(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】糖鎖を解析する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240301BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240301BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240301BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6869 Z
G01N33/53 V
(21)【出願番号】P 2020053296
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-12-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 国立研究開発法人科学技術振興機構、「超高感度・非破壊1細胞グライコーム解析技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】舘野 浩章
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-187932(JP,A)
【文献】特開2009-219388(JP,A)
【文献】特表2020-503893(JP,A)
【文献】特表2017-507656(JP,A)
【文献】中川 優,第3の生命鎖・糖鎖に結合する低分子化合物に関する現状と展望,ファルマシア,2014年,Vol. 50,pp. 1117-1122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K14/00-19/00
C12Q 1/00- 1/70
C12N 1/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の表面の糖鎖を解析する方法であって、
前記細胞に、核酸標識された複数種類の
レクチンを接触させることと、
前記細胞に結合した前記
レクチンに標識された前記核酸を検出することと、を含み、
特定の種類の前記
レクチンには特定の種類の核酸が標識されており、
前記核酸の種類及び量が、前記細胞の表面の糖鎖の種類及び量に対応する、方法。
【請求項2】
前記糖鎖と共に、前記細胞の表現型又は前記細胞内のRNA情報を更に解析する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞に、核酸標識された前記
レクチンを接触させることが、アルブミンを含む緩衝液中で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1細胞レベルで行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記検出が、リアルタイム定量PCR、デジタルPCR又は次世代シーケンサーによるシーケンスにより行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法により細胞の表面の糖鎖を解析するためのキットであって、
核酸標識された複数種類の
レクチンを含み、
特定の種類の前記
レクチンには特定の種類の核酸が標識されている、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖を解析する方法に関する。より詳細には、本発明は、糖鎖を解析する方法、糖鎖を解析するためのキット及び糖鎖結合物質に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の表面には様々なタンパク質や脂質が存在する。これらの中には糖鎖修飾されているものも多く、細胞の表面は多種多様な糖鎖に覆われていることが知られている。
【0003】
糖鎖は、細胞間相互作用を媒介する等の機能を有しており、また、細胞の種類や状態に応じて変化することが知られている。例えば、糖鎖を細胞の未分化マーカーや癌マーカーとして利用できることが知られている。
【0004】
従来、糖鎖の解析は、レクチンや抗体を用いて細胞等を染色する方法、液体クロマトグラフィー及び質量分析装置を用いる方法、多種類のレクチンを基板上に固定化したレクチンアレイを利用する方法等により行われてきた(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レクチンや抗体を用いて細胞等を染色する方法では、糖鎖の全体像を把握することが困難な場合がある。また、液体クロマトグラフィー及び質量分析装置を用いる方法は、多大な労力、時間、多くのサンプルを必要とするものである。
【0007】
一方、レクチンアレイを用いる方法によれば、比較的簡便に糖鎖を解析することができる。しかしながら、細胞を破壊して抽出したタンパク質を解析するため、実際の生きた細胞のグライコームを解析することが困難な場合がある。また、500ng程度のタンパク質を解析に用いる必要があり、1細胞レベルでの糖鎖の解析を行うことができない。このため、特に組織切片の解析が困難である。また、レクチンアレイの作製は、特殊なスポッターを用いて行われるが、ロット間差が生じてしまい、均一なレクチンアレイを作製することが困難な傾向にある。このため、レクチンアレイを用いる方法では、再現性よい解析結果を得ることが困難な場合がある。また、レクチンアレイを用いる糖鎖の解析では、検出に特殊で高価なスキャナーが必要である。このような背景のもと、本発明は、糖鎖を解析する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]細胞の表面の糖鎖を解析する方法であって、前記細胞に、核酸標識された糖鎖結合物質を接触させることと、前記細胞に結合した前記糖鎖結合物質に標識された前記核酸を検出することと、を含み、前記核酸の種類及び量が、前記細胞の表面の糖鎖の種類及び量に対応する、方法。
[2]前記糖鎖と共に、前記細胞の表現型又は前記細胞内のRNA情報を更に解析する、請求項1に記載の方法。
[3]前記細胞に、核酸標識された前記糖鎖結合物質を接触させることが、アルブミンを含む緩衝液中で行われる、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]1細胞レベルで行われる、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記検出が、リアルタイム定量PCR、デジタルPCR又は次世代シーケンサーによるシーケンスにより行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]核酸標識された糖鎖結合物質。
[7][6]に記載の糖鎖結合物質を含む、細胞の表面の糖鎖を解析するためのキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、糖鎖を解析する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実験例1において、精製した各融合タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分離後、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色した結果を示す写真である。
【
図2】実験例1におけるアガロース電気泳動の結果を示す写真である。
【
図3】実験例2において、核酸標識レクチンの調製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果を示す写真である。
【
図4】実験例3において、核酸標識レクチンの調製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果を示す写真である。
【
図5】実験例4において、核酸標識レクチンの精製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果を示す写真である。
【
図6】実験例5において、核酸標識レクチンの精製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果を示す写真である。
【
図7】(a)は、実験例6におけるリアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。(b)は、実験例6におけるフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【
図8】実験例7におけるリアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。
【
図9】(a)~(e)は、実験例8におけるフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【
図10】実験例9におけるフローサイトメトリー解析及びリアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。
【
図11】(a)は、実験例10におけるフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。(b)は、実験例10におけるリアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。
【
図12】
図11(a)及び(b)の結果に基づいて、フローサイトメトリー解析の結果を横軸に、リアルタイム定量PCRの結果を縦軸に示したグラフである。
【
