(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】フレキシブルデバイス用フィルム状接着剤、フレキシブルデバイス用接着シート、及びフレキシブルデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 7/30 20180101AFI20240228BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240228BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240228BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240228BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20240228BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20240228BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240228BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20240228BHJP
B32B 27/26 20060101ALI20240228BHJP
H10K 77/10 20230101ALI20240228BHJP
H10K 71/00 20230101ALI20240228BHJP
H10K 50/844 20230101ALI20240228BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J163/00
C09J11/06
H01L23/30 R
B32B7/022
B32B27/00 C
B32B27/00 M
B32B27/38
B32B27/26
H10K77/10
H10K71/00
H10K50/844
(21)【出願番号】P 2023516606
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2022045722
(87)【国際公開番号】W WO2023136018
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2022003640
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198328
【氏名又は名称】田中 幸恵
(72)【発明者】
【氏名】坂井 小雪
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-226796(JP,A)
【文献】特開平11-265960(JP,A)
【文献】特開2018-188540(JP,A)
【文献】特開2017-110128(JP,A)
【文献】横山直樹、ほか6名,ハロゲンフリー難燃性FPC接着剤用エポキシ/フェノキシ/シクロフェノキシホスファーゼン(CPP)混合,日本接着学会誌,日本,2009年09月01日,Vol.45 No.9,Page.330-337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルデバイス用フィルム状接着剤であって、
前記フィルム状接着剤が脂環構造を有するエポキシ樹脂を含み、かつエネルギー線硬化型であり、前記フィルム状接着剤の厚みT(μm)と、前記フィルム状接着剤の硬化物の貯蔵弾性率E’(GPa)とが、T×E’≦72を満たし、前記フィルム状接着剤の硬化物のガラス転移温度が30℃以上である、フレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
【請求項2】
前記貯蔵弾性率E’が5GPa以下である、請求項1に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
【請求項3】
前記厚みT(μm)が1~100μmである、請求項1に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂の硬化剤と、ポリマー成分とを少なくとも含む、請求項1に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
【請求項5】
前記ポリマー成分のガラス転移温度が140℃以下である、請求項4に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
【請求項6】
シランカップリング剤を含む、請求項1に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
【請求項7】
フレキシブル基材と、請求項1~
6のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤とを積層してなる構造を有する、フレキシブルデバイス用接着シート。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤を、フレキシブルデバイスを構成する層間の接着に用いることを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項9】
請求項
7に記載のフレキシブルデバイス用接着シートを、フレキシブルデバイスを構成する層間の接着に用いることを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤を、フレキシブルデバイスの構成材料の封止に用いることを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項11】
フレキシブルデバイスの支持基材を、請求項
7に記載のフレキシブルデバイス用接着シートにより形成することを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項12】
前記フレキシブルデバイスがフレキシブルディスプレイである、請求項
8に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項13】
前記フレキシブルデバイスがフレキシブルディスプレイである、請求項
9に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項14】
前記フレキシブルデバイスがフレキシブルディスプレイである、請求項
10に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルデバイス用フィルム状接着剤、フレキシブルデバイス用接着シート、及びフレキシブルデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルディスプレイなどのフレキシブルデバイスは、可撓性を有する支持基材(フレキシブル基材、フレキシブルフィルム)上に、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子、液晶パネル、マイクロ発光ダイオード(マイクロLED)、トランジスタなどの半導体素子(これらをまとめて機能性素子と称す)を形成することにより製造される。最近では、スマートフォン、ファブレット、タブレットなどのモバイル端末のディスプレイへの適用において、折りたたんだり、丸めたりすることが可能なフォルダブルなフレキシブルデバイスが求められている。
