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特許7445908クルクミノイド含有口腔用組成物及び抗菌方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】クルクミノイド含有口腔用組成物及び抗菌方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/35 20060101AFI20240301BHJP
   A61K 8/86 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20240301BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240301BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240301BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240301BHJP
   C09B 61/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A61K8/35
A61K8/86
A61K8/39
A61Q11/00
A61K31/12
A61K47/14
A61P1/02
A61P31/04
C09B61/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023077156
(22)【出願日】2023-05-09
(65)【公開番号】P2023171284
(43)【公開日】2023-12-01
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2022082708
(32)【優先日】2022-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(72)【発明者】
【氏名】濱名 実咲
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】村井 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】松村 玲子
(72)【発明者】
【氏名】平田 善彦
(72)【発明者】
【氏名】天野 敦雄
(72)【発明者】
【氏名】久保庭 雅惠
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159852(WO,A1)
【文献】特開2022-082477(JP,A)
【文献】特表2012-532141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 6/00- 6/90
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-31/327
A61P 1/00-43/00
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
C09B 1/00-69/10
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クルクミノイドを含む組成物に、(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、該組成物のPorphyromonas gingivalisへの抗菌性を向上させる方法であって、該(A)クルクミノイド濃度が0.00001~0.01質量%;及び該(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの濃度が0.001~5質量%である、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルクミノイド含有口腔用組成物及び抗菌方法に関する。より詳細には、本発明はクルクミノイド及び特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する口腔用組成物、歯周病の治療及び/又は予防剤、及び抗菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクミン((1E,6E)-1,7-bis(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-1,6-heptadiene-3,5-dione、C21H20O6:分子量約368.38g/mol)を含むクルクミノイドは、植物ウコンの根茎に含まれる黄色のポリフェノール化合物群であり、カレー等のスパイスや染料だけでなく、抗炎症作用や抗腫瘍作用及び抗酸化作用を期待する健康食品素材としても広く利用されている。さらに近年、口腔衛生剤への利用が期待されている(非特許文献1)。
【0003】
一般的に口腔内には、いわゆる善玉菌と悪玉菌が存在しており、細菌のバランスは、虫歯や歯周病の発生に関係していると言われている。一般的な殺菌剤は、悪玉菌や善玉菌を区別することなく殺菌してしまい、このような細菌バランス保持に効果はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Izui et al.,Antibacterial Activity of Curcumin Against Periodontopathic Bacteria.J Periodontol,87(1):83-90,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クルクミノイドは、歯周病菌の増殖を抑制する一方で、常在菌の増殖は抑制せず、口腔衛生剤として有用な物質と言える。しかし、クルクミノイドは難水溶性であるため、口腔衛生剤に配合した場合の溶解量は極めて少なく、抗菌力を十分に発揮させることは困難であった。難水溶性成分は界面活性剤などの可溶化剤を用いて溶解されることが多いが、抗菌成分がミセルに取り込まれ、抗菌性が損なわれる場合がある。さらに、色素であるクルクミノイドを配合した口腔衛生剤を使用すると、歯ブラシや洗面台などが着色する場合がある。これらの課題により、クルクミノイドの配合量を増やさずとも抗菌作用が増強された口腔衛生剤が望まれる。
【0006】
本発明は、クルクミノイドを含有し、特に歯周病の治療及び/又は予防効果がより強く発揮できるような口腔用組成物、歯周病の治療及び/又は予防剤、及び抗菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、クルクミノイドと共に、HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることによって、その抗菌作用が増強され、歯周病の治療及び/又は予防剤に有効であることを見出し、本発明を達成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記に揚げる口腔用組成物、歯周病の治療及び/又は予防剤、及び抗菌性を向上させる方法に関するものである。
項1.
(A)クルクミノイド;及び
(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、歯周病の治療及び/又は予防の為の口腔用組成物。
項2.
前記(A)成分の含有量が、0.00001~0.01質量%であり、前記(B)成分の含有量が、0.001~5質量%である、項1に記載の口腔用組成物。
項3.
実質的にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有しない、項1又は2に記載の口腔用組成物。
項4.
(A)クルクミノイド;及び
(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、Porphyromonas gingivalisによる歯周病の治療及び/又は予防剤。
項5.
実質的にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有しない、項4に記載の歯周病の治療及び/又は予防剤。
項6.
