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特許7445910口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物、口腔ケア製品及び食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物、口腔ケア製品及び食品
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/99 20170101AFI20240301BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240301BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240301BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240301BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240301BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240301BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A61K8/99
A23L33/135
A61K9/08
A61K35/747
A61P1/02
A61Q11/00
C12N1/20 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017128123
(22)【出願日】2017-06-29
(65)【公開番号】P2019011268
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-05-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000107284
【氏名又は名称】ジェクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 聡
(72)【発明者】
【氏名】坂田 真理
(72)【発明者】
【氏名】利光 勝久
(72)【発明者】
【氏名】二川 浩樹
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】赤澤 高之
【審判官】瀬良 聡機
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/007584号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ラムノーサスKO3株(NITEBP-771)の菌体、菌体培養物、又はこれらの抽出物を口腔常在菌調整剤として含有し、
前記ラクトバチルス・ラムノーサスKO3株の組成物全体に対する配合率が0.6~2.5重量%であり、
口腔内の非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を抑制するように選択的に作用する上記口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物であって、
前記病原性細菌が、歯周病原性細菌であるポルフィロモナス ジンジバリス及び/又はプレボテラ インターメディアであり、
前記非病原性細菌が、ストレプトコッカス ミティス及びストレプトコッカス オラリスから選ばれるミティスグループの連鎖球菌であり、
前記歯周病原性細菌と共に前記非病原性細菌を殺菌する非選択的な殺菌作用を奏する非選択的殺菌剤を含まない、口腔内の非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を抑制するように選択的に作用する口腔用組成物。
【請求項2】
前記非選択的殺菌剤は、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、又はイソプロピルメチルフェノールから選択される請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の口腔用組成物を含む、口腔内の非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を抑制するように選択的に作用する口腔ケア製品。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の口腔用組成物を含む、口腔内の非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を抑制するように選択的に作用する食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物に関し、詳しくは、口腔内における有用常在菌を残存させるとともに、選択的に口腔内の病原性細菌に対して抗菌効果を奏するようにして口腔内の常在菌のバランスを良好に保つように調整可能な、優れた選択的抗菌効果を奏する、口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物、口腔ケア製品及び食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの口腔内には様々な細菌が共生しており、常在細菌叢と呼ばれる細菌集団を形成している。常在細菌叢には病原菌や日和見感染菌が存在しているが、細菌叢のバランスが保たれている状態では、これらの細菌を原因とする疾患は抑制されており、いわゆる健康な状態にある。しかし、食生活の変化や抗生剤の摂取、ストレス、加齢などを原因として細菌叢のバランスが崩れることにより、病原性細菌や日和見感染菌が増加し疾患を発症する。そのため、疾患の抑制には病原性細菌を選択的に抑制し、非病原性の常在菌(特に有用常在菌)を優勢にすることで常在細菌叢のバランスを保つことが重要である。
