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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】めっき装置およびめっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/08 20060101AFI20240229BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20240229BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20240229BHJP
   C25D 17/06 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
C25D17/08 J
H05K3/18 L
C25D7/06 E
C25D17/06 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020016714
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021123741
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須田 貴広
(72)【発明者】
【氏名】大山 雅之
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-331465(JP,A)
【文献】特開2006-193794(JP,A)
【文献】特開2015-086400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/06
C25D 7/06
C25D 17/08
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材フィルムを複数のクランプで把持して、めっき槽を含むめっき装置内を移動させて、前記基材フィルムの表面にめっき層を形成するめっき装置において、
前記クランプは、基材フィルムをバネの付勢力で挟む一対の挟持片からなる挟持部を備えており、
前記クランプを移動させる移動経路において、前記クランプの前記バネの損傷を検出する損傷検出機構が設けられており、
前記損傷検出機構は、前記クランプの前記バネの損傷の有無を検知する損傷検出器と、
前記クランプが前記移動経路上で移動している間にバネの損傷を検出するための検出位置に位置していることを検知する位置検出器とからなる
ことを特徴とするめっき装置。
【請求項2】
前記損傷検出器は、前記挟持部のうち一の挟持片を開方向に押す押付け部と、該一方の挟持片の反力の大きさを検出する反力検知部とからなる
ことを特徴とする請求項1記載のめっき装置。
【請求項3】
前記損傷検出機構は、前記クランプの移動経路においてめっき槽を含むめっき設備を設けていない区間に配置されている
ことを特徴とする請求項1または2記載のめっき装置。
【請求項4】
長尺帯状の基材フィルムを複数のクランプで吊持して、めっき槽を含むめっき装置内の移動経路上を移動させて、前記基材フィルムの表面にめっき層を形成するめっき方法において、
前記クランプは、挟持部を構成する一対の挟持片バネの付勢力を用いて基材フィルムを把持しており、
前記クランプの前記バネの損傷の有無を検知する損傷検出器と、
前記クランプが前記移動経路上で移動している間にバネの損傷を検出するための検出位置に位置していることを検知する位置検出器を用い、
前記位置検出器によって前記検出位置を検出したとき、前記損傷検出器によって前記クランプの前記バネの損傷を検出する
ことを特徴とするめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき装置およびめっき方法に関する。さらに詳しくは、本発明は銅張積層板などのめっきに用いるめっき装置およびめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気めっき装置は、長尺の基材フィルムを垂直に立てて、その上縁を多数のクランプで把持した状態で搬送し、めっき槽内を通過させる間にクランプを通じて基材フィルムに給電し、基材フィルムの表面にめっきする装置である。
【0003】
特許文献1に示すように、電気めっき装置のクランプは、一対の把持片をバネで付勢して閉じ、その閉じ力によって基材フィルムを吊下げ保持する。基材フィルムを開放するときは、一対の把持片の一方をカムで押してバネに抗して開き、基材フィルムの保持を解除する。
