(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】パッケージ
(51)【国際特許分類】
H01L 23/34 20060101AFI20240228BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20240228BHJP
H01L 23/06 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
H01L23/34 A
H01L23/12 S
H01L23/06 B
(21)【出願番号】P 2021074850
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】391039896
【氏名又は名称】NGKエレクトロデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】山本 智康
(72)【発明者】
【氏名】三原 芳和
(72)【発明者】
【氏名】白井 直哉
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-219441(JP,A)
【文献】特開2007-115731(JP,A)
【文献】国際公開第2008/013279(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02056344(EP,A1)
【文献】特開2018-041868(JP,A)
【文献】特開2017-188675(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0258248(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/34
H01L 23/12
H01L 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓋体によって封止されることになるキャビティを有するパッケージであって、
セラミックスからなり、平面視において前記キャビティを囲む枠体と、
前記枠体を支持する支持面を有するヒートシンクと、
を備え、
前記枠体と前記ヒートシンクの前記支持面とは互いにろう付けされており、前記ヒートシンクは、
前記支持面を有し、銅からなり、厚みt
1を有する第1層と、
前記第1層に積層され、モリブデンからなり、厚みt
2を有する第2層と、
前記第2層に積層され、銅からなり、厚みt
3を有する第3層と、
前記第3層に積層され、モリブデンからなり、厚みt
4を有する第4層と、
前記第4層に積層され、銅からなり、厚みt
5を有する第5層と、
を含み、
3≦t
1/t
5≦5、および
3≦t
3/t
5≦5
が満たされている、パッケージ。
【請求項2】
3≦t
1/t
5≦4
が満たされている、請求項1に記載のパッケージ。
【請求項3】
前記枠体の前記セラミックスは、
25℃と100℃との間で、5ppm/℃以上、8ppm/℃以下の線膨張係数を有しており、かつ、
25℃と800℃との間で、7.5ppm/℃以上、8.5ppm/℃以下の線膨張係数を有している、
請求項1または2に記載のパッケージ。
【請求項4】
0.10≦(t
2+t
4)/(t
1+t
2+t
3+t
4+t
5)≦0.13
が満たされている、請求項1から3のいずれか1項に記載のパッケージ。
【請求項5】
前記蓋体はセラミックスからなる、請求項1から4のいずれか1項に記載のパッケージ。
【請求項6】
前記第5層は、前記ヒートシンクの底面を有している、請求項1から5のいずれか1項に記載のパッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッケージに関し、特に、ヒートシンクを有するパッケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体素子などの電子部品を収納するために、キャビティを有するパッケージがしばしば用いられる。パッケージのキャビティ中へ電子部品が搭載された後、パッケージに蓋体が接合されることによって、キャビティが気密に封止される。これにより電子部品が外部環境から保護される。さらに、パッケージがヒートシンクを有することによって、電子部品からの熱を効率的に除去することができる。ヒートシンクの搭載面(キャビティに面する面)上には電子部品が搭載されることになり、ヒートシンクの底面(上記搭載面と反対の面)は、通常、それを支持する支持部材へ取り付けられることになる。支持部材は、例えば、実装ボードまたは放熱部材である。支持部材は、ヒートシンクの底面へ熱的に接触させられる。ヒートシンクを介することによって電子部品からの熱が効率的にパッケージの外部へ(典型的には支持部材へ)と排出される。これにより、電子部品の過熱が抑制される。