【0003】
ヒトの口腔内では700種を超える極めて多種類の口腔内細菌が見出されている。ヒトの口腔内に存在する細菌の中で、病原性を示す細菌は、歯周病原性細菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、う蝕の原因菌であるストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)を代表とする数種類の細菌に過ぎない。口腔内細菌の残りのほとんどは、通常、ヒトへの病原性を示さないストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis、以下、S.mitisとも呼ぶ。)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis、以下、S.oralisとも呼ぶ。)を代表とするミティス(Mitis)グループなどのストレプトコッカス(連鎖球菌)属細菌などの通常、口腔内においては非病原性の常在菌である。従って、口腔疾患の予防には、口腔内において、非病原性の口腔内常在菌の生育に影響を与えることなく選択的に口腔内病原性細菌の生育を抑制することが重要となる。
【0004】
特に、上述したストレプトコッカス ミティスやストレプトコッカス オラリスなどの非病原性常在菌のミティスグループの連鎖球菌は、上記したう蝕や歯周病の原因菌の歯面付着に関与したり、抗菌作用を有することが知られており(非特許文献1参照)、口腔疾患抑制に作用する有用な常在菌である。
【0005】
続いて、上述したストレプトコッカス ミティス及びストレプトコッカス オラリスについて具体的に説明する。非特許文献1に記載されているように、バイオフィルムは以下のように形成される。歯の表面を構成するエナメル質の表面には、まずペリクル(歯の表面上の唾液タンパク質の層)が形成される。ペリクルのもとになるのは唾液中のカルシウム結合タンパク質(calcium-binding proteins;CBP)であり、この物質はエナメル質のカルシウムに親和性をもっている。これが歯のエナメル質上に並ぶと、それに親和性をもつ細菌、すなわちストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)などの菌が選択的に付着してくる。これらの菌は、early colonizer(早期定着菌群)と呼ばれる。これが常在菌、すなわちわれわれが守り育てなければならない細菌群で、例えば大腸におけるビフィズス菌に相当する。とくにS.mitisは、口腔内細菌を培養した場合に、口腔内細菌全量の9割を占める。
【0006】
また、非特許文献1では、無菌状態は実は非常に危険な状態であるとの理解が必要であり、あくまで常在菌が口腔内に存在することが大切であり、常在菌叢の維持という観点からは、強力な抗菌剤を口腔内全体に使うのはよくないことであると述べられている。
【0007】
歯周病等の予防用途として例えば、一般的な呼称としてマウスウォッシュと呼ばれる抗菌作用を有する洗口液が市販されているが、このような洗口液のなかには、種々の抗菌剤が含まれている。洗口液に含まれる幾つかの抗菌剤においては口腔内の細菌全般に対して広く作用し、有用常在菌をも殺菌してしまい、口腔内における常在菌のバランスが崩れてしまうものもある。そのため、口腔内における有用常在菌を死滅させること無く残存させるとともに、選択的に口腔内の病原性細菌に対して抗菌効果を奏するようにして口腔内の常在菌のバランスを良好に保つように調整可能な、優れた選択的抗菌効果を奏する口腔用組成物、口腔ケア製品及び食品が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5645192号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】花田信弘."バイオフィルムの臨床生物学",日本ヘルスケア歯科研究会誌,2003年,第5巻,第1号,4-30頁.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上記現状の課題に鑑みてなされたものであり、口腔内における有用常在菌を残存させるとともに、選択的に口腔内の病原性細菌に対して抗菌効果を奏するようにして口腔内の常在菌のバランスを良好に保つように調整可能な、優れた選択的抗菌効果を奏する口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物、口腔ケア製品及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため種々の検討を重ねた結果、ヒトの唾液中に存在する特定の乳酸菌株について、所定の処方において口腔内における有用常在菌を残存させるとともに、選択的に口腔内の病原性細菌に対して抗菌効果を奏するものがあることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物においては、
