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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】音場再現装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20240228BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R1/40 310
H04R1/40 320A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020121724
(22)【出願日】2020-07-15
(65)【公開番号】P2022018548
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100121119
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
【審査官】金子 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-303658(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0269070(US,A1)
【文献】特開2012-010011(JP,A)
【文献】特開2011-199733(JP,A)
【文献】特表2013-524601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再現音場に設置されたスピーカアレーを用いて、原音場に設置されたマイクロホンアレーにより取得した所定の境界面の音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を、前記マイクロホンアレーと同一の相対位置関係で配置した前記再現音場の制御点で再現するための駆動信号d(ω)を算出する音場再現装置において、
前記スピーカアレーから前記制御点までの音圧の伝達特性を伝達関数マトリクスG(ω)とし、前記制御点の音圧勾配の伝達特性を伝達アドミタンスマトリクスY(ω)とし、
予め測定された前記伝達関数マトリクスG(ω)及び前記伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を、前記伝達関数マトリクスG(ω)の直交基底Φ、対角行列S及び正則行列の随伴行列XHの積、並びに、前記伝達アドミタンスマトリクスY(ω)の直交基底Ψ、対角行列C及び前記正則行列の随伴行列XHの積に一般化特異値分解する一般化特異値分解部と、
前記音圧p(ω)を、前記一般化特異値分解部により求めた前記直交行列Φを用いて展開することで得られる音圧の展開係数p~(ω)を求める音圧展開係数算出部と、
前記音圧勾配v(ω)を、前記一般化特異値分解部により求めた前記直交行列Ψを用いて展開することで得られる音圧勾配の展開係数v~(ω)を求める音圧勾配展開係数算出部と、
前記制御点の音圧をp^(ω)とし、前記制御点の音圧勾配をv^(ω)とし、前記音圧展開係数算出部により求めた前記音圧の展開係数p~(ω)と、前記一般化特異値分解部により求めた前記直交行列Φで前記音圧p^(ω)を展開することで得られる展開係数との間の差を第1の差とし、前記音圧勾配展開係数算出部により求めた前記音圧勾配の展開係数v~(ω)と、前記一般化特異値分解部により求めた前記直交行列Ψで音圧勾配v^(ω)を展開することで得られる展開係数との間の差を第2の差とし、前記第1の差及び前記第2の差の関数を評価関数として、前記評価関数が最小となるように、駆動信号の展開係数d~(ω)を求める駆動信号展開係数算出部と、
前記駆動信号展開係数算出部により求めた前記駆動信号の展開係数d~(ω)を、前記一般化特異値分解部により求めた前記正則行列の随伴行列XHを用いて逆展開し、前記駆動信号d(ω)を求める駆動信号算出部と、
を備えたことを特徴とする音場再現装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音場再現装置において、
前記駆動信号展開係数算出部は、
要素の番号をiとし、前記音圧の展開係数p~(ω)の前記要素をp~i(ω)とし、前記音圧勾配の展開係数v~(ω)の前記要素をv~i(ω)とし、前記対角行列Sの前記要素をsiとし、前記対角行列Cの前記要素をciとし、予め設定された重みの前記要素をσiとして、第1式:d~i(ω)=(sip~i(ω)+σiiv~i(ω))/(si 2+σii 2)により、前記駆動信号の展開係数d~(ω)を求める、ことを特徴とする音場再現装置。
【請求項3】
請求項2に記載の音場再現装置において、
前記駆動信号展開係数算出部は、
前記要素σiを、第2式:σi=ci 2/si 2により算出し、前記第2式により算出された前記要素σiを用いて、前記第1式により前記駆動信号の展開係数d~(ω)を求める、ことを特徴とする音場再現装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の音場再現装置において、
前記マイクロホンアレーは、2つの単一指向性マイクロホンを1ペアとした複数ペアから構成されるものとし、
さらに、前記マイクロホンアレーを構成する前記複数ペアのそれぞれから、一方の前記単一指向性マイクロホンからの第1のマイクロホン信号を入力すると共に、他方の前記単一指向性マイクロホンからの第2のマイクロホン信号を入力し、前記第1のマイクロホン信号及び前記第2のマイクロホン信号に基づいて、前記音圧p(ω)及び前記音圧勾配v(ω)を求める音圧及び音圧勾配算出部を備えたことを特徴とする音場再現装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から4までのいずれか一項に記載の音場再現装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマイクロホンで収録された音場を、複数のスピーカを使用して別の時間及び空間で再現する音場再現装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ある音場を別の時間及び空間で再現するための様々な手法が提案されている。例えば、境界音場制御(Boundary Surface Control:BSC)の原理に基づいた音場再現手法がある。
【0003】
このBSCに基づく音場再現手法は、音場を再現したい領域の境界の外部から離れた点に複数のスピーカを設置し、前記領域の境界面の音圧を制御し、所望の音場の音圧を再現することで、前記領域内で所望の音場を再現できるものである(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ここで、再現音場の境界面での音圧を所望の音圧となるよう厳密に制御を行った場合、実際の環境が設計時に想定した環境と一致したときには、最大の制御効果を得ることができる。しかし、実際の環境が設計時に想定した環境と誤差があるときには、その誤差が増幅してしまい、十分な効果を得ることができない。
【0005】
そこで、このようなBSCに基づく音場再現手法に対し、正則化により、逆システムの緩和をする手法が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。正則化により、境界面で所望の音圧との誤差をある程度許容することと引き換えに、ロバストな制御を実現する。
【0006】
また、次式で示すキルヒホッフ-ヘルムホルツ積分方程式によると、
【数1】
