(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】電波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240301BHJP
【FI】
H05K9/00 M
(21)【出願番号】P 2019156479
(22)【出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594075765
【氏名又は名称】日本環境アメニティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】木山 雅和
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 淳
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112253(JP,A)
【文献】特開2019-102665(JP,A)
【文献】特開2010-157696(JP,A)
【文献】特開2003-209387(JP,A)
【文献】特開2005-158960(JP,A)
【文献】特開2007-059456(JP,A)
【文献】特開平08-204379(JP,A)
【文献】特開平11-214882(JP,A)
【文献】特開2004-270143(JP,A)
【文献】特開2005-315614(JP,A)
【文献】特開2005-012031(JP,A)
【文献】特開2001-196782(JP,A)
【文献】特開昭62-177998(JP,A)
【文献】特開昭60-257198(JP,A)
【文献】特開2006-205524(JP,A)
【文献】特開2012-079806(JP,A)
【文献】特開2019-004003(JP,A)
【文献】特開2017-085019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を反射する反射層と、
少なくとも2層の電波吸収性能を有する電波吸収層と、
各前記電波吸収層毎に前記反射層側に配置された発泡材であるスペーサ層と、
を備えており、
最も前記反射層側に配置された前記スペーサ層は前記反射層の電波到来側の面に固定されており、
各前記電波吸収層の少なくとも一層は電波吸収材料が分散された抵抗体であ
り、少なくとも一層は抵抗膜である電波吸収体。
【請求項2】
前記反射層から電波到来側に最も離れた位置に配置された前記電波吸収層は前記抵抗体である請求項
1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
電波を反射する反射層と、
少なくとも2層の電波吸収性能を有する電波吸収層と、
各前記電波吸収層毎に前記反射層側に配置されたスペーサ層と、
を備えており、
最も前記反射層側に配置された前記スペーサ層は前記反射層に隣接しており、
各前記電波吸収層は、少なくとも一層が電波吸収材料を分散した抵抗体であり、少なくとも一層が抵抗膜である電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の電波吸収体を開示している。この電波吸収体は、電波反射体と、誘電体層と、抵抗層とを備え、この順に積層されている。この電波吸収体は、電波を吸収する状態に配置する際、抵抗層を電波到来側に位置させる。電波反射体は電波を反射する。この電波反射体は、鋼板等の金属板、又は、主に無機材料からなる板状の基体と、この基体の電波到来側の面上に配置された導電性膜とから構成されたものである。誘電体層は電波反射体の電波到来側に配置される。この誘電体層は主に無機材料によって構成されている。抵抗層は誘電体層の電波到来側に配置される。この抵抗層は、主に無機材料からなる板状又はシート状の基体と、基体上に形成された抵抗膜とから構成されている。誘電体層の厚さ、抵抗層の基体の厚さ、抵抗層の抵抗膜の面抵抗値は、電波吸収体が所定の周波数領域において所望の電波吸収特性を発揮できるように、夫々所定の値に設定される。この電波吸収体は、電波反射体からλ/4(λは電波の波長)だけ離れた位置に面抵抗値377Ω/□を有する抵抗膜を配置し、λ/4型電波吸収体と同様の原理で電波を吸収する。つまり、この電波吸収体は、周期的な所定の周波数において減衰量のピークが存在する電波吸収特性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の電波吸収体は、減衰量のピークの間の周波数帯域において、減衰量が急激に減少する。このため、この電波吸収体は狭い周波数帯域にしか対応することができない。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、広い周波数帯域に対応することができる電波吸収体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の電波吸収体は、
