ましく、1.6以上であることがより好ましく、2.1以上であることがさらに好ましく、3.0以上であることがさらに好ましい。微細加工部21の表面積(S2)を見かけの表面積(S1)に相対して大きくすることで、微細加工部21の表面における自由エネルギーが大きくなり、それにより微細加工部21と液相の作動流体F(L)の液滴との間における界面張力も大きくなる(Wenzelの理論)。したがって、微細加工部21の、液相の作動流体F(L)の液滴に対する接触角を大きくすることで、液相の作動流体F(L)の液滴を、微細加工部21の表面で弾かれ易くすることができる。
【0046】
ここで、微細加工部21における、見かけの表面積(S1)とは、
図1の拡大図に示すように、凸部22を形成する前の微細加工部21の表面積を意味する。また、実際の表面積(S2)とは、凸部22を形成した後の、凹凸面に沿った微細加工部21の表面積を意味する。
【0047】
また、微細加工部21は、その凸部22について、凹部が占める面積割合が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。ここで、凸部の表面が密閉容器2の構成材料からなり、凹部の表面が非凝縮ガスGからなる複合表面であると仮定した場合、凹部の表面の面積割合が大きいほど、微細加工部21と液滴との間における界面張力は、非凝縮ガスGと液滴との間の界面張力の影響をより強く受けるために大きくなる(Cassieの理論)。したがって、微細加工部21の、凹部が占める面積割合を大きくすることで、液相の作動流体F(L)の液滴を、微細加工部21の表面で弾かれ易くすることができる。
【0048】
密閉容器2の内面に複数の凸部22を形成する手段については、液相の作動流体F(L)の液滴に対して所望の高い接触角を持たせ、それにより液滴を弾くことが可能な手段であれば、特に限定されない。例えば、縦横の溝を無数に形成することで粗面化させるとともに、所望の接触角が得られるように表面粗さを調整することで、複数の凸部22からなる微細加工部21を形成することができる。
【0049】
<熱交換ユニットの実施形態>
図1および
図2に示す熱交換ユニット10は、上述の熱輸送装置1を備えるとともに、熱輸送装置1の密閉容器2が、蒸発部3に液相の作動流体F(L)を加熱して蒸発させる加熱手段を有し、かつ凝縮部4に気相の作動流体F(g)を冷却して凝縮させる冷却手段を有する。
【0050】
(加熱手段)
このうち、液相の作動流体F(L)を加熱して蒸発させる加熱手段としては、発熱体などに熱的に接続されたベースブロック5が挙げられる。
【0051】
ベースブロック5は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などの金属材料で構成された板体である。このベースブロック5は、
図1に示すように、蒸発部3がある熱輸送装置1の下側の部位に固定される。このようなベースブロック5を設けることで、発熱体における熱が、ベースブロック5を介して蒸発部3に速やかに伝えられるため、熱交換ユニット10を用いて発熱体を効率よく冷却することができる。
【0052】
(冷却手段)
また、凝縮部4に気相の作動流体を冷却して凝縮させる冷却手段としては、密閉容器2の凝縮部4に複数並列して設けられる冷却フィン6が挙げられる。
【0053】
冷却フィン6は、例えば薄い平板形状を有するアルミニウムなどの金属材料からなる単数または複数の板体によって構成される。この冷却フィン6は、
図1に示すように、凝縮部4がある熱輸送装置1の上側の部位に固定される。このような冷却フィン6を複数並列して設けることで、より多くの熱が、凝縮部4から冷却フィン6を介して熱交換ユニット10の外部に放出されるため、凝縮部4における作動流体の気相から液相への相変化を促進することができる。特に、本実施形態に係る熱交換ユニット10では、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面に、複数の凸部22を有する微細加工部21が形成されることで、液相の作動流体F(L)が蒸発部3に移動し易くなるため、特に低温環境下において冷却フィン6による冷却がなされても、凝縮部4での液相の作動流体F(L)の凍結は起こり難い。
【0054】
このほか、熱交換ユニット10は、冷却フィン6に向けて空気を流通させるダクト部材(図示せず)を設けてもよい。
【0055】
<熱輸送装置における熱輸送のメカニズム>
次に、本発明の熱輸送装置1の熱輸送のメカニズムを、
図1および
図2を用いて以下で説明する。
【0056】
本発明の熱輸送装置1は、水を含有する液相の作動流体F(L)が密閉容器2の収容部2aに保持されている。
【0057】
ここで、熱輸送装置1の蒸発部3が、発熱体に熱的に接続されたベースブロック5などの加熱手段から受熱すると、蒸発部3に保持されている液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化することによって、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。