ラクトバチルス・ラムノーサスKO3株(NITEBP-771)の菌体、菌体培養物、又はこれらの抽出物を口腔常在菌調整剤として含有し、
前記ラクトバチルス・ラムノーサスKO3株の組成物全体に対する配合率が0.6~2.5重量%であり、
口腔内の非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を抑制するように選択的に作用する上記口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物であって、
前記病原性細菌が、歯周病原性細菌であるポルフィロモナス ジンジバリス及び/又はプレボテラ インターメディアであり、
前記非病原性細菌が、ストレプトコッカス ミティス及びストレプトコッカス オラリスから選ばれるミティスグループの連鎖球菌であり、
前記歯周病原性細菌と共に前記非病原性細菌を殺菌する非選択的な殺菌作用を奏する非選択的殺菌剤を含まない、口腔内の非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を抑制するように選択的に作用するものである。
【0014】
本発明の口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物においては、
前記非選択的殺菌剤は、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、又はイソプロピルメチルフェノールから選択されるものである。
【0016】
本発明の口腔内の非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を抑制するように選択的に作用する口腔ケア製品においては、上記口腔用組成物を含むものである。
【0017】
本発明の口腔内の非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を抑制するように選択的に作用する食品においては、上記口腔用組成物を含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、口腔内における非病原性細菌を残存させるとともに、選択的に口腔内の病原性細菌に対して抗菌効果を奏するようにして口腔内の常在菌のバランスを良好に保つように調整可能な、優れた選択的抗菌効果を奏する口腔常在菌調整剤を含む口腔用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】抗菌力試験(試験菌:ストレプトコッカス ミティス)の結果を示すグラフであり、(a)は1mLあたりの生菌数の経時変化を示すグラフ、(b)は生菌率の経時変化を示すグラフ。
図2】抗菌力試験(試験菌:ストレプトコッカス オラリス)の結果を示すグラフであり、(a)は1mLあたりの生菌数の経時変化を示すグラフ、(b)は生菌率の経時変化を示すグラフ。
図3】抗菌力試験の結果を比較するグラフであり、(a)はストレプトコッカス ミティスに対する2.5%KO3株含有洗口液と市販品Aを比較するグラフ、(b)はストレプトコッカス オラリスに対するKO3株含有洗口液と市販品Aを比較するグラフ。
図4】KO3株含有洗口液の濃度依存性を示すグラフであり、(a)はストレプトコッカス ミティスに対する濃度依存性を示すグラフ、(b)はストレプトコッカス オラリスに対する濃度依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0021】
本発明の口腔用組成物は、口腔常在菌調整作用を奏する口腔常在菌調整剤の一例であるラクトバチルス・ラムノーサスに属する乳酸菌の菌株を含むものである。詳細は後述するが、本発明の口腔用組成物は、口腔内における非病原性細菌である有用常在菌を残存させるとともに、選択的に口腔内の病原性細菌に対して抗菌効果を奏するようにして口腔内の常在菌のバランスを良好に保つように調整するように作用する。すなわち、本発明の口腔用組成物は、選択的抗菌作用を有しており、口腔内の非病原性細菌の生育に影響を与えることなく選択的に歯周病原性細菌の生育を抑制する優れた抗菌効果を奏する。
【0022】
ここで、「口腔常在菌調整」とは、上述のように口腔内における有用常在菌を残存させるとともに、選択的に口腔内の病原性細菌に対して抗菌効果を奏するようにして口腔内の常在菌のバランスを良好に保つように調整することであり、具体的には、病原性細菌に対して選択的抗菌作用を奏することで非病原性常在菌の生育に影響が及ばないことによって、口腔内の常在菌叢の菌叢バランスを病原性の低い菌叢に調整することである。
また、「選択的抗菌」とは、口腔内の病原性細菌に対して抗菌活性を有し、その一方で非病原性細菌に対する抗菌活性は有さないことによって、非病原性細菌の生育を抑制することなく病原性細菌の生育を選択的に抑制する抗菌作用である。
【0023】
本発明における口腔常在菌調整剤は、抗菌作用を有するため口腔用組成物の抗菌成分として使用可能である。