【0004】
しかるに、クランプは基材フィルムの脱着のたびに開閉を行うため、めっき装置の稼働に伴いクランプのバネに金属疲労が蓄積し、最終的にはバネの破損が起こる。
クランプのバネの破損が起こると、基材フィルムの把持や基材フィルムへの給電に支障をきたし、めっきの仕上がり品質を低下させるという問題が生じる。
そして、バネが破損した状態でクランプが開いたまま搬送されると、めっき装置内の各所の部材と接触し、クランプもめっき装置にも破損が生ずるという問題がある。
また、クランプの数は多いので、一つ一つのクランプのバネ損傷を確認していくには多大な手間がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-67852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、めっき装置の破損を防止でき、クランプの保守点検工数を低減できるめっき装置およびめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のめっき装置は、長尺帯状の基材フィルムを複数のクランプで把持して、めっき槽を含むめっき装置内を移動させて、前記基材フィルムの表面にめっき層を形成するめっき装置において、前記クランプは、基材フィルムをバネの付勢力で挟む一対の挟持片からなる挟持部を備えており、前記クランプを移動させる移動経路において、前記クランプの前記バネの損傷を検出する損傷検出機構が設けられており、前記損傷検出機構は、前記クランプの前記バネの損傷の有無を検知する損傷検出器と、前記クランプが前記移動経路上で移動している間にバネの損傷を検出するための検出位置に位置していることを検知する位置検出器とからなるとを特徴とする。
第2発明のめっき装置は、第1発明において、前記損傷検出器は、前記挟持部のうち一の挟持片を開方向に押す押付け部と、該一方の挟持片の反力の大きさを検出する反力検知部とからなることを特徴とする。
第3発明のめっき装置は、第1または第2発明において、前記損傷検出機構は、前記クランプの移動経路においてめっき槽を含むめっき設備を設けていない区間に配置されていることを特徴とする。
第4発明のめっき方法は、長尺帯状の基材フィルムを複数のクランプで吊持して、めっき槽を含むめっき装置内の移動経路上を移動させて、前記基材フィルムの表面にめっき層を形成するめっき方法において、前記クランプは、挟持部を構成する一対の挟持片バネの付勢力を用いて基材フィルムを把持しており、前記クランプの前記バネの損傷の有無を検知する損傷検出器と、前記クランプが前記移動経路上で移動している間にバネの損傷を検出するための検出位置に位置していることを検知する位置検出器を用い、前記位置検出器によって前記検出位置を検出したとき、前記損傷検出器によって前記クランプの前記バネの損傷を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)複数のクランプのうち、いずれかのクランプのバネに損傷が生ずると、損傷検出機構がバネの損傷が生じたクランプを検知するので、速やかにクランプの修理作業を行える。したがって、クランプの保守点検のための時間と工数も軽減できる。また、クランプ修理を速やかに行うことによりめっき装置の損傷も防止できる。
b)複数のクランプが互いの間に間隔をあけた状態で移動するとき、バネの損傷を検知するための損傷検出位置において、クランプが位置しているのか間隔が位置しているのかの区別を位置検出部が行うので、隣接するクランプ間の隙間の検出結果をキャンセルすることができ、その結果、バネに損傷の生じたクランプの特定が容易に行える。
発明によれば、一対の挟持片を閉方向に付勢するバネが損傷すると、損傷検出器の押付け部で一方の挟持片を押すときの反力が軽くなっているので、これによりバネの損傷を確認できる。
発明によれば、めっき槽を含むめっき設備を設けていない区間に損傷検出機構を設けているので、クランプのバネ損傷を検出したときのクランプの修理、交換等の保守作業が容易に行える。
発明によれば、複数のクランプのうち、バネの損傷を検知するための損傷検出位置において、クランプが位置しているのか間隔が位置しているのかの区別を検出するので、隣接するクランプ間の隙間の検出結果をキャンセルすることができ、その結果、バネに損傷の生じたクランプの特定が容易に行える。そのため、クランプの保守点検のための時間と工数も軽減でき、クランプ修理を速やかに行うことによりめっき装置の損傷も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のめっき装置で用いる損傷検出機構の側面図であって、(A)はバネの正常状態、(B)はバネの損傷状態を示す。