(A)クルクミノイドを含む組成物に、(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、該組成物のPorphyromonas gingivalisへの抗菌性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、口内の特定の菌に対する抗菌作用が増強され、特に歯周病の治療及び/又は予防剤に有効な組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、
(A)クルクミノイド;及び
(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、歯周病の治療及び/又は予防の為の口腔用組成物、に関する。
【0011】
[歯周病の治療及び/又は予防の為の口腔用組成物]
本発明の口腔用組成物は、(A)クルクミノイド;及び(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、歯周病の治療及び/又は予防の為の口腔用組成物である。
【0012】
((A)クルクミノイド)
本発明に用いられる(A)成分のクルクミノイドは、典型的には、クルクミン、デメトキシクルクミン、及びビスデメトキシクルクミンを含む。
このうち、クルクミンは、(1E,6E)-1,7-bis(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-1,6-heptadiene-3,5-dione(C21H20O6:分子量368.38g/mol)を指す。この化合物は、ケト―エノール互変異性化を受けるもので、いずれの形であっても良い。
デメトキシクルクミンは、(E,E)-1-(4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)-7-(4-ヒドロキシフェニル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン(C20H18O5:分子量338.35g/mol)を指す。
ビスデメトキシクルクミンは、(E,E)-1,7-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,6-ヘプタジエン-3,5-ジオン(C19H16O4:分子量:308.33g/mol)を指す。
クルクミノイドとしては、さらに、植物ウコンの根茎等のように、クルクミノイドを含む植物の溶媒抽出物や粉末であっても良い。ここで、植物は特に限定されないが、ウコンの根茎を用いることができ、クルクミノイドの含有量が規定量であれば春ウコンや秋ウコンなどのウコンの種類は特に制限されない。
ウコンの根茎を溶媒で抽出した抽出物や微細に粉砕したウコン粉末等、様々な形態を使用することができる。
【0013】
クルクミン、デメトキシクルクミン、及びビスデメトキシクルクミンとしては、市販品を使用してもよい。例えば、クルクミン、デメトキシクルクミン、又はビスデメトキシクルクミン単体としては、富士フイルム和光純薬株式会社製のクルクミン試薬、デメトキシクルクミン試薬、ビスデメトキシクルクミン試薬が例示され、ウコン根の溶媒抽出物としては、日油株式会社製のウコンエキスBGが例示され、ウコン粉末としては、伊藤漢方製薬株式会社製の秋ウコン粉末100%が例示される。
【0014】
本発明の口腔用組成物におけるクルクミノイドの含有量は、クルクミノイドとして純分換算で組成物全体の0.00001~0.01質量%が好ましく、0.00003~0.003質量%がより好ましい。この範囲であれば、クルクミノイドの口腔内細菌に対する効果を十分に発揮できる。
【0015】
((B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステル)
本発明に用いられる(B)成分は、HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルである。ここで、HLB(Hydrophile Lipophile Balance)は、けん化価と構成脂肪酸の酸価から次式によって算出することができる。
HLB=20×(1-S/A)
S:けん化価、A:構成脂肪酸の酸価
【0016】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、このようにHLBが14以上であれば、限定はされないが、平均重合度10のデカグリセリンと脂肪酸とのエステルであることが好ましい。このうち、より好ましくは、平均重合度10のデカグリセリンと炭素数12~16の脂肪酸とのエステルであり、さらに好ましくは、平均重合度10のデカグリセリンとラウリン酸又はミリスチン酸とのエステルであり、最も好ましくは、ミリスチン酸ポリグリセリル‐10である。
【0017】
本発明の口腔用組成物におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、本発明の効果である菌増殖抑制効果を発揮する観点から、0.001~5質量%が好ましく、0.001~1.5質量%がより好ましい。
【0018】
(A)成分に対する(B)成分の含有量の比率は、(A)成分1質量部に対して、(B)成分を好ましくは、0.1~500000質量部、より好ましくは、1~10000質量部、さらに好ましくは3~5000質量部、さらにより好ましくは5~5000質量部の割合である。この比率の範囲内であることで、より高い抗菌作用が発揮され、さらには、対象物への着色を抑制できる。
【0019】
