(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】粒子の屈折率計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/0205 20240101AFI20240301BHJP
G01N 21/41 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
G01N15/0205
G01N21/41 Z
(21)【出願番号】P 2022511661
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2021006757
(87)【国際公開番号】W WO2021199797
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2020064288
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】松浦 有祐
(72)【発明者】
【氏名】中村 文子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晴久
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179971(JP,A)
【文献】特開平05-172732(JP,A)
【文献】特開平11-083724(JP,A)
【文献】特表2012-515351(JP,A)
【文献】国際公開第2017/069260(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/0205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率n
sの分散媒中をブラウン運動するような微小な粒子の屈折率計測方法であって、
粒子径d
c及び屈折率n
cを既知とする基準粒子を前記分散媒に分散させて出力Q
cでレーザ光を照射し散乱光の輝点の移動を撮像し第1の連続画像を得る第1撮像ステップと、
計測対象
の粒子を前記分散媒に分散させて前記第1撮像ステップと同一の光学系で出力Q
oのレーザ光を照射し散乱光の輝点の移動を撮像し第2の連続画像を得る第2撮像ステップと、
前記第2の連続画像における前記散乱光による
前記輝点の移動から、前記
計測対象の粒子の粒子径d
0とともに対応する前記輝点についての
xy座標値に対応する散乱光強度を撮像時間τ
oだけ時間積分した積算光強度L
oを計測するとともに、
前記第1の連続画像
の前記xy座標値に対応する前記基準粒子の前記輝点についての散乱光強度を撮像時間τcだけ時間積分した積算光強度Lcを求め、
式4’に基づいて、前記xy座標値に対応する定数Cを求めるステップと、
【数1】
式4’において、前記xy座標値に対応する定数Cを求めるステップで求められた前記xy座標値に対応する定数Cを代入し、Lcに代えてL
0
を、dcに代えてd
0
を、Q
c
に代えてQ
0
を、n
c
に代えてn
0
をそれぞれ代入し、
前記
計測対象の粒子の
前記輝点の前記xy座標値に対応する定数Cの値から、前記計測対象の粒子の屈折率n
oを屈折率n
s及びn
cに対して算出する画像解析ステップと、
を含むことを特徴とする粒子の屈折率計測方法。
【請求項2】
前記定数Cは、一次関数
(C(x,y)=px+qy+r
で仮定し、最小二乗フィッティングでp,q,rの値が算出される、
ことを特徴とする請求項1に記載の粒子の屈折率計測方法。
【請求項3】
前記粒子径d
oは、前記第2の連続画像の撮像間隔をΔtとして、平面内の平均二乗変位Δ
MSを求めた上で、絶対温度Tと
前記分散媒の粘度ηの関係から算出されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粒子の屈折率計測方法。
【請求項4】
Δ
MSは、自己拡散係数をDとすると、4DΔtで求められることを特徴とする請求項3記載の粒子の屈折率計測方法。
【請求項5】
前記粒子径d
oは、k
Bをボルツマン定数とすると、式Bの関係から算出されることを特徴とする請求項4記載の粒子の屈折率計測方法。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散媒中をブラウン運動するような微小な粒子の屈折率を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、非特許文献1では、単一粒子からの散乱光の画像を解析し、分散媒中の粒子の屈折率を計測する方法が開示されている。詳細には、粒子を分散させた分散媒を透明な光学セル内に収容し、これにレーザ光を照射して、光学顕微鏡を介してビデオカメラによってレーザ光の照射による粒子からの散乱光を輝点として録画する。録画された画像上の輝点の移動から粒子の拡散運動を解析して粒子の自己拡散係数Dを計測し、ストークス・アインシュタインの式として、D=(kBT)/(3πηd)[ここで、kB:ボルツマン定数,T:絶対温度,η:分散媒の粘度である。]から粒子径dを得られる。
