(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】潤滑油組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 141/08 20060101AFI20240228BHJP
C10M 141/06 20060101ALI20240228BHJP
C10M 163/00 20060101ALI20240228BHJP
C10M 135/10 20060101ALN20240228BHJP
C10M 129/54 20060101ALN20240228BHJP
C10M 159/22 20060101ALN20240228BHJP
C10M 133/40 20060101ALN20240228BHJP
C10M 133/08 20060101ALN20240228BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240228BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240228BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240228BHJP
【FI】
C10M141/08
C10M141/06
C10M163/00
C10M135/10
C10M129/54
C10M159/22
C10M133/40
C10M133/08
C10N40:25
C10N30:00 Z
C10N10:04
(21)【出願番号】P 2020553331
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2019041046
(87)【国際公開番号】W WO2020085228
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2018198755
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大木 啓司
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149830(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 40/25
C10N 30/00
C10N 10/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)、
塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネート(B1)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレート(B2)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネート(B3)とから選択される1種以上のカルシウム系清浄剤(B)、及び
1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(C1)と、下記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)とから選択される1種以上の無灰系清浄剤(C)、を含有する、潤滑油組成物であって、
【化1】
[上記一般式(1)中、R
1は炭素数12~30の1価の脂肪族炭化水素基である。]
カルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm以上600質量ppm以下であり、
前記カルシウム系清浄剤(B)のカルシウム原子の含有量(Ca
B)に対する前記無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(N
C)の比(N
C/Ca
B)が、質量比で、1.3~3.1であ
り、
前記無灰系清浄剤(C)が前記ヒンダードアミン化合物(C1)を含有する場合、前記比(N
C
/Ca
B
)が、質量比で、1.3~2.4である、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記カルシウムサリチレート(B2)の塩基価が、5.00mgKOH/g以上600mgKOH/g以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記カルシウム系清浄剤(B)由来の炭酸カルシウムのカルシウム原子の含有量(Ca
CaCO3)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、400質量ppm以下である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(N
C)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm以上1700質量ppm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記潤滑油組成物の硫酸灰分が、0.60質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記潤滑油組成物の初期塩基価が、5.00mgKOH/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物からなり、内燃機関に用いられる、潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物からなり、ターボ機構搭載エンジンに用いられる、潤滑油組成物。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物からなり、パーティキュレートフィルターを備えるガソリンエンジン又はディーゼルエンジンに用いられる、潤滑油組成物。
【請求項10】
基油(A)、
塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネート(B1)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレート(B2)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネート(B3)とから選択される1種以上のカルシウム系清浄剤(B)、及び
1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(C1)と、下記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)とから選択される1種以上の無灰系清浄剤(C)、を含有する、潤滑油組成物の調製を行う工程を有し、
【化2】
[上記一般式(1)中、R
1は炭素数12~30の1価の脂肪族炭化水素基である。]
前記調製は下記条件(1)~(2)を満たすように行う、潤滑油組成物の製造方法。
・条件(1):カルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm以上600質量ppm以下である。
・条件(2):前記カルシウム系清浄剤(B)のカルシウム原子の含有量(Ca
B)に対する前記無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(N
C)の比(N
C/Ca
B)が、質量比で、1.3~3.1であ
り、
前記無灰系清浄剤(C)が前記ヒンダードアミン化合物(C1)を含有する場合、前記比(N
C
/Ca
B
)が、質量比で、1.3~2.4である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ターボチャージャー等の過給機を搭載した直噴ガソリンエンジン(ダウンサイジングエンジン)の開発が急ピッチで進んでいる。ガソリンエンジンの直噴化には、燃費向上のメリットがある一方で、ディーゼルエンジンと同様に排ガス中に含まれる粒子状物質(PM)等のスーツが発生するデメリットがある。そのため、排ガス浄化触媒に加えて、さらにガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)を備える排ガス処理装置を装着した直噴ガソリンエンジンが普及しつつある。
また、今後、排ガス規制がさらに強化される動きもみられる。そのため、ガソリン車全般に対して、直噴ガソリンエンジンと同様に、ガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)を備える排ガス処理装置を装着することが求められる可能性も十分に考えられる。
このような排ガス処理装置に対して、潤滑油組成物が影響を及ぼす可能性が懸念されている。具体的には、金属系清浄剤を含む潤滑油組成物を用いる場合、金属系清浄剤由来の金属分によって、前記フィルターが閉塞する可能性が懸念される。また、前記触媒の活性の低下も懸念される。そのための対策として、潤滑油組成物の低灰分化が求められている。
例えば、特許文献1には、硫酸灰分量が0.7質量%以下になるようにカルシウム系清浄剤を配合した内燃機関用の潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、潤滑油組成物には、排ガス処理装置に対する影響をさらに低減する観点から、今後、潤滑油組成物のさらなる低灰分化が求められると考えられる。また、ロングドレイン性に優れる潤滑油組成物の提供も強く求められている。
しかしながら、潤滑油組成物の低灰分化とロングドレイン性との両立は、容易ではなかった。
【0005】
本発明は、低灰分化とロングドレイン性とを両立した、潤滑油組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、特定のカルシウム系清浄剤と特定の無灰系清浄剤とを組み合わせると共に、当該特定のカルシウム系清浄剤のカルシウム原子の含有量と当該特定の無灰系清浄剤の窒素原子の含有量とを特定の比率に調整し、且つ潤滑油組成物中のカルシウム原子含有量を特定の範囲に調整することによって、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記[1]~[10]に関する。
[1] 基油(A)、
塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネート(B1)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレート(B2)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネート(B3)とから選択される1種以上のカルシウム系清浄剤(B)、及び
1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(C1)と、下記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)とから選択される1種以上の無灰系清浄剤(C)、を含有する、潤滑油組成物であって、
【化1】
[上記一般式(1)中、R
1は炭素数12~30の1価の脂肪族炭化水素基である。]
カルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm以上600質量ppm以下であり、
前記カルシウム系清浄剤(B)のカルシウム原子の含有量(Ca
B)に対する前記無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(N
C)の比(N
C/Ca
B)が、質量比で、1.3~3.1である、潤滑油組成物。
[2] 前記カルシウムサリチレート(B2)の塩基価が、5.00mgKOH/g以上600mgKOH/g以下である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記カルシウム系清浄剤(B)由来の炭酸カルシウムのカルシウム原子の含有量(Ca
