(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物、熱伝導性部材および放熱構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 83/06 20060101AFI20240228BHJP
C08L 83/08 20060101ALI20240228BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20240228BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
C08L83/06
C08L83/08
C08K9/06
H01L23/36 D
(21)【出願番号】P 2021511418
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011998
(87)【国際公開番号】W WO2020203297
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019065807
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】太田 健治
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 豊彦
(72)【発明者】
【氏名】小玉 春美
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-069783(JP,A)
【文献】特開2015-110792(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093139(WO,A1)
【文献】特開2008-150491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 9/06
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖末端がヒドロキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)分子鎖末端がアルコキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン、(A)成分100質量部に対して50~200質量部、
(C)熱伝導性充填剤 400~3,500質量部、
(D)成分(C)の表面処理剤である有機ケイ素化合物 成分(C)に対して0.1~2.0質量%となる量、
前記有機ケイ素化合物は、構造式:Y
n
Si(OR)
4-n
(式中、Yは炭素原子数6~18のアルキル基であり、Rは炭素原子数1~5のアルキル基であり、nは1または2の数である)
で表されるアルコキシシランであり、
(E
)以下の成分(e1)~(e3)から選ばれる1種類以上の成分
(e1) アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物、
(e2) 一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し,かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物、
(e3) 一般式:
R
a
nSi(OR
b)
4-n
(式中、R
aは一価のエポキシ基含有有機基であり、R
bは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物、および(F)触媒量の縮合反応用触媒
を含有してなり、個別に保存される以下の(I)液および(II)液を少なくとも含むことを特徴とする、多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
(I)液: 成分(A)および成分(C)を含み、成分(D)は任意で選択可能であり、成分(B)、(E)、(F)を含まない組成物
(II)液:成分(B)、(C)、(D)、(E)および(F)を含み、成分(A)を含まない組成物
【請求項2】
さらに、(G)アミノアルキルメトキシシランを含有する、請求項1に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
室温硬化性であり、硬化により、熱伝導性オルガノポリシロキサン硬化物を形成することを特徴とする、
請求項1
又は2に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物からなる熱伝導性部材。
【請求項5】
請求項
4に記載の熱伝導性部材を備えた放熱構造体。
【請求項6】
放熱部品または該放熱部品を搭載した回路基板に、請求項1~
3のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物を介して放熱部材を設けてなる放熱構造体。
【請求項7】
電気・電子機器である、請求項
5又は6に記載の放熱構造体。
【請求項8】
電気・電子部品または二次電池である、請求項
5又は6に記載の放熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率を有しながら、室温下で優れた深部硬化性を有し、各種基材への接着性に優れ、かつ、放熱部品等に対する密着性に優れた硬化性オルガノポリシロキサン組成物、それからなる熱伝導性部材およびそれを用いる放熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トランジスター、IC、メモリー素子等の電子部品を登載したプリント回路基板やハイブリッドICの高密度・高集積化、二次電池(セル式)の容量の増大にともなって、電子部品や電池等の電子・電気機器から発生する熱を効率よく放熱するために、オルガノポリシロキサン、および酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末等の熱伝導性充填剤からなる熱伝導性シリコーン組成物が広く利用されており、特に、高い放熱量に対応すべく、多量の熱伝導性充填剤を充填した熱伝導性シリコーン組成物が提案されている。たとえば、特許文献1には、水酸基末端を有するジオルガノシロキサン、アルコキシシリル基を有するジオルガノポリシロキサンを併用した室温湿気増粘型熱伝導性シリコーングリース組成物が提案されている。しかしながら、かかる組成物は、室温下での硬化速度と深部硬化性が不十分であり、各種基材への接着性について未だ改善の余地があった。
【0003】
一方、本件出願人らは、空気中の水分と接触することにより室温で硬化し、硬化途上で接触している基材に対して良好な接着性を示す室温硬化性シリコーンゴム組成物として、トリメトキシシリルエチル含有基等の特定のアルコキシシリル基を有するジオルガノポリシロキサン、当該アルコキシシリル基および水酸基を有しないオルガノポリシロキサン、架橋剤であるアルコキシシランまたはその加水分解物、および縮合反応触媒からなる室温硬化性シリコーンゴム組成物を提案している(特許文献2)。しかしながら、特許文献2に係る室温硬化性シリコーンゴム組成物は、室温下での硬化速度が不十分であり、各種基材への接着性について未だ改善の余地があった。さらに、特許文献2には、高い放熱量に対応すべく、多量の熱伝導性充填剤を充填した熱伝導性シリコーン組成物について、なんら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-91683号公報
【文献】特開2012-219113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、高熱伝導性であり、熱伝導性無機充填剤を高充填化した場合であっても、混合後の組成物全体が高い流動性を維持するために間隙の多い電子部品等に対する精密塗布性およびギャップフィル性に優れ、かつ、室温における深部硬化性および接着性に優れた、多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。更に得られる熱伝導性硬化物は硬化密着性に優れ、電子部品と放熱構造体の熱膨張率の違いにより生じる応力を緩和することにより、部材の破損を防止できる。また、本発明は、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いた熱伝導性部材、同部材を用いた放熱構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鋭意検討の結果、本発明者らは、
(A)分子鎖末端がヒドロキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)分子鎖末端がアルコキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン、(A)成分100質量部に対して50~200質量部、
(C)熱伝導性充填剤 400~3,500質量部、
(D)成分(C)の表面処理剤である有機ケイ素化合物 成分(C)に対して0.1~2.0質量%となる量、
(E)
アルキルアルコキシシランおよび以下の成分(e1)~(e3)から選ばれる1種類以上の成分
(e1) アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物、
(e2) 一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し,かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物、
(e3) 一般式:
Ra
nSi(ORb)4-n
(式中、Raは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rbは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物、および
(F)触媒量の縮合反応用触媒
を含有してなり、個別に保存される以下の(I)液および(II)液を少なくとも含むことを特徴とする、多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物により、上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。なお、成分(D)と成分(E)は同一の成分であっても異なる成分であってもよく、成分(D)および成分(E)の少なくとも一部がアルキルアルコキシシランであってよい。
(I)液: 成分(A)および成分(C)を含み、成分(D)は任意で選択可能であり、成分(B)、(E)、(F)を含まない組成物
(II)液:成分(B)、(C)、(D)、(E)および(F)を含み、成分(A)を含まない組成物
【0007】
すなわち、上記課題は、以下の発明により好適に解決可能である。
[1]
(A)分子鎖末端がヒドロキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)分子鎖末端がアルコキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン、(A)成分100質量部に対して50~200質量部、
(C)熱伝導性充填剤 400~3,500質量部、
(D)成分(C)の表面処理剤である有機ケイ素化合物 成分(C)に対して0.1~2.0質量%となる量、
(E)アルキルアルコキシシランおよび以下の成分(e1)~(e3)から選ばれる1種類以上の成分
