(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性向上方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240301BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20240301BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20240301BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20240301BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/29
C08K7/00
C08L79/00 Z
C08L101/12
(21)【出願番号】P 2019208444
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-10-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】浅井 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2004-0001572(KR,A)
【文献】特開2007-070615(JP,A)
【文献】特開2008-050579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B-1)アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂、及びオレフィン系エラストマ樹脂から選択される少なくとも1つの寸法精度向上用アロイ樹脂5~100質量部、及び(B-2)繊維状充填剤、及び板状充填剤から選択される少なくとも1つの寸法精度向上用充填剤0~100質量部からなる(B)寸法精度向上剤を、(B-1)と(B-2)の合計で10~200質量部とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、(C)カルボジイミド化合物を配合することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を500V以上に向上させる、方法。
ここで、上記比較トラッキング指数を500V以上に向上させることは、カルボジイミド化合物添加前の比較トラッキング指数が500V未満であったものを、カルボジイミド化合物添加後の比較トラッキング指数が500V以上に向上させることである。
【請求項2】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(C)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上の割合で配合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(C)カルボジイミド化合物が、(C)芳香族カルボジイミド化合物を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(C)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、及び(B)寸法精度向上剤
のみからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B-1)アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂、及びオレフィン系エラストマ樹脂から選択される少なくとも1つの寸法精度向上用アロイ樹脂5~100質量部、及び(B-2)繊維状充填剤、及び板状充填剤から選択される少なくとも1つの寸法精度向上用充填剤0~100質量部からなる(B)寸法精度向上剤を、(B-1)と(B-2)の合計で10~200質量部とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を500V以上に向上させるための、(C)カルボジイミド化合物の使用。
ここで、上記比較トラッキング指数を500V以上に向上させることは、カルボジイミド化合物添加前の比較トラッキング指数が500V未満であったものを、カルボジイミド化合物添加後の比較トラッキング指数が500V以上に向上させることである。
【請求項7】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(C)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上の割合で用いる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
(C)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物を含有する、請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
(C)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、請求項6から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、及び(B)寸法精度向上剤
のみからなる、請求項6から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
(C)カルボジイミド化合物を含有し、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B-1)アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂、及びオレフィン系エラストマ樹脂から選択される少なくとも1つの寸法精度向上用アロイ樹脂5~100質量部、及び(B-2)繊維状充填剤、及び板状充填剤から選択される少なくとも1つの寸法精度向上用充填剤0~100質量部からなる(B)寸法精度向上剤を、(B-1)と(B-2)の合計で10~200質量部とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を500V以上に向上させるための、耐トラッキング性向上剤。
ここで、上記比較トラッキング指数を500V以上に向上させることは、カルボジイミド化合物添加前の比較トラッキング指数が500V未満であったものを、カルボジイミド化合物添加後の比較トラッキング指数が500V以上に向上させることである。
【請求項12】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(C)カルボジイミド化合物が0.01質量部以上となる量で用いられる、請求項11に記載の耐トラッキング性向上剤。