【0003】
このようなフレキシブルデバイスは、上記の通り、デバイス本体の強度を高めて信頼性を付与するために、デバイス全体を支える支持基材としてフレキシブル基材(バックプレート)を有している。すなわち、フレキシブル基材上に上記の機能性素子が固定化され、フレキシブルデバイスが製造される。機能性素子は通常、その両面には種々の機能層(例えば、保護層、ガスバリア層(封止層)、偏光板、ハードコート層など)が積層されており、機能性素子を含む積層体全体が一体にフレキシブル基材上に配され、ペースト状又はフィルム状の接着剤を介して固定化される。フレキシブル基材として、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムなどが用いられている。
【0004】
フレキシブルデバイスの製造において、積層構造の層間の接着に用いる接着性シートが提案されている。例えば特許文献1には、第1剥離フィルム及び第2剥離フィルムと、それらに挟持された接着剤層とを有するデバイス封止用接着シートが記載されている。この接着剤層は、環状エーテル基を有する化合物を含有し、23℃における貯蔵弾性率が9.5×105Pa以上3.0×107Pa以下に調整される。特許文献1記載の技術によれば、接着シートを裁断加工しても接着剤層からの剥離フィルムの剥離性に優れ、この接着剤層は被着体との接着性にも優れるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フレキシブルデバイスの製造において、積層構造の層間の接着に用いるフィルム状接着剤には、単なる湾曲ではなく、厳しい折り曲げの繰り返しにも耐える高度な耐屈曲性が求められるようになっている。しかし、上記特許文献1記載の接着シートを構成するフィルム状接着剤をはじめ、従来のフィルム状接着剤では、所望の高度な耐屈曲性を達成するには至っていない。
本発明は、厳しい折り曲げの繰り返しにも耐える高度な耐屈曲性を示すフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤を提供することを課題とする。また、本発明は、前記フレキシブルデバイス用フィルム状接着剤を用いたフレキシブルデバイス用接着シート、及びフレキシブルデバイスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
〔1〕
フレキシブルデバイス用フィルム状接着剤であって、前記フィルム状接着剤の厚みT(μm)と、前記フィルム状接着剤の硬化物の貯蔵弾性率E’(GPa)とが、T×E’≦75を満たす、フレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔2〕
前記貯蔵弾性率E’が5GPa以下である、〔1〕に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔3〕
前記厚みT(μm)が1~100μmである、〔1〕又は〔2〕に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔4〕
前記フィルム状接着剤の硬化物のガラス転移温度が30℃以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔5〕
環状エーテル基を有する化合物と、該化合物の硬化剤と、ポリマー成分とを少なくとも含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔6〕
前記環状エーテル基を有する化合物がエポキシ樹脂を含む、〔5〕に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔7〕
前記エポキシ樹脂が脂環構造を有するエポキシ樹脂を含む、〔6〕に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔8〕
前記ポリマー成分のガラス転移温度が140℃以下である、〔5〕~〔7〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔9〕
シランカップリング剤を含む、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔10〕
エネルギー線硬化型である、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤。
〔11〕
フレキシブル基材と、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤とを積層してなる構造を有する、フレキシブルデバイス用接着シート。
〔12〕
〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤又は〔11〕に記載のフレキシブルデバイス用接着シートを、フレキシブルデバイスを構成する層間の接着に用いることを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
〔13〕
〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤を、フレキシブルデバイスの構成材料の封止に用いることを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
〔14〕
フレキシブルデバイスの支持基材を、〔11〕に記載のフレキシブルデバイス用接着シートにより形成することを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
〔15〕
前記フレキシブルデバイスがフレキシブルディスプレイである、〔12〕~〔14〕のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【0008】
本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤及びフレキシブルデバイス用接着シートは、厳しい折り曲げの繰り返しにも耐える高度な耐屈曲性を示す。また、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法によれば、得られるフレキシブルデバイスの接着信頼性をより高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明のフレキシブルデバイス用接着シートの積層構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[フレキシブルデバイス用フィルム状接着剤]