図2図1の損傷検出機構の正面図であって、(A)はバネの正常状態、(B)はバネの損傷状態を示す。
図3】バネの状態と損傷検出器50の検出結果を示す説明図である。
図4】損傷検出器50と位置検出器70の検出結果を示す説明図である。
図5】めっき装置Aの概略構成を示す斜視図である。
図6】クランプ5と給電機構30の正面図である。
図7】クランプ5と給電機構30の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明の一実施形態に係るめっき装置Aを図5に基づき説明する。図示のめっき装置Aは、後述する本発明に係るめっき方法を実施する装置でもある。
【0011】
図示のめっき装置Aは、長尺帯状の基材フィルムFを搬送しつつ、基材フィルムFに対して電気めっきを行なう装置である。このめっき装置Aは、前処理槽1、めっき槽2、および後処理槽3を備えている。前処理槽1は、基材フィルムFの表面を清浄化したり、濡れ性を高める処理を行う槽である。めっき槽2は、槽内にめっき液を貯留しており、めっき液に基材フィルムFを浸漬して通過させる槽である。めっき槽を通過している間に基材フィルムFに電流を供給すると電気めっきが行える。後処理槽3は、めっきがなされた基材フィルムFの洗浄等を行う槽である。これらの各槽1,2,3には長尺帯状の基材フィルムFが順に移動し、基材フィルムFの表面にめっき膜が形成される。なお、本発明では、めっき膜の形成がなされたフィルムを製品フィルムという。
【0012】
基材フィルムFの搬送は、基材フィルムFの長手方向に沿って進行させるとき、基材フィルムFの短手方向を上下に向けた懸垂状態で行われる。この懸垂状態の基材フィルムFを搬送するため、エンドレスベルト4が用いられ、またエンドレスベルト4に多数のクランプ5が連結されている。
めっき装置Aには、前処理槽1手前の入側ガイドローラ6、前処理槽1とめっき槽2の間の第1中間ガイドローラ7、めっき槽2と後処理槽3の間の第2中間ガイドローラ8、および後処理槽3出側ガイドローラ9を備えられている。
【0013】
前記エンドレスベルト4は、入側ガイドローラ6、第1中間ガイドローラ7、第2中間ガイドローラ8、および出側ガイドローラ9の順に周回するように移動していく。
そして、多数のクランプ5は基材フィルムFの上縁を把持しているので、エンドレスベルト4と共に基材フィルムFは、前処理槽1、めっき槽2、後処理槽3の内部を移動する。
【0014】
めっき装置Aは、基材フィルムFをロール状に巻き取った原反ロールを繰り出す供給装置11と、めっき後の製品フィルム(たとえば、銅張積層板)を製品ロールとしてロール状に巻き取る巻取装置12とを有する。後処理槽3と巻取装置12との間には、乾燥用のためのヒーター13等が配置されている。
なお、14は基材フィルムFを同じ姿勢で案内する水平ガイドロール、15は基材フィルムFの搬送姿勢を変換する傾斜ガイドロールである。
【0015】
前記供給装置11から繰り出された基材フィルムFは、入側ガイドローラ6を通過した直後にクランプ5でその上縁が把持される。基材フィルムFが前処理槽1、めっき槽2、および後処理槽3を通過すると、クランプ5が出側ガイドローラ9を通過する直前に基材フィルムFを開放、基材フィルムFは巻取装置12で巻き取られる。
【0016】
基材フィルムFはめっき槽2内を搬送されつつ、電気めっきによりその表面に銅めっき等の被膜が形成される。これにより、めっき処理が完了した製品フィルムが得られる。たとえば、基材フィルムFの材質が樹脂フィルムであり、これに下地金属層を介して銅をめっき成膜すれば、製品フィルムとしての銅張積層板が得られる。
【0017】
上記めっき装置Aにおいて、クランプ5入側ガイドローラ6を通過した後から第1中間ガイドローラ7、第2中間ガイドローラ8を経て出側ガイドローラ9までの間では、クランプ5が基材フィルムFの上縁を把持している。本明細書では、この間を把持区間という。そして、出側ガイドローラ9と入側ガイドローラ6の間はクランプ5は基材フィルムFを把持していない。本明細書では、この間を非把持区間という。
【0018】
つぎに、クランプ5まわりを図6および図7に基づき説明する。
