(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240301BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240301BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20240301BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K3/04
C08K7/06
H05K9/00 W
(21)【出願番号】P 2020028083
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】藤田 容史
(72)【発明者】
【氏名】西澤 洋二
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059087(JP,A)
【文献】特開2018-104680(JP,A)
【文献】特開2001-223494(JP,A)
【文献】特開2012-229345(JP,A)
【文献】特開2010-031257(JP,A)
【文献】特開2006-045385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、熱可塑性樹脂Aを100質量部、カーボンブラックBを2~6質量部および炭素繊維Cを0.3~4質量部含有し、かつ前記カーボンブラックBと前記炭素繊維Cの合計が
3.6~7質量部である樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂Aはポリブチレンテレフタレート樹脂であり、
体積抵抗率が1×10
10~1×10
17Ω・cmであり、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下で、かつ電磁波吸収率が30%以上である樹脂組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックBがケッチェンブラックである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物であって、電磁波シールド性を有する樹脂組成物及び該樹脂組成物からなる成形品に関する。特にギガヘルツ帯域において優れた電磁波シールド性を有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器はあらゆる分野で使用されている。特に通信機器はラジオなどの比較的長波長の電波を利用しているものから、携帯電話や衛星放送、無線LANといった短波長の電波を利用している機器が増えており、電磁波シールドは重要な技術となっている。
【0003】
電磁波による誤動作を防ぐために電磁波を遮蔽する技術としては、金属などの筐体を使用する、樹脂製の筐体に金属繊維や炭素繊維、金属コーティングした炭素繊維、カーボンナノチューブといった導電性のフィラーを樹脂に添加する、導電フィルムや塗装、メッキといった処理を施すことが知られている。(特許文献1)
【0004】
金属の筐体は性能が良いものの重量増や設計の自由度が低く、樹脂の筐体にフィルムや塗装、メッキを施すといった手法は剥がれる恐れがあるためライフサイクルの長いものに使用することは適していないとされている。
【0005】
金属を使用せずに電磁波シールド性を有するものとしてカーボンブラックと炭素繊維の併用が知られている(特許文献2、3)。これらの文献では1GHz程度のシールド性が示されており炭素繊維量が少ないと十分な電磁波シールド性が得られず、導電性を付与することで高い電磁波シールド性が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-229345号公報
【文献】特開2010-31257号公報
【文献】特開2006-45385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子機器の発達により10GHz以上の高周波電磁波に対する電磁波シールド性が求められており従来の導電性の電磁波シールド材は、電気絶縁性も必要となる電気機器部品に使用する際、電気絶縁材などを複合して使用する必要があった。
【0008】
本発明の目的は、10GHz以上の高周波電磁波に対してシールド性を有し、かつ電気絶縁性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、下記によって達成された。
1. 少なくとも、熱可塑性樹脂Aを100質量部、カーボンブラックBを2~6質量部および炭素繊維Cを0.3~4質量部含有し、かつ該カーボンブラックBと該炭素繊維Cの合計が7質量部以下である樹脂組成物であって、体積抵抗率が1×1010~1×1017Ω・cmであり、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下で、かつ電磁波吸収率が30%以上である樹脂組成物。
2. 前記カーボンブラックBがケッチェンブラックである前記1記載の樹脂組成物。
3. 前記1又は2記載の樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高周波電磁波に対してシールド性を有し、かつ電気絶縁性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、少なくとも、熱可塑性樹脂Aを100質量部、カーボンブラックBを2~6質量部および炭素繊維Cを0.3~4質量部含有し、かつBとCの合計が7質量部以下である樹脂組成物であって、体積抵抗率が1×1010~1×1017Ω・cmであり、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下で、かつ電磁波吸収率が30%以上であることを特徴とする。
【0012】
<熱可塑性樹脂A>
本発明の熱可塑性樹脂Aとして、結晶性熱可塑性樹脂や非晶性熱可塑性樹脂が好適に用いられる。結晶性熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアミド樹脂(PA)等が挙げられる。
【0013】
非晶性熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂(PC)、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、環状オレフィン(共)重合体(COP、COC)等が挙げられるが、耐熱性面で特にポリカーボネート樹脂、環状オレフィン(共)重合体が好適に用いられる。本発明の熱可塑性樹脂Aは、慣用の方法により製造できる。
【0014】
<カーボンブラックB>
本発明のカーボンブラックBは、1次粒子径が5~40nmであり、かつ窒素吸着比表面積が100m2/g以上のカーボンブラックである。そして、当該カーボンブラックを、熱可塑性樹脂A100質量部に対して2~6質量部含有することができる。
【0015】
なお、本発明における1次粒子径は、カーボンブラックを溶媒中投入し超音波振動にて分散させた後、分散試料を支持膜に固定し、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で写真撮影し、直径より粒子径を計測した。(1000個以上)それらの値の算術平均により1次粒子径を求めることができる。
