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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】細胞性免疫を誘導する経鼻ワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20240301BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 39/04 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20240301BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240301BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A61K39/39 ZNA
A61K39/00 G
A61K39/04
A61K39/12
A61K9/06
A61K9/51
A61P37/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020534761
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2019030399
(87)【国際公開番号】W WO2020027309
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2018146519
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518277343
【氏名又は名称】株式会社HanaVax
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100178571
【弁理士】
【氏名又は名称】関本 澄人
(72)【発明者】
【氏名】幸 義和
(72)【発明者】
【氏名】中橋 理佳
(72)【発明者】
【氏名】清野 宏
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170494(WO,A1)
【文献】特開2010-105968(JP,A)
【文献】特表2016-520530(JP,A)
【文献】特表2010-531820(JP,A)
【文献】国際公開第1998/009650(WO,A1)
【文献】特表2016-503029(JP,A)
【文献】医学のあゆみ,2018年02月03日,Vol.264(5),pp.411-418
【文献】Mol. Immunol.,2018年06月,Vol.98,pp.19-24
【文献】MucosalImmunology,2017年,Vol.10(5),pp.1351-1360
【文献】Journal of Hypertension,2018年02月,Vol.36,pp.387-394
【文献】PLOS ONE,2014年,Vol.9, Issue 8, e104824,pp.1-8
【文献】Vaccine,2011年,Vol.29,pp.5210-5220
【文献】PLOS ONE,2014年,Vol.9, Issue 10, e110150,pp.1-7
【文献】VIRAL IMMUNOLOGY,2017年,Vol.30(6),pp.463-470
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の多糖に側鎖として疎水性のコレステロールが付加された高分子ゲルナノ粒子、ワクチン抗原および、cGAMPおよび/またはcyclic-di AMPを含むアジュバントの複合体を含、細胞性免疫を誘導するためのワクチン製剤。
【請求項2】
前記ワクチン抗原が結核菌由来の抗原であることを特徴とする請求項1に記載のワクチン製剤。
【請求項3】
前記結核菌由来の抗原が、少なくともAg85B遺伝子産物、Rv2608遺伝子産物、Rv3619遺伝子産物、Rv3620遺伝子産物、Rv1813遺伝子産物、MTB32A遺伝子産物、MTB39A遺伝子産物および/またはMVA85A遺伝子産物の全体もしくはその一部を含むことを特徴とする請求項2に記載のワクチン製剤。
【請求項4】
前記結核菌由来の抗原が、Rv3875遺伝子産物、Rv0266遺伝子産物およびRv0288遺伝子産物からなるキメラタンパク質であることを特徴とする請求項2に記載のワクチン製剤。
【請求項5】
前記ワクチン抗原がHPV(human papillomavirus)由来の抗原であることを特徴とする請求項1に記載のワクチン製剤。
【請求項6】
前記HPV由来の抗原が少なくともE6遺伝子産物および/またはE7遺伝子産物の全体もしくはその一部を含むことを特徴とする請求項5に記載のワクチン製剤。
【請求項7】
前記ワクチン抗原がRSV(respiratory syncytial virus)由来の抗原であることを特徴とする請求項1に記載のワクチン製剤。
【請求項8】
前記RSV由来の抗原が少なくともSHペプチドの全体もしくはその一部を含むことを特徴とする請求項7に記載のワクチン製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞性免疫を誘導する経鼻ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
獲得免疫は、液性免疫および細胞性免疫という異なる2つの機構によって担われている。
液性免疫は、主として血中に存在する抗体および補体等を中心とする免疫システムである。生体内に外来抗原が侵入すると、樹状細胞などの抗原提示細胞がこれを取り込んで断片化した後、MHCクラスII分子を介してその細胞表面上に提示する。その後、抗原提示細胞からの刺激を受けたTh2細胞が、T細胞抗原受容体(TCR)を介してB細胞上に提示された抗原断片を認識し、Th2サイトカインの放出等を行う。B細胞は、放出されたTh2サイトカインの作用を受けて抗体を産生する。
