(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 141/06 20060101AFI20240229BHJP
C10M 141/10 20060101ALI20240229BHJP
C10M 129/10 20060101ALN20240229BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20240229BHJP
C10M 133/56 20060101ALN20240229BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20240229BHJP
C10M 137/04 20060101ALN20240229BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20240229BHJP
C10M 129/74 20060101ALN20240229BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20240229BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20240229BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240229BHJP
C10N 30/10 20060101ALN20240229BHJP
【FI】
C10M141/06
C10M141/10
C10M129/10
C10M133/16
C10M133/56
C10M133/12
C10M137/04
C10M137/10 Z
C10M129/74
C10N40:08
C10N30:04
C10N30:06
C10N30:10
(21)【出願番号】P 2020065357
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 翔太
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-543903(JP,A)
【文献】特開2004-331933(JP,A)
【文献】特開2004-123938(JP,A)
【文献】特開2004-035577(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003815(WO,A1)
【文献】特開2009-029968(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003812(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152752(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/077961(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)と、
モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)
を含むイミド化合物(C)と、
極圧剤(D)と、
を含有し、
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)は、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールであり、
前記基油(A)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で80.0質量%~98.0質量%であり、
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で0.40質量%~2.0質量%であり、
前記モノイミド化合物(C1)は、アルケニルコハク酸モノイミド化合物及びアルキルコハク酸モノイミド化合物からなる群から選択される1種以上であり、
前記ビスイミド化合物(C2)は、アルケニルコハク酸ビスイミド化合物及びアルキルコハク酸ビスイミド化合物からなる群から選択される1種以上であ
り、
前記モノイミド化合物(C1)及び前記ビスイミド化合物(C2)の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、0.10質量%~0.50質量%であり、
前記モノイミド化合物(C1)と前記ビスイミド化合物(C2)との含有比率[(C1)/(C2)]は、質量比で、1/3~3/2であり、
前記極圧剤(D)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、0.20質量%~2.0質量%である、
油圧作動油として用いられる、潤滑油組成物。
【請求項2】
アミン系酸化防止剤(E)を更に含有する、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)と前記アミン系酸化防止剤(E)との含有比率[(B)/(E)]が、質量比で、6/1~10/1である、請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.60質量%未満である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記極圧剤(D)は、リン系極圧剤(D1)及び硫黄-リン系極圧剤(D2)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
ソルビタン脂肪酸エステル(F)を更に含有する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル、クレーン、ホイールローダ、及びブルドーザ等の建設機械に搭載されている油圧機器は、高圧、高温、高速、及び高荷重での稼働が要求される。
そのため、建設機械用の油圧機器において動力伝達媒体として使用される潤滑油組成物は、高圧、高温、高速、及び高荷重下で長期に亘って使用しても、油圧機器の性能を損なわないような、耐摩耗性及び酸化安定性が求められる。
特に、作動圧力が30MPa以上である油圧機器に用いられる潤滑油組成物は、酸化安定性や潤滑性能の劣化が早期に引き起こされやすく、スラッジ発生や作動不良といった弊害が生じやすい。
【0003】
例えば、特許文献1には、作動圧力が30MPa以上である建設機械等の油圧機器に使用される油圧作動油組成物として、所定の動粘度を有するポリオレフィンに、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、及びリン酸エステルを所定の割合で含有する油圧作動油組成物が提案されている。
特許文献1には、当該油圧作動油組成物は、高圧下での酸化安定性及び潤滑性能に優れ、高圧下における早期劣化やスラッジ発生等を効果的に防止し、長期間に亘って使用できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、油圧機器は、高圧化、小型化、高速化、及び高精度化等といった高性能化が指向されている。したがって、油圧機器に用いられる潤滑油組成物に対する要求性能は、より過酷なものとなる。そのため、油圧機器に用いられる潤滑油組成物のさらなる高性能化が望まれる。
かかる観点から、近年、ISOの油圧作動油の規格には、耐摩耗性等の潤滑性を規定する「FZGスコーリング試験」が採用されている(ISO-14635)。
また、油圧機器においてスラッジが多量に発生すると、バルブロックの発生や油圧ポンプの摩耗に繋がる。油圧機器に用いられる潤滑油組成物のさらなる高性能化を図る上では、長期間に亘りスラッジの発生量を極少量に抑制することが要求される。
さらに、油圧機器の高性能化により、焼き付き等がより発生しやすくなることもある。油圧機器に用いられる潤滑油組成物のさらなる高性能化を図る上では、長期間に亘り優れた耐焼き付き性を発揮できることも要求される。
【0006】
つまり、油圧機器の高性能化が指向されている近年の状況を踏まえると、油圧機器に用いられる潤滑油組成物には、長期間に亘りスラッジ発生量を極少量に抑える性能(以下、「スラッジ抑制性」ともいう)に優れると共に、耐スコーリング性及び耐焼き付き性等により評価される耐摩耗性を長期間に亘り良好に発揮できることが要求される。
しかしながら、特許文献1では、このような検討は十分に行われていない。
【0007】
本発明は、スラッジ抑制性と、耐スコーリング性及び耐焼き付き性により評価される耐摩耗性とを、長期間に亘り良好に発揮することができる潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定のフェノール系酸化防止剤を含有すると共に、特定の2種のイミド化合物を含有する潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記[1]~[8]に関する。
[1] 基油(A)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)と、モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)からなる群から選択される1種以上のイミド化合物(C)と、極圧剤(D)と、を含有し、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)は、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールであり、前記モノイミド化合物(C1)は、アルケニルコハク酸モノイミド化合物及びアルキルコハク酸モノイミド化合物からなる群から選択される1種以上であり、前記ビスイミド化合物(C2)は、アルケニルコハク酸ビスイミド化合物及びアルキルコハク酸ビスイミド化合物からなる群から選択される1種以上である、潤滑油組成物。