【0003】
電子部品が動作されることによって、パッケージの温度は、例えば150℃程度に上昇する。一方で、パッケージを有する製品が置かれた外部環境によっては、パッケージの温度は氷点下温度にまで低下する。よって、蓋体によって封止されたパッケージの気密性は、これら温度の差異に対応したヒートサイクル下において維持される必要がある。この信頼性を検証する目的でヒートサイクル試験が行われることがあり、その温度範囲は、典型的には-65℃と+150℃との間である。
【0004】
特開2005-150133号公報(特許文献1)は、半導体素子収納用容器を開示している。半導体素子収納用容器は、基体(パッケージ)と、蓋体とで構成されている。基体は、金属板からなるヒートシンクと、セラミック枠体と、外部接続端子とを有している。セラミック枠体はヒートシンクに、ろう付けによって接合されている。ろう材としては、例えば、Ag-Cuが用いられる。ヒートシンクとセラミック枠体とで形成されるキャビティ部には半導体素子が搭載される。半導体素子が搭載された後、エポキシ樹脂等の樹脂接着材を用いてセラミック枠体に蓋体が接合される。これによりキャビティが気密に封止される。ヒートシンクは、銅(Cu)板と、他の金属板との複合金属板からなる。ヒートシンクに高熱伝導率を付与する目的で、ヒートシンクとセラミック枠体との間の熱膨張係数の近似性が若干犠牲になるものの、ヒートシンクの線膨張係数を8ppm/℃以上としてもよい。上記公報が主張するところによれば、そのようにヒートシンクの熱膨張係数が高くても、蓋体が樹脂材からなることによって、ヒートサイクル下での基体と蓋体との接合信頼性は確保することができる。
【0005】
特開2018-41868号公報(特許文献2)は、ろう付けによって放熱基板(ヒートシンク)とセラミックス基板とが互いに接合された構成が開示されている。当該公報の記載によれば、以下のような課題が記されている。
【0006】
放熱基板は、接合される半導体デバイスの信頼性を確保するため、半導体デバイスの動作温度である150℃付近の温度において半導体デバイスの熱膨張係数に近いことが必要である。そのため、放熱基板は、熱膨張係数が低い金属で構成された層が全体に占める体積比率を10%超にする必要がある。このように構成された放熱基板(ヒートシンク)の熱膨張係数は、セラミックス基板の熱膨張係数よりも小さい。したがって、組立時のろう付けにおける加熱温度(例えば800℃)ではセラミックス基板の方がより大きく熱変形するので、冷却後において放熱基板には反り変形が生じる。
【0007】
上記課題に鑑みて上記特開2018-41868号公報は、Cu層と、Mo層(またはW層)とが交互に積層された放熱基板において、前記Cu層が厚さ方向に非対称に積層されることを開示している。具体的には、当該公報は、セラミックス基板が接合される一表面側に配置される前記Cu層の厚さが、前記一表面と反対側の他表面側に配置される前記Cu層の厚さより、厚いことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-150133号公報
【文献】特開2018-41868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの検討によると、上記特開2018-41868号公報の技術が用いている非対称性が過剰であると、ろう付けに起因して発生する反り(後述するプラス反り)とは逆向きの反り(後述するマイナス反り)がパッケージに発生してしまう。具体的には、ヒートシンクの底面が凹状となるような反りが発生してしまう。この凹状の反りに起因して、ヒートシンクの中央部と、ヒートシンクを支持する支持部材との間に、ボイドが形成されることがある。電子部品は典型的にはヒートシンクの中央部近傍に搭載されるので、ヒートシンクの中央部近傍のボイドは、ヒートシンクを介しての電子部品からの放熱を阻害しやすい。その結果、パッケージの放熱性能が不十分となることがある。逆に、上記の非対称性が過小であると、ろう付けに起因して生じる反りを抑制する効果が不足してしまう。
【0010】