他方、細胞性免疫は、マクロファージ、細胞傷害性T細胞(cytotoxic T Lymphocytes:CTL)およびナチュラルキラー細胞などにより生体内の異物を排除する免疫システムである。MHCクラスII分子を介して抗原提示細胞上に提示された抗原断片によりTh1細胞が活性化されると、IFN-γを放出して、マクロファージを活性化する。また中和抗体ではなく、細胞表面に結合する抗体を誘導し抗体のFcレセプターを介して、マクロファージやNK細胞を活性化させ標的細胞を攻撃し破壊するADCC(Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity)の誘導も考えられる。加えて、活性化されたTh1細胞はIL-2を放出し、MHCクラスI分子と共に提示された抗原断片を認識したCTLを活性化する。活性化されたマクロファージおよびCTLは、ウイルス等に感染した細胞やがん細胞などを攻撃し排除する。細胞性免疫は、感染細胞やがん細胞などの排除も可能であることから、細胞内に寄生することが可能な結核菌の排除や、がん免疫療法への応用が期待されている。
【0003】
これまでに発明者らは、コレステロールが付加されたカチオン性プルランによって構成される自己凝集性ナノサイズヒドロゲル(cCHP;cationic type of cholesteryl group-bearing pullulan)を利用して、効果的なワクチンの送達システムを開発した(特許文献1、非特許文献1)。cCHPナノゲルは、そのナノマトリックス内部にタンパク質抗原を内包すると、人工的なシャペロンとして機能し、抗原の凝集および変性を防ぎ、抗原放出後のリフォールディングを助ける。このナノゲルは、効率的に負電荷の粘膜表面に付着する性質を持ち、持続的に抗原を放出して抗原提示細胞まで抗原を送達することで免疫応答を誘導する(非特許文献2、非特許文献3および特許文献2)。また、マウスにおいて、 [111In]-標識 BoHc/A(ボツリヌスA型毒素の重鎖C末端領域無毒領域) や肺炎球菌表面抗原PspAを担持するcCHPナノゲルを経鼻的に投与しても、嗅球や脳などの中枢神経系に蓄積することはなく(非特許文献2)、その安全性も確認されている(非特許文献4)。
【0004】
経鼻投与に適したナノゲルワクチン(ナノゲル経鼻ワクチン)は、安全性および液性免疫の誘導の両面において非常に良好である。
しかしながら、これまでのところ細胞性免疫を誘導することは確認されてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO00/12564号
【文献】特許第5344558号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ayameら, Bioconjug Chem 19:882-890 2008
【文献】Nochiら, Nat Mater 9:572-578 2010
【文献】Yukiら, Biotechnol Genet Eng Rev 29:61-72 2013
【文献】Kongら, Infect Immun 81:1625-1634 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、細胞性免疫を誘導するナノゲル経鼻ワクチンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、ワクチン抗原の他、アジュバントとしてSTINGリガンドをナノゲルに封入したワクチンを作成し、マウスに経鼻投与したところ、抗原特異的なTh1細胞を誘導することに成功した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(11)である。
(1)ナノゲル、ワクチン抗原およびアジュバントの複合体を含むワクチン製剤。
(2)前記アジュバントが1または複数のSTINGリガンドを含むことを特徴とする上記(1)に記載のワクチン製剤。
(3)前記STINGリガンドの少なくとも1つが、環状ジヌクレオチドであることを特徴とする上記(2)に記載のワクチン製剤。
(4)前記環状ジヌクレオチドが、cGAMP、cyclic-di AMP、cyclic-di GMP、cyclic-di CMP、cyclic-di UMPまたはcyclic-di IMPのいずれかであることを特徴とする上記(3)に記載のワクチン製剤。
(5)前記ワクチン抗原が結核菌由来の抗原であることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のワクチン製剤。
(6)前記結核菌由来の抗原が、少なくともAg85B遺伝子産物、Rv2608遺伝子産物、Rv3619遺伝子産物、Rv3620遺伝子産物、Rv1813遺伝子産物、MTB32A遺伝子産物、MTB39A遺伝子産物および/またはMVA85A遺伝子産物の全体もしくはその一部を含むことを特徴とする上記(5)に記載のワクチン製剤。
(7)前記結核菌由来の抗原が、Rv3875遺伝子産物、Rv0266遺伝子産物およびRv0288遺伝子産物からなるキメラタンパク質であることを特徴とする上記(5)に記載のワクチン製剤。
(8)前記ワクチン抗原がHPV(human papillomavirus)由来の抗原であることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のワクチン製剤。
(9)前記HPV由来の抗原が少なくともE6遺伝子産物および/またはE7遺伝子産物の全体もしくはその一部を含むことを特徴とする上記(8)に記載のワクチン製剤。
(10)前記ワクチン抗原がRSV(respiratory syncytial virus)由来の抗原であることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のワクチン製剤。
(11)前記RSV由来の抗原が少なくともSHペプチドの全体もしくはその一部を含むことを特徴とする上記(10)に記載のワクチン製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかるナノゲルワクチンの投与により、細胞性免疫を誘導することができる。
【0011】