厳密に、ある音場(原音場)の波面を別の音場(再現音場)の波面と一致させるには、音場を再現したい領域の境界面の音圧に加え、境界面の法線方向の音圧勾配(法線方向音圧勾配、以下、単に「音圧勾配」という。)を制御する必要があることが示唆される。ここで、rrは前記領域内の点、rsは前記境界面上の点であり、G(rr|rs)はrsからrrのグリーン関数である。しかし、その境界面の形状にて決定される固有周波数以外の周波数では、境界面の音圧のみを再現することにより、領域内の音場を再現することができる、との知見が示されている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0007】
このため、簡易にある音場を別の時間及び場所で再現するためには、前述の特許文献1のBSCに基づく音場再現手法のように、音圧のみを制御対象としているものがほとんどである。
【0008】
以下、従来のBSCに基づく音場再現手法、及び正則化による逆システムの緩和手法について説明する。
【0009】
図13は、従来技術の音場再現装置を含む全体構成を示す概略図である。再現したい領域の外部に音源が存在する原音場において、所定の波面(点線)が形成されている。また、ある領域の境界面(3次元の場合は球面)に、全指向性マイクロホンで構成されたマイクロホンアレー101が設置されている。
【0010】
音場再現装置100は、原音場に設置されたマイクロホンアレー101を用いて、所定の(マイクロホンアレー101が設置された)境界面の音圧p(ω)を取得する。そして、音場再現装置100は、再現音場において、所定位置に設置されたスピーカアレー102を用いて、前記マイクロホンアレー101で取得した音圧p(ω)を、前記マイクロホンアレー101と同一の相対位置関係で配置した制御点103によって形成された境界面で再現する。これにより、再現音場において、制御点103の境界面の領域内部で、原音場の境界面の領域内部と同じ波面(点線)を再現することができる。
【0011】
しかしながら、再現音場において、制御点103の音圧p^(ω)を制御するためには、スピーカアレー102を構成する各スピーカから制御点103までの伝達特性を補償する必要がある。
【0012】
そこで、従来のBSCに基づく音場再現手法では、スピーカアレー102を構成する各スピーカから制御点103までの伝達関数を予め測定する。そして、これを以下に示す伝達関数マトリクスG(ω)として形成しておき、伝達関数マトリクスG(ω)の逆システムH(ω)を設計する必要がある。
【数2】
【0013】
ここで、Mは、スピーカアレー102を構成するスピーカの個数、Nは、制御点103の点数を示す。rr n,rs mは、それぞれn番目の制御点103とm番目のスピーカの位置ベクトルを示し、g(rr n|rs m)は、スピーカアレー102のm番目のスピーカからn番目の制御点103までの伝達関数、ωは角周波数を示す。
【0014】
この伝達関数g(rr n|rs m)は、スピーカアレー102を構成する各スピーカで駆動した音波を、全指向性マイクロホンを用いて収録することにより、容易に測定することができる。各スピーカから再生される信号(駆動信号)d(ω)と制御点103の音圧p^(ω)との間の関係は、以下の式で表すことができる。
【数3】
【0015】
ここで、各スピーカから再生される信号(駆動信号)d(ω)及び制御点103の音圧p^(ω)は、以下の式で表すことができる。
【数4】
m(ω)は、m番目のスピーカから再生される信号であり、p^n(ω)は、n番目の制御点103における音圧である。
【0016】
制御点103の点数N及びスピーカの個数MがN=Mの関係にあり、かつ伝達関数マトリクスG(ω)が正則である場合、伝達関数マトリクスG(ω)に対する逆システムH(ω)は、以下の式のように一意に求めることができる。
【数5】
【0017】
したがって、各スピーカから再生される信号である駆動信号d(ω)を以下の式とすることで、制御点103において、原音場の境界面における音圧p(ω)を再現することができる。
【数6】
【0018】
ここで、原音場の境界面における音圧p(ω)は、以下の式で表される。
【数7】
n(ω)は、原音場の境界面におけるn番目のマイクロホンで取得した音圧である。
【0019】
一方、伝達関数マトリクスG(ω)が正則でない場合、または制御点103の点数N及びスピーカの個数MがN≧Mの関係にある場合は、伝達関数マトリクスG(ω)の逆行列G-1(ω)を求めることができない。このため、一般に、以下の式に示すような最小二乗解が用いられる。
【数8】
G(ω)Hは、伝達関数マトリクスG(ω)の随伴行列である
【0020】
また、前述したとおり、伝達関数マトリクスG(ω)は、各スピーカから制御点103までの伝達特性であり、マイクロホンが密に設置されている場合には、マトリクスの線形独立性が低く、算出された逆システムH(ω)は不安定になり易い。このような逆システムH(ω)を用いて音場再現を行う場合、環境変化等の外乱に脆弱なシステムとなってしまう。
【0021】
そこで、このような問題に対して、一般的に正則化を行うことで、逆システムH(ω)の緩和を行い、外乱が発生しない場合の精度を低下させることと引き換えに、システムの頑健性を確保することが行われる。
【0022】
このような正則化による緩和を適用した逆システムH(ω)は、以下の式で表される。
【数9】
Iは単位行列である。λは正則化パラメータであり、逆システムH(ω)の緩和の度合いを調整するパラメータである。この正則化パラメータλは、試行錯誤を繰り返しながらヒューリスティックに調整されることが多い。
【0023】
一方、制御点103の点数N及びスピーカの個数MがN<Mの関係にある場合は、伝達関数マトリクスG(ω)の逆システムH(ω)は無数に存在し、その中で何らかの規範に基づく解を選定する必要がある。
【0024】
前記式(8)に示した最小二乗解の箇所で説明したとおり、算出された逆システムH(ω)が大きな値を持つ場合、システムは外乱に対して脆弱になってしまうため、その規範には、逆システムH(ω)が極力小さな値を持つものを選定すべきである。一般に、最小ノルム解と呼ばれる逆システムH(ω)のL2ノルムが最小となる解が選定される。
【0025】
最小ノルム解は、以下の式で得られる。
【数10】
【0026】
また、この場合も正則化による緩和が行われ、緩和を行った逆システムH(ω)は、以下の式で表される。
【数11】
正則化パラメータλは、前述の場合と同様に、試行錯誤を繰り返しながらヒューリスティックに調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【文献】特許第4873316号公報
【0028】
【文献】李容子、伊勢史郎、“正則化パラメータに着目した多チャンネル逆システムの最適化設計法の検討”、日本音響学春季研究発表会講演論文集、3-9-2、pp.727-728(2011)
【文献】古家賢一、一ノ瀬裕、“境界面音圧による閉空間の音場制御”、信学技報、EA90-15、pp.599-606(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
前述の特許文献1の音場再現手法では、複数のスピーカから音場を再現したい領域の境界面上における制御点103までの伝達関数マトリクスG(ω)の一般逆行列である逆システムH(ω)を算出することで、スピーカから再生される信号、すなわちスピーカの駆動信号d(ω)を算出する。
【0030】
しかしながら、逆システムH(ω)を算出するためには、行列の逆演算を行う必要があるため、計算量が比較的多くなる。また、境界面上に密にマイクロホンアレー101を設置した状況で伝達関数マトリクスG(ω)を形成するため、その線形独立性が低く、算出された駆動信号d(ω)の振幅は大きくなり易い。
【0031】
その結果、無駄な逆相信号の打消しが生じてしまい、環境の変化等の外乱にシステムの効果が左右され易いという問題がある。
【0032】
