(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】シリアルパフの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/117 20160101AFI20240229BHJP
A23L 7/17 20160101ALI20240229BHJP
【FI】
A23L7/117
A23L7/17
(21)【出願番号】P 2020053795
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】水野 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 良美
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-135923(JP,A)
【文献】特開昭64-051054(JP,A)
【文献】国際公開第2008/004512(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0102165(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G,A23J,A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともタンパク質40~70重量%、澱粉15~57重量%、及び水への溶解度が1g/100mL以上である有機酸塩3~15重量%とを含む原料粉(原料粉中の各成分の重量比率は、
水分を調整する場合において、調整する前の重量比率である)をエクストルーダーに供給し、膨化処理することを特徴とするシリアルパフの製造方法。
【請求項2】
原料粉をエクストルーダーで混捏する前および/または混捏中に、原料粉の水分を調整する場合において、水分調整後の原料粉の水分が15~35重量%であることを特徴とする請求項1記載のシリアルパフの製造方法。
【請求項3】
有機酸塩が、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩及びリンゴ酸塩からなる群より選ばれる1以上の有機酸塩であることを特徴とする請求項1又は2記載のシリアルパフの製造方法。
【請求項4】
有機酸塩が、グルコン酸塩であることを特徴とする請求項3記載のシリアルパフの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たなタンパク質含有率の高いシリアルパフの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コーンフレークなどのシリアル食品は、栄養価が高く、長期保存できるため、様々な形態が提案されており、近年需要が増加しているグラノーラには、穀物パフ(以下「シリアルパフ」という)を使用したものが多い。
【0003】
需要の増加に伴って様々なシリアルパフが提案されており、例えば「低カロリー」や「高食物繊維」等を特徴とするシリアルパフが開示されている。例えば、特許文献1には、糖オリゴマーと食物繊維からなるシリアルパフが開示されている。また、特許文献2、3には、サイリウムを含むシリアルパフや製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、タンパク質含有率を高めたシリアルパフについてはこれまで十分に検討されておらず、シリアルパフのタンパク質含有率を高める際に生じる課題も明らかになっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-193175号公報
【文献】特開2018-126074号公報
【文献】特開2018-170972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリアルパフのタンパク質含有率を高める際に最大の課題となったのが、エクストルーダー内における生地の高粘度化である。詳細は後述するが、生地の粘度が高くなるとシリアルパフの品質が低下するため、タンパク質含有率の高いシリアルパフを安定的に製造するためには、生地の粘度を低下させる必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、少なくともタンパク質40~70重量%、澱粉15~57重量%、及び水への溶解度が1g/100mL以上である有機酸塩3~15重量%含む原料粉をエクストルーダーに供給し、膨化処理することを特徴とするシリアルパフの製造方法により、上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の完成により、タンパク質含有率が高くても、生地の粘度を低下させ、シリアルパフの品質を安定化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】有機酸塩を加えておらず、加工適性の悪い例(試作例1)である。