本発明にかかるナノゲルワクチンの投与により、全身性免疫応答および粘膜免疫応答の両方を効率よく誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ナノゲル結核菌経鼻ワクチンとSTINGリガンドにより誘導されるTh1細胞応答の検出結果。cGMP、cGAMPおよびcAMPは、各々、cyclic-di-GMP、cyclic-GMP-AMPおよびcyclic-di-AMPを表す。-:ワクチン無し cCHP:cationic cholesteryl-group bearing pullulan
図2】ナノゲル結核菌経鼻ワクチンにより誘導されるTh1細胞応答の検出結果。
図3】ナノゲル結核菌経鼻ワクチンにより誘導されるTh17細胞応答の検出結果。
図4】ナノゲル結核菌経鼻ワクチンによる防御免疫効果の検討。(A)は生存率を示し、(B)は肺および脾臓から検出された結核菌数を示す。「コントロール」は未免疫マウス群、「BCG」はBCGワクチン接種群、「ナノゲル」はcCHP-Ag85B+cyclic-di-GMP接種群である。
図5】ナノゲル結核菌経鼻ワクチン(キメラ抗原)により誘導されるTh1細胞応答の検出結果。
図6】ナノゲルHPV経鼻ワクチンにより誘導されるCTL細胞応答の検出結果。
図7】ナノゲルHPV経鼻ワクチンにより誘導されるTh1細胞応答の検出結果。
図8】3種のSTINGリガンドをアジュバントとして用いたナノゲルHPV経鼻ワクチンにより誘導されるCTL細胞応答(左)およびTh1細胞応答(右)の比較。
図9】ナノゲルRSV経鼻ワクチンにより誘導される免疫応答の検出結果。
図10】ナノゲルRSV経鼻ワクチンにより誘導されるIgGサブクラスの検出結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態は、ナノゲル、ワクチン抗原およびアジュバントの複合体を含むワクチン製剤(以下「本発明のワクチン製剤」とも記載する)である。
本発明において、ナノゲルとは、親水性の多糖(例えば、プルラン)に、側鎖として疎水性のコレステロールが付加された、高分子ゲルナノ粒子のことである。ナノゲルは公知の方法、例えば、国際公開第WO00/12564号公報に記載された方法などに基づいて製造することができる。
具体的には、まず、炭素数12~50の水酸基含有炭化水素またはステロールと、OCN-R1 NCO(式中、R1は炭素数1~50の炭化水素基である)で表されるジイソシアナート化合物を反応させて、炭素数12~50の水酸基含有炭化水素またはステロールが1分子反応したイソシアナート基含有疎水性化合物を製造する。得られたイソシアナート基含有疎水性化合物と多糖類とを反応させ、炭素数12~50の炭化水素基またはステリル基を含有する疎水性基含有多糖類を製造する。次に、得られた生成物をケトン系の溶媒で精製することにより、純度の高い疎水性基含有多糖類を製造することができる。
ここで、多糖類としては、プルラン、アミロペクチン、アミロース、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、レバン、イヌリン、キチン、キトサン、キシログルカンまたは水溶性セルロース等が利用可能であり、特に、プルランが好ましい。
【0014】
本発明の第1の実施形態で使用されるナノゲルとしては、カチオン性コレステロール置換プルラン(cationic cholesteryl-group-bearing pullulan:cCHPと称する)およびその誘導体を挙げることができる。cCHPは、分子量3万から20万、例えば分子量100,000のプルランに100単糖あたりコレステロールが1~10個、好ましくは1~数個置換された構造を有する。なお、本発明で使用されるcCHPは、抗原のサイズや疎水性の度合いにより、コレステロール置換量を適宜変更してもよい。また、CHPの疎水性の度合いを変更するために、アルキル基(炭素数10~30、好ましくは、炭素数12~20程度)を付加させてもよい。本発明で使用されるナノゲルは、粒径10~40nm、好ましくは20~30nmである。ナノゲルは既に広く市販されており、これら市販品を使用してもよい。
【0015】
本発明の実施形態で使用されるナノゲルは、ワクチンが負に帯電する鼻粘膜表面へ侵入できるように、正電荷を有する官能基、例えばアミノ基を導入したナノゲルである。アミノ基のナノゲルへの導入の方法としては、アミノ基を付加したコレステロールプルラン(CHPNH2)を用いる方法を挙げることができる。具体的には、減圧乾燥したCHPをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、これに1-1’カルボニルジイミダゾールを窒素気流下に加え数時間、室温で反応させる。その反応溶液にエチレンジアミンを徐々に添加し、数時間から数十時間程度攪拌する。得られた反応溶液を蒸留水に対して、数日間透析する。透析後の反応溶液を凍結乾燥し、乳白色の固体を得る。エチレンジアミンの置換度は元素分析やH-NMRなどを用いて評価することができる。
【0016】
ワクチン抗原は、特に限定されず、ワクチン製剤の用途に応じて任意に選択することができる。とりわけ、本発明にかかるワクチン製剤は、細胞性免疫を効率よく誘導することができるため、疾患等の予防または治療上、細胞性免疫系の賦活化のための使用に大変適している。そのような疾患として、あえて例示すれば、成人に対する有効なワクチンが存在しない結核、ワクチン自体が存在しない無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)、RSV(respiratory syncytial virus)感染症もしくはHSV(herpes simplex virus)感染症またはその治療上細胞性免疫の誘導が重要と考えられるHPV(human papilloma virus)感染症およびその感染で発症する子宮頸がんなどが挙げられる。
【0017】
結核のワクチン抗原としては、特に限定はしないが、例えば、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)由来のAg85B(Rv1886)遺伝子産物、ESAT6(Rv3875)遺伝子産物、Rv2660遺伝子産物、Rv2608遺伝子産物、Rv3619遺伝子産物、Rv3620遺伝子産物、Rv1813遺伝子産物、MTB32A(Rv0125)遺伝子産物、MTB39A(Rv1196)遺伝子産物、MVA85A遺伝子産物またはRv0288遺伝子産物の全体もしくはその一部、あるいは、これらのタンパク質から選択される複数の融合タンパク質(例えば、ESAT6-Rv2660-Rv0288遺伝子産物のキメラタンパク質)であってもよい。