ろう付けに起因してのプラス反りは、Cu層とMo層とが積層されたヒートシンクにおいてMo層の体積比率を低くするほど緩和される。しかしながらその場合、本発明者らの検討によれば、パッケージと蓋体との接合信頼性(具体的には、-65℃と150℃との間でのヒートサイクル下での接合信頼性)を確保しにくくなる。特に、前述した特開2005-150133号公報における技術とは異なり蓋体がセラミックスからなる場合、この問題は深刻となりやすい。具体的には、-65℃と150℃との間でのヒートサイクル下において、枠体と蓋体とを互いに接合するための樹脂接着層にクラックが発生することがある。さらに、Mo層の体積比率を低くし過ぎれば、マイナス反りの発生につながる。
【0011】
本発明者らは、ヒートサイクル試験の結果として、上記のようなクラックを実際に観察した。このクラックは、キャビティと外部雰囲気との間を延びることによって、キャビティの気密性を喪失させてしまう。このクラックは、ヒートサイクルの温度範囲においてヒートシンクの線膨張係数がセラミック枠体の線膨張係数に比してかなり大きいことから生じる大きな応力に起因する。ヒートサイクルの温度範囲における線膨張係数の上記差異は、ろう付け温度である800℃近傍においてヒートシンクとセラミック枠体との間の線膨張係数の差異を抑制することを優先する材料選択が行われると、拡大してしまう。
【0012】
以上から、ろう付けに起因してのパッケージの反りを抑制しつつ、ヒートサイクル下での接合信頼性を確保することが、従来の技術では困難である。さらに、本発明者らの検討によれば、ヒートシンクの上述した非対称な積層は、場合によっては、キャビティからヒートシンクへの放熱性能を不十分なものとすることがある。この熱伝導性の低さは、パッケージの放熱性能を不十分なものにしてしまう。
【0013】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、パッケージの反りを抑制しながら枠体と蓋体との間の接合信頼性を確保しつつ、十分な放熱性能を有するパッケージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施の形態におけるパッケージは、蓋体によって封止されることになるキャビティを有するパッケージであって、枠体と、ヒートシンクとを有している。前記枠体は、セラミックスからなり、平面視において前記キャビティを囲んでいる。前記ヒートシンクは、前記枠体を支持する支持面を有している。前記ヒートシンクは、第1層と、第2層と、第3層と、第4層と、第5層とを有している。前記第1層は、前記支持面を有しており、銅からなり、厚みt1を有している。前記第2層は、前記第1層に積層されており、モリブデンからなり、厚みt2を有している。前記第3層は、前記第2層に積層されており、銅からなり、厚みt3を有している。前記第4層は、前記第3層に積層されており、モリブデンからなり、厚みt4を有している。前記第5層は、前記第4層に積層されており、銅からなり、厚みt5を有している。3≦t1/t5≦5が満たされている。3≦t3/t5≦5が満たされている。
【0015】
前記パッケージにおいて、3≦t1/t5≦4が満たされていてよい。
【0016】
前記枠体の前記セラミックスは、25℃と100℃との間で、5ppm/℃以上、8ppm/℃以下の線膨張係数を有していてよく、かつ、25℃と800℃との間で、7.5ppm/℃以上、8.5ppm/℃以下の線膨張係数を有していてよい。
【0017】
前記パッケージにおいて、0.10≦(t2+t4)/(t1+t2+t3+t4+t5)≦0.13が満たされていてよい。
【0018】
蓋体はセラミックスからなっていてよい。
【発明の効果】
【0019】
一実施の形態によれば、t1/t5≦5が満たされていることによって、ヒートシンクおよび枠体を有するパッケージの枠体側が過度に凸状となるような反り(後述するマイナス反り)を抑制することができる。さらに、3≦t1/t5が満たされていることによって、ヒートシンクおよび枠体を有するパッケージのヒートシンク側が過度に凸状となるような反り(後述するプラス反り)を抑制することができ、かつ、枠体と蓋体との間の接合信頼性を確保することができる。さらに、t3/t5≦5および3≦t1/t5が満たされることによって、t1が過度に小さくなることが避けられる。t1が過度に小さくないことによって、キャビティからヒートシンクへ流入する熱の抵抗が過度に大きくなることが避けられる。熱抵抗が過度に大きくないことによって、パッケージの放熱性能を十分に確保することができる。以上から、パッケージの反りを抑制しながら枠体と蓋体との間の接合信頼性を確保しつつ、十分な放熱性能を得ることができる。
【0020】