CaCO3)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、400質量ppm以下である、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(N
C)が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm以上1700質量ppm以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
[5] 前記潤滑油組成物の硫酸灰分が、0.60質量%以下である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
[6] 前記潤滑油組成物の初期塩基価が、5.00mgKOH/g以上である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
[7] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物からなり、内燃機関に用いられる、潤滑油組成物。
[8] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物からなり、ターボ機構搭載エンジンに用いられる、潤滑油組成物。
[9] 上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物からなり、パーティキュレートフィルターを備えるガソリンエンジン又はディーゼルエンジンに用いられる、潤滑油組成物。
[10] 基油(A)、
塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネート(B1)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレート(B2)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネート(B3)とから選択される1種以上のカルシウム系清浄剤(B)、及び
1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(C1)と、下記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)とから選択される1種以上の無灰系清浄剤(C)、を含有する潤滑油組成物の調製を行う工程を有し、
【化2】
[上記一般式(1)中、R
1は炭素数12~30の1価の脂肪族炭化水素基である。]
前記調製は下記条件(1)~(2)を満たすように行う、潤滑油組成物の製造方法。
・条件(1):カルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm以上600質量ppm以下である。
・条件(2):前記カルシウム系清浄剤(B)のカルシウム原子の含有量(Ca
B)に対する前記無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(N
C)の比(N
C/Ca
B)が、質量比で、1.3~3.1である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低灰分化とロングドレイン性とを両立した、潤滑油組成物及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
【0010】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることができる。
同様に、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「未満」、「超」の数値もまた、任意に組み合わせることができる数値である。
【0011】
本明細書において、「ロングドレイン性」とは、長期間に亘って潤滑油組成物の劣化を抑制することにより、潤滑油組成物の交換間隔を長くできる性能のことをいう。具体的には、潤滑油組成物の初期塩基価を高めつつ塩基価維持性に優れることによって、高温清浄性が持続することをいう。
本明細書において、「塩基価維持性」とは、水及び熱に晒される内燃機関内部と同様の環境下においても、潤滑油組成物の塩基価を長期間に亘って維持する性能のことをいう。
本明細書において、「高温清浄性」とは、内燃機関内部と同様の高温環境下において、潤滑油組成物が劣化した場合であっても、潤滑油組成物中に発生したスラッジやデポジット等の汚れや堆積物の内燃機関内部への付着を防止して、ピストンやピストン周り等の潤滑経路内を清浄に保つ性能のことをいう。
【0012】
本明細書において、「清浄剤」とは、主に高温運転において劣化物の沈積を予防及び抑制する機能を有する添加剤のことをいう。
【0013】
[潤滑油組成物]
本発明の潤滑油組成物は、
基油(A)、
塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネート(B1)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレート(B2)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネート(B3)とから選択される1種以上のカルシウム系清浄剤(B)、及び
1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(C1)と、下記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)とから選択される1種以上の無灰系清浄剤(C)、を含有する、潤滑油組成物であって、
【化3】
[上記一般式(1)中、R
1は炭素数12~30の1価の脂肪族炭化水素基である。]
カルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm以上600質量ppm以下であり、
前記カルシウム系清浄剤(B)のカルシウム原子の含有量(Ca
B)に対する前記無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(N
C)の比(N
C/Ca
B)が、質量比で、1.3~3.1である、潤滑油組成物である。
【0014】
排ガス処理装置に対する影響をさらに低減する観点から、今後、潤滑油組成物のさらなる低灰分化が求められる。潤滑油組成物のさらなる低灰分化を実現する方法として、金属系清浄剤を無灰系清浄剤に変更することが挙げられる。しかし、無灰系清浄剤を含む潤滑油組成物は、一般に高温清浄性に劣る。そのため、無灰系清浄剤を用いてロングドレイン性に優れる潤滑油組成物を提供するのは容易ではない。
また、潤滑油組成物のさらなる低灰分化を実現する別の方法として、金属系清浄剤を減量することが挙げられる。しかしながら、金属系清浄剤を含む潤滑油組成物は、金属系清浄剤を減量すると、初期塩基価を十分に高くできないことがある。また、塩基価維持性に劣り、高温清浄性に劣ることもある。そのため、金属系清浄剤を減量してロングドレイン性に優れる潤滑油組成物を提供するのも容易ではない。
これらの理由により、金属系清浄剤と無灰系清浄剤とを組み合わせて潤滑油組成物を低灰分化したとしても、ロングドレイン性に優れる潤滑油組成物を提供することは容易ではないと考えられた。
かかる状況に対し、本発明者は、低灰分化とロングドレイン性とを両立した潤滑油組成物を提供すべく、鋭意検討を行った。その結果、無灰系清浄剤の中でも初期塩基価の高いアミン系化合物群を見出し、これらのうちの特定のアミン系化合物と特定のカルシウム系清浄剤とを、特定の比率で組み合わせることによって、潤滑油組成物のカルシウム原子含有量が低い場合であっても、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0015】
なお、本明細書において、以降の説明では、「基油(A)」、「カルシウム系清浄剤(B)」、及び「無灰系清浄剤(C)」を、それぞれ「成分(A)」、「成分(B)」、及び「成分(C)」ともいう。
【0016】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
【0017】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計含有量の上限値は、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)以外の潤滑油用添加剤の含有量との関係で調整すればよく、好ましくは90質量%以下、より好ましくは89質量%以下、更に好ましくは88質量%以下である。
以下、本発明の潤滑油組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0018】
<基油(A)>
本発明の潤滑油組成物は、基油(A)を含む。
本発明の潤滑油組成物が含有する基油(A)としては、従来、潤滑油の基油として用いられている鉱油及び合成油から選択される1種以上を、特に制限なく使用することができる。
【0019】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、又はナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油;等が挙げられる。
【0020】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体及びα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリオールエステル及び二塩基酸エステル等の各種エステル;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(ガストゥリキッド(GTL)ワックス)を異性化することで得られるGTL基油等が挙げられる。
【0021】
本発明の一態様で用いる基油(A)は、米国石油協会(API)の基油カテゴリーにおけるグループ2、3又は4に分類される基油が好ましく、グループ2又は3に分類される基油がより好ましい。
【0022】
基油(A)は、鉱油を単独で又は複数種組み合わせて用いてもよいし、合成油を単独で又は複数種組み合わせて用いてもよい。また、1種以上の鉱油と1種以上の合成油とを組み合わせて用いてもよい。
【0023】
基油(A)の100℃における動粘度は、好ましくは2.0~15.0mm2/s、より好ましくは2.5~10.0mm2/s、更に好ましくは3.0~8.0mm2/sである。
基油(A)の100℃における動粘度が2.0mm2/s以上であると、蒸発損失を抑制しやすい。
基油(A)の100℃における動粘度が15.0mm2/s以下であると、粘性抵抗による動力損失を抑えることができ、燃費改善効果が得られやすい。
【0024】
基油(A)の粘度指数は、温度変化による粘度変化を抑えると共に、省燃費性を向上させる観点から、好ましくは80以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは120以上である。
【0025】
本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出された値を意味する。
また、本発明の一態様において、基油(A)が2種以上の基油を含有する混合基油である場合、当該混合基油の動粘度及び粘度指数が上記範囲内であることが好ましい。
【0026】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量は、潤滑油組成物の全量(100質量%基準)で、90質量%以下であることが好ましい。基油(A)の含有量を90質量%以下とすることによって、カルシウム系清浄剤(B)及び無灰系清浄剤(C)の使用量を十分に確保することができ、カルシウム系清浄剤(B)及び無灰系清浄剤(C)の併用により奏されるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくできる。
なお、基油(A)の含有量は、本発明の効果をより向上させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは60~90質量%であり、より好ましくは70~87質量%であり、更に好ましくは75~85質量%である。