なお、本実施形態において、「抗菌」とは、細菌及び真菌類の殺菌又除菌、もしくはこれらの発生・生育・増殖を抑制することを含めて、最も広義に解釈されるべきであり、如何なる意味においても限定されない。
【0024】
本発明に関するラクトバチルス・ラムノーサスに属する乳酸菌の菌株は乳酸菌の一例である。この菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。
具体的には、ラクトバチルス・ラムノーサスの一例として、当該特許微生物寄託センターにNITE BP-771として寄託されたラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株が挙げられる(以下、単にKO3株ともいう)。
【0025】
KO3株は、ヒト唾液中から分離されたものであり、ヒト由来の乳酸菌である。KO3株は、16S rRNAの塩基配列がラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)strain IDCC3201の塩基配列と1485/1485の間で100%の相同性を示し、グラム染色後の顕鏡下においてグラム陽性桿菌の様相を呈することから、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)と同定された。KO3株の主な菌学的性質を以下に示す。
1)グラム陽性乳酸桿菌、2)ホモ型乳酸発酵、3)カタラーゼ陰性、4)芽胞形成能無し、5)好気条件下でも培養可、6)菌体外多糖類を産生。
【0026】
本発明においては、上記乳酸菌の菌体を、乳酸菌培養の常法に従って培養し、得られた培養物から遠心分離等の集菌手段によって分離されたものをそのまま用いることのみならず、当該培養・発酵液(培養上清)、その濃縮液や、菌体を酵素や物理的手段を用いて処理した細胞質や細胞壁画分も用いることができる。また、生菌体のみならず死菌体であってもよい。
【0027】
本発明のKO3株を培養する培地には、果汁培地、野菜汁培地、牛乳培地、脱脂粉乳培地又は乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地等種々の培地を用いることができる。このような培地としては、脱脂乳を還元して加熱殺菌した還元脱脂乳培地、酵母エキスを添加した脱脂粉乳培地、MRS培地、GAM培地等を例示することができる。
培養方法は、静置培養又はpHを一定にした中和培養や、回分培養及び連続培養等、菌体が良好に生育する条件であれば、特に制限はない。
【0028】
本発明のKO3株の菌体又は菌体培養物の抽出物とは、菌体又は菌体培養物を、溶媒抽出することにより得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味するものである。
【0029】
本発明の抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類等が挙げられ、このうち、酢酸エチル等のエステル類、エタノール等のアルコール類が好ましい。
【0030】
抽出条件は、使用する溶剤によっても異なるが、例えば、培養液1質量部に対して1~10質量部の溶剤を用い、0~50℃、好ましくは25~37℃の温度で、0.5時間~3時間抽出するのが好ましい。
【0031】
上記の抽出物は、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、必要に応じて粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、液々分配等の技術により、適宜精製して用いることもできる。
【0032】
本発明における、「病原性細菌」としては、う蝕菌、歯周病菌及びカンジダ菌等が挙げられる。う蝕菌、歯周病菌及びカンジダ菌は、例えば、う蝕症;歯肉炎、歯周炎等の歯周病、舌炎、鵞口瘡、口角炎等の口腔カンジダ症等の口腔内疾患を引き起こす原因となる原因菌である。また、本発明における、「非病原性細菌」としては、上述したように、ストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)を代表とするミティス(Mitis)グループなどのストレプトコッカス(連鎖球菌)属細菌等が挙げられる。
【0033】
また、う蝕菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)、歯周病菌としてはポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、タンネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)等が挙げられ、カンジダ菌としては、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)等が挙げられる。
【0034】
特許文献1に示すように、KO3株は、う蝕菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)及びストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)及びカンジダ菌であるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の何れに対しても増殖抑制効果を有する。また、口腔内の歯肉縁下プラークフォーマーとして知られるFusobacterium. nucleatum等のFusobacterium属細菌の増殖を抑制する作用を有する。
