(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】パターン検査方法およびパターン検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/956 20060101AFI20240229BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20240229BHJP
【FI】
G01N21/956 A
G06T1/00 460B
G06T1/00 400D
G06T1/00 430G
(21)【出願番号】P 2020164014
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】平野 亮一
(72)【発明者】
【氏名】山下 靖裕
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-362790(JP,A)
【文献】特開2017-49166(JP,A)
【文献】特開2017-72393(JP,A)
【文献】特開2006-113020(JP,A)
【文献】特開2012-2680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/956
G06T 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光学系を介して光源からの光で照明された試料を画像センサで撮像した光学画像に基づいて前記試料に形成されたパターンの欠陥検査を開始する前に、
前記光源と前記光源の経時的な光量変動であるリップルを示す電気信号を検出するためのリップルセンサとの間に配置されたシャッタで前記リップルセンサおよび前記照明光学系に向かう前記光源からの光が遮断された状態で前記リップルセンサの出力を検出する工程と、
前記シャッタで前記光源からの光が遮断されていない状態で前記リップルセンサの出力を検出する工程と、
前記光源からの光が遮断されていない状態で検出された前記リップルセンサの出力を、前記リップルセンサの出力とバイアス値との差分を演算する差分演算器の前記バイアス値の初期値として設定する工程と、を備え、
前記欠陥検査中に、
前記光源からの光が遮断された状態で前記リップルセンサの出力を検出する工程と、
前記欠陥検査の開始前に前記光源からの光が遮断された状態で検出された前記リップルセンサの出力に対する前記欠陥検査中に前記光源からの光が遮断された状態で検出された前記リップルセンサの出力のずれ量を算出する工程と、
前記ずれ量を前記バイアス値の初期値に加算する工程と、を備えることを特徴とするパターン検査方法。
【請求項2】
前記差分演算器で演算された前記差分に応じて前記画像センサの出力を補正するアンプのゲインを設定する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のパターン検査方法。
【請求項3】
前記欠陥検査中に前記光源からの光が遮断された状態で前記リップルセンサの出力を検出する工程は、前記試料が載置されたステージの移動によって前記照明光学系の光軸上に前記試料の検査領域を仮想的に分割した複数のストライプを順に移動させながら前記ストライプ毎の前記欠陥検査を行う過程において、前記欠陥検査が行われるストライプを切り替えるために前記照明光学系の光軸上に前記試料の検査領域外の領域を移動させている期間中に実施することを特徴とする請求項1または2に記載のパターン検査方法。
【請求項4】
前記欠陥検査の開始前に前記光源からの光が遮断された状態で検出された前記リップルセンサの出力が閾値を超えている場合に前記欠陥検査を開始しない工程をさらに備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のパターン検査方法。
【請求項5】
前記ずれ量を前記バイアス値の初期値に加算する工程は、前記ずれ量が閾値を超えている場合に実施することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のパターン検査方法。
【請求項6】
光源と、
パターンが形成された試料を前記光源からの光で照明する照明光学系と、
前記照明された試料を撮像する画像センサと、
前記光源と前記照明光学系との間に配置され、前記光源の経時的な光量変動であるリップルを示す電気信号を検出するためのリップルセンサと、
前記光源と前記リップルセンサとの間に配置され、前記リップルセンサおよび前記照明光学系に向かう前記光源からの光を遮断可能なシャッタと、
前記リップルセンサの出力とバイアス値との差分を演算する差分演算器と、
前記照明された試料を撮像した光学画像に基づいて前記パターンの欠陥検査を開始する前および前記欠陥検査中に、前記シャッタで前記光源からの光が遮断された状態および/または遮断されていない状態で前記リップルセンサの出力を検出する検出回路と、
前記検出されたリップルセンサの出力に基づいて前記バイアス値の初期値および前記初期値を補正した補正値を設定するバイアス設定部と、を備えることを特徴とするパターン検査装置。
【請求項7】
前記検出回路は、前記欠陥検査の開始前に、前記光源からの光が遮断された状態および遮断されていない状態で前記リップルセンサの出力を検出し、前記欠陥検査中に、前記光源からの光が遮断された状態で前記リップルセンサの出力を検出し、
