(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-28
(45)【発行日】2024-03-07
(54)【発明の名称】クレーンおよび高潮対策方法
(51)【国際特許分類】
B66C 9/08 20060101AFI20240229BHJP
【FI】
B66C9/08
(21)【出願番号】P 2021044489
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】乾 龍馬
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060602(JP,A)
【文献】米国特許第05076450(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 9/00-23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置の車輪に動力を伝達する複数の走行用のモータを備えるクレーンにおいて、
高潮対策構造を有する第一モータと、高潮対策構造を有さない第二モータとを備えていて、
前記高潮対策構造が、
モータを覆う防水カバー、または
モータの設置位置
を高い位置とする支持部材の少なくとも一方で構成されることを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記第一モータの動力で前記クレーンが走行する際に、前記第二モータが連結されている前記車輪を駆動輪から従動輪に切り替える切替機構を備える請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記クレーンの走行方向における前記走行装置の中央部から最も近い位置に配置されている前記第二モータよりも、前記中央部から最も遠い位置に配置されている前記第一モータの方が、前記中央部からの距離が小さい状態に前記第一モータおよび前記第二モータが配置されている請求項1または2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記第二モータの数より前記第一モータの数の方が多い請求項1~3のいずれかに記載のクレーン。
【請求項5】
クレーンの高潮対策方法において、
走行装置の車輪に動力を伝達する複数の走行用のモータを第一モータと第二モータとで構成して、前記第一モータに高潮対策を施すとともに前記第二モータに高潮対策を施さない構成を有していて、
前記高潮対策は、
モータを
覆う防水カバー、または
モータの設置位置
を高い位置とする
支持部材の少なくとも一方で構成されることを特徴とする高潮対策方法。
【請求項6】
前記第二モータが連結されている前記車輪を駆動輪から従動輪に切り替えた後に、前記第一モータの動力で前記クレーンを走行させる請求項5に記載の高潮対策方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高潮の際に走行用のモータが保護されるクレーンおよび高潮対策方法に関するものであり、詳しくは高潮対策のためのコストを抑制できるクレーンおよび高潮対策方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高潮対策を施したクレーンが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載のクレーンは防水モータを備えていた。この防水モータは通常のモータよりも調達コストが高い問題がある。加えてこのクレーンは通常の二倍の数の走行用モータが設置されていた。クレーンに設置されるモータ数が増大するため調達コストが高くなる問題がある。特許文献1に記載のクレーンは高潮対策のためのコストが極めて大きくなる不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は高潮対策のためのコストを抑制できるクレーンおよび高潮対策方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するためのクレーンは、走行装置の車輪に動力を伝達する複数の走行用のモータを備えるクレーンにおいて、高潮対策構造を有する第一モータと、高潮対策構造を有さない第二モータとを備えていて、前記高潮対策構造が、モータを覆う防水カバー、またはモータの設置位置を高い位置とする支持部材の少なくとも一方で構成されることを特徴とする。
【0006】