【
図2】有機酸塩を加えて加工適性を向上させた例(試作例5)である。
【
図3】ファリノグラフを使用して、グルコン酸カリウムまたは塩化ナトリウムを添加した場合の生地物性を測定したグラフである。
【
図4】ファリノグラフを使用して、グルコン酸ナトリウムを添加した場合の生地物性を測定したグラフである。
【
図5】ファリノグラフを使用して、グルタミン酸ナトリウムを添加した場合の生地物性を測定したグラフである。
【
図6】ファリノグラフを使用して、クエン酸ナトリウムを添加した場合の生地物性を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、少なくともタンパク質40~70重量%、澱粉15~57重量%、及び水への溶解度が1g/100mL以上である有機酸塩3~15重量%含む原料粉をエクストルーダーに供給し、膨化処理することを特徴とするシリアルパフの製造方法に関するものである。以下項目ごとに詳細に説明する。
【0011】
(シリアルパフ)
本発明におけるシリアルパフとは、嵩比重が400g/L以下のシリアルをいう。
【0012】
(有機酸塩)
本発明においては、原料粉が有機酸塩を3~15重量%含むことが必要である。有機酸塩を添加することにより、エクストルーダー内における生地の粘度を低下させるとともに、製品としての風味の低下を抑制することができる。本発明者ら有機酸塩を見出した経緯について下記に説明する。
【0013】
シリアルパフのタンパク質含有率を高める際に最大の課題となったのが、エクストルーダー内における生地の高粘度化である。タンパク質を含む生地を混捏するとタンパク質が凝集して粘度が上昇することは従来から知られているが、本発明ではタンパク質含有率が40重量%を超えるパフを製造することを想定しているため、従来とは比較にならないほど粘度が上昇する。
【0014】
加水すれば粘度を下げることはできるが、加水量が増えすぎると生地中に十分な気泡が発生せず、好ましい食感とならない。一方、生地の粘度が高いまま加工を続けると、エクストルーダーから吐出した直後の生地の可塑性が低すぎるためシリアルパフが脆くなったり、摩擦熱により生地温度が上昇するため、焼付きや香気成分の散逸が起こりやすい。さらに、生産設備に対する負荷も大きい。このため、シリアルパルの品質の安定化のためには加水以外の方法で生地粘度を低下させる必要があった。
【0015】
これに対し、本発明者らは、原料粉に塩化ナトリウムや塩化カリウムなどの無機塩を加えて生地粘度を抑制する方法を検討した。メカニズムは明確ではないが、溶解性の高い塩を加えることによって、タンパク質の溶解度が下がって水が離水し、生地の粘度が下がると考えられる。ところが開発の過程で、無機塩で生地粘度を抑制しようとする場合には、生地に添加する無機塩の量が多く、味覚に対する影響が大きいことが解ってきた。
【0016】
そこで、本発明者らは、加水量や無機塩の添加量を増やさずに生地粘度を下げる方法として、有機酸塩を添加する方法を見出した。有機酸塩は無機塩よりも粘度を抑制する機能が強いため、添加量を減らすことができ、味覚に対する影響も最小限度に抑制することができる。
【0017】
有機酸塩としては、食品グレードのものであれば広く使用することができるが、水への溶解度が1g/100mL以上であることが必要であり、3g/100mL以上であることが好ましい。有機酸塩の水への溶解度が低い場合には、タンパク質から離水させる機能が弱く、生地の高粘度化を十分に抑制することができない。
【0018】
有機酸塩の具体例としては、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
【0019】
これら有機酸塩は、シリアルパフに求められる風味によって変更することができる。具体的には、ドライフルーツやヨーグルトのような酸味の強い食品と合わせて食べることが想定されている場合には、酸味の強いクエン酸ナトリウムやリンゴ酸ナトリウムなどを用い、コーンスープやベーコンなど旨味の強い食品と合わせて食べることが想定されている場合には、旨味成分であるグルタミン酸ナトリウムやコハク酸ナトリウムなどを用いることが好ましい。また、シリアルパフに風味をできる限り付与したくない場合には、味覚に対する影響の小さいグルコン酸ナトリウムやグルコン酸カリウムなどを用いることが好ましい。
【0020】
次に、有機酸塩の添加量について説明する。
有機酸塩の添加量の下限については、原料粉全量に対する有機酸塩の添加量を3重量%以上とすることが必要であり、4.5重量%以上とすることがより好ましい。有機酸塩の添加量が少なすぎる場合には、生地粘度を十分に抑制させることができない。
【0021】