電波を反射する反射層と、
電波吸収性能を有する電波吸収層と、
前記反射層と前記電波吸収層との間に配置されたスペーサ層と、
を備えており、
前記電波吸収層は電波吸収材料が分散された抵抗体である。
【0007】
第2発明の電波吸収体は、
電波を反射する反射層と、
少なくとも2層の電波吸収性能を有する電波吸収層と、
各前記電波吸収層毎に前記反射層側に配置されたスペーサ層と、
を備えており、
各前記電波吸収層の少なくとも一層は電波吸収材料が分散された抵抗体である。
【0008】
第1発明及び第2発明の電波吸収体は、電波吸収層が電波吸収材料を分散した抵抗体であるため、λ/4電波吸収体とは異なる原理で電波を吸収する。このため、この電波吸収体は、広い周波数帯域において、減衰量の周期的なピークがはっきりと現れず、周期的な落ち込みもはっきりと現れない。つまり、この電波吸収体は、広い周波数帯域において減衰量の顕著な周期性がなく、明確な落ち込みがないため、広い周波数帯域に対応することができる。
【0009】
また、第2発明の電波吸収体は、広い周波数帯域において減衰量の顕著な周期性がなく、この広い周波数帯域に対応することができるとともに、1GHz帯(低周波帯域)における減衰量を大きくすることができる。
【0010】
なお、第1発明及び第2発明における「電波を反射する反射層」とは、反射層以外の層に比べて反射性能が高い層のことを言う。また、第1発明及び第2発明における「電波吸収性能を有する電波吸収層」とは、電波吸収層以外の層に比べて電波吸収性能が高い層のことを言う。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の電波吸収体の一部を切り欠いた斜視図である。
【
図5】実施例4の電波吸収体の一部を切り欠いた斜視図ある。
【
図9】実施例1の電波吸収体の減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【
図10】実施例2の電波吸収体の減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【
図11】実施例3の電波吸収体の減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【
図12】実施例4の電波吸収体の減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【
図13】実施例5の電波吸収体の減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【
図14】実施例6の電波吸収体の減衰量の周波数特性を示すグラフである。
【
図15】λ/4型電波吸収体の減衰量と実施例3及び実施例4の電波吸収体の減衰量とを比較した周波数特性グラフである。
【
図16】実施例2、実施例3、及び実施例4の各電波吸収体の減衰量を比較した周波数特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0013】
第2発明の電波吸収体において、各電波吸収層の少なくとも一層は抵抗膜であるとよい。この場合、電波吸収体は厚みを薄くすることができる。
【0014】
第2発明の電波吸収体において、反射層から電波到来側に最も離れた位置に配置された前記電波吸収層は前記抵抗体であるとよい。この場合、電波吸収体に強力な電波が照射されてもこの抵抗体の発熱が低く抑えられる。このため、電波吸収体の電波到来側の表面の温度上昇が抑えられ、電波吸収体の電波到来側の表面に触れてもやけどの心配がない。また、抵抗体の電波到来側の表面に傷ができても、電波吸収材料を分散した抵抗体であるため、電波吸収性能の影響が少ない。また、電波吸収体の電波到来側の表面が電波吸収材料を分散した抵抗体であるため、この抵抗体は、酸化しにくく、長期的に安定して電波を吸収することができる。
【0015】
次に、本発明の電波吸収体を具体化した実施例1~6について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<実施例1>