本発明のフレキシブルデバイス用フィルム状接着剤(以下、単に「フィルム状接着剤」とも称す。)は、フレキシブルデバイスを構成する層間の接着用途に好適な接着剤である。本発明のフィルム状接着剤は硬化反応により硬化して、被着体との接着力を発現する。したがって、本発明のフィルム状接着剤は、硬化性組成物からなるフィルムである。本発明のフィルム状接着剤は、フィルム状接着剤の厚みT(μm)と、フィルム状接着剤の硬化物の貯蔵弾性率E’(GPa)とが、T×E’≦75を満たす。この関係を満たすことにより、所望の高度な耐屈曲性を実現することが可能となる。
【0012】
上記厚みTは、硬化反応前の厚み(すなわちBステージの状態にあるフィルム状接着剤の厚み)である。本発明において厚みTは、フィルム状接着剤の厚みを、マイクロメーター(例えば、高精度デジマチックマイクロメータ MDH-25MB(商品名)、ミツトヨ製)を用いて無作為に10か所測定し、それらの算術平均値とする。フィルム状接着剤の厚みは、いずれの箇所で測定しても、通常はT±(T×0.3)の範囲内にあり、T±(T×0.1)の範囲内にあることが好ましく、より好ましくはT±(T×0.05)の範囲内である。
【0013】
上記貯蔵弾性率E’は、次のように決定される。
フィルム状接着剤を、ラミネーターを用いて70℃で厚さ0.5mmとなるまで積層し、後述の(i)又は(ii)の条件で硬化反応させる。得られた硬化物サンプルを5mm幅に切り出し、測定サンプルとする。測定サンプルを、動的粘弾性測定装置RSAIII(TAインスツルメント製)を用いて、チャック間距離20mm、周波数10Hzの引張条件で、測定温度範囲-40℃~250℃、昇温速度5℃/minの条件で昇温し、23℃における貯蔵弾性率を決定する。
本発明において単に「貯蔵弾性率」という場合、常温(23℃)における貯蔵弾性率である。
【0014】
(i)エネルギー線硬化型(典型的には光カチオン重合開始剤を含む形態)の場合:
水銀ランプを用いて、23℃で1000mJ/cm2の照射条件で紫外線照射する条件。
(ii)熱硬化型(典型的には潜在性硬化剤又は熱カチオン重合開始剤を含む形態)の場合:
150℃で1時間の熱処理条件。
【0015】
上記(i)又は(ii)の硬化条件により、本発明のフィルム状接着剤の硬化反応を十分に進めることができ、架橋構造が導入された硬化物を得ることができる。なお、上記(i)及び(ii)は、本発明のフィルム状接着剤の特性を明らかにするためのものであり、本発明のフィルム状接着剤を実際に使用する場面において、硬化条件が上記(i)又は(ii)に限定されるものではない。
【0016】
上記のTとE’との関係は、T×E’≦75であり、T×E’≦72が好ましい。また、通常は10≦T×E’を満たす。上記のTとE’との関係は、10≦T×E’≦75が好ましく、10≦T×E’≦72がより好ましい。
上記Tは、1~100μmが好ましく、2~100μmがより好ましく、4~100μmがさらに好ましく、6~100μmがさらに好ましく、8~100μmがさらに好ましい。Tは、10~90μmとすることもでき、15~80μmとすることもでき、20~70μmとすることもでき、20~50μmとすることもできる。
上記E’は、0.2~10GPaが好ましく、0.4~8GPaがより好ましく、0.6~6GPaがさらに好ましい。上記E’はより好ましくは5GPa以下であり、0.6~5GPaがさらに好ましい。上記E’は1.6~4GPaとすることもでき、1.4~3.5GPaとすることもできる。
また、本発明のフィルム状接着剤を硬化してなる硬化物(硬化層)の好ましい厚みは、上記Tの好ましい範囲と同じである。
【0017】
上記フィルム状接着剤の硬化物の貯蔵弾性率は、接着剤の構成成分となる硬化性化合物の化学構造、分子量、官能基の種類、官能基当量、及び含有量等(例えば、環状エーテル基を有する化合物の化学構造や含有量、環状エーテル基の種類、環状エーテル当量等)、ポリマー成分の化学構造、分子量、ガラス転移温度、及び含有量等、接着剤中の無機充填材、硬化剤、及びその他の添加剤の種類や含有量等により制御することができる。
【0018】
本発明のフィルム状接着剤の硬化物は、耐熱性ないし耐湿性を考慮すると、ガラス転移温度(Tg)が30℃以上であることが好ましい。上記フィルム状接着剤の硬化物のTgは、動的粘弾性測定におけるtanδのピークトップ温度である。具体的には、次のようにTgを決定することができる。
フィルム状接着剤を、ラミネーターを用いて70℃で厚さ0.5mmとなるまで積層し、上記(i)又は(ii)の条件で硬化反応させる。得られた硬化物サンプルを5mm幅に切り出し、測定サンプルとする。測定サンプルを、上述の通り、動的粘弾性測定装置RSAIII(TAインスツルメント製)を用いて、チャック間距離20mm、測定温度範囲-40℃~250℃、昇温速度5℃/min、及び周波数10Hzの条件下で測定する。得られたtanδピークトップ温度(tanδが極大を示す温度)を、フィルム状接着剤の硬化物のTgとする。
ここで、本発明のフィルム状接着剤の硬化物のTgがX℃であるとは、硬化物のTgが2つ以上の場合には、最も低温側のTgがX℃であることを意味する。したがって、本発明のフィルム状接着剤の硬化物のTgが30℃以上とは、硬化物のTgが2つ以上の場合には、最も低温側のTgが30℃以上であることを意味する。
本発明のフィルム状接着剤の硬化物のTgは、5~150℃が好ましく、30~150℃がより好ましく、40~140℃がさらに好ましく、60~130℃がさらに好ましく、70~120℃がさらに好ましく、90~115℃がさらに好ましく、100~115℃がさらに好ましい。Tgは、60℃以上、好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上とすることもできる。
【0019】
本発明のフィルム状接着剤の成分組成は、本発明で規定する要件を満たす限り特に制限されない。上記フィルム状接着剤の好ましい形態として、環状エーテル基を有する化合物と、この化合物の硬化剤とを含有する形態が挙げられる。この場合、フィルム状接着剤は通常、環状エーテル基を有する化合物とは別に、ポリマー成分(フィルム成分)を含有する。また、表面自由エネルギー、弾性率、線膨張係数などの調整等のために、必要に応じてその他の成分を含有することができる。フィルム状接着剤の構成成分について、好ましい実施形態を説明する。
【0020】
(環状エーテル基を有する化合物)
上記の環状エーテル基を有する化合物は、分子内に少なくとも1個(好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個)の環状エーテル基を有する化合物である。なお、本発明では、環状エーテル基を有する化合物がポリマーであっても、上記ポリマー成分には分類せず、環状エーテル基を有する化合物に分類するものとする。したがって、一般的なエポキシ樹脂は、環状エーテル基を有する化合物として分類される。ただし、後述するフェノキシ樹脂については、環状エーテル基を有する化合物には含まれないものとする。すなわち、後述するフェノキシ樹脂はポリマー成分である。
環状エーテル基を有する化合物は、分子量が100~3000が好ましく、200~1500がより好ましい。