[2] アミン系酸化防止剤(E)を更に含有する、[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)と前記アミン系酸化防止剤(E)との含有比率[(B)/(E)]が、質量比で、6/1~10/1である、[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記モノイミド化合物(C1)と、前記ビスイミド化合物(C2)との含有比率[(C1)/(C2)]が、質量比で、0超~2/1以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[5] 2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールの含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.60質量%未満である、[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[6] 前記極圧剤(D)は、リン系極圧剤(D1)及び硫黄-リン系極圧剤(D2)からなる群から選択される1種以上を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[7] ソルビタン脂肪酸エステル(F)を更に含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
[8] 油圧作動油として用いられる、[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スラッジ抑制性と、耐スコーリング性及び耐焼き付き性により評価される耐摩耗性とを、長期間に亘り良好に発揮することができる潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
また、本明細書において、「AA~BB」と記載されている数値範囲は、特にことわりのない限り、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0012】
[本発明の潤滑油組成物の態様]
本発明の潤滑油組成物は、基油(A)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)と、モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)からなる群から選択される1種以上のイミド化合物(C)と、極圧剤(D)と、を含有し、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)は、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールであり、前記モノイミド化合物(C1)は、アルケニルコハク酸モノイミド化合物及びアルキルコハク酸モノイミド化合物からなる群から選択される1種以上であり、前記ビスイミド化合物(C2)は、アルケニルコハク酸ビスイミド化合物及びアルキルコハク酸ビスイミド化合物からなる群から選択される1種以上である。
【0013】
本発明者は、スラッジ抑制性と、耐スコーリング性及び耐焼き付き性により評価される耐摩耗性とを、長期間に亘り良好に発揮することができる潤滑油組成物を提供すべく、鋭意検討を行った。
まず、スラッジ抑制性の観点から、フェノール系酸化防止剤とイミド化合物とを組み合わせて用いることを考えた。ところが、イミド化合物は、スラッジ抑制性を向上させ得る一方で、極圧剤の性能を低下させ、潤滑油組成物の耐摩耗性を低下させる要因になると考えられた。また、極圧剤は、潤滑油組成物に耐摩耗性を付与する一方で、スラッジ発生の要因になると考えられた。
これらの点を総合的に勘案し、本発明者は、本発明の課題を達成する上で、少なくとも以下の2点を解決することが重要であると考えた。
(1)極圧剤をイミド化合物と併用することにより生じる極圧剤の性能低下を抑制すること。
(2)極圧剤の添加によるスラッジ発生を抑制すること。
【0014】
かかる観点から、本発明者はさらに鋭意検討を進めた。
その結果、従来、油圧機器等に用いられる潤滑油組成物において使用されていたフェノール系酸化防止剤である2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(以下、「DBPC」ともいう)に代えて、DBPCが有するクレゾール骨格のメチル基を水素原子に変更した2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(以下、「DTBP」ともいう)を含有する潤滑油組成物が、極圧剤の添加によるスラッジ発生を抑制し、スラッジ抑制性を大きく向上させる機能を有することを見出した。
また、イミド化合物として、モノイミド化合物及びビスイミド化合物を組み合わせて用いることによって、極圧剤をイミド化合物と併用することにより生じる極圧剤の性能低下を抑制することができ、極圧剤の性能を十分に発揮できることを見出した。
これらの結果に基づき、本発明者はさらに鋭意検討を進め、本発明を完成するに至った。
なお、本発明の上記効果が奏される理由は明確にはなっていないが、例えば、以下のことが推察される。
すなわち、DBPCが有するクレゾール骨格のメチル基を水素原子に変更したDTBPが、潤滑油組成物中で多量体化(例えば、二量体化)することによって、DBPCと比較して潤滑油組成物中にとどまりやすくなり、酸化防止剤としての性能を十分に発揮できること、モノイミド化合物によって極圧剤の分散性向上を図りつつ、ビスイミド化合物によって極圧剤の反応場を金属表面に形成しやすくなること等によって、本発明の効果が発揮されるものと推察される。
【0015】
なお、以降の説明では、「基油(A)」、「ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)」、「イミド化合物(C)」、及び「極圧剤(D)」を、それぞれ「成分(A)」、「成分(B)」、「成分(C)」、及び「成分(D)」ともいう。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、「成分(A)」、「成分(B)」、「成分(C)」、及び「成分(D)」のみから構成されていてもよいが、本発明の効果を損なうことのない範囲で、「成分(A)」、「成分(B)」、「成分(C)」、及び「成分(D)」以外の他の成分を含有していてもよい。
本発明の一態様において、「成分(A)」、「成分(B)」、「成分(C)」、及び「成分(D)」の合計含有量は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは70.0質量%以上、より好ましくは75.0質量%以上、更に好ましくは80.0質量%以上、より更に好ましくは85.0質量%である。
成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計含有量の上限値は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)以外の他の成分との兼ね合いで調整すればよく、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは99.0質量%以下、より好ましくは98.0質量%以下、更に好ましくは97.0質量%以下である。
【0016】
以下、基油(A)、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)、イミド化合物(C)、極圧剤(D)、更には他の成分について、詳細に説明する。
【0017】
<<基油(A)>>
本発明の潤滑油組成物は、基油(A)を含有する。
基油(A)としては、従来、潤滑油の基油として用いられている鉱油及び合成油から選択される1種以上を、特に制限なく使用することができる。
【0018】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、又はナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油;等が挙げられる。
【0019】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体及びα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリオールエステル及び二塩基酸エステル等の各種エステル;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(ガストゥリキッド(GTL)ワックス)を異性化することで得られるGTL基油等が挙げられる。
【0020】
基油(A)は、鉱油を単独で又は複数種組み合わせて用いてもよいし、合成油を単独で又は複数種組み合わせて用いてもよい。また、1種以上の鉱油と1種以上の合成油とを組み合わせて用いてもよい。
【0021】
基油(A)は、潤滑油組成物の酸化安定性をより向上させる観点から、米国石油協会(API)の基油カテゴリーにおけるグループII、III、及びIVに分類される基油から選択される1種以上が好ましく、グループII及びIIIに分類される基油から選択される1種以上がより好ましい。
【0022】
基油(A)の40℃における動粘度(以下、「40℃動粘度」ともいう)は、好ましくは10mm2/s~150mm2/s、より好ましくは15mm2/s~100mm2/s、更に好ましくは20mm2/s~80mm2/sである。
基油(A)の40℃動粘度が10mm2/s以上であると、引火点が高く、潤滑性能に優れる潤滑油組成物としやすい。
また、基油(A)の40℃動粘度が150mm2/s以下であると、低温時の粘性抵抗がそれほど大きくなることもなく、機械の作動を良好なものとしやすい。
【0023】
基油(A)の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上、より更に好ましくは110以上である。基油(A)の粘度指数が上記範囲であると、温度変化による粘度変化を抑えて高温時に油膜を形成させやすくすることができ、耐摩耗性を向上させやすい。
【0024】
なお、基油(A)が2種以上の基油を含有する混合基油である場合、当該混合基油の40℃動粘度及び粘度指数が上記範囲内であることが好ましい。
【0025】
本明細書において、40℃動粘度及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出される値を意味する。