【請求項13】
(C)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物を含有する、請求項11又は12に記載の耐トラッキング性向上剤。
【請求項14】
(C)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、請求項11から13のいずれか一項に記載の耐トラッキング性向上剤。
【請求項15】
前記
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、及び(B)寸法精度向上剤
のみからなる、請求項11から14のいずれか一項に記載の耐トラッキング性向上剤。
【請求項16】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に、
(B-1)アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂、及びオレフィン系エラストマ樹脂から選択される少なくとも1つの寸法精度向上用アロイ樹脂5~100質量部、及び(B-2)繊維状充填剤、及び板状充填剤から選択される少なくとも1つの寸法精度向上用充填剤0~100質量部からなる(B)寸法精度向上剤を、(B-1)と(B-2)の合計で10~200質量部を配合し、
さらに(C)カルボジイミド化合物を配合することにより、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を500V以上に向上させ、かつ成形品の反りを改善する、方法。
ここで、上記比較トラッキング指数を500V以上に向上させることは、カルボジイミド化合物添加前の比較トラッキング指数が500V未満であったものを、カルボジイミド化合物添加後の比較トラッキング指数が500V以上に向上させることである。
また、成形品の反りを改善することは、下記の方法で測定、算出される成形品の反りの発生量が、カルボジイミド化合物添加前に10mm超であったものを、カルボジイミド化合物添加後に10mm以下に低減することである。
(方法)
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、シリンダ温度260℃、金型温度60℃、保圧60MPaにて120mm×120mm×2mmの平板状試験片を射出成形した。得られた平板状試験片を23℃、50%RHで24時間静置後、定盤上に載置し、上面の四隅と中心、及び各辺の中央部(4点)の、合計9点について高さ方向の座標を測定し、最高部と最低部との差から、成形品の反りの発生量を算出した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リレー、スイッチ、コネクタ等の、電気電子部品の電源近傍で使用される樹脂製の部品は、使用される過程で表面に水分や埃等が付着して微小放電が繰り返されると、表面に導電性の経路が生成され絶縁破壊現象(トラッキング)が発生し電極間を短絡してしまうことがある。そのため、電気電子部品の近傍で使用される部品を構成する樹脂は、耐トラッキング性を有することが求められている。例えば、特許文献1には、ガラス繊維により強化されたポリブチレンテレフタレート樹脂にエチレンエチルアクリレート共重合体及びエポキシ化合物を配合した樹脂組成物が耐トラッキング性に優れることが記載されている。
一方、カルボジイミド化合物は、エラストマーとともに樹脂に配合されることで、樹脂の冷熱サイクル環境での高度な耐久性と耐加水分解性を向上させることが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/010337号パンフレット
【文献】国際公開第2009/150831号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させる方法、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させるためのカルボジイミド化合物の使用、及びポリブチレンテレフタレート樹脂組成物用耐トラッキング性向上剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に関するものである。
[1](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂0~100質量部、及び/又は(B-2)寸法精度向上用充填剤0~100質量部からなる(B)寸法精度向上剤を、(B-1)と(B-2)の合計で10~200質量部とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、(C)カルボジイミド化合物を配合することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させる、方法。
[2](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(C)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上の割合で配合する、[1]に記載の方法。
[3](C)カルボジイミド化合物が、(C)芳香族カルボジイミド化合物を含有する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4](C)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂0~100質量部、及び/又は(B-2)寸法精度向上用充填剤0~100質量部からなる(B)寸法精度向上剤を、(B-1)と(B-2)の合計で10~200質量部とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させるための、(C)カルボジイミド化合物の使用。
[6](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(C)カルボジイミド化合物を0.01質量部以上の割合で用いる、[5]に記載の使用。
[7](C)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物を含有する、[5]又は[6]に記載の使用。
[8](C)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、[5]から[7]のいずれかに記載の使用。
[9](C)カルボジイミド化合物を含有し、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂0~100質量部、及び/又は(B-2)寸法精度向上用充填剤0~100質量部からなる(B)寸法精度向上剤を、(B-1)と(B-2)の合計で10~200質量部とを含有するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させるための、耐トラッキング性向上剤。