上記の目的を達成するための高潮対策方法は、クレーンの高潮対策方法において、走行装置の車輪に動力を伝達する複数の走行用のモータを第一モータと第二モータとで構成して、前記第一モータに高潮対策を施すとともに前記第二モータに高潮対策を施さない構成を有していて、前記高潮対策は、モータを覆う防水カバー、またはモータの設置位置を高い位置とする支持部材の少なくとも一方で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高潮対策を一部のモータにのみ施して他のモータには高潮対策を施さない。クレーンの高潮対策のためのコストを抑制するには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】走行用のモータを拡大して例示する説明図である。
【
図3】高潮対策構造の変形例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、クレーンおよび高潮対策方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。図中ではクレーンの走行方向を矢印y、この走行方向を直角に横断する横行方向を矢印x、上下方向を矢印zで示している。
【0010】
図1に例示するようにクレーン1は、脚構造体2の下方に設置される走行装置3を備えている。クレーン1は例えば岸壁クレーンで構成される。クレーン1はこれに限らず走行装置3を備えているクレーンであればよい。クレーン1は例えば門型クレーンやアンローダで構成されてもよい。クレーン1は例えば四つの走行装置3を備えている。一つの走行装置3は、脚構造体2の下方に設置される主イコライザ4と、主イコライザ4の下方に設置される二つの中間イコライザ5と、中間イコライザ5の下方に二つずつ設置される合計四つのボギー6とを備えている。クレーン1が備える走行装置3の数は上記に限定されない。例えば六つなど上記と異なる数の走行装置3をクレーン1が備えていてもよい。また主イコライザ4に対する中間イコライザ5およびボギー6の数は上記に限定されない。主イコライザ4の下方に三つの中間イコライザ5が設置されたり、中間イコライザ5の下方に三つのボギー6が設置されたり、主イコライザ4の下方に直接設置されるボギー6を有していてもよい。
【0011】
ボギー6には二つずつ車輪7が設置されている。この実施形態では走行装置3は四つのボギー6と、八つの車輪7とを備えている。走行装置3は、車輪7に動力を伝達するための複数の走行用のモータMを備えている。この実施形態では四つの車輪7にモータMが設置されていて、他の車輪7にはモータMが設置されていない。モータMは複数の車輪7のうち少なくとも一部に設置される。モータMが設置される数は上記に限らない。三つ以下の車輪7にモータMが設置される構成でもよく、五つ以上の車輪7にモータMが設置される構成でもよい。
【0012】
モータMは減速機8に連結されている。モータMの動力は減速機8を介して車輪7に伝達される。クレーン1が走行する際には、モータMが設置されている車輪7は駆動輪となり、モータMが設置されていない車輪7は従動輪となる。
【0013】
図1および
図2に例示するように、複数のモータMのうち一部のモータMは高潮対策構造9を有している。以下、高潮対策構造9を有しているモータMを第一モータM1ということがある。この実施形態では高潮対策構造9は、モータMを覆う防水カバー9aで構成されている。
図2に例示するように防水カバー9aは例えば鋼板で作成される水密構造の直方体で構成することができる。防水カバー9aの形は直方体形状に限らず、立方体形状や円柱形状や角柱形状などその他の立体形状で構成することができる。防水カバー9aは内部に空洞を有していて、この空洞に第一モータM1が配置される。
図1および
図2では説明のため防水カバー9aの内部に配置される第一モータM1を破線で示している。
【0014】
防水カバー9aは少なくとも第一モータM1の全体を覆う構成を有している。防水カバー9aの下面には第一モータM1と減速機8とを連結する動力軸が貫通する貫通孔が形成されている。防水カバー9aは、第一モータM1に加えて、減速機8の一部または全部など他の構造物も同時に覆う構成を有していてもよい。
【0015】
複数のモータMのうち第一モータM1以外のモータは高潮対策構造9を有さない。以下、高潮対策構造9を有さないモータMを第二モータM2ということがある。第二モータM2は防水カバー9aが設置されていない。また第二モータM2は防水モータで構成されることもない。第二モータM2は、第一モータM1よりも放熱性およびメンテナンス性に優れるモータMで構成されることが望ましい。
【0016】