前記バイアス設定部は、前記欠陥検査の開始前に、前記光源からの光が遮断されていない状態で検出された前記リップルセンサの出力を前記バイアス値の初期値として設定し、前記欠陥検査中に、前記欠陥検査の開始前に前記光源からの光が遮断された状態で検出された前記リップルセンサの出力に対する前記欠陥検査中に前記光源からの光が遮断された状態で検出された前記リップルセンサの出力のずれ量を前記バイアス値の初期値に加算することで前記補正値を設定すること、を特徴とする請求項6に記載のパターン検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン検査方法およびパターン検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィに用いるマスク等の試料に形成されたパターンの欠陥を検査するパターン検査装置では、パターンが形成された試料を光源からの光で照明し、照明された試料を画像センサで撮像することで得られた光学画像に基づいてパターンの欠陥を検査する。D-DB(Die to Database)検査では、光学画像と試料の設計データに基づく参照画像とを比較することで検査を行う。DD(Die to Die)検査では、試料上の異なる場所の同一パターンを撮像した光学画像同士を比較することで検査を行う。
【0003】
しかるに、光源に経時的な光量変動が生じた場合、光学画像の明るさが変化することで、パターンに欠陥が無いにもかかわらず、光学画像の明るさの変化が欠陥として誤検出されてしまうことがあった。そこで、光源の経時的な光量変動が光学画像に反映されて欠陥が誤検出されないようにするため、パターン検査装置では、リップルセンサを用いて、光源の経時的な光量変動であるリップルを示す電気信号を検出し、検出されたリップルを示す電気信号に応じて画像センサの出力側のアンプのゲインを調整することで、画像センサの出力を補正することが行われていた。
【0004】
画像センサの出力を補正するにあたっては、欠陥検査の開始前に検出された光源の光量を示す電気信号を基準光量Ieとして記録し、欠陥検査中に検出された光源の光量の基準光量Ieからのずれ量であるリップルを示す電気信号δに基づいて、アンプのゲインをIe/(Ie+δ)倍に調整していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、リップルは画像センサの出力の補正に用いられるため、欠陥の誤検出を防ぐためには、リップル自体が正確であることが理想的である。リップル自体が正確であるためには、リップルセンサの出力が理想的な値を示すこと、典型的には、光源の光量がゼロの場合にはリップルセンサの出力がゼロであることが求められる。
【0007】
ここで、リップルセンサは、例えば、光源から試料に向かう光の一部をフォトセンサに取り込んで光電変換することで得られた電気信号を、アンプ等のアナログ回路を経て出力するように構成されている。リップルセンサを構成するアナログ回路の電気特性(例えば、アンプによる電気信号の増幅特性)が理想的な特性である場合、光源の光量がゼロであれば、アナログ回路を経て出力される電気信号の信号値(すなわち、リップルセンサの出力)はゼロとなる。例えば、アンプは、増幅させるべき入力信号の信号値がゼロであれば出力信号の信号値もゼロとなる。
【0008】
しかしながら、リップルセンサを構成するアナログ回路の電気特性が理想的な特性からずれることで、光源の光量がゼロの場合でもリップルセンサの出力がゼロとならないことがある。また、アナログ回路の電気特性の理想的な特性からのずれは経時的に変化することがあり、この経時的な変化が生じた場合、実際の光源の光量が変動していないにもかかわらず、リップルセンサの出力が変動してしまう。そして、このようなアナログ回路の電気特性のずれの影響によってリップルを示す電気信号に誤差が生じることで、リップルを示す電気信号に応じた画像センサの出力の補正が不正確となってしまう。
【0009】
このように、従来は、アナログ回路の電気特性のずれの影響によって画像センサの出力の補正が不正確となることで、光源の経時的な光量変動にともなう欠陥の誤検出を確実に防止することが困難であった。
【0010】
本発明の目的は、リップルセンサを構成するアナログ回路の電気特性のずれにかかわらず画像センサの出力を正確に補正することで、光源の経時的な光量変動にともなう欠陥の誤検出を確実に防止することができるパターン検査方法およびパターン検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様であるパターン検査方法は、照明光学系を介して光源からの光で照明された試料を画像センサで撮像した光学画像に基づいて試料に形成されたパターンの欠陥検査を開始する前に、
光源と光源の経時的な光量変動であるリップルを示す電気信号を検出するためのリップルセンサとの間に配置されたシャッタでリップルセンサおよび照明光学系に向かう光源からの光が遮断された状態でリップルセンサの出力を検出する工程と、
シャッタで光源からの光が遮断されていない状態でリップルセンサの出力を検出する工程と、
前記光源からの光が遮断された状態で検出されたリップルセンサの出力を、リップルセンサの出力とバイアス値との差分を演算する差分演算器のバイアス値の初期値として設定する工程と、を備え、
欠陥検査中に、
光源からの光を遮断した状態でリップルセンサの出力を検出する工程と、
欠陥検査の開始前に光源からの光が遮断された状態で検出されたリップルセンサの出力に対する欠陥検査中に光源からの光が遮断された状態で検出されたリップルセンサの出力のずれ量を算出する工程と、
ずれ量を前記バイアス値の初期値に加算する工程と、を備えるものである。
【0012】
上述のパターン検査方法において、差分演算器で演算された差分に応じて画像センサの出力を補正するアンプのゲインを設定する工程をさらに備えてもよい。
【0013】
上述のパターン検査方法において、欠陥検査中に光源からの光が遮断された状態でリップルセンサの出力を検出する工程は、試料が載置されたステージの移動によって照明光学系の光軸上に試料の検査領域を仮想的に分割した複数のストライプを順に移動させながらストライプ毎の欠陥検査を行う過程において、欠陥検査が行われるストライプを切り替えるために照明光学系の光軸上に試料の検査領域外の領域を移動させている期間中に実施してもよい。
【0014】
上述のパターン検査方法において、欠陥検査の開始前に光源からの光が遮断された状態で検出されたリップルセンサの出力が閾値を超えている場合に欠陥検査を開始しない工程をさらに備えてもよい。
【0015】
上述のパターン検査方法において、ずれ量をバイアス値の初期値に加算する工程は、ずれ量が閾値を超えている場合に実施してもよい。