【0027】
<カルシウム系清浄剤(B)>
本発明の潤滑油組成物は、カルシウム系清浄剤(B)を含む。
本発明の潤滑油組成物が含有するカルシウム系清浄剤(B)は、塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネート(B1)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレート(B2)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネート(B3)とから選択される1種以上である。
以降の説明では、塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネート(B1)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレート(B2)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネート(B3)とを、それぞれ「成分(B1)」、「成分(B2)」、及び「成分(B3)」ともいう。
以下、成分(B1)、成分(B2)、及び成分(B3)について、詳述する。
なお、本明細書において、「炭化水素基」とは、炭素原子及び水素原子のみから構成されている基を意味する。
【0028】
(成分(B1):カルシウムスルホネート)
成分(B1)は、塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネートである。
塩基価が上記範囲にある中性塩のカルシウムスルホネートを用いることで、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果が奏される。
成分(B1)の塩基価が5.00mgKOH/g未満であると、潤滑油組成物の初期塩基価を十分に高めることができない。また、成分(B1)の塩基価が100mgKOH/g超であると、高温清浄性に劣る潤滑油組成物となる。
ここで、本発明の一態様において、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果を発揮させやすくする観点から、成分(B1)の塩基価は、好ましくは5.00mgKOH/g以上80.0mgKOH/g以下であり、より好ましくは5.00mgKOH/g以上60.0mgKOH/g以下であり、更に好ましくは5.00mgKOH/g以上40.0mgKOH/g以下であり、より更に好ましくは5.00mgKOH/g以上20.0mgKOH/g以下であり、更になお好ましくは10.0mgKOH/g以上20.0mgKOH/g以下である。
【0029】
なお、本明細書において、カルシウム系清浄剤(B)の塩基価は、JIS K2501:2003の9に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定した値である。
【0030】
ここで、本発明の一態様において、成分(B1)は、無灰系清浄剤(C)との併用によるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくする観点から、下記一般式(B1-1)で表されるカルシウムスルホネートであることが好ましい。
【0031】
【0032】
上記一般式(B1-1)中、2つのRB1は、それぞれ独立して、1価の非環式炭化水素基を示す。
当該1価の非環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~26、より好ましくは7~24、更に好ましくは10~22である。
当該1価の非環式炭化水素基は、飽和非環式炭化水素基であっても不飽和非環式炭化水素基であってもよい。
当該飽和非環式炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、また、当該不飽和非環式炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基であることが好ましい。
当該1価の非環式炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましい。
当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは3~26、より好ましくは7~24、更に好ましくは10~22である。
当該アルキル基の具体例としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、及びヘキサコシル基が挙げられる。これらは直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
当該アルケニル基の具体例としては、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、及びヘキサコセニル基が挙げられる。これらは直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
成分(B1)は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(成分(B2):カルシウムサリチレート)
成分(B2)は、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレートである。
分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレートを用いることで、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果が奏される。
【0034】
ここで、本発明の一態様において、成分(B2)は、無灰系清浄剤(C)との併用によるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくする観点から、下記一般式(B2-1)で表されるカルシウムサリチレートであることが好ましい。
【0035】
【0036】
上記一般式(B2-1)中、2つのRB2は、それぞれ独立に、1価の非環式炭化水素基を示す。但し、2つのRB2のうち、少なくとも一方は、分岐鎖状の1価の非環式炭化水素基を示す。
当該1価の非環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~26、より好ましくは5~24、更に好ましくは8~20、より更に好ましくは10~18である。
ここで、2つのRB2は、少なくとも一方が分岐鎖状の1価の非環式炭化水素基であればよいが、双方が分岐鎖状の1価の非環式炭化水素基であることが好ましい。また、当該1価の非環式炭化水素基は、飽和非環式炭化水素基であっても不飽和非環式炭化水素基であってもよいが、飽和非環式炭化水素基であることが好ましい。
本発明の一態様において、2つのRB2は、一方が分岐鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルケニル基であり、他方が直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基であることが好ましく、双方が分岐鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルケニル基であることがより好ましく、双方が分岐鎖状のアルキル基であることが更に好ましい。
当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは3~26、より好ましくは5~24、更に好ましくは8~20、より更に好ましくは10~18である。
当該アルキル基又はアルケニル基の具体例としては、上記一般式(B1-1)のRB1として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0037】
ここで、本発明の一態様において、成分(B2)は、中性塩、塩基性塩、及び過塩基性塩のいずれであってもよく、塩基価は特に限定されないが、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果を発揮させやすくする観点から、好ましくは5.00mgKOH/g以上600mgKOH/g以下、より好ましくは10.0mgKOH/g以上500mgKOH/g以下、更に好ましくは20.0mgKOH/g以上400mgKOH/g以下、より更に好ましくは30.0mgKOH/g以上350mgKOH/g以下、更になお好ましくは40.0mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である。
ここで、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくする観点から、成分(B2)は中性塩又は過塩基性塩であることが好ましく、中性塩であることがより好ましい。
なお、本明細書において、過塩基性塩とは、塩基価が200mgKOH/g以上のものを意味し、中性塩とは、塩基価が100mgKOH/g以下のものを意味する。また、塩基性塩とは、塩基価が100mgKOH/g超200mgKOH/g未満のものを意味する。
成分(B2)が過塩基性塩である場合、成分(B2)の塩基価は、具体的には、200mgKOH/g以上600mgKOH/g以下であることが好ましく、200mgKOH/g以上500mgKOH/g以下であることがより好ましく、200mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であることが更に好ましく、200mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることがより更に好ましく、200mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが更になお好ましい。
成分(B2)が中性塩である場合、成分(B2)の塩基価は、具体的には、5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましく、10.0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることがより好ましく、20.0mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが更に好ましく、30.0mgKOH/g以上90.0mgKOH/g以下であることがより更に好ましく、40.0mgKOH/g以上80.0mgKOH/g以下であることが更になお好ましい。
成分(B2)は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
(成分(B3):カルシウムフェネート)
成分(B3)は、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネートである。
分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネートを用いることで、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果が奏される。
ここで、本発明の一態様において、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくする観点から、成分(B3)の塩基価は、好ましくは200mgKOH/g以上450mgKOH/g以下であり、より好ましくは210mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であり、更に好ましくは220mgKOH/g以上300mgKOH/g以下、より更に好ましくは220mgKOH/g以上280mgKOH/g以下である。
【0039】
ここで、本発明の一態様において、成分(B3)は、無灰系清浄剤(C)との併用によるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくする観点から、下記一般式(B3-1)で表されるカルシウムフェネートであることが好ましい。