環状エーテル基を有する化合物は、環状エーテル当量が、好ましくは100~3000g/eqであり、120~1500g/eqがより好ましく、130~1000g/eqがさらに好ましく、135~800g/eqがさらに好ましい。
環状エーテル基を有する化合物が脂環構造を有しない場合には、環状エーテル当量はより大きいことが好ましい。例えば500g/eq以上とすることが好ましく、600~1000g/eqがより好ましく、650~900g/eqがさらに好ましい。
逆に、環状エーテル基を有する化合物が脂環構造を有する場合は、環状エーテル当量はより小さくすることができる。例えば500g/eq未満とすることが好ましく、100~400g/eqがより好ましく、120~350g/eqがさらに好ましく、130~300g/eqがさらに好ましい。
「環状エーテル当量」とは、1グラム当量の環状エーテル基を含む化合物のグラム数(g/eq)をいう。
【0021】
上記環状エーテル基の環構成原子数は3又は4が好ましい。上記環状エーテル基として、オキシラン基(エポキシ基)、オキセタン基(オキセタニル基)、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基などが挙げられる。なかでもオキシラン基又はオキセタン基が好ましく、オキシラン基がより好ましい。すなわち、環状エーテル基を有する化合物はエポキシ樹脂が特に好ましい。
エポキシ樹脂の骨格としては、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ビフェニル型、フルオレンビスフェノール型、トリアジン型、ナフトール型、ナフタレンジオール型、トリフェニルメタン型、テトラフェニル型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、トリメチロールメタン型等が挙げられる。このうち、樹脂の結晶性が低く、良好な外観を有するフィルム状接着剤を得られるという観点から、トリフェニルメタン型、ビスフェノールA型、クレゾールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型が好ましい。
なかでも上記エポキシ樹脂は、脂環構造を有するエポキシ樹脂であることが好ましく、水添(水素化)ビスフェノール型エポキシ樹脂がさらに好ましく、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂がさらに好ましい。脂環構造を有するエポキシ樹脂を用いることにより、硬化物のTgや貯蔵弾性率が同程度であっても、より優れた耐屈曲性を達成することができる。
【0022】
上記フィルム状接着剤の固形分(溶媒以外の成分)中、環状エーテル基を有する化合物の含有量は、10~70質量%が好ましく、15~65質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましく、20~55質量%がさらに好ましい。
【0023】
(硬化剤)
上記環状エーテル基を有する化合物の硬化剤としては、アミン類、酸無水物類、多価フェノール類、カチオン重合開始剤(好ましくは光カチオン重合開始剤)等の、環状エーテル基を有する化合物(エポキシ樹脂等)の硬化剤として一般的に用いられている硬化剤を広く用いることができる。フレキシブルデバイスとして有機ELデバイスを想定したとき、本発明のフィルム状接着剤に貼り合わせる被着体は熱に弱いため、硬化剤として熱カチオン重合開始剤を使用するのは適さない場合がある。また、熱カチオン重合開始剤は得られる硬化層の弾性率を高め過ぎる傾向があり、この観点でも硬化剤として熱カチオン重合開始剤を使用するのは適さない。したがって、上記硬化剤は、光カチオン重合開始剤、又は潜在性硬化剤が好ましい。上記硬化剤として光カチオン重合開始剤を用いる場合、フィルム状接着剤はエネルギー線硬化型である。エネルギー線としては、紫外線のような光線、または電子線のような電離性放射線が挙げられる。
潜在性硬化剤としては、ジシアンジアミド化合物、イミダゾール化合物、硬化触媒複合系多価フェノール化合物、ヒドラジド化合物、三弗化ホウ素-アミン錯体、アミンイミド化合物、ポリアミン塩、およびこれらの変性物やマイクロカプセル型のものを挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。より優れた潜在性(室温での安定性に優れ、かつ、加熱により硬化性を発揮する性質)を有し、硬化速度がより速い観点から、イミダゾール化合物を用いることがより好ましい。
【0024】
上記フィルム状接着剤中、上記硬化剤の含有量は、硬化剤の種類、反応形態に応じて適宜に設定すればよい。例えば、上記環状エーテル基を有する化合物100質量部に対して0.5~30質量部とすることができ、1~20質量部としてもよく、1~15質量部としてもよく、2~10質量部とすることも好ましく、3~8質量部とすることも好ましい。
【0025】
(ポリマー成分)
上記ポリマー成分としては、常温(23℃)でのフィルムタック性(少しの温度変化でもフィルム状態が変化しやすい性質)を抑制し、十分な接着性および造膜性(フィルム形成性)を付与する成分であればよく、この種の接着剤に適用可能なポリマーを広く用いることができる。ポリマー成分として、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ビスマレイミド樹脂(ポリビスマレイミド)等が挙げられる。これらのポリマー成分は単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
フェノキシ樹脂は、環状エーテル基を有する化合物と構造が類似していることから相溶性が良好な点で、ポリマー成分として好ましい。フェノキシ樹脂は常法により得ることができる。例えば、ビスフェノールもしくはビフェノール化合物とエピクロルヒドリンのようなエピハロヒドリンとの反応、液状エポキシ樹脂とビスフェノールもしくはビフェノール化合物との反応で得ることができる。
【0027】
上記ポリマー成分として(メタ)アクリル樹脂を用いることも好ましい。(メタ)アクリル樹脂としては、ポリマーの構成成分として(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステル成分を含む共重合体が挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂の構成成分として、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどに由来する成分が挙げられる。また、(メタ)アクリル樹脂は構成成分として環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート)成分を有してもよい。また、イミド(メタ)アクリレート成分、アルキル基の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチル等)成分を有することもできる。また酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン等との共重合体でもよい。(メタ)アクリル樹脂が水酸基を有していると、環状エーテル基を有する化合物との相溶性の観点で好ましい。