【0016】
本発明の一態様であるパターン検査装置は、光源と、パターンが形成された試料を光源からの光で照明する照明光学系と、照明された試料を撮像する画像センサと、光源と照明光学系との間に配置され、光源の経時的な光量変動であるリップルを示す電気信号を検出するためのリップルセンサと、光源とリップルセンサとの間に配置され、リップルセンサおよび照明光学系に向かう光源からの光を遮断可能なシャッタと、リップルセンサの出力とバイアス値との差分を演算する差分演算器と、照明された試料を撮像した光学画像に基づいてパターンの欠陥検査を開始する前および欠陥検査中に、シャッタで光源からの光が遮断された状態および/または遮断されていない状態でリップルセンサの出力を検出する検出回路と、検出されたリップルセンサの出力に基づいてバイアス値の初期値および初期値を補正した補正値を設定するバイアス設定部と、を備える。
【0017】
上述のパターン検査装置において、検出回路は、欠陥検査の開始前に、光源からの光が遮断された状態および遮断されていない状態でリップルセンサの出力を検出し、欠陥検査中に、光源からの光が遮断された状態でリップルセンサの出力を検出し、バイアス設定部は、欠陥検査の開始前に、光源からの光が遮断されていない状態で検出されたリップルセンサの出力をバイアス値の初期値として設定し、欠陥検査中に、欠陥検査の開始前に光源からの光が遮断された状態で検出されたリップルセンサの出力に対する欠陥検査中に光源からの光が遮断された状態で検出されたリップルセンサの出力のずれ量をバイアス値の初期値に加算することで補正値を設定してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リップルセンサを構成するアナログ回路の電気特性のずれにかかわらず画像センサの出力を正確に補正することで、光源の経時的な光量変動にともなう欠陥の誤検出を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態によるパターン検査方法を実施可能なパターン検査装置の一例を示す図である。
【
図2】第1の実施形態によるパターン検査方法を示すフローチャートである。
【
図3】第1の実施形態によるパターン検査方法において、リップルセンサの出力のずれを示すグラフである。
【
図4】第1の実施形態によるパターン検査方法において、差分演算器のバイアス値の補正の実施期間を示す平面図である。
【
図5】第1の実施形態によるパターン検査方法において、リップルセンサの出力のずれがある場合とない場合とのTDIセンサの出力の補正量の一例を示すグラフである。
【
図6】第2の実施形態によるパターン検査方法を示すフローチャートである。
【
図7】第2の実施形態によるパターン検査方法において、リップルセンサの出力のずれを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態によるパターン検査方法を実施可能なパターン検査装置1の一例を示す図である。
図1に示すように、パターン検査装置1は、光源2と、画像センサのの一例である第1TDIセンサ5Aおよび第2TDIセンサ5Bとを備える。(領域が区別された1つのTDIセンサであってもよい。)試料の一例であるフォトマスク3に形成されたパターンの欠陥を検査するため、光源2は、マスク3に向けてレーザ光を出射する。レーザ光は、例えば、深紫外(DUV)レーザ光である。第1TDIセンサ5Aおよび第2TDIセンサ5Bは、光源2からの光で照明されたマスク3に形成されたパターンを撮像することで光学画像を取得し、取得された光学画像を示す階調値を出力する。TDIセンサ5A,5Bで取得された光学画像は、後述する設計データに基づく参照画像との比較によって欠陥の検査(D-DB検査)に用いられる。
【0022】
光学画像を取得するためのより具体的な構成として、パターン検査装置1は、光源2と第1TDIセンサ5Aとを結ぶ第1の光路6上に、光の進行方向に向かって順に、シャッタ7と、第1ビームスプリッタ8と、第2ビームスプリッタ9と、第1ミラー10と、第2ミラー11と、第3ミラー12と、第1対物レンズ13と、ステージ17と、第2対物レンズ18と、偏光ビームスプリッタ19と、結像用レンズ20とを備える。ステージ17上には、フォトマスク3が載置される。第2ビームスプリッタ9とマスク3との間の第1の光路6上の光学部材10~13は、マスク3を透過する光でマスク3を照明する透過照明光学系を構成する。
【0023】
また、パターン検査装置1は、光源2と第2TDIセンサ5Bとを結ぶ第2の光路21上に、光の進行方向に向かって順に、既述したシャッタ7、第1ビームスプリッタ8および第2ビームスプリッタ9と、第4ミラー23と、既述した偏光ビームスプリッタ19、第2対物レンズ18、ステージ17および結像用レンズ20とを備える。シャッタ7、第1ビームスプリッタ8、第2ビームスプリッタ9、偏光ビームスプリッタ19、第2対物レンズ18および結像用レンズ20は、第1の光路6と第2の光路21との間で共通の光学部材である。第2ビームスプリッタ9とフォトマスク3との間の第2の光路21上の光学部材23、19、18は、マスク3で反射される光でマスク3を照明する反射照明光学系を構成する。以下、透過照明光学系と反射照明光学系とを照明光学系と総称することもある。
【0024】
シャッタ7は、光源2と照明光学系との間の光路に対して進入および退避が機械的に駆動可能な構成となっている。シャッタ7は、アクチュエータ等で構成されるシャッタ駆動装置36によって駆動される。以下、シャッタ7が光路上に進入した状態すなわちシャッタ7で光源2からの光を遮断した状態のことを、シャッタIN状態と呼ぶこともある。また、シャッタ7が光路上から退避した状態すなわちシャッタ7による光源2からの光の遮断を解除した状態のことを、シャッタOUT状態と呼ぶこともある。シャッタIN状態においては、照明光学系に向かう光源2からの光が遮断されるため、マスク3は撮像されない。一方、シャッタOUT状態においては、透過照明光学系を介して光源2からの光でマスク3が透過照明され、透過照明されたマスク3が第1TDIセンサ5Aで撮像される。また、反射照明光学系を介して光源2からの光でマスク3が反射照明され、反射照明されたマスク3が第2TDIセンサ5Bで撮像される。