この発明の目的、特徴、局面、および利点は、以下の詳細な説明と添付図面とによって、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施の形態に係る電子装置の構成を、キャビティ内部が見えるようにその一部の図示を省略して示す概略斜視図である。
【
図2】
図1の電子装置の線II-IIに沿う概略断面図である。
【
図3】
図1の電子装置の線III-IIIに沿う概略断面図である。
【
図4】パッケージのプラス反り(+WP)およびマイナス反り(-WP)の定義について説明する断面図である。
【
図5】実施例および第1比較例としての、ヒートシンクを含むパッケージの構成を示す部分断面図である。
【
図6】第2比較例のパッケージの構成を示す部分断面図である。
【
図7】ヒートシンクに適用可能な複合金属板(A型)の線膨張係数CTE
Aと、ヒートシンクに適用可能な複合金属板(B型)の線膨張係数CTE
Bと、枠体に適用可能なセラミック組成Xの線膨張係数CTE
Xとを例示するグラフ図である。
【
図8】枠体の材料としてセラミック組成Xが用いられた場合における、
図5に示されたパッケージの反りの測定結果を実線で示すグラフ図である。
【
図9】枠体の材料としてセラミック組成Yが用いられた場合における、
図5に示されたパッケージの反りの測定結果を実線で示すグラフ図である。
【
図10】枠体の材料としてセラミック組成Yを用いつつ、ヒートシンク中のMoの体積比率(%)を異ならしめた場合の、ヒートシンクの第1層の厚みt
1(mm)とパッケージの反りとの相関を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の記載において、温度T(℃)における線膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Expansion)は、温度25℃(室温)における長さがL25でありかつ温度Tにおける長さがLTであるとき、
{(LT-L25)/(T-25)}/L25
によって定義される。また本明細書において、上記の線膨張係数のことを、25℃とT(℃)との間での線膨張係数と称することもある。また、複合金属板の線膨張係数は、面内方向に沿った長さに基づいて算出される。ここで面内方向は、複合金属板の積層方向(厚み方向)に垂直な方向である。
【0023】
図1は、本実施の形態における電子装置90の構成を、キャビティCV内部が見えるようにその一部の図示を省略して示す概略斜視図である。
図2および
図3のそれぞれは、
図1の電子装置90の線II-IIおよび線III-IIIに沿う概略断面図である。
【0024】
電子装置90は、キャビティCVを有するパッケージ10と、キャビティCV内に収められた電子部品8と、配線部9と、蓋体80と、接着層70とを有している。パッケージ10は、ヒートシンク13と、枠体14と、金属端子15とを有している。電子部品8は、例えば、高周波用の電力用半導体素子であり、この場合、パッケージ10は、高周波パッケージである。電子部品8は、配線部9によってパッケージ10の金属端子15に電気的に接続されていてよい。蓋体80は、接着層70によって枠体14に接合されることによって、キャビティCVを封止している。
【0025】
蓋体80はセラミックスからなっていてよい。このセラミックスは、主成分としてアルミナを含んでいてよい。また、このセラミックスは、枠体14のセラミックスと同じであってよく、あるいは異なってもよい。
【0026】
なお、蓋体80の材料はセラミックスに限定されるものではない。例えば、蓋体80は樹脂材を含んでいてよい。樹脂材は、例えば、液晶ポリマーである。なお当該樹脂材中には、無機フィラーが分散されていてもよく、無機材フィラーは、例えばシリカ粒である。樹脂材中に無機フィラーが分散されていることによって、蓋体80の強度および耐久性を高めることができる。
【0027】
パッケージ10において、ヒートシンク13と、枠体14と、金属端子15とは、接合材(図示せず)を用いて互いに接合されていてよい。接合材は、例えば、銀ろうである。セラミックと金属との銀ろうによる接合を可能にするため、枠体14の、ヒートシンク13および金属端子15に接合される面には、タングステンまたはモリブデンなどからなる金属層が設けられていてよい。なお、接合材による接合の後、典型的には、パッケージ10に、めっき処理が施されている。
【0028】
枠体14は、ヒートシンク13上に設けられており、平面視においてキャビティCVを囲んでいる。枠体14はセラミックスからなる。このセラミックスは、25℃と100℃との間で、5ppm/℃以上、8ppm/℃以下の線膨張係数を有していてよく、かつ、25℃と800℃との間で、7.5ppm/℃以上、8.5ppm/℃以下の線膨張係数を有していてよい。当該セラミックスは、主成分として、例えばアルミナを含む。枠体14の曲げ弾性率は、通常、接着層70の曲げ弾性率よりも大きい。