本発明の口腔用組成物は、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、好ましくは、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を全く含有しない。
【0020】
(水分)
本発明の口腔用組成物は水を含有することができる。本発明で使用される水は、本発明の効果を損なわないようなものであればよく、好ましくは精製水、蒸留水、イオン交換水、及びRO水を挙げることができる。
本発明の口腔用組成物に含まれる水の含有量は、10~99.9988質量%が好ましく、20~99質量%がより好ましく、30~90質量%がさらにより好ましい。水が存在することで、(A)及び(B)成分が安定的に溶解でき、成分を口腔内に十分に行き渡らせることが可能となる。
【0021】
(その他の成分)
本発明の口腔用組成物は、(A)クルクミノイド及び(B)HLB14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルの他に、任意に、その他の成分を含有することができる。ここで、その他の成分には、限定はされないが、湿潤剤、防腐剤、清掃剤(研磨剤)、粘結剤、pH調整剤、香味剤、薬用成分、発泡剤、清涼剤、矯味剤、甘味剤の他、保湿剤、着色剤などが含まれる。
【0022】
湿潤剤としては、ソルビット液(ソルビトール)、グリセリン、濃グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。湿潤剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。限定はされないが、このうち、少なくともプロピレングリコール及びソルビトールを含むことが好ましく、プロピレングリコール及びソルビトールの組み合わせも使用できる。例えば、プロピレングリコール1質量部に対して、ソルビトール0.05~40質量部が好ましく、0.1~20質量部がより好ましく、0.1~10質量部がさらにより好ましく、0.5~10質量部が最も好ましい。
【0023】
このような湿潤剤の含有量は、限定はされないが、含める場合には、湿潤剤の合計量として、1~60質量%、より好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%でもあり得る。湿潤剤を含めることで、(A)及び(B)成分を安定的に溶解させ、組成物の外観安定性が良好となる。さらに、甘味や苦味のバランスといった風味を良好にし、使用後のべたつきを感じることなく適度な保湿感を付与することができる。
【0024】
限定はされないが、プロピレングリコールの含有量は、好ましくは0.1~20質量%であっても良く、1~20質量%、5~20質量%などでもあり得る。
【0025】
限定はされないが、ソルビトールの含有量は、好ましくは0.1~40質量%であっても良く、1~40質量%、5~30質量%などでもあり得る。
【0026】
防腐剤として、安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステルが挙げられる。防腐剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。このような防腐剤の含有量は、限定はされないが、0.01~5質量%が好ましく、0.05~3質量%がより好ましく、0.01~2質量%がさらにより好ましい。
【0027】
清掃剤(研磨剤)としては、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、第3リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、第4リン酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる。清掃剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0028】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、無水ケイ酸、カラギーナン、アルギン酸及びその塩等が挙げられる。粘結剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0029】
pH調整剤としては、クエン酸Na、無水クエン酸、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタミン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。pH調整剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0030】
香味剤としては、精油などの天然香料(ジンジャーオレオレジン、ジンジャーミント)又は合成香料などが挙げられる。
【0031】
薬用成分としては、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、グリチルリチン酸ジカリウム等が挙げられる。薬効成分は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0032】
発泡剤としては、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。発泡剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0033】