【0026】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは80.0質量%~98.0質量%、より好ましくは83.0質量%~97.0質量%、更に好ましくは85.0質量%~96.0質量%である。
【0027】
<<ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)>>
本発明の潤滑油組成物は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)を含有し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)は、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールである。
潤滑油組成物が2,6-ジ-tert-ブチルフェノールを含有しない場合、スラッジ抑制性を優れたものとすることができない。
【0028】
なお、本発明者の検討によれば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールが有するフェニル基の4位(パラ位)の水素原子をメチル基に置換した2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを用いると、スラッジ抑制性を優れたものとすることができない。つまり、本発明の効果は、フェノール系酸化防止剤の構造上の微妙な差異(すなわち、メチル基の有無)により奏されるものと推察される。
【0029】
(ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)の含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)の含有量は、スラッジ抑制性により優れる潤滑油組成物とする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.40質量%~2.0質量%、より好ましくは0.50質量%~1.5質量%、更に好ましくは0.60質量%~1.2質量%、より更に好ましくは0.65質量%~1.0質量%、更になお好ましくは0.70質量%~0.90質量%である。
【0030】
<<イミド化合物(C)>>
本発明の潤滑油組成物は、モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)からなる群から選択される1種以上のイミド化合物(C)を含有する。潤滑油組成物がイミド化合物(C)を含有しない場合、スラッジ抑制性を優れたものとすることができない。一方で、既述のように、潤滑油組成物がイミド化合物(C)を含有することによって、極圧剤(D)の性能を低下させてしまう問題がある。本発明では、かかる問題を踏まえ、イミド化合物(C)として、モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)からなる群から選択される1種以上のイミド化合物(C)を用いている。
これにより、極圧剤(D)の性能を低下させることなく、十分に発揮させて、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物としている。
なお、モノイミド化合物(C1)は、アルケニルコハク酸モノイミド化合物及びアルキルコハク酸モノイミド化合物からなる群から選択される1種以上である。
また、ビスイミド化合物(C2)は、アルケニルコハク酸ビスイミド化合物及びアルキルコハク酸ビスイミド化合物からなる群から選択される1種以上である。
【0031】
以降の説明では、「モノイミド化合物(C1)」を、単に「成分(C1)」ともいう。また、「ビスイミド化合物(C2)」を、単に「成分(C2)」ともいう。
以下、モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)について、詳細に説明する。
【0032】
(モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2))
モノイミド化合物(C1)は、アルケニルコハク酸モノイミド化合物及びアルキルコハク酸モノイミド化合物からなる群から選択される1種以上である。アルケニルコハク酸モノイミド化合物及びアルキルコハク酸モノイミド化合物としては、例えば、下記一般式(c1)で表される化合物が好ましい。また、ビスイミド化合物(C2)は、アルケニルコハク酸ビスイミド化合物及びアルキルコハク酸ビスイミド化合物からなる群から選択される1種以上である。アルケニルコハク酸ビスイミド化合物及びアルキルコハク酸ビスイミド化合物としては、例えば、下記一般式(c2)で表される化合物が好ましい。
【0033】
【0034】
上記一般式(c1)において、Rc11は、アルケニル基又はアルキル基であり、Rc12は炭素数1~6のアルキレン基であり、n1は1~20の整数である。また、n1が2以上の場合、複数のRc12は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
上記一般式(c2)において、Rc21及びRc24は、各々独立に、アルケニル基又はアルキル基であり、Rc22及びRc23は、各々独立に、炭素数1~6のアルキレン基であり、n2は0~20の整数である。また、n2が2以上の場合、複数のRc22は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
Rc11、Rc21、及びRc24として選択され得るアルケニル基又はアルキル基は、基油(A)への溶解性を向上させると共に、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、質量平均分子量(Mw)が、好ましくは2,000~10,000、より好ましくは3,000~9,000、更に好ましくは4,000~8,000である。
【0036】
Rc11、Rc21、及びRc24として選択され得るアルケニル基としては、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン共重合体を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものが挙げられる。ポリブテニル基は、1-ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものが好ましく用いられる。中でも、アルケニル基としてはポリブテニル基、イソブテニル基が好ましく、アルキル基としてはポリブテニル基、イソブテニル基を水添したものが挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物においては、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、Rc11、Rc21、及びRc24として選択され得る基は、アルケニル基が好ましくは、アルケニル基の中でもポリブテニル基がより好ましい。
【0037】
Rc12、Rc22、及びRc23として選択され得る炭素数1~6のアルキレン基としては、基油(A)への溶解性を向上させると共に、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、メチレン基;1,1-エチレン基及び1,2-エチレン基等の各種エチレン基;1,3-プロピレン、1,2-プロピレン、及び2,2-プロピレン等の各種プロピレン基;各種ブチレン基;各種ペンチレン基;各種ヘキシレン基が好ましい。
また、同様の観点から、Rc12、Rc22、及びRc23として選択され得るアルキレン基の炭素数は、2~5であることが好ましく、2~4であることがより好ましく、2又は3であることが更に好ましい。
【0038】
上記一般式(c1)中のn1は、基油(A)への溶解性を向上させると共に、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、2~15であることが好ましく、3~10であることがより好ましく、3~5であることが更に好ましく、3又は4であることがより更に好ましい。
上記一般式(c2)中のn2は、上記一般式(c2)で表される成分(C2)の基油への溶解度の向上、及び本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、1~15であることが好ましく、2~10であることがより好ましく、2~5であることが更に好ましく、3又は4であることがより更に好ましい。
【0039】
アルケニルコハク酸モノイミド、アルキルコハク酸モノイミド、アルケニルコハク酸ビスイミド、又はアルキルコハク酸ビスイミドは、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。モノイミド体及びビスイミド体はそれぞれ、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの反応比率を変えることによって製造することができる。
上記ポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2~8のα-オレフィンから選ばれる1種以上を混合して用いることができるが、イソブテンと1-ブテンの混合物を好適に用いることができる。
一方、ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等のジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミンを挙げることができる。
【0040】
(モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)の合計含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)の含有量は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.10質量%~0.50質量%、より好ましくは0.13質量%~0.40質量%、更に好ましくは0.15質量%~0.35質量%、より更に好ましくは0.17質量%~0.30質量%である。
【0041】
(モノイミド化合物(C1)とビスイミド化合物(C2)との含有比率[(C1)/(C2)])
