(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】植物病原細菌の検出および識別方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20240301BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20240301BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240301BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20240301BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240301BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240301BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240301BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N15/56 ZNA
C12Q1/04
C12Q1/689 Z
C12Q1/686 Z
C12N15/09 200
C12N15/11 Z
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2020525733
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024005
(87)【国際公開番号】W WO2019244860
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018116963
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391011076
【氏名又は名称】ホクサン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】増田 税
(72)【発明者】
【氏名】畑谷 達児
(72)【発明者】
【氏名】古田 和義
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】Mol. Cells.,1998年,Vol.8, No.3,p.280-285
【文献】平成30年度日本植物病理学会大会 プログラム・講演要旨予稿集,2018年03月12日,p.85
【文献】日本植物病理学会報,2015年02月25日,Vol.81, No.1,p.92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペクトバクテリウム属細菌(Pectobacterium)を検出するための核酸プローブ
として、対応する菌種が異なる複数の核酸プローブを含むプローブセットであって、前記核酸プローブが下記(i)または(ii)の塩基配列のうちの21mer以上を含む、前記プローブセット;
(i)ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ末端から1~40番目のアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(ii)(i)と相補的な塩基配列。
【請求項2】
前記ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ末端から1~40番目のアミノ酸配列が、配列番号1に示す配列である、請求項1に記載のプローブ
セット。
【請求項3】
前記ペクトバクテリウム属細菌が、ペクトバクテリウム ワサビエ(Pectobacterium wasabie (Pw))、ペクトバクテリウム カロトボラム 亜種 カロトボラム(Pectobacterium carotovorum subspecies carotovorum (Pcc))、ペクトバクテリウム アトロセプティカ(Pectobacterium atroseptica (Pa))およびペクトバクテリウム カロトボラム 亜種 ブラジリエンス(Pectobacterium carotovorum subspecies brasiliense (Pcb))からなる群から選択される1以上である、請求項1または請求項2に記載のプローブ
セット。
【請求項4】
前記ペクトバクテリウム属細菌が、ジャガイモの黒あし病または軟腐病の病原細菌である、請求項1~3のいずれかに記載のプローブ
セット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のプローブ
セットを検出する工程を有する、ペクトバクテリウム属細菌の検出方法。
【請求項6】
さらに、前記プローブ
セットをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅させる工程を有する、請求項5に記載の検出方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のプローブ
セットを含む、ペクトバクテリウム属細菌検出用キット。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載のプローブ
セットを固定した、ペクトバクテリウム属細菌検出用担体。
【請求項9】
ペクトバクテリウム属細菌を検出するためのPCRプライマー
として、対応する菌種が異なる複数のプライマーを含むプライマーセットであって、前記PCRプライマーがペクトバクテリウム属細菌(Pectobacterium)のセルラーゼBのアミノ末端から1~40番目のアミノ酸配列をコードする塩基配列のうちの21mer以上を含む、前記プライマーセット。
【請求項10】
前記ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ末端から1~40番目のアミノ酸配列が、配列番号1に示す配列である、請求項9に記載のプライマー
セット。
【請求項11】
前記ペクトバクテリウム属細菌が、ペクトバクテリウム ワサビエ(Pectobacterium wasabie (Pw))、ペクトバクテリウム カロトボラム 亜種 カロトボラム(Pectobacterium carotovorum subspecies carotovorum (Pcc))、ペクトバクテリウム アトロセプティカ(Pectobacterium atroseptica (Pa))およびペクトバクテリウム カロトボラム 亜種 ブラジリエンス(Pectobacterium carotovorum subspecies brasiliense (Pcb))からなる群から選択される1以上である、請求項9または請求項10に記載のプライマー
セット。
【請求項12】
前記ペクトバクテリウム属細菌が、ジャガイモの黒あし病または軟腐病の病原微生物である、請求項9~11のいずれかに記載のプライマー
セット。
【請求項13】
下記の第1のプライマー
セットと、前記第1のプライマー
セットと対で使用される下記の第2のPCRプライマーとを含むPCRプライマーセット;
第1のプライマー
セット:請求項9~12のいずれかに記載のプライマー
セット、