【0025】
シャッタOUT状態において、光源2から出射された光は、第1ビームスプリッタ8において照明光学系側と後述するリップルセンサ32側とに分離される。第1ビームスプリッタ8を透過した光は、第2ビームスプリッタ9において、第1の光路6側と第2の光路21側とに分離される。第2ビームスプリッタ9を透過した光は、第1の光路6上を進行した後、順に第1ミラー10、第2ミラー11および第3ミラー12で反射された後に、第1対物レンズ13でマスク3上に集光されてマスク3を照明する。マスク3を照明した光は、第2対物レンズ18で収束されたうえで偏光ビームスプリッタ19を透過し、その後、結像用レンズ20によって第1TDIセンサ5A上に結像される。一方、第2ビームスプリッタ9で反射された光は、第2の光路21上を進行し、第4ミラー23で反射された後に偏光ビームスプリッタ19で反射される。偏光ビームスプリッタ19で反射された光は、マスク3を照射してマスク3で反射される。マスク3で反射された光は、偏光ビームスプリッタ19を透過した後に結像用レンズ20によって第2TDIセンサ5B上に結像される。
【0026】
また、パターン検査装置1は、ステージ17に接続されたX方向モータ25A、Y方向モータ25Bおよびθ方向モータ25Cと、ステージ制御回路26とを備える。X方向モータ25A、Y方向モータ25Bおよびθ方向モータ25Cは、それぞれ、ステージ17をX方向、Y方向およびθ方向に駆動することで、ステージ17上のマスク3に対して光源2からの光を走査する。ステージ制御回路26は、モータ25A~Cを駆動制御する。
【0027】
TDIセンサ5A,5Bは、X方向とY方向とに並んだ複数の撮像素子すなわちCCD(Charge Coupled Device)を有する。撮像素子は、マスク3を照明した光を受光して電荷に変換することでマスク3を撮像する。Y方向に並んだ複数の撮像素子はラインを構成し、撮像の際には、1ラインずつ順に階調値の出力と出力された階調値の直後のラインへの蓄積とを繰り返す。TDIセンサ5A,5Bは、例えば、+X方向へのステージ17の移動にともなって、ステージ17上のマスク3に対して-X方向に相対移動する。マスク3に対して-X方向に相対移動しながら、TDIセンサ5A,5Bは、1ラインずつ順に、マスク3に応じた撮像素子毎の階調値を電荷として出力する。各ラインでの階調値の出力において、TDIセンサ5A,5Bは、出力された電荷を直後のラインに蓄積すなわち転送する。これにより、各ラインでの階調値の出力において、TDIセンサ5A,5Bは、現在のラインで出力された階調値に、直前のラインで出力された階調値を加算した階調値を出力する。このような階調値の蓄積と加算を繰り返すことで、TDIセンサ5A,5Bは、最終ラインにおいて、各ラインの階調値を撮像素子毎に積算すなわち積分した撮像素子毎の積算値を出力する。この積算値が、欠陥検査に用いられるTDIセンサ5A,5Bの出力すなわち光学画像の取得結果である。
【0028】
このようなTDIセンサ5A,5Bの出力を用いたパターンの欠陥検査を行う構成として、パターン検査装置1は、比較・検査処理回路27と、検出回路の一例である装置制御回路28と、記憶装置29とを備える。記憶装置29には、マスク3の設計データが記憶されている。装置制御回路28は、パターン検査装置1の動作を統括的に制御する。比較・検査処理回路27は、装置制御回路28を介して記憶装置29に記憶されている設計データを読み出し、読み出された設計データに基づいて光学画像に対する比較基準となる参照画像を生成する。また、比較・検査処理回路27は、光学画像のパターンと参照画像のパターンとを比較することで欠陥検査を行う。
【0029】
ここで、光源2に経時的な光量変動が生じた場合、光学画像の明るさが変化することで、パターンに欠陥が無いにもかかわらず、光学画像の明るさの変化が欠陥として誤検出されてしまう。そこで、光源2の経時的な光量変動が光学画像に反映されて欠陥が誤検出されないようにするため、パターン検査装置1には、光源2の経時的な光量変動であるリップルを示す電気信号をモニタしてTDIセンサ5A,5Bの出力を補正する構成が備えられている。
【0030】
具体的には、パターン検査装置1は、センサ出力補正回路31と、リップルセンサ32と、リップル検出回路33と、ゲイン設定回路34と、既述した装置制御回路28とを備える。
【0031】
センサ出力補正回路31は、リップルを示す電気信号に応じてTDIセンサ5A,5Bの出力を補正する回路である。センサ出力補正回路31は、第1アンプ31Aと第2アンプ31Bとを有する。第1アンプ31Aは、第1TDIセンサ5Aと比較・検査処理回路27との間に接続され、設定された増幅率で第1TDIセンサ5Aの出力を増幅させることで、リップルを示す電気信号を含んだ第1TDIセンサ5Aの出力を補正する。第2アンプ31Bは、第2TDIセンサ5Bと比較・検査処理回路27との間に接続され、設定された増幅率で第2TDIセンサ5Bの出力を増幅させることで、リップルを示す電気信号を含んだ第2TDIセンサ5Bの出力を補正する。
【0032】
リップルセンサ32は、リップルを示す電気信号を検出するために光源2の光量を取得するセンサである。リップルセンサ32は、第1ビームスプリッタ8の反射側に配置されたフォトセンサ321と、フォトセンサ321の出力側に接続されたアナログ回路の一例であるアンプ322とを有する。アナログ回路は、アンプ332以外の回路素子を更に備えていてもよい。フォトセンサ321は、第1ビームスプリッタ8で反射された光を受光し、受光された光を電気信号に変換してアンプ322に出力する。アンプ322は、フォトセンサ321側から入力された電気信号を増幅させて出力する。このアンプ322の出力が、リップルセンサ32の出力である。
【0033】