クランプ5は、接触治具20と、その下端に結合された吊持板21を備えている。接触治具20は上端部に電気の供給を受ける接触板22を備えている。接触板22には、移動方向の前端に前下りの案内部22aが形成されている。また、接触治具20は、表裏両面にローラ23を軸支しており、ローラ23はめっき装置A内の固定部材である案内板24上を転動するようになっている。接触治具20には図5に示すエンドレスベルト4(図6および図7では不図示)が結合されている。かかる構造により、エンドレスベルト4が移動すると、接触治具20、ひいてはクランプ5が一定の高さを保って移動することになる。
【0019】
前記吊持板21には、基材フィルムFを把持するための挟持部25が取付けられている。挟持部25は一対の挟持片25a,25bからなる。一方の挟持片25bは吊持板21に固定されており、他方の挟持片25aにはレバー26が固定されている。レバー26の中間部はブラケットとピン27を介して固定側の挟持片25bに対して揺動自在に取付けられている。また、ピン27にはねじりコイルバネ28(以下、単にバネ28という)が介装され、一の挟持片25aを他方(固定側)の挟持片25bに押し付けて閉じ方向に付勢している。このバネ28の付勢力によって、一対の挟持片25a,25bの間に基材フィルムFの上端が把持される。
前記レバー26の先端には、ブラケットを介してローラ29が回転自在に取付けられている。ローラ29はバネ28の付勢によって、一対の挟持片25a,25bの開状態から閉状態に至る間で、下向きの押し下げ力が与えられている。
【0020】
図6および図7において、30は給電機構であり、クランプ5に電流を供給するために設けられている。給電機構30は、電極バー31と給電体32と押圧バネ33を有している。電極バー31はクランプ5の走行方向に沿って延びる長い電極であって、整流器を介して電源に接続されている。電極バー31の下方には複数個の給電体32が等間隔に取付けられている。
【0021】
電極バー31と給電体32との間には押圧バネ33が介装されており、この押圧バネ33により給電体32をクランプ5の接触治具20に押し付けている。電極バー31から給電される電流は、給電体32と接触治具20の接触を介して、吊持板21を経て挟持部25から基材フィルムFに供給される。
上記の電極バー31は、めっき槽2の上部に配置されており、めっき槽2を通過中の基材フィルムFに電流が供給される。
【0022】
つぎに、クランプ5におけるバネ28の損傷を検出する損傷検出機構を、図1図4に基づき説明する。
損傷検出機構は、図1および図2に示すように損傷検出器50と位置検出器70とからなる。
損傷検出器50は、クランプ5におけるバネ28の損傷の有無を検知するセンサであり、バネ損傷を検出できれば、どのような検出器を用いてもよい。図示の実施形態における損傷検出器50は、以下のように構成されている。
図1および図2において、(A)はバネ28が正常なクランプ5を示し、(B)はバネが損傷したクランプ5を示している。符号28´は折れたり金属疲労をしてバネ力が不足する損傷したバネを示している。
【0023】
損傷検出器50は、基板51上に押付け部52と反力検知部56を取付けている。押付け部52はロッド53とその外周に嵌めた圧縮バネ54と制御箱55とを有している。
ロッド53は、その下方部分が制御箱55内に挿入されており、その上端は台板61に固定されている。制御箱55内には、ロッド53の昇降を許容する案内機構が内蔵されている。
【0024】
反力検知部56は、ロッド57とセンサ58と制御箱59とを有している。ロッド57は、その下方部分が制御箱59内で昇降可能に支持されており、その上端は前記台板61に固定されている。ロッド57の長手方向の適所には細径に形成された被検知部57aが形成されている。センサ58は、無接触の近接センサとか、接触式のリミットスイッチなどが用いられる。
図1および図2の(A)図に示すように、被検知部57aがセンサ58から離れているときは検知信号を出さないが、図1および図2の(B)図に示すように、被検知部57aがセンサ58に接近して対面すると検知信号を出すことができる。
【0025】
前記台板61にはブラケットを介してローラ62が回転自在に取付けられている。このローラ62は押付け部52の作用によって上昇し、また、クランプ5のローラ29によって押し下げられる。
上記のように構成された損傷検出器50は、クランプ5が移動する移動区間の適所に設置されている。本明細書では、この設置場所を検出位置ということがある。
【0026】
図1および図2の(A)図に示すように、クランプ5が損傷検出器50を設置した検出位置に移動してきたときは、クランプ5のローラ29が損傷検出器50のローラ62を押し下げる。このとき、クランプ5のバネ28が正常であれば、反力検知部56のロッド57を押し下げるので、被検知部57aはセンサ58から離れてしまう。このため、センサ58は検知信号を出さない。