このような問題を解決するために、前述の非特許文献1の正則化により、逆システムH(ω)の緩和を行う。このような逆システムH(ω)の正則化による緩和を行うことにより、駆動信号d(ω)の振幅を小さくすることができる。つまり、逆システムの緩和をすることにより、音場再現性の誤差をある程度許容し、環境の変化等の外乱に対してシステムの効果が左右され難い制御を実現することができる。
【0033】
しかしながら、緩和の程度は、前記式(9)に示した正則化パラメータλを、試行錯誤を繰り返しながらヒューリスティックに調整することで定められることが多い。つまり、正則化パラメータλの調整が困難であるため、逆システムH(ω)の設計に時間を要するという問題があった。
【0034】
また、前述の非特許文献2のとおり、境界面の音圧のみを再現することで領域内の音場を再現することができる、との知見の下で、従来の音場再現手法では、音圧p(ω)のみを制御対象としているのが通常である。
【0035】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ある音場を別の時間及び空間で再現する際、簡易に再現音場における制御の緩和をすることが可能な音場再現装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
前記課題を解決するために、請求項1の音場再現装置は、再現音場に設置されたスピーカアレーを用いて、原音場に設置されたマイクロホンアレーにより取得した所定の境界面の音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を、前記マイクロホンアレーと同一の相対位置関係で配置した前記再現音場の制御点で再現するための駆動信号d(ω)を算出する音場再現装置において、前記スピーカアレーから前記制御点までの音圧の伝達特性を伝達関数マトリクスG(ω)とし、前記制御点の音圧勾配の伝達特性を伝達アドミタンスマトリクスY(ω)とし、予め測定された前記伝達関数マトリクスG(ω)及び前記伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を、前記伝達関数マトリクスG(ω)の直交基底Φ、対角行列S及び正則行列の随伴行列XHの積、並びに、前記伝達アドミタンスマトリクスY(ω)の直交基底Ψ、対角行列C及び前記正則行列の随伴行列XHの積に一般化特異値分解する一般化特異値分解部と、前記音圧p(ω)を、前記一般化特異値分解部により求めた前記直交行列Φを用いて展開することで得られる音圧の展開係数p~(ω)を求める音圧展開係数算出部と、前記音圧勾配v(ω)を、前記一般化特異値分解部により求めた前記直交行列Ψを用いて展開することで得られる音圧勾配の展開係数v~(ω)を求める音圧勾配展開係数算出部と、前記制御点の音圧をp^(ω)とし、前記制御点の音圧勾配をv^(ω)とし、前記音圧展開係数算出部により求めた前記音圧の展開係数p~(ω)と、前記一般化特異値分解部により求めた前記直交行列Φで前記音圧p^(ω)を展開することで得られる展開係数との間の差を第1の差とし、前記音圧勾配展開係数算出部により求めた前記音圧勾配の展開係数v~(ω)と、前記一般化特異値分解部により求めた前記直交行列Ψで音圧勾配v^(ω)を展開することで得られる展開係数との間の差を第2の差とし、前記第1の差及び前記第2の差の関数を評価関数として、前記評価関数が最小となるように、駆動信号の展開係数d~(ω)を求める駆動信号展開係数算出部と、前記駆動信号展開係数算出部により求めた前記駆動信号の展開係数d~(ω)を、前記一般化特異値分解部により求めた前記正則行列の随伴行列XHを用いて逆展開し、前記駆動信号d(ω)を求める駆動信号算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0037】
また、請求項2の音場再現装置は、請求項1に記載の音場再現装置において、前記駆動信号展開係数算出部が、要素の番号をiとし、前記音圧の展開係数p~(ω)の前記要素をp~i(ω)とし、前記音圧勾配の展開係数v~(ω)の前記要素をv~i(ω)とし、前記対角行列Sの前記要素をsiとし、前記対角行列Cの前記要素をciとし、予め設定された重みの前記要素をσiとして、第1式:d~i(ω)=(sip~i(ω)+σiiv~i(ω))/(si 2+σii 2)により、前記駆動信号の展開係数d~(ω)を求める、ことを特徴とする。
【0038】
また、請求項3の音場再現装置は、請求項2に記載の音場再現装置において、前記駆動信号展開係数算出部が、前記要素σiを、第2式:σi=ci 2/si 2により算出し、前記第2式により算出された前記要素σiを用いて、前記第1式により前記駆動信号の展開係数d~(ω)を求める、ことを特徴とする。
【0039】
また、請求項4の音場再現装置は、請求項1から3までのいずれか一項に記載の音場再現装置において、前記マイクロホンアレーが、2つの単一指向性マイクロホンを1ペアとした複数ペアから構成されるものとし、さらに、前記マイクロホンアレーを構成する前記複数ペアのそれぞれから、一方の前記単一指向性マイクロホンからの第1のマイクロホン信号を入力すると共に、他方の前記単一指向性マイクロホンからの第2のマイクロホン信号を入力し、前記第1のマイクロホン信号及び前記第2のマイクロホン信号に基づいて、前記音圧p(ω)及び前記音圧勾配v(ω)を求める音圧及び音圧勾配算出部を備えたことを特徴とする。
【0040】
さらに、請求項5のプログラムは、コンピュータを、請求項1から4までのいずれか一項に記載の音場再現装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
以上のように、本発明によれば、ある音場を別の時間及び空間で再現する際、簡易に再現音場における制御の緩和をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の実施形態による音場再現装置を含む全体構成を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態による音場再現装置の入出力信号を示す図である。
図3】本発明の実施形態による音場再現装置の構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態による音場再現装置の処理例を示すフローチャートである。
図5】音場再現装置の他の例における入出力信号を示す図である。
図6】マイクロホンアレー101の1番目ペアの配置例を示す概略図である。
図7】音場再現装置の他の例における構成例を示すブロック図である。
図8】シミュレーションにおける原音場の音圧分布を示す図である。
図9】従来技術による再現音場の音圧分布を示す図である。
図10】本発明の実施形態による再現音場の音圧分布を示す図である。
図11】従来技術及び本発明の実施形態による駆動信号d(ω)の振幅を示す図である。
図12】(1)は、従来技術における原音場と再現音場の誤差を示す図である。(2)は、本発明の実施形態による原音場と再現音場の誤差を示す図である。
図13】従来技術の音場再現装置を含む全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明は、一般逆行列を用いて逆システムHを算出するのではなく、一般化特異値分解により、スピーカから制御点103までの伝達特性を示す伝達関数マトリクスG(ω)、及び制御点103の法線方向の伝達特性を示す伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を直交基底に展開し、原音場と再現音場との間で展開係数を比較することで、スピーカの駆動信号d(ω)を算出することを特徴とする。
【0044】