清涼剤として、l-メントールなどのメントール、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキシアミド、N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド、N,2,3-トリメチル-2-イソプロピルブタンアミド、3-(L-メトキシ)プロパン-1,2-ジオール、乳酸メンチル(メンチルラクテート)、コハク酸モノメンチル、メントングリセリンアセタール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、メントングリセリンエーテル、スピラントール、モノメンチルサクシネート等が挙げられる。清涼剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0034】
矯味剤として、塩化ナトリウムが挙げられる。
【0035】
甘味剤として、キシリトール、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジンヒドロカルコン、グリチルリチン、ソーマチン、パラチノース、マルチトール、アラビトール等が挙げられる。甘味剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0036】
(口腔用組成物の形態)
本発明の口腔用組成物の形態は、液体、半固体、固体のいずれであってもよい。半固体には、ペースト状又はジェル状が含まれる。本発明の口腔用組成物の好ましい形態は、液体、ペースト状、又はジェル状である。
【0037】
本発明の口腔用組成物が液体である場合の25℃におけるpHは、好ましくは4.5~9、より好ましくは5~8.5、さらに好ましくは6~8である。
【0038】
(口腔用組成物の用途)
本発明の口腔用組成物は、例えば、練歯磨剤、液体歯磨剤、ジェル歯磨き等の歯磨剤類及び洗口液、含嗽剤、口中清涼剤、口腔用塗布剤、又は食品等に用いることができる。食品には、チューインガム、錠菓、又はトローチ等が含まれる。本発明の口腔用組成物は、特には、Porphyromonas gingivalisによる歯周病の治療及び/又は予防剤として用いられ得る。特には口内のバイオフィルム形成阻害、Porphyromonas gingivalisによる毒素ベシクルの付着阻害の効果を得ることも可能である。
【0039】
(口腔用組成物の容器)
本発明の口腔用組成物の収容容器の材質は特に制限されず、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アルミなど、通常の歯磨剤及び洗口液等に使用される容器を選択できる。収容容器の形状についても特に制限されず、例えば、チューブ、ボトル、パック、ポーション等が挙げられる。
【0040】
[Porphyromonas gingivalisによる歯周病の治療及び/又は予防剤]
本発明はまた、(A)クルクミノイド;及び(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、Porphyromonas gingivalisによる歯周病の治療及び/又は予防剤を包含する。本発明の歯周病の治療及び/又は予防剤において、各成分とそれらの含有量等、その他の成分とそれらの含有量については、前記口腔用組成物で記載した内容に準じる。さらに、歯周病の治療及び/又は予防剤においても、実質的にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有しないことが好ましい。
【0041】
[Porphyromonas gingivalisへの抗菌性を向上させる方法]
本発明はまた、(A)クルクミノイドを含む組成物に、(B)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することで、該組成物のPorphyromonas gingivalisへの抗菌性を向上させる方法を包含する。本発明の方法において、各成分とそれらの含有量等、その他の成分とそれらの含有量については、前記口腔用組成物で記載した内容に準じる。さらに、本発明の方法においても、組成物には、実質的にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有しないことが好ましい。
【実施例
【0042】
以下、本発明の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0043】
実施例で使用する成分は、下記の通りである。
クルクミノイド:クルクミン(富士フイルム和光純薬株式会社)、ウコンエキスBG(日油株式会社)
ヒノキチオール:ヒノキチオール(東京化成工業株式会社)
チモール:チモール(東京化成工業株式会社)
カテキン:エピガロカテキンガレート(株式会社バイオベルデ)
ラウリン酸ポリグリセリル-10:Decaglyn 1-L(日光ケミカルズ株式会社)、HLB 15.5
ミリスチン酸ポリグリセリル-10:Decaglyn 1-M(日光ケミカルズ株式会社)、HLB 14.0
カプリン酸グリセリル:サンソフト No.760-C(太陽化学株式会社)、HLB 6.5
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油:NIKKOL HCO-60Y(日光ケミカルズ株式会社)、HLB 14.0
プロピレングリコール:日本薬局方プロピレングリコール(株式会社ADEKA)
ソルビトール:ソルビトールS(物産フードサイエンス株式会社)
濃グリセリン:濃グリセリン(IOI ACIDCHEM社)
メチルパラベン:メッキンス-M(上野製薬株式会社)
カルボキシメチルセルロースナトリウム:CMCダイセル1380(ダイセルミライズ株式会社)