【0027】
図1および図2の(B)図に示すように、クランプ5のバネ28´が損傷している場合は、ローラ29の押し下げ力が不足する。このため、損傷検出器50のローラ62は押し下げられず上昇した状態のままとなる。
この場合、反力検知部56のロッド57も上昇しているので、被検知部57aがセンサ58に対面するまで接近して検知信号を出す。これにより、クランプ5のバネ28´の損傷を検知することができる。
以上のように、損傷検出器50はクランプ5のバネ28の反力の大小によって、バネ28の損傷の有無を検知することができる。
【0028】
前記位置検出器70は、クランプ5のバネ損傷を検出する検出位置に位置していることを検知するセンサである。この位置検出ができれば、どのような検出器を用いてもよいが、図示の実施形態における位置検出器70は、公知の近接センサ71で構成されている。近接センサ71での検知を確実にするため、クランプ5の適所、たとえば吊持板21には板状あるいは箱状の被検知体72が取付けられている。なお、吊持板21を直接検出してもよい。
この位置検出器70は、複数のクランプ5が等間隔に間隔をあけた状態で移動するとき、互いに隣接するクランプ5,5間の隙間の部分での損傷検出器50の検出結果をキャンセルし、クランプ5が対面している状態での損傷検出器50の検出結果を利用するために設けられている。
【0029】
本発明における損傷検出器50と位置検出器70とは、クランプ5の移動経路のどこに設置してもよい。つまり、クランプ5が基材フィルムFを把持して移動する把持区間であっても、クランプ5が基材フィルムFを把持しないで移動する非把持区間であってもよい。把持区間は、図5に示すめっき装置Aにおいて、入側ガイドローラ6から第1中間ガイドローラ7、第2中間ガイドローラ8、そして出側ガイドローラ9までの区間である。この場合、損傷しているバネ28´をもつクランプ5は基材フィルムFを把持してない可能性があるが、両隣のクランプ5,5で基材フィルムFが把持されている。
非把持区間は、図5に示すめっき装置Aにおいて、出側ガイドローラ9から入側ガイドローラ6までの区間である。この非把持区間では、損傷しているバネ28´をもつクランプ5も、正常なバネ28をもつクランプ5も基材フィルムFを把持していない。
【0030】
クランプ5は、基材フィルムFを把持している状態でも把持していない状態でも、基材フィルムFは薄いので、バネ28で押されているローラ29の高さ位置はほぼ同じである。ゆえに、損傷検出機構は把持区間に設けた場合でも、非把持区間に設けた場合でも、損傷検出器50のローラ62がクランプ5のローラ29からほぼ等しい押し下げ圧力を受けることによって、バネ28の損傷検出が行える。
【0031】
もっとも、クランプ5の修理等の便宜を考慮すると、前処理槽1とめっき槽2と後処理槽3からなるめっき設備の存在しない区間に損傷検出機構(損傷検出器50および位置検出器70)を設けることが好ましい。この場合、クランプ5のバネ損傷を検出したときのクランプ5の修理、交換等の保守作業が容易に行える。
【0032】
図3は損傷検出器50の検出結果を示している。図3は5本のクランプ5を例示しており、そのうち真中のクランプ5´が損傷したバネ28´をもつクランプと仮定する。この場合、真中のクランプ5´については、図1(B)に示すように、損傷したバネ28´の付勢力が不足するので、損傷検知器50のローラ62を押し下げることができず、図2(B)に示すように、ロッド57の被検知部57aをセンサ58が検出する。この検知動作により、クランプ5のバネ28´の損傷を検出することができる。
【0033】
図3に示す正常な4台のクランプ5については、図1(A)に示すように、正常なバネ28によってローラ29が損傷検出器50のローラ62を押し下げるので、図2(A)に示すように、ロッド57の被検知部57aをセンサ58が検知することができない。
バネ28の状態を、正常を○、損傷を×で示し、そのONとOFFで示すと図3のとおりである。このようにして、バネ28の反力を利用してバネに損傷がある真中のクランプ5´をバネ不良が発生したものとして検出することができる。
【0034】
図4は位置検出器70の情報も加味した検出結果を示している。損傷検出器50のみでは、隣接するクランプ5,5間の隙間においても、損傷検出器50のローラ62を押し下げる力は働かないので、図1(B)に示すバネ損傷時と同様に、損傷検出器50のロッド57は上昇しており、被検知部57aをセンサ58が検出することになる。しかしながら、これは誤検出となる。