【0029】
金属端子15は枠体14上に接合されている。金属端子15は、パッケージ10および蓋体80によって封止されたキャビティCVの内部と外部とをつなぐ電気的経路を構成している。キャビティCVの内部においては、金属端子15に電子部品8が配線部9によって電気的に接続されている。配線部9は、例えば、ボンディングワイヤである。
【0030】
接着層70は、パッケージ10上において、キャビティCVを囲むように設けられている。
図1を参照して、接着層70は、金属端子15上の部分と、枠体14上の部分とを有していてよい。接着層70は、枠体14と蓋体80との間に配置された部分を有することによって、これらを互いに接合している。接着層70の、蓋体80とパッケージ10との間での厚みは、例えば、100μm以上360μm以下である。接着層70は、蓋体80の曲げ弾性率よりも小さな曲げ弾性率を有していてよい。
【0031】
接着層70は、硬化状態にある熱硬化性接着材からなる。この熱硬化性接着材は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂およびシリコーン樹脂の少なくともいずれかを主成分として含んでいてよい。特にエポキシ樹脂は、耐熱性、機械的強度および耐薬品性をバランス良く備えている点で好ましい。硬化状態にある熱硬化性接着剤が上記の特性を好適に有するためには、主成分としてのエポキシ樹脂の含有量が20~40wt%(重量%)であることが好ましく、残部は硬化剤などの副成分からなってよい。具体的には、この副成分は、例えば、1~10wt%の硬化剤と、50~70wt%の無機フィラーと、0.5~2wt%のカップリング剤と、0.5~2wt%の触媒と、0.1~5wt%の低応力剤とであってよい。硬化剤としてはフェノキシ樹脂化合物が用いられてよい。無機フィラーとしてはシリカが用いられてよい。触媒としては有機リンまたはホウ素塩が用いられてよい。低応力剤としてはシリコーン(silicone)が用いられてよい。
【0032】
電子装置90のヒートシンク13の底面BT(
図2および
図3)は、支持部材(図示せず)に取り付けられることになる。支持部材は、例えば、実装ボードまたは放熱部材である。ヒートシンク13は、支持部材への取り付けのための固定具(例えば、ねじ)が通る貫通部(図示せず)を有していてもよい。
【0033】
蓋体80は、
図2に示されているように、キャビティCV(
図1)に面する内面81iと、その反対の外面81oとを有している。典型的には、内面81i上には、枠体14の枠形状におおよそ対応した枠形状を有する突起である枠部81pが設けられている。この場合、接着層70は、枠部81pに接する。
【0034】
次に、電子装置90の製造方法について、以下に説明する。
【0035】
パッケージ10が準備される。パッケージ10のヒートシンク13上に電子部品8が搭載される。例えば、ヒートシンク13上に電子部品8がはんだ付けされる。次に、電子部品8が金属端子15に配線部9によって電気的に接続される。
【0036】
次に、蓋体80がパッケージ10上に載置される。具体的には、蓋体80がパッケージ10の枠体14へ、半硬化状態にある接着層70を介して取り付けられる。次に、蓋体80がパッケージ10へ所定の荷重で押し付けられる。適切な荷重は、パッケージ10の寸法設計に依存するが、例えば500g以上1kg以下程度である。荷重での押し付けが行われながら、接着層70が加熱される。加熱された接着層70は、まず軟化状態へと変化する。これにより接着層70の粘度が低下する。その結果、接着層70が濡れ広がる。その後、加熱による硬化反応の進行にともなって、接着層70は硬化状態へと変化する。その結果、パッケージ10に蓋体80が接合される。これによりキャビティCVが封止される。
【0037】
以上により、電子装置90が得られる。
【0038】
図4を参照して、パッケージ10のプラス反り(+WP)およびマイナス反り(-WP)の定義について説明する断面図である。
図4の上段を参照して、パッケージ10のプラス反りは、ヒートシンクの底面BTが凸状となる反りであり、反り量+WPは、底面BTにおける縁部に対しての中央部の突出寸法によって定義される。
図4の下段を参照して、パッケージ10のマイナス反りは、ヒートシンクの底面BTが凹状となる反りであり、反り量-WPは、底面BTにおける中央部に対しての縁部の突出寸法によって定義される。