リップル検出回路33は、リップルセンサ32の出力に基づいてリップルを示す電気信号を検出する回路である。リップル検出回路33は、リップルセンサ32の出力端にプラス(+)側の入力端が接続された差分演算器331と、差分演算器331のマイナス(-)側の入力端に接続されたバイアス設定部332と、差分演算器331の出力端に接続されたアンプ333とを有する。差分演算器331は、リップルセンサ32の出力とバイアス設定部332からのバイアス値との差分を演算することでリップルを示す電気信号を算出(すなわち、検出)する。より具体的には、差分演算器331は、リップルセンサ32の出力からバイアス値を減算することでリップルを示す電気信号を算出する。差分演算器331は、算出されたリップルを示す電気信号をアンプ333に出力する。アンプ333は、差分演算器331から出力されたリップルを示す電気信号を増幅させ、増幅されたリップルを示す電気信号をゲイン設定回路34に出力する。バイアス設定部332は、差分演算器331に供給されるバイアス値を設定する。
【0034】
ゲイン設定回路34は、リップル検出回路33で検出されたリップルを示す電気信号、より具体的にはアンプ333で増幅されたリップルを示す電気信号に応じて、センサ出力補正回路31の第1アンプ31Aおよび第2アンプ31Bのゲインを設定する回路である。ゲイン設定回路34は、例えば、リップル検出回路33で検出されたリップルを示す電気信号が光源2の経時的な光量増加を示す場合には、アンプ31A,31Bのゲインを1より小さい値に設定することで、アンプ31A,31Bから出力される光学画像の明るさが増加しないようにする。一方、ゲイン設定回路34は、リップル検出回路33で検出されたリップルを示す電気信号が光源2の経時的な光量減少を示す場合には、アンプ31A,31Bのゲインを1より大きい値に設定することで、アンプ31A,31Bから出力される光学画像の明るさが減少しないようにする。このようにして、パターン検査装置1は、リップルを示す電気信号に応じてTDIセンサ5A,5Bの出力を補正している。
【0035】
しかるに、リップルセンサ32を構成するアンプ322(アナログ回路)の電気特性(例えば、アンプ322による電気信号の増幅特性)が理想的な特性からずれることで、実際の光源2の光量がゼロの場合でもリップルセンサ32の出力がゼロとならないことがある。具体的には、アンプ322は、光源2の光量がゼロの場合には、アンプ322に入力される増幅させるべき電気信号の信号値がゼロであるので、出力される電気信号の信号値もゼロになるはずであるが、実際はゼロよりも大きい信号値の電気信号が出力されることがある。また、このアンプ322の理想的な電気特性からのずれは経時的に変化することがあり、この経時的な変化が生じた場合、実際の光源2の光量が変動してないにもかかわらず、リップルセンサ32の出力が経時的に変動してしまう。このようなアンプ322の電気特性のずれの影響によってリップルを示す電気信号に誤差が生じることで、リップルを示す電気信号に応じたTDIセンサ5A,5Bの出力の補正が不正確となってしまう。
【0036】
そこで、リップルセンサ32を構成するアンプ322の電気特性がずれてもTDIセンサ5A,5Bの出力を正確に補正するため、パターン検査装置1は、リップルセンサ32の出力に基づいてアンプ322の電気特性のずれをモニタし、アンプ322の電気特性のずれに応じて差分演算器331に設定するバイアス値を補正するように構成されている。バイアス値を補正するための具体的な構成は以下のパターン検査方法において説明する。
【0037】
(パターン検査方法)
次に、パターン検査装置1を適用した検査方法について説明する。
図2は、第1の実施形態によるパターン検査方法を示すフローチャートである。
【0038】
先ず、装置制御回路28は、欠陥検査の開始前に、差分演算器331のバイアス値の初期値を設定するための検査前処理を開始する(ステップS1)。検査前処理において、先ず、装置制御回路28は、シャッタ7を駆動するシャッタ駆動装置36にシャッタ7を光路外から光路上へと移動させることで、シャッタOUT状態からシャッタIN状態に切り替える(ステップS2)。
【0039】
シャッタIN状態において、装置制御回路28は、リップルセンサ32の出力端と差分演算器331のプラス側の入力端との間の第1検出ノードN1において、リップルセンサ32の出力Viiすなわち出力電圧を測定(検出)し、測定結果を装置制御回路28の記憶部に記録する(ステップS3)。
【0040】
リップルセンサ32の出力Viiを測定および記録した後、装置制御回路28は、記録されたリップルセンサ32の出力Viiが予め設定された正側の閾値Vf1または負側の閾値Vf2を超えたか否かを判定する(ステップS4)。正側の閾値Vf1および負側の閾値Vf2の具体例については後述する。
【0041】
測定結果Viiが正側の閾値Vf1よりも大きい、または、負側の閾値Vf2よりも小さい場合(ステップS4:Yes)、装置制御回路28は、差分演算器331のバイアス値の初期値を設定するためにシャッタIN状態からシャッタOUT状態に切り替えたときに、リップルセンサ32の出力が飽和してしまう、または、リップルセンサ32の出力が差分演算器331の演算式を適切に適用できない値になってしまうと判断する。この場合、装置制御回路28は、パターン検査装置1の表示部にエラー表示を行い(ステップS18)、欠陥検査を実施せずに処理を終了する。
【0042】
ここで、
図3は、第1の実施形態によるパターン検査方法において、リップルセンサ32の出力のずれを示すグラフである。
図3において、横軸は光源2の光量であり、縦軸はリップルセンサ32の出力すなわち出力電圧である。
図3に示すように、リップルセンサ32の出力は、光量に比例して増加するが、光量が増加してもそれ以上は増加しないセンサ飽和レベルがある。センサ飽和レベルは、例えば、リップルセンサ32に供給される電源電圧である。
【0043】
リップルセンサ32の出力が