本発明の一態様の潤滑油組成物において、モノイミド化合物(C1)とビスイミド化合物(C2)との含有比率[(C1)/(C2)]は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、質量比で、好ましくは0超~2/1、より好ましくは1/3~3/2、更に好ましくは2/3~3/2である。
【0042】
<<極圧剤(D)>>
本発明の潤滑油組成物は、極圧剤(D)を含有する。
潤滑油組成物が極圧剤(D)を含有しない場合、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物とすることができない。
【0043】
ここで、本発明の一態様の潤滑油組成物において、極圧剤(D)は、リン系極圧剤(D1)及び硫黄-リン系極圧剤(D2)からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
以降の説明では、「リン系極圧剤(D1)」を、単に、「成分(D1)」ともいう。また、「硫黄-リン系極圧剤(D2)」を、単に、「成分(D2)」ともいう。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、「成分(D1)」及び「成分(D2)」からなる群から選択される1種以上の成分の含有量は、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物とする観点から、極圧剤(D)の全量基準で、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは85質量%~100質量%、更に好ましくは90質量%~100質量%、より更に好ましくは95質量%~100質量%である。
【0044】
以下、「リン系極圧剤(D1)」及び「硫黄-リン系極圧剤(D2)」について、詳細に説明する。
【0045】
(リン系極圧剤(D1))
本発明の一態様の潤滑油組成物は、リン系極圧剤(D1)を含むことが好ましい。潤滑油組成物がリン系極圧剤(D1)を含むことで、潤滑油組成物に優れた耐摩耗性を付与しやすい。また、リン系極圧剤(D1)を、成分(B)並びに成分(C1)及び成分(C2)と組み合わせて用いることで、リン系極圧剤(D1)の添加によるスラッジ抑制性の低下が改善されると共に、リン系極圧剤(D1)の性能がいかんなく発揮される。
なお、本明細書において、リン系極圧剤(D1)は、リン原子を含み、極圧性能を有する極圧剤を意味する。リン原子と共に硫黄原子を含む極圧剤は、リン系極圧剤(D1)には分類されず、硫黄-リン系極圧剤(D2)に分類されるものとする。
【0046】
リン系極圧剤(D1)としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、亜リン酸水素エステル等のリン酸エステル化合物、及び該リン酸エステル化合物のアミン塩等が好ましく挙げられる。これらのリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、亜リン酸水素エステルとしては、より具体的には、各々以下の一般式(d1-1)で示されるリン酸エステル、一般式(d1-2)で示される酸性リン酸エステル、一般式(d1-3)で示される亜リン酸エステル、一般式(d1-4)及び(d1-5)で示される亜リン酸水素エステルが好ましく挙げられる。
リン系極圧剤(D1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
【0048】
一般式(d1-1)~(d1-5)中、Rd11、Rd21、Rd31、Rd41、及びRd51は、各々独立に、炭素数1~30の炭化水素基を示す。炭化水素基としては、より優れた耐摩耗性を得る観点から、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アリールアルキル基等が好ましく挙げられる。
【0049】
Rd11、Rd21、Rd31、Rd41、及びRd51がアルキル基の場合、炭素数は、より優れた耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは2~20、より好ましくは2~10である。アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、更に入手のしやすさ等を考慮すると、直鎖状、分岐状が好ましい。
Rd11、Rd21、Rd31、Rd41、及びRd51がアルケニル基の場合、炭素数は、より優れた耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは2~20、より好ましくは2~10である。アルケニル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0050】
Rd11、Rd21、Rd31、Rd41、及びRd51がアリール基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは6~20、より好ましくは6~15である。
Rd11、Rd21、Rd31、Rd41、及びRd51がアリールアルキル基の場合、炭素数は、より優れた耐焼付性及び耐摩耗性を得る観点、更に入手のしやすさ等も考慮すると、好ましくは6~20、より好ましくは6~15である。
【0051】
複数のRd11、Rd31、及びRd51は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよく、また、Rd21及びRd41が複数ある場合は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
また、一般式(d1-2)中、m2は1又は2を示し、一般式(d1-4)中、m4は1又は2を示す。
【0052】
一般式(d1-1)で示されるリン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、tert-ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジtert-ブチルフェニルモノフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルモノフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルモノフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリオレイルホスフェート等が挙げられる。
【0053】
一般式(d1-2)で示される酸性リン酸エステルとしては、例えば、モノ(ジ)エチルアシッドホスフェート、モノ(ジ)n-プロピルアシッドホスフェート、モノ(ジ)2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、モノ(ジ)ブチルアシッドホスフェート、モノ(ジ)オレイルアシッドホスフェート、モノ(ジ)イソデシルアシッドホスフェート、モノ(ジ)ラウリルアシッドホスフェート、モノ(ジ)ステアリルアシッドホスフェート、モノ(ジ)イソステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0054】
一般式(d1-3)で示される亜リン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイトが挙げられる。
【0055】
一般式(d1-4)及び(d1-5)で示される亜リン酸水素エステルとしては、例えば、モノ(ジ)エチルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)-n-プロピルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)-n-ブチルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)-2-エチルヘキシルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)ラウリルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)オレイルハイドジェンホスファイト、モノ(ジ)ステアリルハイドロジェンホスファイト、モノ(ジ)フェニルハイドロジェンホスファイト等が挙げられる。
【0056】
また、上記リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、亜リン酸水素エステル等のリン酸エステル化合物のアミン塩としては、これらのリン酸エステル化合物と、アミンとから形成されるアミン塩が好ましく挙げられる。ここで、アミン塩の形成に用いられるアミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、ポリアルキレンアミン等が挙げられ、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンとしては、以下一般式(d1-6)で示されるアミンが挙げられる。
【0057】
【0058】
一般式(d1-6)中、Rd61は炭素数1~30の炭化水素基を示す。当該炭化水素基がアルキル基である場合、当該アルキル基が有する水素原子のうちの少なくとも1つがヒドロキシ基に置換されたヒドロキシアルキル基であってもよい。
Rd61は、好ましくは、炭素数6~18のアルキル基、炭素数6~18のアルケニル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基、又は炭素数6~18のヒドロキシアルキル基であり、これらの中でも、炭素数6~18のアルキル基がより好ましい。
また、m6は1、2又は3であり、m6が1のときは第1級アミン、m6が2のときは第2級アミン、m6が3のときは第3級アミンとなる。
【0059】
ポリアルキレンアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、テトラプロピレンペンタミン、ヘキサブチレンヘプタミン等が挙げられる。
【0060】