[10](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、(C)カルボジイミド化合物が0.01質量部以上となる量で用いられる、[9]に記載の耐トラッキング性向上剤。
[11](C)カルボジイミド化合物が、芳香族カルボジイミド化合物を含有する、[9]又は[10]に記載の耐トラッキング性向上剤。
[12](C)カルボジイミド化合物の数平均分子量が300以上である、[9]から[11]のいずれかに記載の耐トラッキング性向上剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させる方法、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させるためのカルボジイミド化合物の使用、及びポリブチレンテレフタレート樹脂組成物用耐トラッキング性向上剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。
【0008】
[耐トラッキング性向上方法]
本実施形態に係る耐トラッキング性向上方法は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物にカルボジイミド化合物を配合することにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させる方法である。従来、特許文献2に記載されているように、カルボジイミド化合物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐ヒートショック性や耐加水分解性を向上させることができることは知られていた。しかし、本発明者の研究により、驚くべきことに、カルボジイミド化合物はポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させることができることが分かった。特許文献2で検討されている「耐ヒートショック性」は冷熱サイクル環境下での高度な耐久性のことであり、「耐加水分解性」は湿熱環境下(高温多湿)における加水分解による強度低下を抑制する性質のことである。これに対して、本発明者が新たに見出した「耐トラッキング性」は、樹脂の表面に埃や水が付着して微小放電が繰り返された場合でも樹脂の表面に導電性の経路が形成されにくい性質であり、耐ヒートショック性や耐加水分解性とは全く異なる性質である。
【0009】
なお、「耐トラッキング性」は、IEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数(CTI)により表すことができる。CTIの測定方法については後述する。CTIが400V以上であると、PLC(Performance Level Classes)等級が1以内となるため好ましく、500V以上であることがより好ましく、600V以上であることがさらに好ましい。
【0010】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0011】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0012】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上0.9dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0013】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができ、これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0014】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができ、これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0016】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の全質量の30~90質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
(B)寸法精度向上剤
本発明におけるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、当該樹脂組成物からなる成形品の反り変形を抑制するために、(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂及び/又は(B-2)寸法精度向上用充填剤からなる(B)寸法精度向上剤が添加される。
【0018】
(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂としては、成形時や熱処理時の収縮率及び/又は線膨張係数が小さいのみならず、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂との加工温度が近く、相溶性の良い樹脂を好ましく用いることができる。このような(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂としては、ポリアミド樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体等)、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、ポリブチレンテレフタレート以外のポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂等)、ポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマ、コアシェル系エラストマ、ジエン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ウレタン系エラストマ、シリコーン系エラストマ及びこれらの組み合わせを挙げることができる。中でも、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、およびスチレン系樹脂といった非晶性の熱可塑性樹脂は、成形品の収縮率やその異方性が小さいため低反り化の効果が得やすく、またポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中に液状の添加剤が含有される場合に、そのブリードアウトを抑制する効果も得られるため特に好ましい。また、ポリオレフィン樹脂やオレフィン系エラストマ(エチレンエチルアクリレート共重合体など)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に添加した際に、耐トラッキング性の低下が小さいことから、特に耐トラッキング性が要求される用途においては、これらを添加することも好ましい。一方、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ジエン系エラストマなど、それ自体の耐トラッキング性が低い樹脂は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を低下させる傾向にあるため、これらの樹脂を寸法精度向上用アロイ樹脂として用いる場合に、本発明の(C)カルボジイミド化合物を添加することは、耐トラッキング性の低下を補うことができる点で特に有用である。なお、これらの樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂の親和性を向上させるために、公知の相溶化剤を併用しても良い。