図13】実験例11におけるリアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。
【
図17】(a)及び(b)は、実験例15の結果を示すグラフである。
【
図18】(a)及び(b)は、実験例16において、細胞の表面の糖鎖及び細胞内のRNAを1細胞レベルで解析した代表的な結果を示すグラフである。
【
図19】(a)は、実験例17において、神経に分化誘導したiPS細胞の糖鎖プロファイルを主成分分析した結果を示すグラフである。(b)は、実験例17において、神経に分化誘導したiPS細胞のマーカー遺伝子の発現量を解析した結果を示すグラフである。
【
図20】(a)は、実験例17において、ヒトiPS細胞に対するrBC2LCNレクチンの結合量と、27,686種類の遺伝子群の発現量の相関係数を算出し、数値が大きい順に並べた結果を示すグラフである。(b)は、実験例17において、各細胞に対するrBC2LCNレクチンの結合量と、各細胞におけるPOU5F1遺伝子の発現量を示す散布図である。(c)は、実験例17において、各細胞に対するrBC2LCNレクチンの結合量と、各細胞におけるVIM遺伝子の発現量を示す散布図である。
【
図21】(a)は、実験例17において、各細胞におけるPOU5F1遺伝子の発現量と、39種のレクチンの結合量との相関係数を算出し、高い順に並べた図である。(b)は、実験例17において、各細胞におけるOTX2遺伝子の発現量と、39種のレクチンの結合量との相関係数を算出し、高い順に並べた図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[核酸標識された糖鎖結合物質]
1実施形態において、本発明は、核酸標識された糖鎖結合物質を提供する。後述するように、本実施形態の糖鎖結合物質を用いることにより、細胞の表面の糖鎖を簡便に高感度で解析することができる。
【0012】
糖鎖結合物質としては、糖鎖構造を認識して特異的に結合する物質であれば特に限定されず、例えば、レクチン、抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。抗体断片としては、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、scFv等が挙げられる。
【0013】
本明細書では、レクチンは糖鎖に結合する活性を有するタンパク質の総称と定義する。レクチンとしては、特に限定されず、例えば、下記表1~5に記載のレクチンを好適に使用することができる。表1~5中、「Natural」は天然物由来であることを示し、「E.coli」は遺伝子組み換え体であることを示す。また、「EY Lab.」はEYラボラトリーズ社を示し、「Wako」は富士フイルム和光純薬株式会社を示し、「Seikagaku」は生化学工業株式会社を示し、「Vector」はベクターラボラトリース社を示し、「JOM」は株式会社J-オイルミルズを示し、「AIST」は産業技術総合研究所を示す。入手先が「AIST」であるレクチンは発明者らが調製したものである(Tateno H., et al., Glycome diagnosis of human induced pluripotent stem cells using lectin microarray, J Biol Chem., 286 (23), 20345-20353, 2011. を参照。)
【0014】
また、「Sia」はシアル酸を示し、「GlcNAc」はN-アセチル-グルコサミンを示し、「Man」はマンノースを示し、「Gal」はD-ガラクトースを示し、「GalNAc」はN-アセチル-ガラクトサミンを示し、「Fuc」はL-フコースを示し、「Glc」はD-グルコースを示し、「LacNAc」はN-アセチル-ラクトサミンを示す。
【0015】
レクチンとしては、糖鎖修飾されていない大腸菌由来の組み換えレクチンが好ましい。また、網羅的に糖鎖を解析するために、糖鎖を構成する単糖であるSia、Gal、GlcNAc、Man、Fuc、GalNAcを認識するレクチンを混合して用いることが好ましい。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
糖鎖結合物質を標識する核酸は、例えば環状核酸であってもよく、例えば1本鎖核酸断片であってもよく、例えば2本鎖核酸断片であってもよい。環状核酸としては、例えばプラスミドDNA等が挙げられる。また、糖鎖結合物質を標識する核酸は、DNAであってもRNAであってもよいが、安定性の観点からはDNAであることが好ましい。
【0022】
特定の種類の糖鎖結合物質には特定の種類の核酸を標識することが好ましい。例えば、糖鎖結合物質の種類とこれを標識する核酸の塩基配列を対応させることにより、糖鎖結合物質をコード化することが可能となる。したがって、糖鎖結合物質を標識する核酸の塩基配列は、天然に存在しない塩基配列であることが好ましい。糖鎖結合物質を標識する核酸に特異的な塩基配列を検出することにより、それに対応する糖鎖結合物質の存在を検出することができる。
【0023】
また、糖鎖結合物質に結合した核酸をPCR等により増幅することにより、糖鎖結合物質の存在を示すシグナルを増幅することができる。これにより、例えば検出感度を高めることができる。
【0024】
糖鎖結合物質を標識する核酸が、1本鎖核酸断片又は2本鎖核酸断片である場合、その長さは、糖鎖の結合に影響を及ぼさず、対応する糖鎖結合物質を示す情報を保持することができる限り特に限定されず、例えば数十塩基(又は塩基対)から数十キロ塩基(又は塩基対)であってもよい。また、核酸はプラスミド等の環状DNAであってもよい。
【0025】
後述するように、糖鎖結合物質を標識する核酸は、リアルタイム定量PCRで検出してもよく、デジタルPCRで検出してもよく、次世代シーケンサーによるシーケンスにより検出してもよい。
【0026】
したがって、糖鎖結合物質を標識する核酸は、PCR用プライマーがハイブリダイズすることが可能な塩基配列領域を更に有していることが好ましい。また、糖鎖結合物質を標識する核酸を次世代シーケンサーによるシーケンスにより検出する場合、糖鎖結合物質を標識する核酸は、ブリッジPCR、エマルジョンPCR等の次世代シーケンス用の前処理を可能にする塩基配列を更に有していることが好ましい。
【0027】
糖鎖結合物質を標識する核酸の長さは、50~100塩基であることが特に好ましい。このうち、糖鎖結合物質をコード化するための塩基配列が10~30塩基であり、その5’側及び3’側にそれぞれ10~30塩基のアダプター配列を付加することが好ましい。糖鎖結合物質をコード化するための塩基配列は、塩基の偏りがないように選択する。
【0028】
また、PCR用プライマーの塩基配列は、上記アダプター配列に相補的な配列に加えて、多種類の細胞を識別するための塩基配列(5~10塩基)、及び、次世代シーケンスにおいて、フローセルにハイブリダイズさせるための塩基配列(20~30塩基)を含むことが好ましい。
【0029】
実施例において後述するように、糖鎖結合物質への核酸の結合は、例えば、糖鎖結合物質に核酸結合ドメインを連結させ、当該核酸結合ドメインに核酸を結合させることにより行ってもよいし、化学リンカーを用いて糖鎖結合物質と核酸を結合させてもよいし、クリック反応を用いて糖鎖結合物質と核酸を結合させてもよい。
【0030】
化学リンカーを利用可能とするために、核酸にはアミノ基、SH基等の官能基を導入してもよい。また、クリック反応を利用可能とするために、核酸にアジド基、アルキン基等を導入してもよい。これらの基の導入は、核酸の化学合成等により行うことができる。
【0031】
また、糖鎖結合物質と核酸との間には、スペーサーが存在していてもよい。スペーサーは、特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール鎖、ポリアクリルアミド鎖、ポリエステル鎖、ポリウレタン鎖、これらのコポリマー等が挙げられる。スペーサーは化学リンカーに由来するものであってもよい。
【0032】
また、スペーサーは切断可能な基を含んでいてもよい。例えば、実施例において後述するように、スペーサーが、光照射により切断可能な基を含んでいる場合、核酸標識された糖鎖結合物質に光を照射することにより、糖鎖結合物質から核酸を切り離して回収すること等が可能になる。
【0033】
[糖鎖を解析する方法]
1実施形態において、本発明は、細胞の表面の糖鎖を解析する方法であって、前記細胞に、核酸標識された糖鎖結合物質を接触させることと、前記細胞に結合した前記糖鎖結合物質に標識された前記核酸を検出することと、を含み、前記核酸の種類及び量が、前記細胞の表面の糖鎖の種類及び量に対応する方法を提供する。
【0034】
細胞としては、特に限定されず、微生物(ウイルス、細菌、真菌)、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞等が挙げられる。また、試料として組織切片等を用いることもできる。細胞や組織切片は、細胞が生きた状態であってもよく、固定されていてもよい。
【0035】
本実施形態の方法では、まず、解析対象の細胞に、核酸標識された糖鎖結合物質を接触させる。核酸標識された糖鎖結合物質としては上述したものを用いることができる。
【0036】
核酸標識された糖鎖結合物質は1種類を単独で細胞に接触させてもよいし、2種類以上を混合して細胞に接触させてもよい。多種類の核酸標識された糖鎖結合物質を同時に細胞に接触させることにより、細胞の表面の糖鎖構造を網羅的に解析することが可能になる。
【0037】
細胞と核酸標識された糖鎖結合物質との接触は、培地中、生理食塩水中、緩衝液中等の溶液中で、細胞と核酸標識された糖鎖結合物質を混合すること等により行うことができる。