実施例1の電波吸収体10は、
図1及び
図2に示すように、一辺が600mmの正方形状の平板であり、厚さが約16mmである。この電波吸収体10は、反射層11、スペーサ層13、電波吸収層15、及び仕上げ層17を備えており、この順に積層されている。この電波吸収体10は、電波を吸収する状態に配置する際、仕上げ層17を電波到来側に位置させる。
図2から
図4において、電波進行方向を矢印1で示す。
【0017】
反射層11は一辺が600mmの正方形状のアルミシートである。反射層11は、スペーサ層13、電波吸収層15、及び仕上げ層17に比べて反射性能が高い。スペーサ層13は、一辺が600mmの正方形状の平板であり、厚さX1が約5mmである。このスペーサ層13は、炭酸カルシウム発泡材であり、誘電率が空気と略等しく1程度に形成されている。このスペーサ層13は反射層11の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。このスペーサ層13は、反射層11と電波吸収層15との間に配置され、反射層11と電波吸収層15との距離を約5mmに定めている。
【0018】
電波吸収層15は、一辺が600mmの正方形状に平板であり、厚さX2が約10mmの抵抗体である。この抵抗体は基材であるウレタン材に電波吸収材料であるカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)を分散させたものである。この抵抗体はカーボンブラックが分散した溶液にウレタン材を浸漬して充分に溶液を吸収させた後に絞って乾燥させたものである。この抵抗体はスペーサ層13の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。この抵抗体は電磁波のエネルギーを熱交換することによって電波を吸収する。電波吸収層15は、反射層11、スペーサ層13、及び仕上げ層17に比べて電波吸収性能が高い。
【0019】
仕上げ層17は、ガラス繊維から作られた織布であり、耐熱性に優れている。この仕上げ層17は電波吸収層15である抵抗体の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。このように電波吸収体10は電波到来側の面が仕上げ層17であるガラス繊維から作られた織布によって覆われている。
【0020】
<実施例2>
実施例2の電波吸収体20は、
図3に示すように、スペーサ層23の厚さX1が約10mmである点が実施例1の電波吸収体と相違する。このため、この電波吸収体20は、一辺が600mmの正方形状の平板であり、厚さが約21mmである。他の点は実施例1の電波吸収体10と同様であり、同じ構成は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0021】
この電波吸収体20のスペーサ層23も炭酸カルシウム発泡材であり、誘電率が空気と略等しく1程度に形成されている。このスペーサ層23は反射層11の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。このスペーサ層23は、反射層11と電波吸収層15との間に配置され、反射層11と電波吸収層15との距離を約10mmに定めている。反射層11は、スペーサ層23、電波吸収層15、及び仕上げ層17に比べて反射性能が高い。また、電波吸収層15は、反射層11、スペーサ層23、及び仕上げ層17に比べて電波吸収性能が高い。
【0022】
<実施例3>
実施例3の電波吸収体30は、
図4に示すように、電波吸収層35の厚みが約20mmである点が実施例2の電波吸収体20と相違する。このため、この電波吸収体30は、一辺が600mmの正方形状の平板であり、厚さが約31mmである。他の点は実施例2の電波吸収体20と同様であり、同じ構成は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0023】
この電波吸収体30の電波吸収層35も基材であるウレタンに電波吸収材料であるカーボンブラックを分散させた抵抗体である。この抵抗体もカーボンブラックが分散した溶液にウレタンを浸漬して充分に溶液を吸収させた後に絞って乾燥させたものである。この抵抗体はスペーサ層23の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。この抵抗体は電磁波のエネルギーを熱交換することによって電波を吸収する。電波吸収層35は、反射層11、スペーサ層23、及び仕上げ層17に比べて電波吸収性能が高い。また、反射層11は、スペーサ層23、電波吸収層35、及び仕上げ層17に比べて反射性能が高い。