【0019】
スチレン系樹脂としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合のいずれの方法で製造されたものを用いても良いが、寸法精度向上の観点では塊状重合により製造されたものを用いることがより好ましい。
【0020】
オレフィン系エラストマとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EP共重合体)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPD共重合体)、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、EP共重合体およびEPD共重合体から選択された少なくとも一種の単位を含む共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体(エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等)などが含まれる。好ましいオレフィン系エラストマには、EP共重合体、EPD共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体が含まれ、特にエチレンエチルアクリレートが好ましい。これらのオレフィン系エラストマは単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
コアシェル系エラストマは、コア層がゴム成分(軟質成分)、シェル層が硬質成分で構成されるポリマーであり、コア層のゴム成分としてはアクリル系ゴム等を用いるものである。コア層に用いるゴム成分は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば-10℃以下)であるのが好ましく、-20℃以下(例えば-180℃以上-25℃以下)であるのがより好ましく、-30℃以下(例えば-150℃以上-40℃以下)であるのが特に好ましい。
【0022】
ゴム成分としてアクリル系ゴムを用いる場合、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC1~C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC2~C6のアルキルエステルがより好ましい。
【0023】
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体でも、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
【0024】
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。かかるコアシェル系エラストマのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0025】
ポリエステル系エラストマとしては、ハードセグメントとソフトセグメントにいずれもポリエステル系単位構造を有するエステル-エステル型と、ソフトセグメントをポリエーテル系単位構造としたエステル-エーテル型の、いずれも好ましく用いることができるが、耐熱性面では前者、寸法精度面では後者が、それぞれより好ましい。
【0026】
(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂の添加量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0~100質量部であり、5~90質量部または10~80質量部であっても良い。ただし、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性によっては、多量に添加することで良好な分散状態が得られず、凝集塊や相間剥離により、組成物としての機械的特性を悪化させるおそれがあるため、(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂の含有量は、本発明におけるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体に対し、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。
【0027】
(B-2)寸法精度向上用充填剤としては、有機系充填剤、無機系充填剤、金属系充填剤及びこれらの組み合わせのいずれも用いることができるが、樹脂成形品の加工温度範囲や使用温度範囲における収縮率や線膨張係数の小さい、無機系充填剤、金属系充填剤が好ましく、金属部材と組み合わせる絶縁部材として用いる成形品においては、絶縁性を確保する意味で無機系充填剤を用いることが特に好ましい。
【0028】
(B-2)寸法精度向上用充填剤の形状としては、繊維状充填剤、板状充填剤、球状充填剤、粉状充填剤、曲面状充填剤、不定形充填剤及びこれらの組み合わせのいずれも用いることができるが、反り変形を低減するには、異方性の小さい充填剤であることが好ましいため、板状充填剤、球状充填剤、粉状充填剤等、特にアスペクト比が1に近い充填剤を用いることがより好ましい。一方、ガラス繊維等の繊維状充填剤を用いる場合、引張強度等の機械的特性の向上効果は大きいが、繊維状充填剤の配向に起因して、反りの原因となる収縮率の異方性が大きくなる傾向にあるため、繊維状充填剤としては、ミルドファイバやウィスカ等の短繊維や、断面が繭型や長円形・楕円形といった扁平形状(例えば断面の長径÷短径の比が1.3~10)の繊維といった、アスペクト比が比較的小さいものを用いることがより好ましい。
【0029】