(e1) アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物、
(e2) 一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し,かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物、
(e3) 一般式:
Ra
nSi(ORb)4-n
(式中、Raは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rbは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物、および
(F)触媒量の縮合反応用触媒
を含有してなり、個別に保存される以下の(I)液および(II)液を少なくとも含むことを特徴とする、多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
(I)液: 成分(A)および成分(C)を含み、成分(D)は任意で選択可能であり、成分(B)、(E)、(F)を含まない組成物
(II)液:成分(B)、(C)、(D)、(E)および(F)を含み、成分(A)を含まない組成物
[2] さらに、(G)アミノアルキルメトキシシランを含有する、[1]に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[3] 成分(D)の少なくとも一部が、アルキルアルコキシシランであることを特徴とする、[1]~[2]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[4] 成分(D)および成分(E)の少なくとも一部が、アルキルアルコキシシランであることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[5] 室温硬化性であり、硬化により、熱伝導性オルガノポリシロキサン硬化物を形成することを特徴とする、
[1]~[4]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物からなる熱伝導性部材。
[7] [6]に記載の熱伝導性部材を備えた放熱構造体。
[8] 放熱部品または該放熱部品を搭載した回路基板に、[1]~[5]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物を介して放熱部材を設けてなる放熱構造体。
[9] 電気・電子機器である、[7]または[8]に記載の放熱構造体。
[10] 電気・電子部品または二次電池である、[7]または[8]に記載の放熱構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高熱伝導性であり、熱伝導性無機充填剤を高充填化した場合であっても、混合後の組成物全体が高い流動性を維持するために間隙の多い電子部品等に対する精密塗布性およびギャップフィル性に優れ、かつ、室温における深部硬化性および接着性に優れた、多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物が提供される。更に、得られる熱伝導性のオルガノポリシロキサン硬化物は硬化密着性に優れ、電子部品と放熱構造体の熱膨張率の違いにより生じる応力を緩和することにより、部材の破損を防止できる。また、本発明により、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いた熱伝導性部材、同部材を用いた放熱構造体(特に、電気・電子部品の放熱構造および二次電池の放熱構造を含む、電気・電子機器の放熱構造体)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[多成分硬化型熱伝導性オルガノポリシロキサン組成物]
本発明に係る組成物は、
(A)分子鎖末端がヒドロキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)分子鎖末端がアルコキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン、(C)熱伝導性充填剤、(D)成分(C)の表面処理剤である有機ケイ素化合物、(E)アルキルアルコキシシラン等の成分、および(F)縮合反応用触媒を含有してなり、個別に保存される以下の(I)液および(II)液を少なくとも含む多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。ここで、成分(D)と成分(E)の少なくとも一部は同一であってもよく、成分(D)と成分(E)が異なる成分であってもよい。特に、成分(D)と成分(E)の少なくとも一部が共にデシルトリメトキシシラン等のアルキルアルコキシシランである組成物は、本願発明の範囲に好適に包含される。
【0010】
本発明において、個別に保存される各組成物は、上記の成分(A)および成分(F)を同時に含まないことが必要である。これは、成分(A)および成分(F)を同時に配合すると縮合反応による架橋反応が自発的に始まり、当該組成物の貯蔵安定性が短期間に失われ、多成分硬化型組成物の目的である長期にわたる貯蔵安定性および取扱作業性が実現できなくなるためである。
【0011】
本発明において、(I)液および(II)液を少なくとも含むとは、個別に保存される組成物であって、以下に定義される二つの異なる組成物を少なくとも含む、複数の組成物から構成される多成分硬化型の組成物であることを意味するものであり、2成分以上の個別に保存される組成物から構成されていれば特に制限されるものではない。なお、これらの成分は、個別に保存される際に容器にパッケージされていることが好ましく、使用時に共通容器中でミキサー等の機械力を用いて攪拌したり、多成分の混合に対応したディスペンサー等を用いて混合されて塗布ないし適用される。組成物の取扱作業性および混合操作の簡便の見地から、本発明の多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、実質的に、下記の(I)液および(II)液から構成される、2成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物であることが好ましい。
【0012】
[(I)液:ヒドロキシシリル末端ジオルガノポリシロキサンおよび熱伝導性充填剤を含む組成物]
(I)液は、本組成物の主剤である、ヒドロキシシリル末端ジオルガノポリシロキサンを含む組成物であり、前記の成分(A)および成分(C)を含み、成分(D)は任意で選択可能であり、成分(B)、(E)、(F)を含まない組成物であることが必要であり、その他の成分を含んでも良い。
【0013】
[(II)液:縮合反応用触媒等を含む組成物]
(II)液は、アルコキシシリル末端ジオルガノポリシロキサン、縮合反応触媒、表面処理剤、接着促進剤等を含む組成物であり、前記の成分(B)~(F)を含み、成分(A)を含まない組成物であることが必要であり、任意で、一部の成分(G)またはその他の成分を含んでも良い。なお、上記のとおり、成分(D)と成分(E)の少なくとも一部は同一の成分であってもよい。
【0014】
本発明組成物は、高い熱伝導率を実現するために、組成物全体として大量の熱伝導性充填剤を含有するものであり、これらの(I)液および(II)液は、両液を均一に混合する見地から、成分(C)の含有量が、各々の組成物全体の85~98質量%の範囲であることが好ましい。なお、(II)液は、成分(C)の表面処理剤である有機ケイ素化合物を含むので、分離を抑制し、組成物全体として大量の熱伝導性充填剤を含有させ、組成物の熱伝導率が2.0W/mK以上、好適には3.5W/mK以上、より好適には4.0W/mK以上となる組成を設計することが可能である。
【0015】
本発明にかかる多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、組成物全体としても、上記の(I)液および(II)液である各組成物としても、大量の熱伝導性充填剤を含有する組成を設計することが可能であり、組成物全体の熱伝導率および取扱作業性をなんら損なうことなく、深部硬化性および接着性に優れ、かつ、実用上十分な保存安定性を実現するものである。さらに、本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、混合後の組成物全体が実用上十分な流動性を維持するために間隙の多い電子部品等に対する精密塗布性およびギャップフィル性に優れ、かつ、特に深部における硬化不良を起こすことなく、部材に対する硬化密着性に優れる熱伝導性のオルガノポリシロキサン硬化反応物を与えることができる。
【0016】
上記のとおり、本発明の多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、その使用に際して、(I)液および(II)液を含む、個別に保存される複数の組成物を混合して使用する。その混合方法としては、保存容器から計量ポンプを用いて多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の各成分を機械的混合装置(例えば、スタティックミキサー等の汎用ミキサー)に導入して混合使用する方法、あるいは、各成分のパッケージを装填し、一定の体積量ないし体積比で各成分を絞り出すことにより混合可能なディスペンサーの使用が例示される。なお、開放系のミキサーで多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の各成分を混合して使用する際には混合物を脱泡操作してから使用してもよく、かつ、好ましい。本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を構成する(I)液および(II)液は、長期の貯蔵安定性に優れ、分離の問題を生じず、かつ、簡便な方法により均一混合可能であるため、取扱作業性に著しく優れる。
【0017】
以下、本発明にかかる多成分型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の構成成分について説明する。
【0018】
[(A)分子鎖末端がヒドロキシシリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン]
(A)成分は、上記硬化性オルガノポリシロキサン組成物(I)液成分の主剤であり、必要に応じて(A-1)分子鎖両末端がヒドロキシシリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンと(A-2)分子鎖の片末端のみがヒドロキシシリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンジオルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0019】
(A)成分において、(A-2)成分が多すぎると硬化後のシリコーンエラストマーの
強度が低下したり、基体との接着性が低下したりする傾向がある。その混合比は、質量比で(A-1):(A-2)=100:0~20:80の範囲にあることが好ましく、(A-1):(A-2)=100:0~60:40の範囲であることがより好ましく、(A-1):(A-2)=95:5~70:30の範囲であることが更に好ましく、(A-1):(A-2)=95:5~80:20の範囲であることが最も好ましい。
【0020】