これらの中でも、より優れた耐摩耗性を潤滑油組成物に付与する観点から、リン酸エステル及び酸性リン酸エステルのアミン塩からなる群から選択される1種以上を用いることが好ましく、リン酸エステル単独、又はリン酸エステル及び酸性リン酸エステルのアミン塩を組み合わせて用いることが好ましい。
リン酸エステルとしては、上記一般式(d1-1)で表される化合物が好ましく、下記一般式(d1-1a)で表される化合物がより好ましい。
【化5】
上記一般式(d1-1a)中、R
d71~R
d73は、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基である。p1~p3は、それぞれ独立に、0~5の整数である。
上記一般式(d1-1a)で表される化合物の中でも、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、R
d71~R
d73は、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1~10のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基、更に好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。
また、p1~p3は、それぞれ独立に、0~1の整数であることが好ましい。
ここで、リン酸エステルを単独で用いる場合、p1~p3のうち1つ又は2つが0であり、残りが1であることが好ましい。また、この場合、R
d71~R
d73として選択し得るアルキル基は、tert-ブチル基であることが好ましい。
【0061】
また、酸性リン酸エステルのアミン塩としては、上記一般式(d1-2)で表される酸性リン酸エステルと上記(d1-6)で表されるアミンとから形成される酸性リン酸エステルのアミン塩が好ましい。この場合、上記一般式(d1-2)で表される酸性リン酸エステルは、炭素数2~10のアルキル基が好ましく、炭素数2~8のアルキル基がより好ましく、炭素数3~6のアルキル基が更に好ましい。
【0062】
(硫黄-リン系極圧剤(D2))
本発明の一態様の潤滑油組成物は、硫黄-リン系極圧剤(D2)を含むことが好ましい。潤滑油組成物が硫黄-リン系極圧剤(D2)を含むことで、潤滑油組成物に優れた耐摩耗性を付与しやすい。また、硫黄-リン系極圧剤(D2)を、成分(B)並びに成分(C1)及び成分(C2)と組み合わせて用いることで、硫黄-リン系極圧剤(D2)の添加によるスラッジ抑制性の低下が改善されると共に、硫黄-リン系極圧剤(D2)の性能がいかんなく発揮される。
【0063】
硫黄-リン系極圧剤(D2)としては、モノチオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、トリチオリン酸エステル、モノチオリン酸エステルのアミン塩、ジチオリン酸エステルのアミン塩、モノチオ亜リン酸エステル、ジチオ亜リン酸エステル、トリチオ亜リン酸エステルなどが挙げられ、これらの中でも、ジチオリン酸エステルが好ましい。
ここで、さらに優れた耐摩耗性を潤滑油組成物に付与する観点から、ジチオリン酸エステルの中でも、末端にカルボキシル基を有するジチオリン酸エステルが好ましい。
【0064】
末端にカルボキシル基を有するジチオリン酸エステルの具体例としては、下記一般式(d2)で示される化合物が挙げられる。
【化6】
上記一般式(d2)において、R
d71は炭素数1~8の直鎖又は分岐のアルキレン基を表し、R
d72及びR
d73はそれぞれ独立に炭素数3~20の炭化水素基を表す。
【0065】
Rd71は、基油に対する溶解性を良好にする観点から、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~8のアルキレン基であることが好ましく、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2~4のアルキレン基であることがより好ましく、分岐鎖アルキレン基であることが更に好ましい。具体的には、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH(CH2CH3)-、CH2CH(CH3)CH2-、及び-CH2CH(CH2CH2CH3)-等が好ましく挙げられ、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH(CH3)CH2-がより好ましく、-CH2CH(CH3)-が更に好ましい。
【0066】
また、Rd72及びRd73は、極圧性能を良好なものとしつつ、基油に対する溶解性を良好にする観点から、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数3~8のアルキル基が好ましく、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数4~6のアルキル基がより好ましい。具体的には、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、2-エチルブチル基、1-メチルペンチル基、1,3-ジメチルブチル基、及び2-エチルヘキシル基からなる群から選択されることが好ましく、これらのうち、イソブチル基、tert-ブチル基が更に好ましい。
硫黄-リン系極圧剤(D2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
(極圧剤(D)の含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、極圧剤(D)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.20質量%~2.0質量%、より好ましくは0.30質量%~1.7質量%、更に好ましくは0.40質量%~1.5質量%である。
極圧剤(D)の含有量が上記下限値以上であると、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物としやすい。また、極圧剤(D)の含有量が上記上限値以下であると、極圧剤(D)に起因するスラッジ発生を抑制しやすい。
【0068】
(リン系極圧剤(D1)の含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、リン系極圧剤(D1)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.30質量%~1.5質量%、より好ましくは0.35質量%~1.2質量%、更に好ましくは0.40質量%~1.0質量%である。
リン系極圧剤(D1)の含有量が上記下限値以上であると、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物としやすい。また、リン系極圧剤(D1)の含有量が上記上限値以下であると、リン系極圧剤(D1)に起因するスラッジ発生を抑制しやすい。
なお、リン系極圧剤(D1)由来のリン原子含有量は、同様の観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは200質量ppm~1400質量ppm、より好ましくは300質量ppm~900質量ppm、更に好ましくは500質量ppm~700質量ppmである。
【0069】
ここで、リン系極圧剤(D1)としては、リン酸エステルを単独で、又はリン酸エステル化合物及び酸性リン酸エステルのアミン塩を組み合わせて用いることが好ましい。
リン系極圧剤(D1)として、リン酸エステルを単独で用いる場合、リン酸エステルの含有量は、リン系極圧剤(D1)の上記含有量の範囲と同一であることが好ましい。
リン系極圧剤(D1)として、リン酸エステル化合物及び酸性リン酸エステルのアミン塩を組み合わせて用いる場合、リン酸エステル化合物及び酸性リン酸エステルのアミン塩の合計含有量は、リン系極圧剤(D1)の上記含有量の範囲と同一であることが好ましい。
また、リン系極圧剤(D1)として、リン酸エステル化合物及び酸性リン酸エステルのアミン塩を組み合わせて用いる場合、リン酸エステル化合物の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.20質量%~1.4質量%、より好ましくは0.30質量%~1.2質量%、更に好ましくは0.35質量%~0.9質量%である。また、酸性リン酸エステルのアミン塩の含有量は、好ましくは0.003質量%~0.1質量%、より好ましくは0.005質量%~0.05質量%、更に好ましくは0.007質量%~0.03質量%である。
また、リン系極圧剤(D1)として、リン酸エステル化合物及び酸性リン酸エステルのアミン塩を組み合わせて用いる場合、リン酸エステル化合物と酸性リン酸エステルのアミン塩との含有比率[(リン酸エステル化合物)/(酸性リン酸エステルのアミン塩)]は、質量比で、好ましくは50/1~100/1、より好ましくは60/1~95/1、更に好ましくは70/1~90/1である。
【0070】
(硫黄-リン系極圧剤(D2)の含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、硫黄-リン系極圧剤(D2)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%~0.20質量%、より好ましくは0.02質量%~0.10質量%、更に好ましくは0.02質量%~0.07質量%である。
硫黄-リン系極圧剤(D2)の含有量が上記下限値以上であると、耐摩耗性に優れる潤滑油組成物としやすい。また、硫黄-リン系極圧剤(D2)の含有量が上記上限値以下であると、硫黄-リン系極圧剤(D2)に起因するスラッジ発生を抑制しやすい。
なお、硫黄-リン系極圧剤(D2)由来のリン原子含有量は、同様の観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは7質量ppm~250質量ppm、より好ましくは15質量ppm~150質量ppm、更に好ましくは20質量ppm~70質量ppmである。
また、硫黄-リン系極圧剤(D2)由来の硫黄原子含有量は、同様の観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは15質量ppm~500質量ppm、より好ましくは25質量ppm~250質量ppm、更に好ましくは30質量ppm~150質量ppmである。