【0028】
また、上記ポリマー成分として、ポリウレタン樹脂やビスマレイミド樹脂を用いることも好ましい。
【0029】
上記ポリマー成分の重量平均分子量は、通常、10000以上である。上限値に特に制限はないが、5000000以下が実際的である。
上記ポリマー成分の重量平均分子量は、GPC〔ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)〕によるポリスチレン換算で求めた値である。
【0030】
上記ポリマー成分のガラス転移温度(Tg)は、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、120℃以下がさらに好ましく、100℃以下がさらに好ましく、90℃以下がさらに好ましい。ポリマー成分のTgは-30℃以上が好ましく、-10℃以上であることも好ましく、0℃以上であることも好ましく、10℃以上であることも好ましく、20℃以上であることも好ましく、30℃以上としてもよく、40℃以上としてもよく、50℃以上としてもよく、60℃以上としてもよい。ポリマー成分のTgは、-30~140℃が好ましく、-10~100℃であることも好ましく、0~100℃であることも好ましく、10~90℃であることも好ましく、20~90℃であることも好ましく、30~90℃であることも好ましく、40~90℃であることも好ましく、50~90℃であることも好ましく、60~90℃であることも好ましい。
上記ポリマー成分のTgは、動的粘弾性測定におけるtanδのピークトップ温度である。具体的には、次のようにTgを決定することができる。
-Tgの決定方法-
ポリマー成分を溶解してなる溶液を離型フィルム上に塗布し、加熱乾燥し、離型フィルム上にポリマー成分からなる膜(ポリマー膜)を形成する。このポリマー膜から離型フィルムを剥がして取り除き、このポリマー膜を、動的粘弾性測定装置(商品名:Rheogel-E4000F、ユービーエム社製)を用いて、測定温度範囲20~300℃、昇温速度5℃/min、及び周波数1Hzの条件下で測定する。得られたtanδピークトップ温度(tanδが極大を示す温度)をTgとする。
【0031】
上記フィルム状接着剤中、上記ポリマー成分の含有量は、例えば、上記環状エーテル基を有する化合物100質量部に対して40~500質量部とすることができ、60~400質量部としてもよく、70~300質量部としてもよく、80~250質量部とすることも好ましい。
【0032】
(その他の成分)
本発明のフィルム状接着剤は無機充填材を含んでもよい。無機充填材として、例えば、シリカ、クレー、石膏、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等のセラミック類、アルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム、半田等の金属、又は合金類、カーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン類等の種々の無機粉末が挙げられる。
無機充填材は、表面処理や表面改質されていてもよく、このような表面処理や表面改質としては、シランカップリング剤やリン酸もしくはリン酸化合物、界面活性剤が挙げられる。
無機充填材の形状は、フレーク状、針状、フィラメント状、球状、鱗片状のものが挙げられるが、高充填化及び流動性の観点から球状粒子が好ましい。
【0033】
上記フィルム状接着剤が無機充填材を含む場合、上記フィルム状接着剤中の無機充填材の含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下とすることも好ましく、40質量%以下とすることも好ましい。上記フィルム状接着剤が無機充填材を含む場合、上記フィルム状接着剤中の無機充填材の含有量は1質量%以上とすることができ、2質量%以上としてもよく、4質量%以上とすることも好ましい。上記フィルム状接着剤が無機充填材を含む場合、上記フィルム状接着剤中の無機充填材の含有量は、1~70質量%とすることができ、2~60質量%とすることもでき、4~50質量%とすることもでき、4~40質量%とすることも好ましい。
【0034】
上記フィルム状接着剤は、上記無機充填材とは別に、シランカップリン剤を含んでもよい。シランカップリング剤は、ケイ素原子にアルコキシ基、アリールオキシ基のような加水分解性基が少なくとも1つ結合したものであり、これに加えて、アルキル基、アルケニル基、アリール基が結合してもよい。アルキル基は、アミノ基、アルコキシ基、エポキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基が置換したものが好ましく、アミノ基(好ましくはフェニルアミノ基)、アルコキシ基(好ましくはグリシジルオキシ基)、(メタ)アクリロイルオキシ基が置換したものがより好ましい。
シランカップリング剤は、例えば、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0035】
上記フィルム状接着剤は、有機溶媒、イオントラップ剤(イオン捕捉剤)、硬化触媒、粘度調整剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤等をさらに含有していてもよい。例えば、国際公開第2017/158994号のその他の添加物を含むことができる。
【0036】
上記フィルム状接着剤中に占める、環状エーテル基を有する化合物、その硬化剤、ポリマー成分の各含有量の合計の割合は、例えば、30質量%以上とすることができ、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。当該割合は60質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。
【0037】
本発明のフィルム状接着剤は、フィルム状接着剤の各構成成分を混合してなる組成物(ワニス)を調製し、この組成物を、離型フィルムや所望の基材上に塗工し、必要により乾燥させることにより、前記の離型フィルムや基材上に得ることができる。接着剤層の各構成成分を混合してなる組成物(ワニス)は、通常は有機溶媒を含有する。
塗工方法としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、ロールナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーター等を用いた方法が挙げられる。
乾燥は、硬化反応を実質的に生じずに有機溶媒を除去してフィルム状接着剤を形成できればよく、例えば、80~150℃の温度で1~20分保持することにより行うことができる。
【0038】