【0003】
また、画像上の輝点から粒子の散乱光強度Iを計測し、Iとdの値を基に粒子の屈折率nが算出できる。ここで、粒子径dがレーザ光の波長よりも十分に小さい場合、レイリー散乱を生じ、式1から屈折率nを算出できる。
【0004】
【数1】
但し、n
s:分散媒の屈折率、I
0:入射レーザ光強度である。
【0005】
一方、dが大きく、ミー散乱を生じるような場合にあっても、粒子径d、屈折率nと散乱高強度Iの間には類似の関係があるため、屈折率nの値を算出することが可能である。
【0006】
更に、非特許文献2では、上記した方法を分散媒とともに流動する粒子に対して適用することによって、機器等に分散媒とともに粒子を流通させたまま、この粒子の屈折率を計測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】E van der Pol, FAW Coumans, A Sturk, R Nieuwland, TG van Leeuwen; Nano Letters 14 6195-6201
【文献】T Tabuchi, K Bando, S Kondo, H Tomita, E Shiobara, H Hayashi, H Kato, A Nakamura, Y Matsuura, K Kondo; IEEE Transactions on Semiconductor Manufacturing 32 460-464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、分散媒中の粒子の屈折率を計測するには、式1の左辺と右辺との間の比例係数と、入射レーザ光強度I0を特定する必要がある。しかしながら、この比例係数は粒子を観察する光学系の開口数、対物レンズの倍率、カメラの感度など、多くの変数に依存し、予め見積もっておくことは困難である。また、空気中であればI0はレーザビームプロファイラ等により測定可能であるが、分散媒中では測定が困難である。
【0009】
本発明は、以上のような状況を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、分散媒中をブラウン運動するような微小な粒子の屈折率をより精確に且つより簡便に得られる粒子の屈折率計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記したような比例係数と入射レーザ光強度I0とは同一光学系下であればともに不変であることに注目し、これらを既知の屈折率を持つ基準となる粒子(以下、「基準粒子」という。)の散乱光強度Iから見積もることに着想した。
【0011】
すわなち、本発明による粒子屈折率計測方法は、屈折率nsの分散媒中をブラウン運動するような微小な粒子の屈折率計測方法であって、粒子径dc及び屈折率ncを既知とする基準粒子を前記分散媒に分散させて出力Qcでレーザ光を照射し散乱光の輝点の移動を撮像し第1の連続画像を得る第1撮像ステップと、計測対象の前記粒子を前記分散媒に分散させて前記第1撮像ステップと同一の光学系で出力Qoのレーザ光を照射し散乱光の輝点の移動を撮像し第2の連続画像を得る第2撮像ステップと、前記第2の連続画像における前記散乱光による輝点の移動から、前記粒子の粒子径doとともに対応する前記輝点についての散乱光強度を撮像時間τoだけ時間積分した積算光強度Loを計測するとともに、前記第1の連続画像から前記基準粒子の前記輝点についての散乱光強度を撮像時間τcだけ時間積分した積算光強度Lcを求め、粒子径dc及び光強度比Lo/Lcから前記粒子の屈折率noを屈折率ns及びncに対して算出する画像解析ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
かかる特徴によれば、粒子の屈折率を精確に且つ簡便に得ることができる。
【0013】
上記した発明において、前記画像解析ステップは、式Aから、前記屈折率noを算出することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、粒子の屈折率をさらに精確に且つ簡便に得ることができる。