これにより、逆システムHを直接算出することなく、駆動信号d(ω)を求めることができる。また、マイクロホンから実際に取得される音圧p(ω)に加え、音圧勾配v(ω)を用いて駆動信号d(ω)を算出するため、音圧勾配v(ω)を制約条件として、つまり、音圧勾配v(ω)が物理的根拠となって、簡易に再現音場における制御の緩和を行うことができる。
【0045】
〔本発明の音場再現手法〕
まず、本発明の音場再現手法について説明する。図1は、本発明の実施形態による音場再現装置を含む全体構成を示す概略図である。
【0046】
音場再現装置1は、原音場に設置されたマイクロホンアレー101を用いて、所定の(マイクロホンアレー101が設置された)境界面の音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を取得する。そして、音場再現装置1は、再現音場において、所定位置に設置されたスピーカアレー102を用いて、前記マイクロホンアレー101で取得した音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を、前記マイクロホンアレー101と同一の相対位置関係で配置した制御点103の境界面で再現するための駆動信号d(ω)を求め、駆動信号d(ω)をスピーカアレー102に出力する。これにより、再現音場において、制御点103を境界面とした領域内部で、原音場を再現することができる。
【0047】
尚、図示しない記録装置が、予め原音場に設置されたマイクロホンアレー101を用いて取得した音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を記録しておき、音場再現装置1が、別の時間に記録装置から音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を読み出すようにしてもよい。
【0048】
p^(ω)は制御点103の音圧、v^(ω)は制御点103の音圧勾配を示す。また、G(ω)は、スピーカアレー102から制御点103までの伝達特性を示す伝達関数マトリクスであり、Y(ω)は、制御点103の境界面における法線方向の伝達特性を示す伝達アドミタンスマトリクスである。
【0049】
以下、図1を参照して、本発明の音場再現手法について説明する。図13に示した従来技術においては、スピーカアレー102の各スピーカから制御点103までの伝達関数マトリクスG(ω)を形成する。
【0050】
これに対し、本発明の音場再現手法においては、伝達関数マトリクスG(ω)に加え、スピーカアレー102の各スピーカから音場を駆動することにより得られる制御点103の音圧勾配v^(ω)の伝達特性である伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を、以下の式のとおり形成しておく。伝達アドミタンスマトリクスY(ω)は、スピーカアレー102の各スピーカから制御点103までの当該制御点103の境界面における法線方向の音圧勾配v^(ω)の伝達特性である。
【数12】
y(rr n|rs m)は、スピーカアレー102のm番目のスピーカからn番目の制御点103までの法線方向伝達アドミタンスを示す。
【0051】
したがって、各スピーカから再生される信号(駆動信号)d(ω)と制御点103の音圧勾配v^(ω)との間の関係は、以下の式で表される。
【数13】
【0052】
制御点103の音圧勾配v^(ω)は、以下の式で表される。
【数14】
∂p^i(ω)/∂niは、i番目の制御点103における法線方向の音圧勾配であり、niは、i番目の制御点103における法線方向の単位ベクトルである。
【0053】
また、原音場の境界面における音圧勾配v(ω)は、以下の式で表される。
【数15】
【0054】
ここで、伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)に対して一般化特異値分解を行うと、これらは、以下のように変形することができる。
【数16】
【数17】
Φ,Ψは、それぞれN×Nのユニタリ行列(直交基底ベクトル(直交基底))であり、ΦHΦ=ΦΦH=I及びΨHΨ=ΨΨH=Iが成り立つ。また、Xは、M×Qの正則行列、XHは、正則行列Xの随伴行列である。
【0055】
S,Cは、それぞれN×Qの非負対角行列であり、Q=min(2N,M)であり、行列の大きさは、以下の式のように、N及びQの大小関係により決定される。
【数18】
【数19】
【0056】
ここで、0は零行列である。また、対角行列Sの各要素s1,s2,・・・,sQ及び対角行列Cの各要素c1,c2,・・・,cQは一般化特異値と呼ばれ、以下の関係にある。
【数20】
【0057】
次に、再現音場における制御点103の音圧p^(ω)及び音圧勾配v^(ω)を、原音場における境界面の音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)に近づけるために、以下の評価関数Jを最小とする駆動信号d(ω)を求めることとする。
【数21】
||*||2は行列のL2ノルム、||*||2 Rは、重み行列Rで重み付けをしたL2ノルムを示す。
【0058】
評価関数Jについて、前記式(16)及び(17)である伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)の一般化特異値分解の式を用いて、以下の式のとおり変形する。
【数22】
【0059】
ここで、原音場における境界面の音圧の展開係数p~(ω)、及び駆動信号の展開係数d~(ω)は、以下の式で表される。
【数23】
【数24】
【0060】
前記式(23)のとおり、原音場における境界面の音圧の展開係数p~(ω)は、伝達関数マトリクスG(ω)を一般化特異値分解することにより得られる直交行列の随伴行列ΦHに、原音場における境界面の音圧p(ω)を乗算した結果である。つまり、この展開係数p~(ω)は、原音場における境界面の音圧p(ω)を、直交基底ベクトルである直交行列Φで展開した展開係数を意味し、音場を直交基底ベクトルの級数展開で表現したものである。
【0061】
また、前記式(24)のとおり、駆動信号の展開係数d~(ω)は、伝達関数マトリクスG(ω)を一般化特異値分解することにより得られる正則行列の随伴行列XHに、駆動信号d(ω)を乗算した結果である。
【0062】
重み行列Rは、以下の式で定義する。
【数25】
Σは、重み行列Rの対角行列(重み対角行列)であり、各要素である重みσ1,σ2,・・・,σNにより構成される。
【0063】
評価関数Jは、さらに以下の式のように変形することができる。
【数26】
||ΨHv(ω)-Cd~(ω)||2 Σは、重み対角行列Σを重み付けしたL2ノルムである。
【0064】
ここで、原音場における境界面の音圧勾配の展開係数v~(ω)は、以下の式で表される。
【数27】
【0065】
前記式(27)のとおり、原音場における境界面の音圧勾配の展開係数v~(ω)は、伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を一般化特異値分解することにより得られる直交行列の随伴行列ΨHに、原音場における境界面の音圧勾配v(ω)を乗算した結果である。つまり、この展開係数v~(ω)は、原音場における境界面の音圧勾配v(ω)を、直交基底ベクトルである直交行列Ψで展開した展開係数を意味し、音場を直交基底ベクトルの級数展開で表現したものである。
【0066】
S,Cは対角行列であるため、評価関数Jは、行毎に独立に評価することが可能であり、i番目の要素についての評価関数jiは、以下の式で表される。
【数28】
【0067】
前記式(28)の右辺の第一項において、sid~i(ω)は、再現音場を駆動信号d(ω)で励起したときに生じる制御点103の音圧p^(ω)を直交行列Φで展開したときの展開係数を意味する。
【0068】