【0024】
<実施例4>
実施例4の電波吸収体40は、
図5及び
図6に示すように、一辺が600mmの正方形状の平板であり、厚さが約26mmである。この電波吸収体40は、反射層41、第1スペーサ層43A、第1電波吸収層45A、第2スペーサ層43B、第2電波吸収層45B、及び仕上げ層47を備えており、この順に積層されている。この電波吸収体40は、電波を吸収する状態に配置する際、仕上げ層47を電波到来側に位置させる。
図6から
図8において、電波進行方向を矢印1で示す。
【0025】
反射層41は一辺が600mmの正方形状のアルミシートである。反射層41は、第1スペーサ層43A、第1電波吸収層45A、第2スペーサ層43B、第2電波吸収層45B、及び仕上げ層47に比べて反射性能が高い。第1スペーサ層43Aは、一辺が600mmの正方形状の平板であり、厚さX1が約5mmである。この第1スペーサ層43Aは、炭酸カルシウム発泡材であり、誘電率が空気と略等しく1程度に形成されている。この第1スペーサ層43Aは反射層41の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。この第1スペーサ層43Aは、反射層41と第1電波吸収層45Aとの間に配置され、反射層41と第1電波吸収層45Aとの距離を約5mmに定めている。
【0026】
第1電波吸収層45Aは、一辺が600mmの抵抗膜である。この抵抗膜は基材である厚さ1mm以下のフィルム状のポリエチレンテレフタレート材の表面に抵抗材料をインク化して塗布して抵抗膜層を形成したものである。この抵抗膜は表面抵抗値が190Ω/□に設定している。この抵抗膜は電磁波のエネルギーを熱交換することによって電波を吸収する。第1電波吸収層45Aは、反射層41、第1スペーサ層43A、第2スペーサ層43B、及び仕上げ層47に比べて電波吸収性能が高い。
【0027】
第2スペーサ層43Bは、一辺が600mmの正方形状の平板であり、厚さX3が約10mmである。この第2スペーサ層43Bも、炭酸カルシウム発泡材であり、誘電率が空気と略等しく1程度に形成されている。この第2スペーサ層43Bは第1電波吸収層45Aの電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。この第2スペーサ層43Bは、第1電波吸収層45Aである抵抗膜と第2電波吸収層45Bである抵抗体との間に配置され、第1電波吸収層45Aと電波吸収層との距離を約10mmに定めている。
【0028】
第2電波吸収層45Bは、一辺が600mmの正方形状に平板であり、厚さX4が約10mmの抵抗体である。この抵抗体は基材であるウレタン材に電波吸収材料であるカーボンブラックを分散させたものである。この抵抗体はカーボンブラックが分散した溶液にウレタン材を浸漬して充分に溶液を吸収させた後に絞って乾燥させたものである。この抵抗体は第2スペーサ層43Bの電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。この抵抗体は電磁波のエネルギーを熱交換することによって電波を吸収する。第2電波吸収層45Bは、反射層41、第1スペーサ層43A、第2スペーサ層43B、及び仕上げ層47に比べて電波吸収性能が高い。
【0029】
仕上げ層47は、ガラス繊維から作られた織布であり、耐熱性に優れている。この仕上げ層47は第2電波吸収層45Bである抵抗体の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。このように電波吸収体40は電波到来側の面が仕上げ層47であるガラス繊維から作られた織布によって覆われている。
【0030】
<実施例5>
実施例5の電波吸収体50は、
図7に示すように、第1電波吸収層55Aが抵抗体である点が実施例4の電波吸収体40と相違する。この第1電波吸収層55Aは、一辺が600mmの正方形状に平板であり、厚さX2が約10mmである。このため、この電波吸収体50は、一辺が600mmの正方形状に平板であり、厚さが約36mmである。他の点は実施例4の電波吸収体40と同様であり、同じ構成は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0031】