従って、当該KO3株の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物は、口腔内疾患の予防、改善又は治療剤として、或いはう蝕菌、歯周病菌及びカンジダ菌の増殖抑制剤となり得る。斯かる口腔内疾患の予防、改善又は治療剤、蝕菌、歯周病菌及びカンジダ菌の増殖抑制剤は、それ自体で、当該口腔内の病原微生物により引き起こされる、う蝕症、歯周病、口腔カンジダ症等の口腔内疾患の予防、改善又は治療のための、或いはう蝕菌、歯周病菌及びカンジダ菌の増殖抑制のための食品、医薬品、口腔用組成物等として使用でき、或いは食品、医薬品、口腔用組成物に配合するための素材として使用可能である。また、食品は、虫歯、歯周病、その他の口腔内感染症の予防・改善等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した健康食品、サプリメント若しくは特定保健用食品等の機能性食品とすることも可能である。
なお、特許文献1には、KO3株による口腔内の非病原性細菌への影響についての記載はない。
【0035】
KO3株は、口膣内疾患の予防、改善または治療等に優れた効果を発揮する有効成分となる。したがって、口膣内疾患の予防、改善又は治療剤として有用である。本発明にかかわるKO3株は、選択的抗菌作用を有する口腔常在菌調整剤として口腔用組成物に好適に配合することができる。
【0036】
なお、本発明において、口腔用組成物とは、一般的な歯磨剤、洗口剤、口腔用スプレー、口腔用パスタ、軟膏剤、貼付剤等に加え、口腔内に含んで適用する錠剤、グミ、キャンディー、チューインガム、ゲル状の食品なども含むものである。さらに、これらの口腔用組成物を、ペート状、ゲル状、液状、固体状などの各種形態に適宜調製して用いることができる。
【0037】
より具体的には、口腔用組成物として練歯磨、液状歯磨、液体歯磨、潤製歯磨等の歯磨剤、洗口液及びマウスウォッシュ等を含む洗口剤、口腔用スプレーの一例であるマウススプレー、口腔用パスタ、口中清涼剤、うがい薬、デンタルリンス、口腔保湿剤、義歯安定剤、義歯潤滑剤、人口唾液、軟膏剤、貼付剤、歯磨きシート/ナップや、錠菓、トローチ、タブレット等の錠剤、カプセル剤、グミ、キャンディー、顆粒、チューインガム、ゲル状の食品、飲料、保存食等の各種剤型に調製し得る。すなわち、本実施形態における口腔用組成物は、その剤型を口腔ケア製品、食品または食品形態等にすることができる。特に、歯磨剤、洗口剤、錠剤、グミ、キャンディー、ゲル状の食品として、特に歯磨剤、洗口剤として好適に調製される。なお、抗菌効果付与の点で錠剤、グミ、キャンディーなどは、口腔内に留まる時間が比較的長いため、好適に使用することができる。
なお、口腔ケア製品とは、健全な口腔、歯、及び歯肉を促進するか、息を爽やかにするか、又は口腔疾患を予防若しくは治療するために使用される、口腔内をケアする製品をいう。
また、本実施形態において挙げた、口腔用組成物を含むもしくは口腔用組成物からなる口腔ケア製品又は食品を構成することもできる。これにより、本発明の効果を有する口腔ケア製品又は食品を実現することができる。
【0038】
また、このような種々の剤型の製剤を調製するには、本発明の菌体や培養物の作用を妨げない範囲で、他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0039】
上記口腔用組成物において、KO3株の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物の組成物全体に対する配合率としては、病原性細菌を抗菌するために0.001~10%(重量%、以下同様)が好ましく、より好ましくは0.01~5.0%である。
また、上記口腔用組成物の剤型が、例えば液体の場合には、KO3株の濃度を0.001g/ml~0.025g/mlとすることが好ましい。
【0040】
本発明では、KO3株の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物を配合する場合、その配合率が上記範囲内であると、より優れた選択的抗菌効果を付与することができる。なお、前記KO3株の菌体若しくは菌体培養物又はこれらの抽出物の配合率が高いほど、抗菌効果が向上するが、配合率が高すぎると有用な常在菌を減少させることになる。
【0041】
また、口腔用組成物には、上記成分に加えて、本発明の効果を妨げない範囲において、剤型に応じた適宜なその他の公知成分を必要に応じて配合し、通常の方法で調製できる。
【0042】
歯磨剤には、例えば、研磨剤、粘稠剤、粘結剤、界面活性剤、更に必要によって甘味剤、着色剤、防腐剤、保湿剤、香料、有効成分等を配合できる。洗口剤には、粘稠剤、粘結剤、界面活性剤、更に必要によって甘味剤、着色剤、防腐剤、香料、有効成分等を配合できる。錠剤には、ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール、セルロース、乳糖、デキストリン等の賦形剤、微粒二酸化ケイ素、酸味料、甘味剤、着色剤、乳化剤、増粘剤、ゲル化剤、果汁、香辛料、有効成分等を配合できる。グミには、グリセリン、ゼラチン等の増粘剤やゲル化剤、糖類、酸味料、甘味剤、着色剤、乳化剤、果汁、有効成分等を配合できる。チューインガムには、ガムベース、食用ガム質等の結合剤、甘味剤、着色剤、酸味料、保存料、光沢剤、香料、有効成分等を配合でき、必要に応じて糖衣で被覆してもよい。