また、右辺の第二項において、cid~i(ω)は、再現音場を駆動信号d(ω)で励起したときに生じる制御点103の音圧勾配v^(ω)を直交行列Ψで展開したときの展開係数を意味する。
【0069】
前記式(28)から、この評価関数jiは、音圧のi番目の展開係数p~i(ω)と、直交行列Φで音圧p^(ω)を展開することで得られるi番目の展開係数sid~iとの間の差、及び、音圧勾配のi番目の展開係数v~i(ω)と、直交行列Ψで音圧勾配v^(ω)を展開することで得られる展開係数cid~i(ω)との間の差からなる関数である。
【0070】
つまり、この評価関数jiは、再現音場における制御点103の音圧の展開係数sid~i(ω)を、原音場における境界面の音圧の展開係数p~i(ω)に近づけると共に、再現音場における制御点103の音圧勾配の展開係数cid~i(ω)を、原音場における境界面の音圧勾配の展開係数v~i(ω)に近づけるための関数である。
【0071】
言い換えると、この評価関数jiは、再現音場を駆動信号d(ω)で励起したときの制御点103の音圧p^(ω)及び音圧勾配v^(ω)をそれぞれ直交基底ベクトルである直交行列Φ,Ψで展開した際に得られるi番目の展開係数sid~i(ω),cid~i(ω)を、原音場における境界面の音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)のi番目の展開係数p~i(ω),v~i(ω)に近づけるために、スピーカアレー102の再生信号である駆動信号のi番目の展開係数d~i(ω)を得るための関数である。
【0072】
前記式(28)における重みσiは、i番目の基底ベクトルにおいて、再現音場における制御点103の音圧p^(ω)に対する音圧勾配v^(ω)の制御の重みを決定する。
【0073】
評価関数jiを最小とする駆動信号の展開係数d~i(ω)は、以下の式で表される。
【数29】
【0074】
最終的に、前記式(29)で得られた駆動信号の展開係数d~(ω)について、前記式(24)の逆変換を行うことで、以下の式のように、駆動信号d(ω)を得ることができる。
【数30】
【0075】
ここで、前記式(25)において、重み対角行列Σ=0(重みσi=0)とする。そうすると、前記式(29)から、スピーカアレー102の駆動信号d(ω)は、従来技術において正則化を行っていない手法によって得られる値と一致する。この場合の前記式(29)を用いた場合、制御の緩和が行われていない音場再現を行うものといえる。
【0076】
本発明の実施形態では、前記式(29)のとおり、原音場における境界面の音圧の展開係数p~(ω)に加え、音圧勾配の展開係数v~(ω)も用いて駆動信号の展開係数d~(ω)を算出する。このため、本発明の実施形態により、再現音場における制御点103の音圧勾配v^(ω)を制約条件として、つまり、音圧勾配v^(ω)が物理的根拠となって、再現音場における制御点103の制御の緩和をすることができるといえる。
【0077】
また、対角行列S,Cの要素(一般化特異値)si,ciは、再現音場における制御点103の音圧p^(ω)及び音圧勾配v^(ω)の各基底ベクトルΦi,Ψi(前記式(22)及び(26))に対する寄与率、つまり、要素si,ciは、それぞれ音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)に対するi番目の基底に対する寄与率と解釈することができる。
【0078】
また、前記式(20)から、これを要素si,ci毎に記述すると、以下の式で表される。
【数31】
したがって、対角行列S,Cの要素si,ciは、互いにトレードオフの関係にあるといえる。
【0079】
尚、重みσiは、例えば以下の式のとおり、対角行列S,Cの要素si,ciを基準にして設定されるようにしてもよい。
【数32】
【0080】
これにより、音圧p(ω)に対して寄与が高く(要素siの値が大きく)、音圧勾配v(ω)に対して寄与の低い(要素ciの値が小さい)基底においては、重みσiを小さくすることができ、音圧p(ω)を重視した制御を実現することができる。逆に、音圧p(ω)に対して寄与が低く(要素siの値が小さく)、音圧勾配v(ω)に対して寄与の高い(要素ciの値が大きい)基底においては、重みσiを大きくすることができ、音圧勾配v(ω)を重視した制御を実現することができる。
【0081】
〔音場再現装置1〕
次に、図1に示した音場再現装置1について説明する。図2は、本発明の実施形態による音場再現装置1の入出力信号を示す図である。
【0082】
この音場再現装置1-1は、原音場に設置されたマイクロホンアレー101を構成する2×N個のマイクロホンから、音圧p1(ω),・・・,pN(ω)及び音圧勾配v1(ω),・・・,vN(ω)を入力する。また、音場再現装置1-1は、予め測定された伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を入力すると共に、予め設定された重み対角行列Σを入力する。Nは1以上の整数である。
【0083】
音場再現装置1-1は、音圧p1(ω),・・・,pN(ω)、音圧勾配v1(ω),・・・,vN(ω)、伝達関数マトリクスG(ω)、伝達アドミタンスマトリクスY(ω)及び重み対角行列Σに基づいて、再現音場に設置されたスピーカアレー102を構成するM個のスピーカに対応する駆動信号d1(ω),・・・,dM(ω)を算出する。Mは1以上の整数である。
【0084】
すなわち、音場再現装置1-1は、原音場のマイクロホンアレー101から入力した音圧p1(ω),・・・,pN(ω)及び音圧勾配v1(ω),・・・,vN(ω)を、マイクロホンアレー101と同一の相対位置関係で配置した再現音場の制御点103で再現するために、再現音場のスピーカアレー102へ出力する駆動信号d1(ω),・・・,dM(ω)を求める。
【0085】
音場再現装置1-1は、駆動信号d1(ω),・・・,dM(ω)をスピーカアレー102へ出力する。
【0086】
図3は、本発明の実施形態による音場再現装置1-1の構成例を示すブロック図であり、図4は、本発明の実施形態による音場再現装置1-1の処理例を示すフローチャートである。この音場再現装置1-1は、一般化特異値分解部10、メモリ11、音圧展開係数算出部12、音圧勾配展開係数算出部13、駆動信号展開係数算出部14及び駆動信号算出部15を備えている。
【0087】
一般化特異値分解部10は、予め測定された伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を入力する(ステップS401)。そして、一般化特異値分解部10は、前記式(16)及び(17)のとおり、伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を一般化特異値分解し、直交行列Φ,Ψ、対角行列S,C、及び正則行列の随伴行列XHを求める(ステップS402)。
【0088】
一般化特異値分解部10は、直交行列Φ,Ψ、対角行列S,C、及び正則行列の随伴行列XHをメモリ11に格納する(ステップS403)。ステップS401~S403の処理は、ステップS404~S409による駆動信号d(ω)を算出する処理に先立って、予め行われる。
【0089】
音場再現装置1-1は、マイクロホンアレー101から音圧p(ω)(音圧p1(ω),・・・,pN(ω))及び音圧勾配v(ω)(音圧勾配v1(ω),・・・,vN(ω))を入力すると共に、予め設定された重み対角行列Σを入力する(ステップS404)。
【0090】
音圧展開係数算出部12は、音圧p(ω)を入力すると共に、メモリ11から直交行列Φを読み出す。直交行列Φは、伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を一般化特異値分解して得られた、伝達関数マトリクスG(ω)の左特異行列である。
