(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】空間充填材および空間充填構造体
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20240229BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240229BHJP
D04H 1/542 20120101ALI20240229BHJP
D04H 1/58 20120101ALI20240229BHJP
【FI】
B29B11/16
C08J5/04 CFD
C08J5/04 CFF
C08J5/04 CEZ
D04H1/542
D04H1/58
(21)【出願番号】P 2020090485
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 郷史
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 了慶
(72)【発明者】
【氏名】和志武 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】水光 俊介
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/199091(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/117187(WO,A2)
【文献】特開2015-229959(JP,A)
【文献】特許第7129550(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16、15/08-15/14
C08J 5/04-5/10、5/24
D04H 1/00-18/04
B29C 39/00-39/24、39/38-39/44、
41/00-41/36、41/46-41/52、
43/00-43/34、43/44-43/48、
43/52-43/58、70/00-70/88
C09K 3/10-3/12
F01N 3/00-3/00、3/02-3/02、
3/04-3/38、9/00-11/00
B65D 57/00-59/08、81/00-81/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が3~100mmである強化繊維と非晶性熱可塑性樹脂
で構成された繊維と
を含む混合不織布で構成され、前記強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が非晶性熱可塑性樹脂で接着されてなり、前記非晶性熱可塑性樹脂の軟化により強化繊維の残留応力が解放されて膨張する、空間充填材
であって、
前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)に対してTg+50℃での膨張率が110%以上である、空間充填材。
【請求項2】
請求項1に記載の空間充填材であって、前記強化繊維および前記非晶性熱可塑性樹脂の合計体積のうちの前記非晶性熱可塑性樹脂の体積比率が15~95vol%である、空間充填材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の空間充填材であって、前記強化繊維が屈曲しており、前記非晶性熱可塑性樹脂の軟化により強化繊維の屈曲が解放されることで膨張する、空間充填材。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の空間充填材であって、厚み方向において定荷重下での膨張率が105%以上である、空間充填材。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の空間充填材であって、前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度が100℃以上である、空間充填材。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の空間充填材であって、前記非晶性熱可塑性樹脂が熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、およびポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の非晶性熱可塑性樹脂である、空間充填材。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の空間充填材であって、前記強化繊維が絶縁性繊維である、空間充填材。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の空間充填材であって、空隙率が3~75%である、空間充填材。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の空間充填材であって、所定の空間内で被固定材を固定させるために用いられる、空間充填材。
【請求項10】
請求項
9に記載の空間充填材と、その少なくとも一部に接して一体化された被固定材とを備える、空間充填構造体。
【請求項11】
請求項
10に記載の空間充填構造体であって、前記被固定材が前記空間充填材で挟まれている、空間充填構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の空間内で加熱時の膨張応力で充填する空間充填材および空間充填材を備える空間充填構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱時に膨張し、防火、防煙のシール機能を発揮させる熱膨張性の複合材が知られている。例えば、特許文献1(特開2003-262116号公報)には、無機短繊維に対して有機質バインダーをスラリーに存在させるか、シート成形した後にスプレー噴霧により添加して一体化してなるシート状の成形体からなり、有機質バインダーの焼失によって成形体の厚み方向に1.3~6倍に膨張して無機短繊維による復元面圧を生じる自動車排気ガス浄化用触媒コンバータのシール材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のシール材は、有機質バインダーを熱分解により焼失させて無機短繊維を膨張させるシール材であるため、有機質バインダー自体の性能を利用することができない。また、有機質バインダーは熱分解により消失するため、大量の分解ガスが発生し、発生した分解ガスを系外へ排出させる必要がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、このような従来技術における問題点を解決するものであり、無機短繊維の復元力を利用して膨張させるに当たり、無機短繊維の反発力を抑え込む熱可塑性樹脂を消失させることなく、マトリクスとして利用することが可能な空間充填材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、(i)従来技術では、有機質バインダーの消失を前提として、強化繊維の復元力を利用するため、膨張後に有機質バインダー自体をマトリクスとして利用するという技術的思想が存在していないことに気づき、有機質バインダーを消失させずマトリクスとして利用しつつ、強化繊維の復元力を発揮させることを課題として探求したところ、(ii)強化繊維と熱可塑性樹脂と構成され、強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が熱可塑性樹脂で接着される空間充填材は、熱可塑性樹脂の軟化により強化繊維の残留応力が解放されることで膨張すること、さらに(iii)ガラス転移温度と融点の双方を有する結晶性熱可塑性樹脂と比較して、非晶性熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度しか存在しないため、ガラス転移温度と膨張時の加熱温度との温度差が小さい場合であっても空間充填材を大きく膨張させることが可能であり、その結果、膨張後においても非晶性熱可塑性樹脂をマトリクスとして好適に利用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
強化繊維と非晶性熱可塑性樹脂とで構成され、前記強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が非晶性熱可塑性樹脂で接着されてなり、前記非晶性熱可塑性樹脂の軟化により強化繊維の残留応力が解放されて膨張する、空間充填材。
〔態様2〕
態様1に記載の空間充填材であって、前記強化繊維および前記非晶性熱可塑性樹脂の合計体積のうちの前記非晶性熱可塑性樹脂の体積比率が15~95vol%(好ましくは17~93vol%、より好ましくは20~90vol%、さらに好ましくは25~85vol%)である、空間充填材。
〔態様3〕