【0043】
歯磨剤に用いられる研磨剤としては、例えば、シリカ系研磨剤、リン酸カルシウム系研磨剤、炭酸カルシウム系研磨剤などが挙げられ、その配合量は、通常、練歯磨では2~50%、液状歯磨では0~30%である。
【0044】
粘稠剤としては、例えば、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。その配合量は、通常、5~50%である。
【0045】
粘結剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース誘導体、キサンタンガム等のガム類、ゲル化性シリカ、ゲル化性アルミニウムシリカなどの有機又は無機粘結剤を配合できる。その配合量は、通常、0.5~10%である。
【0046】
また、界面活性剤としては、例えば、口腔用組成物に一般的に用いられるアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を配合できる。アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、N-アシルサルコシン酸塩などが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、糖脂肪酸エステル、糖アルコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム塩等、両性界面活性剤としては、ベタイン系やイミダゾリン系のものが挙げられる。界面活性剤の配合量は、通常、0~10%、特に0.01~5%である。
【0047】
甘味剤としては、例えば、キシリトール、スクラロース、サッカリンナトリウム等が挙げられる。着色剤としては、赤色2号、青色1号、黄色4号等が、防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル等が挙げられる。
【0048】
香料または着香剤としては、例えば、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ケイヒ油、ウイキョウ油、チョウジ油(丁字油)、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、グレープフルーツ油、スウィーティー油、柚油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及びこれら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、アップルミントフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等が挙げられ、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を使用できる。
これら香料の配合量は、通常、歯磨剤、洗口剤では0.0001~1%であり、また、錠剤、グミ、チューインガムでは0.001~50%であり、また、上記香料素材を使用した賦香用香料は、組成中に0.1~10%使用するのが好ましい。
【0049】
有効成分としては、口腔用組成物に通常配合される公知のものを本発明の効果を妨げない範囲で配合できる。有効成分としては、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、塩化セチルピリジニウム等のカチオン性殺菌剤、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸等の抗炎症剤、デキストラナーゼ等の酵素、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ化物、水溶性リン酸化合物、銅化合物、硝酸カリウム、乳酸アルミニウム、各種ビタミン類、植物抽出物などが挙げられる。なお、上記有効成分の配合量は、本発明の選択的抗菌効果を妨げない範囲で設定される。
【0050】
なお、本発明の口腔用組成物においては、歯周病原性細菌と共に非病原性細菌をも殺菌する非選択的殺菌剤の配合は制限することが好ましい。前記非選択的殺菌剤は、従来から広く口腔用製剤に使用されている殺菌剤に多く見られ、例えば塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン性殺菌剤が挙げられる。また、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤なども挙げられる。
【0051】
これら非選択的殺菌剤は、本発明の口腔用組成物が選択的抗菌効果を有する範囲で配合することができるが、配合する場合は組成物全体の0.1%以下、特に0.05%以下が好ましく、配合しないことが最も好ましい。これらの非選択的殺菌剤は、病原性の歯周病原性細菌と共に非病原性の口腔内常在菌をも殺菌してしまう、非選択的な殺菌作用を奏するため、これら殺菌剤が配合されていると、口腔内の菌バランスが崩れて口腔内常在菌叢が制御できなくなり、菌交代症の可能性が生じてくる場合がある。従って、本発明においては、上記非選択的殺菌剤が配合されていないほうが、選択的抗菌効果による口腔内常在菌叢のバランス制御にはより好ましい。