第2のプライマー:ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ末端から41番目以降のアミノ酸配列に相当する塩基配列と相補的な塩基配列の一部を含む、PCRプライマー。
【請求項14】
前記ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ末端から41番目以降のアミノ酸配列が、配列番号2に示す配列である、請求項13に記載のPCRプライマーセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病原細菌の検出および識別方法に関し、特に、ペクトバクテリウム属細菌(Pectobacterium)を、その菌種を識別しつつ検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペクトバクテリウム属細菌は、植物に病害を引き起こす細菌として知られている。例えば、ペクトバクテリウム ワサビエ(Pectobacterium wasabie)(以下「Pw」と略記する場合がある。)やペクトバクテリウム アトロセプティカ(Pectobacterium atroseptica)(以下「Pa」と略記する場合がある。)、ペクトバクテリウム カロトボラム 亜種 ブラジリエンス(Pectobacterium carotovorum subspecies brasiliense)(以下「Pcb」と略記する場合がある。)は、ジャガイモの黒あし病を引き起こす。黒あし病を発病したジャガイモは、根茎の腐敗や地上部の萎凋などの症状を呈する。また、ペクトバクテリウム カロトボラム 亜種 カロトボラム(Pectobacterium carotovorum subspecies carotovorum (Pcc))(以下「Pcc」と略記する場合がある。)には、上述のジャガイモ黒あし病の他、ダイコン、ハクサイ、キャベツ、カリフラワー、レタス、ショウガ、セロリ、パセリ、ネギ、タマネギ、ニンジン、ジャガイモ、トマト、ピーマン、チンゲンサイ、コマツナ、ニラ、カブ、ニンニク等の多数の農作物において軟腐病を引き起こすものも含まれている。軟腐病を発病した農作物では、地上部や地下部の新鮮な柔組織(果実、花、葉、茎、根など)が侵され、軟化腐敗して悪臭を放つようになる。
【0003】
係る病害の発生を予防ないし最小限に抑えるためには、ペクトバクテリウム属細菌を迅速に検出し、その結果に基づいた効果的な防除、発生原因の究明、発生予防等の対策をとる必要がある。従来、ペクトバクテリウム属細菌の検出方法としては、増菌PCR法が用いられている。これは、土壌や植物組織等の試料に含まれる微生物を、まず培養して増やし、そこから抽出したDNAを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことにより、当該微生物を検出する方法である(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】R. Czajkowski et al., Annals of Applied Biology 166 (2015), pp.18-38
【文献】青野ら、北日本病虫研報、第67巻、第85-89頁、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1や非特許文献2に記載されるような従来法では、検出対象菌種ごとに別個にPCRを行う必要があり、迅速性や簡便性に欠けるという課題があった。その理由としては、後述する実施例7で示すように、従来法のPCRでは増幅対象とする遺伝子が菌種ごとに異なるため、単一反応系でPCRを行った場合は特異的な増幅が著しく減少してしまい、判定に足る検出感度を達成できないことが挙げられる。本発明は係る課題を解決するために成されたものであって、ペクトバクテリウム属細菌を、単一反応系であっても、その菌種を識別しつつ検出できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ末端から1~40番目が、菌種に特有の配列であることを見出した。以下、本発明において、ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ末端から1~40番目のアミノ酸配列を「PecセルB非保存領域」といい、同41番目以降のアミノ酸配列を「PecセルB保存領域」という場合がある。
【0007】
そして、PecセルB非保存領域に相当する塩基配列の全部または一部を検出することにより、単一反応系であっても、ペクトバクテリウム属細菌を、その菌種を識別しつつ検出できること、および、Pccをも識別しつつ検出できることを見出した。そこで、この知見に基づいて、下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)本発明に係る核酸プローブは、ペクトバクテリウム属細菌を検出するための核酸プローブであって、下記(i)または(ii)の塩基配列の全部または一部を含む;(i)PecセルB非保存領域に相当する塩基配列、(ii)(i)と相補的な塩基配列。
【0009】
(2)本発明に係る核酸プローブにおいて、PecセルB非保存領域は、配列番号1に示すものであってもよい。
【0010】
(3)本発明に係る核酸プローブにおいて、ペクトバクテリウム属細菌は、Pw、Pcc、PaおよびPcbからなる群から選択される1以上であってもよい。
【0011】
(4)本発明に係る核酸プローブにおいて、ペクトバクテリウム属細菌は、ジャガイモの黒あし病または軟腐病の病原細菌であってもよい。
【0012】
(5)本発明に係るペクトバクテリウム属細菌の検出方法は、本発明に係る核酸プローブを検出する工程を有する。
【0013】
(6)本発明に係るペクトバクテリウム属細菌の検出方法は、さらに、本発明に係る核酸プローブをPCRによって増幅させる工程を有するものであってもよい。
【0014】
(7)本発明に係るペクトバクテリウム属細菌検出用キットは、本発明に係る核酸プローブを含む。
【0015】
(8)本発明に係るペクトバクテリウム属細菌検出用担体は、本発明に係る核酸プローブを固定したものである。
【0016】
(9)本発明に係るPCRプライマーは、ペクトバクテリウム属細菌を検出するためのPCRプライマーであって、PecセルB非保存領域に相当する塩基配列の全部または一部を含む。
【0017】
(10)本発明に係るPCRプライマーにおいて、PecセルB非保存領域は、配列番号1に示すものであってもよい。
【0018】
(11)本発明に係るPCRプライマーにおいて、ペクトバクテリウム属細菌は、Pw、Pcc、PaおよびPcbからなる群から選択される1以上であってもよい。
【0019】
(12)本発明に係るPCRプライマーにおいて、ペクトバクテリウム属細菌は、ジャガイモの黒あし病または軟腐病の病原細菌であってもよい。
【0020】
(13)本発明に係るPCRプライマーセットは、下記の第1のPCRプライマーと、前記第1のPCRプライマーと対で使用される下記の第2のPCRプライマーとを含む;第1のプライマー:本発明に係るPCRプライマー、第2のプライマー:PecセルB保存領域に相当する塩基配列と相補的な塩基配列の一部を含む、PCRプライマー。
【0021】