態様1または2に記載の空間充填材であって、前記強化繊維が屈曲しており、前記非晶性熱可塑性樹脂の軟化により強化繊維の屈曲が解放されることで膨張する、空間充填材。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)に対してTg+50℃での膨張率が110%以上(好ましくは120%以上、より好ましくは130%以上、さらに好ましくは150%以上、さらにより好ましくは200%以上)である、空間充填材。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、厚み方向において定荷重下での膨張率が105%以上(好ましくは120%以上、より好ましくは140%以上、さらに好ましくは150%以上、さらにより好ましくは170%以上)である、空間充填材。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度が100℃以上(好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上)である、空間充填材。
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、前記非晶性熱可塑性樹脂が熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、およびポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の非晶性熱可塑性樹脂である、空間充填材。
〔態様8〕
態様1~7のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、前記強化繊維の繊維長が3~100mm(好ましくは4~80mm、さらに好ましくは5~50mm)である、空間充填材。
〔態様9〕
態様1~8のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、前記強化繊維が絶縁性繊維である、空間充填材。
〔態様10〕
態様1~9のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、空隙率が3~75%(好ましくは5~70%、より好ましくは10~65%)である、空間充填材。
〔態様11〕
態様1~10のいずれか一態様に記載の空間充填材であって、所定の空間内で被固定材を固定させるために用いられる、空間充填材。
〔態様12〕
態様11に記載の空間充填材と、その少なくとも一部に接して一体化された被固定材とを備える、空間充填構造体。
〔態様13〕
態様12に記載の空間充填構造体であって、前記被固定材が前記空間充填材で挟まれている、空間充填構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空間充填材によれば、膨張後においても非晶性熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂として利用しつつ、空間充填材を膨張させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解されるであろう。図面は必ずしも一定の縮尺で示されておらず、本発明の原理を示す上で誇張したものになっている。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
【
図1A】本発明の空間充填材の使用方法の第1の実施態様を説明するための概略断面図であり、膨張前の状態を示す。
【
図1B】本発明の空間充填材の使用方法の第1の実施態様を説明するための概略断面図であり、膨張後の状態を示す。
【
図2A】本発明の空間充填材の使用方法の第2の実施態様を説明するための概略断面図であり、膨張前の状態を示す。
【
図2B】本発明の空間充填材の使用方法の第2の実施態様を説明するための概略断面図であり、膨張後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明について詳細に説明する。本発明の空間充填材は、強化繊維と、非晶性熱可塑性樹脂とで構成されている。空間充填材は、本発明の効果を損なわない限り、強化繊維および非晶性熱可塑性樹脂以外の物質を含んでいてもよい。前記強化繊維同士は複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が非晶性熱可塑性樹脂で接着されている。そして、空間充填材は、所定の空間内で加熱される際に、非晶性熱可塑性樹脂の軟化により強化繊維の残留応力が解放される。その結果、空間充填材は膨張し、外方部材などに対して膨張応力を生じることにより少なくとも厚み方向に充填可能である。ここで、膨張応力とは、空間充填材が膨張して空間を囲んでいる外方部材に拘束される際に発生する応力をいう。また、空間充填材は、所定の空間を全て充填してもよいし、一部を充填してもよい。
【0011】
<強化繊維>
本発明で用いる強化繊維は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、有機繊維であってもよく、無機繊維であってもよく、また、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明において、空間充填材内で、非晶性熱可塑性樹脂で接着されている強化繊維が残留応力を有しており、非晶性熱可塑性樹脂の軟化によりその残留応力が解放され、その残留応力が解放された強化繊維の反発力により空間充填材が膨張することになる。
【0012】
無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、各種セラミック繊維(例えば、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維等)、各種金属繊維(例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、チタン、ステンレス等)等が挙げられる。また、有機繊維としては、そのガラス転移温度または融点が強化繊維の交点を接着する非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度より高い限り特に制限されず、例えば、全芳香族ポリエステル系繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリスルホンアミド繊維、フェノール樹脂繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維等が挙げられる。
これらのうち、空間充填材を膨張させる際の反発力を高くする観点から、ガラス繊維または炭素繊維などの高弾性率の無機繊維を用いるのが好ましい。また、膨張後の空間充填材を含む構造体において絶縁性が要求される用途の場合、絶縁性繊維(例えば、ガラス繊維、窒化ケイ素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維など)であってもよい。
【0013】
本発明で用いる強化繊維は、非連続繊維であってもよく、その平均繊維長は、繊維の反発力を高くする観点から、3~100mmであることが好ましい。より好ましくは4~80mm、さらに好ましくは5~50mmであってもよい。なお、平均繊維長は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0014】
本発明で用いる強化繊維は、繊維の反発力を高くする観点から、単繊維の平均繊維径が2~40μmであることが好ましい。より好ましくは3~30μm、さらに好ましくは4~25μmであってもよい。なお、平均繊維径は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0015】
本発明で用いる強化繊維は、強化繊維の反発力を高くする観点から、10GPa以上の引張弾性率をもつものが好ましい。より好ましくは30GPa以上、さらに好ましくは50GPa以上であってもよい。上限に関しては特に制限はないが、1000GPa以下であってもよい。なお、引張弾性率は、炭素繊維の場合はJIS R 7606、ガラス繊維の場合はJIS R 3420、有機繊維の場合はJIS L 1013など、それぞれの繊維に合った規格に準拠した方法により測定することができる。
【0016】
<非晶性熱可塑性樹脂>
本発明において、空間充填材の構成材料として非晶性熱可塑性樹脂を用いて、前記非晶性熱可塑性樹脂を軟化させて拘束された強化繊維を膨張させることにより、空間充填材を膨張させた後に非晶性熱可塑性樹脂をマトリクスとして利用することができる。特に、非晶性熱可塑性樹脂では、膨張開始温度および膨張後のマトリクスの耐熱性が共にガラス転移温度に依存するため、ガラス転移温度が100℃以上である場合、結晶性熱可塑性樹脂と比べて相対的に低い温度で高い膨張率を達成可能である一方で、高い耐熱性を実現することが可能となり、好ましい。
【0017】
本発明で用いる非晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、半芳香族ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂などの熱可塑性ポリイミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;変性ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂などのポリスルホン系樹脂;トリメチルヘキサメチレンジアミン-テレフタレート(TMDT)などの非晶性ポリアミド系樹脂;グリコール変性PET、非晶性ポリアリレート系樹脂(PAR)などの非晶性ポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリスチレン、AS(アクリロニトリル・スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂などのポリスチレン系樹脂などが挙げられる。これらの非晶性熱可塑性樹脂は、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明において、「非晶性」であることは、示差走査熱量測定(DSC)において、吸熱ピークの有無で確認することができる。吸熱ピークが非常にブロードであり明確に吸熱ピークを判断できない場合は、実質的に非晶性と判断してもよい。