【0016】
カーボンブラックBは、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、透過損失と電磁波吸収率のバランスからケッチェンブラックが好ましい。
【0017】
<炭素繊維C>
本発明の炭素繊維Cは、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維である。また、炭素繊維にニッケルや銅などの金属を被覆した金属被覆炭素繊維なども本発明で使用できる。炭素繊維は電磁波を反射する効果が高いが、反射した電磁波が電子機器を誤作動させることがあるため、添加量は熱可塑性樹脂A100質量部に対して炭素繊維Cは0.3~4質量部、好ましくは0.5~3質量部、更に好ましくは1~2質量部である。
【0018】
本発明の炭素繊維としては、引張破断伸度は少なくとも1.5%以上の炭素繊維が好ましい。高い力学的特性を付与するためには、引張破断伸度が1.5%以上、より望ましくは引張破断伸度が1.7%以上、更に望ましくは引張破断伸度が1.9%以上の炭素繊維を用いるのがよい。本発明で使用する炭素繊維の引張破断伸度に上限はないが、一般的には5%未満である。炭素繊維の直径は4~20μmが好ましく、5~10μmがより好ましい。
【0019】
炭素繊維として更に望ましくは、強度と弾性率とのバランスに優れるPAN系炭素繊維がよい。引張弾性率は、100~600GPaであることが好ましく、より好ましくは200~500GPaであり、230~450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は2000MPa~10000MPa、好ましくは3000~8000MPaである。
【0020】
また、これらの炭素繊維は、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面処理されたり、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系重合体、液晶性樹脂、アルコールまたは水可溶性樹脂などで集束処理されたりしていてもよい。
【0021】
<無機充填材>
本発明の成形品において、耐熱性及び機械強度を向上させるために無機充填材を含有することが好ましい。無機充填材の種類は、本願の効果を阻害しない限り特に限定されないが、金属繊維やカーボンナノチューブ等の導電性の物質は絶縁性を低下させるため避けた方がよく、例えばガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、タルク、マイカ等が好ましく、ガラス繊維が特に好ましい。ガラス繊維の繊維長(溶融混練などにより組成物に調製する前の状態)は1~10mmのものが好ましく、ガラス繊維の直径は5~20μmのものが好ましい。
【0022】
本発明において、無機充填材は、耐熱性及び機械強度を向上させる観点から、熱可塑性樹脂A100質量部に対して20~150質量部含むことが好ましく、30~100質量部含むことがより好ましい。
【0023】
<他の成分>
本発明においては、本発明の効果を害さない範囲で、上記各成分の他、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ち、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶化促進剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を配合してもよい。
【0024】
<樹脂組成物の性質>
本発明の樹脂組成物は、体積抵抗率が1×1010~1×1017Ω・cmであり、透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下で、かつ電磁波吸収率が30%以上である。これらの性質は、カーボンブラックBと炭素繊維Cの添加量を調整することによって達成することができる。
【0025】
体積抵抗率を1×1010~1×1017Ω・cmにすることにより、電子機器に使用した場合の絶縁性を得ることができる。透過損失が75~110GHzの帯域で-30dB以下で、かつ電磁波吸収率が30%以上であるにより、優れた電磁波シールド性を得ることができる。
【0026】
<成形品>
本発明の樹脂組成物から、成形品を作製することができ、その方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。本発明の成形品は、電子機器等に有用である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<材料>
A 熱可塑性樹脂ポリプブチレンテレフタレート樹脂(PBT)ポリプラスチックス社製
B1 カーボンブラック(ケッチェンブラック):ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製 ECX
B2 カーボンブラック(ファーネスブラック):三菱ケミカル社製#750B
B3 カーボンブラック(アセチレンブラック):デンカ社製デンカブラック粒状
C 炭素繊維:東邦テナックス社製 HTC432
酸化防止剤:BASFジャパン社製 イルガノックス1010
ガラス繊維:日本電気硝子製 ECS03T―187
【0029】
<樹脂組成物試験片の作製>
上記の材料を以下の表1に示す割合(単位は質量部)でドライブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)にホッパーから供給して250℃で溶融混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得、射出成形により試験片を作製した。
【0030】
<評価>
評価は以下の通り行った。結果を表1に示す。なお特に断りの無い限り、測定は23℃50%RH雰囲気下で行った。
≪体積抵抗率(Ω・cm)≫
IEC60093に準拠し、測定装置超高抵抗計R8340(アドバンテスト社製)を用い、印加電圧500Vにて測定した。試験片は、100mm×100mm×3mmtとした。
【0031】
≪透過損失(dB)≫
以下の装置、測定方法、周波数で測定した。試験片は、100mm×100mm×3mmtとした。
・測定装置:
ホーンアンテナ:FSS-05(HVS社製)
誘電体レンズ:FSS-06(HVS社製)
ネットワークアナライザー:N5227A(キーサイトテクノロジー社製)
ミリ波コントローラー:N5261A(キーサイトテクノロジー社製)
・測定方法:自由空間法
・周波数:75~110GHz
【0032】
≪電磁波吸収率≫
以下の式で算出した。
反射損失|S11|=反射波電磁波強度/入射波電磁波強度(入射波と反射波の振幅比)
S11(dB)=20log|S11|
透過損失|S21|=透過電磁波強度/入射波電磁波強度(入射波と透過波の振幅比)
S21(dB)=20log|S21|
電磁波吸収率(%)=(1-(|S11|^2+|S21|^2))×100
<評価結果>
【0033】
【0034】
表1に示すように、本発明では、高周波において優れた電磁波シールド性を有し、体積抵抗率の高いことが分かる。