【0040】
【0041】
上記一般式(B3-1)中、RB3a及びRB3bは、それぞれ独立に、1価の非環式炭化水素基を示す。但し、RB3a及びRB3bのうち、少なくとも一方は、分岐鎖状の1価の非環式炭化水素基を示す。
qは、0以上の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
当該分岐鎖状の非環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~26、より好ましくは5~24、更に好ましくは8~20、より更に好ましくは10~16である。
ここで、RB3a及びRB3bは、少なくとも一方が分岐鎖状の1価の非環式炭化水素基であればよいが、双方が分岐鎖状の1価の非環式炭化水素基であることが好ましい。また、当該1価の非環式炭化水素基は、飽和非環式炭化水素基であっても不飽和非環式炭化水素基であってもよいが、飽和非環式炭化水素基であることが好ましい。
本発明の一態様において、RB3a及びRB3bは、一方が分岐鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルケニル基であり、他方が直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基であることが好ましく、双方が分岐鎖状のアルキル基又は分岐鎖状のアルケニル基であることがより好ましく、双方が分岐鎖状のアルキル基であることが更に好ましい。
当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは3~26、より好ましくは5~24、更に好ましくは8~20、より更に好ましくは10~16である。
当該アルキル基又はアルケニル基の具体例としては、上記一般式(B1-1)のRB1として挙げたものと同様のものが挙げられる。
成分(B3)は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(成分(B)として好ましい成分)
本発明の一態様において、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性をより向上させる観点から、成分(B)は、成分(B1)、成分(B2)のうち塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムサリチレート、及び成分(B3)から選択される1種以上であることが好ましく、成分(B1)、及び成分(B2)のうち塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムサリチレートから選択される1種以上であることがより好ましい。
【0043】
(成分(B)由来の炭酸カルシウムのカルシウム原子の含有量(CaCaCO3))
本発明の一態様において、成分(B)由来の炭酸カルシウムのカルシウム原子の含有量(CaCaCO3)は特に限定されないが、塩基価維持性及び高温清浄性により優れる潤滑油組成物とする観点から、潤滑油組成物の全量基準で400質量ppm以下であることが好ましい。
なお、当該炭酸カルシウムは、成分(B)を生成する際、合成環境下に存在する二酸化炭素又は合成環境下に吹き込まれた二酸化炭素と、カルシウムとが反応することにより生じる化合物である。
また、塩基価維持性をより向上させる観点から、成分(B)由来の炭酸カルシウムのカルシウム原子の含有量(CaCaCO3)は、より好ましくは350質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下、より更に好ましくは250質量ppm以下、更になお好ましくは200質量ppm以下である。
また、通常、50質量ppm以上である。
【0044】
(成分(B)のカルシウム原子の含有量(CaB))
本発明の一態様において、成分(B)のカルシウム原子の含有量(CaB)は特に限定されないが、低灰分化とロングドレイン性とを両立した潤滑油組成物を得やすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは90~590質量ppm、より好ましくは150~580質量ppm、更に好ましくは200~570質量ppm、より更に好ましくは250~560質量ppm、更になお好ましくは300~550質量ppmである。
【0045】
(成分(B)の含有量)
本発明の一態様において、成分(B)の含有量は、成分(B)のカルシウム原子の含有量が上記範囲に属するように調整されることが好ましい。具体的には、低灰分化とロングドレイン性とを両立した潤滑油組成物を得やすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.100~3.00質量%、より好ましくは0.150~2.80質量%、更に好ましくは0.200~2.60質量%、より更に好ましくは0.250~2.40質量%である。
【0046】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(B)以外の他の金属系清浄剤を含有していてもよいが、成分(B)以外の他の金属系清浄剤の含有量は少ないことが好ましい。
当該他の金属系清浄剤としては、例えば、上記成分(B1)以外のカルシウムスルホネート、上記成分(B2)以外のカルシウムサリチレート、上記成分(B3)以外のカルシウムフェネート、及びカルシウム以外の金属原子を含む金属系清浄剤から選択される1種以上が挙げられる。
具体的には、上記成分(B1)以外のカルシウムスルホネートとしては、例えば、塩基価が100mgKOH/g超のカルシウムスルホネートが挙げられる。
上記成分(B2)以外のカルシウムサリチレートとしては、例えば、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有しないカルシウムサリチレートが挙げられる。
上記成分(B3)以外のカルシウムフェネートとしては、例えば、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する中性又は塩基性のカルシウムフェネートが挙げられる。 カルシウム以外の金属原子を含む金属系清浄剤とは、例えば、ナトリウム、マグネシウム、及びバリウムから選択される1種以上の金属原子を含む金属系清浄剤が挙げられる。
本発明の一態様において、成分(B)以外の他の金属系清浄剤の含有量は、無灰系清浄剤(C)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくする観点から、成分(B)の全量100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは5質量部未満、更に好ましくは1質量部未満であり、成分(B)以外の他の金属系清浄剤を含有していないことがより更に好ましい。
【0047】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物中の成分(B)における、成分(B1)、成分(B2)、及び成分(B3)から選択される1種以上のカルシウム系清浄剤の含有量は、成分(B)の全量基準で、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%、更になお好ましくは99~100質量%である。
【0048】
<無灰系清浄剤(C)>
本発明の潤滑油組成物は、無灰系清浄剤(C)を含む。
本発明の潤滑油組成物が含有する無灰系清浄剤(C)は、1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(C1)及び下記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)から選択される1種以上である。
【化7】
[上記一般式(1)中、R
1は炭素数12~30の1価の脂肪族炭化水素基である。]
以降の説明では、1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(C1)及び上記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)を、それぞれ「成分(C1)」及び「成分(C2)」ともいう。
以下、成分(C1)及び成分(C2)について、詳述する。
【0049】
(成分(C1):ヒンダードアミン化合物)
成分(C1)は、1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物である。
1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物を用いることで、カルシウム系清浄剤(B)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果が奏される。
1分子内にピペリジン誘導骨格を2つ以上有するヒンダードアミン化合物を用いると、カルシウム系清浄剤(B)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果が奏されない。
【0050】
ここで、本発明の一態様において、成分(C1)は、カルシウム系清浄剤(B)との併用によるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくする観点から、下記一般式(C1-1)及び下記一般式(C1-2)で表されるヒンダードアミン化合物から選択される1種以上であることが好ましい。
【化8】
【0051】
上記一般式(C1-1)及び(C1-2)中、RC1aは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
上記一般式(C1-1)中、RC1bは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、環形成炭素数6~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、水酸基、又は-O-CO-R’で表される基(R’は、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基)である。
上記一般式(C1-2)中、R’は、水素原子又は炭素数1~20のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~20のアルキル基であり、より好ましくは炭素数5~15のアルキル基である。
成分(C1)は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(成分(C2):ジエタノールアミン化合物)
成分(C2)は、下記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物である。
当該ジエタノールアミン化合物を用いることで、カルシウム系清浄剤(B)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果が奏される。
なお、ジエタノールアミン化合物と類似の構造を有するアミン化合物、例えばモノアルカノールアミンを用いても、カルシウム系清浄剤(B)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果が奏されない。
【化9】
【0053】
上記一般式(1)中、R1は炭素数12~30の1価の脂肪族炭化水素基である。
R1の炭素数12~30の脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数12~30の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基又は炭素数12~30の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基が好ましく挙げられる。これらの基の炭素数は、より好ましくは12~24、更に好ましくは16~20である。
R1が上記炭素数の脂肪族炭化水素基であると、カルシウム系清浄剤(B)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果が奏される。