図3において実線で示される理想的なリップルセンサ32の出力に対して正側にずれている場合、すなわち、正のオフセットが生じている場合、実際の光量がゼロであるシャッタIN状態においても、リップルセンサ32の出力はゼロにならず、正のオフセットに相当する値となる。この正のオフセットは、光量が増加したときもリップルセンサ32の出力に含まれる。このため、後述するように差分演算器331のバイアス値の初期値を設定するためにシャッタIN状態からシャッタOUT状態に切り替えたときも、リップルセンサ32の出力は、正のオフセットを含んだ値すなわち理想的なリップルセンサ32の出力よりも大きな値となる。シャッタOUT状態における理想的なリップルセンサ32の出力は、センサ飽和レベルに達しないような値に設計されている。しかしながら、シャッタOUT状態におけるリップルセンサ32の出力に正のオフセットが含まれている場合、正のオフセットに起因してリップルセンサ32の出力がセンサ飽和レベルに達することがある。センサ飽和レベルに達した場合、これ以上光量を増加させてもリップルセンサ32の出力は増加することができない。このようなセンサ飽和レベルのリップルセンサ32の出力は、差分演算器331のバイアス値の初期値として設定してもリップルを示す電気信号を適切に検出することができないため、バイアス値として不適切である。
【0044】
そこで、センサ飽和レベルのリップルセンサ32の出力を差分演算器331のバイアス値の初期値として設定しないようにするため、第1の実施形態においては、バイアス値の初期値を設定するためにシャッタIN状態からシャッタOUT状態に切り替えたときのリップルセンサ32の出力をセンサ飽和レベルにするような正のオフセットを、シャッタIN状態におけるリップルセンサ32の出力Viiの正側の閾値Vf1として設定している。なお、
図3には、一例として、検査開始前のシャッタIN状態におけるリップルセンサ32の出力Viiとして、正側の閾値Vf1に一致する正のオフセットを含む出力Viiが示されているが、正のオフセットが閾値Vf1よりも小さければ、正のオフセットを含むViiは
図3よりも小さい値になり、逆に、正のオフセットが閾値Vf1よりも大きければ、正のオフセットを含むViiは
図3よりも大きい値になる。そして、既述したように、検査開始前のシャッタIN状態におけるリップルセンサ32の出力Viiが正側の閾値Vf1よりも大きい場合には、エラー表示を行うことで不正確なリップルを示す電気信号の検出をともなう不適切な欠陥検査が行われることを未然に回避することができる。
【0045】
また、リップルセンサ32の出力が
図3において実線で示される理想的なリップルセンサ32の出力に対して負側にずれている場合、すなわち、負のオフセットが生じている場合、実際の光量がゼロであるシャッタIN状態においても、リップルセンサ32の出力はゼロにならず、負のオフセットに相当する値となる。この負のオフセットは、光量が増加したときもリップルセンサ32の出力に含まれる。このため、後述するように差分演算器331のバイアス値の初期値を設定するためにシャッタIN状態からシャッタOUT状態に切り替えたときも、リップルセンサ32の出力は、負のオフセットを含んだ値すなわち理想的なリップルセンサ32の出力よりも小さい値となる。そして、シャッタOUT状態におけるリップルセンサ32の出力が負のオフセットに起因して負の値となる場合、このような負の値のリップルセンサ32の出力を差分演算器331のバイアス値の初期値に設定すると、差分演算器331のマイナス(-)側の入力端に負の値(バイアス値の初期値)が設定されることになる。この場合、差分演算器331の演算式にしたがってリップルを示す電気信号を適切に算出することができないため、負の値のリップルセンサ32の出力は、バイアス値の初期値として不適切である。
【0046】
そこで、負の値のリップルセンサ32の出力を差分演算器331のバイアス値の初期値として設定しないようにするため、第1の実施形態においては、バイアス値の初期値を設定するためにシャッタIN状態からシャッタOUT状態に切り替えたときのリップルセンサ32の出力を負にするような負のオフセットを、シャッタIN状態におけるリップルセンサ32の出力Viiの負側の閾値Vf2として設定している。なお、
図3には、一例として、検査開始前のシャッタIN状態におけるリップルセンサ32の出力Viiとして、負側の閾値Vf2に一致する負のオフセットを含む出力Viiが示されているが、負のオフセットが閾値Vf2よりも大きければ、負のオフセットを含むViiは
図3よりも大きい値になり、逆に、負のオフセットが閾値Vf2よりも小さければ、負のオフセットを含むViiは
図3よりも小さい値になる。そして、既述したように、検査開始前のシャッタIN状態におけるリップルセンサ32の出力Viiが負側の閾値Vf2よりも小さい場合には、エラー表示を行うことで不正確なリップルを示す電気信号の検出をともなう不適切な欠陥検査が行われることを未然に回避することができる。
【0047】
一方、
図2に示すように、測定結果Viiが正側の閾値Vf1以下、または、負側の閾値Vf2以上である場合(ステップS4:No)、装置制御回路28は、差分演算器331のバイアス値の初期値を設定するために、シャッタ駆動装置36の制御によって、シャッタIN状態からシャッタOUT状態に切り替える(ステップS5)。
【0048】
シャッタIN状態からシャッタOUT状態への切り替えを行った後、装置制御回路28は、第1検出ノードN1において、リップルセンサ32の出力Vioを測定(検出)し、測定結果を装置制御回路28の記憶部に記録する(ステップS6)。
【0049】
シャッタOUT状態におけるリップルセンサ32の出力の測定結果Vioを記録した後、バイアス設定部332(設定部)は、記録された測定結果Vioをバイアス値の初期値として設定する(ステップS7)。
【0050】
バイアス値の初期値が設定された後、装置制御回路28は、シャッタOUT状態からシャッタIN状態への切り替え(ステップS8)を行って検査前処理を終了させ、続いて欠陥検査を開始する(ステップS9)。