高潮発生時には走行用のモータMが水没する高さまで水位が上昇することがある。第一モータM1は防水カバー9aを有しているので水没しない。そのため高潮発生にともなう第一モータM1の故障は回避できる。一方で第二モータM2は水没により故障する可能性がある。
【0017】
水位が下がりクレーン1を復旧させる復旧時には、第二モータM2が連結されている車輪7を従動輪に切り替える。第二モータM2が連結されている車輪7を駆動輪から従動輪に切り替える切替機構10をクレーン1が備えていてもよい。
図2に例示するように切替機構10は、例えば第二モータM2と減速機8とを連結する動力軸に組み込まれるクラッチで構成することができる。切替機構10の構成は上記に限らず第二モータM2に連結される車輪7を従動輪とすることができればよい。切替機構10は例えば減速機8の内部に組み込まれるクラッチや、第二モータM2の内部に組み込まれる電磁ブレーキを解除する機構で構成してもよい。
【0018】
第一モータM1に連結されている車輪7を第一モータM1の動力で回転させることで、クレーン1を走行させることができる。第二モータM2が故障してない場合は第二モータM2の動力をクレーン1の走行に利用してもよい。第二モータM2が故障している場合であっても、切替機構10により車輪7を従動輪とすることができるので、この車輪7がクレーン1の走行を妨げるおそれはない。
【0019】
クレーン1は高潮発生後であっても走行することが可能となる。クレーン1による荷役作業を行ったり、クレーン1を退避位置まで走行させて第二モータM2の修理等の作業を行ったりすることができる。
【0020】
走行装置3が有する走行用の複数のモータMのうち、一部のモータMのみが高潮対策構造9を有している。高潮対策のためのコストを抑制するには有利である。例えば
図1に例示する実施形態では四つのモータMのうち二つのモータMに高潮対策構造9を採用している。すべてのモータMに高潮対策構造9を採用する場合に比べて高潮対策のためのコストは半分となる。
【0021】
三つのモータMに高潮対策を施して第一モータM1として、残りの一つのモータMを第二モータM2としてもよい。走行装置3に五つのモータMを設置して、第一モータM1を三つ、第二モータM2を二つとしてもよい。
【0022】
第一モータM1の動力によりクレーン1を走行させることができるので、クレーン1の早期復旧が可能となる。
【0023】
第二モータM2は防水カバー9aを設置されていないので放熱性が低下する不具合がない。また防水カバー9aを設置されている第一モータM1と比べて、露出している第二モータM2はメンテナンス性が高い。そのためすべてのモータMに防水カバー9aなどの高潮対策が施されている場合に比べて、高潮対策を施されていない第二モータM2を有するクレーン1の方がメンテナンス性を向上できる。
【0024】
クレーン1は高潮発生時に故障を回避できる第一モータM1と、放熱性およびメンテナンス性に優れる第二モータM2との両方を備えている。複数のモータMの全体として、放熱性やメンテナンス性の低下を抑制しつつ、高潮対策を行うことができる。高潮対策を施すことによるデメリットを抑制できるので、高潮対策構造9を有するクレーン1を普及させるには有利である。
【0025】
図2に例示するように第二モータM2がモータMの内部と外部とを連通する換気口11を備える構成にしてもよい。第二モータM2の放熱性を向上するには有利である。また第二モータM2の内部に発生する結露を抑制できる。
【0026】
高潮対策で従来採用されていた防水モータは、防水モータの内部への水の侵入を防止する一方で、内部の水蒸気を外部に排出できない。防止モータの内部に結露が発生する不具合がある。結露はモータMのコイル等の腐食や劣化を引き起こす。
【0027】
第二モータM2は内部での腐食等が発生し難い。例えば第一モータM1が腐食等により故障した場合であっても、第二モータM2によりクレーン1を走行させることができる。
【0028】
図2に例示するように第一モータM1が換気口11を備えていてもよい。ただし第一モータM1には防水カバー9aが設置されているため、換気口11により結露を防止する効果は得にくい。防水カバー9aが開閉可能な開口部を有していてもよい。高潮が発生する可能性のあるときはこの開口部を閉じて、可能性がないときは開口部を開くことで、結露防止の効果を得やすくしてもよい。
【0029】
第二モータM2が電磁ブレーキを備えない構成としてもよい。この構成によれば第二モータM2への通電を停止すると、第二モータM2は外力により自由に回転する状態となる。第二モータM2に連結されている車輪7を従動輪とすることができる。この場合は第二モータM2がクラッチ等の切替機構10を備えない構成としても、第二モータM2に連結される車輪7を従動輪とすることができる。