【0038】
中でも、細胞と核酸標識された糖鎖結合物質との接触を、アルブミンを含む緩衝液中で行うことが好ましい。実施例において後述するように、細胞と核酸標識された糖鎖結合物質との接触を、アルブミンを含む緩衝液中で行うことにより、検出シグナルを格段に増強させることができる。
【0039】
緩衝液としては、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等が挙げられる。リン酸緩衝生理食塩水の組成としては、例えば、NaCl 137mmol/L、KCl 2.7mmol/L、Na2HPO4 10mmol/L、KH2PO4 1.76mmol/Lが挙げられる。また、リン酸緩衝生理食塩水のpHは7.4程度に調整されていることが好ましい。
【0040】
アルブミンとしては、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン等を用いることができる。アルブミンは組換え体であってもよい。緩衝液中のアルブミンの濃度は0.1~10質量%程度が好ましい。
【0041】
解析対象の細胞に接触させる、核酸標識された糖鎖結合物質の量は、細胞1個に対して、核酸標識された糖鎖結合物質1種類あたり、1分子以上を接触させればよく、細胞の表面に存在する糖鎖を飽和させることができる量であることが好ましい。
【0042】
また、解析対象の細胞に、核酸標識された糖鎖結合物質を接触させる時間は、糖鎖結合物質が解析対象の細胞の表面の糖鎖に結合するのに十分な時間であれば特に限定されず、例えば10分間~24時間程度であってもよく、例えば10分間~8時間程度であってもよく、例えば10分間~3時間程度であってもよく、例えば1時間程度であってもよい。また、核酸標識された糖鎖結合物質を接触させる温度は、糖鎖結合物質が解析対象の細胞の表面の糖鎖に結合する温度であれば特に限定されず、例えば4~37℃程度であってよい。
【0043】
解析対象の細胞に核酸標識された糖鎖結合物質を接触させた結果、糖鎖結合物質が解析対象の細胞の表面の糖鎖に結合する。ここで、未反応の糖鎖結合物質を除去することが好ましい。未反応の糖鎖結合物質の除去は、例えば、緩衝液を加えて細胞を遠心して上清を除去する操作を1~数回繰り返すことにより行うことができる。
【0044】
続いて、細胞に結合した糖鎖結合物質に標識された核酸を検出する。ここで、核酸の検出は、核酸標識された糖鎖結合物質が細胞に結合した状態で行ってもよいし、核酸標識された糖鎖結合物質を細胞から解離させ、更に、核酸標識された糖鎖結合物質を細胞から分離した後に行ってもよいし、核酸標識された糖鎖結合物質から、核酸を切り離して回収した後に行ってもよい。
【0045】
核酸標識された糖鎖結合物質を細胞から解離させる方法としては、例えば、細胞に糖鎖結合物質と競合する糖を反応させる方法、界面活性剤を作用させて糖鎖結合物質と細胞の表面の糖鎖との結合を解離させる方法、pHを変化させて糖鎖結合物質と細胞の表面の糖鎖との結合を解離させる方法、還元剤を作用させて糖鎖結合物質と細胞の表面の糖鎖との結合を解離させる方法等が挙げられる。
【0046】
また、上述したように、核酸と糖鎖結合物質との間に切断可能な基を導入していた場合、核酸標識された糖鎖結合物質から、核酸を切り離して回収することができる。例えば、予め核酸と糖鎖結合物質との間に光照射により切断可能な基を導入していた場合、光を照射することにより、核酸標識された糖鎖結合物質から、核酸を切り離すことができる。その後、例えば遠心分離して上清を回収することにより、核酸を回収することができる。
【0047】
細胞に結合した糖鎖結合物質に標識された核酸の検出は、例えば、リアルタイム定量PCRにより行ってもよいし、デジタルPCRにより行ってもよいし、次世代シーケンサーによるシーケンスにより行ってもよい。核酸をPCR等により増幅することにより、検出シグナルを増幅し、検出感度を高めることができる。ここで、検出された核酸の種類及び量が、細胞の表面の糖鎖の種類及び量に対応する。
【0048】
ここで、核酸の種類とは、糖鎖結合物質に標識された核酸の塩基配列の種類である。核酸の種類を特定することにより、核酸が標識されていた糖鎖結合物質の種類を特定することができる。したがって、核酸の塩基配列を特定することにより、解析対象の細胞の表面に存在していた糖鎖構造を特定することができる。また、特定の塩基配列を有する核酸の量が、解析対象の細胞に結合した糖鎖結合物質の量に対応する。すなわち、特定の塩基配列を有する核酸の量が、解析対象の細胞の表面に存在する特定の糖鎖構造の量に対応する。これにより、解析対象の細胞の表面に存在する糖鎖構造の種類及び量を定量的に解析することができる。
【0049】
リアルタイム定量PCR、デジタルPCR、次世代シーケンスは、汎用的な装置を用いて行うことができる。したがって、これらの装置が既に存在する場合には、糖鎖の解析のために新たに特殊な装置を用意しなくてもよい。
【0050】
また、実施例において後述するように、本実施形態の方法は、検出感度が高いため、細胞の表面の糖鎖の解析を1細胞レベルで行うことも可能である。ここで、1細胞レベルで糖鎖を解析するとは、1個の細胞を試料に用いて、核酸標識された糖鎖結合物質を接触させ、結合した糖鎖結合物質に標識された核酸を検出し、細胞の表面の糖鎖の種類及び量を特定することを意味する。1細胞レベルでの糖鎖の解析は、従来の方法では行うことができなかった。
【0051】
また、本実施形態の方法では、細胞の表面から核酸を回収した後も細胞は生存している。このため、細胞表面の糖鎖を解析するとともに、細胞の表現型又は細胞内のRNA情報を同時に解析することができる。
【0052】
細胞の表現型としては、例えば、細胞の形態、増殖能、分化能、浸潤能、腫瘍形成能、マーカータンパク質の発現等が挙げられる。また、細胞内の遺伝子情報又は細胞の表現型も1細胞レベルで解析することが可能である。細胞内のRNA情報としては、例えば、mRNA、microRNA、16S rRNA、ノンコーディングRNA等の、塩基配列情報又は発現量の情報等が挙げられる。
【0053】
[キット]
1実施形態において、本発明は、上述した、核酸標識された糖鎖結合物質を含む、細胞の表面の糖鎖を解析するためのキットを提供する。本実施形態のキットを用いることにより、上述した細胞の表面の糖鎖の解析を好適に行うことができる。
【0054】
本実施形態のキットは、核酸標識された糖鎖結合物質を1種類含んでいてもよいし、2種類以上、例えば10種類以上、例えば30種類以上、例えば50種類以上、例えば100種類以上含んでいてもよい。本実施形態のキットが、核酸標識された糖鎖結合物質を多種類含んでいると、細胞の表面に存在する糖鎖構造を網羅的に解析することが容易となるため好ましい。
【0055】
本実施形態のキットは、解析対象の細胞に、核酸標識された前記糖鎖結合物質を接触させる溶媒として、アルブミンを含む緩衝液を更に含んでいてもよい。アルブミンを含む緩衝液については、上述したものと同様である。実施例において後述するように、細胞と核酸標識された糖鎖結合物質との接触を、アルブミンを含む緩衝液中で行うことにより、バクグラウンドを抑制させることができる。
【0056】
また、本実施形態のキットは、糖鎖結合物質に結合した核酸を検出するためのプライマーを更に含んでいてもよい。当該プライマーを用いたリアルタイム定量PCR、デジタルPCR、次世代シーケンス等により、糖鎖結合物質に結合した核酸を検出することができる。
【実施例】
【0057】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[レクチン]
下記表6に示すレクチンを使用した。また、各レクチンを核酸標識する場合には、下記表6に示す配列番号の塩基配列からなる核酸で標識した。表6中、「Seikagaku」は生化学工業株式会社を示し、「Vector」はベクターラボラトリース社を示し、「AIST」は産業技術総合研究所を示し、「Wako」は富士フイルム和光純薬株式会社を示し、「JOM」は株式会社J-オイルミルズを示す。また、「リアルタイムPCR用」は、後述する実験例においてリアルタイムPCR解析に用いた塩基配列の配列番号であることを示し、「次世代シーケンス用」は、後述する実験例において次世代シーケンスに用いた塩基配列の配列番号であることを示す。
【0059】
【0060】
[実験例1]
(核酸標識レクチンの調製1)
核酸標識レクチンの調製を試みた。まず、レクチンと核酸結合ドメインとの融合タンパク質を調製した。レクチンとして、BC2LCNレクチンを使用した。BC2LCNレクチンのアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0061】
また、核酸結合ドメインとして、アルギニン残基が4個連続したペプチド(配列番号2、以下、「R4」という。)、アルギニン残基が5個連続したペプチド(配列番号3、以下、「R5」という。)、アルギニン残基が6個連続したペプチド(配列番号4、以下、「R6」という。)、アルギニン残基が7個連続したペプチド(配列番号5、以下、「R7」という。)、アルギニン残基が10個連続したペプチド(配列番号6、以下、「R10」という。)、及び、ミトコンドリア転写因子A(TFAM)のHMG BoxAドメイン(配列番号7、以下、「TFAM」という。)を使用した。なお、アルギニンは塩基性であり、リン酸部分を持つ核酸と結合しやすいことが知られている。
【0062】
まず、各核酸結合ドメインをC末端側に結合させた、組換えBC2LCNレクチン(以下、「rBC2LCN」という。)の融合タンパク質を大腸菌で発現させて精製した。各融合タンパク質のN末端側にはFLAGタグを導入した。