図4は、第1の実施形態によるパターン検査方法において、差分演算器331のバイアス値の補正の実施期間を示す平面図である。欠陥検査においては、マスク3が載置されたステージ17を移動させることで、
図4に示すように、マスク3の検査領域300を仮想的に分割した短冊状の複数のストライプ301を照明光学系の光軸上に順に移動させることで、複数のストライプ301を光源2からの光で順に走査する。このとき、
図4の破線矢印に示す方向に各ストライプ301が連続的に走査されるように、ステージ制御回路26はステージ17の動作を制御する。これにより、ストライプ301毎にマスク3を撮像した光学画像を取得し、取得された光学画像と設計データに基づく参照画像との比較によってストライプ301毎に欠陥検査を行う。
【0051】
検査前処理開始S1後、S7までの処理で差分演算器331のバイアス値を初期値に設定する。なお、検査前処理は、後述する検査中処理とともにバイアス値の補正の実施期間に含まれる。検査前処理は、
図4の枠Bに示すように、照明光学系の光軸上に検査領域300の走査が開始される前の検査領域外領域302を移動させている期間中に行われる。欠陥検査を開始した後、装置制御回路28は、欠陥検査中に差分演算器331のバイアス値を補正する検査中処理を開始するか否かを判定する(ステップS10)。具体的には、装置制御回路28は、少なくとも1ストライプ分の欠陥検査が完了しており、かつ、
図4の枠Aに示すように、欠陥検査が行われるストライプ301を切り替えるために照明光学系の光軸上にマスク3の検査領域外領域302を移動させている期間中である場合には、検査中処理を開始すると判定する。一方、装置制御回路28は、少なくとも1ストライプ分の欠陥検査が完了しておらず、または、照明光学系の光軸上にストライプ301を移動させている期間中である場合には、検査中処理を開始しないと判定する。このように、検査が行われるストライプ301の切り替え期間中に検査中処理を行うことで、検査を妨げずにバイアス値を補正することができる。
【0052】
検査中処理を開始する場合(ステップS10:Yes)、装置制御回路28は、第1検出ノードN1において、リップルセンサ32の出力を測定し、測定結果Viidを記録する(ステップS11)。
【0053】
リップルセンサ32の出力の測定結果Viidを記録した後、装置制御回路28は、記録された測定結果Viidが予め設定された正側の閾値Vf1または負側の閾値Vf2を超えたか否かを判定する(ステップS12)。
【0054】
測定結果Viidが正側の閾値Vf1よりも大きい、または、負側の閾値Vf2よりも小さい場合(ステップS12:Yes)、装置制御回路28は、エラー表示を行って処理を終了する(ステップS18)。
【0055】
一方、測定結果Viiが正側の閾値Vf1以下、または、負側の閾値Vf2以上である場合(ステップS12:No)、装置制御回路28(算出部)は、検査開始前にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサ32の出力Viiに対する検査中にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサ32の出力Viidのずれ量(Viid-Vii)を算出する(ステップS13)。
【0056】
ずれ量(Viid-Vii)を算出した後、バイアス設定部332(補正部)は、算出されたずれ量(Viid-Vii)を初期値Vioに加算した値(Vio+(Viid-Vii))を差分演算器331のバイアス値として設定することで、バイアス値(初期値)を補正する(ステップS14)。
【0057】
ここで、ずれ量(Viid-Vii)は、欠陥検査の進行にともなうリップルセンサ32(アナログ回路)の経時的な特性変化に起因して、シャッタIN状態におけるリップルセンサ32の出力がどの程度変化したかを示す量である。Viiが通常は理想的な出力(すなわちゼロ)からずれたオフセットに相当する値であると考えれば、ずれ量(Viid-Vii)は、オフセットの変化と考えることができる。以下、ずれ量(Viid-Vii)のことを、オフセット変化と呼ぶこともある。なお、
図3には、一例として、理想的なVii(ゼロ)を基準としたオフセット変化(Viid-Vii)、すなわち、検査開始前のオフセットViiがゼロの場合のオフセット変化が示されている。
【0058】
オフセット変化(Viid-Vii)がリップルセンサ32の出力に含まれている場合、差分演算器331によってリップルセンサ32の出力にバイアス値の初期値を加算することで得られるリップルを示す電気信号は、オフセット変化(Viid-Vii)が含まれた不正確な値となる。より具体的には、
図5に示すように、光源2の出力(レーザ出力)に対するリップルを示す電気信号(差分演算器331の出力)の比率(%)を横軸にとり、アンプ31A,31Bのゲインαおよびゲインαの補正誤差を縦軸にとったグラフにおいて、オフセット変化があるときのアンプ31A,31Bのゲインα:Bは、オフセット変化がないときの理想的なアンプ31A,31Bのゲインα:Aに対してオフセット変化を反映した補正誤差:Cを有するものとなる。
【0059】
これに対して、第1の実施形態によれば、リップルセンサ32の経時的な特性変化にともなうオフセット変化(Viid-Vii)が含まれるように差分演算器331のバイアス値を補正することで、リップルセンサ32の出力にオフセット変化(Viid-Vii)が含まれていても、差分演算器331におけるバイアス値(Vio+(Viid-Vii))との差分演算によってオフセット変化(Viid-Vii)を相殺することができる。これにより、差分演算器331の出力であるリップルを示す電気信号は、オフセット変化(Viid-Vii)を含まない正確な値となる。そして、正確な値のリップルを示す電気信号に基づいてアンプ31A,31Bのゲインを補正することで、光源2の経時的な光量変動にともなう欠陥の誤検出を確実に防止することができる。
【0060】
バイアス値を補正した後、装置制御回路28は、検査中処理を終了する(ステップS15)。
【0061】