(14)本発明に係るPCRプライマーセットにおいて、PecセルB保存領域は、配列番号2に示すものであってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ペクトバクテリウム属細菌を、単一の反応系であっても、その菌種を識別しつつ検出することができる。よって、本発明によれば、ペクトバクテリウム属細菌を菌種レベルで迅速・簡便に検出することができ、もって当該細菌に起因する植物病害の発生予防や被害抑制に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ酸配列マルチプルアラインメントを示す図である。図中、囲まれた部分がPecセルB非保存領域である。また、アミノ酸配列中の「.」の表記は最上段のアミノ酸と同じアミノ酸であることを示す。
【
図2】ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼB遺伝子(celB)の5’末端から1~120merにおいて、フォワードプライマーの設計領域(下線部)を示す図である。
【
図3】ディケヤ属細菌およびペクトバクテリウム属細菌の各種菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、ディケヤ属細菌のペクチン酸リアーゼ遺伝子(pelADE)またはペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼB遺伝子(celB)を増幅対象遺伝子として行ったPCRの産物のアガロースゲル電気泳動図である。
【
図4】左側が、4菌種検出用メンブレンにおける、各DNAのスポット位置を示す写真である。右側が、6菌種検出用メンブレンにおける、各DNAのスポット位置を示す写真である。
【
図5】上側が、ディケヤ属細菌およびペクトバクテリウム属細菌の各菌種または菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、7種類のプライマーを混合して単一の反応系で行ったPCRの産物を、4菌種検出用メンブレンで検出した結果を示す写真である。下側が、当該PCR産物のアガロースゲル電気泳動図である。
【
図6】上側が、ディケヤ属細菌およびペクトバクテリウム属細菌の各菌種または菌株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、8種類のプライマーを混合して単一の反応系で行ったPCRの産物を、6菌種検出用メンブレンで検出した結果を示す写真である。下側が、当該PCR産物のアガロースゲル電気泳動図である。
【
図7】従来型4菌種検出用メンブレンにおける、各DNAのスポット位置を示す写真である。
【
図8】Pw Ecc-2株の接種により、種イモが腐敗する症状を呈したジャガイモの苗における、切片の採取位置を示す写真である。
【
図9】上側が、ジャガイモ罹病組織から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、従来用いられている8種類のプライマーを混合して単一の反応系で行ったPCRの産物を、従来型4菌種検出用メンブレンで検出した結果を示す写真である。下側が、当該PCR産物のアガロースゲル電気泳動図である。
【
図10】上側が、ジャガイモ罹病組織から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、7種類のプライマーを混合して単一の反応系で行ったPCRの産物を、4菌種検出用メンブレンで検出した結果を示す写真である。下側が、当該PCR産物のアガロースゲル電気泳動図である。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明において「単一の反応系」とは、一の相(多くの場合は液相)において一の反応条件下で行う反応をいう。また、「菌種を識別しつつ検出する」とは、微生物を、それが属する種を特定できる態様で、検出することをいう。
【0025】
本発明において、「ペクトバクテリウム属細菌」は、ペクトバクテリウム属に属する細菌をいう。係る細菌は、上述のとおりジャガイモの黒あし病や、種々の農作物の軟腐病を引き起こす病原細菌であることが知られている。その種としては、上述のPw、Pa、Pcb、Pccなどを例示することができる。
【0026】
PecセルB非保存領域は、菌種に特有の配列であるから、これに相当する塩基配列またはそれと相補的な塩基配列を検出することにより、ペクトバクテリウム属細菌を菌種を識別しつつ検出することができる。すなわち、本発明に係る核酸プローブは、ペクトバクテリウム属細菌を検出するための核酸プローブであって、下記(i)または(ii)の塩基配列の全部または一部を含む;
(i)PecセルB非保存領域に相当する塩基配列、
(ii)(i)と相補的な塩基配列。
【0027】
プローブとは、一般に、ある物質を検出するために用いる物質をいう。すなわち、本発明において「核酸プローブ」とは、ペクトバクテリウム属細菌を検出するために用いる核酸をいう。なお、核酸は、塩基、糖およびリン酸からなるヌクレオチドがホスホジエステル結合で連なった生体高分子をいう。
【0028】
ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBは、ペクトバクテリウム属細菌が生来有するセルラーゼBをいう。ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBをコードする遺伝子は、セルラーゼB遺伝子(celB)のほか、本発明においては、celBと相同性が高くペクトバクテリウム属細菌SCC3193が有するとされるセルラーゼS遺伝子(celS)も、同遺伝子に含むものとする(GenbankアクセッションナンバーM32399およびKoskinen et al.(2012)vol.194, no.21 p6004、Genbank アクセッションナンバーCP003415)。
【0029】
ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ酸配列は、
図1に示すPcc、Pa、PcbおよびPwのもの(全長264aa)や配列番号12~20を例示することができる。
図1に例示する配列や配列番号12~20に基づけば、PecセルB非保存領域は配列番号1、Pecセルラーゼ保存領域は配列番号2のように表すことができる。その他、ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼ、Pecセルラーゼ非保存領域およびPecセルラーゼ保存領域のアミノ酸配列情報は、PIR(http://pir.georgetown.edu/)やUniProtKB(http://www.uniprot.org/uniprot/)、Entrez Protein(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=Protein)などのアミノ酸配列データベースから入手することができる。
【0030】
本発明において「アミノ酸配列に相当する塩基配列」とは、そのアミノ酸配列を、コドン(遺伝子コード)に従って変換することにより特定される塩基配列をいう。すなわち、上記(i)の塩基配列は、PecセルB非保存領域のアミノ酸配列情報をコドンに従って変換することにより、特定することができる。
【0031】