【0054】
例えば、炭素数12~30の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、n-ドデシル基、イソドデシル基、sec-ドデシル基、tert-ドデシル基、及びネオドデシル基等の各種ドデシル基(以下、直鎖状、分岐鎖状、及びこれらの異性体までを含めた所定炭素数を有する官能基のことを「各種官能基」と略記することがある。)、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、各種オクタデシル基、各種ノナデシル基、各種イコシル基、各種ヘンイコシル基、各種ドコシル基、各種トリコシル基、各種テトラコシル基、各種ペンタコシル基、各種ヘキサコシル基、各種ヘプタコシル基、各種オクタコシル基、各種ノナコシル基、及び各種トリアコンチル基が挙げられる。
また、炭素数12~30の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基としては、各種ドデセニル基、各種トリデセニル基、各種テトラデセニル基、各種ペンタデセニル基、各種ヘキサデセニル基、各種ヘプタデセニル基、各種オクタデセニル基、各種ノナデセニル基、各種イコセニル基、各種ヘンイコセニル基、各種ドコセニル基、各種トリコセニル基、各種テトラコセニル基、各種ペンタコセニル基、各種ヘキサコセニル基、各種ヘプタコセニル基、各種オクタコセニル基、各種ノナコセニル基、及び各種トリアコンチニル基が挙げられる。
なかでも、ロングドレイン性の向上効果を考慮すると、炭素数16~18のアルキル基である各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、及び各種オクタデシル基、炭素数16~18のアルケニル基である各種ヘキサデセニル基、各種ヘプタデセニル基、及び各種オクタデセニル基が好ましく、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種オクタデセニル基がより好ましく、n-ヘキサデシル基(パルミチル基)、n-オクタデシル基(ステアリル基)、n-オクタデセニル基(オレイル基)が更に好ましい。
【0055】
上記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)の特に好ましい具体的な化合物としては、ステアリルジエタノールアミン(一般式(1)中、R1がn-オクタデシル基(ステアリル基)である。)、オレイルジエタノールアミン(一般式(1)中、R1がn-オクタデセニル基(オレイル基)である。)、及びパルミチルジエタノールアミン(一般式(1)中、R1がn-ヘキサデシル基(パルミチル基)である。)から選択される1種以上が挙げられる。
成分(C2)は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
(成分(C)として好ましい成分)
本発明の一態様において、カルシウム系清浄剤(B)との組み合わせによるロングドレイン性をより向上させる観点から、成分(C)は、成分(C1)から選択される1種以上であることが好ましい。
【0057】
(成分(C)の窒素原子の含有量(NC))
本発明の一態様において、成分(C)の窒素原子の含有量(NC)は特に限定されないが、低灰分化とロングドレイン性とを両立した潤滑油組成物を得やすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは100~1700質量ppm、より好ましくは400~1600質量ppm、更に好ましくは600~1400質量ppm、より更に好ましくは600~1300質量ppmである。
【0058】
(成分(C)の含有量)
本発明の一態様において、成分(C)の含有量は、成分(C)の窒素原子の含有量が上記範囲に属するように調整されることが好ましい。具体的には、低灰分化とロングドレイン性とを両立した潤滑油組成物を得やすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは1.00~5.00質量%、より好ましくは1.50~4.50質量%、更に好ましくは2.00~4.00質量%である。
【0059】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(C)以外の他の無灰系清浄剤を含有していてもよいが、成分(C)以外の他の無灰系清浄剤の含有量は少ないことが好ましい。
当該他の無灰系清浄剤としては、例えば、上記成分(C1)以外のヒンダードアミン化合物、すなわち、ピペリジン誘導骨格を2つ以上有する化合物が挙げられる。また、上記成分(C2)以外のアルカノールアミンが挙げられる。
本発明の一態様において、成分(C)以外の他の無灰系清浄剤の含有量は、カルシウム系清浄剤(B)との組み合わせによるロングドレイン性の向上効果をより発揮させやすくする観点から、成分(C)の全量100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは5質量部未満、更に好ましくは1質量部未満であり、成分(C)以外の他の無灰系清浄剤を含有していないことがより更に好ましい。
【0060】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物中の成分(C)における、成分(C1)及び成分(C2)から選択される1種以上の無灰系清浄剤の含有量は、成分(C)の全量基準で、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%、更になお好ましくは99~100質量%である。
【0061】
<カルシウム系清浄剤(B)と無灰系清浄剤(C)との比>
本発明の潤滑油組成物は、カルシウム系清浄剤(B)のカルシウム原子の含有量(CaB)に対する無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(NC)の比(NC/CaB)が、質量比で、1.3~3.1である。
NC/CaBが、1.3未満であると、潤滑油組成物の塩基価維持性が劣る。
NC/CaBが、3.1超であると、潤滑油組成物の高温清浄性が劣る。
ここで、本発明の一態様において、ロングドレイン性により優れる潤滑油組成物を得る観点から、NC/CaBは、好ましくは1.4~3.1、より好ましくは1.6~3.1、更に好ましくは1.7~3.1、より更に好ましくは1.8~3.0、更になお好ましくは1.9~2.9、一層好ましくは2.0~2.8、より一層好ましくは2.1~2.7である。
また、無灰系清浄剤(C)がヒンダードアミン化合物(C1)である場合、ロングドレイン性により優れる潤滑油組成物を得る観点から、NC/CaBは、好ましくは1.4~3.1、より好ましくは1.6~3.0、更に好ましくは1.8~2.9、より更に好ましくは1.8~2.8、更になお好ましくは1.8~2.7である。
また、無灰系清浄剤(C)がジエタノールアミン化合物(C2)である場合、ロングドレイン性により優れる潤滑油組成物を得る観点から、NC/CaBは、好ましくは1.4~3.1、より好ましくは1.8~3.1、更に好ましくは1.9~3.1、より更に好ましくは2.0~3.1、更になお好ましくは2.1~3.0である。
【0062】
<他の潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分(B)及び成分(C)には該当しない、他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
他の潤滑油用添加剤としては、例えば、耐摩耗剤、極圧剤、金属系摩擦調整剤、酸化防止剤、無灰系分散剤、無灰系摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、消泡剤、金属不活性化剤、及び抗乳化剤等が挙げられる。
これらの各潤滑油用添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
これらの潤滑油用添加剤の各含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~8質量%、更に好ましくは0.1~6質量%である。
【0064】
なお、本明細書において、粘度指数向上剤や消泡剤等の添加剤は、ハンドリング性や基油(A)への溶解性を考慮し、上述の基油(A)の一部に希釈し溶解させた溶液の形態で、他の成分と配合してもよい。このような場合、本明細書においては、消泡剤や粘度指数向上剤等の添加剤の上述の含有量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量を意味する。
【0065】
(耐摩耗剤、極圧剤)
耐摩耗剤又は極圧剤としては、例えば、リン酸亜鉛;ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、及びポリサルファイド類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等の硫黄及びリン含有化合物が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ここで、本発明の一態様において、耐摩耗剤又は極圧剤は、ジチオリン酸亜鉛であることが好ましい。
【0066】
(ジチオリン酸亜鉛)
ジチオリン酸亜鉛としては、下記一般式(D-1)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
【化10】
(式中、R
D1~R
D4は、それぞれ独立に、炭素数1~24の炭化水素基を示す。)
【0068】
RD1~RD4が示す炭化水素基としては、炭素数1~24の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、炭素数3~24の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基、炭素数5~13のシクロアルキル基又は直鎖状もしくは分岐鎖状アルキルシクロアルキル基、炭素数6~18のアリール基又は直鎖状又は分岐鎖状アルキルアリール基、及び炭素数7~19のアリールアルキル基等が挙げられ、これらの中でも、炭素数1~24の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が好ましく、炭素数1~24の分岐鎖状アルキル基がより好ましい。該分岐鎖状アルキル基の炭素数は、好ましくは2~12、より好ましくは4~10である。炭素数1~24の分岐鎖状アルキル基としては、例えば、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、iso-ペンチル基、tert-ペンチル基、iso-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、iso-ノニル基、iso-デシル基、iso-トリデシル基、iso-ステアリル基、iso-イコシル基等が挙げられ、これらの中でも、2-エチルヘキシル基が好ましい。
ジチオリン酸亜鉛として、具体的にはジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましく、中でも第2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛がより好ましい。
ジチオリン酸亜鉛は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
本発明の一態様において、ジチオリン酸亜鉛に由来するリン原子の含有量は、排ガス浄化触媒の被毒を抑制する観点から、好ましくは700質量ppm未満、より好ましくは650質量ppm未満、更に好ましくは620質量ppm未満であり、また、耐摩耗性向上の観点からは、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは400質量ppm以上である。
【0070】