【0058】
蒸発部3で熱を吸収した気相の作動流体F(g)は、密閉容器2の内部空間Hである蒸気流路を通って、密閉容器2の蒸発部3から凝縮部4に流れることで、加熱手段(ベースブロック5)で受けた熱が、蒸発部3から凝縮部4へと輸送される。
【0059】
その後、凝縮部4へ輸送された気相の作動流体F(g)は、凝縮部4にて、冷却フィン6などの冷却手段によって冷却されて、液相に相変化させられる。このとき、輸送されてきた発熱体の熱は、凝縮潜熱として熱輸送装置1の外部に放出される。他方で、凝縮部4で熱を放出して液相に相変化した液相の作動流体F(L)は、凝縮部4が位置する密閉容器2の内面に液滴を形成し、この液滴は、密閉容器2の内面の近傍に多く分布する非凝縮ガスGによって、密閉容器2の内面から弾かれる。このことで、液相の作動流体F(L)の液滴は、密閉容器2の内周面に沿って、凝縮部4から蒸発部3に流れるため、蒸発部3と凝縮部4の間で作動流体の循環流れを円滑に形成することができる。
【0060】
このようにして、本発明の熱輸送装置1では、例えば-30℃になるような低温環境下で用いる場合と、例えば5~40℃の常温環境下で用いる場合の両方において、安定した良好な熱輸送機能をもたらすことができる。より具体的には、本発明の熱輸送装置1の動作温度は、好ましくは-30℃以上であり、より好ましくは-30℃以上40℃以下の範囲である。本発明の熱輸送装置1は、このような温度範囲において、安定した良好な熱輸送機能を有しており、寒冷地および暖地の両方に対応可能な熱輸送装置を構成することができる。したがって、本発明の熱輸送装置1は、高速鉄道車両やハイブリッド車、電気自動車などの各種車両に搭載される、電力変換装置(インバータ)などの半導体素子や、リチウムイオン電池などの二次電池などの電気・電子機器の冷却に、好適に用いることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0063】
(本発明例1)
本発明例1の熱輸送装置は、
図1に示す内部構造を有する、密閉容器2が収容部2aおよび延設部2b、2cを有する熱輸送装置1である。密閉容器2の収容部2aとして、200mm×100mm×高さ20mmの容器を用い、この収容部2aの上面に、直径が12mm、長さが300mmの銅からなる円筒形状の延設部2b、2cを設けた。このうち、凝縮部4となる延設部2b、2cの内面に、液相の作動流体F(L)である水の液滴に対して、Cassieの式によって求められる接触角φが124°となるように、縦横の溝を無数に形成することで、複数の直方体形状の凸部22が底面から延出する形状を有する微細加工部21を形成した。ここで、溝が形成される前の、密閉容器2の構成材料に対する水の液滴の接触角θ
1は38°であり、微細加工部21の表面のうち密閉容器2の構成材料が占める割合(f
1/(f
1+f
2))は0.25であった。また、凸部22が形成された微細加工部21は、表面粗さR
maxは50μmであり、任意の縦1mm×横1mmの範囲における凸部22の個数は2500個であった。また、微細加工部21に形成された凸部22について、光学顕微鏡とXYステージを用いて大きさを測定したところ、縦10μm×横10μm×高さ50μmの直方体の形状を有していた。また、微細加工部21における見かけの表面積(S1)は113cm
2であり、微細加工部21の実際の表面積(S2)は678cm
2であり、見かけの表面積に対する実際の表面積の比(S2/S1)は6であった。そして、延設部2b、2cのうち一方の端部を封入口として残して封止し、この封入口から液相の作動流体F(L)として10gの水を注入し、液相の作動流体F(L)が収容部2aに収容されるようにした。次いで、密閉容器2の内部を脱気して減圧状態とし、非凝縮ガスGとして0.01gの空気を注入した後、封入口を封止することで熱輸送装置1を作製した。
【0064】
(本発明例2)
本発明例2の熱輸送装置は、凝縮部4となる延設部2b、2cの内面に、液相の作動流体F(L)の液滴に対して90°の接触角φを有するように、複数の凸部22からなる微細加工部21を形成した。このとき、凸部22が形成された微細加工部21は、表面粗さRmaxは50μmであり、任意の縦1mm×横1mmの範囲における凸部22の個数は1500個であった。また、微細加工部21に形成された凸部22について、光学顕微鏡とXYステージを用いて大きさを測定したところ、縦20μm×横20μm×高さ50μmの直方体の形状を有していた。また、微細加工部21における見かけの表面積(S1)は113cm2であり、微細加工部21の実際の表面積(S2)は678cm2であり、見かけの表面積に対する実際の表面積の比(S2/S1)は7であった。それ以外は、本発明例1の熱輸送装置と同様な構成になるようにして作製した。