【0063】
図1は、精製した各融合タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分離後、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色した結果を示す写真である。
【0064】
図1中、「M」は分子量マーカーを示し、「FLAG-rBC2LCN」は核酸結合ドメインを有しない融合タンパク質を示し、「FLAG-rBC2LCN-R4」は「R4」を連結した融合タンパク質を示し、「FLAG-rBC2LCN-R5」は「R5」を連結した融合タンパク質を示し、「FLAG-rBC2LCN-R6」は「R6」を連結した融合タンパク質を示し、「FLAG-rBC2LCN-R7」は「R7」を連結した融合タンパク質を示し、「FLAG-rBC2LCN-R10」は「R10」を連結した融合タンパク質を示し、「FLAG-rBC2LCN-TFAM」は「TFAM」を連結した融合タンパク質を示す。
【0065】
続いて、精製した各融合タンパク質とプラスミドDNA(pCR2.1)との結合性を解析した。具体的には、プラスミドDNA(pCR2.1) 1μgと、1、2、3、4、5μgの各融合タンパク質を混合し、アガロース電気泳動に供した。
【0066】
図2は、アガロース電気泳動の結果を示す写真である。
図2中、「M」は分子量マーカーを示し、「rBC2LCN」は核酸結合ドメインを有しない融合タンパク質を示し、「rBC2LCN-R4」は「R4」を連結した融合タンパク質を示し、「rBC2LCN-R5」は「R5」を連結した融合タンパク質を示し、「rBC2LCN-R6」は「R6」を連結した融合タンパク質を示し、「rBC2LCN-R7」は「R7」を連結した融合タンパク質を示し、「rBC2LCN-R10」は「R10」を連結した融合タンパク質を示し、「rBC2LCN-TFAM」は「TFAM」を連結した融合タンパク質を示す。
【0067】
その結果、アルギニン残基5個以上又はTFAMを融合させた融合タンパク質は、プラスミドDNAと結合することが明らかとなった。したがって、レクチンと核酸結合ドメインとの融合タンパク質に、核酸を混合することにより、核酸標識レクチンを調製することができることが明らかとなった。
【0068】
[実験例2]
(核酸標識レクチンの調製2)
市販のキット(Protein-oligo conjugation kit、カタログ番号「S-9011-1」、Solulink社)を用いて、核酸標識レクチンの調製を試みた。
【0069】
このキットでは、まず、5’末端又は3’末端がアミノ基修飾されたオリゴヌクレオチドのアミノ基に、N-スクシンイミジル-4-ホルミルベンズアミド(以下、「S-4FB」という。)を結合させて4-ホルミルベンズアミド(4FB)化オリゴヌクレオチド(「4FB-オリゴヌクレオチド」)を調製する。
【0070】
また、タンパク質に、スクシンイミジル-4-ヒドラジノニコチネートアセトンヒドラゾン(以下、「S-HyNic」という。)を結合させてヒドラジノニコチネートアセトンヒドラゾン(HyNic)化タンパク質(「HyNic-タンパク質」)を調製する。
【0071】
続いて、上記4FB-オリゴヌクレオチドと上記HyNic-タンパク質を混合すると、両者が共有結合し、核酸標識タンパク質を得ることができる。
【0072】
本実験例では、キットの説明書にしたがって、rBC2LCNにオリゴヌクレオチドを結合させ、核酸標識レクチンを調製した。レクチンとして、rBC2LCNを使用した。また、核酸として、配列番号8に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを使用した。
【0073】
図3は、核酸標識レクチンの調製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果を示す写真である。
図3中、「4FB-oligo」は4FB化したオリゴヌクレオチドを表し、「HyNic-rBC2LCN」はHyNic化したrBC2LCNを表し、「Crude complex」は未精製の反応物を表し、「Purified complex(conc)」は精製し濃縮した反応物を表す。また、「*」はオリゴヌクレオチドが結合したrBC2LCNを示し、矢印はオリゴヌクレオチドが結合していないrBC2LCNを示す。
【0074】
その結果、最終産物(Purified complex(conc))において、オリゴヌクレオチドが結合して分子量が大きくなったrBC2LCNが検出された。この結果から、市販のキットを使用することにより、核酸標識レクチンを調製することができることが明らかとなった。
【0075】
[実験例3]
(核酸標識レクチンの調製3)
アジド基とアルキン基とのクリック反応を利用して、核酸標識レクチンの調製を試みた。具体的には、まず、rBC2LCNに、15倍、30倍及び50倍モル濃度のジベンゾシクロオクチン-N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS-DBCO)を、それぞれ室温で1時間反応させ、DBCO化した。続いて、DBCO化した各rBC2LCNに、10倍モル濃度のアジド化オリゴヌクレオチド(配列番号8)を混合し、4℃で一晩反応させた。オリゴヌクレオチドは5’末端をアジド化修飾した。
【0076】
図4は、各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果を示す写真である。
図4中、「DBCO-rBC2LCN」はDBCO化したrBC2LCNを表し、「15×」、「30×」、「50×」は、それぞれ15倍、30倍、50倍モル濃度のNHS-DBCOを反応させた結果であることを表し、「Crude complex」は未精製の反応物を表す。また、「*」はオリゴヌクレオチドが結合したrBC2LCNを示し、矢印はオリゴヌクレオチドが結合していないrBC2LCNを示す。
【0077】
その結果、オリゴヌクレオチドが結合して分子量が大きくなったrBC2LCNが検出された。この結果から、クリック反応により、効率よく核酸標識レクチンを調製することができることが明らかとなった。
【0078】
[実験例4]
(核酸標識レクチンの調製4)
アジド基とアルキン基とのクリック反応を利用して、核酸標識レクチンを調製した。具体的には、まず、rBC2LCNに2倍モル濃度のジベンゾシクロオクチン-N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS-DBCO)を室温で1時間反応させ、DBCO化した。続いて、DBCO化したrBC2LCNに、10倍モル濃度のアジド化オリゴヌクレオチド(配列番号8)を混合して4℃で一晩反応させ、核酸標識レクチンを得た。オリゴヌクレオチドは5’末端をアジド化修飾した。続いて、フコースセファロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーで核酸標識レクチンを精製した。
【0079】
図5は、核酸標識レクチンの精製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果を示す写真である。
図5中、「DBCO-rBC2LCN」はDBCO化したrBC2LCNを表し、「Crude complex」は未精製の核酸標識レクチンを表す。また、「Through」は、アフィニティーカラムを通過した試料を表し、「Wash1」、「Wash2」、「Wash3」は、それぞれ洗浄1回目、2回目、3回目の洗浄液を表し、「Elute1」、「Elute2」、「Elute3」は、それぞれ溶出1回目、2回目、3回目の溶出液を表す。また、「*」はオリゴヌクレオチドが結合したrBC2LCNを示し、矢印はオリゴヌクレオチドが結合していないrBC2LCNを示す。
【0080】
その結果、オリゴヌクレオチドが結合して分子量が大きくなったrBC2LCNが検出された。この結果から、クリック反応により、核酸標識レクチンが調製されたことが確認された。
【0081】
続いて、rBC2LCNと同様の方法により、ABAレクチンの組換え体(rABA)、LSLNレクチンの組換え体(rLSLN)、SNAレクチン(カタログ番号「L-1300」、Vector社)、GSLIIレクチン(カタログ番号「L-1210」、Vector社)、AALレクチンの組換え体(rAAL)、コンカナバリンA(ConA、カタログ番号「300036」、生化学工業社)に、上記表6に示すオリゴヌクレオチドを結合させた核酸標識レクチンをそれぞれ調製した。
【0082】
各レクチンは、各レクチンが結合する糖をそれぞれ固定化したセファロースビーズを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。具体的には、rABAの精製にはN-アセチルグルコサミンを固定化したセファロースビーズを使用し、rLSLNの精製にはガラクトースを固定化したセファロースビーズを使用し、SNAの精製にはラクトースを固定化したセファロースビーズを使用し、GSLIIの精製にはN-アセチルグルコサミンを固定化したセファロースビーズを使用し、rAALの精製にはフコースを固定化したセファロースビーズを使用し、ConAの精製にはマンノースを固定化したセファロースビーズを使用した。
【0083】
精製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果、rABA、rLSLN、SNA、GSLII、rAAL、ConAのそれぞれを核酸標識できたことが確認された。
【0084】
[実験例5]
(核酸標識レクチンの調製5)