また、(A)成分の粘度は低すぎると硬化後のシリコーンエラストマーの強度が低くなり、高すぎると製造時および混合後の組成物が過度に高粘度となり、得られるオルガノポリシロキサン組成物の取扱作業性およびギャップフィル性が低下する傾向がある。
25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sの範囲内にあることが好ましく、100~200,000mPa・sの範囲内にあることがより好ましい。なお、(A)成分が(A-1)成分と(A-2)成分の混合物である場合は、上記粘度は混合物としての粘度である。
【0021】
好ましい(A-1)成分は一般式:
【化1】
で表されるジオルガノポリシロキサンである。式中、R1は水素原子であり、aは2である。R2は一価炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基およびシアノアルキル基から選ばれる基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルフロピル基等のアラルキル基;トリフルオロプロピル基、クロロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基;β-シアノエチル基、γ-シアノプロピル基等のシアノアルキル基が例示される。中でもメチル基であることが好ましい。
【0022】
Yは酸素原子、二価炭化水素基、または一般式:
【化2】
(式中、R2は前記と同じであり、Zは二価炭化水素基である。)で示される基である。二価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキセン基などの炭素原子1~10のアルキレン基であることが好ましい。nは25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sとなるような数である。
【0023】
(A-1)成分は周知の方法、例えば、特公平3-4566号公報、特開昭63-270762公報に記載された方法により製造することができる。
【0024】
(A-2)成分は本発明組成物の硬化物であるシリコーンエラストマーのモジュラスを低くしたり、難接着性の基材への接着性を向上させたりする働きをする。好ましい(A-2)成分としては、一般式:
【化3】
で示されるジオルガノポリシロキサンである。式中、R1、R2、Y、aは前記と同じであり、R3はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基であり、好ましくは炭素原子数1~10のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。mは25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sとなるような数を表す。
【0025】
(A-2)成分は周知の方法、例えば、特開平4-13767号公報、特開昭63-270762号公報に記載された方法により製造することができる。
なお、これらの成分(A)であるジオルガノポリシロキサンからは、接点障害防止等の見地から、低分子量のシロキサンオリゴマー(オクタメチルテトラシロキサン(D4)、デカメチルペンタシロキサン(D5))が低減ないし除去されていることが好ましい。
【0026】
[(B)分子鎖末端がアルコキシシリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサン]
(B)成分は、上記硬化性オルガノポリシロキサン組成物(II)液成分の主剤であり、必要に応じて(B-1)分子鎖両末端がアルコキシシリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンと(B-2)分子鎖の片末端のみがアルコキシシリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンジオルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0027】
また、(B)成分の粘度は低すぎると硬化後のシリコーンエラストマーの強度が低くなり、高すぎると製造時および使用時の作業性が低下するので、25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sの範囲内にあることが好ましく、100~200,000mPa・sの範囲内にあることがより好ましい。なお、(B)成分が(B-1)成分と(B
-2)成分の混合物である場合は、上記粘度は混合物としての粘度である。
【0028】
好ましい(B-1)成分は一般式:
【化4】
で表されるジオルガノポリシロキサンである。式中、R1はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基などの炭素原子数1~10のアルキル基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエトキシ基などのアルコキシアルキル基から選択される基であり、メチル基、エチル基であることが好ましい。R2は一価炭化水素基、ハロゲン化炭化水素基およびシアノアルキル基から選ばれる基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルフロピル基等のアラルキル基;トリフルオロプロピル基、クロロプロピル基等のハロゲン化炭化水素基;β-シアノエチル基、γ-シアノプロピル基等のシアノアルキル基が例示される。中でもメチル基であることが好ましい。なお、aは0、1または2である。
【0029】
Yは酸素原子、二価炭化水素基、または一般式:
【化5】
(式中、R2は前記と同じであり、Zは二価炭化水素基である。)で示される基である。二価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキセン基などの炭素原子1~10のアルキレン基であることが好ましい。nは25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sとなるような数である。
【0030】
(B-1)成分は周知の方法、例えば、特公平3-4566号公報、特開昭63-270762公報に記載された方法により製造することができる。
【0031】
(B-2)成分は本発明組成物の硬化物であるシリコーンエラストマーのモジュラスを低くしたり、難接着性の基材への接着性を向上させたりする働きをする。好ましい(B-2)成分としては、一般式:
【化6】
で示されるジオルガノポリシロキサンである。式中、R1、R2、Y、aは前記と同じであり、R3はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基であり、好ましくは炭素原子数1~10のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。mは25℃における粘度が20~1,000,000mPa・sとなるような数を表す。
【0032】
(B-2)成分は周知の方法、例えば、特開平4-13767号公報、特開昭63-2
70762号公報に記載された方法により製造することができる。
なお、これらの成分(B)であるジオルガノポリシロキサンからは、接点障害防止等の見地から、低分子量のシロキサンオリゴマー(オクタメチルテトラシロキサン(D4)、デカメチルペンタシロキサン(D5))が低減ないし除去されていることが好ましい。
【0033】
[(C)熱伝導性充填剤]
成分(C)は、上記の(I)液および(II)液に共通する構成成分であり、本組成物および本組成物を硬化させてなる熱伝導性部材に熱伝導性を付与するための熱伝導性充填剤である。このような成分(C)としては、純金属、合金、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属ケイ化物、炭素、軟磁性合金及びフェライトからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の粉末及び/又はファイバーであることが好ましく、金属系粉末、金属酸化物系粉末、金属窒化物系粉末、または炭素粉末が好適である。
【0034】
かかる熱伝導性充填剤は、後述する成分(D)であるアルコキシシラン等の表面処理剤により、その全部又は一部について表面処理がなされていることが好ましい。しかしながら、(I)液の成分として用いる場合には、表面処理が必ずしもなされていなくても良い。
【0035】
純金属としては、ビスマス、鉛、錫、アンチモン、インジウム、カドミウム、亜鉛、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄及び金属ケイ素が挙げられる。合金としては、ビスマス、鉛、錫、アンチモン、インジウム、カドミウム、亜鉛、銀、アルミニウム、鉄及び金属ケイ素からなる群から選択される二種以上の金属からなる合金が挙げられる。金属酸化物としては、アルミナ、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化クロム及び酸化チタンが挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、及び水酸化カルシウムが挙げられる。金属窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素が挙げられる。金属炭化物としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素及び炭化チタンが挙げられる。金属ケイ化物としては、ケイ化マグネシウム、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化タンタル、ケイ化ニオブ、ケイ化クロム、ケイ化タングステン及びケイ化モリブデンが挙げられる。炭素としては、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、活性炭及び不定形カーボンブラックが挙げられる。軟磁性合金としては、Fe-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金、Fe-Ni-Mo合金、Fe-Co合金、Fe-Si-Al-Cr合金、Fe-Si-B合金及びFe-Si-Co-B合金が挙げられる。フェライトとしては、Mn-Znフェライト、Mn-Mg-Znフェライト、Mg-Cu-Znフェライト、Ni-Znフェライト、Ni-Cu-Znフェライト及びCu-Znフェライトが挙げられる。
【0036】
なお、成分(C)として好適には、銀粉末、アルミニウム粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、窒化アルミニウム粉末またはグラファイトである。また、本組成物に、電気絶縁性が求められる場合には、金属酸化物系粉末、または金属窒化物系粉末であることが好ましく、特に、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、または窒化アルミニウム粉末であることが好ましい。
【0037】
成分(C)の形状は特に限定されないが、例えば、球状、針状、円盤状、棒状、不定形状が挙げられ、好ましくは、球状、不定形状である。また、成分(D)の平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは、0.01~100μmの範囲内であり、さらに好ましくは、0.01~50μmの範囲内である。
【0038】