【0014】
【0015】
上記した発明において、前記粒子径doは、前記第2の連続画像の撮像間隔をΔtとして、平面内の平均二乗変位ΔMSを求めた上で、絶対温度Tと分散媒の粘度ηの関係から算出されることを特徴としてもよい。また、上記した発明において、前記粒子径doは、kBをボルツマン定数とすると、以下の式Bから算出されることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、粒子の屈折率をより簡便に得ることができる。
【0016】
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る粒子屈折率計測方法に用いる装置のブロック図である。
【
図2】粒子屈折率計測方法の1つの実施例の手順を示すフロー図である。
【
図3】粒子屈折率計測方法の画像解析工程で用いられる連続画像の模式図である。
【
図4】粒子屈折率計測方法の実施例の画像解析工程における粒子の輝点についての光強度の測定結果を示す累積分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による粒子の屈折率計測方法の1つの実施形態を
図1乃至
図3に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、粒子屈折率計測方法に用いる装置は、光学セル1、レーザ照射部2、撮像装置3及び処理装置4を備える。光学セル1は、粒子101を分散させた分散媒102を滞留あるいは流通させる光学的に透明なセルである。レーザ照射部2は、レンズなどの集光器を備えており、光学セル1内の分散媒102に対してレーザ光2Lをy軸方向に照射できるように配置されている。撮像装置3は、粒子101から発生した散乱光をxy平面内の画像として撮像できるように、光軸をz軸方向に沿わせて光学セル1に向けて配置されている。撮像装置3は、光学顕微鏡などを介してCCD(Charge Coupled Device)センサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどの撮像素子を好適には用い得て、上記した散乱光の画像を一定の時間間隔の撮像間隔Δtで連続的に撮像し、連続画像のデータとして出力することができる。
【0020】
処理装置4は、撮像装置3から連続的に出力された連続画像のデータを解析する画像解析部41と、この画像解析の結果をもとに粒子径及び粒子の屈折率を算出する粒子情報解析部42と、これら解析結果を測定条件などとともに記憶するためのデータ記憶部43とを備える。
【0021】
図2に沿って、
図3を参照しつつ、粒子屈折率計測方法の手順について説明する。なお、粒子としては、基準粒子と計測対象粒子との少なくとも2種類があり、基準粒子については少なくとも屈折率の判明している粒子であり、計測対象粒子は屈折率を計測しようとする粒子である。後述する各ステップで、基準粒子と計測対象粒子に対して共通する処理については単に「粒子」として説明することがある。
【0022】
まず、粒子を分散させた分散媒を光学セル1に滞留又は流通させ、レーザ照射部2によってレーザ光2Lを照射しつつ、撮像装置3によって粒子からの散乱光の画像を連続的に撮像する(S1:第1撮像ステップ)。撮像装置3では、レーザ光L2を照射された粒子から発生した散乱光を一定の時間間隔Δt毎に撮像し、得られた画像の群を連続画像として処理装置4に送信する。
【0023】
同様に粒子の散乱光による連続画像を得る(S2:第2撮像ステップ)。ここで、第1撮像ステップでは基準粒子を用い、第2撮像ステップでは計測対象粒子を用いた。なお、第1撮像ステップS1及び第2撮像ステップS2の順番は入れ替えてもよい。
【0024】
処理装置4では、得られた連続画像について、画像解析部41及び粒子情報解析部42によって画像解析を行う(S3:画像解析ステップ)。ここでは、基準粒子についての連続画像及び計測対象粒子についての連続画像の両者について各々解析する。
【0025】
図3を併せて参照すると、画像解析部41は、撮像装置3によって一定の時間(撮像)間隔Δtで撮影された連続画像のデータから撮像された粒子の移動を解析する。詳細には、複数個の粒子のそれぞれに対応した輝点を画像上で検出し、i=1,2,3,・・・とナンバリングする。次に、各輝点P(i)について、隣接する画像(フレーム)間で輝点の対応付けを行い、P(i)のxy平面内での移動の軌跡を特定する。そして、輝点P(i)のxy平面内の移動の軌跡から平均二乗変位Δ
MS(i)を算出する。また、輝点P(i)に対応する個々の画素における光検出信号値の和として、散乱光強度の時間積分値である積算光強度(輝度)L(i)を算出する。