この電波吸収体50の第1電波吸収層55Aである抵抗体も基材であるウレタン材に電波吸収材料であるカーボンブラックを分散させたものである。この抵抗体もカーボンブラックが分散した溶液にウレタン材を浸漬して充分に溶液を吸収させた後に絞って乾燥させたものである。この抵抗体は第1スペーサ層43Aの電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。この抵抗体は電磁波のエネルギーを熱交換することによって電波を吸収する。第1電波吸収層55Aは、反射層41、第1スペーサ層43A、第2スペーサ層43B、及び仕上げ層47に比べて電波吸収性能が高い。また、反射層41は、第1スペーサ層43A、第1電波吸収層55A、第2スペーサ層43B、第2電波吸収層45B、及び仕上げ層47に比べて反射性能が高い。
【0032】
<実施例6>
実施例6の電波吸収体は、
図8に示すように、第1スペーサ層63Aの厚さX1が10mmである点、第2スペーサ層63Bの厚さX3が5mmである点、及び第2電波吸収層65Bが抵抗膜である点が実施例5の電波吸収体50と相違する。このため、この電波吸収体60は、一辺が600mmの正方形状に平板であり、厚さが約26mmである。他の点は実施例5の電波吸収体50と同様であり、同じ構成は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0033】
この電波吸収体60の第1スペーサ層63A及び第2スペーサ層63Bも炭酸カルシウム発泡材であり、誘電率が空気と略等しく1程度に形成されている。第1スペーサ層63Aは反射層41の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。この第1スペーサ層63Aは、反射層41と第1電波吸収層55Aとの間に配置され、反射層41と第1電波吸収層55Aである抵抗体との距離を約10mmに定めている。反射層41は、第1スペーサ層63A、第1電波吸収層55A、第2スペーサ層63B、第2電波吸収層65B、及び仕上げ層47に比べて反射性能が高い。第1電波吸収層55Aは、反射層41、第1スペーサ層63A、第2スペーサ層63B、及び仕上げ層47に比べて電波吸収性能が高い。
【0034】
第2スペーサ層63Bは第1電波吸収層55Aである抵抗体の電波到来側の面に合成ゴム系接着剤によって接着固定されている。この第2スペーサ層63Bは、第1電波吸収層55Aである抵抗体と第2電波吸収層65Bである抵抗膜との間に配置され、第1電波吸収層55Aと第2電波吸収層65Bとの距離を約5mmに定めている。
【0035】
この電波吸収体60の第2電波吸収層65Bである抵抗膜は基材である厚さ1mm以下のフィルム状のポリエチレンテレフタレート材の表面に抵抗材料をインク化して塗布して抵抗膜層を形成したものである。この抵抗膜は表面抵抗値が190Ω/□に設定している。この抵抗膜は電磁波のエネルギーを熱交換することによって電波を吸収する。第2電波吸収層65Bは、反射層41、第1スペーサ層63A、第2スペーサ層63B、及び仕上げ層47に比べて電波吸収性能が高い。
【0036】
次に実施例1から実施例6の各電波吸収体10,20,30,40,50,60の減衰量の周波数特性グラフを
図9から
図14に示す。また、λ/4型電波吸収体の減衰量と実施例3及び実施例4の電波吸収体30,40の減衰量とを比較した周波数特性グラフを
図15に示す。
【0037】
これらグラフから実施例1から実施例6の各電波吸収体10,20,30,40,50,60は1GHzから40GHzの周波数において、減衰量の周期的なピークがはっきりと現れず、周期的な落ち込みもはっきりと現れないことがわかる。このことは、
図15に示すように、1.2GHzから11.2GHzにおいて、λ/4型電波吸収体の減衰量が周期的に2つのピークが存在するのに対し、実施例3及び実施例4の電波吸収体30,40の減衰量は周期的なピークがはっきりと現れていないことが明らかである。なお、このλ/4型電波吸収体は電波反射体から25mm離れた位置に面抵抗値377Ω/□を有する抵抗膜を配置したものである。
【0038】
このように、実施例1から実施例6の各電波吸収体10,20,30,40,50,60は、広い周波数帯域において減衰量の顕著な周期性がなく、明確な落ち込みがないため、広い周波数帯域に対応することができる。
【0039】
次に、実施例2、実施例3、及び実施例4の各電波吸収体20,30,40の減衰量の周波数特性グラフを
図16に示す。