アジド基とアルキン基とのクリック反応を利用して、光照射により核酸を遊離させることが可能な核酸標識レクチンを調製した。具体的には、まず、rBC2LCNに16倍モル濃度のNHS-PC-DBCOエステル(カタログ番号「1160」、クリックケミストリーツールズ社)を室温で1時間反応させ、PC-DBCO化した。
【0085】
続いて、PC-DBCO化したrBC2LCNに、10倍モル濃度のアジド化オリゴヌクレオチド(配列番号8)を混合して4℃で一晩反応させ、核酸標識レクチンを得た。オリゴヌクレオチドは5’末端をアジド化修飾した。続いて、フコースセファロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーで核酸標識レクチンを精製した。
【0086】
図6は、核酸標識レクチンの精製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果を示す写真である。
図5中、「PC-DBCO-rBC2LCN」はPC-DBCO化したrBC2LCNを表し、「Through」は、アフィニティーカラムを通過した試料を表し、「Wash1」、「Wash2」、「Wash3」は、それぞれ洗浄1回目、2回目、3回目の洗浄液を表し、「Elute1」、「Elute2」、「Elute3」は、それぞれ溶出1回目、2回目、3回目の溶出液を表す。また、「*」はオリゴヌクレオチドが結合したrBC2LCNを示し、矢印はオリゴヌクレオチドが結合していないrBC2LCNを示す。
【0087】
その結果、オリゴヌクレオチドが結合して分子量が大きくなったrBC2LCNが検出された。この結果から、クリック反応により、光照射により核酸を遊離させることが可能な核酸標識レクチンが調製されたことが確認された。
【0088】
続いて、rBC2LCNと同様の方法により、rABA、rLSLN、SNAレクチン(カタログ番号「L-1300」、Vector社)、GSLIIレクチン(カタログ番号「L-1210」、Vector社)、rAAL、コンカナバリンA(ConA、カタログ番号「300036」、生化学工業社)に、上記表6に示すオリゴヌクレオチドを光照射により開裂可能に結合させた核酸標識レクチンをそれぞれ調製した。
【0089】
各レクチンは、各レクチンが結合する糖をそれぞれ固定化したセファロースビーズを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。精製の各過程の試料をSDS-PAGEに供し、銀染色した結果、rABA、rLSLN、SNA、GSLII、rAAL、ConAのそれぞれに、各オリゴヌクレオチドを光照射により開裂可能に結合できたことが確認された。
【0090】
[実験例6]
(核酸標識レクチンと細胞との反応条件の検討)
核酸標識レクチンと細胞との反応条件を検討した。具体的には、以下の方法1及び方法2の条件で核酸標識レクチンと細胞とを反応させ、比較した。
【0091】
《方法1》
核酸標識レクチンとして、実験例4と同様にして調製した、核酸標識rBC2LCNレクチンを使用した。また、細胞として、いずれもヒト膵臓癌由来細胞である、MIAPaCa-2細胞、BxPC-3細胞及びCapan-1細胞を用いた。
【0092】
まず、1×105個の各細胞を、ウシ血清アルブミン(BSA)を1質量%含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(以下、「BSA-PBS」という場合がある。)100μLにそれぞれ懸濁した。続いて、100ngの核酸標識rBC2LCNレクチンを、各細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0093】
続いて、1×104個の生きた細胞を新しいチューブにとり、遠心して上清を除き、0.2Mフコース100μLを加えて4℃で30分間反応させ、核酸標識rBC2LCNレクチンを細胞から遊離させた。続いて、15000rpmで10分間遠心して、上清を回収し、リアルタイム定量PCRでrBC2LCNレクチンに結合したオリゴヌクレオチドを定量した。
【0094】
また、比較のために、R-フィコエリスリン標識したrBC2LCNレクチンで各細胞を染色し、フローサイトメトリー解析を行った。
【0095】
《方法2》
方法2では、核酸標識レクチン及び細胞の反応を、BSA-PBS中ではなく、OptiMEM培地中で行った点において、方法1と主に異なっていた。
【0096】
核酸標識レクチン及び細胞として、方法1と同様のものを使用した。まず、1×105個の各細胞を、OptiMEM培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)100μLにそれぞれ懸濁した。続いて、100ngの核酸標識rBC2LCNレクチンを、各細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのPBSに懸濁した。
【0097】
続いて、1×104個の生きた細胞を新しいチューブにとり、遠心して上清を除き、0.2Mフコース100μLを加えて4℃で30分間反応させ、核酸標識rBC2LCNレクチンを細胞から遊離させた。
【0098】
続いて、15000rpmで10分間遠心して、上清を回収し、リアルタイム定量PCRでrBC2LCNレクチンに結合したオリゴヌクレオチドを定量した。
【0099】
図7(a)は、リアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。
図7(a)中、「BSA-PBS」は方法1の結果であることを示し、「OptiMEM」は方法2の結果であることを示す。その結果、方法1を使用する方が高い感度で細胞とレクチンとの結合を検出できることが明らかとなった。
【0100】
また、
図7(b)は、フローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。その結果、
図7(a)に示すリアルタイム定量PCRによる解析結果は、フローサイトメトリー解析の結果と一致し、rBC2LCNレクチンはCapan-1細胞に最も高い反応性を示し、BxPC-3細胞にも反応したが、MIAPaCa-2細胞には反応しなかったことが明らかとなった。
【0101】
[実験例7]
(光照射による核酸の遊離条件の検討)
光照射により核酸を遊離させることが可能な核酸標識レクチンから、核酸を遊離させる条件を検討した。核酸標識レクチンとして、実験例5と同様にして調製した、核酸標識rBC2LCNレクチンを使用した。また、細胞として、ヒト膵臓癌由来細胞であるCapan-1細胞を用いた。
【0102】
まず、1×105個の細胞をBSA-PBS 100μLに懸濁した。続いて、100ngの核酸標識rBC2LCNレクチンを、細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0103】
続いて、細胞を1×104個ずつ新しいチューブにとり、紫外線(UV)照射装置(カタログ番号「95-0042-14」、フナコシ株式会社)を用いて、波長365nmにピーク波長を有する紫外線を15Wで5分間、10分間又は15分間照射してオリゴヌクレオチドを遊離させた。続いて、15000rpmで10分間遠心して上清を回収し、リアルタイム定量PCRでrBC2LCNレクチンに結合したオリゴヌクレオチドを定量した。
【0104】
また、比較のために、紫外線照射せず直ちに遠心して上清を回収した試料、紫外線照射せずに室温で15分間放置後遠心して上清を回収した試料、及び0.2Mフコース100μLを加えて4℃で15分間反応させ、核酸標識rBC2LCNレクチンを細胞から遊離させた後、遠心して上清を回収した試料についても、リアルタイム定量PCRでrBC2LCNレクチンに結合したオリゴヌクレオチドを定量した。
【0105】
図8は、リアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。
図8中、「照射なし0分」は、紫外線照射せずに15000rpmで10分間遠心して上清を回収した試料の結果であることを表し、「照射なし15分」は、紫外線照射せずに室温で15分間放置後、15000rpmで10分間遠心して上清を回収した試料の結果であることを表し、「対照15分」は、0.2Mフコース100μLを加えて4℃で15分間反応させ、核酸標識rBC2LCNレクチンを細胞から遊離させた後、15000rpmで10分間遠心して上清を回収した試料の結果であることを表す。
【0106】
その結果、紫外線を15分照射した場合に、最も多くのオリゴヌクレオチドを遊離させることができることが明らかとなった。
【0107】
[実験例8]
(核酸標識レクチンの反応性の検討1)
核酸標識していない通常のレクチン及び核酸標識レクチンの反応性に違いが認められるか否かについて検討した。
【0108】
具体的には、通常のレクチン(非標識レクチン)及び核酸標識レクチンを、それぞれフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識して細胞に反応させ、フローサイトメトリー解析を行った。
【0109】
非標識レクチンとしては、GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNAを使用した。また、核酸標識レクチンとしては、実験例4と同様にして調製した、上記と同じレクチン(GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNA)の核酸標識体を使用した。また、細胞としては、いずれもヒト膵臓癌由来細胞である、SUIT-2細胞、AsPC-1細胞、BxPC-3細胞、MIAPaCa-2細胞及びCapan-1細胞を使用した。
【0110】