本発明の一態様において、ジチオリン酸亜鉛の含有量は、ジチオリン酸亜鉛のリン原子の含有量が上記範囲に属するように調整されることが好ましく、具体的には、排ガス浄化触媒の被毒を抑制する観点から、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは1.5質量%未満、より好ましくは1.4質量%未満、更に好ましくは1.3質量%未満、より更に好ましくは1.2質量%未満であり、また、耐摩耗性向上の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0071】
(金属系摩擦調整剤)
金属系摩擦調整剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、モリブテン酸のアミン塩等の有機モリブデン系化合物が挙げられる。これらの中でも、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)及びジチオリン酸モリブデン(MoDTP)から選ばれる1種以上が好ましく、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)がより好ましい。
【0072】
(ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC))
ジチオカルバミン酸モリブデンとしては、例えば、一分子中に2つのモリブデン原子を含む二核のジチオカルバミン酸モリブデン、及び、一分子中に3つのモリブデン原子を含む三核のジチオカルバミン酸モリブデンが挙げられる。
なお、本発明において、ジチオカルバミン酸モリブデンは、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0073】
二核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、下記一般式(E1-1)で表される化合物、及び、下記一般式(E1-2)で表される化合物であることが好ましい。
【0074】
【0075】
上記一般式(E1-1)及び(E1-2)中、R11~R14は、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
X11~X18は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、式(E1-1)中のX11~X18の少なくとも二つは硫黄原子である。
なお、本発明の一態様においては、式(E1-1)中のX11及びX12が酸素原子であり、X13~X18が硫黄原子であることが好ましい。
【0076】
上記一般式(E1-1)において、基油(A)に対する溶解性を向上させる観点から、X11~X18中の硫黄原子と酸素原子とのモル比〔硫黄原子/酸素原子〕が、好ましくは1/4~4/1、より好ましくは1/3~3/1である。
【0077】
また、式(E1-2)中のX11~X14が酸素原子であることが好ましい。
【0078】
R11~R14として選択し得る炭化水素基の炭素数は、好ましくは7~22、より好ましくは7~18、更に好ましくは7~14、より更に好ましくは8~13である。
【0079】
上記一般式(E1-1)及び(E1-2)中のR11~R14として選択し得る、当該炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。
当該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
当該アルケニル基としては、例えば、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基等が挙げられる。
当該シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
当該アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられる。
当該アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、メチルベンジル基、ジメチルナフチル基等が挙げられる。
当該アリールアルキル基としては、例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0080】
三核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、下記一般式(E1-3)で表される化合物であることが好ましい。
Mo3SkEmLnApQz (E1-3)
【0081】
前記一般式(E1-3)中、kは1以上の整数、mは0以上の整数であり、k+mは4~10の整数であり、4~7の整数であることが好ましい。nは1~4の整数、pは0以上の整数である。zは0~5の整数であって、非化学量論の値を含む。
Eは、それぞれ独立に、酸素原子又はセレン原子であり、例えば、後述するコアにおいて硫黄を置換し得るものである。
Lは、それぞれ独立に、炭素原子を含有する有機基を有するアニオン性リガンドであり、各リガンドにおける該有機基の炭素原子の合計が14個以上であり、各リガンドは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
Aは、それぞれ独立に、L以外のアニオンである。
Qは、それぞれ独立に、中性電子を供与する化合物であり、三核モリブデン化合物上における空の配位を満たすために存在する。
【0082】
本発明の一態様において、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)中のモリブデン原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは200~1,000質量ppm、より好ましくは300~950質量ppm、更に好ましくは350~900質量ppm、より更に好ましくは400~800質量ppmである。モリブデン含有量が上記範囲であることで、優れた摩擦低減効果が得られる。優れた摩擦低減効果を有することは、省燃費性能の観点からも好ましい。
【0083】
本発明の一態様において、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)の含有量は、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)のモリブデン原子の含有量が上記範囲に属するように調整されることが好ましく、具体的には、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.20~1.0質量%、より好ましくは0.30~0.95質量%、更に好ましくは0.35~0.90質量%、より更に好ましくは0.40~0.80質量%である。
【0084】
(ジチオリン酸モリブデン(MoDTP))
ジチオリン酸モリブデンとしては、下記一般式(E2-1)で表される化合物、及び、下記一般式(E2-2)で表される化合物が好ましい。
なお、本発明において、ジチオリン酸モリブデンは、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0085】
【0086】
上記一般式(E2-1)及び(E2-2)中、R21~R24は、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
X21~X28は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、式(E2-1)中のX21~X28の少なくとも二つは硫黄原子である。
なお、本発明の一態様においては、上記一般式(E2-1)中、X21及びX22が酸素原子であり、X23~X28が硫黄原子であることが好ましい。
【0087】
上記一般式(E2-1)において、基油(A)に対する溶解性を向上させる観点から、X21~X28中の硫黄原子と酸素原子とのモル比〔硫黄原子/酸素原子〕が、好ましくは1/4~4/1、より好ましくは1/3~3/1である。
【0088】
また、上記一般式(E2-2)中、X21及びX22が酸素原子であり、X23及びX24が硫黄原子であることが好ましい。
上記一般式(E2-2)において、上記と同様の観点から、X21~X24中の硫黄原子と酸素原子とのモル比〔硫黄原子/酸素原子〕が、好ましくは1/3~3/1、より好ましくは1.5/2.5~2.5/1.5である。
【0089】
R21~R24として選択し得る炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは5~18、更に好ましくは5~16、より更に好ましくは5~12である。
R21~R24として選択し得る具体的な当該炭化水素基としては、上述の一般式(E1-1)又は(E1-2)中のR11~R14として選択し得る炭化水素基と同じものが挙げられる。
【0090】
本発明の一態様において、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)に由来するモリブデン原子の含有量は、初期塩基価の高い潤滑油組成物とする観点、及びリンによる排ガス浄化触媒の被毒を抑制する観点から少ない方がよく、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは900質量ppm以下、更に好ましくは800質量ppm以下、より更に好ましくは700質量ppm以下である。
また、摩擦低減効果を向上させる観点からは、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは400質量ppm以上である。但し、チオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)のみで摩擦低減効果を十分に発揮させることができる場合、本発明の一態様の潤滑油組成物は、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)を含有せずともよい。
【0091】
本発明の一態様において、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)の含有量は、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)のモリブデン原子の含有量が上記範囲に属するように調整されることが好ましく、具体的には、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下、より更に好ましくは0.9質量%以下、更になお好ましくは0.8質量%以下である。また、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。但し、上記のように、チオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)のみで摩擦低減効果を十分に発揮させることができる場合、本発明の一態様の潤滑油組成物は、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)を含有せずともよい。
【0092】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、モリブデン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤等が挙げられる。
これらの中でも、GPFの閉塞の抑制及び排ガス浄化触媒の被毒の抑制の観点から、金属及びリンを含まない、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤を用いることが好ましく、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤を用いることがより好ましい。また、アミン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを併用することが更に好ましい。アミン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを併用することで、フェノール系酸化防止剤は主として酸化の初期に対してより効果的に作用し、アミン系酸化防止剤と併用することで、相乗効果によって、各々を単独で使用する場合よりも、より長い期間、酸化安定性及び摩擦低減効果を保つことが可能となる。