また、所定の塩基配列と「相補的な塩基配列」とは、ワトソン・クリック塩基対に従って、前記所定の塩基配列とは逆方向であり、かつ、前記所定の塩基配列のアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)およびシトシン(C)に対して、それぞれT、C、AおよびGとなるよう塩基が並んだ塩基配列をいう。すなわち、上記(ii)の塩基配列は、(i)の塩基配列情報をワトソン・クリック塩基対に従って変換することにより、特定することができる。
【0032】
本発明に係る核酸プローブに含まれる(i)または(ii)の塩基配列の長さは特に限定されないが、検出感度の観点からは、(i)または(ii)の塩基配列のうちの18mer以上を含むことが好ましい。また、核酸プローブは、検出や精製等のため、放射性リン酸塩、ビオチン、蛍光色素分子、酵素といった各種の物質により標識・修飾してもよい。
【0033】
次に、核酸プローブの使い方について例示する。核酸プローブは、例えば、土壌や植物組織等の天然から採取した試料に含まれるペクトバクテリウム属細菌を検出するために使用することができる。
【0034】
具体的には、試料からDNAを抽出して、その塩基配列を解読する。解読して得られた配列の中に、本発明に係る核酸プローブがあるか無いかを検出する。ある場合は、試料にペクトバクテリウム属細菌が含まれると判定することができ、無い場合は、試料にペクトバクテリウム属細菌が含まれないと判定することができる。
【0035】
そして、試料から抽出したDNA塩基配列中に核酸プローブがある場合において、当該核酸プローブの塩基配列が、既知のPwの核酸プローブの塩基配列(例えば配列番号3~5の1~120番目)と高い同一性を呈する場合は、試料にはPwが含まれると判定することができ、既知のPccの核酸プローブの塩基配列(例えば配列番号6、7の1~120番目)と高い同一性を呈する場合は、試料にはPccが含まれると判定することができ、既知のPaの核酸プローブの塩基配列(例えば配列番号8、9の1~120番目)と高い同一性を呈する場合は、試料にはPaが含まれると判定することができ、既知のPcbの核酸プローブの塩基配列(例えば配列番号10、11の1~120番目)と高い同一性を呈する場合は、試料にはPcbが含まれると判定することができる。
【0036】
あるいは、別の使い方として、上記の試料から抽出したDNAを鋳型として、本発明に係る核酸プローブを増幅させるためのPCRを行う方法を挙げることができる。このPCRでは、(i)の塩基配列のうちの20~30mer程度からなる核酸プローブを、フォワードプライマーとして用いる。PCR産物中に核酸プローブが検出されれば、試料にペクトバクテリウム属細菌が含まれると判定することができ、PCR産物中に核酸プローブが検出されなければ、試料にペクトバクテリウム属細菌が含まれないと判定することができる。
【0037】
そして、PCR産物中に核酸プローブが検出された場合において、その塩基配列が、既知のPwの核酸プローブの塩基配列(例えば配列番号3~5の1~120番目)と高い同一性を呈する場合は、試料にはPwが含まれると判定することができ、既知のPccの核酸プローブの塩基配列(例えば配列番号6、7の1~120番目)と高い同一性を呈する場合は、試料にはPccが含まれると判定することができ、既知のPaの核酸プローブの塩基配列(例えば配列番号8、9の1~120番目)と高い同一性を呈する場合は、試料にはPaが含まれると判定することができ、既知のPcbの核酸プローブの塩基配列(例えば配列番号10、11の1~120番目)と高い同一性を呈する場合は、試料にはPcbが含まれると判定することができる。
【0038】
以上述べたように、本発明は、本発明に係る核酸プローブを検出する工程を有する、ペクトバクテリウム属細菌の検出方法も提供する。本検出方法は、核酸プローブをPCRによって増幅させる工程をさらに有するものであってもよい。また、本発明は、PecセルB非保存領域に相当する塩基配列の全部または一部を含む、ペクトバクテリウム属細菌を検出するためのPCRプライマーも提供する。
【0039】
ところで、試料から抽出したDNA、あるいは、それを鋳型とするPCR産物における核酸プローブの検出は、例えば、塩基配列の解読(シークエンシング)によって行うこともできるが、ハイブリダイゼーションによって行うこともできる。
【0040】
ハイブリダイゼーションによって検出する場合は、予め、既知の各菌種の一本鎖核酸プローブを、菌種ごとに異なる位置に固定した担体を用意する。試料から抽出したDNAあるいはPCR産物といったサンプルに含まれる核酸を、ビオチン等の標識物質で標識したのち、担体にハイブリダイゼーションさせる。標識物質に応じた検出反応を行い、担体上でシグナルが検出された位置を確認する。Pwの核酸プローブを固定した位置にシグナルが検出されれば、サンプルにはPwが含まれると判定することができ、Paの核酸プローブを固定した位置にシグナルが検出されれば、サンプルにはPaが含まれると判定することができ、Pcbの核酸プローブを固定した位置にシグナルが検出されれば、サンプルにはPcbが含まれると判定することができ、Pccの核酸プローブを固定した位置にシグナルが検出されれば、サンプルにはPccが含まれると判定することができる。
【0041】
以上述べたように、本発明は、本発明に係る核酸プローブを固定した、ペクトバクテリウム属細菌検出用担体も提供する。本担体に用いる核酸プローブの支持体は核酸を固定できるものであればよく、樹脂製の薄膜(メンブレン)や、樹脂製やガラス製の基盤(チップ)などを例示することができる。また、本発明は、本発明に係る核酸プローブを含むペクトバクテリウム属細菌検出用キットも提供する。 本キットには、ペクトバクテリウム属細菌の各菌種の核酸プローブあるいはペクトバクテリウム属細菌検出用担体の他、検出方法に応じて、他の試薬(培地、DNA抽出緩衝液、PCR酵素、PCR反応緩衝液、洗浄液、精製カラムなど)や容器、器具、取り扱い説明書等を含めてもよい。
【0042】
ジャガイモの黒あし病を引き起こす代表的な細菌には、ペクトバクテリウム属細菌の他に、ディケヤ属細菌のディケヤ ディアンティコラDickeya dianthicola(以下「Ddi」と略記する場合がある。)がある。Ddiの検出には、従来、ペクチン酸リアーゼ遺伝子を増幅対象とする増菌PCR法が行われおり、そのPCRプライマーには、ADE1(フォワードプライマー:配列番号27)およびADE2(リバースプライマー:配列番号29)が用いられている(Nassar et al.(1996), Applied and Enviromental Microbiology 62 p2228-2235)。
【0043】
後述する実施例6で示すように、本発明に係る核酸プローブは、ADE1プライマーおよびADE2プライマーや、Ddiのペクチン酸リアーゼ遺伝子の部分配列と単一反応系で使用しても、非特異的な反応の増加や、特異的反応の低下を生じない。従って、ペクトバクテリウム属細菌検出用担体には、核酸プローブのほかに、Ddiのペクチン酸リアーゼ遺伝子の部分配列を固定してもよい。同様に、ペクトバクテリウム属細菌検出用キットには、核酸プローブのほかに、ADE1プライマーやADE2プライマー、Ddiのペクチン酸リアーゼ遺伝子の塩基配列の全部または一部を含めてもよい。係るキットや担体によれば、単一反応系によりジャガイモ黒あし病の病原細菌を網羅的に検出ないし識別することができる。
【0044】