まず、各細胞を1×105個ずつBSA-PBS 100μLにそれぞれ懸濁してチューブに分注した。続いて、100ngの非標識レクチン(GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNA)又は核酸標識レクチン(GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNA)を、それぞれ各細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、500μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0111】
続いて、各細胞をフローサイトメトリー解析し、細胞への各レクチンの結合量を測定し、それぞれのレクチンについて、非標識体と核酸標識体の反応性の相関性について調べた。
図9(a)~(e)は、フローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
図9(a)はSUIT-2細胞の結果であり、
図9(b)はAsPC-1細胞の結果であり、
図9(c)はBxPC-3細胞の結果であり、
図9(d)はMIAPaCa-2細胞の結果であり、
図9(e)はCapan-1細胞の結果である。また、
図9(a)~(e)中、横軸は非標識レクチン(GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNA)の結合量(平均蛍光強度)を示し、縦軸は核酸標識レクチン(GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNA)の結合量(平均蛍光強度)を示す。
【0112】
その結果、非標識レクチン及び核酸標識レクチンの各細胞への反応性は、それぞれ高い相関性を示すことが明らかとなった。この結果から、レクチンを核酸標識しても、レクチンの反応性が変化しないことが確認された。
【0113】
[実験例9]
(核酸標識レクチンの反応性の検討2)
核酸標識レクチンを細胞と反応させ、その結合量をフローサイトメトリー解析及びリアルタイム定量PCR解析により測定して比較した。
【0114】
核酸標識レクチンとしては、実験例5と同様にして調製した、光照射により核酸を遊離させることが可能な核酸標識レクチン(GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNA)を使用した。また、細胞としては、ヒト膵臓癌由来細胞であるCapan-1細胞を使用した。
【0115】
まず、細胞を1×105個ずつBSA-PBS 100μLに懸濁してチューブに分注した。続いて、100ngの核酸標識レクチン(GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNA)を、各細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、500μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0116】
続いて、各細胞の一部をフローサイトメトリー解析し、残りの一部をリアルタイム定量PCRに供して、細胞へのレクチンの結合量を測定した。リアルタイム定量PCRは次のようにして行った。まず、細胞の一部に紫外線(UV)照射装置(カタログ番号「95-0042-14」、フナコシ株式会社)を用いて、波長365nmにピーク波長を有する紫外線を15Wで15分間照射してオリゴヌクレオチドを遊離させた。続いて、15000rpmで10分間遠心して上清を回収し、リアルタイム定量PCRで遊離したオリゴヌクレオチドを定量した。
【0117】
図10は、フローサイトメトリー解析及びリアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。
図10中、「qPCR」はリアルタイム定量PCRの結果(オリゴヌクレオチド量)を表し、「FACS」はフローサイトメトリー解析の結果(平均蛍光強度)を表す。
【0118】
その結果、フローサイトメトリー解析の結果及びリアルタイム定量PCRの結果は高い相関性を示すことが明らかとなった。この結果から、核酸標識レクチンを用いたリアルタイム定量PCRにより、フローサイトメトリー解析と同様の結果を得ることができることが明らかとなった。
【0119】
[実験例10]
(核酸標識レクチンの反応性の検討3)
複数のレクチンを細胞に反応させ、その結合をフローサイトメトリー解析及びリアルタイム定量PCRにより解析した。具体的には、それぞれフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識した、GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNAを、それぞれCapan-1細胞に反応させ、フローサイトメトリー解析を行った。
【0120】
まず、Capan-1細胞を1×105個ずつBSA-PBS 100μLにそれぞれ懸濁してチューブに分注した。続いて、100ngの各FITC標識レクチンを、それぞれ細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。続いて、各細胞をフローサイトメトリー解析し、細胞への各レクチンの結合量を測定した。
【0121】
また、実験例5と同様にしてそれぞれ核酸標識した、GSLII、rABA、rBC2LCN、rLSLN、SNAを、それぞれCapan-1細胞に反応させ、結合したレクチンをリアルタイム定量PCRにより測定した。
【0122】
具体的には、まず、Capan-1細胞を1×105個ずつBSA-PBS 100μLにそれぞれ懸濁してチューブに分注した。続いて、100ngの各核酸標識レクチンを、それぞれ細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、500μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0123】
続いて、各細胞に紫外線(UV)照射装置(カタログ番号「95-0042-14」、フナコシ株式会社)を用いて、波長365nmにピーク波長を有する紫外線を15Wで15分間照射してオリゴヌクレオチドを遊離させた。続いて、15000rpmで10分間遠心して上清を回収し、リアルタイム定量PCRで遊離したオリゴヌクレオチドをそれぞれ定量した。
【0124】
図11(a)はフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
図11(a)中、「MFI」は測定された蛍光強度の平均値を示す。また、
図11(b)はリアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。また、
図12は、
図11(a)及び(b)の結果に基づいて、フローサイトメトリー解析の結果を横軸に、リアルタイム定量PCRの結果を縦軸に示したグラフである。
【0125】
その結果、フローサイトメトリー解析の結果とリアルタイム定量PCRの結果は高い相関性を示すことが確認された。この結果は、核酸標識レクチンを細胞に反応させて、核酸標識レクチンに結合していた核酸を検出することにより、細胞へのレクチンの結合を解析できることを更に支持するものである。
【0126】
[実験例11]
(核酸標識レクチンの反応性の検討4)
核酸標識レクチンを、段階希釈した細胞と反応させ、その結合量をリアルタイム定量PCR解析により測定した。
【0127】
核酸標識レクチンとしては、実験例5と同様にして調製した、光照射により核酸を遊離させることが可能な核酸標識rBC2LCNレクチンを使用した。また、細胞としては、ヒト膵臓癌由来細胞であるCapan-1細胞を使用した。
【0128】
まず、10,000個、1,000個、100個、10個、1個及び0個のCapan-1細胞を、それぞれBSA-PBS 100μLに懸濁してチューブに入れた。続いて、100ngの核酸標識rBC2LCNレクチンを、各細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0129】
続いて、各細胞に紫外線(UV)照射装置(カタログ番号「95-0042-14」、フナコシ株式会社)を用いて、波長365nmにピーク波長を有する紫外線を15Wで15分間照射してオリゴヌクレオチドを遊離させた。続いて、15000rpmで10分間遠心して上清を回収し、リアルタイム定量PCRで遊離したオリゴヌクレオチドをそれぞれ定量した。
【0130】
図13はリアルタイム定量PCRの結果を示すグラフである。
図13中、「対照」は、核酸標識rBC2LCNレクチンを添加せずに一連の反応を行った試料の結果である。その結果、核酸標識レクチンを細胞に反応させて、核酸標識レクチンに結合していた核酸を検出することにより、細胞1個に対しても、レクチンの結合を解析できることが明らかとなった。
【0131】
[実験例12]
(核酸標識レクチンの反応性の検討5)
複数種類の核酸標識レクチンの混合物を、100,000個の細胞に反応させ、そのうち10,000個の細胞に結合した核酸を、次世代シーケンサーを用いて解析した。核酸標識レクチンとしては、実験例4と同様にして調製した、核酸標識レクチン(SNA、ConA、GSLII、rBC2LCN、rAAL、rABA、rLSLN、rPSL1a、rDiscoidinI、rF17AG、rPVL、rCGL2、rPAIL、rPPL、rRSIIL、rCNL、WFA、HPA、SSA、rOrysata、rPALa、rDiscoidinII、CSA、rGRFT、rSRL、rAOL、rBanana、rBC2LA、rC14、rCalsepa、rGal3C、rGC2、rMalectin、rMOA、rPTL、rRSL、TJAI、TJAII、UEAI)及びポドカリキシン(PODXL)抗体(R&Dシステムズ社製)を使用した。また、細胞としては、ヒト膵臓癌由来細胞である、Capan-1細胞、BxPC-3細胞、PANC-1細胞、AsPC1細胞、並びに、CHO細胞及びCHO細胞の変異細胞であるLec1、Lec2、Lec8を用いた。