アミン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、アミン系酸化防止剤(X)とフェノール系酸化防止剤(Y)との含有量比(X/Y)は、質量比で、好ましくは1/5~20/5、より好ましくは3/5~17/5、更に好ましくは5/5~15/5である。
【0093】
(アミン系酸化防止剤)
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有するモノアルキルジフェニルアミン若しくは炭素数3~20のアルキル基を有するジアルキルジフェニルアミン等のジフェニルアミン系のもの;α-ナフチルアミン、炭素数3~20のアルキル置換フェニル-α-ナフチルアミンなどのナフチルアミン系のものが挙げられる。具体的には、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系;ジブチルジフェニルアミン、ジペンチルジフェニルアミン、ジヘキシルジフェニルアミン、ジヘプチルジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系;及びα-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、更にはブチルフェニル-α-ナフチルアミン、ペンチルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘプチルフェニル-α-ナフチルアミン、オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、ノニルフェニル-α-ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン;等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-アミル-p-クレゾール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、及びオクチル-3-(3-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
(無灰系分散剤)
無灰系分散剤としては、ホウ素非含有コハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類などが挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、ホウ素非含有コハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類を用いることが好ましく、ホウ素非含有コハク酸イミド類とホウ素含有コハク酸イミド類とを併用することがより好ましい。
【0096】
(無灰系摩擦調整剤)
無灰系摩擦調整剤としては、例えば、炭素数6~30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6~30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸アミン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、及び脂肪酸エーテル等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0097】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの粘度指数向上剤の質量平均分子量(Mw)としては、通常500~1,000,000、好ましくは5,000~100,000、より好ましくは10,000~50,000であるが、重合体の種類に応じて適宜設定される。
本明細書において、各成分の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0098】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
(抗乳化剤)
抗乳化剤としては、例えば、ひまし油の硫酸エステル塩、石油スルフォン酸塩等のアニオン性界面活性剤;第四級アンモニウム塩、イミダゾリン類等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシアルキレンポリグリコール及びそのジカルボン酸のエステル;アルキルフェノール-ホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物;等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
[潤滑油組成物の特性]
<カルシウム原子含有量>
本発明の潤滑油組成物は、カルシウム原子含有量が、100質量ppm以上600質量ppm以下である。本発明の潤滑油組成物は、このようにカルシウム原子含有量が少ないにもかかわらず、高温清浄性に優れる。また、初期塩基価も高く、塩基価維持性にも優れる。したがって、低灰分であると共に、ロングドレイン性に優れる。しかも、カルシウム原子含有量が少ないことから、排ガス処理装置におけるガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)の閉塞が抑制される。
【0104】
<硫酸灰分>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、硫酸灰分が、好ましくは0.60質量%以下、より好ましくは0.58質量%以下、更に好ましくは0.56質量%以下、より更に好ましくは0.54質量%以下、更になお好ましくは0.52質量%以下である。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、このように硫酸灰分が少ないにもかかわらず、高温清浄性に優れる。また、硫酸灰分が少ないことから、排ガス処理装置におけるガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)の閉塞、さらには排ガス浄化触媒の活性の低下が抑制される。
本明細書において、硫酸灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された値を意味する。
【0105】
<動粘度>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、100℃における動粘度が、好ましくは6.0~10mm2/s、より好ましくは6.0~9.5mm2/s、更に好ましくは6.5~9.0mm2/sである。
【0106】
<粘度指数>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、粘度指数が、好ましくは180~230、より好ましくは185~225、更に好ましくは190~220である。
【0107】
<初期塩基価>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、高い初期塩基価を有する。具体的には、初期塩基価が、好ましくは5.00mgKOH/g以上、より好ましくは5.20mgKOH/g以上、更に好ましくは5.40mgKOH/g以上である。また、好ましくは8.00mgKOH/g以下である。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、初期塩基価が高く、塩基価維持性にも優れるため、長期に亘って高い塩基価を確保することができ、ロングドレイン性を良好なものとし易い。
初期塩基価は、後述する実施例に記載の方法で測定される値である。
【0108】
<水に晒した際の塩基価維持性>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、水に晒した際の塩基価維持性に優れる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で実施した耐水性試験後の塩基価維持率が、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、より更に好ましくは85%以上である。
【0109】
<熱に晒した際の塩基価維持性>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、熱に晒した際の塩基価維持性に優れる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で実施した耐熱性試験の塩基価維持率が、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上、更に好ましくは50%以上、より更に好ましくは55%以上、更になお好ましくは60%以上、一層好ましくは65%以上である。
【0110】
<高温清浄性>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、高温清浄性に優れる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で実施したホットチューブ試験の評点が、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上である。
【0111】
[潤滑油組成物の用途]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、二輪車、四輪車等の自動車、発電機、船舶等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の潤滑油組成物として好ましく使用することができ、低灰分であるため、特に、パーティキュレートフィルターを備える排ガス処理装置を装着した内燃機関(例えば、スーパーチャージャー、ターボチャージャーなどの過給機を搭載した直噴ガソリンエンジン、すなわち、ダウンサイジングエンジン)用、及びディーゼルエンジン用に好適である。また、将来の排ガス規制の強化にも十分に対応することができる潤滑油組成物である。
そして、上記本発明の一態様の潤滑油組成物は、これらの内燃機関、特に、ターボ機構搭載エンジン、パーティキュレートフィルターを備える排ガス処理装置を装着したガソリンエンジンやディーゼルエンジンに充填して、これら内燃機関に係る各部品を潤滑するために好適に用いられる。
したがって、本発明の一態様によれば、前記潤滑油組成物を用いることによる、内燃機関を潤滑する方法が提供される。また、前記潤滑油組成物を用いることによる、ターボ機構搭載エンジンを潤滑する方法が提供される。さらに、前記潤滑油組成物を用いることによる、パーティキュレートフィルターを備える排ガス処理装置を装着したガソリンエンジンやディーゼルエンジンを潤滑する方法が提供される。
【0112】
[潤滑油組成物の製造方法]
本発明の潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。
例えば、本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法は、
基油(A)、
塩基価が5.00mgKOH/g以上100mgKOH/g以下のカルシウムスルホネート(B1)と、分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するカルシウムサリチレート(B2)と、及び分岐鎖状の非環式炭化水素基を有する過塩基性のカルシウムフェネート(B3)とから選択される1種以上のカルシウム系清浄剤(B)、及び
1分子内にピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(C1)と、下記一般式(1)で表されるジエタノールアミン化合物(C2)とから選択される1種以上の無灰系清浄剤(C)、を含有する潤滑油組成物の調製を行う工程を有し、
【化13】
[上記一般式(1)中、R
1は炭素数12~30の1価の脂肪族炭化水素基である。]
前記調製は下記条件(1)~(2)を満たすように行う、潤滑油組成物の製造方法。