板状充填剤の具体例としては、板状タルク、マイカ、ガラスフレーク、金属片及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、球状充填剤の具体例としては、ガラスビーズ、ガラスバルーン、球状シリカ及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、粉状充填剤としてはガラス粉、タルク粉、石英粉末、石英粉末、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト、炭化珪素、窒化珪素、金属粉、無機酸金属塩(炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、スズ酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)の粉末、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等)の粉末、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、アルミナ水和物(ベーマイト)等)の粉末、金属硫化物(硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステン等)の粉末、及びこれらの組み合わせ等を挙げることができる。なお、金属腐食性の観点では、これら(B-2)寸法精度向上用充填剤中に含まれる遊離無機酸の含有量がそれぞれ0.5質量%以下のものであることが好ましい。
【0030】
(B-2)寸法精度向上用充填剤のサイズについては、反り低減効果と機械的特性や流動性等とのバランスを考慮して適宜選択することができる。例えばタルクとしては、体積平均粒子径が1~10μmのタルク、または嵩比重が0.4~1.5の圧縮微粉タルクを好適に用いることができ、マイカとしては、体積平均粒子径が10~60μmのマイカを好適に用いることができる。
【0031】
これらの(B-2)寸法精度向上剤は、無機化合物および/または有機化合物で表面処理(表面被覆)されていてもよく、表面処理に用いられる無機化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、ジルコニア、水酸化ジルコニウム、ジルコニア水和物、酸化セリウム、酸化セリウム水和物、水酸化セリウム等のアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、セリウム等の無機酸化物、水酸化物が好ましく挙げられる。また、これらの無機化合物は水和物であってもよい。これらの中でも、水酸化アルミニウム、シリカが好ましく、シリカを用いる場合は、SiO2・nH2Oで表されるシリカ水和物であることが特に好ましい。また、表面処理に用いられる有機化合物としては、エポキシ化合物やアミン化合物が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ、ノボラック型エポキシ等のエポキシ化合物およびモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジクロルヘキシルアミン等のアミン化合物をより好ましい化合物として例示することができる。
【0032】
(B-2)寸法精度向上剤の添加量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0~100質量部であり、5~90質量部または10~80質量部であっても良い。(B-2)寸法精度向上剤の添加量は、反り低減効果と機械的特性や流動性等とのバランスを考慮して適宜選択することができる。
【0033】
上述の(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂及び/又は(B-2)寸法精度向上用充填剤からなる(B)寸法精度向上剤の添加量は、(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂と(B-2)寸法精度向上用充填剤の合計として、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、10~200質量部であり、20~180質量部または30~150質量部であっても良い。
【0034】
(C)カルボジイミド化合物
カルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物を挙げることができ、これらから選択される1以上を用いることができる。中でも、耐トラッキング性をより向上できる点で、芳香族カルボジイミド化合物を含有することが好ましい。
【0035】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド等を挙げることができる。脂環族カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド等を挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。
【0036】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物;及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド化合物:を挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。
【0037】
これらの中でも特にジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)から選択される1以上を好適に用いることができる。
【0038】
(C)カルボジイミド化合物の数平均分子量は、300以上であることが好ましい。数平均分子量を上記範囲にすることで、熱可塑性樹脂の溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合において、ガスや臭気が発生することを防ぐことができる。
【0039】
(C)カルボジイミド化合物の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。(C)カルボジイミド化合物を(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して0.01質量部以上配合することで、確実にポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させることができる。上限値は、確実にポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐トラッキング性を向上させる点及び加工時のガスや臭気を防ぐ点から、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、8質量部以下、5.5質量部以下、又は5質量部以下とすることができる。
【0040】