【0091】
音圧展開係数算出部12は、音圧p(ω)を、直交行列Φを用いて展開し、音圧の展開係数p~(ω)を求める。具体的には、音圧展開係数算出部12は、直交行列Φに対してその随伴行列ΦHを算出し、前記式(23)のとおり、直交行列の随伴行列ΦHに音圧p(ω)を乗算し、音圧の展開係数p~(ω)を求める(ステップS405)。音圧展開係数算出部12は、音圧の展開係数p~(ω)を駆動信号展開係数算出部14に出力する。
【0092】
音圧勾配展開係数算出部13は、音圧勾配v(ω)を入力すると共に、メモリ11から直交行列Ψを読み出す。直交行列Ψは、伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を一般化特異値分解して得られた、伝達アドミタンスマトリクスY(ω)の左特異行列である。
【0093】
音圧勾配展開係数算出部13は、音圧勾配v(ω)を、直交行列Ψを用いて展開し、音圧勾配の展開係数v~(ω)を求める。具体的には、音圧勾配展開係数算出部13は、直交行列Ψに対してその随伴行列ΨHを算出し、前記式(27)のとおり、直交行列の随伴行列ΨHに音圧勾配v(ω)を乗算し、音圧勾配の展開係数v~(ω)を求める(ステップS406)。音圧勾配展開係数算出部13は、音圧勾配の展開係数v~(ω)を駆動信号展開係数算出部14に出力する。
【0094】
駆動信号展開係数算出部14は、音圧展開係数算出部12から音圧の展開係数p~(ω)を入力すると共に、音圧勾配展開係数算出部13から音圧勾配の展開係数v~(ω)を入力し、また、予め設定された重み対角行列Σを入力する。さらに、駆動信号展開係数算出部14は、メモリ11から対角行列S,Cを読み出す。対角行列Sは、伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を一般化特異値分解して得られた、伝達関数マトリクスG(ω)の特異値行列である。対角行列Cは、伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を一般化特異値分解して得られた、伝達アドミタンスマトリクスY(ω)の特異値行列である。
【0095】
駆動信号展開係数算出部14は、音圧の展開係数p~(ω)の要素p~i(ω)、音圧勾配の展開係数v~(ω)の要素v~i(ω)、対角行列S,Cの要素(一般化特異値)si,ci、及び、重み対角行列Σの要素である重みσiを用いて、前記式(29)の演算を行い、駆動信号の展開係数d~(ω)の要素である展開係数d~i(ω)を求める(ステップS407)。そして、駆動信号展開係数算出部14は、駆動信号の展開係数d~(ω)を駆動信号算出部15に出力する。
【0096】
駆動信号算出部15は、駆動信号展開係数算出部14から駆動信号の展開係数d~(ω)を入力すると共に、メモリ11から正則行列の随伴行列XHを読み出す。正則行列の随伴行列XHは、伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を一般化特異値分解して得られた正則行列の随伴行列である。
【0097】
駆動信号算出部15は、駆動信号の展開係数d~(ω)を、正則行列の随伴行列XHを用いて逆展開し、駆動信号d(ω)を求める(ステップS408)。具体的には、駆動信号算出部15は、正則行列の随伴行列XHに対して逆行列を求め、前記式(30)のとおり、正則行列の随伴行列の逆行列(XH-1に駆動信号の展開係数d~(ω)を乗算し、駆動信号d(ω)を求める。そして、駆動信号算出部15は、駆動信号d(ω)をスピーカアレー102に出力する(ステップS409)。
【0098】
以上のように、本発明の実施形態の音場再現装置1-1によれば、音圧展開係数算出部12は、前記式(23)のとおり、直交行列の随伴行列ΦHに音圧p(ω)を乗算し、音圧の展開係数p~(ω)を求める。音圧勾配展開係数算出部13は、前記式(27)のとおり、直交行列の随伴行列ΨHに音圧勾配v(ω)を乗算し、音圧勾配の展開係数v~(ω)を求める。
【0099】
駆動信号展開係数算出部14は、音圧の展開係数p~(ω)、音圧勾配の展開係数v~(ω)、対角行列S,C、及び重み対角行列Σを用いて、前記式(29)の演算を行い、駆動信号の展開係数d~(ω)を求める。
【0100】
この駆動信号の展開係数d~(ω)は、再現音場の音圧p^(ω)及び音圧勾配v^(ω)をそれぞれ直交行列Φ,Ψで展開した際に得られる展開係数sid~i,cid~i(ω)を、原音場の音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)をそれぞれ直交行列Φ,Ψで展開した際に得られる展開係数p~i(ω),v~i(ω)に近づけるために、両者の差を規定する評価関数Jが最小となるように算出されたデータである。
【0101】
駆動信号算出部15は、前記式(30)のとおり、正則行列の随伴行列XHに対してその逆行列(XH-1を求め、駆動信号の展開係数d~(ω)を乗算し、駆動信号d(ω)を求める。
【0102】
これにより、ある原音場を別の時間及び空間の再現音場で再現する際に、逆システムHを直接算出することなく、駆動信号d(ω)を求めることができる。また、音圧p(ω)に加え、音圧勾配v(ω)を用いて駆動信号d(ω)を算出するため、音圧勾配v(ω)を制約条件として、つまり、音圧勾配v(ω)が物理的根拠となって、再現音場における制御の緩和をすることができる。
【0103】
また、従来技術では、逆システムを緩和するために、前記式(9)に示した正則化パラメータλを、試行錯誤を繰り返しながらヒューリスティックに調整する必要があった。これに対し、本発明の実施形態では、このような調整が困難な正則化パラメータλを用いる必要がないため、簡易に再現音場における制御の緩和をすることができる。
【0104】
〔音場再現装置1の他の例〕
次に、図1に示した音場再現装置1の他の例について説明する。図5は、音場再現装置1の他の例における入出力信号を示す図である。
【0105】
この音場再現装置1-2は、原音場に設置されたマイクロホンアレー101を構成する2×N個(Nペア)の単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2,・・・,2-N-1,2-N-2から、マイクロホン信号m1-1,m1-2,・・・,mN-1,mN-2を入力する。2個の単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2は、1番目ペアのマイクロホンである。また、2個の単一指向性マイクロホン2-N-1,2-N-2は、N番目ペアのマイクロホンである。つまり、マイクロホンアレー101は、2個の単一指向性マイクロホン2を1ペアとしたN個のペアから構成される。
【0106】
音場再現装置1-2は、マイクロホン信号m1-1,m1-2,・・・,mN-1,mN-2に基づいて、音圧p1(ω),・・・,pN(ω)及び音圧勾配v1(ω),・・・,vN(ω)を算出する。また、音場再現装置1-2は、予め測定された伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を入力すると共に、予め設定された重み対角行列Σを入力する。
【0107】
音場再現装置1-2は、図2に示した音場再現装置1-1と同様に、再現音場に設置されたスピーカアレー102を構成するM個のスピーカに対応する駆動信号d1(ω),・・・,dM(ω)を算出する。そして、音場再現装置1-2は、駆動信号d1(ω),・・・,dM(ω)をスピーカアレー102へ出力する。
【0108】
図6は、マイクロホンアレー101の1番目ペアの配置例を示す概略図である。この1番目ペアは、2つの単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2により構成される。この配置例は、他のペアについても同様である。