以下に、実施例及び抗菌力の試験結果を示し、本発明についてより詳細に説明する。
【実施例
【0052】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。また、特に断らない限り「%」は重量%を意味する。
【0053】
(菌体の調製)
MRS培地(Difco社)を121℃で20分間滅菌した後、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP-771)を接種し、37℃で、48時間大気下で培養した後、蒸留水・超純水・緩衝液などで洗浄後、菌体を調製した。
【0054】
以上に示されるKO3株は、公知の手法によって調整することができ、その方法を限定するものではない。
【0055】
<口腔内の非病原性細菌に対するKO3株の抗菌力試験>
口腔内の非病原性細菌であるストレプトコッカス ミティス及びストレプトコッカス オラリスの2種の各菌に対するKO3株の抗菌力を試験する。
【0056】
[試験(1)]
KO3株の抗菌力を評価した。なお、対照としてKO3株を配合しない精製水を用いた。
【0057】
1.検体
本発明に係る口腔用組成物の一例としてKO3株を2.5%の配合率で配合した評価用のKO3株含有洗口液(基材:精製水)を調整して、市販されている洗口液である市販品A、Bと合わせて抗菌力試験を行った。
検体1)2.5%KO3株含有株洗口液(ノンアルコール系、基材:水、殺菌剤無し)
検体2)市販品A(ノンアルコール系、薬用成分として塩化セチルピリジニウム(殺菌剤CPC)配合)
検体3)市販品B(ノンアルコール系、薬用成分として1,8‐シネオール、塩化亜鉛等配合)
2.試験概要
検体に試験菌液を接種後(以下、「試験液」という。)、所定時間後に試験液中の生菌数を測定した。また、あらかじめ予備試験(中和条件の確認)を行い、検体の影響を受けずに生菌数を測定できる条件を確認した。
3.試験条件
a)試験菌として、以下の非病原性細菌の菌種を用いた。
(1)ストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis NBRC 106071)
(2)ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis JCM 12997)
b)試験菌液:試験菌をTrypticase soy agar(BBL)で37℃±1℃、18~24時間後嫌気培養した後、精製水に浮遊させ、菌数が10~10/mLとなるように調整した。
c)試験液:検体10mLに試験菌液0.1mLを接種
d)保存条件:30秒、3分(室温)
e)対照:精製水
f)中和条件:SCDLP培地(日本製薬株式会社)で10倍希釈(なお、試験菌がストレプトコッカス ミティスの場合の検体2は100倍希釈)
g)生菌数測定:Trypticase soy agar、混釈平板培養法
4.試験結果
試験菌としてストレプトコッカス ミティス及びストレプトコッカス オラリスを用いたそれぞれの試験結果を表1、表2に示す。なお、試験液をSCDLP培地で10倍(試験菌がストレプトコッカス ミティスの場合の検体2は100倍希釈)に希釈することにより、検体の影響を受けずに生菌数の測定ができることを予備試験により確認した。
なお、以下の表1、表2の「対象」における検体1)、検体2)、検体3)とは、それぞれ上述した2.5%KO3株含有株洗口液、市販品A、市販品Bのことである。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1の結果に基づく棒グラフを図1に示す。図1(a)では、各検体における保存時間(30秒、3分)毎の生菌数(対数表示)を比較して表示した。図1(b)では、試験開始時を100%とし、各検体における保存時間毎の生菌数の変化率を比較して表示した。ここで、図1においては、開始時において、4本の棒グラフを示しているが、左から右に順に、2.5%KO3株含有洗口液、市販品A、市販品B、対照に関する試験結果である。
【0061】
表2の結果に基づく棒グラフを図2に示す。図2(a)では、各検体における保存時間(30秒、3分)毎の生菌数(対数表示)を比較して表示した。図2(b)では、試験開始時を100%とし、各検体における保存時間毎の生菌数の変化率を比較して表示した。ここで、図2においては、開始時において、4本の棒グラフを示しているが、左から右に順に、2.5%KO3株含有洗口液、市販品A、市販品B、対照に関する試験結果である。
【0062】
表1(図1)、表2(図2)においては、保存時間毎において生菌数が多いほど有用な常在菌であるストレプトコッカス ミティスやストレプトコッカス オラリスが残存していることを表しており、好ましい結果となる。また、本実施例では口腔用組成物の一例として洗口液を試験したものであるが、洗口液は、一般的に短時間(例えば、30秒程度)で口腔内全体に行き渡らしてから口腔外に吐き出すようにして使用される。そのため、例えば、開始後30秒後に着目すると、表1及び表2では市販品A、市販品Bはすでにストレプトコッカス ミティス及びストレプトコッカス オラリスが検出できないレベルにまで減少しており、有用な常在菌がほぼ残存していないが、本発明に係る2.5%KO3株含有株洗口液では、まだ多くの有用な常在菌が残存しているが確認できた(30秒後の生菌率において、ストレプトコッカス ミティスが83%、ストレプトコッカス オラリスが75%)。