【0018】
また、本発明に用いる非晶性熱可塑性樹脂は、膨張後の空間充填材を含む構造体においてより高度に耐熱性が要求される用途の場合、ガラス転移温度が100℃以上の非晶性熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。例えば、ガラス転移温度が100℃以上である非晶性熱可塑性樹脂として、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。これらのうち、非晶性熱可塑性樹脂は、力学特性や成型性の点から、熱可塑性ポリイミド系樹脂(好ましくは、ポリエーテルイミド系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂およびポリスルホン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の非晶性熱可塑性樹脂であってもよい。非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、耐熱性の観点から、好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であってもよい。また、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度の上限に関しては、膨張する際の温度を低減する観点からは、300℃以下が好ましく、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは260℃以下であってもよい。なお、ガラス転移温度は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0019】
また、本発明で用いる非晶性熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
<空間充填材の製造方法>
空間充填材の製造方法としては、強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部を非晶性熱可塑性樹脂で接着することができる限り特に制限はなく、強化繊維と非晶性熱可塑性樹脂とで構成された前駆体を準備する工程と、前記前駆体を加熱加圧する工程とを備えていてもよい。得られる空間充填材の目付のむらを低減する観点から、加熱加圧する工程において、前記前駆体を複数重ね合わせた多層体を加熱加圧してもよい。
【0021】
前駆体とは、強化繊維と非晶性熱可塑性樹脂とを含み、加熱加圧により空間充填材を形成し得る材料をいい、加熱加圧前の前駆体としてはさまざまな形態とすることができる。好ましくは、非晶性熱可塑性繊維と強化繊維との混合不織布、または粒子状(または粉粒状)の非晶性熱可塑性樹脂が分散した強化繊維の不織布を、一枚ないしは多数枚(例えば、2~100枚、好ましくは3~80枚、より好ましくは5~50枚)積層して、前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱し、積層方向に加圧し、さらにその後、加圧しながら冷却することで製造する方法が挙げられる。好ましくは、前駆体が非晶性熱可塑性繊維と強化繊維との混合不織布であってもよい。
【0022】
混合不織布は、得られる空間充填材の膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、混合不織布の全重量中の強化繊維の割合が10~90wt%であることが好ましい。より好ましくは15~85wt%、さらに好ましくは20~80wt%であってもよい。
【0023】
本発明で用いる混合不織布は、得られる空間充填材の膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、混合不織布の全重量中の非晶性熱可塑性繊維の割合が10~90wt%(例えば、10~80wt%)であることが好ましい。より好ましくは15~85wt%(例えば、15~75wt%)、さらに好ましくは20~80wt%(例えば、20~75wt%)であってもよい。
【0024】
非晶性熱可塑性繊維の単繊維繊度は、強化繊維の分散性を良好にする観点から、0.1~20dtexであることが好ましい。加熱時の膨張応力に優れた空間充填材を得るためには、前駆体となる混合不織布中の強化繊維を斑なく分散させることが望ましい。非晶性熱可塑性繊維の単繊維繊度は、より好ましくは0.5~18dtex、さらに好ましくは1~16dtexであってもよい。なお、単繊維繊度は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0025】
非晶性熱可塑性繊維の平均繊維長は、強化繊維の分散性を良好にする観点から、0.5~60mmであることが好ましい。非晶性熱可塑性繊維の平均繊維長は、より好ましくは1~55mm、さらに好ましくは3~50mmであってもよい。なお、平均繊維長は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。なお、その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形、中空、扁平、あるいは星型等異型断面であってもよい。
【0026】
また、混合不織布は、必要に応じてバインダー成分などを含んでいてもよい。バインダー成分の割合は、混合不織布に対して、例えば、10質量%以下でもよい。バインダー成分の形状としては、繊維状、粒子状、液状などであってもよいが、少量の添加でも形状の安定した不織布を形成する観点からは、バインダー繊維が好ましい。バインダー成分としては、特に限定されず、例えば、水性溶媒に可溶性またはエマルジョンとして分散可能な各種樹脂(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂)などが挙げられる。
【0027】
不織布の製造方法は、特に制限はなく、スパンレース法、ニードルパンチ法、スチームジェット法、乾式抄紙法、湿式抄紙法(ウェットレイドプロセス)などが挙げられる。中でも、生産効率や強化繊維の不織布中での均一分散の面から、湿式抄紙法が好ましい。例えば、湿式抄紙法では、前記非晶性熱可塑性繊維および強化繊維を含む水性スラリーを作製し、ついでこのスラリーを通常の抄紙工程に供すればよい。なお、水性スラリーは、必要に応じてバインダー繊維(例えば、ポリビニルアルコール系繊維などの水溶性ポリマー繊維)、およびパラ系アラミド繊維や全芳香族ポリエステル系繊維のパルプ状物などを含んでいてもよい。また、不織布の均一性や圧着性を高めるために、スプレードライによりバインダー成分を塗布したり、湿式抄紙工程後に熱プレス工程を加えたりしてもよい。
【0028】
不織布の目付は、特に限定されるものではないが、5~1500g/m2であることが好ましい。より好ましくは10~1000g/m2、さらに好ましくは20~500g/m2であってもよい。
【0029】
また、空間充填材の製造方法において、加熱成型する方法については特に制限はなく、スタンパブル成型や加圧成型、真空圧着成型、GMT成型のような一般的な圧縮成型が好適に用いられる。その時の成型温度は用いる非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度や分解温度に併せて設定すればよい。例えば、成型温度は非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上、(ガラス転移温度+200)℃以下の範囲であることが好ましい。なお、必要に応じて、加熱成型する前にIRヒーターなどで予備加熱することもできる。
【0030】
また、加熱成型する際の圧力も特に制限はないが、通常は0.05MPa以上の圧力で行われる。より好ましくは0.1MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上であってもよい。上限は特に限定されないが、30MPa程度であってもよい。加熱成型する際の時間も特に制限はないが、長時間高温に曝すとポリマーが劣化してしまう可能性があるので、通常は30分以内であることが好ましい。より好ましくは25分以内、さらに好ましくは20分以内であってもよい。下限は特に限定されないが、1分程度であってもよい。また、得られる空間充填材の厚さや密度は、強化繊維の種類や加える圧力で適宜設定可能である。更には、得られる空間充填材の形状にも特に制限は無く、適宜設定可能である。目的に応じて、仕様の異なる混合不織布などを複数枚積層したり、仕様の異なる混合不織布などをある大きさの金型の中に別々に配置したりして、加熱成型することも可能である。
加熱後は、加圧した状態のまま冷却することにより、所定の形状を有する空間充填材を得ることができる。