本発明のフィルム状接着剤は、フィルム状接着剤の硬化反応(環状エーテル基を有する化合物の硬化反応)を抑制する観点から、使用前(硬化反応前)には10℃以下の温度条件下で保管されることが好ましい。また、本発明のフィルム状接着剤がエネルギー線硬化型である場合には、使用前には遮光して保管されることが好ましい。遮光保管の際の温度条件は特に限定されず、常温でも冷蔵でもよい。
【0039】
[フレキシブルデバイス用接着シート]
本発明のフレキシブルデバイス用接着シート(以下、単に「本発明の接着シート」とも称す。)は、フレキシブル基材(フレキシブルフィルム)と本発明のフィルム状接着剤とを積層してなる構造を有する。
【0040】
<フレキシブル基材>
本発明の接着シートを構成するフレキシブル基材は、可撓性を有し、フレキシブルデバイスの支持基材として用いることができれば、材質、厚み等は特に制限されない。すなわち、フレキシブルデバイスに用いられているフレキシブル基材を広く適用することができる。
フレキシブル基材は、貯蔵弾性率が10GPa以下であることが好ましく、7GPa以下がより好ましく、5GPa以下がさらに好ましい。上記貯蔵弾性率は、通常は0.01GPa以上であり、0.05GPa以上であることも好ましく、0.1GPa以上であることも好ましい。フレキシブル基材の貯蔵弾性率は、フレキシブル基材を5mm幅に切り出し、動的粘弾性測定装置RSAIII(TAインスツルメント製)を用いて、チャック間距離20mm、周波数10Hzの引張条件で、-20℃から150℃まで、昇温速度5℃/minの条件で昇温したときの、23℃における貯蔵弾性率である。
【0041】
上記フレキシブル基材の好ましい材質として、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂等)、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等)、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等が挙げられる。なかでもポリエステル樹脂又はポリイミド樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂の好ましい例として、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などが挙げられる。
【0042】
上記フレキシブル基材の厚みは、通常は1~1000μmであり、5~800μmが好ましく、5~400μmであることも好ましく、5~200μmであることも好ましく、10~100μmであることも好ましい。厚みは、接触・リニアゲージ方式(卓上型接触式厚み計測装置)により測定することができる。
【0043】
本発明の接着シートは、上述のように、本発明のフィルム状接着剤の各構成成分を混合してなる組成物(ワニス)を調製し、この組成物を、フレキシブル基材上に塗工し、必要に応じて乾燥させて形成することができる。
【0044】
本発明の接着シートは、フレキシブル基材とフィルム状接着剤とからなる構成でもよく、フィルム状接着剤の、フレキシブル基材側とは反対側の面に、さらに離型フィルムが貼り合わされた形態であってもよい。また、フレキシブル基材の、フィルム状接着剤側とは反対側の面に、保護フィルムなどが設けられてもよい。また、本発明の接着シートは、適当な大きさに切り出した形態であってもよく、ロール状に巻いてなる形態であってもよい。
【0045】
本発明の接着シートは、フィルム状接着剤の硬化反応(例えば、環状エーテル基を有する化合物の硬化反応)を抑制する観点から、使用前(硬化反応前)には10℃以下の温度条件下で保管されることが好ましい。また、本発明の接着シートは、フィルム状接着剤がエネルギー線硬化型である場合には、使用前には遮光して保管されることが好ましい。遮光保管の際の温度条件は特に限定されず、常温でも冷蔵でもよい。
【0046】
[フレキシブルデバイスの製造方法]
本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、本発明のフィルム状接着剤、又は本発明の接着シートの何れかを用いてフレキシブルデバイスを製造する方法であれば、特に限定されない。
【0047】
本発明のフレキシブルデバイスの製造方法の一実施形態は、本発明のフィルム状接着剤又は本発明の接着シートを、フレキシブルデバイスを構成する層間の接着に用いることを含む。
本発明のフィルム状接着剤を適用する、フレキシブルデバイスを構成する層間としては特に制限されず、例えば、機能性素子を含む積層体(機能性素子と、その片面又は両面に配された種々の機能層との積層体)同士の間、フレキシブル基材と機能性素子を含む積層体との間、第一のフレキシブル基材と第二のフレキシブル基材との間(第一および、第二フレキシブル基材のどちらか、または両方のフレキシブル基材の、接着剤層とは反対側には機能性素子を含む積層体がさらに形成されていてもよい)、などが挙げられる。したがって、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法の一実施形態では、フレキシブルデバイスを構成する1つの層の表面に、本発明のフィルム状接着剤を配し、当該フィルム状接着剤を挟んでフレキシブルデバイスを構成する別の層を配し、当該フィルム状接着剤を硬化反応させる工程を含む。
【0048】
また、本発明の接着シートは、フレキシブルデバイスの支持基材として用いることにより、本発明の接着シートを、フレキシブルデバイスを構成する層間の接着に用いることができる。すなわち、接着シートを構成するフレキシブル基材を、フレキシブルデバイス全体を支える支持基材(バックプレート)とし、接着シートのフィルム状接着剤を、当該支持基材と、その上の機能性素子を含む積層体とを接着するための層として機能させることができる。したがって、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、その一実施形態において、フレキシブルデバイスの支持基材を、本発明の接着シートにより形成すること、すなわち、本発明の接着シートのフィルム状接着剤側と、機能性素子を含む積層体とを貼り合わせ、フィルム状接着剤を硬化反応させる工程を含む。
【0049】
本発明のフレキブルデバイスの製造方法の別の実施形態は、本発明のフィルム状接着剤を、フレキシブルデバイスの構成材料の封止に用いることを含む。
本発明のフィルム状接着剤を適用する、フレキシブルデバイスの構成材料としては特に制限されず、例えば、機能性素子(有機エレクトロルミネッセンス素子、半導体素子、液晶素子、マイクロLED等)等が挙げられる。具体的には、本発明のフィルム状接着剤は、機能性素子等の目的物の表面などに適用され、当該目的物を封止する。したがって、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法の一実施形態では、フレキシブルデバイスの構成材料の表面に、本発明のフィルム状接着剤を配し、当該フィルム状接着剤を硬化反応させる工程を含む。
【0050】