最後に、本発明は、PCRプライマーセットを提供する。本PCRプライマーセットは、下記の第1のPCRプライマーと、前記第1のPCRプライマーと対で使用される下記の第2のPCRプライマーとを含む;
第1のプライマー:本発明に係るPCRプライマー、
第2のプライマー:PecセルB保存領域に相当する塩基配列と相補的な塩基配列の一部を含む、PCRプライマー。
【0045】
第2のプライマーは、ペクトバクテリウム属細菌の菌種間で共通のものとなる。このため、単一反応系で複数菌種の核酸プローブを増幅するためのPCRにおいて、上記プライマーセットを用いることにより、プライマーの種類数が抑えられる。すなわち、本プライマーセットによれば、単一反応系であっても、より効果的に、非特異的な増幅や特異的増幅の減少を生じることなく、各菌種の核酸プローブを増幅させることができる。
【0046】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0047】
<試験方法>
本実施例では、特段の記載のない限り以下に示す試験方法を用いた。また、本実施例において、「%」は、特段の記載のない限り質量%を表す。
【0048】
(1)菌株
菌株は表1に示すものを用いた。なお、PccSR HS-SR株は、ホクサン株式会社において分離したものであり、他は地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部 十勝農業試験場より分譲されたものである。
【表1】
【0049】
(2)菌株からの核酸の抽出
King’sB寒天培地(※注1)上の各菌株の単コロニーをKing’sB液体培地(注1)に接種し、25℃の暗所にて1~2日間培養し、培養液を得た。培養液を遠心分離に供して上清を除去し、菌体ペレットを回収した。菌体ペレットから、CTAB法(※注2)によりDNAを抽出し、100ng/uLのDNA液を滅菌水にて調製した。
【0050】
※注1:King’sB培地
King’sB液体培地(1L組成;ペプトンが20g、K2HPO4が1.5g、MgSO4・7H2Oが1.5g、グリセリンが10mL、蒸留水が990mL、pH7.2)に、1.5%(w/v)量の寒天を添加し、121℃で30分間オートクレーブに供したものをKing’sB寒天培地とした。
【0051】
※注2:CTAB法
試料に、少なくとも5倍量の核酸抽出緩衝液(組成;2%の臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)、100mMのTris-HCl(pH8.0)、1.4MのNaCl、50mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.1%の2-メルカプトエタノール)を添加し、65℃で加熱した。室温になるまで静置した後、添加した核酸抽出緩衝液と等量のクロロホルム:イソアミルアルコール(体積比24:1)を加え、1分間以上、混合攪拌した。その後、遠心分離して上清(水層)を回収し、市販のシリカカラム(Qiagen社等)を用いて精製した。なお、抽出核酸としてRNAを選択する場合、シリカカラム精製に先立ち、DNase処理を行う他、塩化リチウム沈殿処理等でRNAを分画した。
【0052】
(3)PCR
PCR酵素はAmpliTaq Gold360(Thermo Fisher Scientific)を用いた。反応液量は25μLもしくは50μLとし、反応液組成はPCR酵素が0.02U/μL、プライマーが0.2~0.4μMおよび鋳型DNAが100mgとした。PCR温度サイクルは、1周目が95℃で10分間、2周目から35周目が95℃で30秒、56℃で30秒および72℃で30秒を1サイクルとして34サイクル、最後が72℃で10分間とした。鋳型核酸としてRNAを供試する場合は、PCRに先立ち、M-MLV逆転写酵素(Invirtogen)処理をする他、PrimeScript One Step RT-PCR kit ver.2(TAKARA)等のキットを使用した。
【0053】
(4)マクロアレイ用メンブレンの作製
PCR産物を精製してDNA断片を得た。これに滅菌水およびキシレンシアノール(XC)含有色素液を添加して、DNA濃度が50ng/μLでXC濃度が0.01mg/mLであるスポット溶液を調製した。HYDR96 DNAスポッターを用いて、ナイロンメンブレン(Biodyne Pall)にスポット溶液を0.2μLずつスポットした。スポット後のナイロンメンブレンは、ろ紙に挟んだ状態で120℃で30分置くことによりDNAを熱変性させ、一本鎖とした。続いて、スポット面を上にした状態でUVクロスリンカー(CL-1000;UVP)にセットし、120mJ/cm2の紫外線を照射してDNAをメンブレンへ固定した。このメンブレンを、スポットしたDNAの配置に応じて切り分けて使用した。
【0054】
(5)マクロアレイ用メンブレンにおけるシグナル検出
検査対象試料をマクロアレイ用メンブレンに供してシグナルを検出する操作は、以下の1~4により行った。
1.プレハイブリダイゼーション
PerfectHyb溶液(TOYOBO)1.7mLを2mL容量のマイクロチューブに入れ、69℃に設定したヒートブロックに20分以上置くことにより加温した。このマイクロチューブに、ホルダーで固定したマクロアレイ用メンブレンを入れ、69℃で少なくとも40分間インキュベートした。
【0055】
2.ハイブリダイゼーション
検査対象試料(ビオチン標識DNA断片)を99℃で5分間置くことにより熱変性させた後、氷上に3分間置くことにより急冷した。プレハイブリダイゼーション済みのメンブレンを抜き取ったマイクロチューブに検査対象試料15μLを加え、続いて、そこに再度メンブレンを入れた。その後、69℃で2時間~16時間インキュベートを行った。
【0056】
3.洗浄
洗浄液1(2×SSC、0.1%SDS)を1.7mL入れた2mL容量マイクロチューブおよび洗浄液2(0.1×SSC、0.1%SDS)を1.7mL入れた2mL容量マイクロチューブをそれぞれ1サンプルにつき3本ずつ用意し、69℃のヒートブロックに立てて20分間加温した。1本目の洗浄液1にハイブリダイゼーション後のメンブレンを入れ、1分間インキュベートした後、5回程転倒混和した。メンブレンを2本目の洗浄液1に移し、1分間インキュベートした後、5回程転倒混和した。メンブレンを3本目の洗浄液1に移し、10分間インキュベートした後、5回程転倒混和した。メンブレンを1本目の洗浄液2に移し、1分間インキュベートした後、5回程転倒混和した。メンブレンを2本目の洗浄液2に移し、1分間インキュベートした後、5回程転倒混和した。メンブレンを3本目の洗浄液2に移し、10分間インキュベートした。
【0057】
4.発色反応
i)15mLのBLOCK液(5%SDS、125mMのNaCl、25mMのリン酸ナトリウム、pH7.2)を入れた容器に、洗浄後のメンブレンを入れて軽くすすいだ。BLOCK液を捨て、新しいBLOCK液15mLを加えて5分間振とうした。
ii)BLOCK液を捨て、15mLのアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン溶液(SAP溶液;15mLのBLOCK液に対して10μLのStreptavidin-Alkaline Phosphataase(BioRad)を加えることにより調製)を加えて5分間振とうした。