【0071】
(リン系極圧剤(D1)と硫黄-リン系極圧剤(D2)との含有比率[(D1)/(D2)])
本発明の一態様の潤滑油組成物において、リン系極圧剤(D1)と硫黄-リン系極圧剤(D2)との含有比率[(D1)/(D2)]は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、質量比で、好ましくは20/3~80/3、より好ましくは30/3~70/3、更に好ましくは40/3~60/3である。
【0072】
(他の極圧剤(D’))
本発明の一態様の潤滑油組成物において、極圧剤(D)は、リン系極圧剤(D1)及び硫黄-リン系極圧剤(D2)からなる群から選択される1種以上の極圧剤には限定されず、他の極圧剤(D’)を用いてもよい。
他の極圧剤(D’)としては、例えば、有機金属系極圧剤、硫黄系極圧剤が挙げられる。
有機金属系極圧剤としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)及びジアルキルジチオリン酸モリブデン(MoDTP)等の有機モリブデン系化合物、並びにジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)及びジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)等の有機亜鉛系化合物から選択される1種以上が挙げられる。
硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、モノサルファイド、ポリサルファイド、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物、チオテルペン化合物、及びジアルキルチオジプロピオネート化合物から選択される1種以上が挙げられる。
【0073】
但し、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、有機金属系極圧剤及び硫黄系極圧剤の含有量は少ないことが好ましい。
具体的には、有機金属系極圧剤及び硫黄系極圧剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、それぞれ、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0.001質量%未満、より更に好ましくは有機金属系極圧剤及び硫黄系極圧剤を含有しないことである。
【0074】
<アミン系酸化防止剤(E)>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、更にアミン系酸化防止剤(E)を含有していることが好ましい。アミン系酸化防止剤(E)を含有することで、潤滑油組成物のスラッジ抑制性が更に向上しやすい。
【0075】
本発明の一態様の潤滑油組成物において用いることのできるアミン系酸化防止剤(E)は、特に制限されないが、例えば、下記一般式(e1)で表される化合物が好ましい。
【化7】
[上記一般式(e1)において、Ar
1及びAr
2は、各々独立に、フェニル基、アルキル基で置換されたアルキル置換フェニル基、アラルキル基で置換されたアラルキル置換フェニル基、ナフチル基、及びアルキル基で置換されたアルキル置換ナフチル基から選択される炭素数6~24のアリール基である。]
【0076】
また、アミン系酸化防止剤(E)は、より具体的には、下記一般式(e1-1)で表されるフェニル-α-ナフチルアミン類、及び一般式(e1-2)で表されるジフェニルアミン類からなる群から選択される1種であることが好ましい。
【化8】
[上記一般式(e1-1)において、R
e11は、水素原子、又は炭素数1~18のアルキル基である。]
【化9】
(上記一般式(e1-2)において、R
e21及びR
e22は、各々独立に、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数7~18のアラルキル基から選択されるものである。)
【0077】
上記一般式(e1-1)で表されるフェニル-α-ナフチルアミン類において、Re11は、水素原子又は炭素数1~12のアルキル基であることが好ましく、Re11はパラ位に配置されることが好ましい。
また、上記一般式(e1-2)で表されるジフェニルアミン類において、Re21及びRe22は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数4~12のアルキル基、α,α-ジメチルベンジル基から選択されることが好ましい。また、いずれもがパラ位に配置されることがより好ましい。
【0078】
具体的なアミン系酸化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジオクチルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、ジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、モノブチルフェニルモノオクチルフェニルアミン、p-t-オクチルフェニル-1-ナフチルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等が挙げられる。
また、アミン系酸化防止剤(E)としては、上記以外にもジアミン系のものも使用可能である。具体的には、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンが挙げられる。
アミン系酸化防止剤(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
(アミン系酸化防止剤(E)の含有量)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、アミン系酸化防止剤(E)の含有量は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.02質量%~0.20質量%、より好ましくは0.05質量%~0.16質量%、更に好ましくは0.08質量%~0.14質量%、より更に好ましくは0.08質量%~0.12質量%である。
【0080】
<HA基含有ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)とアミン系酸化防止剤(E)との含有比率[(B)/(E)]>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、HA基含有ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)とアミン系酸化防止剤(E)との含有比率[(B)/(E)]は、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、質量比で、好ましくは6/1~10/1、より好ましくは6.5/1~9.5/1、更に好ましくは7/1~9/1である。
【0081】
<ソルビタン脂肪酸エステル(F)>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、更にソルビタン脂肪酸エステル(F)を含有していることが好ましい。ソルビタン脂肪酸エステル(F)をイミド化合物(C)と併用することによって、本発明の効果を損なうことなく、油圧シリンダーとシール材との間の鳴き現象(以下、単に「鳴き現象」ともいう)を抑制し得る。
【0082】
ソルビタン脂肪酸エステル(F)は、ソルビタンと脂肪酸とのエステル化合物である。ソルビタン脂肪酸エステル(F)は部分エステルであっても完全エステルであってもよいが、本発明の効果を損なうことなく、鳴き現象を抑制しやすくする観点から、部分エステルであることが好ましい。すなわち、ソルビタン脂肪酸エステル(F)は、ソルビタン脂肪酸モノエステル、ソルビタン脂肪酸ジエステル、及びソルビタン脂肪酸トリエステルからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
具体的には、ソルビタン脂肪酸モノエステル、ソルビタン脂肪酸ジエステル、及びソルビタン脂肪酸トリエステルからなる群から選択される1種以上の合計含有量は、ソルビタン脂肪酸エステル(F)の全量基準で、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは85質量%~100質量%、更に好ましくは90質量%~100質量%、より更に好ましくは95質量%~100質量%である。
【0083】
ソルビタン脂肪酸エステル(F)を構成する脂肪酸としては、好ましくは炭素数14~22、より好ましくは炭素数16~20の脂肪酸が挙げられる。脂肪酸の炭素数には、該脂肪酸が有するカルボキシ基(-COOH)の炭素原子も含まれる。また、脂肪酸は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。
当該脂肪酸を例示すると、パルミチン酸及びステアリン酸等の直鎖状の飽和脂肪酸、オレイン酸及びエライジン酸等の直鎖状の不飽和脂肪酸が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、本発明の効果を損なうことなく、鳴き現象を抑制しやすくする観点から、直鎖状の不飽和脂肪酸を用いることが好ましく、オレイン酸を用いることがより好ましい。すなわち、ソルビタン脂肪酸エステル(C4)は、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、及びソルビタントリオレエートからなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましく、ソルビタンモノオレエート及びソルビタンジオレエートからなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましく、ソルビタンモノオレエートを含むことが更に好ましい。
【0084】
(ソルビタン脂肪酸エステル(F)の含有量)