【0039】
なお、後述する、反り量の測定結果は、触針の先端が試料の表面に直接触れる方式で得たものである。測定装置としては、表面粗さ計(東京精密社製 SURFCOM480B)を用いた。
【0040】
図5の上段は、パッケージ10の実施例としてのパッケージ10A~10Cと、第1比較例としてのパッケージ10Dとを示す部分断面図である。ヒートシンク13は、底面BTと反対側に、枠体14を支持する支持面STを有している。またヒートシンク13は、第1層131と、第2層132と、第3層133と、第4層134と、第5層135とを有している。具体的には、ヒートシンク13は、第1層131~第5層135によって構成された、5層構造の複合金属板(クラッド板)である。第1層131、第3層133および第5層135は、銅(Cu)からなり、言い換えればCu層である。第2層132および第4層134は、モリブデン(Mo)からなり、言い換えればMo層である。第1層131は、支持面STを有している。第2層132は第1層131に積層されている。第3層133は第2層132に積層されている。第4層134は第3層133に積層されている。第5層135は第4層134に積層されている。第1層131~第5層135のそれぞれは、厚みt
1~t
5を有している。
【0041】
図5の下段は、パッケージ10A~10Dの各々について、第1層131~第5層135のそれぞれが有する厚みt
1~t
5の値(mm)を示している。パッケージ10A~10Cにおいては、3≦t
1/t
5≦5が満たされており、また、3≦t
3/t
5≦5が満たされている。特にパッケージ10Bおよび10Cにおいては、3≦t
1/t
5≦4が満たされている。またパッケージ10A~10Dにおいては、0.10≦(t
2+t
4)/(t
1+t
2+t
3+t
4+t
5)≦0.13が満たされている。これは、Cu層およびMo層によって構成されているヒートシンク13に占めるMo層の割合が、体積比(言い換えれば、厚み比)として10%以上13%以下であることを意味する。なおこの割合のことを、以下において、Mo比率と称することがある。
【0042】
図6は、第2比較例のパッケージ10Rの構成を例示する部分断面図である。パッケージ10Rのヒートシンク13も、
図5の場合と同様に、Cu層とMo層とが交互に積層されることによって構成されている。ただしパッケージ10Rにおいては、
図5の場合と異なり、積層構造が厚み方向において対称性を有している。
【0043】
図7は、ヒートシンク13に適用可能な複合金属板(A型)の線膨張係数CTE
Aと、ヒートシンク13に適用可能な複合金属板(B型)の線膨張係数CTE
Bと、枠体14に適用可能なセラミック組成Xの線膨張係数CTE
Xとを例示するグラフ図である。金属材料としての複合金属板の線膨張係数はJIS Z 2285、セラミック材料としてのセラミック組成Xの線膨張係数はJIS R 1618にそれぞれ準拠して測定された。A型およびB型は、そのいずれもが、厚み方向において対称な積層構造(
図6に示されたような積層構造)を有するようにCu層とMo層とが交互に積層された複合金属板であるが、その材料設計が異なっている。具体的には、A型のMo比率は12.3%であり、B型のMo比率は7.8%である。
【0044】
なお、25℃を基準として330(W/m・K)以上360(W/m・K)以下程度の高熱伝導率が意図された場合において、複合金属板の線膨張係数は、その材料設計によって、線膨張係数CTEAと線膨張係数CTEBとの中間および周縁で調整可能である。具体的には、25℃と100℃との間での線膨張係数として9ppm/℃以上15ppm/℃以下の範囲の特性と、25℃と800℃との間での線膨張係数として7.5ppm/℃以上8.5ppm/℃以下の範囲の特性とを、容易に得ることができる。なお、ヒートシンク13の25℃と100℃との間での線膨張係数が15ppm/℃以下であることによって、ヒートシンク13と枠体14との間での過度な膨張/収縮の差異が避けられる。
【0045】
ヒートサイクルの温度範囲(典型的な試験においては、-65℃~+150℃の温度範囲)においては、複合金属板の線膨張係数CTE
Bは、枠体用のセラミック材料の線膨張係数CTE
Xよりもかなり大きい。よって、
図3に示されているように、膨張/収縮EX2に比して、膨張/収縮EX1は、かなり大きい。また、蓋体80がセラミックスからなることから、膨張/収縮EX3に比しても、膨張/収縮EX1の方が大きい。これら、膨張/収縮の差異に起因して、電子装置90には応力が加わる。ヒートサイクル下において、この応力によって接着層70にクラックCRが発生すると、枠体14と蓋体80との接合信頼性が損なわれる。