そこで、図1および図2に示すように、前記損傷検出器50の設置位置の上方には位置検出器70が設置されている。この位置検出器70によって、検出位置にクランプ5が来たことを検知することができる。
【0035】
図4において位置検出器70の欄に立上り信号が描かれているON状態は、クランプ5が検出位置に位置している状態であり、立上り信号が描かれていないOFF状態はクランプ5が検出位置に来ていない状態である。
【0036】
図4に示すように、位置検出器70の検出結果がONであり、損傷検出器50の検出結果がONであるときは、クランプ5のバネ28は正常である。位置検出器70の検出結果がOFFで、損傷検出器50の検出結果もOFFのときは、クランプ5の隣りの隙間を対象として検知しているので、この検出結果はキャンセルすることになる。位置検出器70の検出結果がONにも拘らず、損傷検出器50の検出結果がOFF(点線で示した立上り信号)のときは、バネ28´の損傷を検知したと判断することができる。このようにして、バネ損傷の生じたクランプ5´を容易かつ確実に特定することができる。
【0037】
(他の実施形態)
上記実施形態では、損傷検出器50の押付け部52を移動してきたクランプ5のローラ29で押し下げたが、その代わりに、クランプ5のローラ29を損傷検出器50の押付け部52で押し上げるようにしてもよい。この構成によっても、バネ28の反力を利用して、バネ28の損傷の有無を検知することができる。
【0038】
上記実施形態では、損傷検出器50と位置検出器70とで損傷検出機構を構成したが、位置検出器70を用いない損傷検出機構を構成することもできる。
たとえば、基材フィルムFを把持するためクランプ5を開かせるのにローラ29を徐々に押し上げていく傾斜カムを設けた実施形態では、つぎの構成が可能である。つまり、傾斜カムの途中にバネ28によって生ずるローラ29からの押圧力を検知する圧力センサなどを設けておけば、その位置は検出位置となり、その圧力センサは損傷検出器として機能する。この構成ではクランプ5が位置するときのみ検知信号を出すので、位置検出器70を設けなくてもよくなる。また、圧力センサの代わりにローラ29の押圧力を重量計で計測してもよい。この場合でも位置検出器70を設ける必要はなくなる。
【0039】
上記実施形態では、損傷検出器50と位置検出器70とは図1および図2に示す例では、同じ場所に設置しているが、必ずしも同じ場所に設置する必要はない。損傷検出器50と位置検出器70とは離れた場所に設置されていても、いずれかのクランプが対面する位置であればよい。なぜなら、隣接するクランプ5,5同士は等間隔に配置されているからである。
【0040】
(めっき方法)
つぎに、本発明に係るめっき方法を説明する。代表的には本発明のめっき方法は、上記しためっき装置Aを用いて実施される。
上記めっき装置Aにおいて、長尺帯状の基材フィルムFを複数のクランプ5で把持して、前処理槽1、めっき槽2、および後処理槽3を順に移動させて、基材フィルムFの表面にめっき層を形成する。
そして、クランプ5の移動経路のうち損傷検出機構(損傷検出器50および位置検出器70)を設置した検出位置において、クランプ5のバネ28の損傷有無が検出される。
【0041】
複数のクランプ5のうち、いずれかのクランプ5のバネ28に損傷が生ずると、損傷検出器50が損傷が生じたバネ28´をもつクランプ5を検知するので、速やかにクランプ5の修理作業を行える。したがって、クランプの保守点検のための時間と工数も軽減できる。
【0042】
本発明のめっき方法においても、基材フィルムFの材質が樹脂フィルムであり、これに下地金属層を介して銅をめっき成膜すれば、製品フィルムとしての銅張積層板が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
上記各実施形態では、めっきされた製品フィルムとして銅張積層板を例示したが、本発明はこれに限られず、たとえば、Niめっきフィルムなど種々のめっき膜成形フィルムの製造に適用できる。また、本発明は、フィルムを保持して搬送する装置であればあらゆる装置、たとえば無電解めっき装置や加熱処理装置などにも適用できる。
【符号の説明】
【0044】
A めっき装置
F 基材フィルム
1 前処理槽
2 めっき槽
3 後処理槽
4 エンドレスベルト
5 クランプ
25 挟持部
26 レバー
28 コイルバネ
29 ローラ
50 損傷検出器
52 押付け部
56 反力検知部
58 センサ
70 位置検出器
71 近接センサ
72 被検知体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7