無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)のワクチン抗原としては、D15、P1、P2、P4、P5、P6、Hmw/hia、Hap、Protein E、ProteinF、ProteinD、Pil A、NucA、HtrA、OMP26、PCP、TbpBまたはLOSの全体もしくはその一部、あるいは、これらのタンパク質から選択される複数の融合タンパク質であってもよい。
RSVのワクチン抗原としては、特に限定はしないが、例えば、RSV由来のF蛋白(fusion protein)またはSH蛋白全体もしくはその一部、あるいは、これらのタンパク質から選択される複数の融合タンパク質であってもよい。
HSVのワクチン抗原としては、特に限定はしないが、例えば、HSV由来のgD遺伝子産物、gB遺伝子産物、gC遺伝子産物、gE遺伝子産物、カプシド蛋白UL19、Tegment蛋白UL47またはgG遺伝子産物の全体もしくはその一部、あるいは、これらのタンパク質から選択される複数の融合タンパク質であってもよい。
HPVのワクチン抗原としては、特に限定はしないが、例えば、HPV由来のE6遺伝子産物、特にがん抑制遺伝子産物P53のE6結合箇所の変異もしくは欠損産物、HPV由来のE7遺伝子産物、特にがん抑制遺伝子産物RbのE7結合箇所の変異もしくは欠損産物などであって、より具体的にはHPV6 E7 (23-27欠損)、HPV11 E7 (23-27欠損)、HPV16 E7(D21G, C24G, E26G変異)もしくはHPV16 E7(21-24欠損)、HPV18 E7(24-27欠損)、HPV31 E7(22-26欠損)、HPV33 E7(22-26欠損)、HPV45 E7(26-30欠損)、HPV52 E7(22-26欠損)またはHPV52 E7(22-26欠損)もしくはHPV58 E7(22-26欠損)の全体もしくはその一部、あるいは、これらのタンパク質から選択される複数の融合タンパク質であってもよい。
【0018】
本発明の実施形態で使用されるアジュバントとは、抗原性補強剤または免疫賦活化剤などと称されるものと同義で、当該分野において、これらの剤の通常の使用目的に用いられるものである。本発明の実施形態で使用されるアジュバントの有効成分は、特に限定はしないが、例えば、STING(stimulator of interferon genes)を活性化するSTINGリガンド(例えばcGAMP、cyclic-di AMP、cyclic-di GMP、cyclic-di CMP、cyclic-di UMPまたはcyclic-di IMPなどの環状ジヌクレオチドやDMXAA(5,6-dimethylXAA (xanthenone-4- acetic acid)、VadimezanまたはASA404)などのキサンテノン(Xanthenone)誘導体)、polyICまたはCpG ODNなどを挙げることができる。当該アジュバントは、さらに、医薬上許容される担体やその他の成分(例えば、安定化剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤および緩衝剤など)を含んでいてもよい。医薬上許容される担体およびその他の成分は、ワクチン投与される動物の健康に悪影響を及ぼさない物質であることが必要である。
【0019】
ナノゲル、ワクチン抗原およびアジュバント(または、アジュバントの有効成分、以下同じ)の複合体は、ナノゲル、ワクチン抗原およびアジュバントを共存させ、相互作用させ、抗原とアジュバントをナノゲル内に取り込ませることにより作製することができる。このとき、ナノゲルとワクチン抗原、ナノゲルとアジュバントの混合比は、特に限定されず、当業者であれば予備的な実験により容易に決定することができる。あえて目安を挙げるとすれば、ワクチン抗原:ナノゲルが、モル比で、例えば、0.1:10、1:5、1:2または1:1程度である。また、アジュバントの含量は、ワクチン100重量%に対して、0.01重量%~99.99重量%程度含まれていてもよく、抗原1重量に対し、例えば、0.01重量~10重量程度であってもよい。
【0020】
ナノゲル、ワクチン抗原およびアジュバントの複合体の形成は、ナノゲル、ワクチン抗原およびアジュバントを混合し、4~50℃、例えば、40℃で、30分~48時間、例えば、1時間程度静置して実施することができる。ナノゲル、ワクチン抗原およびアジュバントの複合体形成に使用するバッファーは、特に限定されず、あえて例示するならば、Tris-HCl緩衝液などが挙げられる。
【0021】
本発明のワクチン製剤は、組成物(本発明のワクチン組成物)として、薬理学上許容された添加剤を含んでいてもよい。本発明のワクチン製剤は経鼻投与に適したものであり、剤形としても、経鼻投与が可能な形体が望ましく、液体製剤(点鼻剤および注射剤など)などが挙げられる。
本発明のワクチン製剤が液体製剤の場合、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウムおよびブドウ糖などの等張化剤と共に製剤用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、さらに、マンニトール、デキストリン、シクロデキストリンおよびゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の製剤としてもよい。当該液体製剤には、薬学的に許容できる公知の安定剤、防腐剤、酸化防止剤等が含まれていても良く、安定剤としては、例えば、ゼラチン、デキストランおよびソルビトール等が、防腐剤としては、例えば、チメロサールおよびβプロピオラクトン等が、酸化防止剤としては、例えば、αトコフェロール等が挙げられる。
【0022】
本発明の第2の実施形態は、ナノゲル、ワクチン抗原およびアジュバントの複合体を含むワクチン製剤(第1の実施形態)を患者に経鼻投与することを含む、疾患の予防および/または治療方法である。