【0046】
上記の接合信頼性を確保する観点では、ヒートシンク13の材料設計は、矢印VC(
図7)に示されているように100℃近傍において線膨張係数を低くするように行われることが好ましい。一方で、そのような材料設計は、矢印VW(
図7)に示されているように、ヒートシンク13の線膨張係数を800℃近傍においても低くしてしまう。800℃は、ヒートシンク13と枠体14とを互いに接合するためのろう付けの温度に対応している。よって、上述した材料設計においては、ろう付け温度において、枠体14の線膨張係数がヒートシンク13の線膨張係数に比して、無視できない程度に大きくなる。その結果、
図6に示されたような対称な積層構造を用いている限り、ろう付けに起因しての過大なプラス反り(
図4:+WP)を避けることは困難である。以上から、比較例のパッケージ10Rにおいては、ヒートサイクル下での接合信頼性を確保しつつ、反りを抑制する、ということは困難である。
【0047】
図8および
図9のそれぞれは、枠体14にセラミック組成Xおよびセラミック組成Yが用いられた場合における、
図5に示されたパッケージ10A~10Dの反りの測定結果を実線で示すグラフ図である。枠体14の縦×横×厚みのサイズは、9.4×19.8×0.5(mm)であった。ヒートシンク13の縦×横×厚みのサイズは、9.8×20.6×1.026(mm)であった。
【0048】
なお、
図8および
図9中の破線は、パッケージ10A~10Dが製造される前のヒートシンク13の反り、言い換えれば、枠体14に接合される前のヒートシンク13の反り、を示している。枠体14が接合される前の時点では、枠体14が接合されることになる面とは反対の面である底面BTのいずれもが凸状であった。言い換えれば、いずれのヒートシンク13もプラス反りを有していた。
【0049】
なお、セラミック組成Xは、25℃と100℃との間での線膨張係数5.76(ppm/℃)と、25℃と800℃との間での線膨張係数7.80(ppm/℃)とを有している。またセラミック組成Yは、25℃と100℃との間での線膨張係数7.10(ppm/℃)と、25℃と800℃との間での線膨張係数8.30(ppm/℃)とを有している。セラミック組成Xは、主にアルミナからなり、具体的には、90wt%以上の割合でアルミナを含有している。セラミック組成Yは、セラミック組成Xの線膨張係数に比してより大きな線膨張係数を得ることを意図して、主原料としてアルミナを含有しつつも20wt%程度のジルコニアも含有している。
【0050】
材料組成を調整することによって、セラミック組成Xの特性とセラミック組成Yの特性との中間および周縁の特性を得ることもでき、枠体14の材料として、そのように調整された材料組成が用いられてもよい。具体的には、25℃と100℃との間での線膨張係数として5ppm/℃以上8ppm/℃以下の範囲の特性と、25℃と800℃との間での線膨張係数として7.5ppm/℃以上8.5ppm/℃以下の範囲の特性とを、容易に得ることができる。
【0051】
図8および
図9において実線で示された、パッケージ10A~10Dの反りを参照して、ヒートシンク13(
図5)の積層構造を調整することによって、パッケージ10の反りを調整することができることがわかる。
【0052】
さらに、セラミック組成Xおよびセラミック組成Yの各々が用いられた場合におけるパッケージ10R(
図6)の反りも測定された。なお積層構造としては、t
1=0.35(mm)、t
2=0.063(mm)、t
3=0.2(mm)、t
4=0.063(mm)、およびt
5=0.35(mm)の条件が用いられた。
【0053】
以上に述べた反りの測定結果を、以下の表にまとめる。なお、各条件における反り量は、4個の試料の測定値の平均値である。
【0054】
【0055】
上記の表において、「反りの絶対値」の行には、反りの絶対値の観点での評価結果が記載されている。最も好適な「A」は30μm未満の値を示し、「B」は30μm以上40μm未満のやや大きな値を示し、「F」は40μm以上の過大な値を示す。特に、過大なプラス反り(
図4上段:プラスWP)は、ヒートサイクル下における応力を増大させることによって、接合信頼性に悪影響を及ぼすことがある。また、そのような反りをパッケージが有していると、ヒートシンク13が支持部材へねじ締めによって固定される際に、パッケージが破壊される恐れがある。
【0056】
また上記の表において、「マイナス反り」の行には、過大なマイナス反り(