ソルビタン脂肪酸エステル(F)の含有量は、本発明の効果を損なうことなく、鳴き現象を抑制しやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.02質量%~0.50質量%、より好ましくは0.05質量%~0.30質量%、更に好ましくは0.08質量%~0.20質量%、より更に好ましくは0.08質量%~0.15質量%である。
【0085】
<イミド化合物(C)とソルビタン脂肪酸エステル(F)との含有比率[(C)/(F)]>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を損なうことなく、シリンダーの鳴き現象を抑制しやすくする観点から、イミド化合物(C)とソルビタン脂肪酸エステル(F)との含有比率[(C)/(F)]は、質量比で、好ましくは1/3~7/2、より好ましくは1/2~6/2、更に好ましくは2/3~5/2である。
【0086】
<その他添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
当該潤滑油用添加剤としては、例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、並びに成分(B)及び(E)以外の酸化防止剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、本明細書において、粘度指数向上剤や消泡剤等の添加剤は、ハンドリング性や基油(A)への溶解性を考慮し、上述の基油(A)の一部に希釈し溶解させた溶液の形態であってもよい。このような場合、本明細書においては、消泡剤や粘度指数向上剤等の添加剤の上述の含有量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量を意味する。
【0087】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が粘度指数向上剤を含有する場合、粘度指数向上剤の樹脂分換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.02~7質量%、更に好ましくは0.03~5質量%である。
【0088】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、質量平均分子量が5万~15万程度のポリメタクリレート等が挙げられる。本発明の一態様の潤滑油組成物が流動点降下剤を含有する場合、流動点降下剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.02~2質量%である。
【0089】
防錆剤としては、例えば、金属スルホネート、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機スルフォン酸金属塩、有機リン酸金属塩、アルケニルコハク酸エステル、アルケニルコハク酸多価アルコールエステル等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が防錆剤を含有する場合、防錆剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.03~5.0質量%である。
【0090】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が金属不活性化剤を含有する場合、金属不活性化剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01~5.0質量%、より好ましくは0.03~3.0質量%である。
【0091】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等のフッ素系消泡剤、ポリアクリレート系消泡剤等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物が消泡剤を含有する場合、消泡剤の樹脂分換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.0001~0.20質量%、より好ましくは0.0005~0.10質量%である。
【0092】
(成分(B)及び(E)以外の酸化防止剤)
成分(B)及び(E)以外の酸化防止剤としては、例えば、成分(B)以外のフェノール系酸化防止剤、金属系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
ここで、本発明の一態様の潤滑油組成物において、スラッジ抑制性により優れる潤滑油組成物とする観点から、成分(B)以外のフェノール系酸化防止剤の中でも、DBPCの含有量は少ないことが好ましい。DBPCの含有量は、スラッジ抑制性により優れる潤滑油組成物とする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.60質量%未満、より好ましくは0.10質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、より更に好ましくはDBPCを含まないことである。
また、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、金属系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤の含有量は少ないことが好ましい。
具体的には、金属系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、それぞれ、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0.001質量%未満、より更に好ましくは金属系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤を含有しないことである。
【0093】
[潤滑油組成物の各種物性]
<40℃動粘度>
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃動粘度は、好ましくは10mm2/s~150mm2/s、より好ましくは15mm2/s~100mm2/s、更に好ましくは20mm2/s~80mm2/sである。
潤滑油組成物の40℃動粘度が10mm2/s以上であると、引火点が高く、潤滑性能に優れる潤滑油組成物としやすい。
また、基油(A)の40℃動粘度が150mm2/s以下であると、低温時の粘性抵抗がそれほど大きくなることもなく、機械の作動を良好なものとしやすい。
【0094】
<粘度指数>
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上、より更に好ましくは110以上である。
【0095】
<スラッジ抑制性>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、JCMAS P045に準拠し、後述する実施例に記載の高圧ピストンポンプ試験を2,000時間実施した後、SAE-ARP-785-63に準拠して測定・算出したミリポア値は、好ましくは10mg/100mL以下、より好ましくは5.0mg/100mL以下、更に好ましくは4.0mg/mL以下、より更に好ましくは3.5mg/100mLである。
本発明の潤滑油組成物は、2,000時間もの長時間に亘り高圧ピストンポンプ試験を実施した後のミリポア値が極めて低く、スラッジ抑制性に極めて優れる。
【0096】
<耐摩耗性>
(耐スコーリング性)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、JCMAS P045に準拠し、後述する実施例に記載の高圧ピストンポンプ試験を2,000時間実施した後、ASTM D5182-97(2014)に準拠し、後述する実施例に記載のFZGスコーリング試験により測定されるステージ値は、好ましくは10stage以上である。
本発明の潤滑油組成物は、2,000時間もの長時間に亘り高圧ピストンポンプ試験を実施した後の、FZGスコーリング試験におけるステージ値が高く、耐スコーリング性に極めて優れる。
【0097】
(耐焼き付き性)
本発明の一態様の潤滑油組成物において、JCMAS P045に準拠し、後述する実施例に記載の高圧ピストンポンプ試験を2,000時間実施した後、 ASTM D7421に準拠し、後述する実施例に記載のSRV(振動摩擦摩耗)試験により測定される焼き付き荷重は、好ましくは1,500N以上、より好ましくは1,600N以上である。
本発明の潤滑油組成物は、2,000時間もの長時間に亘り高圧ピストンポンプ試験を実施した後の、SRV(振動摩擦摩耗)試験における焼き付き荷重が高く、耐焼き付き性に極めて優れる。
【0098】
[潤滑油組成物の製造方法]
本発明の潤滑油組成物の製造方法は、特に制限されない。
例えば、本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法は、基油(A)と、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)と、モノイミド化合物(C1)及びビスイミド化合物(C2)からなる群から選択される1種以上のイミド化合物(C)と、極圧剤(D)を混合する工程を含み、前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)は、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールであり、前記モノイミド化合物(C1)は、アルケニルコハク酸モノイミド化合物及びアルキルコハク酸モノイミド化合物からなる群から選択される1種以上であり、前記ビスイミド化合物(C2)は、アルケニルコハク酸ビスイミド化合物及びアルキルコハク酸ビスイミド化合物からなる群から選択される1種以上である、潤滑油組成物の製造方法である。
上記各成分を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、基油(A)に、成分(B)と、成分(C)と、成分(D)とを配合する工程を有する方法が挙げられる。成分(B)と、成分(C)と、成分(D)とは、基油(A)に同時に配合してもよいし、別々に配合してもよい。成分(B)、成分(C)、及び成分(D)以外の他の成分についても同様である。なお、各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