【0026】
粒子情報解析部42では、画像解析部41によって算出された輝点の平均二乗変位を基に、対応する粒子の粒子径を求める。具体的には、輝点P(i)に対応する粒子は分散媒中をブラウン運動しているので、その粒子径d(i)は、(xy平面内の)2次元の平均二乗変位Δ
MSと粒子の自己拡散係数Dを結びつける以下の式2
【数4】
と、ストークス・アインシュタインの式と、を組み合わせた以下の式3により算出できる。ここで、k
B:ボルツマン定数、T:絶対温度、η:分散媒の粘度である。
【0027】
【数5】
但し、k
B:ボルツマン定数,T:絶対温度,η:分散媒の粘度である。
【0028】
なお、画像解析においてi=1,2,3,・・・とナンバリングしたそれぞれの輝点について積算光強度及び対応する粒子の粒子径を求め、適宜、代表値を定めて上記した屈折率の算出に用いる。ここで代表値とは、例えば、平均値や中央値である。なお、基準粒子について、粒子径を既知とするものを用いた場合は、基準粒子についての粒子径を求めずともよい。
【0029】
次に、粒子情報解析部42では粒子の屈折率を算出する。観察される輝点の積算光強度Lと、その輝点に対応する粒子の散乱光強度Iとの間には、L∝Iτという関係が成立し(τ:撮像装置3の撮像時間)、また入射レーザ光強度I0とレーザ照射部2の出力Qとの間にはI0∝Qという関係が成立するので、散乱光強度Iと粒子の屈折率nとの間に成り立つ上記した式1は、粒子の撮像をした装置の光学系全体に係るただ一つの定数C(以下、定数Cという)を用いて以下の式4として書き換えられる。ここで、L:粒子に対応する輝点の積算光強度、Q:粒子に照射したレーザ光の出力、τ:撮像時間、n:粒子の屈折率、ns:分散媒の屈折率、d:粒子の粒径である。
【0030】
【0031】
また、定数Cについては、装置の開口数、対物レンズの倍率、カメラの感度など、光学系として用いられる部材の緒元に基づく多数の変数に依存する装置固有の値であり、装置の構成から求めることは困難である。そこで、本実施例では、この定数Cに依らずに粒子の屈折率を計測することを試みる。
【0032】
式4を定数Cについて解くと、以下の式5のようになる。
【0033】
【0034】
ここで、定数Cは上記したように装置に固有の値なので、基準粒子及び計測対象粒子についての式5における定数Cは同一である。よって以下の式6の関係が成立する。
【0035】
【0036】
基準粒子についての変数の添え字は「c」、計測対象粒子についての添え字は「o」である。つまり、基準粒子については、Qc:撮像時のレーザ光の出力、τc:撮像時間、Lc:対応する輝点の積算光強度、nc:粒子の屈折率、dc:粒子径であり、計測対象粒子については、Qo:撮像時のレーザ光の出力、τo:撮像時間、Lo:対応する輝点の積算光強度、no:粒子の屈折率、do:粒子径である。したがって、(a)基準粒子の粒子径dcと、対応する輝点の積算光強度Lcを実測し、(b)計測対象粒子の粒子径doと、対応する輝点の積算光強度Loを実測し、(c)基準粒子の粒子径dcと屈折率nc、計測対象粒子の粒子径do、ならびに基準粒子と計測対象粒子の光強度比Lo/Lcから、計測対象粒子の屈折率noを算出することができる。なお、粒子径及び積算光強度については上記した代表値を用いるとよい。
【0037】
以上のように、本実施例によれば、上記した計測装置に固有の定数Cに依らずに、計測対象粒子の屈折率noを光強度比Lo/Lcから精確に且つ簡便に計測することができる。
【0038】
なお、第1撮像ステップS1及び第2撮像ステップS2において、レーザ光の出力や撮像時間は、基準粒子及び計測対象粒子の両者において異なってもよい。また、基準粒子について式4や式5を用いて予め定数Cを求めておいて、計測対象粒子について定数Cを代入した式4や式5を用いて屈折率を算出することもできる。
【0039】
なお、上記した粒子の屈折率の計測方法については以下のように行うこともできる。
【0040】
例えば、粒子情報解析部42で行われる粒子径の算出過程において、撮像装置3の露光時間τが有限長であることを考慮して、平均二乗変位Δ
MSと粒子の自己拡散係数Dを結びつける関係式(式2)における時間間隔Δtを(Δt-τ/3)として、粒子径を導出するようにしてもよい。つまり、式2の代わりに以下の式2’を用いてもよい。
【数9】
【0041】
また、屈折率算出ステップS3において、計測対象粒子の積算光強度と粒子径に代表値を用いるのではなく、例えば、各粒子の粒子径とこれに対応する輝点の積算光強度を用いてもよい。この場合、計測対象粒子それぞれの屈折率を求めることができる。