【0109】
音場再現装置1-2は、マイクロホンアレー101を構成する2×N個の単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2,・・・,2-N-1,2-N-2から入力したマイクロホン信号m1-1,m1-2,・・・,mN-1,mN-2に基づいて、音圧p1(ω),・・・,pN(ω)及び音圧勾配v1(ω),・・・,vN(ω)を算出する必要がある。
【0110】
一般に、音圧p(ω)は、全指向性マイクロホンを用いて取得することができ、音圧勾配v(ω)は、双指向性マイクロホンを用いて取得することができる。しかし、これらの音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)は、同一点に設置された全指向性マイクロホン及び双指向性マイクロホンにより取得する必要がある。
【0111】
しかしながら、実際には、これらの全指向性マイクロホン及び双指向性マイクロホンを、同一点に配置することはできない。
【0112】
そこで、全指向性マイクロホン及び双指向性マイクロホンの代わりに、図6に示すように、2個の単一指向性マイクロホンを配置し、音場再現装置1-2は、2個の単一指向性マイクロホンから得られる信号に基づいて、音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を算出する。
【0113】
図6に示すように、2個の単一指向性マイクロホンは、原音場にてマイクロホンアレー101が設置される境界面に対し、制御点を上下に挟み、かつ、指向方向(図6の矢印)がその法線方向に対して互いに反対に向くように配置される。
【0114】
図6において左側が境界面の内側とし、右側が境界面の外側とした場合に、単一指向性マイクロホン2-1-1の指向方向は、境界面を基準にして図6の左側を向いた法線方向であり、単一指向性マイクロホン2-1-2の指向方向は、境界面を基準にして右側を向いた法線方向である。
【0115】
図6に示した2個の単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2を合計Nペア用意し、マイクロホンアレー101を構成する合計Nペアの単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2,・・・,2-N-1,2-N-2を、境界面全体に沿って離散的に設置する。このように設置することにより、音響中心を同一とした音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を同時に取得することができる。
【0116】
以下、2個の単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2を用いることで、音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を同時に取得することができる理由について説明する。
【0117】
全指向性マイクロホン、双指向性マイクロホン及び単一指向性マイクロホンの指向特性をそれぞれα1(θ),α2(θ),α3(θ)とする。これらの指向特性α1(θ),α2(θ),α3(θ)を正面方向の感度で正規化した場合、以下の式で表される。
【数33】
【0118】
したがって、単一指向性マイクロホン2-1-1の指向特性α3(θ)は、全指向性マイクロホンの指向特性α1(θ)及び双指向性マイクロホンの指向特性α2(θ)を用いて、以下の式で表される。
【数34】
【0119】
さらに、指向方向を、単一指向性マイクロホン2-1-1に対して背面方向(境界面に対して反対方向)に向けた単一指向性マイクロホン2-2-2については、以下の式で表される。
【数35】
【0120】
したがって、前記式(34)及び(35)の出力値を加算または減算することにより、以下の式のように、全指向特性及び双指向特性を得ることができる。
【数36】
【0121】
このように、制御点を上下に挟み、指向方向を互いに反対に向けて配置した2個の単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2の出力を加減算することによって、境界面の法線方向に対して中心軸を同一とした全指向性特性及び双指向特性による音場のキャプチャが可能となる。つまり、2個の単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2を用いることで、音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を同時に取得することができる。
【0122】
図7は、音場再現装置1の他の例における構成例を示すブロック図であり、図5に示した音場再現装置1-2の構成例を示している。この音場再現装置1-2は、一般化特異値分解部10、メモリ11、音圧展開係数算出部12、音圧勾配展開係数算出部13、駆動信号展開係数算出部14、駆動信号算出部15、及び、音圧及び音圧勾配算出部16を備えている。
【0123】
図3に示した音場再現装置1-1と図7に示す音場再現装置1-2とを比較すると、両音場再現装置1-1,1-2は、一般化特異値分解部10、メモリ11、音圧展開係数算出部12、音圧勾配展開係数算出部13、駆動信号展開係数算出部14及び駆動信号算出部15を備えている点で共通する。一方、音場再現装置1-2は、音場再現装置1-1の構成に加え、音圧及び音圧勾配算出部16を備えている点で音場再現装置1-1と相違する。図7において、図3と共通する部分には図3と同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0124】
音圧及び音圧勾配算出部16は、マイクロホンアレー101を構成する2×N個(Nペア)の単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2,・・・,2-N-1,2-N-2から、マイクロホン信号m1-1,m1-2,・・・,mN-1,mN-2を入力する。
【0125】
音圧及び音圧勾配算出部16は、1番目ペアのマイクロホン信号m1-1,m1-2、・・・及びN番目ペアのマイクロホン信号mN-1,mN-2のそれぞれについて、前記式(36)の演算を行い、音圧p1(ω)及び音圧勾配v1(ω)、・・・並びに音圧pN(ω)及び音圧勾配vN(ω)を求める。
【0126】
具体的には、音圧及び音圧勾配算出部16は、1番目ペアについて、単一指向性マイクロホン2-1-1から入力したマイクロホン信号m1-1をα3(θ)とし、単一指向性マイクロホン2-1-2から入力したマイクロホン信号m1-2をα3(θ+180)とし、音圧p1(ω)をα1(θ)とし、音圧勾配v1(ω)をα2(θ)として、1番目ペアのマイクロホン信号m1-1,m1-2に基づいて前記式(36)の演算を行い、音圧p1(ω)及び音圧勾配v1(ω)を求める。
【0127】
同様に、音圧及び音圧勾配算出部16は、N番目ペアについて、単一指向性マイクロホン2-N-1から入力したマイクロホン信号mN-1をα3(θ)とし、単一指向性マイクロホン2-N-2から入力したマイクロホン信号mN-2をα3(θ+180)とし、音圧pN(ω)をα1(θ)とし、音圧勾配vN(ω)をα2(θ)として、N番目ペアのマイクロホン信号mN-1,mN-2に基づいて前記式(36)の演算を行い、音圧pN(ω)及び音圧勾配vN(ω)を求める。
【0128】
音圧及び音圧勾配算出部16は、音圧p(ω)(音圧p1(ω),・・・,pN(ω))を音圧展開係数算出部12に出力し、音圧勾配v(ω)(音圧勾配v1(ω),・・・,vN(ω))を音圧勾配展開係数算出部13に出力する。
【0129】