【0065】
(比較例1)
比較例1の熱輸送装置は、微細加工部21を凝縮部4となる延設部2b、2cの内面に有しない密閉容器2を用いた。より具体的には、延設部2b、2cの内面に凸部22を形成せずに封止した。それ以外は、本発明例1の熱輸送装置と同様な構成になるようにして作製した。
【0066】
(比較例2)
比較例2の熱輸送装置は、液滴に対して濡れ性を有する微細加工部21を、凝縮部4となる延設部2b、2cの内面に有する密閉容器2を用いた。より具体的には、延設部2b、2cの内面に、液相の作動流体F(L)の液滴に対して30°の接触角φを有するように、複数の凸部22からなる微細加工部21を形成した。このとき、凸部22が形成された微細加工部21は、表面粗さRmaxは50μmであり、任意の縦1mm×横1mmの範囲における凸部22の個数は50個であった。また、微細加工部21に形成された凸部22について、光学顕微鏡とXYステージを用いて大きさを測定したところ、縦100μm×横100μm×高さ50μmの直方体の形状を有していた。また、微細加工部21における見かけの表面積(S1)は113cm2であり、微細加工部21の実際の表面積(S2)は226cm2であり、見かけの表面積に対する実際の表面積の比(S2/S1)は2であった。それ以外は、本発明例1の熱輸送装置と同様な構成になるようにして作製した。
【0067】
(比較例3)
比較例3の熱輸送装置は、液滴に対して濡れ性を有する微細加工部21を、凝縮部4となる延設部2b、2cの内面に有する密閉容器2を用いた。より具体的には、延設部2b、2cの内面に、液相の作動流体F(L)の液滴に対して35°の接触角φを有するように、複数の凸部22からなる微細加工部21を形成した。このとき、凸部22が形成された微細加工部21は、表面粗さRmaxは50μmであり、任意の縦1mm×横1mmの範囲における凸部22の個数は25個であった。また、微細加工部21に形成された凸部22について、光学顕微鏡とXYステージを用いて大きさを測定したところ、縦100μm×横100μm×高さ50μmの直方体の形状を有していた。また、微細加工部21における見かけの表面積(S1)は113cm2であり、微細加工部21の実際の表面積(S2)は170cm2であり、見かけの表面積に対する実際の表面積の比(S2/S1)は1.5であった。それ以外は、本発明例1の熱輸送装置と同様な構成になるようにして作製した。
【0068】
(性能評価)
熱輸送装置1の性能評価は以下の条件で行った。
1.熱輸送装置1の蒸発部3の外面に、発熱体に熱的に接続されたベースブロック5を加熱手段として設け、発熱体(発熱量100W~400W)を装着した。
2.熱輸送装置1の凝縮部4の外面に、冷却手段として冷却フィン6を装着した。
3.蒸発部3と凝縮部4との間には、断熱材を装着した。
4.-30℃の冷温下と20℃の常温下の両方において、延設部2b、2cが垂直方向になるように設置した状態で、蒸発部3での入熱量を100Wから50Wずつ増加させていき、蒸発部3の温度が非定常となる直前の入熱量の大きさを測定し、この測定した入熱量を最大熱輸送量Qmax(W)とした。
【0069】
その結果について、以下の基準で評価した。
◎:最大熱輸送量Qmaxが400W以上である
〇:最大熱輸送量Qmaxが200W以上400W未満である
×:最大熱輸送量Qmaxが200W未満であるか、熱輸送装置1が作動せず
【0070】
その結果、本発明例1および本発明例2の熱輸送装置1は、20℃の常温下での最大熱輸送量Qmaxに関する評価結果がいずれも「◎」評価であり、かつ-30℃の低温下での最大熱輸送量Qmaxに関する評価結果がいずれも「〇」評価であったため、いずれも優れた熱輸送特性を有していることが分かった。
【0071】
他方で、比較例1~比較例3の熱輸送装置は、いずれも、20℃の常温下での最大熱輸送量Qmaxに関する評価結果が「◎」であったものの、-30℃の低温下での最大熱輸送量Qmaxに関する評価結果が「×」評価であったため、少なくとも低温下での熱輸送特性において劣るものであった。
【0072】
上記結果より、本発明例1~2の熱輸送装置1は、比較例1~3の熱輸送装置に比べて、低温下での最大熱輸送量Qmaxが増加し、かつ常温下での最大熱輸送量Qmaxも増加しているため、常温環境下で用いる場合と低温環境下で用いる場合の両方において、安定した良好な熱輸送機能を得られることが分かった。
【符号の説明】
【0073】
1 熱輸送装置
2 密閉容器(またはコンテナ)
2a 収容部
2b、2c 延設部
21 微細加工部
22、22A~22C 凸部
23、23A~23C 底面
3 蒸発部
4 凝縮部
5 ベースブロック
6 冷却フィン
10 熱交換ユニット
F(L) 液相の作動流体
F(g) 気相の作動流体
G 非凝縮ガス
H 内部空間
S1 微細加工部の見かけの表面積
S2 微細加工部の実際の表面積