第2の実施形態の治療または予防の対象疾患は、使用するワクチン抗原に依存し、特に限定はされず、病原体による感染症(例えば、結核、HSVおよびRSVなど)の他、がん(例えば、子宮頸がん)などであってもよく、細胞性免疫によって、治癒等が期待される疾患の全てを含む。
本発明のワクチン製剤は、鼻粘膜を介して投与してもよい。その方法としては、例えば、鼻粘膜への噴霧、塗布、滴下等により鼻腔内へ投与する方法が挙げられる。
【0023】
粘膜ワクチン製剤の投与量は、投与対象の年齢や体重等により適宜決定することができるが、薬学的に有効な量のワクチン抗原を含む。薬学的に有効な量とは、そのワクチン抗原に対する免疫反応を誘導するのに必要な抗原量をいう。例えば、1回のワクチン抗原投与量数μg~数10mgで1日1回~数回投与し、1~数週間間隔でトータル数回、例えば1~5回程度投与すればよい。
【0024】
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0025】
方法
1.結核菌ワクチン
1-1.抗原タンパク質の調製
結核菌(ATCC25618)由来のAg85B遺伝子(987bp)(配列番号1)を人工合成し、His-Tag配列の遺伝子を持つpET-20b(+) ベクター (Novagen)のEcoRI-HinIII (タカラバイオ社)サイトに挿入した。作製した発現ベクターを定法にてRosetta2 (DE3 )pLysS-大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体を100 μg/mL ampicillin および 34 μg/mL chloramphenicolを含む培地中、37℃で、OD600nmが0.5-0.8になるまで培養した。その後1.0 mM isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside(和光純薬)を加えて4時間培養した。培養した大腸菌を遠心分離(5,000rpm、15分)で回収した。回収した大腸菌を10 mM imidazole とprotease inhibitor(Roche Diagnostics)を含む溶液で洗浄し、タンパク質を20mM Tris-HCl、500mM NaCl、10mM imidazoleおよび6 M ureaを含む吸着緩衝液で抽出した。抽出したタンパク質分画をnickel affinity カラム(GE Healthcare Bio-Sciences 社)にチャージして吸着緩衝液でOD280nmが0.01以下になるまで洗浄し、20mM Tris-HCl、500mM NaCl、500 mM imidazoleおよび6 M ureaを含む溶液で、タンパク質を溶出した。次いで、溶出液をアミコンで濃縮し、6M-Urea PBSで平衡化したSephacryl S-100 カラム(GE Healthcare Bio-Sciences社)でゲルろ過し、Ag85B分画を回収し、4M-Urea PBS、2M-Urea PBS、1M-Urea PBS、PBSと段階的に透析して、native Ag85Bを調製した。12 Lの大腸菌培養で50 mgのAg85B(配列番号2)が回収し、純度はSDS-PAGEにて95%であった。
【0026】
1-2.抗原のナノゲル化(ワクチンの調製)
cCHPナノゲルは、既報(非特許文献2)の方法に従って調製した。
調製したcCHPナノゲルと精製したAg85Bタンパク質、を分子比1:1で混合し、さらに、アジュバントとして3種類のSTINGリガンド(cyclic-di-GMP、cyclic-di-AMPおよびcGAMP)を各々加えた後、40℃のヒートブロックで1時間インキュベーションした。
また、cCHPナノゲルとキメラ精製タンパク質(ESAT6- Rv2660c-Rv0288)(アミノ酸配列:配列番号8、核酸配列:配列番号9)を分子比1:1で混合し、さらに、粘膜アジュバントとしてSTINGリガンド(cyclic-di-AMP)を加えたのち、40℃のヒートブロックで1時間インキュベーションした。
【0027】
1-3.マウスへの経鼻免疫
cCHP-Ag85B+STINGリガンド混合溶液を、Balb/cマウスの7週齢メスに経鼻的に投与した。投与抗原量は、1匹一回あたりAg85Bタンパク量に換算して10 μgを投与した。また、STINGリガンドは、1匹一回あたり1 μg~10 μgの範囲で調製し投与した。経鼻免疫は1週間隔で計3回実施した。
また、cCHP-キメラ+STINGリガンド溶液を、Balb/cマウスの7週齢メスに経鼻的に投与した。投与抗原量は、1匹一回あたりキメラタンパク量として10 μgを、STINGリガンドとして10 μgを投与した。経鼻免疫は1週間隔で計3回実施した。
【0028】
1-4.抗原特異的T細胞の精製およびカウント
(1)Ag85B抗原
ワクチンの最終投与から2週目に抗原特異的なTh1細胞(IFNγ産生細胞)またはTh17細胞(IL-17産生細胞)をELISPOT法でカウントした。全身性の免疫応答は脾臓で、粘膜面における免疫応答は肺組織に生成された抗原特異的T細胞で評価した。
マウスを安楽死させたのち、肺および脾臓を摘出し細胞懸濁液を調製した。調製した細胞懸濁液から、MACS sytem(MiltenyiBiotec)を用いて、CD4陽性T細胞を精製した。一方、未免疫のマウス脾臓から、CD90.2陰性細胞を同様に精製し抗原提示細胞とした。CD4陽性T細胞およびガンマ線照射した抗原提示細胞を、精製Ag85B抗原刺激下で48~72時間共培養した。ここで、培養ウェルの底には、抗IFNγまたは抗IL-17抗体をキャプチャー抗体として予め吸着させた。
培養上清および細胞を除去し、ウェルを洗浄後、ビオチン標識の抗IFNγ抗体または抗IL-17抗体を加えて、室温にて2時間反応させた。その後、ウェルを洗浄し、ストレプトアビジンHRPを反応させ、洗浄後にHRPの基質である3-Amino-9-ethylcarbazole(AEC)を添加し発色させ、抗原特異的Th1細胞またはTh17細胞をスポットとして検出した。スポット数はエリスポットカウンターにより計測した。
【0029】
(2)ESAT6-Rv2660c-Rv0288キメラ抗原