図16において、電波吸収体20の減衰量の周波数特性を示すグラフはG1であり、電波吸収体30の減衰量の周波数特性を示すグラフはG2であり、電波吸収体40の減衰量の周波数特性を示すグラフはG3である。これらグラフから電波吸収体40の方が電波吸収体20,30に比べて、1.2GHzから1.5GHZ付近の1GHz帯(低周波帯域)における減衰量が大きいことがわかる。つまり、電波吸収層15,35とスペーサ層23とをそれぞれ1層ずつ積層した電波吸収体20,30に比べて、電波吸収層45A,45Bとスペーサ層43A,43Bの夫々2層を交互に積層した電波吸収体40の方が低周波帯域において減衰量が大きくなると考えられる。
【0040】
実施例1から実施例6の電波吸収体10,20,30,40,50,60は、屋内壁面や天井面などに取り付けられる。この際、これら電波吸収体10,20,30,40,50,60は、反射層11,41が屋内壁面側、天井面側に配置される。これら電波吸収体10,20,30,40,50,60は、反射層11,41を備えているため、取り付けられる屋内壁面や天井面等が金属体である必要がない。つまり、これら電波吸収体10,20,30,40,50,60は後付けの内装材として利用することができ、シールドルームを形成することができる。
【0041】
また、これら電波吸収体10,20,30,40,50,60は、600mmの正方形状の平板であるため、屋内壁面や天井の広さに応じた取付け個数にしたり、屋内壁面や天井の形状に応じた取付け位置にしたりすることによって、あらゆる広さ形状に対応することができる。
【0042】
また、これら電波吸収体10,20,30,40,50,60の屋内壁面や天井等への取付け方法は、以下の方法が考えられる。
・接着剤を利用して取付ける。
・磁力を利用して着脱自在に取付ける。
・面ファスナーを利用して着脱自在に取付ける。
・吸盤を利用して着脱自在に取付ける。
・フックなどを利用して吊り下げて着脱自在に取付ける。
・自立可能に衝立状にして移動自在に据え置く。
・ジョイナー材を利用して取付ける。
・ガラスクロス後貼工法にて取付ける。
【0043】
また、これら電波吸収体10,20,30,40,50,60は以下の使用箇所が考えられる。
・屋内壁面及び天井面等の内装部(既設屋内の電波環境の整備目的の他にシールドルームの基本性能向上や簡易電波暗室化を図る。)
・移動式電波吸収衝立
・電子電気機器格納ラック等の内部
・電波通信設備
・電波実験室設備
・医療電子電気設備
【0044】
以上説明したように、実施例1から実施例6の電波吸収体10,20,30,40,50,60は、電波を反射する反射層11,41であるアルミシートと、電波吸収性能を有する電波吸収層15,35,45B,55Aと、反射層11,41と電波吸収層15,35,45B,55Aとの間に配置されたスペーサ層13,23,43A,43B,63Aである誘電率が1程度の炭酸カルシウム発泡材と、を備えており、電波吸収層15,35,45B,55Aは電波吸収材料であるカーボンブラックが分散された抵抗体である。
【0045】
また、実施例4から実施例6の電波吸収体40,50,60は、電波を反射する反射層41であるアルミシートと、電波吸収性能を有する第1電波吸収層45A,55A及び第2電波吸収層45B,65Bと、第1電波吸収層45A,55Aの反射層41側に配置された第1スペーサ層43A,63A及び第2電波吸収層45B,65Bの反射層41側に配置された第2スペーサ層43B,63Bである誘電率が1程度の炭酸カルシウム発泡材と、を備えており、第1電波吸収層55A及び第2電波吸収層45Bは電波吸収材料であるカーボンブラックが分散された抵抗体である。
【0046】
実施例1から実施例6の電波吸収体10,20,30,40,50,60は、電波吸収層15,35,45B,55Aがカーボンブラックを分散した抵抗体であるため、λ/4電波吸収体とは異なる原理で電波を吸収する。このため、これら電波吸収体10,20,30,40,50,60は、広い周波数帯域において、減衰量の周期的なピークがはっきりと現れず、周期的な落ち込みもはっきりと現れない。つまり、これら電波吸収体10,20,30,40,50,60は、広い周波数帯域において減衰量の顕著な周期性がなく、明確な落ち込みがないため、広い周波数帯域に対応することができる。
【0047】
また、実施例4から実施例6の電波吸収体40,50,60は、広い周波数帯域において減衰量の周期性がなく、この広い周波数帯域に対応することができるとともに、1GHz帯(低周波帯域)における減衰量を大きくすることができる。
【0048】