iii)SAP溶液を捨て、15mLの洗浄液3(0.5%SDS、12.5mMのNaCl、2.5mMのリン酸ナトリウム、pH7.2)ですすぐことを2回繰り返した。3回目に洗浄液3を入れた後、5分間振とうした。
iv)洗浄液3を捨て、洗浄液4(10mMのTris-HCl(pH9.5)、10mMのNaCl、1mMのMgCl2)ですすぐことを2回繰り返した。3回目に洗浄液4を入れた後、5分間振とうした。
v)NBT/BCIP ready-to-use tablet(Roche)1粒(0.34g)を10mLの蒸留水に溶かしたものを新しい容器に入れ、そこに洗浄液4から取り出したメンブレンを浸し、容器を軽くゆすりながら1分間放置した。
vi)メンブレンを取り出して直ちにラップで包み、15分以内を目安に発色したスポットの有無ないし発色強度を目視で確認した。
【0058】
<実施例1>マルチプルアライメント
(1)セルラーゼB遺伝子の配列決定
ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBに関する既報論文やGenBankに登録された塩基配列情報に基づき、プライマーを設計した。表1の菌株のゲノムDNAを鋳型として、このプライマーを用いてPCRを行い、DNA断片を得た。このDNA断片をダイレクトシークエンスすることにより、各菌株のセルラーゼB遺伝子(celB)の塩基配列を決定し、それに基づいてセルラーゼBのアミノ酸配列を決定した。その結果を表2および配列番号3~20に示す。なお、Pwについては、塩基配列の相同性の高さから、セルラーゼS遺伝子として報告されているものがセルラーゼB遺伝子に該当すると推測される(Koskinen et al.(2012)vol.194, no.21 p6004、Genbank アクセッションナンバーCP003415)。
【表2】
【0059】
続いて、Genbankに登録されているペクトバクテリウム属細菌Pcc LY34のセルラーゼB遺伝子(Genbank アクセッションナンバーAF025769)やPsp SCC3193のセルラーゼS遺伝子(Genbank アクセッションナンバー M32399)の塩基配列に基づいて得られたアミノ酸配列と、上述により決定したセルラーゼBのアミノ酸配列とをGenetyx ver.12によりマルチプルアライメントを行った。その結果を
図1に示す。
【0060】
図1に示すように、セルラーゼBのアミノ末端から1~40番目(配列番号1)において、菌種間で多様性が存在することが明らかになった。この結果から、ペクトバクテリウム属細菌のセルラーゼBのアミノ末端から1~40番目のアミノ酸配列(PecセルB非保存領域)に相当する塩基配列、またはこれと相補的な塩基配列の全部または一部を検出することにより、ペクトバクテリウム属細菌を、その菌種を識別しつつ、検出できることが明らかになった。
【0061】
<実施例2>PCRプライマーの設計
配列番号3~11の5’末端から1~120番目の領域(PecセルB非保存領域に相当する塩基配列)において、21~31merの長さのフォワードプライマー(Fwプライマー)を設計した。このFwプライマーは、各菌種に特有の配列となった。また、5’末端から121番目以降の領域(PecセルB保存領域に相当する塩基配列)において、菌種間で共通の配列となるようFwプライマーおよびリバースプライマー(Rvプライマー)を設計した。これらのプライマーの配列を表3に示す。表3には、Ddi検出用のPCRプライマーであるADE1(配列番号27)およびADE2(配列番号29)も合わせて示す。また、Fwプライマーの設計領域を
図2に示す。
【表3】
【0062】
<実施例3>特異的DNA増幅の確認
表1の菌株のゲノムDNA([1]Ddi Echr93431、[2]Ddi Echr8263、[3]Pw EccNR-2、[4]Pw BNS2-2、[5]Pw 4-1-1、[6]Pcc HS-SR、[7]Pa Eca2、[8]Pa P-14、[9]Pcb Kbs-1)を鋳型として、表3のプライマーを用いてPCRを行い、アガロースゲル電気泳動によりPCR産物の有無およびサイズを確認した。用いたプライマーセットを下記[i]~[vi]に示す。また、鋳型DNAを含まない対照試料について同様にPCRを行った。その結果を
図3に示す。
《プライマーセット》
[i]Fw;配列番号27、Rv;配列番号29(増幅断片長:420bp、増幅対象遺伝子:pelADE、検出対象菌種:Ddi)、
[ii]Fw;配列番号26、Rv;配列番号28(増幅断片長:525bp、増幅対象遺伝子:celB、検出対象菌種:ペクトバクテリウム属細菌)、
[iii]Fw;配列番号21、Rv;配列番号28(増幅断片長:755bp、増幅対象遺伝子:celB、検出対象菌種:Pw)、
[iv]Fw;配列番号22、Rv;配列番号28(増幅断片長:753bp、増幅対象遺伝子:celB、検出対象菌種:Pcc)
[v]Fw;配列番号23、Rv;配列番号28(増幅断片長:716bp、増幅対象遺伝子:celB、検出対象菌種:Pa)
[vi]Fw;配列番号24、Rv;配列番号28(増幅断片長:718bp、増幅対象遺伝子:celB、検出対象菌種:Pcb Kbs-1)
【0063】
図3に示すように、[i]のプライマーセットでは、[1][2]のレーンで420bp相当のサイズのバンドが確認され、[3]~[10]のレーンで当該バンドは確認されなかった。また、[ii]のプライマーセットでは、[3]~[9]のレーンで525bp相当のサイズのバンドが確認され、[1][2][10]のレーンで当該バンドは確認されなかった。[iii]のプライマーセットでは、[3]~[5]のレーンで755bp相当のサイズのバンドが確認され、[1][2][6]~[10]のレーンで当該バンドは確認されなかった。[iv]のプライマーセットでは、[6]のレーンで753bp相当のサイズのバンドが確認され、[1]~[5]および[7]~[10]のレーンで当該バンドは確認されなかった。[v]のプライマーセットでは、[7][8]のレーンで716bp相当のサイズのバンドが確認され、[1]~[6]、[9]および[10]のレーンで当該バンドは確認されなかった。[vi]のプライマーセットでは、[9]のレーンで718bp相当のサイズのバンドが確認され、[1]~[8][10]のレーンで当該バンドは確認されなかった。
【0064】
すなわち、[i]~[vi]のプライマーセットを用いたPCRでは、各菌種のDNAが特異的に増幅され、非特異的増幅は無かった。この結果から、PecセルB非保存領域に相当する塩基配列を増幅対象としてPCRを行うことにより、ペクトバクテリウム属細菌を、菌種を識別しつつ検出できることが明らかになった。
【0065】
<実施例4>マクロアレイ用メンブレンの作製
Pw、PccおよびPaの3菌種ならびにPcb Kbs-1およびPcb SUPP2564の2菌株それぞれのセルラーゼB遺伝子において、5’末端から1~120番目の領域(PecセルB非保存領域に相当する塩基配列)の5’末端側80merをFwプライマーとし、3’末端80merと相補的な塩基配列をRvプライマーとしたプライマーを設計した。また、Ddiのペクチン酸リアーゼ遺伝子の部分配列を増幅するためのプライマーを設計した(Nassar et al.(1996), Applied and Enviromental Microbiology 62 p2228-2235)。これらのプライマーの配列を表4に示す。