最終投与から2週で抗原特異的なTh1細胞(IFNγ産生細胞)をELISPOT法でカウントした。全身性の免疫応答は脾臓で、粘膜面における免疫応答は肺組織に生成された抗原特異的T細胞で評価した。
マウスを安楽死させたのち、肺および脾臓を摘出し細胞懸濁液を調整した。そこからマグネティックビーズを用いて、CD4陽性のT細胞を精製した。一方、未免疫のマウス脾臓から、CD90.2陰性細胞を同様に精製し抗原提示細胞とした。CD4陽性T細胞およびガンマ線照射した抗原提示細胞を、精製キメラ抗原またはリコンビナントESAT6(アブカム社)刺激下で48~72時間共培養した。培養ウェルの底に、抗IFNγをキャプチャーとして敷き産生細胞を検出した。
培養上清を除き、ウェルを洗浄後、ビオチン標識の抗IFNγ抗体を反応させた。さらに洗浄後、ストレプトアビジンHRPを反応させ、洗浄後にHRPの基質である3-Amino-9-ethylcarbazole(AEC)を反応して発色させ、抗原特異的Th1をスポットとして検出した。スポットはエリスポットカウンターにより計測した。
【0030】
1-5.防御免疫効果の検討
(1)マウスへのワクチン投与
マウスは、Balb/cの7週齢メスを用いた。ポジティブコントロールのBCGワクチンは、PBS溶液に懸濁してマウスに初回免疫時に1回皮下投与した。cCHP-Ag85B+cyclic-di-GMPの混合溶液は、1匹一回あたりAg85Bタンパク量として10 μgを1週間隔で計3回経鼻投与した。未免疫コントロールマウスには、PBSを1週おきに3回経鼻的におよび初回免疫時に1回皮下投与した。
(2)結核菌強毒株の経気道感染
ワクチンの最終免疫から8週後に、結核菌強毒株Erdmanを1匹あたり100 CFU経気道感染させた。
(3)脾臓および肺組織中の結核菌数の計測
感染後12週においてマウスを安楽死させ、肺および脾臓を摘出し、PBS中で組織を破砕して懸濁し、6つの希釈系列を調製してそれぞれ寒天培地に播種した。嫌気的な環境下で4週間培養し、コロニーを計測してそれぞれの組織中の結核菌数を算出した。
【0031】
2.HPVワクチンの調製
2-1.抗原タンパク質の調製
HPV16ウイルスのガン抑制遺伝子産物の3アミノ酸D21G、C24GおよびE26G変異E7(Van der Burg SH et.al. Vaccine 19:3652-3660, 2001)遺伝子(307bp)(配列番号3)を人工合成し、His-Tag配列の遺伝子を持つpET-20b(+) ベクター (Novagen)のEcoRI-HinIII (タカラバイオ社)サイトに挿入した。作製した発現ベクターを定法にてRosetta2 (DE3 )pLysS-大腸菌に形質転換した。得られた形質転換体を100 μg/mL ampicillin および 34 μg/mL chloramphenicolを含む培地中、37℃で、OD600nmが0.5-0.8になるまで培養した。その後1.0 mM isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside(和光純薬)を加えて4時間培養した。培養した大腸菌を遠心分離(5,000rpm、15分)で回収した。回収した大腸菌を10 mM imidazole とprotease inhibitor(Roche Diagnostics)を含む溶液で洗浄し、タンパク質を20mM Tris-HCl、500mM NaCl、10mM imidazoleおよび6 M ureaを含む吸着緩衝液で抽出した。抽出したタンパク質分画をnickel affinity カラム(GE Healthcare Bio-Sciences 社)にチャージして吸着緩衝液でOD280nmが0.01以下になるまで洗浄し、20mM Tris-HCl、500mM NaCl、500 mM imidazoleおよび6 M ureaを含む溶液で、タンパク質を溶出した。次いで、溶出液を6M Urea-PBS(0.15M NaCl)で透析し、同緩衝液で平衡化したDEAE-sepharoseカラム(GE Healthcare Bio-Sciences K.K)に吸着させ、0.5M NaCl-PBS-6 M Ureaを含む液で溶出した。この溶出液をアミコンで濃縮し、6M-Urea PBSで平衡化したSephacryl S-100 カラム(GE Healthcare Bio-Sciences社)でゲルろ過し、変異型E7分画を回収し、4M-Urea PBS、2M-Urea PBS、1M-Urea PBS、PBSと段階的に透析して、native 変異型E7(配列番号4)を調製した。12Lの大腸菌培養で60mgの変異型E7が回収し、純度はSDS-PAGEにて95%であった。
【0032】
2-2.抗原のナノゲル化(ワクチンの調製)
cCHPナノゲルは、既報(非特許文献2)の方法に従って調製した。
調製したcCHPナノゲルと精製した変異型E7タンパク質を分子比1:1で混合し、さらに、アジュバントとしてcyclic-di-AMPのみ、STINGリガンド3種(cyclic-di-GMP, cyclic-di-AMP, cGAMP)、または、poly I:C、CpG ODN K3型またはD35型をそれぞれ加えたのち、40℃のヒートブロックで1時間インキュベーションした。
【0033】
2-3.マウスへの経鼻免疫
cCHP-変異E7+各粘膜アジュバントの混合溶液を、Balb/cマウスの7週齢メスに経鼻的に投与した。投与抗原量は、1匹一回あたり変異型E7タンパク量に換算して10 μgを投与した。また、各粘膜アジュバントは、1匹一回あたり5 μgまたは10μg投与した。経鼻免疫は1週間隔で計3回実施した。
【0034】
2-4.抗原特異的T細胞の精製およびカウント
(1)cyclic-di-AMPをアジュバントとした場合
ワクチンの最終投与から1週目に抗原特異的なCTL細胞(グランザイムB産生細胞)またはTh1細胞(IFNγ産生細胞)をELISPOT法でカウントした。全身性の免疫応答は脾臓で、生殖器粘膜における免疫応答は子宮頸部に誘導された抗原特異的T細胞で評価した。