(C)カルボジイミド化合物は、取り扱いを容易にするため、マトリックス樹脂中に(C)カルボジイミド化合物が分散しているマスターバッチとして用いることもできる。マスターバッチとして用いる場合、(C)カルボジイミド化合物の配合量が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とマトリックス樹脂との総量100質量部に対して上記した配合量となるように用いる。マトリックス樹脂の種類は、特に限定されず、例えば上記した(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と同じであってもよく異なる種類の樹脂であってもよい。
【0041】
マスターバッチの調製方法は、特に限定されず、マトリックス樹脂と(C)カルボジイミド化合物とを、通常の方法で混練して製造することができる。例えば、マトリックス樹脂及び(C)カルボジイミド化合物を攪拌機に投入して均一に混ぜ合わせた後、押出機で溶融及び混練することにより製造することができる。
【0042】
(その他の配合剤)
本実施形態に係る耐トラッキング性向上方法において、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂に、寸法精度向上用アロイ樹脂以外の樹脂、寸法精度向上用充填剤以外の充填剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、酸化防止剤、耐候安定剤、耐加水分解性向上剤、流動性向上剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤(染料、顔料)、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、近赤外線吸収剤、有機充填剤等の添加剤をさらに配合することができる。
【0043】
その他の配合剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることがより好ましい。
【0044】
(配合方法)
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に、(C)カルボジイミド化合物を配合する方法は、特に限定されず、従来の樹脂組成物調製方法や成形方法として一般に用いられる設備と方法を用いて容易に調製できる。例えば、1)樹脂成分及び他の各成分を混合した後、1軸又は2軸の押出機により練り混み押出してペレットを調製し、しかる後成形する方法、2)一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し成形後に目的組成の成形品を得る方法、3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れも使用できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体として、これ以外の成分と混合して添加する方法は、これらの成分の均一配合を図る上で好ましい方法である。
【0045】
(C)カルボジイミド化合物をマスターバッチとしてポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に配合する方法は、特に限定されず、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)寸法精度向上剤及び必要に応じ他のその他の配合剤を溶融混練して、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得る時に、(C)カルボジイミド化合物を併せて投入し、均一ペレットとしてもよい。また、(C)カルボジイミド化合物以外の成分を予め溶融混練等により均一ペレットとしておき、(C)カルボジイミド化合物のマスターバッチペレットを成形時にドライブレンドしたペレットブレンド品を成形に用いてもよい。
【0046】
押出機により練り込みペレット化する場合、押出機中での樹脂温度(加工温度)は、通常のポリブチレンテレフタレート樹脂の加工温度に準じて適宜設定すればよいが、(C)カルボジイミド化合物の分解による有害ガスや臭気の発生を防ぐ点から、350℃以下となるように押出機のシリンダー温度を設定することが好ましい。押出機中での樹脂温度は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(C)カルボジイミド化合物を十分に反応させて諸特性を発現させる点から、好ましくは200~330℃、さらに好ましくは230~300℃となるように押出機のシリンダー温度を設定することができる。
【0047】
(比較トラッキング指数)
上記方法は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数(CTI)を、400V以上に高める方法であることが好ましく、500V以上に高める方法であることがより好ましく、600V以上に高める方法であることが特に好ましい。CTIが400V以上であると、PLC等級(Performance Level Category)が1以内となり、耐トラッキング性に優れた樹脂成形品を与えるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得ることができる。
【0048】
本明細書において、CTIは、IEC(International electrotechnical commission)60112第3版に規定される測定方法により求めることができる。具体的には、0.1質量%の塩化アンモニウム水溶液と白金電極を用いて測定される。より詳細には、この塩化アンモニウム水溶液を規定の滴下数(50滴)滴下し、試験片(n=5)の全てが破壊しない電圧を求め、これをCTIとする。
【0049】
(樹脂成形品)
上記方法により(C)カルボジイミド化合物が配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐トラッキング性に優れているので、その成形品は、耐トラッキング性が求められる用途に広く用いることができる。例えば、リレー、スイッチ、コネクタ、アクチュエータ、センサー、トランスボビン、端子台、カバー、スイッチ、ソケット、コイル、プラグ等の電気・電子部品、特に電源周り部品として好ましく使用できる。樹脂成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、上記方法により(C)カルボジイミド化合物が配合された樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0050】
[(C)カルボジイミド化合物の使用]