【0031】
<空間充填材>
本発明の空間充填材は、強化繊維と非晶性熱可塑性樹脂とで構成され、強化繊維同士が複数の交点を有し、少なくともその交点の一部が非晶性熱可塑性樹脂で接着されている。例えば、強化繊維同士は、ランダムに絡み合った状態で非晶性熱可塑性樹脂により接着されていてもよく、好ましくは、強化繊維同士の交点に非晶性熱可塑性樹脂が水掻き状に存在していてもよく、強化繊維の全面が非晶性熱可塑性樹脂で被覆されていてもよい。このような構造を取る事で、空間充填材の構造強度が向上する。
【0032】
上述のように加熱加圧して製造された空間充填材は、強化繊維が残留応力を有することになる。本発明の空間充填材は、非晶性熱可塑性樹脂の軟化により強化繊維の残留応力が解放されることで膨張するものであり、酸処理黒鉛(膨張黒鉛)とは異なる膨張メカニズムである。
【0033】
本発明の空間充填材は、所定の空間内で加熱時の膨張応力で少なくとも厚み方向に充填する。本発明において、所定の空間とは、単一の外方部材に囲まれる空間(隙間)であってもよく、複数の外方部材で形成される空間(隙間)であってもよい。
上記のような空間充填材の製造方法において、加熱成型の際に厚み方向に加圧していることから、周囲の非晶性熱可塑性樹脂マトリックスの軟化に伴い屈曲が解放された強化繊維の反発力(復元力)は厚み方向に発現するため、空間充填材の加熱時の膨張応力は厚み方向に生じる。
【0034】
本発明の空間充填材は、強化繊維が屈曲していることが好ましい。所定の空間内で非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱されることにより、空間充填材中の非晶性熱可塑性樹脂が軟化し、強化繊維が有する屈曲が解放されるため、強化繊維の反発により空間充填材が膨張する。このように発現する加熱時の膨張応力により、所定の空間内で充填させたときの補強する強度や被固定材を固定する強度を優れたものとすることができる。
【0035】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、空間充填材の全重量中の強化繊維の割合が10~90wt%であることが好ましい。より好ましくは15~85wt%、さらに好ましくは20~80wt%であってもよい。
【0036】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、空間充填材の全重量中の非晶性熱可塑性樹脂の割合が10~90wt%であることが好ましい。より好ましくは15~85wt%、さらに好ましくは20~80wt%であってもよい。なお、空間充填材に含まれる非晶性熱可塑性樹脂として、必要に応じて用いられるバインダー成分を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、強化繊維および非晶性熱可塑性樹脂の合計体積のうちの非晶性熱可塑性樹脂の体積比率が15~95vol%であってもよい。強化繊維に対して非晶性熱可塑性樹脂が占める体積比率が小さすぎる場合、所定の空間内で空間充填材が膨張してその空間の壁面(または被固定材)に接触した際に非晶性熱可塑性樹脂が接する接触面積が小さくなるため、外方部材を補強する強度または被固定材を固定する強度への寄与が不十分となる可能性がある。また、強化繊維に対して非晶性熱可塑性樹脂が占める体積比率が大きすぎる場合、強化繊維の存在量が不足し、膨張性が不十分となる可能性がある。強化繊維および非晶性熱可塑性樹脂の合計体積のうちの非晶性熱可塑性樹脂の体積比率は、好ましくは17~93vol%、より好ましくは20~90vol%、さらに好ましくは25~85vol%であってもよい。
【0038】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、強化繊維および非晶性熱可塑性樹脂の合計体積のうちの強化繊維の体積比率が5~85vol%であってもよく、好ましくは7~83vol%、より好ましくは10~80vol%、さらに好ましくは15~75vol%であってもよい。
【0039】
本発明の空間充填材は、膨張性および加熱時の膨張応力を高くする観点から、空隙率(膨張前または使用前)が3~75%であってもよい。膨張前または使用前の空隙率が小さすぎる場合、空間充填材内の強化繊維に対して無理な圧縮力がかかることで強化繊維が折損あるいは流動し、加熱時に強化繊維の屈曲が解放されたとしても、その反発力が十分に得られないため、膨張性および加熱時の膨張応力が不十分となる可能性がある。また、膨張前の空隙率が大きすぎる場合、膨張する余地が小さいため、膨張性が不十分となる可能性がある。空隙率(膨張前または使用前)は、好ましくは5~70%、より好ましくは10~65%であってもよい。なお、ここで空隙率とは、空間充填材の嵩体積に対する、空隙の占める体積の割合を示し、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0040】
本発明の空間充填材の厚さは、充填させる空間および用途に応じて様々な厚さとすることが可能であり、例えば、0.1~200mmの広い範囲から選択可能であるが、例えば、0.1~20mmであってもよく、好ましくは0.5~18mm、より好ましくは1~15mmであってもよい。なお、空間充填材の厚さは後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0041】
本発明の空間充填材の目付は、充填させる空間および用途に応じて様々な目付とすることが可能であるが、100~10000g/m2であってもよく、好ましくは500~8000g/m2、より好ましくは800~5000g/m2であってもよい。なお、空間充填材の目付は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0042】
本発明の空間充填材の密度は、充填させる空間および用途に応じて様々な密度とすることが可能であるが、0.5~10g/cm3であってもよく、好ましくは0.6~8g/cm3、より好ましくは0.7~5g/cm3であってもよい。なお、空間充填材の密度は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0043】
本発明の空間充填材の形状は、板状に限られるものではなく、充填させる空間および用途に応じて様々な形状とすることが可能であり、三次元構造を有している立体状も含まれる。立体状の場合、熱膨張する方向を厚み方向とする。
【0044】
本発明の空間充填材は、厚み方向において定荷重下での膨張率が105%以上であることが好ましい。好ましくは120%以上、より好ましくは140%以上、さらに好ましくは150%以上、さらにより好ましくは170%以上であってもよい。厚み方向において定荷重下での膨張率の上限は特に限定されないが、500%であってもよい。厚み方向において定荷重下での膨張率が上記のような範囲である場合、補強および/または固定についての強度を十分なものとすることができる。なお、空間充填材の厚み方向において定荷重下での膨張率は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0045】
本発明の空間充填材は、任意箇所のみを選択的に充填する観点から、厚み方向に対して直交する方向への膨張あるいは収縮による寸法変化率が-1~1%であることが好ましい。厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は、負の場合に収縮し、正の場合に膨張することを示す。厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率は、より好ましくは-0.8~0.8%、さらに好ましくは-0.5~0.5%であってもよい。例えば、本発明の空間充填材は、強化繊維が面方向に配向していることが好ましく、このような構造の場合、厚み方向に対して直交する方向への膨張あるいは収縮による寸法変化率を小さくすることができる。なお、空間充填材の厚み方向に対して直交する方向への膨張あるいは収縮による寸法変化率は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0046】
本発明の空間充填材は、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度と加熱温度との温度差が小さくとも膨張性に優れており、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)に対してTg+50℃での膨張率が110%以上であることが好ましい。好ましくは120%以上、より好ましくは130%以上、さらに好ましくは150%以上、さらにより好ましくは200%以上であってもよい。Tg+50℃での膨張率の上限は特に限定されないが、例えば、500%以下であってもよい。また、Tg+100℃での膨張率が110%以上であってもよく、好ましくは130%以上、より好ましくは140%以上、さらに好ましくは180%以上、さらにより好ましくは300%以上であってもよい。Tg+100℃での膨張率の上限は特に限定されないが、例えば、800%以下であってもよい。なお、空間充填材のTg+50℃での膨張率およびTg+100℃での膨張率はそれぞれ後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0047】