キサンタンガム:ケルデントSFT(DSP五協フード&ケミカル株式会社)
【0044】
[天然由来成分評価例]
下記の表1に示す天然由来成分について、抗菌性を調べた。
詳細には、まず、ジメチルスルホキシド(DMSO)に天然由来成分を1%溶解させた評価用製剤を作製した。この評価用製剤を、製剤中の天然由来成分の最終濃度が0.05%になるように各液体培地に添加し、さらに液体培地を用いて2倍ずつ段階希釈した。各希釈液を96穴プレートに0.1mL添加し、各供試菌液を0.01mL添加した。
【0045】
Porphyromonas gingivalisは37℃の嫌気条件下で2日間、その他の菌は、37℃で一晩培養後、培養液の混濁の有無を確認し、最小発育阻止濃度を
判定した。
【0046】
なお、このプロトコルで使用した各菌の供試菌液は、以下の通り調製した。
【0047】
Porphyromonas gingivalisの菌液調製
平板培地を用いて、37℃、嫌気条件下で2日間培養した。液体培地10mLにコロニーを懸濁し37℃、嫌気条件下で一晩培養した。
平板培地:CDC嫌気性菌用羊血液寒天培地(BD社製)
液体培地:
Trypticase Soy Broth(BD社) 3w/v%
Yeast Extract(BD社) 0.1w/v%
ヘミン(富士フイルム和光純薬株式会社) 0.0005w/v%
メナジオン(富士フイルム和光純薬株式会社)0.0001w/v%
精製水 残分
【0048】
Streptococcus mutansの菌液調製
平板培地を用いて、37℃で2日間培養した。液体培地10mLにコロニーを懸濁し37℃で一晩培養した。
平板培地:ブレインハートインヒュージョンブイヨン(日水製薬株式会社製)+1.5w/v%寒天
液体培地:ブレインハートインヒュージョンブイヨン(日水製薬株式会社製)
【0049】
Streptococcus gordonii、Streptococcus oralisの菌液調製
平板培地を用いて、37℃で2日間培養した。液体培地10mLにコロニーを懸濁し37℃で一晩培養した。
平板培地:THB培地(BD社製)+2w/v%アガロース
液体培地:THB培地(BD社製)
【0050】
下記の評価基準に基づいて、最小発育阻止濃度から抗菌性の高さを評価し、各天然由来成分の選択的抗菌性の有無を検証した。
〇 15.6μg/mL以下
△ 15.6μg/mL超62.5μg/mL以下
× 62.5μg/mL超
【0051】
【表1】
【0052】
表中、P.gingivalisは、Porphyromonas gingivalis ATCC33277を表し、S.mutansは、Streptococcus mutans JCM5705を表し、S.gordoniiは、Streptococcus gordonii DL-1を表し、S.oralisは、Streptococcus oralis ATCC9811を表す。
【0053】
この結果から、クルクミンでは、Porphyromonas gingivalis
に選択的な増殖抑制効果が確認できた。一方、ヒノキチオールには、このような選択性はなく、チモールやカテキンでは、効果があったクルクミンの濃度と同程度の濃度では、効果は見られなかった。
【0054】
[実施例1]
表2に示す組成物を調製し、これらの組成物について、Porphyromonas gingivalisに対する増殖抑制効果を評価した。
【0055】
(調製方法)
(A)成分と(B)成分又は比較成分の終濃度、すなわち、菌への作用時の濃度が表2の濃度となるように、各成分量は調整した。
表2に示した各界面活性剤成分を融解温度まで加熱し、クルクミノイドを加えて混合した。さらに、撹拌しながら水を少しずつ添加して、口腔用組成物を調製した。
【0056】
【表2】
【0057】
(評価方法)
(A)成分と(B)成分又は比較成分の終濃度が表2の組成となるように調製した口腔
用組成物について、抗菌性を評価した。抗菌性の評価は、以下のようにして行った。
液体培地(上記[天然由来成分評価例]に記載したものと同じ)にPorphyromonas gingivalis ATCC33277を接種して、37℃で一晩前培養した。この培養液を液体培地で10倍希釈したものを供試菌液とした。供試菌液9mLに表2の10倍濃縮の口腔用組成物1mLを加え、調製直後及び48時間後に濁度として波長600nmにおける吸光度をSHIMADZU 紫外・可視分光光度計 UV-1200で測定した。
その結果は、下記の評価基準に基づき、増殖抑制効果の増強率として評価した。
実施例1-1、実施例1-2、比較例1-1、比較例1-2については、参考例1-1を基準として評価した。
増殖抑制効果の増強率(%)=100-{(各組成物の48時間後の濁度-各組成物の調製直後の濁度)/(参考例1-1の48時間後の濁度-参考例1-1の調製直後の濁度)×100}
実施例1-3、比較例1-3、比較例1-4については、参考例1-2を基準として評価した。
増殖抑制効果の増強率(%)=100-{(各組成物の48時間後の濁度-各組成物の調製直後の濁度)/(参考例1-2の48時間後の濁度-参考例1-2の調製直後の濁度)×100}
×:増殖抑制効果の増強率が49%以下
△:増殖抑制効果の増強率が50%以上74%以下
○:増殖抑制効果の増強率が75%以上
【0058】
この検証の結果、ラウリン酸ポリグリセリル-10とミリスチン酸ポリグリセリル-10は、クルクミノイド0.0002%を含有する場合、クルクミノイド単独での増殖抑制効果を75%以上増強した。さらにミリスチン酸ポリグリセリル-10は、クルクミノイドを0.001%含有する場合においても、増殖抑制効果の増強率が75%以上と顕著であった。一方、カプリン酸グリセリルとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、クルクミノイドの含有量が0.0002%と0.001%のどちらにおいても、増殖抑制効果の増強率は49%以下であった。