マウスを安楽死させたのち、脾臓および子宮頸部を摘出し細胞懸濁液を調製した。調製した細胞懸濁液から、MACS sytem(MiltenyiBiotec)を用いて、T細胞(CD90.2陽性)を精製した。一方、未免疫のマウス脾臓から、CD90.2陰性細胞を同様に精製し抗原提示細胞とした。精製したT細胞およびガンマ線照射した抗原提示細胞を、精製変異E7抗原刺激下で48~72時間共培養した。ここで、培養ウェルの底には、抗グランザイムB抗体または抗IFNγ抗体をキャプチャー抗体として予め吸着させた。
培養上清および細胞を除去し、ウェルを洗浄後、ビオチン標識の抗グランザイムB抗体または抗IFNγ抗体を加えて、室温にて2時間反応させた。その後、ウェルを洗浄し、ストレプトアビジンHRPを反応させ、洗浄後にHRPの基質である3-Amino-9-ethylcarbazole(AEC)を添加し発色させ、抗原特異的CTL細胞またはTh1細胞をスポットとして検出した。スポット数はエリスポットカウンターにより計測した。
【0035】
(2)STINGリガンド3種(cyclic-di-GMP, cyclic-di-AMP, cGAMP)をアジュバントとした場合
最終投与から1週で、子宮頸部における抗原特異的なTh1細胞(IFNγ産生細胞)およびCTL(グランザイムB産生細胞)をELISPOT法でカウントした。マウスを安楽死させたのち、子宮頸部を摘出し細胞懸濁液を調整した。そこからマグネティックビーズを用いて、T細胞(CD90.2陽性)を精製した。一方、未免疫のマウス脾臓から、CD90.2陰性細胞を同様に精製し抗原提示細胞とした。精製T細胞およびガンマ線照射した抗原提示細胞を、精製変異E7抗原刺激下で48~72時間共培養した。培養ウェルの底に、抗IFNγ抗体または抗グランザイムB抗体をキャプチャーとして敷き産生細胞を検出した。
培養上清を除き、ウェルを洗浄後、ビオチン標識の抗IFNγ抗体または抗グランザイムB抗体を反応させた。さらに洗浄後、ストレプトアビジンHRPを反応させ、洗浄後にHRPの基質であるAECを反応して発色させ、抗原特異的Th1またはCTLをスポットとして検出した。スポットはエリスポットカウンターにより計測した。
【0036】
3.RSVワクチンの調製
3-1.抗原タンパク質の調製
RSVウイルスのSHペプチド(配列番号5)にPspAをリンカー(GGGGS)(配列番号7)を介し3つ繰り返したDNA配列を人工合成し(1172bp)、制限酵素EcoRV とNotI (タカラバイオ社)を用いてHis-Tag配列の遺伝子を持つpET-20b(+) ベクター (Novagen)にインサートした。このプラスミドを定法にてRosetta2 (DE3 )pLysS-大腸菌に形質転換した。この大腸菌を100 μg/mL ampicillin および 34 μg /mL chloramphenicolを含む培地で、37℃でOD600nmが0.5-0.8になるまで培養した。その後、1.0 mM isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside (和光純薬)を加えて4時間培養後、大腸菌を遠心分離(5000rpm, 15分)で回収した。菌を20 mM imidazole とprotease inhibitor (Roche Diagnostics)を含む液で洗い、タンパク質を20 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 10 mM imidazoleを含む吸着緩衝液で抽出した。抽出液に80%飽和になるよう飽和硫酸アンモニウム溶液を加え、硫安沈殿をおこなった。沈殿物を遠心回収し、抽出時と同様の緩衝液を外液とし透析した。透析後の液をnickel affinity カラム (GE Healthcare Bio-Sciences 社)にチャージして吸着緩衝液でOD280nmが0.01以下になるまで洗い、20 mM Tris-HCl, 500 mM NaCl, 500 mM imidazoleを含む液で溶出させた。この溶出液をアミコンで濃縮し、PBSで平衡化したSephadex G-100カラム(GE Healthcare Bio-Sciences社)でゲルろ過し、PspA-SH3分画を回収し、濃縮、精製した。20Lの大腸菌培養で70mgのPspA-SH3を回収し、純度はSDS-PAGEにて95%であった。
【0037】
3-2.抗原のナノゲル化(ワクチンの調製)
cCHPナノゲルとPspA-SH3精製タンパク質(配列番号6)を分子比1:1で混合し、さらに、粘膜アジュバントとしてcyclic-di-AMPを加えたのち、40℃のヒートブロックで1時間インキュベーションした。
【0038】
3-3.マウスへの経鼻免疫
cCHP-PspA-SH3+cyclic-di-AMPの混合溶液を、Balb/cマウスの7週齢メスに経鼻的に投与した。投与抗原量は、1匹一回あたりPspA-SH3タンパク量として10 μgを投与した。また、cyclic-di-AMPは、10ug投与した。経鼻免疫は1週間隔で3回ののち、4週あけて1回、さらに4週あけて1回の計5回おこなった。
【0039】
3-4.抗体価測定
毎週、顎下静脈より100 μl程度採血し、15000 rpm, 4℃で遠心分離し、血清を回収した。
PspAあるいはSH特異的血清中IgG抗体価の測定、IgGサブクラスの測定はELISA法で実施した。ELISA実施前日に、PspAもしくはBSA conjugate SHをPBSで1μg/mlとなるように希釈し、96wellプレート(Thermo scientific, 3355)に100 μlずつキャプチャーとして分注し、4℃で一晩インキュベートした。プレートウォッシャーを用いて300 μlの0.05 % Tween(nacalai tesque, 28353-85)含有PBS(PBS-T)で4回プレートを洗浄し、1 % BSA(nacalai tesque, 01863-48)含有PBS-Tを200 μL/well加え、室温で1時間インキュベートし、ウェルをブロッキングした。つぎに、プレートウォッシャーを用いて300 μlのPBS-Tで3回洗浄した。各サンプルを1 % BSA含有PBS-Tで28倍希釈したものをプレートの端のウェルに入れ、もう一端まで2倍段階希釈をおこない段階希釈系列を作製し、室温で2時間インキュベートを行った。ブランクは1 % BSA含有PBS-Tとした。