成分(C)は、(C1)平均粒径が0.1~150μmである板状の窒化ホウ素粉末、(C2)平均粒径が0.1~500μmである顆粒状若しくは球状に成形された窒化ホウ素粉末、(C3)平均粒径が0.01~50μmである球状溶融固化及び/若しくは破砕状の酸化アルミニウム粉末、又は(C4)平均粒径が0.01~50μmである球状及び/若しくは破砕状グラファイト、或いはこれらの2種類以上の混合物であることが特に好ましい。最も好適には、平均粒径が0.01~50μmである球状および破砕状の酸化アルミニウム粉末の2種類以上の混合物である。特に、粒径の大きい酸化アルミニウム粉末と粒径の小さい酸化アルミニウム粉末を最密充填理論分布曲線に従う比率で組み合わせることにより、充填効率が向上して、低粘度化及び高熱伝導化が可能になる。
【0039】
成分(C)の含有量は、(I)液および(II)液の各々について、組成物全体における成分(A)100質量部に対して400~3,500質量部の範囲内であり、好ましくは、600~3,000質量部の範囲内である。すなわち、組成物全体として、(I)液および(II)液中の成分(C)の総和は800~7000質量部の範囲であり、当該総和は1200~6000質量部の範囲であってよく、2400~5500質量部の範囲であってもよい。これは、成分(C)の含有量が上記範囲の下限未満であると、得られる組成物の熱伝導性が2.0W/mK未満となり、一方、上記範囲の上限を超えると、成分(D)を配合又は成分(C)の表面処理に用いた場合であっても、得られる組成物の粘度が著しく高くなり、その取扱作業性、ギャップフィル性等が低下するからである。
【0040】
本発明組成物は、好適には、熱伝導性が2.0W/mK以上であり、成分(C)の含有量は、組成物全体の85~98質量%の範囲であることが好ましく、87~95質量%の範囲であることがより好ましい。上記範囲内においては、本発明の目的である優れたギャップフィル性および流動性を維持しながら、2.0W/mK以上、好適には3.5W/mK以上、より好適には4.0W/mK以上、特に好適には5.0W/mK以上の熱伝導率を実現する熱伝導性の硬化性オルガノポリシロキサン組成物が設計可能である。
【0041】
[その他の無機充填剤]
本発明の組成物は、任意成分として、例えば、ヒュームドシリカ、湿式シリカ、粉砕石英、酸化チタン、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、ケイ藻土、カーボンブラック等の無機充填剤(「無機充填材」ともいう)、こうした無機充填剤の表面を有機ケイ素化合物(シラザン類等)により疎水処理してなる無機充填剤を配合することを完全に妨げられるものではないが、本発明の技術的効果、特に、高い熱伝導性およびギャップフィル性を両立する見地からは、成分(C)以外の充填剤を実質的に含まないことが好ましい。特に、補強性シリカ類のような広いBET比表面積を持った補強性充填剤を本組成に配合した場合、3.5W/mK以上の熱伝導性を与える量の成分(C)を組成中に配合して、本発明に特徴的なレオロジー特性を実現することが困難となる場合がある。なお、「実質的に含まない」とは、組成中における成分(C)以外の充填剤の含有量が1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満であることがより好ましい。なお、最も好適には、成分(C)以外の充填剤の意図的な添加量が組成中に0.0質量%であることである。
【0042】
[成分(C)の表面処理]
本組成物は、成分(C)の表面処理剤である有機ケイ素化合物を、本発明の成分(C)全体を100質量%とした場合、0.1~2.0質量%の範囲で配合されており、成分(C)がこれらの成分により表面処理されていることが好ましい。成分(C)の表面処理工程は任意であるが、本組成物に実用的な流動性およびギャップフィル性を実現する見地から、特に成分(D)により、成分(C)の少なくとも一部が表面処理されている工程が好適に例示される。
【0043】
[(D)成分(C)の表面処理剤である有機ケイ素化合物]
成分(D)は成分(C)の表面処理剤であり、成分(C)の配合量を改善し、かつ、組成物全体の粘度および流動性を改善する成分であり、組成物全体として、実用上十分な流動性およびギャップフィル性を実現することができる。このような成分(D)は公知の有機ケイ素化合物を特に制限なく使用することができるが、特に、後述する成分(D1):分子内に炭素原子数6以上のアルキル基を有するアルコキシシランを含むことが好適である。なお、前記のとおり、成分(D)および成分(E)の少なくとも一部は、アルキルアルコキシシランであってもよく、かつ、好ましい。すなわち、アルキルトリアルコキシシラン等のアルキルアルコキシシランは、成分(D)としても、成分(E)の一部または全部としても利用可能な成分であり、成分(D)および成分(E)が共にアルキルアルコキシシランである実施形態は、本発明の好適な形態に包含される。
【0044】
有機ケイ素化合物の例は、シラン、シラザン、シロキサン、又は同様物などの低分子量有機ケイ素化合物、及びポリシロキサン、ポリカルボシロキサン、又は同様物などの有機ケイ素ポリマー又はオリゴマーである。好ましいシランの例は、いわゆるシランカップリング剤である。このようなシランカップリング剤の代表例としては、アルキルトリアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン又は同様物など)、有機官能基含有トリアルコキシシラン(グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、又は同様物など)である。好ましいシロキサン及びポリシロキサンとしては、ヘキサメチルジシロキサン、1,3-ジヘキシル-テトラメチルジシロキサン、トリアルコキシシリル単末端化(single-terminated)ポリジメチルシロキサン、トリアルコキシシリル単末端化ジメチルビニル単末端化ポリジメチルシロキサン、トリアルコキシシリル単末端化有機官能基単末端化ポリジメチルシロキサン、トリアルコキシシリル両末端化(doubly terminated)ポリジメチルシロキサン、有機官能基両末端化ポリジメチルシロキサン、又は同様物が挙げられる。シロキサンを使用するとき、シロキサン結合の数nは、好ましくは2~150の範囲である。好ましいシラザンの例は、ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジヘキシル-テトラメチルジシラザン、又は同様物である。好ましいポリカルボシロキサンの例は、ポリマー主鎖内にSi-C-C-Si結合を有するポリマーである。
【0045】
成分(D)であるシランカップリング剤は、一般式:
R1
(4-c)Si(OR2)c
で表される。式中、R1は、一価炭化水素基、エポキシ基含有有機基、メタクリル基含有有機基、またはアクリル基含有有機基である。R1の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、ターシャリーブチル基、イソブチル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の置換もしくは非置換の一価炭化水素基が例示される。また、R4のエポキシ基含有有機基としては、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基等のグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基等のエポキシシクロヘキシルアルキル基が例示される。また、R1のメタクリル基含有有機基としては、3-メタクリロキシプロピル基、4-メタクリロキシブチル基等のメタクリロキシアルキル基が例示される。また、R1のアクリル基含有有機基としては、3-アクリロキシプロピル基、4-アクリロキシシブチル基等のアクリロキシアルキル基が例示される。
【0046】
R2はアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、が例示される。R2のアルキル基としては、前記と同様の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、および環状アルキル基が例示され、R2のアルコキシアルキル基としては、メトキシエチル基、メトキシプロピル基が例示され、R2のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が例示され、R2のアシル基としては、アセチル基、オクタノイル基が例示される。
【0047】
cは1~3の整数であり、好ましくは3である。
【0048】
このような成分(D)であって、成分(D1)以外のものとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、ブテニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが例示される。
【0049】
[(D1)アルキルアルコキシシラン]
成分(D1)は、本組成物における好適な成分であり、分子内に炭素原子数6以上のアルキル基を有するアルコキシシランである。ここで、炭素原子数6以上のアルキル基の具体例としてはヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基やベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられるが、特に炭素数6~20のアルキル基が好ましい。炭素原子数6未満のアルキル基を有するアルコキシシランの場合、組成物の粘度を低下させる効果が不十分であり、組成物の粘度が上昇して、所望の流動性およびギャップフィル性が実現できない場合がある。また、炭素原子数20以上のアルキル基等を有するアルコキシシランを用いた場合、工業的供給性に劣るほか、成分(A)の種類によっては、相溶性が低下する場合がある。
【0050】
好適には、成分(D1)は、下記構造式:
YnSi(OR)4-n
(式中、Yは炭素原子数6~18のアルキル基であり、Rは炭素原子数1~5のアルキル基であり、nは1または2の数である)
で表されるアルコキシシランであり、OR基としてメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが例示され、特にメトキシ基及びエトキシ基が好ましい。また、nは1,2又は3であり、特に1であることが好ましい。
【0051】
このような成分(E1)は、具体的には、C6H13Si(OCH3)3、C8H17Si(OC2H5)3、C10H21Si(OCH3)3、C11H23Si(OCH3)3、C12H25Si(OCH3)3、C14H29Si(OC2H5)3等が例示され、最も好適には、デシルトリメトキシシランである。
【0052】
[(D2)分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有するポリシロキサン型の表面処理剤]
成分(D2)は、分子鎖片末端に加水分解性シリル基を有し、かつ、ポリシロキサン構造を有する表面処理剤であり、成分(C)を、好適には、成分(D1)で表面処理した後に、次いで、成分(D2)による表面処理を行うことにより、成分(C)である熱伝導性充填剤が大量に配合されても、本組成物の深部硬化性および接着性を損なうことなく、硬化前の組成物が実用上十分な流動性およびギャップフィル性を備える多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することができる場合がある。