本発明の空間充填材は、ガスの発生を抑制する観点から、加熱させる際に揮発する揮発性物質(例えば、加熱温度より融点の低い低分子化合物等)、発泡剤、膨張黒鉛等を実質的に含まないことが好ましく、空間充填材中の揮発性物質の総量は5質量%未満であってもよく、3質量%未満であってもよく、1質量%未満であってもよい。
【0048】
<空間充填材の使用方法>
本発明の空間充填材の使用方法は、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で加熱することにより所定の空間内で前記空間充填材を膨張させる工程を含んでいてもよい。
【0049】
例えば、本発明の空間充填材の使用方法の第1の実施態様の概略断面図を表す
図1Aおよび
図1Bに基づいて説明する。
図1Aは、空間充填材11の膨張前の状態を示し、
図1Bは、空間充填材11の膨張後の状態を示す。
図1Aでは、外方部材12により囲まれる空間13内に空間充填材11が挿入されている。
図1Aでは、空間13は単一の外方部材12により全体が囲まれて形成されているが、外方部材に全体を囲まれている閉鎖空間である必要はなく、例えば、コの字型のように、一部に開放空間が形成されていてもよい。また、複数の異なる部材により空間が形成されていてもよい。また、空間13内に複数の空間充填材11が挿入されていてもよい。なお、
図1Aでは、外方部材12の一部を示している。
【0050】
空間充填材11を構成する非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で加熱することにより、非晶性熱可塑性樹脂が軟化し、それに伴い、非晶性熱可塑性樹脂で拘束されていた強化繊維の屈曲が解放され、それにより強化繊維の反発力(復元力)が厚み方向に発現する。そして、空間充填材11は厚み方向(
図1AのZ方向)に不可逆的に膨張し、
図1Bに示すように、空間13を充填する。空間13の壁面には、空間充填材11の膨張応力により押圧力が加えられており、その応力が高いため、外方部材12が十分に補強される。
【0051】
膨張させる工程において、加熱温度は、外方部材や被固定材の耐熱性の制限などが無い限り、特に限定されない。例えば、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準として、(Tg+10)℃以上であってもよく、好ましくは(Tg+30)℃以上、より好ましくは(Tg+50)℃以上であってもよい。
【0052】
本発明の空間充填材は、ガラス転移温度と加熱温度との温度差が小さくとも高い膨張率を達成することが可能であるが、空間充填材に対して付与した熱の一部が外方部材や被固定材に奪われるような場合は、外部へ逸脱する熱量を考慮して加熱温度を設定してもよく、例えば、加熱温度の上限は、(Tg+250)℃以下、好ましくは(Tg+200)℃以下であってもよく、特に加熱温度を低くする観点からは、(Tg+150)℃以下であることがより好ましい。
【0053】
膨張工程では、空間充填材は、速やかに膨張してもよいが、緩やかに膨張することにより、全体的に均一な構造を有していてもよく、例えば、膨張させるための加熱時間は、例えば1分~1時間程度であってもよく、好ましくは10~50分程度であってもよい。
【0054】
また、本発明の空間充填材の使用方法は、膨張させる工程に先立って、所定の空間に空間充填材を挿入する工程を含んでいてもよい。
【0055】
本発明では、膨張後(充填後)の空間充填材の空隙率が30~95%であってもよい。膨張後の空間充填材の空隙率がこの範囲にあることにより、膨張後の空間充填材に通液や通気を十分に施すことが可能となる。例えば、膨張後の空間充填材を含む構造体において冷却する必要がある場合、冷却液を充填後の空間充填材に通液することにより冷却することが可能となる。また、膨張後の空間充填材の空隙率は、好ましくは35~90%、より好ましくは40~85%、さらに好ましくは45~80%であってもよい。なお、膨張後の空間充填材の空隙率は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0056】
本発明では、膨張後(充填後)の空間充填材が連続した多孔質構造を有していてもよい。膨張後の空間充填材の空隙が連通孔である場合、膨張後の空間充填材に通液や通気を十分に施すことが可能となる。
【0057】
本発明では、膨張後(充填後)の空間充填材の力学的強度を良好にする観点から、膨張後(充填後)の空間充填材の密度が0.1~1.5g/cm3であってもよく、好ましくは0.2~1.4g/cm3、より好ましくは0.3~1.3g/cm3であってもよい。
【0058】
本発明では、膨張後(充填後)の空間充填材の力学的強度および通液性を良好にする観点から、厚み方向における充填時膨張率が120~300%であってもよく、好ましくは130~280%、より好ましくは140~250%であってもよい。なお、厚み方向における膨張率とは、下記式で表される。
充填時膨張率(%)=充填後の空間充填材の厚さ(充填する空間の厚さ)(mm)/充填前の空間充填材の厚さ(mm)×100
【0059】
本発明では、膨張を利用して所望の大きさとすることができ、所定の空間の厚さ(膨張後(充填後)の空間充填材の厚さ)は、例えば、0.2~600mmの広い範囲から選択可能であるが、例えば、0.2~50mmであってもよく、好ましくは0.5~30mm、より好ましくは1~20mmであってもよい。
【0060】
また、本発明の空間充填材の使用方法は、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で加熱することにより所定の空間において空間充填材を膨張させて、被固定材を固定する工程を含んでいてもよい。本発明の空間充填材は、被固定材を固定する固定材として使用してもよい。
【0061】
例えば、本発明の空間充填材の使用方法の第2の実施態様の概略断面図を表す
図2Aおよび
図2Bに基づいて説明する。
図2Aは、空間充填材21の膨張前の状態を示し、
図2Bは、空間充填材21の膨張後の状態を示す。
図2Aでは、外方部材22により囲まれる空間23内に2枚の空間充填材21に挟まれた被固定材24が、空間充填構造体25として挿入されている。
図2Aでは、空間23は単一の外方部材22により全体が囲まれて形成されているが、外方部材に全体を囲まれている閉鎖空間である必要はなく、例えば、コの字型のように、一部に開放空間が形成されていてもよい。また、複数の異なる部材により空間が形成されていてもよい。また、空間充填材21は、被固定材24の両面に1枚ずつ積層されて挿入されているが、積層枚数および挿入箇所は限定されず、被固定材24の少なくとも一つの面に1枚または複数枚積層されて挿入されていてもよい。被固定材24の両面に積層されている空間充填材21は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、膨張性の均一性を高める観点から、同一であることが好ましい。なお、
図2Aでは、外方部材22の一部を示している。
【0062】
空間充填材21を構成する非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で加熱することにより、非晶性熱可塑性樹脂が軟化し、それに伴い、非晶性熱可塑性樹脂で拘束されていた強化繊維の屈曲が解放され、それにより強化繊維の反発力(復元力)が厚み方向に発現する。そして、空間充填材21は厚み方向(
図2AのZ方向)に不可逆的に膨張し、
図2Bに示すように、被固定材24とともに、空間23を充填する。空間23の壁面および被固定材24の両面には、空間充填材21の膨張応力により押圧力が加えられており、その応力が高いため、被固定材24が十分に固定される。
【0063】
また、本発明の空間充填材の使用方法は、膨張させて被固定材を固定する工程に先立って、所定の空間に空間充填材および/または被固定材を挿入する工程を含んでいてもよい。空間充填材および被固定材は、一緒に挿入してもよいし、空間充填材および被固定材のうち一方をまず挿入し、その後もう一方を挿入してもよい。また、空間充填材および被固定材は、あらかじめ一方が挿入されていた所定の空間にもう一方を挿入してもよい。
【0064】
本発明の空間充填材を固定材として使用する場合、後述の実施例に記載した被固定材の押抜荷重が、25N以上であってもよく、好ましくは100N以上、より好ましくは200N以上であってもよい。被固定材の押抜荷重の上限は特に限定されないが、例えば、2000N程度であってもよい。なお、押抜荷重は後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0065】
<空間充填構造体>
本発明の空間充填構造体は、空間充填材と、その少なくとも一部に接して一体化した被固定材とを備えていてもよい。
空間充填構造体は、例えば、前記空間充填材と被固定材とを融着により一体化してもよい。例えば、前記空間充填材と被固定材とが接するように積層し、加圧などにより空間充填材が膨張するのを抑制しつつ、空間充填材中の前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱する方法により、前記空間充填材と被固定材とを融着させて製造することができる。