図4下段:-WP)を避けることが好ましいという観点での評価結果が記載されている。プラス反り(
図4上段:+WP)に比してマイナス反り(
図4下段:-WP)の方がパッケージ10の放熱性能の低下につながりやすく、この観点においては、パッケージ10が絶対値として50μm以上のマイナス反り(-WP)を有しないことが好ましく、反りがゼロまたはプラス(+WP)であることが、より好ましい。そこで、最も好適な「A」はマイナス反りを有していないことを示し、「B」はマイナス反りの絶対値が5μm未満であることを示し、「C」はマイナス反りの絶対値が5μm以上であることを示す。
【0057】
また上記の表において、「温度サイクル」の行には、ヒートサイクル下での接合信頼性を検証するための、-65℃と+150℃との間での温度サイクル試験の結果が示されている。「A」は500サイクル後の気密性検査においても信頼性が確保されていたことを示し、「B」は300サイクル後の気密性検査においては信頼性が確保されていたものの400サイクル後の気密性検査においては信頼性が確保されていなかったことを示し、「F」は100サイクル後の気密性検査において信頼性が確保されていなかったことを示す。この温度サイクル試験では、セラミックからなる蓋体80が用いられた。
【0058】
なお、実験番号1および2(対称な積層構造)に比べ、実験番号3~10(非対称な積層構造)では、枠体14に面するCu層の厚みt1が大きいため、Cuの変形による応力緩和効果が期待できる。よって、蓋体80が樹脂からなる場合であっても、温度サイクル試験の結果はほぼ同等になると考えられる。
【0059】
また上記の表において、「ヒートシンク熱伝導性」の行には、キャビティCV(電子部品8)からヒートシンク13への放熱性能の評価結果が記載されている。厚みt1が小さいということは、ヒートシンク13の、キャビティCVに面するCu層の厚みが小さいことを意味する。その場合、キャビティCVに面する位置に、高い熱伝導性を有するCu層が、十分な厚みで設けられない。その結果、キャビティCVからの放熱性能を確保しにくくなる。「A」はこのような懸念がないことを示し、「B」はこのような懸念が小さいことを示し、「F」はこのような懸念が大きいことを示す。
【0060】
以上、表1に示された評価結果を総合的に勘案すると、表1に示された実験番号間では、実験番号5~10が好ましく、実験番号5~8がより好ましく、実験番号7および8が特に好ましい。好適でないことを意味する「F」の評価をいずれの観点においても避けるためには、3≦t1/t5≦5、および、3≦t3/t5≦5、が満たされる必要がある。
【0061】
具体的には、t
1/t
5≦5が満たされていることによって、過度なマイナス反り(
図4下段:-WP)を抑制することができる。さらに、3≦t
1/t
5が満たされていることによって、過度なプラス反り(
図4上段:+WP)を抑制することができ、かつ、枠体14と蓋体80との間の接合信頼性を確保することができる。さらに、t
3/t
5≦5および3≦t
1/t
5が満たされることによって、t
1が過度に小さくなることが避けられる。t
1が過度に小さくないことによって、キャビティCVからヒートシンク13へ流入する熱の抵抗が過度に大きくなることが避けられる。熱抵抗が過度に大きくないことによって、パッケージ10の放熱性能を十分に確保することができる。以上から、パッケージ10の反りを抑制しながら枠体14と蓋体80との間の接合信頼性を確保しつつ、十分な放熱性能を得ることができる。
【0062】
3≦t1/t5≦4である実験番号5~8の各々は、すべての評価項目において、「C」がなく「A」または「B」のみを有しているので、さらに好ましい。
【0063】
図10は、枠体14の材料としてセラミック組成Yを用いつつ、ヒートシンク13中のMo比率(%)を異ならしめた場合の、ヒートシンク13の第1層131の厚みt1(mm)とパッケージ10の反りとの相関を例示するグラフ図である。
図10に示された検討結果を含め、本発明者らの検討結果によれば、望ましくない反りを避けるためには、Mo比率が10%以上13%以下であることが好ましい。言い換えれば、0.10≦(t
2+t
4)/(t
1+t
2+t
3+t
4+t
5)≦0.13が満たされていることが好ましい。
【符号の説明】
【0064】
8 :電子部品
10 :パッケージ
13 :ヒートシンク
14 :枠体
70 :接着層
80 :蓋体
90 :電子装置
131 :第1層
132 :第2層
133 :第3層
134 :第4層
135 :第5層
CV :キャビティ