・条件(1):カルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、100質量ppm以上600質量ppm以下である。
・条件(2):前記カルシウム系清浄剤(B)のカルシウム原子の含有量(Ca
B)に対する前記無灰系清浄剤(C)の窒素原子の含有量(N
C)の比(N
C/Ca
B)が、質量比で、1.3~3.1である。
上記各成分を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、基油(A)に、成分(B)及び成分(C)を配合する工程を有する方法が挙げられる。また、成分(A)~(C)と共に、上記他の潤滑油用添加剤も同時に配合してもよい。また、各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
【実施例】
【0113】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0114】
[各性状の測定]
本明細書において、各実施例及び各比較例で用いた各原料並びに各実施例及び各比較例の潤滑油組成物の各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
【0115】
<動粘度(100℃動粘度)及び粘度指数>
JIS K2283:2000に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定又は算出した。
【0116】
<塩基価(塩酸法)>
カルシウム系清浄剤(B)の塩基価は、JIS K2501:2003の9に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定した。
潤滑油組成物の初期塩基価、耐水性試験後塩基価、及び耐熱性試験後塩基価は、JIS K2501:2003の8に準拠して、電位差滴定法(塩基価・塩酸法)により測定した。
【0117】
<カルシウム原子(Ca)の含有量>
JPI-5S-38-2003に準拠して測定した。
【0118】
<窒素原子(N)の含有量>
JIS K2609:1998に準拠して、化学発光法により測定した。
【0119】
<硫酸灰分>
JIS K2272:1998に準拠して測定した。
【0120】
[実施例1~15及び比較例1~9]
以下に示す基油及び各種添加剤を、表1-1~表1-4に示す配合量(質量%)にて添加して、十分に混合して潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、潤滑油組成物の100℃における動粘度は、7.4mm2/s~7.7mm2/sに調整した。
実施例1~15及び比較例1~9で用いた基油及び各種添加剤の詳細は、以下に示すとおりである。
【0121】
<基油(A)>
・鉱油基油:100℃動粘度;4.1mm2/s、粘度指数;125、API分類;グループ3
【0122】
<カルシウム系清浄剤(B)>
(成分(B1))
・Caスルホネート(1):直鎖状の非環式炭化水素基を有するCaスルホネート、塩基価:18.1mgKOH/g(中性塩)、Ca原子含有量:2.4質量%、CaCO3含有量:1質量%
・Caスルホネート(2):分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するCaスルホネート、塩基価:11.3mgKOH/g(中性塩)、Ca原子含有量:2.2質量%、CaCO3含有量:1質量%
(成分(B2))
・Caサリチレート(1):分岐鎖状鎖の非環式炭化水素基を有するCaサリチレート、塩基価:59.8mgKOH/g(中性塩)、Ca原子含有量:2.3質量%、CaCO3含有量:2質量%
・Caサリチレート(2):分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するCaサリチレート、塩基価:219mgKOH/g(過塩基性塩)、Ca原子含有量:7.9質量%、CaCO3含有量:15質量%
(成分(B3))
・Caフェネート(1):分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するCaフェネート、塩基価:253mgKOH/g(過塩基性塩)、Ca原子含有量:9.1質量%、CaCO3含有量:24質量%
<比較用カルシウム系清浄剤(B’)>
・Caスルホネート(3):直鎖状の非環式炭化水素基を有するCaスルホネート、塩基価:426mgKOH/g(過塩基性塩)、Ca原子含有量:15.8質量%、CaCO3含有量:37質量%
・Caスルホネート(4):分岐鎖状の非環式炭化水素基を有するCaスルホネート、塩基価:304mgKOH/g(過塩基性塩)、Ca原子含有量:11.7質量%、CaCO3含有量:27質量%
【0123】
<無灰系清浄剤(C)>
(成分(C1))
・ヒンダードアミン化合物(1):ピペリジン誘導骨格を1つ有するヒンダードアミン化合物(モノヒンダードアミン化合物、BASF社製、商品名:XPDL590、窒素含有量:4.2質量%)
なお、ヒンダードアミン化合物(1)は、上記一般式(C1-2)中、R’がドデシル基であるヒンダードアミン化合物である。
(成分(C2))
・ジエタノールアミン:上記一般式(1)中、R1がステアリル基である化合物と、R1がオレイル基である化合物と、R1がパルミチル基である化合物との混合物である。窒素含有量:4.2質量%。
<比較用無灰系清浄剤(C’)>
・ヒンダードアミン化合物(2):ピペリジン誘導骨格を2つ有するヒンダードアミン化合物(ビスヒンダードアミン化合物、BASF社製、商品名:Tinuvin765、窒素含有量:5.3質量%)
・ヒンダードアミン化合物(3):ピペリジン誘導骨格を2つ有するヒンダードアミン化合物(ビスヒンダードアミン化合物、BASF社製、商品名:Tinuvin770DF、窒素含有量:5.3質量%)
【0124】
<その他の潤滑油用添加剤>
(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)
・ZnDTP:アルキル基としてsec-2-エチルヘキシル基を有するジアルキルジチオリン酸亜鉛(一般式(D-1)におけるRD1~RD4がsec-2-エチルヘキシル基であるアルキル化合物)、リン原子の含有量=7.1質量%。
(有機モリブデン系化合物)
・モリブデンジチオカーバメート(MoDTC):アデカ社製、商品名:サクラルーブ 525、モリブデン含有量10.0質量%、硫黄含有量11.0質量%
当該モリブデンジチオカーバメートは、R11~R14それぞれの炭素数が8又は13であり、X1~X4が酸素原子である上記一般式(E1-2)で示される二核モリブデンジチオカルバメートである。
・モリブデンジチオホスフェート(MoDTP):アデカ サクラルーブ 300、モリブデン含有量9.0質量%、硫黄含有量10.1質量%
(酸化防止剤)
・フェノール系酸化防止剤
・アミン系酸化防止剤
(無灰系分散剤)
・非ホウ素化コハク酸イミド
・ホウ素化コハク酸イミド
(その他の潤滑油用添加剤)
・ポリ(メタ)アクリレート
【0125】
[各種測定及び試験方法]
各実施例及び各比較例の潤滑油組成物の評価方法は、以下の通りである。
【0126】
<初期塩基価>
調製した潤滑油組成物の初期塩基価を、前記方法で測定し、5.00mgKOH/g以上のものを初期塩基価に優れると判断した。
【0127】
<耐水性評価>
試料油100g、蒸留水3gと銅板をガラス瓶に入れ密閉した。このガラス瓶を62℃に保った恒温槽に入れ、一回転中に一度逆さまになる方向に5rpmで24時間回転させた。当該操作後の試料油の塩基価(塩酸法)を前記方法と同様の方法を用いて測定した。銅板(材質:C1100P、サイズ:51mm(長さ)×13mm(幅)×1mm(厚さ))は、新生面が出るまで研磨してから用いた。耐水性評価において測定した塩基価を、「耐水性試験後塩基価」と呼ぶ。
そして、耐水性試験後塩基価と初期塩基価を用い、以下の式により「耐水性試験後の塩基価維持率(%)」を算出した。
(耐水性試験後の塩基価維持率(%))=(耐水性試験後塩基価)/(初期塩基価)×100
本実施例では、耐水性試験後の塩基価維持率が70%以上であるものを水に晒された際の塩基価維持性に優れると判断し、耐水性試験後の塩基価維持率が70%未満であるものを水に晒された際の塩基価維持性に劣ると判断した。
【0128】
<耐熱性評価:NOx試験>
試料油100gをガラス管に入れ、油温を140℃に調整した。空気流量:100mL/分と、一酸化窒素(NO)を窒素で希釈したもの(NO濃度:4,000体積ppm)流量100mL/分とを混合して、油温140℃の当該試料油中に導入し、20時間かけてNOx劣化油を作製した。
当該NOx劣化油の塩基価(塩酸法)を前記方法と同様の方法を用いて測定した。耐熱性評価において測定した塩基価を、「耐熱性試験後塩基価」と呼ぶ。
そして、耐熱性試験後塩基価と初期塩基価を用い、以下の式により「耐熱性試験後の塩基価維持率」を算出した。
(耐熱性試験後の塩基価維持率(%))=(耐熱性試験後塩基価)/(初期塩基価)×100
本実施例では、耐熱性試験後の塩基価維持率が40%以上であるものを熱に晒された際の塩基価維持性に優れると判断し、耐熱性試験後の塩基価維持率が40%未満であるものを熱に晒された際の塩基価維持性に劣ると判断した。
また、上記方法で作製したNOx劣化油に、1-エチル-4-ニトロ-ベンゼンを1質量%添加した試験油を調製した。
そして、内径2mmのガラス管を垂直にヒーターブロックにセットし、調整した試験油を0.3ml/時間、及び、空気を10ml/分の割合で、それぞれガラス管の下部より送り込み、ヒーター部の温度を240℃に保ちながら、16時間のホットチューブ試験を行った。
ホットチューブ試験を16時間行った後、ガラス管の内部に付着したデポジット(堆積物)の付着状況を0点(黒色)~10点(無色:デポジットの堆積無し)の範囲で1点刻みの評点で評価した。
当該評点は、数字が大きい程、デポジットの体積が少なく、高温清浄性に優れた潤滑油組成物であるといえる。本実施例においては、6点以上を高温清浄性に優れると判断し、5点以下を高温清浄性に劣ると判断した。
【0129】
結果を表1-1~表1-4に示す。
なお、表1-1~表1-4中、「清浄剤由来のNC/CaB」を計算するために用いたカルシウム系清浄剤のCaBは、カルシウム系清浄剤中の塩及び炭酸カルシウムのカルシウム原子の総含有量を意味する。
また、表1-1~表1-4中の「潤滑油組成物中のCa原子含有量」は、本実施例においてカルシウム系清浄剤以外にカルシウム分は含まれていないことから、カルシウム系清浄剤のCa原子含有量CaBでもある。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
表1-1~表1-4に示す結果から以下のことがわかる。
実施例1~15の潤滑油組成物は、初期塩基価、耐水性試験後の塩基価維持性、耐熱性試験後の塩基価維持性、及び高温清浄性に優れ、低灰分でありながらも、ロングドレイン性に優れる。
一方、比較例7の潤滑油組成物のように、無灰系清浄剤(C)を含有し、カルシウム系清浄剤(B)を含有しない場合には、高温清浄性に劣り、ロングドレイン性を確保できない。
また、比較例8及び9の潤滑油組成物のように、塩基価が100mgKOH/gを超えるCaスルホネートを用いた場合、無灰系清浄剤(C)を併用しても、高温清浄性に劣り、ロングドレイン性を確保できない。
比較例1の潤滑油組成物のように、清浄剤由来のNC/CaBが3.1超であると、高温清浄性に劣り、ロングドレイン性を確保できない。
比較例2及び3の潤滑油組成物ように清浄剤由来のNC/CaBが1.3未満であると、初期塩基価を十分に高くすることができず、ロングドレイン性を確保できない。比較例4の潤滑油組成物のように、カルシウム系清浄剤(B)を含有し、無灰系清浄剤(C)を含有しない場合にも、初期塩基価を十分に高くすることができず、ロングドレイン性を確保できない。
比較例5及び6の潤滑油組成物のように、無灰系清浄剤として、ピペリジン誘導骨格を2つ以上有するヒンダードアミン化合物を用いると、高温清浄性に劣り、耐熱性試験後の塩基価維持率が小さく塩基価維持性に劣るため、ロングドレイン性を確保できない。