【表4】
【0066】
Ddiの各菌株のゲノムDNAを混合して菌種のゲノムDNAを調製した。このDdiゲノムDNAを鋳型として、配列番号30および31のプライマーセットを用いてPCRを行いPCR産物を得た。Pw、Pcc、Pa、Pcb Kbs-1およびPcb SUPP2564については、表4のプライマーセットが鋳型でもあるため、FwプライマーとRVプライマーを菌種毎に混合し、PCRを行いPCR産物を得た。続いて、試験方法(4)により、Pw、Pa、Pcb Kbs-1およびPccのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットしたマクロアレイ用メンブレン(4菌種検出用メンブレン)を作成した。また、同様にDdiのペクチン酸リアーゼ遺伝子増幅断片ならびにPw、Pa、Pcb Kbs-1、Pcb SUPP2564およびPccのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットしたマクロアレイ用メンブレン(6菌種検出用メンブレン)を作成した。各メンブレンにおけるスポット位置は
図4に示すとおりとした。
【0067】
<実施例5>単一の反応系での検出:4菌種検出用メンブレン
Ddi、PwおよびPaの各菌株のゲノムDNAを菌種毎に混合して、菌種ゲノムDNAを調製した。この菌種ゲノムDNAならびにPcb Kbs-1、Pcc HS-SRおよびPcc EccS-1BのゲノムDNA([1]Ddi、[2]Pw、[3]Pa、[4]Pcb Kbs-1、[5]Pcc HS-SR、[6]Pcc EccS-1B)を鋳型として、PCRを行った。また、[7]鋳型DNAを含まない対照試料について同様にPCRを行った。プライマーは、実施例3の[i]~[vi]のプライマーセットを混合したもの(配列番号21~24および27~29の7種類のプライマー)を用いた。また、配列番号27および配列番号28のプライマーは、予めビオチン標識したものを用いた。その後、アガロースゲル電気泳動によりPCR産物の有無およびサイズを確認した。また、実施例4の4菌種検出用メンブレンに供してシグナルの有無および位置を確認した。その結果を
図5に示す。
【0068】
図5に示すように、鋳型がDdiゲノムDNAの場合([1])、電気泳動で420bp相当のバンドが確認されたが、4菌種検出用メンブレンではシグナルが検出されなかった。
一方、鋳型がPwゲノムDNAの場合([2])、電気泳動で755bp相当のバンドが確認され、4菌種検出用メンブレンでもPwのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPaゲノムDNAの場合([3])も、電気泳動で753bp相当のバンドが確認され、4菌種検出用メンブレンでもPaのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPcb Kbs-1ゲノムDNAの場合([4])も、電気泳動で716bp相当のバンドが確認され、4菌種検出用メンブレンでもPcb Kbs-1のセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPcc HS-SRゲノムDNAの場合([5])、電気泳動で753bp相当のバンドが確認され、4菌種検出用メンブレンでもPccのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPcc EccS-1BゲノムDNAの場合([6])、電気泳動で753bp相当のバンドが確認され、4菌種検出用メンブレンでもPccのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型DNAが無い対照試料の場合([7])、電気泳動でバンドは確認されず、4菌種検出用メンブレンでもシグナルは検出されなかった。
【0069】
すなわち、7種類のプライマーを混合して単一の反応系で行ったPCRでも、Ddi、Pw、Pa、PcbおよびPccの各菌種特異的に、検出するのに充分量のDNAが増幅され、非特異的な増幅や、特異的増幅の減少は見られなかった。この結果から、PecセルB非保存領域に相当する塩基配列、またはこれと相補的な塩基配列の全部または一部を検出することにより、ペクトバクテリウム属細菌を、その菌種を識別しつつ、検出できることが明らかになった。
【0070】
<実施例6>単一の反応系での検出:6菌種検出用メンブレン
Ddi、PwおよびPaの各菌株のゲノムDNAを菌種毎に混合して、各菌種のゲノムDNAを調製した。この菌種ゲノムDNAならびにPcb Kbs-1、Pcb SUPP2564、Pcc HS-SRおよびPcc EccS-1BのゲノムDNA([1]Ddi、[2]Pw、[3]Pa、[4]Pcb Kbs-1、[5]Pcb SUPP2564、[6]Pcc HS-SR、[7]Pcc EccS-1B)を鋳型として、PCRを行った。また、[8]鋳型DNAを含まない対照試料について同様にPCRを行った。プライマーは、実施例3の[i]~[vi]のプライマーセットに加えて、下記[vii]のプライマーセットを混合したもの(配列番号21~25および27~29の8種類のプライマー)を混合したものを用いた。また、配列番号27および配列番号28のプライマーは、予めビオチン標識したものを用いた。その後、アガロースゲル電気泳動によりPCR産物の有無およびサイズを確認した。また、実施例4の6菌種検出用メンブレンに供してシグナルの有無および位置を確認した。その結果を
図6に示す。
[vii]Fw;配列番号25、Rv;配列番号28(増幅断片長:748bp、増幅対象遺伝子:celB、検出対象菌種:Pcb SUPP2564)
【0071】
図6に示すように、鋳型がDdiゲノムDNAの場合([1])、電気泳動で420bp相当のバンドが確認され、6菌種検出用メンブレンでもDdiのペクチン酸リアーゼ遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
また、鋳型がPwゲノムDNAの場合([2])、電気泳動で755bp相当のバンドが確認され、6菌種検出用メンブレンでもPwのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPaゲノムDNAの場合([3])も、電気泳動で753bp相当のバンドが確認され、6菌種検出用メンブレンでもPaのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPcb Kbs-1ゲノムDNAの場合([4])も、電気泳動で716bp相当のバンドが確認され、6菌種検出用メンブレンでもPcb Kbs-1のセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPcb SUPP2564ゲノムDNAの場合([5])も、電気泳動で748bp相当のバンドが確認され、6菌種検出用メンブレンでもPcb SUPP2564のセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPcc HS-SRゲノムDNAの場合([6])、電気泳動で753bp相当のバンドが確認され、6菌種検出用メンブレンでもPccのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型がPcc EccS-1BゲノムDNAの場合([7])、電気泳動で753bp相当のバンドが確認され、6菌種検出用メンブレンでもPccのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。