本発明のフレキシブルデバイスの製造方法において、上記の硬化反応の条件は、硬化剤の種類、機能性素子の耐熱性等を考慮して適宜に設定することができる。例えば、硬化剤として光カチオン重合開始剤を用いる場合には、水銀ランプ等を用いて、100~3000mJ/cm2の紫外線を照射することにより、接着剤層を十分に硬化させることができる。また、潜在性硬化剤や熱カチオン重合開始剤を用いる場合には、例えば、150℃以上の温度で1時間以上加熱することにより、接着剤層を十分に硬化させることができる。
【実施例】
【0051】
実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例の形態に限定されるものではない。また、室温とは23℃を意味し、MEKはメチルエチルケトン、PETはポリエチレンテレフタレート、UVは紫外線である。「%」、「部」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0052】
[実施例1]
1000mlのセパラブルフラスコ中において、環状エーテル基を有する化合物としてST-3000(商品名、水添ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)50質量部、ポリマー成分としてYP-50(商品名、フェノキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)50質量部及びMEK30質量部を、温度110℃で2時間加熱攪拌し、樹脂ワニスを得た。さらに、この樹脂ワニスを800mlのプラネタリーミキサーに移し、硬化剤としてWPI-113(商品名、UVカチオン重合開始剤、富士フイルム和光純薬株式会社製)2質量部を加えて、室温において1時間攪拌混合後、真空脱泡して混合ワニスを得た。次いで、得られた混合ワニスを厚み38μmの表面離型処理済みPETフィルム(離型フィルム)上に塗布して、130℃で10分間加熱乾燥し、縦300mm、横200mm、接着剤層の厚み20μmの、離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0053】
[実施例2]
環状エーテル基を有する化合物を828(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)35質量部とし、ポリマー成分の配合量を65質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0054】
[実施例3]
環状エーテル基を有する化合物の配合量を35質量部とし、ポリマー成分の配合量を65質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0055】
[実施例4]
環状エーテル基を有する化合物を828(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)50質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0056】
[実施例5]
環状エーテル基を有する化合物を1003(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)50質量部とし、接着剤層の厚みを40μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0057】
[実施例6]
硬化剤を2E4MZ(商品名、イミダゾール系熱硬化剤、四国化成工業社製)2質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0058】
[実施例7]
混合ワニス中にKBM-402(商品名、シランカップリング剤、信越化学工業社製)1質量部を加え、接着剤層の厚みを40μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0059】
[実施例8]
ポリマー成分を、YP-50(フェノキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)10質量部とYX7180(商品名、フェノキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)40質量部とし、接着剤層の厚みを90μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0060】
[実施例9]
環状エーテル基を有する化合物の配合量を20質量部とし、ポリマー成分の配合量を80質量部とし、接着剤層の厚みを10μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0061】
[実施例10]
混合ワニス中にSIRMEK50WT%-M01(商品名、シリカスラリーフィラー、CIKナノテック社製)60質量部(シリカとして30質量部)を加え、接着剤層の厚みを7μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0062】
[実施例11]
環状エーテル基を有する化合物を、ST-3000(商品名、水添ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)25質量部とEPPN-501H(商品名、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製)25質量部とし、接着剤層の厚みを10μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0063】
[実施例12]
ポリマー成分をSG-708-6(商品名、アクリル樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)50質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0064】
[実施例13]
環状エーテル基を有する化合物を828(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)30質量部とし、ポリマー成分をSG-708-6(商品名、アクリル樹脂、ナガセケムテックス株式会社製)70質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0065】
[実施例14]
ポリマー成分をダイナレオVA-9320M(商品名、ウレタン樹脂、トーヨーケム株式会社製)167質量部(ウレタン樹脂として50質量部)としたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0066】
[実施例15]
環状エーテル基を有する化合物を828(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)40質量部とし、ポリマー成分をダイナレオVA-9320M(商品名、ウレタン樹脂、トーヨーケム株式会社製)200質量部(ウレタン樹脂として60質量部)としたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0067】
[実施例16]