【0099】
[潤滑油組成物の用途]
本発明の潤滑油組成物は、高圧の条件下で長期に亘り使用しても、スラッジ抑制性及び耐摩耗性に優れる。したがって、本発明の潤滑油組成物は、建設機械、一般産業機械、及び発電機からなる群から選択される1種以上の油圧機器に使用し得る。好ましくは、これら油圧機器の中でも、作動圧力が30MPa以上である油圧機器に好適に使用し得る。
したがって、本発明によれば、下記使用方法が提供される。
・本発明の潤滑油組成物を、油圧機器に使用する、使用方法。
・本発明の潤滑油組成物を、建設機械、一般産業機械、及び発電機からなる群から選択される1種以上の油圧機器に使用する、使用方法。
・本発明の潤滑油組成物を、作動圧力が30MPa以上であり、建設機械、一般産業機械、及び発電機からなる群から選択される1種以上の油圧機器に使用する、使用方法。
【0100】
なお、上記の建設機械としては、例えば、移動式クレーン、定置式クレーン、デリック等のクレーン;油圧ショベル、ミニショベル、ホイール式油圧ショベル等の掘削機械;ブルドーザ等の整地機械;、ホイールローダ等の積込機械;不整地運搬車等の運搬機械;振動ローラ等の締固め機械;ブレーカ等の解体用機械;バイルドライバ、アースオーガ等の基礎工事用機械;コンクリートポンプ車等のコンクリート・アスファルト機械;高所作業車、舗装機械、シールド、掘進機、除雪機等が挙げられる。
また、上記の一般産業機械としては、例えば、車両、工作機械、歯車装置、搬送装置、空調設備、鉱山設備等が挙げられる。
【実施例】
【0101】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
[各種物性値の測定方法]
各実施例及び各比較例で用いた各原料並びに各実施例及び各比較例の潤滑油組成物の各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
(1)動粘度及び粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)塩基価
JIS K-2501-9:2003に準拠して過塩素酸法で測定した。
【0103】
[実施例1~2、比較例1~3]
以下に示す基油及び各種添加剤を、表1に示す配合量(質量%)で十分に混合し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。
実施例1~2及び比較例1~3で用いた基油及び各種添加剤の詳細は、以下に示すとおりである。
【0104】
<基油(A)>
APIカテゴリーでグループIIに属する鉱油とグループIIIに属する鉱油との混合基油であり、実施例1並びに比較例1及び比較例2で用いた基油の40℃動粘度は46mm2/s、粘度指数は120である。また、実施例2及び比較例3で用いた基油の40℃動粘度は68mm2/s、粘度指数は150である
なお、40℃動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
【0105】
<ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)>
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)として、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール(DTBP)を用いた。
【0106】
<フェノール系酸化防止剤(B’)>
比較例のフェノール系酸化防止剤(B’)として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(DBPC)を用いた。
【0107】
<イミド化合物(C)>
モノイミド化合物(C1)として、ポリブテニル基の質量平均分子量(Mw)が6,300であり、窒素原子含有量が1.75質量%であり、塩基価が40.0mgKOH/gであるポリブテニルコハク酸モノイミド化合物を用いた。
また、ビスイミド化合物(C2)として、ポリブテニル基の質量平均分子量(Mw)が1,000であり、窒素原子含有量が1.15質量%であり、塩基価が19.5mgKOH/gであるポリブテニルコハク酸ビスイミド化合物を用いた。
なお、ポリブテニル基の質量平均分子量は、ポリブテニル基の原料であるポリブテンの質量平均分子量(Mw)を、以下の条件で測定し、標準ポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)として評価した値である。
・SEC装置:東ソー製 HLC-8220GPC
・カラム:東ソー製 TSKguardcolumn HXL-H + TSKgel GMH-XL 2本 + G2000H-XL 1本
・溶媒:テトラヒドロフラン(和光純薬工業製安定剤不含特級)
・検出器:示差屈折率(RI)検出器、UV検出器
・濃度:0.1w/v%・注入量:100μL
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:40℃
・検量線用標準試料:東ソー製TSK標準ポリスチレン
・解析ソフト:GPC-8020model2
【0108】
<極圧剤(D)>
(リン系極圧剤(D1))
リン酸エステル化合物1:tert-ブチルフェニルジフェニルホスフェートとジ-tert-ブチルフェニルモノフェニルホスフェートとの混合物
リン酸エステル化合物2:トリクレジルホスフェート
酸性リン酸エステルのアミン塩:Vanderbilt Chemicals社製、VANLUBE 672
(硫黄-リン系極圧剤(D2))
下記式(d2-1)に示す化合物(BASF社製、IRGALUBE 353)を用いた。
【化10】
上記式(d2-1)に示す化合物は、前記一般式(d2)中、R
d71が-CH
2CH(CH
3)-であり、R
d72及びR
d73がtert-ブチル基である化合物である。
【0109】
<アミン系酸化防止剤(E)>
モノブチルフェニルモノオクチルジフェニルアミン(BASF社製、IRGANOX L-57)を用いた。
モノブチルフェニルモノオクチルジフェニルアミンは、上記一般式(e1-2)において、Re21及びRe22の一方がブチル基であり、他方がオクチル基である化合物である。
【0110】
<ソルビタン脂肪酸エステル(F)>
ソルビタンモノオレエート
【0111】
<その他添加剤>
・金属不活性化剤:ベンゾトリアゾール
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
・粘度指数向上剤:質量平均分子量(Mw)が40,000のポリメタクリレート
・流動点降下剤:質量平均分子量(Mw)が69,000のポリメタクリレート
なお、実施例1及び比較例3では、金属不活性化剤を0.02wt%、シリコーン系消泡剤を樹脂分換算で0.10質量%、粘度指数向上剤を10質量%、流動点降下剤を0.30質量%添加した。
実施例2、比較例1、及び比較例2では、金属不活性化剤を0.02wt%、シリコーン系消泡剤を樹脂分換算で0.10量%、粘度指数向上剤を2.0質量%、流動点降下剤を0.30質量%添加した。
【0112】
[評価]
実施例1~2及び比較例1~3の潤滑油組成物について、高圧下で長時間使用した際の酸化劣化及び耐摩耗性の低下について評価した。
まず、実施例1~2及び比較例1~3の潤滑油組成物に対し、JCMAS P045に準拠し、高圧ピストンポンプ試験装置(ポンプ:BOSCH-REXROTH A2F10)を用いて、ポンプ圧力35MPa、試料油温80℃、空気吹込量1.0L/hの条件下にて、高圧ピストンポンプ試験を2,000時間実施し、高圧下で長時間使用された潤滑油組成物を想定した試料油を得た。
そして、当該試料油に対し、ミリポア値の評価、FZGスコーリング試験、SRV(振動摩擦摩耗)試験を実施した。
【0113】
<ミリポア値の評価>
SAE-ARP-785-63に準拠し、試料油300mL中の析出物をろ過採取し、試料油100mL当たりの析出物の質量を、「ミリポア値」として算出した。
「ミリポア値」が低いほど、スラッジ発生量が少なく、スラッジ抑制性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
本実施例では、ミリポア値が10mg/100mL以下の場合を合格とした。
【0114】
<FZGスコーリング試験>
ASTM D5182-97(2014)に準拠し、Aタイプ歯車を用い、試料油温度90℃、回転数1450rpm、運転時間15分間の条件下で、規定に沿って段階的に荷重を上げ、スコーリングが発生した際の荷重のステージを求めた。当該ステージの値が高いほど、耐スコーリングに優れているといえる。
本実施例では、ステージが10以上の場合を合格とした。
【0115】
<SRV(振動摩擦摩耗)試験>
ASTM D7421に準拠し、焼き付き荷重(N)を測定した。焼き付き荷重は、温度120℃、周波数50Hz、振幅2.0mmの摩擦条件で、荷重を100Nずつ増加させ、焼き付きが生じて摩擦係数が大きく増大した時点における荷重(N)を測定した。焼き付き荷重の値が大きいほど、耐焼き付き性に優れているといえる。
本実施例では、焼き付き荷重が1,500N以上の場合を合格とした。
【0116】
結果を表1に示す。
【0117】
【0118】
表1より、以下のことがわかる。
実施例1~2の潤滑油組成物は、ミリポア値が小さく、スラッジ抑制性に優れることがわかる。また、耐スコーリング性及び耐焼き付き性にも優れることから、耐摩耗性にも優れることがわかる。
これに対し、比較例1及び2の潤滑油組成物のように、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(B)を含有せず、また、モノイミド化合物(C1)を含有しない場合には、ミリポア値が大きくなり、スラッジ抑制性に劣ることがわかる。また、耐スコーリング性及び耐焼き付き性のいずれか一方が劣り、耐摩耗性が劣ることもわかる。
また、モノイミド化合物(C1)を含有することなく、ビスイミド化合物(C2)の含有量を0.20質量%としたこと以外は、実施例1と同様の組成とした比較例3の潤滑油組成物は、ミリポア値が小さくスラッジ抑制性に優れるものの、耐焼き付き性が劣り、耐摩耗性が劣ることがわかる。