【0053】
具体的には、成分(D2)は、分子鎖末端に加水分解性シリル基を有するオルガノポリシロキサンであり、その構造は特に制限されるものではないが、このような成分(F)は、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるオルガノポリシロキサン、またはそれらの混合物である。
(i) 一般式(1):
【化7】
(1)
(式中、R
1は独立に非置換または置換の一価炭化水素基であり、R
2は独立に水素原子、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基であり、aは5~250の整数であり、bは1~3の整数である。)で表され、25℃における粘度が10~10,000mP・s未満であるオルガノポリシロキサン
【0054】
[(E)架橋剤かつ接着促進剤としての機能を有する成分]
成分(E)は、架橋剤かつ接着促進剤としての機能を有する成分であり、成分(D)として前記したアルキルトリアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン又は同様物など)等のアルキルアルコキシシランおよび以下の成分(e1)~(e3)から選ばれる1種類以上の成分であり、過酷な環境下で使用した場合であっても、接着耐久性と接着強度にさらに改善され、電気・電子部品の信頼性・耐久性を長期間に渡って維持することを可能とするものである。
(e1) アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物、
(e2) 一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し,かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物、
(e3) 一般式:
Ra
nSi(ORb)4-n
(式中、Raは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rbは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物
【0055】
成分(e1)は、アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物である。このような成分(e1)は、硬化途上で接触している各種基材に対する初期接着性、特に未洗浄被着体に対しても低温接着性を付与するための成分である。また、本接着促進剤を配合した硬化性組成物の硬化系によっては、架橋剤としても作用する場合もある。このような反応混合物は、特公昭52-8854号公報や特開平10-195085号公報に開示されている。
【0056】
このような成分(e1)を構成するアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとしては、アミノメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノメチルトリブトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アニリノプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0057】
また、エポキシ基含有オルガノアルコキシシランとしては、3-グリシドキシプロリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランが例示される。
【0058】
これらアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとの比率はモル比で、(1:1.5)~(1:5)の範囲内にあることが好ましく、(1:2)~(1:4)の範囲内にあることが特に好ましい。この成分(e1)は、上記のようなアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとを混合して、室温下あるいは加熱下で反応させることによって容易に合成することができる。
【0059】
特に、本発明においては、特開平10-195085号公報に記載の方法により、アミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとを反応させる際、特に、アルコール交換反応により環化させてなる、一般式:
【化8】
{式中、R
1はアルキル基またはアルコキシ基であり、R
2は同じかまたは異なる一般式:
【化9】
(式中、R
4はアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基であり、R
5は一価炭化水素基であり、R
6はアルキル基であり、R
7はアルキレン基であり、R
8はアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、aは0、1、または2である。)
で表される基からなる群から選択される基であり、R
3は同じかまたは異なる水素原子もしくはアルキル基である。}
で表されるカルバシラトラン誘導体を含有することが特に好ましい。このようなカルバシラトラン誘導体として、以下の構造で表される1分子中にアルケニル基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有するシラトラン誘導体が例示される。
【化10】
(式中、Rcはメトキシ基、エトキシ基、ビニル基、アリル基およびヘキセニル基から選ばれる基)
【0060】
同様に、本発明においては、
下記構造式で表される、シラトラン誘導体を接着付与剤として利用してもよい。
【化11】
式中のR
1は同じかまたは異なる水素原子もしくはアルキル基であり、特に、R
1としては、水素原子、またはメチル基が好ましい。また、上式中のR
2は水素原子、アルキル基、および一般式:-R
4-Si(OR
5)
xR
6
(3-x)で表されるアルコキシシリル基含有有機基からなる群から選択される同じかまたは異なる基であり、但し、R
2の少なくとも1個はこのアルコキシシリル基含有有機基である。R
2のアルキル基としては、メチル基等が例示される。また、R
2のアルコキシシリル基含有有機基において、式中のR
4は二価有機基であり、アルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基が例示され、特に、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチレンオキシプロピレン基、メチレンオキシペンチレン基であることが好ましい。また、式中のR
5は炭素原子数1~10のアルキル基であり、好ましくは、メチル基、エチル基である。また、式中のR
6は置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、好ましくは、メチル基である。また、式中のxは1、2、または3であり、好ましくは、3である。
【0061】
このようなR2のアルコキシシリル基含有有機基としては、次のような基が例示される。
-(CH2)2Si(OCH3)3-(CH2)2Si(OCH3)2CH3
-(CH2)3Si(OC2H5)3-(CH2)3Si(OC2H5)(CH3)2
-CH2O(CH2)3Si(OCH3)3
-CH2O(CH2)3Si(OC2H5)3
-CH2O(CH2)3Si(OCH3)2CH3
-CH2O(CH2)3Si(OC2H5)2CH3
-CH2OCH2Si(OCH3)3-CH2OCH2Si(OCH3)(CH3)2
【0062】
上式中のR3は置換もしくは非置換の一価炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、グリシドキシアルキル基、オキシラニルアルキル基、およびアシロキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも一種の基であり、R3の一価炭化水素基としては、メチル基等のアルキル基が例示され、R3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が例示され、R3のグリシドキシアルキル基としては、3-グリシドキシプロピル基が例示され、R3のオキシラニルアルキル基としては、4-オキシラニルブチル基、8-オキシラニルオクチル基が例示され、R3のアシロキシアルキル基としては、アセトキシプロピル基、3-メタクリロキシプロピル基が例示される。特に、R3としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基であることが好ましく、さらには、アルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、メチル基、ビニル基、アリル基およびヘキセニル基から選ばれる基が特に好適に例示される。
【0063】
成分(e2)は一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し、かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物であり、単独でも初期接着性を改善するほか、特に前記の成分(e1)および成分(e3)と併用することにより本接着促進剤を含んでなる硬化物に苛酷な条件下での接着耐久性を向上させる働きをする。
【0064】
特に、成分(e2)は、下記の一般式:
【化12】
(式中、R
Cは置換または非置換の炭素原子数2~20のアルキレン基であり、R
Dは各々独立にアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、R
Eは各々独立に一価炭化水素基であり、bは各々独立に0または1である。)で示されるジシラアルカン化合物が好適である。かかる成分(e2)は各種化合物が試薬や製品として市販されており,また必要ならグリニャール反応やヒドロシリル化反応等,公知の方法を用いて合成することができる。例えば、ジエンとトリアルコキシシランまたはオルガノジアルコキシシランとをヒドロシリル化反応させるという周知の方法により合成することができる。
【0065】
式中、REはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基で例示される一価炭化水素基であり、低級アルキル基が好ましい。RDはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;メトキシエチル基等のアルコキシアルキル基であり、その炭素原子数が4以下のものが好ましい。RCは置換または非置換のアルキレン基であり、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基が制限なく用いられ、これらの混合物であっても良い。接着性改善の見地から、炭素数は2~20の直鎖および/または分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、炭素原子数5~10の直鎖および/または分岐鎖状のアルキレン、特に炭素原子数6のヘキシレンが好ましい。非置換アルキレン基はブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基またはこれらの分岐鎖状体であり、その水素原子がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基によって置換されていても構わない。
【0066】