インキュベート終了後、プレートウォッシャーを用いて300 μLのPBS-Tで4回プレートを洗浄した。続けて、Goat anti-Human IgG, IgG1, IgG2a, IgG2b, IgG2c, IgG3(Southern Biotech)の6種いずれかを1 % BSA含有PBS-Tで4000倍希釈したものを100 μl/well加え、室温で1.5時間インキュベートした。その後、プレートウォッシャーを用いて300 μlのPBS-Tで4回プレートを洗浄した。TMB SubstrateとTMB Solution(seracare, 5120-0050)を等量混合したものを100 μl/well加え、30分発色反応させた後、2N H2SO4(nacalai tesque, 32520-55)を50 μl加え反応を停止させた。プレートリーダーでOD450の値を測定しlog2titerの値を算出した。カットオフ値はブランクウェルの平均値+0.1とした。
【0040】
結果
1.結核菌ワクチン
(1)Ag85B抗原
アジュバント活性を発揮することが知られているCpGK3 10μgと、STINGリガンドの1種であるcGAMP 1μgの混合物を添加した場合と比較して、cyclic-di-GMP 10 μgで同程度の抗原特異的なTh1細胞性免疫の誘導が観察された(図1)。STINGリガンド単体(cAMP、GMP、およびcGAMP)での比較においては、cyclic-di-AMP(cAMP)が比較的有効と思われた。
【0041】
次に、STINGリガンドをアジュバントとして使用した場合のTh1細胞およびTh17細胞の誘導効果について検討した。STINGリガンドとしてCyclic-di-GMPを用いた。Cyclic-di-GMPを含まないワクチン抗原を投与したマウスでは、抗原特異的Th1細胞およびTh17細胞はほとんど誘導されなかった(図2および図3「cCHP-Ag85B」)。また、抗原提示細胞を抗原で刺激しなかった場合にもT細胞はほとんど誘導されなかった。一方、肺および脾臓においては、cCHP-Ag85B+cyclic-di-GMPの経鼻投与により顕著に抗原特異的なTh1およびTh17が誘導され、全身性免疫応答および粘膜免疫応答の両者が効率よく誘導されてくることがわかった(図2および図3)。
【0042】
STINGリガンドをアジュバントとして使用した本発明のナノゲル経鼻ワクチンをマウスに投与した場合の生存率と結核菌の増殖に及ぼす影響について、BCGワクチンをポジティブコントロールとして調べた。感染後から12週までの間で死亡例が数例観察されたことから生存率を算出したところ、未免疫マウス(ネガティブコントロール)56%、BCGワクチン群(ポジティブコントロール)67%に比して、ナノゲル群(cCHP-Ag85B+cyclic-di-GMP投与)が89%と感染に抵抗性を示した(図4A)。また、脾臓における結核菌数は、未免疫マウスと比較して、BCGおよびナノゲルワクチン群で同等に有意に菌の増殖が抑制されており、肺でも同様の傾向が観察された(図4B)。
【0043】
(2)ESAT6- Rv2660c-Rv0288キメラ抗原
cCHP-キメラ+cyclic-di-AMPの経鼻的な投与により、脾臓および子宮頸部において抗原特異的Th1細胞が誘導されてくることがわかった(図5)。また、cCHP-キメラのみの投与では抗原特異的Th1はいずれの臓器でも誘導されてこなかったことから、このTh1にはcyclic-di-AMPが必須と考えられた。
【0044】
2.HPVワクチン
(1)cyclic-di-AMPをアジュバントとした場合
HPVの変異型E7タンパク質を抗原として、本発明のナノゲル経鼻ワクチンを作製し、このワクチンのT細胞等の誘導効果について検討した。
cCHP-変異型E7+cyclic-di-AMPの経鼻的な投与により、脾臓および子宮頸部において抗原特異的CTLが誘導されてくることがわかった(図6)。また、cCHP-変異型E7+cyclic-di-AMPの経鼻的な投与により、脾臓および子宮頸部において抗原特異的Th1細胞が誘導されてくることがわかった(図7)。
【0045】
(2)STINGリガンド3種(cyclic-di-GMP, cyclic-di-AMP, cGAMP)をアジュバントとした場合
cCHP-変異型E7タンパク質抗原と組み合わせた粘膜アジュバントにおいて、なかでも3種のSTINGリガンドと組み合わせた経鼻免疫において、それぞれ子宮頸部で抗原特異的Th1(図8右)およびCTL(図8左)が誘導されてくることがわかった。Th1誘導においてはSTINGリガンド間で大きな差は認められず、CTLではcyclic-di-AMPによる誘導が強く観察された。
【0046】
3.RSVワクチン
SHペプチドに対する抗体およびキャリアタンパク質であるPspAに対する抗体いずれも経鼻免疫の回数に伴い、経時的に上昇することがわかった(図9)。また、SHペプチド特異的な免疫応答では、cyclic-di-AMPを加えた群においてよりIgG誘導が顕著ではあるが(図9左)、cyclic-di-AMPなしのcCHP-PspA-SH3投与のみの群においても、免疫の回数依存的に特異的抗体の誘導が観察された。
IgGサブクラスでは、抗SHペプチドおよび抗PspA抗体のいずれにおいても、cyclic-di-AMPアジュバントなしでIgG1が優位に、アジュバントありでIgG1およびIgG2bが誘導されてきた(図10)。
【0047】
以上のように、ナノゲルワクチンにアジュバント(本実施例ではSTINGリガンド)を封入して投与すると、Th1細胞やCLTなど細胞性免疫に特徴的なT細胞が誘導された。さらに、全身性免疫のみならず上気道下気道粘膜組織に加え、生殖器粘膜組織における粘膜免疫を誘導することも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のナノゲル経鼻ワクチンは、細胞性免疫を誘導することができるため免疫細胞療法などの医学分野における利用が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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