【0059】
[実施例2]
表3に示すように、クルクミノイド及びポリグリセリン脂肪酸エステル、及び各種成分を下記方法に従って調製し、被験者18名による試験を行った。
【0060】
(調製方法)
表3に示した各界面活性剤成分を融解温度まで加熱し、クルクミノイド及びプロピレングリコールを加えて混合した。さらに、撹拌しながらその他の成分及び水を少しずつ添加して、口腔用組成物を調製した。
【0061】
(評価方法)
表3の組成で調製した口腔用組成物を1日2回(朝・晩)、2週間使用した。
試験前後において、特定の歯間から歯垢を回収し、PBSバッファーに懸濁した。遠心分離によってPBSバッファーを除去したものを試験検体とした。試験検体を酵素液(5mg/mLリゾチーム(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.12mL、5000U/mLムタノリシン(シグマアルドリッチ社製)0.022mL)に懸濁し、50℃で1時間処理した。処理後の検体について、は「Wizerd (登録商標)Genomic DNA Purification kit(プロメガ株式会社製)」の使用方法に準拠して細菌ゲノムの抽出を行い、Nanodrop ND-1000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて核酸量を確認した。得られたゲノムを鋳型として、16srRNA遺伝子をターゲットとするユニバーサルプライマーおよびPor
phyromonas gingivalisに特異的なプライマー・プローブセットを用いてリアルタイムPCRを行った(試薬:Thunderbird Probe qPCR Mix(東洋紡株式会社製)、検出機:Rotergene Q)。Ct値と核酸量から検量線を作成し、各検体に含まれる全菌数に占めるPorphyromonas gingivalisの割合を算出した。PCR用プライマーとしては、Kuboniwa M et al., Quantitative detection of periodontal pathogens using real-time polymerase chain reaction with Taqman probes., Oral Microbiology Immunology, vol. 19, p168-p176, 2004に記載のプライマーを使用した。
【0062】
下記に示す基準に基づき、歯垢中のPorphyromonas gingivalisの割合を減少させる効果を評価した。
×:0~9%の被験者において、Porphyromonas gingivalisの割合が減った
△:10~29%の被験者において、Porphyromonas gingivalisの割合が減った
〇:30~49%の被験者において、Porphyromonas gingivalisの割合が減った
◎:50%以上の被験者において、Porphyromonas gingivalisの割合が減った
【0063】
【表3】
【0064】
この結果、実施例の組成物では、洗口液の形態でもジェルの形態でも、歯垢中のPorphyromonas gingivalisの割合が減った被験者が一定以上の割合で見られた。
さらに、実施例の組成物では、組成物の外観安定性が良好であり、対象物への着色は見ら
れず、保湿感等の使い心地も良かった。
各比較例の組成物は、実施例の組成物程の効果が見られなかった。
【0065】
[組成物例]
下記に示す処方に基づいて、本発明の口腔用組成物を調製した。
【0066】
<組成物例1> 液体歯磨剤
クルクミノイド 0.0002質量%
ミリスチン酸ポリグリセリル-10 0.5質量%
プロピレングリコール 5質量%
ソルビトール 10質量%
メチルパラベン 0.1質量%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1質量%
ラウロイルメチルタウリンナトリウム 0.1質量%
クエン酸ナトリウム 0.3質量%
香料 0.5質量%
水 残分
【0067】
<組成物例2> 練歯磨剤
クルクミノイド 0.001質量%
ミリスチン酸ポリグリセリル-10 1.5質量%
プロピレングリコール 10質量%
ソルビトール 20質量%
メチルパラベン 0.1質量%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1質量%
ラウロイルメチルタウリンナトリウム 0.5質量%
クエン酸 0.2質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 3質量%
無水ケイ酸 5質量%
炭酸カルシウム 25質量%
香料 0.5質量%
水 残分
【0068】
<組成物例3> ジェル歯磨剤
クルクミノイド 0.001質量%
ミリスチン酸ポリグリセリル-10 0.2質量%
プロピレングリコール 10質量%
ソルビトール 10質量%
メチルパラベン 0.1質量%
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1質量%
ラウロイルメチルタウリンナトリウム 0.2質量%
クエン酸ナトリウム 0.3質量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 3質量%
香料 0.5質量%
水 残分