成分(e2)の具体例としては、ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2-ビス(メチルジメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(メチルジエトキシシリル)エタン、1,1-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ブタン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ブタン、1-メチルジメトキシシリル-4-トリメトキシシリルブタン、1-メチルジエトキシシリル-4-トリエトキシシリルブタン、1,4-ビス(メチルジメトキシシリル)ブタン、1,4-ビス(メチルジエトキシシリル)ブタン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1,5-ビス(トリエトキシシリル)ペンタン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ペンタン、1-メチルジメトキシシリル-5-トリメトキシシリルペンタン、1-メチルジエトキシシリル-5-トリエトキシシリルペンタン、1,5-ビス(メチルジメトキシシリル)ペンタン、1,5-ビス(メチルジエトキシシリル)ペンタン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、2,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1-メチルジメトキシシリル-6-トリメトキシシリルヘキサン、1-フェニルジエトキシシリル-6-トリエトキシシリルヘキサン、1,6-ビス(メチルジメトキシシリル)ヘキサン、1,7-ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、2,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、2,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、2,5-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、2,7-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,9-ビス(トリメトキシシリル)ノナン、2,7-ビス(トリメトキシシリル)ノナン、1,10-ビス(トリメトキシシリル)デカン、3,8-ビス(トリメトキシシリル)デカンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上を混合しても良い。本発明において、好適には、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、2,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1-メチルジメトキシシリル-6-トリメトキシシリルヘキサン、1-フェニルジエトキシシリル-6-トリエトキシシリルヘキサン、1,6-ビス(メチルジメトキシシリル)ヘキサンが例示できる。
【0067】
成分(e3)は、一般式:
Ra
nSi(ORb)4-n
(式中、Raは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rbは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物であり、単独でも初期接着性を改善するほか、特に前記の成分(e1)および成分(e2)と併用することにより本接着促進剤を含んでなる硬化物に塩水浸漬などの苛酷な条件下での接着耐久性を向上させる働きをする。なお、成分(e3)は、成分(e1)の構成成分の一つであるが、反応物である成分(e1)(典型的には、環化した反応物であるカルバシラトラン誘導体)との質量比が特定の範囲にあることが発明の技術的効果の点から必要であり、成分(e1)とは別個の成分として添加されることが必要である。
【0068】
このようなエポキシ基含有シランとしては、3-グリシドキシプロリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランが例示される。
【0069】
成分(E)の配合量は限定されないが、接着促進剤および架橋剤としての機能の見地から、成分(E)の質量が、硬化性オルガノポリシロキサン組成物中に0.5~20質量%の範囲であってよく、1.0~10質量%、特に、1.0~5.0質量%含有していることが好ましい。
【0070】
前記のとおり、成分(E)のうち、アルキルアルコキシシランは、成分(D)である表面処理剤としても機能する成分である。本組成物において成分(D)および成分(E)が共にアルキルアルコキシシランを含む場合には、上記の成分(D)として成分(C)の表面処理と異なる工程でアルキルアルコキシシランを添加するか、上記の表面処理剤としての使用量よりも大量にアルキルアルコキシシランを配合してもよい。
【0071】
[(F)縮合反応用触媒]
(F)成分は、前記の(B)成分等と併用することで、本発明に係る組成物の室温~50度以下の加温における硬化性および各種基材への接着性を改善することができる。具体的には、(F)成分は、触媒量の縮合反応触媒であり、前記のオルガノポリシロキサンの縮合反応用を促進して硬化させる。このような成分(F)としては、例えば、ジメチル錫ジネオデカノエートおよびスタナスオクトエート等の錫化合物;テトラ(イソプロポキシ)チタン、テトラ(n-ブトキシ)チタン、テトラ(t-ブトキシ)チタン、ジ(イソプロポキシ)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ(イソプロポキシ)ビス(メチルアセトアセテート)チタン、およびジ(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)チタン等のチタン化合物が例示される。その使用量は触媒量であり、所望の硬化条件に合わせて適宜選択可能であるが、組成物全体中のオルガノポリシロキサンの合計100質量部に対して0.01~5質量部範囲が一般的である。
【0072】
[(G):アミノアルキルメトキシシラン]
アミノアルキルメトキシシランとしては、アミノメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノメチルトリブトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アニリノプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0073】
[任意の耐熱性付与剤]
本発明組成物は、混合後の多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物およびその硬化物の耐熱性改善の見地から、さらに、耐熱性付与剤を含有することが好ましい。なお、本成分は、(I)液および(II)液から選ばれるどちらか一方に配合してもよく、本組成物を3成分以上に設計した場合は、独立した1成分として添加してもよい。本成分として、本発明の組成物およびその硬化物に耐熱性を付与できるものならば特に限定されないが、例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、水酸化セリウム等の金属水酸化物、フタロシアニン化合物、セリウムシラノレ-ト、セリウム脂肪酸塩、オルガノポリシロキサンとセリウムのカルボン酸塩との反応生成物等が挙げられる。特に好適には、フタロシアニン化合物であり、例えば、特表2014-503680号公報に開示された無金属フタロシアニン化合物及び金属含有フタロシアニン化合物からなる群より選択される添加剤が好適に用いられ、金属含有フタロシアニン化合物のうち、銅フタロシアニン化合物が特に好適である。最も好適かつ非限定的な耐熱性付与剤の一例は、29H,31H-フタロシアニナト(2-)-N29,N30,N31,N32銅である。このようなフタロシアニン化合物は市販されており、例えば、PolyOne Corporation(Avon Lake,Ohio,USA)のStan-tone(商標)40SP03がある。
【0074】
このような耐熱性付与剤の配合量は、組成物全体の0.01~5.0質量%の範囲内とするであってよく、0.05~0.2質量%、0.07~0.1質量%の範囲であってもよい。
【0075】
[その他の添加剤]
本発明の多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記した成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、耐寒性付与剤、難燃性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。また、本発明の多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、所望により、公知の接着性付与剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、または非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;誘電性フィラー;電気伝導性フィラー;離型性成分;チクソ性付与剤;防カビ剤などを含むことができる。また、所望により、有機溶媒を添加してもよい。これらの添加剤は、(I)液および(II)液から選ばれるどちらか一方に配合してもよく、本組成物を3成分以上に設計した場合は、独立した1成分として添加してもよい。
【0076】
また、本組成物には、本発明の目的を損なわない限り、その他任意の成分として、例えば、石英微粉末、炭酸カルシウム微粉末、珪藻土微粉末、水酸化アルミニウム微粉末、アルミナ微粉末、水酸化マグネシウム微粉末、マグネシア微粉末、酸化亜鉛微粉末、炭酸亜鉛微粉末、およびこれらの表面をオルガノシラン類、シラザン類、またはシロキサンオリゴマー等で表面処理して疎水化した非補強性充填剤;その他、有機溶剤、防カビ剤、難燃剤、耐熱剤、可塑剤、チクソ性付与剤、硬化促進剤、電極・配線等の腐食防止剤・マイグレーション防止剤および/またはカーボンブラック等の顔料を含有してもよい。
【0077】
[組成物の製造方法]
本発明の多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記の各成分を混合することにより調製でき、例えば(I)液の場合、成分(A)、成分(C)、並びに他の任意の成分を混合することにより調製できる。また、必要に応じて成分(C)、成分(D)を混合し、成分(C)の表面を成分(D)で処理した後、成分(A)を混合することにより調整できる。
【0078】
(II)液の場合、成分(B)、成分(C)、成分(D)を混合し、成分(C)の表面を成分(D)で処理した後、成分(E)、成分(F)、必要に応じて成分(G)、並びに他の任意の成分を混合することにより調製できる。
【0079】
各成分の混合方法は、従来公知の方法でよく特に限定されないが、通常、単純な攪拌により均一な混合物となることから、混合装置を用いた混合が好ましい。こうした混合装置としては特に限定がなく、一軸または二軸の連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサー、ヘンシェルミキサー等が例示される。