【0132】
まず、各細胞を100,000個ずつBSA-PBS 100μLにそれぞれ懸濁してチューブに分注した。続いて、50ngずつの各核酸標識レクチンを、それぞれ細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。続いて、細胞数を測定し、そのうち10,000個の細胞を新しいチューブに移した。続いて、遠心して上清を除いた後、100μLのPBSに懸濁した。続いて、紫外線(UV)照射装置(カタログ番号「95-0042-14」、フナコシ株式会社)を用いて、波長365nmにピーク波長を有する紫外線を15Wで15分間照射してオリゴヌクレオチドを遊離させ、遠心後に上清を回収した。続いて、これをテンプレートとしてPCR反応を行い、次世代シーケンサーで解析した。
【0133】
次世代シーケンサーでのシーケンスを行うにあたり、次のような操作を行った。I5indexプライマー(配列番号75)とI7indexプライマー(配列番号76)でPCRを行い、増幅されたPCR産物を精製、濃縮後、精製度と濃度をDNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装置(島津製作所社)で確認した。続いて、各細胞に結合した核酸標識レクチンに標識された核酸の塩基配列を、次世代シーケンサー(製品名「MiSeq」、イルミナ社)を用いてシーケンスし、検出された塩基配列のリード数を集計した。また、配列番号75及び76中の「nnnnnnnn」(ここで、「n」は「a」、「t」、「g」又は「c」を表す。)は、細胞毎に異なる配列とし、細胞の識別に用いた。
【0134】
図14は、各レクチンに標識された核酸の塩基配列のリード数を用いてクラスター解析を行った結果を示す図である。
【0135】
その結果、10,000個の細胞に核酸標識レクチンを反応させて、核酸標識レクチンに結合していた核酸を次世代シーケンサーでシーケンスすることにより、細胞へのレクチンの結合を解析できることが明らかとなった。さらに、それぞれの細胞でレクチンとの反応パターンが異なることも明らかとなった。
【0136】
[実験例13]
(核酸標識レクチンの反応性の検討6)
複数種類の核酸標識したレクチンの混合物を、10,000個の細胞及び1個の細胞にそれぞれ反応させ、次世代シーケンサーを用いてその結合を解析した。核酸標識レクチンとしては、実験例4と同様にして調製した、核酸標識レクチン(SNA、ConA、GSLII、rBC2LCN、rAAL、rABA、rLSLN、rPSL1a、rDiscoidinI、rF17AG、rPVL、rCGL2、rPAIL、rPPL、rRSIIL、rCNL、WFA、HPA、SSA、rOrysata、rPALa、rDiscoidinII、CSA、rGRFT、rSRL、rAOL、rBanana、rBC2LA、rC14、rCalsepa、rGal3C、rGC2、rMalectin、rMOA、rPTL、rRSL、TJAI、TJAII、UEAI)及びポドカリキシン(PODXL)抗体を使用した。また、細胞としては、ヒトiPS細胞株である201B7を用いた。
【0137】
まず、ヒトiPS細胞を100,000個ずつBSA-PBS 100μLに懸濁してチューブに分注した。続いて、0.5ngずつの各核酸標識レクチンを、それぞれ細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0138】
続いて、細胞を10,000個及び1個分注し、細胞に結合した核酸標識レクチンに標識された核酸の塩基配列を、次世代シーケンサー(製品名「MiSeq」、イルミナ社)を用いてシーケンスし、検出された塩基配列のリード数を集計した。
【0139】
図15は、得られたリード数を主成分分析した結果を示すグラフである。
図15中、「PC1」はPrinciple component 1(主成分1)を示し、「PC2」はPrinciple component 2(主成分2)を示す。また、グラフ中、黒丸は細胞1個レベルで解析した結果を示し、白丸は細胞10,000個レベルで解析した結果を示す。
【0140】
その結果、細胞に核酸標識レクチンの混合物を反応させて、核酸標識レクチンに結合していた核酸を次世代シーケンサーでシーケンスすることにより、細胞1個レベルで細胞へのレクチンの結合を解析できることが明らかとなった。また、細胞1個レベルでの解析結果は、10,000個の細胞の解析結果と類似しているものの、かなりヘテロな糖鎖を持つ細胞集団であることが明らかとなった。
【0141】
[実験例14]
(核酸標識レクチンの反応性の検討7)
複数種類の核酸標識レクチンの混合物を、10,000個の微生物の細胞にそれぞれ反応させ、次世代シーケンサーを用いてその結合を解析した。核酸標識レクチンとしては、実験例4と同様にして調製した、核酸標識レクチン(rBC2LCN、rAAL、rABA、rLSLN、rPSL1a、rDiscoidinI、rF17AG、rPVL、rCGL2、rPAIL、rPPL、rRSIIL、rCNL、WFA、HPA、SSA、rOrysata、rPALa、rDiscoidinII)を使用した。また、微生物としては、大腸菌、デイノコッカス・ラディオデュランス、出芽酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)を使用した。
【0142】
まず、各微生物を1,000,000個ずつBSA-PBS 100μLにそれぞれ懸濁してチューブに分注した。続いて、0.5ngずつの各核酸標識レクチンを、それぞれ細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、各微生物を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0143】
続いて、各微生物を100,000個分注し、各微生物に結合した核酸標識レクチンに標識された核酸の塩基配列を、次世代シーケンサー(製品名「MiSeq」、イルミナ社)を用いてシーケンスし、検出された塩基配列のリード数を集計した。シーケンスは、各微生物毎に独立して3回ずつ行った。
【0144】
図16は、各レクチンに標識された核酸の塩基配列のリード数をそれぞれ示すグラフである。
図16中、「E.coli」は大腸菌を示し、「D.radio」はデイノコッカス・ラディオデュランスを示し、「S.cerev」はサッカロマイセス・セレビシエを示す。
【0145】
その結果、微生物の細胞に核酸標識レクチンを反応させて、核酸標識レクチンに結合していた核酸を次世代シーケンサーでシーケンスすることにより、微生物1個レベルで微生物へのレクチンの結合を解析できることが明らかとなった。
【0146】
[実験例15]
(核酸標識レクチンの反応性の検討8)
ヒトiPS細胞201B7株を市販のキット(製品名「STEMdiff SMADi Neural Induction Kit,2 pack」、カタログ番号「#08582」、ステムセルテクノロジーズ社)を用いて外胚葉に分化させて、4日目及び11日目に細胞を回収した。続いて、複数種類の核酸標識したレクチンをそれぞれ反応させ、次世代シーケンサーを用いてその結合を解析した。
【0147】
核酸標識レクチンとしては、実験例4と同様にして調製した、核酸標識レクチン(SNA、ConA、GSLII、rBC2LCN、rAAL、rABA、rLSLN、rPSL1a、rDiscoidinI、rF17AG、rPVL、rCGL2、rPAIL、rPPL、rRSIIL、rCNL、WFA、HPA、SSA、rOrysata、rPALa、rDiscoidinII、CSA、rGRFT、rSRL、rAOL、rBanana、rBC2LA、rC14、rCalsepa、rGal3C、rGC2、rMalectin、rMOA、rPTL、rRSL、TJAI、TJAII、UEAI)及びポドカリキシン(PODXL)抗体を使用した。
【0148】
まず、各細胞を100,000個ずつBSA-PBS 100μLに懸濁してチューブに分注した。続いて、0.5ngずつの各核酸標識レクチンを、それぞれ細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0149】
続いて、細胞を10,000個及び1個分注し、細胞に結合した核酸標識レクチンに標識された核酸の塩基配列を、次世代シーケンサー(製品名「MiSeq」、イルミナ社)を用いてシーケンスし、検出された塩基配列のリード数を集計した。
【0150】
図17(a)及び(b)は、得られたリード数を主成分分析した結果を示すグラフである。
図17(a)は細胞10,000個レベルで解析した結果を示す(平均値、n=3)。また、
図17(b)は細胞1個レベルで解析した結果を示す(n=3)。
図17(a)及び(b)中、「PC1」はPrinciple component 1(主成分1)を示し、「PC2」はPrinciple component 2(主成分2)を示す。また、「Day0」は分化誘導前のiPS細胞の結果であることを示し、「Day4」は分化誘導後4日目のiPS細胞の結果であることを示し、「Day7」は分化誘導後7日目のiPS細胞の結果であることを示す。
【0151】
その結果、細胞に核酸標識レクチンの混合物を反応させて、核酸標識レクチンに結合していた核酸を次世代シーケンサーでシーケンスすることにより、細胞1個レベルで細胞へのレクチンの結合を解析できることが明らかとなった。また、細胞1個レベルでの解析結果は、10,000個の細胞の解析結果と類似しているものの、かなりヘテロな糖鎖を持つ細胞集団であることが明らかとなった。