または、空間充填構造体は、空間充填材の製造方法を参照して製造してもよい。例えば、空間充填構造体は、空間充填材を形成するための前駆体の多層体と被固定材とが接するように積層し、空間充填材中の前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱しつつ、積層方向に加圧し、さらに、加圧しながら冷却する方法により、前記空間充填材と被固定材とを融着させて製造してもよい。
または、空間充填構造体は、例えば、空間充填材と被固定材とを接着剤を介して積層して、接着させて製造することができる。この場合、接着剤としては、空間充填材と被固定材とを接着させることができる限り特に限定されず、公知の接着剤を使用することができる。
【0066】
本発明の空間充填構造体では、被固定材が前記空間充填材により挟まれていてもよい。空間充填構造体は、被固定材が、対向する少なくとも2方向で空間充填材により挟まれていてもよく、例えば、被固定材の厚み方向で挟まれていてもよく、厚み方向およびそれに直交する方向(例えば、厚み方向をZ方向とする場合のZ方向およびXまたはY方向で構成される4方向、またはX方向、Y方向、Z方向で構成される6方向)で挟まれていてもよい。
【0067】
<空間充填構造体の使用方法>
本発明の空間充填構造体の使用方法は、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で加熱することにより所定の空間において前記空間充填材を膨張させて、被固定材を固定する工程を含んでいてもよい。
【0068】
また、本発明の空間充填構造体の使用方法は、膨張させて被固定材を固定する工程に先立って、所定の空間に空間充填構造体を挿入する工程を含んでいてもよい。
【0069】
また、本発明の空間充填材は、輸送手段、家電製品、産業機械、建造物などにおいて、部材に囲まれる所定の空間内を充填して、当該部材を補強する空間充填補強材や、当該部材に囲まれる所定の空間内に被固定材を固定する空間充填固定材として有効に用いることができる。
特に、空間充填材が所定の絶縁特性および/または耐熱性を有する場合、本発明の空間充填材の一態様では、絶縁性および/または耐熱性空間充填材として有用に用いることができる。
【0070】
例えば、本発明の空間充填材および空間充填構造体は、モーター(例えば、自動車の駆動用モーター)において、ロータに形成された複数の孔部内に永久磁石(被固定材)を固定するためのモールド材として用いることにより、永久磁石を十分な固定強度で固定することができるとともに、連通孔として存在する空隙に冷却液を通液することによりモーターを冷却することが可能であり、絶縁性を付与することも可能である。また、空隙を有しているにもかかわらず固定強度が高いため、空間に占める材料の比率を少なくすることができるため、コストの削減をすることも可能である。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0072】
[単繊維繊度]
JIS L 1015:2010「化学繊維ステープル試験方法」の8.5.1のB法に準じて、後述の方法で算出した平均繊維長を用いて、単繊維繊度を測定した。
【0073】
[平均繊維長]
ランダムに選択した100本の繊維について、その繊維長を測定し、その測定値の平均値を平均繊維長とした。
【0074】
[平均繊維径]
ランダムに選択した30本の繊維について、顕微鏡観察により繊維径を測定し、その測定値の平均値を平均繊維径とした。
【0075】
[引張弾性率]
ガラス繊維の場合はJIS R 3420、炭素繊維の場合はJIS R 7606に準拠し、引張弾性率を測定した。
【0076】
[熱可塑性繊維のガラス転移温度]
熱可塑性繊維のガラス転移温度は、レオロジー社製固体動的粘弾性装置「レオスペクトラDVE-V4」を用い、周波数10Hz、昇温速度10℃/minで損失正接(tanδ)の温度依存性を測定し、そのピーク温度から求めた。ここで、tanδのピーク温度とは、tanδの値の温度に対する変化量の第1次微分値がゼロとなる温度のことである。
【0077】
[体積比率]
空間充填材を構成する強化繊維および熱可塑性樹脂の体積比率は、重量比率を、それぞれの比重により換算して算出した。
【0078】
[目付]
目付は、空間充填材サンプルを縦10cm、横10cmに切り出し、その重量(g)を計測し、下記式により算出した。
目付(g/m2)=重量(g)/0.01(m2)
【0079】
[厚さ]
厚さは、空間充填材サンプルの中央部、および角から1cmずつ内側の部分(4箇所)、の計5箇所を測定し、その測定値の平均値をその空間充填材の厚さとした。
【0080】
[密度]
密度は、空間充填材サンプルを縦10cm、横10cmに切り出し、その厚さ(cm)と重量(g)を計測し、下記式により算出した。
密度(g/cm3)=重量(g)/(厚さ(cm)×100(cm2))
【0081】
[空隙率]
JIS K 7075「炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験」に準拠し、空間充填材の空隙率(%)を算出した。
【0082】
[膨張性評価]
実施例にて得られた空間充填材を、熱可塑性樹脂のガラス転移温度+50℃またはガラス転移温度+100℃に設定した送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製、DN411H)中に入れて10分加熱後、取り出して25℃まで冷却した。その後、サンプルの厚みを測定し、加熱前後のサンプル厚みより、下記式を用いて膨張率を測定した。
膨張率(%)=膨張後の空間充填材の厚さ(mm)/膨張前の空間充填材の厚さ(mm)×100
次いで、以下の基準で各温度での膨張性を評価した。
〇:膨張率110%以上
×:膨張率110%未満
【0083】
[参考例1](ポリエーテルイミド繊維の製造)
非晶性熱可塑性樹脂であるポリエーテルイミド(以下、PEIと略称することがある)系ポリマー(サービックイノベイティブプラスチックス製「ULTEM9001」)を150℃で12時間真空乾燥した。前記PEI系ポリマーを紡糸ヘッド温度390℃、紡糸速度1500m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPEI繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PEI繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.0mmであり、ガラス転移温度は217℃であり、比重は1.27g/cm3であった。
【0084】
[参考例2](ポリカーボネート繊維の製造)
非晶性熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(以下、PCと略称することがある)系ポリマー(三菱エンジニアリングプラスチック製「ユーピロンS-3000」)を120℃で6時間真空乾燥した。前記PC系ポリマーを紡糸ヘッド温度300℃、紡糸速度1500m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPC繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PC繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.0mmであり、ガラス転移温度は153℃であり、比重は1.20g/cm3であった。
【0085】
[参考例3](半芳香族ポリアミド繊維の製造)
結晶性熱可塑性樹脂である半芳香族ポリアミド系ポリマー(クラレ製「ジェネスタPA9T」、以下PA9Tと略称することがある;融点265℃)を80℃で12時間真空乾燥した。前記ポリマーを紡糸ヘッド温度310℃、紡糸速度1500m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPA9T繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PA9T繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.1mmであり、ガラス転移温度は125℃であり、比重は1.14g/cm3であった。
【0086】
[参考例4](脂肪族ポリアミド繊維の製造)
結晶性熱可塑性樹脂であるポリアミド6系ポリマー(宇部興産製「UBEナイロン1015B」、以下PA6と略称することがある;融点225℃)を80℃で12時間真空乾燥した。前記ポリマーを紡糸ヘッド温度290℃、紡糸速度3000m/min、吐出量50g/minの条件で丸孔ノズルより吐出し、2640dtex/1200fのPA6繊維のマルチフィラメントを作製した。得られたマルチフィラメントを15mmにカットし、PA6繊維のショートカットファイバーを作製した。得られた繊維の外観は毛羽等なく良好で、単繊維繊度は2.2dtex、平均繊維長は15.0mmであり、ガラス転移温度は50℃であり、比重は1.14g/cm3であった。
【0087】
[実施例1]
非晶性熱可塑性繊維としてPEI繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付254g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