【0080】
[組成物の形態およびパッケージ]
本発明の多成分型硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、分液した多成分を使用時に混合する多成分硬化型(多液型、特に二液型を含む)の組成物であり、個別に保存される複数の組成物を所定の比率で混合して使用することができる。なお、これらのパッケージは、後述する硬化方法や塗布手段、適用対象に応じて所望により選択することができ、特に制限されない。
【0081】
[硬化性]
本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は縮合反応性かつ室温硬化性の組成物であり、湿気の存在下、60℃以下、好適には50℃以下、より好適には室温(25℃)~50℃の温度範囲において加水分解反応を伴う縮合反応(特に脱水縮合、脱オキシム縮合または脱アルコール縮合)を主とする硬化反応により、オルガノポリシロキサン硬化物を形成可能である。その硬化プロセスは特に限定されるものではないが、各成分を混合後、15~50℃の温度範囲で、通常、空気中の水分と接触することで速やかに深部まで硬化して、接着性に優れるオルガノポリシロキサン硬化反応物である、熱伝導性のオルガノポリシロキサン硬化物を形成する。こうした硬化物は深部硬化性が良好であり、かつ、硬化途上で接触している基材に対して良好な接着性を示すため、放熱部材に対して空隙や間隙を生じることなく、放熱効率に優れる構造体を形成することができる。
【0082】
[熱伝導率]
本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、熱伝導性充填剤を安定的に高充填することができ、2.0W/mK以上、好適には3.5W/mK以上、より好適には4.0W/mK以上、特に好適には5.0W/mKの熱伝導率を備える。なお、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物においては、4.0~7.0W/mKの組成物およびオルガノポリシロキサン硬化物を設計可能であり、かつ、上記の深部硬化性および部材/基材への高い接着性(硬化接着性)を実現可能である。
【0083】
[用途および放熱構造体]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、熱伝導による発熱性部品の冷却のために、発熱性部品の熱境界面とヒートシンク又は回路基板等の放熱部材との界面に介在させる熱伝達材料(熱伝導性部材)として有用であり、これを備えた放熱構造体を形成することができる。ここで、発熱性部品の種類や大きさ、細部の構造は特に限定されるものではないが、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、高い熱伝導性を有しながら、硬化物の深部硬化性および部材への密着性とギャップフィル性に優れ、硬化不良の問題を生じることなく、微細な凹凸や狭いギャップ構造を有する発熱性部材に対しても密着性と追従性が高く、かつ、シリコーン材料特有の柔軟性を併せ持つことから、電気・電子部品又はセル方式の二次電池類を含む電気・電子機器の放熱構造体に好適に適用される。
【0084】
このような放熱構造体の構造は、特に制限されるものではないが、放熱部品または該放熱部品を搭載した回路基板に、前記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物を介して放熱部材を設けてなる放熱構造体が例示できる。このような構造は、例えば、放熱性部品である電子部品が回路基板上に搭載され、当該電子部品から発生する熱を硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物の薄膜層を介して放熱部材で放熱する構造が例示され、かつ、これらの部材が水平方向に配置され、硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物の薄膜層が、回路基板と放熱部材により垂直方向に挟持された構造が挙げられる。なお、該回路基板上の回路と前記電子部品は電気的に接続されていてもよく、当該回路基板には、電子部品から発生する熱を効率よく伝えるためにビアホールが形成されていてもよい。
【0085】
このような放熱構造体において、硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物は、回路基板と放熱部材とで狭持されるが、その厚さは特に限定されないが、0.1~2mmの範囲であってもずれ落ちることなく、当該組成物が隙間なく充填された電子部品から発生する熱を放熱部材に効率よく伝えることができる。
【0086】
前記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物からなる部材を備えた電気・電子機器は特に制限されるものではないが、例えば、セル方式のリチウムイオン電極二次電池、セルスタック式の燃料電池等の二次電池;プリント基板のような電子回路基板;ダイオード(LED)、有機電界素子(有機EL)、レーザーダイオード、LEDアレイのような光半導体素子がパッケージされたICチップ;パーソナルコンピューター、デジタルビデオディスク、携帯電話、スマートフォン等の電子機器に使用されるCPU;ドライバICやメモリー等のLSIチップ等が例示される。特に、高集積密度で形成された高性能デジタル・スイッチング回路においては、集積回路の性能及び信頼性に対して熱除去(放熱)が主要な要素となっているが、本発明に係る熱伝導性の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物を用いてなる熱伝導性部材は、輸送機中のエンジン制御やパワー・トレーン系、エアコン制御などのパワー半導体用途に適用した場合にも、放熱性および取扱作業性に優れ、電子制御ユニット(ECU)など車載電子部品に組み込まれて過酷な環境下で使用された場合にも、優れた耐熱性および熱伝導性を実現できる。
【0087】
特に、本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、深部硬化性と硬化接着性/密着性に優れるので、水平面だけでなく傾斜面乃至垂直面にも好適に配置することができ、かつ、電気・電子部品や二次電池等の発熱性部品の微細構造にも侵入して間隙(ギャップ)のない放熱構造体を与えることができる。これにより、過酷な温度環境下、垂直に放置されてもずれ落ち難いので、自動車のコントロールユニットの放熱部材および保護材として好適である。また、当該放熱構造体を備えた電気・電子機器について放熱性が改善され、潜熱や熱暴走の問題が改善されるほか、柔軟性と一定の硬さを兼ね備えた熱伝導性のオルガノポリシロキサン硬化物により電気・電子機器の部分構造を保護し、その信頼性と動作安定性を改善できる場合がある。
【0088】
上記の電気・電子機器を構成する材料としては、例えば、樹脂、セラミック、ガラス、アルミニウムのような金属等が挙げられる。本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、各成分を混合した硬化前の硬化性オルガノポリシロキサン組成物(流動体)としても、硬化反応後の熱伝導性のオルガノポリシロキサン硬化物(硬化反応物)としても、これらの基材に適用して使用することができる。
【0089】
[硬化方法]
発熱性部品について、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いた放熱構造を形成する方法は限定されず、例えば、電気・電子部品について放熱部分に本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を注ぎ、十分に間隙まで充填した後、室温で放置したりすることにより、この組成物を硬化させる方法が挙げられる。なお、本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、特に深部硬化性と硬化密着性/接着性に著しく優れるので、硬化不良の問題を起こすことなく、安定した熱伝導性のオルガノポリシロキサン硬化物を与えることができ、放熱対象部材との間に空隙を生じることなく、放熱効果および放熱効率にすぐれた放熱構造体を形成可能である。
【0090】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、湿気の存在下で60℃以下、好適には室温(25℃)~50℃の範囲で硬化して、熱伝導性のオルガノポリシロキサン硬化物を形成可能であり、硬化に必要とする条件は、温度および湿度に依存するが、25℃-RH(相対湿度)50%程度の場合、数時間~数日の範囲が一般的である。なお、湿気の存在下でオルガノポリシロキサン硬化物は徐々に深部硬化が継続する場合があるが、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、各成分を混合後、速やかに深部まで硬化し、硬化不良の問題を生じることなく、放熱対象部材に対する密着性/接着性にすぐれた硬化物を形成する。
【0091】
なお上記の硬化により得られたオルガノポリシロキサン硬化物の形状、厚さおよび配置等は所望により設計可能であり、電気・電子機器の間隙に充填した後に必要に応じて硬化させてもよく、剥離層(セパレータ)を設けたフィルム上に塗布ないし硬化させ、シート状のオルガノポリシロキサン硬化物として単独で取り扱ってもよい。また、その場合、公知の補強材により補強された熱伝導性シートの形態であってもよい。
【0092】
[電気・電子機器の具体例]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、実用上十分な流動性およびギャップフィル性を備え、深部硬化により、硬化不良の問題を生じることなく、放熱対象部材との密着性/接着性に優れ、柔軟かつ熱伝導性に優れたオルガノポリシロキサン硬化物からなる熱伝導性部材を形成するので、電気・電子部品中の電極と電極、電気素子と電気素子、電気素子とパッケージ等の隙間が狭いものや、これらの構造がこのオルガノポリシロキサン硬化物の膨張・収縮に追随しにくい構造を有するものに対しても有効であり、例えば、IC、ハイブリッドIC、LSI等の半導体素子、このような半導体素子、コンデンサ、電気抵抗器等の電気素子を実装した電気回路やモジュール、圧力センサー等の各種センサー、自動車用のイグナイターやレギュレーター、発電システム、または宇宙輸送システム等のパワーデバイス等に対しても使用することができる。特に、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物は深部硬化性が高く、放熱対象部材との硬化密着性に優れるので、これらの電気・電子機器の放熱効率を著しく改善できる利点がある。
【実施例】
【0093】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。以下に示す実施例では下記の化合物ないし組成物を原料に用いた。
【0094】
成分(A)~(G)を各実施例に示す方法で混合して、実施例1~6および比較例1~3の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。実施例1~6は熱伝導性の2液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものであり、これらの組成物は室温硬化性を備える。
【0095】