検査中処理を終了した後、または検査中処理を開始しない場合(ステップS10:No)、装置制御回路28は、ストライプ毎の欠陥検査を実施する(ステップS16)。
【0062】
ストライプ毎の欠陥検査を実施した後、装置制御回路28は、検査が終了したか否かを判定する(ステップS17)。
【0063】
検査が終了した場合(ステップS17:Yes)、装置制御回路28は、処理を終了する。一方、検査が終了していない場合(ステップS17:No)、装置制御回路28は、検査中処理を開始するか否かの判定を繰り返す(ステップS10)。
【0064】
なお、
図1に示すように、装置制御回路28は、アンプ333とゲイン設定回路34との間の第2検出ノードN2において、アンプ333から出力されたリップルを示す電気信号の増幅値を検出してもよい。そして、検出されたリップルを示す電気信号の増幅値が、リップルセンサ32の出力とバイアス値とアンプ333の増幅率とに基づいて装置制御回路28が計算した計算値と一致するか否かを判定してもよい。この場合、リップルを示す電気信号の増幅値の検出値と計算値との誤差が閾値を超える場合には、装置制御回路28は、バイアス値の再設定やエラー表示等のエラー処理を行ってもよい。
【0065】
なお、パターン検査装置1は、以下のパラメータを有していてもよい。
・光源2の光量:10uW
・フォトセンサ321の光電変換効率:0.06A/W
・オペアンプ322の電流/電圧変換抵抗:15KΩ(出力電流:0.6uA、出力電圧:10mV)
・リップルセンサ32の電気回路の設置環境の温度変化:4℃
・オペアンプ322のオフセットドリフト:1.5uV/℃(ドリフトによる信号変化:1.5uV*4/10mV =0.06 %)
・リップルセンサ32のA/Dコンバータの分解能:12bit(入力レンジに対して0.02%)
【0066】
以上述べたように、第1の実施形態によれば、検査開始前にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサ32の出力に対する検査中にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサの出力のずれ量(オフセット変化)を算出し、算出されたずれ量をバイアス値の初期値に加算してバイアス値を補正することで、リップルセンサ32を構成するアナログ回路の経時的な特性変化に起因するリップルセンサ32の出力の誤差を解消することができる。これにより、正確な値のリップルを示す電気信号に基づいてTDIセンサ5A,5Bのゲインを正確に補正することができるので、光源2の経時的な光量変動にともなう欠陥の誤検出を確実に防止することができる。
【0067】
また、第1の実施形態によれば、検査開始前にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサ32の出力(オフセット)が閾値Vf1、Vf2を超えている場合にエラー表示を行って検査を実施しないことで、正確なバイアス値の初期値を設定できないほどリップルセンサ32の出力のずれが大きい場合に不適切な検査が開始されることを回避することができる。
【0068】
(第2の実施形態)
次に、検査開始前にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサ32の出力に対する検査中にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサの出力のずれ量が閾値を超える場合にバイアス値の補正を実施する第2の実施形態について説明する。
図6は、第2の実施形態によるパターン検査方法を示すフローチャートである。
図7は、第2の実施形態によるパターン検査方法において、リップルセンサ32の出力のずれを示すグラフである。
【0069】
第1の実施形態においては、検査開始前にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサ32の出力に対する検査中にシャッタIN状態で検出されたリップルセンサの出力のずれ量(Viid-Vii)すなわちオフセット変化を無条件でバイアス値の初期値Vioに加算することでバイアス値を補正していた。これに対して、第2の実施形態においては、
図6に示すように、ずれ量(Viid-Vii)の絶対値が
図7に示されるオフセット変化閾値Vdを超えるか否かを判定し(ステップS21)、オフセット変化閾値Vdを超える場合に、ずれ量(Viid-Vii)でバイアス値を補正する(ステップS14)。
【0070】
第2の実施形態によれば、ずれ量(Viid-Vii)がオフセット変化閾値Vdを超えることを条件にバイアス値を補正することで、ずれ量(Viid-Vii)が小さい場合にはバイアス値の補正を省略することができる。これにより、パターン検査装置1の処理負荷を軽減することができる。
【0071】
なお、本発明には、TDIセンサ5A,5B以外の画像センサを適用することもできる。また、反射照明光学系および透過照明光学系のうち一方を削除することもできる。また、結像用レンズ20とTDIセンサ5A,5Bとの間に透過照明光、反射照明光のそれぞれに対応するスリットを設けることもできる。また、ステージ17の移動方式としては、
図4に示した連続移動方式の代わりにステップアンドリピート方式を適用することもできる。ステップアンドリピート方式では、検査領域300内においてシャッタIN状態にしてリップルセンサ32の出力を検出することもできる。また、本実施形態は、D-DB検査に限らず、D-D検査にも適用することができる。
【0072】
パターン検査装置1の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、パターン検査装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0073】
上述の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 パターン検査装置
2 光源
32 リップルセンサ
331 差分演算器
5A,5B TDIセンサ