得られた混合不織布を8枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、340℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に溶融したPEI樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PEIのガラス転移温度以下である200℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.55mm、目付は1936g/m2、密度は1.248g/cm3、空隙率は26.3%であった。得られた空間充填材について、膨張性の評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0088】
[実施例2]
空間充填材の作製工程にて、混合不織布の枚数を4枚とした以外は実施例1と同様にして、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.36mm、目付は963g/m2、密度は0.709g/cm3、空隙率は58.1%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0089】
[実施例3]
空間充填材の作製工程にて、混合不織布の積層枚数を12枚としたこと、およびスペーサーの高さを2.2mmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは2.15mm、目付は2918g/m2、密度は1.360g/cm3、空隙率は19.7%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0090】
[実施例4]
非晶性熱可塑性繊維としてPEI繊維70wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)30wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付224g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.42mm、目付は1698g/m2、密度は1.197g/cm3、空隙率は19.9%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0091】
[実施例5]
非晶性熱可塑性繊維としてPEI繊維30wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)70wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付293g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.80mm、目付は2218g/m2、密度は1.232g/cm3、空隙率は36.9%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0092】
[実施例6]
非晶性熱可塑性繊維としてPEI繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長の炭素繊維(東邦テナックス製:平均繊維径7μm、比重1.82g/cm3)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付224g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
得られた混合不織布を8枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、340℃で10分間加熱し、炭素繊維の間に溶融したPEI樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PEIのガラス転移温度以下である200℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.99mm、目付は1696g/m2、密度は0.853g/cm3、空隙率は43.0%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0093】
[実施例7]
非晶性熱可塑性繊維としてPEI繊維10wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)90wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付346g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、加圧の圧力を15MPaに変更したこと以外は実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.86mm、目付は2583g/m2、密度は1.390g/cm3、空隙率は39.8%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0094】
[実施例8]
非晶性熱可塑性繊維としてPEI繊維80wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)20wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付230g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、混合不織布の積層枚数を12枚としたこと、およびスペーサーの高さを2.2mmに変更したこと以外実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは2.00mm、目付は2688g/m2、密度は1.340g/cm3、空隙率は5.0%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例9]
非晶性熱可塑性繊維としてPEI繊維85wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)15wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付220g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、混合不織布の積層枚数を12枚としたこと、およびスペーサーの高さを2.2mmに変更したこと以外実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは2.00mm、目付は2573g/m2、密度は1.289g/cm3、空隙率は6.1%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0096】
[実施例10]
非晶性熱可塑性繊維としてPC繊維49wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)51wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付150g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
その後、得られた混合不織布を12枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、280℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に溶融したPC樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PCのガラス転移温度以下である130℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.53mm、目付は1800g/m2、密度は1.176g/cm3、空隙率は28.3%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0097】
[比較例1]
非晶性熱可塑性繊維としてPEI繊維100wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付210g/m2の不織布を得た。
その後、不織布の積層枚数を12枚とした以外実施例1と同様にして空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは2.00mm、目付は2410g/m2、密度は1.210g/cm3、空隙率は5.0%であった。また、得られた空間充填材の定荷重下での膨張率を評価するために実施例1と同じ条件で加熱したところ、空間充填材が溶融、流出したため、空間充填材として機能しなかった。
【0098】
[比較例2]
結晶性熱可塑性繊維としてPA9T繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付236g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