一方、有機酸塩の添加量の上限については、用途によって許容量が異なる。具体的には、グルコン酸ナトリウム及びグルコン酸カリウムなど味覚に対する影響の小さい有機酸塩を用いる場合には、有機酸塩の添加量を15重量%以下とすることが好ましく、12重量%以下とすることがより好ましい。一方、クエン酸ナトリウムやグルタミン酸ナトリウムなどの味覚に対する影響の大きい有機酸塩を用いる場合には、有機酸塩の添加量を8重量%以下とすることが好ましく、5重量%以下とすることがより好ましい。すなわち、グルコン酸塩は、他の有機酸塩と比べて味への影響が小さく、必要に応じて添加量を増やすことができるという点において、他の有機酸塩よりも優れた性質を有している。
【0022】
なお、生産性の観点では過剰に有機酸塩を添加する必要はないため、原料粉全量に対する有機酸塩の添加量を15重量%以下とすることが好ましい。
【0023】
(タンパク質)
本発明においては、原料粉がタンパク質を40~70重量%含むことが必要であり、50~65重量%含むことがより好ましい。タンパク質の含有量が40重量%未満の場合には、生地の粘度があまり上がらないため本発明を採用する意義がない。また、タンパク質含有率の高いシリアルパフを製造するという本発明の目的にも反する。
【0024】
一方、原料粉が有機酸塩を3重量%以上、澱粉を15重量%以上含むことが必要であるため、タンパク質の含有量を70重量%超とするのは事実上不可能である。さらに、タンパク質を多量に含む場合には、澱粉を添加する余地がなくなるため、膨化が起こりにくく、シリアルをパフ状に成型することが難しい。
【0025】
タンパク質としては、植物性タンパクや動物性タンパクなどを利用できるが、本発明は穀物の加工品であるシリアルパフを製造することを目的とするものであるため、風味などを考慮し、植物性タンパクの中でも特に大豆タンパクや小麦タンパクなど穀物に由来するタンパク質を用いることが好ましい。また、大豆タンパクや小麦タンパクは単離されている必要はなく、その原料である大豆や小麦粉を用いてもよい。
【0026】
(澱粉)
次に、本発明においては、シリアルをパフ状に膨らませるために、原料粉が澱粉を15~57重量%含むことが必要であり、17重量%以上含むことが好ましい。澱粉に水を加えて混捏すると糊状になり、この糊状の澱粉を急激に加熱すると、澱粉に含まれる水が膨張するのと同時に、これを包む澱粉が伸展しながら固まる。この結果、パフ状に膨らんだシリアルが得られる。
【0027】
澱粉が少なすぎる場合には、膨化する力が弱く、パフ状に加工することができない。一方、澱粉が多すぎると、パフ状に加工することは容易になるが、タンパク質の含有率が相対的に下がるため、タンパク質含有率の高いシリアルパフを得ようとする本発明の目的に反するものとなる。
【0028】
澱粉としては、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉等の天然澱粉、α化澱粉、エーテル架橋澱粉、リン酸架橋澱粉等の化工澱粉であってもよい。また、澱粉の原料である小麦粉や馬鈴薯を用いてもよい。
【0029】
(加工条件)
エクストルーダーは、粉体、粒状の材料に水を加えながら、加温条件下においてスクリューで圧力をかけ押し出すことにより混練・加工・成形・膨化等を行う装置である。本発明に用いるエクストルーダーは、一軸エクストルーダーでも二軸以上の複軸エクストルーダーでも用いることができるが、品質の安定性の点から二軸型のものが好ましい。エクストルーダーは一般的に、投入部、スクリュー、バレル(トンネル状の部品であり、バレル内部でスクリューが回りサンプルを処理する)、ダイ(処理された生地が外に出てくる部分)などから構成される。
【0030】
原料粉は投入部から加えられ、加温されたバレル中で、スクリューにより混合されながら圧力がかけられ、ダイから押し出される。この際、本発明のように澱粉を含む原料粉を混合して高温高圧下で処理すると、ダイから押し出された際に圧縮されていた水分と空気が膨張して、膨化物が得られる。その後、膨化物を適当な長さにカッティングすることでシリアルパフを製造することができる。
【0031】
なお、エクストルーダー内のバレル温度は60~160℃が好ましく、80から140℃がより好ましい。また、ダイ部における圧力は2~20MPaが好ましく、5~15MPaがより好ましい。
【0032】
シリアルパフの食感・外観に変化を持たせるために、エクストルーダーに吐出後に圧ぺんロールをかけて形状を変化させても良い。
【0033】
また、シリアルパフの食感や保存性を高めるために、必要に応じて、乾燥工程を設けてもよい。一般的な、乾燥条件は100~300℃で15秒~20分間であるが、自然乾燥でも良い。なお、シリアルパフの水分含量には特に制限はないが、従来通りのシリアルらしいサクサクとした食感を望む場合には、含水率を7重量%以下とすることが好ましく、4重量%以下とすることがより好ましい。