【0152】
また、細胞10,000個レベルでの解析結果から、分化誘導後の経過時間により、糖鎖構造が変化していることが明らかとなった。そして、細胞1個レベルでの解析結果から、iPS細胞は比較的均一な細胞集団であるものの、分化誘導後は多様な糖鎖を持つ細胞集団となっていることが明らかとなった。
【0153】
この結果は、細胞集団を構成する個々の細胞の糖鎖を細胞1個レベルで解析できることを更に支持するものである。
【0154】
[実験例16]
(細胞の表面の糖鎖及び細胞内のRNAの1細胞レベルでの解析1)
ヒトiPS細胞201B7株を100,000個ずつBSA-PBS 100μLに懸濁してチューブに分注した。続いて、0.5ngずつの各核酸標識レクチンを、それぞれ細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0155】
続いて、紫外線(UV)照射装置(カタログ番号「95-0042-14」、フナコシ株式会社)を用いて、波長365nmにピーク波長を有する紫外線を15Wで15分間照射して核酸標識レクチンからオリゴヌクレオチドを遊離させ、遠心後に上清を回収した。続いて、これをテンプレートとしてPCR反応を行い、次世代シーケンサーで解析した。
【0156】
また、遠心後に沈殿した1細胞の全RNAから、GenNext(R)RamDA-seq(TM) Single Cell Kit(東洋紡株式会社)を用いてcDNAライブラリーを調製した。
【0157】
続いて、Nextera XT DNA Sample Preparation Kit (イルミナ社)を用いてサンプルを処理後、次世代シーケンサー(製品名「MiSeq」、イルミナ社)を用いてシーケンスし、検出された塩基配列のリード数を集計した。
【0158】
図18(a)及び(b)は、細胞の表面の糖鎖及び細胞内のRNAを1細胞レベルで解析した代表的な結果を示すグラフである。
図18(a)は糖鎖プロファイルの結果であり、
図18(b)は遺伝子プロファイルの結果である。
図18(a)中、縦軸はシグナル強度(相対値)を示し、横軸はレクチンの種類を示す。また、
図18(b)中、縦軸はTPM(Transcripts Per Million)を示し、横軸は、未分化マーカー、内肺葉マーカー、中胚葉マーカー、外胚葉マーカーの各マーカー遺伝子の遺伝子名を示す。
【0159】
その結果、1細胞から、細胞表層の糖鎖情報のみならず、RNA情報を取得できることが明らかとなった。
【0160】
[実験例17]
(細胞の表面の糖鎖及び細胞内のRNAの1細胞レベルでの解析2)
ヒトiPS細胞201B7株を外胚葉(神経)に分化させて、0日目及び11日目の細胞の表面の糖鎖及び細胞内のRNAを1細胞レベルで解析した。
【0161】
具体的には、まず、ヒトiPS細胞201B7株を、市販のキット(製品名「STEMdiff SMADi Neural Induction Kit,2 pack」、カタログ番号「#08582」、ステムセルテクノロジーズ社)を用いて外胚葉(神経)に分化させ、0日目及び11日目に細胞を回収した。
【0162】
続いて、回収した各細胞に、複数種類の核酸標識したレクチンをそれぞれ反応させ、次世代シーケンサーを用いてその結合を解析した。核酸標識レクチンとしては、実験例4と同様にして調製した、核酸標識レクチン(SNA、ConA、GSLII、rBC2LCN、rAAL、rABA、rLSLN、rPSL1a、rDiscoidinI、rF17AG、rPVL、rCGL2、rPAIL、rPPL、rRSIIL、rCNL、WFA、HPA、SSA、rOrysata、rPALa、rDiscoidinII、CSA、rGRFT、rSRL、rAOL、rBanana、rBC2LA、rC14、rCalsepa、rGal3C、rGC2、rMalectin、rMOA、rPTL、rRSL、TJAI、TJAII、UEAI)及びポドカリキシン(PODXL)抗体を使用した。
【0163】
各細胞を100,000個ずつBSA-PBS 100μLに懸濁してチューブに分注した。続いて、0.5ngずつの各核酸標識レクチンを、それぞれ細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間反応させた。続いて、細胞を1mLのBSA-PBSで3回洗浄後、200μLのBSA-PBSに懸濁した。
【0164】
続いて、細胞を1個ずつ分注し、紫外線(UV)照射装置(カタログ番号「95-0042-14」、フナコシ株式会社)を用いて、波長365nmにピーク波長を有する紫外線を15Wで15分間照射して核酸標識レクチンからオリゴヌクレオチドを遊離させ、遠心後に上清を回収した。続いて、回収した上清をテンプレートとしてPCR反応を行い、次世代シーケンサー(製品名「MiSeq」、イルミナ社)を用いてシーケンスし、検出された塩基配列のリード数を集計した。
【0165】
また、遠心後に沈殿した1細胞の全RNAから、GenNext(R)RamDA-seq(TM) Single Cell Kit(東洋紡株式会社)を用いてcDNAライブラリーを調製した。
【0166】
続いて、Nextera XT DNA Sample Preparation Kit (イルミナ社)を用いてサンプルを処理後、次世代シーケンサー(製品名「NovaSeq 6000」、イルミナ社)を用いてシーケンスし、FastQC v0.11.7(https://www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/)を用いて生データの品質チェックを行った。
【0167】
続いて、Trimmomatic 0.38(http://www.usadellab.org/cms/?page=trimmomatic)でトリミングし、HISAT2 v2.1.0(http://daehwankimlab.github.io/hisat2/)とBowtie2 2.3.5.1(https://sourceforge.net/projects/bowtie-bio/files/bowtie2/2.3.5.1/)を用いてゲノムへのマッピングを行った。さらに、StringTie v1.3.4d(https://ccb.jhu.edu/software/stringtie/)を用いてトランスクリプトへのマッピングを行った。
【0168】
図19(a)は、得られた糖鎖プロファイルを主成分分析した結果を示すグラフである。その結果、0日目と比較して、分化誘導後11日目の細胞では、糖鎖プロファイルの不均一性が増加していることが明らかとなった。
【0169】
続いて、0日目に近い糖鎖プロファイルを示したDay11-A3、Day11-A9の各細胞について、神経分化マーカーOTX2遺伝子と未分化マーカーPOU5F1遺伝子の発現を確認した。
【0170】
図19(b)は、各マーカー遺伝子の発現量を解析した結果を示すグラフである。その結果、Day11-A3、Day11-A9の各細胞は、神経分化マーカーの発現が低く、未分化マーカーの発現が高いことが明らかとなった。すなわち、これらの細胞は、外胚葉(神経)分化誘導後11日目においても、分化誘導されず、未分化な細胞の状態であることが明らかとなった。
【0171】
図20(a)は、ヒトiPS細胞に特異的に結合するrBC2LCNレクチンの各細胞に対する結合量と、27,686種類の遺伝子群の発現量の相関係数を算出し、数値が大きい順に並べた結果を示すグラフである。
【0172】
その結果、最も高い正相関を示す遺伝子は未分化マーカーPOU5F1であることが明らかとなった。一方、最も高い負相関を示す遺伝子は神経分化マーカーVIMであることが明らかとなった。
【0173】
図20(b)は、rBC2LCNレクチンの各細胞に対する結合量と、未分化マーカーPOU5F1遺伝子の発現量を示す散布図である。
図20(c)は、rBC2LCNレクチンの各細胞に対する結合量と、神経分化マーカーVIM遺伝子の発現量を示す散布図である。
【0174】
その結果、rBC2LCNレクチンの結合量は、POU5F1遺伝子の発現量と正の相関を示し、VIM遺伝子の発現量と負の相関を示すことが明らかとなった。すなわち、rBC2LCNレクチンは、未分化マーカーPOU5F1遺伝子の発現が高く、神経分化マーカーVIM遺伝子の発現が低い細胞に結合することが明らかとなった。
【0175】
図21(a)は、各細胞における未分化マーカーPOU5F1遺伝子の発現量と、39種のレクチンの結合量との相関係数を算出し、高い順に並べた図である。また、
図21(b)は、各細胞における神経分化マーカーOTX2遺伝子の発現量と、39種のレクチンの結合量との相関係数を算出し、高い順に並べた図である。
【0176】
その結果、未分化マーカーPOU5F1遺伝子の発現量と最も高い正の相関係数を示したレクチンはrBC2LCNであることが明らかとなった。また、神経分化マーカーOTX2遺伝子の発現量と最も高い正の相関係数を示すレクチンはrAALであることが明らかとなった。すなわち、rAALは、ヒトiPS細胞と比べて分化誘導後の神経細胞に優位に高い反応性を示す可能性が考えられた。
【0177】
以上の結果から、本実験例の方法により、不均一で多様な細胞集団に発現する糖鎖と遺伝子を1細胞レベルで同時に計測することができ、更に得られたデータから1細胞レベルで発現する糖鎖と遺伝子の関係性を明らかにできることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明によれば、糖鎖を解析する新たな技術を提供することができる。
【配列表】