本実施形態に係る(C)カルボジイミド化合物の使用は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数(CTI)を向上させるための、(C)カルボジイミド化合物の使用である。上記使用は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のCTIを400V以上にするための使用であることが好ましく、500V以上にするための方法であることがより好ましく、600V以上にするための方法であることが特に好ましい。(C)カルボジイミド化合物及びポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の各成分の種類等については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。(C)カルボジイミド化合物の使用量についても、上記した(C)カルボジイミド化合物の配合量と同じである。
【0051】
[耐トラッキング性向上剤]
本実施形態に係る耐トラッキング性向上剤は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に配合されることによりポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数を向上させるためものであり、(C)カルボジイミド化合物を含有する。
耐トラッキング性向上剤中の(C)カルボジイミド化合物の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上、又は90質量%以上とすることができ、(C)カルボジイミド化合物のみからなるように構成することもできる。耐トラッキング性向上剤は、上記したその他の配合剤を含有していてもよい。その他の配合剤を含有する場合、その配合量は、合計50質量%未満、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下にすることができる。耐トラッキング性向上剤は、マトリックス樹脂中に(C)カルボジイミド化合物が分散しているマスターバッチの形状であってもよい。マスターバッチとする場合のマトリックス樹脂の種類やマスターバッチの作製方法については上記のとおりである。
【0052】
耐トラッキング性向上剤の使用量は、(C)カルボジイミド化合物の量が上記した配合量になる量とすることができる。
上記耐トラッキング性向上剤は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のIEC60112第3版に準拠して測定される比較トラッキング指数(CTI)を400V以上にすることができる耐トラッキング性向上剤であることが好ましく、500V以上にすることができる耐トラッキング性向上剤であることがより好ましく、600V以上にすることができる耐トラッキング性向上剤であることが特に好ましい。(C)カルボジイミド化合物及びポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の各成分の種類等については上記のとおりである。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0054】
各実施例及び比較例において、表1に示す各成分を、表1に示す量(質量部)でブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX-30)を用いてシリンダー温度260℃、スクリュ回転数120rpm、押出量15kg/hrの条件で溶融混練し、ダイからストランド状に押し出した後、冷却・裁断してペレット状のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を得た。使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0055】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
PBT樹脂:ポリプラスチックス(株)製PBT樹脂(固有粘度:0.77dL/g、末端カルボキシル基量:28meq/kg)
(B-1)寸法精度向上用アロイ樹脂
AS樹脂:Ningbo LG Yongxing Chemical社製、アクリロニトリル-スチレン樹脂 80HF
PC樹脂:帝人社製、ポリカーボネート樹脂 パンライトL-1225W
PET樹脂:帝人社製、ポリエチレンテレフタレート樹脂 TRN-8550FF
EEA共重合体:NUC社製、NUC-6570
(B-2)寸法精度向上用充填剤
タルク:松村産業社製、クラウンタルクPP
ガラスフレーク:日本板硝子社製、マイクログラス フレカREFG-301
扁平断面GF:日東紡社製、CSG3PA830(長径28μm、短径7μmの長円形断面(長径÷短径比=4)、平均繊維長3mmの長円形断面ガラス繊維)
円形断面GF:日本電気硝子社製、ECS03T-127(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
(C)カルボジイミド化合物
芳香族カルボジイミド:ランクセス社製、スタバックゾールP-100
脂肪族カルボジイミド:日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA-1
【0056】
<耐トラッキング性>
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、(株)日本製鋼所製射出成形機「J55AD 60H-USM」(スクリュー径Φ28mm)により、70×50×3mmの試験片を射出成形し、IEC60112第3版に準拠して、0.1質量%塩化アンモニウム水溶液と白金電極を用いて、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を測定し、400V未満を×、400V以上500V未満を△、500V以上600V未満を○、600V以上を◎として判定した。結果を表1に示す。
【0057】
<低反り性>
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを140℃で3時間乾燥させた後、シリンダ温度260℃、金型温度60℃、保圧60MPaにて120mm×120mm×2mmの平板状試験片を射出成形した。得られた平板状試験片を23℃、50%RHで24時間静置後、定盤上に載置し、上面の四隅と中心、及び各辺の中央部(4点)の、合計9点についてミツトヨ製CNC画像測定機で高さ方向の座標を測定し、最高部と最低部との差から、成形品の反りの発生量を算出した。反りの発生量が5mm以下である場合を◎、10mm以下である場合を○、10mm超である場合を×として評価した。結果を表1に示す。
【表1】
【0058】
表1に示す通り、本発明の各実施例においては、400V以上の耐トラッキング性と優れた低反り性が得られることが確認された。また、通常、芳香族化合物は脂肪族化合物よりも耐トラッキング性が不利になると考えられているが、予想に反し、芳香族カルボジイミドを用いた実施例9の方が脂肪族カルボジイミドを用いた実施例11よりも耐トラッキング性が高くなっていた。なお、カルボジイミド化合物の配合量を10質量部とする以外は実施例1と同一組成にした場合、臭気発生による作業環境の悪化が確認された。