鋳型DNAが無い対照試料の場合([8])、電気泳動でバンドは確認されず、6菌種検出用メンブレンでもシグナルは検出されなかった。
【0072】
すなわち、8種類のプライマーを混合して単一の反応系で行ったPCRでも、Ddi、Pw、Pa、PcbおよびPccの各菌種特異的に、検出するのに充分量のDNAが増幅され、非特異的な増幅や、特異的増幅の減少は見られなかった。この結果から、PecセルB非保存領域に相当する塩基配列、またはこれと相補的な塩基配列の全部または一部を検出することにより、ペクトバクテリウム属細菌を、その菌種を識別しつつ、検出できることが明らかになった。また、PecセルB非保存領域の遺伝子断片を増幅するためのPCRプライマーあるいはPecセルB非保存領域の遺伝子断片と、Ddiのペクチン酸リアーゼ遺伝子断片を増幅するためのPCRプライマープライマーあるいはDdiのペクチン酸リアーゼ遺伝子断片とを単一の反応系で使用して、ジャガイモ黒あし病の病原細菌を網羅的に検出ないし識別できることが明らかになった。
【0073】
<比較例1>従来の検出系に基づくマクロアレイ用メンブレンの作成
Ddiを検出するために従来用いられているプライマーとして、Ddiのペクチン酸リアーゼ遺伝子を増幅対象とするもの(Fw;ADE1(配列番号27)、Rv;ADE2(配列番号29))を用意した。また、Pwを検出するために従来用いられているプライマーとして、Pwのユニバーサル ライス プライマー(URP)を増幅対象とするもの(Fw;contig1F、Rv;contig1R、de Haan et al.(2008), European Journal of Plant Pathology 122 p561-569)を用意した。また、Paを検出するために従来用いられているプライマーとして、Pa特異的DNAプローブを増幅対象とするもの(Fw;ECA1f、Rv;ECA2r、de Bore & Ward(1995), Phytopathology 85 p854-858)を用意した。また、Pcbを検出するために従来用いられているプライマーとして、16S rRNAと23S rRNAの遺伝子間スペーサー領域(16S-23S IGS)を増幅対象とするもの(Fw;BR1f、Rv;L1r、Duarte et al.(2004), Jounal of Applied Microbiology 96 p535-545)を用意した。その配列を表5に示す。
【表5】
【0074】
また、マクロアレイ用メンブレンに固定するために、表5に示すプライマーが増幅対象とする遺伝子の部分配列を増幅するためにプライマーを設計した。これらのプライマーの配列を表6に示す。
【表6】
【0075】
Ddi、Pw、PaおよびPcbの各菌株のゲノムDNAを、菌種毎に混合して菌種のゲノムDNAを調製した。この菌種ゲノムDNAを鋳型として、表6のプライマーセットを用いてPCRを行いPCR産物を得た。続いて、試験方法(4)により、Ddiのペクチン酸リアーゼ遺伝子増幅断片、PwのURP増幅断片、Pa特異的DNAプローブ増幅断片およびPcbの16S-23S IGS増幅断片をスポットしたマクロアレイ用メンブレン(従来型4菌種検出用メンブレン)を作成した。各メンブレンにおけるスポット位置は
図7に示すとおりとした。
【0076】
<実施例7>罹病ジャガイモ組織における検出
(1)ジャガイモ組織からのDNA抽出
Pw Ecc-2株を接種し、種イモが腐敗する症状を呈したジャガイモの苗(地方独立行政法人北海道立総合研究機構 農業研究本部 十勝農業試験場より分譲)を用意した。
図8に示すように、このジャガイモの異なる3箇所の組織から切片を採取して、CTAB法によりDNAを抽出し、100ng/uLのDNA液を滅菌水にて調製して、これを罹病組織DNA1~3とした。また、健全なジャガイモの苗から切片を採取して同様にDNA液を調製し、これを健全組織DNAとした。
【0077】
(2)マクロアレイ用メンブレンによる検出
[2-1]比較例1のマクロアレイ用メンブレン
本実施例7(1)のDNA液([1]罹病組織DNA1、[2]罹病組織DNA2、[3]罹病組織DNA3、[4]健全組織DNA)を鋳型として、PCRを行った。また、[5]鋳型DNAを含まない対照試料について同様にPCRを行った。プライマーは、表6の8種類のプライマー(配列番号30、31および48~53)を混合したものを用いた。また、それぞれのFwプライマーは予めビオチン標識したものを用いた。その後、アガロースゲル電気泳動によりPCR産物の有無およびサイズを確認した。また、比較例1の従来型4菌種検出用メンブレンに供してシグナルの有無および位置を確認した。その結果を
図9に示す。
【0078】
図9に示すように、鋳型が罹病組織DNA1~3の場合([1]~[3])、電気泳動でバンドは確認されず、従来型4菌種検出用メンブレンでPwのURP増幅断片をスポットした位置に極僅かにシグナルが検出されたが、陽性か陰性かを判定するに足りる強度はなかった。また、鋳型が健全組織DNAの場合([4])および鋳型DNAが無い対照試料の場合([5])はいずれも、電気泳動でバンドは確認されず、従来型4菌種検出用メンブレンでもシグナルは検出されなかった。すなわち、従来の増幅対象遺伝子やPCRプライマーを用いて、Ddi、Pw、PaおよびPcbを単一の反応系により検出ないし識別することは、困難であることが明らかになった。
【0079】
[2-2]本発明のマクロアレイ用メンブレン
本実施例7(1)のDNA液([1]罹病組織DNA1、[2]罹病組織DNA2、[3]罹病組織DNA3、[4]健全組織DNA)を鋳型として、PCRを行った。また、[5]鋳型DNAを含まない対照試料について同様にPCRを行った。プライマーは、実施例3の[i]~[vi]のプライマーセットを混合したもの(配列番号21~24および27~29の7種類のプライマー)を用いた。また、配列番号27および配列番号28のプライマーは、予めビオチン標識したものを用いた。その後、アガロースゲル電気泳動によりPCR産物の有無およびサイズを確認した。また、実施例4の4菌種検出用メンブレンに供してシグナルの有無および位置を確認した。その結果を
図10に示す。
【0080】
図10に示すように、鋳型が罹病組織DNA1~3の場合([1]~[3])、電気泳動で755bp相当のバンドが確認され、4菌種検出用メンブレンでもPwのセルラーゼB遺伝子増幅断片をスポットした位置にシグナルが検出され、他の位置にはシグナルが検出されなかった。また、鋳型が健全組織DNAの場合([4])および鋳型DNAが無い対照試料の場合([5])はいずれも、電気泳動でバンドは確認されず、従来型4菌種検出用メンブレンでもシグナルは検出されなかった。すなわち、罹病組織から抽出したDNAを鋳型としても、病原細菌を検出するのに充分量のDNAを特異的に増幅でき、非特異的な増幅や、特異的増幅の減少は見られなかった。この結果から、PecセルB非保存領域に相当する塩基配列、またはこれと相補的な塩基配列の全部または一部を検出することにより、ペクトバクテリウム属細菌を、その菌種を識別しつつ、検出できることが明らかになった。
【配列表】