また、実施例4の電波吸収体40において第1電波吸収層45Aは抵抗膜であり、実施例6の電波吸収体60において第2電波吸収層65Bは抵抗膜である。これら抵抗膜は基材である厚さ1mm以下のフィルム状のポリエチレンテレフタレート材の表面に抵抗材料をインク化して塗布して抵抗膜層を形成したものである。これによって、これら電波吸収体40,60は厚みを薄くすることができる。
【0049】
また、実施例4と実施例5の電波吸収体40,50において、反射層41であるアルミシートから最も離れた位置に配置された第2電波吸収層45Bは電波吸収材料であるカーボンブラックが分散された抵抗体である。このため、これら電波吸収体40,50に強力な電波が照射されても第2電波吸収層45Bである抵抗体の発熱が低く抑えられる。このため、これら電波吸収体40,50の電波到来側の表面の温度上昇が抑えられ、これら電波吸収体40,50の電波到来側の表面に触れてもやけどの心配がない。また、第2電波吸収層45Bの電波到来側の表面に傷ができても、カーボンブラックを分散した抵抗体であるため、電波吸収性能の影響が少ない。また、これら電波吸収体40,50の電波到来側の表面がカーボンブラックを分散した抵抗体であるため、酸化しにくく、長期的に安定して電波を吸収することができる。さらに、電波到来側の表面に位置する第2電波吸収層を基材である厚さ1mm以下のフィルム状のポリエチレンテレフタレート材の表面に抵抗材料をインク化して塗布して抵抗膜層を形成した抵抗膜にしようとすると、その抵抗を大きくする必要があるが、抵抗膜を反射の特性が出ないように抵抗値をあげて一定にすることは製造が困難である。
【0050】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1から実施例6に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1から実施例6では、スペーサ層が炭酸カルシウム発泡剤であったが、誘電率が1程度であれば、スチロール材、ウレタン材、ガラス繊維材、樹脂材などであってもよい。また、スペーサ層を薄くする場合、誘電率が高い材料を使用してスペーサ層を形成してもよい。
(2)実施例1から実施例6では、電波吸収層の抵抗体が基材であるウレタン材に電波吸収材料であるカーボンブラックを分散させたものであったが、基材は、ウレタン材以外の発泡スチロール等の発泡樹脂材であってもよく、コンクリート・モルタル材、石膏材などであってもよい。また、電波吸収材料は、スピネルフェライト、六方晶フェライト、ガーネットフェライト等のフェライト系であってもよい。
(3)実施例4及び実施例6では、抵抗膜は基材であるポリエチレンテレフタレート材の表面に抵抗材料をインク化して塗布して抵抗膜層を形成したものであったが、基材は、表面が平滑であり、導電性を有しない素材であればよく、アクリル材、ポリカーボネート材等であってもよい。また、抵抗膜層は、金、銀、アルミニウム、ステンレス、チタン、クロム、酸化インジウムスズ等を蒸着させて形成してもよく、金属粉、カーボン、フェライト等を塗布して形成してもよい。
(4)実施例4及び実施例6では、抵抗膜は表面抵抗値が190Ω/□に設定したが、抵抗膜の表面抵抗値は約50Ω/□から400Ω/□の範囲で適宜設定するとよい。
(5)実施例1から実施例6の電波吸収体のスペーサ層の厚さ、電波吸収層の抵抗体の厚さは適宜変更してもよい。
(6)実施例1から実施例6の電波反射体は一辺が600mmの正方形状の平板であったが、一辺の大きさは600mmに限らない。また、電波反射体は、正方形状に限らず、長方形状等の任意形状の平板であってもよい。
(7)実施例1から実施例6の電波反射体は一辺が600mmの正方形状の平板にして後付けの内装材として利用することができたが、屋内壁面や天井面等を金属体として、その表面側にスペーサ層、電波吸収層を積層して実施例1から実施例6等の電波吸収体にしてもよい。
(8)実施例1から実施例6では、仕上げ層を備えていたが、仕上げ層を備えていなくてもよい。
(9)実施例1から実施例3では、電波吸収層とスペーサ層とを一層ずつ積層しており、実施例4から実施例5では、電波吸収層とスペーサ層との夫々を2層ずつ交互に積層したが、電波吸収層とスペーサ層との夫々を3層以上ずつ交互に積層してもよい。この場合、複数の電波吸収層のうち少なくとも一層は抵抗体である。
【符号の説明】
【0051】
10,20,30,40,50,60…電波吸収体
11,41…反射層
15,35,45A,45B,55A,65B…電波吸収層(15,35,45B,55A…抵抗体、45A,65B…抵抗膜)
…スペーサ層