【0034】
(水分調整)
本発明では、原料粉をエクストルーダーで混捏する前および/または混捏中に、原料粉の水分を調整することが好ましい。原料粉の主材料である小麦粉や澱粉は、農作物であるため収穫時期や原産地によって水分が異なることが多く、シリアルパフの品質が安定しない原因となりやすい。そこで、水分を調整する工程を設けることで、シリアルパフの品質を安定させることができる。
【0035】
また、水分調整後の原料粉の水分を15~35重量%とすることが好ましく、18~25重量%とすることがより好ましい。水分が15重量%を下回ると、エクストルーダーから吐出した直後の生地の可塑性が低くなりすぎるため、シリアルパフが脆くなる。また、条件によっては、粘度が高くなりすぎてしまいエクストルーダーの停止・損傷の原因となる。一方、水分が35重量%を超えると、生地中に十分な気泡が発生せず、好ましい食感とならない。また、条件によっては膨化自体が起こらず、パフ状に成型することができない。
【実施例】
【0036】
粉末大豆タンパク(不二製油社製「フジプロE」)66重量部、小麦粉(日清製粉社製「フラワー」)34重量部を粉体混合し、さらに水を加えて混合物(試作例1)を調整した。
【0037】
粉末大豆タンパク66重量部、小麦粉32重量部、グルコン酸カリウム2重量部を粉体混合し、さらに水を加えて試作例2を調整した。表1、2に従い原料比率を調整し、試作例3~23を調整した。
【0038】
試作例1~23を2軸エクストルーダー(エヌピー食品社製、LT-32L)に供給し、膨化させてシリアルパフ(実施例1~21、比較例1、2)を製造した。エクストルーダーのバレル温度は90℃、スクリュー速度(生地搬送速度)は144rpmである。
【0039】
加工適性(形態安定性)
試作例1~23について、加工適性(形態安定性)を評価した。評価基準は下記の通りである。
○:ほとんどのサンプル(シリアルパフ)でバリや角が無く、略球状に膨化している(不良率5%未満)
×:ほとんどのサンプルでバリや角が発生している、又は十分に膨化していない(不良率50%以上)
△:中間の評価(不良率5%以上、50%未満)
【0040】
風味
有機酸塩がシリアルパフの風味に与える影響を評価するため、熟練したパネラー10名が以下の基準に従って評価した。
○:シリアルパフの風味に影響しない、又は風味が良好と評価したパネラーが9名以上
×:有機酸塩の風味が強すぎて、喫食に適さないと評価したパネラーが9名以上
△:上記以外
【0041】
【0042】
【0043】
生地物性評価
粉末大豆タンパク67部、小麦粉24部、グルコン酸カリウム9部を粉体混合し、ここに水を240部加えた混合物(試作例F7)について、ファリノグラフを用いて粘度の経過を観察した。ファリノグラフとは、生地のミキシング過程において、回転軸にかかるトルクを硬粘度(FU:ファリノグラフ単位)として測定する装置である。本来は、エクストルーダーを用いる場合と同じ加水量にすべきであるが、粘度が高すぎてファリノグラフによる測定ができないため、加水量を増やして粘度を下げた試験用サンプルを準備した。
【0044】
試作例F7の粉体原料(粉末大豆タンパク、小麦粉、有機酸塩)の比率は、試作例7と同等である。同じように、試作例F10~13は試作例10~13に対応している。また、試作例F0は、有機酸塩を添加しない場合の挙動を確認するためのサンプルであり、試作例F7からグルコン酸カリウムを除いた配合となっている。
【0045】
本発明における具体的な測定条件は以下の通りである。
測定機器:ファリノグラフE型(ブラベンダー社製)
温度:30℃
計測時間(ミキシング時間):290秒(カウント145回)
測定間隔:2秒
図3~7のグラフにおいて、横軸はカウント数、縦軸はファリノグラフ単位(FU)である。
【0046】
【0047】
試作例1~9より、有機酸塩(グルコン酸カリウム)を少なくとも3重量%以上含むことが必要であり、4.5重量%以上含むことが好ましいことがわかる。また、有機酸塩が多すぎるとシリアルの風味が低下する。
【0048】
試作例7、10~13より、有機酸塩の方が、塩化ナトリウムを添加するよりも、有機酸塩を添加する方が、加工適性が良好である。風味の点では、グルコン酸塩(グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム)が優れていることがわかる。また、表3より、有機酸塩は塩化ナトリウムよりも粘度を安定化させる機能に優れていることがわかる。
【0049】
試作例5、14~19より、有機酸塩を加えた場合であっても、タンパク質が多すぎると加工適性が低下することがわかる。一方、パフに含まれる澱粉が多いほど加工適性が改善する傾向だった。
【0050】
試作例5、20~23より、最適な加水量を外れると加工適性が低下することがわかった。