【0042】
さらに、撮像装置3において、レーザ光2Lがその照射範囲内において強度の分布を有することを考慮し、補正を加えても良い。例えば、定数Cを撮像した画像内の位置(つまりx,y座標値)の関数として仮定して、
式4’に基づいて、基準粒子の積算光強度から定数C(x,y)を求めておく。
【数1】
そして、計測対象粒子の輝点のxy座標値に対応する定数Cの値から計測対象粒子の屈折率を求めるようにしてもよい。
より具体的には、式4’において、xy座標値に対応する定数Cを代入し、Lcに代えてL
0
を、dcに代えてd
0
を、Q
c
に代えてQ
0
を、n
c
に代えてn
0
をそれぞれ代入し、計測対象の粒子の輝点のxy座標値に対応する定数Cの値から、計測対象の粒子の屈折率n
o
を屈折率n
s
及びn
c
に対して算出してもよい。C(x,y)は、例えば、一次関数(C=px+qy+r;p,q,rはフィッティングパラメータ)で仮定し、最小二乗フィッティング等でp,q,rの値を算出する。
【0043】
また、上記した実施の形態では、レイリー散乱理論に基づく式1によって、粒子径、粒子の屈折率及び散乱光強度を関連付けているが、レイリー散乱理論以外の理論に基づいてもよい。例えば、レーザ光2Lの波長と同程度の粒子径を持つ粒子を対象とする場合には、ミー散乱理論に基づいて粒子径、粒子の屈折率及び散乱光強度の関係を定めることができる。この場合、式5の右辺が変更されるのみであり、その他は同様である。つまり、基準粒子と計測対象粒子の光強度比Lo/Lcから、計測対象粒子の屈折率noを算出することができるのである。
【実施例】
【0044】
上記した粒子屈折率計測方法によって実際に計測対象粒子の屈折率を計測した例について
図4を用いて説明する。
【0045】
基準粒子として粒子径100nmのポリスチレンラテックス(PSL)粒子を使用し、計測対象粒子として粒子径60nmのPSL粒子と、粒子径80nmのシリカ粒子を使用した(以下、それぞれPSL100、PSL60、Silica80とする)。また、分散媒としては水を使用した。
【0046】
レーザ照射部2には波長532nmのレーザ光2Lを照射可能な固体レーザと、撮像装置3で光学セル1内の撮像する位置においてビーム径が200μmとなるように集光する光学系を備える。撮像装置4は、10倍の対物レンズを備える光学顕微鏡と、1画素あたり6.5μm角相当の科学計測用CMOS(sCMOS)カメラとを備える。sCMOSカメラの時間(撮像)間隔Δtは33.3msである。
【0047】
基準粒子である100nmPSL粒子の撮像は、レーザ照射部2の出力Qcを100mWとし、撮像装置3の撮像時間τcを33.2msとした。計測対象粒子である60nmPSL粒子と80nmシリカ粒子の撮像は、レーザ照射部2の出力Qoを1500mWとし、撮像装置3の撮像時間τoを33.2msとした。
【0048】
基準粒子と計測対象粒子についての粒子径の計測結果として平均粒子径を表1に示す。
【0049】
【0050】
図4は、上記した基準粒子と計測対象粒子についての、各輝点の積算光強度の実測結果を累積分布として表したものである。図の横軸は、レーザ照射部2の出力(Q
cもしくはQ
o)と撮像装置3の撮像時間(τ
cもしくはτ
o)で積算光強度Lを補正した値を表す。
【0051】
以上の結果を式6に代入して計測対象粒子の屈折率n
oを求めた。ここで、基準粒子(PSL100)の積算光強度の代表値L
cには
図4で示された累積分布の中央値を使用し、粒子径の代表値d
cには平均粒子径を使用し、屈折率n
c=1.598とした。計測対象粒子についても、積算光強度の代表値L
oには
図4で示された累積分布の中央値を使用し、粒子径の代表値d
oには平均粒子径を使用した。また、分散媒の屈折率n
s=1.333とした。この結果、PSL60についてはn
o=1.593と算出され、Silica80についてはn
o=1.459と算出された。これら値は、波長532nmにおけるポリスチレンラテックスの屈折率1.598、及び、シリカの屈折率1.461とそれぞれよく一致している。
【0052】
すなわち、上記した粒子屈折率計測方法によって、基準粒子と計測対象粒子の粒子径、積算光強度の計測結果から、計測対象粒子の屈折率を簡便に得ることの可能なことが示された。
【0053】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるだろう。
【符号の説明】
【0054】
1 光学セル
2 レーザ照射部
2L レーザ光
3 撮像装置
4 処理装置
41 画像解析部
42 粒子情報解析部
43 データ記憶部
101 粒子
102 分散媒