【0030】
第一モータM1は電磁ブレーキを備える構成とすることが望ましい。停電時など第一モータM1への電力供給がないときに、電磁ブレーキが働き第一モータM1の回転が拘束される。クレーン1にブレーキがかかった状態となるので、停電時にクレーン1が逸走することを抑制できる。クレーン1の安全性を向上するには有利である。
【0031】
防水カバー9aはモータMに着脱自在となる構成を有していてもよい。台風情報などに基づき高潮が発生する可能性のあるときに防水カバー9aを一部のモータMに設置する構成にできる。高潮が発生する可能性のないときに防水カバー9aをモータMから取り外す構成にできる。防水カバー9aをモータMから取り外すことができるので、第一モータM1が換気口11を有している場合は、第一モータM1の内部に結露が発生することを抑制できる。防水カバー9aは容易に変形が可能なビニールシートなど樹脂製のカバーで構成されてもよい。
【0032】
モータMの回転数等を制御する際にモータMからのフィードバックを得るために、モータMにパルスジェネレータやエンコーダが設置されることがある。複数の走行用のモータMのうちパルスジェネレータ等を備えているモータMがある場合には、このモータMに優先的に高潮対策構造9を採用することが望ましい。パルスジェネレータ等を備えるすべてのモータMに高潮対策構造9が適用されることが望ましい。パルスジェネレータ等を有するモータMが保護されるため、高潮発生後であってもクレーン1の走行制御の精度を維持しやすくなる。
【0033】
高潮対策を施される第一モータM1と、高潮対策を施されない第二モータM2とは同数またはいずれか一方が一つ多い状態とすることが望ましい。更に望ましくは第二モータM2より第一モータM1の方が多い状態とする。
【0034】
高潮発生時には第二モータM2がすべて故障する可能性がある。この場合は第一モータM1のみでクレーン1は走行する。一方で高潮発生時以外のときに結露等ですべての第一モータM1が同時に故障する可能性は極めて低い。この場合は第二モータM2と故障していない第一モータM1とでクレーン1は走行する。
【0035】
図3に例示するように高潮対策構造9が、第一モータMの設置位置を第二モータM2の設置位置よりも高い位置とする支持部材9bで構成されてもよい。この支持部材9bは第一モータM1と減速機8との間に配置される筒状体で構成されている。第一モータM1と減速機8とを連結する動力軸は支持部材9bの内部を貫通している。
図3では説明のため動力軸を破線で示している。
【0036】
支持部材9bの構成は上記に限らず、第一モータM1を第二モータM2よりも高い位置で支持できる構成であればよい。例えば支持部材9bは枠状体で構成されてもよい。また支持部材9bは、主イコライザ4に設置されて第一モータM1を支持するアームで構成されてもよい。このときアームは第一モータM1の荷重を支持しつつ、主イコライザ4に対して第一モータM1を所定の範囲で移動可能な状態とする構成を有している。またアームは上下方向zを中心軸とする第一モータM1の回転は拘束する構成を有している。主イコライザ4に対してボギー6が傾き、これに伴い第一モータM1が移動する。この第一モータM1の移動を許容できる状態で、アームは第一モータM1を主イコライザ4に設置する構成を有している。
【0037】
高潮対策構造9により第一モータM1は比較的高い位置に配置される。高潮発生時に水位が上昇した場合であっても第一モータM1は水没を回避しやすくなる。高潮対策構造9が防水カバー9aで構成される場合よりも、第一モータM1の放熱性に優れていて、第一モータM1の内部で結露が発生する可能性を抑制できる。第一モータM1は第二モータM2よりも高所に設置されるため、メンテンナンス性は第二モータM2の方が優れている。
【0038】
一台のクレーン1に対して異なる高潮対策構造9を組み合わせて採用する構成としてもよい。例えば高潮対策構造9として一部のモータMに防水カバー9aを採用して、一部のモータMに支持部材9bを採用して、残りのモータMを第二モータM2とする構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 クレーン
2 脚構造体
3 走行装置
4 主イコライザ
5 中間イコライザ
6 ボギー
7 車輪
8 減速機
9 高潮対策構造
9a 防水カバー
9b 支持部材
10 切替機構
11 換気口
x 横行方向
y 走行方向
z 上下方向
M モータ
M1 第一モータ
M2 第二モータ