得られた混合不織布を8枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、320℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に溶融したPA9T樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PA9Tのガラス転移温度以下である100℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.47mm、目付は1813g/m2、密度は1.232g/cm3、空隙率は21.7%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0099】
[比較例3]
結晶性熱可塑性繊維としてPA6繊維50wt%、強化繊維として13mmのカット長のガラス繊維(日東紡製:平均繊維径9μm、比重2.54g/cm3)50wt%からなるスラリーを用いて、ウェットレイドプロセスにより目付234g/m2の混合不織布(混抄紙)を得た。
得られた混合不織布を8枚積層し、テストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、高さ1.5mmのスペーサーを配置し、積層方向に対して垂直な面に対して3MPaにて加圧しながら、300℃で10分間加熱し、ガラス繊維の間に溶融したPA6樹脂を含浸させた後、加圧を維持したまま、PA6のガラス転移温度以下である30℃まで冷却し、空間充填材を作製した。得られた空間充填材の厚さは1.40mm、目付は1800g/m2、密度は1.286g/cm3、空隙率は18.3%であった。得られた空間充填材について、実施例1と同様に評価を行い、評価結果を表1に示す。
【0100】
【0101】
なお、表1において、GFはガラス繊維であり、CFは炭素繊維である。
【0102】
表1より、実施例1~10の空間充填材は、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度に対して50℃高い温度において、110%以上の良好な膨張性を示しており、膨張後においても非晶性熱可塑性樹脂がマトリクス樹脂として存在している。一方、強化繊維と結晶性熱可塑性樹脂とで構成されている比較例2および3では、膨張率が1%以下と、ほとんど膨張していない。
【0103】
さらに、実施例1~10の空間充填材は、非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度に対して100℃高い温度において、さらに良好な膨張性を示しているが、比較例2および3では、膨張率が2%以下と、ほとんど膨張していない。
【0104】
さらに、実施例1~10の空間充填材について、以下に示す各種特性について評価を行い、評価結果を表2に示す。
【0105】
[定荷重下での膨張率]
縦5cm、横5cmに切り出した膨張前の空間充填材を用い、重量1.44kg、縦5cm、横5cm、高さ7.4cmの金属製の直方体を空間充填材の上に乗せた状態で熱風炉中に入れ、熱可塑性樹脂の軟化温度+30℃以上の温度で、空間充填材の厚み変化が無くなるまで加熱した。
次いで、膨張した空間充填材の膨張前の厚さ及び膨張後の厚さから、下記式に従って定荷重下(5.6kPa)での膨張率を算出した。
膨張率(%)=膨張後の空間充填材の厚さ(mm)/膨張前の空間充填材の厚さ(mm)×100
【0106】
[厚み方向に対して直交する方向への寸法変化率]
定荷重下(5.6kPa)での膨張率の計測に用いた膨張後サンプルについて、面方向の寸法を計測し、下記式により、寸法変化率を算出した。
寸法変化率(%)=(膨張後面積(cm2)-膨張前面積(cm2))/膨張前面積(cm2)×100
【0107】
[充填性評価]
実施例にて得られた空間充填材を、長さ50mm、幅14mmに切り出し、高さ3mm、幅14mm、奥行き50mmの孔を有する鋼鉄製外方部材の孔(空隙)内に挿入し、所定の温度で加熱して空間充填材を膨張させて、以下の基準で充填性を評価した。
○:空隙の高さがすべて埋まる
×:空隙の高さが埋まらない
【0108】
また、充填時膨張率を以下の式により算出した。なお、空隙の高さがすべて埋まった場合、充填後の空間充填材の厚さは3mmとなる。
充填時膨張率(%)=充填後の空間充填材の厚さ(mm)/充填前の空間充填材の厚さ(mm)×100
【0109】
また、上述の空間充填材の空隙率と同様の算出方法により、充填後の空間充填材の空隙率を算出した。
【0110】
また、充填後の空間充填材の密度を以下の式により算出した。
充填後密度(g/cm3)=充填前の空間充填材の密度(g/cm3)/(充填時膨張率(%)/100)
【0111】
[押抜荷重]
高さ10mm、幅20mm、奥行き50mmの孔を有する鋼鉄製外方部材に、厚さ4mm、幅14mm、長さ50mmの直方体の鋼鉄製被固定材を挿入し、更に外方部材と被固定材との間に、幅14mm、長さ50mmに切り出した空間充填材を1枚ずつ挿入した。これらを熱風炉中で、所定温度にて30分加熱することで、空間充填材により、外方部材に被固定材を固定した。
次いで、得られた多重構造体(被固定材が空間充填材により外方部材の内部に固定されている構造体)に対して、万能試験機(島津製作所製「AG-2000A」)を用いて、被固定材のみに荷重を長さ方向にかけ、被固定材を押抜き、ずれが生じ始める時の荷重を押抜荷重とした。
【0112】
[通液性評価]
空間充填材を幅50mm、長さ50mmに切り出し、それを3枚積層した状態で、高さ9mm、幅50mm、奥行き50mmの貫通孔を有する鋼鉄製外方部材の孔内に挿入した。挿入後、所定の温度で加熱し、外方部材の孔を空間充填材で完全に充填した。外方部材の貫通孔を通液できるように外方部材の両端にそれぞれ耐圧チューブを取り付けた。
そして、耐圧チューブの一方より、45kPaの圧力で純水を注入し、空間充填材を経て他方の耐圧チューブから流出する水の体積を観測し、合計量が20mLから40mLとなるために必要な時間t(min)を計測した。
得られた時間より、下記式により、膨張後の空間充填材の通液速度を算出した。
通液速度(mL/min)=20(mL)/t(min)
【0113】
また、得られた通液速度について、以下の基準で通液性を評価した。
◎:100mm/min以上
〇:3mm/min以上100mm/min未満
×:3mm/min未満
【0114】
[絶縁性評価]
実施例にて得られた空間充填材を、JIS K 6911に準拠して体積抵抗率を計測し、以下の基準で絶縁性を評価した。
〇:体積抵抗率105(Ω・cm)以上
×:体積抵抗率105(Ω・cm)未満
【0115】
[耐熱性評価]
実施例にて得られた空間充填材を、3mm厚に隙間設定したテストプレス機(北川精機製「KVHC-II」)にて、所定温度で10分間加熱し、膨張させた後に冷却し、耐熱性試験片を作製した。次いで、JIS K 7017「繊維強化プラスチック-曲げ特性の求め方」に準拠して曲げ試験片を作製し、25℃および80℃雰囲気下で曲げ試験を実施し、下記式により物性保持率を算出した。
物性保持率(%)=80℃雰囲気下での曲げ強度(MPa)/25℃雰囲気下での曲げ強度(MPa)×100
次いで、以下の基準で耐熱性を評価した。
〇:物性保持率70%以上
×:物性保持率70%未満
【0116】
【0117】
表2に示すように、実施例1~10の空間充填材は、ガラス転移温度が100℃以上の非晶性熱可塑性樹脂を用いているため、耐熱性に優れている。また、実施例1~10の空間充填材は、充填後において空隙を有しているため、通液性に優れている。中でも、実施例1、2、4~7および10の空間充填材は、充填後の空隙率が45%以上であるため、通液性に特に優れている。
【0118】
また、実施例1~7および10の空間充填材は、空隙率が10~65%であるため、低荷重下における膨張性が良好である。中でも、実施例1~3、5~7および10の空間充填材は、寸法変化率が-0.2~0.2%の範囲内にあり、極めて良好である。
【0119】
実施例1~5および7~10の空間充填材は、強化繊維としてガラス繊維を用いているため、絶縁性に優れている。
【0120】
さらに、実施例1~6、8および10の空間充填材は、強化繊維および非晶性熱可塑性樹脂の合計体積のうちの非晶性熱可塑性樹脂の体積比率が30~90vol%であるため、非晶性熱可塑性樹脂をマトリクスとして良好に利用することができ、被固定材を固定する強度(押抜荷重)が特に高い。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の空間充填材は、輸送手段、家電製品、産業機械、建造物などにおいて、部材に囲まれる所定の空間内を充填するために有用である。例えば、空間充填材は、部材を補強する補強材や、部材に囲まれる所定の空間内に被固定材を固定する固定材として用いることができる。さらに、本発明の空間充填材は、モーター(例えば、自動車の駆動用モーター)において、ロータに形成された複数の孔部内に永久磁石(被固定材)を固定するためのモールド材として用いることができる。
【0122】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本件明細書を見て、自明な範囲内で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる発明の範囲内のものと解釈される。
【符号の説明】
【0123】
11,21・・・空間充填材
12,22・・・外方部材
13,23・・・空間
24・・・被固定材
25・・・空間充填構造体
X・・・厚み方向