以上のように、音場再現装置1-2によれば、音圧及び音圧勾配算出部16は、単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2等のペアから構成されるマイクロホンアレー101から、マイクロホン信号m1-1,m1-2,・・・,mN-1,mN-2を入力する。そして、音圧及び音圧勾配算出部16は、前記式(36)の演算を行い、音圧p(ω)及び音圧勾配v(ω)を求める。
【0130】
音圧展開係数算出部12、音圧勾配展開係数算出部13、駆動信号展開係数算出部14及び駆動信号算出部15は、図3に示した音場再現装置1-1の各構成部と同じ処理を行う。
【0131】
これにより、音場再現装置1-1と同様の効果を奏する。また、マイクロホンアレー101は、単一指向性マイクロホン2-1-1,2-1-2等のペアにより構成され、音圧及び音圧勾配算出部16は、前記式(36)にて加減算を行えばよい。このため、簡易な構成かつ処理にて、駆動信号d(ω)を算出し、再現音場における制御の緩和を図ることができる。
【0132】
〔シミュレーション結果〕
次に、シミュレーション結果について説明する。図8は、シミュレーションにおける原音場の音圧分布を示す図である。横軸はx軸(m)、縦軸はy軸(m)を示す。音源は、半径r=0.75m及び水平角θ=0°の位置に配置した点音源(バツ(×))とし、1kHzの信号が再生されているものとする。また、マイクロホンアレー101については、半径r=0.5mの大きさで32個のマイクロホンが等間隔に配置されているものとする(黒丸(●))。
【0133】
後述する図9図12において、従来技術は、正則化による逆システムの緩和を行っていない従来のBSCに基づく音場再現手法であり、本発明の実施形態は、図2及び図3に示した音場再現装置1-1を用いた音場再現手法である。
【0134】
図9は、従来技術による再現音場の音圧分布を示す図であり、図10は、本発明の実施形態による再現音場の音圧分布を示す図である。横軸はx軸(m)、縦軸はy軸(m)を示す。バツ(×)の位置が仮想音源であり、白丸(〇)の位置にスピーカアレー102が配置されているものとする。黒丸(●)の位置が制御点103である。
【0135】
制御点103は、図8に示した原音場のマイクロホンアレー101の座標と同一の座標に配置されている。スピーカアレー102は、半径r=1mの大きさで24個のスピーカが等間隔に配置されているものとする。図10の本発明の実施形態において、各基底ベクトルに対する重みは、前記式(32)に示すように、σi=ci 2/si 2とする。
【0136】
図9から、従来技術では、制御点103の内側で音場が良く再現されているが、制御点103の外側で音場が乱れていることがわかる。一方、図10から、本発明の実施形態では、制御点103の内側で音場が良く再現されており、制御点103の外側においても、ある程度の範囲で音場が再現されていることがわかる。
【0137】
図11は、従来技術及び本発明の実施形態による駆動信号d(ω)の振幅を示す図である。横軸は、スピーカアレー102を構成するスピーカの位置θ(度)を示し、縦軸は駆動信号d(ω)の振幅(dB)を示す。白丸(〇)を付した実線は、本発明の実施形態における駆動信号d(ω)の振幅を示し、アスタリスク(*)を付した点線は、従来技術における駆動信号d(ω)の振幅を示す。
【0138】
図11から、θ=0°の方向に配置されたスピーカの駆動信号d(ω)は、本発明の実施形態及び従来技術においてほぼ同レベルであり、それ以外の方向に配置されたスピーカの駆動信号d(ω)は、本発明の実施形態の方が従来技術よりもレベルが低いことがわかる。つまり、本発明の実施形態の方が従来技術よりも、より効率的に音場が再現できているといえる。
【0139】
図12(1)は、従来技術における原音場と再現音場の誤差を示す図であり、図12(2)は、本発明の実施形態による原音場と再現音場の誤差を示す図である。図9及び図10と同様に、横軸はx軸(m)、縦軸はy軸(m)を示し、バツ(×)の位置が仮想音源であり、白丸(〇)の位置にスピーカアレー102が配置されているものとし、黒丸(●)の位置が制御点103である。また、白領域は誤差が大きく、黒領域は誤差が小さいことを示している。
【0140】
図12(1)及び図12(2)から、図9及び図10と同様に、従来技術では、制御点103の内側で音場が良く再現されているが、制御点103の外側で誤差の大きい領域が多いことがわかる。一方、本発明の実施形態では、制御点103の内側で音場が良く再現されており、制御点103の外側においても、ある程度の範囲で音場が再現されていることがわかる。
【0141】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0142】
例えば、図3及び図7に示した音場再現装置1-1,1-2は、予め設定された重み対角行列Σを入力するようにした。これに対し、音場再現装置1-1,1-2の駆動信号展開係数算出部14は、重み対角行列Σを入力することなく、重み対角行列Σを構成する各要素である重みσ1,σ2,・・・,σNを算出するようにしてもよい。具体的には、駆動信号展開係数算出部14は、伝達関数マトリクスG(ω)及び伝達アドミタンスマトリクスY(ω)を一般化特異値分解することで得られた対角行列S,Cの要素si,ciを用いて、前記式(32)を演算し、重みσiを算出する。
【0143】
尚、本発明の実施形態による音場再現装置1-1,1-2のハードウェア構成としては、通常のコンピュータを使用することができる。音場再現装置1-1,1-2は、CPU、RAM等の揮発性の記憶媒体、ROM等の不揮発性の記憶媒体、及びインターフェース等を備えたコンピュータによって構成される。
【0144】
音場再現装置1-1に備えた一般化特異値分解部10、メモリ11、音圧展開係数算出部12、音圧勾配展開係数算出部13、駆動信号展開係数算出部14及び駆動信号算出部15の各機能は、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0145】
また、音場再現装置1-2に備えた一般化特異値分解部10、メモリ11、音圧展開係数算出部12、音圧勾配展開係数算出部13、駆動信号展開係数算出部14、駆動信号算出部15、及び、音圧及び音圧勾配算出部16の各機能も、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0146】
これらのプログラムは、前記記憶媒体に格納されており、CPUに読み出されて実行される。また、これらのプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、DVD等)、半導体メモリ等の記憶媒体に格納して頒布することもでき、ネットワークを介して送受信することもできる。
【符号の説明】
【0147】
1,100 音場再現装置
2 単一指向性マイクロホン
10 一般化特異値分解部
11 メモリ
12 音圧展開係数算出部
13 音圧勾配展開係数算出部
14 駆動信号展開係数算出部
15 駆動信号算出部
16 音圧及び音圧勾配算出部
101 マイクロホンアレー
102 スピーカアレー
103 制御点
p(ω) マイクロホンで取得した境界面の音圧
p^(ω) 制御点103の音圧
p~(ω) 音圧の展開係数
v(ω) マイクロホンで取得した境界面の音圧勾配
v^(ω) 制御点103の音圧勾配
v~(ω) 音圧勾配の展開係数
d(ω) 駆動信号
d~(ω) 駆動信号の展開係数
G(ω) 伝達関数マトリクス
H(ω) 逆システム
Y(ω) 伝達アドミタンスマトリクス
Φ,Ψ 直交行列
H 正則行列Xの随伴行列
S,C 対角行列
Σ 重み対角行列
m マイクロホン信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13