このことから、本発明における選択的抗菌効果は、本試験方法において、評価に用いた非病原性細菌に対して、30秒時に生菌率が0.7以上となる効果である。
【0063】
[試験(2)]
上述した抗菌力試験方法に基づいて、検体として2.5%KO3株含有株洗口液と、市販品Aを用いて、かつ保存条件を1分、5分、10分(室温)として抗菌力試験を行った結果を図3に示す。図3のグラフより明らかなように、本発明に係る2.5%KO3株含有株洗口液の場合は、10分経過後においても有用な常在菌であるストレプトコッカス ミティスやストレプトコッカス オラリスが残存している。一方、市販品Aにおいては1分後においてすでに残存していない。すなわち、2.5%KO3株含有株洗口液においては有用常在菌に対して抗菌作用が緩和されていることが確認された。それに対して、市販品Aにおいては殺菌剤である塩化セチルピリジニウムの影響により歯周病等の原因菌だけでなく有用常在菌までも殺菌してしまったと推察される。
【0064】
[試験(3)]
上述した抗菌力試験方法に基づいて、本発明に係る口腔用組成物の一例としてKO3株を0.6%、1.25%、2.5%の各配合率で配合した評価用のKO3株含有洗口液(主成分:精製水)を調製して、かつ保存条件を1分、5分、10分(室温)として抗菌力の濃度依存性試験を行った。試験結果を図4に示す。ここで、図4においては、各時間において、4本の棒グラフを示しているが、左から右に順に、2.5%KO3株含有洗口液、1.25%KO3株含有洗口液、0.6%KO3株含有洗口液、対照に関する試験結果である。図4に示す試験結果により、ストレプトコッカス ミティスに対してはKO3株の濃度依存性があり、KO3株の配合濃度が高いほど、生菌数が減少していることが確認できた。一方、ストレプトコッカス オラリスに対してはKO3株の濃度依存性が確認できなかった。このように、KO3株においては、上述したようにう蝕菌や歯周病菌等の病原性細菌に対して優れた増殖抑制効果を有するが、非病原性細菌で有用な常在菌であるストレプトコッカス ミティスに対しては生菌数を減少させてしまうことが確認できた。このことを考慮すると、KO3株の口腔用組成物全体に対する配合率は0.01~5.0重量%が好ましく、より好ましくは0.1~4.0重量%、更に好ましくは0.5~3.0重量%である。こうして、KO3株は所定の処方において口腔用組成物に含有させることで、選択的抗菌剤として作用し、口腔常在菌調整作用を有することが確認できた。
【0065】
試験(1)、(2)、(3)の結果について考察すると、本発明に係るKO3株含有洗口液と市販品A、Bと比較すると、例えば、図1に示すように、2.5%KO3株水溶液では有用常在菌の生菌数が維持されており、当該有用常在菌に悪影響を及ぼさないことが確認された。これにより、口膣内での使用を想定した口腔用組成物としてのKO3株の優位性が確認された。すなわち、KO3株は有用常在菌の生育阻害が緩和されているのに対して、市販品A、Bは配合されている殺菌剤の影響によって顕著に有用常在菌の生育を阻害していると考えられる。
以上により、KO3株含有洗口液は、市販品A、Bと比較して、有用常在菌であるストレプトコッカス ミティスやストレプトコッカス オラリスを残存させることができることが確認できた。
【0066】
また、本発明に係るKO3株含有洗口液は、上述したように選択的抗菌作用を有し、例えば、口膣内において病原性細菌等の原因菌に対しては抗菌作用が効果的に働くとともに、口腔内常在菌(本実施形態では、ストレプトコッカス ミティス、ストレプトコッカス オラリス)に対しては抗菌作用が緩和される。このように、本発明に係るKO3株含有洗口液は口膣内の有用な常在菌を死滅させることなく安定して存在させて、常在菌の病原性細菌に対する耐性を維持することができる。
【0067】
また、本発明に係るKO3株は、口膣内常在菌に影響を与えず、常在菌により病原性微生物の侵入や増殖を抑制させるプロバイオティクスの概念を達成する素材として提供することができる。
【0068】
本発明の口腔用組成物には、添加剤としては、本発明の効果を阻害しない範囲でその形態に応じた、基剤(水、アルコール等)、潤滑材、清掃剤(デキストリン等)、pH調整剤(クエン酸Na等)、清掃剤、香味剤、香料、甘味料(キシリトール、スクラロース等)、可溶可剤、保存剤(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等)、保湿剤、乳化剤、分散剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等からなる群から選ばれる1種又は2種以上のものを加えることができる。
【0069】
以上の如く、本発明によれば、口腔内における非病原性細菌を残存させるとともに、選択的に口腔内の病原性細菌に対して抗菌効果を奏するようにして口腔内の常在菌のバランスを良好に保つように調整可能な、優れた選択的抗菌効果を奏する。
図1
図2
図3
図4