その後、ポリプロピレンシート上にポリエチレン製バッカーを用いて高さ15mm、縦100mm、横50mmの枠を作成、得られた組成物を充填し、上にテフロン(登録商標)製シートを平滑になるように押し付け、そのままの状態で25℃の雰囲気下で1日硬化させた。硬化後、テフロン(登録商標)製シートとポリエチレン製バッカーを外し、更に25℃の雰囲気下で6日間硬化させ、熱伝導性のオルガノポリシロキサン硬化物を得た。
【0096】
実施例1~6および比較例1~3に示す部数により得られた硬化性オルガノポリシロキサン組成物は3.5W/mKの熱伝導率を得られるように成分(D)を配合している。この熱伝導率は京都電子工業株式会社製TPS-500Sを使用して、ホットディスク法にて測定された値である。
【0097】
本発明に関わる効果に関する試験は次のように行った。
【0098】
[粘度]
硬化性オルガノポリシロキサン組成物の25℃における粘度(Pa・s)を、粘度計(アントンパール社製レオコンパスMCR102)を用いて測定した。ジオメトリーは直径20mmのパラレルプレートを用い、ギャップ600μmでシェアレイト10.0(1/s)の値を測定した。
【0099】
[硬化性オルガノポリシロキサン組成物の可使時間の評価方法]
個別に保存されたシリコーンエラストマーベース組成物((I)液)と架橋剤組成物((II)液)を評価温度雰囲気中で24時間以上放置した後、混合し、各評価温度雰囲気下に放置した。試料を金属ヘラですくったときに粘性が失われて塑性が発現するまでの時間を測定し、スナップタイムとした。可使時間の評価は25℃で行った。
【0100】
[硬化性オルガノポリシロキサン組成物の接着性の評価方法]
硬化性オルガノポリシロキサン組成物の混合物を2枚のアルミテストパネル(アルマイトA5052P)の間に、それぞれ1mmと100μmとなるように挟み込み、温度25±2℃、湿度50±5%の条件下で静置して硬化させた。得られた接着試験体の引張りせん断接着強さをそれぞれ1日後、7日後にJIS K 6850:1999「接着剤-剛性被着材の引張りせん断接着強さ試験方法」に規定の方法に準じて測定した。
【0101】
以下に示す実施例等では下記の化合物ないし組成物を原料に用いた。粘度は25℃において回転粘度計により測定された値である。
【0102】
成分(A):
A-1:末端が水酸基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(粘度420mPa・s、末端率85%、15%トリメチルシロキシ基封鎖)
A-2:片末端が水酸基で封鎖され、他の末端がトリメチルシロキシ基で鎖されたジメチルシロキサン(粘度24mPa・s)
【0103】
成分(B):
[(B-1)成分:下記アルコキシシリル含有基を有するオルガノポリシロキサン]
【化13】
(b1-1)両末端変性ポリシロキサン: 分子鎖の両末端に前記のアルコキシシリル含有基を有するジメチルポリシロキサン(粘度400mPa・s)
(b1-2)片末端変性(Vi)シロキサン:分子鎖の片末端のみに前記のアルコキシシリル含有基を有し、他の末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン(粘度400mPa・s、Vi含有量0.04質量%)
(b1-3)両末端Viポリシロキサン:分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン(粘度400mPa・s、Vi含有量0.08質量%)
以上、(b1-1)~(b1-3)成分は、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン(粘度400mPa・s)に、ビニル基あたり0.8
モル当量となるように下記アルコキシシリル含有シロキサンをヒドロシリル化反応用触媒の存在下でヒドロシリル化反応することにより調製して得た混合物である
【化14】
【0104】
成分(C):
C-1:平均粒子径0.4μmの破砕状酸化アルミニウム粉末
C-2:平均粒子径2.5μmの破砕状酸化アルミニウム粉末
C-3:平均粒子径35μmの球状溶融固化酸化アルミニウム粉末
【0105】
成分(D):
D-1:デシルトリメトキシシラン
【0106】
成分(E):
E-1:デシルトリメトキシシラン
E-2:1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン
E-3:下式で示されるシラトラン誘導体(アミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとの環化縮合反応物)
【化15】
【0107】
成分(F):
F-1:ジメチルスズジネオデカノエート
成分(G):
G-1:N-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン
顔料:酸化鉄/オルガノポリシロキサンマスターバッチ
【0108】
[実施例1]
成分(A-1)90.9質量部、成分(A-2)9.1質量部を計量し、そこに60分かけて成分(C-1)173質量部、成分(C-2)191質量部、成分(C-3)464質量部を順次混合した。均一にしたのち、減圧下で30分混合後し、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(I)液を得た。
【0109】
次に成分(B-1)81.8質量部、成分(D-1)2.9質量部を計量し、そこに60分かけて成分(C-1)173質量部、成分(C-2)191質量部、成分(C-3)464質量部を順次混合した。均一にしたのち、減圧下で160℃で60分加熱混合後、室温まで冷却して混合物を得た。
この混合物に、成分(E-1)11.8質量部、成分(F-1)0.091質量部、顔料2.3質量部を均一混合し、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(II)液を得た。
【0110】
上記硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(I)液および(II)液を25℃で1日養生後、粘度計(アントンパール社製レオコンパスMCR102)で各液の粘度を測定した。(I)液と(II)液を同一質量で混合後、粘度、可使時間、接着性を測定した。
【0111】
[実施例2]
実施例1の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(II)液に成分(G-1)0.91質量部を加えた以外は実施例1と同様に硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(I)液と(II)液を得、各液の粘度を測定した。さらに、当該(I)液と(II)液を同一質量で混合後、粘度、可使時間、接着性を測定した。
【0112】
[実施例3]
実施例1の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(II)液の成分(E-1)を成分(E-2)11.8質量部に置き換えた以外は実施例1と同様に硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(I)液と(II)液を得、各液の粘度を測定した。さらに、当該 (I)液と(II)液を同一質量で混合後、粘度、可使時間、接着性を測定した。
【0113】
[実施例4]
実施例3の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(II)液に成分(G-1)0.91質量部を加えた以外は実施例3と同様に硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(I)液と(II)液を得、各液の粘度を測定した。さらに、当該(I)液と(II)液を同一質量で混合後、粘度、可使時間、接着性を測定した。
【0114】
[実施例5]
実施例1の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(II)液の成分(E-1)を成分(E-3)11.8質量部に置き換えた以外は実施例1と同様に硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(I)液と(II)液を得、各液の粘度を測定した。さらに、当該(I)液と(II)液を同一質量で混合後、粘度、可使時間、接着性を測定した。
【0115】
[実施例6]
実施例5の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(II)液に成分(G-1)0.91質量部を加えた以外は実施例5と同様に硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(I)液と(II)液を得、各液の粘度を測定した。さらに、当該(I)液と(II)液を同一質量で混合後、粘度、可使時間、接着性を測定した。
【0116】
[比較例1]
(B-1)81.8質量部、成分(D-1)2.9質量部を計量し、そこに60分かけて成分(C-1)173質量部、成分(C-2)191質量部、成分(C-3)464質量部を順次混合した。均一にしたのち、減圧下で160℃で60分加熱混合後、室温まで冷却して混合物を得た。
この混合物に、成分(E-1)11.8質量部、成分(F-1)0.091質量部、顔料2.3質量部を均一混合し、室温硬化性の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。
上記硬化性オルガノポリシロキサン組成物を25℃で1日養生後、実施例と同様にで粘度、可使時間、接着性を測定した。
【0117】
[比較例2]
成分(A-1)90.9質量部、成分(A-2)9.1質量部を計量し、そこに60分かけて成分(C-1)173質量部、成分(C-2)191質量部、成分(C-3)464質量部を順次混合した。均一にしたのち、この混合物に、成分(E-1)11.8質量部、成分(F-1)0.091質量部、成分(G-1)0.91質量部、顔料2.3質量部を均一混合し、室温硬化性の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。
上記室温硬化性の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を25℃で1日養生したところ、すでに硬化していたため、特性評価をすることが出来なかった。
【0118】
[比較例3]
ダウ・東レ株式会社製の1液型の室温硬化性熱伝導性シリコーン組成物であるSE4485熱伝導性接着剤を使用して、実施例同様に粘度、可使時間、接着性を測定した。
【0119】
【0120】
[総括]
実施例1~6にかかる2液型のオルガノポリシロキサン組成物は30分以上の実用上十分な可使時間と流動性を備え、100μm厚/1mm厚のいずれでも、一日後には接着強度を測定可能な程度のオルガノポリシロキサン硬化物を与え、かつ、7日後にはさらに高い接着強度を与えるものであった。このことから、実施例1~6にかかる組成物は、厚く塗布した場合であっても、比較的短期間に、十分な深部硬化性を実現し、かつ、高い接着性(硬化密着性)を備える硬化物であって、高い熱伝導率(本発明では、3.5W/mK)を実現できることが確認できた。
【0121】
これに対して、比較例1~3の一液型組成物は、十分な可使時間を実現できない(比較例2)か、深部硬化性および接着性が不十分であり、特に、1mm厚で塗布した場合には、7日後でも、上記の方法で接着強度を測定可能な程度のオルガノポリシロキサン硬化物を得ることができなかった(比較例1・比較例3)。