ポリマー成分をBMI-5000(商品名、ビスマレイミド樹脂、Designer Molecules, Inc.社製)50質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0068】
[実施例17]
環状エーテル基を有する化合物を828(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)35質量部とし、ポリマー成分をBMI-5000(商品名、ビスマレイミド樹脂、Designer Molecules, Inc.社製)65質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0069】
[比較例1]
混合ワニス中にSIRMEK50WT%-M01(商品名、シリカスラリーフィラー、CIKナノテック社製)600質量部(シリカとして300質量部)を加え、接着剤層の厚みを7μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0070】
[比較例2]
環状エーテル基を有する化合物をEPPN-501H(商品名、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製)50質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0071】
[比較例3]
実施例1において、環状エーテル基を有する化合物をEPPN-501H(商品名、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、日本化薬株式会社製)50質量部とし、ポリマー成分をYX7200B35(フェノキシ樹脂と溶剤の混合溶液、三菱ケミカル株式会社製)143質量部(フェノキシ樹脂として50質量部)とし、硬化剤をSI-B3(商品名、熱カチオン重合開始剤、三新化学工業株式会社製)2質量部とし、接着剤層の厚みを15μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0072】
[比較例4]
ポリマー成分をYX7200B35(フェノキシ樹脂と溶剤の混合溶液、三菱ケミカル株式会社製143質量部(フェノキシ樹脂として50質量部)とし、硬化剤をSI-B3(商品名、熱カチオン重合開始剤、三新化学工業株式会社製)2質量部とし、接着剤層の厚みを15μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0073】
[比較例5]
環状エーテル基を有する化合物を1003(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)25質量部とST-3000(商品名、水添ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)25質量部とし、ポリマー成分をYP-50(商品名、フェノキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)35質量部とYX7180(商品名、フェノキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製)15質量部とし、混合ワニス中にSIRMEK50WT%-M01(商品名、シリカスラリーフィラー、CIKナノテック社製)200質量部(シリカとして100質量部)を加え、接着剤層の厚みを15μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして離型フィルム付きフィルム状接着剤を得た。
【0074】
表1に、各実施例及び比較例のフィルム状接着剤の組成を示す。
表1に記載の「フィルム状接着剤」の厚みは、上記各実施例及び比較例で得られた、硬化前のフィルム状接着剤の厚みである。
【0075】
<硬化物の貯蔵弾性率及びガラス転移温度の測定>
各実施例及び比較例において得られたフィルム状接着剤を、ラミネーターを用いて70℃で、離型フィルムを剥離した状態で厚さ0.5mmとなるまで積層した。この積層体を、上記硬化条件(i)又は(ii)にて硬化させて得られた接着剤硬化物の積層体を5mm幅に切り出し、測定サンプルとした。動的粘弾性測定装置RSAIII(TAインスツルメント製)を用いて、チャック間距離20mm、周波数10Hzの引張条件で、-40℃より250℃まで昇温速度5℃/minの条件で昇温した際の接着剤硬化物の粘弾性挙動を測定し、23℃における貯蔵弾性率と、Tgを求めた。Tgは、tanδ極大値を示す温度とし、極大値が2点以上ある場合は、最も低温側の極大値を示す温度をTgとした。測定結果を表1に示す。
【0076】
<耐屈曲性評価>
実施例又は比較例で得た離型フィルム付きフィルム状接着剤を、厚み20μmのPETフィルム(フレキシブル基材、23℃の貯蔵弾性率5GPa)に貼り合わせ、離型フィルムを剥離して、フレキシブル基材とフィルム状接着剤とを積層してなる構造を有する接着シートを得た。この接着シートを幅25mm、長さ10cmに切り出し、上述の(i)又は(ii)の硬化条件で硬化させ、試験片とした。試験片の長手方向の中間地点を基準に、試験片を、接着剤層をマンドレルとは逆側にセットし、180°折り曲げる操作を1000回繰り返した。接着剤層の破断、接着剤層の折り痕、又は接着剤層とフレキシブル基材との剥離が生じたマンドレルの径(mm)を下記評価基準に当てはめ、耐屈曲性を評価した。評価C以上を合格とした。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:4mm以下
B:5mm以上14mm以下
C:15mm以上29mm以下
D:30mm以上、もしくは折り曲げできず
【0077】
【0078】
【0079】
上記表中、接着剤の各成分の配合量を質量部である。空欄は、その成分を含有していないことを意味する。
上記表に示されるように、フィルム状接着剤の硬化物のT×E’が本発明で規定するよりも高い場合には、繰り返しの屈曲に対して接着剤層の破断、接着剤層の折り痕、ないしは接着剤層とフレキシブル基材との間の剥離を生じやすく、耐屈曲性に劣っていた(比較例1~5)。
これに対し、本発明の規定を満たす実施例1~17のフィルム状接着剤の硬化物はいずれも優れた耐屈曲性を示した。本発明のフィルム状接着剤、又はこのフィルム状接着剤を備える接着シートを、フレキシブルデバイスの製造に用いることにより、フレキシブルデバイスの信頼性を高めることができることがわかる。
また、環状エーテル基を有する化合物として脂環構造を有するエポキシ樹脂を含むフィルム状接着剤を用いると、硬化物の貯蔵弾性率やTgは同じでも耐屈曲性をより高いレベルで実現できることがわかる(実施例1と2、実施例3と4の比較)。
【0080】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0081】
本願は、2022年1月13日に日本国で特許出願された特願2022-003640に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0082】
1 フィルム状接着剤
2 フレキシブル基材(支持基材)